冷凍装置で使用する圧縮機の一例には、容積型冷媒圧縮機がある。この容積型冷媒圧縮機は、モータ駆動部と圧縮機械部を一本の軸で結合し、軸受が荷重を支持する構造となっている。軸と軸受は、冷媒と冷凍機油の共存する潤滑油の環境下において機械的および化学的な実用強度が要求される。例えば、摩擦係数が大きくなると機械損失が増加し、摩耗量(ΔW)が大きいと音や振動の発生の原因となり、ミスアライメントによる圧縮機室のシール性が悪くなると容積効率が低下する。
また、冷媒圧縮機の軸および軸受の運転には、一般にインバータ制御方式や多冷媒封入方式が採用されており、潤滑油の粘度(η)と軸の周速(V)と軸荷重(P)とが広範囲に変動し、急速始動した場合には、給油遅れ現象が生じる。そのために、軸および軸受の潤滑モードは、定常時の流体潤滑から中位の混合潤滑、最も厳しい境界潤滑へと移行する。したがって、前記潤滑モードに対応して長時間にわたって高い信頼性を持つ冷媒圧縮機が求められる。
本発明は、これらの過酷な潤滑モードに対して対応可能な軸受を備える冷凍装置を提供するものである。
以下に、本発明の実施形態について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、スクロール型冷媒圧縮機を使用した冷凍装置の構成説明図である。図2は、図1の一点鎖線で囲んだ箇所の部分拡大図である。
図1に示すように、冷凍装置R1は、圧縮機としてのスクロール型冷媒圧縮機SC、蒸発器32、凝縮器31、および膨張機構30を備えている。この冷凍装置R1は、圧縮機としてのスクロール型冷媒圧縮機SCを備えている以外は、周知の冷凍装置と同様の構造を有しているので、ここでは、主に、スクロール型冷媒圧縮機SCについて説明する。
スクロール型冷媒圧縮機SCは、図1に示すように、スクロール用密閉容器1の内部に後記する圧縮機構部を上方に、電動機構部たるモータ7を下方に配置して、圧縮機構部を構成する固定スクロール部材3と、電動機構部たるモータ7とは、クランクシャフト5を介して連接されている。
前記圧縮機構部は、台板3aに渦巻状のラップ3bを直立させた固定スクロール部材3と、台板2aに渦巻状のラップ2bを直立させた旋回スクロール部材2とを備えている。そして、固定スクロール部材3と旋回スクロール部材2とは、渦巻状のラップ3bと渦巻状のラップ2bとが互いに噛み合うように配置されている。固定スクロール部材3の外周部には、吸入口3cが形成されており、中央部には、吐出口3dが形成されている。
クランクシャフト5は、図2に示すように、フレーム4の中央部に配置された軸受4a(主軸受)に支持されている。クランクシャフト5の先端に突出したクランク5aは、旋回スクロール部材2の軸受2c(旋回軸受)に挿入されて旋回スクロール部材2と係合している。
これらの軸受2c,4aは、特許請求の範囲にいう「摺動部材」に相当する。
また、自転防止機構としてのオルダム継ぎ手6は、旋回スクロール部材2が固定スクロール部材3に対して自転することなく旋回運動させる継ぎ手である。オルダム継ぎ手6は、旋回スクロール部材2の台板2aの背面キー溝2dと係合するとともに、フレーム4の台座キー溝4dと係合している。
このようなスクロール型冷媒圧縮機SCの動作を図1および図2を参照しながら説明する。
このスクロール型冷媒圧縮機SCでは、モータ7によってクランクシャフト5が回転すると、クランク5aの偏心回転により、旋回スクロール部材2は、自転することなく固定スクロール部材3に対して旋回運動を行う。その結果、吸入口3cより吸い込んだ冷媒ガスは、渦巻状のラップ3bと渦巻状のラップ2bとが噛み合うことで形成された圧縮室3eで圧縮される。圧縮された冷媒ガスは、吐出口3dから固定スクロール部材3の上方に吐出される。そして、この圧縮された冷媒ガスは、固定スクロール部材3の上方から連通孔3g(図1参照)を介してフレーム4の下方に至って排出口3fからスクロール用密閉容器1の外側に排出される。
以上のようなスクロール型冷媒圧縮機SCは、前記したように、台板2aに軸受2cが設けられるとともに、フレーム4に軸受4aが各々設けられている。そして、軸受2cおよび軸受4aのいずれにも、循環する潤滑油(冷媒を含む冷凍機油)が供給されている。このような軸受2cおよび軸受4aにおいては、スクロール型冷媒圧縮機SCの起動時や冷媒の吐出圧力が高い場合に、潤滑油の供給が不足して摩耗や焼付きなどの損傷が発生しやすい。
しかしながら、本実施形態での軸受2c,4aは、図2に示すように、旋回スクロール部材2の台板2aおよびフレーム4の所定の箇所に各々圧入されて固定されることによって、スクロール型冷媒圧縮機SCの信頼性および耐久性を向上させることができる。
もちろん、この際、軸受2c,4aは、台板2aおよびフレーム4の所定の箇所に各々焼嵌、冷し嵌、ネジ嵌、嵌合、接着剤等の手段で取り付けられてもよい。そして、圧入される際の圧環強さ(圧環荷重)については、18.6MPa(150N)以上が必要とされているので、軸受2c,4aの圧環強さは、これ以上の荷重に耐える強度に設定されている。なお、ここで云う圧環強さとは、JIS Z2507に示される焼結軸受−圧環強さ試験方法で求められるものである。具体的には、図1に示すスクロール型冷媒圧縮機SC等に使用される軸受2c,4aでは、その大きさが、例えば、外径Φ19mm、内径Φ16mm、および高さ14.3mmであると、軸受2c,4aの圧環荷重は、150N以上となり、圧環強さは、18.6MPa以上となる。
次に、前記したスクロール型冷媒圧縮機SCとは異なるロータリ型冷媒圧縮機を圧縮機として使用した冷凍装置について説明する。図3は、ロータリ型冷媒圧縮機を使用した冷凍装置の構成説明図である。図4は、図3の一点鎖線で囲んだ箇所の部分拡大図である。
図3に示すように、冷凍装置R2は、圧縮機としてのロータリ型冷媒圧縮機RCは、蒸発器32、凝縮器31、および膨張機構30を備えている。この冷凍装置R2は、圧縮機としてのロータリ型冷媒圧縮機RCを備えている以外は、周知の冷凍装置と同様の構造を有しているので、ここでは、主に、ロータリ型冷媒圧縮機RCについて説明する。
ロータリ型冷媒圧縮機RCは、図3に示すように、スクロール型冷媒圧縮機SC(図1参照)と異なって、圧縮機構部9が、ロータリ用密閉容器8内でフレーム14の下方に配置されるとともに、電動機構部たるモータ部10がフレーム14の上方に配置されている。そして、モータ部10で駆動されるクランクシャフト12に偏心して取り付けられたローリングピストン13が、冷媒を吸入圧縮するように構成されている。
圧縮された冷媒は、吐出口(図示せず)より吐出されて高温高圧のガス状冷媒となり、吐出管11を介して冷凍サイクルを構成する熱交換器側(凝縮器、蒸発器)に吐出される。熱交換された前記冷媒は、吸入口13aよりローリングピストン13内に吸入され、再びローリングピストン13で圧縮される。
図4に示すように、軸受15は、前記クランクシャフト12の軸受であって、フレーム14に対して圧入、焼嵌、冷し嵌、ネジ嵌、嵌合、結合、接着剤等の手段で取り付けられている。この軸受15は、特許請求の範囲にいう「摺動部材」に相当する。
そして、軸受15は、圧入時の圧環荷重(圧環強さ)で150N(18.6MPa)以上の荷重に耐える強度に設定されている。
以上のようなスクロール型冷媒圧縮機SC(図1参照)、およびロータリ型冷媒圧縮機RC(図3参照)に使用される軸受2c,4a(図2参照)および軸受15(図4参照)〔以下、単に「軸受」という場合がある〕は、後記するこの軸受の製造方法で説明するように、異方性炭素黒鉛質基材に後記する所定の金属を含ませたものである。
このようなスクロール型冷媒圧縮機SCおよびロータリ型冷媒圧縮機RC(以下、併せて単に「冷媒圧縮機」ということがある)は、冷凍サイクル中の冷媒と冷凍機油の熱媒体の移動(循環)により室内等を冷房、あるいは暖房を行うために利用される。このとき、前記した冷媒圧縮機に用いられる冷媒および冷凍機油の種類は、軸受との関係で非常に重要なものとなる。具体的には、冷媒および冷凍機油からなる混合物に軸受から、更に具体的には、軸受の構成要素となる後記する炭素黒鉛質基材から溶出する物質が1質量%以下であって、フロック点で前記混合物中に析出物が析出しないことが望ましい。
ここで「混合物中に析出物が析出しない」とは、フロック点試験で析出物が目視で検出されない状態を意味する。なお、このフロック点試験は、ASTMまたはJIS K2211に準拠して行われ、例えば、冷媒90質量%,冷凍機油10質量%の中に試験片を入れて、規定の条件で加熱抽出し、加熱処理後に−40℃まで冷却し、析出物質の有無を評価する試験である。
このような組み合わせを実現する冷媒としては、ハロゲン化炭化水素系冷媒、炭化水素系溶媒、および自然系冷媒から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。つまり、これらの冷媒は、それぞれ単独で、または適宜に組み合わせて使用することができる。
前記ハロゲン化炭化水素系冷媒としては、例えば、フッ化炭化水素系冷媒、フッ化臭化炭化水素系冷媒、フッ化ヨウ化炭化水素系冷媒等が挙げられる。
このような冷媒の中でも好ましいものは、R410A、R404A、R407C、R134a、等のフッ化炭化水素(HFC)系冷媒、CF3I等のフッ化ヨウ化炭化水素系冷媒、R600a、R290等の炭化水素系冷媒、R744、R717等の自然系冷媒等が挙げられる。特に、フッ化ヨウ化炭化水素系冷媒は、環境負荷が小さい点で好ましい。
そして、このような組み合わせを実現する冷凍機油としては、例えば、鉱油、ポリオールエステル(POE)油、ポリアルキレングリコール(PAG)油、ポリビニルエーテル(PVE)油、ポリアルファオレフィン(PAO)油、およびハードアルキルベンゼン(HAB)油から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。つまり、これらの冷凍機油は、それぞれ単独で、または適宜に組み合わせて使用することができる。
このような冷媒および冷凍機油のスクロール型冷媒圧縮機SCまたはロータリ型冷媒圧縮機RCへの封入比率は、冷凍機油が1質量部に対して、冷媒が0.2質量部以上となっていることが望ましい。また、冷媒または冷凍機油中の水分濃度は、1〜1000ppmであることが望ましい。
なお、このような冷媒または冷凍機油が使用されるスクロール型冷媒圧縮機SCまたはロータリ型冷媒圧縮機RCは、その運転モードが一定速または可変速のいずれであってもよい。
次に、軸受の製造方法について主に図5を参照しながら説明する。図5は、実施形態に係る軸受の製造方法を説明するための工程図である。なお、図5には、実施形態での軸受の製造工程と従来工程との差を明確にするために従来工程との比較で説明する。ちなみに、図5中、従来工程は、一点鎖線で囲んだ「現行材の製造方法」として示す。
この製造方法では、図5に示すように、まず、骨材となる無機充填剤、黒鉛(人造黒鉛,天然黒鉛等)、およびコークス(石炭,石油等)と、バインダとなる結合剤(石炭や石油から得られるコールタールピッチ等)とが、例えば、骨材7質量部に対してバインダ3質量部の割合で混合される(Step1)。なお、この混合に際しては、図示しないが無機充填剤を均一に分散させるためのカップリング剤(シラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等)が添加されることが望ましい。
このStep1では、骨材を構成する無機充填剤、黒鉛、およびコークスがミキサ等で混合される。なお、この混合の際に、前記したカップリング剤がミキサ等に投入される。このカップリング剤は、例えば、Si、Ti、Zr、Al、Cr、Moなどの炭化物易形成元素を含むものであり、具体的には、前記したシラン系カップリング剤、チタン系カップリング剤等が挙げられる。
このカップリング剤は、固体物質(コークス、黒鉛、無機充填剤)の表面をコーティングすることで結合剤(石油ピッチ等)の中に固体物質を均一に分散させることができる。このように固体物質が均一に分散されると、後記する混捏機のトルクは抵抗が小さくなり、作業性は一段と改善される。
また、無機質を適度に配合することにより、高荷重時の耐摩耗性を改善できる。無機質が少ない時には、Fe系の軸に対して軸受が軟らか過ぎ、軸受が摩耗しやすくなる。逆に多い時には、Fe系の軸に対して軸受が硬過ぎて軸を削ってしまう。このために、実施形態での軸受は、適度な無機質の配合範囲を規定するものである。また、Fe系の軸に対して適度な硬さとなるよう、無機質を適度に配合することにより、高荷重時の耐摩耗性を改善できる。すなわち、硬さが低いと軸の荷重で軸受が損傷する。逆に硬さが高いと軸が引掻かれて摩耗する。
このために、本実施形態では、前記したように、骨材に無機充填剤を配合している。
この無機充填剤としては、例えば、Si、Fe、Mg、Al、およびCaから選ばれる少なくとも1種の酸化物を含むものが挙げられる。そして、この無機充填剤は、これを含む前記原料が焼成されて炭素黒鉛質基材となった際に、無機充填剤の焼成物のモース硬さは、3以下、好ましくは1〜3となっている。
Step2では、このStep1で混合された骨材と、バインダを構成する前記した結合剤と、前記したカップリング剤とが混捏される。この混合は、例えば150℃〜160℃の温度で行われる。その結果、骨材に結合剤が分散混合されることで、バルク状の混捏物が得られる。
次いで、Step3では、前記バルク状の混捏物が粉砕機および造粒機にかけられて粒度分級され、原料ペレットが得られる。
そして、Step4では、粒度分級した粒(原料ペレット)の大小が適当となるように混合される。このことによって、流動性および型充填性に合う原料ペレット(以下、単に「原料」という場合がある)が得られる。
次いで、N−Step5では、次の金型粉末成形が行われる。つまり、このN−Step5では、前記原料を実施形態に係る軸受の単品、例えば、軸受として使用される形状に近い形に成形した成形物が得られる。なお、ここでの「使用される形状に近い形状」は、いわゆる「ニアネットシェイプ」を含んで意味し、目的の軸受の形状に近い形状であってもよいし、目的の軸受の複数分が連なった長尺の原材に近い形状であってもよい。なお、長尺の場合は、この原材から所定長さが切り出されて軸受は製造されることとなる。また、「使用される形状に近い形状」には、軸受が円筒状の場合に、円柱状のものであってもよく、この場合には、後の機械加工仕上げで中心が刳り貫かれて円筒状に形成されることとなる。
ちなみに、本実施形態での製造方法では、原料が、例えば外径Φ20.5mm、内径Φ11.5mm、および高さ25mmの円筒形状となるように、粉末成形機を使用して一個ごとに金型成形される。この成形には、上下方向からの一軸プレス法が採用される。この一軸プレス法には、例えば、上下パンチを有するエジェクション方式成形法、ウイズドローウォール式成形法等が用いられる。
これらの両成形法は、圧粉成形体の密度分布を改善する。これらの両成形法は、従来の一方向金型油圧プレスの問題であった反パンチ側コーナ部の低密度化を防止するために、上下パンチを利用したものである。ここで、上下パンチを利用した場合における黒鉛結晶の配向について適宜図面を参照しながら説明する。参照する図6は、軸受に含まれる黒鉛多結晶集合モデルの説明図であり、(a)は、従来のランダム黒鉛集合体を示す図、(b)は、整列板状黒鉛集合体を示す図である。
図6(a)に示すように、上下パンチを利用しない従来のものでは、黒鉛結晶の向きがランダムに配置されたランダム黒鉛集合体を形成している。これに対して、前記した上下パンチを利用すると、ランダム黒鉛集合体は、図6(b)に示すように、黒鉛結晶の向きが揃って(配向して)整列した整列板状黒鉛集合体となる。この配向の方向をうまく利用することにより、後記する軸受の性能は一段と向上する。ここで参照する図7は、黒鉛結晶構造を示す斜視図である。
図7に示すように、黒鉛結晶は、六方晶体で表される集合体である。そして、この結晶の網平面[(004)面]は、摩擦係数が小さく、固体潤滑剤の作用をする。なお、摩擦係数が小さくなる理由は結晶間の隙間が広く、結晶同士がすべり易いためである。一方、六方晶体の(004)面に直交する(110)面は、逆に硬く、高強度の化学結合を有する。したがって、本実施形態に係る後記する軸受は、この(110)面を軸受の摺動面(スラスト面)として利用するものである。
次に、図5に示すN−Step6では、N−Step5で得られた前記成形物である金型粉末成形体(グリーン成形体)が焼成される。この焼成は、非酸化性雰囲気中で、例えば1000℃×0.5ヶ月間行われる。この焼成によって前記した炭素黒鉛質基材が得られる。この炭素黒鉛質基材は、焼成前の金型粉末成形体が軸受の形状に近い形状であったことから、軸受と略同じ形状を呈している。また、炭素黒鉛質基材は、薄肉であるので焼成工程において内外の温度差が付かない。このことによって歪みによる割れや、欠けがない。そして、例えば、炭素と無機充填剤とが反応することによって生成する反応物質が炭素黒鉛質基材に取り残されない。また、焼成に要する時間が従来に比較して半減する。
このようにして得られた炭素黒鉛質基材は、結合剤(バインダ)が化学的に炭化反応を完結し、固定炭素90〜99質量%、および灰分0.5〜10質量%となる。なお、焼成前のバインダには、固定炭素が36〜60質量%含まれている。
また、炭素黒鉛質基材の揮発分は、1質量%以下となる。
ちなみに、固定炭素は、JIS R 7212、またはJIS K 2425に準拠して測定することができる。灰分は、JIS R 7223、JIS M 8812、JIS M 8511、またはJIS K 2425に準拠して測定することができる。炭素黒鉛質基材の揮発分は、JIS R 7212、JIS M 8812、またはJIS M 8511に準拠して測定することができる。
前記した灰分は、黒鉛およびコークス等に含まれている無機物質と、機能向上のために配合した無機充填剤の灰分とで主に構成されている。
この灰分の調節は、例えば、原料として用いるコークスや黒鉛の灰分、および無機充填剤の灰分を予め見積もって調節することができる。このような見積もりは、前記した無機充填剤の酸化物で換算した灰分が、0.5〜10質量%となるようにすればよい。
ちなみに、コークスの灰分は0.19質量%であり、人造黒鉛の灰分は0.1質量%以下であり、鱗状黒鉛の灰分は1.12質量%であり、土状黒鉛の灰分は19.6質量%であり、高結晶黒鉛の灰分は0.1質量%以下であり、非結晶黒鉛の灰分は0.33質量%である。なお、これらの黒鉛は、それぞれ単独で、または複数を任意に配合して用いられる。
一方、積極的に無機充填剤を配合することによって炭素黒鉛質基材(または軸受)の機械的強度および摩擦摩耗特性が改善される。換言すると、固定炭素以外の未分解原料が炭素黒鉛質基材に極めて微量残存した場合に、冷媒圧縮機に組み込まれた軸受では、未分解原料が軟化膨潤してその強度が低下する。そして、未分解原料は、冷凍機油および冷媒に溶出するとともに、冷媒流路に析出して冷媒の流れを阻害する。以上のことから、本実施形態に係る軸受においては、炭素黒鉛質基材中の未分解原料を完璧になくすことが重要となり、本実施形態に係る軸受に使用される炭素黒鉛質基材は、前記した範囲の固定炭素と灰分とからなっている。
更に、石油ピッチ、石炭ピッチ等が原料となる前記結合剤は、概ね炭素と水素の化合物であって、JIS K 2425に準拠して測定された固定炭素が55質量%であり、残りが水素等である。そして、軟化点は73〜92℃である。
このような結合剤の焼成後における結合剤の未分解物は、冷媒圧縮機の使用環境で軟化し、そして冷凍機油および冷媒に溶出することによって、軸受の強度を低下させるとともに、溶出したものが析出したことによる冷媒配管の詰まり等の障害を起こす。
本実施形態に係る軸受の製造方法におけるN−Step6では、これらの障害の発生を抑制するために、前記した結合剤を含む原料は、400℃以上で徐々に昇温されつつ熱分解されるとともに、最終的には800〜2000℃までに昇温されることによって焼成されて完全にコークス化される。
この製造方法では、800〜2000℃まで昇温されることで、原料としての前記無機充填剤と炭素とが反応して炭素黒鉛質基材の特性を阻害する物質を生成しないようにすることができる。ちなみに、炭素黒鉛質基材の特性を間接的に評価する方法としては、例えば、フロック点試験を行う方法や、シールドチューブテストによる低温析出試験を行う方法が挙げられる。
そして、このようにして得られた炭素黒鉛質基材は、異方性を有する炭素黒鉛質基材となっている。つまり、N−Step5で得られる金型粉末成形体(グリーン成形体)には、黒鉛結晶の向きが配向した整列板状黒鉛集合体となっているので、これを焼成して得られた炭素黒鉛質基材は、黒鉛結晶が異方性を有するものとなる。
本実施形態での炭素黒鉛質基材における黒鉛結晶は、その配向が、次式(1)で示される異方比(Ra)で1.2以上となっている。
Ra=I1/I2・・・(1)
(ただし、前記式(1)中、I1は、前記軸受の軸との摺動面における黒鉛結晶の(004)面と(110)面のX線回折による積分強度比((110)面の積分強度/(004)面の積分強度)を表し、I2は、前記摺動面に直交する面における黒鉛結晶の(004)面と(110)面のX線回折による積分強度比((110)面の積分強度/(004)面の積分強度)を表す)
なお、異方比1.2以上の根拠については後記する。
そして、本実施形態での炭素黒鉛質基材は、X線回折による結晶化度が、15〜50%となっている。
以上のような炭素黒鉛質基材は、曲げ強さが50MPa以上であり、圧縮強さが180MPa以上であるものが望ましく、その細孔の顕微鏡で求めた面積空隙率が、平均で15%以下であることが望ましい。
次いで、N−Step7では、炭素黒鉛質基材が真空高圧充填炉内に投入される。この際、溶融金属(銅のα固溶体)が入れられた真空高圧充填炉内が真空引きされた後に、炭素黒鉛質基材は溶融金属に浸漬される。次いで、真空高圧充填炉内には、窒素ガスが導入されるとともに真空高圧充填炉内が1〜20MPaに加圧される。その結果、炭素黒鉛質基材の空隙部(細孔)には、溶融金属が充填される。なお、溶融金属の充填率は、製品(後記する軸受)の10〜50質量%が望ましい。
次いで、N−Step8では、充填後の炭素黒鉛質基材が製品の最終形状に仕上げ加工される。この仕上げ加工は、図5中、「軸受加工1」と記される。
このとき、充填前の炭素黒鉛質基材の形状は、前記したように、軸受の形状と略同じ形状を呈しているので、この仕上げ加工に際しては、素材ロスが少ない。そして、このような仕上げ加工を経て冷媒圧縮機の軸受が得られる。
次に、従来の軸受の製造方法(現行材の製造方法)、つまり、ブロック成形体から多数個の軸受を切出す方式の製造方法について図5を参照しながら説明する。なお、図5中のStep1〜Step4は共用するものであるが、従来は黒鉛の配合量を規定するのみである。したがって、従来の軸受の製造方法でStep1〜Step4に対応する工程では、無機充填剤やバインダ(カップリング剤含む)が使用されていない。つまり、本実施形態での軸受の特徴としている物質の化学変化による新たな特性(固定炭素が99.0質量%以上で圧縮機の使用環境下で強度の低下や、冷凍機油,冷媒による軟化や膨潤,或いは抽出物を生成しない特性)を生起させるものではない。換言すると、本実施形態での骨材、バインダ、カップリング剤の投入は、焼成(N−Step6)段階で前記特性を生み出し、N−Step8で軸受を加工したときに、軸受性能および信頼性が改善される。
図5に示すように、この現行材の製造方法におけるO−Step5では、CIP成形が行われる。このO−Step5では、Step4で粒度分級した粒の大小を適当に混合し流動性および型充填性に合うようにした原料が、例えば200mm×400mm×800mm位のブロック材を作るゴム型に充填される。この原料が充填されたゴム型は、液中に浸漬されるとともに、液圧が全方位から掛けられて等方圧縮成形が行われる。その結果、ブロック材の前駆体が形成される。
次に、O−Step6では、ブロック材の前駆体が焼成されることで、ブロック材が形成される。この焼成の温度および時間は、例えば1000℃×1ヶ月である。このようにして得られたブロック材に含まれる黒鉛結晶は、図6(a)に示すランダム黒鉛集合体となっており、いわゆる等方性の炭素黒鉛質基材となっている。
次に、O−Step7では、ブロック材が断面視で矩形のバー材に加工される。このとき使用される設備は鋸盤等の切断機である。また、バー材は、例えば、23mm×23mm×300mmに切断したものを、軸受最終形状に近づけるために表面仕上げすることによって21mm×21mm×300mmとした。
次に、O−Step8では、前記N−Step7で使用した炭素黒鉛質基材に代えて前記バー材を使用した以外は、前記N−Step7と同様に真空高圧充填炉で溶融金属の充填工程処理が行われる。
次に、O−Step9の軸受加工1、O−Step10の軸受加工2、およびO−Step11の軸受加工3を経て軸受が完成する。なお、軸受加工1では、バー材がNC旋盤等の加工装置で円柱形状に加工される。また、軸受加工2では、円柱形状となったバー材が円筒形状に加工される。また、軸受加工3では、円筒形状となったバー材が仕上げ装置で仕上加工されて目的の軸受となる。
以上のように、一点鎖線で囲んだ現行の軸受成形法は工程数が多いことはもちろん、バー材からの切り出し加工で軸受材を作っているものであるから、加工分数はもちろん、材料取りが悪く、素材ロスが多い等の問題があった。また、焼成段階で黒鉛結晶配向を考慮していないので、軸受の性能および信頼性が本実施形態での軸受と異なって不充分となっている。
次に、図8(a)、図8(b)および図10を参照して本実施形態での軸受に使用される炭素黒鉛質基材の空隙率および黒鉛結晶の配向等について説明する。図8(a)は、本実施形態での炭素黒鉛質基材の顕微鏡組織図、図8(b)は、空孔径の分布を示す図である。ここでは、まず、図8(a)、及び図8(b)について説明する。
ここで、図8(a)に示す、符号16は、Al、Si等を含む無機充填剤の焼成物を示し、符号17は開空孔を示し、符号18は閉空孔を示し、符号19は炭素黒鉛を示す。ちなみに、無機充填剤(焼成物)16は、軸受の硬度と耐摩耗性を上げるために配合されたものと、黒鉛等の原料の中に不純物として含まれるものとがある。
本実施形態での軸受では、前記したように、灰分は、無機充填剤の灰分と前記不純物の灰分とを総称して灰分(無機充填剤の酸化物換算で0.5〜10質量%)と言う。
開空孔17は、結合剤が熱分解して生成したガスが抜けた孔と、金属型粉末成形を行った際(図5のN−Step8参照)に、原料の粒子間に形成された隙間が焼結時に残った孔とがある。これらの孔は、連続空孔となる。これらの連続空孔は、図8(b)に示すように、直径が約1〜15μmの範囲で分布している。これらの空孔に対して金属が50質量%以上充填されることとなる。
次に、粉末成形機の成形圧力と面積空隙率との関係を表1に示す。
表1に示すように、静水圧成形方式による成形圧力が100%である場合に得られた等方性炭素黒鉛質基材は、100倍の顕微鏡視野における平均面積空隙率が10.86%となり、成形圧力が100%である場合に得られた異方性炭素黒鉛質基材は、平均面積空隙率が9.07%となっている。
また、成形圧力が97%である場合に得られた異方性炭素黒鉛質基材は、平均面積空隙率が14.13%、95%の成形圧力では平均面積空隙率が17.36%となっている。これは、原料の粒子の接触面に成形荷重が伝達するとともに、更に下部の原料の粒子に伝達されることを示している。
ここで図9(a)は、粉末成形の金型における上部パンチのみで原料を圧縮成形した際の成形圧力分布と、それによる密度分布(焼成後の空隙率)を示す分布図である。
上部パンチのみで原料を圧縮成形すると、原料の粒子が金型の壁面のすべり抵抗を受けて十分な圧力伝達を示さない。その結果、図9(a)に示すように、底部コーナ部は、圧力作用の小さい低密度で多孔質な部分となっている。低密度で多孔質な部分は、後記する機械的強度や耐摩擦摩耗特性を悪くすることになる。
図9(b)は、粉末成形の金型における上部パンチと下部パンチの双方にて原料を圧縮成形した際の成形圧力分布と、それによる密度分布(焼成後の空隙率)を示す分布図である。
上部パンチと下部パンチの双方にて原料を圧縮成形すると、上部パンチのみで圧縮成形した際に生じた低密度で多孔質の部分、つまり脆弱部が解消されて、図9(b)に示すように、健全な空隙率分布となっている。つまり、後記する軸受の機械的強度や耐摩擦摩耗特性の品質が大幅に改善されることとなる。特に軸受のような上部と下部はパンチの圧力効果が得られるので、圧縮機構部の組立圧入に係る強度や圧縮機の軸荷重の集中荷重が求められるような部品には、空隙率や機械的強度の分布が有効に作用するものである。この部分に後記する金属が高圧で充填される。
また、閉空孔18(図8(a)参照)は、バインダとなる結合剤(例えば、コールタールピッチ、石炭ピッチ、石油ピッチ)とカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタン系カップリング)等が焼成時に熱分解して生成したガスが組織中に残留したもので、独立空孔となる。この独立空孔には、充填時に金属が充填しにくくなっている。
炭素黒鉛19(図8(a)参照)は、原料の黒鉛、コークス、結合剤(バインダ)、カップリング剤等からなる混捏物が焼成された後の組織を示すもので、焼成後の黒鉛面積率はラマン分光分析により計測される。この部分の黒鉛結晶化度は、X線回折により特定可能である。ここで参照する図10は、炭素黒鉛質基材におけるX線回折による黒鉛結晶化度とラマン分析によるマトリックスの黒鉛面積比との関係を示すグラフである。なお、黒鉛面積率は、RENISHAW社製レーザラマン分光分析装置を使用して計測した。この計測は、He−Neレーザを使用して、レーザ出力25mV、波長682.8mm−1、波長分解能0.2cm−1、空間分解能1μm(最大200μm)の条件で行った。また、黒鉛結晶化度は、リガク社製X線回折装置(RINT2500HL)を使用して測定された。この測定は、CuX線源を使用するとともにX線出力50kV(250mA)の条件で行った。X線回折装置における光学系としてはモノクロメータ付き集中ビームが使用され、スリットDSは0.5deg、スリットRSは0.15mm、スリットSSは0.5degに設定された。
炭素黒鉛質基材の結晶化度は、X線回折によって結晶質の黒鉛ピークと非結晶質のコークス等のピークとの比で予め既知の原料により標準サンプルを作成することによって比較して求めることが可能である。これにより、軸受の特性に必要となる黒鉛の量と特性を規定することが可能となる。これにより、軸受特性に必要となる黒鉛の量と特性を規定することが可能となる。
本実施形態では、図10に示すように、炭素黒鉛質基材の結晶化度が15〜50%となっている。この結晶化度が15%以下では軸受の潤滑性に乏しく、相手軸材を摩耗させ、50%以上では軸受としての摩耗特性が劣り、冷媒圧縮機の軸受として好ましくない場合がある。
また、ラマン分光分析による炭素黒鉛質基材のマトリックスの面積比は、二種類のピーク波形の大きさによって非晶質のコークス質と結晶質の黒鉛質を識別することができる。この面積比は、既知の標準サンプルによって黒鉛の面積率を推測したものである。以上のことにより、本実施形態で用いる軸受の炭素黒鉛質基材中の黒鉛が特定される。これは、面積率に換算すると45〜68%に相当するものである。
次に、このような炭素黒鉛質基材を使用して得られた軸受の摩擦摩耗試験で評価すると、図11から図13に示すようになる。
図11は、黒鉛結晶化度と摩耗量との関係を示す図である。図12は、平均面積空隙率と摩耗量との関係を示す図である。図13は、異方比と摩耗量との関係を示す図である。
図11に示すように、黒鉛結晶化度が15%未満(例えば、黒鉛組織の面積率で45%)の場合には、硬度が高く相手軸材(焼入れ後の硬度:HV450以上)の材料に損傷を与えて望ましくない。一方、結晶化度が50%(例えば、黒鉛組織の面積率で58%)を超えると軟らかく摩耗量が基準値を超えることとなる。
図12に示すように、面積空隙率が15%以上になる場合には、軸受の摩耗量が増してなお且つ軸の摩耗量が増すこととなる。これは、空隙率が増すと軸との実試験面圧が増すこと、および軸受材の粒子同士の結合強度が小さくなることに起因するものと考えられる。したがって本実施形態では、面積空隙率が15%以下となるように規定した。なお、この図12の中で○印で示したものは、従来形の等方性炭素黒鉛質基材の値を示したものである。
冷媒R410Aでの境界潤滑における摩擦摩耗試験は、空調機などの冷凍装置の冬期暖房運転などにおいて、冷媒が高温側の室内機から低温側の室外機の冷媒圧縮機の底部に偏在し、いわゆる寝込み状態が発生することを想定している。また、急速な始動運転や除霜運転において、冷媒または多量の冷媒を溶解した冷凍機油が若干の遅れをもって軸受部へ供給されることを想定している。
以上のような運転条件(試験条件)において、図23の従来例6は、使用実績のある軸受材料である。この摩耗量は、27μm/2h(13.5μm/h)であった。軸受の摩耗量は、ロータリ型冷媒圧縮機のシリンダとピストンとの隙間におけるシール性(耐洩れ性)や、スクロール型冷媒圧縮機の軸と軸受のシール性、つまり圧縮室のシール性に関係している。
そこで、今般は、より過酷な運転条件に対応し、より高効率、高信頼度を目指すべく、20μm/2h(10μm/h)を目標値とする。これが、シリンダ内の容積効率や圧縮室の容積効率を長期に亘って継続的に維持するために必要であるという目標値である。つまり、前記のような摩耗試験が想定している、短時間の過渡的な過酷な運転条件に対して、軸受の摩耗量が20μm/2h(10μm/h)以下、すなわち試験荷重9.8MPaにおいて、10μm/h以下であることを目標値とする。
したがって、摩耗量が10μm/hに対応する異方比は、図13に示すように、1.2が必要となる。
図13に示すように、異方比1.2以上を本発明は選択したものであるが、従来周知の等方性炭素黒鉛質基材は異方比1.0である。図13から判るように、異方比1.5の試験品は摩耗量5.4μm/hに対し、従来の異方比1.0のものは13.6μm/hとなり約1/2.5倍の摩耗量となる。また、異方比1.8のものは摩耗量2.95μm/hとなることにより、約1/4.6倍の摩耗量となることが判った。前記のとおり、本実施形態においては異方比を1.2以上と規定したものである。
次に、炭素黒鉛試験材のX線回折による黒鉛結晶の配向を示す異方比の測定を行った。その結果を表2に示す。なお、この測定は、リガク社製X線回折装置(RINT2500HL)を使用して行った。この測定は、CuX線源を使用してX線出力50kV(250mA)の条件で行った。X線回折装置における光学系としてはモノクロメータ付き集中ビームが使用され、スリットDSは0.5deg、スリットRSは0.3mm、スリットSSは0.5degに設定された。
ここで参照する図14は、プレス成形される時にできる黒鉛結晶の(110)面を最大限に活用した試験片の斜視図である。
ここでの異方比とは、X線回折で(004)面と(110)面のピーク積分強度および積分強度比に依って摺動試験面とその直角面の積分強度比を求めた時のそれぞれの比率を異方比と定義したものである。つまり、異方比は、前記した式(1)で求められる。
表2に示すように、従来例1の等方性炭素黒鉛質基材からなるブロック形状のものは、異方比が1.025に対し、実施例1の円柱状成形体のものは1.791であることが判った。
次に、本実施形態での軸受に使用される炭素黒鉛質基材からなる円柱体基材より採取された試験片について摩擦摩耗特性、および機械的特性が、従来の等方性炭素黒鉛質基材と対比された。
ここでは、まず試験片について説明する。図15は、円柱体基材における試験片の採取位置を示した模式図である。図15に示すように、試験面を暗色で示す横方向のA面はプレス成形に依って黒鉛結晶の網面が高密度に配向している面で、X線回折による(004)面が集中的に配向している面である。
一方、試験面を暗色で示す縦方向のB面は前記A面の直角方向に当り、(004)面が最も少なく(110)面が最も多く配向している面である。
次に、このような試験片Tについて前記した摩擦摩耗特性、および機械的特性が評価された。まず、それぞれの試験片Tの斜線面を摺動面として相手材(SCM)を円筒状に作り、冷媒R410Aのガス中で摩擦摩耗試験が行われた。その結果を表3に示す。なお、R410Aのガス中での摩擦摩耗試験の試験法は、後記する金属充填炭素黒鉛質基材の摩擦摩耗評価試験法と同じである。
表3に示すように、実施例3(成形圧−3%)でB面を摺動面とした場合、試験片Tの摩耗量は従来例2の等方性炭素黒鉛質基材の試験片Tと同等で相手材の摩耗量は従来例2の等方性炭素黒鉛質基材の1/3以下となるが、実施例4でA面を摺動面とした場合、試験片Tの摩耗量は従来例2の1.65倍に増大する。
また、成形圧−5%でB面を摺動面とした実施例5は、試験片Tの摩耗量は従来例2の2.2倍、相手材の摩耗量は2.5倍に増大する。なお、この時の実施例5の摩擦係数は従来例2より1.4倍に増大している。これは、図12で説明したように、空隙率の関係で生じるものである。すなわち、成形圧を−3%から−5%に落とすと圧粉密度が落ち、空隙率が拡大し機械的強度の低下や実試験の試験面圧上昇と、黒鉛結晶の強制配向度とが小さくなるためと考えられる。
また、実施例3のB面の熱伝導率(W/m・K)は、実施例4のA面と比較して約1.16倍良くなる。これは、黒鉛の異方比をマクロ的に表している。更に実施例2(成形圧−0%)は、従来例2の等方性炭素黒鉛質基材の試験片Tと比較して試験片Tの摩耗量が1/1.5で、相手材の摩耗量が1/3となり、優れていることが確認できた。これは、本実施形態における黒鉛結晶の配向の効果である。
また、実施例2(成形圧−0%)の機械的特性は、従来例2の等方性炭素黒鉛質基材と圧環荷重(圧環強さ)が同等で、曲げ強さ、硬さはやや低いが、実用上問題ないレベルであることが判った。また、軸受として必要とする曲げ強さ、圧縮強さの規制が、従来のものでは明確化されていない。すなわち、圧入時に軸受にかかる曲げ強さ50MPa以上は圧環荷重150N(圧環強さ18.6MPa)以上に相当し、本実施形態はこれを規定するものである。また、圧縮強さ180MPa以上は、軸受とシャフトの耐荷重性に相当するもので、すなわち、この圧縮強さが弱いとシャフト(軸)が破壊されて異常摩耗の発生原因となる。強い場合、その損傷が極めて小さく維持できるので信頼性が確保できることが判った。
次に、本実施形態での軸受に使用される炭素黒鉛質基材の熱化学安定性試験の結果について説明する。
空気調和機、冷蔵庫および給湯機などに使用する代表的な冷媒と冷凍機油(粘度グレード)の組合せにおいて、シールドチューブテスト(150℃ 40日)が実施された。そして、外観、溶出物の低温析出性(−40℃)、冷凍機油の劣化による全酸価の上昇、および炭素黒鉛質基材の曲げ強さの変化が検討された。その結果を表4に示す。
表4に示すように、R410A、R134a、R407C、R404AのHFC冷媒と、エステル系油(POE)およびポリビニルエーテル油(PVE油)の適合性評価において、冷凍機油、低温析出性、曲げ強さとも異常が認められない。また、R600aやR290の炭化水素系冷媒と鉱油(MO)の組合せにおいても、前述と同様に異常が認められなかった。更に、R744(CO2)、R717(NH3)とPAG、MOの組合せで高圧容器を用いて同様な試験を実施し、試験後に取り出した後に新たにR134aを封入し低温析出性試験を実施したものにおいても異常は認められず良好なことが判明した。これらのことから、前記冷媒と冷凍機油の共存下で用いられる冷媒圧縮機の軸受材として、実用的に適合していることが明らかになった。
また、焼成した炭素黒鉛質基材は、空孔が存在するため、摩擦摩耗特性と機械的強度特性が過酷な運転状態となると低下する課題があった。これは、潤滑油が前記空孔より浸透して油圧分布が低下するためと考えられる。
以下、この点の改善について図16から図18を用いて説明する。なお、図16は、多孔質炭素黒鉛質基材の軸受モデルを示す概念図で、(a)は金属充填前のモデルを示す概念図であり、(b)は金属充填後のモデルを示す概念図であり、(c)はジャーナル軸受の潤滑モデルを表す図である。図17は、充填金属の状態図および機械的特性を表す図である。(a)は銅−スズ系の固溶体における機械的特性(引張強さ:σB、硬さ:HB、伸び:δ)の関係を示す図であり、(b)は銅−スズ−リンの3元系の金属状態を示すもので、本実施形態でのα固溶体の面積範囲とα+Cu3Pの面積範囲を示す図である。図18は代表的な充填金属の電極電位を示す図である。
まず、図16(a)に示すように、軸受20は、金属充填前の多孔質空孔を有する炭素黒鉛質基材を加工して作られた軸受であり、軸21は、焼入れ硬化した軸であり、時計方向(右回り)に前記軸受20内を低速から高速の範囲(図16中、Nで示される回転速度が、例えば、800〜8000rpm)で回転する。符号22は、冷凍機油と冷媒で混合された潤滑油で、この潤滑油22は、軸21の回転によって軸21と軸受20との間に引き込まれてクサビ作用が働いて、軸21を図16(a)に示すように持ち上げる。この持ち上げる力が軸荷重Pに打ち勝てば、いわゆる流体潤滑となり金属接触を防ぐことができる。つまり、接触による軸受の摩耗を防ぐことができる。ところが、軸荷重Pが高かったり潤滑油粘度が低かったりすると、クサビ作用による油圧が軸受に浸透し、油圧分布が低下する。この状態では十分な流体潤滑が維持出来なくなる。つまり、図16(c)に示すように、境界潤滑領域と流体潤滑領域が混在する、いわゆる混合潤滑領域に入ってしまう。この状態は、前記したように、過酷な運転状態等により発生するもので、通常運転時では問題とならない。本実施形態に係る図16(b)に示す軸受20aは、多孔質孔に金属で充填した後のものである。この軸受20を使用すると、潤滑油の浸透を極めて小さく抑制することができる。つまり、油圧分布Bは、充填前の油圧分布A(図16(a)参照)に比較して大きく改善される。これを示したのが油圧分布A、および油圧分布Bの大きさである(図16(a)(b)参照)。
次に、冷媒圧縮機を急速に高速回転に上げる、いわゆる過酷運転について説明する。冷媒圧縮機は、給油方式が異なっていても、運転開始時には、軸受20と軸21との間には油膜が形成されていない状態である。この油膜がない状態(タイムラグ)で軸21を回転させると金属接触を起こして発熱し、摩耗やカジリ現象に到達する。また、冬場の暖房運転モードにおいては冷媒が空調機の室外機に凝縮して偏在するために、冷媒圧縮機の中の低部(底部)に集まって所謂寝込み状態を形成する。この底部に存在する冷媒は、軸21を通じて軸21と軸受20の間に給油される。この冷媒を多量に含む潤滑油は、粘度が極めて低く油膜の形成が極めて小さく境界潤滑となる。この状態において運転すると、金属接触をおこして発熱に伴い冷媒や冷凍機油が分解し、いわゆる腐蝕摩耗やカジリ現象が発生する。これらの摩耗やカジリ現象を無くすために、本実施形態に係る図16(b)に示す軸受20aでは、炭素黒鉛質基材の空孔部に耐摩耗性および耐腐蝕性を考慮し、長期信頼性を確保した最適な金属を選定し、充填を図ったものである。なお、従来の軸受は、炭素黒鉛にIB族、Feを除くVIII族およびSnから選ばれる1種の金属、またはこれらの金属を主にした合金を充填させたものである。
次に、長期信頼性を確保して耐摩耗性および耐腐蝕性を改善する充填金属の選定について説明する。
炭素黒鉛は貴なる物質で、卑なる金属との間では冷凍サイクルおよび冷媒圧縮機のように微量の水分が存在する場合には、電気化学作用によって腐蝕や冷媒の分解が加速されることが考えられる。充填金属の選定は、各種充填候補金属を水分100ppm含む冷凍機油(エステル系)中に浸漬し、250℃、1時間保持した場合の冷凍機油の化学的変化を検討して行った。その結果を表5に示す。
表5に示すように、Pb(鉛)、活性物質(フラックス)を含むSn(スズ)ハンダは、脂肪酸濃度が異常に高くなり使用不可であることが判った。一方、Al(アルミニウム)は脂肪酸が少ないが充填時に基材と反応して複合炭化物を生成するため、充填金属としては適さない。また、Cu(銅)は脂肪酸が少ないが軟質であるために補強による機械的強度の改善が乏しい。更に、Zn(亜鉛)およびSn(スズ)はCu(銅)の2倍ほどに脂肪酸濃度が上昇する。
また、油中溶質金属はPb(鉛)が36ppm、Snハンダが16ppm、その他の金属は何れも0.1ppm以下(検出限度外)であり、短時間の試験では0.1ppm以下の金属間での有意差を見付けることはできなかった。
本実施例は、Cuの欠点である機械的強度を上昇させ、なお且つ炭素黒鉛質基材と化学反応を起こさせないためにSn(スズ)、Zn(亜鉛)、Si(ケイ素)等の金属を合金化すると共に、脂肪酸の生成を抑制するためにα固溶体の範囲を特定し充填することにした。α固溶体としては、Cu(銅)−2.3%Be(ベリリウム)、Cu(銅)−5.0%Si(ケイ素)、Cu(銅)−9.7%Al(アルミニウム)、Cu(銅)−12%Sn(スズ)、Cu(銅)−29%Zn(亜鉛)等があるが、Be(ベリリウム)、Si(ケイ素)およびAl(アルミニウム)は高温で炭素黒鉛質基材と反応性があり、充填時には反応を最小限に食い止める工夫が必要となる。Cu(銅)とSn(スズ)およびZn(亜鉛)は、融点近傍の充填作業温度では反応が極めて少なく、作業に適している。したがって、ここではCu(銅)−Sn(スズ)系の合金で述べる。
ここで参照する図17は、充填金属の状態図および機械的特性を表す図であり、(a)は銅-スズ系の固溶体における機械的特性(引張強さ:σB、硬さ:HB、伸び:δ)の関係を示す図、(b)は銅-スズ-リンの3元系の金属状態を示すものであって、本実施形態でのα固溶体の面積範囲とα+Cu3Pの面積範囲を示す図である。図18は、代表的な充填金属の電極電位を示す図である。
Cu(銅)−Sn(スズ)系の合金は、図17(a)および(b)に示す金属状態図と機械的特性との関係になり、α固溶体はSn(スズ)が約12%の範囲となる。この時の引張強さσBは約1.8倍となり、硬さが約1.6倍となり空孔を充填することによる改善効果が得られる。一方、Cu(銅)のα固溶体は先に述べた溶出Zn(亜鉛)、Sn(スズ)、Si(ケイ素)等の卑金属がCu(銅)の組織の中に固溶しているため、このものの腐蝕電位は、図18に示すように、見掛け上は純銅と同じレベルの電極電位となる。すなわち、α固溶体は機械的強度が大幅に改善すると共に純銅並みの耐蝕性を有することが可能であり、特に冷媒圧縮機や冷凍装置において炭素黒鉛質基材の電極電位とCu(銅)のα固溶体の電位差を小さくすることが可能となり、腐蝕を伴う信頼性を大幅に改善することができる。
また、表5に示すように、本実施形態の軸受に使用することができる青銅[Cu(銅)+Sn(スズ)]、リン青銅[Cu(銅)+Sn(スズ)+P(リン)]、リン銅[Cu(銅)+P(リン)]は、純銅に近似した低レベルの脂肪酸濃度に留めることが可能である。更に、α固溶体の機械的強度を増強する手段として、P(リン)をCu3Pの形で固溶若しくは部分的に析出させることにより、炭素黒鉛質基材の特性を損なうことなく機械的強度および耐摩擦摩耗特性を改善することが可能であり、本実施形態での一つの目的である。なお、充填実験に用いた代表的な銅合金は、JIS(日本工業規格)のBC3、PBC3、BCuP2である。なお、組織を強くする金属を10〜50質量%充填させたことを検証するには、例えば、後記する金属充填前および金属充填後の軸受(図20(a)および(b)参照)の一個当りの質量を、充填後の質量から充填前の質量を差し引いて金属量を求め、これを充填後の質量で除せば良い。ここで10〜50質量%に規定する理由は、作業性の最も良い所を選んだ結果であり、50質量%を超えるもの、および10質量%以下のものを作ることは現状の充填炉では難しいためである。また、10質量%以下になると作業性が悪くなることはもちろん、機械的強度或いは摩擦摩耗特性が大幅に低下するためである。
次に、Cu(銅)のα固溶体を形成する銅合金を炭素黒鉛質基材に充填させる手段および充填後の材料特性を説明する。
図19は、Cu(銅)のα固溶体を形成する合金を真空高圧充填装置内で溶融し、炭素黒鉛質基材の空孔を高圧充填する一例を示す模写図である。図20(a)は、ブロック状の等方性炭素黒鉛質基材より切り出した断面が矩形状バー材を示す模式図、図20(b)は円柱または円筒状の異方性炭素黒鉛質基材を示す模式図である。図21(a)は、異方性炭素黒鉛質基材の金属充填前の顕微鏡組織図、図21(b)は、異方性炭素黒鉛質基材の金属充填後の顕微鏡組織図である。
まず、ここでは銅合金を炭素黒鉛質基材に充填する真空高圧充填装置について説明する。
図19に示すように、真空高圧充填装置23は、真空容器24内に金属溶融炉25と、吊カゴ26と、昇降機27を有するものである。そして、吊カゴ26内に被充填炭素黒鉛質基材をセットした後に真空高圧充填装置23内が真空引きされてガスが排出される。次いで、金属溶融炉25内のCu(銅)のα固溶体で銅合金が加熱溶融される。そして、この加熱溶融した銅合金の浴中に昇降機27を使って吊カゴ26内に被充填炭素黒鉛質基材が浸漬される。
次に、注入口28より窒素ガス等の不活性ガスを注入し、金属溶融炉25内圧力が、例えば10MPaの高圧に加圧され、この高圧が保持される。その結果、被充填炭素黒鉛質基材の空孔部分には、強制的に銅合金が充填されることとなる。加圧充填する圧力としては、図8(b)の空孔分布図に対応して、例えば直径1μmでは20MPa、2μmでは10MPaが必要とされる。通常の実績では、10MPaで空隙充填率が62〜90%となる。成形圧力が小さく、空孔も大きい場合は、1MPaでも約50%の充填が可能となる。
その後、吊カゴ26を上昇させて銅合金の固相線以下の温度まで冷却させて金属の凝固が完了する。その後、高圧のガスを大気放出させて真空高圧充填装置23内が常圧化される。この状態で、金属充填炭素黒鉛質基材は、真空高圧充填装置23内から取り出される。
ここで、本実施形態においては、炭素黒鉛質基材を、使用する形状に近い円筒状に成形したうえで銅合金の充填を行っている。そのため、最終使用形態の軸受に仕上げ加工を行った炭素黒鉛質基材の内周面と外周面の全周における銅合金の金属濃度は、ほぼ均一である。これは、以下の理由による。
円筒状の炭素黒鉛質基材に溶融された銅合金を充填した場合、外周面及び内周面から銅合金が充填されるため、内周面及び外周面の全周の金属濃度がほぼ均一となっている。したがって、機械加工仕上げ工程を行った場合であっても、内周面及び外周面の全周の金属濃度がほぼ均一となっている最終使用形態の軸受が得られる。
一方、円柱状の炭素黒鉛質基材の場合、外周面から円柱の中心に向かって銅合金が充填されるため、円柱体内での銅合金の金属濃度は中心から外周面の距離に応じて、ほぼ均一である。したがって、機械加工仕上げ工程により、円柱体から円筒体に加工した場合であっても、内周面及び外周面の全周の金属濃度はほぼ均一となっている。また、金属充填前に円柱状の炭素黒鉛質基材を円筒体に加工した場合であっても、前記したように外周面及び内周面から銅合金が充填されるため、内周面及び外周面の全周の金属濃度がほぼ均一となっている。したがって、機械加工仕上げ工程を行った場合であっても、内周面及び外周面の全周の金属濃度がほぼ均一となっている最終使用形態の軸受が得られる。
冷媒圧縮機に使用する軸受は、図20(a)および(b)に示すように、例えば外径Φを19mm、内径Φを16.0mm、図示しない高さを15mmに設定したときに、バー材および円筒材から作製される。図20(b)に示す場合には、軸受は、前記円筒材が加工されて外径Φ20.5mm、内径Φ11.5mm、高さ25mmに作製される。なお、前記寸法は、クランプ代を含むために最終形状にプラスαされている例である。ちなみに、図20(a)に示す例では、バー材より円柱に加工する工程(図5のO−Step9参照)、円柱より円筒に加工する工程(図5のO−Step10参照)、および円柱を仕上げる工程(図5のO−Step10参照)を経て最終仕上り寸法とする例が示している。つまり、図20(a)中の一点鎖線で示す仮想線は、最終仕上り寸法を表している。
図20(a)に示すバー材と、図20(b)に示す円筒材とを比較すると、図20(b)に示す円筒材は、金属充填比で図20(a)に示すバー材の1/5となり、体積比で2/5となり、充填金属の炭素黒鉛質基材における有効面積比が13/60となっている。そして、図20(a)に示すバー材と、図20(b)に示す円筒材とを比較すると、浸漬時の熱汲出量、充填金属の持出量、充填時間、生産能力等で、本実施形態の軸受の製造方法(図5参照)が優れていることが実証された。
次に、金属が充填された炭素黒鉛質基材の機械的および物性的特性について、表6を用いて説明する。表6は、金属が充填された炭素黒鉛質基材の機械的および物性的特性をまとめた表である。
表6における従来例3は、表1に示されている、面積空隙率が平均10.86%の等方性炭素基材に青銅(BC3:P含有量0)を充填したものであって、面積充填率が7.66%、未充填に相当する面積空隙率が0.86%となった。そして、面積空隙充填率は90%となる。
以下、本実施例にかかる炭素黒鉛質基材として、表1に示される平均面積空隙率が9.07%で、円柱体の異方性炭素黒鉛質基材に金属を充填した実施例について説明する。
実施例6は、青銅(BC3)を充填したものであって、面積充填率が6.49%、面積空隙率が1.31%となった。そして、面積空隙充填率は83%となる。
実施例7は、リン青銅(PBC3:Pの含有量0.05〜0.5質量%)を充填したものであって、面積充填率が4.82%、面積空隙率が2.98%となった。そして、面積空隙充填率は62%となる。
実施例8は、リン銅(BCuP2:Pの含有量6.8〜7.5質量%)を充填したものであって、面積充填率が6.10%、面積空隙率が1.54%となった。そして、面積空隙充填率は80%となる。
次に、本実施形態での炭素黒鉛質基材として、表1に示される平均面積空隙率が9.07%で、円筒体の異方性炭素黒鉛質基材に金属を充填した実施例について説明する。
実施例9は、青銅(BC3)を充填したものであって、面積充填率が6.13%、面積空隙率が1.70%となった。そして、面積空隙充填率は78%となる。
実施例10は、リン青銅(PBC3)を充填したものであって、面積充填率が7.40%、面積空隙率が0.98%となった。そして、面積空隙充填率は88%となる。
実施例11は、リン銅(BCuP2)を充填したものであって、面積充填率が6.52%、面積空隙率が1.63%となった。そして、面積空隙充填率は80%となる。
また、表6に示されるように、実施例6〜実施例11の曲げ強さ、圧縮強さ、圧環強さ(圧環荷重)は、従来例3と比較して各項目とも強度差が小さく(ほぼ±5%以内)、軸受基材としての目標である、曲げ強さ50MPa以上、圧縮強さ180MPa以上が確保されていることが確認できる。さらに、圧環強さ(圧環荷重)として、外径Φ19mm、内径16mm、高さ14.3mmの円筒形の試験品で18.6MPa(圧環荷重で150N)以上が確保されることも確認できる。
図21は、表6における、異方性炭素黒鉛質基材の実施例7において、金属を充填する前(a)と充填した後(b)の顕微鏡組織図である。図21に於いて、黒い部分は空孔を示し灰色の海の部分は炭素黒鉛質基材を示している。なお、金属を充填する前の状態を示す図21(a)の組織図は、表3の実施例2で説明する成形圧を100%とした時の異方性炭素黒鉛質基材のB面を示している。そして、金属の充填後を示す、図21(b)の組織図は、表3の実施例2で説明する成形圧を100%としたときの異方性炭素黒鉛質基材のB面の空孔部分に金属を充填したときの顕微鏡写真を示す。白色部は充填された金属を示し、黒色部は未充填部を示している。即ち、機械的強度や潤滑油膜に関して支障を来している空孔に対して金属が62〜90%充填されている様子を示している。
以上のように、実施例に係る異方性炭素黒鉛質基材(表6に示す実施例6〜実施例11)は、面積空隙充填率が62〜90%であって、機械的強度や潤滑油膜に関して支障をしている空孔の62〜90%に金属が充填されることから、機械的強度や潤滑油膜に対する性能の改善を図ることができる。そして、機械的強度(曲げ強さ、圧縮強さ、圧環強さ)に関しては、軸受に要求される強度を満たしていることが確認された。
表7および表8は金属が充填された炭素黒鉛質基材の、冷媒と冷凍機油の混合物に対する熱化学安定性を評価したものである。
表7および表8に示される試験条件は、JIS K 2211(冷凍機油)で規定されるシールドチューブテストに準拠するものである。すなわち、水分が100ppm含まれる冷凍機油(エステル油)5mLと、冷媒(R410A)0.5gと、予めガラス管に入る大きさ(縦3mm×横4mm×長さ50mm)に作られた炭素黒鉛質基材とをガラス管に封入し、冷媒圧縮機における軸受の使用環境に想定した150℃×40日間の加熱試験を実施した。そして、加熱試験後の熱化学安定性にかかる信頼性を評価する。表7における実施例12は、リン青銅(PBC3)を充填した異方性炭素黒鉛質基材であって、実施例13はリン銅(BCuP2)を充填した異方性炭素黒鉛質基材である。そして、室温の状態および−40℃の環境に4時間放置した状態で目視によって外観チェックする溶質物の析出性試験、冷媒等によって冷凍機油が化学分解されたときの生成物である酸性物質量を確認する全酸価試験、冷凍機油中に存在する遊離脂肪酸量をガスクロマトグラフィで分析する脂肪酸試験、の各試験を加熱試験の前後に行った。その結果、加熱試験の前後で全ての試験結果に有意差がないことが確認できた。これは、従来例4(青銅(BC3)を充填した等方性炭素黒鉛質基材)と同等である。また、実施例12、13にかかる炭素黒鉛質基材を用いた曲げ試験においても、加熱試験前後で有意差がないことが確認できた。以上のことより、実施例での炭素黒鉛質基材を軸受の素材として使用することに、問題がないことが確認できた。
また、異方性金属充填炭素基材(縦3mm×横4mm×長さ50mm)と、HFC冷媒R134a、R407C、R404Aもしくは炭化水素(HC)冷媒R600a、R290(0.5g)の1種と、水分100ppmもしくは500ppmを含む冷凍機油(エステル油)5mLと、をガラス管に封入し、冷媒圧縮機における軸受の使用環境に想定した150℃×40日間の加熱試験を実施した。そして、加熱試験後の熱化学安定性にかかる信頼性を評価した結果を表8に示す。表8において、実施例14〜実施例27は、溶浸金属の欄に記載される金属を充填した異方性炭素黒鉛質基と、冷媒の欄に記載される冷媒と、冷凍機油の欄に記載される冷凍機油と、を組み合わせて試験することを示している。これらの結果においても、色相の変化、外観析出物の有無、曲げ強さ、全酸価とも、加熱試験後において異常が認められず、軸受として実用可能であることが確認できた。また、表7及び表8に示される評価と同じタイミングで行った、冷凍機油中の金属の分析において、Cu(銅)、Sn(スズ)、P(リン)は検出限度以下(<0.01ppm)であり、良好な耐蝕性が確認出来た。これは、冷凍機油に含まれる水分量の差(100ppm、500ppm)による有意差はなく、いずれの水分量においても同等の耐蝕性を示すことが確認出来た。
以上をまとめると、本実施形態に係る炭素黒鉛質基材はR410Aで代表されるHFC系冷媒(R134a、R404A、R407C等)とエステル系冷凍機油やR600a、R290で代表されるHC冷媒と鉱油(MO)との化学安定性に於いて、実用面で高い信頼性を有する。
次に、CO2冷媒(R744)とPAG系冷凍機油(水分150ppm)と充填金属炭素黒鉛質基材の試験片を金属製圧力容器に入れて、冷媒圧縮機の使用環境に於ける熱化学安定性に係る信頼性を評価した。なお、この時に使用したCO2冷媒の量は40g、冷凍機油の量は40mLであり、試験は150℃×40日間の加熱試験である。この試験においても、色相、曲げ強さ、全酸価等の試験項目において先に説明したブランクと比較して異常が認められなかった。なお、外観チェックの目視試験は前記金属容器中では出来ないので、前述した硬質ガラスチューブに試験後の冷凍機油と冷媒(R134a)を封入し、溶出した物質を目視判定したものである。ここでも、室温と−40℃において析出物がないことを確認した。また、アンモニア冷媒は銅との反応性が高いため、外観および低温析出性が悪く実用性がないことが判明した。
以下、図22から図25を参照して前記金属充填した炭素黒鉛質基材を空気調和機および冷凍装置等の冷媒圧縮機の使用環境を想定した摩擦摩耗特性について説明する。
図22は、摩擦摩耗試験片の配置を示す図である。図23は、気体冷媒としてのR410Aを使用した摩擦摩耗試験を行い、この試験で測定された摩耗量を従来例と実施例とで比較した図である。図24は、気体冷媒としてのR410Aを使用した摩擦摩耗試験を行い、この試験で測定された平均摩擦係数を従来例と実施例とで比較した図である。図25は、気体冷媒としてのCO2を使用した摩擦摩耗試験を行い、この試験で測定された摩耗量を従来例と実施例とで比較した図である。
摩擦摩耗試験片は、図22に示すように、固定片29と、可動片30とで構成されている。そして、固定片29は、軸受を想定し、可動片30は軸(HV450以上の鋼:例えばSCM415の浸炭焼入れ、面精度Rz=1.2μm以下)を想定している。また、固定片29と可動片30とを使用して評価試験を行うときには、冷媒圧縮機の運転雰囲気を想定し、冷媒の高圧雰囲気下で摩擦摩耗評価試験を行うことができる形状および大きさに固定片29および可動片30は形成されている。
前記固定片29および可動片30の評価試験の試験条件を表9に示す。
この試験条件は、無潤滑油状態を想定した境界潤滑運転下での過酷な加速試験条件としている。つまり、この試験条件は、試験面圧が軸受面圧に相当し、試験速度が軸の周速に相当する冷媒圧縮機の運転条件の中で、冷媒が圧縮機内に寝込み底部に貯留され、急速立上げ始動等で潤滑油が軸と軸受部に到達しない条件となっている。
次に、図23に示すように、実施例28〜34の異方性炭素黒鉛の円筒および円柱基材に、青銅(BC)、リン青銅(PBC)、リン銅(BCuP)を充填したものは、何れの場合においても従来例5の等方性炭素黒鉛質基材に青銅(BC)を充填したものに比較して摩耗量が約1/2に改善されていることが判った。また、実施例33および34の等方性炭素黒鉛質基材のブロック成形体にリン青銅(PBC)、リン銅(BCuP)を充填したものにおいても、従来例5の等方性炭素黒鉛質基材に青銅(BC)を充填したものに比較して摩耗量が低いことが確認出来た。これは、リン(Cu3P)が含まれている銅合金の配合効果である。すなわち、従来例5は、同じ等方性炭素黒鉛質基材であるがリンが入っていないため、軸受で摩耗量が6μm/2hであるのに対し、実施例33は5.1μm/2hである。また、実施例34は3.4μm/2hであった。したがって、実施例33、34においても従来例5、6に比較して摩耗量が改善されていることが判った。更にまた、従来例6は先に述べた黒鉛結晶化度が86%(実施例28〜34の黒鉛結晶化度は15〜50%)と大きく、機械的強度が低いので実施例28〜34と摩耗量の差が出たものである。
次に、図24に示すように、従来例5の等方性炭素黒鉛質基材に青銅(BC)を充填したものと比較して、等方性炭素黒鉛質基材にリン青銅(PBC)を充填した実施例34、リン銅(BCuP)を充填した実施例33、異方性炭素黒鉛質基材の円筒成形体に青銅(BC)を充填した実施例32、リン青銅(PBC)を充填した実施例31、リン銅(BCuP)を充填した実施例30、異方性炭素黒鉛質基材の円柱成形体に青銅(BC)を充填した実施例29、およびリン青銅(PBC)を充填した実施例28は、摩擦係数が充填金属のP(リン)の含有量に比例して小さくなっている。したがって、P(リン)入りでCu(銅)のα固溶体は炭素黒鉛質基材の網目状空孔に充填されて材料強度が上昇し、摩擦係数を低減する効果があることがわかる。
次に、図25に示すように、気体冷媒としてのCO2冷媒を使用した摩擦摩耗試験では、従来例の等方性炭素黒鉛質基材は、摩耗量が2μm/h以下となる。実施例の異方性炭素黒鉛質基材の摩耗量も2μm/h以下となる。また、等方性炭素黒鉛質基材に青銅を充填したもの(溶浸品)は、異方性炭素黒鉛質基材に青銅を充填したもの(溶浸品)とほぼ同じで、摩耗量が異常に増大する。この摩擦摩耗試験の条件としての試験面圧が20MPaになると、摩擦面で冷媒と充填金属でトライボケミカル反応を起こして摩耗が進行するので、この場合は無充填の基材単独の方がすぐれていることが判った。したがって、CO2冷媒中の摩耗に関しては基材、充填品とも等方性、異方性の有意差がなく、実用に供することができることが判った。
次に、実施例の異方性炭素黒鉛質基材を固定片29(図22参照)とし、試験面圧を変えて摩耗試験を行った試験結果について適宜図面等を参照しながら説明する。図26は、試験面圧を5〜15MPaの範囲で変えて、気体冷媒としてのR410A中で摩耗試験を行った結果を示す図である。なお、本発明が対象としている冷媒としては、前記したようにR134a、R410A、R407C、R404A等が挙げられるが、構成元素がC(炭素)、F(弗素)、H(水素)であり、環境下でのトライボケミカル反応に係わる腐蝕摩耗は、本試験で冷媒として使用されたR410Aに代表される。
また、本実施形態が対象としている冷凍機油としては、前記したように、POE(エステル油)、PVE(エーテル油)等が挙げられるが、本試験では冷凍機油としてPOEが使用された。
前記した気中摩耗試験(図23、図24参照)では、気体冷媒としてのR410A中で、一定の速度1.2m/s、試験面圧9.8MPaで行ったものであるが、ここでは、前記した気中摩耗試験の前後となる5MPaと15MPaで気中摩耗試験が行われた。その他の条件は、表10に示すように設定した。
また、耐荷重試験では、冷媒R410Aとポリオールエステル系冷凍機油(VG68)の混合潤滑油に試験片が浸漬され、試験面圧が1.8〜98MPaの範囲で連続的に増圧された。そして、試験面圧が98MPa(Max圧)となったところで耐荷重試験を終了して摩耗量が測定された。その他の条件は、表10に記載の通りである。
図26に示すように、従来例7では、試験面圧9.8MPaが試験面圧15MPaになると、急激に摩耗が上昇し16μm/hに至る。また、従来例8では、試験面圧が9.8MPaでの摩耗量が12μm/hであったものが、試験面圧が15MPaでは摩耗量が20μm/hに上昇する。実施例35では、試験面圧が9.8MPaでの摩耗量が2μm/h以下であったものが、試験面圧が15MPaでの摩耗量が14μm/hになる。また、実施例36では、試験面圧が9.8MPaでの摩耗量が2μm/h以下であったものが、試験面圧が15MPaでの摩耗量が3.7μm/hとなって実施例35の1/3以下になる。
図27は、面圧を1.8〜98MPaに変えて、冷媒および冷凍機油の混合液中での混合潤滑を想定して摩耗試験した結果を示す図であり、(a)は等方性炭素黒鉛(ブロック)の面圧と摩擦係数との関係を測定した図、(b)は異方性炭素黒鉛(円筒)の面圧と摩擦係数との関係を測定した図である。図28(a)および(b)は金属を充填した実施例の異方性炭素黒鉛の面圧と摩擦係数の関係を示す図、図28(c)は、金属を充填した従来の等方性炭素黒鉛の面圧と摩擦係数の関係を示す図である。図29は、図28(a)の試験結果における軸、軸受の摩耗量比較試験結果を示す図である。
図27(a)は、等方性炭素黒鉛質基材の耐荷重性を示しており、図27(a)に示すように、この摩耗試験では、試験面圧が23MPaから摩擦係数が急激に立上がり、摩擦面の破壊が生じて試験面圧60MPaで試験片自体が破断した。
図27(b)は、異方性炭素黒鉛質基材の耐荷重性を示しており、図27(b)に示すように、この摩耗試験では、試験荷重75MPaで試験片自体が破断した。この図27(b)の摩耗試験では、等方性炭素黒鉛質基材と同様な特性を示している。
図28(a)(b)および(c)は、異方性炭素黒鉛基材に金属を充填した場合の耐荷重性を示しており、図28(a)(b)および(c)に示すように、この摩耗試験では、異方性炭素黒鉛+リン青銅、および異方性炭素黒鉛+リン銅、ならびに等方性炭素黒鉛+青銅共に摩擦係数が、おおよそ0.1以下を推移した。そして、この摩耗試験では、油膜面の存在によって耐荷重性が飛躍的に向上することが判った。
図29は、図28(a)の試験完了時の摩耗量の代表例を示すものであり、図29に示すように、従来例9は固定片の摩耗量が80μm/2hであり、可動片の摩耗量が1.5μm/2hであり、従来例10は固定片の摩耗量が352μm/2hであり、可動片の摩耗量が3.2μm/2hである。
また、実施例37は固定片の摩耗量が5μm/2hで可動片の摩耗量が1.2μm/2hであり、実施例38は固定片の摩耗量が13μm/2hで可動片の摩耗量が2.5μm/2hとなった。
以上の試験結果により、冷媒圧縮機の過酷な運転条件下の混合潤滑状態および境界潤滑状態において、異方性炭素黒鉛質基材に青銅(BC)およびリン青銅(PBC)を充填したものは特に優れていることが確認された。
以上をまとめると、炭素黒鉛質基材の円柱若しくは円筒等の成形体のB面にP(リン)を含むCu(銅)のα固溶体が原料粒子の隙間の部分に充填し、この部分は機械的強度が高く、例えば青銅(BC)がHV117、リン青銅(PBC)がHV128、リン銅(BCuP)がHV105であり、これらが硬く脆い炭素黒鉛質基材(HV146〜211)を包み込む形となって炭素黒鉛質基材を補強しているものと思われる。
次に、以上の試験結果を有する実施例品を冷凍装置等のR410A冷媒圧縮機に組込み、冷媒を多量に封入しインバータ起動の高速断続運転による圧縮機限界耐力試験を行なった時の試験結果について説明する。試験結果では、従来品(等方性炭素黒鉛ブロック成形基材+青銅(BC)充填)および実施例(異方性炭素黒鉛円筒成形基材+リン青銅(PBC)充填)は、軸および軸受の各々の摩擦面に摺動の痕跡がほとんど認められず、摩耗量および油の劣化等において良好な結果を示した。同様にして冷蔵庫のおいては、レシプロ形圧縮機を用いてR600aと鉱油の組合せ、およびR134aとエステル油の組合せにおいて長期信頼性評価の結果、異常は認められなかった。更に給湯機においては、スクロール形圧縮機を用いてR744とPAG油の組合せにおいて長期信頼性評価の結果、異常は認められなかった。換言すると、通常の使用状態では実施例の軸受は従来実績のある冷凍装置或いは圧縮機の運転条件を満足し、更に前記のような過酷な試験で従来品より優れた特性を有することが確認出来たものである。
次に、通常の低荷重領域における軸受特性を明確にするため、図30(a)および(b)を参照しながら、図16(c)に示される特性を有する冷媒圧縮機内に貯留されている冷媒が溶解している冷凍機油の所定の温度での粘度(η)と、軸と軸受の試験面圧(P)と、周速(V)とを変えたときのゾンマーフェルト(Sommerfeld)数に対する摩擦係数の関係(ストライベック曲線)を、従来の炭素黒鉛質基材と実施例の炭素黒鉛質基材との比較で説明する。
図30(a)は、異方性炭素黒鉛質基材のストライベック曲線を示す図、図30(b)は、等方性炭素黒鉛質基材のストライベック曲線を示す図である。
前記ストライベック曲線を求める本試験では、40℃、冷媒(R410A)、冷凍機油(エステル系)の混合実用雰囲気中(粘度η:26×10−3Pa・s)で試験荷重が1MPa、2MPa、3MPaにおけるストライベック曲線が求められた。図30(a)および(b)から明らかなように、1MPaの低い試験荷重の場合には、ηV/Pが等方性炭素黒鉛質基材より異方性炭素黒鉛質基材が優れていることが判る。これは、基材の平均空隙率が、等方性が10.86%、異方性が9.07%(図8参照)であることに由来するものと考えられる。
次に、図31(a)および(b)を参照しながら、図16(c)に示される特性を有する冷媒圧縮機内の冷媒圧縮機内に貯留されている冷媒が溶解している冷凍機油の所定の温度での粘度(η)と、および軸と軸受の試験面圧(P)と、周速(V)とを変えた時のゾンマーフェルト数と摩擦係数との関係(ストライベック曲線)を、従来の炭素黒鉛質基材と実施例の炭素黒鉛質基材との比較で説明する。
図31(a)は、従来の等方性炭素黒鉛質基材のストライベック曲線を示す図、図31(b)は、従来の等方性炭素黒鉛質基材+青銅(BC)の金属充填等方性炭素黒鉛質基材のストライベック曲線を示す図である。
前記ストライベック曲線を求める本試験は、前記した従来の等方性炭素黒鉛質基材、または従来の金属充填等方性炭素黒鉛質基材で形成された軸受と軸を、HFC冷媒と冷凍機油とを代表したR410Aの所定量とともに封入した場合を想定して行った。
この際、冷凍機油の温度は40℃、60℃、および80℃に限定し、試験面圧は1MPa、2MPa、および3MPaに限定し、周速は0.012m/s〜1.2m/sの範囲に限定し、冷媒圧縮機内の実用粘度(η)9.5×10−3Pa・s〜26×10−3Pa・sの範囲に限定した場合を想定して行った。そして、この試験では、図22に示す固定片29と可動片30とが使用された。求められた各ストライベック曲線を評価した結果は次の通りであった。
図31(a)に示すように、等方性炭素黒鉛質基材は、ηV/Pが10[(Pa・s・m/s)/(GPa)]以下になると、摩擦係数は急激に増大し、このもの単独では高試験面圧、低速、低粘度の環境条件では軸受の摩擦による機械損失が大きい。このものは、ηV/Pが10[(Pa・s・m/s)/(GPa)]以上での使用が望ましい。
図31(b)に示すように、金属充填等方性炭素黒鉛質基材は、図31(a)と同様にηV/Pが1.2[(Pa・s・m/s)/(GPa)]以上での使用が望ましい。
図32(a)は、実施例に係るものであり、異方性炭素黒鉛質基材+リン青銅(PBC)の金属充填異方性炭素黒鉛質基材のストライベック曲線を示す図である。
図32(a)に示すように、この金属充填異方性炭素黒鉛質基材は、軸荷重が1MPaおよび2MPaにおいてηV/Pが0.9[(Pa・s・m/s)/(GPa)]で低摩擦領域を維持し、いわゆる流体潤滑状態となり軸および軸受の機械的損失を低減できるものである。したがって、初期なじみ性および潤滑油膜保持性が優れ、低粘度、低速回転(例えば1000rpm)、高荷重での使用に十分耐えられるものである。
図32(b)は、図32(a)のストライベック曲線を求めた試験条件のうち、温度60℃を温度80℃に変更し、粘度14×10−3Pa・sを粘度9.5×10−3Pa・sに変更した場合に求められたストライベック曲線を示す図である。これらの図31(b)、図32(a)および(b)の測定結果よりわかるように、冷媒と冷凍機油の共存する作動流体の潤滑条件が軸および軸受のゾンマーフェルト数の少なくともη(粘度または粘性係数)V(周速)/P(荷重)が、0.8[(Pa・s・m/s)/(GPa)]以上にすることが望ましく、本試験においては軸受機械損失が小さいことが確認できた。また、冷媒と冷凍機油が共存する作動流体の潤滑条件の軸および軸受のゾンマーフェルト数の平均面圧(軸荷重)が、少なくとも0.15〜20MPaの範囲で、軸受の摩耗量が小さいことが判る。以上の結果を踏まえて作製される軸受を備えた冷媒圧縮機であると、軸受の摩擦による機械損失が小さくなり、かつ摩耗量も減少する。そのため、この軸受によれば、冷媒圧縮機の音や振動が小さくなるとともに、ミスアライメントによる圧縮機室のシール性が良くなって、容積効率(ηV)の低下を防止することができる。この結果、この軸受によれば、省電力および信頼性の確保が可能となる冷媒圧縮機および冷凍装置が得られる。
図33は、炭素黒鉛質基材のストライベック曲線を模式化した図である。図33に示すように、金属の充填品は、無充填品に比較して、ηV/Pが同一の場合は摩擦係数が著しく改善され、特に摩擦係数の低い流体潤滑領域ができる。
なお、本実施形態での実機としての冷凍装置としては、例えば、家庭および業務用空気調和機、冷蔵庫、除湿機、給湯機、洗濯乾燥機、ショーケース、冷凍ユニット、自動車用空気調和機等が挙げられる。これらの実機においても本実施形態での軸受を使用することによって前記した信頼性が確保される。
ちなみに、これらの実機における信頼性評価は、次のようにして行われた。
例えば、冷蔵庫においては、レシプロ型冷媒圧縮機の軸受およびピストンに、本実施形態での異方性炭素黒鉛質基材にリン青銅(PBC)が充填されたものが使用された。なお、このレシプロ型冷媒圧縮機は、鋳鉄製のシリンダ、鋳鉄製の軸、および低合金鋼製のピストンピンを備えて構成された。そして、この冷蔵庫においては、このようなレシプロ型冷媒圧縮機に冷媒としての「R134a」200gと、冷凍機油としてのポリオールエステル259gとが封入され、40℃の恒温室にて寿命試験が実施された。
また、冷媒としての「R600a」100gと、冷凍機油としての鉱油234gとがレシプロ型冷媒圧縮機に封入された冷蔵庫についても同様に寿命試験が行われた。
その結果、いずれの冷蔵庫においても、良好な冷凍能力を発揮するとともに、軸、軸受、およびシリンダ等の摺動部材に異常な損傷が認められず、これらの冷蔵庫が高い信頼性を維持していることが確認された。
また、例えば、家庭用空調機においては、スクロール型冷媒圧縮機の旋回軸受および主軸受に、本実施形態での異方性炭素黒鉛質基材にリン青銅(PBC)が充填されたものが使用された。なお、このスクロール型冷媒圧縮機では、浸炭焼入れ鋼調質の軸が使用された。
そして、この家庭用空調機においては、このようなスクロール型冷媒圧縮機に冷媒としての「R410A」1450gと、冷凍機油としてのポリオールエステル407gとが封入され、吸込圧力1.03MPa、および吐出圧力3.19MPaの設定条件で暖房運転が行われた際の寿命試験が行われた。
その結果、この家庭用空調機は、良好な冷房能力および暖房能力を発揮するとともに、軸、軸受等の摺動部材の摩耗損傷が極めて小さく、この家庭用空調機は、実用上支障のないレベルで信頼性を維持していることが確認された。
また、ロータリ型冷媒圧縮機の軸受およびベーンに、本実施形態での異方性炭素黒鉛質基材にリン青銅(PBC)が充填されたものが使用された家庭用空調機について寿命試験が行われた。なお、ロータリ型冷媒圧縮機は、鋳鉄製の軸、および鋳鉄製のローラを備えて構成された。このようなロータリ型冷媒圧縮機に冷媒としての「R410A」1450gと、冷凍機油としてのポリオールエステル407gとが封入され、吸込圧力1.03MPa、および吐出圧力3.19MPaの設定条件で冷房運転が行われた際の寿命試験が行われた。
その結果、この家庭用空調機は、軸、ローラ等の摺動部材の摩耗損傷が小さく、この家庭用空調機は、実用上支障のないレベルで信頼性を維持していることが確認された。
また、例えば、ヒートポンプ式給湯機においては、スクロール型冷媒圧縮機の旋回軸受および主軸受に、本実施形態での異方性炭素黒鉛質基材にリン青銅(PBC)が充填されたものが使用された。なお、このスクロール型冷媒圧縮機では、浸炭焼入れ鋼調質の軸が使用された。
そして、このヒートポンプ式給湯機においては、このようなスクロール型冷媒圧縮機に冷媒としての「CO2」1150gと、冷凍機油としてのポリアルキレングリコール500gとが封入され、約80℃の給湯が連続的に行われる組込み試験が行われた。
その結果、このヒートポンプ式給湯機は、良好な沸かし能力を発揮するとともに、軸、軸受等の摺動部材に異常な摩耗は認められず、運転時に音、振動等の発生も認められなかった。
以上のように、質量換算で冷凍機油を1に対して冷媒を0.2以上の割合で封入された冷媒圧縮機を有する冷凍装置では、本実施形態での異方性炭素黒鉛質基材にリン青銅(PBC)が充填された軸受等の摺動部材と、軸等の相手材との間で、摩擦摩耗による異常な損傷が認められず、充分な冷媒圧縮機の性能を維持することができることが確認された。
本実施形態に係る冷凍装置R1,R2(以下、単に「冷凍装置」という)は、以上説明した構成を有するものであるから、次のような効果を奏するものである。
即ち、冷凍装置の冷媒圧縮機SC,RC(以下、単に、「冷媒圧縮機」という)に使用される摺動部材としての軸受2c,4a,15(以下、単に「軸受」という)においては、固定炭素90〜99質量%の異方性炭素黒鉛質基材が使用されている。この異方性炭素黒鉛質基材の細孔は、顕微鏡の面積空隙率が15%以下となっている。そして、この細孔の閉空孔を除く開空孔の半分以上に、リンを含有する銅の固溶体が充填されている。
このような冷凍装置では、冷媒としてハロゲン化炭化水素系冷媒、炭化水素系冷媒、自然系冷媒等を使用した場合に、金属が充填されていない炭素黒鉛質基材(面積空隙率15%以下)の混合潤滑における耐荷重性は、20MPaで摩擦係数が急上昇する。その一方で、P(リン)を含有するCu(銅)の固溶体を異方性炭素黒鉛質基材に充填したものは98MPaまで摩擦係数が小さくなるので、焼付き発熱が小さく信頼性の高い冷媒圧縮機および冷凍装置を構成することができる。
また、異方性炭素黒鉛質基材に充填するCu(銅)の組成は、Sn(スズ)を5〜15%、P(リン)0.1〜0.5%、残部がCu(銅)となっている。つまり、Cu3Pを固溶するP(リン)を0.1〜0.5%含むCu(銅)−5〜15%Sn(スズ)の合金は、α固溶体若しくはCu3Pを分散する組織を形成する。その結果、軸受は、その硬さがHV128となって機械的強度および耐摩擦摩耗性が改善される。つまり、冷媒圧縮機の耐力が向上することによって、冷凍装置は、その性能および信頼性が向上する。
また、また、冷凍装置では、異方性炭素黒鉛質基材に充填されるCu(銅)固溶体は、P(リン)0.01〜8.0%、残部がCu(銅)となっていてもよい。この軸受は、Cu3PとCu(銅)との固溶体、およびCu3PをCu(銅)Cu3Pに分散する組織となるので、硬さがHV105となって機械的強度および耐摩擦摩耗性が改善される。つまり、冷媒圧縮機の耐力が向上することによって、冷凍装置は、その性能および信頼性が向上する。
また、また、冷凍装置は、冷凍機油として、鉱油、ポリオールエステル油、ポリアルキレングリコール油、ポリビニルエーテル油、ポリアルファオレフィン油、およびハードアルキルベンゼン油から選ばれる少なくとも1種が使用されているので、軸受に含まれる、冷媒および冷凍機油に溶出する物質が極めて少ない。したがって、冷媒圧縮機は、その冷媒配管で、溶出した物質が析出して閉塞することが防止される。
また、冷凍装置は、使用される冷凍機油1質量部に対する冷媒の封入比率が、0.2質量部以上であるので、冷蔵庫は油1:冷媒0.5〜1、空調機は油1:冷媒1〜5などの封入比率となり、暖房運転時(冬季)に冷媒が冷媒圧縮機の底部に偏在する、いわゆる寝込み状態になっても、急速立上げに対応することができる。すなわち、インバータによって急速立上げした場合に生じる境界潤滑においても、軸受荷重が9.8MPaまで安定した軸受性能が確保でき、高性能、高信頼性の冷凍装置となる。
また、冷凍装置は、冷媒圧縮機の運転モードが、一定速または可変速であるので、運転モードが、急速立上げ条件で、冷媒圧縮機の軸の回転数が0〜8000回転/分の繰返し運転においても十分に耐える性能を有しており、高信頼性、高性能となる。
また、冷凍装置は、運転中の冷媒または油中の水分濃度が1〜1000ppmであるので、業務用空調機では水分が500〜1000ppm、家庭用空調機では水分が50〜500ppm、冷蔵庫では水分が1〜50ppmの使用環境に対して、軸受は化学安定性に優れ、冷凍機油の損傷や軸受の機械的強度の変化が極めて小さくなるので、高信頼性の冷媒圧縮機を有するものとなる。
また、圧縮機構がレシプロ形、ロータリ形、スクロール形、スイング形、スクリュー形で、軸受、ローラ、ベーン、ピストン等の摺動部品(摺動部材)として使用する冷媒圧縮機としたので、耐摩擦摩耗性や材料物性が優れ、摺動部品として使用することで高信頼性の冷媒圧縮機および冷凍装置を提供することができる。
また、冷凍装置は、使用する冷媒圧縮機の温度が、150℃以下であるので、E種の120℃、B種の130℃および短期間の加速試験の150℃の運転条件において軸受を組込んだ冷媒圧縮機が安定した性能と信頼性を有し、耐高温環境に優れたものとなる。
また、冷凍装置は、冷媒として、使用される冷媒が、R410A、R404A、R407C、R134a、および化学式CF3Iで示されるフッ化ヨウ化炭化水素系冷媒等のハロゲン化炭化水素系冷媒、R600a、R290等の炭化水素系冷媒、およびR744等の自然系冷媒を利用するので、軸受に含まれる、冷媒および冷凍機油に溶出する物質が極めて少ない。したがって、冷媒圧縮機は、その冷媒配管で、溶出した物質が析出して閉塞することが防止される。
また、冷凍装置は、冷媒と冷凍機油の共存する作動流体の潤滑条件が軸および軸受のゾンマーフェルト数の平均面圧(軸受面圧)が少なくとも0.15〜20MPaであるので、摩擦係数が少なく軸受の機械損失も少ない上、摩耗量も減少する為、音や振動も小さくなる。また、この冷凍装置は、ミスアライメントによる圧縮機室のシール性が良くなり、容積効率の低下を防止することができる。この結果、冷凍装置は、省電力および信頼性の確保が可能となる。
また、軸受は、炭素黒鉛質骨材および結合剤を含む混捏物を、使用する形状に近い形状に成形した成形物が焼成されて得られた炭素黒鉛質基材を使用した圧環強さが18.6MPa以上の軸受であって、前記炭素黒鉛質基材は、固定炭素90〜99質量%、灰分0.5〜10質量%、および揮発分1質量%以下からなり、X線回折による黒鉛結晶化度が15〜50%であり、黒鉛結晶の配向が、式(1)で示される異方比で1.2以上となっているので、焼成後の組成と特性とが明確になっており、耐摩耗性に優れたものとなっている。
また、実施形態での軸受は、所定の圧環荷重を満足し、摩耗量も従来の1/1.5〜1/3に低減されているので、振動、騒音の発生はもちろん、摩耗粉による給油流路詰まり、更には製品サイクルの摩耗粉による詰まりを最小限に抑えることができる。
また、実施形態での軸受は、曲げ強さ50MPa以上、圧縮強さ180MPa以上の炭素黒鉛質基材を使用した軸受であるから、前記した効果が得られる他、曲げ強さ、圧縮強さが規定されることによって、軸の異常摩耗の発生を防止できる。この結果、実施形態での軸受は、信頼性の高いものとなる。
また、実施形態での軸受は、前記混捏物が、無機充填剤を更に含むとともに、この無機充填剤は、Si、Fe、Mg、Al、およびCaから選ばれる少なくとも1種の酸化物を含むものであって、前記無機充填剤の焼成物のモース硬さが3以下になっているので、前記した効果が得られる他、高荷重時の耐摩耗性をさらに改善することができる。すなわち、硬さが低いことで軸の荷重で軸受が損傷したり、逆に硬さが高いことで軸が引掻かれて摩耗することが防止される。
また、実施形態での軸受は、無機充填剤を酸化物換算で0.5〜10質量%含有しているので、前記した効果が得られる他、無機質を適度に配合することにより、高荷重時の耐摩耗性を改善することができる。すなわち、Fe系の軸に対して軸受材が軟らか過ぎたり、硬過ぎることで軸を削ってしまうことがない。
また、実施形態での軸受は、炭素黒鉛質基材が、顕微鏡の面積空隙率を平均で15%以下となっているので、前記した効果が得られる他、軸受の摩耗量が減り、かつ炭素黒鉛室粒子間の結合強度が大きくなるので、機械的特性が向上する。
また、実施形態での軸受は、R410A、R404A、R407C、R134a、CF3I等のハロゲン化炭化水素系冷媒、R600a、R290等の炭化水素系冷媒、R744、R717等の自然系冷媒が使用され、そして冷凍機油として鉱油、POE油、PAG油、PVE油、PAO油、HAB油等の冷凍機油が使用されるとともに、これらの冷凍機油および冷媒に溶出する物質が1%以下であり、フロック点で析出物が析出しないように構成されているので、前記した効果が得られる他、使用環境において、結合剤等の炭化未反応物が軸受から低温時に溶出し、析出しない。そして、実施形態での軸受は、高温時に機械的強度の低下がなく且つ冷凍機油や冷媒の化学変化を抑制する。
図24に示すように、R410A気体冷媒雰囲気中の境界潤滑条件に於いて、P(リン)含有量が多くなるほど摩擦係数を小さくすることができる。本実施形態においては、リン銅もしくはリンを0.05〜7.5質量%含ませた銅のα固溶体を充填する炭素黒鉛質基材を用いて軸受を成形するため、摩擦係数が小さく、摩擦損失の少ない軸受を提供できるという優れた効果を奏する。
また、本実施形態は金属が充填される前の結晶化度が15〜50%である炭素黒鉛質基材を用いて軸受を成形する。図10および図11に示されるように、結晶化度が15〜50%の範囲にあっては、黒鉛のマトリックスの面積率が適度に抑えられ、摩耗量が少なくなる。したがって、耐摩耗性など機械的強度に優れた軸受を提供できるという優れた効果を奏する。
また、本実施形態においては、Cu(銅)のα固溶体が見掛け上、Cu(銅)と同位の電極電位を示すことに着目して、半金属のP(リン)をCu3Pの形態で含有し、機械的特性と耐蝕性を向上すると共に、耐摩擦摩耗性の向上を図った炭素黒鉛質基材を用いて軸受を成形する。したがって、耐摩耗性に優れた軸受を提供できるという優れた効果を奏する。
また、本実施形態においては、リン銅、もしくはP(リン)を含むCu(銅)のα固溶体に、Cu3Pを分散析出させて硬さがHV100以上に組織強化させた合金を前記炭素黒鉛質基材に20〜70質量%充填させた冷凍機の冷媒縮機用軸受としたので、充填金属は流動性が良好で容易に空孔に浸透するとともに、炭素質との反応生成物(金属間化合物)を作らず、耐摩擦摩耗性が向上した炭素黒鉛質基材を用いて軸受を成形する。したがって、耐摩耗性に優れた軸受を提供できるという優れた効果を奏する。
また、本実施形態においては、リン銅、もしくはP(リン)を含むCu(銅)のα固溶体で、かつP(リン)の含有量が0.05〜7.5質量%充填される前の炭素黒鉛質基材は、X線回折による黒鉛結晶化度を15〜50%とした冷凍機の冷媒圧縮機用軸受としたので、作業性を悪くすることなく機械的特性と耐蝕性並びに耐摩擦摩耗性に優れた冷凍機の冷媒圧縮機用軸受を得ることができるものである。
さらに、本実施形態においては、軸受のニアネットシェイプに成形した後、焼成して得られる炭素黒鉛質基材を用いて軸受に加工するため加工量が少なくて済み、加工に要する時間が短縮できるとともに、削りくずとして廃棄される量も少なくなることから製造コストの低減を図ることができるという、優れた効果を奏する。
本実施形態に係る軸受の製造方法は、炭素黒鉛質骨材および結合剤を含む混捏物を上下方向の一軸プレスである粉末成形機で円筒状または円柱状に圧縮成形し、得られた成形物を焼成した炭素黒鉛質基材のX線回折による黒鉛結晶化度を15〜50%とし、かつ圧環強さを18.6MPa以上とした軸受の製造方法である。詳説するならば、混捏混合した炭素黒鉛質骨材原料を、造粒と分級により適度な粒度分布をもたせたものを円筒成形金型に容積充填し、上パンチと下パンチによって成形圧力を均一に伝達させて、原料粒子間に生じる空孔を小さく緻密になるように圧粉成形する。このグリーン成形体(金型粉末成形工程で出来た成形体)を、適度の温度と時間をかけてコークス化、焼成と、黒鉛結晶化率が15〜50質量%におさまるように黒鉛化反応の生産管理が行われ、本実施例の異方性炭素黒鉛質基材が完成される軸受を提供することができる製造方法である。また、圧環強さが18.6Mpa以上であることから、実用強度を十分に満足する軸受を提供することができる製造方法である。
また、混捏物が、さらに無機充填材を含む軸受の製造方法としたものである。したがって、前記した効果が得られる他、高荷重時の耐摩耗性をさらに改善することができる。すなわち、軸の荷重で軸受が損傷したり、軸が引掻かれて摩耗することを防止することのできる軸受を提供することができる製造方法である。
また、炭素黒鉛質基材は、曲げ強さが50MPa以上であり、圧縮強さが180MPa以上である軸受の製造方法である。したがって、炭素黒鉛質基材は、原料粒子間の焼結結合と空隙分布を小さく製作管理することにより基材特性を改善し、金属充填後の曲げ強さや圧縮強さを規定値以上にした軸受を提供することができる製造方法である。
また、炭素黒鉛質基材が円筒状であって、この炭素黒鉛質基材に金属溶融体を充填し、機械加工仕上げ行程により、内周面及び外周面の全周の金属濃度をほぼ均一にした軸受の製造方法である。したがって、真空充填装置に円筒状の炭素黒鉛質基材を導入し、真空排気後、充填金属を液相線を上まわる温度で溶融し、浸漬後に高圧にして空孔部に充填させ、次に引上げて固相線温度以下の温度にまで冷却した後、常圧に戻して取出す製造方法は、軸受の内外周からの充填距離が短く均等に作用することから、軸受内外周面は安定した組織と18.6MPa以上の圧環強さを確保出来る軸受を提供することができる製造方法である。
また、炭素黒鉛質基材が円柱状であって、この炭素黒鉛質基材の中心を刳り貫いて円筒状に形成し、得られた円筒状の炭素黒鉛質基材に金属溶融体を充填し、機械加工仕上げ行程により、内周面及び外周面の全周の金属濃度をほぼ均一にした軸受の製造方法である。したがって、真空充填装置に円筒状の炭素黒鉛質基材を導入し、真空排気後、充填金属を液相線を上まわる温度で溶融し、浸漬後に高圧にして空孔部に充填させ、次に引上げて固相線温度以下の温度にまで冷却した後、常圧に戻して取出す製造方法は、軸受の内外周からの充填距離が短く均等に作用することから、軸受内外周面は安定した組織と18.6MPa以上の圧環強さを確保出来る軸受を提供することができる製造方法である。
また、顕微鏡で求めた面積空隙率が15%以下である前記炭素黒鉛質基材に、1〜20MPaの圧力で金属溶融体を高圧浸透した軸受の製造方法である。したがって、炭素黒鉛質基材の空孔分布は約1〜15μmの範囲であり、充填金属の表面張力と炭素黒鉛質基材との接触角により空孔径約1μmに対しては浸透圧力が20MPa以上、約2μmに対しては同様に10MPa以上の高圧を必要とすることが推算され、少なくとも空孔の50%以上の面積空隙充填率が得られる軸受を提供することができる製造方法である。これにより、軸受としての油膜保持性が改善され、境界潤滑を起こしにくくすることができる。
また、冷凍機の冷媒圧縮機用の軸受に使用されるものであって、抽出溶媒R141bに溶出する物質が1質量%以下である軸受の製造方法である。したがって、原料のコークス化が固定炭素で99質量%以上、充填にフラックスなど、機械加工に加工液を使用しないことから、溶出冷媒R141b試験において、軸受部品から溶出冷媒への溶出物質がで1質量%以下になるような製造管理が出来る。また、溶出に伴う冷媒配管障害の極めて少ない軸受を提供することができる製造方法である。
本実施形態にかかる冷媒圧縮機が有する炭素黒鉛質軸受に用いられる炭素黒鉛質基材は、顕微鏡観察により求めた面積空隙率が15%以下であるため、強度を保つことができる。また、固定炭素が90〜99質量%含まれていて、残りは灰分であるため、未分解原料が存在せず、強度の低下を防止できる。さらに、リンを含有する銅、もしくは銅合金が充填されているため、摩擦係数を小さくすることができる。以上のように、本実施形態においては、機械的強度に優れた炭素黒鉛質軸受を有する冷媒圧縮機を提供できるという、優れた効果を有する。
また、本実施形態にかかる冷媒圧縮機が有する炭素黒鉛質軸受においては、η・V/Pで示されるゾンマーフェルト数が0.8[(Pa・s・m/s)/(GPa)]以上となるようにしたため、軸受の機械損失を小さくできるという、優れた効果を奏する。
また、本実施形態にかかる冷媒圧縮機が有する炭素黒鉛質軸受の相手材となる軸材は、硬さがHV450以上であるとしたため、軸受の炭素黒鉛部HV146〜211、充填金属HV105〜128に対して摩擦係数が小さく摺動面温度を低く抑え、軸の摩耗や焼付きを極めて小さくすることができるという、優れた効果を奏する。
また、本実施形態にかかる冷媒圧縮機が有する炭素黒鉛質軸受は、圧環強さ18.6MPa以上、圧縮強さ180MPa以上の炭素黒鉛質基材を用いたため、鋳鉄もしくは鉄系焼結材のフレームに対して、相当の圧入荷重によって、確実に軸受を固着することができるという優れた効果を奏する。実機例で説明すると前記軸受部品は鋳鉄もしくは鉄系焼結材よりなるフレームの内側に対して圧入締代50〜150μmで圧入される。尚、この時の圧入荷重は1.5〜3kNである。こうしてできた軸受の締結力は、抜去力で1.5〜3.7kNが確保されている。この状態であると、150℃の高温使用においても十分な締結強度を確保していることを実機試験で確認している。
また、HFC冷媒としてR410A、R134a、R404A、炭化水素冷媒としてR600a、R290、自然冷媒としてR744、R717のいずれかを使用する冷媒圧縮機、およびポリオールエステル油、鉱油、ポリアルキレングリコール油、ポリビニルエーテル油、ポリアルファオレフィン油、およびハードアルキルベンゼン油の少なくとも1種類の成分からなる冷凍機油を使用する冷媒圧縮機としたので、軸受を循環する、冷媒と冷凍機油の混合物に溶出する物質が極めて小さく、冷媒配管への析出による影響(例えば、閉塞するなど)が極めて少ないという、優れた効果を奏する。
また、冷凍機油に含まれる水分の割合を、1〜1000ppmとしたので、化学安定性に優れ、軸受の腐蝕や損傷、炭素黒鉛質基材の機械的強度の変化が極めて小さいという、優れた効果を奏する。
また、冷媒と冷凍機油が混合された潤滑油の潤滑条件は、η(粘度または粘性係数)・V(周速)/P(荷重)で示される、軸と軸受とのゾンマーフェルト数(ηV/P)が、0.8〜50[(Pa・s・m/s)/(GPa)]の範囲にあること、とした冷媒圧縮機であるので、摩擦摩耗特性に優れ、軸の機械損失が小さく、軸受の摩耗量を小さくすることができるとともに、音、振動を小さくすることができるという、優れた効果を奏する。さらに、容積効率を高い水準で長期にわたり維持できるという、優れた効果を奏する。
また、金属を充填する前の炭素黒鉛質基材は、ミクロ的には硬くて脆く、炭素黒鉛層が機械加工や軸とのスラスト力の作用によって欠けや割れを発生するため、この空孔部分に金属を充填することとした。その結果、表3に示す炭素黒鉛質基材の特性値および表6に示す充填前炭素黒鉛質基材のように、例えば曲げ強さが金属を充填する前の炭素黒鉛質基材では75MPaであったのが、金属を充填することで110〜124MPaに上昇する。また、圧環強さを21.8MPa(圧環荷重で175N)から31.1MPa(250N)〜33.3MPa(268N)に改善でき、冷媒圧縮機の機械加工、圧入組立、実機運転に必要な要件を満たすことができた。
また、顕微鏡観察により求めた面積空隙率が15%になるように開口している空孔に金属を充填することによって、耐摩耗性を向上させる。すなわち、空孔に金属を充填することで空孔の連通する部分が消失するため、ジャーナル軸受を想定したストライベック曲線上の低摩擦係数の流体潤滑領域が図32(b)に示すように現われ、軸および軸受の機械損失を低減することが可能である。即ち、図31(a)に示されるように、ゾンマーフェルト数における、ηV/Pが1のとき、金属を充填しない炭素黒鉛質基材の摩擦係数が0.15であるのに対して、青銅(BC)を充填した異方性炭素黒鉛質基材の摩擦係数が0.05、リン青銅(PBC)を充填した異方性炭素黒鉛質基材の摩擦係数が0.02に下がり、安定した流体潤滑状態を示す。また、ηV/Pが1以下のときは、冷媒と冷凍機油とが混合した状態においては、冷媒R410A気中で、軸と軸受の摩耗特性は金属を充填しない炭素黒鉛質基材の摩耗量5.9μm/hを、青銅(BC)を充填した異方性炭素黒鉛質基材の摩耗量4μm/h以下に改善できる。
以上のように、本実施形態において耐摩耗性に優れた軸受を提供できるという、優れた効果を奏する。
また、銅合金のα固溶体の範囲は例えば図17(a)に示したように銅合金中のSn(スズ)が0〜12%の範囲に於いて、銅単独の特性と比べて引張強さσBと硬さHBを増大し、機械的強度の改善が図れる。一方、耐蝕性は見掛け上の単極電位で説明すると図18に示すようになり、電位が約20mV以下とほぼ一定の値を示すことから、特に貴なる電気化学的特性を有する炭素黒鉛質との電位差を小さく保つことができる。そして、表3、表4に結果が示される炭素黒鉛質基材の適合性評価試験と同様に極少量の水分を含む冷凍機油の中に金属充填炭素黒鉛質基材を浸漬し、各種の冷媒を封入したシールドチューブテスト若しくは圧力容器テストに於いて、実用環境に於ける影響を評価した結果は、表7、表8に示すごとくになる。HFC冷媒であるR410A、R407C、R134a、R404Aと冷凍機油の組合せと、HC冷媒であるR600a、R290と冷凍機油の組合せと、CO2冷媒のR744と冷凍機油の組合せに於いて、本実施形態にかかる、炭素黒鉛質基材にリン青銅またはリン銅を充填した炭素黒鉛質基材は、外観、低温析出性、全酸価および曲げ強さの変化率が小さく、実用上問題とならないレベルであることが判った。