〔第1の実施形態〕
本発明の一実施形態について図1ないし図15に基づいて説明すると以下の通りである。すなわち、本実施形態に係る画像表示装置1は、垂直配向モードかつノーマリブラックモードの液晶セルを駆動しているにも拘わらず、応答速度の向上と映像の劣化防止との双方を実現可能な画像表示装置1である。
当該画像表示装置1のパネル(液晶表示装置)11は、図2に示すように、マトリクス状に配された画素PIX(1,1) 〜PIX(n,m) を有する画素アレイ2と、画素アレイ2のデータ信号線SL1〜SLnを駆動するデータ信号線駆動回路3と、画素アレイ2の走査信号線GL1〜GLmを駆動する走査信号線駆動回路4とを備えている。また、画像表示装置1には、両駆動回路3・4へ制御信号を供給する制御回路12と、入力される映像信号に基づいて、上記階調遷移を強調するように、上記制御回路12へ与える映像信号を変調する変調駆動処理部(駆動装置)21とが設けられている。なお、これらの回路は、電源回路13からの電力供給によって動作している。
以下では、変調駆動処理部21の詳細構成について説明する前に、画像表示装置1全体の概略構成および動作を説明する。また、説明の便宜上、例えば、i番目のデータ信号線SLiのように、位置を特定する必要がある場合にのみ、位置を示す数字または英字を付して参照し、位置を特定する必要がない場合や総称する場合には、位置を示す文字を省略して参照する。
上記画素アレイ2は、複数(この場合は、n本)のデータ信号線SL1〜SLnと、各データ信号線SL1〜SLnに、それぞれ交差する複数(この場合は、m本)の走査信号線GL1〜GLmとを備えており、1からnまでの任意の整数をiとし、1からmまでの任意の整数をjとすると、データ信号線SLiおよび走査信号線GLjの組み合わせ毎に、画素PIX(i,j) が設けられている。
本実施形態の場合、各画素PIX(i,j) は、隣接する2本のデータ信号線SL(i-1) ・SLiと、隣接する2本の走査信号線GL(j-1) ・GLjとで囲まれた部分に配されている。
上記画素PIX(i,j) は、例えば、図3に示すように、スイッチング素子として、ゲートが走査信号線GLjへ、ドレインがデータ信号線SLiに接続された電界効果トランジスタSW(i,j) と、当該電界効果トランジスタSW(i,j) のソースに、一方電極(後述する画素電極121a)が接続された画素容量Cp(i,j) とを備えている。また、画素容量Cp(i,j) の他方電極(後述する対向電極121b)は、全画素PIX…に共通の共通電極線に接続されている。上記画素容量Cp(i,j) は、液晶容量CL(i,j) と、必要に応じて付加される補助容量Cs(i,j) とから構成されている。
上記画素PIX(i,j) において、走査信号線GLjが選択されると、電界効果トランジスタSW(i,j) が導通し、データ信号線SLiに印加された電圧が画素容量Cp(i,j) へ印加される。一方、当該走査信号線GLjの選択期間が終了して、電界効果トランジスタSW(i,j) が遮断されている間、画素容量Cp(i,j) は、遮断時の電圧を保持し続ける。ここで、液晶の透過率は、液晶容量CL(i,j) に印加される電圧によって変化する。したがって、走査信号線GLjを選択し、当該画素PIX(i,j) への映像データDに応じた電圧をデータ信号線SLiへ印加すれば、当該画素PIX(i,j) の表示状態を、映像データDに合わせて変化させることができる。
本実施形態に係る上記液晶表示装置は、液晶セルとして、垂直配向モードの液晶セル、すなわち、電圧無印加時には、液晶分子が基板に対して略垂直に配向し、画素PIX(i,x) の液晶容量CL(i,j) への印加電圧に応じて、液晶分子が垂直配向状態から傾斜する液晶セルを採用しており、当該液晶セルをノーマリブラックモード(電圧無印加時には、黒表示となるモード)で使用している。
より詳細には、本実施形態に係る画素アレイ2は、図4に示すように、垂直配向(VA)方式の液晶セル(液晶表示装置)111と、当該液晶セル111の両側に配された偏光板112・113とを積層して構成されている。
上記液晶セル111は、各画素PIXにそれぞれ対応する画素電極121aが設けられたTFT(Thin Film Transistor)基板111aと、対向電極121bが設けられた対向基板111bと、両基板111a・111bにて挟持され、負の誘電異方性を有するネマチック液晶からなる液晶層111cとを備えている。なお、本実施形態に係る画像表示装置1は、カラー表示可能であり、上記対向基板111bには、各画素PIXの色に対応するカラーフィルタ(図示せず)が形成されている。
さらに、上記TFT基板111aには、液晶層111c側の表面に垂直配向膜122aが形成されている。同様に、上記対向基板111bの液晶層111c側の表面には、垂直配向膜122bが形成されている。これにより、上記両電極121a・121b間に電圧が印加されていない状態において、両基板111a・111b間に配された液晶層111cの液晶分子Mを、上記基板111a・111b表面に対して略垂直に配向させることができる。
一方、両電極121a・121b間に電圧が印加されると、液晶分子Mは、上記基板111a・111bの法線方向に沿った状態(電圧無印加状態)から、印加電圧に応じた傾斜角で傾斜する(図5参照)。なお、両基板111a・111bが対向しているので、特に区別する必要がある場合を除いて、それぞれの法線方向および面内方向を、単に法線方向あるいは面内方向と称する。
ここで、本実施形態に係る液晶セル111は、マルチドメイン配向の液晶セルであって、各画素PIXが複数の範囲(ドメイン)に分割され、配向方向、すなわち、電圧印加時に液晶分子Mが傾斜する際の方位(配向方向の面内成分)が、各ドメイン間で異なるように制御されている。
具体的には、図6に示すように、上記画素電極121aには、断面形状が山型で、面内の形状がジグザグと略直角に曲がる突起列123a…が、ストライプ状に形成されている。一方、上記対向電極121bには、面内の形状がジグザグと略直角に曲がるスリット(開口部:電極が形成されていない部分)123b…が、ストライプ状に形成されている。これらの突起列123aとスリット123bの面内方向における間隔は、予め定められた間隔に設定されている。また、上記突起列123aは、上記画素電極121a上に感光性樹脂を塗布し、フォトリソグラフィー工程で加工することで形成されている。さらに、上記両電極121a・121bは、それぞれの基板111a・111b上にITO( Indium Tin Oxide )膜を成膜した後、その上にフォトレジストを塗布して電極のパターンを露光して現像した後エッチングすることにより形成されており、上記スリット123bは、対向電極121bを形成する際に、スリット123bの部分を除くようにパターニングすることによって形成される。
ここで、突起列123aの近傍では、液晶分子が、突起列123aの斜面に垂直になるように配向する。加えて、電圧印加時において、突起列123aの近傍の電界は、突起列123aの斜面に平行になるように傾く。ここで、液晶分子は、長軸が電界に垂直な方向に傾くので、液晶分子は、基板表面に対して斜め方向に配向する。さらに、液晶の連続性によって、突起列123aの斜面から離れた液晶分子も斜面近傍の液晶分子と同様の方向に配向する。
同様に、スリット123bのエッジ(スリット123bと対向電極121bとの境界)近傍の領域では、電圧印加時において、基板表面に対して傾斜した電界が形成されるので、液晶分子は、基板表面に対して斜め方向に配向する。さらに、液晶の連続性によって、エッジ近傍の領域から離れた液晶分子もエッジ近傍の液晶分子と同様の方向に配向する。
これらの結果、各突起列123a…およびスリット123b…において、角部Cと角部Cとの間の部分を線部と称すると、突起列123aの線部L123aとスリット123bの線部L123bとの間の領域では、電圧印加時における液晶分子の配向方向の面内成分は、線部L123aから線部L123bへの方向の面内成分と一致する。
ここで、突起列123aおよびスリット123bは、角部Cで略直角に曲がっている。したがって、液晶分子の配向方向は、画素PIX内で4分割され、画素PIX内に、液晶分子の配向方向が互いに異なるドメインD1〜D4を形成できる。
一方、図4に示す両偏光板112・113は、偏光板112の吸収軸AA112と偏光板113の吸収軸AA113とが直交するように配置されている(図6参照)。さらに、両偏光板112・113は、それぞれの吸収軸AA112・AA113と、電圧印加時における、上記各ドメインD1〜D4の液晶分子の配向方向の面内成分とが、45度の角度をなすように配置されている(図6参照)。なお、図4では、直交し合う吸収軸AA112と吸収軸AA113との例として、吸収軸AA112を紙面に平行な軸、吸収軸AA113を紙面に直交する軸としているが、それぞれを90°回転させて、吸収軸AA112を紙面に直交する軸、吸収軸AA113を紙面に平行な軸としてもよい。
以上説明した画素アレイ2では、画素電極121aと対向電極121bとの間に電圧を印加している間、液晶セル111の液晶分子は、図5に示すように、基板法線方向に対して、電圧に応じた角度だけ傾斜配向している。これにより、液晶セル111を通過する光には、電圧に応じた位相差が与えられる。
ここで、両偏光板112・113の吸収軸AA112・AA113は、互いに直交するように配置されている。したがって、出射側の偏光板(例えば、112)へ入射する光は、液晶セル111が与える位相差に応じた楕円偏光になり、当該入射光の一部が偏光板112を通過する。この結果、印加電圧に応じて偏光板112からの出射光量を制御でき、階調表示が可能となる。
さらに、上記液晶セル111では、画素内に、液晶分子の配向方向が互いに異なるドメインD1〜D4が形成されている。したがって、あるドメイン(例えば、D1)に属する液晶分子の配向方向に平行な方向から、液晶セル111を見た結果、当該液晶分子が透過光に位相差を与えることができない場合であっても、残余のドメイン(この場合は、D2〜D4)の液晶分子は、透過光に位相差を与えることができる。したがって、各ドメイン同士が、互いに光学的に補償し合うことができる。この結果、液晶セル111を斜め方向から見た場合の表示品位を改善し、視野角を拡大できる。
これとは逆に、画素電極121aと対向電極121bとの間に電圧を印加していない間、液晶セル111の液晶分子は、図4に示すように、垂直配向状態にある。この状態(電圧無印加時)では、法線方向から液晶セル111へ入射した光は、各液晶分子によって位相差が与えられず、偏光状態を維持したままで液晶セル111を通過する。この結果、出射側の偏光板(例えば、112)へ入射する光は、偏光板112の吸収軸AA112に略平行な方向の直線偏光となり、偏光板112を通過することができない。この結果、画素アレイ2は、黒を表示できる。
このように、本実施形態に係る画素アレイ2では、画素電極121aと対向電極121bとの間に電圧を印加することによって、基板表面に対して斜めの電界を発生させ、液晶分子を傾斜配向させる。これにより、画素電極121aへ印加する電圧レベルに応じて、画素PIXの透過率を変更でき、階調表示できる。
一方、図2に示す走査信号線駆動回路4は、各走査信号線GL1〜GLmへ、例えば、電圧信号など、選択期間か否かを示す信号を出力している。また、走査信号線駆動回路4は、選択期間を示す信号を出力する走査信号線GLjを、例えば、制御回路12から与えられるクロック信号GCKやスタートパルス信号GSPなどのタイミング信号に基づいて変更している。これにより、各走査信号線GL1〜GLmは、予め定められたタイミングで、順次選択される。
さらに、データ信号線駆動回路3は、映像信号DATとして、時分割で入力される各画素PIX…への映像データD…を、所定のタイミングでサンプリングすることで、それぞれ抽出する。さらに、データ信号線駆動回路3は、走査信号線駆動回路4が選択中の走査信号線GLjに対応する各画素PIX(1,j) 〜PIX(n,j) へ、各データ信号線SL1〜SLnを介して、それぞれへの映像データD…に応じた出力信号を出力する。
なお、データ信号線駆動回路3は、制御回路12から入力される、クロック信号SCKおよびスタートパルス信号SSPなどのタイミング信号に基づいて、上記サンプリングタイミングや出力信号の出力タイミングを決定している。
一方、各画素PIX(1,j) 〜PIX(n,j) は、自らに対応する走査信号線GLjが選択されている間に、自らに対応するデータ信号線SL1〜SLnに与えられた出力信号に応じて、それぞれの画素電極121aへ印加する電圧レベルを制御する。これにより、各画素PIX(1,j) 〜PIX(n,j) の透過率が制御され、それぞれの輝度が決定される。
ここで、走査信号線駆動回路4は、走査信号線GL1〜GLmを順次選択している。したがって、画素アレイ2の全画素PIX(1,1) 〜PIX(n,m) を、それぞれへの映像データDが示す明るさに設定でき、画素アレイ2へ表示される画像を更新できる。
なお、上記画像表示装置1において、映像信号源S0から変調駆動処理部21へ与えられる映像信号DATは、フレーム単位(画面全体単位)で伝送されていてもよいし、1フレームを複数のフィールドに分割すると共に、当該フィールド単位で伝送されていてもよいが、以下では、一例として、フィールド単位で伝送される場合について説明する。
すなわち、本実施形態において、映像信号源S0から変調駆動処理部21へ与えられる映像信号DATは、1フレームを複数のフィールド(例えば、2フィールド)に分割すると共に、当該フィールド単位で伝送されている。
より詳細には、映像信号源S0は、映像信号線VLを介して、画像表示装置1の変調駆動処理部21に映像信号DATを伝送する際、あるフィールド用の映像データを全て伝送した後に、次のフィールド用の映像データを伝送するなどして、各フィールド用の映像データを時分割伝送している。
また、上記フィールドは、複数の水平ラインから構成されており、上記映像信号線VLでは、例えば、あるフィールドにおいて、ある水平ライン用の映像データ全てが伝送された後に、次に伝送する水平ライン用の映像データを伝送するなどして、各水平ライン用の映像データが時分割伝送されている。
なお、本実施形態では、2フィールドから1フレームを構成しており、偶数フィールドでは、1フレームを構成する各水平ラインのうち、偶数行目の水平ラインの映像データが伝送される。また、奇数フィールドでは、奇数行目の水平ラインの映像データが伝送される。さらに、上記映像信号源S0は、1水平ライン分の映像データを伝送する際も上記映像信号線VLを時分割駆動しており、予め定められた順番で、各映像データが順次伝送される。
また、上記映像信号源S0は、例えば、液晶テレビの場合、テレビ放送信号のチャネルを選択し、選択されたチャネルのテレビ映像信号を出力するチューナ部である。一方、例えば、コンピュータなどの外部機器からの映像信号を表示する液晶モニタの場合、上記映像信号源S0は、当該外部機器からの映像信号を処理して、処理後のモニタ信号を出力する信号処理部である。
ここで、本実施形態に係る変調駆動処理部21は、図1に示すように、入力端子T1から入力される映像データを1フレーム分蓄積するフレームメモリ31と、(1) 「上記入力端子T1から入力される現フレームFR(k) の映像データ」、および、(2) 「当該映像データと同じ画素PIX(i,j) へ供給すべき映像データであって、しかも、上記フレームメモリ31から読み出した前フレームFR(k-1) の映像データ」に基づいて、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移を強調するように、現フレームFR(k) の映像データを変調し、変調後の映像データ(補正映像データ)を、出力端子T2を介して出力する補正工程を実行する変調処理部(補正手段)32とを備えている。なお、出力端子T2から出力された映像信号DAT2は、図2に示す制御回路12へ与えられ、データ信号線駆動回路3は、補正映像信号DAT2に基づき、各画素PIX(i,j) を駆動する。
これにより、液晶セル111の応答速度が遅い場合であっても、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移を強調することによって、画素PIX(i,j) の輝度を、より短い時間で、目的とする階調(現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) が示す階調)に到達させることができる。
ここで、本願の発明者は、垂直配向モードの液晶セルを備え、階調遷移を強調しながら駆動する画像表示装置について、表示品質を向上させるべく、研究を重ねた結果、「垂直配向モードの液晶セルの場合、垂直配向状態に近い液晶分子を傾斜させる際には、画素PIX(i,j) 内に、応答速度の異なる領域が混在し、この場合には、階調遷移強調の程度をいずれの値に設定しても、白光りが発生して表示品質を大幅に低下させるか、角応答が発生して数フレームに渡って画素PIX(i,j) が目的とする値に到達しないため、表示品質を低下させている」ことを見い出し、白光りを発生させずに、画素PIX(i,j) の応答速度を向上するために、図1に示すように、角応答対策処理部33を設けた画像表示装置1を完成するに至った。
具体的には、上述したように、本実施形態に係る画素アレイ2では、液晶セル111として、垂直配向モードの液晶セルが採用されており、当該液晶セル111をノーマリブラックモード(電圧無印加時には、黒表示となるモード)で使用している。当該液晶セル111では、上述したように、突起列123a…近傍の領域(図7に示す領域A1)およびスリット123b近傍の領域(A2)の液晶分子は、斜め電界の影響を受けて斜め方向に配向するのに対して、両者123a・123bから離れた領域Bの液晶分子の配向方向は、液晶の連続性によって、上記領域A1・A2(以下では、領域Aと総称する)の液晶分子が配向した後で決定される。したがって、上記領域Bの応答速度は、領域Aの応答速度よりも遅くなっている。
ここで、領域Bであっても、液晶分子の配向方位(配向方向の面内成分)が既に決定されていれば、上記領域Aの応答速度と領域Bの応答速度との差は比較的小さい。ところが、画素電極121aへ電圧を印加していない状態では、いずれのドメインに属している液晶分子であっても、各領域A・Bの液晶分子は、略垂直に配向しており、配向方位が決定されていない。また、画素電極121aへ電圧を印加している状態であっても、例えば、256階調表示可能な画素アレイ2において、32階調以下の階調を表示するための電圧を印加している場合のように、印加された電圧が低い場合には、領域Bの液晶分子の中には、配向方位が決定されていない液晶分子が残っている。これらの液晶分子は、配向方位が決まっていないので、印加電圧が増加した後で、配向方位と傾斜角との双方が決定される。この結果、既に配向方位が決定しているため、傾斜角のみを決定すればよい液晶分子に比べて応答速度が遅くなってしまう。
したがって、256階調表示可能な画素アレイ2において、32階調以下の階調から、より高いレベルの階調へと増加する階調遷移の場合のように、両電極121a・121b間の電圧が低い状態から液晶分子の傾斜角を増加させる場合には、例えば、図8に示すように、32階調を超える階調レベルを始点とする場合と比較して、上記両領域A・Bの応答速度の差が大幅に大きくなっている。なお、図8は、階調遷移を強調せず、上記画素PIX(i,j) を0階調から96階調へと駆動した場合の映像データDと、各領域A/Bの輝度TA・TBとを示すグラフである。なお、図8〜図10、図15および図17では、輝度を目標とする輝度(図の例では、96階調の輝度)に正規化して図示している。
この場合に、図9に示すように、領域Bの輝度TBが目的とする階調(現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) が示す階調)へ到達する程度に階調遷移を強調すると、領域Aの輝度TAが目的とする階調を大幅に超過する。この結果、画素PIX(i,j) 全体よりは面積が小さいため、輝度超過が視認されにくいにも拘わらず、領域Aの輝度超過が白光りとして、使用者に視認されてしまう。
一方、図10に示すように、領域Aの輝度TAが目的とする階調を超過しても使用者に視認されない程度に、階調遷移強調の程度を抑えると、領域Bの輝度TBは、数フレームを経過しても、目的とする階調に到達することができない。この結果、画素PIX(i,j) 全体で見ると、画素PIX(i,j) の輝度Tが数フレーム間、目的とする値を下回り、画像表示装置1の使用者に黒尾引きとして、視認されてしまう。なお、本明細書では、この現象、すなわち、階調遷移を強調して画素PIX(i,j) を駆動したとしても、画素内の各領域の応答速度の大幅な相違によって、画素PIX(i,j) の階調が数フレームに渡って目的とする階調に到達しないという現象を角応答と称する。
このように、画素PIX(i,j) 内に応答速度の大きく相異なる各領域が混在している場合、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) および前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) を補正することなく、両映像データD(i,j,k) ・D(i,j,k-1) に基づいて階調遷移を強調する構成では、白光り、または、角応答が発生してしまう。
ここで、白光りと比較すると、角応答を発生させた方が、表示品質が低下しない。したがって、以下で説明する角応答対策処理部33を備えない構成では、階調遷移強調の程度を白光りが発生しない程度に抑えざるを得ず、画素PIX(i,j) の表示階調が、数フレームに渡って、目的とする階調を下回ってしまう。
これに対して、本実施形態に係る変調駆動処理部21には、上記角応答を抑制するために、上記変調処理部32へ入力される上記両映像データを補正する角応答対策処理部33が設けられている。
具体的には、上記角応答対策処理部33には、上記入力端子T1およびフレームメモリ31から、それぞれ入力される両映像データD(i,j,k) およびD(i,j,k-1) の組み合わせが、角応答の発生エリアとして予め定められた特定の組み合わせか否かを判定する判定工程を実行する判定処理部(判定手段)41と、現フレームFR(k) の判定結果F(i,j,k) が上記特定の組み合わせを示している場合(真の場合)、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) に代えて、予め定められた第1の値C1を上記変調処理部32へ出力する第1の置換工程を実行する第1置換処理部(第1の置換手段、調整手段)42と、現フレームFR(k) の判定結果F(i,j,k) を1フレーム分記憶する判定結果フレームメモリ43と、当該判定結果フレームメモリ43から読み出した前フレームFR(k-1) の判定結果F(i,j,k-1) が真の場合に、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) に代えて、予め定められた第2の値C2を上記変調処理部32へ出力する第2の置換工程を実行する第2置換処理部(第2の置換手段、調整手段)44とが設けられている。
ここで、上記特定の組み合わせ(角応答発生エリア)は、画素内の各液晶分子の応答速度の相違が大きく、両映像データD(i,j,k) およびD(i,j,k-1) を補正せずに変調駆動処理部21が補正映像データD2(i,j,k) を生成すれば、白光りが発生するか、角応答が発生して、数フレーム以上に渡って画素PIX(i,j) の表示階調が不足すると想定される組み合わせである。
本実施形態では、角応答発生エリアは、例えば、上記領域Aの到達階調が目的階調の110%を超えないように階調遷移を強調すると、領域Bの階調が目的階調に到達するまでの時間が3フレーム以上になり、領域Bの到達階調が目的階調に到達するまでの時間が3フレームを下回るように階調遷移を強調すると、領域Aの到達階調が目的階調の110%を超える組み合わせとして設定されている。
また、上記第1の値C1は、次フレームFR(k+1) の映像データD(i,j,k+1) がいずれの値であっても、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) と上記映像データD(i,j,k+1) の組み合わせが上記特定の組み合わせに該当しないように予め定められている。
さらに、上記第2の値C2は、前々フレームFR(k-2) から前フレームFR(k-1) への階調遷移を強調する際に、前々フレームFR(k-2) の映像データD(i,j,k-2) が上記第1の値C1の値に差し替えられた場合に、画素PIX(i,j) の上述した境域Bが到達する階調として、予め設定されている。
加えて、本実施形態では、画像表示装置1のパネル11の温度を測定する温度センサ34が設けられており、判定処理部41は、温度センサ34の測定したパネル温度に応じて、上記特定の各組み合わせを変更している。また、本実施形態に係る変調処理部32は、上記パネル温度に応じて、階調遷移強調の程度を変更している。
これにより、判定処理部41は、パネル温度の変動によって、液晶セル111の応答速度が変化して、角応答の発生エリアが変化しても、何ら支障なく、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) から現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) への階調遷移が上記特定の組み合わせ(角応答発生エリア)に属しているか否かを判定できる。また、変調処理部32は、パネル温度の変動による応答速度の変化によって、適切な階調遷移強調の程度が変化しても、何ら支障なく、現在のパネル温度にあった程度に階調遷移を強調できる。
本実施形態に係る変調処理部32は、LUT(Look Up Table )51を備えており、当該LUT51には、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) と現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) との組み合わせ、それぞれについて、当該組み合わせが入力された場合に、出力すべき補正映像データD2(i,j,k) が記憶されている。これにより、上記各組み合わせに対応するデータを高精度に近似する式を少ない規模の回路で演算できない場合であっても、比較的小規模な回路で、上記両映像データD(i,j,k-1) およびD(i,j,k) が入力されたときに当該組み合わせに応じたデータを高精度に出力できる。
なお、変調処理部32は、上記両映像データD(i,j,k-1) およびD(i,j,k) の組み合わせ全てに対応するデータをLUT51に記憶し、入力された組み合わせに対応するデータを出力することによって、補正映像データD2(i,j,k) を導出してもよいが、本実施形態では、LUT51に必要な記憶容量を削減するために、上記LUT51が記憶している到達階調は、全ての階調同士の組み合わせの到達階調ではなく、予め定められた組み合わせに制限されており、変調処理部32は、補間演算によって補正映像データD2(i,j,k) を導出している。すなわち、変調処理部32には、LUT51に記憶された各組み合わせに対応する補正映像データを補間して、上記両映像データD(i,j,k-1) およびD(i,j,k) の組み合わせに対応する補正映像データD2(i,j,k) を算出する演算回路52が設けられている。一例として、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) および現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) は、それぞれ、8つの領域に分けられており、各領域の両端となる9つの映像データD(i,j,k-1) と、9つの映像データD(i,j,k) との組み合わせについて、補正映像データが記憶されている。
また、本実施形態では、温度センサ34の出力に応じて補正映像データD2(i,j,k) を変更するために、複数のLUT51が設けられており、演算回路52は、温度センサ34の出力に応じて、補正映像データD2(i,j,k) を導出する際に参照するLUT51を切り換えている。
一例として、本実施形態に係る変調処理部32は、5℃用、10℃用、15℃用および20℃用の4つのLUT51を備えており、演算回路52は、温度センサ34の出力に応じて、LUT51を切り換えている。なお、演算回路52は、温度センサ34の出力が示す温度(現在のパネル温度)に最も近い温度用のLUT51のみを参照して、補正映像データD2(i,j,k) を導出してもよいし、現在のパネル温度に近い2つの温度用のLUT51を参照して、それぞれから算出した補正映像データ間を補間して、補正映像データD2(i,j,k) を算出してもよい。また、図11〜図14は、映像データDが256階調を表現可能な場合(8ビットの場合)において、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k) と現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) との組み合わせに対応する補正映像データD2(i,j,k)の数値を示している。
ここで、比較例として、角応答対策処理部33のみを省略した画像表示装置では、上記各温度において、角応答が発生する領域は、図11〜図14中、破線で囲まれた領域Xおよび一点鎖線で囲まれた領域Yであることが実験により確認されている。なお、図11〜図14において、領域Yは、角応答が発生していることが、輝度の測定値からは読み取れるものの、角応答の程度が、使用者に表示品質の低下を感じさせない程度に留まっている領域であり、領域Xは、角応答に起因する表示品質の低下が使用者に認識される領域である。
ここで、例えば、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) と現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) との組み合わせ、それぞれについて、領域XおよびYか否かが予め記憶されたLUTを設けて判定してもよいが、回路規模を削減するために、本実施形態に係る判定処理部41は、上記映像データD(i,j,k-1) がしきい値T1より小さく、上記映像データD(i,j,k) が所定の範囲にあり、しかも、D(i,j,k-1) <D(i,j,k) の場合に、上記特定の組み合わせと判定している。
本実施形態に係る判定処理部41は、パネル温度に応じて角応答発生エリアか否かの判定を変更しており、上記現在のパネル温度が15℃以上の場合、0≦D(i,j,k-1) <32、かつ、16≦D(i,j,k) <96、かつ、D(i,j,k-1) <D(i,j,k) のとき、角応答発生エリアと判定する。一方、現在のパネル温度が15℃を下回っている場合、0≦D(i,j,k-1) <32、かつ、32≦D(i,j,k) <160、かつ、D(i,j,k-1) <D(i,j,k) のとき、角応答発生エリアと判定する。
また、本実施形態では、上記第1の値C1は、角応答発生エリアの上限値(しきい値:32階調)に設定されている。さらに、上記第2の値C2は、第1の値C1と同じ値(32階調)に設定されており、変調処理部32のLUT51において、映像データD(i,j,k-1) =C2に対応する記憶領域には、画素PIX(i,j) の領域B(図7参照)を第1の値C1へ到達させるための補正映像データD2(i,j,k) が格納されている。
上記構成において、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアに該当する場合、判定処理部41は、第1置換処理部42へ指示して、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を第1の値C1に置換させる。
これにより、例えば、図10と同様に、画素PIX(i,j) の階調が0→96→96へと変化する映像信号DATが入力された場合、判定処理部41は、真を示す判定結果F(i,j,k) を第1置換処理部42へ出力する。これにより、図15に示すように、現フレームFR(k) において、変調処理部32には、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) として、0階調が入力され、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) として、C1=32階調が入力される。一方、変調処理部32は、図中D2で示すように、0階調から32階調への階調遷移を強調する。なお、0から32階調への階調遷移は、角応答発生エリアに入っているため、図7に示す領域Bが32階調になるように変調処理部32が階調遷移を強調すると、領域Aの階調は、32階調を大幅に超過して、画素PIX(i,j) 全体の階調が32階調を超えてしまうが、上述したように、現フレームFR(k) の実際の映像データD(i,j,k) は、96階調なので、上記階調遷移は、白光りとして使用者に認識されることはない。
一方、上記判定結果F(i,j,k) は、判定結果フレームメモリ43に蓄積され、次のフレームFR(k+1) まで記憶されており、次のフレームFR(k+1) において、前フレームFR(k) の判定結果F(i,j,k) として、第2置換処理部44へ出力される。これにより、次のフレームFR(k+1) において、現フレームFR(k+1) の映像データD(i,j,k+1) は、そのまま変調処理部32へ入力され、前フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) は、第2の値C2に置換される。したがって、図15の例では、変調処理部32は、32階調から96階調への階調遷移を強調するように、現フレームFR(k+1) の映像データD(i,j,k+1) を補正する。
ここで、フレームFR(k) での駆動によって、フレームFR(k) からフレームFR(k+1) への階調遷移は、角応答発生エリアから外れている。したがって、フレームFR(k) の終了時点において、画素PIX(i,j) は、領域AおよびBの応答速度差が余りない状態、すなわち、適切に階調遷移を強調すれば、画素PIX(i,j) に白光りも黒尾引きも発生させることなく、領域Bを十分な速度で応答させることができる状態になっている。したがって、フレームFR(k+1) において、補正映像データD2(i,j,k+1) により画素PIX(i,j) を駆動すれば、白光りも黒尾引きも発生させることなく、画素PIX(i,j) の輝度を目標とする階調(96階調)に到達させることができる。
このように、本実施形態に係る変調駆動処理部21は、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアに属する場合、現フレームFR(k) の階調遷移を予備的な階調遷移に留めるように調整する。具体的には、応答速度の遅い領域Bの階調が次フレームFR(k+1) の階調遷移強調によって、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) の示す階調付近に到達できる階調であって、しかも、画素PIX(i,j) 全体の表示階調を実質的に変化させない階調へと遷移するように調整する。
この結果、図9に示す場合と異なって、白光りが発生せず、しかも、図10に示す場合よりも画素PIX(i,j) の応答時間を短縮でき、黒尾引きの発生も抑制できる。なお、図15では、0階調から96階調への階調遷移を例にして説明したが、フレームFR(k) では、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) の階調に拘わらず、図7に示す領域Bの階調が第1の値C1へ到達するように、階調遷移が強調されている。したがって、例えば、0階調から32階調への階調遷移のように、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) が第1の値C1に近い場合、当該フレームFR(k) における画素PIX(i,j) の輝度が映像データD(i,j,k) を超過する虞れがある。
ところが、この場合であっても、角応答対策処理部33を持たない構成において、画素PIX(i,j) の応答速度が同一になる程度に階調遷移を強調する場合と比較すると、白光りの発生量は大幅に抑えられている。また、この場合は、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) が第1の値C1に近く、比較的低い階調である。本実施形態では、上記第1の値C1が32階調と、一般的なγ設定(例えば、2.2)において、白輝度の1%程度より小さく、十分暗い階調に設定されている。したがって、白光りが発生しても、使用者に視認されにくい。これらの結果、角応答対策処理部33を持たない構成と比較して、略同様の表示品質であるにも拘わらず、応答速度を向上できる。
さらに、本実施形態では、第1の値C1は、それに対応する補正映像データがLUT51に格納されている値(図11〜図14の例では、0、16、32…)のうちで、角応答発生エリアの上限値(例えば、32階調)に設定されている。なお、角応答エリアの上限値は、次回に指示される階調がいずれの階調であっても今回の階調と次回の階調との組み合わせが角応答発生エリアとならない階調のうち、最も小さい階調である。したがって、角応答発生エリアの殆どで、白光りの発生を防止できる。
また、上記では、上記第2の値C2を第1の値C1と同じ値に設定し、変調処理部32のLUT51の記憶領域のうち、映像データD(i,j,k-1) =C2に対応する記憶領域へ、画素PIX(i,j) の領域B(図7参照)を第1の値C1へ到達させるための補正映像データD2(i,j,k) を格納する場合を例にして説明したが、これに限るものではない。例えば、変調処理部32のLUT51の記憶領域のうち、映像データD(i,j,k-1) =C2に対応する記憶領域へ、画素PIX(i,j) 全体の階調を第1の値C1へ到達させるための補正映像データD2(i,j,k) を格納しておき、当該補正映像データD2(i,j,k) によって、画素PIX(i,j) の領域Bが到達する階調(例えば、24階調)となるように、上記第2の値C2を設定してもよい。この場合は、2回目の階調遷移、すなわち、第2置換処理部44が前フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を第2の値C2に置換している階調遷移において、僅かに角応答が発生するものの、白光りの発生を完全に防止できる。
〔第2の実施形態〕
第1の実施形態では、角応答発生エリアと判定された場合に、現フレームFR(k) において、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を、一定の値(第1の値C1)に置換し、次フレームFR(k+1) において、前フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を一定の値(第2の値C2)に置換する場合について説明したが、現フレームFR(k) と次フレームFR(k+1) との双方において、階調遷移強調の程度を調整する方法は、これに限るものではない。前回の階調と今回の階調との組み合わせが、上記各領域における応答速度の相違に基づく表示品質の劣化が発生すると予め定められた組み合わせに該当する場合、上記表示品質の劣化を低減するように、今回の(つまり、前回指示された)階調遷移強調の程度と次回の(つまり、今回指示された)階調遷移強調の程度との双方を調整(調整工程)できれば、略同様の効果が得られる。
より詳細には、画素内に応答速度の異なる領域が混在する場合、一方領域に最適なように階調遷移強調の程度を設定すると、当該階調遷移強調の程度が他方領域には最適ではなくなるため、1回の階調遷移強調によって、画素の階調を今回指示された階調へと遷移させようとすると、階調遷移を強調し過ぎて、白光りの発生する箇所が画素内に現れたり、階調遷移を十分に強調できずに、応答時間が増大し、黒尾引きが発生したりして、表示品質が劣化してしまう。
ところが、上記構成では、前回の階調と今回の階調との組み合わせが、上記各領域における応答速度の相違に基づく表示品質の劣化が発生すると予め定められた組み合わせに該当する場合、今回の階調遷移強調の程度と次回の階調遷移強調の程度との双方を調整される。
このように、今回の階調遷移強調の程度だけではなく、次回の階調遷移強調の程度も調整することによって、画素の階調を今回指示された階調へと遷移させるので、前回の階調と今回の階調との組み合わせが上記第1の組み合わせであるにも拘わらず、1回の階調遷移強調によって所望の階調へ遷移するように試みる構成において、応答時間が本願と同じになるように階調遷移強調の程度を設定した場合と比較して、白光り発生の程度を抑えることができ、より表示品質の高い液晶表示装置を実現できる。
本実施形態では、他の調整方法の例として、角応答発生エリアと判定された場合に、現フレームFR(k) において、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) に予め定められた値αを加算し、次のフレームFR(k+1) において、前フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を予め定められた値βだけ減少させる構成について説明する。
すなわち、図16に示すように、本実施形態に係る変調駆動処理部21aは、図1に示す変調駆動処理部21と略同様の構成であるが、第1および第2置換処理部42・44に代えて、第1および第2演算処理部(第1および第2の演算手段、調整手段)45・46が設けられており、第1演算処理部45は、判定処理部41が出力する判定結果F(i,j,k) が真の場合、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) に上記αを加算する(第1の演算工程、調整工程、加算手段、加算工程)。また、第2演算処理部46は、判定結果フレームメモリ43が出力する判定結果F(i,j,k-1) が真の場合、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) を上記値βだけ減少させてもよい(第2の演算工程、調整工程、減算手段、減算工程)。
ここで、上記α、βの値は、白光りを発生させない範囲で、できるだけ大きな値に設定することが望ましい。本実施形態では、白光りを発生させない範囲を、上述と同様に、領域Aの到達階調が目的階調の110%を超えない範囲としている。具体的には、上記値αは、映像データD(i,j,k) が256階調を表現可能な場合、−16<α<16であり、より好ましくは、2<α<16、さらに好ましくは、4<α<12に設定されている。また、上記βは、2<β<16であり、より好ましくは、2<β<12、さらに好ましくは、4<β<8に設定されている。なお、画素PIXにおいて、応答速度が速い領域Aと遅い領域Bとの間で、応答速度差が極めて大きく、上記αを正に設定すると、現フレームFR(k) の階調遷移を強調し過ぎ、上記両領域A・Bの透過率の差が許容できない程度に広がる場合は、上記αが−16階調<α<0に設定される。
上記構成では、あるフレームFR(k) において、角応答発生エリアと判定された場合、次のフレームFR(k+1) にて、第2演算処理部46が前フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) をβだけ減少させることによって、次フレームFR(k+1) における階調遷移強調の程度を増大させる。
ここで、現フレームFR(k) の階調遷移が角応答発生エリアに属するため、次フレームFR(k+1) における領域B(図7参照)の階調は、目的とする階調に到達しておらず、目的とする階調に到達している場合に適切な補正映像データD2(i,j,k) を変調駆動処理部21が出力すると、数フレームに渡って、画素PIX(i,j) の階調が目的とする階調を下回ってしまう。
ところが、上記構成では、現フレームFR(k) の階調遷移が角応答エリアに属する場合、第1演算処理部45によって、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) に上述の範囲に設定された値αを加算し、第2演算処理部46によって、次フレームFR(k+1) における階調遷移強調の程度を増大させている。
例えば、上記値αが8階調、上記値βが6階調に設定されており、図10と同様に、画素PIX(i,j) の階調が0→96→96へと変化する映像信号DATが入力された場合、判定処理部41は、真を示す判定結果F(i,j,k) を第1演算処理部45へ出力する。これにより、図17に示すように、現フレームFR(k) において、変調処理部32には、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) として、0階調が入力され、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) として、96+α=104階調が入力され、当該変調処理部32は、図中D2で示すように、0階調から104階調への階調遷移を強調する。
ここで、0階調から104階調への階調遷移は、上述したように、角応答発生エリアなので、1回の階調遷移強調の程度しか調整しない場合は、図10に示すように、白光りが発生しないように階調遷移強調の程度を抑えると、角応答が発生し、黒尾引きとして、画像表示装置1の使用者に視認されてしまう。
ところが、本実施形態では、次フレームFR(k+1) において、前フレームFR(k) での判定結果F(i,j,k) が真なので、第2演算処理部46は、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k) として、96−β=90階調を出力し、変調処理部32は、90階調から96階調への階調遷移を強調する。
この結果、黒尾引きの発生原因となっていた領域、すなわち、画素PIX(i,j) 内の応答速度の遅い領域Bの階調が、上記階調遷移強調によって引き上げられ、図10に示す構成よりも早い時点で、目標とする階調(96階調)へと引き上げられる。
このように、本実施形態では、現フレームFR(k) の階調遷移によって、画素PIX(i,j) 全体の表示階調(上記両領域A・Bの表示階調の平均値)は、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) に近い値になり、次フレームFR(k+1) の階調遷移によって、上記領域Bの表示階調が、上記映像データD(i,j,k) が示す階調へと引き上げられる。したがって、より速く、画素PIX(i,j) の階調を目的とする階調に到達させることができる。この結果、上記フレームFR(k) の階調遷移が角応答発生エリアであるにも拘わらず、角応答の発生を防止できる。
また、上記構成では、第2演算処理部46が補正映像データD2(i,j,k) ではなく、変調処理部32へ入力される映像データD(i,j,k-1) を修正しているので、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) および現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) に関係なく、第2演算処理部46が映像データD(i,j,k-1) を上述の範囲に設定された値βだけ減少させているにも拘わらず、補正映像データD2(i,j,k) の修正幅は、上記両映像データD(i,j,k) ・D(i,j,k-1) に応じて変化する。したがって、回路規模を増大させることなく、低階調側の階調、すなわち、応答が遅く、より大きな補正が必要になる階調程、補正映像データD2(i,j,k) を大きく修正できる。
以下に、上記第2の実施形態に記載の補正値であるαおよびβの各値をそれぞれ最適化するに当たっての方策について説明する。応答速度の改善を第1の目的とすると補正値α、βは大きければ大きいほど良いことになるが、目的階調に対し、10%以上の誤差があると白光りまたは黒尾引き(黒沈み)として観察者が視認できるため好ましくない。
補正αによって生じる応答の誤差は続くフィールドの補正βによって矯正しうるが、補正βによって生じる応答の誤差は続くフィールドによって矯正されない。
また、補正βが有効に機能するためには、応答の遅いB領域が十分に引き上げられていなければならないので、その前段である補正αはなるべく大きい方がよい。
以上の観点から、補正値α、βは白光りおよび黒尾引きが目立たないように目的階調に対し、90%から110%の範囲で到達するように設定され、好ましくは、第1の補正でB領域が十分に立ち上がるように補正値αは目的階調に対し100%から110%さらに好ましくは、目的階調に対し105%から110%程度に到達するように補正されるように設定される。また、補正値βは最終的な補正であるから目的階調に対し95%から105%に到達するように設定されることが好ましく、さらに好ましくは100%から105%程度に到達するように設定される。
また、上記説明では視認の許容限界を約10%においたが、この限界は液晶パネルの用途によって多少変動する。すなわち、高品位のハイビジョンテレビ、PCモニターなどでは観察者の映像に対する許容度が低く誤差は10%より小さくとどめなくてはならないし、小型テレビ、モバイルテレビ等では、映像のなめらかさといった品位より、目的の情報をはっきり読み取るなどの要請が相対的に高まるため10%を多少越えてもより応答が速くなるように設定する方が好まれることが多い。
また、階調によって応答速度が異なるため最適な補正値α、βが階調によって異なることもあり得る。様々な階調に対し最適な補正値を別の記憶手段によって保持するのは回路規模の増大など応答改善効果に比較してコストの上昇が大きく余り好ましくないので、補正値を適用する階調領域内でより多くの階調が上記観点からの最適補正範囲に収まるように適当に調整された固定値であることが好ましい。もちろんこの固定値α、βを温度によって変更することは問題とするほどのコスト増大はなく、むしろ当然であることはいうまでもない。
〔第3の実施形態〕
本実施形態では、前々フレームから前フレームへ階調遷移する際に画素PIX(i,j) の応答が不足している場合に、前フレームから現フレームへの階調遷移が角応答発生エリアの階調遷移であったとしても、図1に示す角応答対策処理部33による角応答対策処理を中止する構成について説明する。
すなわち、図18に示すように、本実施形態に係る変調駆動処理部21bは、図1に示す変調駆動処理部21の構成に加えて、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) と現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) とを比較する応答不足判定処理部61と、応答不足判定処理部61の判定結果F2(i,j,k) を次のフレームFR(k+1) まで記憶する判定結果フレームメモリ62とを備えている。応答不足判定処理部61は、上記両映像データD(i,j,k-1) およびD(i,j,k) の組み合わせが、階調遷移を強調しても、画素PIX(i,j) の応答が不足し、画素PIX(i,j) の階調が十分に低下しない組み合わせとして、予め定められている組み合わせの場合、真、それ以外の場合は、偽を示す判定結果F2(i,j,k) を出力する。一方、判定処理部41に代えて設けられた判定処理部(判定手段)41bは、判定結果フレームメモリ62から読み出した前フレームFR(k-1) の判定結果F2(i,j,k-1) が真であれば、角応答発生エリアか否かに拘わらず、偽の判定結果F(i,j,k) を出力する。
上記応答不足判定処理部61は、例えば、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1)の階調レベルよりも、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) の階調レベルが低いとき、すなわち、輝度が低下する階調遷移(ディケイ)の場合に、真の判定結果F2(i,j,k) を出力する。
ここで、前々フレームFR(k-2) から前フレームFR(k-1) への階調遷移の際、階調遷移を強調しても画素PIX(i,j) の階調が十分に低下していない場合、映像データD(i,j,k-1) が応答速度差の大きい階調を示していたとしても、すなわち、図7に示す領域Bに配向方位の決定されていない液晶分子の残っている階調を示していたとしても、実際には、領域Bの配向方位が既に決定されているので、図7に示す両領域A・Bの応答速度差は少ない。したがって、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアであったとしても、角応答が発生しない。
一方、角応答対策処理部33が角応答対策処理として現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を第1の値C1に置換すると、画素PIX(i,j) は、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) ではなく、第1の値C1を目指して駆動される。したがって、応答速度差が小さく、角応答対策処理部33が角応答対策をしなくても角応答が発生しないにも拘わらず、角応答対策処理部33が角応答対策処理すると、画素PIX(i,j) が目的とする階調に到達する時間が遅くなる虞れがある。
これに対して、本実施形態では、前々フレームFR(k-2) から前フレームFR(k-1) への階調遷移の際、階調遷移を強調しても画素PIX(i,j) の階調が十分に低下していない場合、応答不足判定処理部61が前フレームFR(k-1) において真を示す判定結果F2(i,j,k-1) を、判定結果フレームメモリ62へ格納されているので、判定処理部41bは、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアだったとしても、偽の判定結果F(i,j,k) を出力する。したがって、画素PIX(i,j) は、角応答発生エリア以外の場合と同様に、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を目指すように駆動される。この結果、不要な角応答対策処理に起因する、画素PIX(i,j) の応答時間の延長を防止できる。
なお、上記では、応答不足判定処理部61が、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移がディケイの場合に、真の判定結果F2(i,j,k) を出力していたが、これに限るものではない。前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) へ階調遷移する際に、階調遷移を強調しても画素PIX(i,j) の応答が不足し、画素PIX(i,j) の階調が十分に低下しない場合に、真の判定結果F2(i,j,k) を出力できれば、同様の効果が得られる。
例えば、応答不足判定処理部61は、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移がディケイであり、しかも、両映像データD(i,j,k-1) ・D(i,j,k) の差が予め定められた値以上のときに、真の判定結果F2(i,j,k) を出力してもよい。
当該構成では、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移がディケイであっても、上記両映像データD(i,j,k-1) ・D(i,j,k) の差が小さく、変調処理部32が当該階調遷移を強調することによって、画素PIX(i,j) が十分な速度で応答できていると推測される場合、角応答対策処理部33による角応答対策処理が阻止される。したがって、不要な角応答対策処理に起因する、画素PIX(i,j) の応答時間の延長を防止できる。
〔第4の実施形態〕
本実施形態では、第2の実施形態に係る角応答対策処理部33aに、上記応答不足判定処理部61を追加する構成について説明する。すなわち、図19に示すように、本実施形態に係る変調駆動処理部21cは、図16に示す変調駆動処理部21aの構成に加えて、第3の実施形態と同様の応答不足判定処理部61および判定結果フレームメモリ62を備えている。また、第3の実施形態と同様に、判定処理部41に代えて判定処理部41bが設けられている。
ここで、第2の実施形態の場合は、角応答対策処理部33aによる角応答対策処理によって、次フレームFR(k+1) において、前フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を減少させることによって、階調遷移強調の程度を増大している。したがって、角応答が発生しないにも拘わらず、角応答対策処理すると、次フレームFR(k+1) において、画素PIX(i,j) の階調が、目標とする階調(映像データD(i,j,k+1) )を超過して、白光りとして使用者に認識される虞れがある。
これに対して、本実施形態に係る変調駆動処理部21cでは、第3の実施形態と同様に、前々フレームから前フレームへ階調遷移する際に画素PIX(i,j) の応答が不足している場合、前フレームから現フレームへの階調遷移が角応答発生エリアの階調遷移であったとしても、上記角応答対策処理部33aによる角応答対策処理を中止する。この結果、不要な角応答対策処理を防止でき、それによる白光りの発生を防止できる。
〔第5の実施形態〕
ところで、第3および第4の実施形態では、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移の際に画素PIX(i,j) に応答不足が発生するか否かを判定し、その判定結果を次のフレームFR(k+1) にまで記憶することによって、前々フレームFR(k-2) から前フレームFR(k-1) への階調遷移の際に画素PIX(i,j) に応答不足が発生していたか否かを判定していた。
これに対して、本実施形態では、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を次々フレームFR(k+2) まで記憶すると共に、記憶されている前々フレームFR(k-2) の映像データD(i,j,k-2) と前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) とを比較することによって、応答不足の発生を判定する構成について説明する。なお、当該構成は、第3および第4の実施形態のいずれにも適用できるが、以下では、一例として、第3の実施形態に適用した場合について説明する。
すなわち、図20に示すように、本実施形態に係る変調駆動処理部21dは、第3の実施形態に係る変調駆動処理部21bと略同様の構成であるが、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を次のフレームFR(k+1) まで記憶するフレームメモリ31に代えて、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を次々フレームFR(k+2) まで記憶するフレームメモリ31dが設けられている。
また、本実施形態では、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) および現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を比較する応答不足判定処理部61に代えて、フレームメモリ31dから読み出した前々フレームFR(k-2) の映像データD(i,j,k-2) と前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) を比較する応答不足判定処理部61dが設けられている。当該応答不足判定処理部61dは、上記両映像データD(i,j,k-2) およびD(i,j,k-1) の組み合わせが、階調遷移を強調しても、画素PIX(i,j) の応答が不足し、画素PIX(i,j) の階調が十分に低下しない組み合わせとして、予め定められている組み合わせの場合、真、それ以外の場合は、偽を示す判定結果F2(i,j,k) を出力する。
さらに、本実施形態では、判定結果フレームメモリ62が省略されており、判定処理部41bは、応答不足判定処理部61dの判定結果F2(i,j,k) が真の場合、角応答発生エリアか否かに拘わらず、偽の判定結果F(i,j,k) を出力する。
なお、応答不足判定処理部61dの判定方法は、前々フレームFR(k-2) および前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-2) およびD(i,j,k-1) に基づいて判定する点を除いて、第3の実施形態と同一である。また、フレームメモリ31dは、応答不足判定処理部61dの判定に支障がない程度に、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) の情報量を減らした後、次のフレームFR(k+1) まで記憶してもよい。一例として、フレームメモリ31dは、例えば、前フレームFR(k-1) の映像データD(i,j,k-1) のうちの一部ビット(例えば、8ビット中の6ビットなど)を次のフレームFR(k+1) まで記憶してもよい。
上記構成でも、前々フレームFR(k-2) から前フレームFR(k-1) への階調遷移の際に画素PIX(i,j) に応答不足が発生していたと判定される場合、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアであっても、角応答対策処理部33による角応答対策処理が阻止される。したがって、第3の実施形態と同様に、不要な角応答対策処理を防止でき、それによる応答時間の延長を防止できる。
また、図21に示すように、本実施形態の構成を第4の実施形態に適用した構成では、前々フレームFR(k-2) から前フレームFR(k-1) への階調遷移の際に画素PIX(i,j) に応答不足が発生していたと判定される場合、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアであっても、角応答対策処理部33aによる角応答対策処理が阻止される。したがって、第4の実施形態と同様に、不要な角応答対策処理を防止でき、それによる白光りの発生を防止できる。
なお、上記第1ないし第5の実施形態では、画像表示装置1のパネル温度の変化に応じて、判定処理部41(41b)の判定処理と変調処理部32の階調遷移強調処理との双方を変更する場合について説明したが、パネル温度が余り変化せず、判定処理または階調遷移強調処理を変更しなくても、角応答および白光りの発生を抑制できる場合は、判定処理および階調遷移強調処理の少なくとも一方を当該パネル温度用の処理に固定してもよい。
〔第6の実施形態〕
本実施形態に係る変調駆動処理部21fは、図22に示すように、角応答対策処理部33または33aに代えて、パネル温度に応じて、角応答対策処理部33として動作するか、あるいは、角応答対策処理部33aとして動作するかを切り換え可能な角応答対策処理部33fを備えている。なお、当該構成は、第1ないし第5のいずれの実施形態にも、第1ないし第5のいずれの実施形態の少なくとも二つの組み合わせにも適用できるが、以下では、第1の実施形態に適用した場合を例にして説明する。
すなわち、本実施形態に係る変調駆動処理部21fは、第1の実施形態に係る変調駆動処理部21と略同一の構成であるが、第1および第2置換処理部42・44に代えて、第1および第2置換/演算処理部47・48が設けられている。上記第1置換/演算処理部(第1の置換手段、第1の演算手段、調整手段)47は、パネル温度が予め定められたしきい値よりも低い場合は、第1置換処理部42として動作し、当該しきい値よりも高い場合は、第1演算処理部45として動作する。同様に、第2置換/演算処理部(第2の置換手段、第2の演算手段、調整手段)48は、上記パネル温度がしきい値よりも低い場合は、第2置換処理部44として動作し、高い場合は、第2演算処理部46として動作する。
ここで、角応答対策処理部33は、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアの場合、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) ではなく、第1の値C1を目指すように、階調遷移が強調される。したがって、次の階調遷移では、角応答も白光りの双方を抑制するように階調遷移を強調できる一方で、角応答対策処理部33を設けない構成に比べて、画素PIX(i,j) の輝度の立ち上がりが遅くなる虞れがある。
一方、角応答対策処理部33aは、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアの場合、現フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) に上記値αを加算すると共に、次のフレームFR(k+1) において、前フレームFR(k) の映像データD(i,j,k) を上記値βだけ減少させている。したがって、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移において、目的とする階調に応じた階調(映像データD(i,j,k) +α)を目指して階調遷移が強調され、角応答対策処理部33が角応答対策処理する場合と比較して、画素PIX(i,j) の輝度の立ち上がりを速くできる。ただし、前フレームFR(k-1) 、現フレームFR(k) および次フレームFR(k+1) の各映像データD(i,j,k-1) 、D(i,j,k) およびD(i,j,k+1) の値がいずれの値であっても白光りも角応答も発生させない範囲で、αおよびβを大きく設定することが難しい。この結果、例えば、パネル温度が低温の場合など、角応答の発生を抑制するために、現フレームFR(k) から次フレームFR(k+1) への階調遷移を大幅に強調する必要がある場合は、十分に角応答の発生を抑制できなくなる虞れがある。
これに対して、本実施形態に係る角応答対策処理部33fは、パネル温度が上記しきい値以上であることを温度センサ34の出力が示しており、角応答対策処理部33aでも、十分に角応答の発生を抑制できる場合は、角応答対策処理部33aとして動作し、パネル温度が上記しきい値よりも低く、角応答対策処理部33aでは十分に角応答の発生を抑制できない場合、角応答対策処理部33fは、角応答対策処理部33として動作する。
この結果、パネル温度が上記しきい値以上の場合に、画素PIX(i,j) の輝度の立ち上がり速度を低下させずに白光りおよび角応答の発生を抑制できるにも拘わらず、上記しきい値温度よりも低い場合であっても、白光りおよび角応答の発生を抑制できる。
さらに、本発明に係る第1ないし第5のいずれの実施形態の少なくとも二つの組み合わせに適用した例としては、第1の実施形態(第1のサブシステム、第1のサブ工程)と、第2の実施形態(第2のサブシステム、第2のサブ工程)とを上記パネル温度による前述の判定手段の判定により切り換える、液晶表示装置の駆動装置および駆動方法が挙げられる。
なお、上記第1ないし第6の実施形態では、温度に拘わらず、前フレームFR(k-1) から現フレームFR(k) への階調遷移が角応答発生エリアの場合、角応答対策処理部33(33a・33f)が角応答対策処理する場合を例にして説明したが、角応答対策処理部33(33a・33f)は、パネル温度が予め定められたしきい値を超えている場合に、角応答対策処理を中止してもよい。ここで、当該しきい値は、図7に示す領域Aの応答速度と領域Bの応答速度との差が小さく、角応答対策処理しなくても、変調処理部32が白光りも角応答も発生させることなく、階調遷移を強調できる値に設定されている。したがって、不要な角応答処理を防止できる。
また、上記各実施形態では、液晶セル111を図4ないし図6のように構成して、画素における液晶分子の配向方向を4つに分割する場合について説明したが、これに限るものではない。
例えば、図6に示す突起列123aを画素電極121aに形成する代わりに、スリット123bを形成してもよい。また、対向電極121bにスリット123bを形成する代わりに、突起列123aを形成してもよい。いずれの場合であっても、電圧印加時には、突起列123aまたはスリット123bの近傍に斜め方向の電界が形成され、当該電界によって、これらの部材(123aまたはスリット123b)の近傍(領域A)の液晶分子は、電界に応じて配向する。また、これらの部材から離れた領域(領域B)の液晶分子の配向方向は、液晶の連続性によって、領域Aの配向方向が決まった後に決定される。したがって、画素アレイ2の液晶セルとして当該構成の液晶セルを使用した場合でも、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
また、他の構造として、図23に示す画素電極121aを用いた液晶セルでは、図6に示す突起列123aおよびスリット123bが省略されており、画素電極121aに四角錐状の突起124が設けられている。なお、当該突起124も、上記突起列123aと同様に、画素電極121a上に、感光性樹脂を塗布し、フォトリソグラフィー工程で加工することによって形成できる。
この構成でも、突起124の近傍では、液晶分子が各斜面に垂直になるように配向する。加えて、電圧印加時において、突起124の部分の電界は、突起124の斜面に平行になる方向に傾く。これらの結果、電圧印加時において、液晶分子の配向角度の面内成分は、最も近い斜面の法線方向の面内成分(方向P1、P2、P3またはP4)と等しくなる。したがって、画素領域は、傾斜時の配向方向が互いに異なる、4つのドメインD1〜D4に分割される。さらに、突起124から離れた領域(領域B)の液晶分子の配向方向は、突起124近傍(領域A)の液晶分子の配向方向が決定された後、液晶の連続性によって決定される。したがって、当該構成の液晶セルであっても、領域Bの液晶分子の配向方位が決定されていない状態では、既に配向方位が決定されている場合に比べて、領域Aの応答速度と領域Bの応答速度との差が大きくなる。この結果、画素アレイ2の液晶セルとして当該構成の液晶セルを使用した場合でも、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
なお、例えば、40インチのような大型の液晶テレビを形成する場合、各画素のサイズは、1mm四方程度と大きくなり、画素電極121aに1つずつ突起124を設けただけでは、配向規制力が弱まり、配向が不安定になる虞れがある。したがって、この場合のように、配向規制力が不足する場合には、各画素電極121a上に複数の突起124を設ける方が望ましい。
さらに、例えば、図24に示すように、対向基板111bの対向電極121b上にY字状のスリットを上下方向(面内で、略方形状の画素電極121aのいずれかの辺に平行な方向)に対称に連結してなる配向制御窓(電極が形成されていない領域)125を設けても、マルチドメイン配向を実現できる。
当該構成では、対向基板111bの表面のうち、配向制御窓125の直下の領域では、電圧を印加しても、液晶分子を傾斜させる程の電界がかからず、液晶分子が垂直に配向する。一方、対向基板111bの表面のうち、配向制御窓125の周囲の領域では、対向基板111bに近づくに従って、配向制御窓125を避けて広がるような電界が発生する。ここで、液晶分子は、長軸が電界に垂直な方向に傾き、液晶分子の配向方向の面内成分は、図中、矢印で示すように、配向制御窓125の各辺に略垂直になる。
また、当該構成でも、配向制御窓125から離れた領域(領域B)の液晶分子の配向方向は、配向制御窓125近傍(領域A)の液晶分子の配向方向が決定された後、液晶の連続性によって決定される。したがって、当該構成の液晶セルであっても、領域Bの液晶分子の配向方位が決定されていない状態では、既に配向方位が決定されている場合に比べて、領域Aの応答速度と領域Bの応答速度との差が大きくなる。この結果、画素アレイ2の液晶セルとして当該構成の液晶セルを使用した場合でも、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
また、上記では、配向方向を4分割する場合について説明したが、図25および図26に示すように、放射状配向の液晶セル111を用いても同様の効果が得られる。
具体的には、図25に示す構造では、図23に示す突起124に代えて、略半球状の突起126が設けられている。この場合も、突起126の近傍では、液晶分子は、突起126の表面に垂直になるように配向する。加えて、電圧印加時において、突起126の部分の電界は、突起126の表面に平行になる方向に傾く。これらの結果、電圧印加時に液晶分子が傾斜する際、液晶分子は、面内方向で突起126を中心にした放射状に傾きやすくなり、液晶セル111の各液晶分子は、放射状に傾斜配向できる。なお、上記突起126も、上記突起124と同様の工程で形成できる。また、上記突起124と同様に、配向規制力が不足する場合には、各画素電極121a上に複数の突起126を設ける方が望ましい。
当該構成でも、突起126から離れた領域(領域B)の液晶分子の配向方向は、突起126近傍(領域A)の液晶分子の配向方向が決定された後、液晶の連続性によって決定されるので、画素アレイ2の液晶セルとして当該構成の液晶セルを使用した場合でも、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
また、図26に示す構造では、図23に示す突起124に代えて、画素電極121aに円形のスリット127が形成されている。これにより、電圧を印加した際、画素電極121aの表面のうち、スリット127の直上の領域では、液晶分子を傾斜させる程の電界がかからない。したがって、この領域では、電圧印加時でも液晶分子は垂直に配向する。一方、画素電極121aの表面のうち、スリット127近傍の領域では、電界は、スリット127へ厚み方向で近づくに従って、スリット127を避けるように傾斜して広がる。ここで、液晶分子は、長軸が垂直な方向に傾き、液晶の連続性によって、スリット127から離れた液晶分子も同様の方向に配向する。したがって、画素電極121aに電圧を印加した場合、各液晶分子は、配向方向の面内成分が、図中、矢印で示すように、スリット127を中心に放射状に広がるように配向、すなわち、スリット127の中心を軸として軸対称に配向できる。ここで、上記電界の傾斜は、印加電圧によって変化するため、液晶分子の配向方向の基板法線方向成分(傾斜角度)は、印加電圧によって制御できる。なお、印加電圧が増加すると、基板法線方向に対する傾斜角が大きくなり、各液晶分子は、表示画面に略平行で、しかも、面内では放射状に配向する。また、上記突起126と同様に、配向規制力が不足する場合には、各画素電極121a上に複数のスリット127を設ける方が望ましい。
当該構成でも、スリット127から離れた領域(領域B)の液晶分子の配向方向は、スリット127近傍(領域A)の液晶分子の配向方向が決定された後、液晶の連続性によって決定されるので、画素アレイ2の液晶セルとして当該構成の液晶セルを使用した場合でも、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
また、画素電極121aにおいて、電極が形成されていない部分(スリット)と電極が形成されている部分とを逆転してもよい。具体的には、図27に示す画素電極121aでは、複数のスリット128は、それぞれの中心が正方格子を形成するように配置されており、1つの単位格子を形成する4つの格子点上に中心が位置する4つのスリット128によって実質的に囲まれる中実部(「単位中実部」と称する)129は、略円形の形状を有している。それぞれのスリット128は、4つの4分の1円弧状の辺(エッジ)を有し、且つ、その中心に4回回転軸を有する略星形に形成されている。なお、上記画素電極121aも、導電膜(例えばITO膜)から形成されており、例えば、導電膜を形成後、スリット128が上記形状になるように導電膜を除去するなどして、上記複数のスリット128が形成される。また、上記スリット128は、1つの画素電極121a毎に複数形成されているが、上記各中実部129は、基本的には、連続した単一の導電膜から形成されている。
当該構成でも、画素電極121aへ電圧を印加したときに、中実部129とスリット128との境界近傍の領域(エッジ領域)に、基板表面に対して斜め方向の電界が形成され、エッジ領域の液晶分子は、電界に応じた傾斜方向に傾斜する。さらに、上記エッジ領域から離れた領域(領域B)の液晶分子の配向方向は、スリット128近傍(領域A)の液晶分子の配向方向が決定された後、液晶の連続性によって決定される。したがって、画素アレイ2の液晶セルとして当該構成の液晶セルを使用した場合でも、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
なお、上記では、スリット128の中心が正方格子を形成するように配置されている場合を例にして説明したが、これに限るものではなく、長方形の格子状など、他の形状であってもよい。また、上記スリット127または中実部129が略円状の場合を例にして説明したが、楕円状や方形状など、他の形状であってもよい。
いずれの場合であっても、電圧無印加時には、液晶分子を垂直方向に配向させると共に、画素電極へ電圧を印加することによって、電極が形成されている部分と電極が形成されていない部分との境界近傍の領域(エッジ領域)に斜め方向の電界を形成し、当該電界によって液晶分子の配向方向を決定する液晶セルであれば、略同様の効果が得られる。
ただし、図27に示すように、スリット128の中心が正方格子を形成し、中実部129が略円形状であれば、画素PIX(i,j) 内の液晶分子の配向方位を均等に分散させることができるので、より視野角特性の良好な画像表示装置1を実現できる。
また、上記実施形態では、変調駆動処理部を構成する各部材がハードウェアのみで実現されている場合を例にして説明したが、これに限るものではない。各部材の全部または一部を、上述した機能を実現するためのプログラムと、そのプログラムを実行するハードウェア(コンピュータ)との組み合わせで実現してもよい。一例として、画像表示装置に接続されたコンピュータが、画像表示装置を駆動する際に使用されるデバイスドライバとして動作することによって、変調駆動処理部を実現してもよい。また、画像表示装置に内蔵あるいは外付けされる変換基板として、変調駆動処理部が実現され、ファームウェアなどのプログラムの書き換えによって、当該変調駆動処理部を実現する回路の動作を変更できる場合には、当該ソフトウェアを配布して、当該回路の動作を変更することによって、当該回路を、上記実施形態の変調駆動処理部として動作させてもよい。
これらの場合は、上述した機能を実行可能なハードウェアが用意されていれば、当該ハードウェアに、上記プログラムを実行させるだけで、上記実施形態に係る変調駆動処理部を実現できる。また、上記プログラムは、コンピュータにて読み取り可能に記録媒体に記録してもよい。
なお、上記では、垂直配向モードの液晶セルをノーマリブラックモードで駆動する液晶表示装置の場合を例にして説明したが、これに限るものではない。画素内に応答速度の異なる領域が混在する液晶表示装置であれば、応答速度の相違に起因する表示品質の劣化が発生する階調遷移を、角応答の発生エリア(第1の組み合わせ)として設定することによって、略同様の効果が得られる。
また、本発明に係る液晶テレビは、以上のように、上記各構成のいずれかの液晶表示装置の駆動装置と、それによって駆動される液晶表示装置と、チューナ部とを備えている。ここで、上記液晶表示装置の駆動装置は、画素内に応答速度の異なる領域が混在する液晶表示装置を駆動しているにも拘わらず、応答速度の向上と映像の劣化防止との双方を実現できるので、動画の表示に好適である。したがって、上記液晶テレビは、チューナ部から出力されるテレビ映像信号を好適に表示できる。
一方、本発明に係る液晶モニタは、以上のように、上記各構成のいずれかの液晶表示装置の駆動装置と、それによって駆動される液晶表示装置と、信号処理部とを備えている。ここで、上記液晶表示装置の駆動装置は、画素内に応答速度の異なる領域が混在する液晶表示装置を駆動しているにも拘わらず、応答速度の向上と映像の劣化防止との双方を実現できる。したがって、上記液晶モニタは、上記モニタ映像信号を好適に表示できる。
さらに、上記構成に加えて、上記調整手段は、第1の動作と第2の動作とのいずれを行うかを、上記液晶表示装置の液晶パネルのパネル温度に応じて切り換え、上記第1の動作は、応答速度の遅い領域の階調が上記補正手段による次回の補正の調整によって今回指示された階調付近に到達できる階調であって、しかも、画素全体の表示階調を実質的に変化させない階調へと遷移するように、上記補正手段による今回の補正を予備的に調整する動作であり、上記第2の動作は、画素全体の輝度の平均値が今回指示された階調付近へ到達するように、上記補正手段による今回の補正を調整すると共に、応答速度の遅い領域の階調を今回指示された階調へ引き上げるように、上記補正手段による次回の補正を調整する動作であってもよい。
当該構成によれば、パネル温度に応じて第1の動作および第2の動作を切り換えることができるので、パネル温度が変化しても、白光りおよび角応答の発生を抑制し続けることができる。
発明の詳細な説明の項においてなされた具体的な実施態様または実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、本発明の精神と次に記載する特許請求事項との範囲内で、いろいろと変更して実施することができるものである。