図1および図2には、本発明の実施形態である振れ補正装置を備えたレンズ鏡筒の構成を示している。図1には、レンズ鏡筒の分解斜視図を図2にはレンズ鏡筒の断面図をそれぞれ示している。なお、このレンズ鏡筒は、ビデオカメラ等の撮影装置に用いられるものである。
このレンズ鏡筒の光学系は、被写体又は観察物体側から順に、凸凹凸凸の4群構成の変倍光学系である。
L1は固定の第1群レンズ、L2は光軸方向に移動して変倍動作を行なう第2群レンズ、L3は光軸直交面内で移動して振れ補正動作を行なう第3群レンズ(振れ補正レンズ:以下シフトレンズという)、L4は光軸方向に移動して合焦動作を行なう第4群レンズである。
また、1は第1群レンズL1を保持する固定鏡筒、2は第2群レンズL2を保持する変倍移動枠、3はシフトレンズL3を光軸直交面内で移動可能とするシフトユニット、4は第4群レンズL4を保持する合焦移動枠、5はCCD等の撮像素子が固定される後部鏡筒である。
固定鏡筒1と後部鏡筒5との間には2本のガイドバー6,7が位置決め固定されている。変倍移動枠2および合焦移動枠4は、ガイドバー6,7により光軸方向に移動可能に支持されている。
なお、変倍移動枠2および合焦移動枠4はそれぞれ、一方のガイドバーに対して光軸方向に所定の長さを有するスリーブ部で嵌合することにより、光軸方向への倒れが防止され、他方のガイドバーにU溝部で係合することにより上記一方のガイドバー回りでの回転が防止される。
シフトユニット3は、固定鏡筒1と後部鏡筒5に位置決めされた上で挟み込まれ、3本のビスにより後方からビス締め固定されている。
8は光学系の開口径を変化させる絞りユニットであり、2枚の絞り羽根を互いに逆方向に移動させて開口径を変化させる。
9は第4群レンズL4を光軸方向に駆動し、合焦動作を行なわせるステッピングモータ(以下、フォーカスモータという)であり、回転するロータと同軸のリードスクリュー9aを有する。リードスクリュー9aには合焦移動枠4に取り付けられたラック4aが噛み合っており、ロータおよびリードスクリュー9aが回転することによって合焦移動枠4(第4群レンズL4)が光軸方向に駆動される。フォーカスモータ9は2本のビスによって後部鏡筒5に固定されている。
なお、合焦移動枠4とラック4aとの間に配置されたねじりコイルバネ4bによって、合焦移動枠4がガイドバー6,7に対してガイドバー径方向に、ラック4aが合焦移動枠4に対して光軸方向に、さらにラック4aがリードスクリュー9aへの噛み合い方向にそれぞれ片寄せ付勢され、各部のガタをなくしている。
10は第2群レンズL2を光軸方向に駆動し、変倍動作を行なわせるステッピングモータ(以下、ズームモータという)であり、回転するロータと同軸のリードスクリュー10aとを有する。リードスクリュー10aには変倍移動枠2に取り付けられたラック2aが噛み合っており、ロータおよびリードスクリュー10aが回転することによって変倍移動枠2(第2群レンズL2)が光軸方向に駆動される。ズームモータ10は2本のビスによって固定鏡筒1に固定されている。
なお、変倍移動枠2とラック2aとの間に配置されたねじりコイルバネ2bによって、変倍移動枠2がガイドバー6,7に対してガイドバー径方向に、ラック2aが変倍移動枠2に対して光軸方向に、さらにラック2aがリードスクリュー10aへの噛み合い方向にそれぞれ片寄せ付勢され、各部のガタをなくしている。
11はフォトインタラプタからなるフォーカスリセットスイッチであり、合焦移動枠4に形成された遮光部4cの光軸方向への移動による遮光、透光の切り替わりを検出して電気信号を出力する。不図示の制御回路は、このフォーカスリセットスイッチ11からの電気信号に基づいて、第4群レンズL4が基準位置に位置するか否かを判別する。このフォーカスリセットスイッチ11は1本のビスによって後部鏡筒5に固定されている。
12はフォトインタラプタからなるズームリセットスイッチであり、変倍移動枠2に形成された遮光部2cの光軸方向への移動による遮光、透光の切り替わりを検出して電気信号を出力する。不図示の制御回路は、このズームリセットスイッチ12からの電気信号に基づいて第2群レンズL2が基準位置に位置するか否かを判別する。このズームリセットスイッチ12は1本のビスによって固定鏡筒1に固定されている。
次に、図2および図3を用いてシフトレンズL3を光軸直交面内で移動可能とするシフトユニット(振れ補正装置)3の構成について詳しく説明する。図3には、シフトユニット3を分解した状態を後側から見て示している。
13はシフトユニット3の前側本体を構成するシフトベースであり、固定鏡筒1と後部鏡筒5との間に挟み込まれて固定される。
15はシフトレンズL3を保持するシフト枠であり、このシフト枠15は、ピッチ方向の振れ(カメラの縦方向の角度変化)による像振れを補正するためにピッチ方向に、またヨー方向の振れ(カメラの横方向の角度変化)による像振れを補正するためにヨー方向に、光軸直交面内でシフトベース13に対してシフト移動可能となっている。
16a,16b,16cはシフトベース13とシフト枠15との間に挟まれた3つのボールである。これらボール16a,16b,16cは、その近傍に配置される後述する駆動用磁石に吸引されないように、例えばSUS304(オーステナイト系のステンレス鋼)といった材質で形成されている。
また、これらボール16a,16b,16cはそれぞれ、シフトベース13上の面13a,13b,13cに、また、シフト枠15の面15a,15b,15cに当接する。これら3個所ずつの当接面は、光学系の光軸に対して垂直な面であり、3つのボール16a,16b,16cの呼び径が同じ場合は、3個所の当接面の光軸方向位置の相互差を小さく抑えることにより、シフト枠15を光軸に対して直角な姿勢を保ったままで保持およびシフト案内が可能となる。
17は後側本体を構成するセンサベースであり、2本の位置決めピンで位置が決められて、2本のビスでシフトベース13に結合される。
次に、シフト枠15をシフト駆動するための駆動手段について説明する。なお、ピッチ方向およびヨー方向の駆動手段および後述する位置検出手段は、同一構成を有し、光軸回りに90度の位相差をもっているのみであるので、ここでは図2に示したピッチ方向の駆動手段および位置検出手段について説明する。また、図中の部品を示す符号について、ピッチ方向の構成要素にはPを、ヨー方向の構成要素にはYの添え字を付す。
18pは光軸に対して放射方向に2極着磁された駆動用磁石であり、19pは駆動用磁石18pの光軸方向前側の磁束を閉じるためのバックヨーク、20pはシフト枠15に接着により固定されたコイル、21pは駆動用磁石18pの光軸方向後側の磁束を閉じるためのヨーク(請求の範囲にいうヨーク)である。ヨーク21pは、駆動用磁石18pとは光軸方向において略同一の投影形状を有している。
14pはヨーク21pを位置決めするための部材であり、ヨーク21pは位置決め部材14pにより位置を決められて、コイル20pの背面に固定されている。
駆動用磁石18pとバックヨーク19pはシフトベース13に固定され、ヨーク21pはコイル20pと共にシフト枠15に固定されている。そしてこれら駆動用磁石18pと、バックヨーク19pと、ヨーク21pとにより磁気回路が形成される。この磁気回路内に配置されたコイル20pに電流を流すと、駆動用磁石18pにおける2極着磁の着磁境界に対して略直角方向に、磁石とコイルに発生する磁力線相互の反発によるローレンツ力が発生し、シフト枠15がシフト移動する。
このような構成の駆動手段が、ピッチ方向およびヨー方向に関して設けられているので、シフト枠15に対して、光軸直交面内で略直交するピッチ方向およびヨー方向への駆動力を与えることができる。
すなわち、本実施形態は、マグネットを含む磁気回路のギャップにコイルを配置し、コイルへの通電によりコイルとともにシフト枠15(シフトレンズL3)をシフト駆動する、いわゆるムービングコイルタイプのシフトユニットである。
また、駆動用磁石18pとヨーク21pとの間には磁気的吸引作用が生じ、この吸引力によってヨーク21pは駆動用磁石18p側に引き付けられる。つまり、ピッチ方向およびヨー方向の磁気回路での合力が、3つのボール16a〜16bの内側に働くように、これら磁気回路およびボール16a〜16bを配置することで、シフト枠15を3つのボール16a〜16cを挟んでシフトベース13側に付勢することができる。
また、3つのボール16a〜16cとシフトベース13およびシフト枠15の当接面との間には、上記吸引力による付勢によらなくても、ボール16a〜16cがシフトベース13およびシフト枠15の当接面から容易に脱落しない程度の粘度を有する潤滑油が塗布されている。これにより、上記吸引力を上回る慣性力がシフト枠15に働いて、シフト枠15の当接面がボール16a〜16cから浮いた状態となっても、ボール16a〜16cの位置が容易にずれるのを防止できる。また、ピッチ方向およびヨー方向の磁気回路による付勢力を、シフトレンズL3を含むシフト枠15の重量の少なくとも5倍以上とすることで、実際の撮影時において良好な付勢状態が維持されるものと考えられる。
次に、図4(a)〜(c)を用いてシフト枠15の駆動時の状態について説明する。図4(a)および(b)は、上述した駆動手段の一部分のみを示している。図4(a)の状態では、シフトレンズL3の光軸がレンズ鏡筒内の他のレンズの光軸と略一致した、シフト枠15がピッチ方向およびヨー方向について中立位置にあるときを示している。
ヨーク21pには半抜き加工によって突出部21paが形成されており、その位置は駆動用磁石18pの2極着磁の境界に位置している。このとき、突出部21paは駆動用磁石18pの2極着磁の両磁極からほぼ均等な距離にあるので、両者が突出部21paを引っ張る力もほぼ均等となり、バランスの取れた状態となっている。
また、ヨーク21pは、前述のように、駆動用磁石18pとは光軸方向では略同一の投影形状を有するので、駆動用磁石18pの2極の磁極から出入りする磁束はヨーク21pを通って閉じており、図4(a)の状態が磁気的に最も安定した状態である。
図4(b)はコイル20pに通電することによって、コイル20pとヨーク21p(すなわちシフト枠15)が下方向に移動した状態である。コイル20pで発生する力に応じて、図4(a)の安定状態からピッチ方向(又は、ヨー方向)に変位することになる。
図4(b)の状態は磁気回路的には安定状態から変位しているので、コイル20pへの通電を止めると図4(a)の状態に引き戻されるが、ヨーク21pの突出部21paが下方に変位することにより、駆動用磁石18pのN極により近くなり、S極からは遠くなる。
磁気力の大きさは距離の2乗に反比例するので、突出部21paに働く磁極からの力は変位を助長する方向に働くことになる。
図4(c)はこのことを説明する図であり、横軸はコイル20pに印加される電圧値を、縦軸はシフト枠15の変位量を示している。両軸の交点は、コイル20pに印加される電圧が「0」であり、シフト枠15が中立位置にあることを示す。
仮にヨーク21pに突出部21paがない場合は、図の破線Aのような駆動曲線となり、突出部21paがあると、この突出部21paの上記効果により磁気回路が閉じる力が相殺されて、駆動曲線は実線Bのようになる。つまり、少ない印加電圧でシフト枠15を大きく変位させることが可能となる。
なお、ヨーク21pの大きさや突出部21paの大きさを変えることにより、磁気的な力の中心位置を制御することができ、例えば、シフト枠15の自重を磁気力で支えるために、ヨーク21pを意図的に下にずらしたり、突出部21paを下方向にずらしたりしてもよい。
次に、図5(a)〜(d)において、ボール16bに対するシフトベース13とシフト枠15との関係を説明する。なお、他のボール16a,16cについても同一の関係となっている。
図5(a)に示す状態では、シフト枠15が中立位置にあり、ボール16bもシフトベース13の当接面13bの周囲に設けられているボール16bの移動を制限する制限枠(制限部)内の中心に位置している。なお、当接面13bは、シフトベース13に形成された、光軸方向視において矩形(正方形)状の開口を有する凹部の底面に相当する面であり、制限枠の端面はこの凹部の内壁面により構成される。
図5(a)に示す状態から、ピッチ方向の駆動手段によってシフト枠15が下向き矢印方向に駆動された状態を図5(b)に示す。図5(b)に示す状態では、シフト枠15は、シフトベース13に設けられた不図示の可動機械端まで駆動されて中立位置からaだけ移動している。
ボール16bはシフトベース13とシフト枠15とによって挟持されているので、図5(a)の位置から図5(b)の位置に転動する。ここで、転がり摩擦は滑り摩擦に対して十分小さいので、ボール16bはシフトベース13およびシフト枠15の当接面13b,15bに対して滑ることがなく、ボール16bを転がしながらシフト枠15はシフトベース13に対して移動する。
このとき、ボール16bの中心に対して、シフト枠15とシフトベース13は相対的に反対方向に移動しているので、シフトベース13に対するボール16aの移動量bはシフト枠15の移動量aの半分(a÷2)となる。
図5(c)には、図5(a)に示す状態のボール16bおよびシフトベース13の制限枠を後側から見て示している。ボール16bは、ピッチ方向に延びる一対の制限端面およびヨー方向に延びる一対の制限端面により囲まれる矩形枠内の中心に位置している。
制限枠の内側の大きさは、ボール16bの半径をrとしたとき、中心から(r+b+c)で表わされる。cは機械的な余裕量である。つまり、制限枠の内側の大きさは、ボール16bの直径と、シフト枠15のシフト移動に伴う中心からピッチ方向両側およびヨー方向両側へのボール16bの最大移動量(b×2)と、機械的余裕量(c×2)とを加えた寸法となる。
ここで、ボール16bが図5(c)に示す制限枠内の中心に位置する状態から余裕量c以上、下方にずれた位置にある場合に、図5(b)のようにシフト枠15が下方にaの量駆動されると、ボール16bはシフト枠15がaの量動いて機械端に当たる前に制限端面に当たってしまい、それ以後のシフト枠15の駆動中では、ボール16bは制限端面に押し付けられたままシフト枠15に対して滑る。
そして、シフト枠15のa量駆動が終了した状態から、さらにシフト枠15を中心位置に向かってa量戻すと、ボール16bは制限枠の中心からcの距離の位置まで転がって戻る。
このように、シフト枠15をピッチ方向およびヨー方向の両側の機械端まで駆動して中心位置まで戻すと、最初にボール16bがどの位置にあっても、図5(d)に示すように、ボール16bの中心は制限枠の中心からcの距離の4辺により構成される矩形範囲(初期位置範囲)内に位置づけされることになる。この一連の動作をボールのリセット動作と称する。
通常、レンズの光学性能は、各レンズの光軸が一致している時に最も性能が出るように設計されるので、シフトレンズL3が他のレンズに対して偏芯するに従って、性能的には不利な状態となる。但し、本実施形態のレンズ鏡筒では、実際に必要なシフトレンズL3のシフト範囲内では実用上問題のない光学性能を達成できるようになっている。
ところで、シフト枠15をピッチ方向およびヨー方向に同時に同じ量だけ駆動すると、ピッチ方向およびヨー方向の中間の方向に、ピッチ方向又はヨー方向の移動量の√2倍の位置まで移動する。そして、実際の使用状態では、シフト枠15がピッチ方向又はヨー方向に完全に独立して駆動されることはほとんどなく、他方の方向での位置を考慮して光軸を中心とした円形もしくは円形に近い多角形の範囲内でシフト移動する。
このとき、3つのボール16a〜16cは上記実際の移動範囲の形状に相似な半分の範囲内で転がり運動をすることになる。
一方、ボール16a〜16cを収容した上記制限枠は、ピッチ方向およびヨー方向にそれぞれ略平行な二対の辺を持つ矩形形状であるが、これが上述した実際の使用状態でのボールの動く範囲に沿った、円形もしくは多角形の形状をしていると、ボールのリセット動作によって、実使用状態でボールが制限端面と当たらない位置まで正しく移動させることができない場合が生じてしまう。
そこで、上述したように、制限枠の大きさを、ボール16bの直径と、シフト枠15のシフト移動に伴う中心からピッチ方向両側およびヨー方向両側へのボール16bの最大移動量(b×2)と、機械的余裕量(c×2)とを加えた寸法とする。これにより、例えばボールを1つの角部で互いに隣り合う(角部を構成する)2つの制限端面に片寄せした時に、ボールと他の2つの制限端面とのピッチ方向およびヨー方向の隙間が、シフト枠15の各方向への機械的な最大可動量(または実使用時の最大可動量)の半分の量bより大きくする(2b+2c)。
つまり、ボールの可動範囲が矩形ではなく丸もしくは8角形などの多角形の場合では、ボールがずれて任意の位置にあると、リセット動作をしたときに端に当たってから反対方向に転がって戻るときに隙間が足りないと、また端に当たってしまって結局、中央付近に初期位置出しをできなくなることがあるので、本実施形態は、これを回避するものである。
このため、上述した大きさに制限枠を設定することにより、シフトベース13およびシフト枠15のボールと当接する面13a〜13c,15a〜15cの面積を必要最小限とすることができ、ボール16a〜16cのリセット動作を行なえば、実使用時にはボールが制限端面に当たらず、ボールの転がりのみでシフト枠15が支持および案内される。このため、振れ補正動作時におけるシフト枠15の駆動抵抗を小さな転がり抵抗のみとすることができ、精度の高い振れ補正動作を行うことができるとともに、シフト駆動に必要な駆動力の低減による駆動手段の小型化ひいてはシフトユニット3の小型化を図ることができる。
さらに、前述したように、ボール16a〜16cと各当接面13a〜13c,15a〜15cとの間に潤滑油を塗布することで、ボールと各当接面との滑り摩擦力をより小さくして、さらなる振れ補正制御の高精度化およびシフトユニット3の小型化を図ることができる。
次に、位置検出手段について説明する。図2および図3を用いて説明する。これらの図において、22pは光軸に対して放射方向に2極に着磁された検出用磁石であり、ヨーク21pにより光軸方向前側の磁束が閉じられている。検出用磁石22pは、ヨーク21pの後側(ヨーク21pを挟んでコイル20pの反対側)にてシフト枠15に固定されている。
24pは磁束密度を電気信号に変換するホール素子であり、センサベース17に位置決め固定されている。これら、検出用磁石22p、ヨーク21pおよびホール素子24pによって位置検出手段が構成されている。なお、ヨーク21pを駆動手段と位置検出手段とで共用することにより、位置検出手段の専用のヨークを設ける場合に比べて、部品点数の減少とシフトユニット3の小型化、さらにはシフト枠15の軽量化による振れ補正制御性の向上等を図ることができる。
ここで、図6を用いて、検出用磁石22pの光軸方向後側の磁束の状態を説明する。図6において、横軸は光軸に対して放射方向の位置を、縦軸は磁束密度を示している。横軸の中央は、検出用磁石22pの2極着磁の境界部分であり、ここでは磁束密度は零となる。また、この位置は、シフトレンズL3の光軸が他のレンズに対して略一致する中立位置に対応する。
図6において、二点鎖線で示す変位量の範囲内では、磁束密度が実用上問題とならない程度に直線的に変化している。この磁束密度変化を適当な信号処理によりホール素子24pから電気信号として検出することにより、シフトレンズL3の位置を検出することが可能となる。
図7には、ホール素子24pの信号処理回路の例を示している。この図において、24はホール素子、40はオペアンプである。このオペアンプ40は、抵抗40a,40b,40cと組み合わされ、ホール素子24に定電流を供給する。ホール素子24の磁束密度に対する出力は、オペアンプ41と抵抗41a,41b,41c,41dによって差動増幅される。
抵抗41eは可変抵抗であり、その抵抗値を変化させることにより磁束密度に対する電気出力信号のレベルをシフトさせることができる。本実施形態の場合、シフトレンズL3が中立位置にあるときに出力が基準電位Vcに等しくなるように調整される。
オペアンプ42は抵抗42a,42bと組み合わされて、オペアンプ41の出力を基準電位Vcに対して反転増幅する。そして、可変抵抗42bの抵抗値を変化させることにより磁束密度の変化に対する出力電圧の変化の割合を所定値に調整することができる。
図3において、25はコイル20pおよびホール素子24pを電気的に外部回路と接続させるための可撓性を有するフレキシブル基板である。このフレキシブル基板25は、25aの部分でふたつに折り返され、26pの部分の光軸方向の前側にはホール素子24pが実装されている。また、折り返された部分25aはさらに3個所の曲げ部を有し、先端部27pは、その一部に形成された穴部28pをシフト枠15に形成されたピン29pにピン回りで回転自在に嵌合させている。先端部27pに設けられたランド部30p,31pにはコイル20pの両端子がそれぞれ半田付けされている。
32はフレキシブル基板25をセンサベース17に固定するための押さえ板であり、1本のビスによりセンサベース17固定されている。
次に、図8(a),(b)を用いてフレキシブル基板25の固定部であるセンサベース17とシフト枠15との動きを吸収する接続部分について更に詳しく説明する。
図8(a)はフレキシブル基板25を曲げる前の形状を示している。センサベース17に固定される部分には穴部33pと長穴部34pとが長手方向に並ぶように形成されている。センサベース17における穴部33pと長穴部34pに対応する部分にはそれぞれピンが形成されており、穴部33pによりフレキシブル基板25の位置が、長穴部34pにより固定部分からの延び出し方向が決められる。
なお、穴部33pと長穴部34pとの間の曲げ部分は、押さえ板32によりセンサベース17に押さえられる。35p,37pの帯状部は曲げ部36pで略90度に曲げられる。シフト枠15のピッチ方向およびヨー方向の動きは、帯状部35p,37pの長手方向の撓みにより吸収される。
先端部27pの穴部28pは、先に説明したようにシフト枠15のピン29pに嵌合されるが、ピン29pは段付きピンとなっており、先端部27pが抜けない構成となっている。
また、先端部27pは、その出張り部38pがシフト枠15の受け面と、この受け面に対してある間隔をもって形成された押さえ部15gとの間に嵌り込むことによって、ある範囲内でのピン29p回りでの回転自由度を持ってピン29pから外れないようになっている。
ここで、曲げ部36pは、長手方向に対して正確に90度の角度に曲げられている場合には、先端部27pの穴部28pはピン29pの位置にくるので、フレキシブル基板25の帯状部35p,37pには不自然な変形は起きないが、曲げ部36pが長手方向に対して90度からずれて曲げられた場合には、先端部27pの穴部28pとピン29pの位置とが光軸方向に曲げが傾いている分だけずれてしまう。
このとき、先端部27pが曲げのずれ分だけ回転可能なので、帯状部35p,37pの捩じれにより、曲げ部36pの曲げのずれを吸収することができる。
仮に、先端部27pが回転できない構造だと、曲げ部36pの曲げのずれがあると、帯状部35p,37pに容易に曲がらない長手幅方向の曲げ(図中の矢印AおよびB方向の曲げ)が働いて、シフト枠15は光軸方向に強く押さえつけられる。これにより、ボール16a〜16cとシフトベース13およびシフト枠15との摺動部分の摩擦の増加により、シフト枠15の動きが悪くなってしまう。
また、センサベース17への結合部分における押え板32の押えがずれて、フレキシブル基板25の延び出し方向が若干ずれても、ピン29pに対する穴部28pの光軸方向の位置がずれるので、先端部27pの回転によってフレキシブル基板25による光軸方向の弾性力が緩和される。
次に、図9(a),(b)を用いて、位置検出手段の構成と配置およびピッチ,ヨー方向の2つの磁気回路によるシフト枠15の回転抑制の機能とその時の動きについて説明する。
図9(a)には、シフト枠15を光軸方向後側から見て示している。ピッチ方向およびヨー方向の2つの磁気回路は、シフト枠15を光軸方向に付勢する。また、前述したように、ヨーク21p,21yは駆動用磁石18p,18yとは光軸方向において略同一の投影形状をしている。このため、シフト枠15のシフトベース13(センサベース17)に対する光軸回りでの回転は、シフトベース13に固定されているピッチ,ヨー方向の2つの駆動用磁石18p,18yの吸引作用によって抑制される。
検出用磁石22p,22yはそれぞれの2極着磁の境界が自らの検出方向軸(ピッチ方向軸およびヨー方向軸)に対して直角方向に配置されており、他方の検出用磁石の検出方向軸の動きに対して、その動きが検出用磁石の大きさに比べて小さい場合は、ホール素子に対する磁束分布が実用上変化しない。このため、2軸独立にシフト枠15の位置を検出することができる。
また、ピッチ,ヨー方向の2つの位置検出手段は、その検出方向軸の交点が他のレンズの光軸に一致しているので、光軸回りでのシフト枠15の回転があっても、それが比較的小さな角度内であれば、実用上問題となるような出力値の変化を起こさない。
シフト枠15に駆動手段によって駆動力が働いたときのシフト枠15の動きは、駆動手段の力の発生位置とシフト枠15の重心との位置関係や、接続されているフレキシブル基板25の接続位置および形状によって異なる。2つの磁気回路はシフト枠15の回転を抑制しているだけなので、シフト枠15のシフト駆動に伴なってシフト枠15が光軸回りで回転することがある。
その時の位置検出手段からの出力値の変化について、図9(b)を用いて説明する。ピッチ方向の位置検出点をAとし、ヨー方向の位置検出点をBとし、他のレンズ光軸をCとし、点Dを中心としてシフト枠15が回転した場合について、各点の動きを見る。
回転角度があまり大きくない場合には、A,B,Cの各点は点Dを結んだ線と直角方向に移動する。
ここで、点A〜Cの動きベクトルをそれぞれVa,Vb,Vcとし、これらを2軸(ヨー方向の検出方向軸xおよびピッチ方向の検出方向軸y)の延びる方向にそれぞれ分解したときの各成分を、Vax,Vay,Vbx,Vby,Vcx,Vcyとする。
位置検出手段は、前述したように、検出方向軸と直角方向にはほとんど感度を有していないので、VaxおよびVbyのベクトルは位置検出手段によって検出されない。
ところで、2つの検出方向軸x,yの交点は光軸Cと一致しているので、光軸Cの動きベクトルVcx,Vcyに対して、Vcx=Vbx,Vcy=Vayの関係が成り立つ。
このことは、光軸Cから離れた点を中心とした回転に伴なうシフトレンズL3の光軸位置の変化、すなわちシフト量を回転に影響されずに位置検出手段によって正しく検出できることを示しており、駆動手段および位置検出手段を含む位置決め制御(これについては後述する)により、シフト枠15を正しい位置に移動させることができる。
図10には、振れ補正機能を有するレンズ鏡筒を搭載した撮影装置における電気回路構成を示している。図2に示したレンズ鏡筒には、被写体の空間周波数の高域成分を除去するための光学ローパスフィルタ50と、ピント面に配置された光学像を電気信号に変換するためのCCD等の撮像素子51とが設けられている。
また、カメラ本体には、撮像素子51から読み出された電気信号aを映像信号に処理するカメラ信号処理回路52と、レンズ駆動を制御する制御回路としてのマイコン53とが設けられている。
カメラ電源が投入されると、マイコン53はフォーカスリセット回路54およびズームリセット回路55の出力を監視しながら、フォーカスモータ駆動回路56およびズームモータ駆動回路57にフォーカスモータ9およびズームモータ10を回転駆動させ、合焦移動枠4および変倍移動枠2を光軸方向に移動させる。
フォーカスリセット回路54およびズームリセット回路55の出力はそれぞれ、合焦移動枠4および変倍移動枠2が予め設定された位置(各移動枠に設けられた遮光部がリセットスイッチ11,12の発光部を遮光する境界位置)で反転する。この一連の動作を合焦移動枠4および変倍移動枠2のリセット動作という。
マイコン53は、その位置を基準として、以後のフォーカスモータ9およびズームモータ10の駆動ステップ数を計数することにより、合焦移動枠(第4群レンズL4)および変倍移動枠2(第2群レンズL2)の絶対位置を知ることができる。ズームモータ10の駆動ステップ数を計数することにより、正確な焦点距離情報が得られる。
58は絞りユニット8を駆動するための絞り駆動回路であり、マイコン53に取り込まれた映像信号の明るさ情報bに基づいて、絞り開口径が制御される。
59,60はそれぞれ、撮影装置のピッチ方向およびヨー方向の振れ角度を検出するためのピッチおよびヨー角度検出回路である。振れ角度の検出は、例えば撮影装置に固定された振動ジャイロ等の角速度センサの出力を積分して行う。
両角度検出回路59、60の出力、すなわち撮影装置の振れ角度の情報は、マイコン53に取り込まれる。
61,62はそれぞれ、角度検出回路59,60からの出力に応じて、前述したピッチ方向およびヨー方向の駆動手段を構成するコイル20p,20yへの通電制御を行い、シフト枠15(シフトレンズL3)を光軸直交面内でシフト移動させるピッチおよびヨーコイル駆動回路である。
63,64はそれぞれ、前述した位置検出手段を含む、シフト枠15の光軸に対するシフト量を検出するためのピッチおよびヨー位置検出回路であり、これら位置検出回路63,64からの出力はマイコン53に取り込まれる。
シフトレンズL3がシフト移動すると、撮影レンズ内の通過光束が曲げられる。このため、撮影装置に振れが生じることによって本来生ずる撮像素子51上での被写体像の変位を相殺する方向に、相殺する曲げ量だけ通過光束を曲げるようシフトレンズL3をシフト移動させることにより、撮影装置が振れても結像している被写体像が撮像素子51上で動かない、いわゆる振れ補正を行うことができる。
マイコン53は、ピッチ角度検出回路59およびヨー角度検出回路60により得られた撮影装置の振れ信号と、ピッチ位置検出回路63およびヨー位置検出回路64から得られたシフト量信号との差分に相当する信号に対して増幅および適当な位相補償を行なった信号に基づいて、ピッチコイル駆動回路61およびヨーコイル駆動回路62にシフト枠15をシフト駆動させる。
この制御によって、上記の差分信号がより小さくなるようにシフトレンズL3が位置決め制御され、目標位置に保たれる。
さらに、本実施形態では、シフトレンズL3が変倍のための第2群レンズL2よりも撮像面側にあるので、シフトレンズL3のシフト量に対する像の移動量が第2群レンズL2の位置、すなわち焦点距離によって変化してしまう。
このため、ピッチ角度検出回路59およびヨー角度検出回路60によって得られる撮影装置の振れ信号でそのままシフトレンズL3のシフト量を決定することはせず、振れ信号を第2群レンズL2の位置情報(焦点距離情報)によって補正する。これにより、焦点距離にかかわらず適正な振れ補正制御を行うことができる。
これまで振れ補正時の動作について説明したが、前述したボール16a〜16bのリセット動作を、電源投入時でのズームおよびフォーカスのリセット動作に引き続いて又は時分割で同時に行なうことにより(すなわち、振れ補正動作の開始前に行うことにより)、撮影装置の未使用時での衝撃等でボール16a〜16bが正しい位置からずれていたとしても、ボールのリセット動作の直後から、ボールの転がり摩擦下での振れ補正動作を行うことができる。このため、常に優れた振れ補正性能を発揮することができる。
また、撮影装置の使用中(撮影映像をモニターで観察している時や映像を記録装置に記録している時等)以外の状態をマイコン53で判別して(例えば、撮影装置の振れ角度の観察により、使用者が撮影装置を持ち歩いている状態を判別する)、この状態にてボールのリセット動作を適宜行なうことで、使用時に常に優れた振れ補正を保証することができる。
また、一般に振れ補正の補正角度範囲は0.5度から1度程度であり、実際の撮影では、撮影装置の各機能を操作する動作やファインダー上で被写体を探したりする動作で、上記の補正角度以上の動きを撮影装置に与えることになる。このため、その動きによりボールのリセット動作と同じ動作を行わせるようにしてもよい。ボールが転がり摩擦状態から滑り摩擦状態に移行する時に摩擦力の不連続な増加で一瞬振れ補正性能が劣化するが、補正角度範囲以上の動きが機器に与えられれば、それ以降は、ボールの転がりだけで案内が行われるので、良好な振れ補正が可能となる。
なお、本実施形態では、駆動用磁石をシフトベースに、コイルをシフト枠に保持させたムービングコイルタイプの振れ補正装置について説明したが、駆動用磁石をシフト枠に、コイルをシフトベースに保持させるようにしてもよい。
また、本実施形態では、撮影装置に用いられるシフトユニットについて説明したが、本発明の振れ補正装置は双眼鏡、望遠鏡等の観察装置にも用いることができる。