JP4414558B2 - 超電導ケーブル - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、超電導ケーブルに関するものである。特に、交流損失の低減と過電流での温度上昇抑制とを実現できる高温超電導ケーブルに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に超電導ケーブルは、中空パイプ状の芯材と、芯材の外周に多層に巻き付けられた超電導線とを有し、芯材の内部に冷媒を流す構造となっている。この中空パイプには、熱伝導の良いCuやAl材を用い、超電導導体部の冷却効果を高める構造している。また、低抵抗材料のCuやAl材を用いることにより、短絡事故時に臨界電流を超える大電流が流れた場合においては、芯材に事故電流が分流し、ケーブルの温度上昇を抑制している。
【0003】
このような超電導ケーブルを実用化するためには交流損失低減が重要である。低損失化のためには、多層導体中の各層の偏流を抑制し、均流化をする必要がある。多層導体の場合、各層の撚り方向や撚りピッチ等の条件を調整し、インダクタンスを調整することにより、各層電流の均流化を図る技術が知られている(特公昭29-6685号公報)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、この技術では、導体長手方向の磁場成分がキャンセルされずに残ることになる。また、これら芯材は低抵抗であるために、キャンセルされずに残った軸方向磁界によって導体部と同じレベルの大きな渦電流損失が発生する。
【0005】
一方、この芯材に生じる損失を抑制するには、芯材を高抵抗材料に変更することが考えられる。しかし、この手段では、短絡事故時等に大電流がケーブルに流れると芯材には分流することなく臨界電流をはるかに超える大電流が全て超電導層に流れ、ジュール発熱による温度上昇により、ケーブルの熔断あるいは特性低下を招く恐れがある。
【0006】
従って、本発明の主目的は、交流損失の低減と過電流での温度上昇抑制とを実現できる超電導ケーブルを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、中空部と撚り線構造とを組み合わせた芯材を用いることで上記の目的を達成する。
【0008】
すなわち、本発明超電導ケーブルは、芯材と超電導層と電気絶縁層とを有する超電導ケーブルである。この超電導層は複数本の超電導線を芯材の外周に螺旋状に巻き付けた構造を有する。そして、芯材は、冷媒流路となる中空部と、中空部の外周で撚り合わされた複数本の常電導材料からなる絶縁被覆線材とを具えることを特徴とする。
【0009】
超電導層の各層の巻きピッチが異なるピッチ調整型導体では導体軸方向の磁界が発生する。低抵抗材の中空パイプを芯材として用いると、この軸方向磁場によって大きな渦電流損失が発生する。この渦電流損失を抑制するには、材料と構造の2方面からの対策が考えられる。
【0010】
まず材料の面からみると、材料の抵抗を上げることが損失低減に有効である。しかし、超電導ケーブルに過電流が流れたときのケーブル温度上昇を抑制するには、芯材が過電流を分担するようにする必要がある。そのためには、芯材の抵抗はなるべく低くする必要がある。
【0011】
構造面からの対策としては、芯材の断面を分割して、軸方向磁界により生じる渦電流のパスを小さくする方法が挙げられる。具体的には、素線絶縁の施された素線を撚り合わせて、芯材を構成すれば良い。
【0012】
一方、ケーブル冷却の観点から芯材内部に冷媒の流路を確保する構造が好ましいと考えられる。
【0013】
そこで、冷媒の流路を確保すると共に、絶縁被覆された複数の線材を撚り合わせることで、交流損失の低減と過電流での温度上昇抑制とを同時に実現する。
【0014】
ここで、中空部を形成する具体的手段としては、▲1▼パイプ材を用いること、▲2▼螺旋状に成形した板材を用いること、▲3▼断面形状が扇状の絶縁被覆線材を撚り合せることで、撚り合わせの中央に空間を形成することが挙げられる。
【0015】
パイプ材としては、渦電流損失抑制の観点から、高抵抗材料が好ましい。例えば、絶縁性のものとしては樹脂製パイプが挙げられる。特に、フッ素系高分子材料が好ましく、ケーブルとして構成された際に必要とされる曲げが可能な程度の可撓性を具えた材料が最適である。このように可撓性を具えたフッ素系高分子材料でパイプ材を構成すれば、渦電流損失の低減とケーブルとしての可撓性を実現できて望ましい。
【0016】
また、板材を螺旋状に巻回したものとしては、帯状の金属板を螺旋状に成形したものが好適である。板材を螺旋状に巻回することで可撓性に優れた構成とできる。特に、1×10− 7Ω・m以上の比抵抗を有する高抵抗金属、例えば銅合金、ステンレスなどが最適である。この比抵抗の限定は、Cuの比抵抗よりも2桁大きい値を目安とした。比抵抗が1×10− 7Ω・m以上の材料でパイプ材を構成すれば、Cuをパイプ材としたときに比べて渦電流損失を2桁小さくすることができる。さらには、この高抵抗材料が非磁性であることが望ましい。磁性材料をパイプ材に用いれば、磁化損失が生じるためである。
【0017】
さらに、断面形状が扇状の絶縁被覆線材を撚り合せることで、撚り合わせの中央に空間を形成する構成を図6に示す。この絶縁被覆線材1は、対向する2辺が同心の円弧で構成され、残りの対向する2辺を直線状としたものである。単層では機械的に弱いため、多層にすることが好ましい。この構成によれば、絶縁被覆線材の内部には巻き芯となるものが何ら存在しなくても冷媒流路となる中空部2を確保できる。また、扇状の絶縁被覆線材を撚り合わせることで、芯材の表面は円形状の絶縁被覆線材を撚り合わせた場合に比べて格段に平滑化できる。
【0018】
一方、中空部の外周で撚り合わせられる線材は、絶縁被覆されたものとする。これにより、芯材の断面を分割した状態として、渦電流のパスを小さくするためである。その断面形状は特に限定されない。円形状のものや、扇形(対向する2辺が同心の円弧で構成され、残りの対向する2辺を直線状としたもの)が利用できる。
【0019】
撚り合わされた絶縁被覆線材の表面は凹凸の少ない平滑に構成することが望ましい。芯材上には超電導線を螺旋状に巻き付けて超電導層が形成される。その際、芯材表面の凹凸が大きいと、ケーブルを曲げた際に超電導線に座屈が生じる。芯材の表面を平滑化しておけば、このような座屈を防止することができる。平滑化の程度は、絶縁被覆線材の撚り溝による凹凸を緩和できる程度とすれば良い。
【0020】
芯材表面の凹凸を平滑化する手段としては、芯線表面自体を円筒面状に成形する方法と、芯材表面に平滑化する層を別途設けることが挙げられる。
前者としては、断面が円形状の絶縁被覆線材を撚り合わせた後、この撚り線をダイスに通して芯線表面を円筒面状に圧縮成形したり、円形状の絶縁被覆線材を撚り合わせた後、この撚り線表面を研磨して芯線表面を円筒面状に形成することが挙げられる。
また、後者の具体例としては、次の手段が挙げられる
▲1▼撚り合わされた絶縁被覆線材の外周にテープ材を巻きつけたり、押出し被覆を形成する。その場合、絶縁性のテープ材、押出し被覆材を用いることが好ましい。テープ材、押出し被覆材自体の渦電流損失を回避することができるからである。また、テープ材を金属にすると、テープエッジで超電導線が座屈する恐れがあるためである。
【0021】
▲2▼芯材における絶縁被覆線材のうち、最外層に使用されている線材の径を内層側の線材の径よりも細径とする。特に、最外層の線材とその直下の線材の撚り方向を逆にする、もしくは両線材の撚りピッチを大きく変えることで、最外層の線材が直下の線材の撚り溝に落ち込まず、芯材表面の平滑化を効果的に実現できる。
【0022】
▲3▼芯材における最外層の絶縁被覆線材の直径dwが、芯材の外接円の直径をD、超電導層の最内層に配置する超電導線の本数をnとしたとき、以下の式を満たす。
πD/(2・n)≧dw
芯材表面の凹凸と超電導線材の座屈との関係を調べた結果、上記の式を満たすことでケーブルの曲げに伴う超電導線材の座屈をほぼ解消することができる。
【0023】
絶縁被覆線材の撚り合わせる層数は特に限定されない。単層でも多層でも構わない。中空部の形成に螺旋状の板材を用いた場合は、絶縁被覆線材を2層以上巻きつけることで芯材の外周を円形に近づけて平滑化することが望ましい。
【0024】
また、絶縁被覆線材を2層以上に撚り合わされた場合、交互撚りとすることが好ましい。絶縁被覆線材の撚り方向を層ごとに交互に変えることで、撚りの弛みが生じにくく、撚り合わせた絶縁被覆線材の表面の凹凸を小さくできるからである。
【0025】
なお、芯材における絶縁被覆線材の直径は2.0mm以下が好ましい。より好ましくは1.5mm以下である。絶縁被覆線材の直径と、絶縁被覆線材の撚り合せ層に生じる渦電流損失との相関を解析したところ、絶縁被覆線材の直径を2.0mm以下にすることが渦電流損失を0.2W/m以下に抑えることに有効であることが判明した。
【0026】
他方、超電導層は超電導線を螺旋状に巻き付けた構成とする。超電導層のうち少なくとも1層の巻きピッチは他層の巻きピッチと異なることが偏流抑制の観点から好ましい。また、複数本の超電導線を螺旋状に巻き付けた超電導磁気遮蔽層を電気絶縁層の外周に具えることが望ましい。磁気遮蔽層付きの超電導ケーブルとすることで、ケーブル外部への漏れ磁場がほとんどなくなり、超電導ケーブルシステムのより一層の低損失化を図ることができる。
【0027】
超電導層および磁気遮蔽層の層数は1層でも多層でも構わない。これら各層で用いられる超電導材料としては、イットリウム系、ビスマス系、タリウム系など、液体窒素を冷媒とする高温酸化物超電導材料が好適である。また、超電導線の形態としては、テープ状のものや、断面形状が円形状のものが挙げられる。これらの超電導線材は、一般に超電導材料の上に銀または銀合金の金属被覆を有している。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、比較例と共に本発明の実施の形態を説明する。ここでは、比較例としてパイプ状の芯材を用いた導体構造について交流損失の試算を行い、続いて後述する実施例についても同様に交流損失の試算を行って比較する。先に交流損失を求める手順について説明する。
【0029】
交流損失を求める手順は、超電導ケーブルを等価回路にモデル化し、インダクタンスの導出・実効抵抗の導出を行い、モデルに対応した回路方程式を作成し、電流分布の算出を行う。そして、電流分布から磁場分布を求め、交流損失を演算する。
【0030】
(モデル化)
3相ケーブルのうちの1相分に着目して、芯材、超電導層(コア)および磁気遮蔽層(シールド)と端末を含む超電導ケーブルを図1のような等価回路とみなした。すなわち、芯材ならびに超電導層を誘導リアクタンスと抵抗とが直列に配置された集中定数回路とみなしている。超電導層には外部電源よりIallが供給され、各超電導層間には絶縁が施されているとした。
【0031】
また、磁気遮蔽層は超電導素線が端部にて接続抵抗rjで接続され、図1のようなループを形成するものとした。図中のi0、i1…は各層に流れる電流、Lco、Lc1…は各層の軸方向磁場によるインダクタンス、r0、r1…は各層の軸方向磁場によるインダクタンス、r0、r1…は各層の実効抵抗、rjは端末のインダクタンスならびに抵抗、Vc、V1はそれぞれ超電導層側、磁気遮蔽層側の電圧である。添え字の0は芯材を表し、超電導層または磁気遮蔽層は内層より1、2、3…のように表記した。このモデルでは、超電導層4層、磁気遮蔽層2層として検討している。
【0032】
(インダクタンス導出)
各超電導層(超電導層および磁気遮蔽層)のインダクタンスについては、層間の相互インダクタンスも考慮して、周方向成分を数式1と定義し、軸方向成分を数式2と定義した。
【0033】
【数1】
【0034】
【数2】
【0035】
(抵抗成分導出)
各層の抵抗成分は、超電導層を構成する素線のACロス理論値Wnorris(ノリスの式)から導くこととした。このとき、素線一本あたりの実効抵抗rwireは、素線に流れる電流Iwireを用いて数式3のように定義する。
【0036】
【数3】
【0037】
ここで、素線の損失Wnorrisは、z=Iwire/Icとすればz<1(臨界電流値未満)のとき、ノリスの式より数式4のようになる。
【0038】
【数4】
【0039】
そして、z>1のとき、フラックススロー損失は数式5のようになる。
【0040】
【数5】
【0041】
ここで、nは、電圧が電流Iのn乗に比例するとした場合のIc近傍でのn値であり、数式5はz=1で数式4と連続するようにしている。これら数式4、5は実験結果と良く一致する。
【0042】
なお、ジョイント抵抗については、試験で求めた端末の抵抗値(3×10-6Ω/ケーブル長)を採用した。
【0043】
(回路方程式)
このモデルでは、回路方程式は下式のようになる。
【0044】
【数6】
【0045】
上式で、初期条件として各層のピッチ、Lc、La、r1、Iallを与えれば、i0〜i6、Vc、Vsに関する9元連立方程式となり、計算によって各層の電流分布を求めることができる。
【0046】
(電流分布の算出)
計算は、まず全通電電流(Iall)に対して初期電流分布(各層の電流値)を適当に与え、そのときの各超電導層の抵抗値を先述の抵抗成分導出プロセスにしたがって求める。すると数式6の回路方程式中のiiとVc、Vsを除く全数値が既知の値となるために、数式6を解いてio〜i6、Vc、Vsを求めることができる。この電流値をもとに再度各超電導層の抵抗値を求めた後、数式6からio〜i6を求める。この作業を、演算前後の計算結果の差が一定値以下となるまで繰り返す。今回は前後の計算結果の差が1%以下となったときに、計算が終了したとみなした。
【0047】
数式6の回路方程式を解けば電流分布が求まるはずであるが、実際は回路中の抵抗成分が電流によって変化する効果を取り入れる必要があるので、答えを解析的に見出すことはできない。「演算前後の計算結果の差が一定値以下となるまで繰り返す」という手法を取り入れることによって、はじめて任意の巻きピッチ条件の超電導ケーブルの電流分布を計算によって推測できるようになった。以上のプロセスを経た時点で電流分布が求められるため、その結果を元にして以下のプロセスにより交流損失量を求める。
【0048】
(磁場の計算)
このモデルでは、超電導層は複数の超電導素線が螺旋状に巻かれた構造であり、通電時の磁場は、図2に示すように、周方向磁場成分と導体軸方向磁場成分に分けて考えることができる。
【0049】
このときのn層目に加わる周方向磁界成分Hcn(単位はA/m)は数式7で表される。
【0050】
【数7】
【0051】
また、n層目に加わる軸方向磁界成分Hcn(単位はA/m)は数式8で表される。
【0052】
【数8】
【0053】
(交流損失の計算)
ピッチ調整を行うことによって電流が均一化した導体部の交流損失は、導体を図3のような隣接したn個の無限平面にモデル化して計算できる。すなわち、導体の磁化損失は、各層の磁化損失の総和とする。
【0054】
各層の磁化損失は、ビーンモデルを前提にした超電導平板の磁化損失の公式(数式9、10)を利用して表すことができる。
【0055】
【数9】
【0056】
【数10】
【0057】
ここで、数式9は磁場が平板全域に侵入していない場合、数式10は磁場が平板の全域に侵入している場合であり、磁場は平板の両側から均等に侵入することを前提としている。また式損失Wの単位はW/m2であり、fは周波数(Hz)、Hmは外部磁界のピーク値(A/m)、Jcは超電導体の臨界電流密度(A/m2)、tは平板の厚さ(m)である。
【0058】
数式9、10を利用すると、1導体中の第n層の磁化損失Wnは超電導平板と同様に、▲1▼磁界が層全体に侵入していない場合、▲2▼磁界が層全体に侵入した場合で異なり、
【0059】
▲1▼の場合には、数式11となり、▲2▼の場合には数式12となる。
【0060】
【数11】
(W/m)
【0061】
【数12】
(W/m)
【0062】
ここで、Hopnはn層以外に流れる電流がn層部に作る磁場(n層部にとっての外部磁場)の大きさ、Iopnはn層を流れる電流が作る磁場(n層部にとっての自己磁場)の大きさであり、前述したn層の周方向磁界成分Hcnと軸方向磁界成分Hanを用いて、Hopnは数式13で表される。
【0063】
【数13】
【0064】
また、n層に流れる電流inを用いて、Iopnは数式14と表される。
【0065】
【数14】
【0066】
これらの単位はいずれもA/mである。
【0067】
また、Rnはn層の半径、Jeはn層部のオーバーオールJc、tanは外側から見たn層部の磁界侵入深さ、tbnは内側から見たn層部の磁界侵入深さである。またWnの単位はW/m、HopnとIopnの単位はどちらもA/mである。
【0068】
一方、円筒パイプ状の金属芯材では、以下の式で表される渦電流損失Wf , eが発生する。
【0069】
【数15】
【0070】
数式15は例えば「Case Studies in Suterconducing Magnets」(PLENUM PUBLISHING Co.)のP.41に記載されており、ρは芯材の比抵抗(@77K)、Rfは芯材の外半径、dは芯材の肉厚、Haoは芯材部の軸方向磁場である。
【0071】
以上のような考えにしたがって、導体の磁場分布と交流損失量を算出してシステムを解析するシミュレーションコードを作成して、コンピューター内に組み込み、解析装置とした。
【0072】
本コードでの計算の流れを図4に示す。計算手順は、次の各ステップ▲1▼〜▲5▼に示す通りである。「電流分布計算」のステップから「各層のピッチを設定」のステップに戻るのは、演算前後の計算結果の差が一定値以下となるまで繰り返すことを示している。
【0073】
▲1▼基本パラメータ設定:パラメータは、線材諸元(幅、厚さ、Ic)、芯材諸元(比抵抗、外径、厚さ)、導体諸元(各層の巻き線方向、各層の外径、各層の厚さ、各層でのIc維持率)、通電条件(通電電流、周波数)とする。
▲2▼各層のピッチ入力
▲3▼各層のインダクタンス計算および実効抵抗の計算
▲4▼連立方程式の作成と、各層の電流値の計算
▲5▼計算した電流分布での磁場分布と導体交流損失計算
【0074】
次に、上記の評価方法(特願2000-5106号、同5107号参照)により超電導層の電流が均流化されるピッチに調整した各比較例、実施例を作製した。
(比較例1)
従来一般的に芯材として使用されるCuパイプを用い、下記諸元の電流分布を均一化した磁気遮蔽層付きのピッチ調整導体(以下、従来導体1という)を試作した。
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
【0079】
(比較例2)
Cuよりも2桁高抵抗のCuNiパイプを用い、下記諸元の電流分布を均一化した磁気遮蔽層付きのピッチ調整導体(以下、従来導体2という)を試作した。
【0080】
【0081】
【0082】
【0083】
【0084】
(実施例1)
次に、中空パイプの外周に絶縁被覆を有する線材を撚り合わせた構造の芯材を用い、電流分布を均一化した磁気遮蔽層付きのピッチ調整導体(以下、導体Aという)を試作した。ここでは、中空パイプをスパイラルステンレス鋼帯で構成している。また、ここでCu撚り線の層数を2層としSZ撚りの交互撚りにしているのは、曲げが加わったときなどに複合芯材の外径を円形に保つために2層以上が好ましいからである。
【0085】
【0086】
【0087】
【0088】
【0089】
(実施例2)
新たに、実施例1と同一性能の線材を用いて、芯材構造のみ異なる導体(以下、導体Bという)を製作した。具体的には、実施例1の芯材の外周に絶縁テープ線を螺旋巻きすることによって表面を平滑化した撚り線複合パイプ構造の芯材を用いた。導体Bの芯材の諸元を以下に示す。
【0090】
【0091】
(実験1)
上述の4サンプル(従来導体1、従来導体2、導体A、導体B)について、直流通電により導体部のIc測定を実施した。また、交流通電により導体部の交流損失測定を実施した。それぞれのIc測定結果、交流損失計算値および測定値を表1にまとめた。
【0092】
【表1】
【0093】
従来導体1および従来導体2、導体BではIc測定値と計算値の差異は小さいが、導体AではIc測定値と計算値の差異が大きくIc低下が観察された。これは、従来導体1および2ではパイプ状の芯材を用い、導体Bでは撚り線複合パイプの周りにクラフト紙を螺旋巻しているため、芯材の表面が平滑化されているのに対して、導体Aは、パイプ材の周りが撚り線のままであるため表面に凸凹が残っており、この凸凹により撚り線の外周に巻回されている超電導線のIcが低下したためと考えられる。
【0094】
また、交流損失測定結果から、Cuパイプ芯材を用いた従来導体1の交流損失は0.9W/mと非常に大きく、計算により、そのうち54%の0.47W/mを芯材に生じる渦電流損失と判断することができる。これに対して、高抵抗のCuNiパイプを芯材として用いた従来導体2では、交流損失は0.4W/mと小さく、渦電流損失についても全損失の2%の0.01W/mレベルと無視できるほど低減できていると判断できる。
【0095】
一方、スパイラル鋼帯の周りに絶縁素線を撚り合わせたものを芯材として用いた導体AおよびBでは、交流損失はそれぞ0.46W/mレベルと低いレベルに抑えることができ、これら導体では渦電流損失は0.04W/mであり、全損失のうちの割合は8%と十分小さくできている。この結果、撚り線複合パイプを芯材として用いることにより、高抵抗パイプを芯材として用いた場合と同様に芯材に生ずる渦電流損失を低減でき、トータルとしてのケーブルロスを低減できることが明らかとなった。
【0096】
なお、今回は撚り線複合パイプのパイプ材となるスパイラルステンレス鋼帯自体の損失を低減させるためSUS−316板材を用いたが、Cuよりも比抵抗が2桁大きいρ=1×10− 7Ω・m以上の高抵抗材料を用いることで同様の効果を得ることが可能である。また、磁化損失を抑制するために非磁性であることが好ましい。
【0097】
これら実験の結果、撚り線複合パイプを芯材として用いた導体において、芯材に生じる渦電流損失を、高抵抗パイプを用いた場合と同程度レベルまで低減することが確認できた。さらに、Ic低下抑制の観点より、撚り線複合パイプの周りに絶縁テープを螺旋巻きし、表面を平滑化することが好ましいことも明らかとなった。
【0098】
これらの結果から、撚り線複合パイプを芯材として用いることで、高抵抗の芯材を用いた場合には期待できなかった短絡電流などの事故電流の芯材への分流を可能とすることができ、事故時のケーブル温度上昇を抑制できることがわかった。
【0099】
(実施例3)
さらに、導体A、導体Bのスパイラル鋼帯をほぼ同サイズのポリテトラフルオルエチレン製パイプに変更した導体C、Dも作製して、同様にIc測定および交流損失測定・計算を行った。その結果、導体C、D共に渦電流損失を低減でき、トータルとしてのケーブルロスを低減できることがわかった。また、パイプ材は絶縁性であるが、撚り合わせた線材に事故電流を分流させることができるため、事故時のケーブル温度上昇を抑制することもできる。
【0100】
(実施例4)
次に、芯材として下記に示す撚り線複合パイプを用い、下記諸元の電流分布を均一化した磁気遮蔽層付きのピッチ調整導体(以下、導体Eという)を試作した。ここでCu撚り線の層数を2層目の絶縁素線径を1層目に比べ細径化した線材を用いた。また、撚り方向はSZ撚りの交互撚りにしている。
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
(実験2)
実施例4で試作した導体Eについて、直流通電により導体部のIc測定を実施した。また、交流通電により導体部の交流損失測定を実施した。それぞれのIc測定結果、交流損失計算値および測定値を表1にまとめた。導体AではIc測定値と計算値の差異が大きくIc低下が観察されたが、導体EではIc低下は改善されていることが判った。これは、芯材の撚り線部において2層目の素線径を1.1mmとして1層目の1.5mmに対して細径化しているため、表面に凸凹が抑制された結果と考えることができる。
【0106】
また、交流損失測定結果から、交流損失は0.46W/mと小さく、渦電流損失についても全損失の6%と十分小さくできている。この結果、Ic低下抑制の観点より、撚り線複合パイプの最外層の素線径を内側の素線径よりも小さくすることにより、表面を平滑化の効果が期待でき、Ic低下が抑制できることが明らかとなった。
【0107】
(実験3)
次に、導体に曲げを加えた場合に芯材として使用する撚り線複合パイプの表面の凸凹により、芯材の上面に巻かれた超電導線の特性が低下する可能性がある。そこで、撚り線複合パイプを構成する絶縁素線の外径について検討を加えた。
【0108】
まず以下のような予備検討を行った。丸径の線を板の上に並べて凹凸面を作り、この丸線と平行にテープ状超電導線を載せ、100kgfの荷重を加えたときの座屈と線材サイズとの関係を調べた。その結果、丸線の直径がテープ状超電導線幅の1/2よりも小さくなると、テープ状超電導線の座屈がほとんどみられなくなり、Ic低下は小さいことが判った。
【0109】
以上の結果から、芯材表面(最外層)に配置された金属線の直径をdw、芯材の外接円の直径をD、超電導層の最内層に配置するテープ状超電導線本数をnとしたときに、以下の式を満たせば、座屈によるIc低下はほぼ抑制できる。
πD/(2・n)>dw
【0110】
(実験4)
次に、撚り線複合パイプの撚り線に使用する素線径と渦電流損失の関係について解析した。ここで、撚り線の構造は2層構造とし、芯材に印加される磁界は導体部4層、磁気遮蔽層2層の均流化導体では、芯材の外径を変えてもほぼ50Gaussとなるため、一定の磁場条件で解析した。また、撚り合わせる素線本数は2層密巻きの条件で検討した。撚り線に使用する素線径は1〜3.5mmφの範囲で0.5mmきざみに変えて解析した。
【0111】
なお、ケーブル径の小さくするためには、芯材の外径も小さくする必要があるため、今回の解析では芯材の外径を16〜30mmφの条件で検討した。
【0112】
解析結果を図5に示す。この結果、使用する素線径を2mm以下にすれば渦電流損失を0.2W/mとできることが判った。また、好ましくは1.5mmφ以下とすることにより、0.1W/m以下まで抑制できることが判った。
【0113】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明超電導ケーブルによれば、中空部の外周に線材を撚り合わせ、この線材を絶縁被覆したものとすることで、冷媒の流路を確保すると共に、交流損失の低減と過電流での温度上昇抑制とを同時に実現する。特に、本発明超電導ケーブルは、外径に制約の多い三芯ケーブルよりも、外径に制約のほとんどない大容量単芯ケーブルとしての利用が好適である。中空部を形成することでケーブルとしての可撓性を付与しやすく、中空部による冷媒流路径を大きくできて高い冷却効果が得られ易いからである。
【図面の簡単な説明】
【図1】超電導ケーブルの等価回路へのモデル化手法を示す説明図である。
【図2】超電導ケーブルにおける通電時の磁場成分の説明図である。
【図3】円筒導体を無限平面にモデル化する手法の説明図である。
【図4】超電導ケーブルの交流損失を評価する手順のフローチャートである。
【図5】芯材の撚り線に使用する素線径と渦電流損失の関係を示すグラフである。
【図6】芯材の撚り線に使用する素線径と渦電流損失の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1 絶縁被覆線材
2 中空部
Claims (8)
- 芯材と、その外周に設けられる超電導層と、さらに超電導層の外周に形成される電気絶縁層とを有する超電導ケーブルであって、
前記超電導層は、複数本の超電導線材を芯材の外周に螺旋状に巻き付けた構造を有し、
前記芯材は、冷媒流路となる中空部と、中空部の外周で撚り合わされた複数本の常電導材料からなる絶縁被覆線材とを具え、
前記中空部は、断面形状が扇状の絶縁被覆線材を撚り合せることで、撚り合わせの中央に形成される空間であることを特徴とする超電導ケーブル。 - 芯材と、その外周に設けられる超電導層と、さらに超電導層の外周に形成される電気絶縁層とを有する超電導ケーブルであって、
前記超電導層は、複数本の超電導線材を芯材の外周に螺旋状に巻き付けた構造を有し、
前記芯材は、冷媒流路となる中空部と、中空部の外周で撚り合わされた複数本の常電導材料からなる絶縁被覆線材とを具え、
前記中空部は、螺旋状に形成された板材からなり、
芯材を構成する螺旋状の板材の材質が1×10 − 7 Ω・m以上の比抵抗を有する高抵抗材料であることを特徴とする超電導ケーブル。 - 芯材と、その外周に設けられる超電導層と、さらに超電導層の外周に形成される電気絶縁層とを有する超電導ケーブルであって、
前記超電導層は、複数本の超電導線材を芯材の外周に螺旋状に巻き付けた構造を有し、
前記芯材は、冷媒流路となる中空部と、中空部の外周で撚り合わされた複数本の常電導材料からなる絶縁被覆線材とを具え、
芯材の外接円の直径をD、超電導層の最内層に配置する超電導線の本数をnとしたとき、芯材最外層に配置される絶縁被覆線材の直径d w が以下の式を満たすことを特徴とする超電導ケーブル。
πD/(2・n)≧d w - 前記中空部は、パイプ材により構成されることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル。
- 前記中空部は、螺旋状に形成された板材からなることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル。
- 前記中空部は、断面形状が扇状の絶縁被覆線材を撚り合せることで、撚り合わせの中央に形成される空間であることを特徴とする請求項3に記載の超電導ケーブル。
- 芯材表面の凹凸が平滑化されていることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の超電導ケーブル。
- 芯材における絶縁被覆線材の直径が2.0mm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の超電導ケーブル。
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