JP4389022B2 - Yil169c、yol155c、muc1遺伝子を利用した醸造用酵母の判別法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、酵母の判別に関するものであり、更に詳細には、醸造用酵母の判別、分類、同定に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
醸造用酵母としては、ブドウ酒酵母、清酒酵母、焼酎酵母等いくつかの種類の酵母が使用されており、また更にこれらの各酵母の内、例えばブドウ酒酵母としては協会ブドウ酒酵母1号、3号、4号等が使用され、また清酒酵母も協会7号、9号、AW10号酵母等が使用され、焼酎酵母も協会焼酎酵母SH4、鹿児島酵母K2、宮崎酵母MK、泡盛酵母等が使用されている。
【0003】
しかしながら、これらの醸造用酵母はいずれもサッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に分類されるものであって、同一種に属し醸造に使用されるため、通常の菌学的性質は共通しており、これらの酵母を短時間に且つ正確にそれぞれ区別することはきわめて困難である。したがって、現時点においては、酵母を小仕込試験するなどして、その醸造特性から判別したり、薬剤や培養条件を変えることで酵母を判別したりする方法で酵母の判別を行わざるを得ないのが実情である。しかしながら、これらの判別方法は、酵母を実際に培養したり、実際に仕込みを行ってその醸造特性を確認したりする必要があるため、判別に相当の時間を要することは不可避であり、当業界においてその改善が求められている。
【0004】
一方において、Saccharomyces cerevisiae S288C株由来の遺伝子として、MUC1遺伝子、YIL169C遺伝子、YOL155C遺伝子は、それ自体は既知であって、MUC1遺伝子は酵母の凝集性に関与するものの、他の2つの遺伝子は、いずれもその機能が明確でない(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、プライマーに関してはLA−1プライマーが既知となっているが、これを利用した酵母の判定は行われておらず(例えば、非特許文献2参照)、結局現時点においては、遺伝子に着目した酵母の判定法として成功した例は、本発明者らが先に出願した特願2002−45773号(平成14年2月22日出願)以外には報告されていない。
【0006】
【非特許文献1】
Lye, G., Bowan, S., Churcher, C., インターネット<URL: http://genome-www. Stanford.edu/Saccharomyces/>
【0007】
【非特許文献2】
Miguel B. L. Alison, S. Paul, A. H, and Peter L.、 「Applied and Environmental Microbiology」 1996、p.4514-4520
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
このように、実際の酒類製造の現場において、そしてまた試験研究機関において、短期間で正確且つ簡易な酵母の判別システムの確立は従来より重要な課題である。本発明は、このような技術の現状に鑑み、例えばブドウ酒酵母と焼酎酵母、ブドウ酒酵母と清酒酵母といった異なった用途の酵母間だけでなく、その判別が非常にデリケートで難しい、例えば協会ブドウ酒酵母1号、3号、4号といった同一用途の酵母間においても、それを短期間で正確且つ簡易に判別できるシステムの開発というきわめて解決困難な技術的課題をあえて新規に設定した。そして、本発明者らは、この技術的課題を解決するのに成功し、その成果を先に特許出願したところであるが(特願2002−45773号)、本発明は、この先願に係る発明を更に改良する目的でなされたものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであるが、先ず、上記した本発明者らの開発に係る先願発明の概要は、次のとおりである。
【0010】
すなわち、先願発明は、遺伝子を利用する方法に着目してなされたものであって、本発明者らは、既に報告されている非特許文献2(Miguel. B.L. AIison, S. Paul, A. H, nd Peter L. Applied and Environmental Microbiology (1996) p.4514-4520)に係るLA−1 primer(gcgacggtgtactaac)を用いて焼酎酵母のゲノムDNAに対してPCR法により増幅したところ、500bp付近に増幅されたDNAのバンドに特徴を認めた。更にこのDNA断片をクローニングし、塩基配列情報を決定したところ、YIL169C遺伝子の一部であることをはじめて見出した。この新知見に着目して、本発明者らは更に研究を続けた結果、YIL169C遺伝子が醸造用酵母で異なることを発見した。
【0011】
このように、先願発明は、YIL169C遺伝子が醸造用酵母で異なることを発見し、これら有用な新知見に基づき、更に検討の結果完成されたものであって、YIL169C遺伝子に基づいた醸造用醸母の判別、確認、検出システムにも関与するものである。YIL169C遺伝子自体は既知であるが(非特許文献1:文献名Lye, G. Bowman, S. and Churcher, C. unpublished、ただし、インターネットにて公表)、YIL169C遺伝子に着目した酵母の判別は行われておらず、また、YIL169C遺伝子が醸造用酵母間で異なることも報告されていない。ましてや、異なった種類の醸造用酵母はもとより、同一種類の酵母さえもきめ細かく判別することができることなど全く報告されておらず、先願発明が最先である。
【0012】
すなわち、先願発明は、サッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する醸造酵母のゲノムDNAを用いて、PCR法によりYIL169C遺伝子の一部又は全部を増幅させ、その増幅される断片の長さ、数の違いにより、その醸造用酵母の判別を行う点を基本的技術思想とするものである。
【0013】
先願発明においては、醸造用酵母のゲノムDNAをYIL169C遺伝子の一部又は全部を増幅させるプライマーを用いて、PCR法にて増幅させ、それら増幅させた遺伝子断片を直接アガロースゲル電気泳動又は制限酵素処理したのちアガロースゲル電気泳動することで、その泳動パターンを観察すればよいので、作業が容易かつシンプルである。また、特定の遺伝子(この場合YIL169C遺伝子の一部又は全部)を増幅させるプライマーを用いることで、PCR法での増幅で得られるDNA断片の種類も安定している点など、優れた点が多い。
【0014】
そして、今回、本発明者らは、上記した先願発明について改良を加えるとともに、更に研究を行った結果、YIL169C遺伝子以外に、醸造用酵母の判別法に利用可能な遺伝子として、YOL155C遺伝子及びMUC1遺伝子を新たに見出した。これらの遺伝子は、いずれもSaccharomyces cerevisiae S288株(Invitrogen(株)より販売)由来であるが、MUC1遺伝子については、酵母の凝集に関与することは知られているものの、他の遺伝子については、それらの機能は不明である。また、YIL169C遺伝子についても更に深く研究を進めた結果、先願に係るプライマー以外のプライマーもPCR法によって酵母の判別に利用できることも新たに見出した。
【0015】
本発明者らは、各方面から検討した結果、YOL155C遺伝子が、YIL169C遺伝子と相同性が高いことに着目し、YIL169C遺伝子の多様性の性質を同様に有するのではないかという観点にはじめてたち、この観点にたって実験を行ったところ、YOL155C遺伝子にもPCR法による酵母の判別が可能であることをはじめて確認した。
【0016】
また、観点をかえて、相同性ではなく、他の観点からYOL155C遺伝子及びYIL169C遺伝子について詳細に検討した結果、両遺伝子ともに、酵母の増殖に必須遺伝子でないこと、YOL155C及びYIL169Cタンパク質は分子内に繰り返しされる短いアミノ酸配列を有することなどの共通した特徴を有することをはじめて見出し、YOL155C、YIL169C遺伝子と相同性を有さない遺伝子の中から、これらの特徴を有する遺伝子を検索した結果、MUC1遺伝子を見出し、実験を行った結果、醸造用酵母の判別法に利用可能であることも確認した。
【0017】
以上の結果から、本発明者らは、酵母の遺伝子配列のうち、遺伝子が、酵母の増殖に必須遺伝子でないこと、遺伝子にコードされているタンパク質分子内に繰り返し配列を有することなどの共通した特徴を有していれば、醸造用酵母の判別法に利用可能であることをはじめて確認した。
【0018】
本発明は、これらの有用新知見に基づいてなされたものであって、サッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する醸造酵母のゲノムDNAを用いて、PCR法によりYIL169C、YOL155C、MUC1遺伝子の一部又は全部を増幅させ、その増幅される断片の長さ及び/又は数の違いにより、その酸造用酵母の判別を行う点を基本的技術思想とするものである。
【0019】
すなわち、本発明は、YIL169C、YOL155C、MUC1遺伝子が醸造用酵母で異なることを発見し、これら有用な新知見に基づき、更に検討の結果完成されたものであって、YIL169C、YOL155C、MUC1遺伝子に基づいた醸造用酵母の判別、確認、検出システムにも関与するものである。
【0020】
本発明においては、酸造用酵母のゲノムDNAをYIL169C、YOL155C、MUC1遺伝子の一部又は全部を増幅させるプライマーを用いて(但し、YIL169C遺伝子については、上記した先願発明に係るプライマーは本発明から除外される。)、PCR法にて増幅させ、それら増幅させた遺伝子断片を直接アガロースゲル電気泳動することで、その泳動パターンを観察すればよいので、作業が容易かつシンプルである。また、特定の遺伝子(この揚合YIL169C、YOL155C、MUC1遺伝子の一部又は全部)を増幅させるプライマーを用いることで、PCR法での増幅で得られるDNA断片の種類も安定している点など、優れた点が多い。
【0021】
本発明の実施にあたり、プライマーとして、今回本発明者らがはじめて開発すするのに成功したプライマーA〜O(それらの塩基配列を配列表の配列番号1〜15(図1)に示す。)を選択、使用し、酵母のゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行うのであるが、プライマーとしては、上記したブライマーを合成して用いてもよい。YIL169C、YOL155C、MUC1遺伝子は、実験室用酵母S288C strain(Invitrogen(株)より購入)より得ることができ、これより切り出してもよい。プライマーとしては、判別しようとする酵母に応じたものを適宜選択して使用すればよく、酵母によってはA〜O以外のプライマーをYIL169C、YOL155C、MUC1遺伝子から設計し、合成して用いてもよい。PCRは常法にしたがって行えばよく、その結果、目的とする遺伝子断片を得ることができる。
【0022】
このようにして増幅して得た遺伝子断片は、これを直接アガロースゲル電気泳動して、その泳動パターンを観察することにより、酵母の判別をすることができる。プライマーの種類、組み合わせを選択することにより、酵母に特有な明確な泳動パターンが得られる。また、所望するのであれば、PCRにて増殖された遺伝子断片を制限酵素(例えば、RsaI)で切断し、これを電気泳動してその泳動パターンを観察することによっても、酵母の判別を簡便且つ明確に行うことができる。
【0023】
したがって、本発明によれば、プライマー、鋳型に用いるゲノムDNA、増幅されたDNA断片、その制限酵素消化物の少なくともひとつについて、その種類を変えることによって、各種の醸造用酵母の判別、同定が可能となり、あるいは逆に、特定の醸造用酵母を判別、同定するためには、プライマー等を選別すればよく、酵母のバリエーションが出るようにあるいはそれに対応するようにプライマー等についてもバリエーション設計をすればよい。
【0024】
このようにして本発明によれば、醸造用酵母の判別、同定、分類の少なくともひとつが可能となるので、上記したプライマー等の少なくともひとつを用いて酵母の判別、同定、分類用キットを組むことができる。したがって、例えばプライマーA及びBを用いて、あるいは、これらのプライマーのPCR産物を用いて、協会ブドウ酒酵母3号の判別、同定、分類用キットを組むことができる。
【0025】
本発明において、酵母としては、サッカロマイセス(Saccharomyces)属セレビシエ(cerevisiae)に属する酵母であればすべての酵母が使用可能であり、例えば、清酒酵母(協会7号酵母、協会9号酵母、協会10号酵母等)、ワイン酵母(協会ブドウ酒1号酵母、協会ブドウ酒3号酵母、協会ブドウ酒4号酵母等)、焼酎酵母(鹿児島酵母K2、宮崎酵母MK、協会焼酎酵母SH−4、泡盛酵母1号等)等の実用酵母に使用できる。本発明は、清酒酵母とワイン酵母の判別、ワイン酵母と焼酎酵母の判別といった異なった用途の酵母間の判別が可能であることはもとより、同じワイン酵母であって、協会ブドウ酒1号酵母と同3号酵母、同3号酵母と同4号酵母の判別といった同一用途の酵母間の判別も可能であるという著効も奏するものである。特に後者については、判別自体が困難であって非常にデリケートな要件が必要とされ、従来、簡便にして正確な方法で満足できる方法は報告されていなかったのである。
【0026】
以下、本発明の実施例について述べる
【0027】
【実施例1】
(醸造用酵母の判別法)
サッカロマィセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)に属する協会ブドウ酒1号酵母、協会ブドウ酒3号酵母、協会ブドウ酒4号、鹿児島酵母K2、宮崎酵母MK、協会焼酎酵母SH−4、泡盛酵母1号より宝酒造(株)の「じぇんとる君」を用いて精製したゲノムDNAを、プライマーA〜O(配列番号1〜15、図1)の各々の組み合わせでPCR法にて増幅したのち、アガロースゲル電気泳動を行った。(電気泳動結果を表1に示す)を得た。
【0028】
PCRは、上記プライマーを用いて上記ゲノムDNAに対して行った。反応条件は、次のとおりである。
(PCR条件)
以下1サイクル
94℃ 3分
以下25サイクル
94℃ 1分
59℃ 1分
72℃ 2分
以下1サイクル
72℃ 5分
【0029】
【表1】
【0030】
なお、表中、各記号はそれぞれ次のことを表わす。
K2: 鹿児島酵母
SH4: 協会焼酎酵母
Mk: 宮崎酵母
Aw: 泡盛酵母
ブ1: ブドウ酒用協会1号酵母
ブ3: ブドウ酒用協会3号酵母
ブ4: ブドウ酒用協会4号酵母
【0031】
上記から明らかなように、プライマーの組み合わせを各種選択し、増幅されるDNA断片の有無、及び/又は増幅されるDNA断片の長さを各種検討することによって、各酵母を判別することができる。
【0032】
【発明の効果】
本発明によれば、小仕込試験、薬剤や培養条件を変えて判別する等従来の方法に比して、短時間に判別できるという著効が奏され、しかも明確に判別することができ、安定的な結果が得られ、再現性を有するものであり、操作も簡単という著効が奏される。
【0033】
更に本発明によれば、異なった醸造用酵母間の判別はもとより、非常に困難でデリケートな同一の醸造用酵母間の判別、例えばブドウ酒酵母間の判別も可能であって、本発明は、酒類製造業、試験研究機関等において、短期間に簡易にして正確な酵母の分類・同定・判別を可能とするものであり、野生酵母ともろみ中の酵母の明確な判別も可能である。
【0034】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】プライマーA〜Oの塩基配列を示す。
Claims (4)
- 醸造用酵母のゲノムDNAを配列番号1(プライマーA)及び配列番号2(プライマーB)で示される塩基配列を有するDNA断片をプライマーとして用い、PCR法にて増幅させ、増幅させた遺伝子断片を直接電気泳動して、泳動パターンの違いによって酵母を判別することを、特徴とする醸造用酵母の判別法。
- 醸造用酵母のゲノムDNAを配列番号7(プライマーG)及び配列番号8(プライマーH)で示される塩基配列を有するDNA断片をプライマーとして用い、PCR法にて増幅させ、増幅させた遺伝子断片を直接電気泳動して、泳動パターンの違いによって酵母を判別することを、特徴とする醸造用酵母の判別法。
- 醸造用酵母のゲノムDNAを配列番号9(プライマーI)及び配列番号10(プライマーJ)で示される塩基配列を有するDNA断片をプライマーとして用い、PCR法にて増幅させ、増幅させた遺伝子断片を直接電気泳動して、泳動パターンの違いによって酵母を判別することを、特徴とする醸造用酵母の判別法。
- 醸造用酵母のゲノムDNAを配列番号14(プライマーN)及び配列番号15(プライマーO)で示される塩基配列を有するDNA断片をプライマーとして用い、PCR法にて増幅させ、増幅させた遺伝子断片を直接電気泳動して、泳動パターンの違いによって酵母を判別することを、特徴とする醸造用酵母の判別法。
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- 2003-05-06 JP JP2003128212A patent/JP4389022B2/ja not_active Expired - Lifetime
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