JP4399990B2 - 放射線の遮蔽構造 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、放射線遮蔽用の覆工構造に関し、特に、中性子線やガンマ線などの放射線を放出する加速粒子の通過用トンネルの覆工構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
素粒子物理学の研究に用いられる粒子加速器のトンネル工事では、加速された素粒子がトンネル内部を通過する際に、放出する中性子線などの放射線が、外部に透過して環境に影響を与えないように、厳重に遮蔽を行う必要がある。
【0003】
このようなトンネルの厳重な遮蔽には、従来、図7に示すように、コンクリートを主体とした覆工構造が採用されていた。同図に示した覆工構造は、トンネルの外周部に配設され、鉄筋コンクリート製のセグメントを円筒状に組立てた一次覆工層1と、この一次覆工層1の内面に、吹付けなどにより形成されるコンクリート製の二次覆工層2とから構成されている。
【0004】
このようなトンネルの覆工構造では、特に、二次覆工層2のコンクリート厚みを1m程度として、その厚みを極度に厚くすることにより、人体に有害な放射線の遮蔽を確保していた。
【0005】
しかしながら、このような従来の覆工構造には、以下に説明する技術的な課題があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
すなわち、二次覆工層2のコンクリート厚みを極度に厚くすると、トンネルの掘削径が大きくなり、建設コストが増加する。また、二次覆工層2のコンクリート厚みを極度に厚くすると、コンクリートにひび割れが生じ易くなり、ひび割れが発生すると、トンネルの遮水性や長期にわたる耐久性が損なわれる。
【0007】
さらに、万一、トンネル内から漏水が発生すると、漏水が放射線に汚染されているので、その処理が困難になるという問題があった。
【0008】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、覆工層のコンクリート厚みを低減することにより、建設コストの増加を回避しつつ、ひび割れも抑制できる放射線の遮蔽構造を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、中性子線やガンマ線などの放射線を放出する加速粒子の通過用トンネルにおける放射線の遮蔽構造において、前記トンネルは、コンクリートを含む一次および二次覆工層と放射線遮蔽層とを備え、前記放射線遮蔽層を合成樹脂と前記放射線の遮蔽用金属材料とで構成した。
【0010】
また、本発明は、中性子線やガンマ線などの放射線を放出する加速粒子の通過用トンネルにおける放射線の遮蔽構造において、前記トンネルは、コンクリートを含む閉塞断面の躯体と、前記躯体の外面ないしは内面およびまたは内外面のいずれか1箇所に設けられた放射線遮蔽層とを備え、前記放射線遮蔽層を合成樹脂と前記放射線の遮蔽用金属材料とで構成した
上記構成の放射線の遮蔽構造によれば、放射線遮蔽層には、合成樹脂と放射線の遮蔽用金属材料とが含まれているので、加速粒子から放出される放射線は、放射線遮蔽層により遮蔽されて、外部への透過が防止され、そのため覆工層のコンクリートの厚みを薄くすることができる。
【0011】
覆工層のコンクリート厚みを薄くすることができると、トンネルの掘削径が小さくなり、建設コストの低減が図れる。
また、覆工層のコンクリート厚みを薄くすると、コンクリートにひび割れが生じ難くなり、ひび割れの発生が抑制されて、トンネルの遮水性や長期にわたる耐久性の低下を回避することができるし、トンネル内からの漏水発生も抑制することができる。
【0012】
放射線の遮蔽用金属材料は、放射線の種類に応じて選択することができ、例えば、中性子線の場合には、鉄,ボロン,カドミウムを用いることができる。また、ガンマ線の場合には、鉛,鉄を用いることができる。
【0013】
なお、合成樹脂にポリエチレンを用いた場合には、このポリエチレンによっても中性子線の遮蔽が可能になる。また、上記放射線の遮蔽金属材料は、単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。
【0014】
前記一次覆工層は、鉄筋コンクリート製のセグメントを円筒状に組立てて前記トンネルの外周部に配設され、前記一次覆工層の内面に、コンクリート製の前記二次覆工層を設け、前記二次覆工層の内面または外面側のいずれか一方ないしは双方に前記放射線遮蔽層を形成することができる。
【0015】
前記放射線遮蔽層は、前記合成樹脂製のシートと、その接着層とを有し、前記接着層に前記遮蔽用金属材料の粉末を分散保持させることができる。
【0016】
この場合、合成樹脂シートを閉合すると、この合成樹脂シートにより漏水を防ぎ、トンネルの止水性を確保することができる。
【0017】
また、前記放射線遮蔽層は、前記合成樹脂製の層を有し、この合成樹脂層中に、前記遮蔽用金属材料の粉末を分散保持させることができる。
【0018】
さらに、前記放射線遮蔽層は、前記合成樹脂製のシートと、前記放射線遮蔽金属材料のシートとを有し、これらシートを積層してもよい。
【0019】
前記放射線遮蔽層は、同一構成のものを密着配置して複層化することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1は、本発明にかかる放射線の遮蔽構造の第1実施例を示している。同図に示した遮蔽構造は、例えば、素粒子物理学の研究用いられる粒子加速器において、中性子線やガンマ線などの放射線を放出する加速粒子の通過用トンネル10に適用した場合を例示している。
【0021】
このトンネル10は、横断面が円形に形成され、その遮蔽構造は、トンネル10の外周部に配設された一次覆工層12と、二次覆工層14と、放射線遮蔽層16とを備えている。
トンネル10は、例えば、シールド工法により地中に構築され、シールド掘進機により掘削されたトンネル掘削面には、予め鉄筋コンクリートにより形成されるプレキャストセグメントを、円筒状に組立てて、さらにこの円筒を軸方向に連結することにより、一次覆工層12が形成される。
【0022】
二次覆工層14は、コンクリート製のものであって、円筒状に組立てられた一次覆工層12の内面側に、吹付け工法や、型枠を用いる工法により、一次覆工層12の全内面を覆うようにして、所定厚みに形成される。
【0023】
放射線遮蔽層16は、二次覆工層12の内面側にあって、この全面を覆うように形成され、本実施例の場合には、図2に詳細断面を示すように、密接配置されて複層化された3層状になっている。
【0024】
また、本実施例の場合には、各層は、実質的に同一構成のものであって、合成樹脂シート18と、接着剤層20と、接着剤層20に分散保持された遮蔽用金属材料の粉末22とから構成されている。
【0025】
放射線の遮蔽用金属材料の粉末22は、放射線の種類に応じて選択することができ、例えば、中性子線の場合には、鉄,ボロン,カドミウムを用いることができる。また、ガンマ線の場合には、鉛,鉄を用いることができる。これらの各遮蔽金属材料の粉末22は、単独で用いてもよいし、複数の粉末を混合して、併用することもできる。
【0026】
放射線遮蔽層16を形成する際には、放射線の遮蔽用金属材料の粉末22が分散された接着剤を、二次覆工層14の内周面に所定厚みに塗着して、接着剤層20を形成し、その上面にポリエチレンなどの合成樹脂シート18を接着して、一層分を形成し、その後は、同じ手順で複数層分を順次形成する。
【0027】
この場合、合成樹脂シート18の端部同士を接着して、トンネル10の横断面方向に沿って閉合し、この状態をトンネル10の軸方向の全長に形成すると、この合成樹脂シート18により漏水を防ぎ、トンネル10の止水性を確保することができる。
【0028】
さて、以上のように構成した放射線の遮蔽構造によれば、最内面に形成された放射線遮蔽層16には、合成樹脂(合成樹脂シート18)と放射線の遮蔽用金属材料(接着剤層20に分散保持されている粉末22)とが含まれている。
【0029】
従って、加速粒子から放出される放射線は、放射線遮蔽層16により遮蔽され、外部への透過が阻止されるので、二次覆工層14のコンクリートの厚みを薄くすることができる。
【0030】
二次覆工層14のコンクリート厚みを薄くすることができると、トンネル10の掘削径が小さくなり、建設コストの低減が図れる。また、二次覆工層14のコンクリート厚みを薄くすると、コンクリートにひび割れが生じ難くなり、ひび割れの発生が抑制されて、トンネル10の遮水性や長期にわたる耐久性の低下を回避することができるし、トンネル10内からの漏水発生も抑制することができる。
【0031】
なお、上記実施例では、二次覆工層14の内面側に放射線遮蔽層16を形成した場合を例示したが、この放射線遮蔽層16は、二次覆工層14の内面側に形成することだけでなく、一次覆工層12と二次覆工層14との間にも形成することができ、さらに、二次覆工層14の内外面にそれぞれ形成してもよい。
【0032】
また、上記実施例では、一次覆工層12に鉄筋コンクリート製のセグメントを用いるシールドトンネルに本発明を適用した場合を例示したが、本発明は、これに限定されることはなく、たとえば、一次覆工層12を吹きつけコンクリートで形成し、二次覆工層14を型枠を用いて形成する山岳トンネルの場合にも適用することができる。
【0033】
図3は、本発明にかかる放射線の遮蔽構造の第2実施例を示しており、上記実施例と同一もしくは相当する部分には、同一符号を付してその説明を省略するとともに、以下にその特徴点についてのみ説明する。
【0034】
同図に示した実施例では、上記実施例と同様に、コンクリート製の二次覆工層14の内面の全域を覆うようにして、放射線遮蔽層16aが形成されている。本実施例の放射線遮蔽層16aは、密接配置されて複層化された3層状になっている。
【0035】
本実施例の場合、各層は、実質的に同一構成のものであって、合成樹脂層24と、この合成樹脂層24に分散保持された遮蔽用金属材料の粉末22とから構成されている。
【0036】
本実施例の場合には、合成樹脂層24には、例えば、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができ、遮蔽用金属材料の粉末22をこれらの樹脂中に、所定量を添加混合して、分散保持させて、これを二次覆工層14の内面に所定厚みに塗布して硬化させた後に、同じ手順を繰り返して複層化すればよい。
【0037】
このように構成した放射線の遮蔽構造においても、上記第1実施例と同等の作用効果を奏することができる。
【0038】
図4は、本発明にかかる放射線の遮蔽構造の第3実施例を示しており、上記実施例と同一もしくは相当する部分には、同一符号を付してその説明を省略するとともに、以下にその特徴点についてのみ説明する。
【0039】
同図に示した実施例では、上記実施例と同様に、コンクリート製の二次覆工層14の内面の全域を覆うようにして、放射線遮蔽層16bが形成されている。本実施例の放射線遮蔽層16bは、密接配置されて複層化された3層状になっていて、各層は、実質的に同一構成のものであって、合成樹脂シート26と、遮蔽用金属材料で形成された金属シート28とから構成されている。
【0040】
これらのシート26,28交互に積層されて、3層状態になっていて、内層側に配置された金属シート28が二次覆工層14の内面側に配設されている。
【0041】
このように構成した放射線の遮蔽構造においても、上記第1実施例と同等の作用効果を奏することができる。
【0042】
なお、上記実施例では、放射線遮蔽層16,16a,16bを3層で構成した場合を例示したが、本発明の実施は、この構成に限定されることはなく、層数は、放射線量の大きさなどに応じて、適宜選択することができる。
【0043】
図5は、本発明にかかる放射線の遮蔽構造の第4実施例を示しており、上記実施例と同一もしくは相当する部分には、同一符号を付してその説明を省略するとともに、以下にその特徴点についてのみ説明する。
【0044】
同図に示した実施例では、トンネル10aは、開削工法により地盤中に形成される開削トンネルであって、角形の閉塞された断面の躯体30を有している。この躯体30は、鉄筋コンクリート製のプレキャスト部材、ないしは、コンクリートを現場打設して構築され、その内周および外周面には、その全面を覆うようにして、放射線遮蔽層16が形成されている。
【0045】
この放射線遮蔽層16は、上記実施例1〜3で示したいずれかの構成を採用することができる。躯体30にプレキャスト部材を用いる場合には、これを設置する前に、その内周および外周面に放射線遮蔽層16を形成する。
【0046】
また、躯体30を現場打設により形成する際には、図6に示すようにして、放射線遮蔽層16を形成する。躯体30を開削工法で形成する際には、地上から土止め壁32を打設して、その内部を掘削し、その後に躯体30を形成し、躯体30の形成後に、土砂の埋め戻し処理が行われる。
【0047】
この場合、躯体30の外周面側の放射線遮蔽層16は、躯体30を形成する前に、根切り掘削面に捨てコンクリート層34を形成し、この捨てコンクリート層34上に放射線遮蔽層16を形成し、この後に躯体30を型枠を組立てて、コンクリートを打設することにより形成する。
【0048】
躯体30の形成が終了すると、その外周3面に放射線遮蔽層16を形成し、躯体30の内周面に放射線遮蔽層16を形成すればよい。
【0049】
本実施例のように、放射線の遮蔽構造を開削トンネルに適用した場合においても上記実施例と同等の作用効果が得られる。
【0050】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明にかかる放射線の遮蔽構造によれば、覆工層のコンクリート厚みを低減することにより、建設コストの増加を回避しつつ、ひび割れも抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる放射線の遮蔽構造の第1実施例を示す断面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】本発明にかかる放射線の遮蔽構造の第2実施例を示す要部拡大図である。
【図4】本発明にかかる放射線の遮蔽構造の第3実施例を示す要部拡大図である。
【図5】本発明にかかる放射線の遮蔽構造の第4実施例を示す断面である。
【図6】図5に示した実施例でトンネルを構築する際の工程説明図である。
【図7】従来の放射線の遮蔽構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
10 トンネル
12 一次覆工層
14 二次覆工層
16 放射線遮蔽層
18 合成樹脂シート
20 接着剤層
22 遮蔽用金属材料粉末

Claims (7)

  1. 中性子線やガンマ線などの放射線を放出する加速粒子の通過用トンネルにおける放射線の遮蔽構造において、
    前記トンネルは、コンクリートを含む一次および二次覆工層と放射線遮蔽層とを備え、
    前記放射線遮蔽層を合成樹脂と前記放射線の遮蔽用金属材料とで構成したことを特徴とする放射線の遮蔽構造。
  2. 中性子線やガンマ線などの放射線を放出する加速粒子の通過用トンネルにおける放射線の遮蔽構造において、
    前記トンネルは、コンクリートを含む閉塞断面の躯体と、前記躯体の外面ないしは内面およびまたは内外面のいずれか1箇所に設けられた放射線遮蔽層とを備え、
    前記放射線遮蔽層を合成樹脂と前記放射線の遮蔽用金属材料とで構成したことを特徴とする放射線の遮蔽構造。
  3. 前記一次覆工層は、鉄筋コンクリート製のセグメントを円筒状に組立てて前記トンネルの外周部に配設され、
    前記一次覆工層の内面に、コンクリート製の前記二次覆工層を設け、
    前記二次覆工層の内面または外面側のいずれか一方ないしは双方に前記放射線遮蔽層を形成したことを特徴とする請求項1記載の放射線の遮蔽構造。
  4. 前記放射線遮蔽層は、前記合成樹脂製のシートと、その接着層とを有し、
    前記接着層に前記遮蔽用金属材料の粉末を分散保持させたことを特徴とする請求項1または2記載の放射線の遮蔽構造。
  5. 前記放射線遮蔽層は、前記合成樹脂製の層を有し、この合成樹脂層中に、前記遮蔽用金属材料の粉末を分散保持させたことを特徴とする請求項1または2記載の放射線の遮蔽構造。
  6. 前記放射線遮蔽層は、前記合成樹脂製のシートと、前記放射線遮蔽金属材料のシートとを有し、
    これらシートを積層することを特徴とする請求項1または2記載の放射線の遮蔽構造。
  7. 前記放射線遮蔽層は、同一構成のものを密着配置して複層化することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の放射線の遮蔽構造。
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