JP4447818B2 - スピーカー用振動板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、スピーカー用振動板に関する。
【0002】
【従来の技術】
代表的なスピーカー用振動板としては、パルプなどの短繊維を抄造したパルプコーン、強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸して成形したFRPコーン、熱可塑性樹脂を射出成形した振動板等が挙げられる。近年、環境問題への関心の高まりとともに、軽量、耐候性といった特性が求められており、車載用スピーカーにおいてはこのような要求が特に強くなっている。
【0003】
車載用スピーカーの振動板としては、強度および耐候性の観点からFRPコーンが優れている。FRPコーンとしては、いわゆるエポキシプリプレグを用いたものが最も一般的である。ここで、エポキシプリプレグとは、炭素繊維またはガラス繊維の織物基材にマトリクス樹脂としてエポキシ樹脂を含浸し半硬化させたものである。しかし、このような無機繊維を基材とした振動板は、優れた弾性率を有するが、内部損失が極端に小さく、かつ、最高共振周波数Fhで急峻なピークが発生するので、再生音の音質が原音とかけ離れたものとなるという問題がある。
【0004】
基材として天然繊維を使用すれば内部損失を増大させることは可能であるが、エポキシ樹脂の硬化条件(代表的には130℃で10分以上)では繊維が熱分解してしまう。その結果、変形したり、機械的特性が極端に低下するので、エポキシ樹脂を使用することができず、実用的ではない。
【0005】
また、無機短繊維の不織布を基材として使用する場合もある。この場合、無機繊維不織布はそのままでは絡み合いが弱く布状にはなり得ないので、通常、繊維表面に熱可塑性樹脂がバインダーとして多量にコーティングされる。その結果、マトリクス樹脂を含浸して成形しても、無機繊維表面とマトリクス樹脂との間に多量の熱可塑性樹脂(バインダー樹脂)層が介在するので、十分な弾性率が得られないという問題がある。
【0006】
さらに、上記以外に種々の基材が提案されているが、それぞれ、以下に説明するような問題がある。無機繊維の織布と天然繊維の織布とを組み合わせた基材の場合には(特開昭53-95617号公報)、各織布層間に繊維同士の結合がなく樹脂で満たされているだけであるので、曲げ剛性が不十分である。その結果、大振幅により振動板に曲げ振動が加わった場合、層間剥離が生じやすいという問題がある。無機繊維の織布と合成繊維の不織布とを組み合わせた基材の場合(特開昭53-95617号公報)、および、無機繊維の織布とパルプとを組み合わせた基材の場合(例えば、特開昭58-131895号公報、特開昭64-24697号公報、特開昭64-82800号公報、特開2000-92590号公報)には、織布と不織布またはパルプが絡み合うので層間剥離は生じにくい。しかし、パルプ不織布は成形時の加熱で劣化し、合成繊維不織布は成形時の加熱により軟化してしまう。その結果、繊維が変質した状態で硬化・成形されるので、パルプまたは合成繊維の特性が十分に生かされず、結局、得られる弾性率および内部損失は無機繊維織布のみからなる基材の弾性率および内部損失とほとんど同等である。
【0007】
振動板の成形方法としては、単層のエポキシプリプレグまたは複数のエポキシプリプレグを重ね合わせた積層体を熱プレスにより成形する方法が代表的である。プリプレグは、織布または不織布を構成する繊維が高粘度の半硬化エポキシ樹脂で覆われているので、多量のエポキシ樹脂が繊維表面を覆ったまま振動板が成形される。その結果、得られる振動板の繊維体積比率Vfが小さくなってしまう。すなわち、得られる振動板の特性がエポキシ樹脂の特性に支配されてしまう。より具体的には、いくら弾性率の大きな繊維基材を使用しても得られる振動板の弾性率はそれほど大きくならず、また、エポキシ樹脂は硬くて脆いので得られる振動板の内部損失が極端に低下してしまうという問題がある。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、弾性率および内部損失の両方に優れ、原音に忠実な再生音が得られるスピーカー用振動板を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明のスピーカー用振動板は、熱硬化性樹脂が含浸された基材を成形および硬化してなり、該基材が、少なくとも1つの無機繊維織布層と少なくとも1つの天然繊維不織布層とを含む積層体であり、該熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル樹脂であり、繊維体積含有率が50%〜90%の範囲である。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記繊維体積含有率は55%〜85%の範囲である。
【0011】
好ましい実施形態においては、上記基材は、最上層に無機繊維織布層を有し、該無機繊維織布層の下に複数の天然繊維不織布層を有する。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記無機繊維はガラス繊維であり、上記天然繊維は絹繊維である。
【0013】
好ましい実施形態においては、上記振動板の弾性率は7.0×1010dyne/cm2以上であり、内部損失は0.024以上である。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明のスピーカー用振動板は、熱硬化性樹脂が含浸された基材を成形および硬化してなる。
【0015】
この基材は、少なくとも1つの無機繊維織布層と少なくとも1つの天然繊維不織布層とを含む積層体である。目的とする弾性率、内部損失および繊維体積含有率に応じて任意の適切な積層構造が採用され得る。代表的には、基材は、最上層(すなわち、再生音が放射される側)に無機繊維織布層を有し、該無機繊維織布層の下に複数の天然繊維不織布層を有する。天然繊維不織布層は、さらに好ましくは3層〜6層であり、とりわけ好ましくは6層である。このような積層構造を有することにより、非常に優れた弾性率および内部損失を有する振動板が得られるからである。
【0016】
好ましくは、基材を構成する無機繊維織布および天然繊維不織布はいずれも、いわゆる目付けが小さいものが用いられる。熱硬化性樹脂の含浸効率が向上し、繊維体積含有率Vfが非常に高い振動板が得られるからである。代表的には、無機繊維織布は90〜750g/m2の面密度を有し、天然繊維不織布は30〜60g/m2の面密度を有する。
【0017】
本発明に用いられる熱硬化性樹脂は、不飽和ポリエステル樹脂である。他の熱硬化性樹脂に比べて粘度が低いので、基材への含浸効率が他の熱硬化性樹脂に比べて格段に優れ、その結果、繊維体積含有率Vfが非常に高い振動板が得られるからである。さらに、成形温度が低いので、成形時における基材の天然繊維の劣化を防止できるからである。本発明に用いられる熱硬化性樹脂は、液状組成物の形態で数多く市販されている。
【0018】
本発明の振動板の繊維体積含有率Vfは50%〜90%の範囲である。繊維体積含有率Vfは、ASTM D 3171に下式で規定されている。
【0019】
【数1】
【0020】
ここで、Rρは樹脂の密度であり、Fρは繊維の密度であり、Wfは繊維重量含有率(すなわち、複合体重量に占める繊維重量の割合)である。無機繊維織布および天然繊維不織布を含む基材と不飽和ポリエステル樹脂とを組み合わせることにより、従来では達成できなかった高い繊維体積含有率Vfを達成したことが、本発明の特徴の1つである。
【0021】
繊維体積含有率Vfは、好ましくは55%以上、さらに好ましくは60%以上、とりわけ好ましくは65%以上、最も好ましくは70%以上である。基材繊維の特性を忠実に反映した振動板が得られるからである。繊維体積含有率Vfの上限は、成形可能な範囲で高ければ高いほど好ましい。具体的には、繊維体積含有率Vfは、好ましくは85%以下、さらに好ましくは80%以下である。成形不良の可能性が格段に減少するからである。
【0022】
好ましくは、上記無機繊維はガラス繊維である。優れた弾性率を有する振動板が得られるからである。好ましくは、上記天然繊維は絹繊維である。優れた内部損失を有する振動板が得られるからである。
【0023】
好ましくは、本発明の振動板の弾性率は7.0×1010dyne/cm2以上であり、かつ、内部損失は0.024以上である。さらに好ましくは、弾性率が8.7×1010dyne/cm2以上であり、かつ、内部損失が0.033以上、あるいは、弾性率が8.3×1010dyne/cm2以上であり、かつ、内部損失が0.037以上である。このような優れた弾性率と内部損失とを同時に達成できることが、本発明の特徴の1つである。
【0024】
以下、本発明の作用について説明する。
【0025】
一般に、振動板の繊維体積含有率と弾性率との間には
Ec=Ef・Vf+Er(1−Vf)
という関係が成り立つ。ここで、Ecは振動板成形品の弾性率であり、Efは繊維の弾性率であり、Erは含浸樹脂の弾性率であり、Vfは繊維体積含有率である。繊維の弾性率は有機・無機を問わず含浸樹脂の弾性率よりもはるかに大きいので、振動板の弾性率Ecを大きくするためには、繊維体積含有率Vfを大きくすることが望ましい。しかし、Vfがある程度大きくなると、繊維同士を結合しているマトリクス樹脂(含浸樹脂)の量が少なくなるため、逆に弾性率は低下する。基材が積層構造を有する場合には、繊維層間の機械的な結合力に依存して、弾性率が低下し始めるVfが変化する。いずれにしても、従来の振動板では、繊維体積含有率Vfが50%前後の領域で急激に低下する。弾性率が非常に高いガラス繊維のみを基材とすれば、弾性率はVfが60%程度まで維持できるが、内部損失はVfに関係なく劣悪である。
【0026】
本発明によれば、無機繊維織布と天然繊維不織布と不飽和ポリエステル樹脂とを組み合わせて用いることにより、従来では不可能であった高い繊維体積含有率で成形可能な基材が得られ、その結果、弾性率および内部損失の両方に優れ、原音に忠実な再生音が得られるスピーカー用振動板を得ることができる。より詳細には、本発明によれば、弾性率の大きな無機繊維(好ましくは、ガラス繊維)織布の織目と天然繊維(好ましくは、絹繊維)不織布を構成する繊維とが適切に絡み合うことにより、従来では弾性率が低下し始めるVf=約60%でも弾性率は低下しない。その結果、構成繊維の特性を十分に反映した基材が得られるので、無機繊維の優れた弾性率と天然繊維の優れた内部損失(しなやかさ)とを同時に有する振動板が得られる。加えて、本発明に用いられる不飽和ポリエステル樹脂は粘度が非常に低いので、各繊維表面に付着する樹脂量が非常に少なくなる。その結果、上記無機繊維織布と天然繊維との絡み合いがより適切に行われるので、高いVfでの弾性率の維持に大きく貢献する。さらに、不飽和ポリエステル樹脂は成形温度が低いので、成形時に天然繊維の劣化を引き起こすことがない。その結果、原音に忠実な非常に優れた音質を有する振動板が得られる。
【0027】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例には限定されない。なお、特に明記しない限り、実施例中の部およびパーセントは重量基準である。繊維体積含有率は体積基準である。
(実施例1)
以下の組成を有する不飽和ポリエステル溶液を調製した:
不飽和ポリエステル樹脂(日本触媒(株)製:N350L) 100部
低収縮化剤(日本油脂(株)製:モディパー S501) 5部
硬化剤(日本油脂(株):パーオクタO) 1.3部
一方、絹の短繊維(繊維長58mm)を乾式法により空気流によってランダムに配向させて集積層を作成した後、さらに水流絡合法により繊維同士を機械的に絡ませて面密度30g/m2の不織布を作成した。この不織布を20cm×20cmに切断し、切断した不織布を6層積層し、ガラス繊維織布(織密度19本×19本、面密度97g/m2、20cm×20cm)1枚を最上層として重ねて基材とした。
【0028】
中央部に直径約18cmの円形の孔を有する約25cm×25cmのステンレス板をクランプとして用意した。このクランプ2枚の間に上記基材を挟んだ後、上記不飽和ポリエステル溶液(約8g)を基材の中央付近に滴下した。次いで、振動板形状のマッチドダイ金型で110℃で1分間熱プレスすることにより、口径16cm、厚さ0.32mmの本発明の振動板を得た。
【0029】
この振動板について繊維体積含有率Vfとヤング率(弾性率)との関係をシミュレーションした結果を、後述の比較例1〜5の結果と併せて図1に示す。繊維体積含有率Vfと内部損失との関係をシミュレーションした結果を、後述の比較例1〜5の結果と併せて図2に示す。
(比較例1)
ガラス繊維織布(織密度19本×19本、面密度97g/m2)にエポキシ樹脂を含浸して半硬化状態とし、エポキシプリプレグ(面密度161g/m2、プリプレグ中の含浸樹脂含有率=40%)を作成した。このプリプレグを20cm×20cmに切断した。一方、絹織布(面密度60g/m2)を20cm×20cmに切断し、3層に積層した。この積層体の上にプリプレグをさらに積層し、振動板形状のマッチドダイ金型で150℃で12分間熱プレスすることにより、口径16cm、厚さ0.43mmの振動板を得た。
【0030】
この振動板について、実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。結果を図1および図2に示す。
(比較例2)
比較例1と同様にして、20cm×20cmのエポキシプリプレグを作成した。一方、ポリエチレンテレフタレート繊維不織布(面密度30g/m2)を20cm×20cmに切断し、6層に積層した。この積層体の上にプリプレグをさらに積層し、振動板形状のマッチドダイ金型で150℃で12分間熱プレスすることにより、口径16cm、厚さ0.30mmの振動板を得た。
【0031】
この振動板について、実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。結果を図1および図2に示す。
(比較例3)
比較例1と同様にして、20cm×20cmのエポキシプリプレグを作成した。一方、口径16cmのコーン型振動板形状に抄造したパルプコーンを作成した。パルプコーンの上にプリプレグを積層し、振動板形状のマッチドダイ金型で150℃で12分間熱プレスすることにより、口径16cm、厚さ0.35mmの振動板を得た。
【0032】
この振動板について、実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。結果を図1および図2に示す。
(比較例4)
ガラス繊維織布層を設けなかったこと以外は実施例1と同様にして口径16cm、厚さ0.35mmの振動板を得た。この振動板について、実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。結果を図1および図2に示す。
(比較例5)
基材としてポリエチレンテレフタレート繊維不織布(面密度30g/cm2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして口径16cm、厚さ0.30mmの振動板を得た。この振動板について、実施例1と同様にしてシミュレーションを行った。結果を図1および図2に示す。
【0033】
図1から明らかなように、本発明の振動板は、繊維体積含有率Vfが大きい領域において、ヤング率および内部損失のいずれについても優れている。一方、比較例1〜5の振動板は、繊維体積含有率Vfが大きい領域(50〜60%を越える領域)で、ヤング率および内部損失が急激に低下する。
【0034】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、弾性率および内部損失の両方に優れ、原音に忠実な再生音が得られるスピーカー用振動板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】繊維体積含有率Vfとヤング率との関係について、本発明の振動板と比較例の振動板とを比較したグラフである。
【図2】繊維体積含有率Vfと内部損失との関係について、本発明の振動板と比較例の振動板とを比較したグラフである。
Claims (5)
- 熱硬化性樹脂が含浸された基材を成形および硬化してなるスピーカー用振動板であって、
該基材が、少なくとも1つの無機繊維織布層と少なくとも1つの天然繊維不織布層とを含む積層体であり、該熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル樹脂であり、
繊維体積含有率が50%〜90%の範囲である
スピーカー用振動板。 - 前記繊維体積含有率が55%〜85%の範囲である、請求項1に記載のスピーカー用振動板。
- 前記基材が、最上層に無機繊維織布層を有し、該無機繊維織布層の下に複数の天然繊維不織布層を有する、請求項1または2に記載のスピーカー用振動板。
- 前記無機繊維がガラス繊維であり、前記天然繊維が絹繊維である、請求項1から3のいずれかに記載のスピーカー用振動板。
- 弾性率が7.0×1010dyne/cm2以上であり、内部損失が0.024以上である、請求項1から4のいずれかに記載のスピーカー用振動板。
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