前述した特許2671478号公報に記載のミシンの上糸つかみ装置においては、ベッド部の針板の下側に、糸輪捕捉器に接近させて、複数のエアシリンダ、支持ブロック、ガイド棒、その他の複数の部材を設けて上糸つかみ装置を構成しているため、上糸つかみ装置が複雑化且つ大型化し、ベッド部が大型化するとともに、製造コストが高くなること、軽量化を図れないこと、等の問題がある。
請求項1に係るミシンの上糸挟持機構は、ベッド部の針板の下側で縫針の目穴から延びる上糸の糸端部を解除可能に挟持するミシンの上糸挟持機構において、針板の下面に付設された第1糸挟持部材と、針板の針穴を貫通した縫針の通過を許す糸穴を有し第1糸挟持部材と協働して糸端部を挟持する第2糸挟持部材と、第2糸挟持部材を、糸端部の挟持を開始する開始位置と、糸端部を挟持する挟持位置と、糸端部の挟持を解除する解除位置とにわたって移動させる駆動手段とを備え、駆動手段は、開始位置から挟持位置への移動を実行可能なステッピングモータと、少なくとも挟持位置から解除位置への移動に用いるソレノイドアクチュエータとを有し、この駆動手段は、第2糸挟持部材を開始位置と挟持位置と解除位置とにわたって回動駆動させるものである。
第2糸挟持部材が開始位置にあるとき、第2糸挟持部材の糸穴と針板の針穴とが合致するので、縫針の通過が可能となり、縫製が開始される。開始後の1針目の縫針が針板の上側に移動したとき、第2糸挟持部材が駆動手段のステッピングモータにより挟持位置に移動されるため、第1糸挟持部材と協働して糸端部が挟持される。数針分の縫製が実行されたとき、第2糸挟持部材が駆動手段のソレノイドアクチュエータにより解除位置に移動されるため、糸端部の挟持が解除される。それ故、縫製開始時に目飛びしない。
この駆動手段は、第2糸挟持部材を開始位置と挟持位置と解除位置とにわたって回動駆動させるものである。この場合、第2糸挟持部材は、駆動手段による回動により、開始位置と挟持位置と解除位置とにわたって順次回動される。
請求項2に係るミシンの上糸挟持機構は、請求項1の発明において、前記第1糸挟持部材は、針板に鉛直のピン部材により回動可能に枢着され、第2糸挟持部材と協働して糸端部を挟持する挟持位置と、糸端部の挟持を解除する解除位置とにわたって回動可能に構成されたものである。この場合、第1糸挟持部材が鉛直のピン部材により針板に回動可能に枢着されているため、第2糸挟持部材の挟持位置への回動時に第1糸挟持部材と協働して糸端部を挟持し、第2糸挟持部材の解除位置への回動時に第1糸挟持部材も解除位置に回動し、糸端部の挟持を解除する。
請求項3に係るミシンの上糸挟持機構は、請求項1の発明において、前記開始位置に対して挟持位置は第2糸挟持部材が第1角度回動した位置にあり、挟持位置に対して解除位置は第2糸挟持部材が第1角度と同方向へ第2角度回動した位置にあるものである。この場合、第2糸挟持部材は、第1角度の回動により開始位置から挟持位置に回動し、更なる同方向への第2角度の回動により挟持位置から解除位置に回動するので、これら挟持位置や解除位置における糸端部は、縫針の位置よりも側方に位置しているため、糸端部の挟持状態における縫製時に、糸端部が縫い込まれることがない。
請求項4に係るミシンの上糸挟持機構は、請求項3の発明において、前記第1糸挟持部材を挟持位置の方へ付勢する弾性部材と、第1糸挟持部材を弾性部材の付勢力に抗して挟持位置に係止する係止部材とを設け、第2糸挟持部材が挟持位置から解除位置への回動に際して第1糸挟持部材を係合により挟持位置から解除位置へ回動させる係合部材を第2糸挟持部材に設けたものである。
この場合、第1糸挟持部材は弾性部材の付勢力により挟持位置以外への回動が抑制されるため、挟持位置に回動した第2糸挟持部材と、挟持位置に位置保持されている第1糸挟持部材とで糸端部を挟持する。第2糸挟持部材を挟持位置から解除位置へ回動させる場合、第2糸挟持部材に設けた係合部材に第1糸挟持部材を係合させて、弾性部材の付勢力に抗して解除位置に回動させるために大きなトルクを要するが、ソレノイドアクチュエータの大きな駆動力により一気に解除位置まで回動される。
請求項5に係るミシンの上糸挟持機構は、請求項2〜4の何れかの発明において、前記第1糸挟持部材の回動支点は針穴よりもベッドの長さ方向の根元側に設けられ、第2糸挟持部材の回動支点は第1糸挟持部材の回動支点よりも更に根元側に設けられたものである。この場合、第2糸挟持部材が挟持位置に回動した場合、第2糸挟持部材の挟持部と挟持位置に位置する第1糸挟持部材の挟持部とが重なるので、これら挟持部により糸端部が挟持される。しかし、第2糸挟持部材が挟持位置に回動した場合には、回動支点の異なりにより、これら両挟持部にズレが生じ、第2糸挟持部材の糸穴が開放されるため、糸端部の挟持が解除される。
請求項6に係るミシンの上糸挟持機構は、請求項1〜5の何れかの発明において、前記第2糸挟持部材の糸穴を有する先端部における第1糸挟持部材への移動側に拡大部が形成され、第2糸挟持部材の少なくとも開始位置において拡大部の一部が第1糸挟持部材に重合しているものである。この場合、第2糸挟持部材の糸穴を有する先端部の第1糸挟持部材への移動側に形成された拡大部が、少なくとも開始位置において前記第1糸挟持部材に重合しているため、第2糸挟持部材が挟持位置に回動する場合、その拡大部の第1糸挟持部材との重合を介して、第1糸挟持部材と衝突することなく、所定の移動速度を維持しながらスムーズに挟持位置へ移動する。
請求項7に係るミシンの上糸挟持機構は、請求項1〜6の何れかの発明において、前記ステッピングモータの初期設定に伴う第2糸挟持部材の原点位置は、開始位置に設定されているものである。この場合には、ステッピングモータの初期設定を実行したときに、第2糸挟持部材は原点位置である開始位置に回動するため、その開始位置において縫製を直ぐに開始しても、縫針と第2糸挟持部材とが干渉することがない。
請求項8に係るミシンの上糸挟持機構は、請求項1〜7の何れかの発明において、前記第2糸挟持部材が開始位置にあることを検出する第1検出センサを設けたものである。この場合、第1検出センサは、第2糸挟持部材が開始位置に回動したことを検出する。
請求項1の発明によれば、第1糸挟持部材と、第2糸挟持部材と、駆動手段とを設け、駆動手段は、開始位置から挟持位置への移動を実行可能なステッピングモータと、少なくとも挟持位置から解除位置への移動に用いるソレノイドアクチュエータとを有するので、第2糸挟持部材を駆動手段のステッピングモータにより開始位置に移動させたときに縫製を開始し、開始後の1針目の縫針が針板の上側に移動したときに、第2糸挟持部材が挟持位置に移動されるため、第2糸挟持部材と第1糸挟持部材との協働で糸端部を確実に挟持することができる。
一方、数針分の縫製が実行されたとき、第2糸挟持部材がソレノイドアクチュエータにより解除位置に移動されて糸端部の挟持が解除されるため、縫製開始時における目飛びを確実に防止することができる。
この駆動手段は、第2糸挟持部材を開始位置と挟持位置と解除位置とにわたって回動駆動させるので、直線状に移動させる移動機構と比べて、上糸挟持機構の駆動系を簡単化でき、ミシンの小型化及び軽量化、更には低コスト化を図ることができる。
請求項2の発明によれば、前記第1糸挟持部材は、針板に鉛直のピン部材により回動可能に枢着され、第2糸挟持部材と協働して糸端部を挟持する挟持位置と、糸端部の挟持を解除する解除位置とにわたって回動可能に構成されたので、第2糸挟持部材の挟持位置への回動時に第1糸挟持部材と協働して糸端部を挟持でき、しかも第2糸挟持部材の解除位置への回動時に第1糸挟持部材も解除位置に回動するため、糸端部の挟持を解除することができる。その他請求項1と同様の効果が得られる。
請求項3の発明によれば、前記開始位置に対して挟持位置は第2糸挟持部材が第1角度回動した位置にあり、挟持位置に対して解除位置は第2糸挟持部材が第1角度と同方向へ第2角度回動した位置にあるので、これら挟持位置や解除位置における糸端部は、第1角度又は第2角度だけ、縫針の位置よりも側方に位置しているため、糸端部を挟持した縫製時において、糸端部の縫目による縫い込みを確実に防止することができる。その他請求項1と同様の効果を奏する。
請求項4の発明によれば、前記第1糸挟持部材を挟持位置の方へ付勢する弾性部材と、第1糸挟持部材を弾性部材の付勢力に抗して挟持位置に係止する係止部材とを設け、第2糸挟持部材が挟持位置から解除位置への回動に際して第1糸挟持部材を係合により挟持位置から解除位置へ回動させる係合部材を第2糸挟持部材に設けたので、第1糸挟持部材は弾性部材の付勢力により挟持位置以外への回動が抑制されるため、挟持位置に回動した第2糸挟持部材と、挟持位置に位置保持されている第1糸挟持部材とで糸端部を確実に挟持させることができる。
更に、第2糸挟持部材を挟持位置から解除位置へ回動させる場合、第2糸挟持部材に設けた係合部材に第1糸挟持部材を係合させて、弾性部材の付勢力に抗して解除位置に回動させるのに大きなトルクを要するが、ステッピングモータを用いることなく、ソレノイドアクチュエータの大きな駆動力により一気に解除位置まで回動させることができるため、小型で安価なステッピングモータを用いることができる。その他請求項3と同様の効果を奏する。
請求項5の発明によれば、前記第1糸挟持部材の回動支点は針穴よりもベッドの長さ方向の根元側に設けられ、第2糸挟持部材の回動支点は第1糸挟持部材の回動支点よりも更に根元側に設けられたので、挟持位置に回動した第2糸挟持部材の挟持部と、既に挟持位置に位置する第1糸挟持部材の挟持部とが重なり、これら挟持部により糸端部を確実に挟持することができる。一方、第2糸挟持部材が挟持位置に回動した場合には、回動支点の異なりにより、両挟持部にズレが生じるため、第2糸挟持部材の糸穴の開放により糸端部の挟持を確実に解除することができる。その他請求項2〜4の何れかと同様の効果を奏する。
請求項6の発明によれば、前記第2糸挟持部材の糸穴を有する先端部における第1糸挟持部材への移動側に拡大部が形成され、第2糸挟持部材の少なくとも開始位置において拡大部の一部が前記第1糸挟持部材に重合しているので、第2糸挟持部材が挟持位置に回動する場合、その拡大部の第1糸挟持部材との重合を介して、第1糸挟持部材と衝突することなく、所定の移動速度を維持させながら、スムーズな挟持位置への移動を実現することができ、挟持作動の迅速化を図ることができる。その他請求項1〜5の何れかと同様の効果を奏する。
請求項7の発明によれば、前記ステッピングモータの初期設定に伴う第2糸挟持部材の原点位置は、開始位置に設定されているので、ステッピングモータの初期設定を実行したとき、第2糸挟持部材が原点位置である開始位置に回動するため、その開始位置において縫製を直ぐに開始することができ、しかも縫針と第2糸挟持部材との干渉を確実に防止することができる。その他請求項1〜6の何れかと同様の効果を奏する。
請求項8の発明によれば、前記第2糸挟持部材が開始位置にあることを検出する第1検出センサを設けたので、第1検出センサで第2糸挟持部材の開始位置への回動を確実に検出することができ、第1検出センサからの検出信号を縫製開始時の上糸挟持制御に有効活用することができる。その他請求項1〜7の何れかと同様の効果を奏する。
図1に示すように、電子閂止めミシン1は、作業テーブル8上に載置され、ベッド部2と、ベッド部2の後端部から上方に立設する脚柱部5と、脚柱部5の上端部からベッド部2と対向するように前方へ延びるアーム部6等から構成されている。
尚、作業テーブル8上に操作パネル9(図10参照)が設けられ、この操作パネル9には、液晶ディスプレイ、縫製に供する閂止め縫目の種類や縫目模様を選択する選択スイッチ、上糸の糸端部を挟持させるか否かを設定する糸挟持モードスイッチ、縫製速度等の各種の縫製条件を設定するための各種のスイッチ及びランプ類が設けられている。
脚柱部5及びアーム部6には、針棒10を介して縫針11を上下駆動するためのミシンモータ67(図10参照)、ミシンモータ67の駆動力を主軸を介して縫針11に伝達する駆動力伝達機構、布押え13を布押え機構(図示略)を介して上下動させる押え駆動機構(図示略)等が設けられるとともに、アーム部6の前端部の内部に、針棒10を上下動させる針棒上下動機構、上糸を引き上げる天秤を駆動する天秤駆動機構等が設けられているが、公知の技術であるため、ここではその詳細な説明を省略する。
ベッド部2は、脚柱部5が立設されるベッド本体部3と、ベッド本体部3から前方に延びるシリンダベッド部4からなり、シリンダベッド部4の上面に、針穴12aを有する針板12が着脱可能に固定されている。
ベッド部2には、図示を省略するが、布押え13を有する布押え機構と送り板14を前後方向(Y方)及び左右方向(X方向)に移動させる布送り機構に加えて、縫針11の上下動と調時して閂止め縫目を形成する垂直釜(半回転釜)15と、半回転駆動力を垂直釜15に伝達する下軸16と、後述する上糸挟持機構20と、縫製終了時に上糸と下糸を切断する糸切り機構(図示略)などが設けられている。
垂直釜15は、簡単に説明すると、図3に示すように、正面向きに配設され、ミシンフレームに取付けられた大釜体15aと、大釜体15aに回転可能に枢支される中釜15b及びドライバ15c等からなり、ドライバ15cが下軸16により半回転駆動される。中釜15bにはボビンケース17が収納されるとともに、剣先15dが形成されている。
ここで、作業テーブル8の下側に足踏みペダル18(図10参照)が設けられ、操作者により1段目の押え位置まで踏み込まれたときに、押えモータ68の駆動により布押え機構を介して布押え13が上昇位置から針板12上面の下降位置(押圧位置)に下降し、操作者により2段目の縫製位置まで踏み込まれたときに、縫製制御が開始される。
次に、ベッド部2に設けられた上糸挟持機構20について説明する。上糸挟持機構20は、針板12の下面に枢着された第1糸挟持板21(これが第1糸挟持部材に相当する)及び第2糸挟持板22(これが第2糸挟持部材に相当する)と、これら第1及び第2糸挟持板21,22を回動駆動するための回動駆動機構35(これが駆動手段に相当する)等を有する。
図2〜図5に示すように、針板12の下面には、略L字状の第1糸挟持板21の基端部が、針穴12aよりも後方且つ左側において鉛直の第1枢支ピン23(これがピン部材に相当する)により回動可能に枢着されている。第1糸挟持板21の挟持腕部21aの前端部に第1糸挟持部21bが形成されるとともに、第1糸挟持板21のバネ受け部21cにストッパ部21d(これが係止部材に相当する)が後方突出状に一体形成されている。
更に、針板12の下面には、第1糸挟持板21の下側に配設された略L字状の第2糸挟持板22の基端部が、針穴12aよりも後方且つ第1糸挟持板21の回動支点よりも後側(ベッド部2の長さ方向の根元側)において鉛直の第2枢支ピン24(これがピン部材に相当する)により回動可能に枢着されている。即ち、針板12の下面に第1糸挟持板21が配置され、第2糸挟持板22は第1糸挟持板21の直ぐ下側に配置されている。
第2糸挟持板22の挟持腕部22aの先端部に、縫針11及び上糸7の通過を許す糸穴22bが形成されるとともに、糸穴22bに隣接する前端部分に第2糸挟持部22cが形成されている。その糸穴22bが形成された第2糸挟持部22cにおける第1糸挟持板21への移動側(左側)に拡大部22gが形成されている。図4に示すように、第2糸挟持板22が開始位置22(S) に位置しているときに、図5に示すように、その拡大部22gの一部が第1糸挟持板21の第1糸挟持部21bに下側から重合している。
針板12の後端部にバネ係止板25が固着され、このバネ係止板25と第1糸挟持板21のバネ受け部21cの先端部との間に引っ張りコイルバネ26が掛装されている。それ故、第1糸挟持板21は、引っ張りコイルバネ26のバネ力により平面視にて反時計回りの方向に、つまり挟持位置21(K) の方へ弾性付勢されるが、ストッパ部21dが第2糸挟持板22の基端部に形成された上向きのボス部22dに当接して、図4に示す挟持位置21(K) に係止されている。
ここで、第2糸挟持板22の連結腕部22eの連結部が、後述する回動駆動機構35の糸挟持連竿45の先端部である連結部の上側に配置され、上側に位置する第2糸挟持板22の連結部に係合穴22fが形成され、下側に位置する糸挟持連竿45の連結部に上向きの連結ピン46が固着されている。そこで、連結ピン46が係合穴22fに下側から連結解除可能に嵌合され、第2糸挟持板22と糸挟持連竿45とが、これら連結ピン46と係合穴22fの係合を介して回動可能に連結されている。
更に、第2糸挟持板22の挟持腕部22aの糸穴22bよりも後方よりの上面に係合ピン27(これが係合部材に相当する)が固着され、第2糸挟持板22が、図6に示す挟持位置22(K) から図8に示す解除位置(L) に回動する際に、その係合ピン27が第1糸挟持板21の挟持腕部21aに係合し、第1糸挟持板21は、引っ張りコイルバネ26のバネ力に抗して、図6に示す挟持位置21(K) から図8に示す解除位置21(L) まで回動する。
ここで、針板12の下面には、刃部を有する固定刃30がビス止めされるとともに、刃部を有する可動刃31が枢支ピン32により回動可能に枢着されている。可動刃31は糸切り連竿33の先端部に連結され、糸切断に際して、糸切りソレノイド69の駆動により糸切り駆動系を介して糸切り連竿33が前方に移動するため、可動刃31と固定刃30との協働で上糸7及び下糸が切断されるが、その詳細については説明を省略する。
次に、第2糸挟持板22を、開始位置22(S) と、挟持位置22(K) と、解除位置22(L) とにわたって、糸挟持連竿45を介して回動駆動する回動駆動機構35について、図1,図2,図4に基づいて説明する。
ベッド本体部3に、ステッピングモータからなる糸挟持モータ36が下向きに配置され、取付け板37を介してフレームに固着されている。糸挟持モータ36の駆動軸36aに駆動レバー38の基端部が固着され、その駆動レバー38の先端部にL字状のリンク板39の基端部が連結ボルト40で連結されている。糸挟持モータ36の側方に、上下に連結腕部41a,41bを有する回動レバー41が配置され、鉛直向きの枢支軸42を介してフレームに回動可能に枢支されている。
リンク板39の他端部は、回動レバー41の下側の連結腕部41aに連結ボルト43で連結され、回動レバー41の上側の連結腕部41bに糸挟持連竿45の一端部が連結ボルト44で連結されている。糸挟持連竿45の先端部の上面に固着された連結ピン46が第2糸挟持板22の連結腕部22eの係合穴22fに下側から嵌合している。
一方、糸挟持連竿45の一端部よりも後方に延長部45aが形成され、その延長部45aの直ぐ後側に糸解除ソレノイド49が設けられている。糸解除ソレノイド49のプランジャー49aの先端部分に、糸挟持連竿45の板厚よりも大きい幅寸法のスリットが所定長さにわたって形成され、延長部45aがそのスリット内においてピン49bにより連結されている。
ここで、図2に示すように、糸解除ソレノイド49が駆動されていない状態であって、プランジャー49aが進出状態では、第2糸挟持板22が開始位置2(S) であり、糸解除ソレノイド49が駆動されてプランジャー49aが退入駆動された場合、第2糸挟持板22は挟持位置22(K) を経て一気に解除位置22(L) に回動する。勿論、第2糸挟持板22が挟持位置22(K) のときに糸解除ソレノイド49が駆動された場合にも、第2糸挟持板22は解除位置22(L) に回動する。
糸挟持モータ36の初期設定に伴う第2糸挟持板22の原点位置が、図4に示す開始位置22(S) に設定されている。但し、第2糸挟持板22の開始位置2(S) とは、糸挟持モータ36の初期設定時の原点位置であり、糸穴22bが針板12の針穴12aに合致した位置であり、縫針11や糸端部7aが挿通可能な位置である。
それ故、糸挟持モータ36の所定量の駆動により、第2糸挟持板22は、図4の開始位置22(S) から図6に示す挟持位置22(K) まで、第1角度に相当するα1だけ時計回りに回動する。このとき、第1糸挟持板21は挟持位置21(K) であるため、挟持位置22(K) に移動した第2糸挟持板22の第2糸挟持部22cと、挟持位置21(K) にある第1糸挟持板21の第1糸挟持部21bとの協働により、縫針11の目穴11aから延びる糸端部7aが挟持される。
糸解除ソレノイド49の駆動により、第2糸挟持板22は、図6の挟持位置22(K) から図8に示す解除位置22(L) まで、第2角度に相当するα2だけ時計回りに回動する。このとき、第2糸挟持板22の係合ピン27が第1糸挟持板21の挟持腕部21aに係合して、第1糸挟持板21は、係合ピン27により、図6の挟持位置21(K) から図8に示す解除位置21(L) まで回動される。
この場合、第1糸挟持板21の回動支点から第1糸挟持部21bまでの距離よりも、第2糸挟持板22の回動支点から第2糸挟持部22cまでの距離の方が大きく、しかも、係合ピン27が第1糸挟持板21の第1糸挟持部21bよりも回動支点側の挟持腕部21aに係合するため、第1糸挟持板21の第1糸挟持部21bの方が第2糸挟持板22の第2糸挟持部22cよりも大きく回動するため、図9に示すように、第2糸挟持板22の糸穴22bは、第1糸挟持部21bで塞がれることなく大きく開放され、挟持していた糸端部7aが開放される。
ところで、リンク板39の検出腕部39aと取付け板37との間に、磁気センサ(所謂、近接センサ)からなる原点検出センサ48(これが第1検出センサに相当する)が設けられている。この原点検出センサ48は、糸挟持モータ36の駆動により、第2糸挟持板22が開始位置22(S) に回動したときのリンク板39の検出腕部39aを検出して、「H」レベルの原点位置検出信号を出力する。即ち、原点検出センサ48からの原点位置検出信号が「H」レベルの場合、第2糸挟持板22が開始位置22(S) に回動していることになる。
次に、電子閂止めミシン1の制御系について説明する。図10に示すように制御装置55は、入力インターフェース56と、CPU57とROM58とRAM59と、出力インターフェース60と、駆動回路61〜66等を含むコンピュータで構成されている。入力インターフェース56には、足踏みペダル18に有する第1スイッチ18aと第2スイッチ18bと、操作パネル9と、原点検出センサ48と等が接続されている。
出力インターフェース60から、駆動回路61を介してミシンモータ67に、駆動回路62を介して押えモータ68に、駆動回路63を介して糸挟持モータ36に、駆動回路64を介して糸解除ソレノイド49に、駆動回路65を介して糸切りソレノイド69に、駆動回路66aを介して布送り機構を左右方向(X方向)に移動させるX軸駆動モータ70に、駆動回路66bを介して布送り機構を前後方向(Y方)に移動させるY軸駆動モータ71に夫々駆動信号が出力される。
第1スイッチ18aは、操作者により足踏みペダル18が1段目の布押え位置に踏み込まれたときにONし、布押え13を上昇位置から針板12上面の下降位置(押圧位置)に下降する。第2スイッチ18bは、操作者により足踏みペダル18が2段目の縫製位置まで踏み込まれたときにONし、縫製制御が開始される。前記ROM58には、各種の閂止め縫目の為の縫製データが記憶されるとともに、後述する閂止め縫目形成のための縫製制御の制御プログラム等が予め記憶されている。
次に、制御装置55で実行される縫製制御について、図11のフローチャートに基づいて説明する。尚、図中符号Si(i=11、12、13・・・)は各ステップを示す。但し、電源が投入された際に、初期設定制御により糸挟持モータ36が平面視にて反時計回りに所定量だけ回動され、図示外の係止部材により第2糸挟持板22の原点位置、つまり開始位置22(S) が決定される。
縫製に供する加工布Wを針板12上に載置し、足踏みペダル18を1段目の押え位置まで踏み込むと、第1スイッチ18aのON信号に基づいて押えモータ68の駆動により布押え13が下降位置に移動して加工布Wを押える。次に、足踏みペダル18が2段目の縫製位置まで踏み込まれるとこの制御が開始される。
この制御が開始され、先ず、第2スイッチ18bがONであって(S11:Yes) 、しかも操作パネル9の糸挟持モードスイッチがONのとき、つまり糸端部7aの挟持を行う場合には(S12:Yes) 、糸挟持モータ36が原点検出制御により駆動され、第2糸挟持板22が開始位置22(S) に回動される(S13)。次に、原点検出センサ48からの原点位置検出信号が「H」レベルの場合には(S14:Yes) 、ミシンモータ67が駆動され(S15)、予め選択された閂止め縫目の縫製処理が開始される(S16)。
ところで、原点検出センサ48からの原点位置検出信号が「L」レベルの場合には(S14:No)、第2糸挟持板22の位置が異常であるため、操作パネル9のディスプレイにエラーメッセージを表示する等のエラー処理が実行され(S26)、この制御を終了する。
次に、縫製処理が開始されて、1針目の縫針11が針板12よりも上側の糸挟持タイミングになったとき、つまり図12において、主軸の位相角が約360°〜30°の範囲の場合(S17:Yes) 、糸挟持モータ36の駆動により第2糸挟持板22がα1だけ回動されて挟持位置22(K) に回動される(S18)。
このとき、原点検出センサ48の原点位置検出信号が「L」レベルのときには(S19:Yes) 、第2糸挟持板22が正常に挟持位置22(K) に回動しているが、原点位置検出信号が「L」レベルでないときには(S19:No)、異常であるため、ミシンモータ67の駆動が直ちに停止され(S25)、エラー処理が実行され(S26)、この制御を終了する。
次に、縫製処理により、所定針数(例えば、3針分)の縫目形成が完了した場合(S20:Yes) 、糸端部7aを挟持する必要がなくなることから、糸挟持モータ36への電源供給が所定時間だけ停止されている間に、糸解除ソレノイド49が所定時間(例えば、約1秒間)だけ駆動され、第2糸挟持板22が更にα2だけ回動されて解除位置22(L) に回動される(S21)。この場合、糸解除ソレノイド49の駆動により、第2糸挟持板22が確実に解除位置22(L) に回動しているため、縫製処理が続行される。
閂止め縫目の縫製処理が終了した場合(S22:Yes) 、糸切りソレノイド69の駆動により糸切り機構を介して可動刃31が駆動され、上糸7と下糸とが切断される(S23)。次に、糸挟持モータ36が逆方向に駆動され、第2糸挟持板22が開始位置22(S) に一気に復帰回動される(S24)。
ところで、糸挟持モードスイッチがOFFであって、糸挟持を行わない場合には(S12:No)、糸挟持モータ36への電源供給が所定時間だけ停止されている間に、糸解除ソレノイド49が所定時間だけ駆動され、第2糸挟持板22は挟持位置22(K) を経て一気に解除位置22(L) に回動される(S27)。次に、ミシンモータ67が駆動され(S28)、縫製処理が実行され(S29)、縫製処理の終了に伴って糸切り処理が実行され(S30)、この制御を終了する。
次に、このように構成された電子閂止めミシン1の作用及び効果について、図13を参照しながら説明する。
足踏みペダル18が2段目の縫製位置まで踏み込まれると、第2糸挟持板22が図4に示す開始位置22(S) に回動するので、縫製開始に伴って縫針11及び糸端部7aが針穴12a及び糸穴22bに侵入する。そして、垂直釜15の剣先15dで上糸7が係合され、剣先15dの移動により上糸ループが拡大される。
1針目の縫針11が針板12の上側に移動し、主軸の位相角が約360°〜30°の場合、つまり天秤により上糸7がある程度引き締められて、糸端部7aの長さが約2〜3cmに短くなったときであって、糸挟持タイミングのときに、糸挟持モータ36の所定量の駆動により、第2糸挟持板22が第1角度に相当するα1により挟持位置22(K) に回動するので(図6,図7参照)、糸端部7aが第1糸挟持板21の第1挟持部21bと第2糸挟持板22の第2挟持部22cとで確実に挟持され、縫製処理が続行される。
糸端部7aが第1及び第2糸挟持部21b,22cの協働により挟持された状態で縫製処理が続行される場合に、これら第1及び第2糸挟持部21b,22cによる挟持位置21(K) ,22(K) は、縫針11の位置よりも側方に位置しているため、縫製時に糸端部7aが剣先15dに引っ掛かって縫目に縫い込まれるのを確実に防止することができる。
その後、縫製処理が進行して、例えば「3針分」の縫目が形成されたときに、糸挟持モータ36への電源供給が所定時間だけ停止されている間に、糸解除ソレノイド49が所定時間(例えば、約1秒間)だけ駆動され、第2糸挟持板22が第2角度に相当するα2により解除位置22(L) に回動する。
これと同時に、係合ピン27の係合を介して第1糸挟持板21も解除位置21(L) に回動する(図8,図9参照)。この場合、前述したように、第1及び第2糸挟持板21,22の回動支点がズレていることと、係合ピン27の係合位置により、第2糸挟持板22の糸穴22bが開放されるため、糸端部7aを確実に開放させることができる。
ところで、第2糸挟持板22と糸挟持連竿45とは、第2糸挟持板22の連結腕部22eの係合穴22fに、糸挟持連竿45の先端部に上向きの連結ピン46を下側から嵌合させているだけなので、つまり第2糸挟持板22と糸挟持連竿45との連結部は連結解除可能に構成されているため、針板12の下側に付着した糸埃等を掃除するために針板12を取り外すに際しては、針板12を固定している複数本の止めネジを取り外し、針板12を上側に持ち上げるだけで、第2糸挟持板22の係合穴22fと糸挟持連竿45の連結ピン46の係合が簡単に解除され、針板12を容易に取り外すことができる。
このように、針板12の下面に第1糸挟持板21及び第2糸挟持板22を配置し、第1糸挟持板21を第1枢支ピン23で回動可能に枢着するとともに、第2糸挟持板22を第2枢支ピン24で回動可能に枢着し、第2糸挟持板22を開始位置22(S) から挟持位置22(K) へ糸挟持モータ36で回動駆動させるので、第2糸挟持板22を開始位置22(S) に回動させたときに縫製を開始し、開始後の1針目の縫針が針板の上側に移動したときに、第2糸挟持板22が挟持位置22(K) に回動されるため、第2糸挟持板2と第1糸挟持板21との協働で糸端部7aを確実に挟持することができる。
一方、数針分の縫製が実行されたとき、第2糸挟持板22が糸解除ソレノイド49により解除位置22(L) に回動されて糸端部7aの挟持が解除されるため、縫製開始時における目飛びを確実に防止することができる。しかも、第2糸挟持板22を開始位置22(S) から挟持位置22(K) 、更には挟持位置22(K) から解除位置22(L) に回動させるだけなので、上糸挟持機構20の構成を簡単化でき、ミシンの小型化及び軽量化、更には低コスト化を図ることができる。
更に、第2糸挟持板22を挟持位置22(K) から解除位置22(L) へ回動させる場合、第2糸挟持板22に設けた係合ピン27に第1糸挟持板21を係合させて、引っ張りコイルバネ26のバネ力に抗して解除位置22(L) に回動させるのに大きなトルクを要するが、糸挟持モータを用いることなく、糸解除ソレノイド49の大きな駆動力により一気に解除位置22(L) まで回動させることができ、小型で安価な糸挟持モータを用いることができる。
また、第2糸挟持板22の回動支点を第1糸挟持板21の回動支点よりも奥側にズラせたことと、第2糸挟持板22の係合ピン27による第1糸挟持板21の係合位置を第1挟持部21bと回動支点の間に設定したことにより、糸端部7aの挟持の開放を実現したので、上糸挟持機構20をより簡単化且つ小型化させることができる。
また、糸挟持モータ36の初期設定に伴う第2糸挟持部材22の原点位置は、開始位置22(K) に設定されているので、糸挟持モータ36の初期設定を実行したとき、第2糸挟持部材22が開始位置22(K) である原点位置に回動するため、その回動位置において縫製を直ぐに開始することができ、しかも縫針11と第2糸挟持部材22との干渉を確実に防止することができる。
また、第2糸挟持板22の糸穴22bを有する第2挟持部22cにおける第1糸挟持板21への移動側に拡大部22gが形成され、拡大部22gの一部が第2糸挟持板22の少なくとも開始位置22(S) において第1糸挟持板21に下側から重合しているので、第2糸挟持板22が挟持位置22(K) に回動する場合、その拡大部22gの第1糸挟持板21との重合を介して、第1糸挟持板21と衝突することなく、所定の移動速度を維持させながら、スムーズな挟持位置22(K) への移動を実現することができ、挟持作動の迅速化を図ることができる。
次に、前記実施の形態の変更形態について説明する。
1〕糸解除ソレノイド49の駆動を停止させたときに、プランジャー49aを、図示しないコイルスプリングのバネ力により進出状態に復帰作動させるように構成にし、図14に示すように、糸挟持モータ36の駆動により第2糸挟持板22を開始位置22(S) から挟持位置22(K) へ回動し、糸解除ソレノイド49の退入駆動により第2糸挟持板22を挟持位置22(K) から解除位置22(L) へ回動する。
縫製処理の終了に伴って、糸解除ソレノイド49の駆動を停止させて、コイルスプリングのバネ力により糸解除ソレノイド49のプランジャー49aを進出させて第2糸挟持板22を一旦挟持位置22(K) へ回動し、糸挟持モータ36の逆回転駆動により第2糸挟持板22を開始位置22(S) に復帰させるようにしてもよい。
2〕第1糸挟持板21を針板12の下面に固着しておき、第2糸挟持板22が開始位置22(S) から挟持位置22(K) を経て解除位置22(L) に回動したとき、糸穴22bが第1糸挟持板21を通過することで開放され、糸端部7aの解除を実現させてもよい。
3〕第2糸挟持板22の回動方向及び第1糸挟持板21の配置を、図4とは左右反対に構成し、第2糸挟持板22を平面視にて反時計回りに回動させて挟持位置22(K) 、解除位置22(L) を実現させてもよい。
4〕糸挟持モータ36に代えて、フィードバック制御が可能な直流モータを採用したり、リニアソレノイドを採用し、糸解除ソレノイド49に代えてリニアソレノイドを採用する等、各種の電動アクチュエータを用いてもよい。
5〕垂直釜15は半回転釜に限らず、全回転釜であってもよい。
6〕糸穴の形状は、円形に限らず、左右に長い楕円形、矩形、多角形等、各種の形状であってもよい。
7〕第2糸挟持板22の解除位置22(L) を糸挟持連竿45を介して検出する解除検出センサを設け、その解除検出センサから出力される解除位置22(L) 検出信号に基づいて、第2糸挟持板22の解除位置22(L) を検出可能に構成するようにしてもよい。
8〕第2糸挟持板22を、直線状に移動させることにより、開始位置22(S) と挟持位置22(K) と解除位置22(L) に位置切換えするように構成してもよい。
9〕本発明は以上説明した実施の形態に限定されるものではなく、当業者でれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施形態に種々の変更を付加して実施することができ、本発明はそれらの変更形態をも包含するものである。
10〕本発明は、針板の下側に付設された第1及び第2糸挟持部材を有する種々の上糸挟持機構を備えた各種のミシンに適用し得ることは勿論である。