JP4423718B2 - 片面浸漬塗工装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ウエブ状の基材上にミクロン単位できわめて精度良く、薄膜をコーテイングする塗工装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、低粘度液を安価でかつ操作技術を要しなく、しかもミクロン単位できわめて薄く精度良く塗工する方法として、図1に示したDip塗工方式が良く知られている。この方式は浸漬塗工とも呼ばれ、基材(1)を塗液(2)に浸漬させた後に引き上げると、塗液物性により余分な塗液が塗液タンク(3)に流れ落ちて塗工できるものである。
【0003】
この時、塗膜の付き方は、塗液の濃度、粘度、液温、周辺空気の温度、湿度、液面からの基材の引き上げ速度によって異なり、濃度、粘度、室温が高く、湿度は低く、引き上げ速度が速い程、厚く塗布される。
液温は粘度と溶剤の蒸発速度の両方に影響する為、単純な比例関係にはなく、膜厚管理の点で塗液の管理が問題となる。
【0004】
また、特開昭58−137470号公報にメニスカス被覆方法として片面の塗工方法が開示されている。しかしながら、円筒形アプリケータに対して接線方向にのみ基材もしくはアプリケータを動かすことから、硝子基板の様なリジッドな基材に対しての塗工方式であり、薄いフィルム状の可撓性基材には塗工できなかった。さらに、メニスカス被覆方式をとっていながらも、塗液は循環していることから、塗液濃度が多少変化していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
Dip塗工方式は浸漬塗工であり、塗液中に基材を浸漬させた後引き上げるため、常時塗液が空気に触れてしまう。そのため溶剤の揮発、水分の吸収、また混合溶剤の場合は溶剤の種類により蒸発スピードが異なることで溶剤組成が変動してしまうなどの理由から塗液濃度が変化してしまい、時間の経過とともに膜厚を一定に保つことが困難であった。
また基材を浸漬させる為、基材の表裏に塗液が塗工されてしまい、片面だけの塗工の場合にはカバーフィルム等により、裏面の保護が必要となる。その時カバーフィルム上には塗工されてしまう為、塗液の使用量は必要塗工量の2倍となり、半分が無駄に塗工されてしまう。
さらに、塗液に基材の表裏面が触れ、必要量以上の塗液は塗液タンクへ戻るため、基材に異物が付着している場合、異物の塗液への混入確率も2倍と成ってしまう。
【0006】
即ち、Dip塗工、浸漬塗工方式では基材両面塗工となるため、片面塗工に用いる二倍の塗液が必要となり、半分は廃棄となってしまう。異物の混入、溶剤の揮発といった問題があり、大量生産には向かないとされていた。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1の発明は、回転可能な円筒内部より塗液が通じる一つあるいは複数のスリットを円筒側面の幅方向に設けた塗工部と、塗布膜厚の調整用としての、可撓性基材の搬送速度を自在に制御できる駆動ロール、および塗液への進入角度と引き上げ角度を制御するために、該塗工部の両側に円筒に対し平行に設けた上下左右に位置調整可能なロールを具備し、この塗工部と位置調整可能なロールの間を走行する可撓性基材に塗布液を塗布し、上記塗工部およびロール全体を上下のカバーで覆い、該上部カバーには基材の進入、搬出用のスリット状窓を設けると共に、ロールの上昇、降下に合わせて上部カバーも可動であることを特徴とする片面浸漬塗工装置である。
【0008】
本発明の第2の発明は、回転可能な円筒内部より塗液が通じる一つあるいは複数のスリットを円筒側面の幅方向に設けた塗工部と、該塗工部の両側に円筒に対し平行に設けた上下左右に位置調整可能なロールを具備し、このロールのどちらか一方または両方が可撓性基材の搬送速度を自在に制御できる駆動ロールであり、この塗工部と位置調整可能なロールの間を走行する可撓性基材に塗布液を塗布し、上記塗工部およびロール全体を上下のカバーで覆い、該上部カバーには基材の進入、搬出用のスリット状窓を設けると共に、ロールの上昇、降下に合わせて上部カバーも可動であることを特徴とする片面浸漬塗工装置である。
【0009】
本発明の第3の発明は、上記塗工部のスリット部をスリット状の多孔質体としたことを特徴とする請求項1から2記載の片面浸漬塗工装置である。
【0010】
本発明の第4の発明は、複数の上記塗工部およびロールを基材進行方向に連続して配置したことを特徴とする請求項1から3記載の片面浸漬塗工装置である。
【0013】
本発明の第1及び第2の発明において、回転可能な円筒内部より塗液が通じる一つあるいは複数のスリット上部には、毛細管現象または塗液供給装置からの圧力により、安定した液溜まりが形成される。また、上下左右に位置調整可能なロールを該塗工部の両側に配置したことにより、液溜まりに基材を接触させるときの基材の進入角度と引き上げ角度を自在に調整が可能となる。また、塗工部およびロール全体を上下のカバーで覆い、該上部カバーには基材の進入、搬出用のスリット状窓を設けると共に、ロールの上昇、降下に合わせて上部カバーも可動することにより、塗工時および非塗工時に塗液蒸発による固形分の析出を抑えることができる。
【0014】
本発明の第3の発明において、該塗工部のスリット部をスリット状の多孔質体とすることにより、より安定した液溜まりの形成が可能となる。
【0015】
本発明の第4の発明において、複数の塗工部およびロールを連続して設けたことにより、1台目の塗工部がプレコート的な役割を果たし、最終膜厚は2台目以降の塗工部で調整することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下本発明の片面浸漬塗工装置を実施形態に基づき図2から図6を参照して詳細に説明する。図2は本発明の前提となる実施形態を示す断面図である。図2に示すように、塗液が通じる一つのスリット5を有する塗工部としての円筒4およびその両側に上下左右に位置調整可能な基材進入側ロール7と基材出口側ロール8が配置されている。
【0019】
円筒4内部に供給される塗液は脈動が無く、吐出精度があれば良く、図示しないギヤポンプ、スネークポンプ等により送られ、塗工速度、塗工膜厚に合わせて供給量が決定される。
スリット5の大きさは数10から数100μmが良く、小さすぎると塗液の供給が塗工速度に追いつかなくなり、大きすぎると塗液の供給ムラが生じ、平面性や膜厚の均一性が悪化する。またスリット5の位置は円筒4を回転させ、真上から基材進入側、あるいは基材出口側に設定することも可能である。
【0020】
基材1はスリット5上部に形成される液溜まり6とキスタッチとなるように基材進入側ロール7と基材出口側ロール8で押さえられた状態で、第1の発明では図示しない駆動ロールにより、また第2の発明では基材進入側ロール7もしくは基材出口側ロール8あるいはその両方のロールにより搬送される。この時、塗液と接触する基材面は浸漬状態となるが、反対面には塗液は接触しないため塗工されない。また、形成したい膜厚によって塗工速度を決定するとともに、基材進入側ロール7と基材出口側ロール8の位置を調整して、液溜まり6への進入角度と引き上げ角度を0度から10度の範囲で設定する。塗工速度は速いほど、液溜まり6への進入角度と引き上げ角度が接線方向に対して大きいほど、膜厚は厚くなる。
【0021】
塗布条件は塗液の固形分比率が10〜30%、粘度が0.1〜10mPa・s、塗工速度が0.1〜10m/min、塗布膜厚が1〜100μmの範囲で設定することができる。
【0022】
次に本発明の第3の発明である請求項3に記載の実施形態についてその断面図である図3を用いて説明する。尚、第3の発明に関しては本発明の前提となる実施形態と異なる点についてのみ説明するが、本発明の前提となる実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また図3において図2と同じ部材には同じ符号を付した。
【0023】
図3に示すように、円筒4に設けるスリット5の代わりにスリット状の多孔質体9を使用することで、より安定した液溜まり6が形成される。
【0024】
塗布条件は塗液の固形分比率が10〜30%、粘度が0.1〜10mPa・s、塗工速度が0.1〜10m/min、塗布膜厚が1〜100μmの範囲で設定することができる。
【0025】
次に本発明の第4の発明である請求項4に記載の実施形態についてその断面図の一例である図4を用いて説明する。尚、第4の発明に関しては本発明の前提となる実施形態と異なる点についてのみ説明するが、本発明の前提となる実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また図4において図2と同じ部材には同じ符号を付した。
【0026】
図4は、基材進行方向入り口より、基材進入側ロール7、多孔質体のスリット9を設けた1台目の円筒4、中間ロール10、多孔質体のスリット9を設けた2台目の円筒4、基材出口側ロール8の順に、2台の塗工部を連続して配置した例である。基材進入側1台目の円筒4の塗工部は、プレコート的な役割を果たし、2台目の円筒4の塗工部が最終膜厚を形成するため、1台での塗工よりも平面性や膜厚の均一性が改良される。
【0027】
塗布条件は塗液の固形分比率が10〜30%、粘度が0.1〜10mPa・s、塗工速度が0.1〜10m/min、塗布膜厚が1〜100μmの範囲で設定することができる。
【0028】
次に本発明の参考形態についてその断面図の一例である図5を用いて説明する。尚、参考形態に関しては本発明の前提となる実施形態と異なる点についてのみ説明するが、本発明の前提となる実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また図5において図2と同じ部材には同じ符号を付した。
【0029】
図5は円筒4が非塗工時に塗液2の入った塗液供給用タンク11に完全に浸漬した時の断面図である。塗工が終了すると円筒4が降下して円筒4全体が基材から離れた後、塗液供給用タンク11に浸漬する。その後、塗液供給用タンク11上部から塗液の蒸発を防ぐために蓋12が閉まる。このため、非塗工時のスリット状の多孔質体上部の塗液吐出口における塗液の蒸発による固形分の析出を防ぐことができる。
【0030】
次に本発明の第の発明である請求項1及び2に記載の実施形態についてその断面図の一例である図6を用いて説明する。尚、第の発明に関しては本発明の前提となる実施形態と異なる点についてのみ説明するが、本発明の前提となる実施形態に関して詳述した説明が適宜適用される。また図6において図2と同じ部材には同じ符号を付した。
【0031】
図6は基材進入口スリット15と基材出口スリット16を設けた上部カバー13と下部カバー14で塗工装置全体を覆い、非塗工時もロールの待避と同調して上部カバー14が動くようになっている。上部カバー13と下部カバー14が重なる部分の間隙は十分に狭くなっており、空気を遮断できる液体等で間隙を満たせばよい。本発明の第1の発明から第3の発明における塗液の供給は、塗布に必要な量だけが供給される為、塗液が循環する従来の浸漬塗工装置とは異なり、溶剤の揮発による塗液の固形分比率の変動は極めて少ないが、上部カバー13と下部カバー14で塗工装置全体を覆うことで、スリット状の多孔質体上部の塗液吐出口における塗液の蒸発による固形分の析出をさらに防ぐことができる。
【0032】
【実施例】
以下、本発明の効果を実施例によりさらに詳細に説明する。
<実施例1>
下記条件により、請求項3記載の塗液吐出口としてスリット状の多孔質体を用いた場合の片面浸漬塗工装置にて塗布を行った。
基材 :厚さ80μmのPET
塗液 :固形分比率20%、粘度2mPa・s
塗工速度:2m/min
最終塗布膜厚:0.5μm
多孔質体の孔径:20μm〜300μm
以上のような塗布条件で、塗液への進入角度および引き上げ角度を調整して基材への塗布を行ったところ、平面性が良好で膜厚の均一な塗膜を得た。
【0033】
<実施例2>
下記条件により、請求項4記載の塗工部およびロールを基材進行方向に連続して配置した場合の片面浸漬塗工装置にて塗布を行った。
基材 :厚さ80μmのPET
塗液 :固形分比率10%、粘度1mPa・s
塗工速度:1.5m/min
最終塗布膜厚:0.5μm
多孔質体の孔径:20μm〜300μm
以上のような塗布条件で、塗液への進入角度および引き上げ角度を調整して基材への塗布を行ったところ、平面性が良好で膜厚の均一な塗膜を得た。
【0034】
<実施例3>
下記条件により、非塗工時に塗液中に浸漬させる塗液供給装置を持つ片面浸漬塗工装置にて塗布を行った。
基材 :厚さ80μmのPET
塗液 :固形分比率20%、粘度2mPa・s
塗工速度:2m/min
最終塗布膜厚:0.5μm
多孔質体の孔径:20μm〜300μm
以上のような塗布条件で、塗布時間の間に塗布しない時間を2時間設け、その間塗液中に浸漬させておいてから、再度塗布を行ったところ、塗液の蒸発による固形分の析出が塗工部では見られず、非塗工時間の前後における塗膜の平面性や膜厚の均一性にも違いが無く、良好な塗膜を得た。
【0035】
<実施例4>
下記条件により、請求項1及び2記載の塗工装置全体をカバーで覆った片面浸漬塗工装置にて塗布を行った。
基材 :厚さ80μmのPET
塗液 :固形分比率20%、粘度2mPa・s
塗工速度:2m/min
最終塗布膜厚:0.5μm
多孔質体の孔径:20μm〜300μm
以上のような塗布条件で、塗液への進入角度および引き上げ角度を調整して基材への塗布を行ったところ、平面性が良好で膜厚の均一な塗膜を得た。
【0036】
【発明の効果】
本発明の請求項1から4記載の塗工装置を用いることで、浸漬(Dip)塗工方式の低粘度塗液の薄膜塗工を安価でかつ操作技術を要しなく、しかも精度良く塗工できるという特徴を持たせながら、溶剤の蒸発による塗液の濃度変化を抑えることができ、結果として良好な平面性や膜厚の均一性を持たすことができる。また、基材の片面だけに効率よく塗工し、大量生産も行うことができる。
【0038】
【図面の簡単な説明】
【図1】従来のDip塗工方式の概念図である。
【図2】本発明の前提となる実施形態である、円筒上部の一つあるいは複数のスリットより塗液が供給される塗工装置の断面図である。
【図3】本発明の第3の発明の実施形態である、円筒上部のスリット状の多孔質体より塗液が供給される塗工装置の断面図である。
【図4】本発明の第4の発明の実施形態である、2つの塗液供給部により2度塗工する塗工装置の断面図である。
【図5】本発明の参考形態である、非塗工時に塗液中に円筒を浸漬させる塗液供給装置を持つ塗工装置である。
【図6】本発明の第の発明の実施形態である、塗工装置全体をカバーで覆った塗工装置である。
【符号の説明】
1・・・基材
2・・・塗液
3・・・タンク
4・・・円筒
5・・・スリット
6・・・液溜まり
7・・・基材進入側ロール
8・・・基材出口側ロール
9・・・スリット状の多孔質体
10・・・中間ロール
11・・・塗液タンク
12・・・塗液タンクの蓋
13・・・上部カバー
14・・・下部カバー
15・・・基材進入口スリット
16・・・基材出口スリット
A・・・基材進行方向

Claims (4)

  1. 回転可能な円筒内部より塗液が通じる一つあるいは複数のスリットを円筒側面の幅方向に設けた塗工部と、可撓性基材の搬送速度を自在に制御できる駆動ロール、および該塗工部の両側に円筒に対し平行に設けた上下左右に位置調整可能なロールを具備し、この塗工部と位置調整可能なロールの間を走行する可撓性基材に塗布液を塗布し、上記塗工部およびロール全体を上下のカバーで覆い、該上部カバーには基材の進入、搬出用のスリット状窓を設けると共に、ロールの上昇、降下に合わせて上部カバーも可動であることを特徴とする片面浸漬塗工装置。
  2. 回転可能な円筒内部より塗液が通じる一つあるいは複数のスリットを円筒側面の幅方向に設けた塗工部と、該塗工部の両側に円筒に対し平行に設けた上下左右に位置調整可能なロールを具備し、このロールのどちらか一方または両方が可撓性基材の搬送速度を自在に制御できる駆動ロールであり、この塗工部と位置調整可能なロールの間を走行する可撓性基材に塗布液を塗布し、上記塗工部およびロール全体を上下のカバーで覆い、該上部カバーには基材の進入、搬出用のスリット状窓を設けると共に、ロールの上昇、降下に合わせて上部カバーも可動であることを特徴とする片面浸漬塗工装置。
  3. 上記塗工部のスリット部をスリット状の多孔質体としたことを特徴とする請求項1から2記載の片面浸漬塗工装置。
  4. 複数の上記塗工部およびロールを基材進行方向に連続して配置したことを特徴とする請求項1から3記載の片面浸漬塗工装置。
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