JP4471656B2 - 新規自己集合分子 - Google Patents

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Description

本発明は自己集合分子に関するものであるが、特に、関心のある標的に対して親和性を有する複合体の形成に有用な自己集合分子に関する。
細胞において特定の結合部位に親和性を示す様々な分子が知られている。たとえば、抗体および細胞表面受容体は特定の標的に結合することができる。しかしながら、当該分子とその標的との間の相互作用の強さは、事例によっては、弱いものである。
抗体フラグメントの標的に対する親和性を高める試みによって、結果として二量体化された抗体フラグメントの作製に至ったが、ここにおいて、二量体は2つの結合部位を持ち、そのそれぞれが抗体標的に特異的である。二量体化は、通例、抗体フラグメントに付随する「尾部」領域の修飾に関わる、様々な手段によって実施された。したがって、所定の標的と結合する特異性および能力を保持している二量体化可能なユニットを生成するために、たとえば、へリックスバンドルのような自己会合する二次構造を使用した。しかしながら、既知の自己会合ドメインは、その結果得られた幾何学的構造の制御に対する限界からくる、最適な分子間隔をとることの難しさ、のみならず、好ましくない非機能的な分子の凝集も含めて、いくつかの問題を提示すると考えられる。二量体における各分子の結合領域が、その標的分子の結合を可能とするに足る分子間の間隔をもって、その二量体の同一面に所在することが、多くの場合好ましい。
特異的結合領域と会合した3以上の自己会合サブユニットからなるオリゴマーを形成する有効な取り組みには限界があった。ある場合においては、「ミニ抗体」とともに、転写因子GCN4の変性へリックスを含んでなるサブユニットからなるテトラマーが作製された。同様に、小ペプチドと融合した軟骨オリゴマーマトリクスタンパク質の二重コイル集合ドメインを用いて、五量体を形成した。しかしながら、軟骨オリゴマー集合体の構造は、細く、棒状であると考えられ、それよって、この集合体が、いっそう大きなユニット間の間隔が必要とされる、より大きなペプチドもしくはタンパク質とともに使用するには不適当となる可能性がある。
自己集合分子を作製する取り組みの検討は、Pluckthun ら、1997, 参考文献1、ならびに Terskikh ら、1997、参考文献2に見いだすことができる。
発明の概要
アビディティー(結合活性)、すなわち、生体分子相互作用の強さに対して多価であることが劇的に寄与すること、が、抗原-抗体相互作用の重要な特色である。本明細書において、シングルドメイン抗体(dAb)のような相互作用ドメインの結合特性をアビディティーの導入によって大幅に改善する方法が与えられる。相互作用ドメインを、たとえば大腸菌ベロ毒素のBサブユニット(”VTB”)のような適当な自己集合ユニットに融合させる。VTBは自己集合してホモ五量体を形成する。VTBを相互作用ドメインに融合させると、生成した分子は五量体となりやすい。このような五量体化された分子を、ペンタボディ(pentabody)と称する。
アビディティーの導入は、抗体フラグメントの抗原結合特性を改善する非常にすぐれた方法である。多量体化は、dAb抗原結合特性の向上のために特に魅力的な戦略である。
本発明のある実施形態において、自己集合する多量体複合体を形成する方法が与えられるが、この方法は、適当な自己集合分子、すなわち、相互作用ドメインに有効に連結された相補的自己集合ユニットを含んでなる、3以上の自己集合分子、を得ること、;および、少なくとも3つの自己集合ユニットが相互に同時に結合して複合体を形成するように、自己集合分子を結合すること、を含んでなる。
本発明の別の実施形態において、自己集合分子が与えられるが、その各々は相互作用ドメインと有効に結合された相補的自己集合ユニットを含んでなる。より詳細には、本発明は、有効に相互に結合された複数のタンパク質性部分もしくはペプチド部分を含んでなる自己集合分子を提供する。ここで、第1の前記部分は、同一成分もしくは異なる成分からなる少なくとも2つの他の自己集合分子の自己集合領域に結合する能力を持つ、自己集合領域を含んでなり、少なくとも3つの自己集合分子からなる複合体を形成する。第2の前記部分は、別の異なる分子上の標的領域と特異的に相互作用するのに適合した、相互作用ドメインを含んでなる。
発明の詳細な説明
定義
本明細書で使用される「自己集合ユニット」および「自己集合するユニット」は、ペプチドもしくはタンパク質(炭水化物もしくは他の修飾物と結合していてもよい)を表すが、ここで前記ペプチドもしくはタンパク質は、別の分子上の他の同様な領域と相互作用して、ほぼ一定の幾何学的構成を有する、3以上のユニットを含む1以上の構造を形成するのに適している。
本明細書で使用される「相互作用ドメイン」という用語は、ペプチドもしくはタンパク質(グリコシル化、または他の状態に修飾されることがある)を表すが、ここで前記ペプチドもしくはタンパク質は、それ自身とは異なる他の分子上の標的領域(もしくは標的)と特異的に相互作用するのに適している。上記の他の分子は、自己集合ユニットではないことが望ましい。
本明細書で使用される「ホモ五量体」という用語は、5個のユニットを含有する構造を表すが、この5個のユニットは特異的に相互に作用して、ほぼ一定の幾何学的構成を有する構造を形成し、各ユニットは他のユニットと実質的に同一である。
本明細書で使用される「多量体化」という用語は、3以上の自己集合ユニットが互いに結合して、一定の幾何学的構成を持ったより大きな複合体を形成するプロセスを表す。
本明細書で使用される「sdAbおよびdAb」という用語は、単一ドメイン抗体フラグメントをあらわす。
本明細書で使用される「相補的自己集合ユニット」という用語は、相互に結合して、一定の幾何学的構成を持つ複合体を形成するのに適した、3以上の自己集合ユニットを意味する。
本明細書で使用される「ほぼ一定の幾何学的構成を有する構造」という語法は、同一条件下で同一成分から形成された場合、おおよそのサイズおよび形態が一貫している構造を意味する。
本明細書で使用される「コードしている遺伝物質に由来する」という用語は、当該ペプチドもしくはタンパク質をコードするDNAの転写、および/またはRNAの翻訳によって実質上作製されたペプチドもしくはタンパク質、またはそれが一部を成すような、より大きなタンパク質を包含するものであって、必要ならばその後、切断(自然もしくは不自然)および/または翻訳後修飾を受けたものを表す。たとえそれをコードする実際の遺伝物質が縮重のために遺伝コードの点で異なっていても、あるいは保存的置換などで異なっていても、ペプチドもしくはタンパク質がその遺伝物質に由来することは明らかである。
自己集合分子
本発明は、ある実施形態において、相互作用ドメインと有効に結合した自己集合ユニットを含んでなる、新規自己集合分子(「自己集合する分子」もしくは「サブユニット」とも呼ばれる)を与える。それぞれの自己集合分子は、適正な条件下で標的と特異的に結合することができる部分、および適正な条件下で別の自己集合分子と結合して3以上の自己集合分子からなる複合体を形成することができる部分を有する。自己集合ユニットがリンカー領域(「リンキング領域」、「リンカー」、「リンキングドメイン」もしくは「リンカードメイン」とも呼ばれる)によって相互作用ドメインと連結されることもある。
本発明の自己集合分子が、ある場合には融合タンパク質であることは、容易に理解されるであろう。こうした融合タンパク質は、化学合成(必要ならばその後に化学修飾)、細菌もしくは他の培養における合成、または哺乳類宿主における合成を含めて、様々な方法で合成することができるが、後者はたとえば、標準的な技法にしたがって所定の融合タンパク質をコードするヌクレオチドを、哺乳類宿主に遺伝子治療によって投与することによる。標的結合および特異性、ならびに自己集合を保存できるように、自己集合ユニットのある領域に相互作用ドメインを化学結合させることを含めて、あらゆる適当な方法によって、本発明の自己集合分子を作製することもできる。
自己集合ユニット
自己集合ユニットは上記で定義される。ある場合には、それは同様のタンパク質とともに、3以上のユニットからなるオリゴマーを形成するのに適したタンパク質であって、その結果得られた構造は、一定の幾何学的構成を有する。
ある場合には、そのN末端またはC末端のいずれかをおおむね上記構造のある1つの面に向けるように集合する、自己集合ユニットを選択することが好ましい。ある場合には、そのN末端を第1面に、さらにそのC末端を第2面にほぼ揃えるように集合する、自己集合ユニットを選択することが好ましい。ある場合には、N末端領域およびC末端領域が混交して当該分子のある1つの面にほぼ揃うように集合する、自己集合ユニットを使用することが好ましい。
ある場合には、それぞれが互いに同一ではない自己集合ユニットを使用することが好ましい。たとえば、最終的な集合体の各サブユニットは、各自己集合ユニットの結合領域が他に対して相補的である限り、同一である必要はなく、その結果3以上の自己集合ユニットが、一定の幾何学的構成を持つ複合体を形成することができる。
ある場合には、ベロ毒素、志賀毒素、易熱性エンテロトキシン、コレラ毒素、および百日咳毒素を包含するがそれに限定されない、AB5毒素ファミリーを構成する毒素の自己集合領域から選択される自己集合ユニットを使用することが望ましい。ある場合には、そのサブユニットを発現するために使用されるのと同じ生物群によって自然にコードされるタンパク質である、またはそうしたタンパク質に由来する自己集合ユニットを使用することが好ましい。
ある場合には、4から100までの自己集合分子からなる多量体構造を形成する、自己集合分子を与える自己集合ユニットを選択することが好ましい。ある場合には、5から50までの自己集合分子からなる多量体構造を与える、自己集合ユニットが好ましく、さらに、ある場合には、5から15までの自己集合分子からなる多量体構造を与える選択が望ましい。
一般に、多量体複合体を形成する自己集合分子の数が多いほど、その複合体は、少数の分子からなる複合体より強く標的と結合する傾向がある。しかしながら、非常に大きい多量体複合体は、基質もしくは組織を通過する能力が低下し、細胞に取り込まれにくいと考えられる。
ある場合には、ナノモル以下の値域に解離定数(”KD”もしくは”KD”)を有する自己集合ユニットを使用することが好ましい。ある場合には、ピコモル程度の解離定数を有する自己集合ユニットを使用することが好ましい。
ある場合には、オリゴマー化ドメインの相互作用のKDが10μMから1fMの間であるような、自己集合分子を与える自己集合ユニットを選択することが望ましい。ある場合には、100nMから100fMの間のKDが好ましい。ある場合には、100nMから1pMの間のKDが好ましい。
本明細書の開示に照らして、対象とする用途、および使用すべき濃度に基づいて、適当なKDを決定し、適当な自己集合ユニットを選択することは当業者の能力の範囲内である。
ベロ毒素Bサブユニットのような、ある種の自己集合ユニットは、本来、特定の細胞表面マーカーもしくは他の標的に結合する傾向がある。こうした自然の標的に結合することが好ましくない場合、他の自己集合ユニットへの親和性は保存しつつ、標的結合部位を変異させるといった、従来の手段によって、こうした結合を分断することができる。
ある実施形態において、本発明は、いくぶん大きい相互作用ドメインとともに使用するのに適した自己集合ドメインを与える。別の実施形態では、25-500アミノ酸を有する相互作用ドメインとともに使用するのに適した自己集合ドメインが与えられる。もう一つの実施形態では、50-300アミノ酸を有する相互作用ドメインとともに使用するのに適した自己集合ドメインが与えられる。別の実施形態では、75-200アミノ酸を有する相互作用ドメインとともに使用するのに適した自己集合ドメインが与えられる。本発明の別の実施形態において、グリコシル化された、または何か他の修飾を受けたペプチドもしくはタンパク質領域を含んでなる、大きな相互作用ドメインとともに使用するのに適した自己集合ユニットが与えられる。
ある実施形態において、相互作用ドメインおよびマーカーとともに使用するのに適した自己集合ユニットが与えられる。ある実施形態において、相互作用ドメインおよび破壊性物質とともに使用するのに適した自己集合ドメインが与えられる。
多くの場合、相互作用ドメインを過密にすることなく使用することができる、最小の自己集合ユニットを使用することが望ましい。過小な自己集合ユニットが相互作用ドメインをあまりにも接近して結びつけているならば、過密化が生じるかもしれない。概して、短くずんぐりした複合体を形成する自己集合ユニットは、高くて細い複合体を形成するものより好ましい。なぜならば、その相互作用ドメインは各自己集合分子の同じ領域に融合するが、そのために同一表面に出現することが多いためである。高くて細長い自己集合分子を使用する場合、それぞれの表面上の、相互作用ドメインに利用可能なスペースが限られているためにドメイン間に干渉が起こる可能性があり、そのことは、こうした相互作用ドメインの、標的と結合することに関する利用可能性を低下させ、あるいは結果的に、相互に近すぎて表面上の標的とうまく結合できない相互作用ドメインをもたらすかもしれない。
何らかの特定のメカニズムもしくは結合領域に本発明を限定することなしに、VTBのオリゴマー化を引き起こす領域はβシート(AA11-15)および逆平行βシート(65-68)であると考えられる。これらの2領域は、隣接するモノマー上で結合すると思われる。加えて、5個のαへリックス(それぞれのモノマーから1つ、AA36-46)の輪が、こうした個々の自己集合ユニット相互の選択的な結合に役割を担っていると思われる。他の自己集合ユニットに関する同様の分析とそれに続く結合部位の位置を確認する通常の検査は、本発明に照らして可能であり、したがって重要な結合領域の同定が当業者にとって可能となる。
これが、抗体フラグメント五量体化の最初の記載であると考えられるが、ホモ五量体の軟骨オリゴマーマトリックスタンパク質を用いて、ペプタボディ(peptabody)と称されるオリゴマーペプチドが作製されている(Terskikhら、1997, 参考文献2)。しかしながら、約20Åの直径で(Efimovら、1994, 参考文献3)、抗体フラグメントを上記タンパク質とともに五量体化するには、いっそう複雑な状態をもたらす可能性のある長いリンカーが必要となる。ペプチドをオリゴマー化するために24アミノ酸リンカーが用いられた。これに対して、分子量38.5 kDaのVTB五量体は、サイズとしては31.3 kDaのマトリックスタンパク質と同様であるが、直径約56Åのまったく異なる幾何学的構成を持つ。前記直径、ならびにNおよびC末端の周辺部での位置は、長いリンカー配列に関する複雑な要件なしに5個のdAbの提示を可能にするので、概ね好ましい。
このように、自己集合ユニット間の会合を引き起こす領域、ならびに会合に必要な幾何学的構成、疎水性および荷電特性が保存されるという条件で、自己集合ユニットは、特異的に巧みに構成されて、求められる幾何学的構成、直径およびN末端もしくはC末端の位置づけを与えることができる。
本明細書の開示に照らして、適当な自己集合ユニットを同定することは、当業者の能力の範囲内である。様々な方法が可能であるが、ひとつの合理的な方法は、3以上の自己集合ユニットが会合したときに形成される3次元構造を検討すること、CもしくはN末端が望ましいように並んでいるかどうかを判定すること、およびそうした末端の間隔を特定することである。こうした情報を、次に、望ましい相互作用ドメイン(および、必要なら、リンカー領域、マーカーおよび/または破壊性物質)の方向性および空間的余地の要件と比較して、好適な自己集合ユニットを選択することができる。ある場合には、大腸菌から生成したとき高レベルの可溶性産物を与える自己集合ユニットを選択することが望ましい。
相互作用ドメイン
さまざまな相互作用ドメインが考えられるが、本明細書の開示に照らして、当業者には明白である。相互作用ドメインは、たとえば、抗体、抗体フラグメント、単一ドメイン抗体フラグメント(dAbもしくはsdAb)、抗体のVHおよびVL領域をコードする一本鎖ポリペプチド(scFv)、抗体の結合領域に由来するペプチドもしくはタンパク質、細胞表面受容体の一部分、細胞表面受容体の結合領域、細胞表面受容体に特異的に結合する分子もしくはその結合部分、および特異的な標的に対して親和性を有する他の分子である。
ある場合には、抗体の可変ドメインをコードするライブラリから抗体フラグメントを分離することによって、このような単一ドメイン抗体フラグメントを作製することができる。sdAbの大きさはさまざまであり、それをコードするDNAを配列決定することによって、判定することができる。
単一ドメイン抗体は、オリゴマー化のためにscFvより好ましい場合がある。単一ドメイン抗体は一般にscFvの大きさの約半分であるため、sdAbからなるオリゴマーの形状は、通常、それに対応するscFvの形状よりもかなり小さい。また、大腸菌における可溶性産物の収率は、sdAbの方がscFvよりもはるかに高い傾向がある。しかしながら、さらに重要なことは、scFvが二量体、三量体(ここにおいて、ある1つのscFvのVLは別のscFvのVHと会合し、また逆も同様である)などを形成することが多いのに対して、sdAbは一般に、もっぱら単量体として存在することである。VLとVHの間のリンカーの長さを、完全に純粋な二量体および三量体のscFv(ダイアボディ(diabody)およびトリアボディ(triabody)と称される)を生じるように慎重に選択することによって、こうした特性を利用することができる(Hudsonら、1999, 参考文献4)。しかしながら、オリゴマー化をさらに重ねて導入することは、望まれていない複雑さをもたらす可能性もある。
1つの相互作用ドメイン(たとえば、sdAbなど)を自己集合ユニットのC末端領域に、さらにもう一つの相互作用ドメインをN末端領域に連結することによって、本明細書に記載の方法にほぼしたがって、1以上の標的を認識する自己集合分子を形成することもできることは、当業者にとって、本明細書の開示に照らして明らかである。
相互作用ドメインを選択するとき、多くの場合、標的結合を損なうほど互いに会合しやすい相互作用ドメインを避けることが望ましい。相互作用ドメイン間の直接結合は標的結合を減らすのみならず、オリゴマー全体としての形態を変化させ、そのオリゴマー内の他の相互作用ドメインがその標的と結合する能力を低下させると考えられる。
相互作用ドメインおよびその標的との間の望ましい解離定数はいくつかの要因によって決まるが、その要因には標的存在量、求められる結合の程度、求められる結合の平均および持続時間が含まれる。
ある場合には、相互作用ドメインは、(単一の、オリゴマー化されていない)自己集合分子のKDが約1 fMから100μMまでの間となるように選択される。ある場合には、約1 nMから10μMの間のKDが望ましい。
ある場合には、単量体の状態では標的と弱い結合しかしないが(たとえば、KDは、約10μMから10 mMの間、もしくは約100μMから1 mMの間)、オリゴマーの状態では標的と強く結合する(たとえば、KDは、約1 fMから100 nMの間、もしくは約1 pMから10 nMの間)自己集合分子を形成するような、相互作用ドメインおよび自己集合ユニットを選択することが望ましい。このように、連結された毒素もしくは放射性同位体は、高レベルで標的を発現する細胞を標的とすることができるが、低レベルでしか発現しない細胞の大部分は使われない。このことは、細胞表面マーカーがただ単に存在するのではなく、多数存在することが望ましくない細胞を特徴付ける、ある種の癌のような状況において有用である。標的を過剰に発現する細胞を選択的に認識する、異なる系の使用の検討は、Kaminskiら、1999、参考文献5に見いだされる。
ある場合において、「スポイラー」を包含する相互作用領域もしくは自己集合ユニットを選択することが望ましいと考えられる。「スポイラー」は、結合領域に存在する、もしくは結合領域に隣接する、もしくは結合領域に有効に連結されたあらゆるものであって、そのために結合領域は、当初は強く結合することができず、関心のある細胞もしくは組織型に入ったときにはじめてこの状態から解放される。たとえば、組織特異的ホスファターゼの作用によって、結合部位の接近可能性の変化がもたらされ、その結果、脱リン酸化された結合部位は、それがリン酸化された状態では不可能であるのに、効果的に結合することができた。
同様に、結合部位を通常、ブロックしていたペプチド領域を組織特異的プロテアーゼによって選択的に切断し、結合可能とすることができる。たとえば、前立腺癌細胞と遠隔組織の正常細胞の両者に見いだされる標的に対して特異的な相互作用ドメインを有する自己集合分子を、前立腺癌細胞上の標的に対する相互作用ドメインの結合部位を通常ブロックするペプチドを包含するようにデザインすることができる。このペプチドはPSA(前立腺特異的プロテアーゼ)による切断に対して感受性の配列を包含し、その結果PSAはペプチドの遊離を引き起こす。したがって、この自己集合分子は前立腺でない組織では標的と有意な結合をしないが、前立腺では自由に癌細胞と結合することになる。自己集合分子が毒素もしくは放射性同位体といった破壊性物質を包含する場合、そうした組織特異的結合は、癌治療の副作用を減少させるのに役立つと考えられる。
リンカー領域
自己集合ユニットと相互作用ドメインの間の結合は、自己集合ユニットと相互作用ドメインを結びつける「リンカー領域」の使用を包含することができる。リンカー領域は、かなり多数のペプチド配列もしくは他の適当な物質から選択することができる。リンカー領域の長さはいくつかの要因によって決まるが、その要因は、自己集合ユニットの幾何学的構成、相互作用ドメインの大きさ、ならびに、マーカーもしくは破壊性物質が使用されるならば、その大きさおよび位置決めを包含する。一般に、各自己集合ユニットに有効に結合された相互作用ドメインがその標的に向かって指向することを可能にするに足るリンカー領域を与えることが望ましく、それによって、その自己集合ユニットが互いにかみあうとき、いくつかの相互作用ドメインの標的に対する結合が可能となる。
ある場合には、長さが4から300アミノ酸までの間のリンカーを使用することが望ましく、ある場合には、4アミノ酸から200アミノ酸までの間の長さのリンカーを使用することが望ましく、また、ある場合には、5アミノ酸から20アミノ酸までの長さのリンカーを使用することが望ましい。リンカーを選択する際に、プロテアーゼに抵抗性の配列を選択することが望ましいこともある。
ある場合には、一般式(GGGGS)n(ここで、“n”はおよそ1から50の間であることが好ましい)のリンカーを使用することが望ましい。“n”を1から25の間となるように選択することが望ましいこともあり、1から10の間が望ましいこともあり、さらに1から4の間が望ましいこともある。ある場合には、C末端のリンカー配列GGGGSおよびN末端リンカー配列GGGGSGGGGSが望ましい。
リンカー領域は、相互作用ドメインの結合部位への標的の接近可能性を最大にするように選択されることが好ましい。一般に、リンカーは、in vivoでの適用を企図する場合、プロテアーゼへの抵抗性を目的として選択される。しかしながら、組織特異的プロテアーゼに対して感受性を有するリンカーが使用される例、たとえば、複合体の残りの部分から相互作用ドメインが解離することが、特定の組織においては望ましい例もあると考えられる。
マーカー(たとえば、ビオチン、または放射性の、もしくは蛍光標識された部分もしくは化合物)または破壊性物質(たとえば、十分に活性のある毒素もしくは放射性物質)を自己集合ユニットに連結するために、リンカーを使用することもできる。ある実施形態において、相互作用ドメインから自己集合ユニットの反対側の末端へ、リンカーを(たとえば融合タンパク質として)固定することができる。
サイズ
自己集合ユニットおよび相互作用ドメイン、ならびにリンカー(およびマーカーおよび/または破壊性物質)を含有する個々の自己集合分子の全体としての大きさは、適用される場合、重要となることがある。特に、自己集合分子がマトリックスもしくは組織を通過することが求められる場合には、より小さい自己集合分子が好ましいと考えられる。
ある場合には、10から200Åの間の直径を有する多量体複合体を与えるようにサブユニットを選択することが望ましい。ある場合には、20から180Åの間の直径が望ましく、ある場合には、50から150Åの間の直径が望ましい。ある場合には60から100Åの間の直径が望ましい。
本明細書で詳細に記載される特定の実施形態を、他の状況に合うように利用しやすく修正することができることは、ただちに明らかとなるであろう。たとえば、図1の構築物のN末端に存在する5アミノ酸配列は、クローニングの便宜のためにのみ存在するが、望むならば、除去することができる。ompA配列は、大腸菌ペリプラズムに成熟タンパク質が分泌されるときに除去される。His5末端は必ずしも常に必要とされるわけではないが、これは、VTBのPk三糖結合の、融合タンパク質の保持に基づくアフィニティ精製法を代わりに適用することができるためである(図4)。抗VTBモノクローナル抗体の利用可能性を考えると(Soltykら、2002、参考文献6)、c-myc検出タグは必ずしも必要とはかぎらない。(これらの修正は、あわせて、13.5kDaだけ5価分子の大きさを小さくする)
変更、修正、および代替の実施形態が明確に予想され、本明細書の開示に照らして当業者に明白となるであろう。
インターナリゼーション
ある場合には、単量体の形で細胞内に内部移行する能力を有する自己集合分子を与えるように、自己集合ユニット、相互作用ドメイン(ならびに、必要な場合にはリンカー、マーカーおよび/または破壊性物質)を選択することが望ましい。ある場合には、多量体複合体が細胞内へ容易に内在化されるように自己集合分子をデザインすることが望ましい。
結合した分子のインターナリゼーションに特有のトリガーが知られている。たとえば、特定の表面受容体と結合した物質のインターナリゼーションのメカニズムが知られている。したがって、本明細書の開示に照らして、特定の細胞型において単量体もしくはオリゴマーの形でのインターナリゼーションに適したサブユニットを作製することは、当業者の能力の範囲内である。インターナリゼーションは、たとえばサブユニットが、細胞の内側から優先的に作用する毒素もしくは放射性同位体の類を包含する場合に、望ましいと考えられる。
診断への利用
本発明の自己集合分子および多量体複合体は、生体物質中の関心のあるタンパク質および他の物質の同定のみならず、病状の診断に有用である。たとえば、腫瘍抗原に特異的な相互作用ドメインを適当な自己集合ユニットに、さらに放射性もしくは化学的に認識可能なマーカーサブユニットに融合させて、診断に適用される自己集合分子を与えることができる。たとえば、こうしたタイプの自己集合分子は、腫瘍細胞のように、表面に高レベルで抗原が認められる領域において、多量体複合体を形成する傾向がある。多量体複合体の存在は、マーカーの同定によって判定され、培養でも個体においても、腫瘍の存在を診断するために用いられる。同じように、食物、水もしくは同様の物質中の既知の病原体に特異的な相互作用ドメインを含有するサブユニットを用いて、上記の製品サンプルの安全性をアッセイすることができる。
多量体複合体の形成は、標的への結合のアビディティーを向上させることができるが、それによって、上記アッセイの感度を高め、さらにもちろんシグナル強度を強め、汚染された製品の同定をいっそう容易にする。
治療への利用
本発明の自己集合分子および多量体複合体を、哺乳類被験体における多数の病状の治療に使用することができる。特に関心のある細胞型のマーカーに特異的な(または、特に関心のある細胞型の表面でより強く発現されるマーカーに特異的で、その結果、サブユニットと当該細胞型との結合が他の細胞型との結合より優先的に生じることになる)相互作用ドメインを有する自己集合分子を治療用途に使用することができる。
特定の細胞型を破壊することが望ましい場合、毒性のある、またはそのほかに破壊的な「ペイロード」をサブユニットに加えることができる。たとえば、自己集合ユニットがベロ毒素Bサブユニットもしくはその変異体である場合、ベロ毒素Aサブユニットも包含することが望ましいと考えられる。ベロ毒素Bサブユニットは通常、同サブユニット本来のPK抗原に対する結合を除去する、またはかなり縮小するように修飾される。ベロ毒素Aサブユニットには毒性があるので、望まれていない細胞型に特異的なサブユニットに付加されると、これを用いて、患者内の、または患者に再投与することになっている患者細胞の培養物中の、そういったタイプの細胞を除去することができる。
たとえば、VEGF受容体は、多くの腫瘍型の脈管構造において過剰に発現される。したがって、この受容体を過剰発現する細胞の破壊を利用して、腫瘍への血流に障害を生じさせ、それによって腫瘍の荷重を減らして治療の成果を向上させることができるかもしれない。同様に、HER-2は多くの乳癌で過剰発現され、患者における乳癌腫瘍細胞の負荷を減らすために、好適な標的となるであろう。標的それ自体が明らかになれば、特定の細胞表面標的に対して特異的な相互作用ドメインを容易に同定することができる。多くの場合、細胞表面抗体に特異的なsdAbは、好ましい相互作用ドメインである。
ある場合には、2つの異なる細胞型を近接させるように多量体複合体を使用することが望ましい。たとえば、キラー細胞を、癌細胞のような望ましくない細胞型のところに持っていくことが望ましい。これは、一方の表面に、望ましくない細胞型に特異的な相互作用ドメインを、他の表面にキラー細胞に特異的な相互作用ドメインをディスプレイする、多価分子を形成することによって、本発明の開示に照らして容易に達成される。たとえば、VTBのC末端表面上に癌細胞を認識するsdAbをディスプレイし、VTBのN末端表面上にはキラー細胞を認識するもう一つのsdAbを有する10価の分子は、キラー細胞および腫瘍細胞を引き寄せて集めることを可能とし、その癌細胞の破壊を促進するであろう。
本明細書の開示、ならびに、N末端およびC末端の位置に照らして(図2Aおよび2B)、このような10価構造を生み出すことは、当業者の能力の範囲内である。
治療上の処置や治療用組成物について使用される場合、「有効な量」という用語は、2週間の期間にわたって患者に投与されたときに、望ましくない、もしくは過剰に発現された、細胞もしくは物質の、数または存続可能性の有意な減少を引き起こす量を表す。
ある場合には、特に、細胞表面のように多価の抗原提示がなされる場合には、多価二重特異性抗体が、二価二重特異性抗体よりも有利である。
本明細書に記載のオリゴマー化戦略は、特にファージディスプレイ法とともに使用される場合には、プロテオミクス用抗体試薬を分離する比較的迅速な方法を提供する。しかも、相互作用ドメインが破壊性物質もしくは毒素、たとえば強毒性のVTAサブユニット、と融合し、または放射性同位体を組み込み、もしくはこれと結合しているイムノトキシンを、本明細書の開示に照らして作製することができるが、さらに、こうしたイムノトキシンは、広範囲にわたる治療上および診断上の用途を与えることができる。
ある場合には、同一でない自己集合分子を使用することが望ましい。それでもやはり、個々の自己集合ユニットは相互に特異的に認識しあうことが望ましく、予測可能な幾何学的構成および大きさをもつ多量体の形成を可能にする。しかしながら、相互作用ドメインもしくは自己集合ユニットの一方または両方が、分子間で相互に異なる。
たとえば、いくつかの異なる相互作用ドメインを発現させ、それらを集めて多量体複合体とすることが望ましいと考えられる。このことは、同一の自己集合ユニットおよび異なる相互作用ドメインを有するさまざまな融合タンパク質を作製することによって達成される。あるいはまた、特に、異なる相互作用ドメインの間で特定の化学量論を維持することが求められる場合に、異なる自己集合ユニットを使用することが望ましいが、ここでこの異なる自己集合ユニットは、異なるにもかかわらず集合して、既知の幾何学的構成および大きさを有する多量体複合体を形成するものである。たとえば、百日咳毒素は、ヘテロ五量体産物であって、4個の異なるBサブユニットを含有し、そのうちの1つは重複して存在する。したがって、4個の異なる相互作用ドメインを有する五量体の形成が求められたならば、その4ドメインのうち1つはその五量体において2コピーとして存在し、これに対して、その他は単一コピーとしてのみ存在したが、これは、百日咳毒素の4個の異なるBサブユニットに対応する4個の異なる融合タンパク質を作製することによって達成された。各サブユニットは異なる相互作用ドメインに(必要ならば、適当なリンカードメインによって)融合された。このような集合は、いくつかの異なる標的分子が、互いに非常に近接した状態で発現され、それが同時発現である、もしくは相互に密接な関係であって、それが特に関心のある細胞型を示す場合に特に有用であると考えられる。
実施例1 概要
本発明のある実施形態において、抗体フラグメントをベロ毒素BサブユニットのC末端に融合することによって、相互作用ドメインのアビディティーを向上させる、新規方法を提供する。これは、ペンタボディと名付けられた五量体のsdAbを生み出す。本明細書に記載のペンタボディは、固定化された抗原と、単量体sdAbより7,000倍も強く結合した。この技法を、容易に、他のsdAb、一本鎖可変フラグメント、ならびに他の適当な相互作用ドメインに応用することができる。抗原結合親和性を、in vitroでの親和性成熟によって向上させることもできる(参考文献7および8)が、ただしこれは、サブライブラリの構築およびパニングを必要とする時間のかかるプロセスである。ある場合には、in vitroでの親和性の向上は、鋭敏な特異性を変更し、もしくは好ましからざる交差反応性をもたらす可能性がある(参考文献9)。
ペプチド抗原に特異的なsdAbの場合には、五量体形成は、結果として固定化された抗原に対する機能的親和性の7,000倍の増加をもたらした。5価のsdAbは、大腸菌において高率で発現され、すぐれた物理的特性を示した。この技術は、ファージディスプレイ法とともに、固定化された抗原に対してナノモル以下の親和性を有する新規抗原結合分子を作製する迅速な方法を与える。ファージディスプレイは、ハイブリドーマ技術よりも、モノクローナル抗体を分離する、より有効な方法を提供するが(参考文献10)、ファージ技法によって分離された抗体フラグメントの解離定数は、概して10-5から10-7M-1までの範囲にあって(参考文献11および12)、数多く適用するためには低すぎると考えられる。
単一ドメイン抗体は、一般に重鎖抗体の可変ドメインを基本とするが、この可変ドメインは、軽鎖パートナーのない状態でそれらが自然に存在することに関連する、すぐれた物理的特性を有する。抗体の有用な供給源の1つは、単一ドメイン抗体ライブラリであるが、これはラマの重鎖抗体レパートリーから得られ、ファージ上にディスプレイされる[Tanha (2001), 参考文献13]。本明細書に記載のオリゴマー化戦略を評価するために選択される抗体はこのライブラリから得られた。
限定的でない、自己集合ドメインの例として、ベロ毒素Bサブユニット単量体(”VTB”)を選んだが、これは、その大きさが比較的小さく、自己集合によって形成される構造がホモ五量体であるためである。ベロ毒素B五量体は、NおよびC末端が分子の反対側でその表面に露出している、ドーナツ型の構造を有する。
ベロ毒素、すなわち志賀毒素様毒素はAB5毒素であるが、ここにおいて、Aサブユニットが毒性の実体であって、五量体のBサブユニットは糖脂質グロボトリアオシルセラミド、略号:Gb3, (Galα1→4Galβ1→4Glcβ1→セラミド)、との結合を仲介する。大腸菌ベロ毒素サブユニットBは本来、糖脂質Gb3受容体を介して真核細胞膜に結合する。ベロ毒素にはいくつかの変異種がある。本明細書で報告される具体的研究は、VT-1について実施されたが、ただしその過程は他の変異種にも等しく適用できると考えられ、そうしたものも本発明の範囲に含められる。
VTBの変異によってGb3結合を克服することができる。たとえば、アミノ酸34のW→A変異は、D17E変異もしくはA56Y変異のいずれかと重なると、糖脂質との検出可能な結合をなくす(Soltykら、参考文献6)。したがって、Gb3と有意に結合しないVTB変異体を調製することは、本明細書の開示に照らして当業者の能力の範囲内にある。
固定化された抗原もしくは細胞表面抗原との結合に関して、5価sdAbの最大の可能性を明らかにすることを目的として、非常に高密度に固定化することのできる、比較的小さい抗原を認識するsdAbを選択した。したがって、ヒト副甲状腺ホルモン(”PTH50”)に由来する修飾された31アミノ酸ペプチド配列に特異的なsdAbを、ラマsdAbライブラリ(参考文献13)から、ファージディスプレイによって分離した。このペプチドは配列1SVSEIQLMHNLGKHLNSMERVEWLRKLLQDV31(配列番号1)を有するが、22Eおよび26K(太字で示す)の側鎖をつなぐβラクタム結合を伴う。抗PTH sdAb(PTH50)は、大腸菌において極めてよく発現し(約200 mg/l)、凝集しなかった。
抗PTH sdAbを、図1に示すように、VT Bサブユニット単量体と融合させた。sdAbがB五量体のオリゴ糖結合部位から離れた位置をとるように、dAbはVTBのC末端に融合されたが、これは炭水化物結合活性を保持することによって、アフィニティクロマトグラフィーによる融合タンパク質精製の簡便な方法が与えられるためである(図2A)。PstI制限酵素切断部位がsdAb遺伝子の5’末端付近に存在することによるクローニングの都合上、VTB遺伝子をsdAb残基5の後に挿入したが、このことは5アミノ酸N末端延長部分をB五量体に付けることになった。このsdAbにおいて5個の取り外されたsdAbアミノ酸は入れ替えられ、そのsdAbは5アミノ酸スペーサーによってVTBに融合され、さらに検出タグおよび精製タグが続いた。
モデリングされたペンタボディの構造(図2C)は、VTBコアの、C末端の側面および外周から放射状に広がる5個のsdAbを示す。対称性の高いペンタボディの提示は、非常に動的な構造の片鱗を示すと考えられる。空間的に分子のオーバーラップなしに、リンカー2を介してVTBとの融合PTH50を形作ることは、比較的容易であったので、sdAbは非常にフレキシブルであると考えられた。
サイズ排除クロマトグラフィー分析によって、PTH50および1V5はいずれもオリゴマー化の状態に関して非常に均一であることが示された。これは、図3、1V5(A)およびPTH50(B)に関するある実施形態の、SPERDEX 200クロマトグラフィーおよびSDS PAGE(12%)から明らかである。同一条件下で分離された分子量マーカーに基づいて、1V5の分子量は128 kDaと推定されたが、これは、五量体融合タンパク質に関する予想サイズの114.5 kDaに非常に近い。
1V5によるVTBの完全な糖結合活性の保存によって、融合タンパク質が五量体であることが確認された。グロボトリアオシルセラミド、Gal-アルファ(1-4) Gal-ベータ(1-4) Glc-ベータ1-セラミド (“Gb3”)との複合体におけるVTBの結晶構造は、VTB五量体当たり15のGb3三糖(Pk三糖としても知られる)の存在を示す(図2A)。SDS-PAGEは、5μM PTH50がSynsorb Pk樹脂と結合しないのに対して、1V5の大部分がこの濃度で結合することを示した。この濃度で、五量体構造は、有効なオリゴ糖結合のために必要である(参考文献6)。少し意外なことに、表面プラスモン共鳴(”SPR”)データから、1V5三糖相互作用のKDが、VTB三糖相互作用の6.6 nMに比べて、およそ1.7 nMであることが示された。おそらく、1V5の 5アミノ酸N末端延長部分(図1)がネオ複合糖質のスペーサーと相互作用し、結果としてVTBに対して、この融合タンパク質の三糖へのいっそう強い結合をもたらす。図4は、2 nM VTBおよび2 nM 1V5のオリゴ糖結合特性に関する、ある実施形態のBIACORE解析を示す。1:1相互作用モデルへのデータのフィッティングにより、VTBおよび1V5に対してそれぞれ2.6 x 106 M-1s-1 および5.1 x 105 M-1s-1のKaが、さらに、VTBおよび1V5に対してそれぞれ1 x 10-2 および 8.8 x 10-4のKdが与えられた。
PTH50および1V5の抗原結合プロフィールによって、VTB融合タンパク質が、単量体のsdAbよりも非常に効果的に、固定化されたペプチドと結合することが確認された(図5および表1)。固定化されたペプチドに結合したPTH50(図5A)は、速いが解析可能な速度論を示した。相互作用のKDは、2.5μMであると決定された(表1)。ペプチドと、固定化されたペンタボディとの相互作用について、速度定数を導くことはできないが(図5B)、KDは3.6μMと決定され(表1)、このことは、五量体化がdAb結合部位の到達可能性を有意に変化させないことを示した。1V5の固定化ペプチドへの結合は、結合価を最大にして、dAbの5価によって与えられるアビディティーの増加を評価するために、低い濃度で解析された(図5c)。このような抗原過剰の条件下で、5価であることは、約7,000倍のアビディティーの増加をもたらした(表1)。図5は、PTH50および1V5に関するある実施形態の抗原結合特性に関する、ある実施形態のBIACORE解析を示す。(A) 0.25-2μM PTH50の、固定化ペプチド抗原との結合;(B) 2-10μMペプチドの、固定化1V5との結合;および(C) 2.5-15 nM 1V5の固定化ペプチドとの結合。
BIACORE解析は、CM5センサーチップを用いた標準的な手順にしたがって実施された。図4および5に示す結果は、y軸上に応答単位(RU)を示す。1RUは、固定化されたリガンドに結合するタンパク質のpg/mm2の結果である。
実施例1の詳細
PTH50の分離。他の文献(参考文献13)に記載のように構築された、免疫されないラマdAbライブラリからPTH50 sdAbを分離した。メーカーの使用説明書にしたがって洗浄した、100μgのストレプトアビジンコート常磁性粒子(SA-PMP)(Promega, Madison, WI)を用いて、パニングを実施した。SA-PMPに関わるすべてのステップの間、SA-PMPを懸濁状態に維持するために、チューブを頻繁に振盪した。バックグラウンドの結合を減らすために、ライブラリーファージを、抗原無しで、あらかじめリン酸緩衝生理食塩水(MPBS)中2%ミルク、100μlで室温にて1時間ブロックされた SA-PMPとともに、プレインキュベートした。また、パニングで使用したSA-PMPは、400μl MPBS中で37℃にて2時間ブロックされた。パニング混合物は、あらかじめ吸着されたファージ(第1ラウンドでは1012tu、およびそれに続くラウンドでは1011tu)、20 mg/ml BSA、0.05% TWEENTM 20および1μg/mlビオチン化抗原を、総容量150μlPBS中に含有した。ブロックされたSA-PMPを入れたチューブにこの混合物を移し、その後、室温にて30分間インキュベートすることによって、ファージ-ビオチン化抗原複合体が捕捉された。このSA-PMPを、0.05% Tween-20を含有するPBSで5回洗浄した後、PBSで5回洗浄した。結合したファージを溶出して、説明されているように(参考文献13)アガローストッププレート上で増殖させた。37℃にて一晩インキュベーションしたのち、ファージ粒子をプレートから溶出し、精製して力価を測定した(参考文献13)。
抗原結合活性に関するファージクローンのスクリーニングは、Tanhaら(参考文献13)によって説明されるようにELISAによって行われた。4℃にて5μg/mlストレプトアビジンで一晩コーティングした後に、37℃にてMPBSを用いて2時間ブロックされたウェル内で、ビオチン化ペプチド、1μg/mlが室温にて30分間、捕捉された。対照実験では、ビオチン化抗原を適当なバッファーで置き換えた。いくつかのペプチド特異的な抗体が同定されたが、そのうちの1つ、PTH50を本研究のために選択した。
VTB-PTH50の構築。標準クローニング技術(参考文献15)を用いて、VTB-PTH50すなわち1V5遺伝子を作製した(図1)。両端にPstI部位を導入し、VTBのC末端にDVQLQ(配列番号3)をコードする配列を付加するプライマーを用いて、VTB遺伝子(Accession ENBL M16625)をPCRによって増幅した。PCR産物をPstIで消化し、同酵素で直線化されたPTH50遺伝子(GenBank AF447918)内に連結した。PstI部位はPTH50の残基5および6をコードし、したがってVTB PCR産物のDVQLQ C末端延長部分(配列番号3)をコードする。VTBが正しい向きで挿入されたクローンを同定し、クローンpJR1V5と称した。
分子モデリング。R10,000 SGI ワークステーションで、INSIGHT IITMのBIOPOLYMERTM および DISCOVERY 3TMモジュールを用いて、IV5(配列番号2)の構造をモデリングした。PTH50モデルは、配列番号4(タンパク質)および配列番号5(DNA)である。スペーサーは、INSIGHT IIアミノ酸データベースを用いて構築された。ポテンシャルは、AMBER力場を用いて修正され、エネルギー極小化は、モデル構成の全段階で実施された。
発現および精製。PTH50およびPTH50-VTBをコードするプラスミドを保有する大腸菌TG1およびER2537(New England Biolabs)を培養し、1 mMイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシドで誘導した。Skerraら、1991、参考文献16の方法にほぼしたがって、ペリプラズムタンパク質を浸透圧ショックによって抽出し、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC) (HI-TRAPTM, Amersham Pharmacia)によって、組換えタンパク質を精製した。抗c-mycモノクローナル抗体および抗マウスIgG/アルカリホスファターゼ複合体を用いたウェスタンブロッティングによって精製をモニターした。精製タンパク質を、CENTRICON 10TM 限外濾過(AMICONTM)によって濃縮し、150 mM NaCl および 3.4 mM EDTA を含有する10 mM HEPES, pH 7.4に対して透析して、SDS-PAGEによって分析した。
サイズ排除クロマトグラフィー。SUPERDEX 200TM (Amersham Pharmacia)サイズ排除クロマトグラフィーによって、PTH50および1V5のオリゴマー化状態を評価した。いずれの場合にも、分離は、150 mM NaCl, 3.4 mM EDTA および 0.05% TWEEN 20TMを含有する10 mM HEPES, pH 7.4で行った。
オリゴ糖および抗原結合活性。1V5がVTBのオリゴ糖結合活性を保持しているかどうか、およびその活性をdAb-VTB融合タンパク質の精製に利用できるかどうかを判断するために、5μM PTH50-VTBならびに5μM PTH50を、CHROMOSORB PTMに固定化されたPk三糖からなる樹脂である、SYNSORB Pk TMと混合した。この2つのタンパク質の樹脂への結合をSDS-PAGEでモニターした。VTBおよびPTH50-VTBのオリゴ糖結合活性を表面プラズモン共鳴法(SPR)によって比較した。上記のようにサイズ排除クロマトグラフィーによって精製されたタンパク質に関して、BIACORE 3000TMバイオセンサーシステム(Johnson) (Biacore, Inc., Piscataway, NJ)を用いて、解析を行った。ネオ複合糖質、BSA-(スペーサー-O-Galα1-4Galβ1-4Glcβ)n (Glycorex AB) を、13,000 RUの表面密度で、研究用グレードCM5TM センサーチップ (Biacore, Inc.) 上に、10 mM酢酸塩、pH4.5中に100μg/mlの濃度で、メーカーの使用説明書にしたがってアミンカップリングによって固定化した。25℃にて、150 mM NaCl, 3 mM EDTA および 0.005% P-20を含有する10 mM HEPES, pH 7.4中で、毎分10μlの流速で解析を行った。100 mM HClと3秒間接触させることによって表面を再生した。
PTH50および1V5の抗原結合プロフィールをSPRによって分析した。ペプチド抗原および1V5をそれぞれ1,300 RUおよび6,000 RUの表面密度で、研究用グレードCM5TM センサーチップ上に、メーカーの使用説明書にしたがってアミンカップリングによって固定化した。10 mM酢酸塩、pH4.5中に50μg/mlのタンパク質もしくはペプチド濃度で、固定化を実施した。分析およびデータ解析は上記のように行った。1V5表面には再生は必要なかった。ペプチド表面は、1M NaCl および 0.1% P-20を含有する10 mMホウ酸塩、pH 8.5と30秒間接触させることによって再生された。Biacore社製の BIAEVALUATION 3.0TM ソフトウェアを用いてデータを評価した。速度論および親和性の結果を下記の表1に示す。
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VTB-PTH50およびその構成単位の熱安定性
ペンタボディ 1V5の熱安定性を判断するために、1V5、ならびにその構成単位、PTH50 sdAbおよびVT1B五量体の円光二色性(CD)スペクトルをさまざまな温度で測定した。Neslab RTE-110ウォーターバスに接続したJasco J-600分光偏光計で、円二色性(CD)スペクトルを記録した。10 mMリン酸ナトリウムバッファー、pH 7.0中で、光路長5 cm(それぞれ、1.8および3μg/mlの濃度のPTH50およびVT1B)および1 cm(9μg/ml濃度の1V5)の円形キュベットを用いて実験を行った。215から260 nmまで0.2 nm間隔で、毎分20 nmのスキャン速度とし、2 nmの帯域幅で、積分時間1秒でスペクトルを記録した。タンパク質のスペクトルをブランクスペクトルから差し引いて、次にJascoソフトウェアによって平らにした。Tmを決定するために、試料温度を30℃から82℃まで徐々に上昇させた。さまざまな温度で10分の温度平衡化時間の後、スペクトルを記録した。235、234.8、234.6、234.4および234.2 nmでの5つのelepticity値の平均を用いて、温度に対するelepticityのシグモイド型ブラフをプロットし、Tmは50%アンフォールディングに対応する温度として決定された−図7を参照されたい。
234.2、234.4、234.6、234.8および235 nmで収集されたデータを用いて、これらのタンパク質に関する変性曲線が得られた。70℃のような高温であってもVT1BのCDスペクトルに明白な変化は観察されなかった。72℃より上では、タンパク質の沈澱による急激なシグナルの増加が観察された(データは示さない)。この結果は、Tmを測定することはできなかったがVT1B五量体が非常に安定した構造であることを示す。変性を示すことなく高温で溶解度が急激に減少することは、その構造の維持が五量体の形成に依存していることを示唆する。PTH50の融解温度は、比較的広範な温度範囲にわたるが、これは協同的でない高次構造変化の典型であって、小さなペプチドでしばしば見られる。融解温度は59.7℃であると計算されたが、これは、このタンパク質が非常に良好な耐熱性を有することを示す。2つの構成単位から作られているこの融合タンパク質は、Tmが52℃の典型的な熱変性曲線を示す(図7、ペンタボディ 1V5に関する熱誘導変性曲線)。この数字はPTH50のTmより低く、融合タンパク質はVT1Bよりも熱安定性が低いが、1V5は、それでも、非常に熱に安定な分子である。
本明細書に記載のペンタボディの熱安定性は、さまざまな応用の際にこれらの分子を使用するためのすぐれた指標となる。高い耐熱性は常に有効な特性であるが、in vivo医療用として非常に重要である。高い抗原結合親和性にもかかわらず、腫瘍特異的scFvは、その熱安定性が不十分であったために、異種移植片に局在化しなかった(Willuda ら、1999、参考文献17)。腫瘍特異的scFvの抗原結合ループを非常に安定なscFvのフレームワークに移すことによって、すぐれた血清安定性および腫瘍局在性をもつ分子が生み出された。
ペンタボディのプロテアーゼ安定性
酵素:五量体sdAb比を1:200として、37℃にて1時間、Boehringer Mannheimから購入した配列決定用トリプシンおよびキモトリプシンを用いて、トリプシンおよびキモトリプシン消化実験を行った。消化混合物は約2μg/mlの1V5を100 mM Tris-HClバッファー、pH 7.8中に含有した。キモトリプシン消化混合物は50 mM CaCl2を追加した。10μlの0.1μg/mlトリプシン-キモトリプシンインヒビター(Sigma)の添加によって反応を止めた。質量分析による分子量決定のために、DTTを最終濃度200 mMとなるように添加し、試料をTanha, Jら、参考文献18にすでに記載のように処理した。
図8は五量体sdAbのプロテアーゼ感受性を示す。1V5を、0時間および2時間のトリプシン消化(それぞれAおよびB)および0時間および2時間のキモトリプシン消化(それぞれCおよびD)後、SDS-PAGEによって分析した。
1V5は、トリプシンおよびキモトリプシンによる消化に対して非常にすぐれた耐性を示した。トリプシンは、用いられた条件下で、1V5をわずかに分子量の低い産物に速やかに変換し、それ以上の消化の証拠はないことが観察された(図8Aおよび8B)。質量分析法による分析は、C末端タグが除去されていることを示した。トリプシン処理は、1V5単量体の分子量を1602 Daだけ減らしたが、これは、1V5からのC末端LISEEDLNHHHHH配列(図8C)の除去に相当する。キモトリプシンとの1時間のインキュベーション後に分解産物は認められなかった(図8Cおよび8D)。質量分析によって、図8Cおよび8Dに示すバンドが1V5単量体に相当することが確認された。
本明細書に記載の五量体sdAbは、トリプシンおよびキモトリプシンに対して、驚くべき耐性を示した。この五量体には、2つの酵素に対する複数の部位が存在するが、ここで用いられた条件下では、いずれの酵素によっても分解の証拠はまったくなかった。こうした観察は、在来の抗体に由来する最小の抗原結合フラグメントである単一ドメイン抗体、すなわちプロテアーゼ感受性リンカーを含有するscFvの利点の1つを際だたせるものである。プロテアーゼに対する耐性は、腫瘍の画像処理といったin vivoでの応用のために、きわめて望ましい。プロテアーゼ耐性を与えるという点から、オリゴマー化ドメインとしてVT1Bは、消化環境において本来存在するので、当然の選択である。
実施例2
sdAbがVT1BのN末端に融合したペンタボディ
本明細書に記載の方策が、sdAbの五量体化に、一般的に適した方策であるかどうかを判断するために、1)抗体をVTBのN末端に融合した場合、2)PTH50以外の抗体分子をVTBに融合する場合、および3)変異型VTBを五量体形成ドメインとして使用する場合に、五量体の抗体の形成がありうるかどうかを調べることができる。
この目的のために:
(a) タンパク質1V12は変異型VTBのN末端に対する別のsdAb分子(PTH61)の融合物であるが、このタンパク質を構築した(図9は一次構造を図示する。ompA配列は、大腸菌ペリプラズムへの成熟タンパク質の分泌の間に外れる)。PTH61は、PTH50と同じパニング実験から分離された、副甲状腺ホルモン結合sdAbである。1V12をコードする遺伝子を有する大腸菌TG1細胞から、1V5の分離について記載のように、タンパク質1V12を分離した。Superdex 200カラムでサイズ排除クロマトグラフィーを実施したが、このクロマトグラフィーによって、1V5と同様に、1V12は均一性の高い五量体を形成することが示された(図10)。タンパク質マーカー(kDa)を同一条件で同じカラムにかけた。SPR分析から得られたデータによれば、PTH61の五量体型であるタンパク質1V12は、PTH61よりも非常に強力にその抗原と結合する(図11、固定化抗原に対する1価および5価(1V12)の結合に関する表面プラズモン共鳴解析)。
(b) 野生型および変異型のVTBの両方を用いて、さらに、異なるsdAb分子をVT1BのNもしくはC末端のいずれかに融合して、全部で8個のペンタボディ(1V5, 1V11, 1V12, 1V14, PES1, PVTGL10, PJS5, PSJ6)を作製した。形成されたすべてのペンタボディは、大腸菌TG1細胞で良好に発現されるが、凝集の徴候はないか、あってもわずかで、対応する単量体に認められるよりも非常に高い機能的な親和性をもって、対象の抗原と結合する。
実施例3
デカボディ(decabody)の構築
sdAbのすべてではないが多くが、さまざまな型のVTBのNもしくはC末端のいずれかに融合することによって、容易に五量体を形成することができるという事実は、あるsdAbをVT1BのN末端に融合し、別のsdAbをC末端に融合することによって10価抗体の構築を可能にする。この考え方は、図12の、N末端ペンタボディ、C末端ペンタボディおよび二重特異性デカボディの略図で、図式的に説明される。これを開発するために、デカボディと名付けられた10価抗体である1V13を構築した。これを図13に図示する;1V13の一次構造および配列、ならびに1V12のサイズ排除クロマトグラフィー(Superdex 200 カラム, Amersham Pharmacia)を示す。タンパク質マーカー(kDa)を同一条件で同一化ラムにかけた。1V13は、VT1BのD17E/W34A変異体のC末端と融合したsdAb PTH22およびN末端と融合したsdAb PTH61を有する。PTH22は、PTH50およびPTH61と同じパニング実験から分離された、また別の副甲状腺ホルモン結合sdAbである。1V13は、1V13をコードする遺伝子を有する大腸菌TG1細胞から単離された。サイズ排除クロマトグラフィーは、1V13が五量体を形成しているが、しかしながらあまり均一でないことを示した(図13B)。
実施例4
デカボディの均一性の向上
デカボディ構築のための2つの構成単位である、sdAbおよびVT1Bは、非常に均質で、大腸菌細胞内でよく発現するので、構成単位をつなぐリンカーに主として変更を加える。4つの新規デカボディ、PJR9, PJR10, PJR13 および PJR14が、異なるリンカーを用いて構築されたが、その配列を図14に示す。図14は、サイズ排除クロマトグラフィーによる1V13 10価抗体およびその変異体の比較を示す。sdAbとVTBを連結するリンカーの配列は、上記の各クロマトグラムに示される。図14に示すように、この4タンパク質は、凝集することなく、あるいはあってもわずかで、きわめて均一な五量体を形成する。タンパク質1V9は、PTH61とVTBをつなぐリンカーGPGGGGS、およびVTBとPTH22を連結するリンカーAKRVAPELLGGPSGを有するが、最適なサイズ排除特性を示す。
本発明の別の実施形態にしたがって、VT1Bの炭水化物受容体に類似し、VT1Bとともに、たとえばSTARFISHのような複合体を形成する、既知の少価の水溶性炭水化物リガンドを使用することによって、10価抗体(デカボディ)の調製および使用の構想を拡大適用ことができる−Kitov, Pavel I.ら、2000, 参考文献19を参照されたい。STARFISHは2つの五量体VT1Bを架橋するため、デカボディを作製するもう一つの方法が与えられる。
STARFISHは、本発明のペンタボディに結合するが、個々のユニットには結合しない。したがって、本明細書に記載のペンタボディを検出するために、標識された形のSTARFISHを使用することができる。ある種の癌細胞、病原菌、炭疽菌胞子などといった標的と結合したペンタボディは、添加された標識STARFISHとともに複合体を形成し、STARFISH-ペンタボディ-標的複合体の検出が可能となるであろう。STARFISHの添加および結合後、残りの未結合STARFISHを系から流し出し、結合STARFISHをその標識(蛍光、放射能など)によって検出し、結合したペンタボディを測定する。その上、STARFISH型リガンドを、本発明のペンタボディと結合させて、治療上の応用に使用することもできる。たとえば、2つの別々で異なるタイプの本発明の自己集合分子があるとして、一方は標的を認識して結合し、もう一方は標的に対するキラー細胞もしくは化合物を認識して結合する。2つのタイプはいずれも強力な結合のためにペンタボディを形成する。2つのタイプのペンタボディ同士の結合をもたらすSTARFISHの添加は、標的およびキラー細胞を、これらの間の相互作用のために、接近させることになる。
したがって、本発明によって、上記の目的、意図、および好結果を完全に満足する新規自己集合分子が与えられたことは明白である。本発明は、それについての特定の実施形態に関連して説明されているが、多くの代案、修正、および変更が前述の説明に照らして当業者に明白であることは明らかである。したがって、こうしたすべての代案、修正および変更を本発明の精神および広義の範囲に含まれるとして受け入れることを意図するものである。
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VTB-dAb融合タンパク質の一実施形態の推定一次配列の図である。 オリゴ糖と融合dAbとの複合体における、VTBオリゴマー化ドメインの一実施形態の推定構造のリボン状図であり、糖結合面を示す。 オリゴ糖と融合dAbとの複合体における、VTBオリゴマー化ドメインの一実施形態の推定構造のリボン状図であり、側面を示す。 2C(i)および2C(ii)は、PTH50 ペンタボディの一実施形態の推定モデル化構造を示す。 PTH50-VTBの一実施形態(図3A)、およびPTH50(図3B)に関する、Superdex 200クロマトグラフィーおよびSDS-PAGEの結果のグラフ表示である。PTH50-VTB融合産物は、以後、簡便のため1V5と称する。 2nM VTBの一実施形態、および2nM 1V5の一実施形態の、オリゴ糖結合特性に関するBIACORE分析のグラフ表示である。 PTH50の、および1V5の一実施形態の、抗原結合特性に関するBIACORE分析のグラフ表示である。図5Aは、固定化ペプチド抗原に対する0.25-2μM PTH50の結合に関する;図5Bは、固定化1V5に対する2-10μM ペプチドの結合に関する;および図5Cは、固定化ペプチドに対する2.5-15nM 1V5の結合に関する。 関心のある特定の配列表の実施形態を示す図である。 ペンタボディ 1V5に関する熱による変性曲線である−実施例1の熱安定性の検討を参照されたい。 五量体sdABのプロテアーゼ感受性を示す−実施例1のプロテアーゼ安定性の検討を参照されたい。 実施例2による、ペンタボディ 1V12の一次構造の概略図である。 1V12に関するサイズ排除クロマトグラフィーの結果である。 1V12の結合に関する表面プラズモン共鳴解析の結果である。 本明細書の実施例3の産物の概略図である。 本明細書実施例3の十価単一ドメイン抗体1V13の構成およびサイズ排除クロマトグラフィーを示す。 本明細書実施例4の1V13およびその変異体のサイズ排除クロマトグラフィーによる比較である。

Claims (30)

  1. 標的に対する親和性を有する五量体を形成する方法であって、
    標的に特異的な相互作用ドメインとそれぞれ連結された相補的自己集合ユニットを包含する、複数個の自己集合分子を得ること、ここで相互作用ドメインは抗体、抗体フラグメント、単一ドメイン抗体フラグメント、または抗体のVH若しくはVL領域の一本鎖ポリペプチドを含み、該自己集合ユニットがAB5毒素ファミリーに属する毒素に由来するものである;
    5個の自己集合ユニットが実質的に同時に相互に結合するように、および、相互作用ドメインが標的と結合することを可能にするように、前記自己集合分子を結合すること、を含んでなる前記方法。
  2. 自己集合ユニットがベロ毒素Bサブユニットである、請求項1に記載の方法。
  3. 前記ユニット内の相互作用ドメインがすくなくとも2つの異なる標的を認識する、請求項1または2に記載の方法。
  4. 各自己集合分子において、自己集合ユニットが、自己集合ユニットのC末端もしくはN末端のいずれかで単一ドメイン抗体と連結される、請求項1〜3のいずれか1つに記載の方法。
  5. 五量体がホモ五量体である、請求項1〜4のいずれか1つに記載の方法。
  6. 相互作用ドメインが標的に特異的な単一ドメイン抗体である、請求項1〜5のいずれか1つに記載の方法。
  7. 相互作用ドメインが、抗体のVHおよびVL領域をコードする一本鎖ポリペプチドである、請求項1〜6のいずれか1つに記載の方法。
  8. 前記相互作用ドメインを前記自己集合ユニットに結合するリンカーをさらに包含する、請求項1〜7のいずれか1つに記載の方法。
  9. 1以上の既知の標的に対して親和性を有し、五量体の形成において使用に適した自己集合分子であって、そのサブユニットが、
    AB5由来自己集合ユニット;および、
    当該相互作用ドメインの標的との結合を可能にし、当該自己集合ユニットと別の自己集合ユニットとの結合を可能にするように、前記自己集合ユニットに連結された相互作用ドメインを含んでなり、
    相互作用ドメインは抗体、抗体フラグメント、単一ドメイン抗体フラグメント、または抗体のVH若しくはVL領域の一本鎖ポリペプチドを含む、前記自己集合分子。
  10. 相互作用ドメインが、自己集合分子のN末端もしくはC末端のうちの一方で連結される、請求項に記載の自己集合分子。
  11. 自己集合分子がベロ毒素に由来する、請求項9または10に記載の自己集合分子。
  12. 自己集合分子が百日咳毒素に由来する、請求項9または10に記載の自己集合分子。
  13. 相互作用ドメインがsdAbである、請求項9〜12のうちいずれか1つに記載の自己集合分子。
  14. 前記相互作用ドメインを前記自己集合分子に結合するリンカーをさらに包含する、請求項9〜13のうちいずれか1つに記載の自己集合分子。
  15. それぞれの相互作用ドメインの標的との結合を可能にするように、前記自己集合分子に連結された第2の相互作用ドメインをさらに包含する、請求項9〜14のうちいずれか1つに記載の自己集合分子。
  16. 一方の相互作用ドメインが自己集合分子のN末端に融合し、他方の相互作用ドメインがC末端に融合している、請求項15に記載の自己集合分子。
  17. 五量体型である、請求項9〜16のうちいずれか1つに記載の自己集合分子。
  18. 二量体化されてデカボディ(decabody)を形成する、請求項17に記載の自己集合分子。
  19. 二量体化が、五量体に結合するが自己集合ユニットとは結合しない、媒介物を介する、請求項18に記載の自己集合分子。
  20. 前記相互作用ドメインを前記自己集合ユニットに結合するリンカーをさらに包含する、請求項9〜19のいずれか1つに記載の自己集合分子。
  21. 表面上の複数の分子の存在を同定するキットの製造における、複数の自己集合分子であってそのそれぞれが相補的自己集合ユニット、該分子に特異的で自己集合ユニットに連結された相互作用ドメイン、およびマーカーを包含する前記自己集合分子の使用であって、ここで相互作用ドメインは抗体、抗体フラグメント、単一ドメイン抗体フラグメント、または抗体のVH若しくはVL領域の一本鎖ポリペプチドを含み、該自己集合ユニットがAB5毒素ファミリーに属する毒素に由来するものであり;
    該同定には
    当該表面を前記自己集合分子に曝すこと;
    前記自己集合分子が自己集合して五量体となるのを可能にすること;および
    マーカーをアッセイすること、
    が含まれる、前記使用。
  22. マーカーが放射性同位体である、請求項21に記載の使用。
  23. マーカーがビオチンである、請求項21に記載の使用。
  24. 多数の実質的に同一の標的を有する細胞型、ウイルスもしくは物質が過剰な水準であることを特徴とする状態の症状を緩和し、または低減するキットの製造における、前記標的に特異的な相互作用ドメイン、および破壊性物質の両者に連結された相補的自己集合ユニットをそれぞれが包含するAB5由来の自己集合分子の使用であって、ここで相互作用ドメインは抗体、抗体フラグメント、単一ドメイン抗体フラグメント、または抗体のVH若しくはVL領域の一本鎖ポリペプチドを含み、該自己集合ユニットがAB5毒素ファミリーに属する毒素に由来するものであり;
    該症状の緩和または低減には
    有効量の自己集合分子を患畜(患者)に投与すること;および
    破壊性物質が前記細胞型、ウイルス、もしくは物質の死滅、減少、または排除を引き起こすように、自己集合分子が前記標的を認識し、五量体を形成することを可能にすることが含まれる、前記使用。
  25. 自己集合分子が、五量体を形成する前は標的と弱い結合しかしないが、五量体となると強く結合する、請求項24に記載の使用。
  26. 自己集合分子がさらに、当該の組織もしくは細胞型において選択的に除去されるのに適したスポイラーを包含する、請求項24または25に記載の使用。
  27. 自己集合分子がAB5毒素のサブユニットBに由来する、請求項24〜26のうちいずれか1つに記載の使用。
  28. 破壊性物質がベロ毒素サブユニットAに由来する、請求項24に記載の使用。
  29. 破壊性物質が放射性同位体である、請求項24に記載の使用。
  30. 請求項9〜20のうちいずれか1つに記載の複数の自己集合分子;および、
    治療上の診断を目的として、マーカーの特異的認識に前記自己集合分子を使用するための取扱説明書、を含んでなるキット。
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