JP4401175B2 - 累進屈折力レンズ - Google Patents

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本発明は、眼の調節力を補助するために使用されるレンズ、特に、主注視線に沿って屈折力が累進的に変化する累進屈折力レンズの改良に関する。
一般的な累進屈折力レンズの領域の区分を図9に示す。この図に示すように、累進屈折力レンズ1は、レンズ上方に遠方視に対応する遠用領域2、レンズ下方に近方視に対応する近用領域3を有し、両者の中間に、上方から下方に向かって面屈折力が累進的に変化する中間領域4を有する。一般に、物体側となる前面が累進面、眼側となる後面が球面またはトーリック面として構成される。レンズのほぼ中央を上下に通る仮想的な曲線(または直線)MM'は、主注視線と呼ばれる。視線を上下に移動させるときに違和感を生じさせないように、主注視線上では特に収差を小さく抑える必要がある。
従来の累進屈折力レンズは、上記の主注視線上においてできるだけ非点収差を少なくするために、主注視線に沿った累進面形状が臍状曲線(局部的に面アスのない点が連続して形成される曲線)となるよう設計されていた。このような従来の累進屈折力レンズは、ベースカーブを深く(前面の曲率半径を小さく)すれば、主注視線に沿う非点収差を透過性能評価においても小さくすることが可能であった。
一方、眼鏡レンズには、より快適な装用のために薄型軽量化が望まれており、そのためにはベースカーブはできる限り浅くしたいという要求がある。
ただし、上述した従来の累進屈折力レンズの設計では、ベースカーブを浅くすると、主注視線線上の性能が悪いばかりでなく、主注視線から横方向に離れるにしたがって性能が急に悪くなり、非点収差の少ない快適に明視できる領域(明視域)の幅が狭くなるという問題点が発生する。
なお、特許文献1には、主注視線を非臍点状にすることにより、浅いベースカーブで主注視線から離れた際の性能劣化を抑えるための技術が開示されている。
特表平11−513139号公報
しかしながら、特許文献1に記載された実施例の累進屈折力レンズは、前面が累進面である場合には主注視線上の面アスがゼロになる点はフィッティングポイントから約19mmの位置であり、面アスは最大で約0.13 Dと小さい。そして、このような設計では、ベースカーブを浅くした際に明視域をあまり広くすることができないという問題がある。
この発明は、上記の従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、浅いベースカーブを用いることによりレンズの薄型化を実現しつつ、広い明視域を有する累進屈折力レンズを提供することを目的とする。
この発明の第1の態様にかかる累進屈折力レンズは、上記の目的を達成させるため、遠方視に対応する遠用領域と、近方視に対応する近用領域と、遠用領域から近用領域にかけて屈折力が累進的に変化する中間領域とを有する面を物体側の前面に備え、レンズのほぼ中央を上下に通る主注視線が非臍点状であり、遠用度数が負であり、遠用領域内で主注視線に沿ってフィッティングポイントから上方に離れるにしたがい、主注視線方向の面屈折力がこれに垂直な方向の面屈折力よりも大きい領域と、主注視線方向これに垂直な方向の面屈折力が等しくなる点と、主注視線方向の面屈折力がこれに垂直な方向の面屈折力よりも小さい領域とが連続することを特徴とする。具体的には、以下の条件を満足する。
Pm(25) > Ps(25)
Pm(35) < Ps(35)
ただし、
Pm(Y):フィッティングポイントを原点とし、原点から上方にY(単位:mm)の主注視線上の点における主注視線方向の面屈折力(単位:D)、
Ps(Y):フィッティングポイントを原点とし、原点から上方にY(単位:mm)の主注視線上の点における主注視線に対して垂直な方向の面屈折力(単位:D)である。
また、この発明の第2の態様にかかる累進屈折力レンズは、上記と同様に遠用領域、近用領域、中間領域を有する面を物体側の前面に備え、主注視線が非臍点状であり、遠用度数が負であり、主注視線方向の面屈折力とこれに対して垂直な方向の面屈折力との差である面アスが、遠用領域内で主注視線に沿ってフィッティングポイントから上方に離れるにしたがい、一旦増加し、その後減少し、ゼロになる点を介して再び増加することを特徴とする。面アスの量(単位:D)は、AS(Y)=|Pm(Y)−Ps(Y)|で表される。具体的には、Y2<Y1とした場合、25≦Y1≦35を満たすいずれかの点において、
AS(Y1)=0
を満たし、0<Y2<Y1のいずれかの点において、
AS(Y2)>0.2
を満たす極大値を持つことを特徴とする。
上述したこの発明の第1、第2の態様によると、主注視線上の性能は理想的な値から外れるが、遠用部全体で評価すると、主注視線から離れたときの性能の急な劣化がなく、比較的広い明視域を確保することができる。
この発明にかかる累進屈折力レンズによれば、浅いベースカーブを用いることによりレンズの薄型化を実現しつつ、主注視線から横方向に離れた際の性能の変化を小さく抑え、広い明視域を確保することができる。
以下、この発明にかかる累進屈折力レンズの実施形態を2例と、それぞれの比較例とを図面を参照しつつ説明する。なお、実施形態、比較例のレンズは、いずれも上方に位置して遠方視に対応する遠用領域と、下方に位置して近方視に対応する近用領域と、遠用領域から近用領域にかけて屈折力が累進的に変化する中間領域とを有する面を物体側の前面に備え、レンズのほぼ中央を上下に通る主注視線が非臍点状であり、遠用度数が負の累進屈折力レンズである。遠用領域2、近用領域3、中間領域4の配置、主注視線MM'の位置等は図9に示される通りである。
遠用領域2内で主注視線MM'に沿ってフィッティングポイント5から上方に離れるにしたがい、主注視線方向(遠用領域ではメリディオナル方向に一致)の面屈折力Pmがこれに対して垂直な方向(遠用領域ではサジタル方向に一致)の面屈折力Psよりも大きい領域と、両方向の面屈折力Pm,Psが等しくなる点と、主注視線MM'方向の面屈折力Pmがこれに対して垂直な方向の面屈折力Psよりも小さい領域とが連続している。具体的には、以下の条件(1),(2)を満たす。
Pm(25) > Ps(25) …(1)
Pm(35) < Ps(35) …(2)
ただし、
Pm(Y):フィッティングポイント5を原点とし、原点から上方にY(単位:mm)の主注視線MM'上の点における主注視線MM'方向の面屈折力(単位:D)、
Ps(Y):フィッティングポイント5を原点とし、原点から上方にY(単位:mm)の主注視線MM'上の点における主注視線MM'に対して垂直な方向の面屈折力(単位:D)である。
また、主注視線方向の面屈折力Pmとこれに直交する方向の面屈折力Psとの差である面アスASに着目すると、遠用領域2内で主注視線MM'に沿ってフィッティングポイント5から上方に離れるにしたがい、一旦増加し、その後減少し、ゼロになる点を介して再び増加する。具体的には、25≦Y1≦35を満たすいずれかの点において、条件(3)を満たすと共に、Y>Y1 において条件(5)を、Y<Y1 において条件(6)を、それぞれ満たし、Y2<Y1とした場合、0<Y2<Y1のいずれかの点において、条件(4)を満たす極大値を持つ。
AS(Y1)=0 …(3)
AS(Y2)>0.2 …(4)
Pm(Y)<Ps(Y) …(5)
Pm(Y)>Ps(Y) …(6)
ただし、
AS(Y)は、AS(Y)=|Pm(Y)−Ps(Y)|により表される面アスの量(単位:D)である。
第1の実施形態
第1の実施形態の累進屈折力レンズは、ベースカーブ0.50[D]、遠用度数SPH−8.00[D]、加入度数2.00[D]のレンズであり、主注視線を非臍状曲線とした累進面を前面に用いている。以下の表1に、第1の実施形態の累進屈折力レンズの設計値を示す。表1は、フィッティングポイントを原点として上方をプラス、下方をマイナスとした主注視線MM'上の点の距離Y(単位:mm)の点における主注視線方向の面屈折力Pm、これに垂直な方向の面屈折力Ps、面アスASの値を示す。
Figure 0004401175
図1は、表1に示される主注視線方向の面屈折力Pmと、これに垂直な方向の面屈折力Psとの変化を示すグラフである。図1のグラフの縦軸は、フィッティングポイント5を原点とした主注視線MM'上の点の距離Y(単位:mm)、横軸は面屈折力(単位:D)を示す。
表1及び図1に示されるように、フィッティングポイント5(Y=0)より上側となる遠用領域2内では、フィッティングポイント5から上方に離れるにしたがい、Pm>Psとなる領域、Pm=Ps(AS=0)となる点、Pm<Psとなる領域が連続しており、上記の条件(1),(2)を満たしている。また、面アスASは、フィッティングポイント5から上方に離れるにしたがい、一旦増加し、その後減少し、ゼロになる点を介して再び増加しており、主注視線MM'上のY=14の点で0.7[D]を越える極大値を有し、同じくY=30の点でゼロになる。すなわち、条件(3),(4)を満たしている。
主注視線MM'上での屈折力を表1、図1に示されるように設定すると、主注視線から離れた位置での透過性能評価による非点収差を低減することができる。第1の実施形態の累進屈折力レンズの透過性能評価による非点収差の分布を図2に示す。
次に、上記の第1の実施形態と同一の仕様を持ち、主注視線に沿った性能が最適になるよう(透過非点収差がゼロになるよう)屈折力Pm,Psをバランスさせた比較例1について説明する。すなわち、比較例1の累進屈折力レンズは、上記の同じくベースカーブ0.50[D]、遠用度数SPH−8.00[D]、加入度数2.00[D]のレンズであり、累進面を前面に用いている。以下の表2に、比較例1の累進屈折力レンズの設計値を示す。
Figure 0004401175
図3は、表2に示す主注視線に沿う屈折力Pm,Psの変化を示すグラフである。表2及び図3に示されるように、遠用領域2内では常にPm>Psであり、Pm=Ps(AS=0)となる点やPm<Psとなる領域は存在せず、条件(1)を満たすが(2)を満たさない。また、面アスASは、フィッティングポイント5から上方に離れるにしたがい、一旦増加し、その後減少してはいるが、ゼロになる点はなく、面アスの方向は一定である。
図4は、比較例1の累進屈折力レンズの透過性能評価による非点収差の分布を示す。主注視線MM’に沿って非点収差はほとんど無い。しかし遠用領域内で主注視線MM'から少し離れると、非点収差が急に増加する。透過非点収差0.5[D]以下の領域を明視域とすると、図2と図4との比較により、明視域の幅は比較例1より第1の実施形態の方が広いことがわかる。
すなわち、比較例1の累進屈折力レンズにおいては、理想の主注視線の形状を満たすことにより、主注視線上の収差は理想的な値になるが、そのために主注視線から離れた領域の形状に無理が生じ、主注視線から離れた際の性能の変化が急であり、遠用領域全体で評価すると良好な性能が得られない。これに対して、第1の実施形態では、主注視線を理想の形状から変えることにより、性能の急な変化を抑え、遠用領域全体で評価したときには良好な性能が得られる。
第2の実施形態
第2の実施形態の累進屈折力レンズは、ベースカーブ2.00[D]、遠用度数SPH−4.00[D]、加入度数2.00[D]のレンズであり、主注視線を非臍状曲線とした累進面を前面に用いている。以下の表3に、第2の実施形態の累進屈折力レンズの設計値を示す。
Figure 0004401175
図5は、表3に示される主注視線方向の面屈折力Pmと、これに垂直な方向の面屈折力Psの変化を示すグラフである。
表3及び図5に示されるように、フィッティングポイント5(Y=0)より上側となる遠用領域2内では、フィッティングポイント5から上方に離れるにしたがい、Pm>Psとなる領域、Pm=Ps(AS=0)となる点、Pm<Psとなる領域が連続しており、上記の条件(1),(2)を満たしている。また、面アスASは、フィッティングポイント5から上方に離れるにしたがい、一旦増加し、その後減少し、ゼロになる点を介して再び増加しており、主注視線MM'上のY=14の点で0.5[D]程度の極大値を有し、同じくY=30付近の点でゼロになる。すなわち、条件(3),(4)を満たしている。
主注視線MM'上での屈折力を図5に示されるように設定すると、主注視線から離れた位置での透過性能評価による非点収差を低減することができる。第2の実施形態の累進屈折力レンズの透過性能評価による非点収差の分布を図6に示す。
次に、上記の第2の実施形態と同一の仕様を持ち、主注視線に沿った性能が最適になるよう(透過非点収差がゼロになるよう)屈折力Pm,Psをバランスさせた比較例2について説明する。すなわち、比較例2の累進屈折力レンズは、上記の同じくベースカーブ2.00[D]、遠用度数SPH−4.00[D]、加入度数2.00[D]のレンズであり、累進面を前面に用いている。以下の表4に、比較例2の累進屈折力レンズの設計値を示す。
Figure 0004401175
図7は、表4に示す主注視線に沿う屈折力Pm,Psの変化を示すグラフである。表4及び図7に示されるように、遠用領域2内では常にPm>Psであり、Pm=Ps(AS=0)となる点やPm<Psとなる領域は存在せず、条件(1)を満たすが(2)を満たさない。また、面アスASは、フィッティングポイント5から上方に離れるにしたがい、一旦増加し、その後減少してはいるが、ゼロになる点はない。
図8は、比較例2の累進屈折力レンズの透過性能評価による非点収差の分布を示す。主注視線MM’に沿って非点収差はほとんど無い。しかし、全体的に主注視線から横方向に離れた領域での収差発生量の変化が急であり、特に中間領域4の側方において非点収差の発生量が大きい。
すなわち、比較例2の累進屈折力レンズにおいては、理想の主注視線の形状を満たすことにより、主注視線上の収差は理想的な値になるが、そのために主注視線から離れた領域の形状に無理が生じ、主注視線から離れた際の性能の変化が急であり、全体で評価すると良好な性能が得られない。これに対して、第2の実施形態では、主注視線を理想の形状から変えることにより、性能の急な変化を抑え、全体で評価したときには良好な性能が得られる。
第1の実施形態の累進屈折力レンズの主注視線上における主注視線方向とこれに垂直な方向の面屈折力の変化を示すグラフである。 第1の実施形態の累進屈折力レンズの透過非点収差分布図である。 比較例1の累進屈折力レンズの主注視線上における主注視線方向とこれに垂直な方向の面屈折力の変化を示すグラフである。 比較例1の累進屈折力レンズの透過非点収差分布図である。 第2の実施形態の累進屈折力レンズの主注視線上における主注視線方向とこれに垂直な方向の面屈折力の変化を示すグラフである。 第2の実施形態の累進屈折力レンズの透過非点収差分布図である。 比較例2の累進屈折力レンズの主注視線上における主注視線方向とこれに垂直な方向の面屈折力の変化を示すグラフである。 比較例2の累進屈折力レンズの透過非点収差分布図である。 一般的な累進屈折力レンズの領域の区分を示す説明図である。
符号の説明
1 累進屈折力レンズ
2 遠用領域
3 近用領域部
4 中間領域
5 フィッティングポイント
MM’ 主注視線

Claims (2)

  1. 上方に位置して遠方視に対応する遠用領域と、下方に位置して近方視に対応する近用領域と、前記遠用領域から前記近用領域にかけて屈折力が累進的に変化する中間領域とを有する面を物体側の前面に備え、レンズのほぼ中央を上下に通る主注視線が非臍点状であり、遠用度数が負の累進屈折力レンズにおいて、
    前記遠用領域内で前記主注視線に沿ってフィッティングポイントから上方に離れるにしたがい、前記主注視線方向の面屈折力が前記主注視線に対して垂直な方向の面屈折力よりも大きい領域と、前記主注視線方向とこれに対して垂直な方向の面屈折力が等しくなる点と、前記主注視線方向の面屈折力が前記主注視線に対して垂直な方向の面屈折力よりも小さい領域とが連続しており、以下の条件を満足することを特徴とする累進屈折力レンズ。
    Pm(25) > Ps(25)
    Pm(35) < Ps(35)
    ただし、
    Pm(Y) :フィッティングポイントを原点とし、該原点から上方にY(単位:mm)の前記主注視線上の点における前記主注視線方向の面屈折力(単位:D)、
    Ps(Y) :フィッティングポイントを原点とし、該原点から上方にY(単位:mm)の前記主注視線上の点における前記主注視線に対して垂直な方向の面屈折力(単位:D)である。
  2. 上方に位置して遠方視に対応する遠用領域と、下方に位置して近方視に対応する近用領域と、前記遠用領域から前記近用領域にかけて屈折力が累進的に変化する中間領域とを有する面を物体側の前面に備え、レンズのほぼ中央を上下に通る主注視線が非臍点状であり、遠用度数が負の累進屈折力レンズにおいて、
    前記主注視線方向の面屈折力と前記主注視線に対して垂直な方向の面屈折力との差である面アスが、前記遠用領域内で前記主注視線に沿ってフィッティングポイントから上方に離れるにしたがい、一旦増加し、その後減少し、ゼロになる点を介して再び増加し、前記フィッティングポイントを原点とし、該原点から上方にY(単位:mm)の主注視線上の点における前記主注視線方向の面屈折力(単位:D)をPm(Y)、前記主注視線に対して垂直な方向の面屈折力(単位:D)をPs(Y)、面アスの量(単位:D)をAS(Y)=|Pm(Y)−Ps(Y)|とすると、Y2<Y1とした場合、25≦Y1≦35を満たすいずれかの点において、
    AS(Y1)=0
    Y>Y1 において、
    Pm(Y)<Ps(Y)
    かつ、Y<Y1 において
    Pm(Y)>Ps(Y)
    を満たし、0<Y2<Y1のいずれかの点において、
    AS(Y2)>0.2
    を満たす極大値を持つことを特徴とする累進屈折力レンズ。
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