JP4475620B2 - インクジェットプリント方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェットプリント方法に関し、詳しくは色材を含むインクおよびこのインク中の色剤を不溶化させる液体(以下、処理液と呼称する)を用いてプリント用紙、OHP用紙等のプリント媒体に文字、画像等のプリントを行うインクジェットプリント方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェットプリント方式は、低騒音、低ランニングコスト、高速プリントが可能、装置の小型化が容易、カラー化が容易である等の種々の利点を有し、プリンタや複写機等において広く利用されている方式である。このようなプリンタ等では、一般に、吐出特性、定着性等のプリント特性やプリント画像のにじみや光学反射濃度、発色性等のプリント品位などの観点から用いるインクが選択される。ところで、インクは、その含有する色材により、染料インクと顔料インクの二種類に大別されることは広く知られたところである。
【0003】
このうち顔料インクは、染料インクに比べて耐水性、耐光性に優れ、また、鮮明な文字品位を可能とする等の利点を有している。その一方で、顔料インクは染料インクと比較してプリント媒体への定着に時間がかかったり、定着後の画像の耐擦過性も十分でない場合があり、また、1吐出動作によってノズルから吐出されるインクによってプリント媒体上に形成されるインクドットのサイズが小さくなる傾向が見られる。即ち、顔料インクに含まれる顔料は、通常、主に、高分子分散剤の電気的反発力等を利用して、顔料粒子の凝集をもたらす顔料粒子間に作用する分子間力に打ち勝たせてインク中に安定に分散させているものである。従って、インク中には顔料の量に応じて高分子分散剤を添加することが好ましい。このようなインクを普通紙上にインクジェット記録法を用いて印字すると、水分等のインクの溶媒の紙への浸透、及び空気中への蒸発により顔料同士が凝集する。この際、紙上でのインクの挙動としては、インク中に含まれる高分子分散剤の量が多い程、インクの凝集力が強くなる。その為にインクジェットヘッドから吐出された一定の体積を有するインクによりプリント媒体上に形成されるインクドットの径は小さくなり、また、紙に衝突した際の歪んだ形状に近いままのドット形状となる。よって画像を形成するのに十分な記録濃度を有し、かつ白すじ等の発生がないような記録に必要なドット径のインクドットを得る為には、インクジェットヘッドからのインクの吐出体積を大き目に調整する必要がある。しかし、このような調整を行っても、高分子分散剤が吸着した顔料粒子の凝集力が強いことによる紙中への浸透性の低下と相まって、インクのプリント媒体への定着の遅延を招き、或いは記録画像の耐擦過性を低下させることがあった。
【0004】
ドット径の拡大、および定着性の向上を図る為にインクのプリント媒体への浸透性の向上を目的としてインクに浸透剤を含有させることも考えられている。しかしこれはドット形状の劣化(いわゆるフェザリング等のドット周囲形状の劣化)、紙の裏面へのインクの浸透(いわゆる裏抜け)等の高品位な記録画像を目指すうえでは好ましくない現象を併発する場合がある。また、色材がプリント媒体内部に浸透してしまう為、ドット径は比較的大きくなってもインクドットのODはあまり高くならない場合が多い。また、今後、積極的な展開が図られるであろう、インクジェットプリンタのビジネス用途への応用にあたっては、印字速度のより一層の向上が求められることが予想される。そのときに,インクの記録媒体への定着性が不十分であると、例えば印字済みの記録媒体が、インクジェットプリンタから連続的に排出され順次積層されていく過程において、先に排出された第1の記録媒体の表面のインクの定着前に、該第1の記録媒体に引き続いて排出された第2の記録媒体が該第1の記録媒体の印字面に積層され、第1の記録媒体表面の画像が乱れたり、あるいは第2の記録媒体の裏面に第1の記録媒体のインクが付着したりするといった問題が起こる可能性が考えられる。
【0005】
更に、自己分散型の顔料を用いたインクが提案されており、このインクでは前記した分散剤によって分散させられた顔料を含むインクに比べて紙上での顔料の凝集力が弱い為か、ドット径の拡大を図ることができるが、未だ十分とはいえない。
【0006】
この様に記録画像の品位を左右する様々な要素、例えばインクの定着性、インクドット径の拡大、インクドット内での濃度の均一性、インクドット自体の高い光学濃度等を高いレベルで満たすようなプリント方法には、多分に研究開発の余地が残されているということができる。
【0007】
一方、インクジェットプリント技術において、印字品位や画像品位のより一層の向上(例えばプリント媒体上の画像の耐水性や光学濃度(OD)の向上等)を目的としてインク及び該インクと反応する処理液とを、プリント媒体上で該インクと該処理液とが反応する様に該プリント媒体上に付与する方法がこれまでに提案され、また、実用化されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、顔料インクの優れた特性を活かしつつ、顔料インク特有の課題を解決すべく、顔料インクと、該顔料インクの顔料分散性を記録時に破壊するような該顔料インクとの反応性を有する処理液と、を併用したインクジェット記録技術について精力的な検討を行なった。その検討の一環として、処理液をプリント媒体表面に付与した後に顔料インクを該プリント媒体上の該処理液と液体状態で混合される様に付与する記録プロセスを実施した。その結果として得られた画像は、その品質に関して満足できない場合があり、顔料インク単独で形成した画像よりも寧ろ品位が低下する場合さえ観察された。具体的には、例えば顔料インクとして高分子分散剤によって水性媒体中に分散させた顔料を含む顔料インクと該顔料インクと反応する処理液との組み合わせでは、インクドットのエリアファクターが小さいことに起因する光学濃度(OD)の低下が認められる場合があった。このような現象の生じる理由は明らかでないが、インク中の顔料のプリント媒体上での凝集が処理液によって大幅に促進された為ではないかと考えられる。そのため顔料インクの打ち込み量を増やすことでエリアファクターを大きくし、ODの向上を図ることができるが、この場合、定着性が劣ることが認められることがある。また、顔料インクとして自己分散型の顔料を含む顔料インクと該顔料インクと反応するような処理液との組み合わせによって得られるプリント媒体上のドットの辺縁部分には、所謂「しみ出し」もしくは「もや」と呼ばれる現象が生じ、明確なドットが得られないことがあった。図1はこの「しみ出し」や「もや」が生じたドットの平面模式図であり、中心の顔料インク8と処理液6との反応部の周囲に、「しみ出し」による「もや」部7が観察される。図2は、この現象の発生メカニズムを推定的に説明する図である。
【0009】
処理液Sがプリント媒体P(特に普通紙等)に付与された後に、該処理液Sが付与された位置に自己分散型顔料を含み、高分子分散剤を含まない顔料インク(以降「分散剤無し顔料インク」と略)Ipが図2(b)に示した様に、重ねて付与されると、反応物9の生成が始まる。そして、この反応が進行すると共に、同図(c)に示すように反応物によるほぼ円形状のドットから放射状の「しみ出し」を生じ、ドット全体ではその周囲に「もや」がかかったような状態となる。このような「しみ出し」もしくは「もや」は、外見上は、周知のフェザリングと同様に認識される為プリント品位を劣下させるものである。
【0010】
上述した「しみ出し」もしくは「もや」は、化学的あるいはミクロ的には次のような現象であると推察している。分散剤無し顔料インクは、その処理液との反応において反応速度が比較的大きく、このため分散していた顔料は、瞬時に分散破壊を生じ、反応物のクラスターを生成するが、これとともに微細な粒子状の反応物をも生じさせる。そして、この粒子状の反応物は図2(c)に示す処理液のプリント媒体への浸透先端SPの拡大に伴なって流れ出すため、その結果として、上述の「しみ出し」や「もや」が現われるものと考えられる。
【0011】
この様に、顔料インクと処理液とを単純に組み合わせただけでは、本発明者らが予測することのできない事象が生じ、高品位なインクジェット記録画像を得ることが難しかった。そして処理液を用いたインクジェット記録技術を利用して、顔料インクの利点を活かしつつ、顔料インクの欠点を改善するという所期の目的の達成の為には更なる技術開発が必要であることを本発明者らは認識した。
【0012】
また、インクジェットプリンタのビジネス分野への展開を考慮したときに、印字速度のより一層の向上が要求されてくるようになると考えられる。このような高速プリンタに於ける大きな課題の一つが、インクの記録媒体への定着性である。定着性が悪い場合、先に排出された印刷済の記録媒体表面に、後続の記録媒体が積層される過程において、先の記録媒体表面の印字を汚損したり、あるいは後続の記録媒体の裏面に、先の排出された記録媒体のインクが付着する等の事態が生じ、印字品位の低下や印刷物の美観を損ないかねない。
【0013】
本発明は上記したような新たな技術的知見に鑑みなされたものであり、顔料インクと処理液を用いたインクジェット記録技術を利用して、より高品質なプリントを得る為のインクジェットプリント方法を提供することにある。
【0014】
また、本発明は、プリント物の品位を損なうことなしに、インクの記録媒体への高速定着を可能とするインクジェットプリント方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成することのできるインクジェットプリント方法の一実施態様は、
プリント媒体上に画像を記録する工程を含むインクジェットプリント方法において、
(i)インクをインクジェット記録方法を用いてプリント媒体上に付着させる工程;および
(ii)該インクとの反応性を有する処理液を該プリント媒体上に付着させる工程;を有し、
該工程(i)は、該工程(ii)の後に、該プリント媒体上で該インクと該処理液とが液体状態で接する様に行なわれ、
該インクは、水性媒体中に、第1の顔料と、第2の顔料と、該第2の顔料を分散させるための高分子分散剤と、を含み、該第1の顔料及び該第2の顔料がともに分散状態で該インク中に含まれ、
該第1の顔料が少なくとも1つのアニオン性の基が直接もしくは他の原子団を介して該第1の顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料あるいは少なくとも1つのカチオン性の基が直接もしくは他の原子団を介して該第1の顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料であり、
該第2の顔料が高分子分散剤によって該水性媒体に分散させることのできる顔料であり、
該高分子分散剤が該第1の顔料の表面に結合されている基と同極性の高分子分散剤及びノニオン性の高分子分散剤の少なくとも一方を含む
ことを特徴とするものである。
【0016】
また、上記の目的を達成することのできる本発明にかかるインクジェットプリント方法の他の実施態様は、
プリント媒体へのインクジェットプリント方法であって、
(i)第1のインクを該プリント媒体に付与する工程;
(ii)第2のインクを該プリント媒体に付与する工程;および
(iii)該第1および第2のインクの各々と反応する処理液を該プリント媒体に付与する工程、を有し、該第1のインク、該第2のインク及び該処理液の各々は、プリント媒体の表面において互いが液体状態で接触する様に付与されるものであり、
該第1のインクが、顔料粒子の表面に少なくとも1つのアニオン性基が直接もしくは他の原子団を介して結合されている自己分散型顔料または少なくとも1つのカチオン性基が直接もしくは他の原子団を介して結合されている自己分散型顔料を第1の顔料として水性媒体中に含むものであり、
該第2のインクが、第2の顔料と、該第2の顔料を分散させるための高分子分散剤と、を水性媒体中に含み、該第2の顔料が該高分子分散剤により該水性媒体中に分散し得るものであり、該高分子分散剤が該第1の顔料の表面に結合されている基と同極性の高分子分散剤およびノニオン性の高分子分散剤の少なくとも一方を含み、
該処理液が、該第1の顔料の表面に結合されている基と反対極性の化合物を含むものであり、
かつ該工程(iii)を、該工程(i)及び該工程(ii)に先立って行なうことを特徴とするものである。
【0017】
上記した様な本発明にかかる各態様によれば、ODが非常に高く、「もや」が緩和された、より高品位な画像を得ることが出来、且つ耐擦過性、定着性の向上等の種々のメリットを得られるものである。
【0018】
これらの実施態様によってこのような効果を得られる理由は明らかでないが、本発明をめぐる数々の実験によって以下の様な事実を本発明者らは確認している。
【0019】
即ち、処理液をプリント媒体に付与した後に、該処理液を付与した部分に、第1の顔料と第2の顔料とを含むインクを両者が液体状態で重なる様に、あるいは接する様に付与すると、インクドットは処理液を付与した部分に比較的大きく拡がり、大きな径を有するインクドットとなる。
【0020】
第2の顔料と処理液との反応では、凝集力が強すぎて大きなドットが形成され難いことを考えると、該第1及び第2の顔料が処理液との反応時に共存することによって、処理液と高分子分散剤との反応による顔料の凝集が緩和されていると推察される。つまり、処理液中の高分子化合物等の反応成分とインク中の高分子分散剤とが強く絡みあってしまう現象の発生が、第1の顔料と処理液中の反応成分が反応することによって緩和され、更に、反応液中の第2の顔料同士の強力な分子間力が第1の顔料の存在によって緩和され、その結果としてインクが紙面の横方向に拡散しやすくなっていると考えられる。
【0021】
逆に、処理液と第1の顔料との反応時に観察される「もや」の現象の緩和は、処理液中の高分子化合物と第2の顔料との反応により緩和され、あるいは「もや」の原因となる粒子が反応物に取り囲まれることによっているものと推測される。その結果、ドット径が大きくなるにもかかわらず、もや等の発生が殆ど無く、エッジシャープネスが良好となると考えられる。
【0022】
また、上記した様に少ないインク量でも大きなドット径を形成できる為、定着性も良好となり、また、第1の顔料の使用に伴って、インク中に添加する高分子分散剤を少なくできることとあいまって定着性はより一層良好なものとなる。
【0023】
また、本態様において、処理液をプリント媒体に対する浸透性にすぐれたものとした場合、定着性やドット径はより一層優れたものとなる。これはプリント媒体に対して浸透性のある処理液が速やかに拡がることで、プリント媒体の表面に一種のインク受容層が形成される為、インクがプリント媒体表面で浸透、拡散しやすく、反応しながらドットを形成していく為大きなドットを早く形成できる為と考えられる。
【0024】
更に、本態様において、該インク中の第1の顔料と第2の顔料の種類や比率に対応して成分を最適化した処理液を用いることは、より一層の高画質化を図る上で好ましいものである。即ち、自己分散型顔料は、モデルとして図3(a)に3001として示したように顔料粒子の周囲にたくさんのヒゲ状の極性基(例えばアニオン性基)を有したイガ栗状の形態を有していると思われる。一方、カチオン性基を1分子中に数多く有する高分子化合物、例えばポリアリルアミン(PAA)は概略的には図3(b)に3003で示した様に表わされる。このような化合物が自己分散型顔料と混合されると、図4のように自己分散型顔料3001の周囲にPAAの高分子3003が絡み付く。しかしながら、PAAのカチオン性基がすべてのアニオン性基と結合するとは考えられず、その結果、自己分散型顔料とPAAの反応物が全体的にカチオン性を有した状態の形態になると考えられる。このように粒径の小さい顔料粒子とPAAとが反応したものは、分子間力も弱く、電気的に反発しやすく、より大きな形態へと凝集しにくくなっており、その結果、これらの微小物がドットの周囲に、軽度のもや状のにじみを生じさせる原因になると考えられる。逆に、高分子分散剤で分散されてなる顔料の場合、高分子分散剤自体が多数のアニオン性基あるいはカチオン性基を有し、その一方で処理液側に1分子に1つのカチオン性基或いはアニオン性基を有する化合物を含有させておいても、高分子分散剤の分散性を完全に破壊するには至らない。そこで、例えば顔料表面にアニオン性基が結合した第1の顔料と、アニオン性高分子分散剤で分散された顔料と、を含むインクに対する処理液としてPAAの様な高分子カチオン性化合物と図3(c)に3005に示した、塩化ベンザルコニウム(EBK)のような低分子カチオン化合物を所定の割合で含有させることで、インク中の各々の顔料の分散性がプリント媒体上で確実に破壊され、モヤの原因となる未反応のカチオン性基の生成を極力抑えられるものである。その結果、ODが高くモヤのない、そして定着性にも優れた極めて高品位な画像を短い定着時間でプリント媒体上に形成することが可能となる。
【0025】
【発明の実施の形態】
(実施形態1−1)
本発明の一実施形態にかかるインクジェット記録法は、第1の顔料と第2の顔料とを含むインクと、該インクと反応する処理液と、を用意し、先ず該処理液をプリント媒体に付与し、次いで該インクを該プリント媒体に付与して該プリント媒体上で該処理液と該インクとを液体状態で接触させ反応させることによって画像ドットを形成する工程を含む。
【0026】
(インク)
上記のような態様に用いることのできるインクの例としては、色材として第1の顔料及び第2の顔料を水性媒体中に分散状態で含むインクであって、該第1の顔料が少なくとも1つのアニオン性の基が直接もしくは他の原子団を介して該第1の顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料もしくは少なくとも1つのカチオン性の基が直接もしくは他の原子団を介して該第1の顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料であり、該第2の顔料が高分子分散剤もしくはノニオン性の高分子分散剤によって該水性媒体に分散させることのできる顔料であり、該インクは更に該第1の顔料の表面に結合されている基と同極性の高分子分散剤及びノニオン性の高分子分散剤の少なくとも一方を含む高分子分散剤を該第2の顔料を分散させるための分散剤として含むインクが挙げられる。以下、このインクについて順次説明する。
【0027】
(第1の顔料)
自己分散型の顔料とは、水溶性高分子化合物等の分散剤を用いることなしに水、水溶性有機溶剤あるいはこれらを混合した液体に対して安定して分散状態を維持し、インクジェット記録技術を用いたオリフィスからの正常なインク吐出に支障を来すような、顔料同志の凝集体を該液体中で生じることのないような顔料を指す。
【0028】
(アニオン性自己分散CB)
このような顔料としては、例えば少なくとも1つのアニオン性基を直接もしくは他の原子団を介して顔料表面に結合させたものが好適に用いられ、具体的な例は、少なくとも1つのアニオン性基が直接あるいは他の原子団を介して表面に結合しているカーボンブラックを含むものである。
【0029】
このようなカーボンブラックに結合されているアニオン性基の例としては、例えば、−COOM、−SO3M、−PO3HM、−PO32等(但し、式中のMは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、または、有機アンモニウムを表わす)が挙げられる。
【0030】
上記「M」のアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられ、また、「M」の有機アンモニウムとしては、モノ乃至トリメチルアンモニウム、モノ乃至トリエチルアンモニウム、モノ乃至トリメタノールアンモニウム等が挙げられる。
【0031】
これらのアニオン性基の中で、特に−COOMや−SO3Mはカーボンブラックの分散状態を安定化させる効果が大きい為好ましい。
【0032】
ところで上記した種々のアニオン性基は他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合したものを用いることが好ましい。他の原子団としては、例えば、炭素原子1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、置換もしくは未置換のフェニレン基又は置換もしくは未置換のナフチレン基が挙げられる。ここでフェニレン基やナフチレン基に結合していてもよい置換基の例としては、炭素数1〜6の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。
【0033】
他の原子団を介してカーボンブラックの表面に結合させるアニオン性基の具体例としては、例えば、−C24COOM、−PhSO3M、−PhCOOM等(但し、Phはフェニル基を表わす)が挙げられるが、勿論、これらに限定されることはない。
【0034】
上記した様な、アニオン性基を直接もしくは他の原子団を介して表面に結合させたカーボンブラックは例えば以下の方法によって製造することができる。
【0035】
即ち、カーボンブラック表面に−COONaを導入する方法として、例えば、市販のカーボンブラックを次亜塩素酸ソーダで酸化処理する方法が挙げられる。
【0036】
また、例えば、カーボンブラック表面に−Ar−COONa基(但し、Arはアリール基を表す。)を結合させる方法として、NH2−Ar−COONa基に亜硝酸を作用させたジアゾニウム塩とし、カーボンブラック表面に結合させる方法が挙げられるが、勿論、本発明はこれに限定されるわけではない。
【0037】
(カチオン性自己分散CB)
(カチオン性帯電CB)
カチオン性に帯電したカ−ボンブラックとしては、カーボンブラックの表面に例えば下記に示す第4級アンモニウム基から選ばれる少なくとも1つを結合させたものが挙げられる。
第4級アンモニウム基:
−NH3 +、−NR3 +、−SO2NH2、−SO2NHCOR、
【0038】
【化2】
Figure 0004475620
上記式中、Rは例えば炭素数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基、置換もしくは未置換のフェニル基又は置換もしくは未置換のナフチル基を示す。ここでフェニル基やナフチル基の置換基としては例えば炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基等が挙げられる。
【0039】
上記したような親水性基が結合されてカチオン性に帯電している自己分散型カーボンブラックを製造する方法としては、例えば、下記に示す構造のN−エチルピリジル基:
【0040】
【化3】
Figure 0004475620
を結合させる方法を例にとって説明すると、カーボンブラックを3−アミノ−N−エチルピリジウムブロマイドで処理する方法が挙げられる。この様にカーボンブラック表面への親水性基の導入によってアニオン性若しくはカチオン性に帯電させたカーボンブラックは、イオンの反発によって優れた水分散性を有する為、水性インク中に含有させた場合にも分散剤等を添加しなくても安定した分散状態を維持する。
【0041】
カチオン性基を顔料の表面に結合させる場合においても、カチオン性基を顔料に直接結合させても、原子団を介して結合させてもよい。原子団を介して結合させる場合における原子団としては、先にアニオン性基を結合させる場合に用い得るものとして例示したものをここでも例示することができる。
【0042】
ところで、本実施形態に係るインクに含有させる自己分散型の顔料(第1の顔料)はその80%以上が0.05〜0.3μm、特には0.1〜0.25μmの粒径のものであるものとすることが好ましい。このようなインクの調整方法は後述する実施例に詳述した通りである。
【0043】
(第2の顔料)
本実施形態のインクに用いることのできる第2の顔料は、インクの分散媒、具体的には例えば水性媒体に対して高分子分散剤の作用によって分散させることができる顔料が挙げられる。即ち、顔料粒子の表面に高分子分散剤が吸着した結果として初めて水性媒体に対して安定に分散させ得るような顔料が好適に用いられる。そしてそのような顔料としては、例えば黒色顔料としては、例えばファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック顔料が挙げられる。このようなカーボンブラック顔料の具体例としては、例えば下記のものを単独で、あるいは適宜組合わせて用いることができる。
カーボンブラック顔料:
・レイヴァン(Raven)7000、レイヴァン5750、レイヴァン5250、レイヴァン5000ULTRA、レイヴァン3500、レイヴァン2000、レイヴァン1500、レイヴァン1250、レイヴァン1200、レイヴァン1190ULTRA−II、レイヴァン1170、レイヴァン1255(以上コロンビア社製)、
・ブラックパールズ(Black Pearls)L、リーガル(Regal)400R、リーガル330R、リーガル660R、モウグル(Mogul)L、モナク(Monarch)700、モナク800、モナク880、モナク900、モナク1000、モナク1100、モナク1300、モナク1400、ヴァルカン(Valcan)XC−72R(以上キヤボット社製)
・カラーブラック(Color Black)FW1、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラック18、カラーブラックFW200、カラーブラックS150、カラーブラックS160、カラーブラックS170、プリンテックス(Printex)35、プリンテックスU、プリンテックスV、プリンテックス140U、プリンテックス140V、スペシヤルブラック(Special Black)6、スペシヤルブラック5、スペシヤルブラック4A、スペシヤルブラック4(以上デグッサ社製)
・No.25、No.33、No,40、No.47、No.52、No.900、No.2300、MCF−88、MA600、MA7、MA8、MA100(以上三菱化学社製)。
【0044】
他の黒色顔料としてはマグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子やチタンブラック等を挙げることができる。
【0045】
また、以上で述べた黒色顔料以外に青色顔料、赤色顔料等も用いることができる。
【0046】
該第1及び第2の顔料を合わせた色材の量は、インク全量に対し、0.1〜15重量%、より好ましくは、1〜10重量%である。第1の顔料と第2の顔料の比率は、5/95〜97/3、より好ましくは10/90〜95/5の範囲が好ましい。さらに好ましくは、第1の顔料/第2の顔料=9/1〜4/6である。さらに好しい別の範囲は第1の顔料が多い範囲である。このような第1の顔料が多い場合においては、インクとしての分散安定性はもちろん、ヘッドの吐出安定性、特に吐出効率や吐出口面の濡れが少ないことによる信頼性を含めた安定性が発揮される。
【0047】
また、紙上でのインクの挙動として、高分子分散剤の吸着した第2の顔料が少ないインクは効果的に紙の表面にインクが拡がるため、高分子分散剤による均一な薄膜が表面に形成されると推定され、その効果により画像の耐擦過性も向上する。
【0048】
第2の顔料を水性媒体に分散させる為の高分子分散剤は、例えば第2の顔料の表面に吸着して第2の顔料を水性媒体に安定して分散させる機能を有するものが好適に用いられる。このような高分子分散剤の例としてはアニオン性高分子分散剤、カチオン性高分子分散剤及びノニオン性高分子分散剤が挙げられる。
【0049】
(アニオン性高分子分散剤)
親水性基としてのモノマーと疎水性基としてのモノマーの重合体及びその塩等が挙げられる。親水性基としてのモノマーの具体例としては、例えば、スチレンスルホン酸、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸誘導体、アクリル酸、アクリル酸誘導体、メタクリル酸、メタクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸及びフマル酸誘導体等が挙げられる。
【0050】
また、疎水性成分としてのモノマーの具体例としては、例えばスチレン、スチレン誘導体、ビニルトルエン、ビニルトルエン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、ブタジエン、ブタジエン誘導体、イソプレン、イソプレン誘導体、エチレン、エチレン誘導体、プロピレン、プロピレン誘導体、アクリル酸のアルキルエステル、メタクリル酸のアルキルエステル等が挙げられる。
【0051】
なおここで塩とは具体的には水素、アルカリ金属、アンモニウムイオン、有機アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、オキソニウムイオン、スチボニウムイオン、スタンノニウム、ヨードニウム等のオニウム化合物等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、上記重合体やその塩に、ポリオキシエチレン基、水酸基、アクリルアミド、アクリルアミド誘導体、ジメチルアミノエチルメタクリレート、エトキシエチルメタクリレート、ブトキシエチルメタクリレート、エトキシトリエチレンメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート、ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルアルコール及びアルキルエーテル等を適宜付加してもよい。
【0052】
(カチオン性高分子分散剤)
カチオン性分散剤としては、三級アミンモノマー、及びこれらを4級化したものと疎水性モノマーとの共重合物等が用いられる。三級アミンモノマーとしては、例えばN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド等が用いられる。疎水性モノマーとしては、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン等が用いられる。また、3級アミンの場合において、塩を形成するための化合物としては、硫酸、酢酸、硝酸等が用いられる。また、塩化メチル、ジメチル硫酸等で4級化したものも用いることができる。
【0053】
(ノニオン性高分子分散剤)
ノニオン性高分子分散剤の例は、ポリビニルピロリドン、ポリプロピレングリコール、ビニルピロリドン−酢酸ビニル共重合体等を含む。
【0054】
上記した第1の顔料、第2の顔料及び高分子分散剤は、適宜その組合わせを選択し、水性媒体に分散、溶解せしめることによって本態様のインクを得ることができるが、第1の顔料として、少なくとも1つのアニオン性の基が直接もしくは他の原子団を介して顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料を用いる場合には、高分子分散剤にアニオン性の高分子分散剤及びノニオン性の高分子分散剤から選ばれる少なくとも一方を組合わせて含有させることで、良好なインクの安定性を確保することができる。また、同じ理由により第1の顔料として少なくとも1つのカチオン性の基が直接もしくは他の原子団を介して顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料を用いる場合には、高分子分散剤としてカチオン性の高分子分散剤及びノニオン性の高分子分散剤から選ばれる少なくとも一方を該第1の顔料と組合わせる。
【0055】
第2の顔料とそれを分散させる高分子分散剤とのインク中での割合は重量比で、5:0.5〜5:2が好ましい。
【0056】
(水性媒体)
第1及び2の顔料の分散媒となる水性媒体としては、水の他に水溶性有機溶剤を用いてもよい。この水溶性有機溶媒としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルキレン基が2〜6個の炭素原子を含むアルキレングリコール類;グリセリン;エチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル)エーテル等の低級アルキルエーテル類;トリエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル、テトラエチレングリコールジメチル(又はエチル)エーテル等の多価アルコールの低級ジアルキルエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類;スルホラン、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの水溶性有機溶剤は、単独でも或いは混合物としても使用することができる。そして、記録媒体上でのインクの乾燥性や、インク中の各種成分の溶解性や分散性の安定性を考慮すると、後述する実施例に記載したように複数種類の水溶性有機溶剤を併用することは好ましい態様のひとつである。
(インクの記録媒体への浸透性)
以上説明してきた各種成分を含んでいる本実施態様のインクは、プリント媒体に対する浸透性に着目して、例えばKa値を1(ml・m-2・msec-1/2)未満に調整した場合、後述する処理液との併用によって、極めて均一な濃度を有し、エッジがシャープで、しかもプリント媒体への定着速度と定着性に優れた画像ドットを得ることができる。以下にインクのプリント媒体に対する浸透性について説明する。
【0057】
インクの浸透性を1m2 当たりのインク量Vで表すと、インク滴を吐出してからの時間tにおけるインク浸透量V(単位はミリリットル/m2=μm)は、次に示すようなブリストウ方式により表されることが知られている。
【0058】
【数1】
Figure 0004475620
(ただし、t>tw)
インク滴がプリント媒体表面に滴下した直後は、インク滴は表面の凹凸部分(プリント媒体の表面の粗さの部分)において吸収されるのが殆どで、プリント媒体内部へは殆ど浸透していない。その間の時間がtw(ウェットタイム)、その間の凹凸部への吸収量がVrである。インク滴の滴下後の経過時間がtwを超えると、超えた時間(t−tw)の2分の1乗に比例した分だけ浸透量Vが増加する。Kaはこの増加分の比例係数であり、浸透速度に応じた値を示す。
【0059】
Ka値は、ブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置S(東洋精機製作所製)を用いて測定した。本実験では、本出願人であるキヤノン株式会社のPB用紙をプリント媒体(記録紙)として用いた。このPB用紙は、電子写真方式を用いた複写機やLBPと、インクジェット記録方式を用いたプリントの双方に使える記録紙である。
【0060】
また、キヤノン株式会社の電子写真用紙であるPPC用紙に対しても、同様の結果を得ることができた。
【0061】
Ka値は界面活性剤の種類、添加量などによって決まってくる。例えば、エチレンオキサイド−2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール(ethylene oxide-2,4,7,9-tetramethyl-5-decyen-4,7-diol)(以下、商品名「アセチレノール」(川研ファインケミカル社製)で表記する)という非イオン性界面活性剤を添加することにより、浸透性は高くなる。
【0062】
また、アセチレノールが混合されていない(含有割合が0%)インクの場合は浸透性が低く、後に規定する上乗せ系インクとしての性質を持つ。また、アセチレノールが1%の含有割合で混合されている場合は短時間で記録紙内部に浸透する性質を持ち、後に規定する高浸透性インクとしての性質を持つ。そして、アセチレノールが0.35%の含有割合で混合されているインクは、両者の中間の半浸透性インクとしての性質を持つ。
【0063】
【表1】
Figure 0004475620
上記の表1は、「上乗せ系インク」、「半浸透性インク」、「高浸透性インク」のそれぞれについて、Ka値、アセチレノール含有量(%)、表面張力(dyne/cm)を示している。プリント媒体である記録紙に対する各インクの浸透性は、Ka値が大きいものほど高くなる。つまり、表面張力が小さいものほど高くなる。
【0064】
表1におけるKa値は、前述の如くブリストウ法による液体の動的浸透性試験装置S(東洋精機製作所製)を用いて測定したものである。実験には、前述のキヤノン株式会社のPB用紙を記録用紙として用いた。また、前述のキヤノン株式会社のPPC用紙に対しても、同様の結果を得ることができた。
【0065】
ここで、「高浸透性インク」として規定される系のインクはアセチレノール含有割合が0.7%以上であり、浸透性に関して良好な結果が得られた範囲のものである。そして本実施態様のインクに担持させる浸透性の基準としては、「上乗せ系インク」のKa値、即ち1.0(ml・m-2・msec-1/2)未満とすることが好ましく、特には0.4(ml・m-2・msec-1/2)以下が好ましい。
【0066】
(染料の添加)
上記した態様のインクに染料を更に添加してもよい。即ち第1の顔料、第2の顔料及び第2の顔料を水性媒体に分散させるための分散剤を含むインクに対して更に染料を添加したインクは、後述する処理液との併用によってより優れた画像ドットを短い定着時間でプリント媒体上に形成することができる。また、第2の顔料の凝集力が第1の顔料の存在によって緩和されることは先に述べた通りであるが、染料の添加によって第2の顔料の凝集力がもう1段緩和され、インクの吸収性が普通紙等と比較して悪い記録媒体において生じ易い「ひび割れ」等のプリント画像の不均一を有効に抑えることができるものと考えられる。ここで用いることのできる染料としては例えばアニオン染料やカチオン染料が挙げられ、好ましくは第1の顔料の表面に結合している基の極性と同極性の染料を採用することが好ましい。
【0067】
(アニオン、カチオン染料)
上記した様な本実施形態で使用できる水性媒体に対して可溶なアニオン染料としては、公知の酸性染料、直接性染料、反応性染料等が好適に使用される。また、カチオン染料としては公知の塩基性染料が好適に使用される。また、特に好ましくは、両者の染料とも骨格構造として、ジスアゾまたはトリスアゾ骨格構造を有する染料を用いることが良い。またさらに、骨格構造の異なる2種以上の染料をもちいることも好ましい。使用する染料として、黒色の染料以外で、色調が大きく異ならない範囲で、シアン、マゼンタ、イエロー等の染料を用いてもかまわない。
【0068】
(染料の添加量)
また、染料の添加量としては、色材全体の5重量%〜60重量%でよいが、第1及び第2の顔料を混合したことの効果をより有効に活用することを考慮すると、50重量%未満とすることが好ましい。更に普通紙上での印字特性を重視したインクとする場合には5重量%〜30重量%とすることが好ましい。
【0069】
(処理液)
次に、上記の態様に用い得る処理液の例としては、例えばインク中の第1の顔料の表面に結合してなる基がアニオン性であれば、アニオン性基と反応するカチオン性基を有する化合物を含有する処理液が好適に用いられる。また、第1の顔料の表面に結合してなる基がカチオン性基であれば、カチオン性基と反応するアニオン性基を有する化合物を含有する処理液が好適に用いられる。
【0070】
例えばカチオン性化合物としては、カチオン性基を分子中に1個程度有する比較的低分子量のカチオン性化合物やカチオン性基を1分子中に複数個有する比較的高分子量のカチオン性化合物が挙げられる。比較的低分子量のカチオン性化合物としては例えば、1級乃至2級乃至3級アミン塩型の化合物、具体的にはラウリルアミン、ヤシアミン、ステアリルアミン、ロジンアミン等の塩酸塩、酢酸塩等の他、第4級アンモニウム塩型の化合物、具体的にはラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ベンジルトリブチルアンモニウムクロライド、塩化ベンザルコニウム、セチルトリメチルアンモニウムクロライド等があり、更にピリジニウム塩型化合物、具体的にはセチルピリジニウムクロライド、セチルピリジニウムブロマイド等、更には、イミダゾリン型カチオン性化合物、具体的には2−ヘプタデセニル−ヒドロキシエチルイミダゾリン等があり、更に第二級アルキルアミンのエチレンオキシド付加物、具体的にはジヒドロキシエチルステアリルアミン等が好ましい例として挙げられる。
【0071】
さらに本発明では、あるpH領域においてカチオン性を示す両性界面活性剤も使用でき、具体的には、アミノ酸型両性界面活性剤、RNHCH2−CH2COOH型の化合物があり、ベタイン型の化合物、例えばステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等が挙げられる。もちろんこれらの両性界面活性剤を使用する場合にはそれらの等電点以下のpHになるように処理液を調整するか、記録媒体上でインクと混合した場合に該等電点以下のpHになるように調整するかのいずれかの方法をとることが好ましい。次にカチオン性物質の高分子成分としては、ポリアリルアミン、ポリアミンスルホン、ポリビニルアミン、キトサン及びこれらの塩酸、酢酸等の酸による中和物又は部分中和物を挙げることが出来る。
【0072】
また、アニオン性化合物としては例えばアニオン性界面活性剤等を用いることができる。アニオン性界面活性剤の例としては、カルボン酸塩型、硫酸エステル型、スルホン酸塩型、燐酸エステル型等、一般に使用されているものは使用出来る。また、アニオン性高分子の例としては、アルカリ可溶型の樹脂、具体的には、ポリアクリル酸ソーダ、あるいは高分子の一部にアクリル酸を共重合したもの等を挙げることが出来るが、もちろんこれらに限定されない。より具体的には例えばスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、スルホコハク酸ポリオキシエチレンラウロイルエタノールアミドエステル二ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルスルホコハク酸二ナトリウム、カルボキシル化ポリオキシエチレンラウリルエーテルナトリウム塩、カルボキシル化ポリオキシエチレンラウリルエーテルナトリウム塩、カルボキシル化ポリオキシエチレントリデシルエーテルナトリウム塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミン等が挙げられるがこれらに限定されるわけではない。
【0073】
前記処理液を構成するその他の成分としては前述したカオチン性物質あるいはアニオン性物質の他に、水、水溶性有機溶剤及びその他の添加剤を含んでもよい。水溶性有機溶剤としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類、アセトン等のケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、1、2、6−ヘキサントリオール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール等のアルキレングリコール類、エチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの低級アルキルエーテル類、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、イソブチルアルコール等の1価アルコール類の他、グリセリン、N−メチル−2−ピロリドン、1、3−ジメチルイミダゾリジノン、トリエタノールアミン、スルホラン、ジメチルサルホキサイド等が用いられる。上記水溶性有機溶剤の含有量について特に制限はないが、処理液全重量の5〜60重量%、さらに好ましくは、5〜40重量%が好適な範囲である。
【0074】
そして本態様においては、該処理液はプリント媒体に対して高い浸透性を有する様に調整しておくことは、画像ドットのプリント媒体への定着速度の向上や定着性の改善を図る上で好ましいものである。
【0075】
本実施形態におけるインクおよび処理液のプリント媒体への付与順序は、基本的には、上述したようにプリント媒体にインクを付与するに先立って処理液が付与されるような順序であれば、上述した所定の効果を得ることができる。
【0076】
この付与順序を定める具体的な構成に関し、例えばシリアルタイプのヘッドを用いる場合にあっては、紙送りを挟んだ同一領域に対する複数回の走査によって上述の順序がそれぞれ実現される場合も、本発明の範囲に含まれるものである。
【0077】
以上のように、本実施形態のインクは処理液のプリント媒体への付与に引き続いて付与されるが、このインクの付与数としては上述してきたような1滴に限定されるものではない。
【0078】
例えば、処理液の付与に引き続いて、インクを2滴付与するものとしてもよく、その場合、好ましくは、これら2滴のうち、先行して付与されるインクは第1の顔料より第2の顔料の割合が多く、その後付与されるインクを、逆に第1の顔料の方が第2の顔料よりも割合が多いものとすることができる。
【0079】
以上のようにインクを複数滴付与する場合には、その付与されるインクの総量を、1滴を付与する場合にほぼ等しくするのが好ましい。換言すれば、本発明の実施形態によれば、複数に分割してインクを付与する場合、それぞれの滴の量が分割数に応じて少なくなっても、上述した所定の効果を得ることができる。
【0080】
次に、本実施形態における処理液とインクとが付与される時間差は、上述した付与順序と同様、基本的に上述した本実施形態の各効果が現われる限りどのような時間差であっても本発明の範囲内に含まれる。
【0081】
すなわち、処理液が付与されてからインクが付与されるまでの時間によって、混合インクと処理液との反応は種々の態様で生じる。例えば上記時間が短い場合でも、それらが重ねられて形成されるドットの周囲部、すなわちエッジ部では、顔料等と処理液の十分な反応を生じ本実施形態の各効果、特に「もや」を抑制する効果を少なくとも生じ得ることも観察されている。
【0082】
このような点から、本明細書では、インクと処理液との「反応」とは、例えば、インクと処理液との接触によってインク中の顔料の分散状態が不安定化し、顔料が凝集、析出あるいはインクの増粘を生じる場合を含む。そしてこの「反応」は、例えば、記録媒体に付与されたインクの滴と処理液の滴との全体が混合する場合に限らず、各々の滴のエッジ部が接触することによって、上記の現象が生じる場合も包含される。
【0083】
また、本発明における、インクと処理液とが「液体状態で接する」とは、記録媒体内に浸透した処理液の成分と、該処理液の付与に引き続いて行われたインクとが反応する場合をも包含している。
【0084】
本実施形態で付与されるインクの色相(種類)、濃度およびそれらの数は、上述した付与順序に従う限り任意に組合せることができる。例えばインクの種類としては、ブラック(Bk)、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)を一般に用いることができ、また、それら各色について、濃、淡各インクを用いることができる。さらに具体的には、例えばイエローインク、マゼンタインクおよびシアンインクの少なくとも1つを本実施形態にかかる、第1の顔料と第2の顔料とを含むインクとし、これに処理液を用い、この順序で付与する構成であってもよい。
【0085】
本発明を適用可能なこのような組合せの中で、最も好ましい形態は、本実施態様にかかるインクをブラックインクとしたものである。この形態によれば、OD値増大、「もや」の抑制等の本実施形態の各効果が、文字等のキャラクタのプリント品位に対し最も有効に寄与できるからである。
【0086】
また、これらのインクと処理液とをプリント媒体に付与する方法は、各々独立に塗布する方法、インク等を直接プリント媒体に接触させて付与する方法等、種々のものが考えられ、いずれの付与方法も本発明の範囲内のものであるが、最も好しい形態はプリントヘッドを用いたインクジェット方式のものである。そして、この場合、吐出部としてのプリントヘッドの組合せおよびその配列は、上述した付与順序および処理液を含めたインクの種類の組合せに従って定めることができる。
【0087】
具体的には、プリントヘッドがプリント媒体に対して相対的に移動する方向に、インクおよび処理液のヘッドを配列する構成によって上記付与順序等が可能となる。
【0088】
さらに、このような構成のより具体的構成として、搬送されるプリント媒体におけるプリント領域の全幅に対応した範囲でインク吐出口を配列した、いわゆるフルマルチタイプのプリントヘッドや、プリント媒体に対して走査のための移動を行うシリアルタイプのプリントヘッドのいずれも本発明に係る上述のインクおよび処理液の付与を可能とするものである。
【0089】
また、これらのプリントヘッドのインク吐出方式としては、ピエゾ方式等、周知のいずれの方式のものも採用できるが、最も好ましい形態は、熱エネルギーを利用してインクまたは処理液中に気泡を生じさせ、この気泡の圧力によってインクまたは処理液を吐出する方式のものである。
【0090】
さらに、各プリントヘッドによって、インクおよび処理液が吐出されて重なる範囲は、通常、プリント画像等を構成する画素単位で制御されるため、上記インク等は同一位置に吐出されて重ねられる。しかし、本発明の適用は、このような構成には限られない。例えば、インクのドットの一部と処理液が重なり、本実施形態の所定の効果が生ずる構成や、各画素のデータに対して処理液を間引いて付与し、隣接画素から滲み等によって流入する処理液と顔料等が反応する構成も本発明の範囲に含まれる。
【0091】
(実施形態1−2)
本発明の他の実施形態を次に説明する。
【0092】
本実施形態は、上述した実施形態において処理液を浸透性の高いものとし、これによってより一層の高速定着を図ったものである。
【0093】
高速定着は、プリント速度の高速化、すなわち、スループットの向上のための主要な構成である。プリントヘッドの駆動周波数やプリント媒体の搬送速度を増すことにより、直接的にはスループットの向上は可能である。しかし、プリントが完了し排紙されたプリント媒体上のインク等が未定着の場合は、その後の取扱いが不便であり、また、排紙したプリント媒体を積層する構成にあっては、未定着のインクによって他のプリント媒体を汚すかもしれない。
【0094】
すなわち、このプリント速度の高速化に寄与する種々の要因の中で、直接的に想起されるものは、上述のように、プリントが完了したプリント媒体が排紙される速度であり、これはプリント媒体の搬送速度もしくはプリントヘッドの走査速度に依っている。すなわち、いわゆるフルマルチタイプのプリントヘッドを用いる装置にあっては、プリント動作におけるプリント媒体の搬送速度がそのまま排紙速度を意味し、また、シリアルタイプのプリントヘッドを用いる装置にあっては、走査速度が結果としてプリントが完了したプリント媒体の排紙速度に結びつくことになる。そして、上記プリント媒体の搬送速度等は、プリントの解像度、すなわちドット密度を媒介として画素に対するインク吐出周期と相関するものである。すなわち、複数のプリントヘッドから吐出されるインクによって1つの画素のプリントを行う構成にあっては、上記解像度を固定して考えるとき、その画素に対する吐出周期と上記搬送速度等とが相関する。
【0095】
本実施形態において、大きな浸透速度を有する処理液を用いることにより、特に、OD値向上等のため混合インクとして浸透速度の小さなものを採用した場合でも、比較的速い定着が可能となる。
【0096】
(処理液選択性)
処理液の組成は先に説明した通りであるが、インク中の第1の顔料、第2の顔料および高分子分散剤の種類および量に応じて処理液の組成を最適化することは、本発明のもたらす効果を最大限に享受するうえで好ましいものである。この点について以下に具体例を挙げて説明する。
【0097】
第1の顔料として表面にアニオン性基を結合させた自己分散性カーボンブラック、第2の顔料として一般的なカーボンブラック、そして高分子分散剤としてスチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体(酸価180、平均分子量12000)を含むインク、および低分子カチオン性化合物として塩化ベンザルコニウム(EBK)と高分子カチオン性化合物としてポリアリルアミン(PAA)を含む処理液とを用意した。そして処理液中のEBKおよびPAAの比率を(PAA:3.6重量%、EBK:0.5重量%)に固定し、インク中の自己分散性カーボンと通常のカーボンブラックの比率を変化させていったときに、得られる画像の特性を評価した(なお高分子分散剤の量は通常のカーボンブラックの量の増減に対応して増減させた)。
【0098】
図5(A)は、処理液の組成を固定し、インク中の第1の顔料と第2の顔料の重量比を変化させたときに得られる画像のODの変化を概略的に示したグラフである。このグラフから分る様に第1の顔料と第2の顔料の割合が所定の値のときにODが極大を示す。
【0099】
図5(B)は、処理液の組成を固定し、インク中の第1の顔料と第2の顔料の重量比を変化させたときに得られる画像を、プリント媒体の裏側から測定したOD(裏ぬけOD)の変化で測定したものであり、やはり第1の顔料と第2の顔料の割合と裏ぬけODとの間に相関があることがわかる。
【0100】
次に、処理液中のEBKとPAAの比率を変化させて同様の実験を行なった。その結果、EBKを増やした場合には、傾向としてODが低下するが、PAAを含有することでODはそれほど低下しない。但しEBKの割合を増やした場合でも、自己分散型顔料の比率が高い程ODが高くなる。定着時間は、EBKが増すに連れて早くなる。また、自己分散型顔料が増すにつれて早くなる。
【0101】
この事実からPAAと高分子分散剤分散カーボンブラックとの間、およびEBKと自己分散型カーボンブラックとの間に密接な関係があることが推定される。このことは以下の推定メカニズムにより説明されるものと考えられる。即ち、自己分散型顔料は、模式的に表わすと先に述べた様に図3(a)に示したような形態を有し、また、カチオン高分子であるPAAは、図3(b)のように1分子中に複数のカチオン基を有したひも状の物質である。ここで処理液中にPAAのみが入っていた場合、自己分散型顔料とPAAとが混合すると、図4のように自己分散型顔料の周囲にPAAの高分子が絡み付く。しかしながら、PAAのカチオン基は、幾何学的にすべての顔料のアニオン基と結合することが困難であるため、図4のように結合したものが全体的にカチオン性を有した状態の形態になっていると考えられる。言い換えれば顔料の分散性が十分に破壊されない状態となる。そしてインク中に微細な顔料粒子等の周囲がカチオン基によって囲まれた状態になると分子間力よりも電気的斥力の方が強く作用し、微細な顔料粒子同士の凝集が妨げられ、プリント媒体の表面に残留するよりは寧ろ内部に浸透していく傾向が促進される。その結果、ODやエッジシャープネスの向上を妨げる方向に作用する。ここで図3(c)に3005で示したような形態のEBKが処理液に存在すると、自己分散型カーボンブラックとPAAの反応は自己分散型カーボンブラックとEBKとの反応との競争反応となり、自己分散型カーボンブラックとPAAとの結合体が生成する割合は低下する。一方、第2の顔料では、表面に付着した高分子分散剤と処理液中のPAAとが絡まり易くなる。その結果、インク中の顔料の分散性が十分に破壊され、顔料がプリント媒体表面に残りやすくなる。よってODやエッジシャープネスが向上するものと考えられる。
【0102】
より具体的には例えば、自己分散型カーボンブラックと高分子分散剤で分散させるカーボンブラックの比率を1:1としたインクに対してポリアリルアミンと塩化ベンザルコニウムの比率を(PAA:3.6%、EBK:0.5%)とし、且つ高浸透性とした処理液を組み合わせた場合、定着性に優れるとともに、特にエッジシャープネスに優れた画像を得ることができる。
【0103】
また、自己分散型カーボンブラックと高分子分散剤で分散させるカーボンブラックの比率を9:1としたインクに対してポリアリルアミンと塩化ベンザルコニウムの比率を(PAA:0.5%、EBK:4%)とし、且つ高浸透性とした処理液を組み合わせた場合、特に高速な定着性と優れた画像品位とを両立した画像を得られる。なおこの態様が高速定着と高画像品位の両立を達成できる理由としては、処理液中に高分子化合物が少ないことと、インク中にも高分子分散剤が少ないことによる反応液の粘度の小さい事などが挙げられる。
【0104】
(実施形態2)
上記第1の実施形態は、第1の顔料および第2の顔料を含むインクを用いた形態を主として説明したが、該1の顔料および第2の顔料を別々のインクに含有させた形態もまた本発明の範疇のものである。
【0105】
(実施形態2−1)
本態様は、第1の顔料を含む第1のインク、第2の顔料を含む第2のインクおよび該第1ならびに第2のインクと反応する処理液をプリント媒体表面に互いが液体状態で接触する様に付与するものである。そしてそのときに、第1のインクと第2のインクの記録媒体への付与に先立って該処理液を付与するものであり、これによって上記した本発明の種々の効果とほぼ同等の効果を得ることができる。
【0106】
【実施例】
本発明の実施例について、図を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこのような実施例に限らず、これらをさらに組み合わせたり、同様な課題を内包する他の分野の技術にも応用することができる。
【0107】
(実施例1−1)
図6は第1実施例に係るフルラインタイプのプリント装置の概略構成を示す側面図である。このプリント装置1は、プリント媒体としての記録媒体の搬送方向(同図中、矢印A方向)に沿って所定位置に配置された複数のフルラインタイプのプリントヘッド(吐出部)よりインクまたは処理液を吐出してプリントを行うインクジェットプリント方式を採用するものであり、後述する図7の制御回路に制御されて動作する。
【0108】
ヘッド群101gの各プリントヘッド101S、101Bk、101C、101Mおよび101Yのそれぞれは、図中A方向に搬送される記録紙103の幅方向(図の紙面に垂直な方向)に約7200個のインク吐出口を配列し、最大A3サイズの記録紙に対しプリントを行うことができる。記録紙103は、搬送用モータにより駆動される一対のレジストローラ114の回転によってA方向に搬送され、一対のガイド板115により案内されてその先端のレジ合わせが行われた後、搬送ベルト111によって搬送される。エンドレスベルトである搬送ベルト111は2個のローラ112、113により保持されており、その上側部分の上下方向の偏位はプラテン104によって規制されている。ローラ113が回転駆動されることで、記録紙103が搬送される。なお、搬送ベルト111に対する記録紙113の吸着は静電吸着によって行われる。ローラ113は不図示のモータ等の駆動源により記録紙103を矢印A方向に搬送する方向に回転駆動される。搬送ベルト111上を搬送されこの間に記録ヘッド群101gによって記録が行われた記録紙103は、ストッカ116上へ排出される。
【0109】
記録ヘッド群101gの各プリントヘッドは、処理液を吐出する処理液用ヘッド101S、上記実施形態1で説明したブラックのインクを吐出するヘッド101Bk、カラーインク用各ヘッド(シアンヘッド101C、マゼンタヘッド101M、イエローヘッド101Y)が、記録紙103の搬送方向Aに沿って図示の通りに配置されている。そして、各プリントヘッドにより各色のインクと処理液を吐出することでブラックの文字やカラー画像のプリントが可能になる。
【0110】
図7は、図6に示したフルラインタイプのプリント装置1の制御構成を示すブロック図である。
【0111】
システムコントローラ201は、マイクロプロセッサをはじめ、本装置で実行される制御プログラムを格納するROM、マイクロプロセッサが処理を行う際にワークエリアとして使用されるRAM等を有し、装置全体の制御を実行する。モータ204はドライバ202によってその駆動が制御され、図6に示すローラ113を回転させ、記録紙の搬送を行う。
【0112】
ホストコンピュータ206は、本実施例のプリント装置1に対してプリントすべき情報を転送し、そのプリント動作を制御する。受信バッファ207は、ホストコンピュータ206からのデータを一時的に格納し、システムコントローラ201によってデータ読み込みが行われるまでデータを蓄積しておく。フレームメモリ208は、プリントすべきデータをイメージデータに展開するためのメモリであり、プリントに必要な分のメモリサイズを有している。本実施例では、フレームメモリ208は記録紙1枚分を記憶可能なものとして説明するが、本発明はフレームメモリの容量によって限定されるものではない。
【0113】
バッファ209S、209Pは、プリントすべきデータを一時的に記憶するものであり、プリントヘッドの吐出口数によりその記憶容量は変化する。プリント制御部210は、プリントヘッドの駆動をシステムコントローラ201からの指令により適切に制御するためのものであり、駆動周波数、プリントデータ数等を制御するとともに、さらには処理液を吐出させるためのデータも作成する。ドライバ211は、処理液を吐出させるためのプリントヘッド101Sと、それぞれのインクを吐出させるためのプリントヘッド101Bk、101C、101M、101Yの吐出駆動を行うものであり、プリント制御部210からの信号により制御される。
【0114】
以上の構成において、ホストコンピュータ206からプリントデータが受信バッファ207に転送されて一時的に格納される。次に、格納されているプリントデータはシステムコントローラ201によって読み出されてバッファ209S、209Pに展開される。また、紙詰まり、インク切れ、用紙切れ等を異常センサ222からの各種検知信号により検知することができる。
【0115】
プリント制御部210は、バッファ209S、209Pに展開された画像データを基にして処理液を吐出させるための処理液用データの作成を行う。そして、各バッファ209S、209P内のプリントデータおよび処理液用データに基づいて各プリントヘッドの吐出動作を制御する。
【0116】
本実施例では、ヘッド101Bkから吐出されるブラックのインクについては、浸透速度の遅いインク(以下、本実施例では上乗せ系インクという)を用い、ヘッド101S、101C、101M、101Yからそれぞれ吐出される処理液およびシアン、マゼンタ、イエローの各カラーインクは各々浸透速度の速い処理液およびカラーインク(以下、本実施例では高浸透性インクという)を用いた。
【0117】
本実施例で使用する処理液および各インクの組成は次の通りである。なお、各成分の割合は重量部で示したものである。
[処理液]
グリセリン 7部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 2部
(川研ファインケミカル製)
ポリアリルアミン 4部
(分子量:1500以下、平均値約1000)
酢酸 4部
塩化ベンザルコニウム 0.5部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 3部
水 残部
[イエロー(Y)インク]
C.I.ダイレクトイエロー86 3部
グリセリン 5部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
[マゼンタ(M)インク]
C.I.アシッドレッド289 3部
グリセリン 5部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
[シアン(C)インク]
C.I.ダイレクトブルー199 3部
グリセリン 5部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
[ブラック(Bk)のインク]
(顔料分散液の調製)
[顔料分散液1]
表面積が230m2/gでDBP吸油量が70ml/100gのカーボンブラック10gとp−アミノ安息香酸3.41gとを水72gによく混合した後、これに硝酸1.62gを滴下して70℃で攪拌した。数分後5gの水に1.07gの亜硝酸ナトリウムを溶かした溶液を加え、更に1時間攪拌した。得られたスラリーを東洋濾紙No.2(アドバンティス社製)でろ過し、顔料粒子を十分に水洗し、90℃のオーブンで乾燥させた後、この顔料に水を足して顔料濃度10重量%の顔料水溶液を作成した。以上の方法により、下記式に示した様に表面に、フェニル基を介して親水性基が結合したアニオン性に帯電した自己分散型カーボンブラックが分散した顔料分散液1を得た。この顔料分散液1を必要に応じて以下の各インクの成分として使用した。
【0118】
【化4】
Figure 0004475620
[顔料分散液2]
顔料分散液2は次のようにして調整したものである。分散剤としてスチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体(酸価180、平均分子量12000)14部と、モノエタノールアミン4部と水72部を混合し、ウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させる。この際溶解させる樹脂の濃度が低いと完全に溶解しないことがあるため、樹脂を溶解する際は、高濃度溶液をあらかじめ作成しておき、希釈して希望の樹脂溶液を調整してもよい。この溶液に、分散剤の作用によって初めて水性媒体に分散可能なカーボンブラック(商品名:MCF−88、pH8.0、三菱化学製)10部を加え、30分間プレミキシングを行った。次いで以下の操作を行ない、カーボンブラック(MCF−88)が分散剤によって水性媒体に分散された顔料分散液2を得た。この顔料分散液2を必要に応じて以下の各インクの成分として使用した。
分散機:サイドグラインダー(五十嵐機械製)
粉砕メディア:ジルコニアビーズ1mm径
粉砕メディアの充填率:50%(体積)
粉砕時間:3時間
遠心分離処理(12000RPM、20分間)
(ブラックインクの調製)
顔料分散液1 25部
顔料分散液2 25部
グリセリン 6部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 0.1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
なお、このブラックインクのKa値は0.33(ml・m-2・msec-1/2)であった。
【0119】
以上示した本実施例によるブラックのインクを用いることにより、自己分散型カーボンブラックと高分子分散剤で分散可能なカーボンブラックと高分子分散剤が混合され、かつ分散しているインクに対して、異極性のカチオン性化合物2種(ポリアリルアミン、塩化ベンザルコニウム)を含んだ処理液とが反応することになる。
【0120】
本実施例では、各プリントヘッドのインク吐出口は600dpiの密度で配列され、また、記録紙の搬送方向において600dpiのドット密度でプリントを行う。これにより、本実施例でプリントされる画像等のドット密度はロー方向およびカラム方向のいずれも600dpiとなる。また、各ヘッドの吐出周波数は4KHzであり、従って、記録紙の搬送速度は約170mm/secとなる。さらに、混合インクのヘッド101Bkと処理液のヘッド101Sとの間の距離Di(図6参照)は、40mmであり、従って、処理液が吐出されてから、インクが吐出されるまでの時間は約0.24secとなる。
【0121】
なお、各プリントヘッドの吐出量は、1吐出あたり15pl(ピコリットル)である。また、処理液Sを吐出してからブラックインクBkを吐出するまでの時間が0.1秒までの追試を行った場合に関しても、同様な結果を得ることができた。
【0122】
(実施例1−2)
上記実施例1−1において、処理液およびブラックインクの組成を下記の様に代えた以外は実施例1−1と同様にして実験を行なった。
[処理液]
グリセリン 7部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 2部
(川研ファインケミカル製)
ポリアリルアミン 0.5部
(分子量:1500以下、平均値約1000)
酢酸 0.5部
塩化ベンザルコニウム 4部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 3部
水 残部
[ブラック(Bk)のインク]
顔料分散液1 45部
顔料分散液2 5部
グリセリン 6部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 0. 1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
なお、このブラックインクのKa値は0.33(ml・m-2・msec-1/2)であった。
【0123】
(実施例1−3)
上記実施例1−1において、処理液およびブラックインクの組成を下記の様に代えた以外は実施例1−1と同様にして実験を行なった。
[処理液]
グリセリン 7部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 2部
(川研ファインケミカル製)
ポリアリルアミン 1部
(分子量:1500以下, 平均値約1000)
酢酸 1部
塩化ベンザルコニウム 4部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 3部
水 残部
[ブラック(Bk)のインク]
顔料分散液1 45部
顔料分散液2 2.5部
C.I.フードブラック2 0.25部
グリセリン 6部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 0. 1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
なお、このブラックインクのKa値は0. 33(ml・m-2・msec-1/2)であった。
【0124】
(比較例1)
上記実施例1−1〜1−3に対する比較例として、実施例1−1と同様に調製した顔料分散液2のみを用いて以下の成分のインクを調製した。次いでこのインクを用いて、実施例1−1と同様の条件にて印字を行なった。なお本比較例においては処理液は使用しなかった。
【0125】
顔料分散液2 50部
エチレングリコール 8部
グリセリン 5部
イソプロピルアルコール 4部
水 残部
(比較例2)
比較例1と同様に調製したインクを用いるとともに、インク吐出量が1吐出あたり約30plのヘッドをBkヘッドに用い、1画素当りのインク付与量を30plとした以外は比較例1と同様にしてプリントを行った。上記実施例1−1〜1−3、比較例1及び比較例2にて得られたプリント物の評価結果を下記表2に示す。
【0126】
【表2】
Figure 0004475620
なお、各実施例および各比較例でのプリントは、キヤノン株式会社製のPB用紙に所定の画像をプリントし、黒色部のOD値等を測定したものである。また、表2における評価項目のうち、OD値はマクベス濃度測定機を用いて測定したものであり、また、耐水性発現時間は、プリント後に水をたらしたときの画像くずれが目視にてほとんど認識できない時間であり、さらに、定着性はプリント物が排紙されたときの裏写りがなくなる時間である。更に、フェザリングはインクドットをルーペによって観察し、ドット周辺にモヤ状の部分の有無、フェザリングの有無を観察し、それらが観察されない場合には「A」、観察される場合を「B」と評価した。
【0127】
表2からも明らかなように、本実施例のシステムの場合、従来の顔料インクによるプリント物と比較して、特に、OD値および耐水性発現時間や定着性に優れたプリント物が得られることが理解される。
【0128】
このOD値については、分散剤を必要としない顔料と分散剤によって分散させられる顔料および高分子分散剤が混合したインクと処理液とが混合される本実施例の場合、それらの混合による前述した効果を生じ、処理液が付与された後に、顔料のみあるいは染料のみを付与した場合より高いOD値を得ることができる。
【0129】
また、フェザリング(「もや」や「しみ出し」)の抑制やエッジ部のシャープネスについて、ヘッド101Sの吐出からヘッド101Bkの吐出までの時間によって比較した場合についても、比較例に比べて優れていることが理解できる。なお、表2中の処理液が吐出されてからブラックインクBkが吐出されるまでの時間を0.1秒とした場合においても、ほぼ同様な評価結果を得られた。
【0130】
以上説明したフルマルチタイプのプリント装置は、プリントヘッドがプリント動作において固定された状態で用いられ、記録紙の搬送に要する時間がほぼプリントに要する時間であるため、特に高速プリントに適したものである。従って、このような高速プリント機器に本発明を適用することによって、さらにその高速プリント機能を向上でき、しかも、OD値が高く、ブリーディングやモヤのない高品位のプリントを可能とするものである。
【0131】
なお、本実施例のプリント装置は、最も一般的にはプリンタとして用いられるものであるが、これに限られず複写装置、ファクシミリ等のプリント部として構成可能であることは勿論である。
【0132】
なお、以上の表2を参照して説明した本実施例の効果は、本例のようにブラック混合インクについて1つのヘッドを用いた構成に限らず、2ヘッドとし、各ヘッドの吐出量を約8pl、合計で約16plとした場合もほぼ同様の効果を得ることができる。
【0133】
(実施例2)
図8は本発明の第2の実施例に係るシリアルタイプのプリント装置5の構成を示す概略斜視図である。すなわち、処理液をプリント媒体に付与した後、インクを吐出して反応させるプリント装置は、上述のフルラインタイプのものに限らず、シリアルタイプの装置にも適用できることは明らかである。なお、図6に示した要素と同様の要素には同一の符号を付しその説明の詳細は省略する。プリント媒体である記録紙103は、給紙部105から挿入されプリント部126を経て排紙される。本実施例では、一般に広く用いられる安価な普通紙を記録紙103として用いている。プリント部126において、キャリッジ107は、プリントヘッド101S、101Bk、101C、101Mおよび101Yを搭載し、不図示のモータの駆動力によってガイドレール109に沿って往復移動可能に構成されている。プリントヘッド101Sは、前述の実施形態で説明した処理液を吐出する。また、プリントヘッド101Bk、101C、101M、101Yはそれぞれ本発明にかかるブラックインク、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクをそれぞれ吐出するものであり、この順序で記録紙103にインク又は処理液を吐出するよう駆動される。
【0134】
各ヘッドにはそれぞれ対応するインクタンク108S、108Bk、108C、108M、108Yからインク又は処理液が供給され、インク吐出時には各ヘッドの吐出口毎に設けられている電気熱変換体、すなわちヒータに駆動信号が供給され、これにより、インク又は処理液に熱エネルギを作用させて気泡を発生させ、この発泡時の圧力を利用してインク又は処理液の吐出が行われる。各ヘッドには、それぞれ360dpiの密度で64個の吐出口が設けられ、これらは、記録紙103の搬送方向Yとほぼ同方向、つまり、各ヘッドによる走査方向とほぼ垂直方向に配列されている。そして、各吐出口毎の吐出量は25plである。
【0135】
以上の構成において、各ヘッド間距離は1/2インチであり、従って、ヘッド101Sと101Bkとの距離は1/2インチとなり、また、走査方向のプリント密度が720dpi、各ヘッドの吐出周波数は7.2KHzであることから、ヘッド101Sの処理液が吐出されてから、ヘッド101Bkのブラックインクが吐出されるまでの時間は0.05secとなる。
【0136】
(実施例4)
図6および図8に示した実施例を第1の顔料と第2の顔料の両方を含む混合インクではなく、第1の顔料および第2の顔料を個々に吐出する形態のものに応用した場合、記録ヘッド群101gの各プリントヘッドは、処理液を吐出する処理液用ヘッド101S、ブラックの第1の顔料インク用ヘッド101Bk1, ブラックの第2の顔料インク用ヘッド101Bk2、カラーインク用各ヘッド(シアンヘッド101C、マゼンタヘッド101M、イエローヘッド101Y)が、記録紙103の搬送方向Aに沿って図示の通りに配置されている。そして、各プリントヘッドにより各色のインクと処理液を吐出することでブラックの文字やカラー画像のプリントが可能になる。
【0137】
本実施例では、ヘッド101Bk1および101Bk2からそれぞれ吐出されるブラックの第1の顔料インクおよび第2の顔料インクについては、浸透速度の遅い上乗せ系インクを用い、ヘッド101S、101C、101M、101Yからそれぞれ吐出される処理液およびシアン, マゼンタ, イエローの各カラーインクは各々浸透速度の速い、高浸透性処理液および高浸透性カラーインクを用いる。
【0138】
本実施例で使用する第1、第2のインク及び処理液の組成は下記の通りである。
[処理液]
グリセリン 7部
ジエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 2部
(川研ファインケミカル製)
ポリアリルアミン 4部
(分子量:1500以下, 平均値約1000)
酢酸 4部
塩化ベンザルコニウム 0.5部
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 3部
水 残部
[ブラックの第1の顔料インク(Bk1)]
顔料分散液 1 50部
グリセリン 6部
ジリエチレングリコール 5部
アセチレノール EH 0.1部
(川研ファインケミカル製)
水 残部
なお、このブラックインクのKa値は0.33(ml・m-2・msec-1/2)であった。
[ブラックの第2の顔料インク(Bk2)]
顔料分散液2 50部
エチレングリコール 8部
グリセリン 5部
イソプロピルアルコール 4部
水 残部
以上示した本実施例によるブラックの第1の顔料インクおよび第2の顔料インクを用いることにより、紙に対して処理液が付与された後に、各々が同極性を帯びた第1の顔料、第2の顔料及び高分子分散剤が混合されつつ反応することになる。
【0139】
本実施例では、処理液のヘッド101Sと顔料インクのヘッド101Bk1との間の距離Di(図9参照)は、40mmであり、従って、処理液が吐出されてから、ブラックインクBk1が吐出されるまでの時間は約0.24secとなる。なお、各プリントヘッドの吐出量は、Bkヘッド以外は1吐出当り15plであり、各Bkヘッドは1吐出当り約10plとした。従って、Bk1及びBk2のヘッドで1画素を形成した場合にはBkインクは合計で約20pl付与されることになる。
【0140】
このような装置およびインクを用いて得られたプリント物を上記実施例1−1〜1−3と同様にして評価したところ、ODの若干の向上がみられた他は、他の実施例とほぼ同等の結果が得られた。
【0141】
(実施例5)
図10は、記録媒体上の処理液が付与された領域に対して、第1の顔料を含むインクと第2の顔料を含むインクとをプリント媒体上で混合させるプロセスに用い得るシリアルタイプのプリント装置5の構成を示す概略斜視図である。すなわち、かかるプロセスに用い得るプリント装置は、上述のフルラインタイプのものに限らず、シリアルタイプの装置にも適用できることは明らかである。なお、図9に示した要素と同様の要素には、同一の符号を記してその説明の詳細は省略する。
【0142】
プリント媒体である記録紙103は、給紙部105から挿入されプリント部126を経て排紙される。本実施例では、一般に広く用いられる安価な普通紙を記録紙103として用いている。プリント部126において、キャリッジ107は、プリントヘッド101S、101Bk1、101Bk2、101C、101Mおよび101Yを搭載し、不図示のモータの駆動力によってガイドレール109に沿って往復移動可能に構成されている。プリントヘッド101Sは、処理液を吐出し、プリントヘッド101Bk1はブラックの第1の顔料インクを吐出し、プリントヘッド101Bk2はブラックの第2の顔料インクを吐出する。また、プリントヘッド101S、101C、101M、101Yはそれぞれ処理液、シアンインク、マゼンタインク、イエローインクをそれぞれ吐出するものであり、この順序で記録紙103に処理液ならびにインクを吐出するよう駆動される。
【0143】
各ヘッドにはそれぞれ対応するインクタンク108S、108Bk1、108Bk2、108C、108M、108Yからインク又は処理液が供給され、インク吐出時には各ヘッドの吐出口毎に設けられている電気熱変換体(ヒータ)に駆動信号が供給され、これにより、インク又は処理液に熱エネルギを作用させて気泡を発生させ、この発泡時の圧力を利用してインク又は処理液の吐出が行われる。各ヘッドには、それぞれ360dpiの密度で64個の吐出口が設けられ、これらは、記録紙103の搬送方向Yとほぼ同方向、つまり、各ヘッドによる走査方向とほぼ垂直方向に配列されている。そして、Bkインクの吐出口の吐出量は15pl、それ以外のインク及び処理液の吐出口毎の吐出量は23plである。
【0144】
以上の構成において、各ヘッド間距離は1/2インチであり、従って、ヘッド101Sとヘッド101Bk1との距離は1/2インチとなり、また、走査方向のプリント密度が720dpi、各ヘッドの吐出周波数は7.2KHzである場合、ヘッド101Sの処理液が吐出されてからヘッド101Bk1の顔料インクが吐出されるまでの時間は0.05secとなる。
【0145】
【発明の効果】
本発明によると、第1の顔料と第2の顔料および第2の顔料を高分子分散剤を含むインクと、このインクと反応する処理液と、を用い、処理液をプリント媒体に先に付与し、引き続いてインクをプリント媒体に、処理液とインクとが液体状態で混合される様に付与することで、高いODを有し、エッジシャープネスに優れ、更に画像のプリント媒体への裏ぬけの少ない画像を得ることができる。更に、従来の顔料インクの欠点とされていた遅い定着速度および不十分な定着性をも大幅に改善することができる。
【0146】
また、本発明によれば、画像ドット周辺に「しみ出し」もしくは「もや」等が生じる事を極めて有効に抑えることができる。処理液の浸透速度を、ブリストウ法によるKa値で5.0(ml・m-2・msec-1/2)以上にした場合には、処理液が比較的高い浸透性のものとなり、定着速度を速めることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】インクと処理液とを反応させたときの反応物の「しみ出し」現象を推定的に説明する概念図である。
【図2】本発明の一実施形態において処理液をプリント媒体に付与した後、インクを付与して処理液とインクとを反応させたときのドット形成を推定的に説明する概念図である。
【図3】(a)は、アニオン性自己分散型顔料分子の概念図であり、(b)は、カチオン性高分子化合物分子の概念図であり、(c)は、カチオン性界面活性剤分子の概念図である。
【図4】カチオン高分子が介在する2つのアニオン性自己分散型顔料の境界部における反応形態を表す模式図である。
【図5】(A)はインク中の第1の顔料と第2の顔料の比率変化が画像のODに与える変化を概略的に示すグラフであり、(B)はインク中の第1の顔料と第2の顔料の比率変化が画像の裏ぬけODに与える変化を概略的に示すグラフである。
【図6】本発明の一実施例に係るプリント装置の概略構成を示す側面図である。
【図7】図6に示したプリント装置の制御構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の一実施例に係るプリント装置の概略斜視図である。
【図9】本発明の他の実施例にかかるプリント装置の概略構成を示す側面図である。
【図10】本発明の他の実施例にかかるプリント装置の概略斜視図である。
【符号の説明】
P プリント媒体
S 処理液
Ip 顔料インク
SP 浸透先端
Di 顔料インクのヘッドと処理液のヘッドとの間の距離
1 プリント装置
5 プリント装置
6 処理液
7 もや
8 顔料インク
9 反応物
101g ヘッド群
101(Bk1、Bk2、S、C、M、Y) プリントヘッド(吐出部)
103 記録紙
104 プラテン
105 給紙部
107 キャリッジ
108(Bk、Bk1、Bk2、S、C、M、Y) インクタンク
109 ガイドレール
111 搬送ベルト
112、113 ローラ
114 レジストローラ
115 ガイド板
116 ストッカ
126 プリント部
201 システムコントローラ
202 ドライバ
203 ヒータ
204 モータ
206 ホストコンピュータ
207 受信バッファ
208 フレームメモリ
209S、209P バッファ
210 プリント制御部
211 ドライバ
222 異常センサ

Claims (13)

  1. プリント媒体上に画像を記録する工程を含むインクジェットプリント方法において、
    (i)インクを、インクジェット記録方法を用いてプリント媒体上に付着させる工程;および
    (ii)該インクとの反応性を有する処理液を該プリント媒体上に付着させる工程;を有し、
    該工程(i)は、該工程(ii)の後に、該プリント媒体上で該インクと該処理液とが液体状態で接する様に行なわれ、
    該インクは、水性媒体中に、第1の顔料と、第2の顔料と、該第2の顔料を分散させるための高分子分散剤と、を含み、該第1の顔料及び該第2の顔料がともに分散状態で該インク中に含まれ、
    該第1の顔料が少なくとも1つのアニオン性の基が直接もしくは他の原子団を介して該第1の顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料あるいは少なくとも1つのカチオン性の基が直接もしくは他の原子団を介して該第1の顔料の表面に結合されている自己分散型の顔料であり、該第2の顔料が高分子分散剤によって該水性媒体に分散させることのできる顔料であり、
    該高分子分散剤が該第1の顔料の表面に結合されている基と同極性の高分子分散剤及びノニオン性の高分子分散剤の少なくとも一方を含む
    ことを特徴とするインクジェットプリント方法。
  2. 前記アニオン性基が、下記に示すアニオン性基の中から選択される少なくとも1つである請求項1に記載のインクジェットプリント方法。
    −COOM、−SO3M、−PO3HM及び−PO32(これらのMはそれぞれ独立して水素原子か、アルカリ金属か、アンモニウムか、あるいは有機アンモニウムを表わす。)
  3. 前記原子団は、炭素数1〜12のアルキレン基か、置換基を有してもよいフェニレン基か、あるいは置換基を有してもよいナフチレン基である請求項1に記載のインクジェットプリント方法。
  4. 前記第2の顔料がその表面に高分子分散剤を吸着することにより分散されている請求項1に記載のインクジェットプリント方法。
  5. 前記高分子分散剤がスルホン酸系高分子分散剤およびカルボン酸系高分子分散剤の少なくとも一方である請求項1に記載のインクジェットプリント方法。
  6. 該第1の顔料と第2の顔料との比率が9/1〜4/6の範囲である請求項1に記載のインクジェットプリント方法。
  7. 該第1の顔料を該第2の顔料よりも多く含む請求項1に記載のインクジェットプリント方法。
  8. 該第1の顔料及び第2の顔料の少なくとも一方はカーボンブラックである請求項1に記載のインクジェットプリント方法。
  9. 該インクが更に該第1の顔料の表面に結合されている基と同一の極性の染料を含んでいる請求項1に記載のインクジェットプリント方法。
  10. 該処理液が、該第1の顔料の表面に結合されている基と反対極性の基を少なくとも1つ有する化合物を含む請求項1〜の何れかに記載のインクジェットプリント方法。
  11. 該処理液が、該第1の顔料の表面に結合されている基と反対極性の基を1つ有する第1の化合物と、該第1の顔料の表面に結合されている基と反対極性の基を複数個有する第2の化合物とを含む請求項1〜10の何れかに記載のインクジェットプリント方法。
  12. 該第1の化合物が塩化ベンザルコニウムであり、該第2の化合物がポリアリルアミンである請求項11に記載のインクジェットプリント方法。
  13. プリント媒体へのインクジェットプリント方法であって、
    (i)第1のインクを該プリント媒体に付与する工程;
    (ii)第2のインクを該プリント媒体に付与する工程;および
    (iii)該第1および第2のインクの各々と反応する処理液を該プリント媒体に付与する工程、を有し、
    該第1のインク、該第2のインク及び該処理液の各々は、プリント媒体の表面において互いが液体状態で接触する様に付与されるものであり、
    該第1のインクが、顔料粒子の表面に少なくとも1つのアニオン性基が直接もしくは他の原子団を介して結合されている自己分散型顔料または少なくとも1つのカチオン性基が直接もしくは他の原子団を介して結合されている自己分散型顔料を第1の顔料として水性媒体中に含むものであり、
    該第2のインクが、第2の顔料と、該第2の顔料を分散させるための高分子分散剤と、を水性媒体中に含み、該第2の顔料が該高分子分散剤により該水性媒体中に分散し得るものであり、
    該高分子分散剤が該第1の顔料の表面に結合されている基と同極性の高分子分散剤およびノニオン性の高分子分散剤の少なくとも一方を含み、
    該処理液が、該第1の顔料の表面に結合されている基と反対極性の化合物を含むものであり、
    かつ該工程(iii)を、該工程(i)及び該工程(ii)に先立って行なう
    ことを特徴とするインクジェットプリント方法。
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