JP4471355B2 - 乳酸菌、乳酸発酵生成物、飼料 - Google Patents
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Description
アルコール発酵後の蒸留残渣は、一部肥料として利用されているが、付加価値が低く、有効な廃棄物処理法とはなっていない。海外では海洋投棄により環境問題を引き起こしており、その有効利用法の開発は世界的に望まれている。飼料としての利用は、アルコール発酵原料となる糖蜜については、飼料の賦形剤(バインダー)としての利用や糖蜜飼料として、飼料に配合するなどの応用が知られているが、アルコール発酵廃液を飼料化することは知られていない。
乳酸菌は生菌体および死菌体共に、生体の免疫力を高めたり、腸内細菌叢を調節し、便秘を軽減し、整腸作用を示すなど、種々の有用性が示されている(細野朗、上野川修一:腸管免疫とプロバイオティクス、Food
Style 21、vol.6、pp.45−49、2002年;MR.Herich
and M.Levkut:Lactic
acid bacteria、probiotics
and immune
system、Vet.Med.−Czech、vol.47、pp.169−180、2002年)。
また、もろみ濃縮液を発見した乳酸菌にて乳酸発酵し、乳酸菌の菌体濃度が高く、タンパクやビタミンを含み、最近注目されているプロバイオティックスとなる飼料原料を開発することに成功し、本発明を完成した。
従来、アルコール発酵・蒸留廃液は、色は黒く問題はあるが、毒性を示すものは含まないので、多くは海洋投棄されていた。
しかし、環境汚染問題から、多くの自治体で海洋投棄を禁止する方向にあり、また、海外でも生産量が多く、大量の蒸留廃液の不法投棄が環境問題を引き起こしており、コストの低い処分法あるいは付加価値の高い有効利用法が求められている。
然るに、肥料原料としての利用は付加価値が低く、運送費用も出ない現状がある。燃焼処理については、必ずしも十分な処理量でなく、また、燃焼する為には費用がかかり、コスト的に負担が大きい。本発明の課題は、アルコール発酵残液に付加価値をつけ、有効利用を図ることである。
即ち、本発明は、アルコール発酵・蒸留残渣に良好に生育する動物体内の病原菌に対し免疫増強作用を有する乳酸菌株、およびアルコール発酵蒸留残渣濃縮物(もろみ濃縮液)の乳酸菌発酵により、動物体内の病原菌に対し免疫増強作用を有する乳酸菌体、ビタミン類、タンパクなどを多く含み、飼料としても好適な乳酸発酵生成物としての乳酸発酵もろみ濃縮物の提供に関する。
食品用に使用される工業用アルコールは、主として基質としてサトウキビ窄汁液の蔗糖採取後の廃液である、糖蜜を発酵して行う。通常、アルコール発酵の糖蜜培地は加熱殺菌を施さないので、微量であるが種々の雑菌が含まれる。アルコール発酵時には、多量の酵母菌を種母として接種するので、短時間でアルコール濃度が上昇し、雑菌汚染の頻度は低い。
我々は、微量含まれる雑菌の中から乳酸菌に着目し、アルコール発酵もろみからの乳酸菌分離を試みた。
F−5をグルコース1.0%、酵母エキス0.3%、麦芽エキス0.3%、ペプトン0.3%を含む培地(以下YM培地と略記する)に接種し、32℃で一晩培養したものを一次種母とし、これを糖蜜を希釈し、全糖16%(w/v)とし、N源として硫酸アンモニウムを0.03%添加した培地に5%添加し、32℃で一晩培養し、2次種母とした。
アルコール発酵は糖蜜を希釈し、全糖18%(w/v)とし、N源として硫酸アンモニウムを0.03%添加した液に、2次種母を10%添加し、30℃にて48時間発酵した(発酵1回目)。
以後、全糖濃度18%とした糖蜜培地に発酵1回目の発酵もろみを20%接種し、30℃で24時間発酵した(発酵2回目)。
発酵3回目は全糖濃度20%、発酵4回目は全糖濃度22%とし、種母量は20%とした。
発酵5回目以降は、発酵4回目と同様の条件とし、8回から10回繰り返し発酵を行った。
分離培地としては乳酸菌用にGYP−CaCO3培地(Glucose
20g/L、酵母エキス 10g/L、ペプトン 10g/L、Tween−80
5g/L、CaCO3 10g/L、シクロヘキシミド 2μg/mL)、MRS培地(Difco
MRS broth)、酢酸菌用培地として、シクロヘキシミド
2μg/mL、CaCO3 10g/L、エタノール 5g/Lを添加したポテト−デキストロース寒天培地を使用した。
分離された菌は、桿菌、連鎖桿菌、球菌、連鎖球菌などであり、形態および乳酸の生成などから、多くはLactobacillusであり、Leuconostocと思われる乳酸菌も分離された。結果的に36株の乳酸菌と考えられる菌株が単離・取得できた。
I−19、I−28)を選択した。
更に、選ばれた6株について、もろみ濃縮液での増殖を調べ、最終的に良好な増殖を示す株として、I−5株が選択された。
本株はアルコール発酵蒸留残液の2.5〜3倍濃縮液(もろみ濃縮液)の2倍希釈液にも、極めて良好な増殖を示した。
従来、アルコール発酵蒸留廃液で良好な増殖を示す乳酸菌は知られていなかった。
本発明の前記6株のうちI−5株の菌学性質を調べた結果を以下に示す。
本株(I−5株)をDifco社製MRS培地に寒天を1.5%添加した培地でガスパック嫌気システム(Becton Dickinson Microbiology
Systems、MD、USA)にて、37℃、1〜2日間培し、形態を観察した。I−5株は短径0.9〜1.1μm、長径1.9〜3.3の桿菌であり、単一の細胞でも存在したが、多くは2ヶの菌が連鎖状となり、それ以上の鎖状を示すものも観察された。本株は胞子を形成しなかった。本株をMRS培地で液体培養し、有機酸の生成を調べたところ、乳酸のほかに酢酸の生成もあり、ヘテロ型乳酸発酵を行う乳酸菌と考えられた。
50CHを用い、30℃、48時間培養し、同定を行った。その結果、本株はラクトバチルス・パラカセイ・サブスピシズ・パラカセイ(Lactobacillus
paracasei subsp.paracasei)と同定された。そこで、ラクトバチルス・パラカセイ・サブスピシズ・パラカセイのタイプ・カルチャーであるL.paracasei
subsp.paracasei NBRC 15889を取り寄せ、種々の性質を比較検討した。
15889と異なった。温度特性は、図1よりNBRC 15889が40℃までの増殖温度であるのに対し、I−5株は45℃でも生育し、増殖温度特性が異なった。また、図2に示すように、エタノールに対する耐性もI−5はNBRC
15889より高く、タイプカルチャーでは8%(v/v)でほぼ完全に増殖が阻害するのに対し、I−5株はエタノール8%(v/v)で生育し、16%(v/v)でも若干の増殖が認められた。以上より、I−5株はAPI
50CHを用いる同定キットではL.paracasei subsp.paracaseiと同定されるが、タイプカルチャーであるNBRC 15889とは、生理的に種々の点で異なり、I−5株はL.paracasei subsp.paracaseiの生理的変種であり、ラクトバチルス・パラカセイ・サブスピシズ・パラカセイI−5株(L.paracasei subsp.paracasei I−5)と命名された。Lactobacillus paracasei subsp.paracasei
I−5株はFERM P−19169として、独立行政法人産業技術総合研究所・特許生物寄託センターに寄託されている。
まず、もろみ濃縮液の各希釈液で乳酸菌(I−5株)の増殖を調べた。
純粋分離したI−5株を5mLのMRSに接種し、ガスパック中で37℃一晩培養した。試験管にて調製した、各試験区のもろみ濃縮液10mLに本種母を5%接種し、スクリューキャップをし、37℃で増殖試験を行った。
その結果、もろみ濃縮液原液では、乳酸菌の増殖は認められず、
2倍希釈以上の希釈液にて増殖が認められた。
また、各希釈液にブドウ糖2%を添加した培地も検討したが、4培希釈液まではブドウ糖の添加は増殖に影響を与えなかった。
もろみ濃縮液はNEDOアルコール事業本部出水アルコール工場にて得られた、もろみ2.5倍濃縮のもろみ濃縮液を使用した。
分析データを以下に示す。
アルコール発酵原料としては糖蜜と果汁蜜の混合物を使用した。試験に供したもろみ濃縮液のpHは4.69、全糖(%、wt/v)は7.00%、直接還元糖(%、wt/v)は6.08%、ケットの赤外線水分計による水分(%、wt/v)は68.9%であった。表2に液体クロマトグラフィー(HPLC)による糖および有機酸分析値を示す。
200mL容の三角フラスコに、2倍希釈もろみ濃縮液200mLを入れ、シリコ栓(株式会社三商販売)を施し、MRS培地で前培養した乳酸菌株を接種し、37℃で時々攪拌し、4日間培養を行った。ただし、初発pHは菌の増殖を考慮し、6.5に調整した。培養試験の結果を表3に示す。
I−5株のもろみ濃縮液培養物には多量の乳酸菌生菌が含有され、プロバイオティックスとしての有用性が示唆された。
また、有機酸である乳酸が約2%も生成され、腸内細菌叢を整える作用が期待できる。
更に、本発明の効果を明かにするため、スケールアップし、もろみ濃縮液でI−5株を培養し、乳酸菌の生菌数や組成、乳酸菌の特徴であるビタミンの生成を調べた。
3000mL容のジャーファーメンターに、2倍希釈もろみ濃縮液2000mLを入れ、5%アンモニア水で培地pHを6.5に調整した。MRS培地で前培養した乳酸菌培養液100mLを接種し、37℃無通気で、時々攪拌し、4日間培養を行った。乳酸菌増殖の結果を図3に示す。図3から、乳酸菌のもろみ濃縮液での増殖は3日目で最大に達することが判明した。表4に培養3日目の乳酸菌培養もろみ濃縮液の組成を示す。
cells/mLに達し、十分な乳酸生菌を提供できることが判明した。また、有機酸含有量も培養前と比べ、総量で約2倍となり、特に乳酸は約2%となった。十分に乳酸菌I−5株が増殖したので、ビタミン類も生成しているものと考え、(社)日本分析センターにビタミンの分析を依頼し、乳酸菌発酵によるビタミン生成に対する効果を調べた。結果を表5に示す。
中でも、葉酸はI−5株で発酵する前が5μg/mLであったものが、46μg/mLと約10倍に増加しており、本発明の効果は明らかである。
乳酸菌I−5株の免疫増強効果を調べる為、マウスを使用した動物試験を行った。乳酸菌の効果を明瞭にするため、被検液として実施例2で培養した乳酸菌発酵もろみ濃縮液を遠心し、含まれる乳酸菌量を約10倍多くした発酵もろみ濃縮液を調製した。
即ち、実施例2で培養した乳酸菌発酵液2Lを遠心チューブにとり、6000回転で20分間遠心し、乳酸菌体を含む沈殿を得た。沈殿を先の遠心上清液で懸濁し、乳酸菌を含む液量を200mLとした。この液の乳酸菌の生菌数は1.47×1010cells/mLであった。
マウスは5匹/ケージとし、滅菌蒸留水を給水瓶にて、またマウス用放射線滅菌固形飼料(CMF、オリエンタル酵母工業)を給餌器にて、それぞれ自由に与えた。これらの飼育器具は全て滅菌したものを使用した。なお、マウスの個体識別はピクリン酸を被毛に塗布した。
この溶液は冷暗所(4℃)に保存し、感染前11日間(1日1回)および感染後2時間の合計12回、それぞれマウス用経口ゾンデを用いて強制経口投与した。投与容量はマウスの体重30g当り0.5mLとした。
coli Juhl(メルシャン株式会社生物資源研究所保存菌株)を使用した。
凍結乾燥保存菌にブドウ糖リン酸ペプトン水を加え復元し、SCD寒天平板培地(Lot No. 055012、日水製薬)に塗抹した。31℃で20時間培養し、再度SCD寒天平板培地に継代培養した(31℃、20時間)。生育した菌体をブドウ糖リン酸ペプトン水に懸濁して6×107CFU(=Colony Forming unit)/mLおよび2×108CFU/mLに調製した(Mac
Farland standard使用)。5.5週齢のマウスに各濃度の大腸菌0.5mLを腹腔内投与した(3×107CFU/マウスおよび1×108CFU/マウス)。動物数は一群10匹とした。群構成は表6に示した。
体重:大腸菌の接種日をday0とし、day−11,−8,−4,0,1,3,5および7に体重計にて測定した。day0における体重に群間のバラツキが生じた場合には、day0を基準とした体重増減で表した。一般症状:大腸菌接種日のday0よりday7まで毎日観察した。症状は個体別に記録し、顕著な変化がみられた症状項目を発現個体数で表した。死亡:マウスの死亡をday0よりday7まで毎日朝夕の2回調べた。マウスの死亡日より平均生存日数および死亡率(%)を計算した。採血および血漿保存:試験最終日に生存マウスをエーテル吸入麻酔下で心臓より採血し、遠心分離後の上清(血漿)部分を−80℃に凍結保存した。
体重、体重増減および平均生存日数は群毎の平均値±標準誤差を算出した。また、これらのデータの対照群(2群および4群)に対する各群の統計的有意を検定するため、解析ソフト(Stat
View, Abacus
Inc.,USA)を用いて有意差の検定を行った(Studentのt検定、2群間の検定)。統計的有意差はP<0.05の場合を有意であるとした。試験結果を以下に示す。死亡マウスの死亡状況および生存日数を表7および図4に示す。
その結果、3×107CFU/マウスの大腸菌を接種したグループにおいて、乳酸菌培養もろみ濃縮液群は対照群(感染)と比べてマウスの死亡匹数、平均生存日数および体重に顕著な差を示さなかったが、一般症状観察において軽度の消化器症状発現動物数の増加を示した。一方、1×108CFU/マウスの大腸菌を接種したグループにおいて、乳酸菌培養もろみ濃縮液群は対照群(感染)と比べて一般症状に差を示さないものの、顕著なマウスの死亡匹数の減少と有意な平均生存日数の延長を示した。以上の結果から、乳酸菌培養もろみ濃縮液はマウスの大腸菌感染に対する強い感染防御作用を有することが判明した。
したがって、本発明の乳酸菌および発酵もろみ濃縮液の動物における免疫増強作用が証明された。
本発明の乳酸菌は、上記のとおり、いわゆる熟成もろみ、この例では、繰り返し回分発酵なる発酵法により最終回に取得した熟成もろみであり、その後の蒸留工程で回収するエタノール分も含む中間工程品であって、当該熟成もろみの蒸留によりエタノール分ともろみ濃縮液とに分離された、当該濃縮液から分離されたものである。
飼料は、このもろみ濃縮液(アルコール発酵残渣)を増殖可能な濃度に希釈すると共にpHを例えば6〜6.5程度に調整した所要の育成条件の基で、当該もろみ濃縮液に本発明の乳酸菌を添加するという人為的方法によって当該もろみ濃縮液に本発明の乳酸菌を増殖(乳酸発酵)させたものであり、こうしてアルコール発酵によって副生する残渣(廃液)を乳酸発酵生成物化して飼料としたものである。
先ず、もろみ濃縮液(濃縮残渣および残渣濃縮液)の一部をスタータータンク(小規模タンク)に導入する。
次に、予め培養(前々培養→前培養)してあった本発明の乳酸菌を前記スタータータンクに導入して、所定の攪拌、pHおよび温度条件の基で本発明の乳酸菌を培養する。
次に、所定の濃度まで達した本発明の乳酸菌を、もろみ濃縮液を導入(所定の攪拌、pHおよび温度条件の基)した発酵タンク(大規模タンク)に添加し、多量の本発明乳酸菌を培養する。
次に、発酵タンクで所定濃度まで達した本発明の乳酸菌を、遠心分離にかけ、沈殿物(=乳酸菌を含むもの)とする。
最後に、この沈殿物を粉末化手段例えば流動層造粒、スプレードライ、真空凍結(←粉砕工程要)等により粉末化し、当該粉末物を回収しそのままおよび所定の加工(=配合)、包装を施し飼料とする。
Claims (10)
- アルコール発酵にて副生の残渣であるアルコール発酵残液に生育するラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei)に属し、動物体内の病原菌に対し免疫増強作用を有する乳酸菌FERM P−19169。
- アルコール発酵物を蒸留し、得られる残渣であるアルコール発酵残液に増殖するラクトバチルス・パラカセイ・サブスピシズ・パラカセイ(Lactobacillus paracasei subsp.paracasei)に属し、動物体内の病原菌に対し免疫増強作用を有する乳酸菌FERM P−19169。
- 温度耐性およびエタノール耐性を有する請求項1又は請求項2に記載の乳酸菌FERM P−19169。
- アルコール発酵にて副生の残渣であるアルコール発酵残液と当該アルコール発酵残液に生育し、動物体内の病原菌に対し免疫増強作用を有する乳酸菌FERM P−19169を含む乳酸発酵生成物。
- アルコール発酵後に蒸留し得られる残渣であるアルコール発酵残液と当該アルコール発酵残液を乳酸発酵して得られ、動物体内の病原菌に対し免疫増強作用を有する乳酸菌FERM P−19169を含む乳酸発酵生成物。
- 動物体内の病原菌に対し免疫増強作用を有する乳酸菌FERM P−19169を含む乳酸発酵生成物を原料若しくは少なくとも原料の一つとする飼料。
- 乳酸発酵生成物の発酵原料がサトウキビから砂糖を分離した糖蜜および/または柑橘果汁搾汁残渣より回収する果汁蜜である請求項4又は請求項5に記載の乳酸発酵生成物。
- 乳酸発酵生成物の発酵原料がサトウキビから砂糖を分離した糖蜜および/または柑橘果汁搾汁残渣より回収する果汁蜜である請求項6の飼料。
- 乳酸菌FERM P−19169の生菌濃度が108cells/mL以上である、請求項4又は請求項5に記載の乳酸発酵生成物。
- アルコール発酵にて副生の残渣であるアルコール発酵残液に生育し、動物体内の病原菌に対し免疫増強作用を有するラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei)に属するI−5株(FERM P−19169)の乳酸菌。
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