図1は実施例1のFR型の前進7速後退1速を達成する自動変速機の構成を表すスケルトン図及び自動変速機の制御構成を表す全体システム図である。実施例1の自動変速機は、エンジンEg(特許請求の範囲に記載の動力源に相当)に対し、ロックアップクラッチLUCが装着されたトルクコンバータTCを介して接続されている。エンジンEgから出力された回転は、トルクコンバータTCのポンプインペラ及びオイルポンプOPを回転駆動する。このポンプインペラの回転により攪拌されたオイルはステータを介してタービンランナに伝達され、入力軸Input(特許請求の範囲に記載の入力回転要素に相当)を駆動する。
また、エンジンEgの駆動状態を制御するエンジンコントローラ(ECU)10と、自動変速機の変速状態等を制御する自動変速機コントローラ(ATCU)20と、ATCU20の出力信号に基づいて各締結要素の油圧制御を実行するコントロールバルブユニットCVUが設けられている。ATCU20及びコントロールバルブユニットCVUが変速制御手段に相当する。尚、ECU10とATCU20とは、CAN通信線等を介して接続され、相互にセンサ情報や制御情報を通信により共有している。
ECU10には、運転者のアクセルペダル操作量を検出するAPOセンサ1と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ2が接続されている。ECU10は、エンジン回転数やアクセルペダル操作量に基づいて燃料噴射量やスロットル開度を制御し、エンジン出力回転数及びエンジントルクを制御する。
ATCU20には、後述する第1キャリヤPC1の回転数を検出する第1タービン回転数センサ3と、第1リングギヤR1の回転数を検出する第2タービン回転数センサ4と、出力軸Output(特許請求の範囲に記載の出力回転要素に相当)の回転数を検出する出力軸回転数センサ5と、運転者のシフトレバー操作状態を検出するインヒビタスイッチ6が接続されており、シフトレバーはP,R,N,Dの他にエンジンブレーキが作用するエンジンブレーキレンジ位置とエンジンブレーキが作用しない通常前進走行レンジ位置とを備える。
ATCU20内では、入力軸Inputの回転数を演算する回転数算出部と共に、正常時には車速Vspとアクセルペダル開度APOに基づいて、後述する前進7速段の変速マップから最適な指令変速段を選択し、コントロールバルブユニットCVUに指令変速段を達成する制御指令を出力する変速制御部が設けられている。尚、回転数算出部の構成については後述する。
(自動変速機の構成について)
次に、自動変速機の構成について説明する。入力軸Input側から軸方向出力軸Output側に向けて、第1遊星ギヤセットGS1,第2遊星ギヤセットGS2の順に配置されている。また、摩擦締結要素として複数のクラッチC1,C2,C3及びブレーキB1,B2,B3,B4が配置されている。また、複数のワンウェイクラッチF1,F2が配置されている。
第1遊星ギヤG1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、両ギヤS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリヤPC1と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
第2遊星ギヤG2は、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、両ギヤS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリヤPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
第3遊星ギヤG3は、第3サンギヤS3と、第3リングギヤR3と、両ギヤS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリヤPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
第4遊星ギヤG4は、第4サンギヤS4と、第4リングギヤR4と、両ギヤS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリヤPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
入力軸Inputは、第2リングギヤR2に連結され、エンジンEgからの回転駆動力を、トルクコンバータTC等を介して入力する。
出力軸Outputは、第3キャリヤPC3に連結され、出力回転駆動力を図外のファイナルギヤ等を介して駆動輪に伝達する。
第1連結メンバM1は、第1リングギヤR1と第2キャリヤPC2と第4リングギヤR4とを一体的に連結するメンバである。
第2連結メンバM2は、第3リングギヤR3と第4キャリヤPC4とを一体的に連結するメンバである。
第3連結メンバM3は、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とを一体的に連結するメンバである。
第1遊星ギヤセットGS1は、第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3により連結して構成し4つの回転要素から構成している。また、第2遊星ギヤセットGS2は、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4とを、第2連結メンバM2により連結し5つの回転要素から構成している。
第1遊星ギヤセットGS1は、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力されるトルク入力経路を有する。第1遊星ギヤセットGS1に入力されたトルクは、第1連結メンバM1から第2遊星ギヤセットGS2に出力される。
第2遊星ギヤセットGS2は、入力軸Inputから第2連結メンバM2に入力されるトルク入力経路と、第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に入力されるトルク入力経路を有する。第2遊星ギヤセットGS2に入力されたトルクは、第3キャリヤPC3から出力軸Outputに出力される。
尚、H&LRクラッチC3が解放され、第3サンギヤS3よりも第4サンギヤS4の回転数が大きい時は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4は独立した回転数を発生する。よって、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギヤが独立したギヤ比を達成する。
インプットクラッチC1は、入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。
ダイレクトクラッチC2は、第4サンギヤS4と第4キャリヤPC4とを選択的に断接するクラッチである。
H&LRクラッチC3は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とを選択的に断接するクラッチである。尚、第3サンギヤS3と第4サンギヤの間には、第2ワンウェイクラッチF2が配置されている。
フロントブレーキB1は、第1キャリヤPC1の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、第1ワンウェイクラッチF1は、フロントブレーキB1と並列に配置されている。
ローブレーキB2は、第3サンギヤS3の回転を選択的に停止させるブレーキである。
2346ブレーキB3は、第3連結メンバM3(第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2)の回転を選択的に停止させるブレーキである。
リバースブレーキB4は、第4キャリヤPC4の回転を選択的に停止させるブレーキである。
(タービン回転数演算について)
入力軸Inputは第2リングギヤR2に連結され、更に第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2は2つの回転要素が連結された第1遊星ギヤセットGS1を構成していることに着目し、ATCU20内に設けられた回転数算出部において、2つのタービン回転数センサ3,4を用いて入力軸Inputの回転数を計算により検出している。
具体的には、第1キャリヤPC1の回転数をN(PC1),第2キャリヤPC2の回転数をN(PC2),第2リングギヤR2の回転数をN(R2)とし、図9の共線図に示すように、第2リングギヤR2と第2キャリヤPC2(第1リングギヤR1)のギヤ比を1とし、第1リングギヤR1(第2キャリヤPC2)と第1キャリヤPC1のギヤ比をβとすると、下記式、
N(R2)=(1+1/β)N(PC2)−(1/β)・N(PC1)
により算出される。
第1タービン回転数センサ3は第2キャリヤPC2の回転数を検出し、第2タービン回転数センサ4は第1キャリヤPC1に連結されたタービンセンサ用メンバとしてのセンサ用部材63の回転数を検出する。これにより、第2リングギヤR2(入力軸Input)の回転数(以下、タービン回転数と記載する)を上記式に基づいて計算により検出する。
(コントロールバルブユニットの構成について)
図2はコントロールバルブユニットCVUの油圧回路を表す回路図である。以下、回路構成について説明する。実施例1の油圧回路には、エンジンにより駆動された油圧源としてのオイルポンプOPと、運転者のシフトレバー操作と連動して、ライン圧PLを供給する油路を切り換えるマニュアルバルブMVと、ライン圧を所定の一定圧に減圧するパイロットバルブPVが設けられている。
また、ローブレーキB2の締結圧を調圧する第1調圧弁CV1と、インプットクラッチC1の締結圧を調圧する第2調圧弁CV2と、フロントブレーキB1の締結圧を調圧する第3調圧弁CV3と、H&RLクラッチC3の締結圧を調圧する第4調圧弁CV4と、2346ブレーキB3の締結圧を調圧する第5調圧弁CV5と、ダイレクトクラッチC2の締結圧を調圧する第6調圧弁CV6が設けられている。
また、ローブレーキB2とインプットクラッチC1の供給油路をどちらか一方のみ連通する状態に切り換える第1切換弁SV1と、ダイレクトクラッチC2に対しDレンジ圧とRレンジ圧の供給油路をどちらか一方のみ連通する状態に切り換える第2切換弁SV2と、リバースブレーキB4に対して供給する油圧を第6調圧弁CV6からの供給油圧とRレンジ圧からの供給油圧との間で切り換える第3切換弁SV3と、第6調圧弁CV6から出力された油圧を油路123と油路122との間で切り換える第4切換弁SV4が設けられている。
また、自動変速機コントロールユニット20からの制御信号に基づいて、第1調圧弁CV1に対し調圧信号を出力する第1ソレノイドバルブSOL1と、第2調圧弁CV2に対し調圧信号を出力する第2ソレノイドバルブSOL2と、第3調圧弁CV3に対し調圧信号を出力する第3ソレノイドバルブSOL3と、第4調圧弁CV4に対し調圧信号を出力する第4ソレノイドバルブSOL4と、第5調圧弁CV5に対し調圧信号を出力する第5ソレノイドバルブSOL5と、第6調圧弁CV6に対し調圧信号を出力する第6ソレノイドバルブSOL6と、第1切換弁SV1及び第3切換弁SV3に対し切り換え信号を出力する第7ソレノイドバルブSOL7が設けられている。
上記各ソレノイドバルブSOL2,SOL5,SOL6は三つのポートを有する三方比例電磁弁であり、第1のポートは後述するパイロット圧が導入され、第2のポートはドレーン油路に接続され、第3のポートはそれぞれ調圧弁もしくは切換弁の受圧部に接続されている。また、上記各ソレノイドバルブSOL1,SOL3,SOL4は2つのポートを有する二方比例電磁弁、ソレノイドバルブSOL7は三つのポートを備える三方オンオフ電磁弁である。
また、第1ソレノイドバルブSOL1と第3ソレノイドバルブSOL3と第7ソレノイドバルブSOL7はノーマルクローズタイプ(非通電時に閉じた状態)とされている。一方、第2ソレノイドバルブSOL2と第4ソレノイドバルブSOL4と第5ソレノイドバルブSOL5と第6ソレノイドバルブSOL6はノーマルオープンタイプ(非通電時に開いた状態)とされている。
(油路構成について)
エンジンにより駆動されるオイルポンプOPの吐出圧は、ライン圧に調圧された後、油路101及び油路102に供給される。油路101には、運転者のシフトレバー操作に連動して作動するマニュアルバルブMVと接続された油路101aと、フロントブレーキB1の締結圧の元圧を供給する油路101bと、H&LRクラッチC3の締結圧の元圧を供給する油路101cが接続されている。
マニュアルバルブMVには、油路105と、後退走行時に選択されるRレンジ圧を供給する油路106が接続され、シフトレバー操作に応じて油路105と油路106を切り換える。
油路105には、ローブレーキB2の締結圧の元圧を供給する油路105aと、インプットクラッチC1の締結圧の元圧を供給する油路105bと、2346ブレーキB3の締結圧の元圧を供給する油路105cと、ダイレクトクラッチC2の締結圧の元圧を供給する油路105dと、後述する第2切換弁SV2の切り換え圧を供給する油路105eが接続されている。
油路106には、第2切換弁SV2の切り換え圧を供給する油路106aと、ダイレクトクラッチC2の締結圧の元圧を供給する油路106bと、リバースブレーキB4の締結圧を供給する油路106cが接続されている。
油路102にはパイロットバルブPVを介してパイロット圧を供給する油路103が接続されている。油路103には、第1ソレノイドバルブSOL1にパイロット圧を供給する油路103aと、第2ソレノイドバルブSOL2にパイロット圧を供給する油路103bと、第3ソレノイドバルブSOL3にパイロット圧を供給する油路103cと、第4ソレノイドバルブSOL4にパイロット圧を供給する油路103dと、第5ソレノイドバルブSOL5にパイロット圧を供給する油路103eと、第6ソレノイドバルブSOL6にパイロット圧を供給する油路103fと、第7ソレノイドバルブSOL7にパイロット圧を供給する油路103gとが設けられている。
図3は実施例1の調圧弁の構成を表す概略図である。第1調圧弁CV1には、油路105aが接続される第1ポートa1と、ドレーン回路に接続された第2ポートa2と、第1切換弁SV1と接続される油路115aが接続される第3ポートa3と、第1ソレノイドバルブSOL1の信号圧が供給される第4ポートa4と、この信号圧の対向圧として油路115aからフィードバックされた油路が接続された第5ポートa5と、第4ポートに供給される油圧に対向して作用するスプリングa6が設けられている。
図3中、第1切換弁SV1が上方に移動すると油路105aと油路115aが連通され、一方、下方に移動すると油路115aとドレーンとが連通される。同様に、第2調圧弁CV2〜第6調圧弁CV6には、第1ポートa1〜第5ポートa5及びスプリングa6と同じ構成が設けられているため説明を省略する。
図4は実施例1の第1切換弁SV1の構成を表す概略図である。第1切換弁SV1には、油路115aと接続された第1ポートb1と、ドレーン回路に接続された第2ポートb2と、油路115bに接続された第3ポートb3と、ドレーン回路に接続された第4ポートb4と、ローブレーキB2へ油圧を供給する油路150aと接続された第5ポートb5と、インプットクラッチC1へ油圧を供給する油路150bと接続された第6ポートb6と、第7ソレノイドバルブSOL7の信号圧を供給する油路140bと接続された第7ポートb7と、第7ポートb7に供給される油圧に対向して作用するスプリングb8が設けられている。
図4中、第1切換弁SV1が左方に移動すると油路115aと油路150aが連通されると共に油路150bとドレーンとが連通される。一方、右方に移動すると油路150aとドレーンが連通されると共に油路115bと油路150bとが連通される。
図5は実施例1の第2切換弁SV2の構成を表す概略図である。第2切換弁SV2には、Dレンジ圧を供給する油路105dと接続された第1ポートc1と、Rレンジ圧を供給する油路106dと接続された第2ポートc2と、第6調圧弁CV6へ油圧を供給する油路120と接続された第3ポートc3と、Dレンジ圧を供給する油路105eと接続された第4ポートc4と、第4ポートc4の対向圧としてRレンジ圧を供給する油路106aと接続された第5ポートc5と、第4ポートc4に供給される油圧に対向して作用するスプリングc6が設けられている。
図5中、第2切換弁SV2が右方に移動すると油路106bと油路120が連通され、一方、左方に移動すると油路105dと油路120が連通される。
図6は実施例1の第3切換弁SV3の構成を表す概略図である。第3切換弁SV3には、第4切換弁SV4からの油圧を供給する油路122と接続された第1ポートd1と、Rレンジ圧を供給する油路106cと接続された第2ポートd2と、リバースブレーキB4に油圧を供給する油路130と接続された第3ポートd3と、第7ソレノイドバルブSOL7の信号圧を供給する油路140aと接続された第4ポートd4と、第4ポートd4に供給される油圧に対向して作用するスプリングd5が設けられている。
図6中、第3切換弁SV3が右方に移動すると油路106cと油路130が連通され、一方、左方に移動すると油路122と油路130とが連通される。
図7は実施例1の第4切換弁SV4の構成を表す概略図である。第4切換弁SV4には、第6調圧弁CV6からの油圧を供給する油路121と接続された第1ポートe1と、ドレーン回路に接続された第2ポートe2及び第3ポートe3と、Rレンジ圧が供給される第4ポートe4と、Dレンジ圧が供給される第5ポートe5と、第4ポートe4に対向して作用するスプリングe6と、油路122と接続された第7ポートe7と、油路123と接続された第8ポートe8が設けられている。
図7中、第4切換弁SV4が右方に移動すると油路121と油路123が連通されると共に油路122とドレーン回路が連通され、一方、左方に移動すると油路121と油路122が連通されると共に油路123とドレーン回路が連通される。
前記各クラッチC1,C2,C3及び各ブレーキB1,B2,B3,B4には、正常時には図7の締結作動表に示すように、前進7速後退1速の各変速段にて締結圧(○印)や解放圧(無印)が供給される。
次に、作用を説明する。
[変速作用]
図8は実施例1の自動変速機用歯車変速装置での前進7速後退1速の締結作動表を示す図、図9は実施例1の自動変速機用歯車変速装置における前進7速後退1速の各変速段でのメンバの回転停止状態を示す共線図を示す図、図10は各変速段におけるソレノイドバルブSOL1〜SOL7の作動表を表す図である。
〈1速〉
1速は、エンジンブレーキ作用時(エンジンブレーキレンジ位置選択中)とエンジンブレーキ非作用時(通常前進走行レンジ位置選択中)とで異なる締結要素が作用する。エンジンブレーキ作用時は、図8の(○)に示すように、フロントブレーキB1とローブレーキB2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。尚、フロントブレーキB1に並列に設けられた第1ワンウェイクラッチF1と、H&LRクラッチC3と並列に設けられた第2ワンウェイクラッチF2もトルク伝達に関与する。エンジンブレーキ非作用時は、フロントブレーキB1とH&LRクラッチC3は解放され、ローブレーキB2のみが締結され、第1ワンウェイクラッチF1と第2ワンウェイクラッチF2によりトルク伝達される。
この1速では、フロントブレーキB1が締結(エンジンブレーキ非作動時は第1ワンウェイクラッチF1により締結)されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第1遊星ギヤセットGS1により減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ローブレーキB2及びH&LRクラッチC3が締結(エンジンブレーキ非作動時はローブレーキB2及び第2ワンウェイクラッチF2により締結)されているため、第4リングギヤR4に入力された回転は、第2遊星ギヤセットにより減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、1速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を減速するフロントブレーキB1の締結点と、第1遊星ギヤセットGS1からの減速回転を減速するローブレーキB2の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力軸Outputから出力する。
この1速でのトルクフローは、フロントブレーキB1(もしくは第1ワンウェイクラッチF1),ローブレーキB2,H&LRクラッチC3(もしくは第2ワンウェイクラッチF2),第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1〜第3ソレノイドバルブSOL1〜SOL3及び第6及び第7ソレノイドバルブSOL6,SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオンとしているため、第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、第1調圧弁CV1とローブレーキB2を連通し、インプットクラッチC1をドレンと接続する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通されるため第6調圧弁CV6にはDレンジ圧が作用する。第6調圧弁CV6は図2中下方に移動しているため、ダイレクトクラッチC2や第4切換弁SV4にDレンジ圧が供給されることはない。
尚、第4切換弁SV4はDレンジ圧の作用により図2中右方に移動し、油路121と油路123とを連通した状態であるが締結作用には関係ない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されているため図2中左方に移動し、第1ポートd1と第3ポートd3が連通されているものの油路122には油圧が供給されていないため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈2速〉
2速は、エンジンブレーキ作用時(エンジンブレーキレンジ位置選択中)とエンジンブレーキ非作用時(通常前進走行レンジ位置選択中)とで異なる締結要素が締結する。エンジンブレーキ作用時は、図8の(○)に示すように、ローブレーキB2と2346ブレーキB3とH&LRクラッチC3との締結により得られる。尚、H&LRクラッチC3と並列に設けられた第2ワンウェイクラッチF2もトルク伝達に関与する。エンジンブレーキ非作動時は、H&LRクラッチC3は解放され、ローブレーキB2と2346ブレーキB3が締結され、第2ワンウエイクラッチF2によりトルク伝達される。
この2速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2のみにより減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ローブレーキB2及びH&LRクラッチC3が締結(エンジンブレーキ非作動時は第2ワンウェイクラッチF2により締結)されているため、第4リングギヤR4に入力された回転は、第2遊星ギヤセットにより減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、2速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を減速する2346ブレーキB3の締結点と、第2遊星ギヤG2からの減速回転を減速するローブレーキB2の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力ギヤOutputから出力する。
この2速でのトルクフローは、2346ブレーキB3,ローブレーキB2,H&LRクラッチC3(もしくは第2ワンウェイクラッチF2),第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
尚、1速から2速へのアップシフト時は、フロントブレーキB1を早めに解放し、2346ブレーキB3の締結を開始することで、2346ブレーキB3の締結容量が確保された時点で第1ワンウェイクラッチF1が解放される。よって、変速タイミングの精度の向上を図ることができるものである。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1,第2,第5〜第7ソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL5,SOL6,SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオンとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、第1調圧弁CV1とローブレーキB2を連通し、インプットクラッチC1をドレンと接続する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通されるものの、第6調圧弁CV6は図2中下方に移動しているため、ダイレクトクラッチC2や第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。
また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されているため図2中左方に移動し、第1ポートd1と第3ポートd3が連通されているものの油路122には油圧が供給されていないため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈3速〉
3速は、図8に示すように、2346ブレーキB3とローブレーキB2とダイレクトクラッチC2との締結により得られる。
この3速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2により減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ダイレクトクラッチC2が締結されているため、第4遊星ギヤG4は一体となって回転する。また、ローブレーキB2が締結されているため、第4リングギヤR4と一体に回転する第4キャリヤPC4から第2連結メンバM2を介して第3リングギヤR3に入力された回転は、第3遊星ギヤG3により減速され、第3キャリヤPC3から出力される。このように第4遊星ギヤG4はトルク伝達に関与するが減速作用には関与しない。
すなわち、3速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を減速する2346ブレーキB3の締結点と、第2遊星ギヤG2からの減速回転を減速するローブレーキB2の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力ギヤOutputから出力する。
この3速でのトルクフローは、2346ブレーキB3,ローブレーキB2,ダイレクトクラッチC2,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
尚、2速から3速へのアップシフト時は、H&LRクラッチC3を早めに解放し、ダイレクトクラッチC2の締結を開始することで、ダイレクトクラッチC2の締結容量が確保された時点で第2ワンウェイクラッチF2が解放される。よって、変速タイミングの精度の向上を図ることができるものである。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1,第2,第4,5及び第7ソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL4,SOL5,SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオンとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、第1調圧弁CV1とローブレーキB2を連通し、インプットクラッチC1をドレンと接続する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通される。油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されているため図2中左方に移動し、第1ポートd1と第3ポートd3が連通されているものの油路122には油圧が供給されていないため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈4速〉
4速は、図8に示すように、2346ブレーキB3とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。
この4速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2のみにより減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は一体で回転する。よって、第4リングギヤR4に入力された回転は、そのまま第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、4速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を減速する2346ブレーキB3の締結点と、第2遊星ギヤG2からの減速回転をそのまま出力するダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力ギヤOutputから出力する。
この4速でのトルクフローは、2346ブレーキB3,ダイレクトクラッチC2,H&LRクラッチC3,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第2及び第5ソレノイドバルブSOL2,SOL5をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中右方に移動し、ローブレーキB2をドレン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通される。油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、第2ポートd2と第3ポートd3が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈5速〉
5速は、図8に示すように、インプットクラッチC1とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。
この5速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2連結メンバM2に入力される。また、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結されているため、第3遊星ギヤG3は一体で回転する。よって、入力軸Inputの回転は、そのまま第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、5速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転をそのまま出力するインプットクラッチC1,ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転をそのまま出力ギヤOutputから出力する。
この5速でのトルクフローは、インプットクラッチC1,ダイレクトクラッチC2,H&LRクラッチC3,第2連結メンバM2にトルクが作用する。つまり、第3遊星ギヤG3のみがトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、全てのソレノイドバルブSOL1〜SOL7をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中右方に移動し、ローブレーキB2をドレン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通され、油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、油路106c(第2ポートd2)と油路130(第3ポートd3)が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈6速〉
6速は、図8に示すように、インプットクラッチC1とH&LRクラッチC3と2346ブレーキB3の締結により得られる。
この6速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2リングギヤに入力されると共に、第2連結メンバM2に入力される。また、2346ブレーキB3が締結されているため、第2遊星ギヤG2により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM4の回転によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、6速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を第2遊星ギヤG2により減速する2346ブレーキB3,エンジンの出力回転をそのまま第2連結メンバM2に伝達するインプットクラッチC1,第2遊星ギヤセットGS2を構成するH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を増速して出力ギヤOutputから出力する。
この6速でのトルクフローは、インプットクラッチC1,H&LRクラッチC3,2346ブレーキB3,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第5及び第6ソレノイドバルブSOL5,SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL3,SOL4,SOL7をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中右方に移動し、ローブレーキB2をドレン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通され、油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、油路106c(第2ポートd2)と油路130(第3ポートd3)が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈7速〉
7速は、図8に示すように、インプットクラッチC1とH&LRクラッチC3とフロントブレーキB1(第1ワンウェイクラッチF1)の締結により得られる。
この7速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2リングギヤに入力されると共に、第2連結メンバM2に入力される。また、フロントブレーキB1が締結されているため、第1遊星ギヤセットGS1により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM4の回転によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、7速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を第1遊星ギヤセットGS1により減速するフロントブレーキB1,エンジンの出力回転をそのまま第2連結メンバM2に伝達するインプットクラッチC1,第2遊星ギヤセットGS2を構成するH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を増速して出力ギヤOutputから出力する。
この7速でのトルクフローは、インプットクラッチC1,H&LRクラッチC3,フロントブレーキB1,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第3及び第6ソレノイドバルブSOL3,SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL4,SOL5,SOL7をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中右方に移動し、ローブレーキB2をドレン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通され、油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、油路106c(第2ポートd2)と油路130(第3ポートd3)が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈後退速〉
後退速は、図8に示すように、H&LRクラッチC3とフロントブレーキB1とリバースブレーキB4の締結により得られる。
この後退速では、フロントブレーキB1が締結されているため、第1遊星ギヤセットGS1により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結され、リバースブレーキB4が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM2の固定によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、後退速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を第1遊星ギヤセットGS1により減速するフロントブレーキB1,第2連結メンバM2の回転を固定するリバースブレーキB4,第2遊星ギヤセットGS2を構成するH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を逆向きに減速して出力ギヤOutputから出力する。
この後退速でのトルクフローは、H&LRクラッチC3,フロントブレーキB1,リバースブレーキB4,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第2,第3及び第6ソレノイドバルブSOL2,SOL3,SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブSOL1,SOL4,SOL5,SOL7をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。尚、第7ソレノイドSOL7についてはRレンジ切り換え初期はオンとし、締結完了後にオフとする。
リバースブレーキB4には、第3切換弁SV3を介してRレンジ圧が供給される。Rレンジには、専用の調圧弁を持っていないため、締結初期には、ダイレクトクラッチC2に使用していた第6調圧弁CV6を用いてリバースブレーキB4の締結圧を調圧する。まず、マニュアルバルブMVによりRレンジ圧に切り換えられると、第2切換弁SV2は図2中右方に移動し、第6調圧弁CV6にRレンジ圧が供給される。また、第4切換弁SV4は図2中左方に移動し、油路121と油路122とを連通する。これにより、第6調圧弁CV6により調圧された油圧が油路122に導入される。
この状態で第7ソレノイドバルブSOL7をオンとすると、第3切換弁SV3は図2中左方に移動し、油路122と油路130を連通する。よって、第7ソレノイドバルブSOL7がオンの間は第6調圧弁CV6により調圧された油圧によってリバースブレーキB4の締結圧を制御する。締結が完了すると、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとする。すると、第3切換弁SV3が図2中右方に移動し、油路106cと油路130が連通されるため、Rレンジ圧がそのまま導入され、締結状態を維持する。
このように、第3切換弁SV3及び第4切換弁SV4を設けたことで、1つの調圧弁で2つの締結要素の締結圧を制御することを可能としている。
(第1切換弁の作用について)
次に、上記作用に基づいて、第1切換弁SV1の作用について説明する。第1切換弁SV1はローブレーキB2とインプットクラッチC1とが確実に同時締結しないために設けられた切換弁である。例えば、第1ソレノイドバルブSOL1と第2ソレノイドバルブSOL2が故障し、同時に締結圧を発生した場合であっても、第1切換弁SV1がどちらか一方に付勢されなければ締結要素に対して締結圧を供給することはない。よって、確実にインターロック状態を防止するものである。
また、ローブレーキB2とインプットクラッチC1は、図8の締結表及び図10のソレノイド作動表に示すように、1速から3速まではローブレーキB2が締結し、それ以外はローブレーキB2が締結することはない。一方、5速から7速まではインプットクラッチC1が締結し、それ以外はインプットクラッチC1が締結することはない。このことは、4速においてローブレーキB2もインプットクラッチC1も締結しないことを表す。
第1切換弁SV1のようなインターロック状態防止バルブを構成する場合、仮にある変速段でローブレーキB2が締結、インプットクラッチC1が解放という状態であり、ある変速段から1段アップシフトによってローブレーキB2が解放、インプットクラッチC1が締結となると、掛けかえ制御中にローブレーキB2の解放圧制御を行うと共に、インプットクラッチC1の締結圧制御を行うこととなる。すると、第1切換弁SV1の切り換えタイミングをどのタイミングにすることがベストなのかを特定するのが非常に困難である。また、両締結要素に同時に締結容量を持たせてイナーシャフェーズを進行させるような制御が不可能となる。
これに対し、第1切換弁SV1を切り換える際、4速という両締結要素が関与しない変速段が存在するため、4速走行時に第7ソレノイドバルブSOL7をオフすることで、変速制御に影響を与えることなく確実にインターロック状態を防止している。
(故障時の制御処理について)
ここで、自動変速機の故障において監視しなければならない故障には、通常、インターロック状態故障と、ニュートラル状態故障と、ギヤ比異常故障が挙げられる。
インターロック状態故障とは、入力軸Inputの回転と出力軸Outputの回転が某かの締結要素の締結故障により同時に固定されてしまう故障のことである。よって、インターロック状態故障が発生すると、走行時にあっては急激に駆動輪を固定する力が作用するため、車体減速度等の監視によって検出可能である。
ニュートラル状態故障とは、入力軸Inputの回転が指令変速段において締結しなければならない締結要素が大幅に滑る、もしくは解放故障により出力軸Outputに伝達されない故障のことである。よって、ニュートラル状態故障が発生すると、走行時にあっては入力軸Inputの回転数に対する出力軸Outputの回転数が非常に小さくなり、実ギヤ比(=入力回転/出力回転)が指令変速段に応じたギヤ比よりも異常に大きくなることを監視することで検出可能である。
ギア比異常故障とは、入力軸Inputと出力軸Outputの入出力比を表す実ギヤ比が、指令変速段において締結しなければならない締結要素のわずかな滑りや、指令変速段において締結してはいけない締結要素の締結故障、もしくは解放故障により、指令変速段に応じたギヤ比から所定値以上ずれてしまう故障のことである。
尚、実施例1の「締結故障」とは、解放指令を出力しているにもかかわらず、締結状態のままとなる故障、言い換えると完全解放にならない状態の故障を表し、「解放故障」とは、締結指令を出力しているにもかかわらず解放したままとなる故障、言い換えると完全締結にならない状態の故障を表す。また、ソレノイドなどの断線、短絡といった電気的故障により発生する故障は電流値などを測定すれば検知可能であるため、特に故障を実際の現象から検知する必要がないため含まない。例えば、油圧回路内でコンタミ等の影響によりバルブが引っ掛かる状態、所謂バルブスティック等により発生する故障を表すものとする。バルブスティック等は実際に自動変速機内で発生する現象から論理的に推定する以外に検知できないからである。
そこで、インターロック状態故障、ニュートラル状態故障、ギヤ比異常故障を特定し、インターロック状態故障のときは、回避変速段に変速させると共に、異常箇所を特定し、駆動力を確保可能な変速制御を実施することとした。尚、回避変速段とは、故障を検知することにより行われる制御で達成する変速段を指すものであり、故障検知から車両停止までの一時的な変速段のみならず、再発進後の変速段も含むものである。以下、この故障検出処理について説明する。
図11は故障検出処理を表すフローチャートである。尚、この処理はATCU20において予め設定された制御周期毎に実行されているものとする。
ステップS1では、異常検出制御処理を実行する。異常検出制御処理とは、自動変速機に発生する異常が、インターロック状態故障によるものか、ギヤ比異常故障によるものか、ニュートラル状態故障によるものかを判断する制御をいう。詳細については後述する。
ステップS2では、異常検出制御処理により異常有りと判断されたときは、ステップS3へ進み、それ以外のときはステップS1に戻り異常検出制御処理を繰り返す。
ステップS3では、回避変速段制御を実行する。回避変速段制御とは、異常が検出された指令変速段では駆動力を確保した走行を維持できない、あるいは安全性を損なう虞があることに鑑み、異常状態を回避しつつ、駆動力を確保可能な変速段に一時的に変速させる制御をいう。詳細については後述する。
ステップS4では、車両が停止したかどうかを判断し、車両停止したときはステップS5へ進み、それ以外のときはステップS3を繰り返す。言い換えると、回避変速制御により達成された回避変速段を維持した状態を車両停止時まで継続する。
ステップS5では、車両停止後の再発進時に探り制御処理を実行する。探り制御とは、異常検出制御処理により検出された異常部位を特定するために、特定の指令変速段を出力する制御をいう。上記異常が発生し、回避変速段制御を実行している際、十分に時間を確保できれば故障部位を特定できないことはない。しかしながら、急停止時等に故障が発生した場合、故障部位を特定する前に車両が停止することが考えられ、車両停止状態では実ギヤ比等に基づく特定が困難となるため、車両停止後の再発進時に故障部位の確定を行うものである。詳細については後述する。
ステップS6では、異常時変速制御処理を実行する。異常時変速制御処理とは、上記各ステップによって特定された故障箇所等に応じて、正常な締結要素のみを用いて、もしくは締結故障した場合であれば、その締結を利用してある程度の変速段を確保し、この変速段により走行性を確保する制御をいう。詳細については後述する。
〔異常検出制御処理〕
次に、ステップS1において実行する異常検出制御処理について説明する。図12は異常検出制御処理を表すフローチャートである。
ステップ101では、インヒビタスイッチ信号が通常前進走行レンジ又はエンジンブレーキレンジかどうかを判断し、通常前進走行レンジ又はエンジンブレーキレンジのときはステップ102へ進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。
ステップ102では、フットブレーキが非作動時(例えばフットブレーキOFF)状態で、かつ、車両の加速度Gが設定値未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ103へ進み、それ以外のときはステップ106へ進む。すなわち、インターロック状態故障が発生した場合には、車両の加速度Gが急激に低下することを検出するものである。
ステップ103では、タイマtのカウントアップを実行する。
ステップ104では、タイマtのカウント値が設定値よりも大きいかどうかを判断し、大きいときはステップ107へ進み、それ以外のときはステップ102へ戻り、ステップ102以降を繰り返す。タイマtのカウント値が設定値よりも大きいときは、継続的に上記条件を満たす状態が発生しているためフェールと判断する。一方、ノイズ等の影響により一時的に条件を満たすような場合を排除している。
ステップ105では、インターロック状態故障と判定する。
ステップ106では、タイマtを0にリセットする。
ステップ107では、実ギヤ比がギヤ比異常判定域に存在するかどうかを判断し、存在するときはステップ108へ進み、それ以外のときはステップ111へ進む。尚、ギヤ比異常判定域とは、図17に示すように指令変速段に応じたギヤ比に対し実ギヤ比が大きくなる領域、及び一変速段程度小さくなる領域を表す。図17は、指令変速段と、その指令変速段において故障が発生した場合に達成しうる変速段との関係を表す図である。図17中、○で示すのが指令変速段に応じた実ギヤ比であり、☆で示すのが、指令変速段において1つの締結要素の締結故障もしくは解放故障によって達成しうる実ギヤ比である。また、図17中、斜線領域がニュートラル状態故障を表す。
ステップ108では、タイマtをカウントアップする。
ステップ109では、タイマtのカウント値が設定値よりも大きいかどうかを判断し、大きいときはステップ110へ進み、それ以外のときはステップ107へ戻り、ステップ107以降を繰り返す。尚、この作用はステップ104と同様であるため説明を省略する。
ステップ110では、ギヤ比異常故障と判定する。
ステップ111では、タイマtを0にリセットする。
ステップ112では、実ギヤ比がニュートラル状態故障を表す領域かどうかを判断し、その領域のときはステップ113へ進み、それ以外のときはステップ102へ戻り、ステップ102以降を繰り返す。尚、ニュートラル状態故障を表す領域とは、図17に示すように、指示変速段に応じたギヤ比に対して一段程度小さい変速段のギヤ比よりも大きな領域であり、図中斜線領域で表す。
ステップ113では、タイマtをカウントアップする。
ステップ114では、タイマtのカウント値が設定値よりも大きいかどうかを判断し、大きいときはステップ110へ進み、それ以外のときはステップ107へ戻り、ステップ107以降を繰り返す。尚、この作用はステップ104と同様であるため説明を省略する。
ステップ115では、ニュートラル状態故障と判定する。
上記異常検出制御処理により、インターロック状態故障、ギヤ比異常故障、ニュートラル状態故障を検出することができる。
〔インターロック状態故障時回避変速段制御処理〕
次に、上記制御フローによりインターロック状態故障と判定された場合の回避変速段制御フローについて説明する。図13はインターロック状態故障と判定された場合の回避変速段制御処理を表すフローチャートである。
〔1速,2速,3速時回避変速段制御処理〕
ステップ201では、インターロック状態検出時の指令変速段が1速,2速,3速のいずれかかどうかを判断し、1速,2速,3速のときはステップ202へ進み、それ以外のときはステップ206へ進む。
ステップ202では、全締結要素を解放する。
ステップ203では、車速が低車速を表す設定値未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ204へ進み、それ以外のときは本ステップを繰り返す。
ステップ204では、ローブレーキB2を締結する。
ステップ205では、回避変速段に変速する。
〔締結故障箇所特定処理〕
ステップ2051では、実ギヤ比を検出する。
ステップ2052では、実ギヤ比が2速かどうかを判断し、2速のときはステップ2053に進み、それ以外のときはステップ2054に進む。
ステップ2053では、2346ブレーキB3が締結故障と特定する。
ステップ2054では、実ギヤ比が1.5速かどうかを判断し、1.5速のときはステップ2055へ進み、それ以外のときはステップ2056へ進む。
ステップ2055では、ダイレクトクラッチC2が締結故障と特定する。
ステップ2056では、エンジンブレーキが作用しているかどうかを判断し、エンジンブレーキ作用時はステップ2057へ進み、それ以外のときはステップ2058へ進む。
ステップ2057では、H&LRクラッチC3が締結故障と特定する。
ステップ2058では、フロントブレーキB1が締結故障と特定する。
〔4速時回避変速段制御処理〕
ステップ206では、インターロック状態検出時の指令変速段が4速かどうかを判断し、4速のときはステップ207へ進み、それ以外のときはステップ208へ進む。
ステップ207では、2346ブレーキB3を解放する。
〔締結故障箇所特定処理〕
ステップ2071では、実ギヤ比を検出する。
ステップ2072では、実ギヤ比が5速かどうかを判断し、5速のときはステップ2074に進み、それ以外のときはステップ2073に進む。
ステップ2073では、フロントブレーキB1が締結故障と特定する。
ステップ2074では、インプットクラッチC1が締結故障と特定する。
〔5速時回避変速段制御処理〕
ステップ208では、インターロック状態検出時の指令変速段が5速かどうかを判断し、5速のときはステップ209へ進み、それ以外のときはステップ210へ進む。
ステップ209では、ダイレクトクラッチC2を解放する。
〔締結故障箇所特定処理〕
ステップ2091では、実ギヤ比を検出する。
ステップ2092では、実ギヤ比が6速かどうかを判断し、6速のときはステップ2094に進み、それ以外のときはステップ2093に進む。
ステップ2093では、フロントブレーキB1が締結故障と特定する。
ステップ2094では、2346ブレーキB3が締結故障と特定する。
〔6速時回避変速段制御処理〕
ステップ210では、インターロック状態検出時の指令変速段が6速かどうかを判断し、6速のときはステップ211へ進み、それ以外のときはステップ212へ進む。
ステップ211では、2346ブレーキB3を解放する。
〔締結故障箇所特定処理〕
ステップ2111では、実ギヤ比を検出する。
ステップ2112では、実ギヤ比が5速かどうかを判断し、5速のときはステップ2114に進み、それ以外のときはステップ2113に進む。
ステップ2113では、フロントブレーキB1が締結故障と特定する。
ステップ2114では、ダイレクトクラッチC2が締結故障と特定する。
〔7速時回避変速段制御処理〕
ステップ212では、インターロック状態検出時の指令変速段が7速と判断し、フロントブレーキB1を解放する。
〔締結故障箇所特定処理〕
ステップ2121では、実ギヤ比を検出する。
ステップ2122では、実ギヤ比が6速かどうかを判断し、6速のときはステップ2124に進み、それ以外のときはステップ2123に進む。
ステップ2123では、ダイレクトクラッチC2が締結故障と特定する。
ステップ2124では、2346ブレーキB3が締結故障と特定する。
次に、回避変速段制御処理の作用について説明する。実施例1の自動変速機において、4つの締結要素が同時に締結すると、インターロック状態となる。正常な締結要素が3つのとき、他の締結要素が1つ締結故障することでインターロック状態が発生するため、正常な3つの締結要素のうち、どれか1つを解放すると、インターロック状態を回避しつつ駆動力を確保できる。以下、この論理に沿って説明する。
尚、インプットクラッチC1は、1速,2速,3速では第1切換弁SV1により機械的に油路が遮断されており締結故障することはないため、1速,2速,3速に関してはインプットクラッチC1の締結故障について排除して検討する。同様にリバースブレーキB4も第4切換弁SV4により機械的に油路が遮断されており締結故障することはないため、リバースブレーキB4の締結故障について排除して検討する。
(i)インターロック状態検出時指令変速段が1速,2速,3速のとき
1速,2速,3速においてインターロック状態が発生するのは、H&LRクラッチC3の締結故障、フロントブレーキB1の締結故障、2346ブレーキの締結故障、ダイレクトクラッチC2の締結故障により発生する。このとき、ローブレーキB2以外を全て解放することで、ローブレーキB2と締結故障した締結要素の2つにより回避変速段を確保可能である。
具体的には、1速,2速,3速において常にローブレーキB2が締結しているため、某かの締結要素に締結故障が発生した場合、ローブレーキB2のみ締結を維持し、他の締結要素を解放することで、1速,1.5速,2速のいずれかの変速段を達成できる。尚、1.5速とは図19の共線図に示すように、第1ワンウェイクラッチF1とダイレクトクラッチC2とローブレーキB2の締結により達成される変速段である。
図14は指令変速段に対し締結故障した要素と、解放した締結要素との関係において達成される変速段の相関を表す図である。図14に示すように、2346ブレーキB3とローブレーキB2との締結によりエンジンブレーキ非作用の2速を達成する。また、H&LRクラッチC3とローブレーキB2との締結によりエンジンブレーキ作用の1速を達成する。また、ダイレクトクラッチC2とローブレーキB2との締結によりエンジンブレーキ作用の1.5速を達成する。また、フロントブレーキB1とローブレーキB2との締結によりエンジンブレーキ非作用の1速を達成する。
しかしながら、ローブレーキB2を締結したまま正常な締結要素を全て解放すると、ダウンシフトを伴うと共に、エンジンブレーキが作用する場合がある。そこで、車速Vspが急激なエンジンブレーキ作用を発生する虞のある設定値以上のときは、全ての締結要素に解放指令を出力し、車速Vspが設定値未満となってからローブレーキB2を締結することで、急激なエンジンブレーキ作用等を発生させることなく駆動力を確保することとした。
ローブレーキB2締結後、実ギヤ比を検出すると、図14に示すように、1速,1.5速,2速のいずれかのギヤ比を達成しているはずである。よって、実ギヤ比を検出し、その実ギヤ比がどの変速段と相関を有しているかを判断することで、故障箇所を特定することができる。尚、フロントブレーキB1とH&LRクラッチC3については、エンジンブレーキが発生しているかどうかを検出しなければ特定できないため、エンブレの有無を判断した。具体的には、アクセルオフ時のエンジン回転数変化等から検出すればよい。
(ii)インターロック状態検出時指令変速段が4速のとき
4速においてインターロック状態が発生するのは、インプットクラッチC1の締結故障、フロントブレーキB1の締結故障により発生する。4速では、インプットクラッチC1もしくはフロントブレーキB1のどちらが締結故障した場合であっても、2346ブレーキB3を解放することで、大幅なダウンシフト変速を伴わない回避変速段を達成可能である。具体的には、インプットクラッチC1の締結故障のときに2346ブレーキB3を解放することで5速を達成し、フロントブレーキB1の締結故障のときに2346ブレーキB3を解放することで2.5速を達成する。尚、2.5速とは図20の共線図に示すように、フロントブレーキB1(第1ワンウェイクラッチF1)とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3の締結により達成される変速段である。よって、インターロック状態検出時指令変速段が4速のときは、2346ブレーキB3を解放することで、回避変速段を達成させるようにした。
2346ブレーキB3解放後、実ギヤ比を検出すると、図14に示すように、5速,2.5速のいずれかのギヤ比を達成しているはずである。よって、実ギヤ比を検出し、その実ギヤ比がどの変速段と相関を有しているかを判断することで、故障箇所を特定することができる。
(iii)インターロック状態検出時指令変速段が5速のとき
5速においてインターロック状態が発生するのは、2346ブレーキB3の締結故障、フロントブレーキB1の締結故障により発生する。5速では、2346ブレーキB3もしくはフロントブレーキB1のどちらが締結故障した場合であっても、ダイレクトクラッチC2を解放することで、大幅なダウンシフトを伴わない回避変速段を達成可能である。具体的には、2346ブレーキB3締結故障のときにダイレクトクラッチC2を解放することで6速を達成し、フロントブレーキB1の締結故障のときにダイレクトクラッチC2を解放することで2.5速を達成する。よって、インターロック状態検出時指令変速段が5速のときには、ダイレクトクラッチC2を解放することで、回避変速段を達成させるようにした。
ダイレクトクラッチC2解放後、実ギヤ比を検出すると、図14に示すように、6速,7速のいずれかのギヤ比を達成しているはずである。よって、実ギヤ比を検出し、その実ギヤ比がどの変速段と相関を有しているかを判断することで、故障箇所を特定することができる。
(iv)インターロック状態検出時指令変速段が6速のとき
6速においてインターロック状態が発生するのは、ダイレクトクラッチC2の締結故障、フロントブレーキB1の締結故障により発生する。6速では、ダイレクトクラッチC2もしくはフロントブレーキB1のどちらが締結故障した場合であっても、2346ブレーキB3を解放することで、大幅なダウンシフトを伴わない回避変速段を達成可能である。具体的には、ダイレクトクラッチC2締結故障のときに2346ブレーキB3を解放することで5速を達成し、フロントブレーキB1の締結故障のときに2346ブレーキB3を解放することで7速を達成する。よって、インターロック状態検出時指令変速段が6速のときには、2346ブレーキB3を解放することで、回避変速段を達成させるようにした。
2346ブレーキB3解放後、実ギヤ比を検出すると、図14に示すように、5速,7速のいずれかのギヤ比を達成しているはずである。よって、実ギヤ比を検出し、その実ギヤ比がどの変速段と相関を有しているかを判断することで、故障箇所を特定することができる。
(v)インターロック状態検出時指令変速段が7速のとき
7速においてインターロック状態が発生するのは、2346ブレーキB3の締結故障、ダイレクトクラッチC2の締結故障により発生する。7速では、2346ブレーキB3もしくはダイレクトクラッチC2のどちらが締結故障した場合であっても、フロントブレーキB1を解放することで、大幅なダウンシフトを伴わない回避変速段を達成可能である。具体的には、2346ブレーキB3の締結故障のときにフロントブレーキB1を解放することで6速を達成し、ダイレクトクラッチC2の締結故障のときにフロントブレーキB1を解放することで5速を達成する。よって、インターロック状態検出時指令変速段が7速のときには、フロントブレーキB1を解放することで、回避変速段を達成させるようにした。
フロントブレーキB1解放後、実ギヤ比を検出すると、図14に示すように、5速,6速のいずれかのギヤ比を達成しているはずである。よって、実ギヤ比を検出し、その実ギヤ比がどの変速段と相関を有しているかを判断することで、故障箇所を特定することができる。
上記(i)〜(v)において説明したように、1速,2速,3速では、一旦全ての締結要素に解放指令を出力した後にローブレーキB2を締結することで回避変速段を達成し、4速,5速,6速,7速では各変速段に応じた締結要素を解放することで回避変速段を達成することとした。このような切り分けを可能としたのは、第1切換弁SV1によりローブレーキB2とインプットクラッチC1の同時締結を機械的に排除している点が挙げられる。
ローブレーキB2は1速,2速,3速でのみ締結し、インプットクラッチC1は5速〜7速でのみ締結する。4速,5速,6速,7速においてローブレーキB2の締結故障の可能性を排除できなければ、ローブレーキB2の締結故障が発生した場合、1つの締結要素を解放したとしても、大幅なダウンシフトを伴う変速段を達成する虞がある。これに対し、実施例1では、4速,5速,6速,7速においてローブレーキB2の締結故障の可能性を第1切換弁SV1により排除することで、1つの締結要素を解放するのみで大幅なダウンシフトを発生することのない回避変速段を達成することができる。
尚、1速,2速,3速の間では、ダウンシフトが発生したとしても大幅な変速段にダウンシフトすることはあり得ない。また、一旦全ての締結要素を解放した後、車速Vspが設定値未満となって初めてローブレーキB2を締結するように構成しているため、エンジンブレーキの作用に伴い駆動輪に急激な制動力を発生することを防止することができる。
また、インターロック状態発生時には、複数の締結要素を操作せず、1つの締結要素のみを操作している。複数の締結要素を締結・解放制御することで他の回避変速段を達成できる可能性は残されているが、締結・解放タイミングによっては、大幅なダウンシフトを伴う変速段を経由して大幅なダウンシフトを伴わない変速段に至る可能性があり好ましくない。また、インターロック状態という急激な減速下であり一刻も早く回避したいこと、しかも故障状態において複雑な制御は困難である点からも、1つの締結要素のみを解放するのみで回避変速段を達成することで回避変速段制御処理のロバスト性を向上できるという効果が得られる。
また、1速,2速,3速にあってはローブレーキB2締結後、4速,5速,6速,7速にあっては締結要素解放後の実ギヤ比から締結故障した締結要素を特定することが可能となり、例えば、この締結故障した締結要素を利用した変速段内で適宜変速制御を達成することができる。これにより、インターロック状態故障が発生したとしても、駆動力確保による走行性の向上を図ることができる。
〔ギヤ比異常故障時回避変速段制御処理〕
次に、ギヤ比異常故障が検出された場合の回避変速段制御処理について説明する。ギヤ比異常には、締結要素の若干の滑り等によって実ギヤ比が指令変速段に応じたギヤ比からずれる場合と、締結要素の締結故障により入力軸がインターロック状態し、出力軸がニュートラル状態となることで実ギヤ比がずれる場合とが存在するため、それらを分けて説明する。
(入力軸インターロック状態、かつ、出力軸ニュートラル状態について)
次に、実施例1において入力軸がインターロック状態し、かつ、出力軸がニュートラル状態となる場合について説明する。図15はエンジンブレーキレンジ位置選択中の1速走行時に2346ブレーキB3に締結故障が発生した場合の共線図の変化を表す図である。
尚、図15中、第1遊星ギヤセットGS1を表す剛体レバーをL1とし、第2遊星ギヤセットGS2を表す剛体レバーをL2とし、第3遊星ギヤG3の剛体レバーをL23とし、第4遊星ギヤG4の剛体レバーをL24として定義する。ここで、剛体レバーとは、遊星歯車の各回転要素(サンギヤ、キャリヤ、リングギヤ)の回転速度比を直線で表したものであり、トルクの入出力に関しても同時に表現可能としている。図15中、太線矢印はトルクの入出力方向を表す。また、実線は正常時、太い点線は故障時を表している。
エンジンブレーキレンジ位置選択中の1速走行時は、フロントブレーキB1が締結し、H&LRクラッチC3が締結し、ローブレーキB2が締結した状態である。このとき、入力軸Inputに図15中上向きのトルクが作用すると、フロントブレーキB1において上向きのトルクが作用し、第1リングギヤR1及び第2キャリヤPC2には下向きのトルクが作用する。そして、第1遊星ギヤセットGS1から出力された下向きのトルクは、第2遊星ギヤセットGS2の第4リングギヤR4に上向きのトルクとして入力される。第2遊星ギヤセットGS2では、ローブレーキB2において上向きのトルクが作用し、出力軸Outputから下向きのトルクが出力される。
この状態で、2346ブレーキB3に締結故障が発生すると、剛体レバーL1には、第1及び第2サンギヤS1,S2の回転数を0に引き上げる力が作用する。ただし、フロントブレーキB1が締結しているため、この締結点を中心に回転し、第1遊星ギヤセットGS1の全ての回転要素の回転数を0に引き下げることとなる(入力軸インターロック状態)。
すると、第1連結メンバM1を介して接続された第2遊星ギヤセットGS2の第4リングギヤR4の回転数も引き下げられる。このとき、第4遊星ギヤG4は、ローブレーキB2に固定された第3サンギヤS3に対して第2ワンウェイクラッチF2を介して接続されているのみであるため、第4キャリヤPC4を中心に剛体レバーL24は回転することとなる。
一方、第2遊星ギヤセットGS2を構成する第3遊星ギヤG3は、ローブレーキB2と出力軸Outputにより回転数が規定されているものの、第4遊星ギヤG4の第4キャリヤPC4から第3リングギヤR3への反力を得られず、ニュートラル状態となる。
よって、運転者がアクセルペダルを踏み込んでも入力軸インターロック状態によってエンジン回転数が上昇しにくくなる一方、車速(出力軸回転)は通常のインターロック状態と異なり、急減速など発生せずに、惰性走行状態となる。
図16は2速走行時にフロントブレーキB1に締結故障が発生した場合の共線図の変化を表す図である。
2速走行時は、2346ブレーキB3が締結し、H&LRクラッチC3が締結し、ローブレーキB2が締結した状態である。このとき、入力軸Inputに図16中上向きのトルクが作用すると、2346ブレーキB3において上向きのトルクが作用し、第1リングギヤR1及び第2キャリヤPC2には下向きのトルクが作用する。そして、第1遊星ギヤセットGS1から出力された下向きのトルクは、第2遊星ギヤセットGS2の第4リングギヤR4に上向きのトルクとして入力される。第2遊星ギヤセットGS2では、ローブレーキB2において上向きのトルクが作用し、出力軸Outputから下向きのトルクが出力される。
この状態で、フロントブレーキB1に締結故障が発生すると、剛体レバーL1には、第1キャリヤPC1の回転数を0に引き下げる力が作用する。ただし、2346ブレーキB3が締結しているため、この締結点を中心に回転し、第1遊星ギヤセットGS1の全ての回転要素の回転数を0に引き下げることとなる(入力軸インターロック状態)。
すると、第1連結メンバM1を介して接続された第2遊星ギヤセットGS2の第4リングギヤR4の回転数も引き下げられる。このとき、第4遊星ギヤG4は、ローブレーキB2に固定された第3サンギヤS3に対して第2ワンウェイクラッチF2を介して接続されているのみであり、第4キャリヤPC4を中心に剛体レバーL24は回転することとなる。
一方、第2遊星ギヤセットGS2を構成する第3遊星ギヤG3は、ローブレーキB2と出力軸Outputにより回転数が規定されているものの、第4遊星ギヤG4の第4キャリヤPC4から第3リングギヤR3への反力を得られず、ニュートラル状態となる(出力軸ニュートラル)。
よって、運転者がアクセルペダルを踏み込んでも入力軸インターロック状態によってエンジン回転数が上昇しにくくなる一方、車速(出力軸回転)は通常のインターロック状態と異なり、急減速など発生せずに、惰性走行状態となる。
上述したように、実施例1の自動変速機の場合、エンジンブレーキレンジ位置を選択中の1速走行時に2346ブレーキB3に締結故障が発生した場合、及びレンジ位置に関係なく2速走行時にフロントブレーキB1に締結故障が発生した場合に、入力軸インターロック状態、かつ、出力軸ニュートラル状態となる場合が存在する。このため、ギヤ比が大きくなった場合に異常と判定するような従来技術では検知自体困難である。ちなみに、入力軸インターロック状態で出力軸ニュートラル状態の場合、実ギヤ比は小さくなる。
また、現変速段と実ギヤ比とのずれから故障判定した場合、何らかの故障が発生したことは判定できるものの、どのような故障なのかを特定することは考慮されていないため、全ての故障を考慮してそれらの故障全てにおいて安全となるようなフェールセーフ制御を行わざるを得ず、その結果、フェール時に選択できる変速段などが限られてしまい、故障時に走行性能が大幅に悪化するという問題がある。
また、上記のような故障を判定するために、各摩擦要素の油圧回路に油圧が供給されたかどうかを検知する油圧スイッチを設けることも考えられるが、油路のレイアウトが複雑になり、また、バルブの大型化、部品点数の増加等の問題は避けられない。
尚、実施例1の自動変速機では、第1切換弁SV1によりローブレーキB2とインプットクラッチC1が両方同時に締結する状態は機械的に排除されているため、ローブレーキB2とインプットクラッチC1とは必ず同時に締結しないことを前提に記載する。
指令変速段において某かの締結要素の締結故障や解放故障が発生した場合に達成し得る変速段の場合、締結要素の滑りによってニュートラル状態故障が発生している訳ではない。そこで、図17に示すように、各指令変速段に対し、締結要素の滑りによってのみ実現する実ギヤ比領域を斜線で示すニュートラル状態故障領域とした。尚、実施例1の自動変速機では、6速や7速では締結故障や解放故障によって他の変速段を達成することはないため、一段下のギヤ比より大きなギヤ比の領域をニュートラル状態故障領域とした。また、それ以外の領域であって指令変速段に対応していないギヤ比の領域をギヤ比異常判定域とした。
この場合、実ギヤ比が斜線領域に存在すればニュートラル状態故障であると確定することができる。しかしながら、実ギヤ比を監視した結果、実ギヤ比がギヤ比異常判定域であって、指令変速段に応じたギヤ比よりも大きくなる異常の場合、駆動力を確保できる異常の場合と駆動力を確保できない異常の場合がそれぞれ含まれることとなる。特に、上述したように、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障の場合、実ギヤ比は大きくなるためニュートラル状態故障とは判定されない。
そこで、インターロック状態故障、ニュートラル状態故障、ギヤ比異常故障を特定し、更に、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障が発生しうる1速と2速では、確実に故障を回避可能な変速段に変速させることとした。
〔ギヤ比異常と判定された場合の変速制御〕
次に、上記制御フローによりギヤ比異常と判定された場合の変速制御フローについて説明する。図18はギヤ比異常と判定された場合の変速制御処理を表すフローチャートである。
ステップ301では、ギヤ比異常を検知したときの指令変速段がエンジンブレーキレンジ位置選択中の1速かどうかを判断し、1速のときはステップ302へ進み、それ以外のときはステップ303へ進む。
ステップ302では、回避変速段として3速指令を出力する。尚、回避変速段については後述する。
ステップ303では、ギヤ比異常を検知したときの指令変速段が2速かどうかを判断し、2速のときはステップ303へ進み、それ以外のときはステップ304へ進む。
ステップ304では、回避変速段として2.5速指令を出力する。尚、回避変速段については後述する。
ステップ305では、指令変速段を固定し、車両停止まで変速を禁止する。基本的に1速,2速以外の変速段においてギヤ比異常が検出されたときは、入力軸インターロック状態、出力軸ニュートラル状態の故障ではないため、駆動力が確保された状態であり、変速を禁止することで、走行性を確保することができるからである。
次に、上記制御処理の作用について説明する。ステップ106〜ステップ110に進むときは、基本的にインターロック状態故障ではないと判断されており、また、ステップ107においてニュートラル状態故障でもないことが判明している。このとき、実ギヤ比が図17に示すギヤ比異常判定域に存在する場合、下記に示す場合が想定される。
(具体例1)
エンジンブレーキレンジ位置選択中の1速締結指令時において、ダイレクトクラッチC2が締結故障すると、図19の共線図太線に示すように、第4遊星ギヤG4が一体に回転し、1.5速を達成しうる。また、図15の共線図に示すように、2346ブレーキB3の締結故障により入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障が発生しうる。
単にダイレクトクラッチC2の締結故障により1.5速を達成しているのであれば、駆動力を確保しているため特に大きな問題はないが、2346ブレーキB3の締結故障の場合、駆動力を確保できていないため、問題となる。すなわち、実施例1の自動変速機では、油圧スイッチ等を設けていないため、具体的にどの締結要素に油圧が供給された状態で異常が発生しているかを特定することができない。よって、何れの異常が発生した場合であっても、確実に回避する必要がある。
このとき、両故障ともギヤ比異常判定域に属しているため、どちらの故障が発生したとしても達成可能な変速段であって、急激なダウンシフトを伴うことなく駆動力を確保可能な回避変速段として3速に変速させる。3速では、2346ブレーキB3及びダイレクトクラッチC2の両方を締結する変速段であるからである。
これにより、ギヤ比異常が検知されたとしても、回避変速段として3速に変速させることで、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障を回避しつつ、駆動力確保により走行性を向上することができる。
(具体例2)
2速指令時において、ダイレクトクラッチC2が締結故障すると、図20の共線図太点線に示すように、第4遊星ギヤG4が一体に回転し、3速を達成しうる。また、2346ブレーキB3が解放故障すると、図20の共線図太点線に示すように、1速を達成しうる。また、図16の共線図に示すように、フロントブレーキB1の締結故障により入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障が発生しうる。
単にダイレクトクラッチC2の締結故障により3速を達成し、もしくは、2346ブレーキB3の解放故障により1速を達成しているのであれば、駆動力を確保しているため特に大きな問題はないが、フロントブレーキB1の締結故障により1速もしくは3速近傍のギヤ比を達成している場合、駆動力を確保できていないため、問題となる。
すなわち、実施例1の自動変速機では、油圧スイッチ等を設けていないため、具体的にどの締結要素に油圧が供給された状態で異常が発生しているかを特定することができない。よって、何れの異常が発生した場合であっても、確実に回避する必要がある。
このとき、上記いずれの故障もギヤ比異常判定域に属しているため、どの故障が発生したとしても達成可能な変速段であって、急激なダウンシフトを伴うことなく駆動力を確保可能な回避変速段として2.5速に変速させる。具体的には、図20の太線で示すように、フロントブレーキB1とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3を締結する。すなわち、ダイレクトクラッチC2の締結故障、2346ブレーキB3の解放故障、フロントブレーキB1の締結故障のいずれの場合であっても、ダイレクトクラッチC2とフロントブレーキB1とH&LRクラッチC3を締結することで達成できる変速段だからである。
これにより、ギヤ比異常が検知されたとしても、回避変速段として正常時には使用しない変速段である2.5速に変速させることで、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障を回避しつつ、駆動力確保により走行性を向上することができる。
〔ニュートラル状態故障時回避変速段制御処理〕
次に、ニュートラル状態故障が検出されたときの回避変速段制御処理について説明する。図12のフローチャートにおいて説明したように、実ギヤ比がニュートラル状態判定領域のときはニュートラル状態故障と判定される。以下、各指令変速段毎におけるニュートラル状態故障及び回避変速段について説明する。図21はニュートラル状態故障時回避変速段制御処理を表すフローチャートである。
(指令変速段が1速,2速,3速の場合)
ステップ401では、指令変速段が1速,2速,3速かどうかを判断し、1速,2速,3速のときはステップ402へ進み、それ以外のときはステップ403へ進む。
すなわち、指令変速段が1速の場合、フロントブレーキB1は第1ワンウェイクラッチF1の作用により滑ることはない。また、H&LRクラッチC3が滑っていたとしても、ローブレーキB2が締結していれば滑ることはない。よって、この場合にニュートラル状態故障となるのは、ローブレーキB2が滑った場合のみである。
次に、指令変速段が2速の場合、図17の斜線領域に示すように1速よりもギヤ比が大きくなったときにニュートラル状態故障と判定している。仮に2346ブレーキB3が滑っている場合、第1ワンウェイクラッチF1の作用によって1速よりもギヤ比が小さくなることはあり得ない。よって、この場合にニュートラル状態故障となるのは、ローブレーキB2が滑った場合のみである。
次に、指令変速段が3速の場合、図17の斜線領域に示すように1.5速よりもギヤ比が大きくなったときにニュートラル状態故障と判定している。仮にダイレクトクラッチC2が滑っている場合は2速を達成するのみであり、1.5速よりもギヤ比が小さくなることはあり得ない。次に、2346ブレーキB3が滑っている場合、図19に示すように1.5速を達成するのみであり、1.5速よりもギヤ比が小さくなることはあり得ない。よって、この場合にニュートラル状態故障となるのは、ローブレーキB2が滑った場合のみである。
以上の観点から、1速,2速,3速においてニュートラル状態故障が検出されたときは、ローブレーキB2の滑りと特定可能である。よって、このときは、ローブレーキB2を使用しない最低変速段である4速を回避変速段として使用する。
(指令変速段が4速の場合)
ステップ403では、指令変速段が4速かどうかを判断し、4速のときはステップ404へ進み、それ以外のときはステップ407へ進む。
ステップ404では、車速Vspが設定値Vsp0未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ406へ進み、それ以外のときはステップ405へ進む。
ステップ405では、ニュートラル状態とする。
ステップ406では、指令変速段を2速とする。
指令変速段が4速の場合、図17の斜線領域に示すように2.5速よりもギヤ比が小さくなったときにニュートラル状態故障と判定している。仮に2346ブレーキB3が滑っている場合は第1ワンウェイクラッチF1が作用するため、図20に示すように2.5速を達成するのみであり、2.5速よりもギヤ比が小さくなることはあり得ない。次に、ダイレクトクラッチC2が滑っている場合とH&LRクラッチC3が滑っている場合については、どちらが滑ったとしても、2.5速よりもギヤ比が小さくなることが起こり得る。
よって、ダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3のどちらかに特定することができない。よって、このときは、一旦ニュートラル状態とする。そして、車速Vspが低下し、回転メンバの過回転等の可能性が排除された段階で、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3の両方の締結を必要としない2速を回避変速段として使用する。
(指令変速段が5速の場合)
ステップ407では、指令変速段が5速かどうかを判断し、5速のときはステップ408へ進み、それ以外のときはステップ415へ進む。
ステップ408では、故障箇所がH&LRクラッチC3かどうかを判断し、H&LRクラッチC3のときはステップ409へ進み、それ以外のときはステップ412へ進む。
ステップ409では、車速Vspが設定値Vsp0未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ410へ進みそれ以外のときはステップ411へ進む。
ステップ410では、指令変速段として3速指令を出力する。
ステップ411では、ニュートラル状態とする。
ステップ412では、車速Vspが設定値Vsp0未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ414へ進み、それ以外のときはステップ413へ進む。
ステップ413では、指令変速段として6速指令を出力する。
ステップ414では、指令変速段として2速指令を出力する。
指令変速段が5速の場合、図17の斜線領域に示すように2.5速よりもギヤ比が小さくなったときにニュートラル状態故障と判定している。仮にインプットクラッチC1が滑っている場合は図20に示すように2.5速を達成するのみであり、2.5速よりもギヤ比が小さくなることはあり得ない。次に、ダイレクトクラッチC2が滑っている場合は、図22に示すように第3リングギヤR3及び第4キャリヤPC4を中心に剛体レバーL2が回転可能となるため2.5速よりもギヤ比が小さくなることがあり得る。同様に、H&LRクラッチC3が滑っている場合は、図23に示すように第3リングギヤR3及び第4キャリヤPC4を中心に剛体レバーL23が回転可能となるため2.5速よりもギヤ比が小さくなることがあり得る。尚、このとき剛体レバーL24は水平状態を保つ。
ここで、図22と図23に示すように、同じニュートラル状態故障であっても、第4リングギヤR4の回転数の上昇の仕方が異なる。よって、第1タービン回転数センサ3と第2タービン回転数センサ4との回転数差からダイレクトクラッチC2の故障なのか、それともH&LRクラッチC3の故障なのかを特定することができる。
H&LRクラッチC3故障の場合は、他の変速段への回避ができないため、ニュートラル状態とし、車速Vspが設定値Vsp0を下回った段階で、H&LRクラッチC3を使用しない変速段である3速に回避する。
一方、ダイレクトクラッチC2故障の場合は、2346ブレーキB3の締結により6速への回避が可能であるため、6速へ回避し、車速Vspが設定値Vsp0を下回った段階で、ダイレクトクラッチC2を使用しない変速段である2速に回避する。
(指令変速段が6速の場合)
ステップ415では、指令変速段が6速かどうかを判断し、6速のときはステップ416へ進み、それ以外のときはステップ423へ進む。
ステップ416では、故障箇所が2346ブレーキB3かどうかを判断し、2346ブレーキB3のときはステップ420へ進み、それ以外のときはステップ417へ進む。
ステップ417では、車速Vspが設定値Vsp0未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ419へ進みそれ以外のときはステップ418へ進む。
ステップ418では、指令変速段として7速指令を出力する。
ステップ419では、指令変速段として2.5速指令を出力する。
ステップ420では、車速Vspが設定値Vsp0未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ422へ進み、それ以外のときはステップ421へ進む。
ステップ421では、ニュートラル状態とする。
ステップ422では、指令変速段として3速指令を出力する。
指令変速段が6速の場合、図17の斜線領域に示すように5速よりもギヤ比が小さくなったときにニュートラル状態故障と判定している。仮に2346ブレーキB3が滑っている場合は図24に示すように剛体レバーL1が入力軸Inputを中心に回転し、それに伴って剛体レバーL2が第3リングギヤR3及び第4キャリヤPC4を中心に回転するため、5速よりもギヤ比が小さくなることがあり得る。
次に、インプットクラッチC1が滑っている場合は、図25に示すように第4リングギヤR4を中心に剛体レバーL2が回転可能となるため5速よりもギヤ比が小さくなることがあり得る。同様に、H&LRクラッチC3が滑っている場合は、図26に示すように第3リングギヤR3及び第4キャリヤPC4を中心に剛体レバーL23が回転可能となるため5速よりもギヤ比が小さくなることがあり得る。尚、このとき剛体レバーL24は6速時の傾きを保つ。
ここで、図24と図25,図26に示すように、同じニュートラル状態故障であっても、剛体レバーL1の動きが全く異なる。よって、第1タービン回転数センサ3と第2タービン回転数センサ4との回転数差から2346ブレーキB3の故障なのか、それ以外の故障なのかを特定することができる。
2346ブレーキB3故障の場合は、フロントブレーキB1の締結により7速への回避が可能であるため、7速へ回避し、車速Vspが設定値Vsp0を下回った段階で、図20に示すように2346ブレーキB3を使用しない変速段である2.5速に回避する。
一方、2346ブレーキB3以外の故障の場合は、回避可能な変速段がないためニュートラル状態とし、車速Vspが設定値Vsp0を下回った段階で、インプットクラッチC1とH&LRクラッチC3を使用しない変速段である3速に回避する。
(指令変速段が7速の場合)
ステップ423では、故障箇所がフロントブレーキB3かどうかを判断し、フロントブレーキB1のときはステップ424へ進み、それ以外のときはステップ427へ進む。
ステップ424では、車速Vspが設定値Vsp0未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ425へ進みそれ以外のときはステップ426へ進む。
ステップ425では、指令変速段として6速指令を出力する。
ステップ426では、指令変速段として3速指令を出力する。
ステップ427では、車速Vspが設定値Vsp0未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ429へ進み、それ以外のときはステップ428へ進む。
ステップ428では、ニュートラル状態とする。
ステップ429では、指令変速段として3速指令を出力する。
指令変速段が7速の場合、図17の斜線領域に示すように6速よりもギヤ比が小さくなったときにニュートラル状態故障と判定している。仮にフロントブレーキB1が滑っている場合は図27に示すように剛体レバーL1が入力軸Inputを中心に回転し、それに伴って剛体レバーL2が第3リングギヤR3及び第4キャリヤPC4を中心に回転するため、5速よりもギヤ比が小さくなることがあり得る。
次に、インプットクラッチC1が滑っている場合は、図28に示すように第4リングギヤR4を中心に剛体レバーL2が回転可能となるため5速よりもギヤ比が小さくなることがあり得る。同様に、H&LRクラッチC3が滑っている場合は、図29に示すように第3リングギヤR3及び第4キャリヤPC4を中心に剛体レバーL23が回転可能となるため5速よりもギヤ比が小さくなることがあり得る。尚、このとき剛体レバーL24は7速時の傾きを保つ。
ここで、図27と図28,図29に示すように、同じニュートラル状態故障であっても、剛体レバーL1の動きが全く異なる。よって、第1タービン回転数センサ3と第2タービン回転数センサ4との回転数差からフロントブレーキB1の故障なのか、それ以外の故障なのかを特定することができる。
フロントブレーキB1故障の場合は、2346ブレーキB3の締結により6速への回避が可能であるため、6速へ回避し、車速Vspが設定値Vsp0を下回った段階で、フロントブレーキB1を使用しない変速段である3速に回避する。
一方、フロントブレーキB1以外の故障の場合は、回避可能な変速段がないためニュートラル状態とし、車速Vspが設定値Vsp0を下回った段階で、インプットクラッチC1とH&LRクラッチC3を使用しない変速段である3速に回避する。
以上説明したように、ニュートラル状態故障時には、正常時に実行する締結・解放制御則では使用しない回避変速段(2.5速)を含めて使用することで、変速制御の幅を広げることが可能となり、走行性を確保することができる。
尚、予め上記論理に基づいてマップ等を搭載し、そのマップに、故障検出時の状態と相関を有する回避変速段が設定しておいてもよい。
〔探り制御処理及び異常時変速制御処理〕
次に、探り制御処理及び探り制御により特定された故障原因に基づいた異常時変速制御処理について説明する。尚、この制御処理は、上記回避変速段制御処理を行った後、車両が一旦停止し、その後の再発進時に実行されるため、某かの締結要素が締結故障していることが前提である。また、異常時変速制御処理とは、通常の変速制御処理に使用する変速マップ等とは異なるロジックで変速制御が成されるものであり、本実施例では、故障した締結要素毎に予め三つの回避変速段が設定されており、この三つの変速段の間を車速をパラメータにして変速制御を行うものである。
図30は探り制御処理及び異常時変速制御処理を表すフローチャートである。
ステップ500では、ニュートラル状態故障が発生したのかどうかを判断し、ニュートラル状態故障が発生していた場合にはステップ502へ進み、それ以外の故障が発生していたときはステップ501へ進む。
ステップ501では、図13に示す故障箇所特定処理によって、既に故障した締結要素が特定できているか否か判定する。なお、本ステップは省略してもよい。故障した締結要素が特定済みのときはステップ524へ進み、故障締結要素に応じた異常時変速制御を実行する。特定されていないときはステップ506へ進む。尚、ステップ524において実行される異常時変速制御とは、故障時には、締結故障した締結要素毎に予め決まられた3つの変速段の間を変速させる異常時変速制御である。なお、故障した締結要素毎の異常時変速制御の詳細内容は、後述するステップ508、510、516、522、523と同様であり、本ステップでの説明は省略する。
ステップ502では、1速,2速,3速でニュートラル状態故障が発生したのかどうかを判断し、1速,2速,3速でニュートラル状態故障が発生していたときにはステップ503へ進む。
ステップ503では、4速,5速,6速を回避変速段として選択し、異常時変速制御処理を実行する。すなわち、ニュートラル状態故障において説明したように、指令変速段が1速,2速,3速のときにニュートラル状態故障が発生した場合というのは、ローブレーキB2の解放故障であると特定できている。よって、このときは、ローブレーキB2を使用しない変速段である4速,5速,6速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。
ステップ504では、7速でニュートラル状態故障が発生したのかどうかを判断し、7速でニュートラル状態故障が発生していたときにはステップ505へ進み、それ以外のときはステップ506へ進む。
ステップ505では、1速,2速,3速を回避変速段として選択し、異常時変速制御を実行する。すなわち、ニュートラル状態故障において説明したように、指令変速段が7速のときにニュートラル状態故障が発生した場合というのは、フロントブレーキB1、インプットクラッチC1、H&LRクラッチC3のいずれかが滑っているときに発生する。そこで、いずれの締結要素の締結も必要としない(エンジンブレーキは非作用)1速,2速,3速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。
ステップ506では、指令変速段として1速(エンジンブレーキ非作用)を指令する。
ステップ507では、実ギヤ比が1.5速相当かどうかを判断し、1.5速のときはステップ508へ進み、それ以外のときはステップ509へ進む。
ステップ508では、3速,4速,5速を回避変速段として選択し、異常時変速制御を実行する。すなわち、1.5速を達成しているとは、図19に示すように、ローブレーキB2と第1ワンウェイクラッチF1とダイレクトクラッチC2の締結により達成される。指令変速段が1速であるため、締結要素としてはローブレーキB2にのみ出力されていることから、ダイレクトクラッチC2の締結故障と判断できる。ダイレクトクラッチC2が締結したままの変速を可能とするのは3速,4速,5速である。よって、3速,4速,5速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。
ステップ509では、実ギヤ比が2速相当かどうかを判断し、2速の時はステップ510へ進み、それ以外のときはステップ511へ進む。
ステップ510では、2速,3速,4速を回避変速段として選択し、異常時変速制御を実行する。すなわち、2速を達成しているとは、図9の共線図に示すように、ローブレーキB2と2346ブレーキB3の締結により達成される。指令変速段が1速であるため、締結要素としてはローブレーキB2にのみ出力されていることから、2346ブレーキB3の締結故障と判断できる。2346ブレーキB3が締結したままの変速を可能とするのは、2速,3速,4速,6速である。異常時変速制御では概ね3変速段程度を確保できればよいことから、2速,3速,4速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。
ステップ511では、車速Vspが予め設定された第1設定値Vsp1より大きいかどうかを判断し、大きいときはステップ512へ進み、それ以外のときはステップ506〜509を繰り返す。この1速の指令は故障箇所を特定するための変速指令であるため、例えば10km/hといった第1設定値Vsp1に適宜設定しておけば十分に検出可能である。
ステップ512では、指令変速段として2速(エンジンブレーキ非作用)を指令する。
ステップ513では、実ギヤ比が1速相当かどうかを判断し、1速のときはステップ514へ進み、それ以外のときはステップ515へ進む。
ステップ514では、1速,2.5速,5速を回避変速段として選択し、異常時変速制御を実行する。すなわち、1速を達成しているとは、図9の共線図に示すように、ローブレーキB2の締結により達成される。指令変速段が2速であるため、締結要素としてはローブレーキB2と2346ブレーキB3に出力されていることから、2346ブレーキB3の解放故障と判断できる。2346ブレーキB3の締結を必要としない変速を可能とするのは、1速,2.5速,5速,7速である。異常時変速制御では概ね3変速段程度を確保できればよいことから、1速,2.5速,5速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。尚、この場合、変速制御は通常の変速制御では使用しない変速段である2.5速を使用することで、走行性を確保している。
ステップ515では、実ギヤ比が2速相当かどうかを判断し、2速のときはステップ517へ進み、それ以外のときはステップ516へ進む。
ステップ516では、1速,2.5速,7速を回避変速段として選択し、異常時変速制御を実行する。すなわち、1速でも2速でもないギヤ比を達成しているとは、図16の共線図に示すように、フロントブレーキB1と2346ブレーキB3の両方が締結し、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態の状態と考えられる。指令変速段が2速であるため、締結要素としてはローブレーキB2と2346ブレーキB3に出力されていることから、フロントブレーキB1の締結故障と判断できる。フロントブレーキB1を締結したままで変速を可能とするのは、1速,2.5速,7速である。よって、1速,2.5速,7速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。尚、この場合、変速制御は通常の変速制御では使用しない変速段である2.5速を使用することで、走行性を確保している。
ステップ517では、車速Vspが予め設定された第2設定値Vsp2より大きいかどうかを判断し、大きいときはステップ518へ進み、それ以外のときはステップ512〜ステップ517を繰り返す。このステップの考え方はステップ511と同じであるため説明を省略する。
ステップ518では、指令変速段として3速を指令する。
ステップ519では、実ギヤ比が2速相当かどうかを判断し、2速のときはステップ520へ進み、それ以外のときはステップ521へ進む。
ステップ520では、1速,2速,6速を回避変速段として選択し、異常時変速制御を実行する。すなわち、2速を達成しているとは、図9の共線図に示すように、ローブレーキB2と2346ブレーキB3の締結により達成される。指令変速段が3速であるため、締結要素としてはローブレーキB2と2346ブレーキB3とダイレクトクラッチC3に出力されていることから、ダイレクトクラッチC3の解放故障と判断できる。ダイレクトクラッチC3の締結を必要としない変速を可能とするのは、1速,2速,6速,7速である。異常時変速制御では概ね3変速段程度を確保できればよいことから、1速,2速,6速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。
ステップ521では、実ギヤ比が3速相当かどうかを判断し、3速のときはステップ523へ進み、それ以外のときはステップ522へ進む。
ステップ522では、1速,2速,2.5速を回避変速段として選択し、異常時変速制御を実行する。すなわち、2速でも3速でもないギヤ比を達成しているとは、3速におけるニュートラル状態故障はステップ502で排除されているためインターロック状態によるギヤ比異常が発生していると考えられる。3速でインターロック状態が発生するのはフロントブレーキB1の締結故障及びH&LRクラッチC3の締結故障が考えられる。しかしながら、既にステップ516においてフロントブレーキB1の締結故障は排除されているため、H&LRクラッチC3の締結故障と判断できる。
H&LRクラッチC3の締結を維持した状態で変速を可能とするのは、1速,2速,4速,5速,6速,7速及び2.5速である。異常時変速制御では概ね3変速段程度を確保できればよいことから、1速,2速,2.5速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。
ステップ523では、1速,2速,3速を回避変速段として選択し、異常時変速制御を実行する。すなわち、上記各ステップにより、ローブレーキB2の締結・解放故障、ダイレクトクラッチC2の締結・解放故障、2346ブレーキB3の締結・解放故障、フロントブレーキB1の締結故障、及びH&LRクラッチC3の締結故障の可能性は全て排除されている。よって、どの締結要素にどのような故障が発生しているかの全てにおいて特定はできていないものの、1速,2速,3速を達成するときには支障を来さない。よって、1速,2速,3速を用いて異常時変速制御を実行することで、駆動力確保により走行性を向上することができる。
基本的に、インターロック状態検出後、締結要素を解放したときに達成するギヤ段の実ギヤ比を検出しているため、この段階でどの締結要素が締結故障したかを特定している。しかしながら、例えばフルブレーキングにより駆動輪がロックされた場合のように、急制動時にインターロック状態が検出されると、実ギヤ比を検出する前に駆動輪が停止すると、実ギヤ比を検出できない虞がある。よって、ステップ501において特定できていないと判断された場合には、確実に締結故障した締結要素を確定するために、車両停止後の再発進時に探り制御処理が実行される。
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)締結要素の1つが故障したときは、この時点の指令変速段を達成する締結要素の1つを解放し、指令変速段と実ギヤ比との相関に、正常時に実行する締結・解放制御則では使用しない変速段(2.5速)を含む回避変速段を達成することとした。よって、締結故障箇所を特定後、幅広い変速段を達成することが可能となり、走行性を確保することができる。
(2)故障検出時の指令変速段と実ギヤ比との関係により表される故障状態との相関に基づいて回避変速段を設定した。具体的には、図13,図18,図21に示すフローチャートに示す論理を有することとした。また、この相関を有する回避変速段は、正常時において実行する締結・解放制御則では使用しない変速段(2.5速)を含むこととした。よって、油圧スイッチ等の構成を設けることなく、既存の回転数センサ等を用いて締結故障箇所を特定することが可能となり、コストアップや構成の増加に伴う大型化等を回避することができる。
(他の実施例)
実施例1では、ステップ2056においてエンブレの有無に基づいてフロントブレーキB1とH&LRクラッチC3の特定を行う構成としたが、この構成を特に見分けることなく、両方を使用する変速段を用いて適宜異常時変速制御を実行する構成としても良い。