ところで、特許文献1に開示されたウエビング巻取装置も、通常時におけるウエビングベルトの巻き取りは、ゼンマイバネユニットに設けられた渦巻きばねの付勢力により行なわれる。すなわち、ウエビングベルトを引き出すためにスプールが巻取方向とは反対の引出方向に回転する。渦巻きばねは、その一端がスプールに間接的に連結されており、このスプールの引出方向への回転量の増加に応じて付勢力が増大し、ウエビングベルトを収納する際にはこの付勢力でスプールを巻取方向に回転させる。
ここで、渦巻きばねの付勢力でスプールを巻取方向に付勢する構造では、格別な危険性がない通常時においてもウエビングベルトを巻き取る方向へスプールが付勢されているため、ウエビングベルトを装着している乗員は圧迫感を感じる場合がある。
このような圧迫感を解消するためには、渦巻きばね自体が有する付勢力を弱めればよい。しかしながら、渦巻きばねの付勢力を弱めると、ウエビングベルトを外した際にスプールがウエビングベルトを巻き取る力が弱まり、早急なウエビングベルトの収納が難しくなる。
そこで、通常時においてはスプールに付与する巻取方向に付勢する付勢力を軽減し、ウエビングベルトを外した場合や緊急時等に巻取方向への充分な付勢力をスプールに付与するテンションリデューサを備えるウエビング巻取装置が採用されている。
この種のテンションリデューサは、通常の渦巻きばねとは別の渦巻きばね等の付勢部材を備えており、例えば、上記のような遊星ギヤ列で、キャリヤ、インターナル等、予め設定された何れか1つの回転が規制された際には、付勢部材の付勢力が通常の渦巻きばねの付勢力に抗するように作用して、渦巻きばねの付勢力の一部を実質的に相殺する。これにより、渦巻きばねの付勢力に基づくウエビングベルトの張力が軽減され、圧迫感が軽減されるものである。
ところで、このようなテンションリデューサでは、遊星ギヤ列を用いた場合には上記のようにキャリヤ、インターナル等、予め設定された何れか1つの回転が規制するために、特許文献1に開示されているソレノイド等の特別なトリガ手段を設けなくてはならず、装置が大型化し、コストも高くなるという問題がある。
本発明は、上記事実を考慮して、モータ等のウエビングベルトを巻き取るための駆動手段を有し、且つ、テンションリデューサ専用の特別なトリガ手段が不要なシートベルト装置を得ることが目的である。
請求項1に記載の本発明に係るシートベルト装置は、長手方向基端部がスプールに係止されて軸周り一方である巻取方向への前記スプールの回転で前記スプールに巻き取られる長尺帯状のウエビングベルトが、座席に着座した乗員の身体に装着されることで、前記乗員の身体を拘束すると共に、前記スプールに直接又は間接的に連結された付勢手段の付勢力が、前記巻取方向とは反対の引出方向への前記スプールの回転量の増加に応じて増加して前記スプールを前記巻取方向に付勢するウエビング巻取装置を含めて構成されるシートベルト装置であって、前記スプールの回転に連動して変位する変位部材を有し、前記変位部材の変位の制限又は当該制限の解除により、前記付勢手段が前記スプールに付与する付勢力の少なくとも一部を相殺し又は前記付勢手段の付勢力と共に当該付勢力と同方向の外力を前記スプールに付与するテンションリデューサと、駆動力で回転する出力軸を有し、当該出力軸が前記スプールに連結された状態で前記駆動力で前記出力軸を回転させることにより、巻取方向又は引出方向の回転力を前記スプールに付与する駆動手段と、前記駆動手段の前記出力軸に連結され、前記駆動手段の正転駆動力に伴う前記出力軸の正転で前記変位部材に係合して前記変位部材の変位を制限すると共に、前記駆動手段の逆転駆動力による前記出力軸の逆転で前記係合が解除される制限手段と、を備えることを特徴としている。
請求項1に記載の本発明に係るシートベルト装置によれば、ウエビング巻取装置のスプールを、その軸周り一方である巻取方向に回転させると、長手方向基端部がスプールに係止された長尺帯状のウエビングベルトがその基端側からスプールに巻き取られて収納される。また、例えば、車両の座席に着座した乗員が、ウエビングベルトを装着するためにウエビングベルトをその先端側へ引っ張ると、ウエビングベルトに付与された張力によってスプールが巻取方向とは反対の引出方向に回転し、これにより、スプールに巻き取られたウエビングベルトが引き出される。
このようにして引き出されたウエビングベルトを座席に着座した乗員が自らの身体に掛け回した状態で、例えば、ウエビングベルトの長手方向中間部に設けられたタングプレート等を座席の側方等に設けられたバックル装置に装着することで、ウエビングベルトが乗員の身体に装着されてウエビングベルトにより乗員の身体が拘束される。
また、このようにウエビングベルトを装着するためにウエビングベルトを引き出し、これに伴いスプールを引出方向に回転させると、スプールに直接又は間接的に連結された付勢手段の付勢力が引出方向へのスプールの回転量に応じて増加する。この付勢力はスプールを巻取方向に付勢するため、例えば、上述したタングプレートとバックル装置との係合を解除すると、付勢手段の付勢力によりスプールが巻取方向に回転してウエビングベルトをその基端側から巻き取って収納する。
一方、本発明に係るシートベルト装置では、出力軸がスプールに連結された状態で駆動手段が駆動して出力軸が回転すると、出力軸の回転がスプールに伝えられ、スプールが巻取方向又は引出方向に回転する。乗員がウエビングベルトを装着している状態で、駆動手段の駆動力でスプールが強制的に巻取方向に回転させられて、スプールにウエビングベルトが強制的に巻き取られることにより、ウエビングベルトの緩みが除去され、ウエビングベルトによる拘束力が増加する。これにより、ウエビングベルトで乗員の身体をより一層強力に拘束できる。
また、乗員がウエビングベルトを装着している状態で、駆動手段の駆動力でスプールが強制的に引出方向に回転させられることで、ウエビングベルトが緩み、ウエビングベルトによる拘束力が軽減される。したがって、上記のようにスプールを巻取方向に強制的に回転させて拘束力を増加させた後に、スプールを強制的に引出方向に回転させることで、拘束力の増加により乗員に与えた強い圧迫感を軽減できる。
一方、上記のように、駆動手段が正転駆動して出力軸が正転すると、テンションリデューサの変位部材に制限手段が係合する。また、駆動手段が逆転駆動して出力軸が逆転すると、上記の変位部材に対する制限手段の係合が解除される。
変位部材はスプールの回転に連動して変位可能であるが、制限手段が変位部材に係合することで、変位部材の変位が制限される。変位部材の変位が制限され、又は、変位部材の変位の制限が解除されると、付勢手段からスプールに付与される付勢力の少なくとも一部が相殺され、又は、付勢手段の付勢力と同方向の外力がスプールに付与される。
付勢手段の付勢力は、スプールを巻取方向に回転させるように作用し、更に、付勢手段の付勢力によりスプールを巻取方向に付勢されることで、ウエビングベルトは緩み等が除去されると共に、この付勢力の大きさに応じた拘束力で乗員の身体がウエビングベルトに拘束される。
したがって、上記のように付勢力の少なくとも一部が相殺されることで、巻取方向へのスプールの回転力が弱まり、これにより、ウエビングベルトが乗員の身体を拘束する拘束力が弱まり、乗員に与える圧迫感を軽減できる。
また、付勢手段の付勢力と同方向の外力がスプールに付与されると、付勢力に加えて外力に基づく巻取方向の回転力が付与されることになるため、巻取方向へのスプールの回転力が増加することになる。これにより、ウエビングベルトが乗員の身体を拘束する拘束力が強まり、より一層確実に乗員の身体を拘束できる。
このように、本発明に係るシートベルト装置では、スプールを強制的に巻取方向又は引出方向に回転させるための駆動手段が駆動することで、テンションリデューサが作動し、又は、テンションリデューサの作動が解除されるため、テンションリデューサを作動させ、又は、作動を解除するためのソレノイド等の特別なトリガ手段が不要となる。これにより、部品コストや組み付けコストを低減でき、結果的にシートベルト装置全体のコストを安価にできる。
しかも、上記のようなトリガ手段が不要であるため、トリガ手段の設置スペースや動作スペースの分だけテンションリデューサを小型化、軽量化でき、ひいては、シートベルト装置全体を小型化、軽量化を図ることができる。
さらに、上述したように、駆動手段の駆動力で出力軸が回転することによりテンションリデューサが作動し、又は、作動が解除されるが、駆動手段の駆動力によりスプールが強制的に巻取方向又は引出方向に回転させられる。すなわち、本発明に係るシートベルト装置では、特別な制御を講じなくても、駆動手段の駆動力によるスプールの強制回転とテンションリデューサとを連動させることができ、ウエビングベルトの拘束力が何段階にも分かれて増減することがなく、拘束力が自然に増減する感覚を乗員に与えることができる。
なお、本発明において、駆動手段の出力軸は常にスプールに連結されている構成であってもよいし、出力軸とスプールとの連結及び連結解除が可能で、この連結が解除された状態では出力軸の回転力(すなわち、駆動手段の駆動力)がスプールに伝わらず、駆動手段の駆動力でスプールが回転することはない構成としてもよい。
また、本発明において、駆動手段が駆動する条件に関しては特に限定するものではなく、駆動条件を適宜に設定してよいが、その一例としては、乗員がウエビングベルトを装着した場合やこのようなウエビングベルトの装着が解除された場合が考えられるし、また、車両の前方で走行する他の車両や障害物までの距離が所定値未満になった場合等も考えられる。
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置は、請求項1に記載の本発明において、前記ウエビングベルトの長手方向中間部に設けられたタングプレートと、前記タングプレートの係合が可能に前記座席又は前記座席の近傍に取り付けられ、前記タングプレートが係合することで前記タングプレートを保持するバックル装置と、前記バックル装置に設けられ、前記バックル装置に前記タングプレートが係合したか否かを検出するタング検出手段と、前記出力軸の逆転を前記巻取方向への回転として前記スプールに伝えると共に、前記出力軸の正転に連動して前記出力軸と前記スプールとの連結を解除して、前記スプールへの前記出力軸の回転伝達を遮断するクラッチ手段と、前記バックル装置に前記タングプレートが係合した場合に前記タング検出手段から出力される信号に基づき前記駆動手段を正転駆動させると共に、前記バックル装置に対する前記タングプレートの係合が解除された場合に前記タング検出手段から出力される信号に基づき前記駆動手段を逆転駆動させる制御手段と、を備え、前記制限手段が前記変位部材に係合することで、前記付勢手段の付勢力の少なくとも一部を相殺する、ことを特徴としている。
請求項2に記載の本発明に係るシートベルト装置では、座席に着座した乗員がウエビングベルトを身体に装着し、ウエビングベルトに設けられているタングプレートをバックル装置に係合させると、タングプレートがバックル装置に保持され、これにより、ウエビングベルト装着状態になる。また、このように、タングプレートをバックル装置に係合させると、バックル装置に設けられたタング検出手段によってタングプレートがバックル装置に係合しされたことが検出される。
この状態での信号がタング検出手段から出力されると、制御手段により駆動手段が正転駆動させられる。制御手段が正転駆動して出力軸が正転すると、制限手段がテンションリデューサの変位部材に係合する。このように、制限手段が変位部材に係合することでスプールを巻取方向に付勢する付勢手段の付勢力の少なくとも一部が相殺される。これにより、ウエビングベルトを装着した乗員がウエビングベルトから受ける圧迫感を軽減することができる。
また、上記のように駆動手段が正転駆動すると、出力軸が正転するが、出力軸とスプールとの間に設けられたクラッチ手段は出力軸の正転に連動して出力軸とスプールとの連結を解除する。これにより、正転時の出力軸の回転力がスプールに伝えられることはない。
一方、降車する場合等に、乗員が装着しているウエビングベルトを外すためにタングプレートとバックル装置との係合を解除すると、この係合の解除がタング検出手段によって検出される。この状態での信号がタング検出手段から出力されると、制御手段により駆動手段が逆転駆動させられる。
駆動手段が逆転駆動して出力軸が逆転すると、制限手段とテンションリデューサの変位部材との係合が解除される。変位部材に対する制限手段の係合状態では、付勢手段の少なくとも一部が相殺されていたが、上記のように、変位部材に対する制限手段の係合が解除されことで、付勢手段の付勢力の相殺も解除される。これにより、スプールは、相殺されない本来の付勢手段の付勢力で巻取方向に付勢される。
ここで、この状態では、タングプレートとバックル装置との係合が解除されている、すなわち、バックル装置からタングプレートが外されているため、スプールが巻取方向に回転すればスプールにウエビングベルトが巻き取られて収納される。したがって、この状態では、相殺されない本来の付勢手段の付勢力でスプールが巻取方向に回転させられ、素早くスプールにウエビングベルトを巻き取らせて収納することができる。
一方、上記のように、駆動手段が逆転駆動して出力軸が逆転した場合には、クラッチ手段が出力軸とスプールとを連結して、出力軸の回転をスプールに伝え、スプールを巻取方向に強制的に回転させる。したがって、この状態では、駆動手段の駆動力によってもスプールが巻取方向に回転し、ウエビングベルトを巻き取ることになる。このように、付勢手段の付勢力と駆動手段の駆動力とによってウエビングベルトをスプールに素早く巻き取らせて収納することができる。
請求項3に記載の本発明に係るシートベルト装置は、請求項1又は請求項2に記載の本発明において、前記出力軸と前記スプールとの間に介在し、前記出力軸の回転を減速して前記スプールに伝える減速ギヤに直接又は間接的に設けられ、前記減速ギヤの回転で前記変位部材に対して接離移動して前記変位部材に係合及び当該係合が解除される制限部材を前記制限手段とした、ことを特徴としている。
請求項3に記載の本発明に係るシートベルト装置では、出力軸とスプールとの間には減速ギヤが介在しており、出力軸とスプールとが連結されている状態では、駆動手段が駆動することによる出力軸の回転が減速されてスプールに伝えられる。
また、減速ギヤには制限手段を構成する制限部材が設けられており、出力軸の回転が減速ギヤに伝えられて減速ギヤが回転すると、制限部材が変位部材に対して接離移動する。この変位部材に対する制限部材の接離移動により、変位部材が制限部材に係合され、或いは、変位部材に対する制限部材の係合が解除される。
このように、本シートベルト装置では、出力軸の回転を減速してスプールに伝える減速ギヤに制限部材が設けられているため、減速ギヤの回転量に応じて制限部材の移動量が決まる。
換言すれば、変位部材に対して制限部材が係合及び係合解除するのに必要な移動量に応じた減速比(ギヤ比)の減速ギヤを用いることで、制限部材のためだけの減速手段が不要となる。これにより、構成の簡素化を図ることができ、コストが安価になると共に、装置全体の小型化が可能となる。
請求項4に記載の本発明に係るシートベルト装置は、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の本発明において、前記出力軸に直接又は間接的に連結されて前記出力軸の回転に連動して自らの軸周りに回転する回転体と、前記回転体に取り付けられ、前記回転体の軸周りに回動することで前記変位部材に対して接離移動し、当該接離移動により前記変位部材に係合及び係合解除する制限部材と、前記制限部材を前記回転体に連結して、前記回転体と一体に前記制限部材を回転させると共に、前記制限部材が前記変位部材に係合する際の前記制限部材の回動方向とは反対方向の所定の大きさ以上の外力が前記制限部材に作用した場合に、前記制限部材と前記回転体との連結を解除して、前記制限部材に対して前記回転体を相対回転させる連結部材と、を含めて前記制限手段を構成した、ことを特徴としている。
請求項4に記載の本発明に係るシートベルト装置では、出力軸が回転すると、この回転に連動して回転体が自らの軸周り方向に回転する。このように回転体が回転すると、連結部材を介して回転体に連結されている制限部材が回転体と共に回転し、これにより、制限部材がテンションリデューサの変位部材に対して接離移動する。この制限部材の変位部材に対する接離移動によって制限部材が変位部材に係合し、制限部材の変位部材に対する係合が解除される。
ところで、駆動手段の駆動力に基づく出力軸の回転量と制限部材が変位部材に係合するまでの制限部材の回動量とが厳格に対応していない場合には、変位部材に制限部材が係合してもなお変位部材に制限部材が係合する際の回動方向に制限部材が回動しようとして、変位部材に対して制限部材が不要な外力を付与する可能性がある。
ここで、本発明に係るシートベルト装置では、変位部材に係合する際の制限部材の回動方向とは反対方向の所定の大きさ以上の外力が制限部材に作用すると、連結部材が制限部材と回転体との連結を解除する。したがって、制限部材が変位部材に係合した状態で更に回転体が回転し、制限部材が係合した変位部材からの所定の大きさ以上の押圧反力が制限部材に作用すると、回転体と制限部材との連結が解除されて回転体だけが回転する。
これにより、制限部材が変位部材に過剰な押圧力を付与することを防止できる。また、制限部材の回動が変位部材に規制されることによる回転体の回転が規制されることを防止でき、その結果、制限部材が回動規制されても、出力軸を回転させることができる。
以上説明したように、本発明に係るシートベルト装置では、テンションリデューサを作動させ、又は、作動を解除するためのソレノイド等の特別なトリガ手段が不要となる。これにより、部品コストや組み付けコストを低減でき、結果的にシートベルト装置全体のコストを安価にできる。
しかも、上記のようなトリガ手段が不要であるため、トリガ手段の設置スペースや動作スペースの分だけテンションリデューサを小型化、軽量化でき、ひいては、シートベルト装置全体を小型化、軽量化を図ることができる。
<本実施の形態の構成>
図2には本発明の一実施の形態に係るシートベルト装置10の全体構成の概略が側面図によって示されている。この図に示されるように、シートベルト装置10は、ウエビング巻取装置12を備えている。ウエビング巻取装置12は、車両14の運転席16の後方側で且つ車両14のセンターピラー18の下方に設けられている。
図1に示されるように、ウエビング巻取装置12はフレーム20を備えている。フレーム20は一対の脚板22、24を備えている。これらの脚板22、24は、各々の厚さ方向に互いに対向した状態で平行に配置されている。
これらの脚板22、24の幅方向一方の端部は、背板26により連結されており、特に図示はしないが、平面視でフレーム20は図1の紙面手前側へ向けて開口した略凹形状となっている。この背板26が車両14の所定位置にて車体に取り付けられることで、ウエビング巻取装置12がセンターピラー18の下方で車体に固定される構造となっている。
また、ウエビング巻取装置12はスプール28を備えている。スプール28は脚板22、24の対向方向に沿って軸方向の略円筒形状に形成されており、その外周部には長尺帯状に形成されたウエビングベルト30が長手方向基端側から層状に巻き取られて収納されている。ウエビングベルト30は、スプール28がその軸周り方向一方である巻取方向に回転すると、基端側から順次スプール28に巻き取られる。
さらに、スプール28にウエビングベルト30が巻き取られた状態で、ウエビングベルト30をその先端側へ引っ張ると、スプール28に巻き取られているウエビングベルト30が引き出されつつ、スプール28が巻取方向とは反対の引出方向に回転する構造となっている。
図2に示されるように、スプール28に巻き取られた部分よりもウエビングベルト30の先端側は、センターピラー18に沿って伸ばされている。センターピラー18の上端部近傍には、スルーアンカ32が設けられている。スルーアンカ32は、略板状に形成されており、その厚さ方向に貫通するボルト等の締結部材によって、略車両左右方向を軸方向とする軸周りに回動可能に車体に取り付けられている。
スルーアンカ32には長手方向寸法がウエビングベルト30の幅寸法よりも長いスリット孔34が形成されている。ウエビングベルト30はスリット孔34を通過し、スルーアンカ32に支持された状態で略車両下方側へ折り返されている。
スルーアンカ32にて折り返されたウエビングベルト30の先端部は、車両14の運転席16の後方側で且つ車両14のセンターピラー18の下方に設けられたアンカプレート36に係止されている。また、ウエビングベルト30のスルーアンカ32での折り返し部分と先端部との間には、タングプレート38が設けられている。タングプレート38には長手方向寸法がウエビングベルト30の幅寸法よりも長いスリット孔40が形成されており、ウエビングベルト30はスリット孔40を通過している。
一方、運転席16のウエビング巻取装置12やアンカプレート36とは反対側にはバックル装置42が設けられている。バックル装置42は、略箱形状の本体部分に上記のタングプレート38の先端側を挿入すると、本体部分の内部に設けられたラッチ等のロック部材がタングプレート38に形成された孔に入り込み、タングプレート38をロックする構造となっている。
運転席16に着座した乗員がタングプレート38を引っ張りつつウエビングベルト30を引っ張り、タングプレート38をバックル装置42にロックさせて保持させることで、タングプレート38よりも先端側でウエビングベルト30が乗員の腰部を拘束し、タングプレート38よりも基端側でウエビングベルト30が乗員の胸部等を拘束する構造となっている。
また、バックル装置42にはタング検出手段としてのバックルスイッチ44が設けられている。バックルスイッチ44は、タングプレート38がバックル装置42の本体部分に挿入され、又は、バックル装置42の本体部分に挿入されたタングプレート38にラッチ等のロック部材が係合することで電気接点が導通する機械的なスイッチ手段である。
なお、本形態では、バックルスイッチ44に機械的なスイッチ手段を適用した構成であったが、バックルスイッチ44は結果的にタングプレート38がバックル装置42の本体部分に挿入され、又は、バックル装置42の本体部分に挿入されたタングプレート38にラッチ等のロック部材が係合したことを検出できる構造であれば、機械的なスイッチ手段に限定されるものではない。
したがって、例えば、バックル装置42の本体部分内に挿入されたタングプレート38やラッチ等のロック部材に連動するマグネット(永久磁石)と、このマグネットの変位をマグネットの磁気の変化に基づいて検出するホール素子やMRE素子等の磁気センサとを含めてスイッチ手段を構成してもよい。
一方、図1に示されるように、上述したスプール28の内側にはトーションシャフト46が収納されている。トーションシャフト46はスプール28に対して略同軸的で且つスプール28に対して自らの軸心周りに相対回転自在に配置されている。トーションシャフト46の軸方向脚板24側の端部にはアダプタ48が一体的に連結されている。アダプタ48は外周部がスプール28の内周部に一体的に結合されており、このため、トーションシャフト46は、軸方向脚板24側の端部にてスプール28に一体的に連結されている。
これに対して、トーションシャフト46の軸方向脚板22側の端部にはアダプタ50が一体的に連結されている。アダプタ50はスプール28にその一部が嵌め込まれているものの、スプール28に対して同軸的に相対回転可能とされている。さらに、アダプタ50は脚板22を通過してフレーム20の外部に突出しており、脚板22の側方に設けられた図示しないロック機構に連結されている。
この図示しないロック機構は車両急減速状態等に、アダプタ50をロックして上記の巻取方向とは反対の引出方向へのアダプタ50の回転を規制する構造となっている。
一方、脚板24の外側(脚板24を介して脚板22とは反対側)にはテンションリデューサ52が設けられている。図4に示されるように、テンションリデューサ52はケース54を備えている。ケース54は概ね脚板24側へ向けて開口した箱状に形成されており、その内側の一部がラチェット収容部56とされている。
ラチェット収容部56には、変位部材としてのラチェットホイール58がスプール28に対して同軸的に配置されている。ラチェットホイール58の中央には透孔60が形成されている。透孔60にはアダプタ48から同軸的に延出された軸部62が貫通しており、ラチェットホイール58は軸部62に回転自在に軸支されている。
また、ラチェットホイール58の脚板24側の面には筒状部64が同軸的且つ一体的に形成されている。筒状部64の内側には、付勢手段としての渦巻きばね66が収容されている。渦巻きばね66は、その渦巻き方向の軸方向がスプール28の軸方向と同方向とされており、渦巻き方向内側端66Aは、軸部62に形成された図示しない係止部に一体的に連結されて係止されている。これに対して、渦巻きばね66の渦巻き方向外側端66Bは筒状部64に形成された図示しない係止部に一体的に連結されている。
渦巻きばね66は、その内側端66Aが外側端66Bに対して引出方向に回転することで巻き締められるように渦巻き方向が設定されており、内側端66Aが外側端66Bに対して引出方向に回転して巻き締められることで、内側端66Aを巻取方向に付勢する付勢力が増加する構造となっている。
また、筒状部64の外側には渦巻きばね68が設けられている。渦巻きばね68は、その渦巻き方向の軸方向がスプール28の軸方向と同方向とされており、渦巻きばね68の渦の内側に筒状部64が位置している。渦巻きばね68の渦巻き方向内側端68Aは、筒状部64に形成された図示しない係止部に一体的に連結されて係止されている。これに対して、渦巻きばね68の渦巻き方向外側端68Bはケース54に形成された図示しない係止部に一体的に連結されている。
渦巻きばね68もまた渦巻きばね66と同様に、その内側端68Aが外側端68Bに対して引出方向に回転することで巻き締められるように渦巻き方向が設定されており、内側端68Aが外側端68Bに対して引出方向に回転して巻き締められることで、内側端68Aを巻取方向に付勢する付勢力が増加する構造となっている。
一方、スプール28の下方で脚板22と脚板24との間には、駆動手段としてのモータ70が配置されている。モータ70はドライバ72を介して車両14に搭載されたバッテリー74に電気的に接続されている。
また、ドライバ72は制御手段としてのECU76に電気的に接続されている。ECU76は上述したバックルスイッチ44に電気的に接続されており、バックルスイッチ44から出力された信号に基づきECU76がドライバ72を操作し、ドライバ72がモータ70を駆動制御する構成となっている。
一方、図1及び図3に示されるように、モータ70の出力軸78にはギヤ80が同軸的且つ一体的に設けられている。ギヤ80の半径方向上方には、減速手段を構成するギヤ列82が設けられている。ギヤ列82はギヤ80よりも大径のギヤ84を備えている。ギヤ84は脚板22、24間に設けられた支持板86によりスプール28と平行な軸周りに回転自在に軸支された状態で、ギヤ80に噛み合っている。
また、ギヤ84の軸方向側方にはギヤ84よりも小径のギヤ88がギヤ84に対して同軸的且つ一体的に設けられている。
さらに、ギヤ88の半径方向上側側方にはギヤ84、88と共にギヤ列82を構成するギヤ90が設けられており、ギヤ88に噛み合った状態で支持板86によりスプール28と平行な軸周りに回転自在に軸支されている。また、ギヤ90の半径方向上側側方には、クラッチ手段としてのクラッチ92が設けられている。
クラッチ92は外周輪94を備えている。外周輪94はスプール28に対して同軸的に設けられており、外周部に形成された外歯がギヤ90に噛み合っている。したがって、モータ70が正転駆動して出力軸78が正転すると、ギヤ列82を介して減速された引出方向への回転力が外周輪94に付与され、モータ70が逆転駆動して出力軸78が逆転すると、ギヤ列82を介して減速された巻取方向への回転力が外周輪94に付与される。
外周輪94の内側には図示しないアダプタがアダプタ50の軸部62に同軸的且つ一体的に設けられている。さらに、外周輪94の内側には連結部材としての1乃至複数のパウルが設けられている。パウルは外周輪94と一体的に回転する軸部材に揺動可能に軸支されている。外周輪94はアダプタに対してスプール28の軸周りに相対回転可能である。したがって、アダプタが回転してもこのアダプタの回転が外周輪94に伝えられることはない。
但し、外周輪94が巻取方向に回転した場合には、パウルが外周輪94と共に回転しつつ揺動してパウルがアダプタに係合する。このパウルとアダプタとの係合により、パウルを介して外周輪94とアダプタとが機械的に連結され、外周輪94の巻取方向への回転がパウルを介してアダプタに伝えられる構造となっている(要約すると、クラッチ92は、巻取方向の外周輪94の回転をアダプタ、ひいてはスプール28に伝えることはできる。しかしながら、引出方向への外周輪94の回転をアダプタに伝えたり、アダプタの回転、すなわち、スプール28の回転を外周輪94に伝えることはできない)。
一方、上述したギヤ90の半径方向側方にはギヤ96が配置されている。ギヤ96には回転体として制限手段を構成するシャフト98が同軸的且つ一体的に設けられている。シャフト98は脚板24を貫通しており、シャフト98がスプール28と平行な軸周りに回転自在に脚板24に軸支された状態でギヤ96はギヤ90に噛み合っている。
また、脚板24を貫通したシャフト98の先端部には、ケース54に形成された切欠102からケース54の内側に入り込んだ制限部材として制限手段を構成するパウル100が一体的に取り付けられている。パウル100に対応してケース54に内側にはカム104が設けられている。カム104は、ケース54に設けられたシャフト106にスプール28と平行な軸周りに回転自在に軸支されている。
カム104には当接部108が設けられている。図5に示されるように、当接部108はパウル100に当接しており、出力軸78の正転回転をギヤ96が受けることで回動するパウル100により押圧されてシャフト106周りに回動する。
また、カム104には係合爪110が設けられている。係合爪110はテンションリデューサ52のラチェットホイール58の外周部に形成されたラチェット歯に対応しており、当接部108がパウル100に押圧されてカム104が回動すると、図6に示されるように、係合爪110はラチェットホイール58に接近してラチェット歯に噛合する。係合爪110がラチェットホイール58のラチェット歯に噛合した状態では、ラチェットホイール58の引出方向への回転は許容されるが巻取方向へのラチェットホイール58の回転が係合爪110に規制される構成となっている。
さらに、カム104の当接部108には圧縮コイルスプリング112の一端が係合している。圧縮コイルスプリング112の他端は、例えば、ケース54の内周部に形成された図示しない係止部に係止されており、係合爪110をラチェットホイール58のラチェット歯から離間させる方向へ当接部108(すなわち、カム104)を付勢している。
<本実施の形態の作用、効果>
次に、本形態の作用並びに効果について説明する。
本シートベルト装置10では、スプール28に巻き取られたウエビングベルト30を運転席16に着座した乗員が引き出すと、このときウエビングベルト30に付与された張力によってスプール28が引出方向に回転する。このように、スプール28が引出方向に回転すると、先ず、渦巻きばね66の内側端66Aが引出方向に回転する。
渦巻きばね66の内側端66Aが引出方向に回転することで、外側端66Bが追従して引出方向に回転しようとする。しかしながら、外側端66Bは筒状部64を介して渦巻きばね66よりもばね係数が大きい渦巻きばね68の内側端68Aに連結されている。このため、外側端66Bは渦巻きばね68の弾性力により引出方向に回転することができない。したがって、スプール28が引出方向に回転することで、先ず、渦巻きばね66が巻き締まり、渦巻きばね66の付勢力である第1付勢力が増加する。
この状態から更に渦巻きばね66が一定量巻き締まると、渦巻きばね66の外側端66Bが内側端66Aに追従して引出方向に回転する。この回転は筒状部64を介して渦巻きばね68の内側端68Aに伝えられ、内側端68Aを引出方向に回転させる。
渦巻きばね68の外側端68Bはケース54に固定されているため、内側端に追従して引出方向に回転することができない。このため、内側端68Aが引出方向に回転することで渦巻きばね68が巻き締まり、渦巻きばね68の付勢力である第2付勢力が増加する。したがって、本実施の形態では、ウエビングベルト30を引き出すにあたっては、第1付勢力と第2付勢力との合力がスプール28に作用する。
次いで、タングプレート38がバックル装置42に装着されたことをバックルスイッチ44が検出し、このときにバックルスイッチ44から出力された信号がECU76に入力されると、ECU76は正転駆動信号をドライバ72に対して出力する。正転駆動信号が入力されたドライバ72は、モータ70を一定時間だけ正転駆動させる。
モータ70が正転駆動して出力軸78が正転すると、ギヤ列82を構成するギヤ84〜90がモータ70の正転駆動力に基づく回転力を減速させつつクラッチ92の外周輪94に伝え、外周輪94を引出方向に回転させる。但し、クラッチ92は、外周輪94の引出方向の回転をアダプタに伝えることはないため、外周輪94にモータ70の正転駆動力に基づく引出方向の回転力が付与されても、スプール28にモータ70の正転駆動力が伝えられることはない。
一方、上記のように、モータ70が正転駆動して出力軸78が正転すると、ギヤ84〜90が出力軸78の回転を減速しつつギヤ96に伝え、ギヤ96を回転させる。このようにしてギヤ96が回転してシャフト98が回転すると、パウル100が揺動してカム104の当接部108を押圧する。パウル100に押圧された当接部108は圧縮コイルスプリング112の付勢力に抗して回動し、このカム104の回動によりカム104の係合爪110がラチェットホイール58のラチェット歯に接近して噛合する。
係合爪110がラチェットホイール58のラチェット歯に噛合した状態では、ラチェットホイール58は巻取方向への回転が規制される。
この状態では、巻取方向への筒状部64の回転が規制されるため、巻取方向に関しては渦巻きばね68の内側端68Aが固定されることになる。したがって、これまでに渦巻きばね68が巻き締められていても、第2付勢力が筒状部64及び渦巻きばね66を介してスプール28に伝えられることがない。このため、スプール28には渦巻きばね66の第1付勢力のみが作用する。
ここで、ラチェットホイール58のラチェット歯に係合爪110が噛合していない状態では、スプール28に第1付勢力と第2付勢力との合力が作用していたことを考えると、第1付勢力のみが作用する状態では、スプール28に付与される巻取方向への付勢力が軽減されることになる。これにより、乗員がウエビングベルト30を装着した状態でウエビングベルト30による拘束力を弱めることができ、乗員が圧迫感を抱くことを防止又は効果的に軽減できる。
次いで、乗員が降車するため等に、バックル装置42からタングプレート38を取り外したことをバックルスイッチ44が検出し、このときにバックルスイッチ44から出力された信号がECU76に入力されると、ECU76は逆転駆動信号をドライバ72に対して出力する。逆転駆動信号が入力されたドライバ72は、モータ70を一定時間だけ逆転駆動させる。
モータ70が逆転駆動して出力軸78が逆転すると、ギヤ84〜90が出力軸78の回転を減速しつつギヤ96に伝え、ギヤ96を回転させる。このようにしてギヤ96が回転してシャフト98が回転すると、パウル100がケース54に離間する方向へ揺動する。このようにパウル100が揺動すると、パウル100がカム104の当接部108に付与していた押圧力が解除される。
パウル100からの押圧力の付与が解除されたカム104は当接部108に付与されている圧縮コイルスプリング112の付勢力によって回動する。このカム104の回動によりカム104の係合爪110がラチェットホイール58のラチェット歯から離間し、噛合状態が解除される。このように、係合爪110とラチェットホイール58のラチェット歯との噛合状態が解除されることで、係合爪110による巻取方向へのラチェットホイール58の回転規制が解除される。
したがって、筒状部64の回転規制が解除され、巻取方向への渦巻きばね68の内側端68Aの固定が解消される。これにより、これまではスプール28には渦巻きばね66の第1付勢力のみが作用していたが、渦巻きばね68の第2付勢力が筒状部64を巻取方向に付勢するため、第1付勢力と第2付勢力との合力がスプール28に伝えられる。
上記のように、この状態では、バックル装置42からタングプレート38が取り外された状態であるため、第1付勢力と第2付勢力との合力が伝えられたスプール28は、第1付勢力のみの回転力よりも強い回転力で巻取方向に素早く回転させられ、これにより、スプール28にウエビングベルト30が素早く巻き取られて収納される。
また、上記のようにモータ70が逆転駆動して出力軸78が逆転すると、ギヤ列82を構成するギヤ84〜90がモータ70の逆転駆動力に基づく回転力を減速させつつクラッチ92の外周輪94に伝え、外周輪94を巻取方向に回転させる。クラッチ92は、外周輪94が回動すると、外周輪94の内側に設けられたパウルが外周輪94と共に巻取方向に回転しつつ揺動し、外周輪94の内側のアダプタに係合し、外周輪94とアダプタ、ひいてはスプール28とを機械的に連結させる。
これにより、外周輪94に付与された巻取方向への回転力は、スプール28に伝えられ、スプール28は渦巻きばね66、68の第1付勢力と第2付勢力との合力の他、モータ70の駆動力に基づく巻取方向の回転力が付与される。したがって、これによってもスプール28は素早く巻取方向に回転し、素早くウエビングベルト30を巻き取ることができる。
ところで、本シートベルト装置10では、スプール28に巻取方向への回転力を付与するためのモータ70の駆動力でパウル100を揺動させて、カム104を回動させる構成である。このため、ラチェットホイール58の回転を規制するためのソレノイド等の特別な装置が不要になる。これにより、テンションリデューサ52の構成を簡素化でき、テンションリデューサ52を小型化、軽量化できる。
また、モータ70とは別にテンションリデューサ52用のソレノイド等を設けた場合には、モータ70の駆動タイミングとソレノイド等の通電(励磁)タイミング等とを調整しなくてはならず、ECU76等での制御が複雑になる。しかしながら、本シートベルト装置10では、モータ70の制御だけでよいため、ECU76での制御が簡単になる。
また、本シートベルト装置10では、上記のようにギヤ90にギヤ96を噛み合わせ、出力軸78の回転を減速させてギヤ96を回転させている。当然、出力軸78に設けられたギヤ80にギヤ96を噛み合わせてもよいが、この場合には、カム104の押圧及び押圧解除に必要なパウル100の揺動量に対してギヤ96の回転量(すなわち、シャフト98の回転量)が大きすぎる場合が多い。
そこで、本シートベルト装置10では、出力軸78の回転を減速してクラッチ92の外周輪94に伝えるためのギヤ列82の途中のギヤ90にギヤ96を噛み合わせることで、予め、出力軸78の回転を充分に減速してギヤ96に伝えることができる。このため、出力軸78の回転をパウル100に減速して伝えるための特別な減速手段が不要になり、構成を簡素化できると共にコストを安価にできる。
なお、本実施の形態では、バックル装置42からタングプレート38が取り外された場合に、モータ70を逆転駆動させるように、ECU76やドライバ72を設定した構成であった。しかしながら、モータ70を逆転駆動させる際の条件がバックル装置42からタングプレート38が取り外された場合に限定されるものではない。
例えば、赤外線やレーザ又は電波等の前方監視信号を車両前方側に放出すると共に、車両前方の障害物や先行する他の車両で反射した前方監視信号を受信する前方監視手段を車両14に設けると共に、前方監視信号に基づき、前方の障害物や他の車両までの間隔が所定の距離未満になった場合にモータ70を逆転駆動させる構成としてもよい。
このような構成とした場合には、モータ70の逆転駆動力と渦巻きばね66、68の第1付勢力及び第2付勢力の合力とにより、素早くスプール28を巻取方向に回転させることができるため、ウエビングベルト30の僅かな緩み(弛み)であるスラックを素早く解消することができ、通常の走行時に強い拘束力のウエビングベルト30により乗員の身体を確実に拘束することができる。
また、本実施の形態では、ラチェットホイール58にカム104の係合爪110を噛み合わせてラチェットホイール58の回転を規制することで、スプール28に対する渦巻きばね68の第2付勢力の伝達を遮断して実質的にウエビングベルト30の拘束力を弱める構造のテンションリデューサ52を適用したが、テンションリデューサの構造がこのような構造に限定されるものではない。
例えば、タングプレート38がバックル装置42に保持された際には、渦巻きばね66の付勢力の付勢方向とは反対向きの付勢力を有する付勢部材が、渦巻きばね66の付勢力に抗して渦巻きばね66の付勢力の少なくとも一部を相殺し、これにより、実質的にウエビングベルト30の拘束力を弱める構造のテンションリデューサを適用してもよい。
さらに、本実施の形態では、シャフト98とパウル100とを一体的に連結した構成であった。しかしながら、クラッチ部材によってシャフト98とパウル100とを機械的に連結し、また、シャフト98とパウル100との機械的な連結を解除できる構成としてもよい。このようなクラッチ部材によりシャフト98とパウル100との機械的に連結した構造の一例を図7及び図8に基づいて説明する。
図7及び図8に示されるように、この変形例ではパウル100の基部に円筒状の筒部122が形成されており、内径寸法が筒部122の内径寸法と略等しい円孔124が筒部122に対して同軸的にパウル100の基部に形成されている。筒部122及び円孔124の内径寸法はシャフト98の外径寸法よりも極僅かに大きく、シャフト98は筒部122及び円孔124を貫通することでパウル100をシャフト98周りに回転自在に軸支する。
また、パウル100には円孔126が円孔124に対して同軸的に形成されている。円孔126は、その内径寸法が円孔124よりも充分に大きく形成されている。また、円孔126の深さ寸法はパウル100の厚さ寸法よりも小さく、その一端はパウル100の筒部122が設けられた側の端面とは反対側の端面にて開口している。
さらに、円孔126の内周一部からは円孔126の半径方向内方側へ向けて係合凸部128が突出形成されている。また、円孔126の内側には、連結部材として制限手段を構成するクラッチスプリング130が配置されている。
クラッチスプリング130は内径寸法がシャフト98の外径寸法に略等しい略C字形状(すなわち、一部が切断されたリング状)の本体132を備えている。この本体132の一端からは本体132の半径方向外方側へ向けて係合片134が屈曲して形成されていると共に、本体132の他端からは本体132の半径方向外方側へ向けて係合片136が屈曲して形成されている。
このような構造の変形例では、ギヤ96が回転してシャフト98が回転すると、シャフト98の外周部とクラッチスプリング130の本体132の内周部との間の摩擦でクラッチスプリング130がシャフト98に追従して回転する。シャフト98に追従して回転したクラッチスプリング130は、係合片134又は係合片136が係合凸部128に当接すると、係合凸部128をその回転方向に押圧し、パウル100をシャフト98の回転方向と同じ方向へ回転させる。これにより、パウル100をケース54に対して接離する方向へ回転させることができる。
ここで、上記のようにパウル100はカム104の当接部108を押圧してカム104を回動させて係合爪110をラチェットホイール58のラチェット歯に噛合させる。このように係合爪110がラチェットホイール58のラチェット歯に噛合した状態では、基本的にカム104はそれ以上回転することはできない。したがって、この状態で更に当接部108を押圧する方向にパウル100が回転しようとすると、当接部108がパウル100の回転を規制する。
この規制状態でシャフト98がクラッチスプリング130を介してパウル100を回転させようとすると、当接部108からの押圧反力が、シャフト98の外周部とクラッチスプリング130の本体132の内周部との間に生じている摩擦に打ち勝つ。これにより、クラッチスプリング130の本体132とシャフト98との間で滑りが生じて、シャフト98からパウル100への回転力の伝達が遮断される。このように滑りが生じることで、シャフト98が回転してもパウル100は回転しない相対回転状態になる。
したがって、このように係合爪110がラチェットホイール58のラチェット歯に噛合した後に当接部108からの押圧反力でシャフト98からパウル100への回転力の伝達を遮断できるため、過剰な押圧力をカム104に付与することを防止できる。
また、このように、過剰な押圧力をカム104に付与することを防止できるため、係合爪110をラチェットホイール58のラチェット歯に噛合させる際のシャフト98の回転量を厳格に設定しなくてもよく、したがって、ギヤ80からギヤ96までの減速比を厳格に設定しなくよい。これにより、上記のギヤ列82やギヤ96の設計が容易になり、コストを安価にできる。