図1は、本発明の参考例の摩擦撹拌接合方法における接合ツール11の動きを説明するために、接合前の被接合物14の一部を示す平面図である。図2は、接合ツール11の先端部付近を示す断面図である。図3は、図2の切断面線S3−S3から見た断面図である。
本参考例の摩擦撹拌接合方法は、複数の被接合部材を含んで構成される被接合物14を、接合ツール11によって固相撹拌して、各被接合部材を接合する方法である。このような摩擦撹拌接合方法は、たとえば自動車および鉄道車両の外板を形成する構造部材を得るために用いられる。
本参考例では、被接合物14は、2つの被接合部材12,13を含んで構成される。各被接合部材12,13は、板状の部材である。各被接合部材12,13は、互いの端面同士が突き合わされる。各被接合部材12,13を接合するにあたっては、被接合物14に対して、各被接合部材12,13の境界に沿うように、接合経路29を予め定める。本参考例においては、接合経路29に沿う方向を、第1方向X1,X2と称し、被接合物14に沿う平面内で、接合経路29に垂直な方向を、第2方向Y1,Y2と称し、被接合物14に沿う平面に垂直な方向を、第3方向Z1,Z2と称する。
接合ツール11は、大略的に円柱状の部材であって、ショルダー部81と、ピン部26とを有する。ショルダー部81は、円柱状である。このショルダー部81は、接合ツール11の軸線L11に垂直な端面28が形成される。ピン部26は、ショルダー部81よりも外径が小さい円柱状である。このピン部26は、ショルダー部81と同軸に設けられ、端面28から接合ツール11の軸線L11に沿って突出する。ピン部26の外径D26は、たとえば2〜7mmであり、ショルダー部81の外径D28は、たとえば5〜20mmである。
本参考例では、接合ツール11を被接合物14に没入した状態で、その接合ツール11をその軸線L11と一致する自転軸線L11まわりに回転させる。また前記接合ツール11を、自転軸線L11とは異なる公転軸線L30まわりに回転させる。さらに前記公転軸線L30を、接合経路29に沿って変位させる。本参考例においては、自転軸線L11まわりの回転を、自転と称し、公転軸線L30まわりの回転を、公転と称する場合がある。
詳細に述べると、接合ツール11を被接合物14に没入した状態は、その接合ツール11のピン部26が被接合物14に没入し、かつその接合ツール11のショルダー部81が被接合物14に当接した状態である。自転軸線L11および公転軸線L30は、被接合物14に対して垂直である。自転軸線L11と公転軸線L30との間の距離L20は、一定に保たれる。
この状態で、接合ツール11を、自転および公転させる。接合ツール11の自転軸線L11まわりの回転方向である自転方向Aと、接合ツール11の公転軸線L30まわりの回転方向である公転方向Bは、相互に反対に設定される。つまり、自転方向Aが自転軸線L11まわりの周方向一方である場合、公転方向Bが公転軸線L11まわりの周方向他方である。接合ツール11の自転軸線L11まわりの回転速度である自転速度V1は、予め定める設定自転速度V1aであり、接合ツール11の公転軸線L30まわりの回転速度である公転速度V2は、予め定める設定公転速度V2aである。
さらに被接合物14に対して公転軸線L30を、接合経路29に沿って、この接合経路29の一端から他端に向かう方向である第1方向一方X1に変位させる。被接合物14に対して公転軸線L30が変位する速度である変位速度V3は、予め定める設定変位速度V3aである。
図1には、紙面に垂直上方から見て、自転方向Aが自転軸線L11まわりに反時計まわり方向であり、公転方向Bが公転軸線L30まわりに時計まわり方向であり、公転軸線L11の変位方向が第1方向一方X1である場合の接合ツール11の動きが示されている。設定自転速度V1aは、1000〜3000min−1に選ばれ、設定公転速度V2aは、5〜30min−1に選ばれ、設定変位速度V3aは、250〜550mm/minに選ばれる。
自転軸線L11と公転軸線L30との間の距離L20を一定に保って、接合ツール11を公転させる。したがって公転軸線L30に対する自転軸線L11の軌跡90、すなわち公転軸線L30の変位を無視して接合ツール11の公転だけを考慮したときの自転軸線L11の軌跡90は、図3に示すように、公転軸線L30を中心とする円軌跡となる。公転軸線L30に対する自転軸線L11の軌跡90の直径である公転直径D90は、ピン部26の外径D26以上、ショルダー部81の外径D28以下に選ばれる。すなわち自転軸線L11と公転軸線L30との間の距離L20は、ピン部26の外径D26の1/2以上、ショルダー部81の外径D28の1/2以下に選ばれる。自転軸線L11と公転軸線L30との間の距離L20は、たとえば3mmに選ばれる。
接合ツール11を公転させるとともに、被接合物14に対して公転軸線L30を接合経路29に沿って変位させる。したがって被接合物14に対する自転軸線L11の軌跡91は、図1に示すように、コイル状の軌跡となる。詳細に述べると、被接合物14に対する自転軸線L11の軌跡91は、複数の環軌跡92と、各環軌跡92を連結する複数の連結軌跡93とによって形成される。各環軌跡92は、非円形状であって、第1方向X1,X2に並ぶ。連結軌跡93は、第1方向X1,X2に相互に近接する各環軌跡92のうち、一方の環軌跡92上の一点94と他方の環軌跡92上の一点94とを連結する。
自転軸線L11は、公転によって第2方向Y1,Y2に関して振れる。本実施の形態においては、接合経路29に対して自転軸線L11が第2方向一方Y1に最も離れる各点を結ぶ線L21と、接合経路29に対して自転軸線L11が第2方向他方Y2に最も離れる各点を結ぶ線L22との間の領域を、振れ領域S1と称する。
図4は、摩擦撹拌接合方法における接合ツール11の動きを説明するために、接合後の被接合物14を示す平面図である。図4には、撹拌領域S14を斜線で示す。摩擦撹拌接合方法は、後述の摩擦撹拌接合装置10を用いて行われる。摩擦撹拌接合方法では、大略的には、ツール没入段階、撹拌段階、ツール退出段階が順に行われる。
ツール没入段階では、接合ツール11の公転を停止した状態で、接合ツール11を自転させて、接合ツール11を被接合物14に没入する。撹拌段階では、接合ツール11を被接合物14に没入した状態で、接合ツール11を自転させるとともに、接合ツール11を公転させながら、接合経路29に沿って公転軸線L30を変位させて、被接合物14を固相撹拌する。ツール退出段階では、接合ツール11の公転を停止した状態で、接合ツールを自転させて、接合ツール11を被接合物から退出させる。
換言すると、接合ツール11を自転させた状態で、この接合ツール11を、被接合物14の接合経路29に沿って、大略的に第1方向一方X1に変位させる。このように接合ツール11を変位させるとき、被接合物14の接合経路29の一端で、接合ツール11が被接合物14に没入する。接合ツール11の公転軸線L30が接合経路29上の予め定める第1設定位置P12に到達すると、接合ツール11の公転が開始される。接合ツール11の公転軸線L30が接合経路29上の予め定める第2設定位置P13に到達すると、接合ツール11の公転が停止される。被接合物14の接合経路29の他端で、接合ツール11が被接合物14から退出する。
第1設定位置P12は、接合経路29の一端の位置P11から第1方向一方X1に所定の第1距離L31だけ離れた位置である。第2設定位置P13は、接合経路29の他端の位置P14から第1方向他方X2に所定の第2距離L32だけ離れた位置である。第2設定位置P13は、第1設定位置P12よりも第1方向一方X1の下流側にある。第1距離L31は、5〜40mmに選ばれ、第2距離L32は、5〜40mmに選ばれる。
第1および第2設定位置P12,P13は、接合経路29の一端および他端の位置P11,P14と、第1および第2距離L31,L32とに基づいて演算される。接合経路29の一端および他端の位置P11,P14は、作業者によって教示される。第1および第2距離L31,L32は、作業者によって予め設定される。前述のように第1および第2設定位置P12,P13は演算によって得られるので、第1および第2設定位置P12,P13を作業者が教示する必要はなく、したがって教示作業を簡略化することができる。
ツール没入段階およびツール退出段階では、接合ツール11を公転させないので、被接合物14の軟化していない端面部に対して、接合ツール11が複数回、没入および退出を繰り返してしまうことを防ぐことができる。したがって接合ツール11に大きな負荷が繰り返しかかることを防ぎ、接合ツール11の破損を防ぐことができる。
図5は、摩擦撹拌接合方法を示すフローチャートである。図6は、ツール没入段階からツール退出段階までの公転速度V2の変化を説明するための図である。図7は、接合ツール11の動きを説明するための斜視図である。図8は、接合ツール11の図7に続く動きを説明するための斜視図である。図6において、横軸は、公転軸線L30の接合経路29上の位置を示し、縦軸は、接合ツール11の公転速度V2を示す。
被接合物14は、この被接合物14に関して第3方向一方Z1側に設けられる被接合物保持台80によって保持される。ステップa0で、作業者などから接合動作の開始指令が与えられると、摩擦撹拌接合方法に従う接合動作を開始する。接合動作を開始すると、まず、接合ツール11を、図7(1)に示すように、被接合物14に対して、第1方向他方X2に間隔をあけ、かつ第3方向他方Z2に間隔をあけた位置86に移動させる。このとき、自転軸線L11および公転軸線L30は、被接合物14に対して垂直な状態にある。また、自転軸線L11および公転軸線L30は、第2方向Y1,Y2に関して接合経路29と同じ位置に配置される。このように接合ツール11を移動させると、ステップa1に進む。
ステップa1では、接合ツール11の自転を開始する。接合ツール11の自転速度V1が設定自転速度V1aになると、自転速度V1の増加を停止し、ステップa2で、接合ツール11を、第3方向一方Z1に変位させる。接合ツール11のピン部26と被接合物14とが第3方向Z1,Z2に関して同じ位置となると、接合ツール11の第3方向一方Z1への変位を停止して、ステップa3に進む。
ステップa3では、接合ツール11を、第1方向一方X1に変位させ、ツール没入段階であるステップa4では、図7(2)に示すように、接合ツール11のピン部26を被接合物14に当接させ、没入させる。この後、ステップa5で、接合ツール11のショルダー部81を被接合物14に当接させ、ショルダー部81を被接合物14に押圧して、ステップa6に進む。このようにショルダー部81を被接合物14に押圧した状態は、後述のステップa10まで維持される。ステップa6では、図7(3)に示すように、接合ツール11を、接合経路29に沿って、第1方向一方X1に変位させる。
接合ツール11の公転軸線L30が第1設定位置P12に到達すると、ステップa7では、図8(1)に示すように、接合ツール11の公転を開始する。接合ツール11の公転速度V2が設定公転速度V2aになると、公転速度V2の増加を停止し、撹拌段階であるステップa8では、接合ツール11を公転させた状態で、公転軸線L30を、接合経路29に沿って、第1方向一方X1に変位させる。このとき、接合ツール11の自転速度V1は、設定自転速度V1aに維持され、接合ツール11の公転速度V2は、設定公転速度V2aに維持され、公転軸線L30の変位速度V3は、設定変位速度V3aに維持される。
接合ツール11の公転軸線L30が第2設定位置P13に到達すると、ステップa9で、接合ツール11の公転を停止して、ステップa10に進む。接合ツール11の公転速度V2がゼロとなったとき、自転軸線L11および公転軸線L30は、第2方向Y1,Y2に関して接合経路29と同じ位置に配置される。
ステップa10では、図8(2)に示すように、接合ツール11を、接合経路29に沿って、第1方向一方X1に変位させ、ツール退出段階であるステップa11で、図8(3)に示すように、接合ツール11のピン部26を被接合物14から離反させる。この後、ステップa12で、接合ツール11を、第1方向一方X1にさらに変位させる。
接合ツール11が被接合物14に対して第1方向一方X1に所定の距離だけ離れると、接合ツール11の第1方向一方X1への変位を停止して、ステップa13で、接合ツール11を、第3方向他方Z2に変位させる。このようにして接合ツール11を、図8(3)において仮想線で示される位置87まで退避させた後、ステップa14で、接合ツール11の自転を停止し、ステップa15で、接合動作を終了する。
公転軸線L30を、接合経路29の一端の位置P11から他端の位置P14にわたって変位させるとき、この公転軸線L30の変位速度V3は、設定変位速度V3aに維持される。本発明の他の参考例では、公転軸線L30の変位速度V3は、公転軸線L30を接合経路29の一端の位置P11から第1設定位置P12まで変位させるとき、および公転軸線L30を第2設定位置P13から接合経路29の他端の位置P14まで変位させるときは、必ずしも設定変位速度V3aに維持される必要はない。たとえば、接合経路29の一端付近および他端付近で、公転速度L30の変位速度V3を設定変位速度V3aよりも低くしてもよい。また、第1および第2設定位置P12,P13の付近で、公転速度L30の変位速度V3を、一旦、低下または停止してもよい。
図9は、図4の切断面線S9−S9から見た断面図である。図10は、図9に対する比較例を示す断面図である。図9および図10には、撹拌領域S14を黒く塗りつぶして示す。図10には、接合ツール11の自転方向Aと公転方向Bとを相互に同一とし、その他の条件については本参考例と同様にした場合の接合後の被接合物14を示す。
図4を参照して説明したように、撹拌段階では、接合ツール11を被接合物14に没入した状態で、接合ツール11を自転および公転させ、さらに公転軸線L30を接合経路29に沿って変位させて、被接合物14を固相撹拌する。このとき、接合ツール11は、接合経路29、すなわち各被接合部材12,13の境界を繰り返し横断する。したがって各被接合部材12,13の対向する端面の間に図1に示すような隙間98があっても、その隙間98には、摩擦熱によって軟化されて流動化された被接合物14の材料が充填される。これによって、前記隙間98に起因して撹拌領域S14に凹所が形成されるという不具合が防がれ、接合品質を高くすることができる。
公転直径D90は、ピン部26の外径D26以上に選ばれる。公転直径D90がピン部26の外径D26未満の場合、各被接合部材12,13の対向する端面の間の隙間98に、流動化された被接合物14の材料が充填されにくく、前記隙間98への被接合物14の材料の充填が不十分となる恐れがある。また公転直径D90は、ショルダー部81の外径D28以下に選ばれる。公転直径D90がショルダー部81の外径D28を超えると、被接合物14の接合経路29付近の固相撹拌が不十分となる恐れがある。
本参考例によれば、接合ツール11の自転方向Aと公転方向Bとを相互に反対に設定するので、接合後の被接合物14における空洞の形成を抑えて、接合品質をさらに高くすることができる。
詳細に述べると、被接合物14に対して接合ツール11の自転軸線L11を変位させると、その自転軸線L11の移動軌跡に関して、自転によって接合ツール11が回転変位する方向と自転軸線L11の変位方向とが略同一になる方向同一側からその反対側に、被接合物14の材料が流動される。このとき、被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10が高いほど、被接合物14の材料の流動によって、方向同一側に空洞が発生しやすくなる。
被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10は、公転による自転軸線L11の変位方向と、公転軸線L30の変位方向とが同一となるときに、最高となる。このとき、本参考例では、接合ツール11の自転方向Aと公転方向Bとを相互に反対に設定するので、振れ領域S1の第2方向Y1,Y2の内側から外側に被接合物14の材料が流動される。したがって振れ領域S1の内側には空洞が発生しやすいが、振れ領域S1の外側に図10に示すような空洞99が発生することは防ぐことができる。
振れ領域S1の内側では、被接合物14は、最終的に、公転によって自転軸線L11が変位する方向と、公転軸線L30の変位によって自転軸線L11が変位する方向とが略垂直となるときに固相撹拌される。本参考例における撹拌段階のように、自転速度V1、公転速度V2、および公転軸線L30の変位速度V3が一定に保たれる場合、公転によって自転軸線L11が変位する方向と、公転軸線L30の変位によって自転軸線L11が変位する方向とが略垂直となるときは、これらの方向が略同一となるときと比べて、被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10が低い。つまり振れ領域S1の内側では、被接合物14は、最終的に、被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10が低いときに固相撹拌される。したがって振れ領域S1の内側では、仮に空洞が形成されたとしても、その空洞はなくなる可能性が高く、その空洞の残留を抑えることができる。
このように振れ領域S1の外側では、空洞の発生を防ぎ、振れ領域S1の内側では、仮に空洞が発生したとしても、その空洞の残留を抑えることができるので、全体として接合後の被接合物14における空洞の形成を抑えて、接合品質をさらに高くすることができる。
接合品質をさらに高くすることができるという前述の効果は、自転速度V1、公転速度V2、および公転軸線L30の変位速度V3を低くすることなく、達成することができる。自転速度V1を低くする必要がないので、被接合物14の流動化を阻害しない自転速度V1で、接合ツール11を自転させることができ、被接合物14を確実に固相撹拌することができる。また、公転速度V2、および公転軸線L30の変位速度V3を低くする必要がないので、接合ツール11が大略的に接合経路29に沿って進む速度を低くする必要がなく、高い処理速度を実現することができる。さらに自転速度V1、公転速度V2、および公転軸線L30の変位速度V3を変化させる必要がないので、自転速度V1、公転速度V2、および公転軸線L30の変位速度V3の制御を簡単にすることができる。
図11は、図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法を実行する摩擦撹拌接合装置10の全体の構成を簡略化して示す正面図である。図12は、摩擦撹拌接合装置10における装置本体15の主要な構成を示す断面図である。摩擦撹拌接合装置10は、装置本体15と、装置本体15が装着されるロボット16と、制御手段である制御装置20とを含む。
制御装置20は、装置本体15およびロボット16を制御して、前述の図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法を実現する。ロボット16は、工場の床などの設置対象17に設けられる汎用ロボットであって、本参考例では、先端部18を、直交3軸まわりに角変位させかつ前記直交3軸に沿ってスライド変位させることができる6軸ロボットである。装置本体15は、基体19を有し、この基体19において、ロボット16の先端部18に固定される。この装置本体15は、前記基体19と、ツール保持具21と、自転駆動手段22と、公転駆動手段23と、保持具変位駆動手段24とを有する。
接合ツール11は、大略的に円柱状の部材であって、本体部25と、前記ピン部26とを有する。本体部25は、軸線方向一端部が先細状に形成される略円柱状であって、その軸線方向一端部には、接合ツール11の軸線L11と同一軸線を有する円柱状の台座部分27を有する。この台座部分27は、接合ツール11の軸線L11に垂直な端面28が形成される。ピン部26は、台座部分27よりも外径が小さい円柱状であって、台座部分27と同軸に設けられ、端面28から接合ツール11の軸線L11に沿って突出する。接合ツール11の台座部分27におけるピン部26寄りの端部は、前記ショルダー部81に相当する。
ツール保持具21は、大略的に円柱状であり、軸線方向一端部に、接合ツール11が同軸に没入されて、接合ツール11を着脱自在に保持する。ツール保持具21は、接合ツール11のピン部26側の部分を突出させ、ツール保持具21に対する接合ツール11の軸線L11まわりの回転および軸線L11に沿う変位を阻止して、接合ツール11を保持する。このツール保持具21は、予め定める自転軸線L11まわりに回転自在に、かつ自転軸線L11と異なる公転軸線L30まわりに回転自在に設けられるとともに、公転軸線L30に沿って変位自在に設けられる。本参考例では、自転軸線L11と公転軸線L30とは、平行である。自転軸線L11は、接合ツール11の軸線L11と一致する。
自転駆動手段22は、ツール保持具21を自転軸線L11まわりに回転駆動する。公転駆動手段23は、ツール保持具21を公転軸線L30まわりに回転駆動する。保持具変位駆動手段24は、ツール保持具21を公転軸線L30に沿ってスライド変位駆動する。
図13は、図11の切断面線S13−S13から見た断面図である。図14は、図11の切断面線S14−S14から見た断面図である。図11および図12を併せて参照して、装置本体15は、回転支持台30をさらに有する。回転支持台30は、軸線方向に挿通する挿通孔31が形成される大略的に円筒状の部材である。回転支持台30の軸線L30と挿通孔31の軸線L11とは、偏心している。回転支持台30の軸線L30は、公転軸線L30と一致する。挿通孔31の軸線L11は、自転軸線L11と一致する。
回転支持台30は、回転支持台30に外嵌される複数、本参考例では2つの支持台軸受33,34を介して、回転支持台30の軸線L30まわりに回転自在に、基体19に支持される。また回転支持台30は、挿通孔31に嵌まり込む保持具軸受35,36を介して、環状の保持具スプライン受37,38を支持する。本実施の形態では、複数たとえば2つの保持具スプライン受37,38が、同数の保持具軸受35,36によって1つずつ、挿通孔31の軸線L11まわりに回転自在に支持される。一方の支持台軸受33、一方の保持具軸受35および一方の保持具スプライン受37は、軸線方向に関して同一の位置に配置され、他方の支持台軸受34、他方の保持具軸受36および他方の保持具スプライン受38は、軸線方向に関して同一の位置に配置される。
ツール保持具21は、回転支持台30に支持される各保持具スプライン受37,38を共通に挿通して、挿通孔31と同軸に設けられる。ツール保持具21の外周部には、スプラインが形成されており、ツール保持具21は、各保持具スプライン受37,38にスプライン結合されて、各保持具スプライン受37,38に対して、ツール保持具21の軸線まわりの回転が阻止されかつツール保持具21の軸線に沿って変位自在に設けられる。このようにしてツール保持具21は、その軸線と一致する自転軸線L11まわりに回転自在かつ回転支持台30の軸線と一致する公転軸線L30まわりに回転自在に、さらに公転軸線L30に沿ってスライド変位自在に設けられる。
自転駆動手段22は、自転モータ40と、自転伝達機構41とを有する。自転駆動部である自転モータ40は、サーボモータによって実現され、基体19に固定されて設けられる。自転モータ40の出力軸42は、自転軸線L11と平行に配置され、自転モータ軸受43を介して、その軸線まわりに回転自在に基体19に支持されている。
自転伝達部である自転伝達機構41は、回転体45と、索条連結体46と、軸連結体47とを有する。基体19には、回転体軸受48〜50を介して、環状の回転体スプライン受51〜53が、軸線を公転軸線L30と一致させて支持されている。本参考例では、複数たとえば3つの回転体スプライン受51〜53が、同数の回転体軸受48〜50によって1つずつ、それらの軸線まわりに回転自在に支持される。回転体45は、略円柱状の部材であり、その軸線を公転軸線L30と一致させ、各回転体スプライン受51〜53を共通に挿通して設けられる。回転体45の外周部には、スプラインが形成されており、回転体45は、各回転体スプライン受51〜53にスプライン結合されて、各回転体スプライン受51〜53に対して、回転体45の軸線まわりの回転が阻止されかつ回転体45の軸線に沿って変位自在に設けられる。このようにして回転体45は、その軸線と一致する公転軸線L30まわりに回転自在かつ公転軸線L30に沿ってスライド変位自在に設けられる。
索条連結体46は、回転自在である動力伝達輪間に無端状の索条が巻き掛けられて、動力を伝達可能に構成されている。動力伝達輪は、プーリ、有歯ベルト車およびスプロケットホイールなどであってもよく、索条は、ロープ、ベルト、タイミングベルトおよびチェーンなどであってもよいが、本参考例では、有歯ベルト車とタイミングベルトの組合わせが用いられる。したがって索条連結体46は、2つの有歯ベルト車55,56と、タイミングベルト57とを有する。一方の有歯ベルト車55は、自動モータ40の出力軸42に固定される。他方の有歯ベルト車56は、前記3つの回転体スプライン受51〜53のうち、中央に配置される回転体スプライン受52の外周部に、一体に形成される。タイミングベルト57は、各有歯ベルト車55,56にわたって巻き掛けられる。このような構成によって、自転モータ40の出力軸42の回転力を、回転体45に伝達することができる。
軸連結体47は、軸部材59と、2つの自在継手60,61とを有する。軸部材59は、その軸線を自転軸線L11および公転軸線L30に対して傾斜させて設けられる。この軸部材59の軸線方向一端部は、一方の自在継手60によって、回転体45の軸線方向一端部に連結される。また軸部材59の軸線方向他端部は、他方の自在継手61によって、ツール保持具21の軸線方向他端部に連結される。このような構成によって、回転体45の公転軸線L30まわりの回転力を、偏心したツール保持具21に、自転軸線L11まわりの回転として伝達することができるとともに、回転体45の公転軸線L30に沿う方向の変位力を、偏心したツール保持具21に、公転軸線L30に平行な自転軸線L11に沿う方向の変位として伝達することができる。また回転体45がツール保持具21の公転軸線L30まわりに回転自在に設けられているので、ツール保持具21は、公転軸線L30に沿って変位しないように公転することができる。もちろんこのようにツール保持具21が公転しても、回転体45の回転力をツール保持具21に伝達することができる。
このような自転駆動手段22は、自転モータ40の回転駆動力を、自転伝達機構41によってツール保持具21に伝達し、ツール保持具21を自転駆動することができる。自転モータ40は、正逆両方向へ回転駆動力を出力することができ、自転駆動手段22は、ツール保持具21を自転軸線L11まわりの両方向へ回転駆動することができる。
公転駆動手段23は、公転モータ65と、公転伝達機構66とを有する。公転駆動部である公転モータ65は、サーボモータによって実現され、基体19に固定されて設けられる。公転モータ65の出力軸67は、公転軸線L30と平行に配置され、公転モータ軸受68を介して、その軸線まわりに回転自在に基体19に支持されている。
公転伝達部である公転伝達機構66は、歯車列によって実現され、本実施の形態では、2つの外歯平歯車である歯車70,71を有する。一方の歯車70は、公転モータ65の出力軸67に固定される。他方の歯車71は、回転支持台30の外周部に、支持台軸受33,34のほぼ中央位置に配置されて、一体に形成される。各歯車70,71は、互いに噛合している。このような構成によって、公転モータ65の出力軸66の回転力を、回転支持台30に伝達することができる。
したがって公転駆動手段23は、公転モータ65の回転駆動力を、公転伝達機構66によって回転支持台30に伝達して回転支持台30を公転軸線L30まわりに回転し、これによって回転支持台30に偏心して支持されるツール保持具21を公転駆動することができる。公転モータ40は、正逆両方向へ回転駆動力を出力することができ、公転駆動手段23は、ツール保持具21を公転軸線L30まわりの両方向へ回転駆動することができる。
保持具変位駆動手段24は、ねじ軸75と、ナット部材76と、電磁ブレーキ77とを有する。ねじ軸75は、軸線方向一端部に外ねじが形成されるねじ部78を有し、その軸線を公転軸線L30と一致させて設けられる。このねじ軸75は、ねじ軸受79を介して、その軸線まわりに回転自在に、基体19に支持されている。ねじ軸受79は、スラスト軸受であり、ねじ軸75の軸線方向の変位を阻止して、ねじ軸75を支持している。ナット部材76は、ボールねじである内ねじが形成され、回転体45の軸線方向他端部に、回転体45と同軸に固定される。このナット部材76とねじ軸75とは相互に螺着されている。
電磁ブレーキ77は、基体19に固定されて設けられ、ねじ軸75の軸線方向他端部が没入されており、ねじ軸75の軸線まわりの回転を制動させるための手段である。電磁ブレーキ77は、内部にコイルを有しており、コイルが通電されて励磁される励磁状態と、コイルが通電されず励磁されていない非励磁状態とで、ねじ軸75の回転を制動する制動状態と、ねじ軸75の回転を制動しない非制動状態とに切り換わる。本参考例では、励磁状態において制動状態となり、非励磁状態において非制動状態となる。
電磁ブレーキ77が非制動状態にあるとき、ねじ軸75は自在に回転できるので、回転体45が自転モータ40からの回転駆動力で回転されると、ねじ軸75は、回転体45と共に回転し、回転体45に対しては回転しない。この状態では、回転体45は、公転軸線L30に沿って変位しない。
電磁ブレーキ77が制動状態にあるとき、ねじ軸75は、回転阻止されているので、回転体45が自転モータ40からの回転駆動力で回転されると、ねじ軸75は、回転体45に対して相対的に回転する。この状態では、ねじ軸75とナット部材76とが相対的に回転するので、ナット部材76が固定される回転体45が、ねじ軸75に対して公転軸線L30に沿って変位する。ねじ軸75は、軸線方向の変位が阻止されているので、回転体45が公転軸線L30に沿って変位する。このような構成によって、保持具変位駆動手段24は、自転駆動手段22による回転体45の回転を利用して、ツール保持具21を、公転軸線L30に沿って変位駆動することができる。
回転体45が軸線に沿って変位する方向は、回転体45が回転する方向によって変化する。たとえばねじ軸75が右ねじである場合、自転モータ40を正転させて、接合ツール11の軸線方向他端部から軸線方向一端部に向かう方向(図12の下方:以下、この方向を前進方向といい、反対方向を後退方向という場合がある)に見て、回転体45を時計回りに回転させると、回転体45が前進方向へ変位(以下「前進」という場合がある)する。このように回転体45が前進すると、その変位が軸連結体47によってツール保持具21に伝達され、ツール保持具21が同様に前進する。ねじ軸75が右ねじである場合に、自転モータ40を逆転させて、前進方向に見て、回転体45を反時計回りに回転させると、回転体45が後退方向へ変位(以下「後退」という場合がある)する。このように回転体45が後退すると、その変位が軸連結体47によってツール保持具21に伝達され、ツール保持具21が同様に後退する。ねじ軸75が左ねじの場合は、回転体45の回転方向に対して軸線方向の変位方向が逆になる。
このような摩擦撹拌接合装置10では、回転支持台30が公転軸線L30まわりに回転自在に基体19に支持され、この回転支持台30に公転軸線L30から偏心した自転軸線L11まわりに回転自在にツール保持具21が支持される。これによってツール保持具21を自転および公転自在に保持することができる。自転駆動手段22は、自在継手60,61を備える自転伝達機構41によって、基体19に固定される自転モータ40の回転駆動力を、公転するツール保持具21に伝達して、ツール保持具21を自転駆動することができる。また公転駆動手段23は、公転伝達機構66によって、基体19に固定される公転モータ65の回転駆動力を回転支持台30に伝達して回転させ、ツール保持具21を公転駆動することができる。このように簡単な構成によって、ツール保持具21の自転および公転を実現することができる。また自転モータ40および公転モータ41のいずれも基体19に固定される構成とし、これら各モータ40,65によって駆動される構成体を小さくし、装置全体を小形にすることができるとともに、ツール保持具21の自転および公転駆動を容易にすることができる。
また自転伝達機構41が、公転軸線L30まわりに回転自在である回転体45を設け、この回転体45とツール保持具21とを、軸部材59および2つの自在継手60,61を有する軸連結体47を用いて連結する構成とすることによって、ツール保持具21が、公転軸線L30に沿う方向に変位しない状態で、ツール保持具21を公転させながら自転させることができる。また回転体45は、軸線方向に関して、回転体軸受48,50によって支持される支持位置間の中央において、自転モータ40からの駆動力が入力されるので、安定した回転を実現することができ、接合ツール11の安定した自転を実現することができる。また回転支持台30は、軸線方向に関して、支持台軸受33,34によって支持される支持位置間の中央において、公転モータ65からの駆動力が入力されるとともに、この回転支持台30に対して、回転支持台30が支持される位置と同一の位置において、ツール保持具21が保持具軸受35,36に支持されるので、接合ツール11の安定した公転を実現することができる。
本参考例では、ロボット16が、軸線変位駆動手段として用いられる。ロボット16は、前述のように、先端部18を直交3軸まわりに回転させることができる構成であり、装置本体15の全体を、接合経路29に沿って変位させることができる。このように装置本体15全体を変位させることによって、接合ツール11を接合経路29に沿って変位させることができる。
摩擦撹拌接合装置10は、ツール保持具21によって接合ツール11を保持し、自転駆動手段22によってツール保持具21を自転させ、公転駆動手段23によってツール保持具21を公転させ、軸線変位駆動手段であるロボット16によって接合経路29に沿って公転軸線L30を変位させる。自転駆動手段22、公転駆動手段23、保持具変位駆動手段24およびロボット16は、制御装置20によって制御される。
このような摩擦撹拌接合装置10は、設置対象17に設定されて設けられる被接合物保持台80を有しており、被接合物保持台80に被接合物14を載置して保持させ、接合ツール11が被接合物14に臨むように配置される。摩擦撹拌接合装置10は、接合ツール11を自転させながら、この接合ツール11と被接合物保持台80とによって被接合物14を挟むようにして、接合ツール11を被接合物14に没入し、被接合物14の接合ツール11に接触する部分を摩擦熱によって軟化させ、流動化させる。このように被接合物14を、軟化流動させて固相撹拌して、各被接合部材12,13を接合する。
図15は、本発明の実施の一形態の摩擦撹拌接合方法における接合ツール11の動きを説明するための断面図である。図16は、ツール没入段階からツール退出段階までの公転速度V2の変化を説明するための図である。図16(1)において、横軸は、公転軸線L30の接合経路29上の位置を示し、縦軸は、接合ツール11の公転速度V2を示す。図16(2)において、横軸は、公転軸線L30の接合経路29上の位置を示し、縦軸は、自転軸線L11の第2方向Y1,Y2に関する位置を示す。図16(2)の縦軸については、接合経路29上をゼロとし、接合経路29に関して第2方向一方Y1側を正とする。
本実施の形態の摩擦撹拌接合方法は、前述の図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法と類似しており、異なる点についてだけ説明し、同様の構成については説明を省略する。図15に示す摩擦撹拌接合方法は、前述の図11〜図14に示す摩擦撹拌接合装置10を用いて行われる。
振れ領域S1のうち、接合経路29に関して第2方向一方Y1側の領域101では、公転による自転軸線L11の変位方向と、公転軸線L30の変位方向とが相互に略同一となり、接合経路29に関して第2方向他方Y2側の領域102では、公転による自転軸線L11の変位方向と、公転軸線L30の変位方向とが相互に略反対となる。本実施の形態においては、公転による自転軸線L11の変位方向と、公転軸線L30の変位方向とが相互に略同一となる領域を、方向同一領域101と称し、公転による自転軸線L11の変位方向と、公転軸線L30の変位方向とが相互に略反対となる領域を、方向反対領域102と称する。
すなわち方向同一領域101は、公転軸線L30まわりの回転による接合ツールの変位方向のベクトルが有している公転軸線L30の変位の方向(図15の上方)に平行なベクトル成分の方向が公転軸線L30の変位の方向と相互に同一(図15の上方)となる領域であり、公転軸線L30の変位の方向に関して一方側(図15の左方)の領域である。方向反対領域102は、前記ベクトル成分の方向が前記公転軸線L30の前記変位の方向と相互に反対(図15の下方)となる領域であり、公転軸線L30の前記変位の方向に関して他方側(図15の右方)の領域である。
前述の図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法では、撹拌段階における公転速度V2は一定であるが、本実施の形態では、方向同一領域101では、方向反対領域102に比べて、公転速度V2が低くなるように、接合ツール11を公転させる。このようにして、被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10を予め定める速度V10a以下とする。一例として述べると、被接合物14がアルミニウム合金であり、前述の接合ツール11が用いられる場合、前記予め定める速度V10aは、740mm/minである。方向同一領域101における公転速度V2である第1設定公転速度V2bは、10min−1に選ばれ、方向反対領域102における公転速度V2である第2設定公転速度V2cは、20min−1に選ばれる。
本実施の形態によれば、被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10を予め定める速度V10a以下に設定するので、接合後の被接合物14における空洞の形成を抑えて、接合品質をさらに高くすることができる。
詳細に述べると、被接合物14に対して接合ツール11の自転軸線L11を変位させると、その自転軸線L11の移動軌跡に関して、自転によって接合ツール11が回転変位する方向と自転軸線L11の変位方向とが略同一になる方向同一側からその反対側に、被接合物14の材料が流動される。このとき、被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10が予め定める速度V10aを超えると、被接合物14の材料の流動によって、方向同一側に空洞が発生しやすくなる。この性質を考慮して、本実施の形態では、被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10を予め定める速度V10a以下に設定するので、空洞の発生を防ぎ、接合品質をさらに高くすることができる。
また本実施の形態によれば、公転による自転軸線L11の変位方向と、公転軸線の変位方向とが相互に略同一となる方向同一領域101では、公転による自転軸線L11の変位方向と、公転軸線の変位方向とが相互に略反対となる方向反対領域102に比べて、公転速度V2が低くなるように、接合ツール11を公転させる。このようにして、方向同一領域101において、被接合物14に対する自転軸線L11の相対速度V10を低くする。
したがって、接合品質をさらに高くすることができるという前述の効果を、自転速度V1、および公転軸線の変位速度V3を低くすることなく、達成することができる。自転速度V1を低くする必要がないので、被接合物14の流動化を阻害しない自転速度V1で、接合ツール11を自転させることができ、被接合物14を確実に固相撹拌することができる。また、公転軸線の変位速度V3を低くする必要がないので、接合ツール11が大略的に接合経路に沿って進む速度を低くする必要がなく、高い処理速度を実現することができる。
また、接合品質をさらに高くすることができるという前述の効果を、接合ツール11の自転方向Aと公転方向Bとの関係に拘わらず、達成することができる。したがって接合ツール11の自転方向Aおよび公転方向Bに関しては、接合跡が良好となるように選択して、接合品質をさらに高くすることができる。
図17は、本発明の実施のさらに他の形態の摩擦撹拌接合方法を示すフローチャートである。図18は、ツール没入段階からツール退出段階までの公転直径D90の変化を説明するための図である。図18において、横軸は、公転軸線L30の接合経路29上の位置を示し、縦軸は、公転直径D90を示す。本実施の形態の摩擦撹拌接合方法は、前述の図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法と類似しており、異なる点についてだけ説明し、同様の構成については説明を省略する。
公転軸線L30を接合経路29の一端の位置P11から第1設定位置P12まで変位させるとき、前述の図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法では、接合ツール11を公転させないが、本実施の形態では、公転直径D90を徐々に大きくしながら接合ツール11を公転させる。また公転軸線L30を第2設定位置P13から接合経路29の他端の位置P14まで変位させるとき、前述の図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法では、接合ツール11を公転させないが、本実施の形態では、公転直径D90を徐々に小さくしながら接合ツール11を公転させる。
ステップb0で、作業者などから接合動作の開始指令が与えられると、摩擦撹拌接合方法に従う接合動作を開始する。接合動作を開始すると、前述の図5のステップa1〜a5を実行する。
次に、ステップb1で、公転直径D90を徐々に大きくしながら、接合ツール11を公転させ、公転軸線L30を第1方向一方X1に変位させる。接合ツール11の公転軸線L30が第1設定位置P12に到達すると、公転直径D90の増加を停止し、ステップb2で、公転直径D90を一定にして、接合ツール11を公転させ、公転軸線L30を第1方向一方X1に変位させる。接合ツール11の公転軸線L30が第2設定位置P13に到達すると、ステップb3で、公転直径D90を徐々に小さくしながら、接合ツール11を公転させ、公転軸線L30を第1方向一方X1に変位させる。この後、前述の図5のステップa11〜a13を実行し、ステップb5で、接合動作を終了する。
図19は、接合後の被接合物14を示す平面図である。図19において、撹拌領域S14は斜線で示す。接合経路29の一端付近では、第1方向一方X1に向かって進むにつれて、撹拌領域S14の第2方向Y1,Y2の幅は、徐々に大きくなる。また接合経路29の他端付近では、第1方向一方X1に向かって進むにつれて、撹拌領域S14の第2方向Y1,Y2の幅は、徐々に小さくなる。したがって接合経路29の一端付近および他端付近では、撹拌領域S14の形状が滑らかに変化するので、応力集中を防ぐことができ、接合強度を向上することができる。
本実施の形態では、接合経路29の一端付近および他端付近で、撹拌領域S14の縁辺105と接合経路29との成す角度θ1が45°になるように、第1設定位置P12および第2設定位置P13が選ばれる。これによって応力集中を可及的に防ぐことができる。
図20は、図17〜図19に示す摩擦撹拌接合方法を実行する摩擦撹拌接合装置における装置本体15Xの主要な構成を示す断面図である。摩擦撹拌接合装置は、図11〜図14に示す摩擦撹拌接合装置10と類似しており、対応する部分には同一の符号を付し、異なる点についてだけ説明して、同様の構成については説明を省略する。装置本体15Xは、図12に示す装置本体15に対応する構成であり、基体19を有し、この基体19において、ロボット16の先端部18に固定される。この装置本体15Xは、前記基体19と、ツール保持具21と、自転駆動手段22と、保持具変位駆動手段24とを有する。
基体19には、保持具軸受111〜113を介して、環状の保持具スプライン受114〜116が支持されている。本実施の形態では、複数たとえば3つの保持具スプライン受114〜116が、同数の保持具軸受111〜113によって1つずつ、それらの軸線まわりに回転自在に支持される。ツール保持具21は、保持具スプライン受114〜116を共通かつ同軸に挿通して設けられる。ツール保持具21の外周部には、スプラインが形成されており、ツール保持具21は、各保持具スプライン受114〜116にスプライン結合されて、各保持具スプライン受114〜116に対して、接合ツール11の軸線L11と一致するツール保持具21の軸線まわりの回転が阻止されかつツール保持具21の軸線に沿って変位自在に設けられる。このようにしてツール保持具21は、その軸線と一致する接合ツール11の軸線(自転軸線)L11まわりに回転自在に、かつこの自転軸線L11に沿ってスライド変位自在に設けられる。
自転駆動手段22は、自転モータ40と、自転伝達機構41とを有する。自転伝達機構41は、動力伝達輪間に無端状の索条が巻き掛けられて、動力を伝達する構成であり、本実施の形態では、動力伝達輪として有歯ベルト車と、索条としてタイミングベルトとの組合わせが用いられる。したがって自転伝達機構41は、2つの有歯ベルト車55,56と、タイミングベルト57とを有する。一方の有歯ベルト車55は、自動モータ40の出力軸42に固定される。他方の有歯ベルト車56は、前記3つの保持具スプライン受114〜116のうち、中央に配置される保持具スプライン受115の外周部に、一体に形成される。タイミングベルト57は、各有歯ベルト車55,56にわたって巻き掛けられる。このような構成によって、自転モータ40の出力軸42の回転力を、ツール保持具21に伝達することができる。
このような自転駆動手段22は、自転モータ40の回転駆動力を、自転伝達機構41によってツール保持具21に伝達し、ツール保持具21を自転駆動することができる。自転モータ40は、正逆両方向へ回転駆動力を出力することができ、自転駆動手段22は、ツール保持具21を自転軸線L11まわりの両方向へ回転駆動することができる。
保持具変位駆動手段24は、ねじ軸75と、ナット部材76と、電磁ブレーキ77とを有する。ねじ軸75は、軸線方向一端部に外ねじが形成されるねじ部78を有し、その軸線を自転軸線L11と一致させて設けられる。このねじ軸75は、ねじ軸受79を介して、その軸線まわりに回転自在に、基体19に支持されている。ねじ軸受79は、スラスト軸受であり、ねじ軸75の軸線方向の変位を阻止して、ねじ軸75を支持している。ナット部材76は、ボールねじである内ねじが形成され、ツール保持具21の軸線方向他端部に、ツール保持具21と同軸に固定される。このナット部材76とねじ軸75とは相互に螺着されている。
電磁ブレーキ77は、基体19に固定されて設けられ、ねじ軸75の軸線方向他端部が没入されており、ねじ軸75の軸線まわりの回転を制動させるための手段である。電磁ブレーキ77は、内部にコイルを有しており、コイルが通電されて励磁される励磁状態と、コイルが通電されず励磁されていない非励磁状態とで、ねじ軸75の回転を制動する制動状態と、ねじ軸75の回転を制動しない非制動状態とに切り換わる。本実施の形態では、励磁状態において制動状態となり、非励磁状態において非制動状態となる。
電磁ブレーキ77が非制動状態にあるとき、ねじ軸75は自在に回転できるので、ツール保持具21が自転モータ40からの回転駆動力で回転されると、ねじ軸75は、ツール保持具21と共に回転し、ツール保持具21に対しては回転しない。この状態では、ツール保持具21は、自転軸線L11に沿って変位しない。
電磁ブレーキ77が制動状態にあるとき、ねじ軸75は、回転阻止されているので、ツール保持具21が自転モータ40からの回転駆動力で回転されると、ねじ軸75は、ツール保持具21に対して相対的に回転する。この状態では、ねじ軸75とナット部材76とが相対的に回転するので、ナット部材76が固定されるツール保持具21が、ねじ軸75に対して自転軸線L11に沿って変位する。ねじ軸75は、軸線方向の変位が阻止されているので、ツール保持具21が自転軸線L11に沿って変位する。このような構成によって、保持具変位駆動手段24は、自転駆動手段22によるツール保持具21の回転を利用して、ツール保持具21を、自転軸線L11に沿って変位駆動することができる。
ツール保持具21が軸線に沿って変位する方向は、ツール保持具21が回転する方向によって変化する。たとえばねじ軸75が右ねじである場合、自転モータ40を正転させて、接合ツール11の軸線方向他端部から軸線方向一端部に向かう方向(図20の下方:以下、この方向を前進方向といい、反対方向を後退方向という場合がある)に見て、ツール保持具21を時計回りに回転させると、ツール保持具21が前進方向へ変位(以下「前進」という場合がある)する。ねじ軸75が右ねじである場合に、自転モータ40を逆転させて、前進方向に見て、ツール保持具21を反時計回りに回転させると、ツール保持具21が後退方向へ変位(以下「後退」という場合がある)する。ねじ軸75が左ねじの場合は、ツール保持具21の回転方向に対して軸線方向の変位方向が逆になる。
本実施の形態では、ロボット16が、公転駆動手段および軸線変位駆動手段として用いられる。ロボット16は、前述のように、先端部18を直交3軸まわりに回転させることができる構成であり、装置本体15Xの全体を、自転軸線L11と平行な公転軸線L30まわりに回転させることができる。このように装置本体15X全体を公転軸線L30まわりに回転させることによって、接合ツール11を公転軸線L30まわりに公転駆動することができる。またロボット16は、装置本体15Xの全体を、接合経路29に沿って変位させることができる。このように装置本体15全体を変位させることによって、接合ツール11を接合経路29に沿って変位させることができる。
摩擦撹拌接合装置は、ツール保持具21によって接合ツール11を保持し、自転駆動手段22によってツール保持具21を自転させ、公転駆動手段であるロボット16によってツール保持具21を公転させ、軸線変位駆動手段であるロボット16によって接合経路29に沿って公転軸線L30を変位させる。自転駆動手段22およびロボット16は、制御装置によって制御される。
図21は、本発明の実施のさらに他の形態である摩擦撹拌接合方法における公転を説明するために、接合ツール11の一部を示す正面図である。本実施の形態の摩擦撹拌接合方法は、前述の図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法と類似しており、異なる点についてだけ説明し、同様の構成については説明を省略する。この摩擦撹拌接合方法は、図20に示す装置本体15Xを有する摩擦撹拌接合装置を用いて行われる。
前述の実施の形態では、接合ツール11を、その軸線L11と一致する自転軸線L11と平行な公転軸線L30まわりに回転させるけれども、本実施の形態では、接合ツール11を、その軸線L11上の一点である錐揉み点140を中心にして錐揉み回転させる。詳細に述べると、接合ツール11を、自転軸線L11に対して予め定める傾斜角度θを成して傾斜する公転軸線L30まわりに回転させる。これによって接合ツール11を、自転軸線L11と公転軸線L30との交点となる前記錐揉み点140を中心に錐揉み回転させる。本実施の形態では、錐揉み点140は、接合ツール11のピン部26から離間した位置に存在する。
このような公転は、6軸ロボットであるロボット16を用いて装置本体15Xを変位駆動すれば、容易に実現することができる。このように接合ツール11を錐揉み回転状に公転させる構成であっても、接合ツール11を公転させることによる効果を、前述の図1〜図10に示す摩擦撹拌接合方法と同様に達成することができる。またこのような構成は、被接合物14が、凹状の部分を有する場合に、その凹状の部分を、凹となる側から接合ツール11で撹拌して接合するために好適に用いることができる。
図22に示す実施の形態では、接合ツール11を、錐揉み状に公転させるにあたって、接合ツール11のピン部26から離間する位置に錐揉み点140が存在したけれども、その他の位置に錐揉み点が存在してもよく、たとえば図22に示すように、本体部25とピン部26との連結部付近に錐揉み点140が存在するように、公転させてもよく、同様の効果を達成することができる。
前述の実施の各形態は、本発明の例示に過ぎず、本発明の範囲内において構成を変更することができる。前述の実施の各形態では、軸線変位駆動手段としてロボット16が用いられるが、軸線変位駆動手段は、被接合物14に対して第1方向X1,X2にスライド変位可能な門形フレームによって実現されてもよい。
また前述の実施の各形態では、突合せ継手を形成するために各被接合部材12,13の端面同士を突き合わせて被接合物14を構成するが、重ね継手を形成するために各被接合部材12,13をそれらの厚み方向に積重して被接合物14を構成してもよい。各被接合部材12,13をそれらの厚み方向に積重して被接合物14を構成する場合も、接合ツール11を自転させるだけでなく、自転とともに公転させ、さらに公転軸線L30を第1方向一方X1に変位させる。これによってピン部26を大きくすることなく、被接合物14における軟化および流動化させて撹拌する撹拌領域S14を大きくし、接合領域を大きくすることができる。したがって接合領域を大きくして接合強度を大きくすることができるうえ、接合後に残存する孔を小さく抑えるとともに、撹拌時における被接合物14の素材の飛散量を少なく抑え、接合品質を高くすることができる。また接合ツール11の被接合物14への没入を容易にし、作業性を良好にすることができる。これらの効果を達成したうえで、前述の実施の各形態と同様の効果を達成することができる。