JP4456712B2 - 水素ガス貯蔵材料及び貯蔵方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、水素ガス貯蔵材料及び貯蔵方法に関し、特にエネルギー源として利用する水素ガスの効率的な運搬、車載・搭載を可能にする、このガスの貯蔵材料及び貯蔵方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車等の燃料として用いられているガソリン、軽油については、排気ガスにより大気汚染等の環境公害が生ずるという問題があること、また、ガソリン等の供給には限りがあることから、低公害でかつ長期安定供給可能な代替燃料の早急の開発が求められている。そのため、代替燃料として、低公害でかつ長期安定供給可能な水素ガス、メタンガス等の燃料が検討されている。特に、水素ガスは燃焼によって生じるのが水であるため、大気汚染の問題もないことから、水素ガスを燃料として用いる電気自動車等の開発が行われている。
【0003】
水素ガス燃料として利用するために、水素ガスを貯蔵する方法として、例えば、水素吸蔵合金を用いる貯蔵方法が開発されている。水素吸蔵合金は、水素と反応して水素化物を形成し、多量の水素を合金結晶格子間に吸蔵すると共に、僅かな加熱や減圧だけで水素化物が解離して、多量の水素を放出するものである。放出される水素は原子状の水素である。このような水素吸蔵合金には、例えば、LaNi、TiFe等がある。
【0004】
また、単層壁面を持つカーボンナノチューブを利用した電気自動車の水素ガス貯蔵装置も検討されている。カーボンナノチューブは、炭素6員環を主構造としたらせん構造で形成された円筒形状をもち、極めて微細な、同心円状に円筒が配置された多重構造の黒鉛繊維である。このカーボンナノチューブは、そのチューブ内の多量の「すす」が水素と相互作用すると、水素ガスがチューブ内で高密度に凝縮するので、水素ガス貯蔵装置の素材として十分有望であるとされている。このカーボンナノチューブは、通常、アーク放電法、レーザー蒸発法、プラズマCVD法等により作製される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記水素燃料は、現在、多くの場合、気体として高圧ガスボンベに詰めて貯蔵し、運搬されているのが現状であるが、これらの燃料を有効に利用するためには、容器の重量が重いので輸送効率が悪く、また、貯蔵効率も低いという問題がある。水素を液体として輸送、貯蔵する場合には、水素ガスに比べて輸送効率、貯蔵効率は向上するが、液化水素の原料水素として高純度水素を用いることが必要であるのに加え、液化温度が極低温であるため、容器として特殊のものが必要になると共に、液化に際し多量の熱除去が必要になるという経済的な問題がある。さらに、液化水素が経時的に蒸発し、減量してしまうという問題もある。
【0006】
上記水素吸蔵合金を用いる水素ガス貯蔵方法の場合、吸蔵合金自体の重量が重く、また、燃料として出力するためには高温(例えば、290℃)を要するという問題があり、この方法はいまだ満足できるものではなかった。
【0007】
また、カーボンナノチューブを用いる水素ガス貯蔵装置の場合、その貯蔵性能の点で、いまだ満足できるものではなかった。
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点を解消するものであり、水素ガスの吸着・貯蔵性能に優れた新規なガス貯蔵材料及び貯蔵方法を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、水素ガスの貯蔵材料について、従来のものよりも高いガス吸着・貯蔵性能を有する、軽量のガス貯蔵材料の研究・開発を鋭意進めてきたが、熱CVD法により炭素含有ガスと水素ガスとを用いて結晶を成長せしめる過程で得られた、従来報告されていない構造を有するグラファイトナノファイバーに優れたガス吸着・貯蔵性能があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の水素ガス貯蔵材料は、特定のグラファイトナノファイバーからなるものであり、このグラファイトナノファイバーは、先端の切られたアイスクリームコーン形状(截頭円錐形状)を有するグラファイトナノファイバー結晶が積層されてなる円柱状構造を有し、その中心に貫通空隙が存在し、この空隙はアモルファスカーボンで充填されており、また、直径が10nm〜600nmである。直径が10nm未満であるものは、今のところ合成できておらず、また、600nmを超えるものは貯蔵性能の劣化が激しい。このようなグラファイトナノファイバーは、従来の水素吸蔵合金と比べて極めて軽量でありかつ効率的な水素ガス放出が可能であり、また、カーボンナノチューブとほぼ同程度の微細構造を有するので、大きな比表面積を有する活性炭としての性質を有すると共に、貯蔵しようとする水素ガスがグラファイトナノファイバー中に自由に出入り可能な開放面を有し、カーボンナノチューブよりも優れた水素ガス吸着・貯蔵性能を有する。
【0011】
本発明の水素ガス貯蔵方法は、上記した構造を有するグラファイトナノファイバーに対し、加圧下に水素ガスを吸着せしめ、貯蔵することからなる。
【0012】
前記グラファイトナノファイバーは、その表面に水素分子を水素原子に解離する機能を持った金属又は合金の被膜を有していてもよい。水素を原子状態にすることにより、分子状態の場合よりも極めて多量の水素を容易に吸着・貯蔵させることができるからである。水素分子を水素原子に解離させる金属又は合金は、白金、パラジウム又は水素吸蔵合金であることが好ましい。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の水素ガス貯蔵材料及び貯蔵方法は、上記したように、特定のグラファイトナノファイバーに水素ガスが効率的に吸着・貯蔵されるということに基づいて開発されたものである。この貯蔵材料は比表面積が大きく、その表面及び内部に多量のガスを吸着、貯蔵する特性を有する。水素ガスの場合、このような貯蔵材料に水素分子を吸着・貯蔵させようとすると、分子状態では貯蔵材料の表面に吸着することが多く、その内部、すなわち層間や中空部内にまで多量の水素分子を取り込ませることが困難な場合がある。そこで、グラファイトナノファイバーの表面に、通常の金属成膜方法、例えば真空蒸着法、スパッタ法、CVD法等により、水素分子を水素原子に解離させる機能を有する金属又は合金の被膜を形成せしめたものを用いれば、さらに多量の水素ガスの吸着・貯蔵が可能となる。このような被膜を設けることにより、この被膜上で水素分子は水素原子に解離され、原子状態で被膜内部を移動して、貯蔵材料の表面に達し、さらに貯蔵材料内部にまで入り込むので、その結果、多量の水素を貯蔵させることができる。この金属又は合金としては、例えば、白金、パラジウム、マグネシウム、チタン、マンガン、ランタン、バナジウム、ジルコニウム、水素吸蔵合金(例えば、LaNi、TiFe等)等を用いることができる。
【0014】
本発明で用いる炭素質材料であるグラファイトナノファイバーは、上記したように、截頭円錐形状を有するグラファイトナノファイバー結晶が多数積層された円柱状構造を有し、その中心に存在する貫通空隙がアモルファスカーボンで充填されている構造を有するものであり、熱CVD法により調製される。例えば、電気炉を備えた熱CVD装置内に、Ni、Fe、Co、又はこれらの金属を少なくとも1種類含む合金からなる金属基板を設置し、装置内を真空にした後、装置内に一酸化炭素、二酸化炭素等のような炭素含有ガス及び水素ガスを導入し、通常1気圧で、一般に1500℃以下の温度で、好ましくは400℃〜1000℃の温度で、該基板上にグラファイトナノファイバー結晶を成長させることにより作製することができる。基板金属にはグラファイトナノファイバーを形成するための触媒作用がある。成膜温度が400℃未満であると、グラファイトナノファイバーの成長速度が遅く、また、1500℃を超えると、熱エネルギーのコストがかかるという問題が生じる。
【0015】
該基板上に成長せしめたグラファイトナノファイバー成長層は、図1に模式的に示すように、金属基板1上に截頭円錐形状を有するグラファイトナノファイバー結晶3が所定の向きに、例えば截頭円錐の先端(頭部)の端縁が基板表面上に付着するような状態で、又は截頭円錐の底部の端縁が基板表面上に付着するような状態で、又は両方の付着態様が混ざった状態で成長したものであり、積層された円柱状構造を有している。このように積層されたグラファイトナノファイバーでは、その中心に貫通空隙2が存在し、この空隙はアモルファスカーボンで充填されている。また、積層中に基板から生じた基板金属粒子4を一部内包した状態で結晶成長している。
【0016】
本発明の貯蔵材料を構成するグラファイトナノファイバーは、上記のようにして得られたグラファイトナノファイバーが基板に付着されたままの状態で使用しても、又は基板上に作製されたグラファイトナノファイバー成長層を基板から採取し、回収して使用してもよい。
【0017】
上記のようにして作製したグラファイトナノファイバー、又は表面に上記した被膜を設けたグラファイトナノファイバーを所定の容器に収納し、加圧下で水素等を吸着・貯蔵させることができる。この際の圧力は、好ましくは1MPa以上、より好ましくは3MPa以上である。吸着・貯蔵を促進させるために、冷却下、例えば液体水素温度よりかなり低い温度で吸着・貯蔵させてもよい。このようにして貯蔵された水素は室温乃至30℃程度で容易に放出させることができる。
【0018】
なお、グラファイトナノファイバーを容器に収納した場合、加圧時においてグラファイトナノファイバー同士が相互に固着して、水素ガスの貯蔵性能が低下することがある。このような場合、適宜な量の活性炭を混入して、グラファイトナノファイバー同士の間に配置させれば、隙間が発生して、ガスの貯蔵性能が向上する。
【0019】
【実施例】
次に、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
(実施例1)
鉄基板を公知の熱CVD装置内に設置し、装置内を1Pa程度の真空にした。その後、水素ガスと一酸化炭素との混合ガスを装置内に導入し、1気圧でガスフローし、電気炉を用いて基板の温度を650℃にし、この温度で30分間反応させたところ、基板上にグラファイトナノファイバー結晶が成長した。その際の一酸化炭素の濃度は、30vol%であった。熱CVD装置から基板を取り出して、得られた試料について、ラマン散乱スペクトルを測定したところ、結晶性グラファイトに特徴的なスペクトルを示し、グラファイト物質が生成したことが確認された。また、この試料について、走査型電子顕微鏡(SEM)により観測したところ、多数のグラファイトナノファイバーが基板上にカールした状態で成長していることが分かった。このグラファイトナノファイバーを透過型電子顕微鏡により観測したところ、その一本一本の構造は、先端が切られたアイスクリームコーン形状、すなわち截頭円錐形状を有するグラファイトナノファイバー結晶が積層されてなる円柱状構造を有するものであって、その中心には貫通空隙が存在し、この空隙は中空であるか又はアモルファスカーボンで充填されており、また、グラファイト面が基板から生じた基板金属粒子を一部内包した状態の円柱状構造になっていることが分かった。得られたグラファイトナノファイバーの直径は10nm〜600nmの範囲内にあった。
【0020】
次いで、このようにして得られたグラファイトナノファイバーを採取し、容量100mlのガス容器内に100g収納し、容器内を真空にした。次いで、徐々に圧力を加えて密閉容器内に水素ガスを導入し、水素ガス流量から、各圧力における水素貯蔵量を求めた。また、このグラファイトナノファイバーの表面に真空蒸着法によりパラジウムの被膜を形成したものを用いて同様にして水素貯蔵量を求めた。さらに、比較のために、カーボンナノチューブを用いて同様にして水素貯蔵量を求めた。その結果、表面に被膜の形成されたグラファイトナノファイバーの水素貯蔵量が最も高く、次いでカーボンナノチューブであり、水素貯蔵量の最も少ないものは表面に被膜のないグラファイトであった。
(実施例2)
インコネル(Ni−Cr−Fe合金)基板を、実施例1の場合と同じ熱CVD装置内に設置し、装置内を1Pa程度の真空にした。その後、水素ガスと二酸化炭素との混合ガスを装置内に導入し、1気圧でガスフローし、電気炉を用いて基板の温度を650℃にし、この温度で30分間反応せしめたところ、基板上にグラファイトナノファイバー結晶が成長した。その際の二酸化炭素の濃度は、30vol%であった。熱CVD装置から基板を取り出して観測したところ、実施例1の場合と同様にグラファイトナノファイバーが基板上にカールした状態で成長しており、また、このグラファイトナノファイバーの構造も、実施例1の場合と同様であることが分かった。
【0021】
次いで、得られたグラファイトナノファイバーについて、実施例1の場合と同様にして水素貯蔵量を求めた。その結果、実施例1におけるグラファイトナノファイバーの水素貯蔵量と同程度の値が得られた。
(実施例3)
SUS304基板を、実施例1の場合と同じ熱CVD装置内に設置し、装置内を1Pa程度の真空にした。その後、水素ガスと一酸化炭素との混合ガスを装置内に導入し、1気圧でガスフローし、電気炉を用いて基板の温度を650℃にし、60分間反応させたところ、グラファイトナノファイバー結晶が成長した。その際の一酸化炭素の濃度は、30vol%であった。熱CVD装置から基板を取り出して観測したところ、実施例1の場合と同様にグラファイトナノファイバーが基板上にカールした状態で成長しており、このグラファイトナノファイバーの構造も、実施例1の場合と同様であることが分かった。
【0022】
次いで、得られたグラファイトナノファイバーを採取し、実施例1の場合と同様にして水素貯蔵量を求めた。その結果、実施例1におけるグラファイトナノファイバーの水素貯蔵量と同程度の値が得られた。
【0023】
【発明の効果】
本発明によれば、特定の構造を有するグラファイトナノファイバーを利用することにより、水素ガスの貯蔵性能に優れ、かつ軽量であるガス貯蔵材料及びそれらのガスの貯蔵方法が提供され、水素ガスを有効に輸送、貯蔵することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明で用いるグラファイトナノファイバーが基板上に成膜した状態を模式的に示す断面図。
【符号の説明】
1 金属基板 3 グラファイトナノファイバー
2 空隙 4 基板金属粒子

Claims (4)

  1. 先端の切られたアイスクリームコーン形状を有するグラファイトナノファイバー結晶が積層されてなる円柱状構造を有するグラファイトナノファイバーであって、その中心に存在する貫通空隙がアモルファスカーボンで充填されており、また、直径が10nm〜600nmであるグラファイトナノファイバーからなり、前記グラファイトナノファイバーがその表面に水素分子を水素原子に解離する機能を持った金属又は合金の被膜を有するものであって、水素ガスを貯蔵するものであることを特徴とする水素ガス貯蔵材料
  2. 前記水素分子を水素原子に解離させる金属又は合金が、白金、パラジウム又は水素吸蔵合金であることを特徴とする請求項1記載の水素ガス貯蔵材料。
  3. 先端の切られたアイスクリームコーン形状を有するグラファイトナノファイバー結晶が積層されてなる円柱状構造を有するグラファイトナノファイバーであって、前記グラファイトナノファイバーがその表面に水素分子を水素原子に解離する機能を持った金属又は合金の被膜を有するものであって、水素ガスを貯蔵するために用いられるものであり、その中心に存在する貫通空隙がアモルファスカーボンで充填されており、また、直径が10nm〜600nmであるグラファイトナノファイバーに対し、加圧下に水素ガスを吸着せしめ、貯蔵することを特徴とする水素ガス貯蔵方法。
  4. 前記水素分子を水素原子に分離させる金属又は合金が、白金、パラジウム又は水素吸蔵合金であることを特徴とする請求項3記載の水素ガス貯蔵方法。
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