JP4468654B2 - 培養産物とその中に含まれる新規β−1,3−1,6グルカン、及びAureobasidium属菌株を用いたβ−1,3−1,6グルカン生産方法。 - Google Patents

培養産物とその中に含まれる新規β−1,3−1,6グルカン、及びAureobasidium属菌株を用いたβ−1,3−1,6グルカン生産方法。 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、FO-68菌株[(受託番号)FERM P-19327]の生産する培養産物とその中に含まれる新規β-1,3-1,6グルカン、及びAureobasidium属菌株を用いたβ-1,3-1,6グルカン生産方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】
特公平3−48201
【特許文献2】
特開2002−204687
【0003】
β-1,3-1,6グルカンの日常的な摂取は免疫賦活をもたらすことから、ガン・高血圧・糖尿病等の生活習慣病の予防に有効とされている。そのため多くの機能性食品・医薬部外品・医薬品が、サルノコシカケ科カワラタケ・シイタケ・アガリクス茸等の担子菌類に含まれるβ-1,3-1,6グルカンを利用して製造されている。
また、本発明と同属のAureobasidium属菌株(Aureobasidium sp.FERM-P No.4257、ATCC No.20524菌) が菌体外に生産するβ-1,3-1,6グルカンを利用した健康食品、食品添加物も製造されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
予防医学の見地から、食品の機能性を最大限に生かすためには定期的に摂食することが好ましく、β-1,3-1,6グルカンの持つ免疫賦活性も同様である。そのためβ-1,3-1,6グルカンも食品・飲料に広く使用され日常的に接取できることが好ましいが、現在β-1,3-1,6グルカンはその物性・価格等により限られた形態でしか利用されていない。
【0005】
例えば担子菌類に含まれるβ-1,3-1,6グルカンは、構造多糖に分類される多糖であり、細胞壁を構成するためにタンパク質や他の多糖類と堅く結合している。また電荷をもたない中性多糖がほとんどである。そのため抽出効率が悪く、抽出した場合でも水溶性を示さないことや不快臭を持つことが多い。また抽出方法によっては単糖の結合様式の変化を引き起こし本来の多糖構造が失われる。これらの物性から担子菌類のβ-1,3-1,6グルカン利用は、キノコ、乾物、またはその粉末化した形状で食用する健康食品か、緩和な抽出・高度な精製過程を経た高価な医薬部外品・医薬品に限られている。つまり、水溶性であり抽出過程を経ることなく容易に得られるβ-1,3-1,6グルカンでなければ、食品・飲料の分野で広く利用することはできない。
【0006】
一方Aureobasidium属には特定の条件下で培養した場合、生理活性を持つ水溶性のβ-1,3-1,6グルカンを菌体外に分泌する菌株がある。菌体を培養して得た培養産物中に含まれるβ-1,3-1,6グルカンは、タンパク質や他の多糖類と結合しておらず、また水溶性であることから、培養産物自体が抽出過程を経ることなく多方面で利用可能である。しかしAureobasidium属は通常菌体外に、マルトトリオースまたはマルトテトラオースがα-1,6結合で連結したプルランを生産する菌であり、菌体外にβ-1,3-1,6グルカンを生産する菌株は現在1種類しか報告されておらず、β-1,3-1,6グルカン生産に適した培養方法は確立されていない。そのため一定した収量のβ-1,3-1,6グルカンを得ることは難しく、培養産物の持つ機能性は培養毎で異なっている。またAureobasidium属は不完全菌に分類される菌であり、液体培養時には不完全菌の特徴である糸状菌体が絡まった多量のペレットを形成する。加えてβ-1,3-1,6グルカンは粘性の非常に高い物質であり、β-1,3-1,6グルカンの高濃度溶液である培養産物から形成されたペレットを遠心分離または濾過等で取り除くことは困難であり、培養産物中に不純物として残る。さらにAureobasidium属菌株は別名黒酵母と呼ばれるようにメラニン色素合成能が非常に高く、培養産物にはメラニン色素による褐変が見られ、酸化防止剤添加時に濃黄色〜茶色、無添加時には黒色を示し、加工できる2次製品が限られている。これらのβ-1,3-1,6グルカン含有量の不均一性、大量に含まれるペレット、褐変による変色により、Aureobasidium属菌株由来の培養産物の利用分野も限られていた。
【0007】
そこで本発明では▲1▼培養毎で異なる培養産物中のβ-1,3-1,6グルカン収量、▲2▼培養産物中に形成される多量のペレット、▲3▼メラニン色素による培養産物の褐変、の3つの問題点を解決し、Aureobasidium属菌株由来のβ-1,3-1,6グルカンを含む培養産物を食品・飲料分野に広く利用できる形態で提供する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は前述の目的を達成するために、多糖生産能にもたらす菌形態の影響を考慮し、高濃度のβ-1,3-1,6グルカンを安定して得られる新規培養方法を発明した。また新しく単離したAureobasidium属菌株FO-68[(受託番号)FERM P-19327]を用いて、培養産物中に形成される多量のペレットとメラニン色素による褐変の2つの問題点を解決した。さらに独自の構造を持つβ-1,3-1,6グルカンを、新規培養方法にてAureobasidium属菌株FO-68を培養することにより得た。
Aureobasidium属菌株FO-68の科学的性質及び分類学の位置は以下の通りである。
(科学的性質)
本菌は高粘稠の高分子多糖を産生する。本物質はエタノールで容易に凝集して簡単に回収できる。本多糖β型で、主鎖は1・3結合であり、3と6の位置より分岐をもつ多糖である。又、アルミニウムイオンなどにより容易に凝集する。本物質は免疫を有する食品添加物、機能性食品として有効であり、飼料として発育促進や排水処理に有効である。
(分類学上の位置)
ポテトデキストロース平板寒天培養上にて、25〜30℃で2週間培養した場合、表面を覆う粘物質による光沢と菌糸伸長による立毛とが観測される直径5〜6cmのコロニーを形成する。コロニー中心部に僅かなメラニン色素による褐変がみられるが、全体は白色〜淡桃色で、経時と共に黒褐色に変化する。細胞は分芽胞子(Blastspore)、酵母様細胞(Yeast like cell)、メラニン色素合成能をもつ厚膜胞子(Chlamydospore)の3種類の酵母型細胞と、細胞が連結した菌糸(Hyphae)、肥大した膨張細胞(Swollen cell)の2種類に分別できる。グルコース、フラクトース、ガラクトースなどのヘキソーマ、スクロース、又デンプンを分解する。培養液は顕著な粘稠になる。
菌学的性質から、不完全菌類、黒色菌科のAureobasidium pullulansと近縁である。
【0009】
【発明の実施の形態】
Aureobasidium属菌株は生息環境変化に伴い増殖特性として菌糸-酵母2形性を示し、その菌形態は3種類の酵母型細胞と、2種類の菌糸型細胞に分別することができる。その中でも菌体外へ活発にβ-1,3-1,6グルカンの生産を行う細胞は液胞を多く持つ膨張した酵母様細胞(Yeast like cell)であり、この細胞数と内在する液胞の数は植菌する菌体の菌形態とに関係している。
【0010】
そこで多糖生産能にもたらす菌形態の影響を考慮し、Aureobasidium属菌株のβ-1,3-1,6グルカン生産に最も適した新規培養方法を発明した。つまり窒素枯渇培地で誘導した厚膜胞子を、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に植菌後、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養する培養方法である。詳細は以下に述べる。
【0011】
Aureobasidium属菌株を培養し菌体外に生産されたβ-1,3-1,6グルカンの量は以下の方法にて測定した。培養産物を蒸留水にて10倍希釈した後、40,000G 30 分間の遠心分離により不溶性固形物を除去して得られた上清に終濃度70 %までエタノールを加えて多糖を沈殿させた後、遠心分離にて上清を取り除いた。こうして得た沈殿を、20 mMクエン酸‐リン酸緩衝液(pH 6.0)で再溶解した溶液に同緩衝液で1000倍希釈したプルラナーゼ懸濁液(Wako社製)を1/3容量加えて30 ℃にて24 時間酵素反応させたものをβ-1,3-1,6グルカン測定用サンプルとした。このサンプルを分画分子量12,000〜14,000のα−セルロース膜中に入れて200倍量の蒸留水に対して3 回透析した後、透析膜内液に終濃度80 %までエタノールを加えて多糖を沈殿させ、遠心分離にて上清を取り除き、得られた沈殿に含まれる全糖量をフェノール硫酸法にて測定してβ-1,3-1,6グルカン量とした。
【0012】
Aureobasidium属菌株を培養する際の炭素源としては、米糠を使用した。米糠は炭素、窒素、脂質、ビタミン類、ミネラルを豊富に含み、それ自体高い栄養価を持つことからAureobasidium属菌株の培養に最も適していた。米糠には米の精米度に応じて、赤糠・中糠・白糠の3種類に大別でき、赤糠から白糠に移行するほどデンプン質が多くなり、反対にタンパク質と脂質は少なくなる。それぞれの米糠0.2重量%、グルコース0.5重量%、ビタミンC 0.2重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に、Aureobasidium属菌株として新たに単離したFO-68菌株を植菌し、20℃で72時間振盪培養後、各培地中に生産されるβ-1,3-1,6グルカン量を測定した。表1に結果を示した。赤糠・中糠はそれぞれ生成時と粉砕時の糠を使用した場合の値を、白糠は糠の性質上、生成時に粉砕されていることから生成時の糠を使用した値を示した。結果から中糠を使用した培地で最も高いβ-1,3-1,6グルカン濃度が見られた。これはAureobasidium属菌株のβ-1,3-1,6グルカン生産には窒素源としてのタンパク質だけでなくデンプン質、脂質も重要な役割を果たしているためである。また中糠を0.5〜2.0 mmまで細かく粉砕した場合には、より菌による資化が進行しやすく、短時間にて菌数の増加と高いβ-1,3-1,6グルカン濃度が見られた。さらに脂質の酸化を防ぐよう、中糠の粉砕時にビタミンE (D1-αトコフェノール)を添加した場合、粉砕直後の中糠を単独で使用した場合と同様又はそれ以上の高いβ-1,3-1,6グルカン濃度が得られた。つまり、Aureobasidium属菌株培養には粉砕した中糠が窒素源に適しており、ビタミンEを添加し粉砕することで脂質の酸化を抑制しより安定したβ-1,3-1,6グルカン生産を可能にした。
【0013】
【表1】
Figure 0004468654
【0014】
Aureobasidium属菌株がβ-1,3-1,6グルカンを生産する際に資化される炭素源を決定した。詳しくは以下のとおりである。炭素源としてサッカロース0.5重量%、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.2重量%、ビタミンC 0.2重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地中にFO-68菌株を植菌し、20℃で100時間振盪培養した。培地中に生産されるβ-1,3-1,6グルカン量を前述の方法で、培地に添加した炭素源であるサッカロースとその分解物であるグルコース・フルクトースはFキット(Roche製)を用いて測定し、糖成分の経時変化を追った。
【0015】
図1に結果を示した。β-1,3-1,6グルカンの生産開始は、サッカロースがほぼ完全に分解された培養開始40時間後であった。サッカロースの分解物であるグルコースはβ-1,3-1,6グルカンが生産されると共に減少していった。一方グルコースが存在していない72時間以降には、サッカロースのもう一つの分解物であるフルクトースの減少は見られるがβ-1,3-1,6グルカンの生産は見られなかった。これらのことは、β-1,3-1,6グルカンの生産にグルコースが使用されていることを示していた。そこでサッカロースの代わりにグルコースを炭素源として使用しFO-68菌株を培養したところ、β-1,3-1,6グルカンが約20時間早く生産され始めた。これらのことからAureobasidium属菌株培養にはグルコースが炭素源に適していることが明らかとなった。
【0016】
前述したようにAureobasidium属菌株は生息環境変化に伴い増殖特性として菌糸-酵母2形性を示し、その複雑な菌形態は多糖生産能にも大きく影響している。栄養豊富な生育環境で多く見られる分芽胞子や菌糸では、それぞれ出芽と分節による増殖が優先され菌体外多糖生産は抑制され、貧栄養状態の時に見られる2重の細胞壁を持つ生体防御に優れた厚膜胞子は、休眠性細胞の性質を持ち代謝能が弱く菌体外多糖生産をほとんど行わない。一方分芽胞子から厚膜胞子への菌形態の移行時に見られる、膨張した酵母様細胞は菌体外へ活発に多糖生産を行う。Aureobasidium属菌株を用いた通気撹拌培養時において培養産物中のβ-1,3-1,6グルカン濃度は、培養終了時に見られる膨張した酵母様細胞の数だけでなく形態とも密接に関係している。つまり、細胞が大きく膨張し、内在する液胞の数が多い酵母様細胞ほどβ-1,3-1,6グルカン生産能は高くなる。
【0017】
培養時における膨張した酵母様細胞の数と形態は、植菌する菌体の菌形態と関係しており、厚膜胞子を植菌した培養時に大きく膨張した酵母様細胞をより多く得られ、菌体外多糖生産能が最も高くなった。詳細は以下に述べる。
【0018】
Aureobasidium属菌株を窒素源が不足した条件下で数世代植え継ぐことにより厚膜胞子を導く方法を発明した。詳しくはポテトデキストロースブロス(Difco社製)0.24〜0.6重量%、グルコース1.5〜2.0重量%を含みpH5.2に調整した窒素源枯渇培地にアガロース2.0重量%を加えた寒天培地にてAureobasidium属菌株を数世代生育させた後、同組成の液体培地に1〜2白金耳接種して20℃〜30℃で72時間振盪培養し厚膜胞子の菌形態を誘導する方法である。Aureobasidium属菌株を窒素源が豊富な条件下で数世代植え継ぐことにより分芽胞子を導くこともできる。つまり上記の培養時に用いた窒素源枯渇培地の代わりに、ポテトデキストロースブロス(Difco社製)2.4重量%を溶解した培地を用いて同様の培養を行った場合には分芽胞子の菌形態を誘導することが可能である。
【0019】
誘導したFO-68菌株の厚膜胞子と分芽胞子をそれぞれ、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に、培養開始時の菌数が104 cell/mLになるよう植菌して20℃で96時間振盪培養した。培養後に培養産物中の菌体数の測定、菌形態の観察、β-1,3-1,6グルカン量の測定により菌体数・菌形態と菌体外多糖生産との関係を見た。
【0020】
菌体数はThoma血球計を用い計測した。また菌形態は、細胞内部に液胞を2つ以上内在する細胞を膨張した酵母様細胞、2重の細胞壁を持つ細胞を厚膜胞子、その他の酵母型細胞を分芽胞子と分類した。β-1,3-1,6グルカン量は前述した方法にて測定した。
【0021】
測定結果は図2に示した。誘導した厚膜胞子を用いた培養時には全菌体数の60%以上は膨張した酵母様細胞であり、細胞自体も7〜12 μmと大きく、細胞内部には多くの液胞が見られ、培養産物中β-1,3-1,6グルカン量は約2.5 g/Lと高い値であった。一方誘導した分芽胞子を用いた培養時には全菌体数の約40%が膨張した酵母様細胞であったが、細胞自体は2〜5 μmと小さく、細胞内部に2〜3個の液胞しか持たない細胞も見られ、培養産物中β-1,3-1,6グルカン量は約1.4 g/Lと低い値であった。
【0022】
さらに厚膜胞子植菌時得られた図2に示した菌体を、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に1/1000量接種し、20℃で72時間振盪培養した際の菌体の菌形態比率と培養産物中のβ-1,3-1,6グルカン濃度を図3に示した。図から明らかなように同組成の培地に植え替えた時、3世代までほぼ同様の菌形態の比率とβ-1,3-1,6グルカン濃度が得られた。このことは、3段階の植え替えにより約1.0×109倍のスケールアップを行った場合にも、一定数の大きく膨張した酵母様細胞が得られ、安定してβ-1,3-1,6グルカンが得られることを示していた。
【0023】
またAureobasidium属菌株は好気性菌であり、β-1,3-1,6グルカンの生産も好気的条件下にて進み、Aureobasidium属菌株を用いた培養時における培養産物中のβ-1,3-1,6グルカン濃度は、培地中に混入される空気の量に影響される。そのため、コンベンや三角フラスコを用いた浸透培養時よりも、通気攪拌培養時にβ-1,3-1,6グルカン生産能は高くなる。通気量は、培地粘度の上昇を考慮し調整する必要があるが、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行い攪拌培養した場合に、最も効率良くβ-1,3-1,6グルカンが生産される。前述した窒素源枯渇培地にて本菌を数世代培養し誘導した厚膜胞子を、米糖0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、アスコルピン酸0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に接種し、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養した場合には、約3.0g/L以上の高濃度のβ-1,3-1,6グルカンを含む培養産物が得られた。
【0024】
Aureobasidium属菌株培養後に得られた培養産物が持つ、多量のペレット形成とメラニン色素による褐変という2つの問題点を解決するために、本発明ではFO-68菌株を用いた。FO-68菌株を用いた培養の場合、ペレットを含まない乳白色〜淡黄白色の一様な高粘性の液体状の培養産物を得ることができる。詳細は以下に述べる。
【0025】
FO-68菌株の菌体学的特徴として以下のことが上げられる。本菌は平板寒天培地・液体培地を用いた培養時には生育温度20〜25℃、最適生育温度25℃、生育可能温度5℃〜40℃、最適生育pH 5〜7を示し、生息環境に応じて他のAureobasidium属菌株と同様の増殖特性である菌糸-酵母2形性を示す。さらに菌形態は図4に示したように、増殖するための細胞で菌糸伸長の元となる分芽胞子(Blastspore)、出芽型分芽胞子や分節型分芽胞子が成長した細胞である酵母様細胞(Yeast like cell)、そして菌糸や酵母様細胞の分化により生じるメラニン色素合成能を持つ厚膜胞子(Chlamydospore)の計3種類の酵母型細胞と、薄い隔壁で細胞が連結した菌糸(Hyphae)、2重の隔壁を持ち細胞自体も肥大した膨張細胞(Swollen cell)の計2種類の菌糸型細胞に分別することができる。
【0026】
本菌は、栄養豊富な生育環境では分芽胞子からの菌糸伸長と出芽が活発に起こり、時間経過と共に細胞内部に液胞が見られるようになり、伸長した菌糸は2重の隔壁を持ち細胞自体も肥大した膨張細胞の状態に移行していく。一方、貧栄養状態になると膨張した菌糸の分節が観察されるようになり、他の環境要因の悪化または更なる貧栄養状態の時には、膨張細胞より更に大きな2重の細胞壁を持つ生体防御に優れた厚膜胞子が見られるようになる。
【0027】
土壌中より単離した本菌はポテトデキストロース(日水製薬)平板寒天培地上にて25〜30℃で2週間培養した場合、表面を覆う粘物質による光沢と菌糸伸長による立毛とが観測される直径5〜6 cmのコロニーを形成する。2週間後のコロニーは中心部に僅かなメラニン色素による褐変が見られるものの全体は白色〜淡桃色であり(図5左)、同属のFERM-P4257菌株を同条件にて2週間培養した場合に生じる全体が黒色のコロニー(図5右)とは明らかに異なる。さらに2週間培養後の本菌の平板寒天培地上にコロニーを4℃にて保存した場合、日数経過と共に褐変部分は中心部より広がり全体的に黒色となる。これらの特徴は本菌が黒色菌科のAureobasidium属の性質を持ちつつも、菌形態としてメラニン色素合成能を持つ厚膜胞子を取り難く、また厚膜胞子のメラニン色素合成能自体も低いという性質を示していた。
【0028】
さらに通気撹拌培養時の培養産物の液色についても、平板寒天培地上のコロニーの色と同様の傾向が見られる。詳細は以下の通りである。本菌株を、米糠0.1〜1.0重量%、サッカロース0.5〜2.0重量%またはグルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に植菌し、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養して培養産物を得た。得た培養産物を10 mMpH6.0酢酸ナトリウム緩衝液にて希釈した後、40,000G 30 分間の遠心分離により不溶性固形物を除去し、得た上清の400〜800 nmの範囲の吸光度を測定した。測定結果を図6に示す。培養産物の吸収スペクトルは、400〜800 nmの範囲における吸光度の変化が少なく、白色に近い液色であることを示した。また本菌株の厚膜胞子を、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に植菌し、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養して培養産物を得た場合にも同様の傾向が見られた。
【0029】
本菌の大半の菌糸型細胞は、幅4.0〜6.0μm、膨張細胞時で9.0〜12μm、長さ1 mm程度であり、幅1.5〜2.5 μm、膨張細胞時で4.0〜5.0μm、長さ2 mm以上長いもので10〜12 mmに達すFERM-P4257菌株の菌糸型細胞に対し、太く短く絡まり難い形状である。これは、通常Aureobasidium属菌株を液体培地中で培養した場合に、菌糸伸長後に分節が開始されるのに対し、本菌培養時には菌糸の分節による増殖が優先され、菌糸伸長が阻害されるからである。さらに本菌の分芽胞子は菌糸伸長よりも出芽による増殖を活発に行うため、菌形態に占める菌糸型細胞の割合自体が低い。これらの菌糸型細胞の特徴は図7に示した。実際、本菌株を、米糠0.1〜1.0重量%、サッカロース0.5〜2.0重量%またはグルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に植菌し、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養して培養産物を得た場合には、ペレットを形成することなく一様な高粘性の液体を得ることができた。また本菌株の厚膜胞子を、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に植菌し、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養して培養産物を得た場合にも同様の傾向が見られた。一方以前に報告された同属のFERM-P4257菌株を同条件にて培養した場合には、培養産物中に多量のペレットが形成され、小さい物でも肉眼で確認でき大きい物は直径1cm程度の球状の形態をとっていた。
【0030】
本菌を用い培養した場合には、培養産物中の多量のペレットとメラニン色素による褐変の2つの問題点を解決し、ペレットを含まない乳白色〜淡黄白色のβ-1,3-1,6グルカンを含む培養産物を得ることができる。さらに本発明にかかる培養方法、詳しくは厚膜胞子を、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に植菌後、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養する培養方法で本菌を培養した場合には、安定して高濃度のβ-1,3-1,6グルカンを含む、ペレットを含まない乳白色〜淡黄白色の培養産物を得ることができる。このFO-68培養産物は、色・物性より食品・飲料の分野で広く利用することができ、また一定量のβ-1,3-1,6グルカンを含むことから、培養産物の持つ機能性も安定する。またFO-68培養産物は生態免疫反応を調節するユニークな特性を持っており、食品分野のみならず特に医療・保健・福祉・環境など生命科学を基盤とした分野への応用が期待できる。
以下に培養産物の持つ機能性を測定した例を示す。
【0031】
【実施例】
FO-68培養産物のヒト末梢血単球の細胞分裂(DNA合成能)に与える影響を見た。健常人血液からFicoll-Conray法で末梢血単核球を分離し、1%正常ヒト血清(human serum:HS)に浮遊した。次に400倍に希釈した新しい菌株FO-68由来の新規培養産物(以下FO-68培養産物)を添加し、5日間、37℃で培養した。5日後、トリチウムサイミジン(3H-thymidine)1 μCiを加え、その取り込み量を液体シンチレーションカウンターで測定し、培養産物の末梢血単核球の細胞分裂能(DNA合成能)に与える影響を調べた。その結果、表2に示すように、添加群は無添加群に比べて有意に末梢血単核球のDNA合成能を亢進させた。
【0032】
【表2】
Figure 0004468654
【0033】
FO-68培養産物の白血病細胞株に与える影響を見た。各種白血病細胞株2×105個にFO-68培養産物を添加し、3日間、37℃で培養した。培養後、血球計算盤を用いて生細胞数を計測し、白血病細胞株の増殖を検討した。その結果表3に示すように、添加群は無添加群に比べて有意に白血病細胞株の増殖を抑制した。
【0034】
【表3】
Figure 0004468654
【0035】
FO-68培養産物のサイトカイン産生に与える影響を見た。単球系細胞株(U937)に30倍希釈したFO-68培養産物を、添加し、24時間、37℃で培養した。また、健常人末梢血単核球に400倍希釈のFO-68培養産物を添加し、37℃で8時間および24時間培養した。培養後、培養上清中のサイトカインの中でIL(インターロイキン)-1β、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IFN(インターフェロン)-γの量を酵素抗体法(enzyme immunoassay:EIA)で調べた。その結果表4および表5に示すように添加群は無添加群に比べて有意にIL-8の産生を誘導した。IL-8は主に免疫担当細胞の走化性を誘導するサイトカインで、好中球、単球、肺胞マクロファージ、血管内皮細胞などから産生される。また、最近は血管新生を促す因子としても注目され、免疫担当細胞の走化や集積に関与しているものと考えられる。
【0036】
【表4】
Figure 0004468654
【0037】
【表5】
Figure 0004468654
【0038】
FO-68培養産物のマウス脾臓細胞のDNA合成能に与える影響を見た。C57BL/6Nマウス由来の脾臓細胞を型のごとく調整した。次に100倍に希釈したFO-68培養産物を添加し、2日間、37℃で培養した。2日後、トリチウムサイミジン1 μCiを加え、その取り込み量を液体シンチレーションカウンターで測定し、脾臓細胞の分裂(DNA合成能)を調べた。その結果、表6に示すように、添加群は無添加群に比べて脾臓細胞のDNA合成能を亢進させた。
【0039】
【表6】
Figure 0004468654
【0040】
FO-68培養産物のマウス脾臓細胞からのIL-12産生に与える影響を見た。C57BL/6Nマウス由来の脾臓細胞を型のごとく調整した。次に100倍に希釈したFO-68培養産物を添加し、2〜3日間、37℃で培養した。培養後、培養液を回収し、培養液中のIL-12の量をEIA法で測定した。その結果、表7に示すように、添加群は無添加群に比べて脾臓細胞からのIL-12産生を有意に亢進させた。IL-12は抗腫瘍活性を示すNK(ナチュラルキラー)細胞の活性化因子で、静止状態のNKおよびT細胞からのIFN-γ(インターフェロン)の産生を強く誘導し、NKおよびT細胞の細胞傷害活性を高める重要なサイトカインである。本結果からFO-68培養産物は免疫系の活性化のみならず、抗腫瘍活性や抗微生物活性に優れた培養産物であることが判明した。
【0041】
【表7】
Figure 0004468654
【0042】
FO-68培養産物のマウス腹腔細胞のNK活性への影響を見た。FO-68培養産物をC57BL/6Nマウスの腹腔内に1日おきに5回注射した後、アイソトープであるクロム(51Cr)でラベルしたYAC-1細胞(マウス白血病細胞株)を標的細胞としたクロムリリーズ法で、腹腔細胞のNK活性を測定した。その結果、表8に示すように、投与群は未投与群に比べてNK活性を誘導した。本結果からFO-68培養産物は抗腫瘍活性を高めることが判明した。
【0043】
【表8】
Figure 0004468654
【0044】
前述したように、本発明にかかる新規培養方法で本菌を培養した時に生産される培養産物は、細胞のDNA合成能の増加・サイトカイン産生の誘導・NK活性の獲得など生態免疫反応を調節するユニークな特性を持っており、抗腫瘍活性や抗微生物活性などを高める。β-1,3-1,6グルカンの機能性はその構造により異なり、FO-68培養産物中に含まれるβ-1,3-1,6グルカンは、糖の構造解析の結果から高い分岐率を持つ新規β-1,3-1,6グルカンであった。今回得た高い分岐率を持つ新規β-1,3-1,6グルカンは、その持つ生態免疫反応から特に医療・保健・福祉・環境・食品など生命科学を基盤とした分野への応用が期待できる。糖の構造解析の詳細は以下に述べる。
【0045】
窒素枯渇培地で誘導した本菌の厚膜胞子を、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に植菌後、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて攪拌培養した。こうして得られた培養産物を蒸留水にて10倍希釈した後、40,000G 30 分間の遠心分離により不溶性固形物を除去した。得られた上清に1/5容量のクロロホルム:1‐ブタノール=5:1の混合液を加えて30分間激しく撹拌した後、遠心分離して得た上清液から分液ロートを用いて水層を分取した。この操作をさらに2回繰り返して得た水層に、終濃度70 %までエタノールを加えて多糖を沈殿させた後、遠心分離にて上清を取り除いた。こうして得た沈殿を20mMクエン酸‐リン酸緩衝液(pH 6.0)で再溶解した溶液に、同緩衝液で1000倍希釈したプルラナーゼ懸濁液(Wako社製)を1/3容量加えて30 ℃にて24時間反応させた後、分画分子量12,000〜14,000のα−セルロース膜中に入れて200倍量の蒸留水に対して3 回透析した。透析膜内液に終濃度80 %までエタノールを加えて多糖を沈殿させた後、遠心分離を行い、得た沈殿を常温減圧乾燥して菌体外分泌多糖の試料とした。
【0046】
菌体外分泌多糖のメチル化を以下に記載する方法にて行った。試料100 mgにジメチルスルホキシド10 mLを加えた後、窒素流入化にて55〜60℃で1時間撹拌して溶解した。室温に冷却後、メチルスルフォニルカルバニオン3.0 mLを加えて室温で5時間撹拌した後、ヨウ化メチル1.0 mLを加えて20℃以下に冷却しながら1時間撹拌した。このメチルスルフォニルカルバニオンとヨウ化メチルを加え撹拌する操作を3回繰り返した。反応液に精製水50mLを加えた後、クロロホルム20mLを加えて分液ロートにて5分間激しく撹拌してメチル化糖を抽出する操作を5回繰り返した。このクロロホルム抽出液に無水硫酸ナトリウムを加えて1時間脱水した後、40℃で減圧乾固した物をメチル化糖とした。メチル化は赤外吸収分析により確認した。
【0047】
段落[0045]で得られたメチル化糖のアルジトールアセテート法は以下に記載した。メチル化糖を72%H2SO43.0 mLに溶解した後、精製水18 mLを加えて100℃で4時間加水分解した。室温まで冷却した溶液を炭酸バリウムで中和した後、遠心分離を行い、硫酸バリウムを除去した上清を5 mLまで減圧濃縮した。濃縮液に水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)30 mgを加えて激しく撹拌した後、2時間放置して還元した。過剰なNaBH4を分解するために気体が発生しなくなるまで5%酢酸水溶液を滴下した後、陽イオン交換樹脂アンバーライトIR 120Bを15 mL加えて室温で3時間放置した。吸引濾過にて樹脂を取り除いた濾液を減圧乾固した後、1%塩酸酸性メタノール10 mLを加えて40℃で減圧乾固する操作を3回繰り返した。次に、無水酢酸とピリジンを各々2.0 mL加えて110℃で3時間アセチル化した後、室温まで冷却後、精製水10 mLを加えて減圧乾固する操作を3回繰り返ことで未反応の無水酢酸とピリジンを除去した。さらに、トルエン10 mLを加えて減圧乾固する操作を3回繰り返した後、クロロホルム10 mLを加えて3時間放置し、アルジトールアセテート誘導体を抽出した。この抽出液の吸引濾過後の濾液は、減圧乾固してクロロホルム5 mLに溶解する操作を2回行った後、ガスクロマトグラム質量分析の試料に用いた。
【0048】
ガスクロマトグラムの結果を図8に、またマスフラグメントの結果を図9,10,11,12と表9に示す。図8は本菌体外多糖の部分メチル化アルジトールアセテート誘導体のガスクロマトグラム(FO-68の糖鎖構造の6P上段図、Fig.1FO-68 V.Cの部分メチル化アルジトールアセテート誘導体のガスクロマトグラムを使用)を示し、また図9は本菌体外多糖のマスフラグメント(FO-68の糖鎖構造の6P下段図、Fig.2FO-68 V.Cのマスフラグメントの内、Peak1の図を使用)を示し、図10は本菌体外多糖のマスフラグメント(FO-68の糖鎖構造の7P上段図、Fig.2 FO-68 V.Cのマスフラグメントの内、Peak2の図を使用)を示し、図11は本菌体外多糖のマスフラグメント(FO-68の糖鎖構造の7P下段図、Fig.2FO-68 V.Cのマスフラグメントの内、Peak3の図を使用)を示し、図12は本菌体外多糖のマスフラグメント(FO-68の糖鎖構造の8P上段図、Fig.2 FO-68 V.Cのマスフラグメントの内、Peak4の図を使用)を示す。Peak1は表9に示したように2,3,4,6-Me4-GPであり、1位の炭素でのみ結合した非還元末端基のグルコースを表している。Peak4は表9に示したようにG1結合(peak1)を多く持ち、図8に示したようにPeak1とほぼ同等の強度であることから、2,4-Me2-Gと考えられ1,3,6位の炭素に結合を持つグルコースと推定した。Peak3は表9に示したように2,4,6-Me3-Gであり、1,3位の炭素に結合を持つグルコースであった。Peak2は、糖であるフラグメントが見られたが、これはガスクロマトグラムの分離能によりPeak3フラグメントが混合したためであり、Peak2は非糖であった。以上の結果は菌体外多糖が、僅かな非糖部位を持つものの、主に1,3,6結合の分岐構造に非還元末端が結合した1,3-1,6グルカンでことを示していた。ガスクロマトグラムのピーク面積により各グルコースのモル比を求めた。その結果、2,3,4,6-Me4-G:2,4-Me2-G:2,4,6-Me3-G=16:3:13であった。
【0049】
【表9】
Figure 0004468654
【0050】
段落[0045]に記載した箱守法でメチル化した菌体外多糖を重水素化クロロホルムに溶解した後、テトラメチルシラン(TMS)を内部標準として、フーリエ変換式核磁気共鳴吸収装置にて13C核磁気共鳴吸収スペクトルを測定した。その結果を図13に示す。図13は本菌体外多糖の13CNMRスペクトル(FO-68の糖鎖構造の1P最下段図、FO-68 の13CNMRスペクトルの図を使用)を示す。
70〜80 ppmの吸収は重クロロホルムの3重線であり、矢印で示した100 ppm位の僅かに見られるピークと90〜100 ppm付近にα-アノマーの吸収が見られないことから、菌体外多糖に存在する(1-3)結合と(1-6)結合は共にβ配向していることが分かった。
【0051】
以上の分析結果から構成糖であるグルコースの結合様式は下図であり、1→6結合で1つのグルコースを持つグルコースが1→3結合で連続している分岐率が高い構造を持つβ-1,3-1,6グルカンであった。
Figure 0004468654
【0052】
【発明の効果】
Aureobasidium属には特定の条件下で培養した場合、生理活性を持つ水溶性のβ-1,3-1,6グルカンを菌体外に分泌する菌株は1菌株報告されていたものの、β-1,3-1,6グルカン生産に適した培養方法は確立されていなかった。そのため一定した収量のβ-1,3-1,6グルカンを得ることは難しく、Aureobasidium属菌株由来の培養産物の持つ機能性は培養毎で異なっていた。そこでβ-1,3-1,6グルカン生産に最適な培地組成と、β-1,3-1,6グルカン生産能の高い膨張した酵母様細胞を誘導する方法から、Aureobasidium属菌株の新規培養法を発明した。つまり、窒素枯渇培地で誘導した厚膜胞子を、ビタミンEを添加し粉砕した中糠0.1〜1.0重量%、グルコース0.5〜2.0重量%、ビタミンC 0.2〜0.5重量%を含みpH5.0〜6.0に調整した液体培地に植菌し、数多くの液胞を持つ大きい膨張した酵母様細胞を誘導しつつ、時間当り培地の10〜100倍容量の通気を行いながら、72時間20℃にて撹拌培養する方法である。この培養方法により、Aureobasidium属菌株を用いて安定して高濃度のβ-1,3-1,6グルカンが得られるようになった。
【0053】
またAureobasidium属は不完全菌に分類される菌であり、液体培養時には不完全菌の特徴である糸状菌体が絡まった多量のペレットを形成した。加えてメラニン色素合成能が非常に高く、培養産物にはメラニン色素による褐変が見られた。これらの大量に含まれるペレットと褐変による変色により、Aureobasidium属菌株由来の培養産物の利用分野も限られていた。しかし本発明で用いた新規Aureobasidium属菌株FO-68は、メラニン色素合成能を持つ厚膜胞子を形成し難く、厚膜胞子のメラニン色素合成能自体も低く、太く短く絡まり難い形状の菌糸型細胞を形成し、菌形態に占める菌糸型細胞の割合自体低い性質を持つ。そのためFO-68菌株を培養して得られる培養産物は、ペレットを含まず乳白色〜淡黄白色の一様な高粘性の液体状であり、食品・飲料に広く利用される形態でβ-1,3-1,6グルカンを提供することを可能にした。このことは、β-1,3-1,6グルカンの日常的な摂取を助け、ガン・高血圧・糖尿病等の生活習慣病の予防という、予防医学の観点からも有益である。
【0054】
さらに前述した本発明にかかる新規培養方法でFO-68菌株を培養した時に生産されるβ-1,3-1,6グルカンの構造を解析した結果、報告の無い分岐率が高い構造を持つ新規β-1,3-1,6グルカンであった。この新規β-1,3-1,6グルカンを含む培養産物は、細胞のDNA合成能の増加・サイトカイン産生の誘導・NK活性の獲得など生態免疫反応を調節するユニークな特性を持っており、抗腫瘍活性や抗微生物活性などを高める。今回得た高い分岐率を持つ新規β-1,3-1,6グルカンは、その持つ生態免疫反応から特に医療・保健・福祉・環境・食品など生命科学を基盤とした分野への応用が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 Aureobasidium属菌株培養時の培地中糖成分の経時変化を示す図表である。
【図2】 培養終了時における菌形態と菌体外β-1,3-1,6グルカンの関連図表である。
【図3】 厚膜胞子植菌時に誘導した菌形態比率の継続性と菌体外β-1,3-1,6グルカンの関連図表である。
【図4】 Aureobasidium属FO-68菌株の様々な菌形態を示す図面代用写真である。
【図5】 平板寒天培地上のコロニー色を示す図面代用写真である。
【図6】 FO-68菌株を培養して得た培養産物の液色を示す図表である。
【図7】 液体培地中で観察されるAureobasidium属の菌糸型細胞の特徴を示す図面代用写真である。
【図8】 本菌体外多糖の部分メチル化アルジトールアセテート誘導体のガスクロマトグラムを示す図表である。
【図9】 本菌体外多糖のマスフラグメントを示す図表である。
【図10】 本菌体外多糖のマスフラグメントを示す図表である。
【図11】 本菌体外多糖のマスフラグメントを示す図表である。
【図12】 本菌体外多糖のマスフラグメントを示す図表である。
【図13】 本菌体外多糖の13CNMRスペクトルを示す図表である。

Claims (4)

  1. オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidiumpullulans)FERM P-19327 株の厚膜胞子の菌形態を誘導する方法。
  2. 請求項1の方法で誘導した厚膜胞子を窒素源が不足した条件下で植え継ぐことにより厚膜胞子を導くオーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)FERM P-19327 株の培養方法。
  3. オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)FERM P-19327 株を培養して物理的処理を行わず得たペレットを混入しない粘調性白色の培養産物。
  4. オーレオバシジウム プルランス(Aureobasidium pullulans)FERM P-19327 株を請求項2の方法にて培養して物理的処理を行わず得た、一定量のβ−1,3−1,6−グルカンを含むペレットを混入しない粘調性白色の培養産物。
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