図1は実施例1のFR型の前進7速後退1速を達成する自動変速機の構成を表すスケルトン図及び自動変速機の制御構成を表す全体システム図である。実施例1の自動変速機は、エンジンEg(特許請求の範囲に記載の動力源に相当)に対し、ロックアップクラッチLUCが装着されたトルクコンバータTCを介して接続されている。エンジンEgから出力された回転は、トルクコンバータTCのポンプインペラ及びオイルポンプOPを回転駆動する。このポンプインペラの回転により攪拌されたオイルはステータを介してタービンランナに伝達され、入力軸Input(特許請求の範囲に記載の第1入力回転要素に相当)を駆動する。
また、エンジンEgの駆動状態を制御するエンジンコントローラ(ECU)10と、自動変速機の変速状態等を制御する自動変速機コントローラ(ATCU)20と、ATCU20の出力信号に基づいて各締結要素の油圧制御を実行するコントロールバルブユニットCVUが設けられている。ATCU20及びコントロールバルブユニットCVUが変速制御手段に相当する。尚、ECU10とATCU20とは、CAN通信線等を介して接続され、相互にセンサ情報や制御情報を通信により共有している。
ECU10には、運転者のアクセルペダル操作量を検出するAPOセンサ1と、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ2が接続されている。ECU10は、エンジン回転数やアクセルペダル操作量に基づいて燃料噴射量やスロットル開度を制御し、エンジン出力回転数及びエンジントルクを制御する。
ATCU20には、後述する第1キャリヤPC1の回転数を検出する第1タービン回転数センサ3と、第1リングギヤR1の回転数を検出する第2タービン回転数センサ4と、出力軸Output(特許請求の範囲に記載の第2出力回転要素に相当)の回転数を検出する出力軸回転数センサ5と、運転者のシフトレバー操作状態を検出するインヒビタスイッチ6が接続されており、シフトレバーはP,R,N,Dの他にエンジンブレーキが作用するエンジンブレーキレンジ位置とエンジンブレーキが作用しない通常前進走行レンジ位置とを備える。
ATCU20内では、入力軸Inputの回転数を演算する回転数算出部と共に、正常時には車速Vspとアクセルペダル開度APOに基づいて、後述する前進7速段の変速マップから最適な指令変速段を選択し、コントロールバルブユニットCVUに指令変速段を達成する制御指令を出力する変速制御部が設けられている。尚、回転数算出部の構成については後述する。
(自動変速機の構成について)
次に、自動変速機の構成について説明する。入力軸Input側から軸方向出力軸Output側に向けて、第1遊星ギヤセットGS1(第1遊星ギヤG1,第2遊星ギヤG2:特許請求の範囲に記載の第1遊星歯車列に相当),第2遊星ギヤセットGS2(第3遊星ギヤG3及び第4遊星ギヤG4:特許請求の範囲に記載の第2遊星歯車列に相当)の順に配置されている。また、摩擦締結要素として複数のクラッチC1,C2,C3及びブレーキB1,B2,B3,B4が配置されている。また、複数のワンウェイクラッチF1,F2が配置されている。
第1遊星ギヤG1は、第1サンギヤS1と、第1リングギヤR1と、両ギヤS1,R1に噛み合う第1ピニオンP1を支持する第1キャリヤPC1(特許請求の範囲に記載の第1回転要素に相当)と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
第2遊星ギヤG2は、第2サンギヤS2と、第2リングギヤR2と、両ギヤS2,R2に噛み合う第2ピニオンP2を支持する第2キャリヤPC2と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
第3遊星ギヤG3は、第3サンギヤS3と、第3リングギヤR3と、両ギヤS3,R3に噛み合う第3ピニオンP3を支持する第3キャリヤPC3と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
第4遊星ギヤG4は、第4サンギヤS4(特許請求の範囲に記載の第3回転要素に相当)と、第4リングギヤR4と、両ギヤS4,R4に噛み合う第4ピニオンP4を支持する第4キャリヤPC4と、を有するシングルピニオン型遊星ギヤである。
入力軸Inputは、第2リングギヤR2に連結され、エンジンEgからの回転駆動力を、トルクコンバータTC等を介して入力する。
出力軸Outputは、第3キャリヤPC3に連結され、出力回転駆動力を図外のファイナルギヤ等を介して駆動輪に伝達する。
第1連結メンバM1(特許請求の範囲に記載の第1出力回転要素,第2入力回転要素に相当)は、第1リングギヤR1と第2キャリヤPC2と第4リングギヤR4とを一体的に連結するメンバである。
第2連結メンバM2は、第3リングギヤR3と第4キャリヤPC4とを一体的に連結するメンバである。
第3連結メンバM3(特許請求の範囲に記載の第2回転要素に相当)は、第1サンギヤS1と第2サンギヤS2とを一体的に連結するメンバである。
第1遊星ギヤセットGS1は、第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2とを、第1連結メンバM1と第3連結メンバM3により連結して構成し、4つの回転要素から構成している。また、第2遊星ギヤセットGS2は、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4とを、第2連結メンバM2により連結して5つの回転要素から構成している。
第1遊星ギヤセットGS1は、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力されるトルク入力経路を有する。第1遊星ギヤセットGS1に入力されたトルクは、第1連結メンバM1から第2遊星ギヤセットGS2に出力される。
第2遊星ギヤセットGS2は、入力軸Inputから第2連結メンバM2に入力されるトルク入力経路と、第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に入力されるトルク入力経路を有する。第2遊星ギヤセットGS2に入力されたトルクは、第3キャリヤPC3から出力軸Outputに出力される。
尚、H&LRクラッチC3が解放され、第3サンギヤS3よりも第4サンギヤS4の回転数が大きい時は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4は独立した回転数を発生する。よって、第3遊星ギヤG3と第4遊星ギヤG4が第2連結メンバM2を介して接続された構成となり、それぞれの遊星ギヤが独立したギヤ比を達成する。
インプットクラッチC1は、入力軸Inputと第2連結メンバM2とを選択的に断接するクラッチである。
ダイレクトクラッチC2は、第4サンギヤS4と第4キャリヤPC4とを選択的に断接するクラッチである。
H&LRクラッチC3は、第3サンギヤS3と第4サンギヤS4とを選択的に断接するクラッチである。尚、第3サンギヤS3と第4サンギヤの間には、第2ワンウェイクラッチF2(特許請求の範囲に記載のワンウェイクラッチに相当)が配置されている。
フロントブレーキB1(特許請求の範囲に記載の第1ブレーキに相当)は、第1キャリヤPC1の回転を選択的に停止させるブレーキである。また、第1ワンウェイクラッチF1は、フロントブレーキB1と並列に配置されている。
ローブレーキB2は、第3サンギヤS3の回転を選択的に停止させるブレーキである。
2346ブレーキB3(特許請求の範囲に記載の第2ブレーキに相当)は、第3連結メンバM3(第1サンギヤS1及び第2サンギヤS2)の回転を選択的に停止させるブレーキである。
リバースブレーキB4は、第4キャリヤPC4の回転を選択的に停止させるブレーキである。
(タービン回転数演算について)
入力軸Inputは第2リングギヤR2に連結され、更に第1遊星ギヤG1と第2遊星ギヤG2は2つの回転要素が連結された第1遊星ギヤセットGS1を構成していることに着目し、ATCU20内に設けられた回転数算出部において、2つのタービン回転数センサ3,4を用いて入力軸Inputの回転数を計算により検出している。
具体的には、第1キャリヤPC1の回転数をN(PC1),第2キャリヤPC2の回転数をN(PC2),第2リングギヤR2の回転数をN(R2)とし、図9の共線図に示すように、第2リングギヤR2と第2キャリヤPC2(第1リングギヤR1)のギヤ比を1とし、第1リングギヤR1(第2キャリヤPC2)と第1キャリヤPC1のギヤ比をβとすると、下記式、
N(R2)=(1+1/β)N(PC2)−(1/β)・N(PC1)
により算出される。
第1タービン回転数センサ3は第2キャリヤPC2の回転数を検出し、第2タービン回転数センサ4は第1キャリヤPC1に連結されたタービンセンサ用メンバとしてのセンサ用部材63の回転数を検出する。これにより、第2リングギヤR2(入力軸Input)の回転数(以下、タービン回転数と記載する)を上記式に基づいて計算により検出する。
(コントロールバルブユニットの構成について)
図2はコントロールバルブユニットCVUの油圧回路を表す回路図である。以下、回路構成について説明する。実施例1の油圧回路には、エンジンにより駆動された油圧源としてのオイルポンプOPと、運転者のシフトレバー操作と連動して、ライン圧PLを供給する油路を切り換えるマニュアルバルブMVと、ライン圧を所定の一定圧に減圧するパイロットバルブPVが設けられている。
また、ローブレーキB2の締結圧を調圧する第1調圧弁CV1と、インプットクラッチC1の締結圧を調圧する第2調圧弁CV2と、フロントブレーキB1の締結圧を調圧する第3調圧弁CV3と、H&RLクラッチC3の締結圧を調圧する第4調圧弁CV4と、2346ブレーキB3の締結圧を調圧する第5調圧弁CV5と、ダイレクトクラッチC2の締結圧を調圧する第6調圧弁CV6が設けられている。
また、ローブレーキB2とインプットクラッチC1の供給油路をどちらか一方のみ連通する状態に切り換える第1切換弁SV1と、ダイレクトクラッチC2に対しDレンジ圧とRレンジ圧の供給油路をどちらか一方のみ連通する状態に切り換える第2切換弁SV2と、リバースブレーキB4に対して供給する油圧を第6調圧弁CV6からの供給油圧とRレンジ圧からの供給油圧との間で切り換える第3切換弁SV3と、第6調圧弁CV6から出力された油圧を油路123と油路122との間で切り換える第4切換弁SV4が設けられている。
また、自動変速機コントロールユニット20からの制御信号に基づいて、第1調圧弁CV1に対し調圧信号を出力する第1ソレノイドバルブSOL1と、第2調圧弁CV2に対し調圧信号を出力する第2ソレノイドバルブSOL2と、第3調圧弁CV3に対し調圧信号を出力する第3ソレノイドバルブSOL3と、第4調圧弁CV4に対し調圧信号を出力する第4ソレノイドバルブSOL4と、第5調圧弁CV5に対し調圧信号を出力する第5ソレノイドバルブSOL5と、第6調圧弁CV6に対し調圧信号を出力する第6ソレノイドバルブSOL6と、第1切換弁SV1及び第3切換弁SV3に対し切り換え信号を出力する第7ソレノイドバルブSOL7が設けられている。
上記各ソレノイドバルブSOL2,SOL5,SOL6は三つのポートを有する三方比例電磁弁であり、第1のポートは後述するパイロット圧が導入され、第2のポートはドレーン油路に接続され、第3のポートはそれぞれ調圧弁もしくは切換弁の受圧部に接続されている。また、上記各ソレノイドバルブSOL1,SOL3,SOL4は2つのポートを有する二方比例電磁弁、ソレノイドバルブSOL7は三つのポートを備える三方オンオフ電磁弁である。
また、第1ソレノイドバルブSOL1と第3ソレノイドバルブSOL3と第7ソレノイドバルブSOL7はノーマルクローズタイプ(非通電時に閉じた状態)とされている。一方、第2ソレノイドバルブSOL2と第4ソレノイドバルブSOL4と第5ソレノイドバルブSOL5と第6ソレノイドバルブSOL6はノーマルオープンタイプ(非通電時に開いた状態)とされている。
(油路構成について)
エンジンにより駆動されるオイルポンプOPの吐出圧は、ライン圧に調圧された後、油路101及び油路102に供給される。油路101には、運転者のシフトレバー操作に連動して作動するマニュアルバルブMVと接続された油路101aと、フロントブレーキB1の締結圧の元圧を供給する油路101bと、H&LRクラッチC3の締結圧の元圧を供給する油路101cが接続されている。
マニュアルバルブMVには、油路105と、後退走行時に選択されるRレンジ圧を供給する油路106が接続され、シフトレバー操作に応じて油路105と油路106を切り換える。
油路105には、ローブレーキB2の締結圧の元圧を供給する油路105aと、インプットクラッチC1の締結圧の元圧を供給する油路105bと、2346ブレーキB3の締結圧の元圧を供給する油路105cと、ダイレクトクラッチC2の締結圧の元圧を供給する油路105dと、後述する第2切換弁SV2の切り換え圧を供給する油路105eが接続されている。
油路106には、第2切換弁SV2の切り換え圧を供給する油路106aと、ダイレクトクラッチC2の締結圧の元圧を供給する油路106bと、リバースブレーキB4の締結圧を供給する油路106cが接続されている。
油路102には、パイロットバルブPVを介してパイロット圧を供給する油路103が接続されている。油路103には、第1ソレノイドバルブSOL1にパイロット圧を供給する油路103aと、第2ソレノイドバルブSOL2にパイロット圧を供給する油路103bと、第3ソレノイドバルブSOL3にパイロット圧を供給する油路103cと、第4ソレノイドバルブSOL4にパイロット圧を供給する油路103dと、第5ソレノイドバルブSOL5にパイロット圧を供給する油路103eと、第6ソレノイドバルブSOL6にパイロット圧を供給する油路103fと、第7ソレノイドバルブSOL7にパイロット圧を供給する油路103gとが設けられている。
図3は実施例1の調圧弁の構成を表す概略図である。第1調圧弁CV1には、油路105aが接続される第1ポートa1と、ドレーン回路に接続された第2ポートa2と、第1切換弁SV1と接続される油路115aが接続される第3ポートa3と、第1ソレノイドバルブSOL1の信号圧が供給される第4ポートa4と、この信号圧の対向圧として油路115aからフィードバックされれた油路が接続された第5ポートa5と、第4ポートに供給される油圧に対向して作用するスプリングa6が設けられている。
図3中、第1切換弁SV1が上方に移動すると油路105aと油路115aが連通され、一方、下方に移動すると油路115aとドレーンとが連通される。同様に、第2調圧弁CV2〜第6調圧弁CV6には、第1ポートa1〜第5ポートa5及びスプリングa6と同じ構成が設けられているため説明を省略する。
図4は実施例1の第1切換弁SV1の構成を表す概略図である。第1切換弁SV1には、油路115aと接続された第1ポートb1と、ドレーン回路に接続された第2ポートb2と、油路115bに接続された第3ポートb3と、ドレーン回路に接続された第4ポートb4と、ローブレーキB2へ油圧を供給する油路150aと接続された第5ポートb5と、インプットクラッチC1へ油圧を供給する油路150bと接続された第6ポートb6と、第7ソレノイドバルブSOL7の信号圧を供給する油路140bと接続された第7ポートb7と、第7ポートb7に供給される油圧に対向して作用するスプリングb8が設けられている。
図4中、第1切換弁SV1が左方に移動すると油路115aと油路150aが連通されると共に油路150bとドレーンとが連通される。一方、左方に移動すると油路150aとドレーンが連通されると共に油路115bと油路150bとが連通される。
図5は実施例1の第2切換弁SV2の構成を表す概略図である。第2切換弁SV2には、Dレンジ圧を供給する油路105dと接続された第1ポートc1と、Rレンジ圧を供給する油路106dと接続された第2ポートc2と、第6調圧弁CV6へ油圧を供給する油路120と接続された第3ポートc3と、Dレンジ圧を供給する油路105eと接続された第4ポートc4と、第4ポートc4の対向圧としてRレンジ圧を供給する油路106aと接続された第5ポートc5と、第4ポートc4に供給される油圧に対向して作用するスプリングc6が設けられている。
図5中、第2切換弁SV2が右方に移動すると油路106bと油路120が連通され、一方、左方に移動すると油路105dと油路120が連通される。
図6は実施例1の第3切換弁SV3の構成を表す概略図である。第3切換弁SV3には、第4切換弁SV4からの油圧を供給する油路122と接続された第1ポートd1と、Rレンジ圧を供給する油路106cと接続された第2ポートd2と、リバースブレーキB4に油圧を供給する油路130と接続された第3ポートd3と、第7ソレノイドバルブSOL7の信号圧を供給する油路140aと接続された第4ポートd4と、第4ポートd4に供給される油圧に対向して作用するスプリングd5が設けられている。
図6中、第3切換弁SV3が右方に移動すると油路106cと油路130が連通され、一方、左方に移動すると油路122と油路130とが連通される。
図7は実施例1の第4切換弁SV4の構成を表す概略図である。第4切換弁SV4には、第6調圧弁CV6からの油圧を供給する油路121と接続された第1ポートe1と、ドレーン回路に接続された第2ポートe2及び第3ポートe3と、Rレンジ圧が供給される第4ポートe4と、Dレンジ圧が供給される第5ポートe5と、第4ポートe4に対向して作用するスプリングe6と、油路122と接続された第7ポートe7と、油路123と接続された第8ポートe8が設けられている。
図7中、第4切換弁SV4が右方に移動すると油路121と油路123が連通されると共に油路122とドレーン回路が連通され、一方、左方に移動すると油路121と油路122が連通されると共に油路123とドレーン回路が連通される。
前記各クラッチC1,C2,C3及び各ブレーキB1,B2,B3,B4には、正常時において図7の締結作動表に示すように、前進7速後退1速の各変速段にて締結圧(○印)や解放圧(無印)が供給される。
次に、作用を説明する。
[変速作用]
図8は実施例1の自動変速機用歯車変速装置での前進7速後退1速の締結作動表を示す図、図9は実施例1の自動変速機用歯車変速装置における前進7速後退1速の各変速段でのメンバの回転停止状態を示す共線図を示す図、図10は各変速段におけるソレノイドバルブSOL1〜SOL7の作動表を表す図である。
〈1速〉
1速は、エンジンブレーキ作用時(エンジンブレーキレンジ位置選択中)とエンジンブレーキ非作用時(通常前進走行レンジ位置選択中)とで異なる締結要素が作用する。エンジンブレーキ作用時は、図8の(○)に示すように、フロントブレーキB1とローブレーキB2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。尚、フロントブレーキB1に並列に設けられた第1ワンウェイクラッチF1と、H&LRクラッチC3と並列に設けられた第2ワンウェイクラッチF2もトルク伝達に関与する。エンジンブレーキ非作用時は、フロントブレーキB1とH&LRクラッチC3は解放され、ローブレーキB2のみが締結され、第1ワンウェイクラッチF1と第2ワンウェイクラッチF2によりトルク伝達される。
この1速では、フロントブレーキB1が締結(エンジンブレーキ非作動時は第1ワンウェイクラッチF1により締結)されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第1遊星ギヤセットGS1により減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ローブレーキB2及びH&LRクラッチC3が締結(エンジンブレーキ非作動時はローブレーキB2及び第2ワンウェイクラッチF2により締結)されているため、第4リングギヤR4に入力された回転は、第2遊星ギヤセットにより減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、1速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を減速するフロントブレーキB1の締結点と、第1遊星ギヤセットGS1からの減速回転を減速するローブレーキB2の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力軸Outputから出力する。
この1速でのトルクフローは、フロントブレーキB1(もしくは第1ワンウェイクラッチF1),ローブレーキB2,H&LRクラッチC3(もしくは第2ワンウェイクラッチF2),第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1〜第3ソレノイドバルブSOL1〜SOL3及び第6及び第7ソレノイドバルブSOL6,SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオンとしているため、第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、第1調圧弁CV1とローブレーキB2を連通し、インプットクラッチC1をドレンと接続する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通されるため第6調圧弁CV6にはDレンジ圧が作用する。第6調圧弁CV6は図2中下方に移動しているため、ダイレクトクラッチC2や第4切換弁SV4にDレンジ圧が供給されることはない。
尚、第4切換弁SV4はDレンジ圧の作用により図2中右方に移動し、油路121と油路123とを連通した状態であるが締結作用には関係ない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されているため図2中左方に移動し、第1ポートd1と第3ポートd3が連通されているものの油路122には油圧が供給されていないため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈2速〉
2速は、エンジンブレーキ作用時(エンジンブレーキレンジ位置選択中)とエンジンブレーキ非作用時(通常前進走行レンジ位置選択中)とで異なる締結要素が締結する。エンジンブレーキ作用時は、図8の(○)に示すように、ローブレーキB2と2346ブレーキB3とH&LRクラッチC3との締結により得られる。尚、H&LRクラッチC3と並列に設けられた第2ワンウェイクラッチF2もトルク伝達に関与する。エンジンブレーキ非作動時は、H&LRクラッチC3は解放され、ローブレーキB2と2346ブレーキB3が締結され、第2ワンウエイクラッチF2によりトルク伝達される。
この2速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2のみにより減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ローブレーキB2及びH&LRクラッチC3が締結(エンジンブレーキ非作動時は第2ワンウェイクラッチF2により締結)されているため、第4リングギヤR4に入力された回転は、第2遊星ギヤセットにより減速され、第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、2速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を減速する2346ブレーキB3の締結点と、第2遊星ギヤG2からの減速回転を減速するローブレーキB2の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力ギヤOutputから出力する。
この2速でのトルクフローは、2346ブレーキB3,ローブレーキB2,H&LRクラッチC3(もしくは第2ワンウェイクラッチF2),第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
尚、1速から2速へのアップシフト時は、フロントブレーキB1を早めに解放し、2346ブレーキB3の締結を開始することで、2346ブレーキB3の締結容量が確保された時点で第1ワンウェイクラッチF1が解放される。よって、変速タイミングの精度の向上を図ることができるものである。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1,第2,第5〜第7ソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL5,SOL6,SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオンとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、第1調圧弁CV1とローブレーキB2を連通し、インプットクラッチC1をドレンと接続する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通されるものの、第6調圧弁CV6は図2中下方に移動しているため、ダイレクトクラッチC2や第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。
また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されているため図2中左方に移動し、第1ポートd1と第3ポートd3が連通されているものの油路122には油圧が供給されていないため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈3速〉
3速は、図8に示すように、2346ブレーキB3とローブレーキB2とダイレクトクラッチC2との締結により得られる。
この3速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2により減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ダイレクトクラッチC2が締結されているため、第4遊星ギヤG4は一体となって回転する。また、ローブレーキB2が締結されているため、第4リングギヤR4と一体に回転する第4キャリヤPC4から第2連結メンバM2を介して第3リングギヤR3に入力された回転は、第3遊星ギヤG3により減速され、第3キャリヤPC3から出力される。このように第4遊星ギヤG4はトルク伝達に関与するが減速作用には関与しない。
すなわち、3速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を減速する2346ブレーキB3の締結点と、第2遊星ギヤG2からの減速回転を減速するローブレーキB2の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力ギヤOutputから出力する。
この3速でのトルクフローは、2346ブレーキB3,ローブレーキB2,ダイレクトクラッチC2,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
尚、2速から3速へのアップシフト時は、H&LRクラッチC3を早めに解放し、ダイレクトクラッチC2の締結を開始することで、ダイレクトクラッチC2の締結容量が確保された時点で第2ワンウェイクラッチF2が解放される。よって、変速タイミングの精度の向上を図ることができるものである。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第1,第2,第4,5及び第7ソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL4,SOL5,SOL7をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオンとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、第1調圧弁CV1とローブレーキB2を連通し、インプットクラッチC1をドレンと接続する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通される。油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されているため図2中左方に移動し、第1ポートd1と第3ポートd3が連通されているものの油路122には油圧が供給されていないため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈4速〉
4速は、図8に示すように、2346ブレーキB3とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。
この4速では、2346ブレーキB3が締結されているため、入力軸Inputから第2リングギヤR2に入力された回転は、第2遊星ギヤG2のみにより減速される。この減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は一体で回転する。よって、第4リングギヤR4に入力された回転は、そのまま第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、4速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を減速する2346ブレーキB3の締結点と、第2遊星ギヤG2からの減速回転をそのまま出力するダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を減速して出力ギヤOutputから出力する。
この4速でのトルクフローは、2346ブレーキB3,ダイレクトクラッチC2,H&LRクラッチC3,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2と第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第2及び第5ソレノイドバルブSOL2,SOL5をオンとし、それ以外をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、ローブレーキB2をドレン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通される。油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、第2ポートd2と第3ポートd3が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈5速〉
5速は、図8に示すように、インプットクラッチC1とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3との締結により得られる。
この5速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2連結メンバM2に入力される。また、ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3が締結されているため、第3遊星ギヤG3は一体で回転する。よって、入力軸Inputの回転は、そのまま第3キャリヤPC3から出力される。
すなわち、5速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転をそのまま出力するインプットクラッチC1,ダイレクトクラッチC2及びH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転をそのまま出力ギヤOutputから出力する。
この5速でのトルクフローは、インプットクラッチC1,ダイレクトクラッチC2,H&LRクラッチC3,第2連結メンバM2にトルクが作用する。つまり、第3遊星ギヤG3のみがトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、全てのソレノイドバルブSOL1〜SOL7をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中右方に移動し、ローブレーキB2をドレン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通され、油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、油路106c(第2ポートd2)と油路130(第3ポートd3)が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈6速〉
6速は、図8に示すように、インプットクラッチC1とH&LRクラッチC3と2346ブレーキB3の締結により得られる。
この6速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2リングギヤに入力されると共に、第2連結メンバM2に入力される。また、2346ブレーキB3が締結されているため、第2遊星ギヤG2により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM4の回転によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、6速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を第2遊星ギヤG2により減速する2346ブレーキB3,エンジンの出力回転をそのまま第2連結メンバM2に伝達するインプットクラッチC1,第2遊星ギヤセットGS2を構成するH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を増速して出力ギヤOutputから出力する。
この6速でのトルクフローは、インプットクラッチC1,H&LRクラッチC3,2346ブレーキB3,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第2遊星ギヤG2及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第5及び第6ソレノイドバルブSOL5,SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL3,SOL4,SOL7をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中左方に移動し、ローブレーキB2をドレン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通され、油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、油路106c(第2ポートd2)と油路130(第3ポートd3)が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈7速〉
7速は、図8に示すように、インプットクラッチC1とH&LRクラッチC3とフロントブレーキB1(第1ワンウェイクラッチF1)の締結により得られる。
この7速では、インプットクラッチC1が締結されているため、入力軸Inputの回転は第2リングギヤに入力されると共に、第2連結メンバM2に入力される。また、フロントブレーキB1が締結されているため、第1遊星ギヤセットGS1により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM4の回転によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、7速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を第1遊星ギヤセットGS1により減速するフロントブレーキB1,エンジンの出力回転をそのまま第2連結メンバM2に伝達するインプットクラッチC1,第2遊星ギヤセットGS2を構成するH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を増速して出力ギヤOutputから出力する。
この7速でのトルクフローは、インプットクラッチC1,H&LRクラッチC3,フロントブレーキB1,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第3及び第6ソレノイドバルブSOL3,SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブSOL1,SOL2,SOL4,SOL5,SOL7をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。
ここで、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとしているため、このとき第1切換弁SV1は図2中右方に移動し、ローブレーキB2をドレン回路と連通し、第2調圧弁CV2とインプットクラッチC1を連通する(インターロック状態防止)。また、第2切換弁SV2には第4ポートc4にDレンジ圧が作用しているため図2中左方に移動し、第1ポートc1と第3ポートc3が連通される。第6調圧弁CV6は図2中上方に移動しているため、第4切換弁SV4に調圧された油圧が供給される。
第4切換弁SV4にはDレンジ圧が作用しているため、油路121と油路123が連通され、油路122はドレン回路と連通されているため、ダイレクトクラッチC2に油圧が供給され、一方、第3切換弁SV3に油圧が供給されることはない。また、第3切換弁SV3には第7ソレノイドバルブSOL7からポートd4に信号圧が供給されていないため図2中右方に移動し、油路106c(第2ポートd2)と油路130(第3ポートd3)が連通されているものの油路106cにはRレンジ圧が供給されていない(マニュアルバルブMVで遮断されている)ため、リバースブレーキB4に油圧が供給されることはない。
〈後退速〉
後退速は、図8に示すように、H&LRクラッチC3とフロントブレーキB1とリバースブレーキB4の締結により得られる。
この後退速では、フロントブレーキB1が締結されているため、第1遊星ギヤセットGS1により減速された回転が第1連結メンバM1から第4リングギヤR4に出力される。また、H&LRクラッチC3が締結され、リバースブレーキB4が締結されているため、第2遊星ギヤセットGS2は、第4リングギヤR4の回転と、第2連結メンバM2の固定によって規定される回転を第3キャリヤPC3から出力する。
すなわち、後退速は、図9の共線図に示すように、エンジンの出力回転を第1遊星ギヤセットGS1により減速するフロントブレーキB1,第2連結メンバM2の回転を固定するリバースブレーキB4,第2遊星ギヤセットGS2を構成するH&LRクラッチC3の締結点とを結ぶ線にて規定され、入力軸Inputから入力された回転を逆向きに減速して出力ギヤOutputから出力する。
この後退速でのトルクフローは、H&LRクラッチC3,フロントブレーキB1,リバースブレーキB4,第1連結メンバM1,第2連結メンバM2,第3連結メンバM3にトルクが作用する。つまり、第1遊星ギヤセットGS1及び第2遊星ギヤセットGS2がトルク伝達に関与する。
このとき、図10のソレノイドバルブ作動表に示すように、第2,第3及び第6ソレノイドバルブSOL2,SOL3,SOL6をオンとし、他のソレノイドバルブSOL1,SOL4,SOL5,SOL7をオフとすることで、所望の締結要素に締結圧が供給される。尚、第7ソレノイドSOL7についてはRレンジ切り換え初期はオンとし、締結完了後にオフとする。
リバースブレーキB4には、第3切換弁SV3を介してRレンジ圧が供給される。Rレンジには、専用の調圧弁を持っていないため、締結初期には、ダイレクトクラッチC2に使用していた第6調圧弁CV6を用いてリバースブレーキB4の締結圧を調圧する。まず、マニュアルバルブMVによりRレンジ圧に切り換えられると、第2切換弁SV2は図2中右方に移動し、第6調圧弁CV6にRレンジ圧が供給される。また、第4切換弁SV4は図2中左方に移動し、油路121と油路122とを連通する。これにより、第6調圧弁CV6により調圧された油圧が油路122に導入される。
この状態で第7ソレノイドバルブSOL7をオンとすると、第3切換弁SV3は図2中左方に移動し、油路122と油路130を連通する。よって、第7ソレノイドバルブSOL7がオンの間は第6調圧弁CV6により調圧された油圧によってリバースブレーキB4の締結圧を制御する。締結が完了すると、第7ソレノイドバルブSOL7をオフとする。すると、第3切換弁SV3が図2中右方に移動し、油路106cと油路130が連通されるため、Rレンジ圧がそのまま導入され、締結状態を維持する。
このように、第3切換弁SV3及び第4切換弁SV4を設けたことで、1つの調圧弁で2つの締結要素の締結圧を制御することを可能としている。
(第1切換弁の作用について)
次に、上記作用に基づいて、第1切換弁SV1の作用について説明する。第1切換弁SV1はローブレーキB2とインプットクラッチC1とが確実に同時締結しないために設けられた切換弁である。例えば、第1ソレノイドバルブSOL1と第2ソレノイドバルブSOL2が故障し、同時に締結圧を発生した場合であっても、第1切換弁SV1がどちらか一方に付勢されなければ締結要素に対して締結圧を供給することはない。よって、確実にインターロック状態を防止するものである。
また、ローブレーキB2とインプットクラッチC1は、図8の締結表及び図10のソレノイド作動表に示すように、1速から3速まではローブレーキB2が締結し、それ以外はローブレーキB2が締結することはない。一方、5速から7速まではインプットクラッチC1が締結し、それ以外はインプットクラッチC1が締結することはない。このことは、4速においてローブレーキB2もインプットクラッチC1も締結しないことを表す。
第1切換弁SV1のようなインターロック状態防止バルブを構成する場合、仮にある変速段でローブレーキB2が締結、インプットクラッチC1が解放という状態であり、ある変速段から1段アップシフトによってローブレーキB2が解放、インプットクラッチC1が締結となると、掛けかえ制御中にローブレーキB2の解放圧制御を行うと共に、インプットクラッチC1の締結圧制御を行うこととなる。すると、第1切換弁SV1の切り換えタイミングをどのタイミングにすることがベストなのかを特定するのが非常に困難である。また、両締結要素に同時に締結容量を持たせてイナーシャフェーズを進行させるような制御が不可能となる。
これに対し、第1切換弁SV1を切り換える際、4速という両締結要素が関与しない変速段が存在するため、4速走行時に第7ソレノイドバルブSOL7をオフすることで、変速制御に影響を与えることなく確実にインターロック状態を防止している。
(入力軸インターロック状態、かつ、出力軸ニュートラル状態について)
次に、実施例1において入力軸がインターロック状態であり、かつ、出力軸がニュートラル状態となる場合について説明する。図11はエンジンブレーキレンジ位置選択中の1速走行時に2346ブレーキB3に締結故障が発生した場合の共線図の変化を表す図である。
尚、図11中、第1遊星ギヤセットGS1を表す剛体レバーをL1とし、第2遊星ギヤセットGS2を表す剛体レバーをL2とし、第3遊星ギヤG3の剛体レバーをL23とし、第4遊星ギヤG4の剛体レバーをL24として定義する。ここで、剛体レバーとは、遊星歯車の各回転要素(サンギヤ、キャリヤ、リングギヤ)の回転速度比を直線で表したものであり、トルクの入出力に関しても同時に表現可能としている。図11中、太線矢印はトルクの入出力方向を表す。また、実線は正常時、太い点線は故障時を表している。
また、実施例1の「締結故障」とは、解放指令を出力しているにもかかわらず、締結状態のままとなる故障、言い換えると完全解放にならない状態の故障を表し、「解放故障」とは、締結指令を出力しているにもかかわらず、解放したままとなる故障、言い換えると完全締結にならない状態の故障を表す。また、ソレノイドなどの断線、短絡といった電気的故障により発生する故障は電流値などを測定すれば検知可能であるため、特に故障を実際の現象から検知する必要がないため含まない。よって、例えば、油圧回路内でコンタミ等の影響によりバルブが引っ掛かる状態、所謂バルブスティック等により発生する故障を表すものとする。バルブスティック等は実際に自動変速機内で発生する現象から論理的に推定する以外に検知できないからである。
エンジンブレーキレンジ位置選択中の1速走行時は、フロントブレーキB1が締結し、H&LRクラッチC3が締結し、ローブレーキB2が締結した状態である。このとき、入力軸Inputに図11中上向きのトルクが作用すると、フロントブレーキB1において上向きのトルクが作用し、第1リングギヤR1及び第2キャリヤPC2には下向きのトルクが作用する。そして、第1遊星ギヤセットGS1から出力された下向きのトルクは、第2遊星ギヤセットGS2の第4リングギヤR4に上向きのトルクとして入力される。第2遊星ギヤセットGS2では、ローブレーキB2において上向きのトルクが作用し、出力軸Outputから下向きのトルクが出力される。
この状態で、2346ブレーキB3に締結故障が発生すると、剛体レバーL1には、第1及び第2サンギヤS1,S2の回転数を0に引き上げる力が作用する。ただし、フロントブレーキB1が締結しているため、この締結点を中心に回転し、第1遊星ギヤセットGS1の全ての回転要素の回転数を0に引き下げることとなる(入力軸インターロック状態)。
すると、第1連結メンバM1を介して接続された第2遊星ギヤセットGS2の第4リングギヤR4の回転数も引き下げられる。このとき、第4遊星ギヤG4は、ローブレーキB2に固定された第3サンギヤS3に対して第2ワンウェイクラッチF2を介して接続されているのみであるため、第4キャリヤPC4を中心に剛体レバーL24は回転することとなる。
一方、第2遊星ギヤセットGS2を構成する第3遊星ギヤG3は、ローブレーキB2と出力軸Outputにより回転数が規定されているものの、第4遊星ギヤG4の第4キャリヤPC4から第3リングギヤR3への反力を得られず、ニュートラル状態となる(出力軸ニュートラル状態)。
よって、運転者がアクセルペダルを踏み込んでも入力軸インターロック状態によってエンジン回転数が上昇しにくくなる一方、車速(出力軸回転)は通常のインターロック状態と異なり、急減速など発生せずに、惰性走行状態となる。
図12は2速走行時にフロントブレーキB1に締結故障が発生した場合の共線図の変化を表す図である。
2速走行時は、2346ブレーキB3が締結し、H&LRクラッチC3が締結し、ローブレーキB2が締結した状態である。このとき、入力軸Inputに図12中上向きのトルクが作用すると、2346ブレーキB3において上向きのトルクが作用し、第1リングギヤR1及び第2キャリヤPC2には下向きのトルクが作用する。そして、第1遊星ギヤセットGS1から出力された下向きのトルクは、第2遊星ギヤセットGS2の第4リングギヤR4に上向きのトルクとして入力される。第2遊星ギヤセットGS2では、ローブレーキB2において上向きのトルクが作用し、出力軸Outputから下向きのトルクが出力される。
この状態で、フロントブレーキB1に締結故障が発生すると、剛体レバーL1には、第1キャリヤPC1の回転数を0に引き下げる力が作用する。ただし、2346ブレーキB3が締結しているため、この締結点を中心に回転し、第1遊星ギヤセットGS1の全ての回転要素の回転数を0に引き下げることとなる(入力軸インターロック状態)。
すると、第1連結メンバM1を介して接続された第2遊星ギヤセットGS2の第4リングギヤR4の回転数も引き下げられる。このとき、第4遊星ギヤG4は、ローブレーキB2に固定された第3サンギヤS3に対して第2ワンウェイクラッチF2を介して接続されているのみであり、第4キャリヤPC4を中心に剛体レバーL24は回転することとなる。
一方、第2遊星ギヤセットGS2を構成する第3遊星ギヤG3は、ローブレーキB2と出力軸Outputにより回転数が規定されているものの、第4遊星ギヤG4の第4キャリヤPC4から第3リングギヤR3への反力を得られず、ニュートラル状態となる(出力軸ニュートラル)。
よって、運転者がアクセルペダルを踏み込んでも入力軸インターロック状態によってエンジン回転数が上昇しにくくなる一方、車速(出力軸回転)は通常のインターロック状態と異なり、急減速など発生せずに、惰性走行状態となる。
上述したように、実施例1の自動変速機の場合、エンジンブレーキレンジ位置選択中の1速走行時に2346ブレーキB3に締結故障が発生した場合、及びレンジ位置に関係なく2速走行時にフロントブレーキB1に締結故障が発生した場合に、入力軸インターロック状態、かつ、出力軸ニュートラル状態となる場合が存在する。このため、従来技術において開示されている故障検知制御はいずれもギヤ比(=入力回転/出力回転)が大きくなるものであるため、上記特許文献1や特許文献2の方法では検知自体困難である。ちなみに、入力軸インターロック状態で出力軸ニュートラル状態の場合、実ギヤ比は小さくなる。
また、特許文献3のように現変速段と実ギヤ比とのずれから故障判定した場合、何らかの故障が発生したことは判定できるものの、どのような故障なのかを特定することは考慮されていないため、全ての故障を考慮してそれらの故障全てにおいて安全となるようなフェールセーフ制御を行わざるを得ず、その結果、フェール時に選択できる変速段などが限られてしまい、故障時に走行性能が大幅に悪化するという問題がある。
また、上記のような故障を判定するために、各摩擦要素の油圧回路に油圧が供給されたかどうかを検知する油圧スイッチを設けることも考えられるが、油路のレイアウトが複雑になり、また、バルブの大型化、部品点数の増加等の問題は避けられない。
ここで、自動変速機の故障において監視しなければならない故障には、通常、インターロック状態故障と、ニュートラル状態故障と、ギヤ比異常故障が挙げられる。
インターロック状態故障とは、入力軸Inputの回転と出力軸Outputの回転が某かの締結要素の締結故障により同時に固定されてしまう故障のことである。よって、インターロック状態故障が発生すると、走行時にあっては急激に駆動輪を固定する力が作用するため、車体減速度等の監視によって検知可能である。
ニュートラル状態故障とは、入力軸Inputの回転が指令変速段において締結しなければならない締結要素が大幅に滑る、もしくは解放故障により出力軸Outputに伝達されない故障のことである。よって、ニュートラル状態故障が発生すると、走行時にあっては出力軸Outputの回転数に対する入力軸Inputの回転数が非常に大きくなり、実ギヤ比(=入力回転/出力回転)が指令変速段に応じたギヤ比よりも異常に大きくなることを監視することで検知可能である。
ギア比異常故障とは、入力軸Inputと出力軸Outputの入出力比を表す実ギヤ比が、指令変速段において締結しなければならない締結要素のわずかな滑りや、指令変速段において締結してはいけない締結要素の締結故障、もしくは解放故障により、指令変速段に応じたギヤ比から所定値以上ずれてしまう故障のことである。ここで、インターロック状態故障は、駆動輪に大きな制動力が作用することによって検知できるものの、ニュートラル状態故障とギヤ比異常故障とは明確に区別する必要がある。
図13は、指令変速段と、その指令変速段において故障が発生した場合に達成しうる変速段との関係を表す図である。図13中、○で示すのが指令変速段に応じた実ギヤ比であり、☆で示すのが、指令変速段において1つの締結要素の締結故障もしくは解放故障によって達成しうる実ギヤ比である。また、図13中、斜線領域がニュートラル状態故障を表す。
尚、実施例1の自動変速機では、第1切換弁SV1によりローブレーキB2とインプットクラッチC1が両方同時に締結する状態は機械的に排除されているため、ローブレーキB2とインプットクラッチC1とは必ず同時に締結しないことを前提に記載する。
指令変速段において某かの締結要素の締結故障や解放故障が発生した場合に達成し得る変速段の場合、締結要素の滑りによってニュートラル状態故障が発生している訳ではない。そこで、各指令変速段に対し、締結要素の滑りによってのみ実現する実ギヤ比領域を斜線で示すニュートラル状態故障領域とした。尚、実施例1の自動変速機では、6速や7速では締結故障や解放故障によって他の変速段を達成することはないため、一段下のギヤ比より大きなギヤ比の領域をニュートラル状態故障領域とした。また、それ以外の領域であって指令変速段に対応していないギヤ比の領域をギヤ比異常判定域とした。
この場合、実ギヤ比が斜線領域に存在すればニュートラル状態故障であると確定することができる。しかしながら、実ギヤ比を監視した結果、実ギヤ比がギヤ比異常判定域であって、指令変速段に応じたギヤ比よりも大きくなる異常の場合、駆動力を確保できる異常の場合と駆動力を確保できない異常の場合がそれぞれ含まれることとなる。特に、上述したように、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障の場合、実ギヤ比は大きくなるためニュートラル状態故障とは判定されない。
そこで、インターロック状態故障、ニュートラル状態故障、ギヤ比異常故障を特定し、更に、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障が発生しうる1速と2速では、確実に故障を回避可能な変速段に変速させることとした。以下、この故障検知処理について説明する。
図14は故障検知処理を表すフローチャートである。尚、この処理はATCU20において予め設定された制御周期毎に実行されているものとする。
ステップ101では、インヒビタスイッチ信号が通常前進走行レンジ又はエンジンブレーキレンジかどうかを判断し、通常前進走行レンジ又はエンジンブレーキレンジのときはステップ102へ進み、それ以外のときは本制御フローを終了する。
ステップ102では、車両の加速度Gが設定値未満かどうかを判断し、設定値未満のときはステップ103へ進み、それ以外のときはステップ106へ進む。すなわち、インターロック状態故障が発生した場合には、車両の加速度Gが急激に低下することを検知するものである。
ステップ103では、タイマtのカウントアップを実行する。
ステップ104では、タイマtのカウント値が設定値よりも大きいかどうかを判断し、大きいときはステップ107へ進み、それ以外のときはステップ102へ戻り、ステップ102以降を繰り返す。タイマtのカウント値が設定値よりも大きいときは、継続的に上記条件を満たす状態が発生しているためフェールと判断する。一方、ノイズ等の影響により一時的に条件を満たすような場合を排除している。
ステップ105では、インターロック状態故障と判定する。
ステップ106では、タイマtを0にリセットする。
ステップ107では、実ギヤ比が図13に示すギヤ比異常判定域に存在するかどうかを判断し、存在するときはステップ108へ進み、それ以外のときはステップ111へ進む。
ステップ108では、タイマtをカウントアップする。
ステップ109では、タイマtのカウント値が設定値よりも大きいかどうかを判断し、大きいときはステップ110へ進み、それ以外のときはステップ107へ戻り、ステップ107以降を繰り返す。尚、この作用はステップ104と同様であるため説明を省略する。
ステップ110では、ギヤ比異常と判定する。
ステップ111では、タイマtを0にリセットする。
ステップ112では、実ギヤ比がニュートラル状態故障を表す斜線領域かどうかを判断し、斜線領域のときはステップ113へ進み、それ以外のときはステップ102へ戻り、ステップ102以降を繰り返す。
ステップ113では、タイマtをカウントアップする。
ステップ114では、タイマtのカウント値が設定値よりも大きいかどうかを判断し、大きいときはステップ110へ進み、それ以外のときはステップ107へ戻り、ステップ107以降を繰り返す。尚、この作用はステップ104と同様であるため説明を省略する。
ステップ115では、ニュートラル状態故障と判定する。
〔ギヤ比異常と判定された場合の変速制御〕
次に、上記制御フローによりギヤ比異常と判定された場合の変速制御フローについて説明する。図15はギヤ比異常と判定された場合の変速制御処理を表すフローチャートである。
ステップ201では、ギヤ比異常を検知したときの指令変速段がエンジンブレーキレンジ位置選択中の1速かどうかを判断し、1速のときはステップ202へ進み、それ以外のときはステップ203へ進む。
ステップ202では、回避変速段として3速指令を出力する。尚、回避変速段については後述する。
ステップ203では、ギヤ比異常を検知したときの指令変速段が2速かどうかを判断し、2速のときはステップ203へ進み、それ以外のときはステップ204へ進む。
ステップ204では、回避変速段として2.5速指令を出力する。尚、回避変速段については後述する。
ステップ205では、指令変速段を固定し、車両停止まで変速を禁止する。基本的に1速,2速以外の変速段においてギヤ比異常が検出されたときは、入力軸インターロック、出力軸ニュートラル故障ではないため、駆動力が確保された状態であり、変速を禁止することで、走行性を確保することができるからである。
次に、上記制御処理の作用について説明する。まず、通常前進走行レンジ又はエンジンブレーキレンジかどうかを判断したのは、Rレンジでは、油路101b,101c及びマニュアルバルブMVによって機械的に切り換えられた油路106により、ライン圧がフロントブレーキB1,H&LRクラッチC3及びリバースブレーキB4にしか供給されないように構成されているため、インターロック状態等を検知する必要がないからである。
通常前進走行レンジ又はエンジンブレーキレンジのときは、ステップ102〜ステップ104ではインターロック状態故障を検知する。具体的には、車両の前後加速度Gが所定値未満のときにインターロック状態故障を検出する。尚、車両の前後加速度Gの検出には、出力軸回転数センサ5の微分値を用いてもよいし、例えば、図示しない駆動輪に設けられた車輪速センサ等から前後加速度Gを算出しても良いし、前後加速度センサ等を備えている場合には直接センサ信号から前後加速度Gを検出してもよく、特に限定しない。
次に、説明の都合上、ステップ111〜ステップ115について説明する。尚、このステップ111〜ステップ115には、ステップ107において実ギヤ比がギヤ比異常判定域にないと判断された後に実行される。このステップ111〜ステップ115では、ニュートラル状態故障を検知する。具体的には、実ギヤ比が図13に示すニュートラル状態故障を表す斜線領域にあるかどうかによって検知する。
次に、ステップ106〜ステップ110及びステップ201〜ステップ205について説明する。ステップ106〜ステップ110に進むときは、基本的にインターロック状態故障ではないと判断されており、また、ステップ107においてニュートラル状態故障でもないことが判明している。このとき、実ギヤ比が図13に示すギヤ比異常判定域に存在する場合、下記に示す場合が想定される。
(具体例1)
エンジンブレーキレンジ位置選択中の1速締結指令時において、ダイレクトクラッチC2が締結故障すると、図16の共線図太線に示すように、第4遊星ギヤG4が一体に回転し、1.5速を達成しうる。また、図11の共線図に示すように、2346ブレーキB3の締結故障により入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障が発生しうる。
単にダイレクトクラッチC2の締結故障により1.5速を達成しているのであれば、駆動力を確保しているため特に大きな問題はないが、2346ブレーキB3の締結故障の場合、駆動力を確保できていないため、問題となる。すなわち、実施例1の自動変速機では、油圧スイッチ等を設けていないため、具体的にどの締結要素に油圧が供給された状態で異常が発生しているかを特定することができない。よって、何れの異常が発生した場合であっても、確実に回避する必要がある。
このとき、両故障ともギヤ比異常判定域に属しているため、どちらの故障が発生したとしても達成可能な変速段であって、急激なダウンシフトを伴うことなく駆動力を確保可能な回避変速段として3速に変速させる。3速では、2346ブレーキB3及びダイレクトクラッチC2の両方を締結する変速段であるからである。
これにより、ギヤ比異常が検知されたとしても、回避変速段として3速に変速させることで、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障を回避しつつ、駆動力確保により走行性を向上することができる。
(具体例2)
2速指令時において、ダイレクトクラッチC2が締結故障すると、図17の共線図太点線に示すように、第4遊星ギヤG4が一体に回転し、3速を達成しうる。また、2346ブレーキB3が解放故障すると、図17の共線図太点線に示すように、1速を達成しうる。また、図12の共線図に示すように、フロントブレーキB1の締結故障により入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障が発生しうる。
単にダイレクトクラッチC2の締結故障により3速を達成し、もしくは、2346ブレーキB3の解放故障により1速を達成しているのであれば、駆動力を確保しているため特に大きな問題はないが、フロントブレーキB1の締結故障により1速もしくは3速近傍のギヤ比を達成している場合、駆動力を確保できていないため、問題となる。
すなわち、実施例1の自動変速機では、油圧スイッチ等を設けていないため、具体的にどの締結要素に油圧が供給された状態で異常が発生しているかを特定することができない。よって、何れの異常が発生した場合であっても、確実に回避する必要がある。
このとき、上記いずれの故障もギヤ比異常判定域に属しているため、どの故障が発生したとしても達成可能な変速段であって、急激なダウンシフトを伴うことなく駆動力を確保可能な回避変速段として2.5速に変速させる。具体的には、図17の太線で示すように、フロントブレーキB1とダイレクトクラッチC2とH&LRクラッチC3を締結する。すなわち、ダイレクトクラッチC2の締結故障、2346ブレーキB3の解放故障、フロントブレーキB1の締結故障のいずれの場合であっても、ダイレクトクラッチC2とフロントブレーキB1とH&LRクラッチC3を締結することで達成できる変速段だからである。
これにより、ギヤ比異常が検知されたとしても、回避変速段として正常時には使用しない変速段である2.5速に変速させることで、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障を回避しつつ、駆動力確保により走行性を向上することができる。
以上説明したように、実施例1にあっては下記に列挙する作用効果を得ることができる。
(1)フロントブレーキB1の締結故障により第1遊星ギヤセットGS1においてインターロック状態が発生し、第2遊星ギヤセットGS2がニュートラル状態となる故障が発生し得る2速において、ギヤ比異常が検出されたときは、フロントブレーキB1が締結故障したかどうかにかかわらずフロントブレーキB1を使用し、2346ブレーキB3を解放する回避変速段に変速させることとした。
同様に、2346ブレーキB3の締結故障により第1遊星ギヤセットGS1においてインターロック状態が発生し、第2遊星ギヤセットGS2がニュートラル状態となる故障が発生し得る1速において、ギヤ比異常が検出されたときは、2346ブレーキB3が締結故障したかどうかにかかわらず2346ブレーキB3を使用し、フロントブレーキB1を解放する回避変速段に変速させることとした。
すなわち、フロントブレーキB1と2346ブレーキB3の両方が締結されることは基本的にはあり得ないが、一方が締結故障した場合は、その締結状態を利用して変速せざるを得ない。また、実際に締結故障が発生していない場合であっても、他の締結要素の締結によりギヤ比異常が発生している虞がある。このとき、油圧スイッチ等を備えていない構成では、どの締結要素に故障が発生したかを特定できないため、全ての故障を想定しなければならない。そこで、一方が締結故障したかどうかにかかわらず、締結故障と考えられるブレーキを締結し、正常と考えられる他方のブレーキを解放することで入力軸インターロック状態を回避し、更に駆動力を伝達可能な回避変速段に変速することで、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障を回避しつつ駆動力確保により走行性を向上することができる。
(2)回避変速段を達成する際、故障検知時に出力されている指令変速段において解放されている他の締結要素を締結することとした。具体的には、1速時にはダイレクトクラッチC2を締結し、2速時にはH&LRクラッチC3を締結する。
すなわち、単にどちらかのブレーキの締結故障が発生しただけならば、他の締結要素を締結する必要はない。しかしながら、1速や2速において油圧回路の機械的な構成上発生しうる他の締結故障や解放故障を考慮しなければならない。これらを考慮し、いずれの故障(1重故障)が発生したとしても、確実に駆動力確保を達成する変速段に変速させる必要がある。特に油圧スイッチ等を備えていない実施例1にあっては、全ての発生しうる故障を想定する必要がある。
その結果、指令変速段において解放されている他の締結要素を締結することで、いずれの故障が発生したとしても、確実に駆動力確保による走行性を向上することができる。
(3)回避変速段は、正常時にATCU20において実行する締結・解放制御則では使用しない変速段とした。具体的には、2速時には2.5速を回避変速段とした。
すなわち、上述したように、いずれの故障が発生したとしても、確実に駆動力確保を達成する変速段であれば、正常時に使用する変速段に限定する必要はない。そこで、通常時には使用しない変速段をも含めて回避変速段を設定することで、急激なダウンシフトや現在の指令変速段からかけ離れた変速段を選択することなく、回避変速段を得ることができる。
(4)インターロック状態故障と、ニュートラル状態故障と、ギヤ比異常故障を検出することとした。このとき、インターロック状態故障が検出されず、ニュートラル状態故障が検出されず、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障となり得る1速,2速でもなく、かつ、ギヤ比異常が検出されたときは、ATCU20による変速を禁止することとした。
すなわち、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障は、駆動力を確保できない故障であるため、回避変速段への変速が必要となる。しかしながら、入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態故障が発生しない指令変速段において、それなりに駆動力が確保されているときは、変速を禁止することで、安定した変速制御を達成できないリスクを排除することが可能となり、駆動力確保による走行性を確保することができる。
(他の実施例)
以上、各実施例に基づいて説明したが、本願発明は下記に示す構成を満たした変速機であれば適宜適用可能である。下記に各構成について分節して説明する。
構成(a)
動力源からの動力が入力される入力軸と、入力軸と連結された第1入力回転要素と、第1出力回転要素と、第1回転要素と、第2回転要素とを有する第1遊星歯車列であって、第1回転要素を選択的に停止可能な第1ブレーキと、正常時には第1ブレーキと同時締結せず、第2回転要素を選択的に停止可能な第2ブレーキ、又は前記第1遊星歯車列の2つの回転要素間に設けられたクラッチを有する。
この構成は、第1入力回転要素と第1出力回転要素がインターロック状態となる前提を表すものであり、2つのブレーキが同時に締結した場合や、第1ブレーキとクラッチが同時に締結した場合にインターロック状態が引き起こされる。ある変速段において1つのブレーキが締結しているときには、他のブレーキ又はクラッチの締結故障によりインターロック状態が発生する。また、ある変速段において両方のブレーキが解放していたとしても、2つのブレーキが締結故障した場合はインターロック状態が発生する。
構成(b)
前記第1出力回転要素と連結された第2入力回転要素と、ワンウェイクラッチにより選択的に停止される第3回転要素と、共線図上で前記第2入力回転要素とワンウェイクラッチとの間に配置された第2出力回転要素と、を有する第2遊星歯車列。
この構成は、構成(a)においてインターロック状態が発生し、第1出力回転要素の回転数が0に伴い第2入力回転要素の回転数も0となった場合であっても、図11,12の剛体レバーL24の回転において説明したように、第3回転要素はワンウェイクラッチにより係止されることなく第2出力回転要素がニュートラル状態となる前提を表すものである。
上記構成(a),(b)に示す前提を有する自動変速機では、第1もしくは第2ブレーキの締結故障により入力軸インターロック状態・出力軸ニュートラル状態という特殊な故障が発生するため、本願発明を適用することで、早期に特殊な故障を検知することができる。
また、実施例1,2では、アクセルペダル操作量APOを検出する例を示したが、エンジンEgに設けられた電子制御スロットル等からスロットル開度TVOを検出してもよい。