JP4445193B2 - 蒸着材料 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、ブラウン管や液晶ディスプレイ、PDP(プラズマディスプレイパネル)、フィルム等の情報技術(IT)分野や光ファイバー分野、その他光学部品などの分野に用いられる反射防止膜等の薄膜を形成すための蒸着材料に係り、特に蒸着材料の溶融物の飛散が少なく欠陥の発生が少なく製品の製造歩留りを大幅に改善できる蒸着材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年のディスプレイ技術分野における要素機器の進展には、著しいものがある。その初期から今日まで要素機器の基本を支えてきたものは、無論ブラウン管である。一方、最近では、新しいディスプレイ機器として液晶表示素子が、その存在感を大きく示しており、携帯電話やパソコンのモニター、更には家庭用テレビや携帯電話、携帯端末などのモバイル機器のモニターとして需要分野を急速に拡大している。また、ディスプレイ画面の大型化も指向され、PDPと呼ばれるプラズマディスプレイパネルでは、32インチ以上の大型サイズ画面の実用化も進んでいる。これらのディスプレイ機器に共通する要求特性として、軽量で薄型化が可能である特徴が挙げられる。ブラウン管の場合には、電子ビームを変向走査させる構造上、薄型化した平面構造が採用できないため、ある程度の設置スペースが必要となる難点があるが、上記液晶表示機器用ディスプレイでは、薄型化した平面構造が採用できるため、壁にかけることも可能であり、いわゆる壁掛けテレビも実用化されている。
【0003】
上記ディスプレイ機器においては、利用者が表示画面を視認して情報を読み取るものであるから、当然見やすさが基本特性として要求される。しかしながら、表示画面に背景からの光線が入射し表示画面表面で反射して利用者の視覚に入ることから、いわゆる背景の映り込みが生じ、表示画面でのコントラストが低下して見易さを損なう場合が多い。
【0004】
この背景の映り込みを防止するため、画面の表面反射を抑制する手段として、ディスプレイの表面に反射防止膜を形成する処理が、一般に施工されている。この反射防止膜の構造としては、表示ガラス上に直接成膜するタイプやあらかじめフィルムに反射防止膜を形成したものを表示ガラス上に張り付けるタイプがあり、後者の反射防止膜構造が広く使用されている。
【0005】
上記反射防止膜は、高低と屈折率が異なる薄膜を光学設計により交互に積層することで、反射光を干渉させて反射率を減衰させるメカニズムを利用している。上記反射防止膜の成膜方法としては、蒸着材料を加熱溶融せしめ蒸気化した材料を基板表面に蒸着させる蒸着法やゾル・ゲル状の蒸着材料を基板表面にコーティングした後に乾燥固化させるゾル・ゲル法が主な手法となっているが、最近では、生産能力と膜厚の制御容易性との観点からスパッタ法も一部採用されてきている。
【0006】
上記蒸着法の典型例としての真空蒸着では、真空容器内で蒸着材料を電子銃や抵抗加熱によって溶融せしめて気体とし、基板などの対象物面に反射防止膜などの蒸着膜を一体に形成するものである。高屈折率の材料としては、Ti,Ta,Nb,Zrなどの酸化物が使用される一方、低屈折率の材料としてはSiO2などが挙げられる。また、蒸着時間の短縮および基板への熱的影響を防止したり、前記スプラッシュ現象を防止したりするために、五酸化タンタルに対して4〜55重量%の割合の金属タンタルを含む成形体を焼結した蒸着材料も用いられている(例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
【特許文献1】
特開平4−325669号公報(第2−3頁)
現在、蒸着法による反射防止膜の成膜方法では、一般に蒸着源として、ペレット状または微小円板状に形成された酸化物粉末の圧紛体やそれを焼結した蒸着材料、またはそれらを粉砕した蒸着材料が広く使用されている。中でも粉砕された不定形状の蒸着材料を用いている成膜方法が大半である。この蒸着材料をCuや高融点金属製のルツボに投入して、真空中で電子ビーム(EB)溶解し、蒸気化した蒸着材料をガラス基板などの表面上に蒸着させて反射防止膜等を形成している。これらの工程を数度繰り返して緻密な溶融蒸着源を形成して、実際に反射防止膜等の成膜を実施している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のペレット状または微小円板状に形成された蒸着材料をルツボ中に充填して溶解した場合には、この溶融蒸着源内に溶け残りが発生し易く溶解効率が低い問題点があった。また、従来の粉砕された不定形状の蒸着材料を用いた場合においても、ルツボに対する蒸着材料の充填効率が低下し溶融相中に気相部分が多くなり、効率的な溶解作業が困難となり電子ビーム(EB)溶解に要する時間が長大化する上に、溶融物が飛散し易いという問題がある。すなわち、この溶融蒸着源内に溶け残りや、気孔などが存在すると、成膜操作中に溶融蒸着材が飛散して基板に付着して汚損する、いわゆるスプラッシュと称する現象が発生しやすくなり製品の歩留まりを低下させてしまう問題点が解決すべき技術的課題として提起されていた。
【0009】
本発明は、このような課題に対処するためになされたもので、上記スプラッシュの低減化を図り、製品歩留まりを向上させることができ、かつ、電子ビーム(EB)溶解に要する時間の短縮も可能にした蒸着材料およびそれを用いた光学薄膜並びに光学部品を提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するため、スプラッシュの発生メカニズムについて、種々検討した。その結果、蒸着材粒子の形状、溶融した状態でのガス成分量と蒸着材料の密度、不純物含有量がスプラッシュ発生に重大な影響を与えていることが判明した。すなわち、蒸着操作時に発生するスプラッシュは、予め溶解した蒸着材料中に残存したガス成分が、電子ビーム(EB)等の加熱用エネルギーによる熱影響を受け膨張し、この電子ビーム等を照射し続けることでガス成分を含んだ気孔が溶融体表面に浮上した際に破裂して、溶融した微粒子が対向する基板に飛散する現象である。
【0011】
そこで、本発明者らは、蒸着材料を溶解した状態で可及的にガス成分を取り除くことができる方法を鋭意検討した。その結果、蒸着材料表面に吸着したガス成分を低減することと、ルツボ等の溶解槽に投入する蒸着材料の充填率を高めることが重要なポイントであることを見出した。
【0012】
現在、一般的に粒子状蒸着源として使用されている蒸着材料は、酸化物のインゴットを粉砕した粉砕粉である。しかし当然ながら、粉砕したものの形状は、不定形であり様々な形状を有し、いびつで凹凸が多数存在する材料である。つまり、このような材料は、表面積が非常に大きいことから、それに比例して吸着ガス成分量も増加してしまう。また、上記のようないびつな形状である蒸着材料をルツボに充填しても、充填密度は高くならず、隣接する蒸着材料粒子の隙間が多数存在するため、溶解時の熱伝導も悪くなり、溶解が効率的に進行せず、結果的に溶け残り箇所が形成されてしまう。
【0013】
そこで、蒸着材料を構成する蒸着材粒子としては、球体もしくは楕円体または球体か楕円体の中央部(赤道部)に外方向に突出する突起部が形成されている蒸着材料を用いることが好ましい。これは、蒸着材料の表面積を可及的に小さくし、吸着ガス成分を低減する上に、ルツボに充填した際の充填密度を高くすることができる。楕円体や、突起部付き球状体は、転動性および流動性が球体に比較して劣るため、取扱い性を改善する観点からは逆に有効である。
【0014】
すなわち、蒸着材料を構成する蒸着材粒子の形状を球状体や楕円体のように、少なくとも一部に球面を具備する形状に形成することにより、ルツボに対する蒸着材の充填率が高まり溶融体内部に気相部分が取り残されないように蒸着材料を効率的に溶融させることができ、スプラッシュの発生を効果的に防止することができた。また蒸着材料の相対密度を所定範囲以上に設定することにより、蒸着材料中の気孔に起因するスプラッシュの発生を効果的に抑制できるという知見を得た。さらに、ある種の不純物軽元素の含有量を所定範囲に削減することにより、上記スプラッシュの発生を効果的に抑制できるという知見も得た。本発明はこれらの知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
すなわち、本発明に係る蒸着材料は、形状が球体または楕円体である多数の蒸着材粒子からなり、この蒸着材粒子の赤道部に、外方向に突出する突起部が形成されており、上記蒸着材粒子を平面に投影したときに形成される投影像に外接する正円の面積をAとし、上記投影像に内接する正円の面積をBとした場合に、A/Bで表される形状係数が1以上5以下である蒸着材粒子の割合が90質量%以上であり、上記蒸着材粒子の粒径が0.5mm〜30mmの範囲にあることを特徴とする。このように、蒸着材粒子の表面全体に球面を具備する形状に形成することにより、るつぼなどの蒸着源容器(溶解槽)に高い充填効率で蒸着材を充填することができ、溶融体内部に気相部分が取り残されないように蒸着材料を効率的に溶融させることができ、スプラッシュの発生を効果的に防止することができる。
【0016】
また上記蒸着材料において、蒸着材粒子の形状が球体または楕円体であり、この蒸着材粒子の赤道部に、外方向に突出する突起部が形成されていることが好ましい。すなわち、図3に示すように、蒸着材粒子1の赤道部に、外方向に突出する突起部2を形成することにより、蒸着材粒子1の転動が効果的に規制され、平面上に展開した場合に転動による逸散が効果的に防止でき、この蒸着材粒子1の集合体である蒸着材料の取扱い性が大幅に改善される。
【0017】
なお、図3に示すように、上記突起部2は、蒸着材粒子1の外表面の円周方向に一周するように赤道部全体に形成してもよいが、赤道部の一部に部分的に形成しても良い。
【0018】
上記突起部2を有する蒸着材粒子1は、例えば図2に示す金型成形機によって形成される。すなわち、各種酸化物から成る蒸着材原料粉末3を、この金型成形機の上部金型(上パンチ)4と下部金型(下パンチ)5との間に充填し、上部金型4と下部金型5に圧力をかけて粉体をプレス成形することによって成形体を作製し、この成形体を焼成することにより蒸着材粒子1が製造される。
【0019】
ここで図3に示す蒸着材粒子1の赤道部に形成する突起部2の高さHは、蒸着材粒子1の直径Dの0.1〜0.3倍程度で十分である一方、突起部2の幅Wも、蒸着材粒子1の直径Dの0.1〜0.3倍程度とされる。上記突起部2の高さHは、図2における金型4,5の先端部6,7の厚さを変化させることにより調整することができる。さらに、突起部2の幅Wは、プレス成形する際の金型4,5の先端部6,7の間隔を変化させることにより調整することができる。
【0020】
さらに図1に示すように、上記蒸着材料において、前記蒸着材料が多数の蒸着材粒子からなり、この蒸着材粒子を平面に投影したときに形成される投影像1aに外接する正円(外接円)の面積をAとし、上記投影像1aに内接する正円(内接円)の面積をBとした場合に、A/Bで表される形状係数が1以上5以下である蒸着材粒子の割合が90質量%以上であることが必要である。
【0021】
ここで、上記形状係数A/Bが1となることは、蒸着材粒子が球体であることを意味する。A/B比が5を超えるような蒸着材料は、丸みが少ないため,隣接する接触面積が低下してしまい、熱伝導性も低下してしまうため、電子ビーム(EB)溶解を実施した際に気孔や溶け残りを形成してしまう。また、A/Bで表される形状係数が1以上5以下である粒子状蒸着材が、90質量%未満の場合では、前記同様に隣接する蒸着材粒子の接触面積が減少し、熱伝導性も低下してしまうため、電子ビーム(EB)溶解を実施した時に気孔や溶け残りを形成してしまう。なお、上記蒸着材粒子の形状係数A/Bおよびその形状係数を有する粒子の割合は、蒸着材粒子群を2次元方向に展開した写真の画像解析などにより容易に測定することができる。
【0022】
上記のように、A/Bで表される形状係数が1以上5以下である蒸着材粒子の割合が90質量%以上であるように、蒸着材料を調製することにより、この蒸着材料を溶解槽に高い充填効率で蒸着材を充填することができ、溶融体内部に気相部分が取り残されないように蒸着材料を効率的に溶融させることができ、スプラッシュの発生を効果的に防止することができる。なお、90質量%以上とは100質量%を含むものである。
【0023】
また、上記蒸着材料において、前記蒸着材粒子がTa,Nb,Ti,Zr,Si,Mg,Y,Ca,Al,Hf,In,Zn,Snから選択された少なくとも1種の酸化物で構成されていることが好ましい。具体的には、Ta2O5,Nb2O5,TiO2,ZrO2,SiO2,MgO,Y2O3,CaO,Al2O3,HfO2,In2O3,ZnO,SnO2などが使用される。なお上記酸化物としては上記元素を1種類含有する酸化物を主体に構成されるが、上記元素を2種類以上含有する複合酸化物で構成しても良い。
【0024】
さらに上記蒸着材料において、前記蒸着材粒子の相対密度が50%以上であることが望ましい。上記相対密度が50%未満の場合には、蒸着材粒子の僅かな接触衝撃によって欠けや割れを生じてしまう。また、蒸着材料を溶解したときに溶融体中に気孔や気相成分が残留しやすくなり、スプラッシュが発生しやすくなる。そのため、上記蒸着材粒子の相対密度は60〜100%であることがより好ましく、さらには80〜100%の範囲がさらに好ましい。なお、蒸着材料の原料粉末をホットプレス処理することにより、50〜80%の相対密度が容易に得られる一方、原料粉末について熱間静水圧プレス(HIP)処理を実施することにより、80〜100%と高い相対密度が得られる。上記相対密度の測定方法としては、各酸化物の理論密度に対して、アルキメデス法によって測定した実密度の値から算出する方法が好適である。
【0025】
また上記蒸着材料において、軽元素である、Na,Kの含有量が100ppm以下であることが好ましい。50ppm以下であることが、さらに好ましい。上記軽元素の含有量が100ppmを超える場合には、蒸着時に照射する電子ビー(EB)等によって軽元素は揮発し易くなり、その際にスプラッシュが生じてしまう。特に、上記Na,Kのような軽元素は溶解蒸着時にスプラッシュの原因になり易い元素であり、この不純物軽元素を低減することにより、スプラッシュに起因する不良を防止できる。
【0026】
さらに上記蒸着材料において、前記蒸着材粒子の粒径は0.5mm〜30mmの範囲にあることが好ましい。この粒径範囲において、蒸着材料の融解が効率的に進行し、蒸着材料の取扱い性も良好である。また、溶解ルツボの容量や、球体としての蒸着材粒子の強度および熱伝導性の観点から考慮すると上記粒径範囲が好適である。蒸着材粒子の粒径が0.5mm未満の場合には、作業時の取り扱いが非常に困難になる。特に、前述の突起部を設けた形状である場合には、粒径が0.5mm未満だと突起部を設ける効果が小さく、30mmを超えると却って粒子同士の隙間が大きくなってしまうおそれがある。
【0027】
本発明に係る蒸着材料は、例えば下記のようなプロセスに従って製造される。すなわち、原料となるTa酸化物等の酸化物粉末もしくは酸化物粉末に適当量の焼結助剤や溶剤、バインダーを加え、混合、解砕し、スプレードライヤーにて造粒粉を調製する。このようにして調製した造粒粉末を、例えば図2に示すような略球面状の凹部を有する金型4,5を使用してプレス成形し、得られた成形体を脱脂後、所定条件で焼結して製造することができる。
【0028】
上記脱脂温度は、200℃〜600℃の範囲が好適である。200℃未満の脱脂温度では、バインダーなどの助剤が素材から十分に除去されない。また600℃を超える高温度では、蒸着材成形体の外表面部の焼結が先に進行してしまうことから、助剤が十分に除去されないことがある。焼結温度は、素材酸化物の融点の1/2以上の温度に設定することが好ましい。さらに素材酸化物の融点の2/3程度であることが、より好ましい。上記焼結温度が素材酸化物の融点の1/2未満では、焼結が十分に進行せず、所望の相対密度および形状精度が得られない。また、焼結操作を実施する雰囲気の真空度は、133×10−5Pa(1×10−5Torr)以下が好ましい。この真空度より大きいと、不純物であるNaやKの揮散が十分に進行せず、蒸着材料中の不純物であるNaやKの含有量の制御が困難になってしまう。
【0029】
上記蒸着材料は、更に、EB溶解回転法、高周波誘導熱プラズマ法などを用いて作製することも可能である。蒸着源としての蒸着材料の形状は、原料粉末を成形する際に使用する金型の形状、もしくは金型への原料粉末投入量、プレス圧によって調整することができる。得られた蒸着材料は、取扱い性を良好にするために、球体もしくは楕円体の粒子本体の赤道部に突起部が形成されたものとすることが好ましい。真球状もしくは楕円体状の蒸着材粒子を作製する場合には、研磨などの機械加工によって粒子形状の制御を実施することができる。
【0030】
本発明に係る光学薄膜は、上記蒸着材料から蒸発した成分を基板上に蒸着して形成される。この光学薄膜とは単層で厚さ10μm以下のものを示す。さらに本発明に係る光学部品は、上記光学薄膜を具備したことを特徴とするものである。
【0031】
上記構成に係る蒸着材料によれば、蒸着材料を構成する蒸着材粒子の形状を球状体や楕円体のように、少なくとも一部に球面を具備する形状に形成することにより、ルツボに対する蒸着材料の充填率が高まり溶融体内部に気相部分が取り残されないように蒸着材料を効率的に溶融させることができ、スプラッシュの発生を効果的に防止することができ、蒸着膜を使用する製品の品質を高め、その製造歩留りを大幅に改善することができる。
【0032】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について以下の実施例を参照して具体的に説明する。
【0033】
実施例1
市販されている純度3N(99.9%)のTa酸化物(Ta2O5)の粉末に、バインダー(エポキシ樹脂)を加え、混合解砕した後に、スプレードライヤーにて造粒を行った。このようにして得られた造粒粉末を図2に示す金型成形機を使用してプレス成形した。上部金型4および下部金型5としてはそれぞれ半径が1.5mmの半球面上の凹部を形成したものを用いた。次に、得られた各素球成形体を大気中にて温度250℃で5時間加熱して脱脂した後、真空度133×10−5Paの真空中にて温度1500℃で5時間焼結した。球状の各蒸着材粒子の赤道部には、図3に示すような突起部2が形成され、蒸着材粒子の直径Dに対する突起部2の幅Wの比率(W/D)は0.1であり、突起部2の高さHは1mm未満であった。
【0034】
得られた蒸着材料の実密度をアルキメデス法によって測定し、さらに理論密度に対する比率を算出して相対密度を測定した。この相対密度の平均値は55%であった。また得られた蒸着材料を篩い分けして、直径1.5〜2.5mmの蒸着材粒子を選別した。選別した蒸着材粒子から無作為に粒子100個を抽出し画像解析したところ、図1に示す形状係数A/Bが1.0以上5.0以下である蒸着材粒子の質量比率は98%であった。
【0035】
得られた蒸着材料を直径50mm×高さ30mmのCu製ルツボに充填した。充填率は、ルツボに充填した蒸着源の体積をルツボの容積で割った値に100を掛けた値とする。この結果、充填率は92%であった。蒸着装置内に上記ルツボを設置して、真空度133×10−5Pa以下にして、出力3kWのエレクトロンビームを照射して蒸着材料を加熱して10時間溶解した。その後、実際に50mm角のガラス基板を100枚用意し、蒸着源に対向するようにセッティングして、蒸発した蒸着材成分を蒸着し、ガラス基板上に蒸着膜を形成した。得られた各蒸着サンプルについて、ガラス基板1枚当りの蒸着膜中に混入した直径5μm以上のスプラッシュ個数を、欠陥検出装置を用いて測定したところ、基板1枚あたり平均3.5個であった。また、不純物であるNaとKとの合計含有量を分光分析装置によって測定し、表1に示す結果を得た。
【0036】
上記の結果から明らかなように、実施例1に係る蒸着材料は、溶解槽への充填率を高くでき、効率的に溶解蒸発せしめることが可能になり、スプラッシュの発生数を効果的に抑制でき、スプラッシュによる不良を低減し、蒸着膜を使用した製品の製造歩留まりを向上させ、スループットも高いことが判明した。
【0037】
実施例2−12
表1左欄に示す酸化物であり、市販されている純度3N(99.9%)の各種酸化物の粉末に、バインダー(エポキシ樹脂)を加え、混合解砕した後に、スプレードライヤーにて造粒を行った。このようにして得られた造粒粉末を図2に示す金型成形機を使用してプレス成形し、各実施例用の球状成形体を調製した。ここで実施例2,4−6,8,11については、表1に示す寸法の突起部が形成されるように、上部金型4,下部金型5およびそれらの先端部6,7の形状を変えると共に成形圧力を調整して成形操作を実施した。
【0038】
次に、得られた各素球成形体を大気中にて表1に示す温度および時間で加熱して脱脂した後、表1に示す真空度の真空中にて表1に示す焼結条件(温度×時間)で焼結した。実施例2,4−6,8,11に係る球状の各蒸着材粒子の赤道部には、図3に示すような突起部2が形成され、蒸着材粒子の直径Dに対する突起部2の幅Wの比率(W/D)および突起部2の高さHは、それぞれ表1に示す値に設定した。
【0039】
一方、実施例3,7,9,10,12に係る各蒸着材粒子成形体の赤道部にも突起部が形成されていたが、成形体の段階で研磨を実施して突起部を取り除き、ほぼ球状の蒸着材粒子とした。
【0040】
得られた蒸着材料の実密度をアルキメデス法によって測定し、さらに理論密度に対する比率を算出して相対密度を測定した。この相対密度の平均値を表1に示す。また得られた蒸着材料を篩い分けして、表1左欄に示す直径範囲の蒸着材粒子を選別した。選別した蒸着材粒子から無作為に粒子100個を抽出し画像解析し、図1に示す形状係数A/Bが1.0以上5.0以下である蒸着材粒子の質量比率を求めた。また、不純物であるNaとKとの合計含有量を分光分析装置によって測定し、表1に示す結果を得た。
【0041】
得られた各蒸着材料を直径50mm×高さ30mmのCu製ルツボに充填した。充填率は、ルツボに充填した蒸着源の体積をルツボの容積で割った値に100を掛けた値とする。この結果、充填率は表1に示す通りであった。蒸着装置内に上記ルツボを設置して、真空度133×10−5Pa以下にして、出力3kWのエレクトロンビームを照射して蒸着材料を加熱して10時間溶解した。その後、実際に50mm角のガラス基板を100枚用意し、蒸着源に対向するようにセッティングして、蒸発した蒸着材成分を蒸着し、ガラス基板上に蒸着膜を形成した。得られた各蒸着サンプルについて、ガラス基板1枚当りの蒸着膜中に混入した直径5μm以上のスプレッシュ個数を、欠陥検出装置を用いて測定し、表1に示す結果を得た。
【0042】
表1に示す結果から明らかなように、所定の形状係数を有し、球状に形成された各実施例に係る蒸着材料は、ルツボなどの溶解槽への充填率を高くでき、効率的に溶解蒸発せしめることが可能になり、スプラッシュの発生数を効果的に抑制でき、スプラッシュによる不良を低減し、蒸着膜を使用した製品の製造歩留まりを向上させ、スループットも高いことが判明した。
【0043】
特に、突起部を形成しない実施例3,7,9,10,12に係る各蒸着材粒子では、球状度がさらに高まり、ほぼ真球状に形成されているため、ルツボへの充填率が極めて高くなり、気相成分を残存させないように蒸着材料を効率的に蒸発させることが可能になり、基板1枚当りのスプラッシュ数も極めて小さく、優れた特性が発揮されることが実証された。ただし、突起部を形成していないため、平面上に展開した場合などに転動して逸散し易く、取扱い性にはやや難点があった。
【0044】
また、焼結時の真空度を高めて成形体を焼結して調製した蒸着材粒子によれば、不純物軽元素であるNaおよびKが効果的に除去されており、スプラッシュ低減にさらに寄与したものと推定される。
【0045】
比較例1−12
表1左欄に示す酸化物からなり、市販されている純度3N(99.9%)の各種酸化物の解砕粉末またはペレット状に成形した蒸着材料を用意した。比較例1,6,8,10については、表1に示す粒径範囲を有する解砕粉をそのまま蒸着材料として使用した。
【0046】
一方、比較例3−5については、表1に示す粒径範囲を有する解砕粉に、バインダー(エポキシ樹脂)を加え、混合解砕した後に、スプレードライヤーにて造粒を実施した。こうして得られた造粒粉末を、図2に示すような金型成形機を使用して球状成形体をそれぞれ調製した。なお比較例3,4については、表1に示すような仕様の突起部が形成されるような形状を有する金型を使用して金型プレス成形した。次に、比較例3,4,5については、得られた素球成形体を表1に示す脱脂条件で大気中にて脱脂した後、さらに表1に示す真空度を有する雰囲気中でそれぞれの焼結条件(温度×時間)で焼結することにより、比較例3−5に係る蒸着材料を調製した。
【0047】
一方、比較例2,7,9,11−14については、ペレット状に形成された酸化物をそのまま各比較例に係る蒸着材料とした。
【0048】
こうして調製した各蒸着材料について、解砕粉を除いて相対密度を、実施例1と同様にして測定して表1に示す結果を得た。また、ペレット状の蒸着材料を除き、各比較例の蒸着材粒子から無作為に粒子100個を抽出し画像解析することにより図1に示す形状係数A/Bが1.0以上5.0以下である蒸着材粒子の質量比率を測定して表1に示す結果を得た。
【0049】
次に、得られた各蒸着材料を直径50mm×高さ30mmのCu製ルツボに充填し、実施例1と同様に、ルツボに充填した蒸着材料の体積をルツボの容積で割った値に100を掛けた値を充填率として測定し表1に示す結果を得た。
【0050】
さらに、各比較例に係る蒸着材料を充填したルツボを蒸着装置内に配置して、真空度133×10−5Pa以下にして、出力3kWのエレクトロンビームを照射して蒸着材料を加熱して10時間溶解した。その後、実際に50mm角のガラス基板を100枚用意し、蒸着源に対向するようにセッティングして、蒸発した蒸着材成分を蒸着し、ガラス基板上に蒸着膜を形成した。得られた各蒸着サンプルについて、ガラス基板1枚当りの蒸着膜中に飛散混入した直径5μm以上のスプレッシュ個数を、欠陥検出装置を用いて測定し、下記表1に示す結果を得た。
【0051】
【表1】
【0052】
上記表1に示す結果から明らかなように、所定の形状係数を有し、球状に形成された各実施例に係る蒸着材料は、ルツボなどの溶解槽への充填率を高くでき、効率的に溶解蒸発せしめることが可能になり、スプラッシュの発生数を効果的に抑制でき、スプラッシュによる不良を低減し、蒸着膜を使用した製品の製造歩留まりを向上させ、スループットも高いことが判明した。なお、実施例9および実施例12のNaおよびKの合計量を示す「検出限界以下」とは0.02ppm以下を示すものである。
【0053】
一方、不定形上の解砕粉からなり、所定の形状係数を有する粒子割合が少ない比較例1,6,8,10に係る蒸着材料では、いずれもルツボへの充填率が60%台と小さく、気相成分を残さないように効率的に溶解させることが困難であり、スプラッシュの発生率が増大化した。
【0054】
また、解砕粉を球状に成形して焼結した比較例3−5に係る蒸着材料では、球状化によりルツボへの充填率は向上したものの、NaやKなどの不純物元素が十分に除去されず、蒸着材料中に残存しているため、スプラッシュ量が多くなることが確認された。
【0055】
一方、ペレット状に形成された酸化物をそのまま蒸着材料として使用した比較例2,7,9,11−14においては、微細なペレットを使用してもルツボへの充填率を高めることが困難であり、また不純物元素の低減が意図されていないため、スプラッシュの発生量が相対的に高いことが再確認できた。
【0056】
【発明の効果】
以上の説明の通り、本発明に係る蒸着材料によれば、蒸着材料を構成する蒸着材粒子の形状を球状体や楕円体のように、少なくとも一部に球面を具備する形状に形成することにより、ルツボに対する蒸着材料の充填率が高まり溶融体内部に気相部分が取り残されないように蒸着材料を効率的に溶融させることができ、スプラッシュの発生を効果的に防止することができ、蒸着膜を使用する製品の品質を高め、その製造歩留りを大幅に改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る蒸着材料を構成する蒸着材粒子の投影図から形状係数を求める手法を説明する平面図。
【図2】本発明に係る蒸着材料を製造する際に使用する金型成形機の構成を示す断面図。
【図3】本発明に係る蒸着材料を構成する蒸着材粒子の形状例を示す斜視図。
【符号の説明】
1 蒸着材粒子
1a 蒸着材粒子の投影像
2 突起部
3 蒸着材原料粉末
4 上部金型
5 下部金型
6 先端部
7 先端部
A 外接円
B 内接円
D 粒径
H 突起部の高さ
W 突起部の幅
Claims (6)
- 形状が球体または楕円体である多数の蒸着材粒子からなり、この蒸着材粒子の赤道部に、外方向に突出する突起部が形成されており、上記蒸着材粒子を平面に投影したときに形成される投影像に外接する正円の面積をAとし、上記投影像に内接する正円の面積をBとした場合に、A/Bで表される形状係数が1以上5以下である蒸着材粒子の割合が90質量%以上であり、上記蒸着材粒子の粒径が0.5mm〜30mmの範囲にあることを特徴とする蒸着材料。
- 前記蒸着材粒子がTa,Nb,Ti,Zr,Si,Mg,Y,Ca,Al,Hf,In,Zn,Snから選択された少なくとも1種の酸化物で構成されていることを特徴とする請求項1に記載の蒸着材料。
- 前記蒸着材粒子の相対密度が50%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の蒸着材料。
- 軽元素であるNa,Kの含有量が100ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の蒸着材料。
- 前記突起部の高さHが、蒸着材粒子の直径Dの0.1〜0.3倍であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着材料。
- 前記突起部のWが、蒸着材粒子の直径Dの0.1〜0.3倍であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着材料。
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