JP4428040B2 - 溶融めっき金属帯の製造方法 - Google Patents

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本発明は、溶融めっき金属帯の製造方法に関する。
鋼帯などの金属帯を連続してめっきする方法として、金属帯を亜鉛、アルミニウムなどの溶融金属中に浸漬してめっきを施す溶融めっき法が知られている。
図10に、従来の連続溶融めっき金属帯製造装置を示す。
冷間圧延後の鋼帯などの金属帯1は、無酸化性あるいは還元性の雰囲気に保たれた焼鈍炉2で焼鈍されるとともに、その表面の清浄化や酸化膜除去が行われた後、スナウト3を経て溶融金属浴槽4内の溶融金属浴5に連続的に引き込まれ、シンクロール6により方向転換され、サポートロール7を経て溶融金属浴5から引き上げられた後、溶融金属浴5上に設置されたガスワイピングノズル(ワイパ)8から吹き出す高圧ガスにより余剰に付着した溶融金属が払拭されて所定のめっき付着量に調整される。
続くプロセスでは、用途に応じて、例えば(1)合金化炉14を使用して金属帯1を再加熱し均質な合金層を作り出す合金化処理、(2)調質圧延機16による調質圧延及び/又はレベラー17による形状矯正、(3)化成処理設備18で表面処理等の1以上の処理が施され、コイルに巻き取られる。このようにして溶融めっき金属帯が製造される。
サポートロール7は、ワイパ部における金属帯1の幅方向の反りを矯正し、幅方向の溶融金属の付着量のばらつきを少なくするために設けられ、図10に示すように、金属帯1を挟んで両側に、金属帯1の進行方向に対して位置をずらして配置されている。上方にあるサポートロール7aをパスライン上に置き、下方にあるサポートロール7bで金属帯を押し込み、金属帯1に適量の変形を付与してその幅方向の反りは矯正される。
しかし、サポートロール7は、金属帯1の振動(チャタ)に起因したチャタマーク状の付着量むらや擦り疵を発生させる場合があるが、これはサポートロール7で反りを矯正していることが、原因となっている。すなわち、反り矯正でのロール押込み量の最適値は、概して比較的小さな値であるのに対して、チャタ防止には、大きな押し込みが必要であり、両者を満足する押込み量が存在しない場合が多く見られるためである。
したがって、付着量むら、チャタ欠陥のない安定操業のため、サポートロール7以外で金属帯1の反りを調整する方法が求められていた。
以下に、先行技術文献情報について記載する。なお、特許文献1〜3及び非特許文献1については、説明の都合上、[発明を実施するための最良の形態]の項において説明する。
特公平7-94704号公報(第1-3頁、第1図) 特開平10-130801号公報(第1-4頁、図1) 特開2000-204460号公報(第2頁、図1) 西村一実、他3名、"溶融亜鉛めっき反応に及ぼす熱延鋼板の表面状体の影響"、鉄と鋼、日本鉄鋼協会、1993年、79巻、第2号、p.187-193
本発明は、溶融金属浴中のサポートロールの有無にかかわらず、ワイパ部の反りを調整可能な溶融めっき金属帯の製造方法を提供することを目的としている。
この目的は、以下の手段によって達成される。
1発明は、金属帯を焼鈍する焼鈍工程と、
前記金属帯に塑性歪を付与する予歪付与工程と、
前記金属帯をめっき金属である溶融金属浴内に浸漬させて溶融金属を付着させる付着工程と、
前記金属帯に付着した過剰の溶融金属を払拭、付着量を調整する調整工程と、
この順に有する溶融めっき金属帯の製造方法において、
シンクロールで導入される表面塑性歪量をB(%)としたときに、前記予歪付与工程で付与する表面塑性歪量A0と、前記表面塑性歪量A0のシンクロールで残留する表面塑性歪量Aとの関係を求め、予歪付与工程は、前記関係に基き決定されるシンクロールで残留させる表面塑性歪量AがB(%)以上となる表面塑性歪量A0を付与することを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法である。
2発明は、第発明において、前記予歪付与工程は、シンクロールで残留させる表面塑性歪量AがB(%)以上1.5%以下となる表面塑性歪量A0を付与することを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法である。
3発明は、第又は第2発明において、前記予歪付与工程で付与する表面塑性歪量A0は、下記(1)式を用いて、シンクロールで残留させる表面塑性歪量Aが第1又は第2発明範囲を満足するように決定することを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法である。
A0=A/[exp(-t*b*exp(a*T))]…(1)
但し、
t;予歪付与工程からシンクロールまでの金属帯通板所要時間、
T;予歪付与工程−シンクロール間の平均金属帯温度
a、b;鋼種により決定される係数
4発明は、第1〜第3発明において、前記予歪付与工程は、複数のロールで曲げ加工して金属帯に表面塑性歪を付与するとともに、その最後段のロールは、前記シンクロールが金属帯と接触する面と反対側の面と接触するように配置されることを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法である。
5発明は、第1〜第4発明において、前記予歪付与工程のロールのロール径をDy、シンクロールのロール径をDsとしたとき、少なくとも最後段のロールは、Dy≦Dsを満足する径のロールを用いて金属帯を曲げ加工することを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法である。
6発明は、第5発明において、少なくとも最後段のロールのロール径は、100mm≦Dy≦Ds/2を満足することを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法である。
本発明によれば、溶融金属浴中のサポートロールの有無にかかわらず、ワイパ部での金属帯幅方向の反り調整が可能になる。ワイパ部での金属帯幅方向の反りが低減される結果、幅方向の溶融金属の付着量のばらつきが低減され、あるいは、金属帯とワイパの間隔を狭めることでスプラッシュ欠陥が発生しにくくなる。
本発明によれば、ワイパ部の反り調整が可能であることから、サポートロールの取り外しが可能になり、またサポートロールを使う場合でも、反りを気にする必要がないため、チャタ欠陥等をミニマム化する条件での操業が可能となる。
ワイパ部における金属帯の幅方向の反りは主としてシンクロールにおいて金属帯が曲げ・曲げ戻し加工を受けることによって発生すると考えられる。図1は、金属帯幅方向の反り発生機構を説明する図である。金属帯1がシンクロールに巻きついて接触している位置Aでは、金属帯は平面歪変形によりシンクロールと接触している側に圧縮応力、その反対側に引張応力を受け、幅方向の反りが生じ易い応力分布になる。シンクロールに近く、比較的曲率半径の大きな位置Bにおいても、金属帯はほぼ平面歪状態に保たれ、位置Aとは逆の応力分布すなわちシンクロールと接触している側に引張応力、その反対側に圧縮応力を受ける。曲率半径がほぼ0となる位置Cにおいては、面内変形に対する拘束はなく、位置Aで受けた変形を維持し易い形状すなわち金属帯の幅方向に上に凸の形状になると考えられる。
このようにして金属帯1の幅方向に反りが発生した場合、金属帯1とワイパ8との間隔が幅方向で一定でなくなるため、幅方向に溶融金属の付着量のばらつきが生じることになる。また、金属帯1に反りが発生した場合は、金属帯1とワイパ8との接触を避けるために両者の間隔を広く設定せざるを得ない。そのため、所望の溶融金属払拭能力を確保するためにはワイパ8のガス圧力を高める必要があり、そのとき激しく飛び散った溶融金属が金属帯に付着して生じるスプラッシュ欠陥が発生し易くなる。
溶融金属浴5中のサポートロール7には、こうした金属帯1の幅方向の反りを矯正する機能がある。図2に示すように、シンクロール6によって上方へ方向転換された金属帯1は、パスライン上にあるサポートロール7aに支えられ、サポートロール7aに対して所定距離だけ下方に配置されたサポートロール7bによりパスラインに対して所定量Lだけ押し込まれて逆方向の曲げ加工を受けるので反りが矯正される。
しかし、溶融金属浴5中のサポートロール7が存在すると、上述したようなチャタマーク状の付着量むらや擦り疵などの問題に加えて、サポートロール7の定期的な手入れや交換のために設備停止が必要となり、操業効率を低下させるという問題がある。
また、サポートロール7を使用する場合であっても、シンクロール6により方向転換された直後における金属帯1の反りを自在に調整できれば、サポートロール7の押し込み量はチャタマーク防止に適した値に最適化が可能となるため、欠陥を防止する上で有利となる。
以上から、サポートロール7の機能の中で、金属帯幅方向の反り矯正機能を別の方法で代替できれば、生産能率向上や欠陥防止等に有益であることがわかる。
本発明者は、鋭意検討した結果、サポートロール以外での反り調整機能として、以下の方法を発見した。
すなわち、ワイパ部等の、反りを調整したい箇所(反り調整部)における、表面塑性歪をシンクロール部で導入される表面塑性歪以上となるように塑性曲げ歪を与えれば、該反り調整部から離れた箇所で与えた歪であっても、反り調整部での反りを調整できることを見出した。前述した通り、反りは板厚方向での引張、圧縮応力の不均一な分布が原因で発生しているので、この応力分布を変化させれば、反り調整部における反りの状態が変化、すなわち反り調整できることを思い当たり本発明に至った。したがって、反り調整には、当該部分での応力分布の調整が必要であり、そのためには、当該部分での表面塑性歪量が重要となるのである。
以上の知見から、発明者は、シンクロール通過時の表面塑性歪を、金属帯がシンクロール通過時に導入される表面塑性歪以上残留させるように焼鈍後溶融金属浴の前方で、歪を与えれば、シンクロール通過後の反りを調整できるとの考えに至った。ここで、シンクロール部での残留歪を考慮するのは、次の理由による。
金属帯は、連続溶融めっき鋼帯製造装置内を通過するとき、種々の温度域でロールにより曲げ加工されて、表面に塑性歪が付与される。500℃より高い温度域では、塑性歪は回復してしまうが、500℃以下では実操業の時間のオーダー(=数分以下)では歪回復量は微小である(すなわち500℃以下なら、歪回復を考えなくても良い)。基本的に、シンクロール上流は温度が500℃以上であり、シンクロール以降では500℃以下である(合金化で500℃以上となる場合もあるが、時間は2〜3秒程度で短時間である)ため、歪の回復量は無視できるためである。
歪の回復量について、曲げ試験機を使用して、高温の鋼帯に対して所定の鋼帯温度で所定量の歪を付与し、所定の時間放置して室温まで冷却し、残留歪量を求めることで表1の結果を得た。ここで、付与した歪量(初期歪量)、及び残留歪量は次のようにして求めた。
(i)初期歪量(予歪量)
曲げ試験機を用いて、押し込み治具で材料の両支点の中間を荷重Pで押し込む3点曲げ試験(図11参照)を行い、そのときの材料の曲率ρを測定する。このとき、h:材料厚さ、R:材料の曲率半径、ρ:材料の曲率、ε0:表面歪量とすると、表面歪ε0は、ε0=h/2R=ρh/2で表される。曲率ρを測定すれば、表面歪量ε0が得られる。曲率ρは曲げ試験時の材料の画像をデジタル処理することで求める。
また、εoe:表面弾性歪量とすると、表面塑性歪量εopは、εop=ε0-εoeから求められる。εoe=σ/E(但し、σ:降伏応力、E:ヤンク゛率)の関係があるので、表面弾性歪量εoeを別途引張試験等で求めておく。前記で求めた表面歪量ε0及び表面弾性歪量εoeから表面塑性歪量εop(初期歪量)を求める。
(ii)残留歪量
歪回復量は残留応力の変化率を求めることで算出する。
残留応力は次の方法で求める。平行ビーム法によるX線回折装置で、Crターゲットを用い、半価幅中点法によりFeの(211)面のX線ピーク位置のズレを検出し、残留応力を求める。具体的には、種々のφ(試料面法線と結晶面法線とのなす角度)角度の回折角θの変化を測定し、応力に換算すれば回折角θと応力σの関係は下式で表される(非特許文献1参照)。
そこで、高温の鋼帯に付与した初期歪に対応する残留応力(σ0)、室温に冷却後の鋼帯の残留応力(σR)を測定し、残留応力の変化率(σR/σ0)を求める。残留表面塑性歪量εRは、εR=ε0×(σR/σ0)から求める。
このラボ試験の結果、および拡散現象と相似が成り立つこと、歪導入(予歪付与)後の時間が0秒、∞秒のときの残留歪量の境界条件より、歪の回復量の式は(1′)式で表されることが分かった。
A=A0*exp(-t*b*exp(a*T))…(1′)
但し、
A0;予歪付与工程で付与する表面塑性歪量(%)
A;予歪付与後の経過時間t(秒)において残留する表面塑性歪量(%)
t;予歪付与後の経過時間(秒)
T;予歪付与時−経過時間t間の平均金属帯温度(℃)
ここで、a、bは鋼種により決定される係数であり、表1の場合、a=0.032/℃、b=1×10-10/秒である。aは歪が移動/拡散するための活性化エネルギーに関係する定数、bはその拡散係数に関係する量である。
予歪付与時−経過時間t間の平均金属帯温度Tは、予歪付与温度をTa、経過時間tの金属帯温度をTbとした場合、予歪付与時−経過時間t間の平均金属帯温度Tは、近似的に(Ta+Tb)/2から求めることができる。従って、予め鋼種毎に、前記の関係式を求めておくことで、予歪付与工程で付与した表面塑性歪量A0と、所定時間経過後に残留する表面塑性歪量Aの対応関係を知ることができる。
前記(1′)式から、予歪付与工程で付与する表面塑性歪量をA0、予歪付与工程からシンクロール部までの金属帯通板所要時間をt、予歪付与工程とシンクロール部間の平均金属帯温度をTとすると、シンクロール部で残留する表面塑性歪量Aは下記(1)式で求められる。
A=A0*[exp(-t*b*exp(a*T))]…(1)
本発明では、シンクロール部で残留しているべき表面塑性歪量Aをシンクロールで導入される表面塑性歪B(%)以上に限定している。これは、ワイパ部の反りに影響を与える歪は、直前のシンクロールで導入されたものの影響が最も大きいためであり、予歪付与工程で、シンクロール部で残留する表面塑性歪量が、シンクロールで導入される表面塑性歪B(%)以下しか表面塑性歪が導入されない場合は、シンクロールで発生する反りを調整できるほどの効果を持たないためである。
シンクロールで導入される表面塑性歪量Bの値は、鋼種や板厚、炉内張力、シンクロール径で変化するが、一般には0.05%程度の値である。
前記(1)式を用いることで、シンクロール部で残留する表面塑性歪量Aを、シンクロールで導入される表面塑性歪量B(%)以上にするのに必要な予歪付与工程で付与する表面塑性歪量A0を求めることができる。すなわち、予歪付与工程で付与する表面塑性歪量A0は、下記(2)式を満足するように決定すればよい。
B≦A0*[exp(-t*b*exp(a*T))]…(2)
また、本発明で、シンクロールで残留しているべき表面塑性歪量Aを1.5%以下としたのは、1.5%以上の表面塑性歪を付与すると材質が変化する場合があり、また設備的にも過大になり、かつ通常のシンクロール等で発生する反りを調整するには、1.5%で十分であるためである。
この場合、予歪付与工程で付与する表面塑性歪量A0は、下記(3)式を満足する範囲に決定される。
B≦A0*[exp(-t*b*exp(a*T))]≦1.5…(3)
ここで、係数a、bは鋼種毎に予め求めておく。予歪付与工程における金属帯温度Taとシンクロール部における金属帯温度Tbに基き、予歪付与部とシンクロール部間の平均金属帯温度Tは(Ta+Tb)/2から容易に求まる。ここで、予歪付与工程における金属帯温度Taは当該位置における金属帯温度の設定値、またはそれに代えて当該位置における金属帯温度の測定値を用い、シンクロール部における金属帯温度は、めっき浴温の設定値またはそれに代えてめっき浴温の測定値を用いればよい。また、予歪付与部からシンクロール部までの金属帯通板所要時間tは、金属帯通板速度に基き容易に求まる。
実操業においては、加熱冷却条件の変動、ライン速度の若干の変動があり、また同一鋼種であっても鋼成分組成はある範囲内で変動するので、これらの変動があっても前記(2)式又は(3)式を満足するように予歪付与工程で表面塑性歪を付与すればよい。
歪を付与する方法は、反りを調整する箇所で圧縮歪、引張歪量を自在に調整できるように、金属帯通板方向に位置をずらして金属帯の両側に配置した2本以上のロールを用い、例えば図3に示すように金属帯通板方向に金属帯を挟んで千鳥状に配置した3本のロールを用いてパスライン直角方向へ押込むのが好適である。ロールで曲げ加工する場合、最後段のロールでは、シンクロール6による反りをキャンセルする方向、すなわちシンクロール6の反対側から、金属帯に歪を与える必要がある。この点から、最後段のロールは、シンクロール6が金属帯と接する面とは反対側の金属帯面に接するように配置される。シンクロール6による反りを効果的にキャンセルするには、少なくとも最後段のロールのロール径は、シンクロール径をDs、予歪ロール径をDyとした場合、Dy≦Dsが好ましく、100mm≦Dy≦Ds/2とすることがより好ましい。
付与される表面塑性歪量は、金属板の曲げ曲率で決定され、曲げ曲率は、隣り合うロール同士の金属帯通板方向間隔、ロール径とその押込み量(パスラインを超える押し込み量)を制御することで制御できる。なお、鋼種等の金属帯材質、板厚、温度等の操業変数、隣り合うロール同士の金属帯通板方向間隔、ロール径、ロールの押し込み量等と、付与される表面塑性歪量の関係を予め求めて、対応表を作成しておき、この対応表に基き、操業変数値に応じて、ロールの押し込み量を設定する。
なお、縦型焼鈍炉ではハースロールが存在するが、その外径は通常800mm以上であり、付与される表面塑性歪量は0.05%を上回らない。したがって、一般的な焼鈍炉におけるハースロールで、ワイパ部における反りを調整することはできない。
特許文献1、特許文献2、特許文献3などには、溶融めっき鋼帯製造装置内でロールにより鋼帯を曲げ加工することが記載されているが、いずれも溶融亜鉛浴中にはサポートロールが存在することが前提になっており、サポートロールの使用が必須でない本発明とは課題や構成要件が異なる。
すなわち、特許文献1の方法は、外径50-500mmのロールで曲げ加工してから鋼帯を焼鈍し結晶粒径を整え、溶融亜鉛浴中の固液反応およびそれに続くFe-Zn合金化反応を均一に進ませ、合金化処理で発生する表面凹凸欠陥を防止する方法であり、焼鈍前に曲げ加工を付与している。
特許文献2の方法は、曲げ半径300mm以下で曲げ・曲げ戻し加工を施し、鋼帯表面に残留歪を付与することで鋼帯とめっき界面における拡散反応を均一化し、Si、P、Mnなどの添加元素の不均一分布に起因する合金化むらや光沢むらを防止する方法であり、上記した表面塑性歪が、シンクロールによる反り発生防止に関連することも言及されていない。
また、特許文献2で鋼帯に付与する伸び率は、シンクロール部における残留歪量を規定するものではないので、歪付与からの経過時間や鋼帯温度によってはシンクロール部で全く歪が残留せず、ワイプ部での反り発生を防止できない場合がある。また、伸び率は厚み方向の平均的な歪量を表しており、反り調整に効果的な鋼帯の表面塑性歪ではないので、伸び率を規定してもこれにより反りを確実に防止することはできない。
特許文献3に記載の方法は、非酸化雰囲気の搬送室内で鋼帯をパスライン上の2点を支点としてロールで押し込み、鋼帯の反りを矯正する方法であるが、シンクロールがないため鋼帯に安定して十分な張力を付与することが困難であり、鋼帯表面に塑性歪を安定して付与することができない。
次に、金属帯を鋼帯、溶融金属を亜鉛としたときの実施の形態について詳述する。
図4に、本発明の実施に使用する溶融めっき鋼帯製造装置の一例を示す。
本装置では、図10に示した従来の溶融めっき鋼帯製造装置の溶融亜鉛浴5中のサポートロール7が取り除かれ、焼鈍炉2の調整冷却炉2dに歪付与装置21が設置されている。なお、図4の装置では、図10の装置に示されている急冷帯15より下流の設備は図示されていない。
歪付与装置21は450-650℃のスナウト部3にも設けることができるが、焼鈍炉2の調整冷却炉2dに設けた方が鋼帯の温度を450-650℃に調整し易く、亜鉛のヒュームの影響も受けにくいため好適である。
歪を付与する鋼帯の温度は500-550℃がより好ましい。これは、鋼帯の温度が550℃を超えると付与した塑性歪が消失し歪付与効果が小さくなる場合があり、また500℃より低いと溶融亜鉛浴5に浸漬される鋼帯の温度が低くなって熱的に不利になるためである。
また、ワイパ部での反りが問題になる鋼帯では、上記のしきい温度T1は450℃程度であるため、操業条件の変動を考慮して500℃以上で歪を付与することが好ましい。歪付与を溶融亜鉛浴又は溶融亜鉛浴を出てから行うと、歪付与ロールよりチャタマーク状の溶融亜鉛の付着量むら、押し疵、めっき剥離などの問題が生じるので、歪付与は溶融亜鉛浴より上流側で行う方が好適である。
歪付与装置は、鋼帯の最高温度到達地点より下流側に設ける。通常、鋼帯は、焼鈍炉2の均熱炉2bで最高温度650-900℃程度に加熱されるので、歪付与装置を鋼帯の最高温度到達地点より上流側に設けると、歪が前記(1)式にしたがって回復し、反りを防止できなくなるためである。
金属帯表面に塑性歪を効率よく付与する観点からは歪付与装置はロールで曲げ加工する方式が有利である。ロールの数は、圧縮、引張応力を自在に調整するため2本以上で歪を分割して付与すること望ましい。ただし設備費、設備保守などの点で不利になるので、ロールの数は5本程度までが好ましい。なお各々のロールの外径は異なってもよい。
図5は、図4の装置に配置される歪付与装置21の構成例を説明する図である。
本発明者らは、曲げロールを使用した歪付与装置によるワイパ8部における金属帯1の反り調整に関する検討結果から、(i)金属帯の表裏どちらの側から押し込み歪を与えるかで金属帯の反り方向が逆転すること、(ii)歪を多く付与すると反りが大きくなること、(iii)後段ロールで付与した歪の方が反りに与える影響が大きいこと、を見出した。したがって、浴中ロール等の反り矯正手段を設けない場合、ワイパ8部の反りの大きさを決定するのは、歪量(=曲げ曲率)および位置の関係から、主にシンクロール6であることがわかった。このことから、歪付与装置の最後段では、シンクロール6による反りをキャンセルする方向、すなわちシンクロール6の反対側から、金属帯に歪を与える必要がある。係る知見に基づき、図5に示す歪付与装置21は、該歪付与装置21の最下流側にあるロール24を、シンクロール6が金属帯1と接する面とは反対の金属帯面に接するように配置されている。
図5の歪付与装置21は、ロール24による表面塑性歪量の大小がワイパ8部での金属帯1の幅方向の反りに大きな影響を与える。図5の歪付与装置は、ロール24で、金属帯1に、シンクロール6と接触する側の面に引張応力、その反対側に圧縮応力を与える。これはシンクロール6が金属帯面に与える応力とは逆の応力である。これによって、金属帯1にシンクロール6による反りとは逆方向の反りを発生させてシンクロール6による金属帯1の反りをキャンセルできる。ロール23を押し込むことで(図8参照)、必然的にロール23とロール24間のオフセット量が大きくなるため、ロール24による表面塑性歪量が大きくなる。ロール23の押し込み量を調整することで、ロール24による表面塑性歪量が調整される。また当然、ロール24の押込み量を調整することで、ロール24による表面塑性歪量を調整してもよい。シンクロール6によるワイパ8部における反りを矯正するには、ロール23の押し込み量は、ロール24による金属帯1の表面塑性歪量をシンクロール6により金属帯1に導入される表面塑性歪量に応じた適度の歪量になるように調整することで、ワイパ8部における鋼帯1の幅方向の反りをほぼ0とすることが可能となる。ロール23の押し込み量が大きすぎると、ロール24による金属帯1の表面塑性歪量が必要以上に大きくなり、それによってワイパ8部での反りを増大させる。ロール23の押し込み量が小さすぎると、ロール24による金属帯1の表面塑性歪量が小さくなり(残留表面歪量が0.05%以下)、ワイパ8部におけるシンクロール6による反りをキャンセルできなくなる。
ロール23の押し込み量とロール24による表面塑性歪量の対応関係を求めておき、またロール24による表面塑性歪量は、前記(2)式又は(3)式を考慮することで、ロール23の押し込み量を適切に調整できる。
歪付与装置21のロール径は一般にシンクロール6のロール径より小さい。これはシンクロール6の方が歪付与装置21の後段にあるため、その影響が大きいこと、シンクロール6部は金属帯がシンクロール6にほぼ完全に巻き付く(金属帯曲率はシンクロール半径になる)。これに対して、歪付与装置21は、ロール押込みにより金属帯曲率を変化させて調整するため、前述の表面塑性歪を付与するには、必然的に、シンクロール6に比較して小さいロール径にならざるを得ない。ただし、歪付与装置21のロール径は剛性等を考えると、バックアップロール等の補強をしない限り一般的には100mmφ程度が限界である。この点から、少なくとも歪付与装置21の最後段のロールのロール径(直径)は、前記ロールのロール径をDy、シンクロール径をDsとすると、Dy≦Dsが好ましく、100mm≦Dy≦Ds/2がより好ましい。
なお、ロール22〜24のパスラインに対する位置関係が図5と逆、すなわちロール24がシンクロール6と接する側に配置された場合、ロール23の押し込み量を調整してロール24の表面塑性歪量を調整してもワイパ8部におけるシンクロール6の反りを矯正する効果は発現されない。
図4の装置は、溶融亜鉛浴中にサポートロールが設置されてないので、シンクロールの外径を、サポートロールを設置した場合よりも大きくすることができる。
図6は、シンクロールの外径と鋼帯の幅方向の反り量の関係を示す図である。反り量は、幅1200mmの鋼帯のワイパ部において測定し、その符号はシンクロール側に凸形状の場合は「+」、シンクロールと反対側に凸形状の場合は「-」としてある。
一般的に使用されている外径750mmのシンクロールをより大きな外径950mmのシンクロールに変えると、鋼帯に付与される曲げ応力を小さくすることができるので鋼帯の幅方向の反りを小さくできる。したがって、これまで反り矯正が困難であった板厚の厚い鋼帯の平坦化も可能となる。この観点から、シンクロールの外径は850mm以上とすることがより好ましい。
従って、図4の装置において、さらにシンクロールを前述のように大径化することで、シンクロールで発生する反りが相対的に小さくなるため、歪付与装置で与えるべき歪量を軽減できるので、設備費軽減や操業上有利である。
本発明の実施に使用する溶融めっき鋼帯製造装置の別の例を図7に示す。図7の装置は、図4に示した装置に対して、さらにワイパ8の直後に電磁石を用いた非接触で鋼帯の形状を矯正する形状矯正手段9が設置されている。形状矯正手段9は、ワイパ8での鋼帯1の反りが無くなるようにレーザ変位計(図示なし)で計測した鋼帯1の変形量に応じて電磁石(図示なし)の電流が制御される。その結果、ワイパ8部における鋼帯の反りを防止する効果が一段と優れる。
溶融亜鉛めっき鋼帯の素材としては、熱間圧延後脱スケール処理された熱延鋼帯およびこの熱延鋼帯を冷間圧延した冷延鋼帯を用いることができる。冷延鋼帯を素材とする溶融亜鉛めっき鋼帯は、自動車外板など良好な表面外観が要求される用途に適用される場合が多いが、本発明の方法で製造された溶融亜鉛めっき鋼帯はこうした用途に好適である。
表2に示す化学成分を有する鋼を用いて製造された厚さ0.75mm、幅1200mmの冷間圧延鋼帯を、図4に示した溶融亜鉛めっき鋼帯製造装置により、ライン速度120mpm、張力2kg/mm2、温度850℃で焼鈍した後、歪付与装置21により種々の歪を付与し、ワイパ部での反り量がどのように変化するか渦電流式の距離計を用い測定を行った。
歪付与装置21としては、図8のようなロール3本で歪量を変化させた。当該箇所の温度は550℃である。なお、ロール22-24の直径は250mm、隣り合うロール同士のパスラインに沿った間隔(軸心距離)はいずれも300mmである。また、ハースロールの外径は1000mmであり、シンクロールの直径は800mmである。この時のシンクロールで導入される表面塑性歪(B)は0.06%であった。
このような装置構成のときの、歪付与装置21の中間ロール23の押込み量とワイパ部の反りの状況を表したのが図9である。図9において、「+」はシンクロール側に凸形状の反り、「-」はシンクロールと反対側に凸形状の反りである。シンクロール6までの時間は10秒、シンクロール6までの平均鋼帯温度は550℃である。歪付与装置21のロール23の押込み量が10mmの場合、歪付与装置21で付与した表面塑性歪量は約0.06%、シンクロール部で残留する表面塑性歪量は約0.05%、押込み量が90mmの場合、歪付与装置21で付与した表面塑性歪量は約1.5%、シンクロール部で残留する表面塑性歪量は約1.38%である。
図9から、歪付与装置21の中間ロール23の押し込み量調整のみで、ワイパ部における鋼帯の反り方向と反り量を自在に調整できることがわかる。このため、従来のサポートロールによるワイパ部の反り調整は不要となることがわかる。反り量が「0」近傍になる表面塑性歪を付与する押込み量に調整することでより優れた反り防止効果が奏される。
以上、本発明により溶融金属浴上流の歪付与装置を用いて予歪を付与することで、ワイパ部の反りを自在に調整可能であり、結果としてサポートロールの取り外しが可能になり、またサポートロールを使う場合でも、反りを気にする必要がないため、チャタ欠陥等をミニマム化する条件での操業が可能となる。
本発明は、溶融金属浴中のサポートロールの有無にかかわらず、ガスワイピングノズル部における金属帯の反りを低減し、幅方向の溶融金属の付着量のばらつきが低減され、あるいは、金属帯とワイパの間隔を狭めることでスプラッシュ欠陥の発生を低減できる溶融めっき金属帯の製造に利用できる。
金属帯幅方向の反り発生機構を説明する図である。 サポートロールによる反りの矯正を説明する図である。 予歪付与工程で表面塑性歪を付与する方法の一例を説明する図である。 本発明の実施に使用する溶融めっき金属帯製造装置の別の例を示す図である。 歪付与装置の一例を示す図である。 シンクロールの直径と鋼帯の幅方向の反り量の関係を示す図である。 本発明の実施に使用する溶融めっき金属帯製造装置の一例を示す図である。 実施例で使用した歪付与装置と歪付与方法を説明する図である。 予歪付与条件とワイピング部の反り状況のと関を表した図である。 従来の連続溶融めっき金属帯製造装置を示す図である。 3点曲げ試験を説明する図である。
符号の説明
1 金属帯(鋼帯)
2 焼鈍炉
2a 予熱炉
2b 均熱炉
2c ジェット冷却炉
2d 調整冷却炉
3 スナウト
4 溶融金属浴槽
5 溶融金属浴
6 方向転換ロール(シンクロール)
7 サポートロール
8 ワイパ(ガスワイピングノズル)
9 形状矯正手段
14 合金化炉
15 急冷帯
16 調質圧延機
17 レベラー
18 化成処理設備
21 歪付与装置
22〜24 ロール(曲げロール)
25、26 ハースロール

Claims (6)

  1. 金属帯を焼鈍する焼鈍工程と、
    前記金属帯に塑性歪を付与する予歪付与工程と、
    前記金属帯をめっき金属である溶融金属浴内に浸漬させて溶融金属を付着させる付着工程と、
    前記金属帯に付着した過剰の溶融金属を払拭、付着量を調整する調整工程と、
    この順に有する溶融めっき金属帯の製造方法において、
    シンクロールで導入される表面塑性歪量をB(%)としたときに、前記予歪付与工程で付与する表面塑性歪量A0と、前記表面塑性歪量A0のシンクロールで残留する表面塑性歪量Aとの関係を求め、予歪付与工程は、前記関係に基き決定されるシンクロールで残留させる表面塑性歪量AがB(%)以上となる表面塑性歪量A0を付与することを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法。
  2. 前記予歪付与工程は、シンクロールで残留させる表面塑性歪量AがB(%)以上1.5%以下となる表面塑性歪量A0を付与することを特徴とする請求項1記載の溶融めっき金属帯の製造方法。
  3. 前記予歪付与工程で付与する表面塑性歪量A0は、下記(1)式を用いて、シンクロールで残留させる表面塑性歪量Aが請求項1又は2記載の範囲を満足するように決定することを特徴とする請求項1又は2記載の溶融めっき金属帯の製造方法。
    A0=A/[exp(-t*b*exp(a*T))]…(1)
    但し、
    t;予歪付与工程からシンクロールまでの金属帯通板所要時間、
    T;予歪付与工程−シンクロール間の平均金属帯温度
    a、b;鋼種により決定される係数
  4. 前記予歪付与工程は、複数のロールで曲げ加工して金属帯に表面塑性歪を付与するとともに、その最後段のロールは、前記シンクロールが金属帯と接触する面と反対側の面と接触するように配置されることを特徴とする請求項1〜3のうちの何れか1項記載の溶融めっき金属帯の製造方法。
  5. 前記予歪付与工程のロールのロール径をDy、シンクロールのロール径をDsとしたとき、少なくとも最後段のロールは、Dy≦Dsを満足する径のロールを用いて金属帯を曲げ加工することを特徴とする請求項1〜4のうちの何れか1項記載の溶融めっき金属帯の製造方法。
  6. 請求項5において、少なくとも最後段のロールのロール径は、100mm≦Dy≦Ds/2を満足することを特徴とする溶融めっき金属帯の製造方法。
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