ところで、上記特許文献1に記載されたサイドエアバッグ装置100では、1つの袋状のエアバッグ102が、分割シーム101によって第1及び第2チャンバ104,105の上下2分室に分離形成されている。しかも、エアバッグ102の2分室内に、インフレータ103に設けられた共通の流出開口を通して高圧ガスが分配供給される構造となっている。
このため、この従来のサイドエアバッグ装置100では、サイドエアバッグ膨張展開時においては、インフレータ103における共通の流出開口から流出した高圧ガスによって、第1及び第2チャンバ104,105の2分室が一緒に膨出展開してしまうので、その2分室を別途独立して個別に膨出展開させることはできない。その結果、乗員の保護に最適なエアバッグ102の膨張展開形態や衝撃吸収特性などが一義的に決まってしまうこととなり、乗員の体格、体重、着座姿勢や車両の衝突モードなどの諸々の条件に応じて、乗員の胸部領域の側方や骨盤領域の側方以外の部位にエアバッグ102の膨出面を充分に得ることは困難であるという問題があった。
また、この従来のサイドエアバッグ装置100では、上述のように、エアバッグ102の2分室内に、インフレータ103に設けられた共通の流出開口を通して高圧ガスが分配供給される。このため、ハウジングの第1及び第2流入開口を電動スライダーやブラインドを用いて変化させることで、前記2分室内に流入するガス吐出量を制御して前記2分室内の圧力を変化させなければならなかった。
しかしながら、ハウジングの第1及び第2流入開口を電動スライダーやブラインドを用いて変化させるようにすると、サイドエアバッグ装置100の構造が複雑となるばかりでなく、電動スライダーやブラインドの車室内側への突出量にインフレータ103の車室内側への突出量とを加えた設置空間を確保しなければならなくなる。このため、限られた乗員の側方空間を益々狭小化してしまうこととなり、車室内の居住性が損なわれるという問題があった。
本発明は、上記従来の課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は、構造が簡単であり、車体の所定位置に嵩張らずにコンパクトに収容することができるとともに、エアバッグ膨張展開時に乗員を安定して的確に緩衝しながら支持できる膨張展開形態や衝撃吸収特性などを容易に、迅速に且つ確実に変更することができるサイドエアバッグ装置を提供することにある。
本件請求項1に係る発明は、第1及び第2のガスをそれぞれ独立して噴射する少なくとも1つのインフレータと、同インフレータから噴射した第1及び第2のガスにより乗員の側方空間に膨張展開するサイドエアバッグとを備えてなるサイドエアバッグ装置であって、前記サイドエアバッグが、前記第1のガスを導入する第1のガス導入口を有し、サイドエアバッグ膨張展開時において前記乗員の側方空間における少なくとも胸部及び腰部領域に対応する上下部位を連通して膨張展開する第1の膨張部と、前記第2のガスを導入する第2のガス導入口を有し、サイドエアバッグ膨張展開時において前記第1の膨張部の上下部間の少なくとも腹部領域において独立して膨張展開する第2の膨張部と、を備えてなり、第1のガス導入口と連通する前記第1の膨張部と前記第2のガス導入口と連通する第2の膨張部とが独立して配されてなる、ことを特徴とするサイドエアバッグ装置にある。
請求項2に係る発明は、上記請求項1記載の発明にあって、前記第1の膨張部が、略環状の膨張室からなり、前記第2の膨張部が、前記略環状の膨張室の内環側に配された内部膨張室からなることを特徴としている。
請求項3に係る発明は、上記請求項1又は2記載の発明にあって、前記第1の膨張部が、隔壁により区画された膨張分室を更に有し、前記第1のガス導入口から導入される前記第1のガスを前記膨張分室内へ分流するガス導入案内部を更に備えていることを特徴としている。
請求項4に係る発明は、上記請求項3記載の発明にあって、前記第1の膨張部が、乗員の胸部領域の側方及び腰部近傍領域の側方に膨張展開するように形成されるとともに、前記第2の膨張部が、乗員の腹部領域の側方に膨張展開するように形成され、前記膨張分室が乗員の腰部主要領域の側方に膨張展開するように、前記隔壁が、車両前後方向に沿って形成されていることを特徴としている。
請求項5に係る発明は、上記請求項1〜4のいずれかに記載の発明にあって、前記インフレータが、前記第1のガスを噴射する第1のガス噴射口と、同第1のガス噴射口とは独立して前記第2のガスを噴射する第2のガス噴射口とを有してなり、前記第1及び第2のガス噴射口に、前記第1及び第2のガス導入口のそれぞれが連結されていることを特徴としている。
請求項6に係る発明は、上記請求項1〜5のいずれかに記載の発明にあって、前記第1及び第2のガスの噴射動作を制御する制御手段を更に備えていることを特徴としている。
請求項7に係る発明は、上記請求項1〜6のいずれかに記載の発明にあって、前記インフレータ及び折り畳まれた状態の前記サイドエアバッグが、車両の座席における側方部位に収納固定されていることを特徴としている。
本発明の対象となるサイドエアバッグ装置では、サイドエアバッグ膨張展開時において第1及び第2のガスをそれぞれ独立して噴射することができるインフレータと、同インフレータから独立して噴射した第1及び第2のガスにより、座席に着座している乗員の側方空間において少なくとも2つの第1及び第2の膨張部を互いに独立して膨張展開できるサイドエアバッグとを備えることができる。
前記第1及び第2のガスをそれぞれ独立して噴射することができるインフレータとしては、例えば所謂マルチスクイブ型のインフレータを用いることができる。また、前記第1及び第2のガス導入口のそれぞれに、単一のガス噴射口を有する2つの別個のインフレータを連結することもできる。
前記サイドエアバッグとしては、第1のガス導入口を有する第1の膨張部と、同第1のガス導入口とは独立した別個の第2のガス導入口を有する第2の膨張部とを備えることができる。このようなサイドエアバッグによって、前記第1及び第2の膨張部における第1のガス導入口及び第2のガス導入口のそれぞれに、インフレータから第1のガスを噴射する第1のガス噴射口と、前記第1のガスとは独立して第2のガスを噴射する第2のガス噴射口とを連結することができる。
前記第1の膨張部としては、例えば織布を二枚重ね合わせて外周縁部を互いに縫着した二枚の布片、又は織布の一辺を連結して一体となった一枚の布片等から形成することができ、その布片の一部を開口した第1のガス導入口を有する袋状に連結一体化することができる。一方の前記第2の膨張部としては、例えば前記第1の膨張部の内面同士を縫着することによって袋状に形成することができるが、前記第1の膨張部とは別体に形成された第2の膨張部の織布を二枚重ね合わせて外周縁部を互いに縫着し、一部を開口した第2のガス導入口を有する袋状に形成することもできる。
前記第1の膨張部及び第2の膨張部を互いに独立して膨張展開できるサイドエアバッグを備えることにより、サイドエアバッグ膨張展開時において、前記第1の膨張部を座席に着座した乗員の側方空間における少なくとも上下部位に膨張展開する形態に形成することができる。一方、前記第2の膨張部を、前記第1の膨張部と同時に、或いは所定の時間間隔をもって前記第1の膨張部の上下部間において膨張展開する形態に形成することが可能となる。また、前記第1の膨張部の膨張展開時において、前記第2の膨張部を非膨張状態に維持することもできる。
このように、本発明によれば、サイドエアバッグの少なくとも2つの膨張部を互いに独立して膨張展開させることができる。このため、乗員の体格、体重、着座姿勢や車両の走行速度、車両の側面衝突や横転による衝撃などの諸々の条件に応じて、各膨張部ごとに異なる反力をもって膨張展開することができるようになる。しかも、上記各種の条件に応じて、乗員の胸部の側方、腹部の側方や腰部の側方などの保護すべき身体保護領域ごとに、乗員が受ける衝撃を緩和するのに理想的な膨張展開速度、膨張展開形態や衝撃吸収特性などを瞬時に且つ自由に可変させることができる。
本発明のサイドエアバッグの形態としては、例えば前記第1の膨張部を略環状の膨張室に形成することができるとともに、一方の前記第2の膨張部を前記略環状の膨張室の内環側に配された内部膨張室に形成することができる。サイドエアバッグにおける他の形態としては、例えば第1の膨張部の膨張室を上下に別体に形成することができ、この第1の膨張部間に第2の膨張部をサンドウイッチ状に形成することもできる。
このように、前記第1の膨張部を乗員の側方空間における少なくとも上下部位に膨張展開することができるとともに、前記第1の膨張部とは独立して前記第2の膨張部を前記第1の膨張部の上下部間において膨張展開することができる。また、前記第1及び第2の膨張部の膨張展開時においては、車室内側への突出量や膨張展開領域を変えることなく、乗員の身体保護領域ごとに各膨張部の反力を大小に異ならせることで、乗員の保護に最適なサイドエアバッグの膨張展開形態などを得ることができる。
つまり、各膨張部の反力を大小に異ならせることができることに相まって、サイドエアバッグ全体を乗員の側方に対して略平行な広い膨張面をもって膨張展開させることができるようになり、乗員の保護に最適なサイドエアバッグの膨張展開形態などを効果的に得ることができる。しかも、サイドエアバッグ全体が乗員の側方に対して略平行な広い膨張面で広がり、限られた狭小な居住空間を有する乗員の側方空間を有効に使うことができる。
前記第1の膨張部には、隔壁により区画された膨張分室を備えることができる。この膨張分室内へのガス導入にあたっては、前記第1のガス導入口から導入される第1のガスの一部を前記膨張分室内へ分流するガス導入案内部を備えることができる。
前記第1の膨張部の前記膨張分室の内圧を、同膨張分室を除く前記第1の膨張部の膨張主室と前記第2の膨張部とは異なる圧力に設定することができるようになる。このため、サイドエアバッグ膨張展開時において、前記膨張分室と前記膨張主室と前記第2の膨張部とでの衝撃を緩和するのに理想的な衝撃吸収特性などを個別に得ることができる。
前記隔壁としては、例えば前記第1の膨張部の一部内面同士を縫着することによって形成することができる。しかも、サイドエアバッグ膨張展開時において上下に複数の袋状となるように複数の膨張分室に区分することができる。また、前記隔壁の他の例としては、例えば前記第1の膨張部の内周に偏平な中間基布の外周を縫着することによって前記隔壁を形成することもできる。
また、前記ガス導入案内部としては、例えば前記隔壁である中間基布の上下に貫通して形成された連通孔により構成することができる。このガス導入案内部の他の例としては、例えば前記インフレータの前記第1のガス噴射口に対して所定の寸法間隔だけ離間して、前記インフレータを支持固定する固定具のインフレータ保持部に形成されたガス導入案内板をガス導入案内部にすることができる。
本発明にあっては、前記第1の膨張部を乗員の胸部領域の側方や腰部近傍領域の側方に膨張展開するように形成することができるとともに、前記第2の膨張部を乗員の腹部領域の側方に膨張展開するように形成することができる。前記隔壁を車両前後方向に沿って形成することで、前記第1の膨張部の前記膨張分室を乗員の腰部主要領域の側方に膨張展開するように形成することができる。
これにより、上述のように乗員の体格、体重、着座姿勢や車両の走行速度、車両の側面衝突や横転による衝撃などの諸々の条件に応じて、乗員の胸部、腹部や腰部の側方などに最適な大小の反力をもってエアバッグ膨出面を充分に得ることができる。
更に本発明にあっては、前記第1のガスを噴射する第1のガス噴射口と、同第1のガス噴射口とは独立して前記第2のガスを噴射する第2のガス噴射口との双方を有する単一のインフレータ、例えばマルチスクイブ型のインフレータを使用することが好適であり、前記第1及び第2のガス噴射口に前記第1及び第2のガス導入口のそれぞれを独立して連結することができる。
前記第1及び第2の膨張部の第1及び第2のガス導入口に対して、それぞれ別個のインフレータを備える構成に比べると、サイドエアバッグ装置を小型化、薄型化及び軽量化することができる。しかも、経済性にも優れたものとなる。また、乗員の側方空間内にエアバッグ装置を嵩張らずコンパクトな形態をもって確実に収容固定することができるようになる。
更に本発明にあっては、前記第1及び第2のガスの噴射動作を制御する制御手段を備えることができる。前記第1及び第2の膨張部への導入ガスの導入量や導入タイミング、サイドエアバッグ全体の膨張速度などを効果的に制御することができる。このため、前記第1及び第2の膨張部に所望の衝撃吸収特性などを別個に付与することができ、その衝撃吸収特性などを良好に維持することができるようになる。
本発明のサイドエアバッグ装置では、上記構成を備えることにより、限られた狭小な居住空間を有する乗員の側方空間を有効に使うことができる。このため、前記インフレータ及び折り畳まれた状態の前記サイドエアバッグを車両の座席における側方部位に容易に且つ的確に収納固定することができる。車両の座席における側方部位としては、例えば乗員座席の背もたれ部、座席に着座する乗員の側方に配されたドアパネル等の内部に取り付けることができる。
図1及び図2は本発明の代表的な第1の実施例を示している。図1は同サイドエアバッグ装置におけるエアバッグの最大膨張時の展開状態の一例を模式的に示す説明図、図2は同エアバッグの最大膨張時における展開状態の一例を模式的に示す斜視図である。なお、本発明のサイドエアバッグ装置として、インフレータ及び折り畳まれた状態のサイドエアバッグを車両の乗員座席の背もたれ部に配した構造例を挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば座席に着座する乗員の側方に配したドアパネルなどの内部に取り付けることもできる。
図1及び図2において、符号10は、自動車の座席の背もたれ部に取り付けられるサイドエアバッグ装置を示している。このサイドエアバッグ装置10は、第1及び第2の膨張用の高圧ガスを発生するインフレータ20と、同インフレータ20から噴射した高圧ガスにより座席に着座した乗員の側方空間に膨張展開するサイドエアバッグ30と、これらのインフレータ20及びサイドエアバッグ30を連結一体化して座席の背もたれ部に固定する図示せね固定具と、これらのインフレータ20、サイドエアバッグ30を支持固定した固定具を収納する図示せねケース部材とを備えている。
本発明は、サイドエアバッグ膨張展開時において、第1及び第2のガスをそれぞれ独立して噴射することができるインフレータ20と、同インフレータ20から独立して噴射した第1及び第2のガスにより、座席に着座した乗員の側方空間において少なくとも2つの第1の膨張部31及び第2の膨張部32を互いに独立して膨張展開できるサイドエアバッグ30とを主要な特徴部としている。
図示例によるインフレータ20は、一本の略円柱状の本体部に互いに独立して高圧ガスを噴射することができる複数のガス供給手段を備えた所謂マルチスクイブ型のインフレータの一例を示している。図示例にあっては、インフレータ20の第1スクイブ21及び第2スクイブ22のそれぞれには、第1のガスを噴射する第1のガス噴射口23と第2のガスを噴射する第2のガス噴射口24とが軸線方向に沿って直列に設けられている。これらの第1及び第2スクイブ21,22のそれぞれには、リード線に接続されたコネクタ25,26を介して第1及び第2のガスの噴射動作を制御する図示せぬ制御手段に電気的に接続されている。この第1の実施例では、第1スクイブ21は第2スクイブ22の出力よりも大きく設定されている。
このマルチスクイブ型のインフレータ20は、前記第1の膨張部31の第1のガス導入口33と第2の膨張部32の第2のガス導入口34とに対して、それぞれ別個のインフレータを備える構成に比べると、サイドエアバッグ装置10の小型化、薄型化及び軽量化を達成することができ、経済的な効果が大きい。また、簡単な構造であり、乗員の側方空間内にエアバッグ装置10を嵩張らずコンパクトな形態をもって確実に収容固定することができる。
前記インフレータ20は、常法に従って図示を省略した固定具の構成部品である略円筒状のインフレータ保持部内に支持固定される。このインフレータ保持部の下端部における第1のガス噴射口23に対応する部位には、同ガス噴射口23と所定の間隔だけ離間して平行に対向するガス案内板27が一体形成されている。このガス案内板27は、図2に示すように第1のガス噴射口23側に向けて滑らかに湾曲した略半円弧面状をなしている。この第1の実施例では、ガス案内板27は、高圧ガスを所定の分配率で上方向よりも下方向に対して多く分配することができる構造に構成されている。
前記サイドエアバッグ30は、図1及び図2に示すように、第1の基布と第2の基布とからなり、各基布は、例えばナイロン66糸を用いた一枚の織布から構成されている。各基布は、同一外形をなしている。各基布は、インフレータ20の第1及び第2のガス噴射口23,24にそれぞれ独立して個別に連結される第1のガス導入口33及び第2のガス導入口34の部分、及びインフレータ20を挿入する開口部分を除いて、第1及び第2の基布の外周縁部を互いに縫着して偏平な袋状に連結一体化している。
なお、サイドエアバッグ30の一部には、膨張展開後のサイドエアバッグ30に外圧が働いたとき、サイドエアバッグ30内の高圧ガスを抜気するベントホールを形成することができる。また、サイドエアバッグ30における第1のガス導入口33及び第2のガス導入口34の周辺部に、防炎のためにシリコーンラバーをコーティングした補強布を重合して縫着することもできる。
このサイドエアバッグ30は、第1の膨張部31と第2の膨張部32とを有している。この2つの膨張部31,32は、線分状の隔壁35によって略気密に区分されている。この線分状の隔壁35としては、図1及び図2に示すように、前記第2のガス導入口34の部分を除いて、第1及び第2の基布の一部内面同士を略横U字状に縫着することにより形成することができる。この隔壁35によって第1の膨張部31を略ドーナツ状をなす膨張室31a(膨張主室31a)に形成することができる。一方の前記第2の膨張部32を前記膨張主室31aの内環側に配された内部膨張室に形成することができる。
前記第1の膨張部31の一部を略ドーナツ状の膨張主室31aに形成することで、サイドエアバッグ膨張展開時において前記膨張主室31aを座席に着座する乗員の胸部領域の側方及び腰部の近傍領域の側方に膨張展開することができる。前記第2の膨張部32を前記膨張主室31aの内環側に配された内部膨張室に形成することにより、サイドエアバッグ膨張展開時において前記内部膨張室を乗員の腹部領域の側方に膨張展開することができる。
サイドエアバッグ膨張展開時において、前記第1の膨張部31及び第2の膨張部32を互いに独立して膨張展開させることができる。このため、乗員の体格、体重、着座姿勢や車両の走行速度、車両の側面衝突や横転による衝撃などの諸々の条件に応じて、各膨張部31,32ごとに異なる大小の反力をもって膨張展開することができる。しかも、上記条件に応じて、乗員の胸部の側方、腹部の側方や腰部の側方などの保護すべき身体保護領域ごとに、乗員が受ける衝撃を緩和するのに理想的な膨張展開速度、膨張展開形態や衝撃吸収特性などを瞬時に且つ自由に可変させることができる。
更に第1の膨張部31の下部には、座席に着座した乗員の腰部主要領域の側方に膨張展開する膨張分室36が設けられている。この膨張分室36は、車両前後方向に沿って延びる面状の隔壁により略気密に区画形成することができる。この第1の膨張部31を2分割に区分する隔壁としては、例えば前記第1のガス導入口33の部分を除いて、前記第1の膨張部31の一部内面同士を縫着することによって形成することができるが、第1の膨張部31の内周に細長矩形状の中間基布37の外周を縫着することにより形成することもでき、第1の膨張部31を車体幅方向に所定の幅寸法をもって偏平に膨張展開することができる。
前記インフレータ20の第1のガス導入口23から第1の膨張部31の膨張主室31a内へ導入される第1のガスの一部を前記膨張分室36内へ分流するガス導入案内部としては、前記中間基布37の開口側の端縁部に面してインフレータ20の上記ガス案内板27を配設することができる。第1の膨張部31を略気密に分離する膨張主室31aと膨張分室36とは、前記インフレータ20の第1のガス導入口23を共通のガス導入口として、前記ガス案内板27を介して互いに連通している。図示例では、上記ガス案内板27は、上述のようにインフレータ20の第1のガス噴射口23に対して略平行に配されているが、本発明は図示例に限定されるものではなく、前記膨張主室31a側から膨張分室36側に向けて末広がり状に下傾斜した状態で配置することができることは勿論である。
ガス導入案内部の他の例としては、例えば所要数の連通孔を前記隔壁である中間基布37の上下に貫通して形成することもできる。なお、インフレータ20の第1のガス導入口23から導入される第1のガスを第1の膨張部31の膨張主室31aと膨張分室36とに配分する配分率の調整に関しては、例えば第1のガス導入口23に対して上記ガス案内板27の傾斜角度を調整することができ、第1のガス導入口23の噴出開口の設置数や形態などに応じて適宜に設定することができる。
この第1の膨張部31の下部に前記隔壁である中間基布37を車両前後方向に沿って形成することにより、サイドエアバッグ膨張展開時において、図1に示すように座席に着座した乗員の腰部主要領域の側方に膨張分室36を膨張展開することができる。これにより、座席に着座した乗員の腰部主要領域の側方に膨張展開する膨張分室36内の圧力は、座席に着座する乗員の胸部領域の側方及び腰部の近傍領域の側方に膨張展開する膨張主室31a及び座席に着座した乗員の腹部領域の側方に膨張展開する第2の膨張部32の内圧よりも高くすることができるようになる。
このため、サイドエアバッグ膨張展開時においては、座席に着座している乗員の腰部領域の側方での高い圧力によって乗員が受ける衝撃を緩和するのに理想的な膨張展開速度や衝撃吸収特性が得られるとともに、乗員の胸部領域の側方及び腹部領域の側方での比較的に低い圧力によって乗員が受ける衝撃を緩和するのに理想的な膨張展開速度や衝撃吸収特性などが得られる。
前記インフレータ20及び折り畳まれた状態のサイドエアバッグ30を車両の乗員座席の背もたれ部内に収納するときは、常法に従って図示せぬ固定具のインフレータ保持部に支持固定されたインフレータ20をサイドエアバッグ30の開口部から内部に挿入したのち、インフレータ20の第1及び第2のガス噴射口23,24の開口周縁部にサイドエアバッグ30の第1及び第2のガス導入口33,34の開口周縁部を前記固定具により挟着固定し、サイドエアバッグ30と前記固定具とが一体に組み立てられる。以上のごとく構成されたエアバッグモジュールの組込みは従来と格別に変わるところはない。組み立てられたエアバッグモジュールは、図示せね前記ケース部材に収納されたのち、常法に従って乗員座席の背もたれ部内に取り付けられる。
更に本発明にあっては、前記インフレータ20のコネクタ25,26にリード線を介して接続された図示せぬ制御手段によって第1の膨張部31の膨張主室31a及び膨張分室36と第2の膨張部32との内圧をそれぞれ制御することができる。この制御手段は、同じく図示を省略したセンサに電気的に接続されている。このセンサとしては、例えば座席に着座した乗員の体重、体格や着座姿勢等を検出するセンサ、座席の前後位置や背もたれ部のリクライニング状態を検出するセンサ、車両の走行速度を検出するセンサ、車体の側面衝突や横転による衝撃を検出するセンサなどを備えることができる。
前記インフレータ20のコネクタ25,26にリード線を介して接続された図示せぬ制御手段を備えることにより、乗員の体格、体重、着座姿勢や車両の走行速度、車両の側面衝突や横転による衝撃などの諸々の条件に応じて、第1の膨張部31の膨張主室31a及び膨張分室36だけを膨張展開する第1パターンと、膨張主室31a及び膨張分室36とともに第2の膨張部32を膨張展開する第2パターンと、第2の膨張部32だけを膨張展開する第3パターンとを適宜に設定することができる。
また、図示せぬ制御手段を備えることにより、第1の膨張部31の膨張主室31a、膨張分室36や第2の膨張部32への導入ガスの導入量や導入タイミング、サイドエアバッグ30全体の膨張速度などを効果的に制御することができる。前記第2パターンの場合には、例えば第2の膨張部32を第1の膨張部31とは所定の時間間隔をおいて膨張展開することができる。
このため、乗員の体格、体重、着座姿勢や車両の走行速度、車両の側面衝突や横転による衝撃などの諸々の条件に応じて、座席に着座している乗員の胸部の側方に対応する膨張主室31a、腹部の側方に対応する第2の膨張部32や腰部の側方に対応する膨張分室36ごとに異なる大小の反力をもって、乗員が受ける衝撃を緩和するのに理想的な膨張展開速度、膨張展開形態や衝撃吸収特性などを瞬時に且つ自由に可変させることができる。第1の膨張部31の膨張主室31a、膨張分室36や第2の膨張部32に所望の膨張展開挙動を付与することができ、その膨脹展開性能を良好に維持することができるようになる。
図3はサイドエアバッグ30の最大膨張時の展開状態の一例を模式的に示している。なお、図3は図1におけるIII−III線の矢視部に相当する部位からみた図である。
いま、車両に所定以上の大きな衝撃力に基づく側面衝突や横転による衝撃を受けると、座席に着座した乗員の体重等を検出する前記センサなどから出力した出力信号に基づき前記制御手段が、インフレータ20の第1及び第2スクイブ21,22のうち第1スクイブ21に点火信号を送る。その点火信号によって第1スクイブ21を起動する。そして、第1のガスを噴射する第1のガス噴射口23から第1のガス導入口33を通してサイドエアバッグ30の第1の膨張部31の膨張主室31a及び膨張分室36の内部に、それぞれ異なる内圧P1 ,P2 (P1 <P2 )となるように高圧縮ガスを分流噴射する。この大量の高圧縮ガスが膨張主室31a及び膨張分室36の内部に瞬時に侵入する。
前記膨張主室31a及び膨張分室36の織布に瞬間的に強力な膨張圧がかかり、その力が図示せぬケース部材に作用する。そのケース部材が開いて膨張主室31a及び膨張分室36が、前記ケース部材の裏面側の収容位置から展開位置に向けて伸張展開し、膨張主室31a及び膨張分室36が座席に着座している乗員の胸部領域の側方及び腰部の近傍領域の側方空間に瞬時に膨張展開する。
図4はサイドエアバッグ30の最大膨張時における展開状態の他の一例を模式的に示している。なお、図4は図1におけるIII−III線の矢視部に相当する部位からみた図である。
いま、車両に所定以上の大きな衝撃を受けたとき、その衝撃を前記センサにより感知する。そのセンサから出力した出力信号に基づき前記制御手段が、インフレータ20の第1及び第2スクイブ21,22の両方に点火信号を送る。その点火信号によって第1スクイブ21及び第2スクイブ22を起動する。第1のガスを噴射する第1のガス噴射口23及び第2のガスを噴射する第2のガス噴射口24から第1のガス導入口33及び第2のガス導入口34を通してサイドエアバッグ30の第1の膨張部31における膨張主室31a及び膨張分室36と第2の膨張部32との内部に高圧縮ガスを独立して噴射する。
この大量の高圧縮ガスが膨張主室31a、膨張分室36、第2の膨張部32の内部に瞬時に侵入することによって図示せぬケース部材が開いて、第1の膨張部31及び第2の膨張部32を座席に着座している乗員の胸部、腰部及び腹部の側方空間に瞬時に膨張展開させることができる。膨張主室31a、膨張分室36、第2の膨張部32の内部におけるそれぞれの圧力P1 ,P2 ,P3 の関係は、P1 <P2 、P3 <P2 となることが好適である。膨張主室31a内の圧力P1 と第2の膨張部32内の圧力P3 の関係は、圧力P1 と圧力P3 を互いに等しく設定してもよく、或いは圧力P1 を圧力P3 よりも大きく設定してもよい。また、圧力P1 を圧力P3 よりも小さく設定することもできる。
図5はサイドエアバッグ30の反力特性線図の一例を示している。同図において、図中の縦軸はサイドエアバッグ30の反力Fを示し、図中の横軸はサイドエアバッグ最大膨張時におけるサイドエアバッグ30の車室内側への突出量(L)を表している。なお、図中の符号F1 は、膨張主室31aにおける反力、符号F2 は、膨張分室36における反力、符号F3 は、第2の膨張部32における反力をそれぞれ表している。
図5から明らかなように、インフレータ20の第1スクイブ21から出力されるガス圧を所定の配分率で第1の膨張部31の膨張主室31aと膨張分室36とに分流することで、膨張主室31a内の圧力を膨張分室36内の圧力よりも比較的に低い状態で膨張展開させ、最大膨張展開時において第1の膨張部31全体の圧力を所望の比較的に高い状態で膨張展開させることができるようになり、必要とする第1の膨張部31全体の反力(F1 +F2 )を車室内側への所定の突出量で得られることが分かる。
また、インフレータ20の第1スクイブ21及び第2スクイブ22の双方から出力されるガス圧を第1の膨張部31及び第2の膨張部32に供給することで、第2の膨張部32の内圧を第1の膨張部31の内圧よりも比較的に低い状態で膨張展開させ、最大膨張展開時において第1及び第2の膨張部31,32全体の圧力を所望の比較的に高い状態で膨張展開させることができるようになり、必要とする第1及び第2の膨張部31,32全体の反力(F1 +F2 +F3 )を車室内側への所定の突出量で得られることが分かる。
このように、乗員の体格、体重、着座姿勢や車両の走行速度、車両の側面衝突や横転による衝撃などの諸々の条件に応じて、第1の膨張部31の膨張主室31a及び膨張分室36と第2の膨張部32との反力を大小に異ならせることができることに相まって、車室内側への突出量や膨張展開領域を変えることなく、サイドエアバッグ30全体が乗員の側方に対して略平行な広い膨張面をもって膨張展開することができる。これにより、乗員の側方に対して略平行な広い膨張面で広がり、限られた狭小な居住空間を有する乗員の側方空間を最大限に活用できる。
また、少なくとも2つの膨張部31,32を互いに独立して膨張展開できるサイドエアバッグ30を備えることができる。このため、前記第1の膨張部31を乗員の側方空間における少なくとも上下部位に膨張展開することができるとともに、前記第1の膨張部31とは独立して前記第2の膨張部32を前記第1の膨張部31の上下部間において膨張展開することができる。前記第1及び第2の膨張部31,32の膨張展開時においては、サイドエアバッグ30の膨張展開形態や衝撃吸収特性などを円滑に、容易に且つ確実に変化させることができることは勿論である。しかも、乗員の胸部、腹部や腰部の側方などの身体保護領域にわたってサイドエアバッグ30の膨出面を充分に得ることができる。