従来のこの種の誘導加熱装置として、例えば、誘導加熱調理器は、複数のスイッチング素子を有し、一方のスイッチング素子のオン期間中に周期の短い共振電流を加熱コイルに発生し、かつ平滑コンデンサから加熱コイルに電力を供給することにより、入力電圧の脈流による鍋鳴り音が発生せず、騒音の少ないアルミ鍋などを加熱する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、加熱コイルの入力インピーダンスにおける等価直列抵抗(被加熱物及び電気導体を加熱状態と同様の位置配置で、加熱コイル近傍の周波数を使用して測定した加熱コイルの入力インピーダンスにおける等価直列抵抗(以下単に加熱コイルの等価直列抵抗と呼ぶ))を大きくする機能を有する電気導体を、加熱コイルとアルミニウムなどの低透磁率かつ高電気伝導率の材料でなる被加熱物の間に設けることにより、加熱コイルに流れる電流を小さくして被加熱物に作用する浮力を低減し、入力電力が大でも浮力による被加熱物のずれ、浮きが少なくする技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
以下に、上記特許文献2に開示された従来の誘導加熱装置について、図7〜12を用いて説明する。図7は、従来の誘導加熱装置の加熱コイル及びその周辺の構成を示す斜視図、図8は、同誘導加熱装置の要部断面図である。
図7及び図8において、21は加熱コイルであり、インバータ(図示せず)から供給された約70kHzの高周波電流により磁界を発生し、天板28上に載置された被加熱物29を誘導加熱する。
電気導体27は、厚さが略1mmのアルミニウムの板で形成され、絶縁板31と天板28の間に設けられている。
加熱コイル21の上部に出た磁界は、電気導体27に鎖交するので、電気導体27には誘導電流が誘起される。電気導体27の厚みは約1mmで、加熱コイル21に流れる電流により誘導される高周波電流の浸透深さ(以下単に誘導電流の浸透深さと呼ぶ)以上の厚みを有するので、電気導体27に鎖交した磁界の大部分はほとんど電気導体27を通過せず、外周側または内周側に迂回してから被加熱物29に到達する。
電気導体27がない場合には、加熱コイル21から発生した高周波磁界に対して、アルミニウム若しくは銅又はこれらと同等以上の電気伝導率を有し、かつ低透磁率材料からなる被加熱物29の内部には、反発する方向に磁界を発生すべく、誘導電流が誘起される。この結果、被加熱物29の内部の誘導電流から誘起される磁界と、加熱コイル21から発生する磁界との交互作用により、被加熱物29に浮力が生じる。
しかしながら、上記従来の技術では、加熱コイル21と被加熱物29との間に電気導体27が設けられており、さらにその厚みが誘導電流の浸透深さよりも大なので、加熱コイル21から発生する磁界は、電気導体27と被加熱物29に鎖交し、両者に誘導電流を発生することになる。これにより電気導体27に誘導された誘導電流の発生する磁界と、被
加熱物29に誘導された電流の発生する磁界の重畳磁界が、加熱コイル21の発生する磁界の変化を妨げるように電気導体27及び被加熱物29に誘導電流が流れる。
つまり、被加熱物29に誘導される電流分布が、電気導体27に誘導電流が発生することにより変わることになる。この電流分布の変化で、加熱コイル21の等価直列抵抗が大きくなり、同一出力を得る場合の加熱コイル21に流す電流を小さくすることができ、被加熱物29に作用する浮力が低減するとともに、電気導体27が被加熱物29に働くべき浮力の一部を分担することで、被加熱物29に作用する浮力が低減できる。
図9は、被加熱物29がアルミニウム製の鍋の場合の、アルミニウム製の電気導体27がある場合(Bで示す)と電気導体27がない場合(Aで示す)の消費電力と浮力の関係を示している。また図10は、電気導体27がある場合(Bで示す)と電気導体27がない場合(Aで示す)の消費電力と加熱コイル電流の関係の測定結果の一例を示している。ただし、インバータの共振周波数は約70kHzである。
これらの測定結果によると、電気導体27を挿入することにより、加熱コイル21の等価直列抵抗が増加し、被加熱物29に働く浮力が低減するとともに、加熱コイル21に流れる電流も低減されている。
図11は、電気導体27の厚みと浮力に関する傾向である。電気導体27の厚みを浸透深さ以上にすることにより、浮力低減効果を得ることが可能としている。
さらに、上記従来の技術では、電気導体27内で、加熱コイル21の電流の流れる方向と略平行に周回して流れる誘導電流の分布を制限する周回電流制限手段27aを設けることにより、電気導体27が加熱コイル21の電流により誘導加熱されて発熱する発熱量を抑制するとともに、電気導体27の等価直列抵抗の増加作用を有するようにし、加熱コイル21の電流低減作用と被加熱物29に働く浮力低減作用を得るものとしている。
図12は、電気導体27の形状を示す図である。電気導体27は、略円盤状で厚み約1mmのアルミニウム板をベースとし、さらに放射状に切り欠き40aを4ヶ所設けている。加熱コイル21に周回するように高周波電流(破線Aで模式的に示す)が供給されたときの電気導体27に誘導される大きな電流の流れを、実線矢印Bで模式的に示している。
これにより、切り欠き40aを通過して加熱コイル21の磁界を直接照射し、一部の磁界を迂回させて被加熱物29に鎖交させ、被加熱物29において加熱コイル21の電流に対向した誘導電流分布が発生することを抑制して、等価直列抵抗を増加させるとともに、電気導体27においても、切り欠き40aを設けることにより発熱を防止することができる。
なお、32は、導電膜で、加熱コイル21の上部に近接して設けられ、コンデンサ34を介して、商用電源電位、インバータの入力電位となる電源電流整流器(図示せず)の出力電位、またはアース電位に接続されるので加熱コイル21から使用者に漏洩するリーク電流を低減することができる。しかしながら、この導電膜32は、膜圧が薄く電気伝導率も低いので、誘導電流の発生量が極めて少なく、加熱コイル21から発生する磁界の分布を変える作用はほとんどないので、電気導体27のような等価直列抵抗の増加作用、加熱コイル電流の低減作用、そして浮力低減作用はほとんど得られない。
特開2003−257609号公報
特開2003−264054号公報
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における誘導加熱装置の要部概略断面図である。
図1において、外郭を構成する本体1の上部に、絶縁体であり、耐熱セラミックス製のトッププレート2が設けられている。トッププレート2の下方には、素線を束ねた撚り線を多層にして平板上に巻き回されて構成された加熱コイル3が備えられている。加熱コイル3は、加熱分布を均一化するよう、略同心円状に2重に巻かれており、内周側加熱コイル3a、外周側加熱コイル3bに分割されて配置されている。この内周側加熱コイル3a及び外周側加熱コイル3bは電気的に直列接続されている。加熱コイル3近傍には、高透磁率の磁性体からなり棒状のフェライト4が12本放射状に設けられている。フェライト4は、加熱コイル3の面と略並行に配置されており、特にその両端を、トッププレート2へ向けて上方垂直に折り曲げた形状となっている。
5は、使用者に対して本体1の運転状態、例えば加熱中であることを報知するための発光部で、発光ダイオード6と、アクリル板などからなる導光板7で構成されている。導光板7は、加熱コイル3と略同心円状になるよう、フェライト4のさらに外周に配置されている。
アルミニウム若しくは銅又はこれらと略同等以上の電気伝導率を有する低透磁率材料からなる被加熱物8は、トッププレート2を挟んで加熱コイル3と対向するよう、トッププレート2上に載置される。
温度検知手段となる第1のサーミスタ9及び第2のサーミスタ10は、それぞれ、トッププレート2の加熱コイル3側の面に当接されており、第1のサーミスタ9は、加熱コイル3のほぼ中心に位置するように、また、第2のサーミスタ10は、内周側加熱コイル3aと外周側加熱コイル3b間に位置するよう設けられている。第1及び第2のサーミスタ9、10が当接するトッププレート2の面は、後述するが電気導体11に設けた開口部13と16に臨んでいる。
電気導体11は、厚さが約15μmのアルミニウム塗膜で形成され、トッププレート2の加熱コイル3側の面に転写により、接合されている。
図2は、加熱コイル3側から見た電気導体11の形状図で、電気導体11は、外径が加熱コイル3の外径より大きく、内径は加熱コイル3内径より小さく設定されており、具体
的にはそれぞれ約φ220mm、約φ50mmとなっている。電気導体11は、また、略ドーナツ状をしており、幅10mmのスリット12が中央部の第1の開口部13から最外部にわたって設けられているため、ドーナツが一部欠け、略U型形状をしている。
電気導体11の中央部には、第1の開口部13が設けられており、その開口縁はフェライト4の内端よりも小さく設定されている。電気導体11の内周部及び外周部には、深さ約25mm、幅約1mmのスリット14が放射状に11ヶ所設けられている。放射状に設けられた11ヶ所のスリットは、電気導体11から見てフェライト4の設置方向に沿っており、使用者から見て電気導体11のスリット14とフェライト4が重なって見えるよう配置されている。
また、電気導体11から見て、加熱コイル3の最内周と最外周の夫々とフェライト4の設置方向と交差する点を中心に、電気導体11内に第2の開口部15が設けられている。この開口部15は、内側、外側の各11ヶ所のスリット14と交差している。
また、トッププレート2の第2のサーミスタ10が当接する部分と対向する電気導体11の部分には第3の開口部16が設けられ、第2のサーミスタ10が直接電気導体11に触れないような構成になっている。
電気導体11の一部からは、幅2mm程度と細く、他の部分に比べ熱抵抗大となる部分17が延びており、導電性のシールなどでリード線18と電気的に接続されている。さらにリード線18は、コンデンサ19を介して商用電源電位あるいは加熱コイル3に高周波電流を供給するインバータ(図示せず)の入力する商用電源を整流した電位あるいは大地に接続されている。
また、電気導体11の、加熱コイル3の周囲に設けられた発光部5に対向する部分には、幅1mm程度の細かなスリット群20を形成している。
上記構成による誘導加熱装置の動作を説明する。
加熱コイル3には、約70kHzの高周波電流が供給される。加熱コイル3は、高周波電流が供給されると磁界を発生するが、加熱コイル3の下方には高透磁率材料であるフェライト4があり、磁界がフェライト4に集中するために、磁界が被加熱物8と反対側に膨らむのを防止できる。フェライト4は、複数のフェライトコアを組み合わせて構成しても同様の効果が得られる。
一方、加熱コイル3の上方へ出た磁界は、電気導体11に鎖交するため、電気導体11内部に誘導電流が誘起される。この時、誘導電流の周波数は約70kHzであり、電気導体11がアルミニウム製である場合の誘導電流の浸透深さδ=約300μmである。本実施の形態では、電気導体11は、誘導電流の浸透深さよりも十分薄い約15μmであるため、加熱コイル3からの磁界を遮蔽することができず、電気導体11内部を磁界が浸透、通過して、被加熱物8方向へ導かれる。フェライト4の両端部分は、上方に垂直に折り曲げられているため、上方の被加熱物8の方向へ磁界を効率よく誘導する作用をもつ。
加熱コイル3の上方へ出た磁界は、電気導体11を浸透、通過した磁界と、電気導体11に設けたスリット12、14や開口部13を通過した磁界との合成磁界となって、被加熱物8に到達する。したがって、被加熱物8に誘起される誘導電流は、この合成磁界により発生するものである。そのため、電気導体11が介在することにより、電気導体11がない場合と比較し、誘導電流分布が変化する。
また、加熱コイル3から見て誘導加熱する総加熱面積は、電気導体11の面積及び加熱コイル3から見て電気導体11で覆われていない、スリット12、14や開口部13上部の被加熱物8面積に、さらに加熱コイル3から見て電気導体11に覆われている部分の被加熱物8の面積が加わることになる。電気導体11は、加熱コイル3と被加熱物8との磁気結合を強める作用を有しているわけである。この加熱コイル3から見た総加熱面積の増加で、加熱コイル3の等価直列抵抗が大きくなり、同一出力を得る場合の加熱コイル3に流す電流を小さくすることができ、被加熱物8に作用する浮力が低減する。
図3に、電気導体11の厚みと、加熱コイル3の等価直列抵抗の関係を、アルミニウム製の鍋を被加熱物8として加熱状態と同様の位置配置で測定した場合(図3(a)で示す)と、被加熱物8がない場合(図3(b)で示す)について、測定結果の一例を示している。ただし、加熱コイル3の高周波電流周波数は約70kHzである。
図3(b)に示すように、被加熱物8がない場合、電気導体11の厚みが0(ない状態)から10μmまでは等価直列抵抗は単調増加し、電気導体11厚みが10μm以上では単調減少している。アルミニウムにおける誘導電流の浸透深さδ=約300μmを越える領域では、等価直列抵抗はほぼ一定の値となっている。
これは、被加熱物8の代わりに電気導体11が加熱対象となっているためと考えられる。アルミニウム製の電気導体11の電気伝導率をσ、厚みをt、電気導体11における誘導電流の浸透深さをδとしたとき、電気導体11厚みがδよりも小さい場合には、電気導体11の表皮に流れる誘導電流から見た高周波抵抗Rs(以下単に表皮抵抗と呼ぶ)は、Rs=1/(t・σ)で定義される。つまり厚みtに対して表皮抵抗は反比例の関係にある。また電気導体11厚みがδよりも大きい場合には、Rs=1/(δ・σ)で定義され、表皮抵抗は一定値となる。
電気導体11の厚みが0(ない状態)から10μmまでは、電気導体11の厚みが十分小さく、表皮抵抗が理論上非常に大きくなる。つまり、絶縁体に近い状態となり、加熱コイル3から発生する磁界も容易に通過するため、電気導体11がないのとほぼ同じ状態となる。加熱コイル3の等価直列抵抗は、被加熱物8及び電気導体11がない状態の加熱コイル3自身の高周波抵抗と、近傍のフェライト4の高周波抵抗などの合成抵抗とほぼ同じとなって小さい値となるが、電気導体11の厚みが増すにつれ、単調増加する。
電気導体11の厚みが10μm以上300μm以下の領域では、電気導体11の表皮抵抗減少の影響により、加熱コイル3の等価直列抵抗も電気導体11の厚みとほぼ反比例の関係で単調減少する。電気導体11の厚みが300μm以上の領域では、電気導体11の表皮抵抗が一定となるため、加熱コイル3の等価直列抵抗もほぼ一定値となる。
一方、図3(a)に示すように被加熱物8がある場合には、電気導体11の厚みが0から15μmまでは等価直列抵抗は単調増加し、ピークをもつ。電気導体11の厚みが、15μmから200μmになるまで等価直列抵抗は単調減少し、最小となる。電気導体11の厚みが1200μmまで等価直列抵抗は再度単調増加する。
電気導体11の厚みが15μmで加熱コイル3の等価直列抵抗が持つピークは、被加熱物8がない場合の図3(b)と同様に、電気導体11の厚みが十分小さく、電気導体11表皮抵抗が大きい状態となってほぼ絶縁体と見なされる領域と、ある程度厚みが増加して電気抵抗表皮抵抗が減少する領域とのバランスによって生じると考えられる。
また視点を変えると、先に述べたように、電気導体11を浸透、通過した磁界による、見かけの総誘導加熱面積の増加作用は、電気導体11の厚みが15μmで最大になってい
ると言える。
また、電気導体11の厚みが15μm以上での領域については、電気導体11の厚みが増加するために、電気導体11の表皮抵抗が単調減少していく。さらに、電気導体11内部に誘導電流が流れやすくなるため、加熱コイル3から発生する磁界をある程度遮蔽し、加熱コイル3から見た総加熱面積が減少する。つまり、加熱コイル3の等価直列抵抗が減少する。
その一方で、小さい表皮抵抗で誘導電流を流しやすい状態となる電気導体11が、加熱コイル3から見て近い位置に配置されているため、加熱コイル3と電気導体11の磁気結合は強く、加熱コイル3の等価直列抵抗を増加させる作用もあわせて生じる。
十分厚い電気導体11は、加熱コイル3から発生する磁界を遮蔽するが、一部の磁界は、電気導体11を迂回して電気導体11の加熱コイル3と反対側面を誘導加熱するため、電気導体11の表皮深さ約300μmを越えても、加熱コイル3の等価直列抵抗は増加する。したがって、電気導体11の厚みが200μmで加熱コイル3の等価直列抵抗は最小点を持つと推定される。ただし、電気導体11の厚みが一定以上となれば、加熱コイル3の等価直列抵抗はほぼ一定値となる。
発明者らは、詳細な検討の結果、電気導体11の厚みが約15μmで、加熱コイル3の等価直列抵抗が最大となるポイントを見出した。そのため、同一出力を得る場合の加熱コイル3に流す電流を小さくすることができ、被加熱物8に作用する浮力が低減する。なお、発明者らの実験により、電気導体11が誘導電流の浸透深さより薄くても厚くても、加熱コイル3の等価直列抵抗が同じであれば、同様の加熱コイル3の電流低減効果、浮力低減効果が得られることを確認した。
また、誘導加熱装置として目標とする浮力に対して、加熱コイル3の等価直列抵抗はほぼ一意に決定されるため、電気導体11の厚みを所定の加熱コイル3の等価直列抵抗を得るべく、変更することが可能である。従って、ある程度、被加熱物8に対して働く浮力が容認される場合には、本実施の形態の加熱構成では、電気導体11厚みを15μmより小さくまたは大きく設定することで所定の浮力となる誘導加熱装置が得られる。
なお、本実施の形態では、電気導体11の厚みを約15μmとしたが、ものづくりの観点からある程度製造バラツキも生じる。実用的には、電気導体11の厚みを10μmから30μmとしており、ほぼ同じような加熱コイル3の等価直列抵抗が得られる。同様に、被加熱物8に対して働く浮力も低減可能である。
また、従来、誘導加熱を行う際に、被加熱物8と加熱コイル3間に誘導電流が流れ得る非常に薄い電気導体11を設けるという発想はなかった。
従来の技術では、非常に薄い電気導体11を加熱コイル3の上部に近接して設け、コンデンサ19を介して商用電源電位、インバータの入力電位となる電源電流整流器の出力電位、またはアース電位に接続し、加熱コイル3から使用者に漏洩するリーク電流を低減する構成とする場合がある。
しかしながらそのような場合、電気導体11に誘導電流を流すと発熱することが分かっていたため、電気導体11内の誘導電流及び発熱を抑制すべく、加熱コイル3の等価直列抵抗を変化させないよう、電気導体11の材質、形状などを設計していた。つまり、厚みを極端に薄くする、電気伝導率の低い材料を使用するということである。
従って従来の技術の延長では、非常に薄く構成した電気導体11内に誘導電流を誘起させて、被加熱物8に流れる誘導電流分布を変える作用、加熱コイル3の等価直列抵抗の増加作用、加熱コイル3電流の低減作用、または被加熱物8に働く浮力の低減作用は得られなかった。
図4は、従来の技術による漏れ電流を抑制するために非常に薄い電気導体11を設けた場合、及び本実施の形態による電気導体11を設けた場合の加熱コイル3の等価直列抵抗を示している。加熱コイル3の等価直列抵抗が大きくなれば、同一出力時の被加熱物8の加熱に必要となるコイル電流を抑制することが可能であり、発生する磁界も少ない。そのため、被加熱物8内に発生する誘導電流も少なく、結果として反発磁界が弱まることになる。
図4に示す通り、従来の漏れ電流を抑制することだけを目的とした電気導体11は、加熱コイル3の等価直列抵抗を増加させる効果がない。これは、前述のように、電気導体11内部に誘導電流を流さなくても、電気導体11が電極として加熱コイル3と被加熱物8間に存在し、漏れ電流を定電位に流せばよいためで、電気導体11内部に誘導電流を流さないような構成(例えば、電気伝導率の低い材質を使用する、表皮抵抗が十分高くなるよう厚みを調節するなど)をしているからである。従って、電気導体11内部に誘導電流を流し、電気導体11を発熱させるという発想に達する事がなかった。
一方で、本実施の形態による電気導体11を設けた場合は、電気導体11内部に誘導電流を流す構成としているため、加熱コイル3の等価直列抵抗が増加し、被加熱物8に働く浮力を低減する機能を持つ。
さらに、電気導体11が薄いため、加熱コイル3から発生した高周波磁界は電気導体11を浸透、通過する。つまり、加熱コイル3からの磁界を通過させないほどの反発磁界を発生させる大きなエネルギー、すなわち大きな誘導電流は、電気導体11内部には発生しないということであり、電気導体11の厚みが大きい場合に比べて、電気導体11の発熱による損失を低減し、加熱コイル3近傍の冷却が容易になる。また、被加熱物8に伝達する電力を大きくし、加熱効率を向上させることが可能である。
また、電気導体11には、スリット12、14を設けている。スリット12は、加熱コイル3から発生する磁界によって誘起され、加熱コイル3の電流の流れる方向と略平行に流れる電気導体11内部の誘導電流の分布を制限する周回電流制限手段となるものである。図5は、電気導体11内部に流れる誘導電流を示す図であり、スリット12がない場合(図5(a))、スリット12がある場合(図5(b))を表したものである。説明を簡略化するため、スリット14がない形状で、電気導体11を示している。
図5(a)のように、スリット12がない場合、加熱コイル3から発生する磁界によって、電気導体11内部に大きなループで、同心円状となる誘導電流が発生する。この誘導電流は、特に加熱コイル3の内周部と外周部との中間部分に大きく流れるよう分布し、大きな発熱を生じさせる。しかしながら、図5(b)のように、スリット12を設けることによって、ループとなる誘導電流は抑制されるため、電気導体11の発熱を抑制することが可能となる。
また、加熱コイル3と被加熱物8の間に設けられる電気導体11が、連続した大きなリング形状をしている場合、被加熱物8の大きさによって大きく特性が変化する。例えば、被加熱物8を含む加熱コイル3のインダクタンスが、リング状の電気導体11の影響を受けるため、被加熱物8の大きさによっては大きく変化し、インバータ設計が困難となる。しかしながら、本実施の形態では、電気導体11の中央部の開口部13から最外部に渡る
スリット12が設けられているために、インダクタンスの変化などがあまり生じず、インバータ設計への影響が少なく、設計が容易になる。
さらに、図2に示すように、電気導体11の内周、外周部にスリット14を設けている。フェライト4の直上に相当する部分は、フェライト4の磁界集中効果によって、特に局部的に誘導電流が流れ、加熱されやすい部分である。しかしながら、局部誘導電流制限手段となるスリット14が設けられており、効果的に誘導電流の抑制がなされ、電気導体11の発熱が抑えられることになる。結果として、損失が少なく、加熱効率を高めることが可能となる。
また、電気導体11から見て、加熱コイル3の最内周又は最外周とフェライト4の方向が交差する点近傍に第2の開口部15を設ける構成としている。
加熱コイル3の端部とフェライト4が交差する点は特に磁界が集中する部分である。加熱コイル3の端部のフェライト4を、被加熱物8の方向へ立ち上げている場合には、その傾向が顕著である。磁界が集中する部分では、誘導電流を多く流そうとする作用が働く。しかしながら、本実施の形態では、第2の開口部15を設け、局部的に誘導電流が流れないようにしているため、電気導体11の発熱が抑制され、損失を低減することができる。つまり、第2の開口部15は、スリット14と同様に局部誘導電流制限手段の役割をなす。
また、電気導体11の一部からは、幅2mm程度と細く、他の部分に比べ熱抵抗が大きい部分17が延びており、導電性のシールなどでリード線18と電気的に接続され、さらにリード線18が、コンデンサ19を介して商用電源電位あるいは加熱コイル3に高周波電流を供給するインバータ(図示せず)の入力する商用電源を整流した電位あるいは大地に接続されているので、加熱コイル3から使用者に漏洩する漏れ電流を低減することができる。
浮力抑制の役割を持つ電気導体11を定電位に電気的に接続しているため、漏れ電流の抑制も同時に行うことが可能となる。また、漏れ電流抑制構成を、加熱コイル3と被加熱物8間に別途設ける必要がないために、加熱コイル3と被加熱物8との間の距離を縮めることができ、加熱効率向上も可能になる。さらに電気導体11と定電位部分との接続は、熱抵抗が大なる部分17を介して行われるため、電気導体11の発熱が他の部分へ与える影響を抑えることができる。
使用者に対して、本体1の運転状態、例えば加熱中であることを報知するための発光部5は、発光ダイオード6と、アクリル板などからなる導光板7で構成されている。加熱中には、回路(図示せず)から発光ダイオード6に電流が供給され、発光する。発光ダイオード6方向は、略ドーナツ状の導光板7に対して、ほぼ接線となるよう配置されているため、発光ダイオード6からの光は、導光板7に入射すると導光板7端部で反射を繰り返しつつ、導光板7内部を伝達する。したがって、使用者からは導光板7全体が点灯しているように見え、加熱中であることを容易に認識できる。
また、本実施の形態においては、電気導体11が加熱コイル3外径よりも大きく、φ220mmに設定されているため、導光板7を覆い隠す構成となる。しかしながら、導光板7に対向する部分に、幅1mm程度の細かなスリット群20を形成されているため、使用者は、導光板7の点灯状態をスリット群20から透過する光で容易に視認することが可能となる。
また、第2のサーミスタ10が当接するトッププレート2の部分の電気導体11には第
3の開口部16が設けられ、第2のサーミスタ10が直接電気導体11に触れないような構成になっているので、第2のサーミスタ10は、比較的電気導体11の発熱の影響を受けずに、被加熱物8の温度を検知することが可能となる。
また、電気導体11は、トッププレート2の加熱コイル3側の面へ転写により、接合されているので、電気導体11の発熱を熱伝導でトッププレート2に与えることは容易であるし、トッププレート2の上部に載置された被加熱物8に対しても同様である。このように、電気導体11の発熱による損失の増加は、結果として被加熱物8に伝達され、電気導体11の温度上昇を抑制し、被加熱物8の加熱効率を高めることができる。
なお、本実施の形態では、電気導体11をトッププレート2に転写する構成としたが、これに限るものではなく、厚み1mm程度の薄い非磁性板によって電気導体11を構成しても良い。また、例えば溶射や蒸着によって電気導体11とトッププレート2を接合させても良い。また電気導体11をアルミニウム製でなく銅製にして、トッププレート2にメッキ処理しても良い。
さらにトッププレート2の表面に、表面加工により微少な凹凸を構成し、電気導体11とトッププレート2との接合性を高めても良い。物作りが容易で、低コストとなる電気導体11材料を採用し、必要となる電気導体11の厚みとすべく、適切な接合手段を選択すればよい。
また、電気導体11は、トッププレート2に接合されているため、工場などでの組立時の取り扱いが容易である。
(実施の形態2)
図6は、本発明の実施の形態2における誘導加熱装置の要部概略断面図である。なお、上記第1の実施の形態と同一部分に付いては同一符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態は、図6に示すように、加熱コイル3及びフェライト4の外周には、アルミダイキャストなどを材料とする防磁リング41を設けたもので、その防磁リング41はトッププレート2に当接されている。
また、電気導体11は、厚さが約15μmのアルミニウム塗膜で形成され、トッププレート2の加熱コイル3側の面へ転写により、接合されている。電気導体11の一部からは、幅2mm程度と細く、他の部分に比べ熱抵抗大となる部分17が延びており、トッププレート2に当接されている防磁リング41と電気的に接触している。
また、防磁リング41には端子42が設けられており、端子42に接続されたリード線18は、コンデンサ19を介して商用電源電位あるいは加熱コイル3に高周波電流を供給するインバータ(図示せず)の入力する商用電源を整流した電位あるいは大地に接続される。
上記構成により、浮力抑制の役割を持つ電気導体11を定電位に電気的に接続しているため、漏れ電流の抑制も同時に行うことが可能となる。また、漏れ電流抑制構成を、加熱コイル3と被加熱物8間に別途設ける必要がないために、加熱コイル3と被加熱物8との間の距離を縮めることができ、加熱効率向上も可能になる。さらに電気導体11と定電位部分との接続は、熱抵抗が大なる部分17を介して行われるため、電気導体11の発熱が他の部分へ与える影響を抑えることができる。
加えて、加熱コイル3と防磁リング41を含む周辺部品からなる加熱コイルユニット2
3に電気的に接続される構成としている。加熱コイルユニット23に含まれるサーミスタ9、10などの温度検知手段などには、それぞれリード線(図示せず)が接続されており、それらのリード線はコネクタを介してメイン回路基板(図示せず)と接続されている。
電気導体11の定電位部分との接続も、加熱コイルユニット23に電気的に接続してから、それらリード線群と同様にメイン基板内の定電位部分に接続すれば、構成が容易になり、組立性も向上する。