JP4409670B2 - 光波形整形装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光の波形を整形するための光波形整形装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、例えばレーザ装置などにおいて、フェムト秒光パルス等の光の波形整形に空間光変調器を用いることが検討されている。空間光変調器を光学系に組み込むことによる波形整形では、空間光変調器をコンピュータ等によってプログラム制御することが可能であり、したがって、波形整形が容易化されるとともに様々な光波形への整形・制御が可能となる。
【0003】
図7に、空間光変調器を用いた従来の光波形整形装置の一例を示す。この装置は反射型の空間光変調器8を用いて構成されており、波形整形の対象となる入射光(コヒーレント光)はグレーティング6によって分光され、凹面鏡7aを介して空間光変調器8に入力されてその波形が整形された後、凹面鏡7bを介してグレーティング9によって光を再び重ね合わせて、全反射鏡10によって波形整形された光が所定の光軸方向に出射される。
【0004】
図8及び図9は、このような光波形整形装置による波形整形の具体例を示す。入射光を、パルス幅64fs、中心波長789.57nm、スペクトル幅12.59nm、光強度200mWのTi:sapphireレーザの光パルスとし、これに図8に示す位相変調をかける。このとき、図9(a)の時間波形に示すようなシングルパルスの光パルスが、図9(b)に示すように遅延時間が異なる複数の光パルスからなるパルス列(相互相関法によって測定)に波形整形される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような波形整形が可能なものとして、電極に所定の電極パターンが形成された電気アドレス方式の反射型空間光変調器がある。しかしながら、このような空間光変調器においては形成される電極パターンによって電極層に凹凸形状が存在し、そのようなパターン形状のウェッジ部分の影響によって出力光に回折光を生じてしまうという問題がある。回折光が発生した場合、それによって(1)光量の一部が回折光によって奪われてしまうために、有効に使用される光の光量・強度が減少してしまう、(2)回折光が出力光にノイズ光として重畳されて、望む波形が精度良く得られない、など波形整形の効率上の問題を生じてしまう。
【0006】
本発明は、以上の問題点に鑑みてなされたものであり、空間光変調器の電極パターンによる回折光の発生が抑制されて、効率及び精度の良い波形整形が可能な光波形整形装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明による光波形整形装置は、入射光の波形を整形して出射する光波形整形装置であって、(1)光変調材料層と、光変調材料層に対して入出力側及び反射側にそれぞれ形成された2つの電極層と、光変調材料層及び反射側の電極層の間に形成された反射層とを有し、変調によって光の波形整形を行う反射型の空間光変調器と、(2)波形整形の対象となる入射光を分光する分光手段と、(3)分光手段によって分光された入射光を空間光変調器に結像させる結像手段と、を有し、(4)空間光変調器は、電極層の少なくとも一方に電気アドレスのための所定の電極パターンが形成されて構成されるとともに、電極パターンが形成された電極層の光変調材料層側の面上に、電極層を覆って光変調材料層側の表面が平坦に形成された誘電体層を備えることを特徴とする。
【0008】
光波形整形装置に適用される電気アドレス方式の反射型空間光変調器において、上記のようにその電極層の電極パターンによる凹凸形状の溝部分を埋めるとともに光変調材料層側の表面が平坦とされた誘電体層を形成することにより、凹凸形状に起因する回折の発生が低減・回避され、波形整形された後の出射光の強度低下と波形の乱れとが抑制された効率及び精度の良い波形整形が可能となる。
【0009】
すなわち、反射側の電極層については、反射層側(光変調材料層側)の面の凹凸形状が誘電体層によって平坦化されるので、これによって、反射層に生じてしまう凹凸がなくなり回折光の発生が回避される。また、入出力側の電極層についても、凹凸形状を誘電体層で覆うことによって回折光の発生が低減される。
【0010】
入出力側についてはさらに、入出力側の電極層は、所定の電極パターンが形成された透明電極層であり、透明電極層の光変調材料層側の面上に形成された誘電体層は、透明電極層とほぼ等しい屈折率を有することを特徴としても良い。
【0011】
このとき、透過する光に対しては、透明電極層及び誘電体層が全体として両側が平坦な層のように作用する。これによって、入出力側の電極層(透明電極層)が電極パターンを有する場合の回折光の発生をさらに抑制することができる。
【0012】
透明電極層及び誘電体層の材質及びそれらの屈折率については、それぞれの光波形整形装置の構成において、得られる出力光の光強度、波形精度に対して必要とされる強度・精度を充分に確保できるように回折光の発生が低減される範囲で、ほぼ同等な屈折率を有するものを適宜選択して用いることができる。
【0013】
なお、反射側の電極層については透明電極層であっても良く、また、アルミ電極等の不透明な電極層であっても良い。
【0014】
また、反射層は、誘電体多層膜鏡であることが好ましい。
【0015】
分光手段は、プリズム、またはグレーティングを有して構成されることが好ましい。また、結像手段は、単レンズ、シリンドリカルレンズ、凹面鏡、または円筒凹面鏡を有して構成されることが好ましい。
【0016】
また、空間光変調器は、光変調材料層に対して入出力側及び反射側に光変調材料層を挟んでそれぞれ配置され、その光変調材料層側の面上に電極層がそれぞれ形成された2つの支持基板をさらに有することを特徴とする。さらに、入出力側の支持基板には、電極層に対して反対側の面上に反射防止膜が形成されていることを特徴としても良い。
【0017】
変調による波形整形の対象である光を高効率で透過するガラス面板などの透明基板等を用いて支持基板とすることによって、空間光変調器の形成を容易・確実にするとともに、光を効率良く利用することができる。特に、入出力側の支持基板の外面上に反射防止膜を設けることで、さらに光の利用効率を向上させることができる。なお、反射側の支持基板については、不透明な基板を用いても良い。
【0018】
また、電極層のいずれか一方は、光変調材料層側の表面が平坦に形成されていることを特徴としても良い。
【0019】
さらに、光変調材料層に用いられる光変調材料は、液晶であることを特徴とすることが好ましい。液晶としては、例えばネマティック液晶などを用いることができる。
【0020】
また、空間光変調器の入出力側から入力される入力光、または入出力側から出力される出力光のいずれか一方に対し、その偏波面が液晶における液晶分子の配向方向に対してほぼ45度傾けられた第1の偏光子が設置されていることを特徴とする。
【0021】
さらに、空間光変調器の入力光または出力光の他方に対し、その偏波面が第1の偏光子の偏波面に対してほぼ直交した第2の偏光子がさらに設置されていることを特徴とする。
【0022】
あるいは、空間光変調器の入力光または出力光の他方に対し、その偏波面が第1の偏光子の偏波面に対してほぼ平行な第2の偏光子がさらに設置されていることを特徴とする。
【0023】
このように偏光子を設置・構成した場合には、2つの電極層間に所定の電圧を印加して、入射光の強度変調を行うことが可能である。
【0024】
また、空間光変調器の入出力側から入力される入力光、または入出力側から出力される出力光のいずれか一方に対し、その偏波面が液晶における液晶分子の配向方向に対してほぼ平行な第1の偏光子が設置されていることを特徴とする。
【0025】
さらに、空間光変調器の入力光または出力光の他方に対し、その偏波面が第1の偏光子の偏波面に対してほぼ平行な第2の偏光子がさらに設置されていることを特徴とする。
【0026】
このように偏光子を設置・構成した場合には、2つの電極層間に所定の電圧を印加して、入射光の位相変調を行うことが可能である。これらの強度変調、位相変調、及びそれらの組み合わせによって、様々な波形整形を実現することが可能である。
【0027】
また、空間光変調器を複数段に重ねることによって、入射光の強度変調及び位相変調をそれぞれ独立に制御することが可能なように構成しても良い。これによって、波形整形の制御がより容易化され、また、その可能な波形の適用範囲が広くなる。なお、この場合には最終段の空間光変調器のみに反射層を形成する。
【0028】
また、波形整形の対象となる入射光のビーム径を拡大するための拡大光学系をさらに有することを特徴としても良い。これによって、入射光の空間光変調器上での波長分解能を向上させることができる。
【0029】
【発明の実施の形態】
以下、図面と共に本発明による光波形整形装置の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0030】
図1は、本発明に係る光波形整形装置の一実施形態を示す構成図である。本装置による波形整形の対象となる入射光としては、レーザ装置からのコヒーレント光、例えばパルス幅64fs、中心波長789.57nm、スペクトル幅12.59nm、光強度200mWのTi:sapphireレーザからの光パルス、など様々な光に適用することができ、そのような入射光は所定の構成、例えば溝本数600本/mm、ブレーズ波長800nm、の分光手段であるグレーティング1によって分光された後、結像手段である凹面鏡2aによって結像されつつ波形整形のための第1の空間光変調器3aに入力される。本実施形態においては、この空間光変調器3aは入力光の位相変調に用いられる。
【0031】
このとき、空間光変調器3aへの入力光は、上記したグレーティング1によって図1の紙面に対して平行方向に分光(フーリエ変換)されて入力され、したがって空間光変調器3aの平行方向の各部位に対して入射光の各波長(周波数)成分が分光された入力光として入力される。
【0032】
位相変調用の空間光変調器3aによって位相変調された光は、結像手段の凹面鏡2b及び凹面鏡2cによって波形整形のための第2の空間光変調器3bに、空間光変調器3aの場合と同様に平行方向に分光された状態で結像、入力される。この空間光変調器3bは、入力光の強度変調に用いられる。
【0033】
なお、入射光は空間光変調器3a、3b上での波長分解能を向上させるため、所定の拡大光学系(図示していない)によって、そのビーム直径が例えば1cm程度になるように拡大される。
【0034】
位相変調用の空間光変調器3a及び強度変調用の空間光変調器3bによって変調され波形整形された出力光は、凹面鏡2dを介してグレーティング4に入射し、各波長成分が再び同一光軸に重ね合わされて(逆フーリエ変換)、偏光ビームスプリッター5を通過して最終的に波形整形された出射光として出射される。
【0035】
図2は、図1に示す光波形整形装置において空間光変調器3a及び3bとして用いられる空間光変調器3の一例を示す構成図である。この空間光変調器3は一方を光が入力及び出力される入出力側、他方を光が反射される反射側とする反射型であって、図2においては図中の左側から光が入力され、同じく左側から変調・反射された光が出力される。
【0036】
空間光変調器3は、その両側の支持基板である入出力側透明基板31と反射側透明基板38とによって光変調材料層である液晶層34を挟み込むように形成されている。透明基板31、38としては例えば光を効率的に透過させるガラス面板が用いられる。また、液晶層34としては例えばネマティック液晶が用いられ、配向層33、35及びスペーサ34a、34bによって配置・固定されるとともに液晶分子が所定の方向に配向される。
【0037】
入出力側透明基板31及び反射側透明基板38の液晶層34側(図中の内側)の面上には、それぞれ透明電極32及び37が形成されている。透明電極32、37は好ましくはITO膜からなる層であり、例えば屈折率1.80を有する酸化インジウムIn2O3に酸化スズSnO2を5.0wt%添加した材料を膜厚75nm程度に蒸着して形成する。また、透明電極37の液晶層34側の面上には、さらに誘電体層36が形成されている。
【0038】
また、配向層35及び誘電体層36の間には、光を反射するための反射層である誘電体多層膜鏡39が形成されている。このような誘電体多層膜鏡39としては、所定の波長域の光を反射させるように多層膜として形成されたものを用い、これによって入出力側からの入力光を反射して、再び入出力側から出力光として出力させる。
【0039】
透明電極32、37間には所定の電圧が印加され、これによって液晶層34の状態を制御して光の変調が行われる。本実施例においては、入出力側透明基板31側の透明電極32は共通グランド用であり、一様な膜厚で形成されている。一方、反射側透明基板38側の透明電極37は複数の電極から構成される所定の電極パターンを有して形成されており、以上の構成により、それらの各電極に印加する電圧によって各部位での光変調を制御する電気アドレス方式の反射型空間光変調器3が構成される。
【0040】
なお、反射側の透明電極37については、必ずしも透明なものを用いる必要はなく、例えばアルミ電極層などを用いても良い。また、反射側透明基板38についても透明でない基板を用いても良い。
【0041】
図3は、空間光変調器3における上記した透明電極37の電極パターンの構成例を示す平面図である。本実施例の電極パターンにおいては、各電極部37aは図3中の上側及び下側の辺から交互に、図中の横方向を分割し縦方向を長手方向として例えば128本などの所定の本数・分割数で形成されている。また、各電極部37aは、ITO膜が蒸着されていない溝部37bによってそれぞれ電気的に分離されている。
【0042】
このような電極パターンの断面構造を、誘電体層36、透明電極37及び透明基板38について一部を拡大して図4に示す。透明電極37は、その電極パターンの電極部37aと溝部37bによって図4に示すような凹凸形状を有し、配向層35と透明電極37との間に誘電体多層膜鏡39を形成した場合には誘電体多層膜鏡39の透明電極37側が凹凸形状となってしまうため、これによって、反射される変調光に対してスリットのような効果を生じてしまう。
【0043】
ここで、スリットによって生じる回折効果(フラウンホーファー領域)について説明する。まず、開口部の幅がaである単スリットの場合、光強度がA0である平行光を入射させたときのスリット位置での光の振幅分布U1(x1)は、次の(1)式
【0044】
【数1】
によって表される。ここで、x1はスリットの長手方向に垂直な方向の座標であり、x1=0がスリットの中心位置である。
【0045】
光がこのスリットを通過するとフラウンホーファー回折が生じ、このとき、スリットから距離lだけ離れた面上での回折パターンの強度分布は、
【数2】
となる。ここで、A0=1.0、a=40(μm)、l=1.0(m)、λ=790(nm)とすると、その(2)式による回折パターンは図5(a)のようになる。
【0046】
また、幅がaであるスリットがそれぞれ中心間隔cだけ離れてN個配置された場合、光強度がA0である平行光を入射させたときのスリット位置での光の振幅分布U1(x1)は、次の(3)式
【数3】
によって表される。この場合、回折パターンの強度分布は、
【数4】
となる。ここで、N=4、a=40(μm)、c=140(μm)、l=1.0(m)、λ=790(nm)とすると、(4)式による回折パターンは図5(b)のようになる。すなわち、スリットを複数とすることによって、図5(a)のパターンに対して干渉の効果が重畳される。
【0047】
また、N=4、a=15(μm)、c=140(μm)、l=1.0(m)、λ=790(nm)とすると、(4)式による回折パターンは図5(c)のようになる。すなわち、スリットの幅を狭めることによって、回折の影響が大きくなるために分布の幅が広がり、その結果さらに多くの干渉縞が発生してしまう。なお、スリットの数が増えると各干渉縞の幅が狭くなる。
【0048】
図2に示す空間光変調器3における透明電極37の電極パターンは、上記したように図4に示す凹凸形状を有し、これによって、変調される光の一部に対して所定の間隔で形成された複数のスリットと同様の効果を生じる。
【0049】
この場合、電極パターンのウェッジ部分で生じた回折パターンの1次以上の回折光成分に光の強度の例えば3割程度を奪われてしまい、変調制御の対象となる出力光である0次光の強度が低減されてしまう。また、1次以上の回折光が0次光にノイズ光として重畳してしまうため、波形に余分な変形を生じて望む波形が精度良く得られないという問題がある。回折光強度は、例えば電極部37aに対する溝部37bを小さくすることによって低減させることができるが、隣接する電極間の短絡を生じる恐れがあるため、それによって上記の回折光の問題を解決することはできない。
【0050】
これに対して、本実施例による図2に示す空間光変調器3においては、透明電極37の液晶層34側の面上に誘電体層36が形成されている。この誘電体層36は、図4に示すように透明電極37側(図中の下側)において透明電極37の溝部37bを埋めるとともに、液晶層34側(図中の上側)の表面が平坦になるように形成される。
【0051】
例えば、屈折率1.80を有する酸化インジウムIn2O3に酸化スズSnO2を5.0wt%添加した材料を膜厚75nm程度に蒸着して形成された透明電極37に対して、その液晶層34側にポリイミドをスピナーを用いて数μm程度塗布することによって、溝部37bが埋まるとともに液晶層34側の表面が平坦になる誘電体層36が形成される。また、所定の材料を蒸着しても良い。
【0052】
このとき、誘電体多層膜鏡39は透明電極37上に接するのではなく、誘電体層36に接して形成されるので、誘電体多層膜鏡39において凹凸形状を生じることがなくなる。したがって、透明電極37の電極パターンによる凹凸形状、及びそれによる誘電体多層膜鏡39の凹凸形状が光に対してスリットのように作用することがなくなって、回折光の発生を回避することができる。このような空間光変調器3を用いることによって、回折光による出力光の強度減少と、波形整形された波形の望む波形からの乱れ・精度低下とを抑制して、精度の良い効率的な波形整形が可能な光波形整形装置を実現することができる。
【0053】
また、特に誘電体多層膜鏡39を用いた反射型空間光変調器を用いることによって、多重干渉の影響、すなわち位相変調に伴う強度変化の影響を低減させることができる。
【0054】
図6(a)は、入出力側の透明電極32について反射率2.65%、透過率T93.75%、吸収3.6%とし、誘電体多層膜鏡39について反射率R99.8%、透過率0.2%とした場合の、位相変調量に対する反射率の強度変化の計算結果を示すグラフである。一方、図6(b)は、誘電体多層膜鏡を有しない透過型の空間光変調器において、入力側及び出力側の透明電極をともに反射率2.65%、透過率T93.75%、吸収3.6%とした場合の、位相変調量に対する透過率の強度変化の計算結果を示すグラフである。これらを比較すると、誘電体多層膜鏡を用いた反射型の空間光変調器の方が、透過型よりも位相変調量に対する強度の変化が小さいことがわかる。
【0055】
図2〜図4に示す構成からなる空間光変調器3を位相変調用の空間光変調器3a及び強度変調用の空間光変調器3bとして適用した場合の、図1に示す光波形整形装置による波形整形について説明する。
【0056】
空間光変調器3a及び3bは、いずれも図3に示した透明電極37の電極パターンを構成しているそれぞれの電極部37aの長手方向を図1において紙面に対して垂直な方向とし、したがって透明電極37の各電極による分割の方向が紙面に対して平行な方向となるように設置される。このとき、透明電極37の電極パターンは平行方向に分光されて入力されている入力光の各波長成分に対応して分割されており、これらの分割された複数の電極部37aにそれぞれ所定の電圧を印加することによって、各電極部37aの範囲に対応する光の各波長成分ごとに所定の変調が加えられる。
【0057】
なお、本実施形態においては光波形整形装置への入射光の偏光方向は紙面に対して平行とされ、空間光変調器3a及び3bは、位相変調用の空間光変調器3aは液晶分子の配向方向が光の偏光方向に対して平行となるように、また、強度変調用の空間光変調器3bは液晶分子の配向方向が光の偏光方向に対して45度傾くようにそれぞれ配置されている。配向方向を光の偏光方向に対して45度傾かせた場合には偏波面が回転するので、偏光ビームスプリッター5を用いて紙面に対して平行な方向の偏光方向のみを選択することによって光の振幅・強度を変調することができる。
【0058】
本発明による光波形整形装置は、上記した実施形態に限られるものではなく、様々な変形・構成の変更が可能である。例えば、分光手段についてはグレーティングに限られず分光プリズムなどを用いても良い。また、結像手段についても凹面鏡に限られず単レンズ、シリンドリカルレンズ、円筒凹面鏡などを用いても良い。
【0059】
結像手段に凹面鏡または単レンズを用いた場合には、分光される方向に対して垂直な方向について光が集光される。このとき、光強度が増加するにつれて液晶層などの光変調材料層に熱が蓄積されるために目的とする変調を得られなくなる場合がある。このような場合には円筒凹面鏡またはシリンドリカルレンズを用いることによって垂直方向については集光を行わずに光強度を空間的に分散させて、上記した熱の蓄積の問題を回避することができ、高強度の光を波形整形することも可能となる。
【0060】
空間光変調器の配置等については、図1に示す実施形態においては位相変調用及び強度変調用の2つの空間光変調器を別個に設置して位相変調と強度変調とを独立に制御しているが、例えば1つの空間光変調器のみによる構成として変調を行っても良く、または3つ以上の空間光変調器を配置しても良い。また、位相変調用及び強度変調用など、空間光変調器を複数段に重ねたものを用いて位相変調及び強度変調を独立に制御する構成とすることも可能である。ただし、複数段に重ねる場合には、そのうちの最終段の空間光変調器にのみ反射層を形成する。
【0061】
また、光の偏光方向の制御・選択等については、空間光変調器の入力光及び出力光の光路上などにそれぞれ所定の偏光子を設置し、それらの組み合わせによって制御・選択を行っても良い。
【0062】
例えば、強度変調に関しては、空間光変調器の入力光または出力光のいずれか一方に対して、その偏波面が液晶分子の配向方向に対してほぼ45度傾けられた第1の偏光子を設置し、他方に対して、その偏波面が第1の偏光子の偏波面に対してほぼ直交するか、またはほぼ平行な第2の偏光子を設置する構成としても良い。
【0063】
また、位相変調に関しては、空間光変調器の入力光または出力光のいずれか一方に対して、その偏波面が液晶分子の配向方向に対してほぼ平行な第1の偏光子を設置し、他方に対して、その偏波面が第1の偏光子の偏波面に対してほぼ平行な第2の偏光子を設置する構成としても良い。
【0064】
また、空間光変調器の構成についても図2、図3に示すものに限られず、様々な変形が可能である。例えば、入出力側透明基板31の入出力面上に反射防止膜を形成して、さらに光の利用効率を向上しても良い。また、透明電極37の電極パターンについても図3に示すものに限らず、行いたい変調の内容や入力される光の分光条件等に応じて様々な電極パターンを用いても良い。
【0065】
また、もう一方の透明電極32についても電極パターンを有して構成しても良い。その場合、透明電極32の液晶層34側の面上にも同様に誘電体層を形成することによって、回折光の発生を抑制することができる。このとき、誘電体層を透明電極32とほぼ等しい屈折率を有する材質によって形成することが好ましい。このように構成することによって、ほぼ同等の屈折率を有する透明電極32及び誘電体層が全体として、液晶層34側及び透明基板31側の両面が平坦な層として通過する光に対して作用する。したがって、透明電極32の電極パターンによる凹凸形状が光に対してスリットのように作用することがなくなって、回折光の発生をさらに抑制することができる。
【0066】
なお、上記の場合における透明電極及び誘電体層の材質及びそれらの屈折率については、それぞれの光波形整形装置の構成において、得られる出力光の光強度、波形精度に対して必要とされる強度・精度を充分に確保できるように回折光の発生が低減・抑制される範囲で、好適な近い(ほぼ同等な)屈折率を有するものを用いれば良い。特に、両者の屈折率を一致させた場合には透明電極の電極パターンによる凹凸形状が存在しない場合と等価となり、回折光の発生を回避することができる。
【0067】
【発明の効果】
本発明による光波形整形装置は、以上詳細に説明したように、次のような効果を得る。すなわち、光の変調による波形整形に電気アドレス方式の反射型空間光変調器を用い、その電極層における電極パターンの凹凸形状に対して、凹凸形状を埋めて平坦化させる誘電体層を形成する。これによって、誘電体多層膜鏡などの反射層に凹凸形状を生じることを回避できるなど、凹凸形状による回折光の発生に起因する波形整形の効率及び精度の低下を抑制することが可能となる。
【0068】
電気アドレス方式の空間光変調器を適用した光波形整形装置は、その構造によってコンピュータによるプログラム制御等が可能かつ容易であり、このような構成による光波形整形装置の高効率化・高精度化を実現することによって、入射光に対して様々な光波形への整形・制御が可能となるとともに、光波形の選択性・機能性が大幅に向上される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る光波形整形装置の一実施形態を示す構成図である。
【図2】図1に示す光波形整形装置において用いられる空間光変調器の一実施例を示す構成図である。
【図3】空間光変調器における透明電極の電極パターンを示す平面図である。
【図4】電極パターンによる凹凸形状を示す拡大断面図である。
【図5】スリットによる回折パターンを示すグラフである。
【図6】反射型及び透過型の空間光変調器における反射率及び透過率の位相変調量に対する強度変化を比較するためのグラフである。
【図7】従来の光波形整形装置の一例を示す構成図である。
【図8】光パルスに対する位相変調の一例を示すグラフである。
【図9】図8に示す位相変調による光パルスのパルス列への波形整形を示すグラフである。
【符号の説明】
1…グレーティング、2a、2b、2c、2d…凹面鏡、4…グレーティング、5…偏光ビームスプリッター、
3、3a、3b…空間光変調器、31…入出力側透明基板、32…透明電極、33…配向層、34…液晶層、34a、34b…スペーサ、35…配向層、36…誘電体層、37…透明電極、37a…電極部、37b…溝部、38…反射側透明基板、39…誘電体多層膜鏡。
Claims (18)
- 入射光の波形を整形して出射する光波形整形装置であって、
光変調材料層と、前記光変調材料層に対して入出力側及び反射側にそれぞれ形成された2つの電極層と、前記光変調材料層及び前記反射側の前記電極層の間に形成された反射層とを有し、変調によって光の波形整形を行う反射型の空間光変調器と、
波形整形の対象となる前記入射光を分光する分光手段と、
前記分光手段によって分光された前記入射光を前記空間光変調器に結像させる結像手段と、を有し、
前記空間光変調器は、前記電極層の少なくとも一方に電気アドレスのための所定の電極パターンが形成されて構成されるとともに、前記電極パターンが形成された前記電極層の前記光変調材料層側の面上に、前記電極層を覆って前記光変調材料層側の表面が平坦に形成された誘電体層を備えることを特徴とする光波形整形装置。 - 前記入出力側の前記電極層は、前記所定の電極パターンが形成された透明電極層であり、
前記透明電極層の前記光変調材料層側の面上に形成された前記誘電体層は、前記透明電極層とほぼ等しい屈折率を有することを特徴とする請求項1記載の光波形整形装置。 - 前記反射層は、誘電体多層膜鏡であることを特徴とする請求項1または2記載の光波形整形装置。
- 前記分光手段は、プリズム、またはグレーティングを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載の光波形整形装置。
- 前記結像手段は、単レンズ、シリンドリカルレンズ、凹面鏡、または円筒凹面鏡を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の光波形整形装置。
- 前記空間光変調器は、前記光変調材料層に対して前記入出力側及び前記反射側に前記光変調材料層を挟んでそれぞれ配置され、その前記光変調材料層側の面上に前記電極層がそれぞれ形成された2つの支持基板をさらに有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の光波形整形装置。
- 前記入出力側の前記支持基板には、前記電極層に対して反対側の面上に反射防止膜が形成されていることを特徴とする請求項6記載の光波形整形装置。
- 前記電極層のいずれか一方は、前記光変調材料層側の表面が平坦に形成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項記載の光波形整形装置。
- 前記光変調材料層に用いられる光変調材料は、液晶であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項記載の光波形整形装置。
- 前記空間光変調器の前記入出力側から入力される入力光、または前記入出力側から出力される出力光のいずれか一方に対し、その偏波面が前記液晶における液晶分子の配向方向に対してほぼ45度傾けられた第1の偏光子が設置されていることを特徴とする請求項9記載の光波形整形装置。
- 前記空間光変調器の前記入力光または前記出力光の他方に対し、その偏波面が前記第1の偏光子の偏波面に対してほぼ直交した第2の偏光子がさらに設置されていることを特徴とする請求項10記載の光波形整形装置。
- 前記空間光変調器の前記入力光または前記出力光の他方に対し、その偏波面が前記第1の偏光子の偏波面に対してほぼ平行な第2の偏光子がさらに設置されていることを特徴とする請求項10記載の光波形整形装置。
- 2つの前記電極層間に所定の電圧を印加して、前記入射光の強度変調を行うことを特徴とする請求項10〜12のいずれか一項記載の光波形整形装置。
- 前記空間光変調器の前記入出力側から入力される入力光、または前記入出力側から出力される出力光のいずれか一方に対し、その偏波面が前記液晶における液晶分子の配向方向に対してほぼ平行な第1の偏光子が設置されていることを特徴とする請求項9記載の光波形整形装置。
- 前記空間光変調器の前記入力光または前記出力光の他方に対し、その偏波面が前記第1の偏光子の偏波面に対してほぼ平行な第2の偏光子がさらに設置されていることを特徴とする請求項14記載の光波形整形装置。
- 2つの前記電極層間に所定の電圧を印加して、前記入射光の位相変調を行うことを特徴とする請求項14または15記載の光波形整形装置。
- 前記空間光変調器を複数段に重ねることによって、前記入射光の強度変調及び位相変調をそれぞれ独立に制御することが可能なように構成されたことを特徴とする請求項1〜16のいずれか一項記載の光波形整形装置。
- 波形整形の対象となる前記入射光のビーム径を拡大するための拡大光学系をさらに有することを特徴とする請求項1〜17のいずれか一項記載の光波形整形装置。
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