JP4458897B2 - 熔融ガラス流出ノズル、およびガラス成形体、プレス成形用プリフォーム、光学素子それぞれの製造方法 - Google Patents
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Description
精密プレス成形法では、所定の形状、重量を有し、表面が平滑で内部品質の高いプリフォームと呼ばれるガラス予備成形体を作製する。そしてプリフォームを加熱して精密プレス成形して光学素子を成形する。
光学素子の生産をガラス素材の作製にまで遡って見ると、生産性を向上するためにはプリフォームの生産性を高めることも必要である。ところでプリフォームを高い生産性のもとに作製する方法には、特許文献1に開示されているような熱間プリフォーム成形法と呼ばれる方法がある。熱間プリフォーム成形法とは、流出ノズルから流出する熔融ガラスから所定分量のガラスを分離してガラス塊を形成し、該ガラス塊を成形してプリフォームを得る方法である。この方法では、泡を含まず、均質な熔融ガラスを作り、流出ノズルと呼ばれる耐熱性のノズルからから一定の流速で流出し、流出する熔融ガラス流から所定重量の熔融ガラス塊を分離し、この熔融ガラス塊が冷却する過程でプリフォームに成形する。
熱間プリフォーム成形法は、ガラスブロックを切断したり、研磨する必要がないため、工程を簡素化でき、また一定の条件で熔融ガラス塊の分離を行えば、一定の重量のプリフォームを多量に作ることもできる。また機械加工する必要がないので、スラッジなどのガラス廃棄物も出さずに済むという特徴を有している。
このような品質の悪化は、プリフォームの製造だけに限らず、熔融ガラスを流出して鋳型に鋳込んで光学ガラスからなるガラス板やブロックを成形して、これら成形体を使って光学素子を作る場合にも問題になる。
[請求項1]熔融ガラスを蓄える容器に接続された白金または白金合金製のパイプに取り付けられた、円柱の中心に穴を有する構造の熔融ガラス流出ノズルの流出口から熔融ガラスを流出させ、流出したガラスが冷却する過程で所定の形状に成形するガラス成形体の製造方法において、
前記ノズルが、少なくとも流出口近傍の外周面が非酸化物セラミック、炭素および珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる熔融ガラス流出ノズルであることを特徴とするガラス成形体の製造方法。
[請求項2]前記ガラスが弗素含有ガラスである、請求項1に記載のガラス成形体の製造方法。
[請求項3]前記非酸化物セラミックが、炭化珪素および/または窒化珪素である、請求項1または2に記載のガラス成形体の製造方法。
[請求項4]前記流出口近傍の外周面が、少なくとも流出口から高さ1cmまでの外周面である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
[請求項5]前記熔融ガラスを流出するノズルの外周に沿いかつガラスの流出方向にガスを流すことを更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
[請求項6]熔融ガラスを蓄える容器に接続された白金または白金合金製のパイプに取り付けられた、円柱の中心に穴を有する構造の熔融ガラス流出ノズルの流出口から流出する熔融ガラスから所定分量のガラスを分離してガラス塊を形成し、該ガラス塊を成形してプリフォームを得る工程を含むプレス成形用プリフォームの製造方法において、
前記ノズルが、少なくとも流出口近傍の外周面が非酸化物セラミック、炭素および珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる熔融ガラス流出ノズルであることを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法。
[請求項7]前記ガラスが弗素含有ガラスである、請求項6に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
[請求項8]前記非酸化物セラミックが、炭化珪素および/または窒化珪素である、請求項6または7に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
[請求項9]前記流出口近傍の外周面が、少なくとも流出口から高さ1cmまでの外周面である、請求項6〜8のいずれか1項に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
[請求項10]前記熔融ガラスを流出するノズルの外周に沿いかつガラスの流出方向にガスを流すことを更に含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
[請求項11]ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形する工程を含むガラス製の光学素子の製造方法において、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により作製したガラス成形体を加工して前記ガラス素材を作製するか、または請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法により作製したプレス成形用プリフォームをガラス素材として使用することを特徴とする光学素子の製造方法。
また、本発明のガラス成形体の製造方法によれば、熔融ガラスを上記ノズルから流出して成形するので、前記濡れ上がりを防止することができ、高品質なガラス成形体を高い生産性のもとに製造することができる。
また、本発明のプレス成形用プリフォームの製造方法によれば、熔融ガラスを上記ノズルから流出して成形するので、前記濡れ上がりを防止することができ、高品質なプリフォームを高い生産性のもとに製造することができる。
さらに本発明の光学素子の製造方法によれば、上記いずれかの方法によってガラス素材を作って、プレス成形することにより、高品質なガラス製の光学素子を高い生産性のもとに製造することができる。
[熔融ガラス流出ノズル]
本発明の熔融ガラス流出ノズルは、熔融ガラスを流出口より流出する熔融ガラス流出ノズルであって、少なくとも流出口近傍の外周面が非酸化物セラミック、炭素および珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることを特徴とする熔融ガラス流出ノズル(以下、ノズル1ともいう。)である。前記非酸化物セラミックとしては、具体的には、炭化珪素および窒化珪素を用いることができる。
それに対して、本発明の熔融ガラス流出ノズルは、少なくとも流出口近傍の外周面が非酸化物セラミック、炭素および珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種からなることにより、十分満足できる濡れ上がり防止効果を得ることができる。
珪素を含む非酸化物や炭素以外の非酸化物を外周面構成材料に使用したノズルも、酸化を防止するという観点から、炭素同様、非酸化性雰囲気で満たされた環境下で使用することが望ましい。
前記ノズルは、熔融ガラスを蓄える容器に接続する白金または白金合金製のパイプに熔接などの手段やネジどめなどの手段によって取りつけて使用することができる。
流出時の粘度が低いガラスを流出する場合、流出温度を下げて成形に適した温度でガラスを流出する。このような性質に加え、失透しやすい性質をもつガラスでは、液相温度よりもわずかに高い温度で流出して成形を行う。しかし、流出温度が何らかの原因により変動して液相温度以下に下がるとガラスが流出する前に失透し流動性が低下して詰まってしまうことがある。ノズル部分はガラス流路を構成する中では最も温度が低い部分なのでガラスの詰まりはノズル内で起きることが多い。そこで、非酸化物セラミックがガラスに対して濡れにくいという性質を活かし、ノズル内周面を非酸化物セラミックで構成することにより、流動性が低下したガラスでもノズル内で詰まるというトラブルを減らすことができる。液相温度における粘度が低く失透しやすいガラスとしては、屈折率(nd)が1.8以上(特に1.85以上あるいはアッベ数(νd)が30以下)のガラス、B2O3および希土類酸化物含有ガラス(特に屈折率(nd)が1.85以上)、SiO2およびTiO2含有ガラス(特に屈折率(nd)が1.8以上かつアッベ数(νd)が30以下)などがある。内周面が前記内周面構成材料で構成された熔融ガラス流出ノズルは、前述の各種ガラスの流出に好適であり、失透が起きる度にノズル内に詰まったガラスを取り除く手間が省ける。そのため、このノズルを使用して、後述するガラス成形体を製造すれば、生産性を向上することができる。
また、ノズルの外周面に前記外周面構成材料をコートしてノズル1を作製する場合、溶射やスパッタ成膜によってコーティングを作製することができる。ノズルの向きを変えて何回か成膜を繰り返すことにより、外周全面にコーティングを設けることができる。
また、ノズルの内周面に前記内周面構成材料をコートしてノズル2を作製する場合、ノズルの開放部から膜成分の分子が入り込めるようにノズル部品の保持方向を向けることにより、内周面にコーティングを設けることができる。また、前述の部品を2つに分割する方法によっても、ノズル2を容易に作製することができる。
本発明のガラス成形体の製造方法は、熔融ガラスを流出ノズルから流出させ、流出したガラスが冷却する過程で所定の形状に成形するガラス成形体の製造方法であって、前記ノズルが前述のノズル1であることを特徴とする。
本発明のガラス成形体の製造方法を実施するための工程について説明する。
まず清澄、均質化された熔融ガラスを作製する。熔融ガラスは、例えば白金合金製の容器内で加熱、蓄積されており、その容器に接続された、例えば白金または白金合金製のパイプを通ってノズル1へと導かれる。パイプおよびノズル1を所定の温度に加熱することにより、ノズルから単位時間に流出する熔融ガラスの量(引上げ量という。)を一定に保つことができる。
また、鋳型の形状を変えて、円柱状、角柱状のガラス成形体を作製することもできる。
本発明のプレス成形用プリフォームの製造方法は、流出ノズルから流出する熔融ガラスから所定分量のガラスを分離してガラス塊を形成し、該ガラス塊を成形してプリフォームを得る工程を含むプレス成形用プリフォームの製造方法であって、前記ノズルが、前述のノズル1であることを特徴とする。ここで、熔融ガラス流出ノズルとして、ノズル1を使用することにより、ノズル外周への熔融ガラスの濡れ上がりが防止されるので、高品質なプリフォームを高い生産性のもとに製造することができる。
精密プレス成形用プリフォームを製造するためには、まず清澄、均質化された熔融ガラスを作製する。熔融ガラスは、例えば白金合金製の容器内で加熱、蓄積されており、その容器に接続された、例えば白金あるいは白金合金製のパイプを通ってノズル1へと導かれる。パイプおよびノズル1を所定の温度に加熱することにより、ノズル1から単位時間に流出する熔融ガラスの量(引上げ量)を一定に保つことができる。
ノズル外周に沿ってガスを流す方法は、滴下法で得られる熔融ガラス滴の重量をより小さくする上でも効果がある。滴下法ではガラスに働く重力とノズル先端にガラスが留まろうとする表面張力のバランスが崩れて重力が大きくなったときに滴下がおきる。上記のようにノズル外周に沿って一定流量のガスを定常的に流すことにより、ガラスに加わる下向きの力が大きくなるため、ガスを流さない場合よりもより重量の小さいガラス滴を滴下することができる。なお、ガスはノズル全周にわたり、ノズル先端付近で層流になるように流すことが好ましい。前述のように、本発明のノズルは非酸化性雰囲気において用いられることが好ましい。そのため、ノズルの外周に沿いかつガラスの流出方向に流すガスは、非酸化性ガスであることが好ましい。また、弗素含有ガラス、特に弗燐酸塩ガラスの場合、後述するように、成形雰囲気は乾燥雰囲気であることが好ましい。その場合、ノズルの外周に沿いかつガラスの流出方向に流すガスは、乾燥ガスであることが好ましい。
例えば、底部に上記風圧を加えるためのガス(浮上ガスという。)を噴出する口を設けた凹部を備えた成形型を用い、上記凹部に熔融ガラス塊を供給し、凹部内でガラス塊を上下動させて回転させることにより、球状のガラス塊を形成することもできる。また、ガスを噴出する口を多数設けた凹部あるいは凹部を多孔質体で構成し、凹部内面全体から浮上ガスを噴出してガラスを浮上し、凹部の形状に沿った形状にガラス塊を形成することもできる。
ガラス塊は、成形型上で成形された後、ガラス転移温度または前記温度よりも低い温度にまで冷却した後に型から取り出すことにより、変形することなく取り出すことができる。
前述のようにノズル1の使用により、ガラスの濡れ上がりを防止し、高品質なガラス塊を得ることができるが、弗素を比較的多く含むガラスなど揮発が著しいガラスの場合、熱間成形されたガラス塊の表面を光学顕微鏡で拡大観察すると、ガラス塊全面にわたって脈理が認められる場合がある。このようなガラス塊の全表面をエッチングにより所定の深さまで除去したガラス塊には、このような脈理は認められない。これにより、この脈理は表面近傍に局在する表面脈理であることがわかる。ガラス塊表面の変質層、例えばヤケなどは、表面から深さ0.1μm以下の部分に限られるが、表面脈理は光学顕微鏡を用いた目視により認識可能な深さにまで達しているため、ガラス塊表面から少なくとも0.5μm以上の深さまでエッチングすることが望まれる。より好ましい深さは1μm以上、さらに好ましい深さは10μm以上、より一層好ましい深さは20μm以上、特に好ましい深さは50μm以上である。エッチングは、ガラス全体に脈理が認められない光学的に均質な所望重量のガラス塊が得られる深さまで行うことが好ましい。エッチングの深さの上限に特に限定はないが、光学的に均質なガラスまでも除去する必要はないので、最大5mmまでの深さを目安にすればよい。あるいは、プリフォーム重量/ガラス塊重量の比率によってエッチングの深さの上限を管理してもよい。その場合、プリフォーム重量/ガラス塊重量の比率は80%以上とすることが好ましく、85%以上とすることがより好ましい。このように、エッチングによってガラス塊の重量はわずかに減少するため、所望重量のプリフォームが得られるよう、上記重量減少分を目的重量に加えた重量のガラス塊を成形することが好ましい。
ガラス塊表面をエッチングすることにより、ガラス塊全表面が一様に除去されるため、得られるプリフォームの形状は、ガラス塊の相似形状になる。
一方、精密プレス成形によって作製される光学素子としては、レンズなどの回転対称軸を一つ備える形状のものが圧倒的に多い。したがって、プリフォームの形状としても、球状、回転対称軸を一つ備える形状(例えば、回転楕円体や、球を一定の軸方向に延ばした形状やつぶした形状など)が望まれている。このような形状のプリフォームを作製するには、目的とするプリフォーム形状に相似する形状のガラス塊を成形しエッチングすればよい。
このような回転対称軸を一つ備える形状としては、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものが挙げられる。具体的には、先に説明した図1に示すプリフォーム形状の相似形状を挙げることができる。
一方、球状ガラス塊の球対称性に注目すると、エッチングにより除去される深さが対称性のために全表面において均一になり、球状ガラス塊をエッチングすれば容易に球状プリフォームを作製できるというメリットがある。
機械研磨に対するエッチングの優位性の一つは、エッチング条件を一定にすればエッチングの深さ(エッチングにより除去される深さ)を一定にできる点にある。この優性性と熱間成形の優位性を組合せることにより、熔融ガラスから高品質かつ重量精度の高いプリフォームを生産性よく作ることができる。例えば、流出する熔融ガラスから熔融ガラス塊を分離し、ガラス塊を形成する工程を繰り返して一定重量のガラス塊を複数作製する。そして、前記複数のガラス塊を一定条件のもとにエッチングして一定重量のプリフォームを作製する。一定のエッチング条件で一定量のガラスが除去されるから、容易に一定重量のプリフォームを多量に作製することができる。この方法は、ガラス塊をエッチング液に浸漬する時間を一定にする、あるいは複数個のガラス塊を一括してエッチング液に浸漬し、所定時間経過後、一括してエッチング液から取り出すことで容易に行うことができる。
このようにして作製したプリフォームを洗浄した後に、必要に応じて離型膜などの薄膜を表面に形成してもよい。離型膜としては炭素含有膜、自己組織化膜などを例示することができる。
本発明の光学素子の製造方法は、ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形する工程を含むガラス製の光学素子の製造方法であって、前記方法により作製したガラス成形体を加工して前記ガラス素材を作製するか、または前記方法により作製したプレス成形用プリフォームをガラス素材として使用することを特徴とする。
前述のように、本発明のガラス成形体の製造方法によれば、高品質なガラス成形体を高い生産性のもとに作製することができるため、この方法により得られたガラス成形体を用いることにより、ガラス素材、更には光学素子を高い生産性のもとに製造することができる。
また、前述のように、本発明のプレス成形用プリフォームの製造方法によれば、高品質なプリフォームを高い生産性のもとに作製できるため、この方法により得られたプレス成形用プリフォームを用いることにより、光学素子を高い生産性のもとに製造することができる。
(精密プレス成形法1)
この方法は、プレス成形型に前記プリフォームを導入し、前記成形型とプリフォームを一緒に加熱し、精密プレス成形するというものである(以下、精密プレス成形法1とういう)。
精密プレス成形法1において、プレス成形型と前記プリフォームの温度をともに、プリフォームを構成するガラスが106〜1012dPaSの粘度を示す温度に加熱して精密プレス成形を行うことが好ましい。
また前記ガラスが1012dPaS以上、より好ましくは1014dPaS以上、さらに好ましくは1016dPaS以上の粘度を示す温度にまで冷却してから精密プレス成形品をプレス成形型から取り出すことが望ましい。
上記の条件により、プレス成形型成形面の形状をガラスにより精密に転写することができるとともに、精密プレス成形品を変形することなく取り出すこともできる。
この方法は、 前記プリフォームを加熱した後に、プレス成形型に導入し、精密プレス成形する、すなわち、プレス成形型とプリフォームを別々に予熱し、予熱したプリフォームをプレス成形型に導入して精密プレス成形するというものである(以下、精密プレス成形法2という)。
この方法によれば、前記プリフォームをプレス成形型に導入する前に予め加熱するので、サイクルタイムを短縮化しつつ、表面欠陥のない良好な面精度の光学素子を製造することができる。
なおプレス成形型の予熱温度をプリフォームの予熱温度よりも低く設定することが好ましい。このようにプレス成形型の予熱温度を低くすることにより、前記型の消耗を低減することができる。
また、この方法によれば、プリフォーム加熱をプレス成形型内で行う必要がないので、使用するプレス成形型の数を少なくすることもできる。
また、前記プリフォームを浮上しながら予熱することが好ましく、さらに前記プリフォームを構成するガラスが105.5〜109dPaS、より好ましくは105.5dPaS以上109dPaS未満の粘度を示す温度に予熱することがさらに好ましい。
またプレス開始と同時又はプレスの途中からガラスの冷却を開始することが好ましい。
なおプレス成形型の温度は、前記プリフォームの予熱温度よりも低い温度に調温させるが、前記ガラスが109〜1012dPaSの粘度を示す温度を目安にすればよい。
この方法において、プレス成形後、前記ガラスの粘度が1012dPaS以上にまで冷却してから離型することが好ましい。
このようにして、本発明によれば、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズムなどの各種光学素子、用途としてはデジタルカメラやフィルム内蔵カメラの撮像光学系を構成するレンズ、カメラ付携帯電話搭載の撮像レンズ、CDやDVDをはじめとする光記録式媒体のデータ読取および/またはデータ書込み用に使用する光線を導光するためのレンズなどの各種光学素子を作製することができる。また、銅含有ガラス製のプリフォームを使用すれば、半導体撮像素子の色補正機能を有する光学素子を作製することもできる。
なお、これら光学素子には必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜などの光学薄膜を設けることもできる。
本発明において使用されるガラスは、揮発による変質や雰囲気中の水分との反応による変質が生じやすく、濡れ上がりにより品質が低下しやすいガラスである、弗素、硼酸、アルカリ金属酸化物等を含むガラスであることが好ましい。
弗素含有ガラスとしては、弗燐酸塩ガラス、弗素含有ケイ酸塩ガラス、弗素含有ホウケイ酸塩ガラス、弗素含有ホウ酸塩ガラスなど、硼酸含有ガラスとしては硼酸ランタン含有ガラスなど、アルカリ金属酸化物含有ガラスとしてはLi2O含有燐酸塩ガラス(易揮発成分を含む上にノズル外周に濡れ上がりやすい。例えば、P2O5、Nb2O5およびLi2Oを含有するガラス。)などを例示することができる。
なかでも、弗素含有ガラス、特に弗燐酸塩ガラスは、アッベ数(νd)が65以上の低分散ガラス製プリフォーム用の材料として非常に重要なガラスである。また、銅イオンを含有させることにより、近赤外線吸収特性を付与し、半導体撮像素子の色補正用フィルター材料としても有用なガラスである。
Al(PO3)3は、ガラスの網目構造を構成する成分であり、ガラスの耐候性を高める最も重要な成分であるが、その含有量が20%以下であれば、ガラスの熱安定性が高く、液相温度も光学特性(分散が高くなる)も好ましいため、その導入量は20%以下であることが好ましい。より好ましくは0.5〜15%の範囲である。
上記弗素含有ガラスとしては、温度60℃、相対湿度90%の条件下に350時間放置した後のヘイズ値が8%以下の高い耐候性を有するガラスを使用することが好ましい。耐候性の高いガラスを使用することにより、本発明の製造方法によって作製したプリフォームの表面を長期にわたり良好に保つことができるほか、前記ガラスで作製した光学素子の耐候性も向上することができる。なお、ヘイズ値は、日本光学硝子工業会規格JOGIS07−1975「光学ガラスの化学的耐久性の測定方法(表面法)」において定義されている量である。
前記組成のガラスを使用することにより、屈折率(nd)が1.42〜1.6、アッベ数(νd)が65以上、好ましくは65〜97の範囲の光学恒数を有する光学ガラスからなるプリフォームを作製することができる。また、前記ガラスにおいて、精密プレス成形性をより向上させる上から、屈伏点(Ts)が500℃以下のガラスを使用することがより好ましい。
水分を含む雰囲気に流出直後の高温の弗素含有ガラスが晒されると、水分とガラス中の弗素が結合し、ガラスから揮発しやすくなる。前述のように揮発は表面脈理の原因になるため、成形雰囲気を乾燥ガス雰囲気にすることが好ましい。
ここで使用する乾燥ガスは、例えば、水分含有量が400ppm以下、又は露点が−30℃以下のガスであることが好ましい。乾燥ガス雰囲気を構成する乾燥ガスの水分含有量は、好ましくは380ppm以下である。乾燥ガスの水分含有量の下限には特に制限はなく、理想的には0ppmであるが、実際上安定して入手できる乾燥ガスの水分含有量は、100ppm以上のものである。また、乾燥ガス雰囲気を構成する乾燥ガスの露点は、好ましくは−30℃以下である。乾燥ガスの露点の下限には特に制限はないが、実際上安定して入手できるガスの露点の下限は、−80℃程度である。
乾燥ガスとしては、不活性ガス、炭酸ガス、水素ガスなどを用いることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン等を例示できる。
[濡れ性の比較]
炭化珪素と白金について、表1に示すガラス(1)との濡れ性を比較した。
表1に示すガラス(1)20gと白金板、炭化珪素板をグラッシーカーボン製坩堝に入れ、窒素雰囲気下で900℃で1時間保持し、ガラスと白金板、炭化珪素板との接触面を観察した。図2(a)に坩堝内の写真を示し、図2(b)にガラスとの接触面の模式図を示す。図2(a)に示すように、白金板との接触面では、ガラスが濡れ上がりガラス面が盛り上がっている様子が確認された。一方、炭化珪素板との接触面では、ガラスは濡れないため、逆にくぼんでいることが確認された。
表1に使用したガラスの組成を光学恒数(屈折率nd、アッべ数νd)、転移温度(Tg)、屈伏点(Ts)とともに表1に示す。温度履歴によって光学恒数がごく僅かだけ変化するが、組成、光学恒数(屈折率nd、アッべ数νd)、転移温度(Tg)、屈伏点(Ts)は、プリフォーム、光学素子においても同じと考えてよい。
上記ガラスを作るには、各成分の原料として各々相当する酸化物、炭酸塩、硫酸塩、硝酸塩、弗化物、水酸化物など、例えば、Al(PO3)3、Ba(PO3)2、AlF3、YF3、MgF2、CaF2、SrF2、BaF2などを用いて、表1に示した所定の割合に250〜300g秤量し、十分に混合して調合バッチとし、これを白金るつぼに入れ、1200〜1450℃に保持した電気炉中において、攪拌しながら大気中、乾燥雰囲気、あるいはアルゴンなどの希ガスや窒素など不活性ガスと呼ばれるガスに0.1〜50体積%の酸素ガスを混合した雰囲気中で2〜4時間、加熱、熔融を行った。熔融後、熔融ガラスを40×70×15mmのカーボン製の金型に流し込み、ガラス転移温度まで放冷してから直ちにアニール炉に入れ、ガラス転移温度付近で約1時間アニールした後、炉内で室温まで放冷した。得られたガラス中には、顕微鏡で観察できる結晶は析出していなかった。
(1)屈折率(nd)及びアッべ数(νd)
ガラス転移温度と屈伏点の間の温度で保持したガラスを、降温速度−30℃/時で降温して得られたガラスについて測定した。
(2)転移温度(Tg)及び屈伏点(Ts)
理学電機株式会社の熱機械分析装置により昇温速度を4℃/分として測定した。
(3)ガラスの磨耗度(FA)
「日本光学硝子工業会規格JOGIS10−1994 光学ガラスの磨耗度の測定方法」により、ガラスの磨耗度(FA)を測定した。単位は無次元であり、磨耗度(FA)が大きいほど磨耗しやすいガラスであることを意味する。
次に表1に示したガラスが得られる熔融ガラスを熔融温度800〜1100℃にて多量に熔融し、清澄、均質化して一定の流量で、前述の方法で外周面全面に炭化珪素(SiC)をコートした白金合金製のノズルから流出した。熔融ガラスの流出ならびにガラスの成形は、乾燥した不活性ガス(窒素またはアルゴン、または窒素とアルゴンの混合ガス)雰囲気中で行った。
なお、ガラスの成形雰囲気に関しては0.1〜50体積%の酸素が含まれる不活性ガスでもよいが、酸素分圧が低いほうがよい。
この方法でも分離の時間間隔を一定にして、上記工程を繰り返し行うことにより、一定重量のガラス塊を複数個作製した。なお、この方法で成形したガラス塊の形状は、1つの回転対称軸を備え、長径と短径を有するとともに、表面が曲面からなる形状であり、本発明における表面が曲率の異なる曲面によって構成される形状であり、扁平球に近似した形状に相当する。
このようにして作製した高品質なプリフォームは所望の重量を有し、精密プレス成形用ガラス素材として好適である。なお、プリフォームの全表面には精密プレス成形時の離型性を高めるための離型膜を設けてもよい。このような離型膜としては炭素膜や自己組織化膜などを例示することができる。
また、プレス成形型に予熱された上記プリフォームを導入し、精密プレス成形する方法でも高品質、高精度な弗燐酸塩ガラスからなる非球面レンズを成形することができた。
なお、プリフォームの形状、寸法は作製しようとする精密プレス成形品の形状等により適宜、決めればよい。
また、銅含有弗燐酸塩ガラスを用いてプリフォームを同様に作製し、上記方法と同様に精密プレス成形することにより、近赤外線吸収ガラスからなる各種光学素子を作製することもできる。このような光学素子は半導体撮像素子の色補正用フィルターとして使用することができる。得られた各光学素子の光学機能面には必要に応じて反射防止膜あるいは高反射膜などの光学多層膜を形成することもできる。
なお、全体を炭化珪素やカーボンで作ったノズルを使用しても、濡れ上がりを防止して、高品質なプリフォームを作製することができ、そのプリフォームを精密プレス成形して光学素子を作製することができた。
全体を炭化珪素やカーボンで作ったノズルを使用して、屈折率(nd)が1.88、アッベ数(νd)が41のB2O3およびLa2O3を含むガラス、または屈折率(nd)が1.85、アッベ数(νd)が24のSiO2およびTiO2を含むガラスを連続して流出してガラス成形体を作製した。その際、ノズル温度の低下による失透によるものと思われる事態が発生したが、ノズル内でガラスが詰まることなく失透物を排出することができたので、ノズル温度を適正な範囲に戻して直ちに安定した操業を続けることができた。これは、このノズルが、前述のノズル2の構成を有するためと考えられる。
これに対し、内周面にコートしていない白金合金製のノズルを使用して同様の流出、成形したところ、ノズル内にガラスが詰まってしまい、その取り出し復旧までの間、設備を長時間停止しなければならなかった。
Claims (11)
- 熔融ガラスを蓄える容器に接続された白金または白金合金製のパイプに取り付けられた、円柱の中心に穴を有する構造の熔融ガラス流出ノズルの流出口から熔融ガラスを流出させ、流出したガラスが冷却する過程で所定の形状に成形するガラス成形体の製造方法において、
前記ノズルが、少なくとも流出口近傍の外周面が非酸化物セラミック、炭素および珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる熔融ガラス流出ノズルであることを特徴とするガラス成形体の製造方法。 - 前記ガラスが弗素含有ガラスである、請求項1に記載のガラス成形体の製造方法。
- 前記非酸化物セラミックが、炭化珪素および/または窒化珪素である、請求項1または2に記載のガラス成形体の製造方法。
- 前記流出口近傍の外周面が、少なくとも流出口から高さ1cmまでの外周面である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
- 前記熔融ガラスを流出するノズルの外周に沿いかつガラスの流出方向にガスを流すことを更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラス成形体の製造方法。
- 熔融ガラスを蓄える容器に接続された白金または白金合金製のパイプに取り付けられた、円柱の中心に穴を有する構造の熔融ガラス流出ノズルの流出口から流出する熔融ガラスから所定分量のガラスを分離してガラス塊を形成し、該ガラス塊を成形してプリフォームを得る工程を含むプレス成形用プリフォームの製造方法において、
前記ノズルが、少なくとも流出口近傍の外周面が非酸化物セラミック、炭素および珪素からなる群から選ばれる少なくとも一種からなる熔融ガラス流出ノズルであることを特徴とするプレス成形用プリフォームの製造方法。 - 前記ガラスが弗素含有ガラスである、請求項6に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
- 前記非酸化物セラミックが、炭化珪素および/または窒化珪素である、請求項6または7に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
- 前記流出口近傍の外周面が、少なくとも流出口から高さ1cmまでの外周面である、請求項6〜8のいずれか1項に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
- 前記熔融ガラスを流出するノズルの外周に沿いかつガラスの流出方向にガスを流すことを更に含む、請求項6〜9のいずれか1項に記載のプレス成形用プリフォームの製造方法。
- ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形する工程を含むガラス製の光学素子の製造方法において、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法により作製したガラス成形体を加工して前記ガラス素材を作製するか、または請求項6〜10のいずれか1項に記載の方法により作製したプレス成形用プリフォームをガラス素材として使用することを特徴とする光学素子の製造方法。
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