JP4409657B2 - フィルタの製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えばディーゼルパティキュレートフィルタのようなフィルタを製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車の台数は今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに比例して自動車の内燃機関から出される排気ガスの量も急激な増加の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの出す排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。また、最近では排気ガス中のスス(ディーゼルパティキュレート)が、ときとしてアレルギー障害や精子数の減少を引き起こす原因となるとの研究結果も報告されている。つまり、排気ガス中のススを除去する対策を講じることが、人類にとって急務の課題であると考えられている。
【0003】
このような事情のもと、従来より、多様多種の排気ガス浄化装置が提案されている。一般的な排気ガス浄化装置は、エンジンの排気マニホールドに連結された排気管の途上にケーシングを設け、その中に微細な孔を有するフィルタを配置した構造を有している。フィルタの形成材料としては、金属や合金のほか、セラミックがある。セラミックからなるフィルタの代表例としては、コーディエライト製のハニカムフィルタが知られている。最近では、耐熱性・機械的強度・捕集効率が高い、化学的に安定している、圧力損失が小さい等の利点があることから、炭化珪素をフィルタ形成材料として用いることが多い。
【0004】
ハニカムフィルタは自身の軸線方向に沿って延びる多数のセルを有している。排気ガスがフィルタを通り抜ける際、そのセル壁によってススがトラップされる。その結果、排気ガス中からススが除去される。
【0005】
しかし、炭化珪素焼結体製のハニカムフィルタは熱衝撃に弱い。そのため、大型化するほどフィルタにクラックが生じやすくなる。よって、クラックによる破損を避ける手段として、複数の小さなハニカム焼結体個片を一体化して1つの大きなフィルタを製造する技術が近年提案されている。
【0006】
上述のフィルタを製造する一般的な方法を簡単に述べる。まず、押出成形機の金型を介してセラミック原料を連続的に押し出すことにより、柱状のハニカム成形体を形成する。押出成形工程の後、ハニカム成形体を所定の等しい長さに切断する。切断工程の後、ハニカム成形体切断片を加熱してハニカム焼結体とする。焼成工程の後、複数のハニカム焼結体を用いてそれらの外周面同士を接着剤を介して接合する。そして、このような組み付け工程を経ることにより、所望のディーゼルパティキュレートフィルタが完成する。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、ススを長期間にわたって捕集すると、フィルタの圧力損失が次第に大きくなる。このため、定期的にフィルタ全体を加熱してススを燃焼・消失させることにより、フィルタを再生する必要がある。従来の多くの排気ガス浄化装置では、フィルタの上流側圧力(背圧)を測定して得た結果に基づき、再生を行なうべきタイミングを判断している。それゆえ、フィルタの初期圧損特性の向上に対する要求は、非常にシビアなものとなっている。つまり、フィルタの初期圧損のばらつきを小さくすることが、シビアに要求されている。
【0008】
ここで「圧損」とは、フィルタ上流側の圧力値から下流側の圧力値を引いたものをいう。排気ガスがセル壁を通過する際に抵抗を受けることが、圧損をもたらす最大の要因である。従って、セル壁厚は、フィルタの初期圧損特性に大きな影響を与える。そうであるとすると、セル壁厚が規格範囲内にあるハニカム焼結体のみを用いて組み付け工程を行なえば、初期圧損特性のよいフィルタを製造できることになる。
【0009】
しかしながら、押出成形機の金型の貫通孔を介してセラミック原料を連続的に押し出す際には、セラミック原料が金型と絶えず摺接しながら移動する。すると、原料中に含まれる硬質な炭化珪素粒子による研磨作用を受けて、金型が徐々に摩耗し、貫通孔の寸法が変化してしまう。この寸法変化が進むと、最終的に金型は摩耗破壊のため使用不可能となり、その一生を終える。勿論、この場合には寿命の尽きた金型を新しい金型に交換する必要が生じる。
【0010】
金型の貫通孔の寸法変化がもたらす影響を、図9のグラフを用いて説明する。
図9(a)のグラフにおいて、横軸はハニカム成形体の押し出し長(m)を示し、縦軸は押出成形工程の各時期におけるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体のセル壁厚(mm)を示す。同グラフ中、Lは金型に寿命がくるまで押し出したときのハニカム成形体の長さの合計を示す。右肩上がりの実線は、押し出し長とセル壁厚との関係を示す。このリニアな実線を見ても明らかなように、金型が寿命に近づくほど、貫通孔の寸法変化量が大きくなり、セル壁厚は厚くなる。
【0011】
図9(b)のグラフにおいて、横軸はハニカム成形体の押し出し長(m)を示し、縦軸は押出成形工程の各時期におけるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体の圧損(kPa)を示す。右肩上がりの実線は、押し出し長と圧損との関係を示す。このリニアな実線を見ても明らかなように、金型が寿命に近づくほど、圧損は大きくなる。つまり、セル壁厚が厚くなると、圧損もそれに比例して大きくなる関係にある。
【0012】
フィルタに要求される圧損の規格範囲が、仮に9.5kPa〜10.5kPaであるとすると、押出成形工程の初期及び後期におけるハニカム成形体切断片は、いずれも規格範囲を外れたものとなる。従って、金型の寿命が尽きるまでに成形可能な長さの約半分に相当するものが規格外品となり、使用に適さないとして結局廃棄される。その理由は、規格範囲から同程度外れたもの同士を複数個用いて組み付け工程を行なった場合、押出成形の初期、中期及び後期のものの間で初期圧損がばらつくことは必至だからである。
【0013】
以上のことから、従来では、本来の寿命がくる前に金型を交換して新たに押出成形を行なう必要があった。よって、実質的には金型の使用可能期間の短縮という問題を招き、このことが設備コストを高騰させていた。しかも、セラミック原料のロスの多さが材料コストを高騰させ、このことがフィルタ自体の低コスト化を妨げていた。
【0014】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、初期圧損特性のよいフィルタを低コストで得ることができるフィルタの製造方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、押出成形機の金型を介してセラミック原料を連続的に押し出すことによりハニカム成形体を形成する押出成形工程と、ハニカム成形体を所定の長さに切断する切断工程と、ハニカム成形体切断片を加熱してハニカム焼結体とする焼成工程と、複数のハニカム焼結体を一体化する組み付け工程とを含むフィルタの製造方法であって、一連の押出成形工程における異なった時期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体を適宜組み合わせて前記組み付け工程を行なうことにより、フィルタ全体での平均セル壁厚を、押出成形工程における特定の時期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体のセル壁厚とほぼ同程度に調整することを特徴とするフィルタの製造方法をその要旨とする。
【0016】
請求項2に記載の発明では、押出成形機の金型を介してセラミック原料を連続的に押し出すことによりハニカム成形体を形成する押出成形工程と、ハニカム成形体を所定の長さに切断する切断工程と、ハニカム成形体切断片を加熱してハニカム焼結体とする焼成工程と、複数のハニカム焼結体を用いてそれらの外周面同士を接着剤を介して接合する組み付け工程とを含むフィルタの製造方法であって、押出成形工程の初期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体と、後期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体とを適宜組み合わせて前記組み付け工程を行なうことにより、フィルタ全体での平均セル壁厚を、押出成形工程の中期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体のセル壁厚とほぼ同程度に調整することを特徴とするフィルタの製造方法をその要旨とする。
【0017】
請求項3に記載の発明によると、請求項2において、前記組み付け工程において、押出成形工程の初期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体と、後期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体とを組み合わせる際、前記セル壁厚の規格範囲からの外れ程度がほぼ等しいもの同士を略同数個ずつ用いるとした。
【0018】
請求項4に記載の発明では、請求項2または3において、前記フィルタは多孔質炭化珪素製のディーゼルパティキュレートフィルタであるとした。
請求項5に記載の発明では、請求項2乃至4のいずれか1項において、前記接着剤は、セラミック繊維が分散されたセラミック耐熱接着剤であるとした。
【0019】
請求項6に記載の発明は、請求項2乃至5のいずれか1項において、前記ハニカム焼結体をその軸線方向に垂直に切ったときの断面積は、前記フィルタ全体をその軸線方向に垂直に切ったときの断面積の1/400〜1/15であるとした。
【0021】
以下、本発明の「作用」について説明する。
請求項1,2に記載の発明によると、本来使用に適さず廃棄されていたハニカム成形体切断片までもが利用可能となる結果、セラミック原料のロスが減り、材料コストが低く抑えられる。また、金型を本来の寿命まで使用できるようになる結果、金型の交換頻度が少なくなり、設備コストの高騰が防止される。以上のことから、初期圧損特性のよいフィルタを低コストで得ることができる。
【0022】
請求項3に記載の発明によると、押出成形工程の初期、中期及び後期という全てステージで得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体を、万遍なく利用することが可能となる。よって、セラミック原料のロスが極めて少なくなり、よりいっそう材料コストが低く抑えられる。
【0023】
請求項4に記載の発明によると、耐熱性・機械的強度・捕集効率が高く、化学的に安定で、しかも圧力損失が小さい、という好特性を備えたディーゼルパティキュレートフィルタを得ることができる。
【0024】
請求項5に記載の発明によると、セラミック繊維が分散されたセラミック耐熱接着剤であれば、使用時にフィルタが熱衝撃や振動を受けた場合であっても、接合状態の悪化を来しにくい。よって、ハニカム焼結体のがたつきや脱落が防止される。
【0025】
請求項6に記載の発明によると、断面積比を上記好適範囲内に設定することにより、接着剤の厚さばらつきによる影響を受けることなく、フィルタ再生時における温度不均一化を回避することができる。
【0026】
この断面積比が小さすぎると、フィルタ全体の断面積に占める接着剤の面積分が増え、接着剤の厚さばらつきによる影響が大きくなる。即ち、接着剤の厚さのばらつきが増大することにより、初期圧損がばらつきやすくなる。ゆえに、接着剤の厚さばらつきが生じないように慎重に組み付け作業を行なわなければならず、製造が面倒になるおそれがある。逆に、この断面積比が大きすぎると、フィルタを構成するハニカム焼結体の個数が少なくなりすぎ、フィルタ再生時に温度が不均一化するおそれがある。従って、クラックが発生しやすくなり、フィルタの破損に至りやすくなる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態のディーゼルエンジン用の排気ガス浄化装置1を、図1〜図5に基づき詳細に説明する。
【0029】
図1に示されるように、この排気ガス浄化装置1は、内燃機関としてのディーゼルエンジン2から排出される排気ガスを浄化するための装置である。ディーゼルエンジン2は、図示しない複数の気筒を備えている。各気筒には、金属材料からなる排気マニホールド3の分岐部4がそれぞれ連結されている。各分岐部4は1本のマニホールド本体5にそれぞれ接続されている。従って、各気筒から排出された排気ガスは一箇所に集中する。
【0030】
排気マニホールド3の下流側には、金属材料からなる第1排気管6及び第2排気管7が配設されている。第1排気管6の上流側端は、マニホールド本体5に連結されている。第1排気管6と第2排気管7との間には、同じく金属材料からなる筒状のケーシング8が配設されている。ケーシング8の上流側端は第1排気管6の下流側端に連結され、ケーシング8の下流側端は第2排気管7の上流側端に連結されている。排気管6,7の途上にケーシング8が配設されていると把握することもできる。そして、この結果、第1排気管6、ケーシング8及び第2排気管7の内部領域が互いに連通し、その中を排気ガスが流れるようになっている。
【0031】
図1に示されるように、ケーシング8はその中央部が排気管6,7よりも大径となるように形成されている。従って、ケーシング8の内部領域は、排気管6,7の内部領域に比べて広くなっている。このケーシング8内にはフィルタ9が収容されている。なお、フィルタ9の外周面とケーシング8の内周面との間には、断熱材層10が配設されている。断熱材層10はセラミックファイバを含んで形成されたマット状物であり、その厚さは数mm〜数十mmである。
【0032】
図2,図3に示されるように、本実施形態において用いられるフィルタ9は、比較的大型のハニカムフィルタである。同フィルタ9は、上記のごとくディーゼルパティキュレートを除去するものであるため、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)とも呼ばれる。本実施形態において用いられるフィルタ9は、複数個のハニカム焼結体F1,F2を組み合わせて一体化したものである。フィルタ中心部に位置するハニカム焼結体F1,F2は四角柱状であって、その外形寸法は33mm×33mm×167mmである。四角柱状のハニカム焼結体F1,F2の周囲には、四角柱状でない異型のハニカム焼結体F1,F2が複数個配置されている。その結果、全体としてみると円柱状のフィルタ9(直径135mm前後)が構成されている。
【0033】
これらのハニカム焼結体F1,F2は、セラミックス焼結体の一種である多孔質炭化珪素焼結体製である。炭化珪素以外の焼結体として、例えば窒化珪素、サイアロン、アルミナ、コーディエライト等の焼結体を選択することもできる。ハニカム焼結体F1,F2には、断面略正方形状をなす複数の貫通孔12がその軸線方向に沿って規則的に形成されている。各貫通孔12はセル壁13によって互いに隔てられている。各貫通孔12の開口部は一方の端面9a,9b側において封止体14(ここでは多孔質炭化珪素焼結体)により封止されており、端面9a,9b全体としては市松模様状になっている。その結果、ハニカム焼結体F1,F2には、断面四角形状をした多数のセルが形成されている。セルの密度は200個/インチ前後に設定されている。多数あるセルのうち、約半数のものは上流側端面9aにおいて開口し、残りのものは下流側端面9bにおいて開口する。
【0034】
図2,図3に示されるように、複数のハニカム焼結体F1,F2は、接着剤15を介してその外周面同士が接合されている。前記接着剤15としては、セラミック繊維が分散されたセラミック耐熱接着剤15が用いられている。接着剤15中には、セラミック繊維に加えて炭化珪素粉末が分散されていることがよい。
【0035】
ハニカム焼結体F1,F2をその軸線方向に垂直に切ったときの断面積は、フィルタ全体をその軸線方向に垂直に切ったときの断面積の1/400〜1/15であることが好ましく、特には1/200〜1/50であることが好ましい。
【0036】
この断面積比が小さくなりすぎると、フィルタ全体の断面積に占める接着剤15の面積分が増え、接着剤15の厚さばらつきによる影響が大きくなる。即ち、接着剤15の厚さのばらつきが増大することにより、初期圧損がばらつきやすくなる。ゆえに、接着剤15の厚さばらつきが生じないように慎重に組み付け作業を行なわなければならず、製造が面倒になるおそれがある。逆に、この断面積比が大きくなりすぎると、フィルタ9を構成するハニカム焼結体F1,F2の個数が少なくなりすぎ、フィルタ再生時に温度が不均一化するおそれがある。従って、クラックが発生しやすくなり、フィルタ9の破損に至りやすくなる。
【0037】
また、ハニカム焼結体F1,F2をその軸線方向に垂直に切ったときの一辺の長さは、フィルタ全体をその軸線方向に垂直に切ったときの直径の1/25〜1/4であることが好ましく、特には1/20〜1/5であることが好ましい。これは、上記断面積比の場合と同様の理由による。
【0038】
ケーシング2内に収容されたフィルタ9には、上流側端面9aの側から排気ガスが供給される。第1排気管6を経て供給されてくる排気ガスは、まず、上流側端面9aにおいて開口するセル内に流入する。次いで、この排気ガスはセル壁13を通過し、それに隣接しているセル、即ち下流側端面9bにおいて開口するセルの内部に到る。そして、排気ガスは、同セルの開口を介してフィルタ9の下流側端面9bから流出する。しかし、排気ガス中に含まれるススはセル壁13を通過することができず、そこにトラップされてしまう。その結果、浄化された排気ガスがフィルタ9の下流側端面9bから排出される。浄化された排気ガスは、さらに第2排気管7を通過した後、最終的には大気中へと放出される。
【0039】
図2,図3に示されるように、このフィルタ9は、A群(A1〜A4群)に属するハニカム焼結体F1と、B群(B1〜B4群)に属するハニカム焼結体F2とによって、即ち2種のハニカム焼結体F1,F2によって構成されている。
【0040】
図5のグラフに示されるように、ここではセル壁厚の規格範囲が0.40±0.4mmに設定されている。A1〜A4群に属するハニカム焼結体F1のセル壁13の厚さ(セル壁厚T1)は、規格範囲よりも相対的に小さくなっている。
【0041】
A1群に属するものはT1=0.32mm〜0.33mm程度に設定されていて、その値T1は規格範囲の下限値(0.36mm)から0.3mm〜0.4mm程度外れている。A2群に属するものはT1=0.33mm〜0.34mm程度に設定され、その値T1は規格範囲の下限値から0.2mm〜0.3mm程度外れている。A3群に属するものはT1=0.34mm〜0.35mm程度に設定され、その値T1は規格範囲の下限値から0.1mm〜0.2mm程度外れている。A4群に属するものはT1=0.35mm〜0.36mm程度に設定され、その値T1は規格範囲の下限値から0.0mm〜0.1mm程度外れている。
【0042】
一方、B1〜B4群に属するハニカム焼結体F2のセル壁13の厚さ(セル壁厚T2)は、規格範囲よりも相対的に大きくなっている。B1群に属するものはT2=0.47mm〜0.48mm程度に設定されていて、その値T2は規格範囲の上限値(0.44mm)から0.3mm〜0.4mm程度外れている。B2群に属するものはT2=0.46mm〜0.47mm程度に設定され、その値T2は規格範囲の上限値から0.2mm〜0.3mm程度外れている。B3群に属するものはT2=0.45mm〜0.46mm程度に設定され、その値T2は規格範囲の上限値から0.1mm〜0.2mm程度外れている。B4群に属するものはT2=0.44mm〜0.45mm程度に設定され、その値T2は規格範囲の上限値から0.0mm〜0.1mm程度外れている。
【0043】
そして、本実施形態のフィルタ9は、8個のハニカム焼結体F1と、8個のハニカム焼結体F2とによって構成されている。言い換えると、このフィルタ9は、セル壁厚T1,T2の異なる2種のハニカム焼結体F1,F2を同数個ずつ用いて構成されている。
【0044】
より具体的には、A1群−B1群、A2群−B2群、A3群−B3群、A4群−B4群、というように、セル壁厚T1,T2の規格範囲からの外れ程度が等しいもの同士の組み合わせが採用されている(図5参照)。その結果、フィルタ9全体での平均セル壁厚Tmは、いずれも約0.40mmとなり、見掛け上、前記規格範囲内に完全に収まっている。
【0045】
図1(b)には、ハニカム焼結体F1,F2のレイアウトが示されている。同図中、A群に属するハニカム焼結体F1には奇数番号が付され、B群に属するハニカム焼結体F2には偶数番号が付されている。つまり、ハニカム焼結体F1とハニカム焼結体F2とは、隣り合わないように1つおきに配置されている。
【0046】
次に、上記のフィルタ9を製造する手順を説明する。
[原料調整工程]
本実施形態では、押出成形工程で使用するセラミック原料スラリー、端面封止工程で使用する封止用ペースト、接着剤塗布工程で使用する接着剤ペーストをあらかじめ作製しておいた。
【0047】
セラミック原料スラリーとしては、炭化珪素粉末に有機バインダ及び水を所定分量ずつ配合し、かつ混練したものを用いた。封止用ペーストとしては、炭化珪素粉末に有機バインダ、潤滑剤、可塑剤及び水を配合し、かつ混練したものを用いた。接着剤ペーストとしては、炭化珪素粉末にシリカゾル、バルクのセラミック繊維、樹脂バインダ及び水を配合し、かつ混練したものを用いた。
[押出成形工程]
セラミック原料スラリーを押出成形機21のホッパ内に充填した。この状態で押出成形機21の加圧装置を駆動し、スラリーに圧力を加え、金型22の貫通孔を介してスラリーを押出成形機21の外部に連続的に押し出した(図4参照)。その結果、ほぼ等しい断面形状のハニカム成形体23を連続的に形成した。
[切断工程]
押出成形されたハニカム成形体を、図示しないカッタを用いて等しい長さに切断することにより、多数の四角柱状のハニカム成形体切断片24を得た。そして、これら切断片24を上記8つの群(A1〜A4,B1〜B4)ごとに区分しておき、それら区分毎に組み付け工程までの諸工程をそれぞれ実施した。
[端面封止工程]
得られたハニカム成形体切断片24を専用の封止材充填装置にセットし、この状態で各セルの片側開口部に所定量ずつ封止用ペーストを充填した。その結果、切断片24の両端面を封止した。
[焼成工程]
あらかじめ乾燥を行った後に所定温度・所定時間で本焼成を行い、ハニカム成形体切断片24及び封止体14を完全に焼結させた。その結果、2種のハニカム焼結体F1,F2を得た。
[接着剤塗布工程]
ハニカム焼結体F1,F2の外周面にセラミック質からなる下地層を形成した後、さらにその上にセラミックス耐熱接着剤15を塗布した。この場合、接着剤15の厚さを約1.5mmに設定した。
[組み付け工程]
そして、A1群に属するハニカム焼結体F1と、B1群に属するハニカム焼結体F2とをそれぞれ8個ずつ用いて、それらの外周面同士を互いに接着しかつ一体化することにより、大型のハニカムフィルタ9Aを製造した。同様に、A2群−B2群、A3群−B3群、A4群−B4群、という組み合わせにして、各々について大型のハニカムフィルタ9Aを製造した(図4参照)。
[外形カット工程]
組み付け工程を経て得られた断面正方形状のハニカムフィルタ9Aを研削機にセットし、その外周面における不要部分を研削して除去した。その結果、図4に示されるように、完成品である断面円形状のハニカムフィルタ9を得た。
【0048】
従って、本実施形態によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)図5(a)のグラフにおいて、横軸はハニカム成形体23の押し出し長(m)を示し、縦軸は押出成形工程の各時期における切断片24に由来するハニカム焼結体のセル壁厚(mm)を示す。同グラフ中、Lは金型22に寿命がくるまで押し出したときのハニカム成形体23の長さの合計を示す。右肩上がりの実線は、押し出し長とセル壁厚との関係を示す。図5(b)のグラフにおいて、横軸はハニカム成形体23の押し出し長(m)を示し、縦軸は押出成形工程の各時期における切断片24に由来するハニカム焼結体の圧損(kPa)を示す。右肩上がりの実線は、押し出し長と圧損との関係を示す。
【0049】
このフィルタ9に要求される圧損の規格範囲は、9.5kPa〜10.5kPaである。そのため、押出成形工程の初期及び後期における切断片24は、いずれも規格範囲を外れたものとなる。従って、金型22の寿命が尽きるまでに成形可能な長さの約半分に相当するものが、規格外品となる。ゆえに、従来では、使用に適さないとして、これらのものは結局廃棄される運命にあった。
【0050】
しかし、以上詳述した製造方法によれば、本来使用に適さず廃棄されていたハニカム成形体切断片24までもが利用可能となる。特にこの実施形態の製造方法によれば、押出成形工程の初期、中期及び後期という全てステージで得られる切断片24に由来するハニカム焼結体を、万遍なく利用することが可能となる。よって、セラミック原料のロスが極めて少なくなり、よりいっそう材料コストを低く抑えることができる。また、金型22を本来の寿命まで使用できるようになる結果、金型22の交換頻度が少なくなり、設備コストの高騰を防止することができる。
【0051】
以上のことから、この製造方法によれば、初期圧損特性のよいフィルタ9を極めて低コストで得ることができる。
(2)この製造方法では、多孔質炭化珪素をセラミック材料として用いてディーゼルパティキュレートフィルタ9を作製している。従って、耐熱性・機械的強度・捕集効率が高く、化学的に安定で、しかも圧力損失が小さい、という好特性を備えた性能のよいフィルタ9を確実に得ることができる。
【0052】
(3)この製造方法では、ハニカム焼結体F1,F2を接合する手段として、セラミック繊維が分散されたセラミック耐熱接着剤15を用いている。従って、使用時にフィルタ9が熱衝撃や振動を受けた場合であっても、接合状態の悪化を来しにくい。よって、ハニカム焼結体F1,F2のがたつきや脱落を防止することができ、強度に優れたフィルタ9を得ることができる。
【0053】
(4)この製造方法では、ハニカム焼結体F1,F2のフィルタ9に対する断面積比を、上記の好適範囲内に設定している。従って、接着剤15の厚さばらつきによる影響を受けることなく、フィルタ9の再生時における温度不均一化を回避することができる。ゆえに、強度に優れたフィルタ9を製造困難性を伴わずに得ることができる。
【0054】
(5)この製造方法により製造されるフィルタ9は、8個のハニカム焼結体F1と8個のハニカム焼結体F2とからなる。従って、同フィルタ9は、セル壁厚T1,T2の値が規格範囲から外れているもののみを組み合わせて製造されたものとなっている。それにもかかわらず、フィルタ9全体での平均セル壁厚Tmは、見掛け上、約0.44mmになっている。即ち、平均セル壁厚Tmは規格範囲内に完全に収まっている。また、このフィルタ9は、ハニカム焼結体F1とハニカム焼結体F2とを、隣り合わないように1つおきに配置してなる。ゆえに、使用時におけるフィルタ9の温度不均一化が回避され、クラックによる破損に至りにくいという構造上の利点がある。
【0055】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・ 1つのフィルタ9を製造するにあたり、ハニカム焼結体F1,F2を、必ずしも同数ずつ組み合わせなくてもよい。つまり、いずれか一方のものを、他方のものより多く用いてもかまわない。
【0056】
・ 1つのフィルタ9を製造するにあたり、セル壁厚T1,T2の規格範囲からの外れ程度が等しくないもの同士を、組み合わせて用いてもかまわない。
・ 規格範囲外のもの同士のみならず、規格範囲内のもの同士を適宜組み合わせて1つの大型フィルタ9を製造してもよい。この場合には、例えば、C1群−C8群、C2群−C7群、C3群−C6群、C4群−C5群、という組み合わせにすればよい(図6参照)。
【0057】
・ 規格範囲外のものと規格範囲内のものとを適宜組み合わせて1つの大型フィルタ9を製造してもよい(図7参照)。ちなみに図7のグラフには、A1群−A8群という組み合わせが示されている。
【0058】
・ 図8のグラフに示されるように、例えばA1群−A4群−B3群、という組み合わせにしてフィルタ9を製造してもよい。即ち、ハニカム焼結体F1,F2を、2つの群から採取するばかりでなく3つ以上の群から採取し、それらを組み合わせて1つの大型フィルタ9を製造してもかまわない。
【0059】
・ ハニカム焼結体F1,F2同士を接合するための接着剤15として、セラミック繊維を含まないセラミック接着剤や、さらにはセラミック質ではない接着剤等を選択してもよい。また、接着剤15自体を用いずに、それ以外の方法によって、ハニカム焼結体F1,F2同士を一体化することも可能である。
【0060】
・ 本発明のフィルタ9は、実施形態にて示したディーゼルパティキュレートフィルタ9以外のフィルタとして具体化されても勿論よい。
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を、必要に応じてその効果とともに以下に列挙する。
【0061】
(1) 請求項2乃至5のいずれか1つにおいて、前記ハニカム焼結体をその軸線方向に垂直に切ったときの一辺の長さは、フィルタ全体をその軸線方向に垂直に切ったときの直径の1/25〜1/4であること。従って、この技術的思想1に記載の発明によれば、寸法比を上記好適範囲内に設定することにより、接着剤の厚さばらつきによる影響を受けることなく、フィルタ再生時における温度不均一化を回避できる。
【0062】
(2) 請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、前記複数個のハニカム焼結体を用いて前記組み付け工程を行なった後、外形カット工程を実施して前記フィルタを所定断面形状に調整すること。
【0063】
(3) 請求項1乃至6のいずれか1つにおいて、押出成形工程の初期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体と、後期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体とを、隣り合わないように1つおきに配置すること。従って、この技術的思想3に記載の発明によれば、使用時におけるフィルタの温度不均一化が回避され、クラックによる破損に至りにくくなる。
【0064】
(4) 押出成形機の金型を介してセラミック原料を連続的に押し出すことによりハニカム成形体を形成する押出成形工程の後、同ハニカム成形体を所定の長さに切断することにより得られる切断片のうち、セル壁厚が規格範囲外のものを利用する方法であって、押出成形工程の初期に得られる複数個のハニカム成形体切断片を、後期に得られる略同数個のハニカム成形体切断片とともに用いることを特徴とするハニカム成形体切断片の利用方法。
【0065】
(5) 複数のハニカム焼結体を用いてそれらの外周面同士を接着剤を介して接合してなるフィルタであって、平均セル壁厚が規格範囲よりも相対的に小さい複数個のハニカム焼結体と、それと略同数個でありかつ平均セル壁厚が規格範囲よりも相対的に大きいハニカム焼結体とによって構成され、フィルタ全体での平均セル壁厚が規格範囲内に収まっているフィルタ。
【0066】
(6) 10個以上の炭化珪素製ハニカム焼結体を用いてそれらの外周面同士をセラミック耐熱接着剤を介して接合してなるDPFであって、セル壁厚が0.36mmよりも小さい複数個のハニカム焼結体と、それと略同数個でありかつセル壁厚が0.44mmよりも大きいハニカム焼結体とによって構成され、フィルタ全体での平均セル壁厚が0.40mm前後であるDPF。
【0067】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1〜6に記載の発明によれば、初期圧損特性のよいフィルタを低コストで得ることができるフィルタの製造方法を提供することができる。
【0068】
請求項3に記載の発明によれば、セラミック原料のロスが極めて少なくなり、よりいっそう材料コストが低く抑えられるので、さらなる低コスト化を図ることができる。
【0069】
請求項4に記載の発明によれば、好特性を備えた性能のよいディーゼルパティキュレートフィルタを得ることができる。
請求項5に記載の発明によれば、強度に優れたフィルタを得ることができる。
【0070】
請求項6に記載の発明によれば、強度に優れたフィルタを製造困難性を伴わずに得ることができる
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は本発明を具体化した一実施形態のディーゼルパティキュレートフィルタを用いた排気ガス浄化装置を示す概略図、(b)はフィルタの概略正面図。
【図2】実施形態のフィルタの正面図。
【図3】実施形態のフィルタの部分拡大断面図。
【図4】実施形態のフィルタの製造工程を説明するための概略図。
【図5】(a)は実施形態において、押し出し長とセル壁厚との関係を示すグラフ、(b)は同じく押し出し長と圧損との関係を示すグラフ。
【図6】(a)は別例において、押し出し長とセル壁厚との関係を示すグラフ、(b)は同じく押し出し長と圧損との関係を示すグラフ。
【図7】(a)は別例において、押し出し長とセル壁厚との関係を示すグラフ、(b)は同じく押し出し長と圧損との関係を示すグラフ。
【図8】(a)は別例において、押し出し長とセル壁厚との関係を示すグラフ、(b)は同じく押し出し長と圧損との関係を示すグラフ。
【図9】(a)は従来例において、押し出し長とセル壁厚との関係を示すグラフ、(b)は同じく押し出し長と圧損との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
13…セル壁、15…接着剤としてのセラミック耐熱接着剤、21…押出成形機、22…金型、23…ハニカム成形体、24…ハニカム成形体切断片、F1…押出成形工程の初期に得られるハニカム成形体に由来するハニカム焼結体、F2…押出成形工程の後期に得られるハニカム成形体に由来するハニカム焼結体、T1,T2…セル壁厚。

Claims (6)

  1. 押出成形機の金型を介してセラミック原料を連続的に押し出すことによりハニカム成形体を形成する押出成形工程と、ハニカム成形体を所定の長さに切断する切断工程と、ハニカム成形体切断片を加熱してハニカム焼結体とする焼成工程と、複数のハニカム焼結体を一体化する組み付け工程とを含むフィルタの製造方法であって、
    一連の押出成形工程における異なった時期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体を適宜組み合わせて前記組み付け工程を行なうことにより、フィルタ全体での平均セル壁厚を、押出成形工程における特定の時期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体のセル壁厚とほぼ同程度に調整することを特徴とするフィルタの製造方法。
  2. 押出成形機の金型を介してセラミック原料を連続的に押し出すことによりハニカム成形体を形成する押出成形工程と、ハニカム成形体を所定の長さに切断する切断工程と、ハニカム成形体切断片を加熱してハニカム焼結体とする焼成工程と、複数のハニカム焼結体を用いてそれらの外周面同士を接着剤を介して接合する組み付け工程とを含むフィルタの製造方法であって、
    押出成形工程の初期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体と、後期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体とを適宜組み合わせて前記組み付け工程を行なうことにより、フィルタ全体での平均セル壁厚を、押出成形工程の中期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体のセル壁厚とほぼ同程度に調整することを特徴とするフィルタの製造方法。
  3. 前記組み付け工程において、押出成形工程の初期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体と、後期に得られるハニカム成形体切断片に由来するハニカム焼結体とを組み合わせる際、前記セル壁厚の規格範囲からの外れ程度がほぼ等しいもの同士を略同数個ずつ用いることを特徴とする請求項2に記載のフィルタの製造方法。
  4. 前記フィルタは多孔質炭化珪素製のディーゼルパティキュレートフィルタであることを特徴とする請求項3に記載のフィルタの製造方法。
  5. 前記接着剤は、セラミック繊維が分散されたセラミック耐熱接着剤であることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項に記載のフィルタの製造方法。
  6. 前記ハニカム焼結体をその軸線方向に垂直に切ったときの断面積は、前記フィルタ全体をその軸線方向に垂直に切ったときの断面積の1/400〜1/15であることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項に記載のフィルタの製造方法
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