以下、図面を参照して本発明における実施形態を詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる成形同時絵付け用金型が搭載される成形同時絵付け装置の概略構成を示す図である。図1に示すように、成形同時絵付け装置200は、可動盤201に取付けた可動側金型1と固定盤202に取付けた固定側金型2と両金型間に形成されるキャビティに溶融樹脂を射出する射出ノズル205を備える。
この実施の形態では固定盤202は架台206に固定され、この固定盤202に固定されたタイバー204によって可動盤201が案内され固定盤202に離接可能に移動する。
可動盤201を移動することで固定側金型2のパーティング面と可動側金型1のパーティング面が圧接し、金型の成形部(固定側金型2のキャビティ58と可動側金型1のキャビティ28)でキャビティを形成した型閉じ状態と、両金型のパーティング面が離隔した型開き状態となる。
また、基本的には固定側金型2と可動側金型1を用い当該2つの金型でキャビティを形成するが、例えば、両金型に挟まれてキャビティを形成する中間金型などの附随的な部材を用いることもできる。
前記可動盤201にはフィルム送り出し装置210とフィルム巻取り装置211が設けられている。フィルム送り出し装置210とフィルム巻取り装置211は、絵付け用フィルム13を可動側金型1の成形部28に対して移動(絵付け用フィルム13の長手方向に移動)させる。
絵付け用フィルム13は可動側金型1のパーティング面と離隔し、かつ平行となるように移動される。
なお、フィルム送り出し装置210とフィルム巻取り装置211の取りつけ位置は、図1に示すものに限るものではなく、フィルム送り出し装置210を可動盤201の下部又は左右側部に取付け、フィルム巻取り装置211を可動盤201の上部又は左右他側部に取付けても良いし、フィルム送り出し装置210、フィルム巻取り装置211を架台206や固定盤202に取付けてもよい。
つまり、絵付け用フィルム13が、成形同時絵付けを行う前に金型のパーティング面(固定側金型2のパーティング面又は可動側金型1のパーティング面)に対してその長手方向に移動可能である構成であればよい。
次に絵付け用フィルムについて説明する。成形同時絵付け装置において用いられる絵付け用フィルムは、図2Aに示すように、フィルム送り出し装置210に巻き取られたロールの状態から金型のパーティング面上を移動するように送り出され、成形同時絵付けがなされた後、フィルム巻き取り装置211でロール状に巻き取られる。
絵付け用フィルム13は、図2Bに示すように、基材シート222の表面に図柄221が長手方向に間隔を置いて設けられている。基材シート222は、ベースフィルム225と剥離保護層224とを備えており、その上に図柄221を構成する図柄インキ層221aが設けられる。また、図柄インキ層221aの上には、接着剤層223が設けられており、成形同時絵付け時に溶融樹脂と接触してこれに接着し、図柄インキ層221aが剥離保護層224と共にベースフィルム225から剥離して成形品に転写される。
すなわち、成形同時転写時においては、ベースフィルム225上に、剥離保護層224、図柄インキ層221a、接着層223などからなる転写層を形成した転写材を用い、この転写材を成形金型内に挟み込み、キャビティ内に樹脂を射出充満させ、冷却して樹脂成形品を得るのと同時にその面に転写材を接着させた後、ベースフィルムを剥離して、被転写物面に転写層を転移して装飾を行う。
ベースフィルム225の材質としては、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂などの樹脂シート、アルミニウム箔、銅箔などの金属箔、グラシン紙、コート紙、セロハンなどのセルロース系シート、あるいはこれらの2以上の各シートの複合体など、通常の転写材のベースフィルムとして用いられるものを使用することができる。
ベースフィルム225からの転写層221a,223,224の剥離性が良い場合には、ベースフィルム225上に転写層221a,223,224を直接設ければよい。ベースフィルム225からの転写層の剥離性を改善するためには、ベースフィルム上に転写層を設ける前に、離型層を全面的に形成してもよい。離型層は、成形同時転写後にベースフィルム225を剥離した際に、ベースフィルム225とともに転写層から離型するが、場合によっては層間離型を起こし、一部が転写層の最外面に残存することもある。離型層の材質としては、メラミン樹脂系離型剤、シリコーン樹脂系離型剤、フッ素樹脂系離型剤、セルロース誘導体系離型剤、尿素樹脂系線型剤、ポリオレフィン樹脂系離型剤、パラフィン系離型剤およびこれらの複合型離型剤などを用いることができる。離型層の形成方法としては、ロールコート法、スプレーコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
剥離保護層224は、ベースフィルム225又は離型層上に全面的または部分的に形成される。剥離保護層224は、図4に示すように、成形同時転写後にベースフィルム225を剥離した際に、ベースフィルム225または離型層から剥離して被転写物の最外面となる。
なお、剥離保護層224が層間剥離を起こす場合には、層間剥離した面が最外面となる。また、離型層が層間離型を起こしている場合には、転写層の表真に残存している離型層が、被転写物の最外面となる。剥離保護層224の材質としては、ポリアクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ゴム系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂などのほか、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体系樹脂などのコポリマーを用いるとよい。剥離保護層224に硬度が要求される場合には、紫外線硬化性樹脂などの光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの放射線硬化性樹脂、熱硬化性樹脂などを選定して用いるとよい。
剥離保護層224は、着色したものでも、未着色のものでもよい。剥離保護層224の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
図柄インキ層221aは、剥離保護層224の上に、通常は印刷層として形成する。印刷層の材質としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。印刷層の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印別法やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法を採用することもできる。印刷層は、表現したい図柄に応じて、全部的に設ける場合や部分的に設ける場合もある。
また、図柄インキ層221aは、金属薄膜層からなるもの、あるいは印刷層と金属薄膜層との組み合わせからなるものでもよい。金属薄膜層は、図柄インキ層221aとして金属光沢を表現するためのものであり、真空蒸着法、スパッターリング法、イオンプレーテイング法、鍍金法などで形成する。この場合、表現したい金属光沢色に応じて、アルミニウム、ニッケル、金、白金、クロム、鉄、銅、スズ、インジウム、銀、チタニウム、鉛、亜鉛などの金属、これらの合金又は化合物を使用する。部分的な金属薄膜層を形成する場合の一例としては、金属薄膜層を必要としない部分に溶剤可溶性樹脂層を形成した後、その上に全面的に金属薄膜を形成し、溶剤洗浄を行って溶剤可溶性樹脂層と共に不要な金属薄膜を除去する方法がある。この場合によく用いられる溶剤は、水又は水溶液である。また、別の一例としては、全面的に金属薄膜を形成し、次に金属薄膜を残しておきたい部分にレジスト層を形成し、酸又はアルカリでエッチングを行い、レジスト層を除去する方法がある。なお、金属薄膜層を設ける際に、他の転写層と金属薄膜層との密着性を向上させるために、前アンカー層や後アンカー層を設けてもよい。前アンカー層および後アンカー層の材質としては、2液性硬化ウレタン樹脂、熱硬化ウレタン樹脂、メラミン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、塩素含有ゴム系樹脂、塩素含有ビニル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニル系共重合体樹脂などを使用するとよい。前アンカー層および後アンカー層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
接着層223は、被転写物面に上記の各層を接着するものである。接着層223は、接着させたい部分に形成する。すなわち、接着層させたい部分が全面的なら、図柄インキ層221a上に接着層223を全面的に形成する。また、接着させたい部分が部分的な場合は、図柄インキ層221a上に接着層223を部分的に形成する。接着層223としては、被転写物の素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、被転写物の材質がポリアクリル系樹脂の場合はポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、被転写物の材質がポリフェニレンオキシド共重合体ポリスチレン系共重合体樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、被転写物の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。接着層223の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。
なお、転写層の構成は、上記した態様に限定されるものではなく、たとえば、図柄インキ層の材質として被転写物との接着層性に優れたものを使用する場合には、接着層を省略することができる。
被転写物は、樹脂成形品からなる。これらは、透明、半透明、不透明のいずれでもよい。また、被転写物は、着色されていても、着色されていなくてもよい。樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。
前記した絵付け用フィルムを用い、射出成形による成形同時転写法を利用して被転写物である樹脂成形品の面に装飾を行う方法について説明する。図3Aから図3Cは、樹脂の流れの理解のために、模式的な樹脂の流れを示している。まず、図3Aに示すように、可動側金型と固定側金型とからなる成形用金型内に絵付け用フィルムを送り込む。この場合、本実施形態においては、長尺の絵付け用フィルム13の必要部分を間欠的に送り込む構成としているが、毎葉の転写材を1枚ずつ送り込んでもよい。長尺の絵付け用フィルム13を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、絵付け用フィルムの図柄221と成形用金型との見当が一致するようにするとよい。また、絵付け用フィルムを間欠的に送りこむ際に、絵付け用フィルムの位置をセンサーで検出した後に絵付け用フィルムを可動側金型と固定側金型とで挟んで固定するようにすれば、常に同じ位置で転写材を固定することができ、図柄インキ層の位置ずれが生じないので便利である。図3Bに示すように、成形用金型を閉じた後、固定側金型に設けたゲート226より溶融樹脂をキャビティ内に射出充満させ、被転写物を形成するのと同時にその面に絵付け用フィルムを接着させる。このとき、図1に示す冷却水供給装置203よりキャビティを冷却するための冷媒を両金型のキャビティに供給し、キャビティを冷却することにより溶融樹脂を短時間で固化することができ、成形に要する時間を短くすることができる。
次いで、図3Cに示すように、被転写物である樹脂成形品100を冷却した後、成形用金型を開いて樹脂成形品100を取り出す。最後に、ベースフィルム225を剥がすことにより、射出された成形樹脂100aの表面に図柄インキ層221aが転写され成形同時絵付けが完了する。
次に金型について説明する。図5及び図14に一実施形態として示す成形同時絵付け用金型1,2は、薄板状の成形品の表面に成形と同時に絵付けを施す成形同時転写装置に用いられる金型である。図5に示す可動側金型1及び図14に示す固定側金型2は、それぞれ、絵付け用フィルムを挿入すべき成形用のキャビティ28,58が2個分設けられたキャビティ形成ブロック3、21と、当該キャビティ形成ブロック3,21を固定する取り付け台7,10とを備えている。
本実施形態にかかる金型1,2は、従来技術のように入れ子を嵌め込むためのポケットを取り付け台に設けることなく、取り付け台とキャビティ形成ブロックとが、両者の接触面のうち取り付け台に設置された突起部とキャビティ形成ブロックに設けられた凹部により位置決めされており、かつキャビティ形成ブロックの周囲に複数の型締め力受け部6a,6bを部分的に設置したものである。すなわち、キャビティ形成ブロックは、ポケットに嵌め込まれる入れ子とは異なるものである。
まず、可動側金型について説明する。可動側金型1は、図5、図6に示すように、可動側取り付け台7の取り付け面7a上にキャビティ形成ブロック3が後述する突起部4と凹部により位置決めされて固定用ネジ15で固定される。取り付け台7の取り付け面7aと同一面上である固定側金型との対向面(平滑加工用面7b)コーナー部に型締め力受け部6aが設けられる。型締め力受け部6aは、取り付け面7aの外側であって、かつ後述する絵付け用フィルム13の通過領域の外側にパーティング面が位置するように金型のフィルム通過方向沿いの中心線に対して対称に設けられる。パーティング面は、型締め力受け部6aが接合時に他方の金型と接触する面であり、本実施形態では、型締め力受け部6aの対向面6fがこれに該当する。
また、キャビティ形成ブロック3には、絵付け用フィルムを保持するクランプ9が取り付けられている。
取り付け台7は、図6に示すように、固定側金型2との対向する側の面が全体として平滑に処理されており、当該対向面の一部をキャビティ形成ブロック3の取り付け面7aとして機能させる。固定側金型2との対向する側の面と同じ面上に取り付け面7aが存在しているため、取り付け面を平滑に処理する場合、当該対向面の取り付け面以外の面(平滑加工用面7b)とともに当該対向面全体を平滑処理すればよく、平滑処理を容易にかつ高精度に施すことができる。当該取り付け面7aには、図6に示すように、キャビティ形成ブロック3の取り付け位置を決定するとともに、両者を係合させるための突起部4が設けられているが、この詳細は後述する。
キャビティ形成ブロック3は、後述するように、キャビティが形成されている側の面(以下、キャビティ形成側面と略記する。)3aにキャビティ28が設けられており、当該キャビティ形成側面3aの裏面は平滑に構成され、キャビティ形成ブロック3を取り付け台7に取り付ける時に取り付け台7の取り付け面と接触する。キャビティ形成ブロック3の取り付け台7への取り付けは、上述のように固定用ネジ15を用いて行う。図6においては、固定用ネジ15の記載を一部省略している。キャビティ形成ブロック3には、各コーナー部近傍に当該固定用ネジ15を通すための貫通穴3bが設けられており、当該貫通穴3bを貫通した固定用ネジ15は、取り付け台の取り付け面7aに設けられたネジ穴1bと螺合してキャビティ形成ブロック3を取り付け台7に固定する。
取り付け台7の対向面の4つのコーナー部には、型締め力受け部6aが設けられている。型締め力受け部6aは、キャビティ形成ブロック3の長手方向の側面と一部接触するように構成されているが、後述するように、キャビティ形成ブロック3と非接触であってもよく、キャビティ形成ブロック3の外形寸法などに応じて接触しない場合もある。
クランプ9は、図7Bに示すように、絵付け用フィルム13をキャビティ形成ブロック3のキャビティ形成側面3aに押圧するように保持するためのものであり、2本平行になるように配置される。クランプ9は、細長い板状のフィルム押さえ部9aとフィルム押さえ部9aの両端部近傍からそれぞれ垂設された2本の通し部29とを備える。通し部29は、取り付け台7に固定された状態でキャビティ形成ブロック3に設けられたクランプ用貫通穴30を貫通し、取り付け台7の取り付け面7aに設けられたクランプ用挿入穴31に挿入される。取り付け台7には、クランプ用挿入穴31に挿入された通し部29と連結し、クランプ9を上下移動させるためのクランプ移動機構7cが設けられており、図7A,図7Bに示すように、クランプ9を上下させて、絵付け用フィルムの保持と開放を切り替え可能に構成されている。
図7Aに示すように、クランプ9が上昇している場合は、絵付け用フィルム13は、クランプ9から開放され当該長手方向に移動可能である。一方、図7Bに示すようにクランプ9が下降している場合は、絵付け用フィルム13は、クランプによりキャビティ形成ブロック3のキャビティ形成側面3aに押圧され、その位置が保持される。クランプが上昇している場合は、主に両金型が開放状態にあり、絵付け用フィルムの送りが行われる場合であり、クランプが加工している場合は、絵付け用フィルムの位置合わせが終了し、金型を閉じて溶融樹脂を射出する場合など、当該位置に絵付け用フィルムを保持する必要がある場合である。
次に、当該可動側金型1に用いられるキャビティ形成ブロックについて説明する。図8A,図8Bに示すように、キャビティ形成ブロック3は、扁平形状の板状体であり、扁平面の一方の面は、キャビティ28が形成されたキャビティ形成側面3aであり、他面は、取り付け台に取り付けられる場合の固定面38を構成する。キャビティ形成側面3aには、キャビティ28の周囲に両金型を閉じた場合に絵付け用フィルムを引っ張った状態に保持するための溝28aが設けられている。
固定面38には、取り付け台7の取り付け面7aに設けられた突起部44と係合しキャビティ形成ブロックの取り付け面7a上での取り付け位置決めをするための凹部5が設けられている。凹部5は、固定面38において、キャビティ形成ブロックの中心部分から放射方向に長い長穴形状である。本実施形態においては、対向する固定側金型のキャビティ形成ブロック21(図14参照)の中心部分に溶融樹脂を射出するスプルーが設けられているため、キャビティ形成ブロック3に設けられた長穴は、中心部分から放射状に延在するように形成したが、この長穴の延在方向は固定側金型のキャビティ形成ブロック21スプルーの位置に応じてスプルーに対応する位置を中心として放射状に延在するようなものであってもよい。このように凹部5を長穴形状とする理由は、溶融樹脂の射出時又は冷却時に金型(キャビティ形成ブロック)の膨張または収縮に対応できるためである。すなわち、最も高温となるスプルーの位置を中心として放射状に延びる長穴形状とすることにより、金型の熱膨張などによる位置決めのずれを少なくすることができる。
キャビティ形成ブロック3の一側面39には、図1に示す冷却する供給装置203と直結する2本の冷媒供給配管3cが設けられており、内部に設けられた冷媒供給通路40を介して一本の冷媒流路を構成する。
また、キャビティ形成ブロックには、上述のように、クランプ用貫通穴30及び固定用ネジ15を通すための貫通穴3bがそれぞれコーナー部に設けられており、それぞれクランプの通し部の挿入及びキャビティ形成ブロックの取り付け台への固定に用いられる。また、裏面(固定面)38には溝28aに連通する吸引穴33が設けられており、後述するように取り付け台7に取り付けられたとき、絵付け用フィルム13をキャビティ形成ブロックのキャビティ形成側面3aに吸引するために用いられる。
次に、当該可動側金型1に用いられる取り付け台7について説明する。図9、図10に示すように、可動側取り付け台7は、成形同時絵付け装置200の可動盤201との固定を行うための連結部72と、当該連結部72上に設けられた可動側固定板71、固定板71上に固定される4つの型締め力受け部6a、キャビティ形成ブロックの位置決めに用いられる直方体形状の突起部4とを供える。連結部72には、キャビティ形成ブロック3やクランプ9のための機構が搭載されており、上述のようにクランプを上下移動させるためのクランプ移動機構7cやキャビティ形成ブロックの吸引穴と連通する吸引機構の少なくとも一部が設けられる。
固定板71は、キャビティ形成ブロック3を固定する。図10に示すように、固定板71の固定側金型2との対向面(キャビティ形成ブロックの取り付け面7a及び平滑加工用面7b)は、上述のように平滑処理されている。対向面には型締め力受け部6aの固定用ネジ穴34、キャビティ形成ブロック3の固定用ネジ穴1b、クランプ9の通し部29を貫通させてクランプ移動機構7cに到達させるためのクランプ用挿入穴31、突起部4を固定するための突起部固定用凹部35、キャビティ形成ブロックの吸引穴33と連結部72の吸引機構とを連通させるための吸引穴32が設けられている。固定板71は、板状に形成されているため、突起部4、各種穴1b,34,31、32や突起部固定用凹部35が設けられる前に固定板71の表面を平滑に加工する際に、研磨処理など容易であり、高い精度を確保することができる。その結果、従来技術と比べて、短納期に対応し、また製造コストの削減を図ることができる。
型締め力受け部6aは、それぞれに2つずつ設けられたネジ穴36にネジ27を通し、固定板71の固定用ネジ穴34にネジ止めされることによって固定板71に固定される。なお、図10では、型締め力受け部6aを固定するためのネジ27は1本のみを記載し、他のネジの記載を省略している。ネジ穴36は、ネジ27の頭をその内部に納めることができるようになっている。型締め力受け部6aは、可動側金型1及び固定側金型2が接合状態となるとき、固定側金型と対向する側の面6fで型締め力を受けるものであり、当該対向側面6fがパーティング面となる。型締め力受け部6aは、ガイドブッシュ8が設けられており、固定側金型2との組み合わせ時に両者の位置あわせに用いられる。
突起部4は、キャビティ形成ブロック3の凹部5と係合してキャビティ形成ブロックを取り付け面7aに取り付ける際の位置決めを行うものである。突起部は箱型形状であり、図11に示すように、固定板71の突起部固定用凹部35にその下方部位がはめ込まれた状態でネジ14によりネジ止めされる。突起部固定用凹部35には、そのためのネジ穴1aが設けられている。なお、ネジ14の頭は突起部ネジ穴内に納まるようになっている。
図13Aに突起部4と凹部5の係合の状態を示す。キャビティ形成ブロック3を取り付け面7aに取り付ける場合には、突起部4がキャビティ形成ブロックの凹部5にはまり込み、両者の位置決めがなされる。このとき、突起部4の長手方向沿いの外側面と凹部5の長手方向沿いの内側面とが接触するように両者の設置箇所を調整し、短手方向沿いの2つの側面4d、5bの間にそれぞれ若干遊びを設けておくことにより、成形時における金型の熱膨張、収縮などにおける取り付け位置のずれを少なくすることができる。
なお、図13B、図13C、図13D,図13Eは、突起部4と凹部5の変形例を示す図である。図13Bは、突起部を固定する手段として、ビス14を用いたビス止めではなく単に突起部4を突起部固定用凹部35にはめ込んで固定した例である。突起部4と突起部固定用凹部の間の固定は、接着剤などにより接着してもよい。図13Cは、キャビティ形成ブロック3に突起部5aが設けられ、取り付け台7の取り付け面7a側に凹部4bが設けられた例を示すものである。またキャビティ形成ブロック3に突起部を設ける場合は、キャビティ形成ブロックの裏面38ではなく、たとえば、図13Eに示すように、キャビティ形成ブロック3の側面に突起部5fを固定し、取り付け台に当該突起部5fに契合する凹部4fを設けてもよい。また、突起部の形状は、丸ピン形状等、色々な形状のものを用いこともできる。さらに、図13Dに示すように、キャビティ形成ブロックの裏面38及び取り付け面7a共に凹部5b、4bを設け、両凹部5b、4bにはまり込むような固定ピン5eを用いて両者を係合させることもできる。
図12Aに図5の可動側金型の平面図を示す。図12Aに示すように、キャビティ形成ブロックは、その側面の一部が型締め力受け部6aと接触しているが、図12Bに示す変形例のように、キャビティ形成ブロックと型締め力受け部との間に隙間ができるように型締め力受け部を配置し、キャビティ形成ブロック3の側面すべてを露出するようにしてもよい。側面すべてが露出するように構成することにより、キャビティ形成ブロックの側面が空気と接しているため、側面から周囲に熱伝導しにくく、金型の熱効率を向上させることができる。その結果、成形サイクルを短縮でき、量産性が向上する。また、金型の温度調節が容易になるため、溶融樹脂材料の流動・固化・収縮・結晶化などに及ぼす影響は少なくて済み、収縮・反り・捩れなどの変形等を発生させることなく絵付け成形品を安定して製造できる。側面が露出して空気と接しているため、エア抜きやガス抜きの際のスムーズな排出が可能であり、絵付け成形品をガス焼けや皺、絵付けフィルム13と成形品との密着不良を発生させることなく、安定して製造できる。
また、絵付け用フィルム13が通過する領域は、型締め力受け部6aと重なっていないため、両金型が閉じたときに絵付け用フィルムに型締め力が及ぶことがない。
次に、固定側金型2について説明する。固定側金型2は、図14、図15に示すように、固定側取り付け台10の取り付け面10a上にキャビティ形成ブロック21が後述する突起部44と凹部により位置決めされて固定用ネジ45で固定される。取り付け台10の取り付け面10aと同一面上である可動側金型1との対向面(平滑加工用面10b)コーナー部に型締め力受け部6bが設けられる。型締め力受け部6bは、取り付け面10aの外側であって、かつ可動側金型が閉じた場合に位置する絵付け用フィルム13の外側にパーティング面が位置するように設けられる。パーティング面は、型締め力受け部6bが接合時に他方の金型と接触する面であり、本実施形態では、型締め力受け部6bの対向面6fがこれに該当する。
取り付け台10は、図15に示すように、可動側金型1との対向する側の面が全体として平滑に処理されており、当該対向面の一部をキャビティ形成ブロック21の取り付け面10aとして機能させる。可動側金型1との対向する側の面と同じ面上に取り付け面10aが設けられているため、取り付け面を平滑に処理する場合、当該対向面の取り付け面以外の面(平滑加工用面10b)とともに当該対向面全体を平滑処理すればよく、研磨処理などの平滑処理を容易にかつ高精度に施すことができる。また、当該取り付け面10aには、図15に示すように、キャビティ形成ブロック21の取り付け位置を決定するとともに、両者を係合させるための突起部44が設けられているが、これは可動側金型の突起部4と同じ機能を有するものであるため、説明を省略する。
キャビティ形成ブロック21は、後述するように、キャビティが形成されている側の面(以下、キャビティ形成側面と略記する。)21aにキャビティ58が設けられており、当該キャビティ形成側面21aの裏面は、平滑に構成され、キャビティ形成ブロック21を取り付け台10に取り付ける時に取り付け台7の取り付け面10aと接触する。キャビティ形成ブロック3の取り付け台7への取り付けは、可動側金型と同じように固定用ネジ45を用いて行うが、そのネジの頭はネジ穴21b内に納まるようになっている。図15においては、固定用ネジ45の記載を一部省略している。キャビティ形成ブロック21には、各コーナー部近傍に当該固定用ネジ45を通すための貫通穴21bが設けられており、当該貫通穴21bを貫通した固定用ネジ45は、取り付け台の取り付け面10aに設けられたネジ穴2bと螺合してキャビティ形成ブロック21を取り付け台10に固定する。
取り付け台10の対向面の4つのコーナー部には、型締め力受け部6bが設けられている。型締め力受け部6bは、可動側金型1と固定側金型2が閉じた場合に、可動側金型1のクランプ9が型締め力受け部6bと干渉しないように切り欠きが設けられており、キャビティ形成ブロック21の取り付け時にキャビティ形成ブロック21と隙間が開くように構成されている。
キャビティ形成ブロック21は、可動側金型1に用いられているキャビティ形成ブロック3と概ね共通する構造を有するが、可動側金型1と固定側金型2が閉じた場合に、可動側金型1のクランプ9が型締め力受け部6bと干渉しないように切り欠き22が設けられている点、及び、成形同時絵付け装置200の射出ノズル205から射出された溶融樹脂をキャビティ内に送り込むためのスプルーが設けられている点、可動側金型1と固定側金型2が閉じた場合に両金型にはさまれる絵付け用フィルム13を引っ張った状態に保持するための溝28aに嵌入する押さえ部28bが設けられている点、クランプ保持用の挿入穴及び吸引穴などが設けられていない点などにおいて異なる。
固定側取り付け台10は、成形同時絵付け装置200の固定盤202との固定を行うための連結部82と、当該連結部82上に設けられた可動側固定板81、固定板81上に固定される4つの型締め力受け部6b、キャビティ形成ブロックの位置決めに用いられる直方体形状の突起部44とを供える。連結部82には、その裏面に溶融樹脂を射出するノズル205と連結するための連結穴10c(図17A参照)が設けられている。
固定板81は、キャビティ形成ブロック21を固定するためのものである。図15に示すように、固定板81の可動側金型1との対向面(キャビティ形成ブロックの取り付け面10a及び平滑加工用面10b)は、上述のように平滑処理されている。対向面には型締め力受け部6bの固定用ネジ穴(図示なし)、キャビティ形成ブロック21の固定用ネジ穴2b、突起部44を固定するための突起部固定用凹部(図示なし)、ノズル挿入10c(図17B参照)から送り込まれた溶融樹脂をキャビティ形成ブロック21のスプルーに送るための供給口26が設けられている。固定板81は、板状に形成されているため、突起部44や各種穴、突起部固定用凹部が設けられる前に固定板81の表面を平滑に加工する際に、格段に加工しやすく、精度も容易に確保することができる。
型締め力受け部6bは、それぞれに2つずつ設けられたネジ穴(図示なし)にネジを通し、固定板81の固定用ネジ穴にネジ止めされることによって固定板81に固定される。ネジ穴は、ネジの頭をその内部に納めることができるようになっている。型締め力受け部6bは、可動側金型1及び固定側金型2が閉じた状態となるとき、その型締め力を受けるものであり、可動側金型1との対向側の表面6fがパーティング面となる。型締め力受け部6bには、ガイドピン11が設けられており、可動側金型との組み合わせ時に、可動側金型1の型締め力受け部6aのガイドブッシュ8にはまり込み、両者の位置あわせに用いられる。突起部44は、キャビティ形成ブロック21の凹部(図示なし)と係合してキャビティ形成ブロックを取り付け面10aに取り付ける場合の位置決めを行うものである。設置箇所の調整及び突起部を固定する手段などについては可動側金型と同じようにすることができる。
図17Aは、本実施形態にかかる可動側金型1及び固定側金型2とが閉じた状態を示す斜視図である。図17Bは、本実施形態にかかる可動側金型1及び固定側金型2とが閉じた状態の側面外略図である。両金型1,2は、接合状態において型締め力受け部6a,6bにより型締め力を受け、両者の接触面がパーティング面として機能する。両金型が閉じた状態では、2つのキャビティ形成ブロック3,21のキャビティ形成側面3a,21aの間にはわずかに隙間75が開くように構成されている。本実施形態においては、各金型の型締め力受け部6a,6bの対向面6fよりも2つのキャビティ形成ブロック3,21のキャビティ形成側面3a,21aが取り付け面7a,10aからみてわずかに低くなるように構成されることにより両金型が接合したときに隙間75が形成される。
隙間75の寸法Dは、両金型1,2の型締め力が絵付け用フィルム13に及ばないような寸法であればよく、たとえば、絵付け用フィルム13の厚みと同じ寸法とすることができる。
図17Cは、図17Bの部分拡大断面図である。図17Cに示すように、金型が接合状態となったとき、2つのキャビティ形成ブロック3,21のキャビティ28,58の周りに設けられている溝28aと押さえ部28bとが絵付け用フィルム13を挟んで互いに嵌入するため、当該部分で絵付け用フィルムが引っ張られ、絵付け用フィルムの皺をなくすことができる。この状態で溶融樹脂を射出することにより、フィルムの皺による絵柄のずれなどの問題をなくすことができる。
本実施形態においては、固定側金型及び可動側金型の双方ともにポケットを設けることなく、突起部と凹部との係合によってキャビティ形成ブロックと取り付け部との取り付けを行うようにしているが、たとえば、一方の金型にポケットを備えた金型を用いることもできる。例としては、図16に示すような固定側金型を図5に示す可動側金型と組み合わせて用いることも可能である。なお、この場合、図面には明確に現れていないが、可動側金型1に設けられたクランプとの干渉を防止するための切り欠きを備えることが好ましい。
なお、本実施形態にかかる金型は、従来技術のように、入れ子の嵌め込まれるポケットが設けられていないため、一度に成形する成形品の数や大きさが変更される場合、キャビティ形成ブロック3のみを必要な寸法で新たに準備すれば済み、可動側取り付け台7および固定側取り付け台10も規格部品として別の機会に金型を組み立てる際に共用することができる。すなわち、図18Aに示すように可動側取り付け台7を例にとって説明すると、可動側取り付け台7の固定板の対向面に複数のサイズのキャビティ形成ブロック3の貫通穴3bに対応する位置にネジ穴1b、1cを設けておき、図18Bに示すように小さいキャビティ形成ブロックを用いる場合は、ネジ穴1cを用いてこれを固定する。このとき、突起部4は、固定板の中心に近い位置に設けられているので、これを共用することができる。その結果、従来技術と比べて、短納期に対応し、また製造コストの削減を図ることができる。
また、図18Cに示すような直交溝4eを設け、一方、キャビティ形成ブロック3の裏面側に当該溝4eに嵌入可能な十字形状の突起(図示なし)を設けることにより、キャビティ形成ブロック3のサイズに関係なく両者の位置決めを行うことも可能である。
本実施形態にかかる金型は、上述した効果に加えてさらに、キャビティ形成ブロック3、21の嵌め込まれるポケットが設けられていないため、可動側取り付け台7および固定側取り付け台10のキャビティ形成ブロック3,21を囲む部分についてエア抜きやガス抜きのためのクリアランス調整が不要である。その結果、従来技術と比べて、短納期に対応し、また製造コストの削減を図ることができる。
なお、キャビティ形成ブロック3、21の固定はキャビティ形成ブロックのキャビティ形成側面3a,21aから行うことが好ましいが、取り付け台側からネジ締めして行なうことも可能である。キャビティ形成側面からのネジ締めの場合は、キャビティ形成側面側から締め付けられたネジを外すことによって、キャビティ形成ブロック3を容易に成形同時絵付け装置から分離することができるため、成形同時絵付け工法上、必要条件となっている金型の清掃・メンテナンスを精度よく容易に行うことが可能となる。
なお、本実施形態にかかる金型を用いて成形同時絵付け法が使用される成形品は、印刷等の施された絵付けフィルムを連続して金型内に送り込み、該絵付け用フィルム13をキャビティ形成ブロック3、21のキャビティ形状に沿わせた状態で射出成形を行ない、成形時の樹脂圧力と熱により印刷層等を成形品表面に一体化させるという特性上、比較的製品側壁が低い厚み10mm以下の成形品に用いることが好ましい。そのため、キャビティ内においては、可動側取り付け台7と固定側取り付け台10の開閉方向に及ぼす樹脂の圧力が少ないものが多い。したがって、そのような条件下では、可動側取り付け台7および固定側取り付け台10にポケット加工を施すことなくキャビティ形成ブロック3、21を取付けても、キャビティ形成ブロック3、21のみの強度で樹脂の圧力に対抗でき、本発明のような構成が可能である。
また、成形同時絵付け用金型の型締め力受け部6a,6bは、キャビティ形成ブロック3、21の側面が一部露出または全部露出しかつ、パーティング機能および前記効果が得られるのであれば、その数および設置個所などを適宜設定することができる。また、この型締め力受け部6a,6bは、成形品の種類とは関係がないため、他の成形同時絵付け用金型と共用することもできる。
また、エア抜きやガス抜きのためのキャビティ形成ブロック3、21におけるクリアランス調整は、前記の型締め力受け部6a,6bの高さ調整により行うことができる。たとえば、対向面6fを研磨したり、型締め力受け部6a,6bの固定板71,81へのネジ止めに際して、両者の間に薄板を挟んだりすることによって行うことができる。よって、クリアランスの部分的な調整が容易である。その結果、従来技術と比べて、短納期に対応し、また製造コストの削減を図ることができる。
(第2実施形態)
次に本発明の第2実施形態にかかる成形同時絵付け用金型について説明する。
図19及び図23に第2の実施形態として示す成形同時絵付け用金型101,102は、薄板状の成形品の表面に成形と同時に絵付けを施すたとえば、図1に示す成形同時転写装置に用いられる金型である。図19に示す可動側金型101及び図23に示す固定側金型102は、それぞれ、絵付け用フィルムを挿入すべき成形用のキャビティ128,138が2個分設けられたキャビティ形成ブロック103、131と、当該キャビティ形成ブロック103,131をそれぞれ2つずつ固定する取り付け台107,110とを備えている。
本実施形態にかかる金型101,102は、従来技術のように入れ子を嵌め込むためのポケットを取り付け台に設けることなく、取り付け台とキャビティ形成ブロックとが、両者の接触面のうち取り付け台に設置された突起部とキャビティ形成ブロックに設けられた凹部により位置決めされており、かつキャビティ形成ブロックの周囲に取り付け台107,110と一体的に構成された複数の型締め力受け部112a,112bを部分的に設置したものである。
まず、可動側金型について説明する。可動側金型101は、図19、図20に示すように、可動側取り付け台107の取り付け面107a上にキャビティ形成ブロック103が後述する突起部104と凹部105により位置決めされて固定される。取り付け台107の取り付け面107aと同一面上である固定側金型との対向面の一辺に沿って型締め力受け部112aが一体的に形成されている。型締め力受け部112aは、取り付け面107aの外側であって、かつ後述する絵付け用フィルム13の通過領域の外側にパーティング面が位置するように設けられる(図22参照)。パーティング面は、型締め力受け部112aが接合時に他方の金型と接触する面であり、本実施形態では、型締め力受け部112aの対向面112fがこれに該当する。
また、キャビティ形成ブロック103には、絵付け用フィルムを保持するクランプ109が取り付けられている。
取り付け台107は、図20に示すように、固定側金型102との対向する側の面が全体として平滑に処理されており、当該対向面の一部をキャビティ形成ブロック103の取り付け面107aとして機能させる。固定側金型102との対向する側の面と同じ面上に取り付け面107aが存在しているため、取り付け面を平滑に処理する場合、当該対向面の取り付け面以外の面(平滑加工用面107b)とともに当該対向面全体を平滑処理すればよく、平滑処理を容易にかつ高精度に施すことができる。当該取り付け面107aには、図20に示すように、キャビティ形成ブロック103の取り付け位置を決定するとともに、両者を係合させるための突起部104が設けられているが、この詳細は後述する。
キャビティ形成ブロック103は、後述するように、キャビティ形成側面103aにキャビティ128が設けられており、当該キャビティ形成側面103aの裏面は平滑に構成され、キャビティ形成ブロック103の取り付け台107への取り付け時に取り付け面107aと接触する。キャビティ形成ブロック103の取り付け台107への取り付けは、キャビティ形成ブロック103の裏面に設けられている取り付け部材123をガイドとして用いると取り付けやすい。取り付け部材123は、図21に示すように、円柱の棒状の部材であり、ネジ110aによってキャビティ形成ブロックの裏面に固定される。取り付け部材123は、取り付け台107に設けられた貫通穴111を貫通して、成形同時絵付け装置の可動盤201に到達し、当該可動盤201によって固定される。
キャビティ形成ブロック103の短手沿いの一側面には、図20に示す冷却する供給装置203と連結する2本の冷媒供給口140cが設けられており、内部に設けられた冷媒供給通路140を介して一本の冷媒流路を構成する。冷媒供給口140cは、キャビティ形成ブロック103の取り付け時に、型締め力受け部112aに設けられた通し穴112cを通して供給装置203と連結する。なお、図20においては、1つのキャビティ形成ブロック103についてのみ冷媒供給通路140を示し、他の記載は省略している。
クランプ109は、図20に示すように、絵付け用フィルム13をキャビティ形成ブロック103のキャビティ形成側面103aに押圧するように保持するためのものであり、板状の部材に固定側金型のキャビティ形成ブロックが挿入されるための貫通部109aを備えたフィルム押さえ部109bとフィルム押さえ部109bのコーナー部近傍からそれぞれ垂設された4本の通し部129とを備える。通し部129は、取り付け台107の型締め力受け部112aに設けられたクランプ用挿入穴130に挿入される。取り付け台107には、クランプ用挿入穴130に挿入された通し部129と連結し、クランプ109を上下移動させるためのクランプ移動機構(図示なし)が設けられておりクランプ109を上下させて、絵付け用フィルムの保持と開放を切り替え可能に構成されている。本実施形態にかかる金型においても、クランプ109が上昇している場合は、絵付け用フィルム13は、クランプ109から開放され当該長手方向に移動可能であり、クランプ109が下降している場合は、絵付け用フィルム13は、キャビティ形成側面103aに押圧され、その位置が保持される。
キャビティ形成ブロック103は、図20に示すように、中央部分の厚みが薄い扁平形状の板状体であり、扁平面の一方の面はキャビティ128が形成されたキャビティ形成側面103aであり、他面は取り付け台に取り付けられる場合の固定面を構成する。
固定面には、取り付け台107の取り付け面107aに設けられた突起部104と係合しキャビティ形成ブロックの取り付け面107a上での取り付け位置決めをするための凹部105が設けられている。凹部105は、それぞれのキャビティ形成ブロックの中心部分から放射方向に長い長穴形状である。
可動側取り付け台107は、図20に示すように、成形同時絵付け装置200の可動盤201との固定を行うための連結部172と、当該連結部172上に設けられた可動側固定板171、キャビティ形成ブロックの位置決めに用いられる直方体形状の突起部104とを供える。連結部172には、キャビティ形成ブロック103やクランプ109のための図示しない機構が搭載されており、上述のようにクランプを上下移動させるためのクランプ移動機構の少なくとも一部が設けられる。
固定板171は、図20に示すように、一体的に構成された対向する辺に沿って設けられた型締め力受け部112aと、型締め力受け部112aではさまれた固定側金型との対向面であるキャビティ形成ブロックを固定する取り付け面107a及び平滑加工用面107bとを備える。キャビティ形成ブロックの取り付け面107a及び平滑加工用面107bは、上述のように平滑処理されている。対向面にはキャビティ形成ブロック103の固定用貫通穴111、突起部104を固定するための突起部固定用凹部(図示なし)が設けられている。対向面は、対向する一組の辺が平板状に形成されているため、突起部104、各種穴111、突起部固定用凹部が設けられる前に固定板171の表面を平滑処理することにより、容易に研磨処理などを行うことができ、高い処理精度を確保することができる。
型締め力受け部112aは、可動側金型101及び固定側金型102が接合状態となるとき、固定側金型と対向する側の対向面112fで型締め力を受けるものであり、当該対向面112fがパーティング面となる。型締め力受け部112aは、ガイドブッシュ106が設けられており、固定側金型2との組み合わせ時に両者の位置あわせに用いられる。また、型締め力受け部112aは、キャビティ形成ブロックとの接触面積を少なくするために、中間部分に切り欠きが設けられている。
突起部104は、キャビティ形成ブロック103の凹部105と係合してキャビティ形成ブロックを取り付け面107aに取り付ける際の位置決めを行うものである。突起部104は、図20に示すように、固定板171の突起部固定用凹部にその下方部位がはめ込まれた状態でネジ114によりネジ止めされる(図21参照)。キャビティ形成ブロック103を取り付け面107aに取り付ける場合には、突起部104がキャビティ形成ブロックの凹部105にはまり込み、両者の位置決めがなされる。このとき、突起部104の長手方向沿いの外側面と凹部の長手方向沿いの内側面とが接触するように両者の設置箇所を調整し、短手方向沿いの2つの側面の間にそれぞれ若干遊びを設けておくことにより、成形時における金型の熱膨張、収縮などにおける取り付け位置のずれを少なくすることができる。
図22に図19の可動側金型の平面図を示す。図22に示すように、キャビティ形成ブロックは、その側面の一部が型締め力受け部112aと接触しているが、側面の大部分は露出する。側面が露出することにより、キャビティ形成ブロックの側面が空気と接しているため、側面から周囲に熱伝導しにくく、金型の熱効率を向上させることができる。その結果、成形サイクルを短縮でき、量産性が向上する。また、金型の温度調節が容易になるため、溶融樹脂材料の流動・固化・収縮・結晶化などに及ぼす影響は少なくて済み、収縮・反り・捩れなどの変形等を発生させることなく絵付け成形品を安定して製造できる。側面が露出して空気と接しているため、エア抜きやガス抜きの際のスムーズな排出が可能であり、絵付け成形品をガス焼けや皺、絵付けフィルム13と成形品との密着不良を発生させることなく、安定して製造できる。
また、絵付け用フィルム13が通過する領域は、型締め力受け部112aと重なっていないため、両金型が閉じたときに絵付け用フィルムに型締め力が及ぶことがない。
次に、固定側金型102について説明する。固定側金型102は、図23に示すように、固定側取り付け台110の取り付け面(図示なし)上にキャビティ形成ブロック131が後述する突起部144と凹部により位置決めされて固定される。取り付け台110の取り付け面と同一面上である可動側金型1との対向面の対向する辺に沿って型締め力受け部112bが一体的に成形される。型締め力受け部112bは、取り付け面の外側であって、かつ可動側金型が閉じた場合に位置する絵付け用フィルム13の外側にパーティング面が位置するように設けられる。パーティング面は、型締め力受け部112bが接合時に他方の金型と接触する面であり、本実施形態では、型締め力受け部112bの対向面112fがこれに該当する。
取り付け台110は、図23に示すように、可動側金型101との対向する側の面が全体として平滑に処理されており、当該対向面の一部をキャビティ形成ブロック131の取り付け面として機能させる。可動側金型101との対向する側の面と同じ面上に取り付け面が存在しているため、取り付け面を平滑に処理する場合、当該対向面の取り付け面以外の面(平滑加工用面110b)とともに当該対向面全体を平滑処理すればよく、平滑処理を容易にかつ高精度に施すことができる。また、取り付け面には、キャビティ形成ブロック131の取り付け位置を決定するとともに、両者を係合させるための突起部144が設けられているが、これは可動側金型の突起部104と同じ機能を有するものであるため、説明を省略する。
キャビティ形成ブロック131は、後述するように、キャビティ形成側面131aにキャビティ138が設けられており、当該キャビティ形成側面131aの裏面は平滑に構成され、キャビティ形成ブロック131の取り付け台110への取り付け時に取り付け面と接触する。キャビティ形成ブロック131の取り付け台110への取り付けは、可動側金型101と同様にキャビティ形成ブロック131の裏面に設けられている取り付け部材を用いて行う。
キャビティ形成ブロック131は、図23に示すように中央部分の厚みが厚い扁平形状の板状体であり、扁平面の一方の面はキャビティ138が形成されたキャビティ形成側面131aであり、他面は取り付け台に取り付けられる場合の固定面を構成する。
固定面には、取り付け台110の取り付け面に設けられた突起144と係合しキャビティ形成ブロックの取り付け面上での取り付け位置決めをするための凹部が設けられている。
キャビティ形成側面131aの幅厚部分は、両金型の接合時に、クランプ109の貫通部109aにはまり込むような形状となっている。また、成形同時絵付け装置200の射出ノズル205から射出された溶融樹脂をキャビティ138内に送り込むためのスプルーが設けられている。
固定側取り付け台110は、成形同時絵付け装置200の固定盤202との固定を行うための連結部182と、当該連結部182上に設けられた可動側固定板181、キャビティ形成ブロック131の位置決めに用いられる直方体形状の突起部144とを供える。連結部182には、その裏面に溶融樹脂を射出するノズル205と連結するための連結穴(図示なし)が設けられている。
固定板181は、図23に示すように、対向する側の辺に沿って、一体的に形成された型締め力受け部112bと、型締め力受け部112aではさまれた固定側金型との対向面であるキャビティ形成ブロックを固定する取り付け面(図示なし)と平滑加工用面110bとを備える。対向面にはキャビティ形成ブロック131の固定用貫通穴、突起部144を固定するための突起部固定用凹部(ともに図示なし)が設けられている。対向面は、対向する一組の辺が平板状に形成されているため、突起部144、各種穴、突起部固定用凹部が設けられる前に固定板181の表面を平滑処理することにより、容易に研磨処理などを行うことができ、高い処理精度を確保することができる。
型締め力受け部112bは、可動側金型101及び固定側金型102が接合状態となるとき、固定側金型と対向する側の対向面112fで型締め力を受けるものであり、当該対向面112fがパーティング面となる。また、両金型の接合時に可動側金型101のクランプ109が干渉しないように、対抗面112fに当該クランプのための切り欠き122が設けられている。型締め力受け部112bには、ガイドピン113が設けられており、可動側金型101との組み合わせ時に、可動側金型101の型締め力受け部112bのガイドブッシュ106がはまり込み、両者の位置あわせに用いられる。
突起部144は、キャビティ形成ブロック131の凹部(図示なし)と係合してキャビティ形成ブロックを取り付け面に取り付ける場合の位置決めを行うものである。設置箇所の調整及び突起部を固定する手段などについては可動側金型と同じようにすることができる。
両金型101,102は、接合状態において型締め力受け部112a,112bにより型締め力を受け、両者の接触面112fがパーティング面として機能する。両金型が閉じた状態では、本実施形態においては、固定側金型のキャビティ形成ブロックのキャビティ形成側面131aの幅厚部分がクランプ109の貫通部109aにはまり込み、2つのキャビティ形成ブロック103,131のキャビティ形成側面103a,131aの間にはわずかに隙間が開くように構成されている。隙間の寸法は、両金型101,102の型締め力が絵付け用フィルム13に及ばないような寸法であればよく、たとえば、絵付け用フィルム13の厚みと同じ寸法とすることができる。
本実施形態においては、固定側金型及び可動側金型の双方ともにポケットを設けることなく、突起部と凹部との係合によってキャビティ形成ブロックと取り付け部との取り付けを行うようにしているが、たとえば、一方の金型にポケットを備えた金型を用いることもできる。
本実施形態にかかる金型は、上述した効果に加えてさらに、キャビティ形成ブロック103、131の嵌め込まれるポケットが設けられていないため、可動側取り付け台107および固定側取り付け台110のキャビティ形成ブロック103、131を囲む部分についてエア抜きやガス抜きのためのクリアランス調整が不要である。その結果、従来技術と比べて、短納期に対応し、また製造コストの削減を図ることができる。
なお、本実施形態にかかる金型を用いて成形同時絵付け法が使用される成形品は、印刷等の施された絵付けフィルムを連続して金型内に送り込み、該絵付け用フィルム13をキャビティ形成ブロック103、131のキャビティ形状に沿わせた状態で射出成形を行ない、成形時の樹脂圧力と熱により印刷層等を成形品表面に一体化させるという特性上、製品側壁が比較的低い成形品に用いることが好ましい。本実施形態にかかる金型は、キャビティ形成ブロックの3つの側面が他の部材と接触しているため、製品側壁の高さを約15mm程度と高くすることができる。
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。可動側金型にガイドブッシュ、固定側金型にガイドピンを設けて両金型の接合時の位置合わせを行うようにしているが、これを逆にして可動側金型にガイドピン、固定側金型にガイドブッシュを設けるようにしてもよい。
また、平滑加工用面7b,10b,107b,110bには、取り付け面7a,10a,107aの平滑処理を行った後に、両金型の接合時に型締め力受け部の対向面6f、112fよりもキャビティ形成ブロックの取り付け面から見て低い対向面を有する他の部材を取り付けてもよい。他の部材としては、たとえば、キャビティ形成ブロックの側面の少なくとも一部と当接するようなブロックなどが例示され、当該ブロックは、型締め力受け部(6a,6b)と一体的に構成されていてもよい。
なお、前記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。