JP4430133B1 - グルコース誘導性不活化/分解耐性トランスポーター遺伝子及びその用途 - Google Patents
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Abstract
【選択図】なし
Description
Brondijk, T. H., van der Rest, M. E., Pluim, D., de Vries, Y. de., Stingl, K., Poolman, B., and Konings, W. N. (1998) J Biol Chem 273(25), 15352-15357 Medintz, I., Wang, X., Hradek, T., and Michels, C. A. (2000) Biochemistry 39(15), 4518-4526 Gadura, N., and Michels, C. A. (2006) Curr Genet 50(2), 101-114
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜15個のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(d) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(e)配列番号:1の塩基配列と相補的なヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;および
(f)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドの塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(2) 以下の(g)〜(i)からなる群から選択される(1)に記載のポリヌクレオチド:
(g)配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜5個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(h) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して97%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び
(i)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド、又は配列番号:1の塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。
(3) 配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する(1)または(2)に記載のポリヌクレオチド。
(4) 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する(1)または(2)に記載のポリヌクレオチド。
(5) DNAである、(1)〜(4)のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
(6) (1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
(7) (1)〜(5)のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
(8) (7)に記載のベクターが導入された形質転換酵母。
(9) (7)に記載のベクターを導入することによって、オリゴ糖資化能が向上した(8)に記載の醸造用酵母。
(10) (6)に記載のタンパク質の発現量を増加させることによってオリゴ糖資化能が向上した(8)に記載の醸造用酵母。
(11) (8)〜(10)のいずれかに記載の酵母を用いた酒類の製造方法。
(12) 醸造する酒類が麦芽飲料である(11)に記載の酒類の製造方法。
(13) 醸造する酒類がワインである(12)に記載の酒類の製造方法。
(14) (11)〜(13)のいずれかに記載の方法で製造された酒類。
[配列番号:1] MAL21ヌクレオチド配列
[配列番号:2] Mal21pα−グルコシドトランスポーターアミノ酸配列
[配列番号:3] MAL31ヌクレオチド配列
[配列番号:4] Mal31pα−グルコシドトランスポーターアミノ酸配列
[配列番号:5] MAL61ヌクレオチド配列
[配列番号:6] Mal61pα−グルコシドトランスポーターアミノ酸配列。
まず、本発明は、(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;及び(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチドを提供する。ポリヌクレオチドは、DNAであってもRNAであってもよい。
本発明で対象とするポリヌクレオチドは、上記配列のタンパク質をコードするポリヌクレオチドに限定されるものではなく、このタンパク質と機能的に同等なタンパク質をコードする他のポリヌクレオチドを含む。機能的に同等なタンパク質としては、例えば、(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜15個(好ましくは、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個又は1個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質が挙げられる。
このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、例えば、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個(1〜数個)、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個、1個のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質が挙げられる。上記アミノ酸残基の欠失、置換、挿入および/または付加の数は、一般的には小さい程好ましい。また、このようなタンパク質としては、(d) 配列番号:2のアミノ酸配列に対して90%以上、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上または99.9%以上の同一性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質が挙げられる。上記相同性の数値は一般的に大きい程好ましい。
本発明において、グルコース誘導性不活化/分解耐性は、例えば次のようにして評価することができる。最初に、各トランスポータータンパクを発現する株が、0〜2 mMの2−デオキシグルコースを含有する、2 %のマルトースを含む完全合成培地(SCM) (Yeast Nitrogen Base w/o amino acids 6.7 g/L、 マルトース20 g/L、アデニン硫酸 20 mg/ml、ウラシル20 mg/ml、L-トリプトファン20 mg/ml、L-ヒスチジン塩酸塩 20 mg/ml、L-アルギニン塩酸塩20 mg/ml、L-メチオニン20 mg/ml、L-チロシン30 mg/ml、L-ロイシン30 mg/ml、L-イソロイシン30 mg/ml、L-リジン塩酸塩30 mg/ml、L-フェニルアラニン50 mg/ml、L-グルタミン酸 100 mg/ml、L-アスパラギン酸 100 mg/ml、L-バリン150 mg/ml、L-トレオニン200 mg/ml、L-セリン400 mg/ml)、あるいは0〜2 mMの2−デオキシグルコースを含有する、マルトース等の最少培地(Yeast Nitrogen Base w/o amino acids 6.7 g/L、 マルトースなど 5 g/L、ただし、栄養要求性のある形質転換株については、その栄養素を含む)で生育することを確認し、グルコース誘導性の不活化/分解シグナルが生じている状態の酵母においても、そのトランスポーターがマルトース取り込み活性を持ち機能している株を選択する。次に、この株をYPD(イーストエキストラクト 10 g/L,ポリペプトン 20 g/L, グルコース 20 g/L)に植菌して、30 ℃にて一晩震盪培養する。培養液を、OD660=1.0になるようにYPM培地(イーストエキストラクト 10 g/L,ポリペプトン 20 g/L, マルトース 5 g/L)に植菌し、30 ℃にて2.5時間、震盪培養し、集菌する。60 OD660unitの細胞を測り取り、あらかじめ30 ℃にてインキュベートしておいた分解速度測定用培地(Yeast Nitrogen Base w/o amino acids and ammonia 1.7 g/L、 グルコース 20 g/L、シクロヘキシミド 25μg/L)30mlに懸濁し、30 ℃でインキュベートする。 細胞懸濁液は適当な時間(0、10、20、30および40 分あるいは、0、30、60、90および120 分)5mlサンプリングし、速やかに遠心して上澄みを捨て、細胞をエタノールドライアイスで凍結する。凍結した細胞から常法にしたがってトランスポータータンパク質を検出し、タンパクバンドのインテンシティーを測定し、その減少速度から半減期を求める。本発明において好ましいトランスポータータンパク質は、例えば、Mal31pまたはMal61pと比較して、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上または8倍以上の半減期を有する。
本発明は、上記ポリヌクレオチド(a)〜(i)のいずれかにコードされるタンパク質も提供する。本発明の好ましいタンパク質は、配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜15個(好ましくは、1〜14個、1〜13個、1〜12個、1〜11個、1〜10個、1〜9個、1〜8個、1〜7個、1〜6個、1〜5個、1〜4個、1〜3個、1〜2個又は1個)のアミノ酸が欠失、置換、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質である。
このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列において、上記したような数のアミノ酸残基が欠失、置換、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質が挙げられる。また、このようなタンパク質としては、配列番号:2のアミノ酸配列と上記したような相同性を有するアミノ酸配列を有し、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質が挙げられる。このようなタンパク質は、「モレキュラークローニング第3版」、「カレント・プロトコールズ・イン・モレキュラー・バイオロジー」、“Nuc. Acids. Res., 10, 6487 (1982)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 79, 6409 (1982)”、“Gene, 34, 315 (1985)”、“Nuc. Acids. Res., 13, 4431 (1985)”、“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 488 (1985)”等に記載の部位特異的変異導入法を用いて、取得することができる。
次に、本発明は、上記したポリヌクレオチドを含有するベクターを提供する。本発明のベクターは、好ましくは、上記(a)〜(i)のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA)、又は配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチド又は配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する。また、本発明のベクターは、通常、(x)酵母細胞内で転写可能なプロモーター;(y)該プロモーターにセンス方向またはアンチセンス方向で結合した、上記のいずれかに記載のポリヌクレオチド(DNA);及び(z)RNA分子の転写終結およびポリアデニル化に関し、酵母で機能するシグナルを構成要素として含む発現カセットを含むように構成される。なお、上記本発明のタンパク質を高発現させる場合は、上記(a)〜(i)の何れかに記載のポリヌクレオチド(DNA)の発現を促進するようにこれらのポリヌクレオチドを該プロモーターに対してセンス方向に導入するのが好ましい。
上述した本発明のベクターを製造対象となる酒類の醸造に適した酵母に導入し、その酵母を用いることによってアミノ酸の組成に特徴のある酒類を製造することができる。対象となる酒類としては、これらに限定されないが、例えば、ビール、ワイン、ウイスキー、清酒などが挙げられる。
本実施例で用いた試験項目および試験方法を以下に示す。特に断りのない限り、本実施例における試験方法はこれに準じた。
酵母サッカロミセス・セレビジエーのMAL61及びMAL31遺伝子は既にクローニングされており、その塩基配列が報告されている。本明細書中で使用したMAL31(配列番号:3)はSaccharomyces Genome Database登録番号:YBR298Cより、MAL61(配列番号:5)はGenBank登録番号:X17391より入手した。MAL61及びMAL31遺伝子は、その塩基配列情報をもとに、それぞれの遺伝子を持つ、酵母サッカロミセス・セレビジエーから調製した染色体DNAをPCRの鋳型に使用して、MAL61及びMAL31遺伝子をPCRによって増幅、単離することにより取得した。
酵母サッカロミセス・セレビジエーのMAL21については、染色体III番にコードされていることが知られていたが、DNA配列は知られていなかった。しかし、染色体II番にコードされるMAL31, 染色体VIII番にコードされるMAL61遺伝子が99 %以上のアイデンティティーを持つことから考えて、MAL21もかなり高いアイデンティティーを持つことが予想された。
実際に我々は、GENBANK登録番号X17391より入手したMAL61のDNA配列からプライマー(5’AGAGCTCAGCATATAAAGAGACA 3’ (配列番号:7)と5’TGGATCCGTATCTACCTACTGG 3’ (配列番号:8)を設計した。そしてMAL21遺伝子を持つが、他のα−グルコシドトランスポーター遺伝子を持たない酵母の染色体DNAを鋳型として、PCRでMAL21を取得することができた。具体的には、MAL31はサッカロミセス・セレビジエー S288C (ATCC204508 (Rose, M.D., Winston, F. and Hieter, P. (1990): Methods in Yeast Genetics: A Laboratory Course Manual, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, NY))から、MAL21はサッカロミセス・セレビジエー ATCC20598から、そしてMAL61はサッカロミセス・セレビジエーATCC96955から、同じプライマーを用いてPCRによって取得した。取得したDNA断片は、Invitrogen社のTOPO TA cloning kitを用いて、ベクター、pCR(登録商標)2.1-TOPOに挿入した後、DNAシークエンスにより挿入した遺伝子配列を確認した。
MAL31及びMAL61については、データバンクに登録されている配列(それぞれSaccharomyces Genome Database登録番号:YBR298CおよびGenBank登録番号:X17391)と同様であることを確認した。MAL21については、独立に10クローン以上をシークエンスして、配列を確定した(配列番号:1)。
なお、使用したプライマーには開始コドンの上流にXbaIあるいはSacIサイト、終始コドンの下流にBamHIサイトがあり、発現ベクターに組み込めるようになっている。染色体DNAを用いたPCRによる目的遺伝子の増幅およびその後の単離は、PCRプライマーの調製を含め、当業者に周知な方法で行うことができる。MAL21の塩基配列を図2にアミノ酸配列を図3に示す。
本発明においては(1)〜(4)の4つの発現ベクターを用いた。
(1)pJHXSB(図10)
(2)pJHIXSB(図11)
(3)pYCGPY(図12)
(4)pUP3GLP(図13)
本発明においては、トランスポーター遺伝子の取得と株間比較には株(1)〜(5)を、トランスポーターを高発現した株で、生育速度、醗酵速度を確認するのには、(6)〜(8)を用いた。
(1) S.cerevisiae S288C (ATCC204508) (MATalpha SUC2 mal mel gal2 CUP1)
(2) S.cerevisiae ATCC96955(MATa MAL61 MAL62 MAL63 mal64 mal11 MAL12 mal13 ura3-52 leu2-3 leu2-112 trp1 his)
(3)S.cerevisiae ATCC20598(MATa suc MAL2 MEL1 his4 leu2)
(4)S.cerevisiae CB11 (Berkley Stock Center)(MATa ade1 MAL61 MAL62 MAL63 AGT1 MAL12 MAL31 MAL32)
(5)S.cerevisiae HH1001 (MATa SUC2 mal mel gal2 CUP1 TPI1::TPI1pr-MAL32-G418R ura3)
(6)S.cerevisiaeΔ152MS (MATa mal61::TRP1 MAL62 MAL63 mal64 mal11 MAL12 mal13 leu2-3 leu2-112 his URA3::TDH3p::MAL62)
(7)上面ビール酵母 AH135
(8)下面ビール酵母 Weihenstephan 194
天然型トランスポーターの形質転換株(α−グルコシドトランスポーター遺伝子を持たない株を宿主とする)における、導入したトランスポーター遺伝子の発現は、0.5 %のマルトースあるいはマルトトリオースを唯一の炭素源とし、アンチマイシン 3 mg/Lを含む最少培地(Yeast Nitrogen Base w/o amino acids 6.7 g/L、 マルトースあるいはマルトトリオース 5 g/L、アンチマイシン 3 mg/L)での生育の有無により調べることができる。α−グルコシドトランスポーターが機能していない株でも、マルトースあるいはマルトトリオースを唯一の炭素源とした最少培地において、わずかながらに増殖する。しかし、呼吸阻害剤であるアンチマイシンを加えると、マルトースあるいはマルトトリオースを唯一の炭素源とした最少培地には、その株は生育できなくなるため、はっきりとα−グルコシドトランスポーターの機能を確認する事ができる。例えば、供試菌株をYPDプレート(イーストエキストラクト 10 g/L,ポリペプトン 20 g/L, グルコース 20 g/L)から一白金耳とって、1 mlの滅菌水で一度洗浄した後、OD660=0.2になるように滅菌水に再懸濁した。これを集菌して、もう一度1 mlの滅菌水に懸濁した後、細胞懸濁液をマルトースあるいはマルトトリオースを唯一の炭素源とする試験培地に直接ストリークして生育を確認することにより、マルトースあるいはマルトトリオースの取り込み活性を持つことを確認した。
2-デオキシグルコース(2-DOG)は 2-DOG-6リン酸以上に代謝されないため、炭素源にはなり得ない糖アナログであるが、グルコースと同じレベルにグルコースリプレッション、あるいはグルコースによる不活化を起こすことが知られている。従って、このプレートで生育する株は、グルコースによる不活化を受けにくいα−グルコシドトランスポーターを持つ可能性が高い。2-DOGに対する耐性を調べるため、マルトース最少培地(Yeast Nitrogen Base w/o amino acids 6.7 g/L、 マルトース 20 g/L、0-2.0 mM 2-デオキシグルコース)あるいは、マルトースを含む完全合成培地(SCM) (Yeast Nitrogen Base w/o amino acids 6.7 g/L、 マルトース20 g/L、アデニン硫酸 20 mg/ml、ウラシル20 mg/ml、L-トリプトファン20 mg/ml、L-ヒスチジン塩酸塩 20 mg/ml、L-アルギニン塩酸塩20 mg/ml、L-メチオニン20 mg/ml、L-チロシン30 mg/ml、L-ロイシン30 mg/ml、L-イソロイシン30 mg/ml、L-リジン塩酸塩30 mg/ml、L-フェニルアラニン50 mg/ml、L-グルタミン酸 100 mg/ml、L-アスパラギン酸 100 mg/ml、L-バリン150 mg/ml、L-トレオニン200 mg/ml、L-セリン400 mg/ml)に2-デオキシグルコース(2-DOG)を0 mM〜2 mM加えたプレートを作製した。各トランスポーター発現株のOD660=0.2の細胞懸濁液の希釈系列を試験培地に各々3μlスポットし、30 ℃にて2〜3日培養することによって調べた。
トランスポータータンパクの菌体内蓄積量は、例えばウエスタンブロッティングにより調べることができる。例えば、供試菌株を10 mlの培養液から対数増殖期で回収し、溶解バッファー(8 M 尿素、5 % (w/v) SDS、40 mM Tris-HCl (pH6.8)、0.1 mM EDTA、1 % β−メルカプトエタノール)中でグラスビーズによる撹拌によって破壊し、細胞抽出液を得た。総タンパク60 μgのサンプルをSDS-ゲル電気泳動で展開し、ニトロセルロース膜に転写した後にウサギポリクローナル抗Mal61p抗体を用いてウエスタンブロッティングを行った。ウサギポリクローナル抗Mal61p抗体は以下のようにして取得した。Mal61pのN末領域 (Met1-Leu181) をコードするDNAをpET Expression vector(Novagen社)のGST tagの下流につなぎ、大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、その形質転換体の細胞破砕液をGST bind resin columnにアプライして、カラムに結合したタンパクを溶出する事によって調製した。詳しくは、Novagen 社のpET Expression System, GST・BindTM Affinity Resins(Novagen社)に添付されたマニュアルのとおりである。調製した融合タンパクは、SDS-PAGEにて純度を確認した後、これを抗原としてウサギを免疫し、ポリクローナル抗体を得た。抗体の有効性については、α−グルコシドトランスポーター遺伝子を発現させた酵母株と、当遺伝子を持たないその宿主株とをYPM培地(イーストエキストラクト 10 g/L,ポリペプトン 20 g/L, マルトース 5.0 g/L)で培養し、その細胞破砕液を、本抗体を用いて上記方法にてウエスターンブロッティングを行なうことにより確認した。本抗体により、α−グルコシドトランスポーター遺伝子を発現させた酵母株破砕液だけに、68 kDaのα−グルコシドトランスポーターの分子量に一致するポジティブバンドを検出した。
各トランスポータータンパクを発現する株をYPDに植菌して、30 ℃にて一晩震盪培養した。培養液を、OD660=1.0になるようにYPM培地に植菌し、30 ℃にて2.5時間、震盪培養し、集菌した。60 OD660unitの細胞を測り取り、あらかじめ30 ℃にてインキュベートしておいた分解速度測定用培地(Yeast Nitrogen Base w/o amino acids and ammonia 1.6 g/L、 グルコース 20 g/L、シクロヘキシミド 25 μg/L)30mlに懸濁し、30 ℃でインキュベートした。 細胞懸濁液は適当な時間(0、10、20、30及び40分あるいは0、30、60、90及び120 分)5mlサンプリングし、速やかに遠心して上澄みを捨て、細胞をエタノールドライアイスで凍結した。凍結した細胞は、上記の方法にてトランスポータータンパクを検出し、タンパクバンドのインテンシティーを測定し、その減少速度から半減期を求めた。
トランスポータータンパク質を構成的に発現している酵母によるマルトースの資化について、当該酵母に適した条件下にて酵母を好気培養あるいは醗酵させ、培地中のマルトース量を測定することにより評価した。糖の測定は、当業者に周知の方法、例えばIR検出器を用いた液体クロマトグラフィーにより測定した。後述の本発明のヌクレオチド配列を含む形質転換酵母では、マルトースの取り込み能が改善された。
2 %のマルトースを含む完全合成培地(SCM)に2-デオキシグルコース(2-DOG)を0 mM〜2 mM加えたプレートを作製した。2-DOGは2-DOG-6リン酸以上に代謝されないため、炭素源にはなり得ない糖アナログであるが、グルコースと同じレベルにグルコースリプレッション、あるいはグルコースによる不活化を起こすことが知られている。従って、このプレートで生育する株は、グルコースによる不活化を受けにくいα−グルコシドトランスポーターを持つ可能性が高い。数々の酵母株について、細胞懸濁液をスポットし、30 ℃でインキュベートした。その結果、MAL21を持つ酵母株ATCC20598が他の株とは異なり、1 mMの2-DOGを含むプレートでも生育し、MAL21がグルコースによる分解を受けにくいトランスポーターであると予測可能であった (図1)。そこで、MAL61の5'上流と3'下流の塩基配列情報からプライマー(配列番号:7および8)を設計し、MAL21遺伝子をATCC20598のゲノムDNAを鋳型としてPCRにて増幅し、Invitrogen社のpCR2.1-TOPOにクローニングし、DNAシークエンスを行なった。塩基配列(配列番号:1)を図2にアミノ酸配列(配列番号:2)を図3に示す。Mal21p/Mal31p/Mal61pのアミノ酸配列のアラインメントを図4−1に、ヌクレオチド配列のアラインメントを図4−2〜4−4に示す。
このMAL21遺伝子をプラスミドpJHIXSB(図11)のSacI-BamHIサイトに組込んだ。このプラスミドpJHIMAL21をURA3遺伝子上にあるEcoRVで切断後、TPI1プロモーターによって構成的に転写される発現ユニットとして、酵母HH1001に組み込み、HH206株とした。HH1001はmal-株であるX2180-1Aのura3-のシブリングであり、TPI1p::MAL32(マルターゼ遺伝子をコードしている)が組み込まれているので、マルターゼが構成的に発現している。HH206株を0 mM〜2 mMの2-DOGを含むSCMプレートにて生育を調べたところ、MAL61及びMAL31遺伝子を持つ、HH108株およびHH227株が1.0 mMの2-DOGプレートではいずれも生育できないのに対し、HH206株は2.0 mMの2-DOGプレートで生育した(図5)。
さらに、抗Mal61p抗体を用いて、Mal21pのグルコース誘導分解速度をウエスターンブロッティングにて調べたところ、半減期が約2時間であった。それに対し、Mal31pとMal61pの半減期は約20分であり、Mal21pは他のトランスポーターに比べて、はるかに長い半減期を持つことを確認した(図6)。
MAL61とMAL21をプラスミドpYCGPYのPYK1プロモーターの下流SacI-BamHIサイトに組み込み、各々のプラスミドをpYCGPYMAL61およびpYCGPYMAL21とした。プラスミドpYCGPYはCEN-ARSを持つYCp型プラスミドであり、G418耐性遺伝子、Ap耐性遺伝子などを持つ(図12)。pYCGPYMAL61およびpYCGPYMAL21をΔ152MS株に形質転換した。Δ152MS株はATCC96955 が持つMAL61をTRP1マーカーで破壊し、TDH3プロモーター制御下にあるMAL62(マルターゼ遺伝子)を導入した株である。Δ152MS(pYCGPYMAL61)とΔ152MS(pYCGPYMAL21)をYPM(イーストエキストラクト 10 g/L,ポリペプトン 20 g/L, マルトース 5.0 g/L)にOD660=約0.5になるように、植菌し、30℃で振とう培養した。OD660を1.5時間ごとに測定した(図7)。Δ152MS(pYCGPYMAL21)はΔ152MS(pYCGPYMAL61)よりも早く、マルトースで生育し、実験室株において、グルコース誘導性分解に対する耐性を持つトランスポーターの効果を確認した。
グルコース誘導性分解に対する耐性を持つトランスポーター、MAL21をプラスミドpUP3GLPのXbaI(あるいはSacI)-BamHIサイトに組み込んだ。pUP3GLPを図13に示す。pUP3GLP はYIp型プラスミドであり、トランスポーター遺伝子はグリセルアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター(TDH3p)によって発現する。各プラスミドをURA3の中にあるEcoRVサイトで切断後、下面ビール酵母(Weihenstephan 194)に形質転換し、0.3μg/mlのシクロヘキシミドを含むYPGプレート((イーストエキストラクト 10 g/L,ポリペプトン 20 g/L, ガラクトース 20 g/L)に塗布した。目的の発現カセットがWeihenstephan 194の染色体上のURA3遺伝子に挿入されたことはPCRによって確認した。
Weihenstephan 194 (URA3::TDH3p::MAL21)と親株Weihenstephan 194 を2種類の発泡酒麦汁に植菌した。発泡酒麦汁は水を除く原料中の麦芽の使用比率が25%未満で、糖化スターチ、ホップなどを用いた麦汁である。発泡酒用麦汁のうちの1つは初期エキス濃度が14.0 %で、グルコース 1.2 %、マルトース 6.6 %、マルトトリオース 2.2 %の組成比で糖が含まれている。もう一つのグルコースリッチ発泡酒麦汁は、初期エキス濃度が15.6 %で、グルコース 4.7 %、マルトース 5.4 %、マルトトリオース 1.7 %の組成比で糖が含まれている。それぞれ、同じ量の麦汁(終濃度、麦芽比率25 %未満)に対して、糖組成の異なる糖化スターチを加えることにより調製した。各発泡酒麦汁に湿菌体を7.5 g/Lになるようにピッチングし、15 ℃にて醗酵を行い、醗酵中のもろみのマルトース濃度を測定した。その結果を図8に示す。
どちらの発泡酒麦汁においても、MAL21高発現株のマルトースの資化速度は、親株のWeihenstephan 194よりも著しく早くなった。特にグルコースリッチ発泡酒麦汁の場合、その効果は顕著であった。初期エキス濃度が高いということは、グルコース濃度が高いことを意味しており、グルコース誘導性分解に対する耐性を持つトランスポーターの効果が十分見られた。
グルコース誘導性分解に対する耐性を持つトランスポーター、MAL21をプラスミドpUP3GLPのXbaI(あるいはSacI)-BamHIサイトに組み込んだ。pUP3GLPを図13に示す。pUP3GLP はYIp型プラスミドであり、トランスポーター遺伝子はグリセルアルデヒド三リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター(TDH3p)によって発現する。各プラスミドをURA3の中にあるEcoRVサイトで切断後、上面ビール酵母AH135に形質転換し、0.3μg/mlのシクロヘキシミドを含むYPGプレート((イーストエキストラクト 10 g/L,ポリペプトン 20 g/L, ガラクトース 20 g/L)に塗布した。目的の発現カセットがAH135の染色体上のURA3遺伝子に挿入されたことはPCRによって確認した。AH135(URA3::TDH3p::MAL21)を初期エキス濃度が13 %あるいは20 %の100 %麦芽麦汁に湿菌体を5 g/Lになるようにピッチングし、15 ℃にて醗酵を行い、醗酵中のもろみのマルトース濃度を測定した。その結果を図9に示す。
どちらの株を用いてもマルトースの資化速度は、親株のAH135よりも早くなった。特に初期エキス濃度が20 %の場合、その効果は顕著であった。初期エキス濃度が高いということは、グルコース濃度が高いことを意味しており、グルコース誘導性分解に対する耐性を持つトランスポーターの効果が見られたと言える。グルコース誘導性分解に対する耐性を持つトランスポーターの高発現は下面ビール酵母だけでなく、上面ビール酵母でも有効であることを確認した。
以上記載のように、いくつかの酵母に元来存在するMal21pが、他のα−グルコシドトランスポーターとは異なり、グルコースによって分解されにくいことを発見した。また、そのトランスポーターを発現する酵母(実験室株、醸造用酵母を問わない)を用いると、もろみ中のマルトースなど、そのトランスポーターが取り込むことのできる糖の資化を早めることができることを確認した。特にグルコースなど単糖の濃度が高い時にはより有効である。
Claims (13)
- 以下の(a)〜(c)からなる群から選択されるポリヌクレオチド:
(a)配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;
(b)配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド;および
(c)配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加したアミノ酸配列(但し、46位、50位、167位、174位、175位、247位、291位、315位、328位、415位、484位、607位及び609位のアミノ酸が該欠失、置換、挿入または付加によって変更しない)からなり、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有するポリヌクレオチド。 - 配列番号:2のアミノ酸配列又は配列番号:2のアミノ酸配列において、1〜2個のアミノ酸が欠失、置換、挿入及び/又は付加したアミノ酸配列からなり、かつグルコース誘導性不活化/分解耐性を有するトランスポータータンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する、請求項1記載のポリヌクレオチド。
- 配列番号:1の塩基配列からなるポリヌクレオチドを含有する請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
- 配列番号:2のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌクレオチドを含有する請求項1または2に記載のポリヌクレオチド。
- DNAである、請求項1〜4のいずれかに記載のポリヌクレオチド。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドにコードされるタンパク質。
- 請求項1〜5のいずれかに記載のポリヌクレオチドを含有するベクター。
- 請求項7に記載のベクターが導入された形質転換酵母。
- 請求項7に記載のベクターを導入することによって、オリゴ糖資化能が向上した請求項8に記載の酵母。
- 請求項6に記載のタンパク質の発現量を増加させることによってオリゴ糖資化能が向上した請求項9に記載の酵母。
- 請求項8〜10のいずれかに記載の酵母を用いた酒類の製造方法。
- 醸造する酒類が麦芽飲料である請求項11に記載の酒類の製造方法。
- 醸造する酒類がワインである請求項11に記載の酒類の製造方法。
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