JP4397977B2 - 等速ジョイント用グリース組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、等速ジョイント用グリース組成物に関するものである。潤滑されるべき等速ジョイントには極めて高い面圧がかかり、またジョイントは複雑なころがりすべり運動を行うため、異常振動がしばしば発生する。従って、本発明は特に、このような等速ジョイントを効率よく潤滑し、有効に摩擦を低減して振動の発生を防止し得る等速ジョイント用グリース組成物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、このような等速ジョイントに用いられている潤滑グリースとしては、カルシウムコンプレックス石けんを増ちょう剤とするグリースや、リチウム石けんを増ちょう剤とし、例えば、硫化油脂、トリクレジルホスフェート、及びジチオリン酸亜鉛からなる群から選択された硫黄−リン系極圧剤を含有したグリースが使用されている。
【0003】
最近の自動車工業においては、軽量化かつ居住空間の確保の点から、FF車が急激に増加し、これに不可欠な等速ジョイント(CVJ)が広く用いられている。このCVJの中で、プランジング型等速ジョイント、特に、トリポード型等速ジョイント(TJ)、ダブルオフセット型等速ジョイント(DOJ)等は、ある角度の付いた状態で、回転時に複雑なころがりすべり運動を行うため、軸方向にスライド抵抗を生じ、これがアイドリング時の振動、発進及び加速時の車体の横揺れ、特定速度での車内でのビート音及び/又はこもり音の起振源となっている。この問題の解決のため、種々の等速ジョイント(CVJ)自体の構造の改良もなされているが、ジョイントの占めるスペース、重さ、及びコスト面でその改良は難しく、振動低減性能に優れたグリースが要求されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、等速ジョイントの振動を低減するグリース組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、等速ジョイントを効率よく潤滑し、有効に摩擦を低減し振動の発生を防止し得る等速ジョイント用グリース組成物を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、等速ジョイントの摩擦を低減し、振動を防止するグリース組成物の開発研究を種々行い、振動の発生し易い潤滑条件下で使用するグリースの性能評価を、振動摩擦摩耗試験機として知られるSRV(Schwingungs Reibung und Verschleiss)試験機を用いて行った。その結果、等速ジョイントを起振源とした振動と、SRV試験機で測定した特定の振動条件下の摩擦係数に特別な関係があることを見いだした。さらに、本発明者は、基グリースにウレアグリースを用いて、各種極圧剤等の様々な組み合わせについて、上述の関係を検討した。その結果、本発明者等は、基油、ウレア系増ちょう剤、モリブデンジチオカーバメート、特定のカルシウム塩、チオホスフェート、及びチオホスフェート以外の特定の硫黄−リン系極圧剤を含有するグリース組成物が、低摩擦係数の望ましい潤滑特性を示すことを見いだし、さらに、実際の等速ジョイントを用いた強制力試験においても、従来の等速ジョイント用グリースとは異なり、振動の発生を防止し得ることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明の上記目的は以下の成分(a) 〜(f) を含む等速ジョイント用グリース組成物により効果的に達成することができる。
(a) 基油、
(b) ウレア系増ちょう剤、
(c) モリブデンジチオカーバメート、
(d) 石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩、
(e) チオホスフェート、及び
(f) 硫黄の含有量が10〜40%、リンの含有量が0.5〜5%である金属を含まない、チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤。
【0007】
本発明の好ましい実施態様は、全組成物中、ウレア系増ちょう剤の含有量が1〜25重量%、モリブデンジチオカーバメートの含有量が0.1〜10重量%、カルシウム塩の含有量が0.5〜15重量%、チオホスフェートの含有量が0.1〜10重量%、チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤の含有量が0.1〜10重量%である等速ジョイント用グリース組成物である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明に使用する(a) 成分の基油としては、鉱物油、エーテル系合成油、炭化水素系合成油等の普通に使用されている潤滑油またはそれらの混合油が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
本発明に使用する(b) 成分のウレア系増ちょう剤としては、例えば、ジウレア化合物、及びポリウレア化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0009】
ジウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとモノアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、フェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネート等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、オレイルアミン、アニリン、p−トルイジン、シクロヘキシルアミン等が挙げられる。
【0010】
ポリウレア化合物は、例えば、ジイソシアネートとジアミンとの反応で得られる。ジイソシアネートとしては、ジウレア化合物の生成に用いられるものと同様のものが挙げられ、ジアミンとしては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ブタンジアミン、ヘキサンジアミン、オクタンジアミン、フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等が挙げられる。
特に好ましいウレア系増ちょう剤は、オクチルアミン、ステアリルアミン等の脂肪族系アミン、シクロヘキシルアミン、又はこれらの混合物と、ジイソシアネート化合物との反応によって得られる、ジウレア化合物である。
【0011】
本発明に使用する(c) 成分はモリブデンジチオカーバメートである。このモリブデンジチオカーバメートの好ましい例としては、下記の式(1)で表されるものが挙げられる。
(R1R2N−CS−S)2−Mo2OmSn (1)
(式中、R1 及びR2 は、独立して、炭素数1〜24、好ましくは3〜18のアルキル基を表し、mは0〜3、nは4〜1であり、m+n=4である。)
【0012】
本発明に使用する(d)成分のカルシウム塩は、エンジン油等の潤滑油に用いられる金属系清浄分散剤や防錆剤として知られている、潤滑油留分中の芳香族炭化水素成分のスルホン化によって得られる石油スルホン酸のカルシウム塩、ジノニルナフタレンスルホン酸やアルキルベンゼンスルホン酸のようなアルキル芳香族スルホン酸のような合成スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
特に好ましいのは、ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸カルシウム塩である。
【0013】
本発明に使用する(e) 成分のチオホスフェートとして好ましいものは、下記の式(2)で表されるチオホスフェートである。
(R3 O)(R4 O)P(=S)(OR5 ) (2)
(式中、R3 は炭素数1〜24のアルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基を、R4 、R5 は水素原子または炭素数1〜24のアルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基を示す。)
特に好ましいものは、R3 、R4 、R5 が炭素数12もしくは13のアルキル基であるトリアルキルチオホスフェート、トリ(アルキルフェニル)チオホスフェートである。
【0014】
本発明の(f) 成分は、亜鉛、モリブデン、アンチモン等の金属を含まない、チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤である。(f) 成分中、硫黄の含有量が10〜40%、リンの含有量を0.5〜5%に調整することにより、優れた磨耗防止性能や焼け付き防止性能を発揮させることができる。硫黄成分が上記範囲より多いとジョイントが腐食しやすくなり、リン成分が上記範囲より多いとジョイントの磨耗防止効果が十分に得られなくなる。また両者とも上記範囲より少ない場合は、磨耗防止性能や焼け付き防止性能を十分に発揮させることができない。チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤の例としては、硫黄のみを含有する硫化油脂、ポリサルファイド等と、リンのみを含有するホスフェート、ホスファイト等の混合物が挙げられる。
本発明の等速ジョイント用グリース組成物には、上記成分に加えて、酸化防止剤、防錆剤、防食剤を含有させることができる。
【0015】
本発明の等速ジョイント用グリース組成物は、好ましくは、グリース組成物の全重量に対して、(a) 成分の基油:30.0〜98.2重量%、(b) 成分のウレア系増ちょう剤:1〜25重量%、(c) 成分のモリブデンジチオカーバメート:0.1〜10重量%、(d) 成分のカルシウム塩:0.5〜15重量%、(e) 成分のチオホスフェート:0.1〜10重量%、及び(f) 成分の、チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤:0.1〜10重量%を含んでいる。
【0016】
本発明の等速ジョイント用グリース組成物は、さらに好ましくは、グリース組成物の全重量に対して、(a) 成分の基油:55.0〜95.3重量%、(b) 成分のウレア系増ちょう剤:3〜20重量%、(c) 成分のモリブデンジチオカーバメート:0.5〜5重量%、(d) 成分のカルシウム塩:1〜10重量%、(e) 成分のチオホスフェート:0.1〜5重量%、及び(f) 成分の、チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤:0.1〜5重量%を含んでいる。
【0017】
(b) 成分の含有量が1重量%未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化しにくくなり、25重量%より多いと、得られた組成物が硬くなり過ぎ、所期の効果が得られにくくなる。(c) 成分の含有量が0.1重量%未満、(d) 成分の含有量が0.5重量%未満、(e) 成分の含有量が0.1重量%未満、(f) 成分の含有量が0.1重量%未満では、所期の効果を十分に得ることが困難になり、一方、(c) 成分の含有量が10重量%より多く、(d) 成分の含有量が15重量%より多く、(e) 成分の含有量が10重量%より多く、(f) 成分の含有量が10重量%より多い場合にも効果の増大はない。
【0018】
【実施例】
次に本発明を実施例および比較例により説明する。
〔実施例1〜5、比較例1〜7〕
容器に基油460gとジフェニルメタン−4,4′−ジイソシアネート38.7gをとり、混合物を70〜80℃に加熱した。別容器に基油460gとシクロヘキシルアミン24.6g、ステアリルアミン16.7gをとり、70〜80℃に加熱後、先の容器に加えよく攪拌しながら、30分間反応させた。その後攪拌しながら、170℃まで昇温し、放冷し、ベースウレアグリースを得た。このベースグリースに、表1及び表2に示す配合で、添加剤を添加し、適宜基油を加え、得られる混合物を、三段ロールミルにて、ちょう度No. 1 グレードに調整した。
【0019】
上記実施例および比較例において、いずれもグリースの基油としては以下の性質を有する鉱油を使用した。
また、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤を含有する市販リチウムグリースを比較例8のグリースとした。
【0020】
これらのグリースにつき以下に示す試験方法で物性の評価を行い、得られた結果を表に併記した。
【0021】
<強制力試験>
下記条件にて、実ジョイントの強制力試験を行い、強制力を測定した。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の等速ジョイント用グリース組成物は、(a) 基油、(b) ウレア系増ちょう剤、(c) モリブデンジチオカーバメート、(d) 石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩、(e) チオホスフェート、及び(f) 硫黄の含有量が10〜40%、リンの含有量が0.5〜5%である金属を含まない、チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤を含有しているため、表1に示す実施例および比較例の結果からもわかるように、著しい摩擦係数低減効果及び振動発生防止効果を示す。
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
1) モノアミンとして、シクロヘキシルアミンとステアリルアミンを混合使用したジウレア化合物を用いたジウレアグリース
2) モリブデンジチオカーバメート(商品名:Molyvan A 、 R.T.Vanderbilt 社製)
3) モリブデンジチオカーバメート(商品名:Molyvan 822 、 R.T.Vanderbilt 社製)
4) ジノニルナフタレンスルホン酸カルシウム塩(商品名:NA-SUL 729、 KING INDUSTRIES社製)
5) アルキル芳香族スルホン酸カルシウム塩(商品名:ALOX 2292B、 ALOX Corporation 製)
6)チオリン酸エステル(商品名:Irgalube 211、 CIBA-GEIGY 社製、硫黄含有量:4.4 %、リン含有量:4.3 %)
7)硫黄−リン系極圧剤(商品名:Anglamol 99 、日本ルーブリゾール(Lubrizol)社製、硫黄含有量:31.5%、リン含有量:1.7 %) )
8)ちょう度 60W
9)滴点(℃)
10) SRV試験 摩擦係数
11) 強制力試験
*市販硫黄系極圧剤、リン系極圧剤入りグリース
Claims (2)
- 下記の成分(a) 〜(f) を含む等速ジョイント用グリース組成物:
(a) 基油、
(b) ジウレア化合物を含むウレア系増ちょう剤、
(c) モリブデンジチオカーバメート、
(d) 石油スルホン酸のカルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸のカルシウム塩、酸化ワックスのカルシウム塩、石油スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、アルキル芳香族スルホン酸の過塩基性カルシウム塩、及び酸化ワックスの過塩基性カルシウム塩からなる群から選択される少なくとも1種のカルシウム塩、
(e) 下記の式(2)で表されるチオホスフェート、
(R3 O)(R4 O)P(=S)(OR5 ) (2)
(式中、R3 は炭素数1〜24のアルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基を、R4 、R5 は水素原子または炭素数1〜24のアルキル基、シクロアルキル基、アルキルシクロアルキル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基を示す。)
及び
(f) 硫黄の含有量が10〜40%、リンの含有量が0.5〜5%である金属を含まない、チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤。 - 全組成物中、ウレア系増ちょう剤の含有量が1〜25重量%、モリブデンジチオカーバメートの含有量が0.1〜10重量%、カルシウム塩の含有量が0.5〜15重量%、チオホスフェートの含有量が0.1〜10重量%、チオホスフェート以外の硫黄−リン系極圧剤の含有量が0.1〜10重量%である請求項1記載の等速ジョイント用グリース組成物。
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