JP4469442B2 - フルクトース1,6−ビスリン酸アルドラーゼ阻害剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は解糖系阻害剤に関し、更に詳細には、解糖系酵素であるフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの阻害剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヘパリンはアンチトロンビンIII(ATIII)、リポプロテインリパーゼ、各種細胞成長因子及びサイトカインと結合性を有することが知られており(FEBS Lett.(1980)117, 203-206;J. Biol. Chem.(1981)256, 12893-12898;J. Cell Biol.(1990)111, 1651-1659)、上記結合に関与する構造の研究が着目されている。
【0003】
上述の研究に基づき、例えばATIII結合構造をヘパリン分子中で減少させることにより、ヘパリンが本来有する抗血液凝固作用を低減させた上で、生理活性因子との相互作用を増強させることを目的として、ヘパリンの脱硫酸化を中心とした化学修飾が行われている(J. Carbohydr.Chem.(1993)12, 507-521;Carbohydr. Res.(1989)193, 165-172;Carbohydr. Res.(1976)46,87-95;WO 95/30424)。
【0004】
一方、解糖系のキーエンザイムであるフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(EC4.1.2.13)は、マラリアの感染に伴う解糖系の異常亢進にも関与している可能性があることが知られている(J. Immunol. (1990) 144, 1497-1503)。
従来の上記フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの阻害剤としては、Band 3 ペプチド(B3P)及びN-メチル-N-ニトロソウレア(MNU)等が知られているが、いずれの阻害剤も医薬としての実用性に欠け、実用化はされていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
解糖系が亢進する疾病に対する治療薬を得る上で、解糖系を阻害することができ、生体に対する副作用が少なく有用で実用的な物質が得られておらず、そのような物質の開発が望まれていた。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題に鑑み、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼを阻害する活性を有する物質を探索した結果、ヘパリンや前記酵素に対する親和性が高い修飾ヘパリンが驚くべきことに前記酵素の活性を阻害することを見出し、これらをフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ阻害剤として利用し得ることを知得して本発明を完成するに至った。また、更にヘパリンは硫酸基の結合位置により、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼに対する親和性が大きく変化すること、ヘパリンに含まれる硫酸基が結合する主な部位である、基本骨格を構成するグルコサミン残基の6位水酸基若しくは2位アミノ基、又はウロン酸残基の2位水酸基に結合した硫酸基のいずれかの硫酸基数を調節することで、ヘパリンと同等のフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの阻害活性を有しつつ抗血液凝固活性を低減させたグリコサミノグリカンが得られることを見いだし、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、ヘパリン又はその修飾体のフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼに対する親和性にはヘパリンが有する基本骨格中のグルコサミン残基の2位アミノ基に結合した硫酸基が最も大きく関与し、ウロン酸残基の2位水酸基に結合した硫酸基、グルコサミン残基の6位水酸基に結合した硫酸基の順に影響が小さくなることを明かにし、グルコサミン残基の2位アミノ基により多くの硫酸基が結合した修飾ヘパリンが上記酵素に対する親和性が強いこと、ヘパリン又は修飾ヘパリンによるフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの活性の阻害は競合阻害であり、ヘパリン又は前記酵素に対する親和性がより高い修飾ヘパリンが、前記酵素活性の阻害作用が強いことを見いだした。
【0008】
すなわち本発明はフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ阻害剤に係わり、その要旨はグルコサミン残基とウロン酸残基からなる二糖の繰り返し構造を基本骨格とし、該基本骨格中に硫酸基を有するグリコサミノグリカンを有効成分とするものであり、他の要旨は該基本骨格を構成するグルコサミン残基量に対し、2位アミノ基が硫酸化されたグルコサミン残基量のモル%が40%以上であるグリコサミノグリカンを有効成分とする阻害剤であり、また更なる要旨は該基本骨格を構成するウロン酸残基量に対し、2位水酸基が硫酸エステル化されたウロン酸残基のモル%が40%以上であるグリコサミノグリカンを有効成分とする阻害剤である。
【0009】
これらの本発明阻害剤は、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼに対して高い親和性を有し、同時に阻害活性を示し、加えてその有効成分であるグリコサミノグリカンは抗血液凝固活性が低いため医薬としての安全性が高く、従来のフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ阻害剤と比して極めて有用である。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を実施の形態により詳述する。
本発明の阻害剤は、解糖系に関与する一連の酵素群のうち、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの阻害剤であり、グルコサミン残基とウロン酸残基の繰り返し構造を基本骨格とし、該基本骨格中に硫酸基を有するグリコサミノグリカンをその有効成分とする。
本発明の阻害剤の有効成分であるグリコサミノグリカン(以下本発明グリコサミノグリカンと記載する)は、基本骨格が硫酸化された糖鎖であって、その中でも特に、該基本骨格を構成するグルコサミン残基量に対する2位アミノ基が硫酸化されたグルコサミン残基のモル%、又は該基本骨格を構成するウロン酸残基量に対する2位水酸基が硫酸化されたウロン酸残基のモル%のいずれかが40%以上であるグリコサミノグリカンであることが好ましい。
【0011】
また、本発明阻害剤を医薬として使用する際に安全性が確保されるためには、前記有効成分となるグリコサミノグリカンが抗血液凝固活性が低く保たれていることが好ましく、好ましくは前記グリコサミノグリカンを3μg/mlで含む条件下において、後述の実施例中に記載の活性化部分トロンボプラスチン時間(以下「APTT」とも記載する)の測定法に従って測定した場合に、そのAPTTが100秒を越えないことが好ましく、50秒を越えないことが更に好ましい。また、前記グリコサミノグリカンを1μg/mlで含む条件下において、後述の実施例中に記載のトロンビン時間(以下「TT」とも記載する)の測定法に従って測定した場合に、そのTTが少なくとも100秒を越えないことが好ましく、50秒を越えないことが更に好ましい。そして、この様な抗血液凝固活性が低い範囲内にあるグリコサミノグリカンを有効成分とする本発明阻害剤は、それを医薬として生体に投与した際の安全性は非常に高い。
【0012】
ところで、ヘパリンについて知られている生体に対する作用として抗血液凝固活性が挙げられるが、この活性は二糖分析で2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコース(以下「ΔDiHS-tri (U,6,N)S」とも記載する)として検出される硫酸基に富んだ構造が、血中のアンチトロンビンIIIと結合することによって引き起こされることが明かとされており、糖鎖の二糖分析において上記ΔDiHS-tri (U,6,N)Sとして検出される構造が少なければ、そのグリコサミノグリカンは生体に対して深刻な副作用となる抗血液凝固活性が低い。従って、本発明グリコサミノグリカンは後述の試験例1に記載の酵素消化と高速液体クロマトグラフィーを組み合わせた二糖分析における不飽和二糖の中で、ΔDiHS-tri(U,6,N)Sのモル比が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。特に好ましいのは、上記二糖分析では検出限界以下であるグリコサミノグリカンである。
【0013】
また上述の本発明グリコサミノグリカンとしては、後述の二糖分析における不飽和二糖の組成において、ΔDiHS-tri(U,6,N)Sのモル%が50%よりも多いヘパリン又はヘパラン硫酸から、その基本骨格を構成するグルコサミン残基の6位水酸基若しくは2位アミノ基に結合した硫酸基、又はその基本骨格を構成するウロン酸残基の2位水酸基にエステル結合した硫酸基のうちの1又は2ヶ所の硫酸基を脱硫酸化することにより得られるグリコサミノグリカンが好ましい。その中でも特に、上記グルコサミン残基の▲1▼6位水酸基に結合した硫酸基、▲2▼2位アミノ基に結合した硫酸基、及び上記ウロン酸残基の▲3▼2位水酸基に結合した硫酸基のいずれか1の硫酸基のみを特異的に脱硫酸化することにより得られるグリコサミノグリカンが好ましいが、上述のヘパリン又はヘパラン硫酸から▲1▼及び▲2▼、▲2▼及び▲3▼、又は▲1▼及び▲3▼の硫酸基を特異的に脱硫酸化することにより得られるグリコサミノグリカンであっても本発明グリコサミノグリカンとして使用し得る。
【0014】
例えば、上記▲1▼の6位水酸基に結合した硫酸基のみを脱硫酸化したグリコサミノグリカン(便宜上以下「本発明グリコサミノグリカン▲1▼」と記載する)としては、グルコサミン残基総量に対して、6位水酸基に硫酸基がエステル結合したグルコサミン残基量が85%以下であり、60%以下であることがより好ましく、その中でも更に30%以下であることが好ましく、最も好ましくは、上記二糖分析における6位水酸基が硫酸エステル結合したグルコサミン残基を有する不飽和二糖が10%以下、その中でも特に検出不能であるグリコサミノグリカンが例示される。
【0015】
本発明グリコサミノグリカンにおいて、基本骨格を構成するグルコサミン残基とウロン酸残基からなる二糖の繰り返し構造中、その各単糖への硫酸基の結合位置及び結合した硫酸基の量は、グリコサミノグリカン分解酵素による加水分解と、高速液体クロマトグラフィーを組み合わせた、不飽和二糖の組成(二糖組成)の分析から算出することが可能である。
【0016】
ここで、「二糖組成」とは、後述の試験例1に記載の酵素消化と高速液体クロマトグラフィーを組み合わせた二糖分析において、下記一般式(1)で表される不飽和二糖の総量[2-アセトアミド-2-デオキシ-4-O-(4-デオキシ-α-L-threo-hex-エノピラノシルウロン酸)-D-グルコース(以下ΔDiHS-0Sと記載する)、2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-D-グルコース(以下ΔDiHS-NSと記載する)、2-アセトアミド-2-デオキシ-4-O-(4-デオキシ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコース(以下ΔDiHS-6Sと記載する)、2-アセトアミド-2-デオキシ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-D-グルコース(以下ΔDiHS-USと記載する)、2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコース(以下ΔDiHS-di(6,N)Sと記載する)、2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-D-グルコース(以下ΔDiHS-di(U,N)Sと記載する)、2-アセトアミド-2-デオキシ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコース(以下ΔDiHS-di(U,6)Sと記載する)、2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコース(以下ΔDiHS-tri(U,6,N)Sと記載する)の合計]を100%としたときの上記各不飽和二糖のモル%に相当するものであり、当該数値は酵素消化前のグリコサミノグリカンの硫酸基の位置及び数を反映するものである。
【0017】
例えば、上記「6位水酸基に硫酸基がエステル結合したグルコサミン残基量のモル%」は、上述した二糖組成より算出することが可能である。すなわち、上記6位水酸基に硫酸基がエステル結合したグルコサミン残基を含む基本骨格より生ずる不飽和二糖(ΔDiHS-6S、ΔDiHS-di(6,N)S、ΔDiHS-di(U,6)S、及びΔDiHS-tri(U,6,N)S)の各二糖組成の合計が上記「6位水酸基に硫酸基がエステル結合したグルコサミン残基量のモル%」に相当する。
また、同様に「2位水酸基が硫酸エステル化されたウロン酸残基のモル%」は、上記2位水酸基に硫酸基がエステル結合したウロン酸残基を含む基本骨格より生ずる不飽和二糖(ΔDiHS-US、ΔDiHS-di(U,6)S、ΔDiHS-di(U,N)S、及びΔDiHS-tri(U,6,N)S)の各二糖組成の合計として算出することが可能であり、更に「2位アミノ基が硫酸化されたグルコサミン残基のモル%」は、上記2位アミノ基に硫酸基が結合したグルコサミン残基を含む基本骨格より生ずる不飽和二糖(ΔDiHS-NS、ΔDiHS-di(6,N)S、ΔDiHS-di(U,N)S、及びΔDiHS-tri(U,6,N)S)の各二糖組成の合計として算出することが可能である。
【0018】
【化1】
【0019】
【表1】
【0020】
また、上記略号の示す構造は以下の通り表記されることもある。
ΔDiHS-0S:ΔHexA1→4GlcNAc、ΔDiHS-NS:ΔHexA1→4GlcNS、ΔDiHS-6S:ΔHexA1→4GlcNAc(6S)、ΔDiHS-US:ΔHexA(2S)1→4GlcNAc、ΔDiHS-di(6,N)S:ΔHexA1→4GlcNS(6S)、ΔDiHS-di(U,N)S:ΔHexA(2S)1→4GlcNS、ΔDiHS-di(U,6)S:ΔHexA(2S)1→4GlcNAc(6S)、ΔDiHS-tri(U,6,N)S:ΔHexA(2S)1→4GlcNS(6S)。上記式中、ΔHexAは不飽和ヘキスロン酸、GlcNAcはN-アセチルグルコサミン、GlcNSはN-硫酸化グルコサミン、カッコ内は硫酸基の結合位置を示す。
【0021】
また、本発明グリコサミノグリカン▲1▼は、その基本骨格を構成するグルコサミン残基総量に対する2位アミノ基が硫酸化されたグルコサミン残基のモル%が少なくとも40%以上であることが好ましく、50%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが最も好ましい。本発明グリコサミノグリカンにおける2位アミノ基が硫酸化されたグルコサミン残基のモル%は、上記二糖分析により、ΔDiHS-NS、ΔDiHS-di(6,N)S、ΔDiHS-di(U,N)S、及びΔDiHS-tri(U,6,N)Sの合計により算出することが可能である。
【0022】
更に本発明グリコサミノグリカン▲1▼は、その基本骨格を構成するウロン酸残基総量に対する2位水酸基が硫酸エステル化されたウロン酸残基のモル%が少なくとも40%以上であることが好ましく、50%以上であることが更に好ましい。本発明グリコサミノグリカンにおける2位水酸基が硫酸化されたウロン酸残基のモル%は、上記二糖分析により、ΔDiHS-US、ΔDiHS-di(U,6)S、ΔDiHS-di(U,N)S、及びΔDiHS-tri(U,6,N)Sの合計により算出することが可能である。
【0023】
更にまた本発明グリコサミノグリカン▲1▼は、上記グルコサミン残基の6位水酸基に硫酸基が結合したグルコサミン残基量との関係において、2位に硫酸基が結合したウロン酸残基のモル%と上記6位に硫酸基が結合したグルコサミン残基のモル%との合計数値[(ΔDiHS-US、ΔDiHS-di(U,N)S、ΔDiHS-di(U,6)S、及びΔDiHS-tri(U, 6,N)S)と(ΔDiHS-6S、ΔDiHS-di(6,N)S、ΔDiHS-di(U,6)S、及びΔDiHS-tri(U,6,N)S)のモル%の合計]が170以下であれば好ましく、100以下であれば後述のアンチトロンビンIII結合構造が少なく保たれるため最も好ましい。
【0024】
従って、グリコサミノグリカンの糖鎖を上述の二糖分析により分析した際、グルコサミン残基の6位水酸基及びウロン酸残基の2位水酸基が硫酸エステル化された割合が、常に下記の式を充しているのが好ましいのである。
即ち、0<A+B≦170が好ましく、0<A+B≦100が最も好ましい。
ただし、
A=二糖分析におけるグルコサミン残基の6位に硫酸基を有する不飽和二糖のモル%の数値;
B=二糖分析におけるウロン酸残基の2位に硫酸基を有する不飽和二糖のモル%の数値を示し、
A及びBは100以下の正数である。
【0025】
また、例えば上述の▲2▼の2位アミノ基に結合した硫酸基のみを脱硫酸化したグリコサミノグリカン(便宜上以下「本発明グリコサミノグリカン▲2▼」と記載する)としては、例えば基本骨格を構成するグルコサミン残基総量に対して、その6位水酸基に硫酸基が結合したグルコサミン残基量のモル%が30%より多く、2位アミノ基が硫酸化されたグルコサミン残基のモル%が40%未満、好ましくは30%未満であり、且つその基本骨格を構成するウロン酸残基の総量に対する、2位水酸基が硫酸エステル化されたウロン酸残基のモル%が40%以上、好ましくは50%以上であるグリコサミノグリカンが例示される。
【0026】
更に、例えば上述の▲3▼のウロン酸残基の2位水酸基に結合した硫酸基のみを脱硫酸化したグリコサミノグリカン(便宜上以下「本発明グリコサミノグリカン▲3▼」と記載する)としては、例えば基本骨格を構成するグルコサミン残基総量に対して、その6位水酸基に硫酸基が結合したグルコサミン残基量のモル%が30%より多く、2位アミノ基が硫酸化されたグルコサミン残基のモル%が40%以上、好ましくは50%未満であり、且つその基本骨格を構成するウロン酸残基の総量に対する、2位水酸基が硫酸エステル化されたウロン酸残基のモル%が40%未満、好ましくは30%未満であるグリコサミノグリカンが例示される。
【0027】
後述の実施例において示すように、上述の本発明グリコサミノグリカン▲2▼(NDSH)及び本発明グリコサミノグリカン▲3▼(2ODSH)の各々のフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ阻害活性に関しては、本発明グリコサミノグリカン▲2▼がヘパリン及び本発明グリコサミノグリカン▲3▼に比し、若干の低い結果を示しはしたが、本発明グリコサミノグリカン▲2▼及び▲3▼のいずれもが高いフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ阻害活性を有しているため、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ阻害剤の有効成分として有用である。
【0028】
本発明グリコサミノグリカンの平均分子量は特に限定はされないが、通常3,000〜30,000Da、好ましくは4,000〜20,000Daであり、5,000〜18,000Daが最も好ましい。
また、本発明グリコサミノグリカンは、後述の実施例4に示す如く、それを固定化したアガロースを担体とするアフィニティークロマトグラフィーにおいて、フルクトース1,6−ビスリン酸アルドラーゼに親和性を示すものが好ましい。
【0029】
本発明グリコサミノグリカンは、該基本骨格を構成するグルコサミン残基の2位アミノ基又はウロン酸残基の2位水酸基を硫酸化する方法、及び基本骨格を構成するグルコサミン残基の6位硫酸基又は基本骨格を構成するウロン酸残基の2位硫酸基を脱硫酸化する方法等を適宜組み合わせて用いることにより、ヘパリン又はヘパラン硫酸などの該基本骨格を有するグリコサミノグリカンが有する硫酸基数を調節して調製することが可能である。
上記基本骨格を構成するグルコサミン残基の2位アミノ基を硫酸化する方法としては、例えばNagasawaらの方法(Corbohydr. Res.(1989)193,165-172)の記載を改変した方法が挙げられる。
すなわち、該基本骨格を有するグリコサミノグリカン又はその塩を、pH9〜10程度のアルカリ溶液(例えば炭酸ナトリウム溶液、水酸化ナトリウム溶液、水酸化カリウム溶液など)に溶解して、固体スルホン酸トリメチルアンモニウム又はスルホン酸トリエチルアンモニウムを50〜55℃において6〜24時間、追加的に添加する。
【0030】
また、該基本骨格を構成するウロン酸残基の2位水酸基を硫酸エステル化する手法としては、例えば上記同様Nagasawaらの方法(Corbohydr. Res.(1989)193,165-172)の記載を改変した方法が挙げられる。
すなわち、該基本骨格を有するグリコサミノグリカンを常法による塩交換でトリブチルアンモニウム塩とし、得られたグリコサミノグリカンのトリブチルアンモニウム塩を、N,N-ジメチルホルムアミドに、完全に溶解させた後、5〜20モル当量/遊離水酸基モル量の硫酸化ピリジンと-10〜0℃において1時間反応させる。
前記基本骨格を構成するグルコサミン残基の2位のアミノ基に結合した硫酸基を脱硫酸化する手法としては、例えばInoue & Nagasawaの方法(Carbhydr.Res.(1976)46.87-95)等が挙げられる。すなわち、上記同様に調製したヘパリンピリジン塩の凍結乾燥パウダーをジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液に溶解した後、通常は30℃以上、好ましくは40〜60℃で加熱し、その後蒸留水を添加して反応を停止させ、NaOH等により通常はpHを9〜12、好ましくは9.5〜11.5に調整して透析、凍結乾燥することで基本骨格を構成するグルコサミン残基の2位アミノ基に結合した硫酸基を脱硫酸化することが可能である。
【0031】
前記基本骨格を構成するグルコサミン残基の6位硫酸基を脱硫酸化する手法としては、例えば Matsuoらの方法(Carbohydr. Res.(1993)241,209-215)を改変した方法が挙げられる。
例えばヘパリンから硫酸エステル化されている6位水酸基の脱硫酸化を行う方法としては、ヘパリンのナトリウム塩を、例えばアンバーライト IR-120(H+型)カラム等の陽イオン交換樹脂カラムにかけ、溶出液に過剰のピリジンを加えてpHを7〜9、好ましくは7.5〜8.5に調整し、凍結乾燥してヘパリンのピリジニウム塩を調製する。このヘパリンピリジニウム塩をピリジンに溶解した後、N-メチル-N-(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(MTSTFA)を添加し、80〜120℃、好ましくは90〜115℃にて30分以上、好ましくは2時間程度撹拌しながら加熱する。反応混液に水を添加してMTSTFAを加水非反応性とすることにより反応を停止させた後、蒸留水に対して透析をし、次いで、透析内液をNaOHでpH 9〜11好ましくは9.5〜10.5に調整した後、再度透析処理に付し、得られた透析内液を凍結乾燥処理して目的の脱硫酸化ヘパリンを得ることが可能である。
【0032】
前記基本骨格を構成するウロン酸残基の2位硫酸基を脱硫酸化する手法としては、例えばJasejaらの方法(Can. J. Chem.(1989)67,1449-1456)を部分的に改変した方法により行うことができる。
すなわち、ヘパリンのナトリウム塩をNaOH溶液に溶解し、直ちに凍結乾燥処理を行う。得られた凍結乾燥パウダーを蒸留水に溶解した後、酢酸を添加することによりpH 6〜8、好ましくは6.5〜7.5に調整する。次いで、この溶液を透析処理、凍結乾燥処理する。
【0033】
これらの様々な脱硫酸化方法を組み合わせることによって、上記で例示した本発明阻害剤の有効成分として使用しうる本発明グリコサミノグリカンを調製することが可能である。
【0034】
本発明グリコサミノグリカンを有効成分とする阻害剤を生体内に投与する際の剤形及び投与経路としては、対象となる疾患の性質や重篤度に応じて適宜選択することができる。例えば、阻害剤をそのまま、又は他の薬理学的に許容されうる担体、賦形剤、希釈剤などと共に医薬組成物(例えば、注射剤、懸濁剤、乳剤、坐剤、錠剤、カプセル剤、液剤、硬膏剤、軟膏剤、ローション剤、パスタ剤、リニメント剤,貼付剤などのゲル剤)として、温血動物(例えば、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ウマ等)に対して、非経口的又は経口的に安全に投与することができる。例えば、血液中の解糖系を阻害する用途、例えばマラリア感染後に適用するマラリアの治療剤として本発明阻害剤を使用する場合には、非経口的投与が好ましく、この投与形態に適した形態としては注射剤が挙げられ、その投与方法は注射或いは点滴などが好ましい態様として挙げられるがこれらに限定はされない。
【0035】
本発明阻害剤の有効成分であるグリコサミノグリカンの配合量並びに投与量は、その製剤の投与方法、投与形態、使用目的、患者の具体的症状、患者の体重に応じて個別的に決定されるべき事項であり、特に限定はされないが、一般に一製剤あたり10μg〜50mg程度の配合量を例示することができ、投与量としては1日あたり概ね100μg/kg〜100mg/kg程度を例示することができる。また、上記製剤の投与回数は1日1回程度でも可能であり、1日2〜4回、又はそれ以上の回数に分けて投与することもできる。また、例えば点滴などにより連続的に投与することも可能である。
【0036】
ところで、通常のヘパリンのマウス(雄、雌)に対する急性毒性試験によるLD50は、経口投与で5,000mg/kg以上、皮下又は腹腔内投与で2,500mg/kg以上、静注で1,000mg/kg以上であることが知られており、現在医薬品である抗血液凝固剤としても一般に使用されているので、出血活性も含めてその安全性は既に裏付けられている。
一方、本発明阻害剤に使用するグリコサミノグリカンは、培養細胞(A31細胞(BALB/C 3T3))に対して毒性が見られず、また、上述のヘパリン又は抗血液凝固活性を低下させた修飾ヘパリンであるため、本発明阻害剤を含む医薬組成物は生体投与における安全性が高いといえる。
【0037】
更に、後述の実施例によれば、原料としたヘパリン(原料ヘパリン)がその修飾体と比較して最も強いフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの阻害活性を示す。しかし、医薬品に求められる高い安全性と有用な上記酵素の阻害活性を考慮した場合、本発明阻害剤を医薬組成物として使用するのには有効成分としてのグリコサミノグリカンは、原料ヘパリンよりはむしろ、修飾ヘパリンが適している。
【0038】
【実施例】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
試験例1
[酵素消化による二糖分析]
原料ヘパリン又は各種修飾ヘパリン(これらを以後「ヘパリン類」と記載する。)の二糖組成、すなわち構成糖の硫酸基の位置の分析は次のようにして行った。
すなわち、ヘパリン類を酵素消化し、生成した不飽和二糖(前記構造式:化1)を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で分析した(新生化学実験講座3、糖質II(東京化学同人刊、1991)、49−62頁に記載の「2・8グリコサミノグリカン分解酵素とHPLCを組み合わせた構造解析」参照)。構造決定可能な各不飽和二糖のピーク面積を計算して、全面積に対するピーク面積をパーセントとして表した。
【0039】
(1)ヘパリン類のヘパリン分解酵素による消化
新生化学実験講座3、糖質II 54-59頁に記載の方法により、ヘパリン類1.0mgを2mM酢酸カルシウムを含む20mM酢酸ナトリウム(pH7.0)220μlに溶解して、20mUのヘパリチナーゼ、20mUのヘパリチナーゼI及びIIを加えて、37℃、2時間反応させた。
(2)HPLCによる分析
(1)による消化を行った後の溶液20μlを、HPLC(医理化、モデル852型)を用いて分析した。イオン交換カラム(Dionex社、CarboPac PA-1カラムφ4.0mm×250mm)を使用し、232nmでの吸光度を測定した。流速1ml/分で、塩化リチウムを用いたグラジエント系(50mM→2.5M)を用いる方法に準拠した(Kariya, et al.,Comp.Biochem.Physiol.,103B,473,(1992))。
【0040】
試験例2
[分子量測定]
修飾ヘパリンの3%溶液10μlをHPLCによるゲルろ過で分析した。カラムはTSKgel-(G4000+G3000+G2500)PWXL(東ソー、φ7.8mm×30cm)を用い、溶離液に0.2M塩化ナトリウムを使用して、1.0ml/分の流速で溶出した。修飾ヘパリンの検出には、示差屈折計(島津製作所、AID-2A)を用いた。平均分子量は分子量が予め特定されているヘパリンを対照にして求めた(Kaneda et al.,Biochem. Biophys. Res. Comm.,220 ,108-112(1996))。
原料ヘパリンの分子量の測定は光散乱法を用いて行った(Nagasawa et al.,J. Biochem.,989-993(1977))。
【0041】
試験例3
[活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)測定]
ラット下大静脈より3.2%クエン酸1/10容量で採血し、血液を1,000×g、10分間遠心分離して血漿を得た。血漿100μlと各種濃度のヘパリン類溶液100μlを測定用カップに入れ、37℃で1分間保温した。その後、あらかじめ37℃に保温しておいたアクチン(商品名:吉富製薬(株))100μlを添加し、さらに2分間保温した。次いで、37℃に保温しておいた0.02M CaCl2溶液100μlを添加し、この時より凝固がおこるまでの時間を血液凝固自動測定装置(KC-10A:アメルング社製)で測定した。
【0042】
試験例4
[トロンビン時間(TT)測定]
ラット下大静脈より3.2%クエン酸1/10容量で採血し、血液を1,000×g、10分間遠心分離して血漿を得た。血漿100μlと各種濃度のヘパリン類溶液100μlを測定用カップに入れ、37℃で1分間保温した。その後、予め5分前から37℃に保温しておいたトロンビン(10U/ml)100mlを添加し、この時より凝固が起こるまでの時間を血液凝固自動測定装置(KC-10A:アメルング社製)で測定した。
【0043】
試験例5
〔13C-NMRの測定〕
13C-NMRは、GE社製QE300型NMRスペクトロメーターを用い、100%重水(D2O)置換を行った試料につき5%濃度のD2O溶液を調製したうえ、TSP(3-トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム)を0ppmとしたときのケミカルシフトが51.66ppmのメタノールを内部標準とし、測定温度80℃、パルス幅60°、積算回数90,000回の条件にて行った。
【0044】
〔本明細書中における原料ヘパリン〕
原料ヘパリンは、牛小腸由来のヘパリン(市販品:SPL社製)が好ましく、例えば以下に示す物性のヘパリンを使用することができる。
(1)上記試験例1に記載の二糖分析法による測定値から算出した二糖体組成が下記表2の通り。
【0045】
【表2】
【0046】
(2)抗血液凝固活性が160 IU/mgである。
(3)上記試験例2に記載の方法による平均分子量が11,000〜14,000Daの範囲内である。
(4)上記試験例3に記載のAPTT測定法により測定したAPTTが、溶液中に原料ヘパリンを3μg/mlで添加した際に200秒以上である。
(5)上記試験例4に記載のTT測定法により測定したTTが、溶液中に原料ヘパリンを1μg/mlで添加した際に600秒以上である。
【0047】
原料ヘパリン中の2位のアミノ基に硫酸基が結合したグルコサミン残基の全グルコサミン残基量に対するモル比は上記二糖組成値から算出し、87.9%(ΔDiHS-NS、ΔDiHS-di(6,N)S、ΔDiHS-di(U,N)S、ΔDiHS-tri(U,6,N)Sの合計値)、6位水酸基に硫酸基が結合した同糖残基のモル比は上記二糖組成値から算出し、82.3%(ΔDiHS-6S、ΔDiHS-di(6,N)S、ΔDiHS-di(U,6)S、ΔDiHS-tri(U,6,N)Sの合計値)、ΔDiHS-tri(U,6,N)S量は64.2%である。
標準ヘパリンの上記試験例5による13C-NMRスペクトルは図1に示す通りである。
また、上記試験例3及び4に従って原料ヘパリンのAPTT及びTTを測定し、その結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
実施例1
〔修飾ヘパリンの製造〕
<1>2-O-脱硫酸化ヘパリンの製造
2-O-脱硫酸化ヘパリン(2ODSH)は Jasejaらの方法(Can. J. Chem.(1989)67, 1449-1456)を部分的に改変した方法により合成した。すなわち、200mgの原料ヘパリンのナトリウム塩を20mlの0.4N NaOHに溶解し、直ちに凍結乾燥処理に付した。得られた凍結乾燥パウダーを20mlの蒸留水に溶解した後、1N 酢酸を添加することによりpH 7に調整した。次いで、この溶液を透析処理、凍結乾燥処理に順次付した。この手順を2回繰り返すことにより165mgの2ODSHを得た。2ODSHの試験例5による13C-NMRスペクトルは図2に示す通りである。
2ODSHの二糖組成値及びゲル濾過による分子量を上記試験例1及び2に従って測定した。その結果を表4に示す。
【0050】
【表4】
【0051】
グルコサミン残基の6位に硫酸基を有する不飽和二糖:61.7%
グルコサミン残基の2位アミノ基に硫酸基を有する不飽和二糖:91%
ウロン酸残基の2位に硫酸基を有する不飽和二糖:16.2%
平均分子量:10,900Da
また、上記試験例3及び4に従って2ODSHのAPTT及びTTを測定し、その結果を表5に示す。
【0052】
【表5】
【0053】
<2>N-脱硫酸化ヘパリンの製造
N-脱硫酸化ヘパリン(NDSH)は、Inoue & Nagasawaの方法(Carbohydr. Res.(1976)46,87-95)に従って合成した。すなわち、原料ヘパリンのナトリウム塩200mgをアンバーライト IR-120(H+型)イオン交換樹脂(オルガノ社製)を充填したカラム(1×10cm)にかけ、溶出液に過剰のピリジンを加えてpH8に中和し、凍結乾燥してヘパリンのピリジニウム塩(200mg)を調製し、このヘパリンピリジニウム塩(200mg)を20mlの90%ジメチルスルホキシド(DMSO)水溶液に溶解した後、50℃にて5時間加熱した。反応混液に等量の蒸留水を添加することにより反応を停止し、1N NaOHを適量添加してpH 10に調整した。
【0054】
次いで、この反応混液を透析処理、凍結乾燥処理に順次付すことにより、N-脱硫酸化ヘパリンを160mg得た。N-脱硫酸化ヘパリンはフリーのアミノ基を有するため、当該アミノ基をアセチル化してN-脱硫酸化、N-アセチル化ヘパリン(NDSH)として使用した。すなわち、160mgのNDSHを4℃に冷却した80mlの50mM Na2CO3を含む10% メタノール(MeOH)水溶液に溶解した後、2時間の間に5回、400μlの無水酢酸を添加し4℃にて攪拌した。なお、適宜飽和Na2CO3を含む10% MeOH水溶液を添加して反応混液のpHを7〜8に保った。等量の蒸留水を添加して反応を終了した後、透析処理、凍結乾燥処理により170mgのNDSHを調製した。NDSHの試験例5による13C-NMRスペクトルは図3に示す通りである。
NDSHの二糖組成値及びゲル濾過による分子量を上記試験例1及び2に従って測定した。その結果を表6に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
グルコサミン残基の6位に硫酸基を有する不飽和二糖:82.5%
グルコサミン残基の2位アミノ基に硫酸基を有する不飽和二糖:0%
ウロン酸残基の2位に硫酸基を有する不飽和二糖:70.4%
平均分子量:10,500Da
また、上記試験例3及び4に従ってNDSHのAPTT及びTTを測定し、その結果を表7に示す。
【0057】
【表7】
【0058】
<3>2,6-O-脱硫酸化ヘパリンの製造法
2,6-O-脱硫酸化ヘパリン(26ODSH)は、<2>と同様の方法によってヘパリンピリジニウム塩を調製し、ヘパリンピリジニウム塩200mgを20mlのピリジンに溶解した後、2mlのN-メチル-N-(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(MTSTFA)を添加し、110℃にて2時間撹拌しながら加熱した。反応終了後、反応混液に20mlの水を添加してMTSTFAを加水非反応性とすることにより反応を停止させた後、蒸留水に対して透析を行った。次いで、透析内液を1N NaOHでpH 10に調整した後、再度透析処理に付し、得られた透析内液を凍結乾燥処理に付して凍結乾燥物を得た。この凍結乾燥物を<1>に記載の2ODSHの製造方法により更にウロン酸残基の2位を脱硫酸化することにより製造した。収量は180mgであった。試験例5の方法により、生成した2,6-O-脱硫酸化ヘパリンの13C-NMRの測定を行い、そのスペクトルを図4に示す。
【0059】
<4>N,6-O-脱硫酸化ヘパリンの製造法
N,6-O-脱硫酸化ヘパリン(N6ODSH)は、<2>と同様の方法によってヘパリンピリジニウム塩を調製し、このヘパリンピリジニウム塩200mgを20mlのピリジンに溶解した後、2mlのN-メチル-N-(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミド(MTSTFA)を添加し、110℃にて2時間撹拌しながら加熱した。反応終了後、反応混液に20mlの水を添加してMTSTFAを加水非反応性とすることにより反応を停止させた後、蒸留水に対して透析を行った。次いで、透析内液を1N NaOHでpH 10に調整した後、再度透析処理に付し、得られた透析内液を凍結乾燥処理に付して凍結乾燥物を得た。この凍結乾燥物を<2>に記載のNDSHの製造方法により更にグルコサミン残基のN位を脱硫酸化することで製造した。収量150mgであった。試験例5の方法により、生成したN,6-O-脱硫酸化ヘパリンの13C-NMRの測定を行い、そのスペクトルを図5に示す。
【0060】
<5>N,2-O-脱硫酸化ヘパリンの製造法
N,2-O-脱硫酸化ヘパリン(N2ODSH)は、上記<1>により得られた2ODSHを<2>に記載のNDSHの製造方法により更にグルコサミン残基のN位を脱硫酸化することで製造した。収量170mgであった。試験例5の方法により、生成したN,2-O-脱硫酸化ヘパリンの13C-NMRの測定を行い、そのスペクトルを図6に示す。
【0061】
実施例2
ヘパリン類の固定化ゲル担体の調製
Sasakiらの方法(J. Chromatogr.(1987)400, 123-132)に従い、原料ヘパリン及び実施例1で調製した各種修飾ヘパリン各200mgを5mlの2M リン酸緩衝液(pH7.2)に溶解した。次いで、5gのアミノアガロースゲル粉末を懸濁し、15mgのNaB(CN)H3を添加して十分攪拌しながら室温にて24時間反応を進行させた。反応終了後、カップリング産物を含有したゲルを濾過した。さらに、水洗処理を2〜3回施すことにより、完全に脱塩した。調製したゲルを5mlの0.2M 酢酸ナトリウム溶液に懸濁させ、2.5mlの無水酢酸を添加して0℃にて30分、次いで室温にて30分反応させた。反応終了後、生成したゲルを水洗して完全に脱塩した。
Bitter & Muirの方法(Anal. Biochem.(1962)4, 330-334)に従い、カルボキシル基の定量を行うことにより、単位重量あたりのアガロースゲルに固定化されたヘパリン類の重量をそれぞれ見積もった結果、従来報告されている最大結合量に匹敵する、ゲル湿重量1gあたり、約10mgのヘパリン類それぞれの固定化を確認した。
【0062】
実施例3
<1>
フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの精製
70gのウシ大脳に対し、4℃に冷却した200mlの10%グリセロール、1mM EDTAおよび0.5mM 2-メルカプトエタノールを含む10mM Tris-HCl(pH 7.4;GEM-TBS)を添加し、しばらく放置することにより大脳組織を冷却した。次いで、大脳組織を取り出し、よく切れる剃刀の刃を用いて細片化した後、再度4℃に冷却したGEM-TBSを2倍量(V/W)添加し、Worringブレンダー中でよくホモジナイズした。次いでこのホモジネイトをテフロンホモジナイザーによりさらにホモジナイズした。このように調製したホモジネイトを適量の遠沈管に入れ、4℃にて100,000×g 、20分の遠心分離を行った。遠心終了後、上澄中にウシ大脳抽出物を得た。粗抽出物はすべて4℃の温度条件下にて、以下の方法でさらに精製を進めた。
【0063】
まず、実施例2に記載したゲル担体の調製方法において、原料ヘパリン類の代わりにコンドロイチンポリ硫酸を用いて調製したコンドロイチンポリ硫酸固定化ゲル担体を調製し、カラム(φ2×20cm)に充填し、上記のGEM-TBSで十分平衡化した。このコンドロイチンポリ硫酸固定化アガロースアフィニティーカラムに粗抽出液を全量負荷した後、60mlの GEM-TBSで洗浄し、この洗浄液中に非吸着画分を得た。吸着画分は3M NaClを含むGEM-TBSにより溶出して回収した。
【0064】
次いで、実施例2において調製した原料ヘパリン固定化ゲル担体を充填したカラム(φ1×10cm)を上記のGEM-TBSで十分平衡化した。このカラムに、コンドロイチンポリ硫酸固定化アガロースアフィニティーカラムクロマトグラフィー非吸着画分を負荷した後、80mlのGEM-TBSで洗浄した。特異的吸着画分につき、15mlのGEM-TBSおよび15mlの1.5M NaClを含むGEM-TBSの2種溶出液によるNaClの直線的濃度勾配(0〜1.5M)を用いて溶出した。なお、検出は220nmの吸光度により行ない、その溶出パターンを図7に示す。NaClの直線的濃度勾配においてシングルピークが出現したので、この画分を分取してコンドロイチンポリ硫酸固定化カラム吸着画分とともにポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)に付したところ、図8に示すように、分子量約40kDaのメインバンドが観察された。また、この画分はフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有していた。
【0065】
次いで、1mM EDTAを含む10mM Tris-HCl(pH 7.4)で十分平衡化したMonoQ-HR5/5カラムを装着したFPLCに、原料ヘパリン固定化ゲル担体を用いた上記アフィニティークロマトグラフィーの特異的吸着画分を負荷し、15mlの1mM EDTAを含む10mM Tris-HCl(pH 7.4)で洗浄した。吸着画分につき、7.5mlの1mM EDTAを含む10mM Tris-HCl(pH 7.4)および7.5mlの0.5M NaCl、1mM EDTAを含む10mM Tris-HCl(pH 7.4)の2種溶出液によるNaClの直線的濃度勾配(0〜0.5M)を用いて溶出を行った。なお、検出は220nmの吸光度により行い、その溶出パターンを図9に示す。
【0066】
その結果、NaClの直線的濃度勾配の開始直前にブロードなピークが1本(Fr.1)、NaClの直線的濃度勾配においてシャープなピークが4本(Fr.2〜Fr.5)出現したので、これらをそれぞれ分取した。得られた5種画分につき、Superdex200-HR10/30カラムを装着したFPLCによりゲル濾過分析を行うと同時に分取をも行い純度の検定ならびに最終精製を行ったところ、いずれの画分も約13分の保持時間にシャープなピークが検出され(220nmの吸光度による検出)、すべての画分ともきわめて高純度に精製されていることが判明した。Fr.1〜Fr.5の収量は、それぞれ 0.16mg、1.0mg、0.4mg、0.3mg、0.5mgであった。なお、これら5種画分は、実施例3<2>に記載のように、いずれもフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性を有した。
【0067】
これら5種画分につき、さらに Osnteinの方法[Ann. N. Y. Acad. Sci. (1964)121, 321-321]あるいは Davisの方法[Ann. N. Y. Acad. Sci.(1964)121, 404-404]に従ってnative-PAGEを行ったところ、Fr.1、Fr.2、Fr.3、Fr.4 およびFr.5 の順に移動度が大きくなったことから、マイナスの帯電はFr.1<Fr.2<Fr.3<Fr.4<Fr.5 の順に大きいことが判明した。したがって、Fr.1〜Fr.5 はフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼのアイソフォームであることが示唆された。実際に、脳に存在するフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼは等電点の高いAおよび等電点の低いCの2種サブユニットの4量体であり、A4、A3C、A2C2、AC3、C4 の5種アイソフォームが存在することが報告されている(Methods Enzymol.(1975)42, 240-249)。これらの結果、Fr.1、Fr.2、Fr.3、Fr.4、および Fr.5 は、それぞれA4、A3C、A2C2、AC3、およびC4に相当するものと考えられた。
【0068】
<2>
フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの活性測定
フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼは、一般に、フルクトース1,6-ビスリン酸(F-1,6-P2)を基質として作用し、当該リン酸化単糖をジヒドロキシアセトンリン酸(DHAP)とグリセルアルデヒド3-リン酸(GAL-3-P)に分解するとともに、フルクトース1-リン酸(F-1-P)をも基質として作用し、当該リン酸化単糖をジハイドロキシアセトンリン酸(DHAP)とグリセルアルデヒド(GAL)に分解する。この酵素活性測定の概要は、F-1,6-P2 および F-1-P を基質として、トリオースリン酸イソメラーゼ存在下、グリセロール3-リン酸デヒドロゲナーゼ系を共役させ、生じた DHAPがグリセロール3-リン酸に還元されるときの NADHの340nmの吸光度の減少を測定するというものである。
【0069】
詳細には、Blostein&Rutterの方法(J. Biol. Chem.(1963)238, 3280-3285)に従って活性測定を行った。すなわち、試薬として次の5種類のものを調製した。
▲1▼0.1M グリシルグリシン緩衝液(pH 7.5)
▲2▼50mM フルクトース1,6-ビスリン酸ナトリウム塩溶液
▲3▼0.1M フルクトース1-リン酸ジモノシクロヘキシルアンモニウム塩溶液
▲4▼10mg/ml濃度のグリセロール3-リン酸デヒドロゲナーゼ/トリオースリン酸イソメラーゼ複合体溶液
▲5▼NADH
【0070】
反応混液は上記濃度の2種基質単糖、4mgのNADHおよび50μlのグリセロール3-リン酸デヒドロゲナーゼ/トリオースリン酸イソメラーゼ複合体溶液を含む0.1Mグリシルグリシン緩衝液(pH 7.5)の20mlに対し、5〜50μlのフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ(0.005〜0.02unit)を添加することにより反応を開始させた。単位時間あたりの340nmの吸光度の減少量につき、 25℃の温度条件下で測定した。340nmにおけるNADHの分子吸光係数が 6.22×106cm2・mol なので、吸光度の変化が12.44から6.22への減少であった場合、それぞれ1μmolのフルクトース1,6-ビスリン酸あるいは1μmolのフルクトース1-リン酸が開裂したことになる。これに基づき、様々な試料(終濃度4μg/mlにおいて何μmol/minの開裂が生じたかが算出できる。
【0071】
フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの単位(活性;unit)は、上記の反応系において25℃にて1μmolの基質を1分間で開裂する酵素量を1unitと定義した。比活性は、1mgのタンパク質あたりのunit数として定義している。
次いで、活性測定を行った。実施例3<1>に記載した粗抽出画分、コンドロイチンポリ硫酸固定化担体非吸着画分および原料ヘパリン固定化坦体特異的吸着画分のフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性測定を行ったところ、粗抽出画分の全活性および比活性はそれぞれ、357.9および0.07、コンドロイチンポリ硫酸固定化担体非吸着画分の全活性および比活性はそれぞれ、33.8および0.08、原料ヘパリン固定化担体特異的吸着画分の全活性および比活性はそれぞれ、29.1および1.5と測定され、原料ヘパリン固定化担体特異的吸着画分は粗抽出画分の22倍の比活性を有すること(22倍の精製度を示したこと)が判明した。
【0072】
また、MonoQカラムで分画されたFr.1(A4)、Fr.2(A3C)、Fr.3(A2C2)、Fr.4(AC3) およびFr.5(C4)の精製度はそれぞれ、33倍、76倍、205倍、134倍、および 70倍であった。さらに、これらの画分を Superdex200カラムで精製した後の精製度は前記の順にそれぞれ、39倍、89倍、252倍、171倍、および 83倍であった。なお、表8に精製ステップごとのタンパク質量、全活性、比活性、回収率および精製度を比較した。
【0073】
【表8】
【0074】
実施例4
ヘパリン類とフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの相互作用(親和性)測定ヘパリン類とフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの相互作用(親和性)の測定は、実施例2において調製したアフィニティーゲル担体をFPLC用カラムにつめ、アフィニティークロマトグラフィーによって行った。すなわち、A4アルドラーゼおよC4アルドラーゼおよびこれらのハイブリッド型のアルドラーゼの混合物を、1mM EDTA、0.5mM 2-メルカプトエタノールを含む 10mM Tris-HCl(pH 7.5)で平衡化したヘパリン類固定化ゲル担体を充填したカラムに負荷した。
【0075】
吸着画分につき、15mlの、1mM EDTA、0.5mM 2-メルカプトエタノールを含む 10mM Tris-HCl (pH 7.5)および 15mlの 1.0M NaCl、1mM EDTA、0.5mM 2-メルカプトエタノールを含む 10mM Tris-HCl(pH 7.5)の2種溶液による NaClの直線的濃度勾配(0〜1.0M)を用いて溶出した。なお、検出は220nmの吸光度により行い、溶出ピークのピークトップに相当するNaCl濃度を測定することにより、ヘパリン類とフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの相互作用(親和性)の強弱を算出した。
【0076】
その結果、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性画分は原料ヘパリン固定化ゲル担体からは約0.37Mで溶出されたのに対し、硫酸基結合部位のいずれか1箇所に結合した硫酸基を特異的に脱硫酸化した修飾ヘパリン(2ODSH、NDSH:以後これらの修飾体を総称する場合モノ脱硫酸化ヘパリンと記載する)は0.31〜0.33Mで溶出された。モノ脱硫酸化ヘパリンのうち、2ODSHは0.33M、一方NDSHは0.31Mで溶出されたので、2ODSHの方がNDSHに比較して若干高いフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ親和性を有することが判明した。
【0077】
硫酸基結合部位のいずれか2箇所に結合した硫酸基を特異的に脱硫酸化した修飾ヘパリン(26ODSH、N6ODSH、N2ODSH:以後これらの修飾体を総称する場合ジ脱硫酸化ヘパリンと記載する)は0.30〜0.27Mで溶出された。また、上記の硫酸基結合部位の2箇所に結合した硫酸基を脱硫酸化したヘパリン誘導体のうち、26ODSHは0.30M、一方N6ODSHおよびN2ODSHは0.27Mで溶出されたので、26ODSHの方がN6ODSHやN2ODSHよりも高いフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ親和性を有することが判明した。モノ脱硫酸化ヘパリンは、ジ脱硫酸化ヘパリンと比して、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼに対して高い親和性を示した。従って、N-硫酸基が親和性発現に最も大きく寄与し、次いで、2-O-硫酸基、6-O-硫酸基の順に寄与が大きいことが判明した(図10)。
【0078】
実施例5
ヘパリン類のフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性阻害作用測定
実施例3で精製したA4アルドラーゼ(A4アイソフォーム)およびC4アルドラーゼ (C4アイソフォーム)を用い、ヘパリン類各種ヘパリン誘導体のフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性阻害作用につき検討した。実施例3に記載した酵素反応系において、基質となるフルクトース1,6-ビスリン酸(F-1,6-P2)の濃度[S]および阻害剤(原料ヘパリン又は6種の修飾ヘパリン)の濃度[I]を様々に変化(0.4〜4μg/ml)させて酵素反応を実施し、反応速度(v)を測定した。これらの結果より、1/[S]に対して 1/[v]をプロットし、1/[S]切片の値から各場合の Ki値を算出した。その結果を表9に示す。アルドラーゼに対するヘパリン類の阻害様式は競合阻害であった。また、一般に阻害剤は Ki値が小さいほど強い作用を示す。
【0079】
一方、原料ヘパリンは、いずれのアイソフォームに対しても非常に強い阻害活性を示した。C4アイソフォームに対するKi値(0.62μg/ml)が、A4アイソフォームに対するKi値(0.14μg/ml)の4.4倍を示した。次いで、A4アイソフォームおよびC4アイソフォームに対するすべての修飾ヘパリンの阻害効果を決定したところ、どの修飾ヘパリンもアルドラーゼアイソフォームに対し、特徴的な阻害効果を発現した。A4アイソフォームに対する2ODSHおよびNDSHのKi値はそれぞれ、0.40 および 0.54μg/mlであった。ジ脱硫酸化ヘパリンは、モノ脱硫酸化ヘパリンよりは弱いものの阻害活性を示した。A4アイソフォームでみると、26ODSH(Ki=16.60μg/ml)が、N6ODSH(Ki=76.6μg/ml)あるいは N2ODSH(Ki=86.2μg/ml)に比較して高い阻害活性を有していた。
【0080】
一方、ヘパリン類に替えてコンドロイチン硫酸A及びC(共に生化学工業(株)製)を用いて上記と同様に阻害活性を測定した。コンドロイチン硫酸AのA4アイソフォームに対するKi値は547.8μg/ml、コンドロイチン硫酸CのA4アイソフォームに対するKi値は275.8μg/mlを示した。
これらの結果は、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ活性阻害作用発現には基本骨格が必要であること、ならびに基本骨格に結合した硫酸基の結合位置が関与していることを示唆した。硫酸基の結合位置においては、グルコサミン残基の2位アミノ基へ結合した硫酸基が阻害活性発現に最も重要な役割りを果たし、ウロン酸残基の2位水酸基に結合した硫酸基がこれに次ぎ、グルコサミン残基の6位水酸基に結合した硫酸基の関与が最も低いことが判明した。またジ脱硫酸化ヘパリンと比較して、モノ脱硫酸化ヘパリンが強いフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ阻害活性を有しており、モノ脱硫酸化ヘパリンがフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼ阻害剤としてより有用であることが明かとなった。
【0081】
【表9】
【0082】
【発明の効果】
本発明により、解糖系のキーエンザイムであるフルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼに対する実用性の高い阻害剤が提供され、また、該阻害剤を有効成分とする安全性の高い医薬組成物も提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】原料ヘパリンの13C−NMRスペクトルを示す図。
【図2】2-O-脱硫酸化ヘパリンの13C−NMRスペクトルを示す図。
【図3】N-脱硫酸化、N-アセチル化ヘパリンの13C−NMRスペクトルを示す図。
【図4】2,6-O-脱硫酸化ヘパリンの13C−NMRスペクトルを示す図。
【図5】N,6-O-脱硫酸化ヘパリンの13C−NMRスペクトルを示す図。
【図6】N,2-O-脱硫酸化ヘパリンの13C−NMRスペクトルを示す図。
【図7】原料ヘパリン固定化ゲル担体を使用したアフィニティーカラムクロマトグラフィーにおける、溶出パターンを示す図。
【図8】コンドロイチンポリ硫酸固定化ゲル担体への吸着画分及び原料ヘパリン固定化ゲル担体への吸着画分のSDS-PAGE像を示す図。
【図9】MonoQ-HR5/5カラムを使用したFPLCによるイオン交換クロマトグラフィーの溶出パターンを示す図。
【図10】原料ヘパリン及び修飾ヘパリンと、フルクトース1,6-ビスリン酸アルドラーゼの親和性を示す図。
Claims (7)
- グルコサミン残基とウロン酸残基からなる二糖の繰り返し構造を基本骨格とし、該基本骨格中に硫酸基を有するグリコサミノグリカンを有効成分とするフルクトース1,6−ビスリン酸アルドラーゼ阻害剤。
- グリコサミノグリカンの基本骨格を構成するグルコサミン残基量に対し、2位アミノ基が硫酸化されたグルコサミン残基のモル%が40%以上であることよりなる請求項1記載の阻害剤。
- グリコサミノグリカンの基本骨格を構成するウロン酸残基量に対し、2位水酸基が硫酸化されたウロン酸残基のモル%が40%以上であることよりなる請求項1又は2記載の阻害剤。
- グリコサミノグリカンが3μg/ml存在条件下で血清中において測定した際に、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)が100秒を超えないことを特徴とする請求項1乃至3いずれか一項記載の阻害剤。
- グリコサミノグリカンが、グリコサミノグリカン分解酵素によるグリコサミノグリカンの加水分解と、高速液体クロマトグラフィーを組み合わせた二糖分析における不飽和二糖の組成において、2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコースのモル%が50%以下であることよりなる請求項1乃至4いずれか一項記載の阻害剤。
- グリコサミノグリカンが、グリコサミノグリカン分解酵素によるグリコサミノグリカンの加水分解と、高速液体クロマトグラフィーを組み合わせた二糖分析における不飽和二糖の組成において、2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコースのモル%が50%より多く含むヘパリン又はヘパラン硫酸から、その基本骨格を構成するグルコサミン残基の2位アミノ基に結合した硫酸基、及びその基本骨格を構成するウロン酸残基の2位水酸基にエステル結合した硫酸基のいずれか一方を脱硫酸化することにより得られるグリコサミノグリカンであることを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項記載の阻害剤。
- グリコサミノグリカンが、グリコサミノグリカン分解酵素によるグリコサミノグリカンの加水分解と、高速液体クロマトグラフィーを組み合わせた二糖分析における不飽和二糖の組成において、2-デオキシ-2-スルファミノ-4-O-(4-デオキシ-2-O-スルホ-α-L-threo-hex-4-エノピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D-グルコースのモル%が50%より多く含むヘパリン又はヘパラン硫酸から、その基本骨格を構成するグルコサミン残基の6位の水酸基及び2位アミノ基に結合した硫酸基、及びその基本骨格を構成するウロン酸残基の2位水酸基にエステル結合した硫酸基のうちの2ヶ所の硫酸基を脱硫酸化することにより得られるグリコサミノグリカンであることを特徴とする請求項1乃至5いずれか一項記載の阻害剤。
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