JP3965007B2 - 多孔質炭化珪素焼結体、ハニカムフィルタ、セラミックフィルタ集合体 - Google Patents
多孔質炭化珪素焼結体、ハニカムフィルタ、セラミックフィルタ集合体 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミック焼結体からなる複数のフィルタを接着して一体化した構造のセラミックフィルタ集合体、及びそれの製造に使用可能なハニカムフィルタ、多孔質炭化珪素焼結体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車の台数は今世紀に入って飛躍的に増加しており、それに比例して自動車の内燃機関から出される排気ガスの量も急激な増加の一途を辿っている。特にディーゼルエンジンの出す排気ガス中に含まれる種々の物質は、汚染を引き起こす原因となるため、現在では世界環境にとって深刻な影響を与えつつある。また、最近では排気ガス中の微粒子(ディーゼルパティキュレート)が、ときとしてアレルギー障害や精子数の減少を引き起こす原因となるとの研究結果も報告されている。つまり、排気ガス中の微粒子を除去する対策を講じることが、人類にとって急務の課題であると考えられている。
【0003】
このような事情のもと、従来より、多様多種の排気ガス浄化装置が提案されている。一般的な排気ガス浄化装置は、エンジンの排気マニホールドに連結された排気管の途上にケーシングを設け、その中に微細な孔を有するフィルタを配置した構造を有している。フィルタの形成材料としては、金属や合金のほか、セラミックがある。セラミックからなるフィルタの代表例としては、多孔質コーディエライト製や多孔質炭化珪素製のハニカムフィルタが知られている。
【0004】
ハニカムフィルタは自身の軸線方向に沿って延びる多数のセルを有している。排気ガスがフィルタを通り抜ける際、そのセル壁によって微粒子がトラップされる。その結果、排気ガス中から微粒子が除去される。また、トラップされた微粒子を加熱して燃やすことにより、フィルタが再生されるようになっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、多孔質コーディエライトを用いたハニカムフィルタは、熱伝導率が低いため、焼結体内に温度差が生じやすく、相対的に低温となった部分に微粒子の燃え残りが生じやすいという欠点があった。また、その原因は、板状結晶からなるコーディエライトでは、結晶粒子の結合部分の形状が鋭角的であり、結晶粒子同士の接触面積が極端に小さいことにある、と考えられていた。
【0006】
また、多孔質炭化珪素を用いたハニカムフィルタの場合には、燃え残りの発生という欠点に加え、熱応力によるクラックの発生という問題もあった。
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、多孔質であるにもかかわらず高熱伝導率の多孔質炭化珪素焼結体を提供することにある。
【0007】
また、本発明の別の目的は、濾過能力が高くてしかも強度に優れたハニカムフィルタ、セラミックフィルタ集合体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明では、多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体であって、平均粒径の異なる2種のα型炭化珪素粉末を用いて成形・焼成され、焼結体中には粒径が5μm〜20μmの結晶粒子が30%以上含まれるとともに、焼結体のSEM写真内における前記結晶粒子のネック部が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在していることを特徴とする多孔質炭化珪素焼結体をその要旨とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1において、前記焼結体の熱伝導率は20W/mK〜75W/mKであるとした。
請求項3に記載の発明では、多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体からなる柱状ハニカムフィルタであって、平均粒径の異なる2種のα型炭化珪素粉末を用いて成形・焼成され、焼結体中には粒径が5μm〜20μmの結晶粒子が30%以上含まれるとともに、焼結体のSEM写真内における前記結晶粒子のネック部が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在していることを特徴とするハニカムフィルタをその要旨とする。
【0010】
請求項4に記載の発明では、多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体からなる複数の角柱状ハニカムフィルタを構成部材として用い、それらの外周面同士をセラミック質シール材層を介して接着することにより、前記各ハニカムフィルタを一体化してなる集合体であって、平均粒径の異なる2種のα型炭化珪素粉末を用いて成形・焼成され、焼結体中には粒径が5μm〜20μmの結晶粒子が30%以上含まれるとともに、焼結体のSEM写真内における前記結晶粒子のネック部が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在していることを特徴とするセラミックフィルタ集合体をその要旨とする。
【0011】
以下、本発明の「作用」について説明する。
請求項1,2に記載の発明によると、焼結体のSEM写真内における結晶粒子のネック部が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在していることから、組織の緻密化による気孔率の低下を回避しつつ熱伝導率を高くすることができる。ネック部の個数が20個/0.1mm2未満であると、大きな接触面積をもって結合される結晶粒子の比率が減り、熱伝導率が小さくなってしまう。逆に、ネック部の存在数が150個/0.1mm2を超えると、熱伝導率が高くなる反面、組織の緻密化が進むことによる気孔率の低下が避けられなくなる。
【0012】
この場合、焼結体の熱伝導率は20W/mK〜75W/mKであることがよい。熱伝導率が小さすぎると、焼結体内部に温度差が生じやすくなり、クラックをもたらす原因となる大きな熱応力の発生につながってしまう。逆に、熱伝導率を高くしようとすると、製造が困難となり、安定的な材料供給が難しくなる。
【0013】
請求項3,4に記載の発明によると、焼結体のSEM写真内における結晶粒子のネック部が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在していることから、組織の緻密化による気孔率の低下を回避することができ、高い濾過能力が付与される。また、熱伝導率を高くすることができるため、燃え残りが発生しにくくなり、熱応力によるクラックの発生も防止される。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を具体化した一実施形態のディーゼルエンジン用の排気ガス浄化装置1を、図1〜図6に基づき詳細に説明する。
【0015】
図1に示されるように、この排気ガス浄化装置1は、内燃機関としてのディーゼルエンジン2から排出される排気ガスを浄化するための装置である。ディーゼルエンジン2は、図示しない複数の気筒を備えている。各気筒には、金属材料からなる排気マニホールド3の分岐部4がそれぞれ連結されている。各分岐部4は1本のマニホールド本体5にそれぞれ接続されている。従って、各気筒から排出された排気ガスは一箇所に集中する。
【0016】
排気マニホールド3の下流側には、金属材料からなる第1排気管6及び第2排気管7が配設されている。第1排気管6の上流側端は、マニホールド本体5に連結されている。第1排気管6と第2排気管7との間には、同じく金属材料からなる筒状のケーシング8が配設されている。ケーシング8の上流側端は第1排気管6の下流側端に連結され、ケーシング8の下流側端は第2排気管7の上流側端に連結されている。排気管6,7の途上にケーシング8が配設されていると把握することもできる。そして、この結果、第1排気管6、ケーシング8及び第2排気管7の内部領域が互いに連通し、その中を排気ガスが流れるようになっている。
【0017】
図1に示されるように、ケーシング8はその中央部が排気管6,7よりも大径となるように形成されている。従って、ケーシング8の内部領域は、排気管6,7の内部領域に比べて広くなっている。このケーシング8内には、ハニカムフィルタ9が収容されている。
【0018】
ハニカムフィルタ9の外周面とケーシング8の内周面との間には、断熱材10が配設されている。断熱材10はセラミックファイバを含んで形成されたマット状物であり、その厚さは数mm〜数十mmである。断熱材10は熱膨張性を有していることがよい。ここでいう熱膨張性とは、弾性構造を有するため熱応力を解放する機能があることを指す。その理由は、ハニカムフィルタ9の最外周部から熱が逃げることを防止することにより、再生時のエネルギーロスを最小限に抑えるためである。また、再生時の熱によってセラミックファイバを膨張させることにより、排気ガスの圧力や走行による振動等のもたらすセラミックフィルタ集合体9の位置ずれを防止するためである。
【0019】
本実施形態において用いられるハニカムフィルタ9は、上記のごとくディーゼルパティキュレートを除去するものであるため、一般にディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)と呼ばれる。図2等に示されるように、本実施形態のハニカムフィルタ9は円柱状である。
【0020】
ハニカムフィルタ9は、セラミック焼結体の一種である多孔質炭化珪素焼結体製である。炭化珪素焼結体を採用した理由は、他のセラミックに比較して、とりわけ強度、耐熱性及び熱伝導性に優れるという利点があるからである。
【0021】
図2,図3,図4に示されるように、本実施形態のハニカムフィルタ9は、いわゆるハニカム構造を備えている。ハニカム構造を採用した理由は、微粒子の捕集量が増加したときでも圧力損失が小さいという利点があるからである。ハニカムフィルタ9には、断面略正方形状をなす複数の貫通孔12がその軸線方向に沿って規則的に形成されている。各貫通孔12は薄いセル壁13によって互いに仕切られている。セル壁13の外表面には、白金族元素(例えばPt等)やその他の金属元素及びその酸化物等からなる酸化触媒が担持されている。各貫通孔12の開口部は、いずれか一方の端面9a,9bの側において封止体14(ここでは多孔質炭化珪素焼結体)により封止されている。従って、端面9a,9b全体としてみると市松模様状を呈している。その結果、ハニカムフィルタ9には、断面四角形状をした多数のセルが形成されている。セルの密度は200個/インチ前後に設定され、セル壁13の厚さは0.3mm前後に設定され、セルピッチは1.8mm前後に設定されている。多数あるセルのうち、約半数のものは上流側端面9aにおいて開口し、残りのものは下流側端面9bにおいて開口している。
【0022】
ハニカムフィルタ9の平均気孔径は1μm〜50μm、さらには5μm〜20μmであることが好ましい。平均気孔径が1μm未満であると、微粒子の堆積によるハニカムフィルタ9の目詰まりが著しくなる。一方、平均気孔径が50μmを越えると、細かい微粒子を捕集することができなくなるため、捕集効率が低下してしまう。
【0023】
ハニカムフィルタ9の気孔率は30%〜70%、さらには40%〜60%であることが好ましい。気孔率が30%未満であると、ハニカムフィルタ9が緻密になりすぎてしまい、内部に排気ガスを流通させることができなくなるおそれがある。一方、気孔率が70%を越えると、ハニカムフィルタ9中に空隙が多くなりすぎてしまうため、強度的に弱くなりかつ微粒子の捕集効率が低下してしまうおそれがある。
【0024】
多孔質炭化珪素焼結体を選択した場合においてハニカムフィルタ9の熱伝導率は、20W/mK〜75W/mKであることがよく、さらには30W/mK〜70W/mKであることが特によい。熱伝導率が小さすぎると、ハニカムフィルタ9内に温度差が生じやすくなり、クラックをもたらす原因となる大きな熱応力の発生につながってしまう。逆に、熱伝導率を高くしようとすると、製造が困難となり、安定的な材料供給が難しくなる。
【0025】
図5(a)にて概略的に示されるように、本実施形態のハニカムフィルタ9では、多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子16同士が、いわゆるネック部17によって結合されている。ここでネック部17とは、炭化珪素の固相焼結によって粒界に生じる構造を指す。本実施形態のハニカムフィルタ9では、ネック部17の外表面が、なめらかな曲線状になっている。なお、参考として図6に焼結体のSEM写真を載せる。
【0026】
ネック部17の外表面の曲率半径は3μm以上であることがよく、さらには3μm〜100μm、特には5μm〜20μmであることがよい。
曲率半径が3μmよりも小さいと、結晶粒子16同士の接触面積が大きくならず、結晶粒子16間の結合強度を十分に向上できなくなるからである。具体的にいうと、45MPa以上の曲げ強度をハニカムフィルタ9に付与できなくなるからである。逆に、曲率半径が100μm以上になると、ハニカムフィルタ9が緻密になりすぎてしまい、内部に排気ガスを流通させることができなくなる。従って、濾過能力が低下してしまう。
【0027】
結晶粒子16のネック部17は、焼結体中の任意箇所における0.1mm四方の範囲内に、20個〜150個存在していることが必要である。単位面積あたりのネック部17の個数は、30個/0.1mm2〜120個/0.1mm2であることが好ましく、50個/0.1mm2〜100個/0.1mm2であることがより好ましい。
【0028】
ネック部17の個数が20個/0.1mm2未満であると、大きな接触面積をもって結合される結晶粒子16の比率が減り、熱伝導率が20W/mKよりも小さくなってしまう。従って、ハニカムフィルタ9内における燃え残りの発生や、熱応力によるクラックの発生を確実に防止することができなくなる。逆に、ネック部17の存在数が150個/0.1mm2を超えると、75W/mKという高い熱伝導率を実現することができる反面、組織の緻密化が進むことによる気孔率の低下が避けられなくなる。従って、ハニカムフィルタ9内に排気ガスを流通させることができなくなり、濾過能力が低下してしまう。
【0029】
なお、結晶粒子16のうち粒径が5μm〜30μmのものの存在率は30%以上であることがよく、特には35%〜80%であることがよい。その理由は、熱伝導率の向上にとって有利に働くからである。また、焼結体における炭化珪素結晶粒子16の平均粒径は5μm〜15μm程度であることがよい。
【0030】
次に、上記のハニカムフィルタ9を製造する手順を説明する。
まず、押出成形工程で使用するセラミック原料スラリー、端面封止工程で使用する封止用ペーストをあらかじめ作製しておく。
【0031】
セラミック原料スラリーとしては、炭化珪素粉末に有機バインダ及び水を所定分量ずつ配合し、かつ混練したものを用いる。封止用ペーストとしては、炭化珪素粉末に有機バインダ、潤滑剤、可塑剤及び水を配合し、かつ混練したものを用いる。
【0032】
この場合、セラミック原料スラリーは、平均粒径の異なる2種の炭化珪素粉末を用いて作製されることが望ましい。より具体的にいうと、平均粒径が15μm前後の大粉と平均粒径が1μm前後の微粉とを混合して用いることが望ましい。その理由は、所定量の微粉の存在によってネック焼結が促進される結果、単位面積あたりのネック部17の数が確実に増え、かつネック部17の曲率半径も大きくなるからである。
【0033】
次に、前記セラミック原料スラリーを押出成形機に投入し、かつ金型を介してそれを連続的に押し出す。その後、押出成形されたハニカム成形体を等しい長さに切断し、円柱状のハニカム成形体切断片を得る。さらに、切断片の各セルの片側開口部に所定量ずつ封止用ペーストを充填し、各切断片の両端面を封止する。
【0034】
続いて、温度・時間等を所定の条件に設定して本焼成を行って、ハニカム成形体切断片及び封止体14を完全に焼結させることにより、所望のハニカムフィルタ9が完成する。
【0035】
本実施形態では焼成温度を2100℃〜2300℃に設定し、かつ焼成時間を0.1時間〜5時間に設定している。また、焼成時の炉内雰囲気を不活性雰囲気とし、そのときの雰囲気の圧力を常圧としている。なお、焼成温度は前記範囲内において極力高めに設定されることが望ましい。このような温度設定によってネック焼結が促進され、単位面積あたりのネック部17の数の増加、及びネック部17の曲率半径の増大が図れるからである。
【0036】
次に、上記のハニカムフィルタ9による微粒子トラップ作用について簡単に説明する。
ケーシング8内に収容されたハニカムフィルタ9には、上流側端面9aの側から排気ガスが供給される。第1排気管6を経て供給されてくる排気ガスは、まず、上流側端面9aにおいて開口するセル内に流入する。次いで、この排気ガスはセル壁13を通過し、それに隣接しているセル、即ち下流側端面9bにおいて開口するセルの内部に到る。そして、排気ガスは、同セルの開口を介してハニカムフィルタ9の下流側端面9bから流出する。しかし、排気ガス中に含まれる微粒子はセル壁13を通過することができず、そこにトラップされてしまう。その結果、浄化された排気ガスがハニカムフィルタ9の下流側端面9bから排出される。浄化された排気ガスは、さらに第2排気管7を通過した後、最終的には大気中へと放出される。また、トラップされた微粒子は、ハニカムフィルタ9の内部温度が所定の温度に達すると、前記触媒の作用により着火して燃焼するようになっている。
【0037】
【実施例及び比較例】
(実施例)
平均粒径10μmのα型炭化珪素粉末51.5重量%と、平均粒径0.5μmのα型炭化珪素粉末22重量%とを湿式混合し、得られた混合物に有機バインダ(メチルセルロース)と水とをそれぞれ6.5重量%、20重量%ずつ加えて混練した。次に、前記混練物に可塑剤と潤滑剤とを少量加えてさらに混練したものを押出成形することにより、ハニカム状の生成形体を得た。具体的には、α型炭化珪素粉末として、平均粒径が10μmのもの(屋久島電工株式会社製、商品名:C−1000F)と、平均粒径が0.5μmのもの(屋久島電工株式会社製、商品名:GC−15)とを用いた。
【0038】
次に、この生成形体をマイクロ波乾燥機を用いて乾燥した後、成形体の貫通孔12を多孔質炭化珪素焼結体製の封止用ペーストによって封止した。次いで、再び乾燥機を用いて封止用ペーストを乾燥させた。端面封止工程に続いて、この乾燥体を400℃で脱脂した後、さらにそれを常圧のアルゴン雰囲気下において2250℃で約3時間焼成した。その結果、多孔質炭化珪素焼結体製のハニカムフィルタ9を得た。各ハニカムフィルタ9の直径は100mmに設定し、長さは200mmに設定した。
【0039】
次に、上記のようにして得られたハニカムフィルタ9の組織をSEMで観察した。この調査によると、ネック部17が、なめらかで曲線的な形状になっていることが確認された。また、SEM写真に基づいてネック部17の外表面の曲率半径を測定したところ、その平均値は約10μmであった。粒径が5μm〜20μmの結晶粒子16は、焼結体中に約60%ほど含まれていた。
【0040】
また、前記SEM写真内における複数の箇所に0.1mm四方のエリアを設定し、各エリア内に存在するネック部17の個数をカウントし、それらの平均値を求めた。その結果、実施例では単位面積あたりのネック部17の個数は約100個/0.1mm2であった。即ち、大きな接触面積をもって結合される結晶粒子16の比率が高かった。
【0041】
そこで、前記ハニカムフィルタ9の熱伝導率(W/mK)を従来公知の方法により測定したところ、その測定値は約70W/mKであった。従って、このハニカムフィルタ9には極めて高い熱伝導性が付与されていた。また、ハニカムフィルタ9をケーシング8内に収容して一定期間使用をした。その結果、ハニカムフィルタ9内に温度差ができにくく、ハニカムフィルタ9に何らクラックは発生しなかった。
(比較例1)
比較例1では、基本的には実施例と同様に、炭化珪素粉末を用いてハニカムフィルタ9を製造することとした。ハニカムフィルタ9の寸法等は実施例と等しくした。ただし、ここではα型炭化珪素粉末として平均粒径が15μm前後のものを1種のみを用い、かつ焼成温度をやや低めに設定した。
【0042】
SEM観察を行ったところ、ネック部17は、それほどなめらかで曲線的な形状にはなっておらず、曲率半径の平均値は約1μm程度であった。単位面積あたりのネック部17の個数は、約10個/0.1mm2と少なかった。
【0043】
よって、ハニカムフィルタ9の熱伝導率の測定値は約15W/mKであり、実施例に比べて熱伝導性に劣っていた。ハニカムフィルタ9をケーシング8内に収容して一定期間使用をした結果、熱応力の発生に起因してハニカムフィルタ9に若干のクラックが認められた。また、温度の低かった部分に微粒子の燃え残りが確認された。
【0044】
(比較例2)
比較例2では、コーディエライトの多孔質焼結体を用いて実施例と同寸法のハニカムフィルタを製造することとした。
【0045】
SEM観察を行ったところ、板状の結晶粒子16の結合部分には、多孔質炭化珪素焼結体のときのようなネック部17は存在していなかった。ゆえに、単位面積あたりのネック部17の個数は0個/0.1mm2であった。また、結晶粒子16の結合部分の形状も鋭角的であって、なめらかで曲線的な形状であるとはいい難かった(図5(b)参照)。
【0046】
よって、ハニカムフィルタの熱伝導率の測定値は約3W/mKと極端に低く、実施例に比べて極めて熱伝導性に劣っていた。ハニカムフィルタをケーシング8内に収容して一定期間使用をした結果、クラックは認められなかったものの、温度の低かった部分に微粒子の燃え残りが確認された。
【0047】
従って、本実施形態の実施例によれば以下のような効果を得ることができる。
(1)実施例のハニカムフィルタ9においては、結晶粒子16のネック部17が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在している。組織の緻密化による気孔率の低下を回避することができ、ハニカムフィルタ9に高い濾過能力を付与することができる。また、熱伝導率を高くすることができるため、ハニカムフィルタ9内に部分的な燃え残りが発生しにくくなる。しかも、熱応力によるクラックの発生が防止される結果、ハニカムフィルタ9が破壊に強くなる。そして、このようなハニカムフィルタ9を用いた排気ガス浄化装置1は、高強度であって長期にわたり使用可能なため、実用性に優れたものとなる。
【0048】
(2)実施例のハニカムフィルタ9の熱伝導率は、20W/mK〜75W/mKという好適範囲内に設定されている。従って、製造の困難化や高コスト化を回避しつつ、確実に高熱伝導化を図ることができる。
【0049】
(3)実施例のハニカムフィルタ9においては、ネック部17がなめらかな曲線状になっているため、結晶粒子16同士の接触面積が大きくなっている。このため、結晶粒子16間の結合強度が向上し、粒界での破断が起こりにくい。従って、多孔質組織であったとしても十分な機械的強度を確保することができ、破壊しにくいハニカムフィルタ9を得ることができる。なお、ネック部17の曲率半径の平均値が3μm以上であるため、45MPa以上の十分な曲げ強度をハニカムフィルタ9に付与することができる。
【0050】
なお、本発明の実施形態は以下のように変更してもよい。
・ ハニカムフィルタ9の形状は、実施形態のような円柱状に限定されることはなく、三角柱状、四角柱状、六角柱状等に変更しても構わない。
【0051】
・ 図7に示される別例のように、複数個(ここでは16個)のハニカムフィルタ23を組み合わせて1つのセラミックフィルタ集合体21を製造してもよい。集合体21を構成する角柱状ハニカムフィルタ23は、多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子16同士がネック部17によって結合された焼結体からなる。ハニカムフィルタ23の外周面は、互いにセラミック質シール材層22を介して接着されている。その結果、各ハニカムフィルタ23が束ねられた状態で一体化されている。このような構成にすれば、加熱による温度勾配に起因する応力によってクラックが発生するのを防止でき、熱衝撃にも強くなる。従って、比較的容易にフィルタの大型化を達成することができる。
【0052】
・ ハニカムフィルタ23の組み合わせ数は、前記別例のように16個でなくてもよく、任意の数にすることが可能である。この場合、サイズ・形状等の異なるハニカムフィルタ23を適宜組み合わせて使用することも勿論可能である。
【0053】
・ ハニカムフィルタ9,23は前記実施形態や別例にて示したようなハニカム状構造を有するもののみに限られず、例えば三次元網目構造、フォーム状構造、ヌードル状構造、ファイバ状構造等であってもよい。
【0054】
・ 実施形態においては、本発明のハニカムフィルタ(またはセラミックフィルタ集合体)を、ディーゼルエンジン2に取り付けられる排気ガス浄化装置用フィルタとして具体化していた。勿論、本発明のハニカムフィルタ(またはセラミックフィルタ集合体)は、排気ガス浄化装置用フィルタ以外のものとして具体化されることができる。その例としては、熱交換器用部材、高温流体や高温蒸気のための濾過フィルタ等が挙げられる。さらに、本発明の多孔質炭化珪素焼結体は、フィルタ以外の用途にも適用可能である。
【0055】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
(1) 請求項1乃至4のいずれか1つにおいて、前記ネック部がなめらかな曲線状になっていること。
【0056】
(2) 請求項1乃至4、技術的思想1のいずれか1つにおいて、前記ネック部の曲率半径は3μm以上であること。
(3) 請求項1乃至4、技術的思想1,2のいずれか1つにおいて、前記焼結体の曲げ強度は45MPa以上であること。従って、この技術的思想3に記載の発明によれば、高い機械的強度が付与される。
【0057】
(4) 内燃機関の排気管の途上に設けられたケーシング内に、請求項3に記載のハニカムフィルタまたは請求項4に記載のセラミックフィルタ集合体を収容するとともに、前記フィルタまたは前記集合体の外周面と前記ケーシングの内周面とがなす隙間に、断熱材を充填した排気ガス浄化装置。従って、この技術的思想4に記載の発明によれば、高強度であって長期にわたり使用可能なため、実用性に優れた装置を提供することができる。
【0058】
【発明の効果】
以上詳述したように、請求項1,2に記載の発明によれば、多孔質であるにもかかわらず高熱伝導率の多孔質炭化珪素焼結体を提供することができる。
【0059】
請求項3に記載の発明によれば、濾過能力が高くてしかも強度に優れたハニカムフィルタを提供することができる。
請求項4に記載の発明によれば、濾過能力が高くてしかも強度に優れたセラミックフィルタ集合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を具体化した一実施形態の排気ガス浄化装置の全体概略図。
【図2】実施形態のハニカムフィルタの斜視図。
【図3】実施形態のハニカムフィルタのA−A線における断面図。
【図4】前記排気ガス浄化装置の要部拡大断面図。
【図5】(a)は多孔質炭化珪素からなる実施例のハニカムフィルタの焼結体組織の拡大概略断面図、(b)は多孔質コーディエライトからなる比較例2の焼結体組織の拡大概略断面図。
【図6】(a),(b)は実施例のハニカムフィルタのSEM写真。
【図7】複数個のハニカムフィルタを用いて構成される別例のセラミックフィルタ集合体の斜視図。
【符号の説明】
9,23…ハニカムフィルタ、16…結晶粒子、17…ネック部、21…セラミックフィルタ集合体、22…セラミック質シール材層。
Claims (4)
- 多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体であって、平均粒径の異なる2種のα型炭化珪素粉末を用いて成形・焼成され、焼結体中には粒径が5μm〜20μmの結晶粒子が30%以上含まれるとともに、焼結体のSEM写真内における前記結晶粒子のネック部が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在していることを特徴とする多孔質炭化珪素焼結体。
- 前記焼結体の熱伝導率は20W/mK〜75W/mKであることを特徴とする請求項1に記載の多孔質炭化珪素焼結体。
- 多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体からなる柱状ハニカムフィルタであって、平均粒径の異なる2種のα型炭化珪素粉末を用いて成形・焼成され、焼結体中には粒径が5μm〜20μmの結晶粒子が30%以上含まれるとともに、焼結体のSEM写真内における前記結晶粒子のネック部が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在していることを特徴とするハニカムフィルタ。
- 多孔質組織を構成する炭化珪素結晶粒子同士がネック部によって結合された焼結体からなる複数の角柱状ハニカムフィルタを構成部材として用い、それらの外周面同士をセラミック質シール材層を介して接着することにより、前記各ハニカムフィルタを一体化してなる集合体であって、平均粒径の異なる2種のα型炭化珪素粉末を用いて成形・焼成され、焼結体中には粒径が5μm〜20μmの結晶粒子が30%以上含まれるとともに、焼結体のSEM写真内における前記結晶粒子のネック部が0.1mm四方の範囲内に20個〜150個存在していることを特徴とするセラミックフィルタ集合体。
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