JP4411523B2 - 抗ウイルス剤 - Google Patents

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この発明は、コッコミクサ藻体より抽出した抗ウイルス剤に関するものである。
従来、藻類は、食品、飼料等に用いられているが、その効能は食品の範疇、飼料の範疇でしか見出されておらず、その免疫活性、抗腫瘍性、抗癌性等の有用性についての開発はほとんど行われていなかった。
藻類の有用性については、そのまま乾燥させたものや、熱水で抽出したエキス、そのエキスを粉末にしたものを用いて、動物実験や臨床試験は行われているが、そのほとんどが糖尿病、高血圧症等の血糖値、血圧値を下げる程度の水準であった。
ところが、近年、藻類の熱水抽出物に抗癌活性が見出されるに至っており、その活性本体としては多糖類であるとされている。藻類の中でもクロレラに含まれる多糖類であるβ−グルカンは、椎茸やヒメマツタケ等に見られる菌類にも多く含まれ、その効果が明らかになっている。
そこで、本出願人においても、藻類の中でもクロレラまたはコッコミクサから抽出した酸性多糖が、免疫系や癌細胞に直接影響を与え、強い抗癌活性を有することを見出すに至っている(特許文献1)。
また、本出願人は、ガラス製、アクリル製等の透明体からなる水槽に、コッコミクサ藻体を接種して、第一、二、三工程を通じて、培養温度を5〜30°Cに保持し、炭酸ガス含有空気を通気しつつ、前記水槽の上面や側面などから蛍光灯または白熱灯を照射し、培養することを三工程に別けて行う培養法を提供している。この培養法によれば、コッコミクサ藻体の大量培養が容易にできる(特許文献2)。
特開2001−288102号公報(第2頁) 特開平11−290093号公報(第2頁)
そこで、この発明は、藻類の中でも上記培養法により大量培養されるコッコミクサ藻体に注目し、このコッコミクサ藻体の抽出物が、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス等のDNA型ウイルス、RNA型ウイルスに対して高い抗ウイルス活性を示すことを見出し、本抗ウイルス剤を提供するに至ったものである。
この発明の抗ウイルス剤は、緑色植物門(Chlorohta) 、緑藻綱(Chlorophyeae)、クロロコッカム目(Chlorococcales)、クロロコッカム科(Chlorococcaceae) に属するコッコミクサ・ミノール(Coccomyxa minor) 又はコッコミクサ・グロエオボトリディフォルミス(Coccomyxagloeobotrydiformis)としたコッコミクサ藻体の熱水抽出物から得られた多糖体画分を有効成分としてなり、単純ヘルペスウイルス1型、A型インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルスに対する抗ウイルス活性を有するものとしている。
そして、前記多糖体画分は、前記コッコミクサ藻体の抽出物の蒸留水による溶出画分としている。さらに、前記多糖体画分は、前記コッコミクサ藻体の抽出物の蒸留水による溶出後の無機塩溶液による溶出画分とすることができる。
この発明の抗ウイルス剤は、以上に述べたように構成されており、ヘルペスウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルス等のDNA型ウイルス、RNA型ウイルスに対して高い抗ウイルス活性を示すものとなった。
以下、この発明の抗ウイルス剤を実施するための最良の形態を、実施例に基づいて詳細に説明する。
この発明の抗ウイルス剤は、コッコミクサ藻体の抽出物を有効成分としてなるものとしている。このコッコミクサ藻体の抽出物は、熱水抽出物とするのが好ましい。
この発明で用いるコッコミクサ藻体は、緑色植物門(Chlorohta) 、緑藻綱(Chlorophyeae)、クロロコッカム目(Chlorococcales)、クロロコッカム科(Chlorococcaceae) に属するコッコミクサ・ミノール(Coccomyxa minor) 、コッコミクサ・グロエオボトリディフォルミス(Coccomyxa gloeobotrydiformis)とした。
さらに、この発明の抗ウイルス剤は、コッコミクサ藻体の抽出物から得られた多糖体画分を有効成分としてなるものとしている。
前記多糖体画分は、コッコミクサ藻体の抽出物の蒸留水による溶出画分としたり、この蒸留水による溶出後の無機塩溶液による溶出画分とすることができる。すなわち、前記多糖体画分は、コッコミクサ藻体の抽出物をカラムクロマトグラフィーに付し、蒸留水で溶出した画分としたり、この溶出画分を続いて無機塩溶液で溶出した画分とすることができる。
そこで、この発明の抗ウイルス剤におけるコッコミクサ藻体抽出物の抽出法およびこの抽出物から得られた多糖体の分画法について、詳細に説明する。
(コッコミクサ藻体の抽出と分画)
コッコミクサの乾燥藻体(10g)にイオン交換水(200mL)を加え、還流下で1時間、加熱抽出を行った。抽出液を遠心分離(3000rpm、15min)し、上清を減圧濃縮しコッコミクサ藻体の抽出物(以下、CEという)70mLを得た。
前記CE(15mL:113mg相当)を遠心分離(3000rpm、15min)し、上清をカラムクロマトグラフィー(DEAE Toyopearl 650M column(φ2.5×6cm):東ソー株式会社製)に付した。最初、蒸留水200mLで溶出を行い(この溶出画分を以下、CE-1という)、続いて0〜2M−NaClの濃度勾配をかけて溶出させ(この溶出画分を以下、CE-2という)、最後に4M−NaClで溶出させた(この溶出画分を以下、CE-3という)。各試験管に約4mLずつ分取し、256nmにおける吸光度、およびフェノール硫酸法による呈色反応後の480nmにおける吸光度を測定し、それぞれの溶出曲線をもとに分画した。
得られた画分は、減圧濃縮後、イオン交換水に対して透析した後、凍結乾燥した。その結果、収量はCE-1が74mg、CE-2が12mg、CE-3が6mgであった。なお、残りのCE(55mL:413mg相当)は凍結乾燥した。
(単糖組成分析)
CE-1〜CE-3の各画分を2N−トリフルオロ酢酸(TFA)に溶解し、121°Cで1時間、加水分解した。窒素ブローによりTFAを除去した後、濃縮した。これに、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH4)を加え、生成した単糖類をアルジトールに還元し、過剰のNaBH4 を10%AcOH/MeOHに加え分解し、濃縮乾固した。さらに、MeOHを加え、濃縮乾固を5回行うことでホウ酸イオンを除去した。減圧下で乾燥後、無水酢酸を加え、100°Cで2時間、加熱することでアルジトールアセテートを得た。得られたアルジトールアセテートは、ガスクロマトグラフ/質量分析計により分析した。
CE-1〜CE-3の各画分についての構成単糖を分析した結果を、表1に示した。
Figure 0004411523
表1より、CE-1、CE-3はRibを多く含み、CE-2は6-O-methylhexose を含むことが判った。
この発明の抗ウイルス剤は、ウイルス感染前またはウイルス感染後において、予防的または治療的処置に有用である。この抗ウイルス剤の適用可能なウイルスとしては、単純ヘルペスウイルス1型(HSV−1)、A型インフルエンザウイルス(IFV)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV−1)、ヒトコロナウイルス(HCoV)等のDNA型ウイルス、RNA型ウイルスが挙げられる。
以下、この発明の抗ウイルス剤のこれらウイルスに対する活性の測定を行った。
(実施例1)単純ヘルペスウイルス1型に対する活性の測定
HSV−1に対する活性は、アフリカミドリザル腎臓由来のVero細胞を宿主細胞として用いた。このVero細胞を48穴プレートに培養し、0.1PFU(プラーク形成単位)/細胞で感染後、この発明の抗ウイルス剤(CEおよびCE-1〜CE-3)の0.8〜500μg/mlの存在下で処理した。24時間後に収穫して、凍結、溶解処理を3回行った。この検体を適宜希釈して、35mmディッシュに別に培養したVero細胞に感染させ、翌日に染色後、プラークを計数した。無添加対照区のプラーク数を100%として、50%ウイルス増殖阻止濃度(IC50)を算出した。
(実施例2)A型インフルエンザウイルスに対する活性の測定
IFVに対する活性は、イヌ腎臓由来のMDCK細胞を宿主細胞として用いた。このMDCK細胞を48穴プレートに培養し、0.1PFU/細胞で感染後、この発明の抗ウイルス剤(CEおよびCE-1〜CE-3)の0.8〜500μg/mlの存在下で処理した。以下、プラークアッセイはHSV−1と同様の方法で行った。
(実施例3)ヒト免疫不全ウイルスに対する活性の測定
感染力のあるウイルスそのものは用いない細胞間融合アッセイを行った。すなわち、HIVの糖蛋白質であるgp160(gp120/gp41)を発現しているHeLa細胞(gp160+ HeLa細胞)と、宿主側のレセプターであるCD4を発現しているHeLa細胞(CD+ HeLa細胞)とを一定の割合で混合培養することによって、両者の細胞間で融合(多核巨細胞の形成)が起こることを利用して、この融合に対する阻止効果を検討した。この発明の抗ウイルス剤(CEおよびCE-1〜CE-3)の0.8−500μg/mlの存在下で24時間の混合培養を行った後、ギムザ染色し、顕微鏡下で多核巨細胞数を測定した。無添加対照区の巨細胞数を100%として、50%細胞融合阻止濃度(IC50)を算出した。
(実施例4)ヒトコロナウイルスに対する活性の測定
HCoVに対する活性は、ヒト胎児肺由来のMRC−5細胞を宿主細胞として用いた。このMRC−5細胞を48穴プレートに培養し、0.001TCID50(50%培養細胞感染量)/細胞で感染後、この発明の抗ウイルス剤(CEおよびCE-1〜CE-3)の0.8〜500μg/mlの存在下で処理した。3日後に収穫して、この検体を適宜希釈して、96穴プレートに別に用意したMRC−5細胞に感染させ、5日間培養する。細胞変性効果(CPE)の有無を判定して、Reed−Muench法によって、50%CPE阻止濃度(IC50)を算出した。
一方、上記抗ウイルス活性の測定に伴い、この発明の抗ウイルス剤の細胞毒性試験を行った。
前記Vero細胞、MDCK細胞、HeLa細胞、MRC−5細胞の各細胞を96穴プレートに培養し、この発明の抗ウイルス剤(CEおよびCE-1〜CE-3)を80〜10000μg/mlの濃度範囲で添加した培地中で、72時間処理した。生細胞数は、トリパンブルー染色によって測定する。無添加対照区の細胞数を100%とした時のそれぞれの増殖率を求め、50%細胞増殖阻止濃度(CC50)を算出した。
次に、CC50/IC50の値を計算して、抗ウイルス活性の強弱を比較した。この数値が大きいほど選択的なウイルス増殖阻害効果が強いと言える。結果を表2〜5に示した。
なお、以下に示す表の中で、A区はウイルス感染の時から収穫に至るまでの期間中にこの発明の抗ウイルス剤が存在することを、またB区はウイルス感染直後から収穫に至るまでの期間中にこの発明の抗ウイルス剤が存在することをそれぞれ意味する。
Figure 0004411523
表2より、CEに強い活性が認められ、B区に比べ、A区の活性の方が高いことから、ウイルスの感染初期(宿主細胞への吸着、侵入段階)を阻害する可能性が考えられる。CE-1〜CE-3については、CE-3が最も強力な活性を示した。CE-3の活性は、CEにほぼ匹敵するものであった。
Figure 0004411523
表3より、HSV−1に類似した傾向がみられた。これは、ウイルスの感染が、HSV−1の場合には宿主細胞膜とウイルス膜(エンベロープ)との融合によって起こるのに対して、インフルエンザウイルスの場合には貧食(融合が起こらないで、ウイルス粒子が飲み込まれる)によって起こることが関係していると思われる。選択指数は約30となり、一般的にかなり高い数値といえる。
Figure 0004411523
表4より、CEに強い活性が認められ、CE-3にもこれに匹敵する効果が認められた。エイズウイルスが細胞に感染する際に、HSV−1と同様に膜間の融合を起こすが、この段階を効果的に阻止できる可能性がある。現行のエイズウイルス感染症の治療法は、逆転写酵素阻害剤とプロテアーゼ阻害剤を3〜5種類組み合わせる併用療法(HAARTと呼ばれている)である。この感染症の性質上、投薬を開始した場合には生涯にわたって薬物治療の管理下におかれるため、長期投薬による深刻な副作用の出現と耐性ウイルスの発生とが大きな問題になっている。このような事情を背景にして、これまで以上に作用点の異なる治療薬の開発が求められているが、今回採用したアッセイ系は、逆転写酵素阻害剤やプロテアーゼ阻害剤とは異なるウイルス増殖段階である宿主細胞へのウイルスの吸着、侵入に対する阻害効果を評価できる。その点で、この発明の抗ウイルス剤が本アッセイ系において高い細胞融合阻止効果を示したことは、従来の治療薬とは違う作用メカニズムを有する可能性が期待できる。
Figure 0004411523
表5より、CEにはかなりの阻害作用がみられた。CE-2およびCE-3においては、CEに比べて強度は低下しているが、選択指数が10を超える有望な結果が得られた。

Claims (3)

  1. 緑色植物門(Chlorohta) 、緑藻綱(Chlorophyeae)、クロロコッカム目(Chlorococcales)、クロロコッカム科(Chlorococcaceae) に属するコッコミクサ・ミノール(Coccomyxa minor) 又はコッコミクサ・グロエオボトリディフォルミス(Coccomyxagloeobotrydiformis)としたコッコミクサ藻体の熱水抽出物から得られた多糖体画分を有効成分としてなり、単純ヘルペスウイルス1型、A型インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、ヒトコロナウイルスに対する抗ウイルス活性を有することを特徴とする抗ウイルス剤。
  2. 前記多糖体画分が、前記コッコミクサ藻体の抽出物の蒸留水による溶出画分であることを特徴とする請求項記載の抗ウイルス剤。
  3. 前記多糖体画分が、前記コッコミクサ藻体の抽出物の蒸留水による溶出後の無機塩溶液による溶出画分であることを特徴とする請求項記載の抗ウイルス剤。
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