JP4472881B2 - 微小流路を有する樹脂製部材の作製方法、その方法により作製された部材およびそれを用いた計測装置 - Google Patents

微小流路を有する樹脂製部材の作製方法、その方法により作製された部材およびそれを用いた計測装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微小流路を有する微小流路を有する樹脂製部材(樹脂製チップという)の作製方法、その方法により製造された樹脂製チップおよびそれを用いた計測装置に関するものである。
樹脂製のものを含む微小流路を有するチップは、各種分析分野や検査分野において使用されている。特に近年は、微小流路を有するチップを用いるμ−TAS(Micro Total Analysis Systems)分野の研究が盛んに行われており、高速分析、省試料、省溶媒、小型化、オンサイト分析といった特長を生かした新市場を分析分野や検査分野において将来形成するものとして期待されている。
【0002】
【従来の技術】
これまで、μ−TAS分野で用いられる微小流路を有するチップの材料としては、主としてガラスや石英が用いられてきた(Andreas Manz, D. Jed Harrison, Elisabeth M. J. Verpoort, James C.Fettinger, Aran Paulus, Hans Ludi and H. Michael Widmer; Planar Chips Technology for Miniaturization and Integration of Separation Techniques into Monitoring Systems, Journal of Chromatograpy; 1992; 593; 253-258 参照)。ガラスを材料として用いたチップ(以下、ガラスチップという)や、石英を材料として用いたチップ(以下、石英チップという)は堅牢で、光学的に透明であり、微細加工が可能などの特徴を有する。
【0003】
一般的には、ガラスチップや石英チップに形成される微小流路は、単なる液体の通路又は微小空間を形成する目的で用いられていた。この微小流路の表面を目的に応じて処理することはできる(Stephen C. Jacobson, Roland Hergenroder, Lance B. Koutny, and J. Michael Ramsey; Open Channel Electrochromatography on a Microchip; Analytical Chemistry; 66; 2369-2373 参照)。しかし、微小流路内壁の定量的で高機能な化学修飾は困難であるという問題があった。
【0004】
一方、高分子を材料として用いたμ−TAS用のチップ(以下、樹脂製チップという)の作製方法も報告されている(Randy M. McCormick, Robert J. Nelson, M. Goretty Alonso-Amigo, Dominic J. Benvegnu, and Herbert H. Hooper; Microchannel Electrophoretic Separations of DNA in Injection-Molded Plastic Substrates, Analytical Chemistry; 1997; 69(14); 2626-2630 参照)。この作製方法は、射出成型により微小流路に対応する凸型形状を備えた鋳型に溶融状態の高分子レジンを流し込み、微小流路に対応する溝を有する部材(一方の樹脂製部材)を成型し、溝を形成した表面に別途成型した高分子からなる部材(他方の樹脂製部材)を接合することにより微小流路を有する樹脂製チップを成型するものである。
樹脂製チップは、ガラスチップや石英チップに比べて量産及びコストの面で有利である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、射出成型は鋳型の形状を忠実に再現するのが困難であるという問題があった。
また、一方の樹脂製部材と他方の樹脂製部材の接合には、接着剤を用いて接合する方法や熱的に接合する方法などが用いられている。しかし、前者は余分な接着剤が微小流路にはみ出して流路を潰してしまうという問題があり、後者は熱的な歪みで微小流路が変形してしまうという問題があった。
また、樹脂製チップでは、微小流路内壁に化学修飾をしない場合、試料が流路内壁に吸着することがある。そのため、微小流路内壁に化学修飾を施す必要があるが、定量的な化学修飾は困難であった。
【0006】
本発明の第1の目的は、高精度な寸法をもつ微小流路を有する樹脂製チップを作製することである。
本発明の第2の目的は、流路内壁に定量的な化学修飾が施された微小流路を有する樹脂製チップを提供することである。
本発明の第3の目的は、本発明の樹脂製チップを用いた計測装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明にかかる樹脂製チップの作製方法の第1の局面は、複数の樹脂製部材が接合されてそれらの樹脂製部材間に形成された微小流路を有する樹脂製チップの作製方法であって、接合される一対の樹脂製部材のうち、少なくとも一方の樹脂製部材を微小流路に対応する凸型の構造をもつ鋳型を用いて高分子モノマーを重合させて成型し、少なくとも一方の樹脂製部材が、形状が変化しない程度に重合し、かつ完全には重合していない状態で両樹脂製部材を密着させて重合を完了させることにより両樹脂製部材の接合を行なう。
【0009】
作製方法において、接合される一対の樹脂製部材のうち、少なくとも一方の樹脂製部材を微小流路に対応する凸型の構造をもつ鋳型を用いて高分子モノマーを重合させて成型することにより、微小流路を構成する溝を樹脂製部材の表面に形成する。これにより、分子レベルで鋳型をトレースできる。さらに接合時に、溝を潰したり溝に熱応力がかかったりしないので、微小流路を高精度に形成することができる。
さらに、樹脂製部材の材料である高分子モノマー溶液の重合開始剤の濃度、重合時の温度、時間を調節することにより接合の再現性を向上することができる。
【0010】
本発明の樹脂製チップは、複数の樹脂製部材が接合されてそれらの樹脂製部材間に形成された微小流路を有する樹脂製チップであって、樹脂製部材は、高分子モノマーと反応する架橋剤(クロスリンカー)として分子内に2重結合からなる官能基を有する化合物が添加されて重合されたものである。
【0011】
上記クロスリンカーが添加されて重合された樹脂製部材の表面にはクロスリンカーの官能基が存在しており、微小流路内壁に存在するクロスリンカーが化学修飾と同じ作用を及ぼす。樹脂製部材を重合する際に添加物の濃度が調整されることにより、微小流路内壁に定量的な化学修飾が施される。
【0012】
本発明の計測装置は、本発明の樹脂製チップを用い、その樹脂製チップを保持するためのチップ保持機構と、樹脂製チップに形成された微小流路の両端に電圧を印加するための電圧印加機構と、樹脂製チップの微小流路内の特定物質を検出するための検出機構とを備えたものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の樹脂製チップの作製方法において、重合時のクロスリンカーの種類や量を適切に選ぶことで、流路内壁を定量的に化学修飾することや、流路内壁への吸着現象を制御することが可能となる。
そこで、樹脂製部材の重合反応の際に、高分子モノマーと反応するクロスリンカーとして、分子内に2重結合からなる官能基を有する化合物を添加することが好ましい。その結果、クロスリンカーを定量的に添加することにより、樹脂製チップの流路内壁を定量的に化学修飾することが容易にできる。
高分子モノマーとしては、例えば不飽和ポリエステル、メチルメタクリレート、エポキシ樹脂、スチレンなどを用いることができる。
【0014】
本発明の樹脂製チップの作製方法において、クロスリンカーとして、一方の末端に2重結合をもち、他方の末端にアルコール性水酸基をもつものを1〜10%(W/W)の濃度で添加するようにすれは、樹脂製部材表面、ひいては微小流路内壁を親水性にすることができる。そのクロスリンカーの一例は、4−ペンテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、10−ウンデセン−1−オール及び17−オクタデセン−1−オールのうちのいずれかである。
【0015】
本発明の樹脂製チップの樹脂製部材の一例は、クロスリンカーとして一方の末端に2重結合をもち、他方の末端にアルコール性水酸基をもつものを1〜10%(W/W)の濃度で含むものであり、そのクロスリンカーの一例は、4−ペンテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、10−ウンデセン−1−オール及び17−オクタデセン−1−オールのうちのいずれかである。
上記のようなクロスリンカーが添加されて形成された樹脂製部材表面、ひいては微小流路内壁は親水性をもつ。微小流路内壁を化学修飾しない場合、微小流路内に水溶液を導入するのが困難であるが、この態様では微小流路内壁が親水性をもつので水溶液を容易に導入することができる。さらに、微小流路内の気泡の発生も抑制することができる。また、微小流路内壁は、その内壁表面は親水性であり、内壁を構成する樹脂材料の内部は疎水性であるという特徴をもつので、血清中薬物の分離を前処理無しに行なうことができる。
【0016】
【実施例】
図1は樹脂製チップの作製方法の一実施例を示す工程断面図である。図2は樹脂製チップの一実施例を示す構成図であり、(A)は上側の樹脂製部材の上面図、(B)は下側の樹脂製部材の上面図、(C)は両樹脂製部材を重ね合わせた状態での側面図である。図1は、図2のA−A位置に対応する断面図である。
まず図1(G)及び図2を参照して樹脂製チップの構成について説明する。
【0017】
樹脂製チップ1は、一対の樹脂製部材3,5により構成される。
下側の樹脂製部材3の一表面に微小流路を構成する溝7が形成されている。
上側の樹脂製部材5には溝7の両端に対応する位置に、液体試料を導入するための薬液の入出ポート9を構成する貫通穴が形成されている。図では、説明の便宜上、入出ポート9は溝7から離れた位置に示されている。さらに樹脂製部材5には溝7の一部分に対応する位置に光学検出するための例えばホウケイ酸ガラスからなる光学窓11が埋め込まれており、光学窓11の上方に開口13が形成されている。
樹脂製チップ1は、溝7を内側にし、開口13を外側にした状態で樹脂製部材3,5を重ねて接合して形成され、溝7の内壁及び溝7の位置に対応する樹脂製部材5の表面により微小流路23が形成されている。
【0018】
図1に基づいて、樹脂製チップの作製方法の一実施例を説明する。
(A)微小流路23に対応した微細な凸型の形状を有する鋳型15を準備する。
(B)クロスリンカーの種類及び濃度を調製した樹脂製部材3用の高分子モノマー溶液を鋳型15に流し込み、形状が変化しない程度に重合し、かつ完全には重合していない状態(半分固まった状態、例えば重合度45〜95%の状態)まで高分子モノマーを重合させて樹脂製部材3を形成する。高分子モノマー溶液としては、例えば不飽和ポリエステル(フマル酸とエチレングリコールからなるカルボン酸エステル、平均分子量2300、70重量%)とスチレン(30重量%)の混合物14グラムに、数十μl(マイクロリットル)の触媒、例えば過酸化ベンゾイルとジメチルアニリンを混合し、さらにクロスリンカー、例えば10−ウンデセン−1−オールを10重量%の割合で混合したものを用いた。温度条件は室温(15〜25℃)、重合時間は40分で行なった。
(C)半分固まった状態の樹脂製部材3を鋳型15から取り外す。樹脂製部材3の位置表面には鋳型15の微細な凸型の形状に対応して溝7が転写されている。
【0019】
(D)平坦面17aをもつ鋳型17を準備し、平坦面17a上に複数の入出ポート形成用部材19を密着して配置し、光学窓11を平坦面17aとは間隔をもって外部から支持部材21により保持する。
(E)工程(B)で用いたのと同じ高分子モノマー溶液を鋳型17に流し込み、形状が変化しない程度に重合し、かつ完全には重合していない状態まで高分子モノマーを重合させて樹脂製部材5を形成する。温度条件は室温(15〜25℃)、重合時間は40分で行なった。
(F)樹脂製部材5が完全に重合する前に、入出ポート形成用部材19と光学窓支持部材21を取り除き、液体試料を導入するための複数の入出ポート9と、光学検出するための光学窓11が配置され、開口13が形成された樹脂製部材5を得る。その後、樹脂製部材5を80分間重合させて完全に重合させる。
【0020】
(G)半分固まった状態の樹脂製部材3と完全に重合して固化した樹脂製部材5を、溝7を内側にし、開口13を外側にした状態で重ね合わせ、樹脂製部材3を完全に重合させることで樹脂製部材3,5を接合する。条件は室温(15〜25℃)で12時間程度放置した。なお、実際には120分程度で重合するものと思われる。このとき、溝7の形状が変形することはない。これにより、高精度な寸法をもつ微小流路23を有する樹脂製チップ1を作製することができる。
【0021】
この実施例によれば、高分子モノマー溶液にクロスリンカーを定量的に添加することにより、樹脂製部材3,5の表面を定量的に化学修飾することが容易にできる。すなわち溝7の内壁及び溝7の位置に対応する樹脂製部材5の表面により構成される微小流路23の内壁を定量的に化学修飾することが容易にできる。
この実施例では、クロスリンカーとして親水性のものを用いたので、微小流路23の内壁を親水性にすることができ、クロスリンカーの濃度を調製することにより微小流路23の内壁への試料の吸着現象をコントロールすることも可能である。
さらに、高分子モノマー溶液の重合開始剤の濃度、重合時の温度、重合時間を調節することにより接合の再現性を向上することができる。
【0022】
この実施例ではクロスリンカーとしての10−ウンデセン−1−オールを10重量%の濃度で添加しているが、10−ウンデセン−1−オールの濃度を低くすると重合時間は短くなる。10−ウンデセン−1−オールの濃度を例えば5重量%にすると、図1での工程(B)での重合時間は30分、工程(E)での重合時間は30分、工程(F)での重合時間は40分、工程(G)での重合時間は100〜120分になる。
【0023】
また、この実施例では半分固まった状態の樹脂製部材3と完全に重合して固化した樹脂製部材5を重ね合わせて接合しているが、本発明の作製方法はこれに限定されるものではなく、完全に重合して固化した樹脂製部材3と半分固まった状態の樹脂製部材5を重ね合わせて接合してもよいし、樹脂製部材3,5ともに半分固まった状態で重ね合わせて接合してもよい。
【0024】
図3は樹脂製チップの作製方法の参考例を示す工程断面図である。図1と同じ部分には同じ符号を付し、その説明は省略する。高分子モノマー溶液の組成は図1の実施例の説明で用いたものと同じである。
(A)微小流路23に対応した微細な凸型の形状を有する鋳型15を準備する。
(B)高分子モノマー溶液を鋳型15に流し込み、室温(15〜25℃)、重合時間は120分の条件で高分子モノマーを完全に重合させる。
(C)樹脂製部材3を鋳型15から取り外す。樹脂製部材3の位置表面には鋳型15の微細な凸型の形状に対応して溝7が転写されている。
【0025】
(D)鋳型17を準備し、平坦面17a上に複数の入出ポート形成用部材19を密着して配置し、光学窓11を平坦面17aとは間隔をもって外部から支持部材21により保持する。
(E)工程(B)で用いたのと同じ高分子モノマー溶液を鋳型17に流し込み、形状が変化しない程度に重合し、かつ完全には重合していない状態まで高分子モノマーを重合させて樹脂製部材5を形成する。温度条件は室温(15〜25℃)、重合時間は40分で行なった。
(F)樹脂製部材5が完全に重合する前に、入出ポート形成用部材19と光学窓支持部材21を取り除き、複数の入出ポート9と、光学窓11が配置され、開口13が形成された樹脂製部材5を得る。その後、樹脂製部材5を室温(15〜25℃)で80分間重合させて完全に重合させる。
【0026】
(G)完全に重合して固化した樹脂製部材5の樹脂製部材3と接合される面に、工程(B)及び(E)で用いたのと同じ高分子モノマー溶液を入出ポート9が塞がらないように塗布して高分子モノマー層24を形成し、高分子モノマー層24を形状が変化しない程度に重合し、かつ完全には重合していない状態まで重合させる。温度条件は室温(15〜25℃)、重合時間は120分で行なった。
(H)樹脂製部材3及び樹脂製部材5を高分子モノマー層24を介して重ね合わせ、高分子モノマー層24を完全に重合させることで樹脂製部材3,5を接合する。温度条件は室温(15〜25℃)、重合時間は120分であった。この実施例でも、溝7の形状が変形することはないので、高精度な寸法をもつ微小流路23を有する樹脂製チップ1を作製することができる。
【0028】
図1及び図3の作製方法によれば、溝7を潰したり溝7に熱応力がかかったりしない状態で、微小流路23の内壁に発現する機能を予測及び制御しつつ、樹脂製部材3,5の接合が可能となる。さらに、微小流路23内壁に対する試料の吸着挙動も制御可能である。これを利用すれば、例えば、1)血球成分の分離、2)チップフローサイトメトリー、3)試料毎に機能を指定したテーラーメイドマイクロチップなどに使用する樹脂製チップの提供が可能となる。
【0029】
また、図1及び図3に示した作製方法の説明では、クロスリンカーとして10−ウンデセン−1−オールを用いているが、本発明の樹脂製チップ及びその作製方法はこれに限定されるものではなく、他のクロスリンカー、例えば4−ペンテン−1−オールや7−オクテン−1−オール、17−オクタデセン−1−オールなど、一方の末端に2重結合、他方の末端にアルコール性水酸基をもつものを用いれば、微細流路内壁に親水性をもたせることができる。
【0030】
また、高分子モノマーとして、不飽和ポリエステル(フマル酸とエチレングリコールからなるカルボン酸エステル)を用いているが、高分子モノマーはこれに限定されるものではなく、例えばメチルメタクリレート、エポキシ樹脂、スチレンなどを用いることができる。
【0031】
図4に、本発明の樹脂製チップ1を用いた計測装置の一実施例を示す。
樹脂製チップ1を設置するためのチップ保持機構としてのX−Yステージ25が設けられており、その上に樹脂製チップ1が配置されている。樹脂製チップ1の微小流路23及び出入ポート9内に試料溶液やバッファ液、分離媒体としてのポリマーなどの溶液が充填されている。微小流路23の両端に対応する2つの出入ポート9a,9b内には電極27a,27bが溶液に浸かるようにそれぞれ配置されており、一方の出入りポート9aに対応する電極27aは高圧リレー29を介して高圧電源31に電気的に接続されており、他方の出入ポート9bに対応する電極27bは接地(GND)されている。電極27a,27b、高圧リレー29及び高圧電源31は電圧印加機構を構成する。
【0032】
光源としてのHe/Neレーザー33が設けられている。レーザー33の光路上にチョッパー35、レンズ37及びミラー39が配置されている。レーザー33からの励起光はチョッパー35により断続され、レンズ37により集光され、ミラー39により反射されて樹脂製チップ1の開口13及び検出窓11を介して微小流路23に照射される。
【0033】
樹脂製チップ1の開口13内に、微小流路23からの光を取り込むために、光ファイバー41の一端が配置されている。光ファイバー41の他端は580nm以下の波長の光を除去するロングパスフィルター43の付近に配置されている。ロングパスフィルター43の光ファイバー41とは反対側に、ロングパスフィルター43を通過した光ファイバー41の他端からの光を検出するための光電子増倍管45が配置されている。光電子増倍管45には光電子増倍管45の検出信号を処理するための制御部47が電気的に接続されている。制御部47には測定結果を表示するための記録計49が電気的に接続されている。さらに制御部47にはチョッパー35も電気的に接続されており、チョッパー35の動作は制御部47により制御されるとともに、チョッパー35の周波数に同期して光電子増倍管45の信号を取り込むことにより、外乱光の影響を除去している。
レーザー33、チョッパー35、レンズ37、ミラー39、光ファイバー41、ロングパスフィルター43及び光電子増倍管45は検出機構を構成する。
【0034】
測定を行なうとき、試料溶液を出入りポート9aに注入し、高圧電源31により高圧リレー29を介して電極27aに高電圧を印加して電極27a,27b間に電位差を生じさせ、試料を出入りポート9aから微小流路23内へ導入し、微小流路23で出入りポート9a側から出入りポート9b側へ電気泳動させて分離する。例えば化学発光、蛍光、レーザー励起蛍光、吸光度、表面プラズモンなどの原理を利用して、レーザー33からの励起光照射位置に試料が到達したときの光学的変化を光ファイバー41及びロングパスフィルターを介して光電子増倍管45により検出する。光電子増倍管45の検出信号を制御部47により処理し、記録計49に表示する。
【0035】
樹脂製チップ1の微小流路23の用途は分離流路だけでなく、化学反応を行なわせるための容器としても用いることができる。微小流路23内で化学反応を行なわせる場合、図4に示した装置を用いて反応後の物質を検出することができ、さらには反応過程のモニタリングを行なうこともできる。
図4に示した計測装置の実施例では、光学的測定により微小流路23内の試料の検出する検出機構を備えているが、本発明の計測装置はこれに限定されるものではなく、樹脂製チップ1の微小流路23内に電極を形成すれば検出機構として電気伝導度測定により試料の検出を行なうものを用いることができる。
【0036】
【発明の効果】
本発明にかかる樹脂製チップの作製方法において、接合される一対の樹脂製部材のうち、少なくとも一方の樹脂製部材を微小流路に対応する凸型の構造をもつ鋳型を用いて高分子モノマーを重合させて成型し、少なくとも一方の樹脂製部材が、形状が変化しない程度に重合し、かつ完全には重合していない状態で両樹脂製部材を密着させて重合を完了させることにより両樹脂製部材の接合を行なうようにしたので、分子レベルで鋳型を転写でき、接合時に溝を潰したり溝に熱応力がかかったりしないので、微小流路を高精度に形成することができる。さらに、高分子モノマー溶液のクロスリンカーの種類や量を適切に選ぶことで、微小流路内壁を定量的に化学修飾することや、微小流路内壁への吸着現象を制御することが可能となる。
【0037】
本発明の樹脂製チップでは、樹脂製チップを構成する樹脂製部材は、高分子モノマーと反応するクロスリンカーとして分子内に2重結合、チオール基、アミノ基、カルボキシル基及びエポキシ基のうち少なくとも1種類の官能基を有する化合物が添加されて重合されたものを用いているので、樹脂製部材の表面にクロスリンカーの官能基が存在し、微小流路内壁に存在するクロスリンカーの官能基により微小流路内壁に定量的な化学修飾が施されている。
【0038】
本発明の計測装置は、本発明の樹脂製チップを用い、その樹脂製チップを保持するためのチップ保持機構と、樹脂製チップに形成された微小流路の両端に電圧を印加するための電圧印加機構と、樹脂製チップの微小流路内の特定物質を検出するための検出機構とを備えているので、本発明の樹脂製チップを用いて電気泳動による分析を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 作製方法の一実施例を示す工程断面図である。
【図2】 樹脂製チップの一実施例を示す構成図であり、(A)は上側の樹脂製部材の上面図、(B)は下側の樹脂製部材の上面図、(C)は両樹脂製部材を重ね合わせた状態での側面図である。
【図3】 作製方法の参考例を示す工程断面図である。
【図4】 本発明により作製した樹脂製チップを用いた光学測定装置の一例を示す構成図である。
【符号の説明】
1 樹脂製チップ
3,5 樹脂製部材
7 溝
9 薬液の入出ポート
11 光学窓
13 開口
15,17 鋳型
17a 平坦面
19 入出ポート形成用部材
21 光学窓支持部材
23 微小流路

Claims (5)

  1. 複数の樹脂製部材が接合されてそれらの樹脂製部材間に形成された微小流路を有する樹脂製チップの作製方法において、
    接合される一対の樹脂製部材のうち、少なくとも一方の樹脂製部材を微小流路に対応する凸型の構造をもつ鋳型を用いて高分子モノマーを重合させて成型し、少なくとも一方の樹脂製部材が、形状が変化しない程度に重合し、かつ完全には重合していない状態で両樹脂製部材を密着させて重合を完了させることにより両樹脂製部材の接合を行なう作製方法であって、
    前記樹脂製部材の重合反応の際に、高分子モノマーと反応する架橋剤として、4−ペンテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、10−ウンデセン−1−オール及び17−オクタデセン−1−オールのうちのいずれかを添加することを特徴とする作製方法。
  2. 前記架橋剤を1〜10%(W/W)の濃度で添加する請求項に記載の作製方法。
  3. 複数の樹脂製部材が接合されてそれらの樹脂製部材間に形成された微小流路を有する樹脂製チップにおいて、
    前記樹脂製部材は、高分子モノマーと反応する架橋剤として4−ペンテン−1−オール、7−オクテン−1−オール、10−ウンデセン−1−オール及び17−オクタデセン−1−オールのうちのいずれかが添加されて重合されたものであることを特徴とする樹脂製チップ。
  4. 前記樹脂製部材は、前記架橋剤を1〜10%(W/W)の濃度で含むものである請求項に記載の樹脂製チップ。
  5. 請求項3又は4に記載の樹脂製チップを用い、その樹脂製チップを保持するためのチップ保持機構と、
    樹脂製チップに形成された微小流路の両端に電圧を印加するための電圧印加機構と、
    樹脂製チップの微小流路内の特定物質を検出するための検出機構と、を備えたことを特徴とする計測装置。
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