JP4437347B2 - 前処理エッチング装置及び薄膜作成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願の発明は、基板の表面に所定の材料の薄膜を作成する技術に関し、特に、薄膜の作成の前に基板の表面をエッチングする技術に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
基板の表面に所定の材料の薄膜を作成することは、LSI(大規模集積回路)等の電子デバイスやLCD(液晶ディスプレイ)等の表示装置の製造において盛んに行われている。このうち、配線用の導電材料の成膜等では、スパッタリングによる成膜が多く行われている。また、ゲート絶縁膜等の絶縁膜の作成では、化学的気相成長(CVD)による成膜が多く行われている。
【0003】
このような成膜技術においては、成膜に先立ち、基板の表面をエッチングする前処理(以下、前処理エッチングと呼ぶ)を行うことがある。前処理エッチングは、多くの場合、基板の表面に形成されている薄膜を除去する処理である。
例えば、基板の表面には自然酸化膜や保護膜が形成されていることがある。このような薄膜が形成されている状態で成膜処理を行うと、作成される薄膜の品質が損なわれることがある。例えば、基板の表面に絶縁性の自然酸化膜や保護膜が形成されている状態で配線用の導電材料の成膜を行うと、下地である基板の表面と配線用の導電膜との導通性が悪くなる問題がある。
【0004】
また、自然酸化膜や保護膜がある状態で成膜を行うと、作成する薄膜の基板に対する密着性が悪くなることもある。さらに、基板の表面にゴミや汚れが付着している場合にも、基板に対する薄膜の密着性や導通性等が悪化する。このようなことから、成膜に先立ち、基板の表面をエッチングし、表面の自然酸化膜、保護膜、又は、ゴミ等の異物を取り除く処理をしている。
【0005】
前処理エッチングは、基板が配置された処理チャンバー内にガス放電によるプラズマを形成し、プラズマ中のイオンを基板の表面に入射させるスパッタエッチングの手法を採用している。そして、多くの場合、低圧で高密度のプラズマが形成できることから、マグネトロン放電の構造を採用している。
【0006】
マグネトロン放電は、放電のための電界に直交する磁界を設定し、電界と磁界との直交関係が周状に連なるようにして電子をマグネトロン運動させながら放電を維持するものである。マグネトロン放電によると、電極の表面への衝突による電子の損失が少ないので、中性ガスを高効率でイオン化させることができ、より低い圧力でもプラズマ密度を高くできる。このため、基板の表面を汚損する可能性をより低くしつつ、充分な速度で前処理エッチングを行うことができる特徴がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の前処理エッチングでは、基板の表面の各点におけるエッチング速度の分布(以下、エッチング速度分布)が均一でない問題がある。このため、所定時間エッチングを行った際、自然酸化膜又は保護膜等を充分除去できない未エッチング箇所があったり、逆に、オーバーエッチングとなって下地である基板の表面を削ってしまう箇所があったりする問題が生じている。
本願の発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、前処理エッチングにおけるエッチング速度分布の均一性を改善するという技術的意義を有する。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本願の一実施形態に係るエッチング装置において、基板の表面に薄膜を作成する前に基板の表面をエッチングする前処理エッチングを行う前処理エッチング装置であって、排気系を備えた真空容器である前処理チャンバーと、前処理チャンバー内にガスを導入するガス導入系と、前処理チャンバー内に設けられた電極と、電極に電圧を印加して前処理チャンバー内に電界を設定することでガスに放電を生じさせる放電用電源と、放電用電源によって前処理チャンバー内に設定された電界に直交する磁界を設定する磁石ユニットと、放電により形成されたプラズマ中のイオンが入射してエッチングが行われる位置に基板を保持する基板ホルダーと、基板の表面に平行な面内で磁石ユニットをその中心軸に一致した自転軸の回りに回転させる自転機構と、前記自転軸とは一致しない公転軸の周りに前記自転軸を回転させる公転機構と、前記自転軸及び公転軸とは一致しない回転軸の周りに前記自転軸及び公転軸を回転させる機構と、エッチング中に、前記自転機構における回転速度と前記公転機構における回転速度と前記自転軸及び公転軸を回転させる機構における回転速度を制御する制御部と、が設けられていることを特徴とする。
また、本願の他の一実施形態に係るエッチング装置において、前記自転機構は、前記磁石ユニットに固定される保持棒(例えば、図2の符号611)と、前記自転軸を中心に前記保持棒を回転させる自転用駆動源(例えば、図2の符号614)と、を備え、前記公転機構は、前記保持棒が回転可能に挿通される公転用ブッシング(例えば、図2の符号621)と、前記公転用ブッシングを前記公転軸を中心に回転させる公転用駆動源(例えば、図2の符号624)と、を備え、前記自転軸及び公転軸を回転させる機構(例えば、図2の符号63)は、前記公転用ブッシングが回転可能に挿通されるブッシング(例えば、図2の符号631)と、前記ブッシングを前記回転軸を中心に回転させる駆動源(例えば、図2の符号634)と、を備えることを特徴とする。
さらに、本願の他の一実施形態に係るエッチング装置において、前記基板ホルダーは、放電用の高周波電力が供給される前記電極として形成されると共に、前記処理チャンバーは、電気的に接地され、前記基板ホルダーの対向位置に前記磁石ユニットが配されていることを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。
まず、前処理エッチング装置の発明の実施形態について説明する。図1は、実施形態の前処理エッチング装置の正面断面概略図である。図1に示す装置は、排気系11を備えた真空容器である前処理チャンバー1と、前処理チャンバー1内にガスを導入するガス導入系2と、前処理チャンバー1内に設けられた電極3と、電極3に電圧を印加して前処理チャンバー1内に電界を設定することでガスに放電を生じさせる放電用電源4と、放電用電源4によって前処理チャンバー1内に設定された電界に直交する磁界を設定する磁石ユニット5とを備えている。
【0010】
前処理チャンバー1は、アルミ又はステンレス等の金属製であり、電気的には接地されている。前処理チャンバー1は、基板9の搬入搬出のための不図示のゲートバルブを備えている。排気系11は、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプを備えており、前処理チャンバー1内を10-5Pa程度の到達圧力まで排気できるよう構成されている。
【0011】
ガス導入系2は、放電に必要なアルゴン等のガスを導入するようになっている。ガス導入系2は、不図示の流量調整器を備えており、所定の流量でガスを導入できるようになっている。
【0012】
電極3は、本実施形態では、放電により形成されたプラズマ中のイオンが入射してエッチングが行われる位置に基板9を保持する基板ホルダーに兼用されている。即ち、電極3は、前処理チャンバー1内の下方に設けた台状の部材である。基板9は、電極3の上に載置されることで所定位置に保持される。尚、電極3の表面に基板9を静電吸着する静電吸着機構が必要に応じて設けられる。また、電極3と前処理チャンバー1との間には絶縁材31が設けられている。
【0013】
電極3が基板ホルダーを兼用しない構成を採用することも可能である。例えば、台状の基板ホルダーとは別に、これに対向する平板状の電極を前処理チャンバー内に設け、この平板状の電極に高周波電圧を印加するようにする構成が挙げられる。また、放電空間を取り囲むコイル状の部材を電極として採用する構成も考えられる。
【0014】
放電用電源4には、本実施形態では、周波数が400kHz〜70MHz程度、出力が500〜700W程度の高周波電源が採用されている。異なる周波数の二つの高周波電源が、放電用電源4として使用されることもある。放電用電源4は、不図示の整合器を介して電極3に高周波電力を与えるようになっている。電極3に高周波電力が与えられると、接地電位である前処理チャンバー1の器壁と電極3との間の空間に高周波電界が設定される。ガス導入系2によって導入されたガスがこの高周波電界によって電離し、ガス放電が生じるようになっている。ガス放電によってプラズマが形成され、プラズマ中のイオンが基板9の表面に入射することで、基板9の表面の自然酸化膜等がスパッタエッチングされるようになっている。
【0015】
また、本実施形態では、上記スパッタエッチングをより効率的にするため、基板9に自己バイアス電圧を与える構成が採用されている。即ち、高周波電源である放電用電源4がバイアス用コンデンサ41を介して電極3に高周波電圧を印加する構成となっている。
コンデンサ等のキャパシタンスを介して電極3に高周波電圧を印加すると、プラズマ中の電子とイオンの移動度の違いから、電極3の表面は、高周波に負の直流分の電圧を重畳したような電位変化となる。この直流分の電圧が自己バイアス電圧である。
自己バイアス電圧が与えられると、殆ど接地電位であるプラズマとの間に電界が設定される。この電界は、プラズマから基板9に向かって徐々に低くなる勾配の電界である。この電界によってプラズマ中のイオン(正電荷)が基板9に向かって加速され、効率よく基板9の表面に入射する。この結果、基板9の表面の自然酸化膜等のスパッタエッチングがより効率的に行われる。
【0016】
バイアス用コンデンサ41は、可変容量コンデンサである。キャパシタンスの大きさを変えると、自己バイアス電圧の大きさを調整することができる。従って、バイアス用コンデンサ41のキャパシタンスを任意に調節して、最適な自己バイアス電圧が得られるようにする。尚、自己バイアス電圧が大きすぎると、イオンが高いエネルギーで基板9の表面に入射して基板9の表面を損傷したり、基板9中にイオンが混入したりする問題が生ずることがある。また、自己バイアス電圧が小さすぎると、上記スパッタエッチングの効率化が充分にできなくなる場合がある。
【0017】
磁石ユニット5は、中心磁石51と、中心磁石51を取り囲む環状の周辺磁石52と、中心磁石51及び周辺磁石52とをつなぐヨーク53とから構成されている。この磁石ユニット5は、前処理チャンバー1の外側、より具体的には、前処理チャンバー1の上壁部の上側に設けられている。そして、上壁部を貫いて、図1に示すように下方に突出した弧状の磁力線54が設定されるようになっている。
【0018】
前処理チャンバー1の上壁部は、電極3の上面と平行である。従って、放電用電源4による電界は、電極3と上壁部との間では図1に矢印Eで示すように垂直方向である。一方、磁石ユニット5による磁力線54は、矢印Bで示すように、弧の下端部で電界に直交する。従って、この部分で直交電磁界の構造が得られ、マグネトロン放電が達成される。
【0019】
図2は、図1に示す磁石ユニット5の構成を説明する平面図である。磁石ユニット5の中心磁石51は、平面視が台形である柱状の部材である。また、周辺磁石52は左右が若干膨らんだほぼ方形の輪郭を有する周状の磁石である。
【0020】
さて、本実施形態の装置の大きな特徴点は、磁石ユニット5に、自転機構61、公転機構62及び機構63が設けられている点である。この点について、図1及び図3を使用して説明する。図3は、図1に示す装置の磁石ユニット5に設けられた自転機構61、公転機構62及び機構63の詳細を示す正面断面概略図である。自転機構61、公転機構62及び機構63は、図1に示す機構ボックス64の内部に設けられている。図3は、この機構ボックス64内の詳細な構造を示している。
【0021】
まず、自転機構61の構成について説明する。
自転機構61は、ヨーク53の背面に固定された保持棒611と、保持棒611の端部に固定された自転用第一ギア612と、自転用第一ギア612に噛み合う自転用第二ギア613と、自転用第二ギア613を回転させるモータなどの自転用駆動源614とから主に構成されている。
図3に示すように、保持棒611は、自転軸61Aと磁石ユニット5の中心軸が一致するようにヨーク53の背面に固定されている。自転用駆動源614が駆動されると、自転用第二ギア613及び自転用第一ギア612を介して保持棒611が回転し、これによって磁石ユニット54が全体に自転することになる。
【0022】
次に公転機構62について説明する。
公転機構62は、保持棒611を挿通させるようにして設けた筒状の公転用ブッシング621と、公転用ブッシング621の端部に設けられた公転用第一ギア622と、公転用第一ギア622に噛み合う公転用第二ギア623と、公転用第二ギア623に連結された公転用駆動源624とから主に構成されている。
【0023】
公転用ブッシング621は、保持棒611よりも若干大きな径の円柱状の内部空間を有し、この内部空間に保持棒611を挿通させている。また、図2に示すように公転用ブッシング621と保持棒611との間には、上下に二つのベアリング620が設けられている。公転用駆動源624が駆動されると、公転用第二ギア623及び公転用第一ギア622を介して公転用ブッシング621が回転し、これによって、保持棒611、自転用第一ギア612、自転用第二ギア613及び自転用駆動源614が全体に公転軸62Aの回りに回転することになる。この結果、磁石ユニット54も公転軸62Aの回りに回転するようになっている。
【0024】
図3に示すように、公転軸62Aは、自転軸61Aには一致していない。尚、図1に示すように、公転軸62Aは、電極3の上に載置された基板9の中心軸に一致するようになっている。
【0025】
次に、機構63の構成について説明する。本実施形態の装置における機構63は、公転用ブッシング621を挿通させた筒状のブッシング631と、ブッシング631の外側面に固定された第一ギア632と、第一ギア632に噛み合う第二ギア633と、第二ギア633に連結された駆動源634から主に構成されている。
【0026】
ブッシング631は、公転用ブッシング621の外径よりも若干大きな径の円柱状の内部空間を有し、この内部空間に公転用ブッシング621を挿通させている。ブッシング631と公転用ブッシング621との間には、図3に示すように、上下に二つのベアリング630が設けられている。
【0027】
また、図3に示すように、機構ボックス64内には、取り付け板65が設けられている。取り付け板65は、回転軸63Aを中心とした円筒状である。機構ボックス64の下板部には円形の開口が設けられており、この開口の縁から上方に延びるようにして取り付け板65が固定されている。そして、ブッシング631の周辺部分には、図3に示すように取り付け板65が内部に位置する凹部が周状に形成されている。この凹部も、回転軸63Aを中心とした円筒状の形状である。尚、凹部の幅は取り付け板65の厚さよりも若干大きく、図3に示すように取り付け板65の内面と凹部の中心側の表面との間に上下に二つのベアリング635が設けられている。尚、機構ボックス64は、図1に示すように、ボックス固定具66によって前処理チャンバー1に固定されている。
【0028】
ブッシング631は、ベアリング635を介して回転可能に取り付け板65に保持された状態となっている。駆動源634が駆動されると、第二ギア633及び第一ギア632を介してブッシング631が回転し、この回転によって自転機構61と公転機構62とが一体に回転軸63Aの回りに回転するようになっている。
【0029】
この機構63による回転の回転軸63Aは、公転軸62Aとは異なる位置に設定されており、公転軸62A及び自転軸61Aは回転軸63Aの回りに回転していくことになる。この際、自転の回転速度及び公転の回転速度を適宜設定する。
【0030】
上述した自転機構61、公転機構62及び機構63は、いずれも、基板9の表面のエッチング速度分布の均一性を改善する技術的意義がある。この点について以下に説明する。
【0031】
スパッタエッチングは、前述した通りプラズマ中のイオンが基板9の表面に入射することにより生ずる。従って、エッチング速度分布は、プラズマ中のイオンの分布に依存する。プラズマ中のイオンの分布はプラズマ密度分布と基本的に等価である。
一方、本実施形態のようにプラズマ中に磁界を設定する構成では、磁束によって荷電粒子(電子及びイオン)が捉えられるため、プラズマ分布は磁束密度の分布に依存する。従って、エッチング速度分布を均一にするには、基板9の表面に平行な面内における磁束密度分布が均一になるように磁界を設定すればよい。
【0032】
しかしながら、マグネトロン放電を達成する磁石の構成において、このような面に均一な磁界を設定することは一般的に難しい。マグネトロン放電の古典的な構成は、ペニングの発明による同軸円筒形マグネトロン放電である。この構成では、中心軸である電極を周回するように電子がマグネトロン運動し、電極の表面が曲面になるので、基板9のような板状物に対する処理するには向いていない。
このようなことから、本実施形態のような平板マグネトロン放電の技術が開発された。平板マグネトロン放電では、平板状の電極に平行な面内において電子が周状にマグネトロン運動する。従って、基板9のような板状物の処理に向いている。
【0033】
しかしながら、平板マグネトロン放電では、電磁界の直交関係が成立して電子がマグネトロン運動している周状の空間領域でのみ放電が強くなり、この空間領域のプラズマ密度が高くなり易い。このため、このような放電を利用した前処理エッチングでは、基板9の表面のうち、プラズマ密度の高い周状の空間領域を望む周状の表面領域でのみエッチング速度が速くなる傾向がある。
【0034】
図4は、本実施形態の構成において磁石ユニット5を回転させない場合と回転させる場合とでエッチング速度分布がどのように異なるかを示すものであり、(1)が回転させない場合、(2)が回転させる場合である。図4(1)に示すように、磁石ユニット5を回転させない場合、電磁界の直交関係が成立している空間領域の望む領域でエッチング速度が高くなる傾向がある。
一方、自転機構61及び自転機構62を動作させて磁石ユニット5を回転させると、図4(2)に示すように、空間的には不均一であるプラズマ密度が時間的に均一化される。つまり、時間平均したプラズマ密度は、基板9の表面に平行な面内でより均一になる。このため、基板9の表面に対するエッチング速度も、ある時間内で時間平均するとより均一になり、均一なエッチングが行えることになる。
【0035】
自転機構61における自転速度及び公転機構62における公転速度は、時間平均したエッチング速度が空間的により均一になるよう設定される。本実施形態の装置では、さらに機構63が設けられているので、時間平均エッチング速度の均一化がさらに効果的に行えるようになっている。以下、この点について説明する。
【0036】
図5及び図6は、図3に示す自転機構61及び公転機構62により自転及び公転する際の磁石ユニット5上の一点の軌跡を示す概略図である。
磁石ユニット5上の任意の点例えば周辺部分に位置する点a(図2に示す)と自転軸61Aの近傍の点P(図2に示す)とについて、それぞれ磁石ユニット5が自転及び公転を行った際にどのような軌跡を描くかについて検討してみる。この軌跡を描いたのが、図5及び図6であり、図5が点aの軌跡を示し、図6が点Pの軌跡を示している。
【0037】
図5の(1),(2),(3)に、自転、公転、及び、回転軸を中心とした回転動作を各パターンで行った場合のa1,a2,a3が点aの軌跡を示している。尚、図5における点aの原点は、図示の都合上、図3の図示状態に対して90度反時計回りにずらした位置となっている。図5の(2),(3)に示す通り、図5の(1)とは異なったパターンで移動するようになり、従って、磁石ユニット5によって形成される磁界も異なったパターンで回転していくことになる。
【0038】
図6の(1)、(2)、(3)、(4)には自転、公転、及び、回転軸を中心とした回転動作を各パターンで行った場合の点Pの軌跡P1が示されている。
【0039】
この図6の各図に示すように、磁石ユニット5上の点Pは種々の様々な異なった軌跡を取ることが分かる。従って、磁石ユニット5による磁界も種々の異なったパターンで回転させることができることになる。
【0040】
前述したように自転用駆動源614の回転速度、公転用駆動源624の回転速度、更には駆動源634の回転速度を適宜選定して与える。従って、時間平均エッチング速度分布がより均一になる望ましい回転磁界のパターンを予め実験的に求めておき、そのようなパターンになるように各駆動源614,624,634に制御部60から制御信号を送る構成となっている。尚、どのようなパターンにより時間平均エッチング速度分布が最も均一化されるかは、圧力、ガスの種類、高周波の周波数や電力、磁界強度等の条件により変わると考えられる。いずれにしても、本実施形態の装置では、エッチング速度分布の均一性が改善されるので、オーバーエッチングや未エッチングの問題が抑制される。
【0041】
次に、薄膜作成装置の発明の実施形態について説明する。
薄膜作成装置の発明の実施形態は、上記実施形態の前処理エッチング装置を備えた構成である。図7は、薄膜作成装置の発明の実施形態の構成を示す平面概略図である。
【0042】
図7に示す薄膜作成装置は、クラスターツール型の装置であり、中央に配置された搬送チャンバー71と、搬送チャンバー71の周囲に設けられた複数の処理チャンバー1,72,73,74,75,76及び二つのロードロックチャンバー77とからなるチャンバーレイアウトになっている。
【0043】
各チャンバー1,71,72,73,74,75,76,77は、専用又は兼用の排気系(図7中不図示)によって排気される真空容器である。中央の搬送チャンバー71に対して、各チャンバー1,72,73,74,75,76,77は気密に接続されており、その接続個所には、内部にゲートバルブが設けられたゲートバルブ室79が介在している。そして、処理チャンバー1は、前述した前処理チャンバー1に相当しており、この部分が上記実施形態の前処理エッチング装置の構成となっている。
【0044】
搬送チャンバー71は、各処理チャンバー1,72,73,74,75,76を相互に気密に分離して内部雰囲気の相互汚染を防止するとともに、各処理チャンバー1,72,73,74,75,76やロードロックチャンバー77への基板搬送の経由空間となるものである。搬送チャンバー71内には、搬送系を構成する搬送ロボット78が設けられている。搬送ロボット78は、一方のロードロックチャンバー77から基板9を一枚ずつ取り出し、各処理チャンバー1,72,73,74,75,76に送って順次処理を行うことになっている。そして、最後の処理を終了した後、一方又は他方のロードロックチャンバー77に戻すようになっている。
【0045】
次に、処理チャンバー72,73,74,75,76の構成の一例について説明する。処理チャンバー72,73,74,75,76の構成は、成膜処理の内容によって異なる。一例として、二つの層の間の相互汚損を防止するバリア膜を作成する場合の構成について説明する。
【0046】
バリア膜を作成する場合、一つの処理チャンバー72は、成膜に先だって基板9を予備加熱するプリヒートチャンバーとして構成される。また、別の処理チャンバー73,74は、スパッタリングによってバリア膜を作成するよう構成される。バリア膜には、チタンと窒化チタンの積層膜が採用されることが多く、この場合は、一つの処理チャンバー73でチタン薄膜を作成し、別の一つの処理チャンバー74で窒化チタン薄膜を作成する。残りの二つの処理チャンバー75,76は、予備のチャンバーであり、例えば基板の冷却が必要な場合には冷却チャンバーとして構成される。
【0047】
本実施形態の装置では、スパッタリングによる成膜を行うようになっている。成膜のための構成について、処理チャンバー73を例にして説明する。図8は、図7に示す薄膜作成装置における処理チャンバー73の構成を示す正面断面概略図である。図8に示すように、処理チャンバー73内には、所定位置で基板9を保持する基板ホルダー731と、基板ホルダー731に対向して設けられたターゲット732と、処理チャンバー73,74内にガスを導入するガス導入系733とが設けられている。
【0048】
ターゲット732は、成膜する材料より形成されている。ターゲット732に負の高電圧又は高周波電圧を印加するスパッタ電源734が設けられている。ターゲット732の背後には、マグネトロンスパッタを可能する磁石ユニット735等から構成されている。磁石ユニット735の構成は、前述した前処理エッチング装置におけるものとほぼ同様である。また、磁石ユニット735も、図8中不図示の自転機構及び公転機構により回転するようになっている。これらの機構は、図3に示すものと同様である。尚、基板ホルダー731には、基板9に自己バイアス電圧を与えるための高周波電源737が整合器738を介して設けられている。
【0049】
所定のガスをガス導入系733により処理チャンバー73内に導入し、排気系736を制御して処理チャンバー73内の圧力を所定の値に調整する。この状態で、スパッタ電源734を動作させてスパッタ放電を生じさせる。ターゲットがスパッタされ、基板ホルダー731上の基板9の表面に所定の薄膜が作成される。窒化チタン膜を作成する場合には、チタン製のターゲット732を使用し、窒素ガスを導入してスパッタを行う。
【0050】
また、図7に示すように、大気側には外部カセット81が配置されている。そして、外部カセット81に収容されている未処理の基板9をロードロックチャンバー77のカセット771に搬送するとともに、処理済みの基板9をカセット771から外部カセット81に搬送するオートローダ82が設けられている。
【0051】
次に、本実施形態の装置全体の動作について、図7を使用して説明する。未処理の基板9は、オートローダ82により、外部カセット81からロードロックチャンバー77に搬送され、カセット771に収容される。ロードロックチャンバー77内のカセット771には、所定数の未処理の基板9が収容される。
搬送ロボット78は、カセット771から一枚の基板9を取り出し、各処理チャンバー72,1,73,74,75,76に送って順次成膜処理を行う。成膜処理が終わった基板9は、ロードロックチャンバー77内のカセット771に戻される。そして、オートローダ82により大気側の外部カセット81に取り出される。
【0052】
本実施形態の薄膜作成装置では、前処理チャンバー1で前処理エッチングが行われた基板9が、大気に取り出されることなく真空中で搬送されて処理チャンバー73,74に送られ、成膜が行われる。従って、前処理エッチングによって清浄化された基板9の表面は、大気によって再酸化される等の汚損が生じることがなく、清浄な表面のままで成膜が行われる。このため、成膜処理の品質が向上し、良質な薄膜を回路として使用した良質な素子を製造することができる。
【0053】
上述した各実施形態では、自転機構61と公転機構62とが設けられた構成であったが、自転機構61のみでも効果がある。即ち、基板9の表面と平行な面内でなるべく均一な磁界になるように磁石ユニット5を構成した場合でも、完全に均一することはできない。この場合、自転機構61により磁石ユニット5を自転させることで、円周方向の磁界が時間的に平均化される。このため、円周方向でのプラズマ密度の不均一性を改善することができる。
【0054】
また、自転機構61及び公転機構62はギアによって直結して回転させる機構のものを採用したが、ベルトなどによって運動を伝達する機構を採用しても良い。
【0055】
尚、自転機構61等が真空容器1外に配置される実施形態の機構は、塵や埃などが発生しやすい機構部分が真空容器1の外になるため、真空容器1内に塵や埃を発生させることがない。従って、本実施形態の装置は、これらの塵や埃による基板の汚損が未然に防止される点で優れている。
【0056】
【実施例】
次に、上記実施形態に属する実施例を説明する。
以下の説明では、基板9がシリコンウェーハであり、前処理エッチングが基板9の表面の自然酸化膜(SiO2 )を除去する処理である場合を例にする。この場合、以下の条件により、前処理エッチングを行うと好適である。
ガス:Ar
圧力:5Pa
高周波の周波数及び電力:60MHz,200W
磁束密度:100ガウス
尚、磁束密度は、真空容器1の上壁部から10mm程度下方のアーチ状の磁力線のピークの位置(図1中にBp で示す)における値である。このような条件でエッチングを行うと、60秒程度の時間で基板9の表面の自然酸化膜をほぼ完全に除去でき、問題となるオーバーエッチングや未エッチングは生じない。
【0057】
図9は、従来の構成による前処理エッチングと上記実施例による前処理エッチングとを比較した実験の結果を示す図である。図9の(1)は従来の構成による前処理エッチングであり、磁石ユニット5を全く回転させない場合のエッチング量の分布、(2)は実施例の構成によるエッチング量の分布を示している。尚、図9の縦軸では、基板9の表面の各点におけるエッチング量の平均値に対してエッチング量の多い方を−側、少ない方を+側にしている。また、図9の横軸は、基板9の表面の位置を基板9の中心からの距離で示しており、基板9の中心からある向きに離れる側を+側、これとは反対側を−側としている。
【0058】
図9(1)に示すように、従来の構成では、エッチング量の分布は、±10%と悪い。従来の構成では、磁石ユニット5を回転させないことから、プラズマ密度の分布は静的であり、従ってエッチング量の分布はそのままエッチング速度の分布となっているものと考えられる。つまり、従来の構成では±10%という悪いエッチング速度分布しか得られていない。尚、図9(1)の従来の構成では、磁石ユニット5は、中心に配置された円柱状の中心磁石51と、中心磁石51に対して同心状に配置された円環状の周辺磁石52とから成る構成である。
【0059】
一方、図10(2)に示すように、実施例の構成では、エッチング量の分布は±4%程度であり、大幅に改善していることが判る。実施例では、前述したようにプラズマ密度が動的であることから、エッチング量は時間平均エッチング速度に相当している。つまり、実施例の構成によると、時間平均エッチング速度分布が大幅に改善される。
【0060】
【発明の効果】
以上説明した通り、磁石ユニットを自転させる自転機構が設けられているので、自転軸を中心とする円周方向におけるプラズマ密度の不均一性を改善することができる。このため、未エッチング箇所やオーバーエッチングの発生が抑制される。また、上記効果に加え、公転機構とともに、自転軸と公転軸とを回転させる機構が設けられているので、磁界の分布の時間的変化のパターンを任意のものにすることができる。このため、プラズマ密度を均一化させる効果をさらに高く得ることができる。さらに、自転機構及び公転機構などをチャンバ外部に設ければ、上記効果に加え、自転機構等が真空容器外に配置されるので、真空容器内に塵や埃を発生させることがない。従って、良質な素子の製造にさらに貢献することができる。また、さらに前処理エッチングチャンバと他の成膜チャンバとを大気に晒すことなく搬送する搬送系を設けることで、前処理エッチングが行われた基板が大気に取り出されることなく真空中で搬送された後に成膜処理されるので、成膜処理の品質が向上する。このため、良質な素子の製造にさらに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態の前処理エッチング装置の正面断面概略図である。
【図2】図1に示す磁石ユニット5の構成を説明する平面図である。
【図3】図1に示す装置の磁石ユニット5に設けられた自転機構61、公転機構62及び機構63の詳細を示す正面断面概略図である。
【図4】本実施形態の構成において磁石ユニット5を回転させない場合と回転させる場合とでエッチング速度分布がどのように異なるかを示すものであり、(1)が回転させない場合、(2)が回転させる場合である。
【図5】自転機構61及び公転機構62により自転及び公転する際の磁石ユニット5上の一点aの軌跡を示す概略図である。
【図6】自転機構61及び公転機構62により自転及び公転する際の磁石ユニット5上の一点Pの軌跡を示す概略図である。
【図7】薄膜作成装置の発明の実施形態の構成を示す平面概略図である。
【図8】図7に示す薄膜作成装置における処理チャンバー73の構成を示す正面断面概略図である。
【図9】従来の構成による前処理エッチングと実施例による前処理エッチングとを比較した実験の結果を示す図である。
【符号の説明】
1 前処理チャンバー
11 排気系
2 ガス導入系
3 電極
4 放電用電源
41 バイアス用コンデンサ
5 磁石ユニット
60 制御部
61 自転機構
62 公転機構
63 機構
9 基板
Claims (3)
- 基板の表面に薄膜を作成する前に基板の表面をエッチングする前処理エッチングを行う前処理エッチング装置であって、排気系を備えた真空容器である前処理チャンバーと、前処理チャンバー内にガスを導入するガス導入系と、前処理チャンバー内に設けられた電極と、電極に電圧を印加して前処理チャンバー内に電界を設定することでガスに放電を生じさせる放電用電源と、放電用電源によって前処理チャンバー内に設定された電界に直交する磁界を設定する磁石ユニットと、放電により形成されたプラズマ中のイオンが入射してエッチングが行われる位置に基板を保持する基板ホルダーと、
基板の表面に平行な面内で磁石ユニットをその中心軸に一致した自転軸の回りに回転させる自転機構と、
前記自転軸とは一致しない公転軸の周りに前記自転軸を回転させる公転機構と、
前記自転軸及び公転軸とは一致しない回転軸の周りに前記自転軸及び公転軸を回転させる機構と、
エッチング中に、前記自転機構における回転速度と前記公転機構における回転速度と前記自転軸及び公転軸を回転させる機構における回転速度を制御する制御部と、
が設けられていることを特徴とする前処理エッチング装置。 - 前記自転機構は、前記磁石ユニットに固定される保持棒と、前記自転軸を中心に前記保持棒を回転させる自転用駆動源と、を備え、
前記公転機構は、前記保持棒が回転可能に挿通される公転用ブッシングと、前記公転用ブッシングを前記公転軸を中心に回転させる公転用駆動源と、を備え、
前記自転軸及び公転軸を回転させる機構は、前記公転用ブッシングが回転可能に挿通されるブッシングと、
前記ブッシングを前記回転軸を中心に回転させる駆動源と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の前処理エッチング装置。 - 前記基板ホルダーは、放電用の高周波電力が供給される前記電極として形成されると共に、
前記処理チャンバーは、電気的に接地され、
前記基板ホルダーの対向位置に前記磁石ユニットが配されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の前処理エッチング装置。
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