JP4465853B2 - 耐食性および耐水垢付着性に優れたジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板およびジャーポット用フェライト系ステンレス鋼製容器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ジャーポット(以下、加熱保温容器ともいう)用として好適なフェライト系ステンレス冷延鋼板に係り、とくに耐食性および耐水垢付着性の改善に関する。なお、本発明でいう、「耐水垢付着性」とは、長期間にわたって、容器表面に水垢が付着することを軽減または防止できる特性をいうものとする。
【0002】
【従来の技術】
フェライト系ステンレス鋼は、耐食性に優れ、長期間にわたり美麗な表面光沢を保ち続けるとともに、加工性にも優れるという特性を有している。さらに、フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼にくらべ耐応力腐食割れ性に優れ、しかも高価なNiを多量に含有せず安価であることから、厨房機器、浴槽、家電製品、建材製品等の広範な用途で利用されている。
【0003】
上記した用途のうち、水が関連する用途においては、自然水または水道水に含まれる炭酸カルシウム等の塩類が鋼板表面に析出し、水垢スケールと呼ばれる汚れが発生する場合がある。とくに、ジャーポット等の加熱保温容器では水の沸騰・蒸発が頻繁に行われるため、炭酸カルシウム等の塩類の析出量が多くなる。このため、長期間使用すると、水垢スケールの付着により容器内面の美麗さが損なわれるうえ、衛生上問題があるのではないかという不利な印象を与える懸念がある。
【0004】
水垢スケールの付着を防止する方法としては、従来から容器内面にフッ素樹脂を被覆して撥水性を付与する方法が一般的である。例えば、特開平6-90859号公報には、液体容器内面の少なくとも加熱面に4フッ化エチレン−6フッ化プロピレン共重合樹脂と4フッ化エチレン樹脂とを所定の割合で含有させた被覆を形成した電気湯沸器が提案されている。
【0005】
また、特開平6-38878号公報には、熱可塑性ポリイミド樹脂とポリエーテルサルホン樹脂との重量混合比が0.1/0.9 〜0.9/0.1 である被覆層を加熱水容器内面の少なくとも加熱面に形成してなる電気湯沸器が開示されている。
また、特開平6-62962号公報には、液体容器の内面の少なくとも加熱面に、ポリイミド、ポリサルホン、ポリアクリルサルホンからなる群のなかから選ばれた樹脂を主成分とする第1被覆層と、該第1の被覆層の上にポリイミド、ポリサルホン、ポリアクリルサルホン、ポリエーテルサルホンからなる群のなかから選ばれた樹脂とフッ素樹脂の混合物を主成分とする第2の被覆層とを備えた電気湯沸器が開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような有機樹脂を被覆した容器は、耐水垢付着性の改善にはある程度有効であるが、ステンレス鋼板を容器に使用する場合にはステンレス鋼板本来の金属光沢が失われるという問題があった。さらに加えて、鋼板を容器形状に成形したのち、ショットブラスト処理を施し被覆ラインでバッチ処理により有機樹脂被覆を行う必要があり、製造工程が複雑となり、製造コストの高騰を招くという問題もあった。また、フッ素樹脂等の有機樹脂は、極微量の有害物質を含むともいわれており環境ホルモンの問題が残されている。
【0007】
本発明は、上記した従来技術の問題を解決し、有機樹脂被覆を施すことなく水垢の付着を抑制できる、耐食性および耐水垢付着性に優れたジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板および耐食性および耐水垢付着性に優れたジャーポット用フェライト系ステンレス鋼製容器を提案することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を達成するため、ジャーポットにおける水垢付着状況について、詳細に調査した。その結果、水垢は、ジャーポット表面に炭酸カルシウム(CaCO3 )やSi、Mgを含む化合物が析出して形成されるという知見を得た。また、Ca、Si、Mgを合計で0.0030質量%以上含有する水が存在する環境下では、水の蒸発により水中の成分が濃縮されて、上記した化合物が析出しやすく、また、過飽和に固溶された溶質の析出や溶解したCO2 の放出により水のpHが上昇し、上記した化合物の析出がさらに促進され、水垢が形成されるという知見を得た。
【0009】
本発明者らは、上記した水垢の形成機構から、容器表面の表面粗さを低減し、容器表面を平滑化することに想到した。これにより、水垢を形成する化合物の析出サイトが減少して容器表面への水垢付着が抑制でき、その結果耐水垢付着性が向上するものと考えられる。また、本発明者らは、Si含有酸化物が水垢との接着エネルギーを増加させ、これにより容器表面にSi含有酸化物被膜が存在すると、容器表面と水垢との密着性が増大することを見いだし、耐水垢付着性の向上には、容器用鋼板のSi含有量の低減も重要であるという知見を得た。
【0010】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものであり、その要旨は下記のとおりである。
(1)mass%で、C+N:0.02%以下、Si:0.3 %以下、Mn:0.5 %以下、Cr:11〜35%、P:0.05%以下、S:0.010 %以下、Al:0.02%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有するフェライト系ステンレス冷延鋼板であって、該フェライト系ステンレス冷延鋼板の表面粗さがRyで0.5 μm以下であることを特徴とする耐食性および耐水垢付着性に優れたジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板。
(2)(1)において、前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、NbおよびTiの1種または2種を合計で1.0 %以下および/またはMo:3.0 %以下を含有することを特徴とするジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0010%以下を含有することを特徴とするジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、B:0.0010%以下を含有することを特徴とするジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板。
(5)鋼板を成形加工してなる鋼製ジャーポット容器であって、前記鋼板が、mass%で、C+N:0.02%以下、Si:0.3 %以下、Mn:0.5 %以下、Cr:11〜35%、P:0.05%以下、S:0.010 %以下、Al:0.02%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有するフェライト系ステンレス冷延鋼板であり、前記鋼製ジャーポット容器の表面粗さをRyで0.5 μm以下とすることを特徴とする耐食性および耐水垢付着性に優れたジャーポット用フェライト系ステンレス鋼製容器。
(6)(5)において、前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、NbおよびTiの1種または2種を合計で1.0 %以下および/またはMo:3.0 %以下を含有することを特徴とするジャーポット用フェライト系ステンレス鋼製容器。
(7)(5)または(6)において、前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0010%以下を含有することを特徴とするジャーポット用フェライト系ステンレス鋼製容器。
(8)(5)ないし(7)のいずれかにおいて、前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、B:0.0010%以下を含有することを特徴とするジャーポット用フェライト系ステンレス鋼製容器。
【0011】
【発明の実施の形態】
まず、本発明のフェライト系ステンレス冷延鋼板の鋼組成の限定理由について説明する。以下、mass%は単に%と記す。
C+N:0.02%以下
C、Nは、Crと結合してCr炭窒化物を形成し、耐食性および加工性を劣化させる元素であり、本発明ではできるだけ低減するのが望ましい。C、N含有量の合計C+Nが0.02%を超えると、耐食性および加工性が劣化するため、本発明ではC+Nを0.02%以下に限定した。なお、C、Nはそれぞれ0.01%以下、0.01%以下とするのが好ましい。
【0012】
Si:0.3 %以下
Siは、焼鈍時に鋼板表面に酸化物として濃化しやすく、本発明ではSiは0.3 %以下に限定する。鋼板表面にSi酸化物の被膜が形成されると、水垢との接着力を増加させ、水垢が表面に強く固着されやすくなる。このため、Si含有量を0.3 %以下とすることにより、鋼板表面におけるSi酸化物被膜の形成を抑制できる。なお、好ましくは、0.2 %以下である。
【0013】
Mn:0.5 %以下
Mnは、MnS を形成し、熱間圧延性(熱間加工性)に悪影響を及ぼすSを析出固定し、鋼の熱間圧延性を向上させる有効な元素であるが、過剰な含有は冷間加工性を低下させるため、本発明では0.5 %以下に限定した。なお、より好ましくは0.4 %以下である。
【0014】
Cr:11〜35%
Crは、鋼の耐食性を向上させる元素であり、本発明では11%以上の含有を必要とする。Cr:11%以上の含有で、鋼板表面に強固な不動態被膜が形成され優れた耐食性を示すようになる。Cr含有量の増加に伴い不動態被膜は強固となり耐食性は向上するが、35%を超えて含有すると、靱性が劣化するとともに、熱間加工性や冷間加工性が劣化し、鋼板の製造が困難となる。このため、Crは11〜35%の範囲に限定した。なお、より好ましくは15〜30%である。
【0015】
P:0.05%以下
Pは、加工性、耐食性を劣化させる元素であり、とくに熱間加工性を低下させて鋼板の表面性状を低下させる。このため、本発明では、Pは0.05%以下に限定した。なお、好ましくは、0.04%以下である。
S:0.010 %以下
Sは、介在物として存在し、鋼板の延性を減少させるとともに、耐食性をも劣化させる元素である。またさらにSは、熱間加工性を低下させて鋼板の表面性状を低下させる。このため、本発明では、Sは0.010 %以下に限定した。なお、好ましくは、0.005 %以下である。
【0016】
Al:0.02%以下
Alは、脱酸剤として作用する有効な元素であり、0.003 %以上の含有でその効果が顕著となる。一方、0.02%を超えて含有すると、アルミナ系介在物が増加して、表面疵が発生しやすくなるとともに、耐食性が低下する。このため、Alは0.02%以下に限定した。なお、好ましくは、0.003 〜0.01%である。
【0017】
NbおよびTiの1種または2種を合計で1.0 %以下
Nb、Tiは、いずれもC、Nを固定して加工性、耐食性を向上させる元素であり、必要に応じ選択し単独または複合して含有できる。このような効果は、Nb、Tiが単独、あるいは合計して0.1 %以上であるときに顕著となる。一方、Nb、Tiが単独、あるいは合計して1.0 %を超えると、Nbおよび/またはTiの固溶量が増加し鋼を硬質化させるため、加工性、冷間圧延性が低下する。このため、Nb、Tiの1種または2種は合計で1.0 %以下に限定するのが好ましい。
【0018】
Mo:3.0 %以下
Moは、ジャーポット等の加熱保温容器におけるような環境下で、容器の耐食性を向上させる有効な元素であり、必要に応じ含有できる。しかし、多量の含有は熱間加工性(熱間圧延性)、冷間圧延性および成形性を低下させる。このため、本発明では、Moは3.0 %以下に限定するのが好ましい。なお、より好ましくは0.5 〜2.5 %である。
【0019】
Ca:0.0010%以下
Caは、連続鋳造時のノズル詰まりを防止し、鋼板の表面性状を改善する作用を有しており、必要に応じ含有できる。しかし、過剰な含有は、表面性状の劣化を招くうえ、Caが鋼板表面に濃化し、鋼板表面と水垢の主成分である炭酸カルシウムとの密着性を高め、耐水垢付着性を低下させる。このため、Caは0.0010%以下に限定するのが好ましい。
【0020】
B:0.0010%以下
Bは、微量の含有で二次加工時の割れを抑制する作用を有し、本発明では必要に応じ含有できる。ジャーポット用容器では、鋼板を成形加工し、容器形状にしたのち、底部に二次加工が施される場合がある。このような場合に、二次加工割れを防止するため、Bを含有するのが好ましい。なお、多量に含有すると、かえって割れ感受性が高くなるため、Bは0.0010%以下に限定するのが好ましい。
【0021】
上記した化学成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、O:0.02%以下、Mg:0.1 %以下、Ni:0.5 %以下、Cu:3.0 %以下、V:0.5 %以下が許容できる。
本発明のフェライト系ステンレス冷延鋼板は、上記した鋼組成を有し、さらに表面粗さRyが0.5 μm 以下の表面を有する鋼板である。また、本発明の鋼製ジャーポット用容器は、上記した鋼組成を有し、さらに表面粗さRyが0.5 μm 以下の表面を有するフェライト系ステンレス鋼製容器である。
【0022】
ステンレス鋼板を、ジャーポット用容器へ適用するに際しては、容器の美観性からある程度の表面仕上げを必要とするが、通常、容器が人目につくものでないことから、JIS G 4307に規定されるNo.2B 程度の表面仕上げが施されていた。しかし、この程度の表面仕上げでは、水垢の付着を防止できないことが、本発明者らの研究で明らかにされた。本発明では、鋼板、あるいはジャーポット用容器の表面粗さを、JIS B 0601に規定されるRy(最大高さ)で、0.5 μm 以下に限定した。鋼板表面、あるいはジャーポット用容器表面のRyが0.5 μm を超えると、耐水垢付着性が劣化する。
【0023】
上記した表面粗さの付与は、鋼板段階で、あるいは鋼板をジャーポット用容器に成形した段階で行っても、いずれでもよい。なお、鋼板表面の表面粗さRyの下限値はとくに限定しないが、鋼板段階で表面粗さを調整する場合には、Ry0.03μm 以上とするのが好ましい。鋼板表面のRyが0.03μm 未満では、鋼板を容器に成形する際、とくに絞り加工を行う際に、油切れが生じやすくなり、型かじりが発生しやすくなる。
【0024】
つぎに、本発明のフェライト系ステンレス冷延鋼板の好ましい製造方法について説明する。
上記した組成を有する溶鋼を、転炉、電気炉等による通常公知の溶製方法で溶製し、あるいはさらに取鍋精錬、脱ガス等の精錬を行って、連続鋳造法あるいは造塊法で鋼素材とする。得られた鋼素材は、ついで加熱され、あるいは圧延可能な温度を有する場合には加熱することなく、熱間圧延され、所望の寸法形状の熱延板とされる。なお、熱間圧延条件は、所望の寸法形状が得られる条件であればよく、とくに限定されない。
【0025】
ついで、熱延板は、熱延板焼鈍を施され、好ましくはついで酸洗を施される。熱延板焼鈍は、800 〜1200℃の焼鈍温度で行うのが好ましい。
熱延板焼鈍を施された熱延板は、ついで冷間圧延を施され冷延板とされる。冷間圧延は、累積圧下率50%以上とするのが好ましい。累積圧下率が50%未満では、焼鈍後に高い加工性が付与できない。
【0026】
冷延板は、ついで仕上げ焼鈍を施される。仕上げ焼鈍は、750 〜1200℃の焼鈍温度で行うのが好ましい。仕上げ焼鈍温度が750 ℃未満では、再結晶が十分に進行せず、一方、1200℃を超えると組織が粗大化して軟質になりすぎる。このため、仕上げ焼鈍温度は750 〜1200℃とするのが好ましい。なおより好ましくは、1100℃以下である。また、仕上げ焼鈍は、工程管理上、あるいはコスト低減の観点から、連続焼鈍方式とするのが好ましいが、バッチ焼鈍方式としてもなんら問題はない。なお、仕上げ焼鈍の雰囲気は、酸化性雰囲気あるいは還元性雰囲気とするのが好ましい。
【0027】
また、冷延板は、仕上げ焼鈍後、あるいは仕上げ焼鈍後酸洗を施されたのち、研摩ラインで、研磨を施されるのが好ましい。なお、研磨方法は、とくに限定されないが、Ryで0.5 μm 以下の表面を得るためには、バフ研磨、番手の大きい(仕上がり研磨目が細かい)砥石を用いた鏡面仕上げ研磨、電解研磨等が好適である。これら研磨により、鋼板表面を、Ryで0.5 μm 以下の表面とすることができる。
【0028】
なお、表面粗さの調整は、鋼板を成形加工してジャーポット用容器としたのち行ってもよい。
表面粗さを調整された、冷延板(冷延鋼板)、あるいは仕上げ焼鈍まま、あるいは仕上げ焼鈍後酸洗のまま冷延板(冷延鋼板)は、所望の寸法形状のジャーポット用容器に絞り加工等により成形加工されたのち、付属品等を装着され、製品(ジャーポット)とされる。
【0029】
なお、ジャーポット用容器における、表面粗さの調整は、バフ研磨、番手の大きい(仕上がり研磨目が細かい)砥石を用いた鏡面仕上げ研磨、電解研磨等がいずれも好適である。
【0030】
【実施例】
表1に示す組成の溶鋼を転炉−VODで溶製し、連続鋳造法により200mm 厚のスラブ(鋼素材)とした。ついで、これらスラブ(鋼素材)を、加熱温度:1150〜1250℃とする熱間圧延により板厚:3.6mm の熱延板とした。
これら熱延板に、焼鈍温度:800 〜1050℃の熱延板焼鈍を施したのち、ショットブラスト処理を施し、20%硫酸水溶液(液温:80℃)中に60s間浸漬し、ついで3vol.%弗酸+15vol.%硝酸水溶液(液温:60℃)中に30s間浸漬する酸洗処理を施した。
【0031】
その後、これら熱延焼鈍板に、冷間圧延を施し板厚:0.7mm の冷延板とした。さらに、これら冷延板に、表2に示す温度、雰囲気中で仕上げ焼鈍を施したのち、仕上げ焼鈍済冷延鋼板の表面粗さを、圧延、研磨等により調整した。表面粗さの調整は、表2に示すように、スキンパス圧延、バフ研磨、鏡面仕上げ研磨、電解研磨、#400 研磨を用いた。
【0032】
各種表面粗さに調整された冷延鋼板について、表面粗さ測定試験、水垢付着性試験、耐食性試験、表面性状の調査を実施し、冷延鋼板の耐食性、耐水垢付着性、表面性状を評価した。
(1)表面粗さ測定試験
各冷延鋼板について、JIS B 0601の規定に準拠して二次元の接触式表面粗さ計を用いて、圧延方向および圧延方向に直交する方向について表面粗さ曲線を測定し、最大高さRyを求めた。なお、測定は各冷延鋼板の5個所について行い、得られたそれぞれの最大高さRyの平均値をその冷延鋼板のRyとした。
(2)水垢付着性試験
各冷延鋼板から試験片(板厚tmm×50mm×50mm)を採取し、これら試験片を、水1l に対しCa、Mg、Siをそれぞれ30mg溶解し硬度を高めた水溶液中に浸漬し、8h沸騰保持したのち、室温まで冷却する熱履歴を1サイクルとし、このサイクルを10サイクル行った後、試験片を取り出し、風乾した。ついで、該試験片に粘着テープを張りつけ剥がしたのち、試験片表面に残留する水垢量(面積率)を測定し、この残留水垢量により、耐水垢付着性を評価した。残留する水垢量が多いほど水垢と鋼板との密着度が大きく、耐水垢付着性が劣ることになる。耐水垢付着性の評価は、残留水垢量が面積率で、20%未満の場合を◎(極めて良好)、20%以上40%未満を○(良好)、40%以上を×(不良)とした。
(3)耐食性
各冷延鋼板から試験片(板厚tmm×100mm ×150mm )を採取し、これら試験片について、塩水噴霧試験を実施し耐食性を評価した。塩水噴霧試験(SST)は、試験片に、30℃の5%NaCl水溶液を24h噴霧後、試験片に発生した発錆点の数を測定した。耐食性は、発錆点の数によりA〜Eの5段階で評価した。発錆点の数が、50個/m2未満をA、50個/m2以上100 個/m2未満をB、100 個/m2以上150 個/m2未満をC、150 個/m2以上200 個/m2未満をD、200 個/m2以上をEとした。なお、評価AおよびBを合格とした。
(4)表面性状の調査
各冷延鋼板の全長にわたり、表面性状を目視で観察し、表面疵の個数を測定した。表面性状は、表面疵個数(個/コイル)により3段階で評価した。表面疵個数が5個/コイル未満をA、5個/コイル以上10個/コイル未満をB、10個/コイル以上をCとした。評価AおよびBを合格とした。
【0033】
得られた結果を表2に示す。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
本発明例はいずれも、耐食性、耐水垢付着性に優れ、さらに表面性状にも優れた冷延鋼板となっている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、耐食性、耐水垢付着性、表面性状のうちの少なくとも一つが劣化している。表面粗さが本発明範囲を高く外れる比較例(鋼板No.1、No.5、No.6、No.18 、No.22 )では、耐水垢付着性が劣化している。また、Si含有量が本発明範囲を外れる比較例(鋼板No.16 、No.23 )では、耐水垢付着性が劣化している。また、Cr、C+N、Mn、P、S含有量がそれぞれ本発明範囲を外れる比較例(鋼板No.14 、No.15 、No.17 、No.19 、No.20 )では、耐食性が劣化している。また、Al、P、S、Ti含有量がそれぞれ本発明範囲を外れる比較例(鋼板No.18 、No.19 、No.20 、No.21 )では、表面性状が劣化している。
【0037】
【発明の効果】
本発明によれば、表面性状、耐食性に優れ、かつ水垢の付着しにくい耐水垢付着性に優れたフェライト系ステンレス冷延鋼板が製造でき、これにより、有機樹脂被覆を必要としないジャーポット用容器が安価に製造可能となり、産業上格段の効果を奏する。また、本発明になるジャーポット用容器は、有機樹脂被覆を含まないため、地球環境の保護の観点からも有利となる。
Claims (5)
- mass%で、
C+N:0.02%以下、 Si:0.3 %以下、
Mn:0.5 %以下、 Cr:11〜35%、
P:0.05%以下、 S:0.010 %以下、
Al:0.02%以下
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有するフェライト系ステンレス冷延鋼板であって、該フェライト系ステンレス冷延鋼板の表面粗さがRyで0.5 μm 以下であることを特徴とする耐食性および耐水垢付着性に優れたジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板。 - 前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、NbおよびTiの1種または2種を合計で1.0 %以下および/またはMo:3.0 %以下を含有することを特徴とする請求項1に記載のジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板。
- 前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、Ca:0.0010%以下を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板。
- 前記鋼組成に加えてさらに、mass%で、B:0.0010%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載のジャーポット容器用フェライト系ステンレス冷延鋼板。
- 鋼板を成形加工してなるジャーポット用鋼製容器であって、前記鋼板が、mass%で、
C+N:0.02%以下、 Si:0.3 %以下、
Mn:0.5 %以下、 Cr:11〜35%、
P:0.05%以下、 S:0.010 %以下、
Al:0.02%以下
を含有み、あるいはさらに、NbおよびTiの1種または2種を合計で1.0 %以下および/またはMo:3.0 %以下、および/またはCa:0.0010%以下、および/またはB:0.0010%以下を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼組成を有するフェライト系ステンレス冷延鋼板であり、前記ジャーポット用鋼製容器の表面粗さをRyで0.5 μm以下とすることを特徴とする耐食性および耐水垢付着性に優れたジャーポット用フェライト系ステンレス鋼製容器。
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