以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(実施形態1)
図2は本発明の実施形態1に係る、ベルト伝動システムとしてのエンジンの補機駆動システムを示し、1は自動車に搭載されたV型多気筒エンジン、3はエンジン1のクランク軸2に回転一体に取付固定されたクランクプーリ、5は補機としての空調機用コンプレッサ(図示せず)の回転軸4に回転一体に取付固定されたコンプレッサプーリ、7は補機としてのパワーステアリング用ポンプ(図示せず)の回転軸6に回転一体に取付固定されたPSポンププーリ、10は補機としてのオルタネータ8の回転軸9に回転一体に取付固定されたオルタネータプーリ、11は冷却ファン11aと一体に形成されてそれを回転駆動するためのファンプーリ、12はアイドラプーリである。
上記クランクプーリ3、コンプレッサプーリ5、PSポンププーリ7、オルタネータプーリ10及びアイドラプーリ12はいずれもVリブドプーリからなる一方、ファンプーリ11は平プーリからなり、これらのプーリ3,5,7,10〜12間にはVリブドベルトからなる伝動ベルト13が巻き掛けられている。このベルト13は、上記Vリブドプーリからなる各プーリ3,5,7,10,12にあってはベルト13内面(下面)をプーリ3,5,7,10,12に接触させた正曲げ状態で、また平プーリからなるファンーリ11にあってはベルト13外面(背面)をプーリ11に接触させた逆曲げ状態でそれぞれ巻き付けられて、いわゆるサーペンタインレイアウトで巻き掛けられており、エンジン1の運転に伴うクランク軸2(クランクプーリ3)の回転によりベルト13をクランクプーリ3→ファンプーリ11→コンプレッサプーリ5→アイドラプーリ12→PSポンププーリ7→オルタネータプーリ10→クランクプーリ3の順に図2で時計回り方向に走行させて、各補機を駆動するようになっている。
そして、上記ベルト13においてクランクプーリ3から出る側の緩み側スパン13aのうち、該クランクプーリ3とオルタネータプーリ10との間のスパン13aには、そのスパン13aをベルト13外面側から押圧してベルト13の張力を自動的に調整するためのアームタイプの油圧式オートテンショナ16が配置されている。
すなわち、図5は上記オートテンショナ16の構造を拡大して示しており、17は上記エンジン1の側壁部に取付固定されるマウントで、この実施形態では上記マウント17とエンジン1とで本発明でいう固定部を構成している。上記マウント17には移動体としてのアーム18が基端部にて支持軸19により揺動可能(回動可能)に支持されている。このアーム18の先端部には上記支持軸19と平行のプーリ軸20が突設され、このプーリ軸20には平プーリからなるテンションプーリ21がベアリング(図示せず)を介して回転自在に支持され、このテンションプーリ21に伝動ベルト13が外面(背面)から巻き掛けられて押圧される。
上記アーム18の基端部には上記支持軸19とオフセットした位置に、粘性抵抗発生機構としての油圧式ダンパ24の一端部が連結ピン23を介して揺動可能に連結され、このダンパ24の他端部はエンジン1の側壁部(固定部の一部)に揺動可能に連結されており、ダンパ24によりアーム18の振動(揺動)を制動させるようにしている。また、上記アーム18の先端部には加速度センサ22が配設されており、この加速度センサ22からの信号によって当該アーム18の揺動方向が、テンションプーリ21がベルト13を押圧する向きである押圧方向(図のB方向)であるか、或いはその反対の反押圧方向(図のA方向)であるかを検出できるようになっている。
図3に示すように、上記ダンパ24は、微細な強磁性体を液体中に分散させてなる磁気粘性流体MRFの粘性抵抗によりアーム18(移動体)の揺動を減衰させるものとされている。すなわち、ダンパ24は、エンジン1に揺動可能に連結するための連結部25aを有するシリンダボディ25を備え、このシリンダボディ25内には、その軸心に沿って直線的に往復移動するようにフリーピストン30が嵌装されるとともに、このフリーピストン30によって区切られる一方の内部空間(図の左側の空間)を第1室26及び第2室27に区画するピストン28が往復動可能に嵌挿されていて、この2室26,27に磁気粘性流体MRFが充填されている。
上記ピストン28にはロッド29の基端部が一体的に連結固定され、このロッド29はシリンダボディ25外に第1室26側の端部を液密状に貫通して突出しており、ピストン28の移動によりロッド29がシリンダボディ25に対し伸縮する。ロッド29の先端部には、アーム18の基端部に上記連結ピン23により連結するための連結部29aが形成されている。
また、上記フリーピストン30によって区切られるシリンダボディ25内の他方の内部空間(図の右側の空間)には、例えば高圧の窒素ガスが充填されており、フリーピストン30を介してピストン28を第1室26側に向かう方向、つまりロッド29が伸張する方向に押す付勢手段としての気体ばね31が構成されている。つまりダンパ24には気体ばね31(付勢手段)が内蔵されており、この気体ばね31により、アーム18をテンションプーリ21がベルト13を押圧する向き(押圧方向)に回動付勢している。
そして、上記シリンダボディ25内周面とピストン28外周面との間は所定の間隔があけられていて、この間隔により第1及び第2の両室26,27を互いに連通する連通路33が形成されており、ベルト13の張力が変化してテンションプーリ21及びそれを支持しているアーム18が揺動したとき、このアーム18の揺動によりピストン28をシリンダボディ25内で往復動させ、シリンダボディ25内の2室26,27間で磁気粘性流体MRFを連通路33を介して往来させて、この連通路33を通る磁気粘性流体MRFの流路抵抗(粘性抵抗)によりアーム18の振動(揺動)を制動するようにしている。
さらに、上記ピストン28には磁気粘性流体MRFに磁力を付与するための電磁石34が設けられており、この電磁石34に対する電流の供給による励磁状態により、シリンダボディ25とピストン28との間の連通路33の磁気粘性流体MRFに磁力を付与し、電磁石34への出力制御により磁気粘性流体MRFに付与する磁力を変化させてアーム18に付与する減衰力を可変とするようにしている。
すなわち、図2及び図5にも示すように、上記電磁石34は、コントローラ37の給電制御部からの給電によって励磁状態もしくは消磁状態に切り換えられ、又は励磁状態での磁力を変化させるようになっている。そのコントローラ37には、上記加速度センサ22からの出力信号と、エンジン回転数を検出する回転センサ38の出力信号と、エンジン1の負荷として自動車のアクセルペダル(図示せず)の開度を検出するアクセル開度センサ39(ガソリンエンジンでは、そのスロットル開度を検出するスロットル開度センサでもよい)の出力信号と、が入力されるようになっている。
尚、上記実施形態のダンパ24は図4に示す振動モデルと見倣すことができ、その振動モデルは以下の式で表される。
m(dx/dt)2+c(dx/dt)+kx=F(t)
但し、mは可動部分の質量、kはばね定数、cは粘性減衰定数、F(t)はベルト13の張力である。
この場合、磁気粘性流体MRFを使用して、その粘性減衰定数cを任意に変化させることができるので、入力となるベルト張力F(t)に対し最適な減衰力を時系列で調整することができる。速度依存性に対しては、速度が速い場合は粘性を低く、遅い場合は粘度を高くすることによって一定の減衰力を得ることができ、速度依存性を考慮する必要がなくなる。換言すれば、任意の速度依存性を持った減衰力を得ることができることとなる。
ここで、上記コントローラ37において、オートテンショナ16の制御のために行われる信号処理動作を図1により説明する。まず、最初のステップS1で上記回転センサ38、負荷センサ39の検出値を入力し、ステップS2では、上記回転センサ38により検出されたエンジン回転数と、アクセル開度センサ39により検出されたエンジン1の負荷としてのアクセル開度とに基づきエンジン1の運転領域を判定して、エンジン1の回転変動が所定以上に大きい状態(以下、高回転変動状態と呼ぶ)かどうかを判定する。尚、この高回転変動状態はベルト張力の変動が所定以上に大きな大変動状態であり、例えばエンジン回転数が1500rpm以下の低回転低負荷領域等、事前に設定しておけばよい。この判定がNOで高回転変動状態でないときには、ステップS1に戻る。
これに対し、上記ステップS2の判定がYESで高回転変動状態であれば、ステップS3に進んで、今度は上記加速度センサ22の検出値を入力し、続くステップS4において、該加速度センサ22からの信号に基づいて、アーム18及びテンションプーリ21の揺動方向が押圧方向又は反押圧方向のいずれであるか判定する(A方向か?)。この判定がYESで反押圧方向(A方向)であれば、ステップS5に進んで、上記電磁石34に電流を印加してそれを励磁状態にし、シリンダボディ25とピストン28との間の連通路33の磁気粘性流体MRFに磁力を付与して、アーム18に対する減衰力を高くする。
つまり、エンジンの高回転変動状態においてベルト張力の変動によりテンションプーリ21がベルト13から押されて、反押圧方向(A方向)に移動するときには、ダンパ24の磁気粘性流体MRFに磁力が付与されてアーム18の揺動に対し比較的大きな減衰力が付与され、これによりテンションプーリ21の反押圧方向への移動が抑えられる。
一方、前記ステップS4の判定がNOで押圧方向(B方向)であれば、ステップS6に進み、上記電磁石34への電流の印加を停止して(電流OFF)、ステップS1に戻る。すなわち、エンジンの高回転変動状態においても、ベルト13の張力が減少方向に変化して、テンションプーリ21がベルト13を押すように移動するときには、ダンパ24の磁気粘性流体MRFには磁力が付与されず、減衰力が比較的小さくなる。これにより、テンションプーリ21は押圧方向にはスムーズに移動するようになる。
この実施形態では、上記ステップS2により、エンジン1の回転変動が所定以上に大きな(ベルト張力の変動が所定以上に大きな)高回転変動状態であることを判定する高回転変動状態判定部41(張力変動状態判定手段)が構成され、ステップS4により、アーム18の揺動方向が、テンションプーリ21がベルトを押圧する向きである押圧方向か、又はその反対向きの反押圧方向かのいずれであるか検出する移動方向検出部42が構成されている。
また、上記フローのステップS5,S6によって、上記高回転変動状態判定部41によりエンジン1の高回転変動状態が判定され、且つ上記移動方向検出部42によりアーム18の反押圧方向への揺動が検出されたときに、上記ダンパ24の磁気粘性流体MRFに磁力が付与されてオートテンショナ16のアーム18の振動が制動されるように上記電磁石34を制御する磁気制御部43が構成されている。この磁気制御部43及び電磁石34により、アーム18が押圧方向へ揺動するときの粘性抵抗力が反押圧方向よりも小さくなるように磁気粘性流体MRFに磁力を付与する磁気付与手段が構成されている。
したがって、この実施形態においては、オートテンショナ16のアーム18にダンパ24のピストン28がロッド29を介して連結され、このピストン28がシリンダボディ25内における第2室27の気体ばね31の付勢力によりロッド29をシリンダボディ25から伸張させる方向に付勢されているので、エンジン1の運転中、補機駆動システムにより各補機(空調機用コンプレッサ、パワーステアリング用ポンプ、オルタネータ8、ファン11a)が駆動されているとき、ダンパ24内の気体ばね31によりアーム18が押圧方向に回動付勢されて、この付勢力によりアーム18先端のテンションプーリ21がベルト13のスパン13aを押圧し、このことでベルト13の張力が付与される。
そして、ベルト13の張力の変化によりアーム18がテンションプーリ21と共に支持軸19回りに揺動すると、このアーム18に連結されているピストン28がシリンダボディ25内で往復動する。このピストン28の往復動に伴い、シリンダボディ25内の2室26,27間で磁気粘性流体MRFが連通路33を介して往来し、この連通路33を通る磁気粘性流体MRFの流路抵抗(粘性抵抗)によりアーム18の振動が制動される。
また、上記ダンパ24のピストン28には電磁石34が配設されており、この電磁石34にコントローラ37から電流を流して励磁させることにより、上記連通路33の磁気粘性流体MRFに磁力が付与される。そして、この磁力の変化により磁気粘性流体MRFの流路抵抗が変更されて、減衰力が変えられる。このような磁気粘性流体MRFへの磁力を変更制御することにより、アーム18に対する減衰力を可変とすることができる。
すなわち、具体的には、回転センサ38及びアクセル開度センサ39からの信号に基づいてエンジンの運転状態が判定されて、エンジン1の高回転変動状態が判定された場合に、これによるテンショナプーリやベルトの振動を抑えるために、電磁石34の励磁によりダンパ24の磁気粘性流体MRFに磁力を付与し、この磁力により磁気粘性流体MRFの粘性抵抗を増大させて、減衰力を増大させるようにしている。このように特定の状態でのみダンパ24の減衰力を増大させて、ベルト13のばたつき等を防止できることから、該ベルト13の張力自体は比較的低く設定することが可能になり、こうすることによってエンジン1の燃費性能の向上にも寄与することになる。
但し、上記のように高回転変動状態でオートテンショナ16におけるダンパ24の減衰力を増大させるときに、仮に減衰力をA,B両方向で同様に増大させると、図12に一例を示すように、ダンピング率の上昇に伴い同図(a)の如くベルトの張り側では張力変動が小さくなる一方で、同図(b)の如くベルトの緩み側ではむしろ張力変動が大きくなってしまい、場合によってはベルト張力がゼロになってしまうことがある。そのように張力がゼロになってしまうと、このことによってベルト13のばたつきや異音の発生等が引き起こされる虞れがあるし、これを回避するためにベルト張力を底上げすれば、その分、上記した燃費性能の向上というメリットが薄れてしまう。
そこで、この実施形態では、上記の如く高回転変動状態においてオートテンショナ16のダンパ24の減衰力を増大させるときに、アーム18の揺動方向によって減衰力を変更するようにしている。すなわち、上記の如く回転センサ38及び負荷センサ39からの信号に基づいて高回転変動状態と判定した場合に、さらに、加速度センサ22からの信号に基づいて、アーム18の揺動方向が反押圧方向(A方向)であることが検出されたとき、即ち、ベルト張力が増大してテンションプーリ21がベルト13から押圧されるときには、コントローラ37から電磁石34に電力が供給されてそれが励磁され、この電磁石34の励磁によりダンパ24の磁気粘性流体MRFに磁力が付与され、この磁力により磁気粘性流体MRFの粘性抵抗が増大して、図6に示すように比較的大きな減衰力が付与される。こうして、アーム18及びテンションプーリ21の反押圧方向への移動が抑制される。
一方、上記高回転変動状態の判定時に加速度センサ22からの信号に基づいて、アーム18の揺動方向が押圧方向(B方向)であることが検出されたとき、即ち、ベルト張力の減少に対応して、テンションプーリ21がベルト13を押圧するように移動するときには、コントローラ37から電磁石34への電力供給が停止されて、ダンパ24の磁気粘性流体MRFに対する磁力の影響がなくなり、これにより磁気粘性流体MRFの粘性抵抗が減少して、図示のように減衰力は小さくなることで、アーム18及びテンションプーリ21は押圧方向へはスムーズに移動するようになる。
そのように、ベルト13の張力変動に対してテンションプーリ21が押圧方向にはスムーズに移動する一方、反押圧方向には移動し難くなる結果として、該テンションプーリ21によってベルト13に付与される張力が相対的に高くなるから、図7に示すように、ベルト13の張り側及び緩み側の両方で、ダンピング率を高くしていったときの張力の低下を抑えることが可能になり、特に緩み側のベルト張力の最小値(最小張力)がゼロになってしまうことを防止することができる。こうして、張力の低下に起因するベルト13のばたつきや異音の発生を解消することができる。
また、そのような作用の大きさは、上記テンションプーリ21(アーム18)の揺動における押圧方向及び反押圧方向のダンピング率の差によって変化するので、ダンパ24のダンピング抵抗の設定のみによって、上記したように緩み側におけるベルト最小張力の減少を効果的に抑制することができる。従って、初期のベルト張力をあまり高く設定する必要がなくなり、このことによって、低張力化によるエンジン1の燃費性能向上というメリットを十分に享受することができる。
尚、上記実施形態では、シリンダボディ25内の両室26,27を連通する連通路33をシリンダボディ25内周面とピストン28外周面との間に形成しているが、この他、例えばピストン28自体やシリンダボディ25の壁部等に連通路を形成することもできる。
また、上記実施形態では、電磁石34をピストン28内部に配置しているが、必ずしもピストン内にある必要はなく、例えばシリンダボディ25の外側にあってもよい。
また、上記実施形態では、テンションプーリ21のアーム18の揺動の向きによって、反押圧方向Aのみで電磁石34に電流を印加し、磁気粘性流体MRFの粘性抵抗を増大させる一方、押圧方向Bでは電磁石34に電流を印加しないようにしているが、これに限らず、A,B両方向で電流を印加するとともに、その電流値を異ならせて、電磁石34により磁気粘性流体MRFに付与される磁力の大きさを相互に異ならせることにより、押圧方向(B方向)の減衰力を反押圧方向(A方向)よりも小さくするようにしてもよい。
さらにまた、上記実施形態において、コントローラ37により、アーム18の振動がロック停止されるように電磁石34の磁力を制御するようにしてもよく、こうすれば、アーム18やベルトスパン13aの振動を確実に停止させて、ベルト13やアーム18の振動を効果的に防止することができる。
加えて、上記実施形態はアームの油圧式オートテンショナ16に適用した例であるが、本発明はロッドタイプの油圧式オートテンショナにも適用することができる。このロッドタイプの油圧式オートテンショナは、図示しないが、エンジン1(固定部)に軸方向に摺動可能つまりスライド可能に支持されたロッド部と、このロッド部の先端部に回転自在に支持されたテンションプーリと、ロッド部に連結されてその摺動を減衰させる油圧式ダンパとを備えたもので、この油圧式ダンパは上記実施形態1と同様のものが用いられる。また、このロッドタイプの油圧式オートテンショナにおいて、そのロッド部を油圧式ダンパのシリンダボディ又はロッドの一方で、また固定部をシリンダボディ又はロッドの他方でそれぞれ構成して兼用してもよく、オートテンショナがコンパクトな構造となる。
(実施形態2)
図8及び図9は本発明の実施形態2を示し、上記実施形態1では、ベルト伝動システムを補機駆動システムとし、かつ油圧式ダンパ24を備えたオートテンショナ16に適用しているのに対し、この実施形態2では、ベルト伝動システムをエンジン1の動弁システムとし、かつピスカス式ダンパ55(多板式粘性ダンパ)を備えたオートテンショナ16に適用したものである。
すなわち、この実施形態では、図示しないが、例えばエンジン1のクランク軸2により吸排気弁駆動用のカム軸を歯付ベルトからなるタイミングベルト45(図9参照)によりクランク軸2の回転と同期して駆動するための動弁システムを対象としており、ビスカス式オートテンショナ16は、そのタイミングベルト45の張力を自動的に調整するために用いられている。
図8及び図9において、46は基端部(図8で右端部)に位置する大径部46aと先端側(図8で左側)に位置する小径部46bとからなる円筒状の固定軸で、その内部に先端側から取付ボルト(図示せず)を挿通してそれをエンジン1に螺合することで、固定軸46がエンジン1に回動不能に取付固定される。この実施形態では固定軸46とエンジン1とで固定部を構成している。
上記固定軸46には移動体としての段付き円筒状のスリーブ47が揺動可能(回動可能)に支持されている。このスリーブ47は、固定軸46の大径部46aが嵌合される大径孔部48aと、小径部46bが嵌合される小径孔部48bとからなる中心孔48を有し、この中心孔48に固定軸46を先端側から滑り軸受49,49を介在して嵌合することで、スリーブ47が固定軸46にその軸心O1回りに揺動するように支持されている。
上記スリーブ47の先端側には、中心孔48(固定軸46の軸心O1)からオフセットした中心O2を有するプーリ軸20が一体に形成され、このプーリ軸20にテンションプーリ21がベアリング51(そのアウタレースをテンションプーリ21で兼用している)を介して回転自在に支持されている。また、上記スリーブ47には、その揺動方向が押圧方向(図9のB方向)であるか、その反対の反押圧方向(図9のA方向)であるかを検出するための加速度センサ22が配設されている。
一方、スリーブ47の基端部の外周にはばね止め部材52が外嵌合されて回転一体に固定され、図9に示す如く、このばね止め部材52には付勢手段としての引張ばね53の一端部が係合され、この引張ばね53の他端部はエンジン1に係止されており、この引張ばね53によりスリーブ47を図9で時計回り方向であるB方向(押圧方向)に回動付勢して、プーリ軸20上のテンションプーリ21がタイミングベルト45のスパンを背面から押圧するようにしている。
図8に示すように、上記固定軸46とスリーブ47との間に、抵抗力発生機構としてのピスカス式ダンパ55が設けられている。このダンパ55は、固定軸46の大径部46a前面及び該大径部46a側の小径部46b外周面と、スリーブ47の中心孔48における大径孔部48aの小径孔部48b側の内周面並びに大径孔部48a及び小径孔部48b間の段差面とで囲まれてスリーブ47の回動軸心(固定軸46の軸心O1)と同心状に配置された円環状の流体室56を備え、この流体室56に磁気粘性流体MRFが充填されている。
さらに、上記流体室56には、固定軸46の小径部46b外周面に回転一体に係合された複数枚のインナプレート57,57,…(固定部側プレート)と、スリーブ47の大径孔部48a内周面に回転一体に係合された複数枚のアウタプレート58,58,…(移動体側プレート)とが各プレート57,58間にそれぞれスペーサ(図示せず)を介して間隔をあけるようにスリーブ47の回動軸心方向に交互に並べられて配置されており(尚、両プレート57,58は少なくとも1枚ずつであればよい)、ベルト45の張力の変化によりテンションプーリ21と共にスリーブ47が固定軸46に対し回動したときに、固定軸46とスリーブ47との間の流体室56において各アウタプレート58を各インナプレート57と相対的に回動させ、この両プレート57,58の相対回動に伴う流体室56内の磁気粘性流体MRFの剪断抵抗(粘性抵抗)によりスリーブ47の回動を減衰するようにしている。尚、図8中、59は流体室56の先端側部に配置された固定プレート、60は流体室56を密閉状にシールするシール部材である。
そして、上記スリーブ47の基端部の周りには電磁石34が配置され、この電磁石34の励磁により流体室56の磁気粘性流体MRFに磁力を付与するようにしている。尚、この電磁石34は固定軸46やスリーブ47の内部に埋込み状態で設けてもよく、流体室56の磁気粘性流体MRFに磁力を付与するように配置すればよい。その他の構成は上記実施形態1と同じである。
したがって、この実施形態2においては、オートテンショナ16のスリーブ47に引張ばね53が連結され、この引張ばね53の付勢力によりスリーブ47が回動付勢されているので、エンジン1の運転状態で動弁システムによりカム軸がクランク軸2と同期して駆動されているとき、スリーブ47上のテンションプーリ21がタイミングベルト45を押圧する。
そして、ベルト45の張力変化によりスリーブ47がテンションプーリ21と共に固定軸46回りに回動すると、このスリーブ47の回動により、固定軸46外周面とスリーブ47の中心孔48内周面との間の流体室56において、スリーブ47に回転一体に係合されている各アウタプレート58が、固定軸46に回転一体に係合されている各インナプレート57と相対的に回動し、この両プレート57,58の相対回動に伴って流体室56内の磁気粘性流体MRFが剪断抵抗(粘性抵抗)を受け、この磁気粘性流体MRFの剪断抵抗によりスリーブ47の回動が減衰される。
その際に、エンジン1の高回転変動状態で上記スリーブ47がテンションプーリ21と共に固定軸46回りに反押圧方向(A方向)に回動するときには、スリーブ47外の電磁石34にコントローラ37から電力が供給されて、この電磁石34により流体室56の磁気粘性流体MRFに磁力が付与され、この磁力の変化により磁気粘性流体MRFの粘性抵抗が増大して、減衰力が大きくされる。
よって、この実施形態においても実施形態1と同様の作用効果が得られる。また、このようにビスカス式オートテンショナ16のダンパ55に磁気粘性流体MRFを用いることにより、減衰特性を保ったままで、タイミングベルト45の張力変化が速い状態においても追従できない領域をなくすことができる。
(実施形態3)
図10は本発明の実施形態3を示し、この実施形態3は、上記実施形態1と同様にベルト伝動システムを補機駆動システムとした上で、いわゆる摩擦式ダンパを備えたオートテンショナ16に適用したものである。
すなわち、この実施形態3のオートテンショナー16は基本構成として、エンジンに固定される固定ケース62と、この固定ケース62に回動可能に支持された回動ケース63と、この回動ケース63に軸支され、ベルト13を押圧するテンションプーリ21と、捩りトルクにより回動ケース63をテンションプーリ21がベルト13を押圧する方向(押圧方向)に回動付勢する捩りコイルばね64とを備えている。
上記固定ケース62は例えばアルミニウム合金等からなる金属製のもので、一端(図10で上端)が開口する有底円筒状(カップ状)の固定ケース本体62aと、この固定ケース本体62aの底部に固定ケース本体62aの開口から突出するように同心状に立設された先細りテーパ状の軸部62bとを備えており、当該固定ケース本体62aにおいて固定ケース62がエンジンに取付固定されるようになっている。また、固定ケース本体62aの側壁には、その開口側から切り欠いた切欠きからなるばね係止部が形成され、軸部62bの先端面にはねじ穴が形成されている。
一方、回動ケース63は、固定ケース62と同様に、例えばアルミニウム合金等からなる金属製のもので、一端(図10で下端)が開口する有底円筒状(カップ状)の回動ケース本体63aを備え、この回動ケース本体63aの外径は固定ケース本体62aと略同径とされている。回動ケース本体63aの側壁には、その開口側から切り欠いた切欠きからなるばね係止部が形成されている。
上記回動ケース63には、回動ケース本体63aの開口から突出するようにして、当該回動ケース本体63aの底部において円筒状のボス部63bが同心状に突設され、このボス部63b内にはその先端側に向かって内径が増大するテーパ孔63cが形成されている。このテーパ孔63cのテーパ角度は上記固定ケース62の軸部62bのテーパ角度と略同じとされている。また、テーパ孔63cは、ボス部63b内において回動ケース本体63aの底壁を貫通している。そして、上記ボス部63bは固定ケース62の軸部62bにボス部63b先端側から外嵌合されており、このことで回動ケース63はボス部63bにて固定ケース62の軸部62bに回動可能に連結され、固定ケース本体62aと回動ケース本体63aとは各々の開口を対向配置して略密閉状の円筒形状を形成している。
また、上記回動ケース63には、回動ケース本体63aの底壁側外周部から突出して半径方向外側に延びるアーム63dが突設され、このアーム63dの先端部にはボス部63bと平行に延びるプーリ軸20が螺合締結されて固定され、このプーリ軸20にテンションプーリ21がベアリング(図示せず)を介して回転自在に支持されている。つまり、テンションプーリ21は、ボス部63bから偏心したプーリ軸20上の位置に支持されている。また、アーム63dの先端側には、回動ケースの回動方向が押圧方向であるか、その反対の反押圧方向であるかを検出するための加速度センサ22が配設されている。
尚、上記アーム63dの先端部にテンションプーリ21を軸支するのに代え、回動ケース本体63aの外周部に直接、それよりも大径のテンションプーリをベアリングで支持するようにしてもよく、その場合もテンションプーリがボス部63bから偏心した位置に支持される。
捩りコイルばね64は上記回動ケース63のボス部63b周りに両端部64a,64b(タング)を半径方向外側に突出させた状態で配置されている。この一方の端部64aは上記固定ケース本体62aのばね係止部に、また他方の端部64bは回動ケース本体63aのばね係止部にそれぞれ係止されている。また、捩りコイルばね64は固定ケース本体62aと回動ケース本体63aとの間に軸方向に圧縮されて介装されており、この捩りコイルばね64のコイル径が拡大する方向の捩りトルクにより、回動ケース63を、上記テンションプーリ21がベルト13を押圧する方向(押圧方向)に回動付勢するようになっている。
上記固定ケース62の軸部62bと回動ケース63のボス部63bとの間には、テーパ円筒状の樹脂製インサートベアリング65が介装されている。このインサートベアリング65は軸部62bに回動不能に係止固定されており、インサートベアリング65の外周面がボス部63b内周面に摺接することで、その摩擦抵抗により回動ケース63の回動を減衰させるようになっている。
また、上記回動ケース63のボス部63b周りには、樹脂製のスプリングサポート66が配置されている。このスプリングサポート66は、ボス部63b及び捩りコイルばね64の間に介装されかつ捩りコイルばね64の捩りトルクの反力により半径方向内側に押圧されてボス部63b外周面に押し付けられる略円筒状の摺接部66aと、この摺接部66aにおいてボス部63b先端側の端部から半径方向外側に突出し、捩りコイルばね64に軸方向に押圧されて固定ケース本体62aの内底面に押付固定されるフランジ部66bとを有する。そして、捩りコイルばね64により、スプリングサポート66の摺接部66aが押圧されて回動ケース63のボス部63bに、またボス部63bも押圧されてインサートベアリング65にそれぞれ押し付けられることで、その摩擦抵抗により回動ケース63の回動を減衰させるようになっている。
さらに、上記固定ケース62の軸部62bの先端部は、ボス部63b内のテーパ孔63c(回動ケース本体63aの底壁)を貫通してその背面側に突出する突出部を有し、この突出部には、回動ケース63の抜止めのための金属からなる円板状のプレート部材67が回転不能に固定止着されている。このプレート部材67と回動ケース本体63aの背面(ボス部63bの端面)との間には小径の樹脂製のスラストワッシャ68が介装されており、このスラストワッシャ68が回動ケース本体63a背面に摺接することで、その摩擦抵抗により回動ケース63の回動を減衰させるようになっている。
そして、上記固定ケース62及び回動ケース63の間に亘って、両者間の回動に伴い磁気粘性流体MRFの粘性抵抗力を発生させる粘性抵抗発生機構70が設けられている。すなわち、上記回動ケース本体63aの背面(図10の上面)には、上記スラストワッシャ68の半径方向外側の位置に複数の凹部が円周方向に等間隔をあけて形成され、この各凹部にはそれぞれ磁性プレート71が回動ケース本体63a背面の他の部分と面一になるように埋め込まれている。
また、上記軸部62bの突出部に回転不能に固定止着されているプレート部材67は、上記回動ケース本体63a背面の磁性プレート71,71,…と対向配置され、このプレート部材67と磁性プレート71,71,…及び各凹部以外の回動ケース本体63a背面との間には、磁性プレート71の内周縁に位置するリング状の内側シール部材72と、磁性プレート71の外周縁に位置するリング状の外側シール部材73とが挟持され、これらによって囲まれる部分に円環状の粘性流体室74が区画され、この粘性流体室74に磁気粘性流体MRFが封入されている。この磁気粘性流体MRFの粘性抵抗により回動ケース63の回動を減衰させる。
さらに、上記粘性抵抗発生機構70の磁気粘性流体MRFに磁力を付与する磁気付与手段としての電磁石34が設けられている。つまり、上記プレート部材67の回動ケース63と反対側(図10で上側)には、プレート部材67と同径円板状のカバープレート75がプレート部材67と間隔をあけて対向するように配置され、図4にも示すように、このカバープレート75とプレート部材67との間(プレート部材67の背面側)には複数の電磁石34,34,…が円周方向に並んで配置されており、軸部62b先端面のねじ穴に螺合される取付ボルト76によりカバープレート75を軸部62bに締結固定することで、これら電磁石34,34,…がカバープレート75とプレート部材67との間に挟持されている。そして、各電磁石34により粘性流体室74内の磁気粘性流体MRFに磁力を付与し、その磁力を変化させることで回動ケース63に対する減衰力が可変とされている。
したがって、上記実施形態3においては、回動ケース63がボス部63bにて固定ケース62の軸部62bに回動可能に連結され、この回動ケース63が捩りコイルばね64の捩りトルクにより押圧方向に回動付勢され、この回動付勢によりテンションプーリ21がベルト13を押圧してベルト張力が付与される。そして、このベルトの張力が低下すると、捩りコイルばね64の回動付勢力により、テンションプーリ21がベルト13を押圧するように回動ケース63が押圧方向に回動する一方、ベルト13の張力が増大すると、テンションプーリ21がベルト13により押されて、回動ケース63が捩りコイルばね64の回動付勢力に抗して反押圧方向に回動する。
また、そのような回動ケース63の固定ケース62に対する相対的な回動が、インサートベアリング65、スプリングサポート66、スラストワッシャ68における各摺動摩擦抵抗によって減衰されるとともに、粘性抵抗発生機構70においては、回動ケース63が回動したときに回動ケース本体63a背面の磁性プレート71,71,…とプレート部材67との間の相対回動により粘性流体室74の磁気粘性流体MRFが剪断抵抗(粘性抵抗)を受け、この磁気粘性流体MRFの剪断抵抗によっても回動ケース63の回動が減衰される。
その際に、エンジン1の高回転変動状態で上記回動ケース63がテンションプーリ21と共に反押圧方向に回動するときには、電磁石34にコントローラ37から電力が供給されて、この電磁石34により流体室74の磁気粘性流体MRFに磁力が付与され、この磁力の変化により磁気粘性流体MRFの粘性抵抗が増大して、回動ケース63の回動に対する減衰力が大きくなる。かくして、この実施形態3においても上記実施形態1、2と同様の作用効果が得られる。
尚、上記実施形態1では、オートテンショナ16として油圧式のものを、また実施形態2ではピスカス式のものを、さらに実施形態3では摩擦式のものをそれぞれ用いているが、これら以外の他の構造のオートテンショナにも本発明を適用することができる。
さらに、上記各実施形態は、多気筒エンジン1の補機駆動システムや動弁システムに適用した例であるが、本発明はエンジンに限らず、その他のベルト伝動システムに用いられるオートテンショナに対しても適用できることは勿論である。