JP4461513B2 - アルミニウム−炭化珪素系複合材料およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高熱伝導性の炭化珪素粉末、同粉末粒子を金属マトリックス中に分散させた各種装置・機器、特に半導体装置の放熱基板に有用な複合材料および同複合材料を用いた半導体装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年半導体装置の高速演算・高集積化に対する市場の要求は急速に高まりつつある。それとともに、同装置の半導体素子搭載用放熱基板には、同素子から発生する熱をより一層効率良く逃がすため、その熱伝導率のより一層の向上が求められてきた。さらに同素子ならびに同基板に隣接配置された同装置内の他の部材(周辺部材)との間の熱歪みをより一層小さくするために、より一層それらに近い熱膨張係数を有するものであることも求められてきた。 具体的には、半導体素子として通常用いられるSi、GaAsの熱膨張係数がそれぞれ4.2×10-6/℃、6.5×10-6/℃であり、半導体装置の外囲器材として通常用いられるアルミナセラミックスのそれが6.5×10-6/℃程度であることから、同基板の熱膨張係数はこれらの値に近いことが望まれる。
【0003】
また近年のエレクトロニクス機器の応用範囲の著しい拡張にともない、半導体装置の使用範囲はより一層多様化しつつある。その中で、高出力の交流変換機器・周波数変換機器等のいわゆる半導体パワーデバイス機器への利用が増えつつある。これらのデバイスでは、半導体素子からの発熱が半導体メモリーやマイクロプロセッサーに比べ数倍から数十倍(通常例えば数十W)にも及ぶ。このためこれらの機器に使われる放熱基板は、その熱伝導率を格段に向上させるとともに、その熱膨張係数の周辺部材のそれとの整合性を高めることが重要である。したがってその基本構造も、通常は例えば以下のようになっている。まずSi半導体素子を第一の放熱基板である高熱伝導性の窒化アルミニウム(以下単にAlNとも言う)セラミック基板上に載せる。次いでその第一の放熱基板の下に銅等のより高熱伝導性の金属からなる第二の放熱基板を配置する。さらにこの第二の基板の下に、これを水冷または空冷可能な放熱機構を配置する。以上のような構造によって外部に遅滞なく熱を逃がす。したがって複雑な放熱構造とならざるを得ない。この構造においては、第一の放熱基板であるAlNセラミックスに170W/m・K程度のものを用いるとすると、第二の放熱基板は、この第一の基板から伝達された熱をその下の放熱機構に遅滞なく逃がす必要がある。このため第二の基板としては、室温で少なくとも200W/m・K以上の高い熱伝導率と第一の基板との熱膨張係数の整合のため、10×10-6/℃以下、特に8×10-6/℃以下の低い熱膨張係数を有するものが要求される。
【0004】
またこのような基板には、従来より例えばCu−W系やCu−Mo系の複合合金からなるものが用いられてきた。これらの基板は、原料が高価なためにコスト高になるとともに重量が大きくなるという問題があった。そこで、最近は安価で軽量な材料として各種のアルミニウム(以下単にAlとも言う)複合合金が注目されるようになってきた。中でもAlと炭化珪素(以下単にSiCとも言う)を主成分とするAl−SiC系複合合金は、それらの原料が比較的安価であり、軽量かつ高熱伝導性である。なお通常市販されている純粋なAl、SiC単体の密度は、それぞれ2.7g/cm3程度、3.2g/cm3程度、熱伝導率は、それぞれ240W/m・K程度、200〜300W/m・K程度までであるが、さらにその純度や欠陥濃度を調整すれば、その熱伝導率のレベルはさらに向上するものと思われる。そのため、特に注目されている材料である。また純粋なSiC単体、Al単体の熱膨張係数はそれぞれ4.2×10-6/℃程度、24×10-6/℃程度であり、それらを複合化することによって、その熱膨張係数が広い範囲で制御可能となる。したがってこの点でも有利である。
【0005】
かかるAl−SiC系複合合金およびその製造方法については、(1)特開平1−501489号公報、 (3)特開昭61−222668号公報および(4)特開平9−157773号公報に開示されている。(1)は、SiCとAlの混合物中のAlを溶融させて鋳造法によって固化する方法に関するものである。 (3)は、SiC多孔体の空隙にAlを溶浸する方法に関するものであり、加圧下でAlを溶浸する、いわゆる加圧溶浸法に関するものである。また(4)は、SiCとAlの混合粉末の成形体かまたはそれをホットプレスしたものを型内に配置し、これを真空中、Alの融点以上の温度で液相焼結する方法に関するものである。本発明の複合材料の製造方法は、アルミニウムまたは銅を主成分とする金属からなる第一成分と、炭化珪素粉末を主成分とする第二成分とからなる原料を準備する工程と、同原料を混合して混合物とする工程と、同混合物を成形し成形体とする工程と、同成形体をアルミニウムまたは銅を主成分とする金属の融点未満の温度下、雰囲気圧力1×10−3Torr以下の真空中で加熱し、熱処理体とする工程と、該熱処理体をアルミニウム又は銅を主成分とする金属の融点以上の温度で焼結し、焼結体とする工程とを含む。なおこの熱処理体とする工程の雰囲気圧力が、1×10−4Torr以下であればより好ましい。
【0006】
特開平10−335538号公報には、(5)液相焼結法によって得られ、その熱伝導率が180W/m・K以上のアルミニウム−炭化珪素系複合材料が開示されている。この複合材料は、例えば10〜70重量%の粒子状SiC粉末とAl粉末との混合粉末を成形した後、99%以上の窒素を含み、酸素濃度が200ppm以下、露点が−20℃以下の非酸化性雰囲気中、600〜750℃で焼結する工程によって得られる。また、特開平10−280082号公報には、(6)その熱膨張係数が18×10-6/℃以下、その熱伝導率が230W/m・K以上であり、焼結後の寸法が実用寸法に近い、いわゆるネットシェイプなアルミニウム−炭化珪素系複合材料も提示している。本発明者等は、特願平11−28940号にて、(7)常圧焼結法とHIP法とを組み合わせた同複合材料の製造方法を提案している。それによれば、例えば粒子状SiCを10〜70重量%混合したAl−SiC系混合粉末の成形体を、窒素ガスを99%以上含む非酸化性雰囲気中、600℃以上、Alの溶融温度以下の温度範囲で常圧焼結し、その後金属容器に封入して700℃以上の温度でHIPすることによって、均質でその熱伝導率が200W/m・K以上のアルミニウム−炭化珪素系複合材料が得られている。
【0007】
さらに(8)特開平9−157773号公報には、Al粉末とSiC粉末との混合物をホットプレスし、成形と焼結とを同時に行う方法が開示されている。その方法は、Al10〜80体積%、残部SiCの混合粉末を成形し、Alの溶融点以上の温度下500kg/cm2以上の圧力でホットプレスするものである。この方法によって150〜280W/m・Kの熱伝導率のアルミニウム−炭化珪素系複合材料が得られている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
以上述べたような複合材料を大きな放熱量を要求される基板、特に半導体パワーデバイス用の基板のように実用サイズが比較的大きく放熱量の多い放熱基板として使用するためには、以下に述べる解決すべきいくつかの課題が残っている。例えば上記(1)に記載のAl−SiC系複合材料の製造方法では、Al溶湯を鋳型に流し込み、SiC粒子を分散させて固化する鋳造法を用いる。したがってAlとSiCの密度差により冷却時に成形体中のSiC粒子の偏析が生じ、固化体の組成が不均一になり易い。このため固化体の表面がAlまたはAl合金からなる被覆層(以下この層をAl被覆層とも言う)により覆われるのは避けられない。通常この被覆層の厚みは、固化体の表面の部所によってかなりばらつく。さらにこの被覆層からなる固化体の表面部とその内部との間では熱膨張係数にかなり差があるため、両者の界面に熱が伝わるとそこに熱応力が生じることになる。 それ故この被覆層を残してこの素材を半導体素子搭載用の放熱基板に用いると、発生した熱応力によって基板に反りや変形が生じ、その結果半導体素子や周辺部材と基板との間に亀裂が生じたり、半導体素子や周辺部材が変形したり、破壊したりする。したがって、この被覆層は予め完全に除去する必要がある。しかもこの除去は、上記のように被覆層の厚みにばらつきがあるため、軟質延性のAlを主成分とする相と剛性の高いSiCを含む相とが共存する部分の加工となる。したがって難加工となる。
【0009】
上記(2)および(3)のAl−SiC系複合材料の製造方法では、AlがSiC多孔体の空隙に溶浸される。この場合鉄鋼の鋳造時に発生するような溶融Alの引け巣を防ぎ、またSiCの空隙内にAlを完全に充填して緻密な複合合金を得る必要がある。このため通常SiC多孔体の外周に過剰なAlが溶浸剤として配置される。溶浸後この過剰なAlが溶浸体の外周に溶出固着し、その除去に多大の手間がかかる。また予めAlとSiCを主成分とする混合粉末を成形し、焼結する上記(5)に記載された方法でもAlの融点を越える温度で焼結すると、軽度ではあるがこれと同じ現象が生じる。
【0010】
そこでこのような外周へのAlの溶出固着を防止するために、上記(6)に記載されたように、Alを溶浸する前にSiC多孔体の外周にその溶出防止剤と同溶浸を促す溶浸促進剤との混合物からなる薄い層を塗布・形成することも一策ではある。しかしながらこれらの層の塗布および溶浸後の除去には手間がかかる。
【0011】
また上記(3)の加圧溶浸法では、一軸加圧可能な型内にSiC多孔体を配置し、その上部にAlまたはAl合金を置いて、真空中でAlを溶融させつつこれを外部から一軸加圧してSiC多孔体内に強制的に充填する工程を踏む。この場合最終的に溶浸体は温度勾配をつけて下部から徐々に冷却する。この時溶浸体内部のSiC骨格部とAlによって充填された部分の熱膨張係数の差が大きいために、冷却時にAlが溶浸体内に引けてAlが未溶浸の部分(上述の引け巣に相当する)ができ易い。したがって、冷却時の温度勾配と加圧・加熱のプログラムとを同時に精度良く制御できる複雑な制御機構が必要になる。したがってその装置はかなり高価なものとなる。
【0012】
さらに上記(4)に記載された型内ホットプレスによる方法では、以下に述べるような生産上・品質上の問題がある。例えばホットプレス装置に連続式のものを用いると、真空雰囲気にするとともにその温度をAlの溶融点以上に上げるため、型の外への溶融物の流出を抑える必要がある。したがって成分量のばらつきを抑え目的とする均一組成のものを得ようとすると、非常に高価な製造装置が必要となる。一方同装置をバッチ式にする場合には、溶融物の型外への流出は、連続式のものに比べいくぶん抑えることはできる。しかしその一方で成形体の型への装填、所定の温度プログラムでの保持と冷却の一連の工程を断続的に繰り返すことになるため、この方式は生産性に欠ける。
【0013】
以上詳述したように、従来のAl−SiC系に代表される金属−SiC系の複合材料の製造には品質上・生産上のいくつかの課題をかかえている。したがってAl−SiC系の複合材料は、特に半導体パワーモジュールのような高い放熱性を要求される基板の一つとして、その性能面で最近有望視されているにもかかわらず、従来から行われてきた鋳造法、溶浸法、焼結法、ホットプレス法やそれらを組み合わせたいずれの方法でも満足のゆく本来の性能レベルのものは得られていない。
【0014】
本発明者等は、上記した従来の課題を解決するために、特にSiC量の多い組成域の熱伝導性の向上を重点に置いて研究を重ねてきた。その結果、既に特願平10−260003号で紹介したように、予め不純物を減らしたSiC粉末を準備し、これとアルミニウムまたはアルミニウム合金との混合物を熱間鍛造することによって、この課題克服の見通しを得た。この手段では加熱時間が長くなればなるほど、両成分粒子間に生成する低熱伝導性の炭化アルミニウムの量が増えるため、加熱時間はできるだけ短くしている。このため鍛造前の成形体は、蓄熱量が少ない。また一旦溶融したアルミニウムまたはアルミニウム合金が、SiC粒子表面を十分に濡らしていない場合もある。それ故これを量産した際に、鍛造型に移す時間がばらついて眺めになると、成形体の温度がアルミニウムの融点以下に下がり易く、鍛造圧力を上げないとアルミニウムがSiC粒子間に十分に回り込まず、緻密な鍛造体が得られないこともあった。特にSiC量が50重量%以上の場合には、例えば9ton/cm2以上の高い圧力を加えないと、アルミニウムとSiC粒子との間に隙間(気孔)が残り、その結果熱伝導率が、大幅に(例えば200W/m・K未満に)低下することもあった。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、上記した量産時の熱間鍛造条件のばらつきによって生じる気孔の形態を制御し、SiC量の多い組成域の熱伝導性の低下を最小限に抑えることである。すなわち本発明の提供するアルミニウム−炭化珪素系複合材料は、炭化珪素を50〜85重量%含み、気孔率が1〜4%、25℃の熱伝導率が230W/m・K以上である複合材料である。本発明には、この複合材料を用いた半導体装置も含まれる。
【0016】
本発明の複合材料の第一の製造方法は、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第一成分と、SiC粒子からなる第二成分とを主成分として含む混合粉末を調製する工程と、同混合粉末を成形し成形体とする工程と、同成形体を第一成分の融点以上の温度で加熱して開気孔率が閉気孔率より高い多孔質の焼結体とする工程と、同焼結体を熱間鍛造する工程とを含む。また本発明の第二の製造方法は、以上の方法において、多孔質の焼結体を得た後、同焼結体を真空下で容器に密封して封入体とする工程と、同封入体を第一成分の融点以上の温度で熱間静水圧成形する工程とを含む。
【0017】
さらに本発明の焼結体とする工程において、焼結体の閉気孔率を7%以下、さらには5%以下に制御する方法が、本発明には含まれる。またさらに上記の焼結体とする工程または熱間静水圧成形する工程の加熱温度が、前記第一成分の融点より50〜250℃高い温度範囲内にある方法も、本発明には含まれる。
【0018】
【発明の実施の形態】
特願平10−260003号で紹介した方法では、短時間加熱された後の鍛造前の成形体には、開気孔とともに特にSiC粒子の隙間に閉気孔が多く存在する。このような閉気孔の多い成形体を再び第一成分の融点以上の温度で加熱し鍛造すると、閉気孔中のガスが外部に放出され難い。ただし前述のような十分高い圧力が加えられるとガスはそこから追い出されるとともに、SiC粒子の隙間に第一成分が侵入して緻密化される。しかし第一成分の一部が固化している場合には、閉気孔中のガスはそのまま残り、鍛造後の固化体中に両主成分粒子が互いに濡れていない巣が発生する。このため鍛造体の熱伝導率は大幅に低下する。
【0019】
本発明では、最終固化工程である鍛造工程や熱間静水圧成形工程に先だって焼結を行って予め閉気孔を減らし、開気孔率が閉気孔率よりも高い多孔質の焼結体を調製する。これによって固化工程後に残り易い閉気孔を減らし、固化した後に気孔が残っても優れた熱伝導性のものが得られる。この過程は以下のようになる。
焼結工程で溶融したAlを含む第一成分とSiC粒子との濡れは、式(1)のように炭化アルミニウム(Al4C3)を形成しながら進むため、比較的濡れ性が良い。
SiC(固)+4Al(液)→Al4C3(固)+3Si(固) 式(1)
この過程で溶融した第一成分は、SiC粒子の隙間に侵入しながら濡れるが、溶融した第一成分の表面張力が小さいほど、これは促進される。温度Tでの第一成分の融液の表面張力γ′は、式(2)で示される。
γ′=γ′0+(T−T0)(dγ′/dT) 式(2)
ここでγ′は、温度T0(第一成分の融点)での表面張力である。純Alの場合、T0は650℃であり、またdγ′/dTおよびγ′0はそれぞれ−0.35m・N/m・K程度および914m・N/m程度である。これらは第一成分の組成が決まれば決まる。したがって第一成分の融液の表面張力は、その融液からの温度差(T−T0)で決まる。
【0020】
焼結温度が上がれば上がるほど、第一成分の融液の表面張力は下がり、より一層均一にSiC粒子表面を濡らす。その結果閉気孔は減り、開気孔が増える。その様子を模式的に図1に示す。同図において灰色の粒子1はSiCの粒子、黒色の粒子2は第一成分の粒子である。(1)は焼結の始まる前の成形体であり、両粒子間には閉気孔3が多数存在する。(2)は焼結後の状態であり、第一成分は溶融しSiC粒子の表面の一部を濡らしており、開気孔4が生成している。図2は、SiC粉末70重量%とAl粉末30重量%とからなる混合物を8ton/cm2の圧力で成形し、これを窒素中純Alの融点650℃から900℃の温度範囲で2時間加熱焼結した場合、同焼結体中に生成する気孔率の変化を示す。同図から明らかなように、例えば650℃での焼結体は開気孔率が6.7%、閉気孔率が9.6%であるが、750℃に上がると開気孔率は11.9%に増加し、一方閉気孔率は5.7%に減少する。さらに900℃に上がると、開気孔率は12.7%、閉気孔率は4.9%に減少する。このような作用は、主にSiCの量が50〜85重量%の組成域で生じる。50重量%未満では、第一成分の体積比率が大きくなるため、成形や鍛造での加圧によって比較的容易に第一成分の粒子同士が接触するので熱伝導性への閉気孔の影響は小さい。一方85重量%を越えると、第一成分の体積比率が小さく焼結による上記の効果が小さくなる。
【0021】
開気孔率の高い焼結体は、図1の(2)のようにSiC粒子の周囲を第一成分が密着して覆っている。このため鍛造時の加圧によって、溶融した第一成分同士が接触する部分が顕著に多くなる。そのため焼結体の温度が、第一成分の融点以下に下がっても、同成分同士の接触部分では固相反応によって互いに密着する。そのため複合材料の熱伝導性を損ねることが無い。なお本発明の焼結体とする工程においては、焼結体の閉気孔率を7%以下とするのが熱伝導性向上には望ましく、さらには5%以下とするのがより望ましい。
【0022】
前記したように、閉気孔率を下げるためには基本的に焼結温度(TS)と第一成分の融点(T0)の間の温度差を大きくすればよい。しかしながら温度が上がるほど式(1)の反応が進み、炭化アルミニウムが生成し熱伝導性を低下させるとともに、開気孔率の上昇効果も飽和する。したがって本発明の焼結温度は、第一成分の融点T0より50〜250℃高い温度範囲内に制御するのが望ましい。よりのぞましくは60〜150℃高い温度範囲内である。保持時間は30分程度で十分であり、3時間を越えると式(1)の反応が進み熱伝導性の低下が顕著になることが多い。なお本発明の第二の製造方法の固化工程である熱間静水圧成形時の温度についても、同じ理由によりこれと同じ温度範囲とするのが望ましい。例えばこの望ましい焼結温度の範囲は、第一成分が純Alであれば、T0が650℃であるから700〜900℃であり、より望ましくは710〜850℃である。また第一成分が例えばSiを5重量%含む合金であれば、T0が580℃であるから630〜830℃であり、より望ましくは640〜730℃である。
【0023】
なお本発明の複合材料の製造方法では、前述のように成形体を焼結する前に第一成分と第二成分とを主成分として含む混合粉末を調製する工程と、同混合粉末を成形し成形体とする工程とを含む。原料の第一成分および第二成分の粉末は、市販のものでもよいが、最終的な熱伝導性を高めるためには、可能な限り純度の高いものを用いるのが好ましい。第二成分のSiC粉末は、主な結晶型が熱伝導性に優れた6H型や4H型であり、鉄のような遷移金属(陽イオン)不純物や酸素量の少ないものが好ましい。特に原料SiC粉末中の鉄(Fe)の量は、100ppm以下、特に50ppm以下であるのが好ましい。これらの成分は、SiC粒子中の積層欠陥や転移密度を増加させるだけでなく、それら自体がフォノンを散乱させSiC結晶粒子の熱伝導率を低下させるからである。このような粉末は、市販の粉末に適切な酸処理や熱処理を加えることのによって得られる。第一成分の粉末も可能な限り同様の不純物の少ないものが好ましい。
【0024】
本発明の原料粉末の混合工程および混合粉末の成形工程は、通常の方法であればよい。また本発明の焼結後の固化工程は、第一の製造方法では前記の方法によって得られた焼結体を予熱された金型に入れて熱間鍛造する。第二の製造方法では同焼結体を真空下で容器に密封した後、これを第一成分の融点以上の温度、好ましくは前述の温度範囲内で熱間静水圧成形(HIP)する。その際のガス圧は、100気圧(約103kg/cm2)以上が望ましい。なお密封に使う容器は、700℃以上の温度に耐え、溶融した第一成分と反応せず、また処理後の固化体との分離が容易なものが望ましい。例えばステンレス鋼や軟鋼のような鉄系材料、銅もしくは銅合金のような材料が用いられる。固化体(処理体)と容器との分離を良くするためには、容器と焼結体との間にセラミックス材を介在させて置いてもよい。焼結体の容器への装入は、容器をそれに密着させる真空封入が望ましい。
【0025】
以上の方法によって得られる本発明の複合材料は、SiCを50〜85重量%含み、気孔率が1〜4%、25℃の熱伝導率が230W/m・K以上である。また前述のように、予め不純物や欠陥の量を低下させたSiC粉末を用いることによって、25℃の熱伝導率が260W/m・K以上の複合材料も得られる。このような複合材料からなる部材は、優れた熱伝導性を有するとともに、半導体装置に用いられる半導体素子やその周辺部材との熱膨張係数の整合性が良い。このため本発明の複合材料からなる部材を同装置の構成材として用いることにより、実用上高い信頼性の半導体装置が提供できる。
【0026】
【実施例】
実施例1
平均粒径が50μmで、表1に記載の結晶型とFe含有量のSiC粉末と、平均粒径が25μmで、同表に記載の種類の第一成分の粉末とを同表記載の各試料毎の配合量にて、それぞれ秤取した。これらの粉末にバインダーとして3重量%パラフィンを添加した後、SiC内張りのポットとSiCボールを用い、エタノール中でボールミル混合した。なお表1の試料20〜25の第一成分は、5重量%のSiを含むアルミニウム合金である。得られたスラリーを噴霧乾燥して各混合粉末の顆粒を調製した。これらの粉末を圧力7ton/cm2で、外径100mm、厚み20mmの成形体を作製し、その後窒素気流中バインダーを除き、さらに表1に記載の焼結条件で焼結した。次いで焼結体の開気孔率を水銀圧入法によって実測した。またその寸法から出した体積と実測重量から嵩密度を算定し、その値から全気孔率を出した。閉気孔率は、それらの差とした。これらの結果を表1に示す。
【0027】
その後各焼結体を高周波誘導加熱炉内に配置し、空気中表1の「鍛造」欄に記載の加熱温度(焼結体の温度)まで600℃/分の昇温速度で昇温して10秒間保持した。その後250℃に予熱した型内に装入し、表1に記載の圧力で熱間鍛造した。各鍛造体を用いて、それらの相対密度(水中法によって実測した密度を理論密度で割った値)、その値から全気孔率を確認した。またレーザーフラッシュ法によって25℃の熱伝導率を、差動トランス法によって熱膨張係数をそれぞれ確認した。その結果も表1に示す。
【0028】
なお表1には記載しないが、別途試料11の成形体を高周波誘導加熱炉内に配置して、上記と同じ昇温速度で昇温し660℃で10秒間保持し、その後試料11と同じ条件で熱間鍛造した。この試料を上記同様に評価したところ、相対密度は100%、25℃の熱伝導率は260W/m・Kであった。なお同じ成形体を圧力5ton/cm2未満で熱間鍛造したものでは、相対密度は99.2%、25℃の熱伝導率は242W/m・Kであった。このように成形体を焼結しなくても鍛造時の温度を第一成分の融点以上とすれば、高い熱伝導性のものが得られる。さらに試料9と同じSiC原料粉末を予めフッ硝酸(フッ酸と硝酸の混合水溶液)に浸漬して陽イオン不純物、特にFeの量を10ppm以下にした粉末を用い、試料9と同じ成形、焼結、熱間鍛造の条件で作製された鍛造体は、相対密度が試料9と同じ98.8%であったが、25℃の熱伝導率は268W/m・Kであった。
【0029】
【表1】
【0030】
以上の結果から以下のことが分かった。まず(1)成形体を焼結しないか、または第一成分の融点未満の温度で焼結すると、閉気孔率が開気孔率よりも高い多孔質の焼結体が得られる。これらの焼結体は、第一成分の融点未満の温度で熱間鍛造すると、気孔率(表1の全気孔率に同じ)は4%を越え、25℃の熱伝導率は230W/m・K未満となる(試料11、12および20)。一方(2)成形体を第一成分の融点以上の温度で焼結すると、閉気孔率が開気孔率よりも低い焼結体が得られる。これらの焼結体は、第一成分の融点未満で熱間鍛造したとしても、鍛造後の気孔率は4%以下となる。この場合SiC量50〜85重量%の組成域で、気孔率1〜4%かつ25℃の熱伝導率は230W/m・K以上となる(試料2〜6)。SiC量が50重量%未満かまたは85重量%を越えると、25℃の熱伝導率は230W/m・K未満となる。前者は、気孔率は低いが熱伝導率の高いSiCの量が少なくなるため、また後者は、SiCの量が多くなり第一成分の融点以下では緻密化が進まないためである。
【0031】
また(3)第一成分が純Alの場合、熱伝導性を高めるには700〜900℃(純Alの融点より50〜250℃高い温度範囲)で焼結するのが望ましく、710〜850℃の温度範囲がさらに望ましい(試料13〜19)。
このような気孔率ならびに熱伝導性と焼結温度との関係は、第一成分がAl合金であっても同様である(試料20〜25)。なお第一成分の合金元素としてSi以外に周期律表のIa〜VIIa族、VIII族およびIIIb〜IVb族の各元素成分を少量添加した場合も、Siの場合とほぼ同様な結果が得られた。さらに(4)熱伝導性向上のためには、0.5時間の焼結時間までで十分であり、3時間を越えると気孔率は下がるものの第一・第二両成分間の反応が進むため、その向上は余り見込めない(試料26〜28)。またさらに(5)熱間鍛造の焼結体の温度(表1の加熱温度欄に記載の温度)が第一成分の融点以上であると、鍛造後は100%緻密化し、25℃の熱伝導率は260W/m・Kを越える(試料30)。
【0032】
実施例2
実施例1の焼結段階の試料の内表2に記載のものを使い、これらを焼結体と相似形状(ディスク形状)で厚みが0.2mmのSUS304の容器に、薄いアルミナの層を介挿して真空下で密着封入した。その後これらの封入体を熱間静水圧成形(HIP)装置内に置いて、表2の温度と圧力にて30分間HIP処理した。
これらの処理体を実施例1と同様に評価し、その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
以上の結果から、以下のことが分かった。まず(1)成形体を容器に封入して第一成分の融点以上の温度でHIP処理するか、または第一成分の融点以上の温度で焼結したものを、同様に容器に封入して第一成分の融点未満の温度でHIP処理すると、処理体の25℃の熱伝導率は230W/m・K未満となる(試料40および41)。一方(2)成形体を第一成分の融点以上の温度で焼結し、これらの焼結体を第一成分の融点以上の温度で容器に封入後HIP処理すると、処理後の気孔率は4%以下になる。その場合SiC量が50〜85重量%の組成域で、気孔率が1〜4%の範囲内であり、25℃の熱伝導率が230W/m・K以上となる(試料34〜38)。SiC量が50重量%未満かまたは85重量%を越えると、25℃の熱伝導率が230W/m・K未満となる(試料33および39)。前者は、気孔率は低いが熱伝導率の高いSiCの量が少なくなるため、また後者は、SiC量が多くなって緻密化が進み難いためである。また(3)熱伝導性を高めるためには、第一成分の融点より50〜250℃高い温度範囲で焼結したものを容器に封入して、同じ範囲内の温度でHIP処理するのが望ましい(試料42〜45)。またさらに(4)熱伝導性向上のためには、HIP処理の圧力は100気圧以上が好ましい。
【0035】
実施例3
実施例1の試料2、5、6、15、16、23および30と、実施例2の試料36、43および48と同じ製法で得た焼結体50個ずつを長さ200mm、幅200mm、厚み3mmの基材に仕上げ加工した。これを図3に模式的に示すようなパワーモジュールに放熱基板として実装して、各実装段階も含めて温度サイクル試験を行った。図3において、6は本発明の上記複合材料からなる第二の放熱基板、7は同基板上に配置され、その上面に(図示しないが)銅回路が形成されたセラミックスからなる電気絶縁性の第一の基板、8はSi半導体素子、9は第二の放熱基板の下に配置された放熱構造体である。なおこのジャッケットは、本実施例では水冷ジャケットであるが、他に空冷のフィン等もある。なお同図には半導体素子周辺の配線等については省略してある。本実施例では、Si半導体素子を第一のセラミックス製基板を介して6個搭載したモジュールとした。
【0036】
実装に先立ち第二の基板に直接第一の基板を半田付けできないため、第二の基板の主面に予め平均厚み5μmの無電解ニッケルメッキ層と平均厚み3μmの電解ニッケルメッキ層を形成した。この内各4個の試片は、ニッケルメッキ上に直径5mmの半球状のAg−Sn系半田によって直径1mmの銅線をメッキ面に垂直な方向に取り付けた。この試片の基板本体を治具に固定して銅線を掴みメッキ面に垂直な方向に引っ張り、基板へのメッキ層の密着強度を確認した。その結果いずれの基板のメッキ層も1kg/mm2以上の引っ張り力でも剥がれなかった。またメッキ層が形成された別の試片の内から10個を抜き取って、−60℃で30分保持、150℃で30分保持の昇降温を1000サイクル繰り返すヒートサイクル試験を実施し、試験後上記と同様の密着強度を確認したところ、いずれの試片もメッキの密着性で上記レベルを満足する結果が得られた。以上の結果より本発明の複合材料からなる基板へのメッキの密着性は、実用上問題の無いレベルであることが判明した。
【0037】
次に第二の基板上に搭載するセラミックス製の第一の基板として、熱伝導率が150W/m・K、熱膨張係数が4.5×10-6/℃、3点曲げ強度450MPaの窒化アルミニウムセラミックス製の基板Aおよび熱伝導率が120W/m・K、熱膨張係数が3.7×10-6/℃、3点曲げ強度1300MPaの窒化珪素セラミックス製の基板Bの二種の銅回路を形成した第一の基板を、それぞれ18個ずつ準備した。これらの基板の形状は、いずれも長さ90mm、幅60mm、厚み1mmとした。これらの基板を第二の基板の200mm角の主面上に2行3列で等間隔に配置し、同基板のニッケルメッキ層を形成した面上にAg−Sn系半田によって固定した。次にこのアッセンブリーの第二の基板の裏面側と水冷ジャケットとを、その接触面にシリコンオイルコンパウンドを塗布介在させてボルト閉め固定した。なおこの場合の第一の基板の取り付け穴は、予め素材段階でその四隅に開けておいた下穴部に炭酸ガスレーザーを照射して、それを直径3mmまで拡げる方法によって形成した。この加工は他のセラミックス材やCu−W、Cu−Moを対象とした場合に比べ、高精度かつ高速で行うことができた。この傾向は特に熱伝導率が高くなればなるほど顕著であった。
【0038】
これらの各試片の中から第一の基板がAとBの物を各15個ずつ選び、上記と同じ単サイクル条件で、実用上問題が無いとされる1000サイクルまでのヒートサイクル試験を行い、その100サイクル毎のモジュールの出力の変化を確認した。その結果、最後まで出力の低下は観測されなかった。以上の結果より、本発明の炭化珪素系複合材料からなる第一の基板を用いたパワーモジュールは、実用上問題の無いレベルのものとなることが分かる。
【0039】
なお本発明の材料をこの種のモジュールに比べ低出力・低熱(サイクル)負荷の高容量のパーソナルコンピューター等の半導体素子搭載装置に放熱基板として実装・評価も行ったが、その信頼性・実用性能上何ら問題は無かった。
【0040】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明によれば、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第一成分と、炭化珪素(SiC)粒子からなる第二成分とを含む混合粉末の成形体を、直接熱間で加圧固化せず、予め第一成分の融点以上の温度で焼結して閉気孔率が開気孔率よりも低い焼結体を作製しておく。これによって固化前の加熱温度がばらついて固化時の温度が第一成分の融点未満に低下した場合でも、気孔率を1〜4%の範囲内に抑えることができる。それによって25℃で230W/m・K以上の高い熱伝導率のアルミニウム−炭化珪素系複合材料が得られる。この複合材料からなる部材は、以上のように優れた熱伝導性を有するとともに、半導体装置に用いられる半導体素子やその周辺部材との熱膨張係数の整合性が良い。このため本発明の複合材料からなる部材を同装置の構成材として用いることにより、高い実用信頼性の半導体装置が提供できる。例えば高出力のパワーモジュール用の放熱基板にも有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の成形体の焼結過程を模式的に説明する図である。
【図2】本発明の焼結体の焼結温度による気孔率の変化を説明する図である。
【図3】本発明の材料を基板に用いた半導体装置(パワーモジュール)を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1、炭化珪素粒子
2、アルミニウムまたはアルミニウム合金の粒子
3、閉気孔
4、開気孔
6、炭化珪素系複合材料からなる第一基板
7、第二基板
8、半導体素子
9、放熱構造体
Claims (6)
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第一成分と、炭化珪素粒子からなる第二成分とを主成分とするアルミニウム−炭化珪素系複合材料の製造方法であって、第一成分と第二成分とを含み、炭化珪素の割合が50〜85重量%である混合粉末を調整する工程と、該混合粉末を成形し成形体とする工程と、該成形体を第一成分の融点以上の温度で加熱して開気孔率が閉気孔率より高い多孔質の焼結体とする工程と、該焼結体を熱間鍛造する工程とを含むアルミニウム−炭化珪素系複合材料の製造方法。
- アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる第一成分と、炭化珪素粒子からなる第二成分とを主成分とするアルミニウム−炭化珪素系複合材料の製造方法であって、第一成分と第二成分とを含み、炭化珪素の割合が50〜85重量%である混合粉末を調整する工程と、該混合粉末を成形し成形体とする工程と、該成形体を第一成分の融点以上の温度で加熱して開気孔率が閉気孔率より高い多孔質の焼結体とする工程と、該焼結体を真空下で容器に封入して封入体とする工程と、該封入体を第一成分の融点以上の温度で熱間静水圧成形する工程とを含むアルミニウム−炭化珪素系複合材料の製造方法。
- 前記焼結体とする工程は、閉気孔率が7%以下の焼結体とする工程である請求項1または2に記載のアルミニウム−炭化珪素系複合材料の製造方法。
- 前記焼結体とする工程は、閉気孔率が5%以下の焼結体とする工程である請求項1または2に記載のアルミニウム−炭化珪素系複合材料の製造方法。
- 前記焼結体とする工程または熱間静水圧成形する工程の加熱温度が、前記第一成分の融点より50〜250℃高い温度範囲内にある請求項1または2に記載のアルミニウム−炭化珪素系複合材料の製造方法。
- 前記焼結体とする工程または熱間静水圧成形する工程の加熱温度が、前記第一成分の融点より60〜150℃高い温度範囲内にある請求項1または2に記載のアルミニウム−炭化珪素系複合材料の製造方法。
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