JP4476712B2 - 水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法 - Google Patents

水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法 Download PDF

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本発明は、炉本体及び炉扉が水冷された水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法に関する。
水冷式真空熱処理炉は、炉本体及び炉扉に水冷ジャケットを有し、この水冷ジャケットにより被処理物の加熱時に炉本体及び炉扉を冷却してその過熱を防止し、かつ加熱後の被処理物を冷却する機能を有する単室炉である。
かかる水冷式真空熱処理は、単室炉であるため、真空熱処理後に炉扉を開いて被処理物を外部へ取り出す際に、冷却水で冷却されていた炉本体及び炉扉の内表面温度が外気温度より低いと、外気中の水蒸気(水分)がそれらの内表面に結露し、そのまま新たに被処理物を炉内に装入して加熱すると、真空熱処理中に結露した水滴が水蒸気となり、これが被処理物を酸化して着色する問題点があった。
この問題点を回避するため、被処理物の加熱前に、炉内を真空排気し、結露した水滴を水蒸気として排気することもできるが、水滴を低温で蒸発し真空排気するには長時間を要する問題点がある。
また、真空加熱室と冷却室とを備えた2室炉を用いることにより、被処理物の酸化・着色を回避できるが、装置が複雑となりすぎる問題点がある。
上述した問題点を解決するために、特許文献1、2が既に開示されている。
特許文献1の「水冷式真空熱処理炉における結露防止方法」は、真空熱処理した被処理物を水冷式真空熱処理炉から抽出するに際し、その炉扉を開く前に、クーラ及びジャケットへの冷却水の送入を停止した状態で引き続き循環ファンを回転させてその発熱により炉本体及び炉蓋の内表面温度を外気温よりも高くしておくものである。
特許文献2の「水冷式真空熱処理炉における結露防止方法」は、真空熱処理した被処理物を水冷式真空熱処理炉から抽出するに際し、その炉扉を開く前に又は開くと同時に炉本体に低露点の気体を送入して、該気体を炉本体と開いた炉扉との間から排気するものである。
特開平7−27485号公報 特開平8−067910号公報
単室炉では、炉扉の開閉の際に、炉内に導入された大気中に含まれる水分が、炉内の水冷された炉本体及び炉扉以外にも、被処理物や内部断熱材にも吸着する。特に被処理物が長時間、大気中に保管されているような場合や、内部断熱材の容積と空孔率が高い場合には、多量の水分が被処理物や内部断熱材に吸着する。
上述した特許文献1,2の方法では、水冷されている炉本体及び炉扉における結露は防げるが、被処理物や内部断熱材に吸着した水分は除去できない問題点があった。そのため、被処理物や内部断熱材に吸着した多量の水分が、真空熱処理中に真空中で徐々に蒸発して水蒸気となり、これが被処理物を酸化して着色する問題点があった。
本発明はかかる問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、水冷されている炉本体及び炉扉における結露を防ぎ、かつ被処理物や内部断熱材に吸着した水分も除去することができ、これにより、真空熱処理中の被処理物の酸化・着色を大幅に低減することができる水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法を提供することにある。
本発明によれば、炉本体及び炉扉が水冷された水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法であって、
被処理物の真空熱処理の前工程及び後工程として、
炉扉を閉じたままで炉内に不活性ガスを循環させながら炉内全体を水分の蒸発温度よりも高い温度まで加熱する循環加熱ステップを有
かつ、真空熱処理の後工程において、前記循環加熱ステップの後に、加熱を停止して炉内が水分の露点よりも高い温度まで冷却し保温する冷却保温ステップを有する、ことを特徴とする水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法が提供される。
本発明の方法によれば、循環加熱ステップにおいて、炉扉を閉じたままで炉内に不活性ガスを循環させながら炉内全体を、水分の蒸発温度よりも高い温度まで加熱するので、炉本体及び炉扉に付着した水滴、及び被処理物や内部断熱材に吸着した水分を加熱により蒸発させることができる。蒸発した水蒸気は不活性ガス中に混入し、被処理物の真空熱処理前に排気されるので、真空熱処理中に水分が真空中で徐々に蒸発する現象がなくなり、真空熱処理中の被処理物の酸化・着色を大幅に低減することができる。
この方法により、冷却保温ステップ後に炉扉を開き被処理物を外部に取り出す際に、炉内に導入された大気中に含まれる水分が、炉本体、炉扉、被処理物、内部断熱材等に接触しても、炉内温度が水分の露点よりも高いのでその水分の凝縮を回避し水蒸気のままに維持することができる。
従って炉内に導入された水蒸気は、被処理物の真空熱処理前に水蒸気のままで排気されるので、真空熱処理中に水分が真空中で徐々に蒸発する現象がなくなり、真空熱処理中の被処理物の酸化・着色を大幅に低減することができる。
また本発明の別の好ましい実施形態によれば、前記循環加熱ステップの前に、内部を真空減圧後不活性ガスで置換する真空置換ステップを有し、更に循環加熱ステップの後に、前記真空置換ステップを複数回行う。
この方法により、炉内へ被処理物を格納する際に、炉内に導入された大気中に含まれる水分は、内部を真空減圧後不活性ガスで置換する真空置換ステップで大部分が水蒸気のままで排気される。また炉本体及び炉扉に付着又は被処理物や内部断熱材に吸着しても、循環加熱ステップにおいて、加熱により蒸発させて不活性ガス中に混入し、これを複数回の真空置換ステップで外部に確実に排気することができる。
前記水冷式真空熱処理炉は、炉本体内に収容され被処理物を断熱して囲む断熱容器と、該断熱容器内に設けられた通電発熱体と、炉本体と断熱容器の間に位置し水冷された冷却コイルと、断熱容器の一部を開閉する水冷された内部冷却扉と、炉本体内のガスを循環させる循環ファンとを有し、
前記循環加熱ステップにおいて、炉本体、炉扉及び冷却コイルへの冷却水の供給を停止又は低減し、通電発熱体に通電し、内部冷却扉を開き、循環ファンを駆動して、通電発熱体で加熱された不活性ガスを炉内全体に循環させる。
この方法により、循環ファンを駆動して、通電発熱体で加熱された不活性ガスを炉内全体に循環させるので、炉内全体を水分の蒸発温度よりも高い温度まで短時間で均等に加熱することができる。
前記冷却水の供給を、炉本体、炉扉及び冷却コイル内の水温が、露点より高く、沸点より低い温度を保持するように制御する、ことが好ましい。
この方法により、水温を露点より高く維持するので、水分が接触しても凝縮して水滴になるのを防ぐことができる。また水温を沸点より低い温度を維持するので、冷却水の沸騰を防ぎ、冷却水ラインの過熱や損傷を防止することができる。

上述したように、本発明の水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法は、水冷されている炉本体及び炉扉における結露を防ぎ、かつ水冷されていない被処理物や内部断熱材に吸着した水分も除去することができ、これにより、真空熱処理中の被処理物の酸化・着色を大幅に低減することができる、等の優れた効果を有する。
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
図1は、本発明の方法を実施する水冷式真空熱処理炉の全体構成図である。この図において、(A)は側面図、(B)はA-A線における断面図である。
この図に示すように、水冷式真空熱処理炉10は、水冷された炉本体11及び炉扉12と、本体内に収容され被処理物1を断熱して囲む断熱容器13と、断熱容器内に設けられた通電発熱体14と、炉本体と断熱容器の間に位置し水冷された冷却コイル15と、断熱容器の一部を開閉する水冷された内部冷却扉16a,16bと、炉本体内のガスを循環させる循環ファン17とを有する。
断熱容器13は、この例では上下に開口を有する。上下の内部冷却扉16a,16bは、炉本体11に気密に取り付けられた液圧シリンダ18a,18bで水平又は垂直に駆動され、上部開口を上部内部冷却扉16aで開閉し、下部開口を下部内部冷却扉16bで開閉する。
通電発熱体14は、通電により発熱し、断熱容器13内を例えば1300℃以上の高温に加熱し、被処理物1を熱処理する。断熱容器13は、高い断熱性能を有し上下の開口が閉じられ炉本体11内が真空に減圧されているときに断熱容器の外側を例えば300℃程度の温度に保持する。
循環ファン17は、ファンモータ19で回転駆動され、この例では断熱容器13内のガスを上部開口から上方に吸引し、冷却コイル15で冷却されたガスを下部開口から断熱容器13内に導入する。
炉本体11及び炉扉12は、炉扉12を開いて断熱容器13内に被処理物1を格納した後、内部を気密に保持し、内部の圧力を例えば0.1Pa前後の真空状態にしたまま、通電発熱体14により、断熱容器13内の被処理物1を高温に加熱・保持して所定の真空熱処理を行うようになっている。
図2と図3は、本発明の方法の第1、第2の実施形態を示す図である。これらの図において、(A)は温度変化図、(B)は圧力変化図であり、各図において、横軸は経過時間、縦軸はそれぞれ温度と圧力を示す。
図2、図3において、二点鎖線で示す真空熱処理21は、例示であり、本発明はこれに限定されない。
この例では炉内を約0.1Paの真空状態にしたまま、400℃まで昇温して60分間保持し、その後900℃まで昇温して180分間保持し、次いで真空中で350℃まで冷却したのち、内部に窒素ガスを導入して87kPaまで昇圧し、60℃に保持する。
また、この真空熱処理21の間、通電発熱体14は昇温・保持中は通電(ON)し、冷却時に通電を切る(OFF)する。また、冷却水を、炉本体11、炉扉12、冷却コイル15及び内部冷却扉16a,16bに供給し、これらの過熱を防ぐのがよい。
図2、図3において、本発明の方法は、被処理物1の真空熱処理の前工程及び/又は後工程として、循環加熱ステップ22を有する。循環加熱ステップ22では、炉扉12を閉じたままで炉内に不活性ガスを循環させながら炉内全体を水分の蒸発温度よりも十分高く被処理物が酸化・着色しない温度まで加熱する。この温度は例えば200℃である。
また、循環加熱ステップ22において、炉内に露点以下の低温部分ができないように、炉本体11、炉扉12冷却コイル15及び内部冷却扉16a,16bへの冷却水の供給を停止又は低減するのがよい。特に、冷却水を完全に停止すると過熱されるおそれがある場合には、冷却水の供給を、炉本体、炉扉及び冷却コイル内の水温が、露点より十分高く、沸点より十分低い温度を維持するように制御して行うのがよい。
さらに循環加熱ステップ22において、通電発熱体14に通電し、内部冷却扉16a,16bを開き、循環ファン17を駆動して、通電発熱体14で加熱された不活性ガスを炉内全体に循環させる。不活性ガスの圧力は減圧時よりも高く、例えば87kPa程度に設定するのがよい。
上述した本発明の方法によれば、循環加熱ステップ22において、炉扉12を閉じたままで炉内に不活性ガスを循環させながら炉内全体を、水分の蒸発温度よりも十分高く、かつ被処理物が酸化・着色しない温度まで加熱するので、炉本体11及び炉扉12に付着した水滴、及び被処理物1や内部断熱材13に吸着した水分を加熱により蒸発させることができる。蒸発した水蒸気は不活性ガス中に混入し、被処理物の真空熱処理前に排気されるので、真空熱処理中に水分が真空中で徐々に蒸発する現象がなくなり、真空熱処理中の被処理物の酸化・着色を大幅に低減することができる。
図2の例では、真空熱処理21の後工程として循環加熱ステップ22を有する。またこの例において、循環加熱ステップ22の後に、加熱を停止して炉内が水分の露点よりも十分高い温度まで冷却し保温する冷却保温ステップ23を有する。露点よりも十分高い温度として、例えば60〜100℃が好ましい。
露点よりも十分高い温度に保持したままで、この冷却保温ステップ後に炉扉12を開き被処理物1を外部に取り出すことによい、その際に、炉内に導入された大気中に含まれる水分が、炉本体11、炉扉12、被処理物1、内部断熱材13等に接触しても、炉内温度が水分の露点よりも十分高いのでその水分の凝縮を回避し水蒸気のままに維持することができる。
従って炉内に導入された水蒸気は、被処理物の真空熱処理前に水蒸気のままで排気されるので、真空熱処理中に水分が真空中で徐々に蒸発する現象がなくなり、真空熱処理中の被処理物の酸化・着色を大幅に低減することができる。
図3の例では、真空熱処理21の前工程として循環加熱ステップ22を有する。またこの例において、循環加熱ステップ22の前に、内部を真空減圧後不活性ガスで置換する真空置換ステップ24を有し、更に循環加熱ステップ22の後に、内部を真空減圧後不活性ガスで置換する真空置換ステップ25を複数回行う。
この方法により、炉内へ被処理物1を格納する際に、炉内に導入された大気中に含まれる水分は、内部を真空減圧後不活性ガスで置換する真空置換ステップ24で大部分が水蒸気のままで排気される。また炉本体及び炉扉に付着又は被処理物や内部断熱材に吸着しても、循環加熱ステップ22において、加熱により蒸発させて不活性ガス中に混入し、これを複数回の真空置換ステップ25で外部に確実に排気することができる。
上述したように、本発明は単室炉に設けられているヒータ(通電発熱体14)及び循環ファン17を使用することで、大気開放時に水分吸着をしにくい状況を作るものである。すなわち炉本体11/ドア(炉扉12)/冷却コイル15の冷却水を止め、真空置換(真空引き後に不活性ガスを充填する)後、炉内ヒータ14をONにして上下の内部冷却扉16a,16bを開け、循環ファン17を回すことにより炉内のガス温度を高め、炉内部品や炉体/ドア/冷却コイルの冷却水温を上げる。冷却水温の目安は大気温度+10℃程度がよい。
なお、循環加熱ステップ22は図2のように、真空熱処理21の終了時に行うのが好ましいが、図3のように処理品を装入後に行ってもよく、真空熱処理21の前後両方で行ってもよい。
また、炉本体及び炉扉を冷却する媒体として水を使用するが、水温を上げることで腐蝕が促進されるおそれがあるため、炉本体、炉扉の系内のみで独立で油を循環させる回路を設ける。系内には熱交換器等の冷却装置と補助的な加熱装置を設ける。加熱装置は油温の温度保持のために使用し、主の油昇温は炉内のヒータ回路を使用する。
なお、本発明は上述した実施例及び実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
本発明の方法を実施する水冷式真空熱処理炉の全体混図である。 本発明の方法の第1実施形態を示す図である。 本発明の方法の第2実施形態を示す図である。
符号の説明
1 被処理物、
10 水冷式真空熱処理炉、11 炉本体、12 炉扉、13 断熱容器、
14 通電発熱体、15 冷却コイル、16a,16b 内部冷却扉、
17 循環ファン、18a,18b 液圧シリンダ、19 ファンモータ、
21 真空熱処理、22 循環加熱ステップ、
23 冷却保温ステップ、24、25 真空置換ステップ

Claims (5)

  1. 炉本体及び炉扉が水冷された水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法であって、
    被処理物の真空熱処理の前工程及び後工程として、
    炉扉を閉じたままで炉内に不活性ガスを循環させながら炉内全体を水分の蒸発温度よりも高い温度まで加熱する循環加熱ステップを有
    かつ、真空熱処理の後工程において、前記循環加熱ステップの後に、加熱を停止して炉内が水分の露点よりも高い温度まで冷却し保温する冷却保温ステップを有する、ことを特徴とする水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法。
  2. 真空熱処理の前工程において、前記循環加熱ステップの前に、内部を真空減圧後不活性ガスで置換する真空置換ステップを有し、更に循環加熱ステップの後に、前記真空置換ステップを複数回行う、ことを特徴とする請求項1に記載の水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法。
  3. 前記水冷式真空熱処理炉は、炉本体内に収容され被処理物を断熱して囲む断熱容器と、該断熱容器内に設けられた通電発熱体と、炉本体と断熱容器の間に位置し水冷された冷却コイルと、断熱容器の一部を開閉する水冷された内部冷却扉と、炉本体内のガスを循環させる循環ファンとを有し、
    前記循環加熱ステップにおいて、炉本体、炉扉及び冷却コイルへの冷却水の供給を停止又は低減し、通電発熱体に通電し、内部冷却扉を開き、循環ファンを駆動して、通電発熱体で加熱された不活性ガスを炉内全体に循環させる、ことを特徴とする請求項1に記載の水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法。
  4. 前記冷却水の供給を、炉本体、炉扉及び冷却コイル内の水温が、露点より高く、沸点より低い温度を保持するように制御する、ことを特徴とする請求項に記載の水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法。
  5. 前記真空熱処理炉の炉本体及び炉扉の両方を冷却する媒体として油を用いた油循環系統と、該油循環系統内に設けられた冷却装置と補助加熱装置を有する、ことを特徴とする請求項1に記載の水冷式真空熱処理炉における酸化・着色防止方法。
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