本発明は電荷注入型発光素子に関し、より詳しくは有機活性層を有する有機電荷注入型発光素子に関する。
有機発光素子は、陽極と陰極間に蛍光性有機化合物を含む薄膜を挟持させて、各電極から電子およびホール(正孔)を注入することにより、蛍光性化合物の励起子を生成させ、この励起子が基底状態にもどる際に放射される光を利用する素子である。
1987年コダック社の研究(非特許文献1)では、陽極にITO、陰極にマグネシウム銀の合金をそれぞれ用い、電子輸送材料および発光材料としてアルミニウムキノリノール錯体を用いホール輸送材料にトリフェニルアミン誘導体を用いた機能分離型2層構成の素子で、10V程度の印加電圧において1000cd/m2程度の発光が報告されている
また、蛍光性有機化合物の種類を変えることにより、紫外から赤外までの発光が可能であり、最近では様々な化合物の研究が活発に行われている。
さらに、上記のような低分子材料を用いた有機発光素子の他にも、共役系高分子を用いた有機発光素子が、ケンブリッジ大学のグループにより報告されている(非特許文献2)。この報告ではポリフェニレンビニレン(PPV)を塗工系で成膜することにより、単層で発光を確認している。
このように有機発光素子における最近の進歩は著しく、その特徴は低印加電圧で高輝度、発光波長の多様性、高速応答性、薄型、軽量の発光デバイス化が可能であることから、広汎な用途への可能性を示唆している。
しかしながら、現状では更なる高輝度の光出力あるいは高効率の光出力が必要である。
Appl.Phys.Lett.51,913(1987)
Nature,347,539(1990)
従来の有機発光素子は、電荷注入励起による発光の場合、内部発光量子効率の上限は25%であると言われてきた。この値は、素子の透明基板と空気との界面での内面反射によるロスを考慮すると、外部発光量子効率5%に相当するとされている。電荷注入励起の場合、発光分子の1重項励起状態と3重項励起状態がランダムに生じるが、1重項励起状態の多重度が1であるのに対し、3重項励起状態の多重度が3であることを考慮すると、1重項励起状態と3重項励起状態は1:3の割合で生成すると考えられる。一般の分子では基底状態は1重項状態なので、3重項励起状態は基底状態に発光遷移する確率が非常に低く、常温では発光には寄与しない。このため、たとえ1重項励起状態が全て発光遷移したとしても、内部発光量子効率の上限は25%であると言われてきたものである。
近年、この限界を突破すべく、重原子効果を利用して3重項励起状態から基底状態への遷移確率を著しく増大し、よって室温でも十分高い効率の3重項発光を可能とする材料が提案されてきている。M.A.Baldoらは、励起3重項状態からの高効率の燐光発光を示す有機イリジウム錯体を発光分子として用いることで、外部量子効率8.0%(内部量子効率40.0%相当)が得られたと報告した(Baldo M.A.,Lamansky S.,Burrows P.E.,Thompson M.E.,Forrest S.R.,’Very high−efficiency green organic light−emitting devices based on electrophosphorescence’,Appl.Phys.Lett.,vol.75,No.1,pp4−6(1999))。
以後、重原子効果を利用した高効率の燐光発光を示す物質の探索が積極的に行われているが、イリジウム錯体以外は効率、安定性、等の面で問題のあるものが多く、現時点では実用の目処のたっている材料はない。また、イリジウム錯体も、イリジウムという比較的希少な元素を用いるため、材料が高価になり、経済性の点から問題がある。さらに、高効率とはいえ燐光発光であるため、高輝度領域になると3重項−3重項消滅をおこし、発光量子効率が低下するという難点がある。また、発光色の設計自由度もイリジウム錯体という限定のため、制約を受ける。
とくにこの発光色の設計自由度を増やすという観点から、イリジウム錯体と組み合わせて1重項発光材料を発光層に並存させ、イリジウム錯体からのエネルギー移動を利用して1重項発光材料を発光させようという提案がある(特開2002−50483号公報)。この提案では、イリジウム錯体の3重項励起状態から効率よくエネルギー移動をさせるために、組み合わせる1重項発光材料は、逆項間交差という、3重項励起状態から1重項励起状態への項間交差を起こしやすい材料を選ぶとしている。
しかし、このような工夫をおこなっても、イリジウム錯体を用いることには変わりなく、従って、イリジウム錯体の高価、あるいは3重項−3重項消滅のため高輝度域で発光効率が低いという難点は解決されない。
かかる従来の有機発光素子の問題点に鑑み、筆者らは、高輝度領域においても高い発光効率を期待できる1重項発光でありながら、従来の定説であった内部量子効率25%、外部量子効率5%の限界を突破する可能性のある、新たな発光メカニズムによる有機発光素子について鋭意検討を行ってきた。その結果、上述の、逆項間交差という特殊な現象をより積極的に利用することにより、高効率の有機発光素子を実現する手段を見出した。さらにこの手段によれば、原理的には、Irのような高価な元素を用いず、1重項発光でありながら内部量子効率25%、外部量子効率5%の限界を突破する可能性があると考えられる。
即ち、本発明は、少なくとも陽極と、発光機能を有する有機層と、陰極とを備えた有機発光素子において、該有機層
の少なくとも一部である、電荷注入による発光を担う発光層を形成する発光分子が下記式で示される化合物であることを特徴とする有機発光素子とすることにより上述の課題を解決しようとするものである。
本発明によれば、1重項発光でありながら高発光効率の有機発光素子を得る事が可能となったものである。
以下、本発明の有機発光素子について詳細に説明をおこなう。
まず、逆項間交差という現象について説明する。
1)逆項間交差原理
従来、1重項発光を利用する電荷注入励起発光の場合の内部発光量子効率の上限を論じてきた議論を今一度見直してみると、ひとつの仮定が置かれていることに気づく。すなわち、1:3の割合で生成した1重項励起状態と3重項励起状態はそれぞれそのスピン状態のまま、1重項最低励起状態S1、及び3重項最低励起状態T1まで失活し、そこから基底状態に輻射、あるいは無輻射遷移するという仮定である。いわゆるKasha則として知られているこの仮定は、実際、多くのケースであてはまるが、上述のように、あるケースでは、生成した3重項励起状態が3重項最低励起状態T1まで失活する途中で、1重項励起状態に遷移する可能性があることが知られている。
図1は本発明の有機発光素子に用いられる発光分子の励起状態のエネルギーダイアグラムである。
図2、図3はKasha則のあてはまる通常の発光分子の励起状態のエネルギーダイアグラムである。
図1において、S1、S2、S3、はそれぞれ1重項最低励起状態、1重項第二励起状態、1重項第三励起状態、のエネルギーレベルを表す。T1、T2、T3、はそれぞれ3重項最低励起状態、3重項第二励起状態、3重項第三励起状態、のエネルギーレベルを表す。Sex、Texはそれぞれ、電荷注入励起で最初に励起されたときの1重項励起状態、3重項励起状態のエネルギーレベルを表す。
図2、図3も同様である。
図2の分子において、電荷注入によってSex、Texレベルに励起された分子は、それぞれのスピン状態を変えずに最低励起状態S1、T1まで無輻射失活し、その後、S1状態は基底状態S0まで輻射遷移R、あるいは無輻射遷移ICのいずれかのパスを通って確率的に失活する。同時に、一部はスピン軌道相互作用の効果により、S1とエネルギーレベル的に近接した3重項励起状態(この図の場合はT2)に項間交差ISCのパスによって遷移し、そこから3重項最低励起状態T1に失活する。T1状態はやはり基底状態S0に遷移するが、T1とS0ではスピン状態が異なるため輻射遷移は非常に遅く、室温状態では無輻射遷移が優勢となって通常発光に寄与しない。
図3の分子においても同様である。この場合はS1とエネルギーレベル的に近接した3重項励起状態であるT2が、S1より高いエネルギーレベルにあるため、S1からISC(項間交差、Inter System Crossing)のパスによって3重項励起状態に遷移することがほとんどなくなる。そのため、図2の分子より高い発光効率が望める。しかしながら、電荷注入励起された際に生じるSex、Texレベルの励起状態が、Sexが単一状態であるのに対し、Texは3重縮退しているため、励起状態の状態密度は1:3であり、Sexレベル励起状態は25%しか生じない。
一方、本発明の図1の分子においては、1重項最低励起状態S1とエネルギーレベル的に近接した3重項励起状態であるT2がS1より高いエネルギーレベルにあると同時に、T2とそのすぐ下の3重項励起状態T1との間のエネルギーギャップが大きい。スピン状態を変えない無輻射失活は内部変換と呼ばれ、理論的取り扱いから、その速度は、エネルギーギャップに指数関数的に依存し、他の因子を一定とすればエネルギーギャップが大きいほど遅くなることが知られている。図1の分子ではT2とT1の間のエネルギーギャップが大きいためT2からT1への無輻射失活が著しく遅い。そのため、図2のケースとは逆に、T2からS1に項間交差ISCのパスによって遷移する逆項間交差が生じる。その結果、電荷注入励起された際に生じるSexレベル励起状態は25%しか生じないが、S1レベル励起状態は25%を超える。したがって、S1から高い確率でS0に輻射遷移が生じれば、高い発光量子効率を達成することができると考えられる。
この例では、逆項間交差は3重項第二励起状態T2と、1重項最低励起状態S1との間でおこるとしたが、必ずしもそれに限定されない。1重項最低励起状態S1より高いエネルギーレベルにある1重項励起状態Snと、それに近くてやや高いエネルギーレベルにある3重項励起状態Tmとの間で起こってもかまわない。
また、蛍光発光は1重項最低励起状態S1から基底状態S0への発光遷移で生じると仮定したが、実際にはそれ以外の1重項励起状態からの発光遷移をおこなう分子もある。良く知られた例では、アズレン(式2)は1重項第二励起状態から基底状態の発光遷移によって発光する。
このような場合、逆項間交差が、「1重項最低励起状態S1かそれより高いエネルギーレベルにある1重項励起状態Sn」ではなく、「発光を生じる1重項励起状態Siかそれより高いエネルギーレベルにある1重項励起状態Sj」と、それに近くてやや高いエネルギーレベルにある3重項励起状態Tkとの間で起こってもかまわない。
まとめると、すなわち、逆項間交差を起こすための要件は以下のとおりである。
Tk>Sj(典型的にはSj=Si=S1、Tk=T2)
Tk→Tk−1 遅い(典型的にはT2→T1遅い)
Tk→Sj 速い(典型的にはT2→S1速い)
逆項間交差が実際に生じることを確認するためには、たとえばレーザー二段励起法による手法を用いることができる。この手法は、被検サンプルに発光波長の異なる二種類のレーザー光を、パルス状に時間差を与えて順次照射し、被検分子を3重項高励起状態に励起し、その後、そこから1重項励起状態に逆項間交差して1重項最低励起状態から蛍光発光するものを観測する手法である。
このための実験系の概略図を図4に示す。
図中、XeClは第一段レーザーである308nm発光のエキシマレーザ、Nd:YAGは第二段レーザである532nm発光のヤグレーザ、Sは被検サンプル、MCはモノクロメータ、PMTは光電管、DOSCはデジタルオシロスコープ、PCはパーソナルコンピュータである。
第一段レーザの波長308nmのレーザーパルスによってサンプルの発光分子は1重項励起状態となり、その一部は項間交差を経て3重項最低励起状態(T1状態)となる。通常、このT1状態の寿命は長く、μsecからmsec以上の間、励起状態が持続する。
第一段のレーザーパルスから時間的にやや遅らせ、かつT1励起状態の寿命時間以内に第二段のレーザーパルスを照射すると、T1状態であった分子がさらに3重項高励起状態(Tn状態)に励起される。Tn状態に励起された分子はよりエネルギーの低い状態に緩和を始めるが、上記の逆項間交差がおこる条件にある場合は緩和の過程で一部が1重項励起状態となり、1重項最低励起状態(S1状態)から発光する。
この発光はモノクロメータMCを通して光電管PMTで検出され、デジタルオシロスコープDOSC上に、第二段レーザのタイミングに同期した蛍光発光としてとらえられる。
実際、たとえばアントラセンを臭素化した9,10−ジブロモアントラセン(式3)は逆項間交差を示すことが知られている(文献A:FUKUMURA H.,KIKUCHI K.,KOIKE K.,KOKUBUN H.,Journal of Photochemistry and Photobiology,A:Chemistry,42(1988)283−291)。
この研究は、一連のアントラセン誘導体について実験的に各分子の溶液状態における逆項間交差の効率を測定したものである。この研究の結果を表1に示す。
これによると、アントラセンに、塩素や臭素のような原子番号の大きな元素を置換基として導入していくと逆項間交差をおこすようになり、かつ導入される元素が塩素から臭素へと原子番号の大きなものになるほど逆項間交差の効率は上がっていく。臭素を導入した9,10−ジブロモアントラセンにおいては逆項間交差の効率は20%程度が得られている。筆者らも上述のレーザー二段励起法を用いて、9,10−ジブロモアントラセンのクロロフォルム溶液において逆項間交差発光を確認した。
しかしながら臭素を導入した9,10−ジブロモアントラセンにおいても逆項間交差の効率は高々20%弱程度であり、十分高いとはいえない。かつ、有機ELディスプレイの材料として考えた場合、通常蒸着工程で発光層が製膜されることが多いが、臭素、あるいはヨウ素などの非常に重い元素を含む分子は熱安定性に問題があることがあり、その面から見て不十分となる可能性がある。また、S1からT1への項間交差の効果が無視できなくなり、逆項間交差は生じても全体としての発光効率は十分高くならない可能性がある。
前述の指針、
Tk>Sj(典型的にはSj=Si=S1、Tk=T2)
Tk→Tk−1 遅い(典型的にはT2→T1遅い)
Tk→Sj 速い(典型的にはT2→S1速い)
に照らし考えると、9,10−ジブロモアントラセンにおいては、臭素化によりT2→S1の逆項間交差速度は速くなってきているのだが、T2→T1の内部変換の速度がそれ以上に速いために逆項間交差効率が十分に高くならないと考えられる。
表1を参照すれば、逆項間交差や項間交差の速度の目安となる定数Astは重元素を分子に含ませることによって10の11乗[s-1]のオーダーまで改善できる可能性がある。したがってT2からT1への内部変換の速度kttは、できうれば10の11乗[s-1]のオーダーより遅くあることが望ましい。さらに、あまり大きな原子番号の元素を含ませない場合にはAstは10の10乗[s-1]から10の9乗[s-1]のオーダーにとどまると考えられるので、T2からT1への内部変換の速度kttは、できうれば10の10乗[s-1]から10の9乗[s-1]のオーダーより遅くあることが望ましい。これはT2からT1への内部変換に要する時間がサブナノ秒からナノ秒程度以上であることが望ましいということになる。
T2からT1への内部変換の速度を実験的に見積もることは、文献Aでも行われているが、煩雑であり、かつ直接的ではない。そこで筆者らは、T2からT1への緩和速度を実験的に見積もることのできる指標を探索した結果、以下の方法で見積もることができることを見出した。
T2→T1緩和速度を測定するための実験系の概略図を図5に示す。
図中、XeClは第一段レーザーである308nm発光のエキシマレーザ、Nd:YAGは第二段レーザである532nm発光のヤグレーザ、Sは被検サンプル、Xeはサンプル中のT1励起状態による吸収をモニタするためのXeランプ、MCはモノクロメータ、PMTは光電管、DOSCはデジタルオシロスコープ、PCはパーソナルコンピュータである。
第一段レーザの308nmのパルスによってサンプルの発光分子は1重項励起状態となり、その一部は項間交差を経て3重項最低励起状態(T1状態)となる。通常、このT1状態の寿命は長く、μsecからmsec以上の間、励起状態が持続する。
このとき、Xeランプから照射される白色光はサンプルの発光分子のT1状態に固有の吸収スペクトルに相当する波長帯で吸収を受ける。モノクロメータの波長をこの吸収帯のなかの適当な波長に選択すればT1状態の生成とともに吸収強度が上昇するさまを光電管の出力をモニタすることによって観測することができる。
第一段のレーザーパルスから時間的にやや遅らせ、かつT1励起状態の寿命時間以内に第二段のレーザーパルスを照射すると、T1状態であった分子がさらに3重項高励起状態(Tn状態)に励起される。このときT1状態固有の吸収はT1状態の減少に対応して低下する。Tn状態に励起された分子はよりエネルギーの低い状態に緩和を始めるが、再びT1まで緩和すればT1状態固有の吸収は再び上昇する。最終的にTn状態がすべてT1状態に緩和すればこのT1固有吸収は再び元のレベルまで上昇して回復する。T2→T1緩和過程が遅ければ、その影響で元のレベルに回復する速度が遅くなり、回復時間が長くなる。このように、光電管の出力をモニタすることによって、発光分子のT2→T1緩和速度を推定することができる。
実際に、9,10−ジブロモアントラセンのT2→T1緩和速度を測定した。
この実験においては試料は9,10−ジブロモアントラセンをクロロフォルム中に溶解した溶液を用いた。濃度は1×10-3Mである。
溶液中の溶存酸素を除去するため、真空化で液体窒素による凍結と融解を3度繰り返し行った。
このサンプルを用いて図6(a)に、9,10−ジブロモアントラセンの場合の、光電管にて検出され、デジタルオシロスコープ上にとらえられた信号を示す。
縦軸は9,10−ジブロモアントラセンのT1状態に固有の吸収スペクトル帯の中から430nmを選択したときの吸収を表した値である。横軸は時間である。横軸−18μsecの時点で第一段レーザパルスが照射され、9,10−ジブロモアントラセンが励起し、項間交差を経て3重項励起状態となる。それに伴い、発光分子のT1励起状態固有の吸収が増加し、光学吸収が上昇していく。第一段レーザパルスの照射から18nsec後、項間交差によるT1生成が十分に起こった横軸0nsecの時点で第二段レーザーパルスが照射される。そうするとこれに同期してT1励起状態がTn励起状態に変わることによるT1励起状態固有の吸収の減少が観測される。この現象の部分を、発光や散乱光の影響を除くため、Xeランプを照射しない状況での第二段レーザーパルスの照射に同期した信号を別途とってこれで補正した正味のT1励起状態減少による光学吸収減少分と、第二段レーザーパルス波形とを重ね描きし、拡大したものが図6(b)である。実線で示した波形が過渡吸収波形でありT1励起状態減少による光学吸収減少を示している。破線で示した波形が第二段レーザーパルス波形に対応するリファレンス波形である。
その遅れの時間を定量的にとらえるために、ディップの立ち下がり(ディップの前半)において光学吸収の変化とリファレンス波形とが一致するように波形を重ね合わせて、ディップの回復部(ディップの後半)においてその時間差を比較する。遅れの時間の目安として、光学吸収の変化がそのディップ値の1/2、つまり約50%にまで回復した時点での遅れ時間を図6(b)のように補助線を入れて考えてみる。光学吸収の変化がそのディップ値の1/2に回復した時点においては遅れの時間は0.4nsecであり、遅れがほとんど無いことがわかる。すなわちその遅れT2→T1の内部変換の速度が速いため、9,10−ジブロモアントラセンにおいては、臭素という原子番号の大きな元素を導入してT2→S1の逆項間交差速度を著しく上げなければ逆項間交差効率が高くならないと考えられる。
実際に項間交差を起こす材料を得るためには、T2とT1のエネルギーギャップのみならず、実験的に上記の方法でT2→T1の緩和速度が遅いと見積もられる発光分子を見出すことが有用である。
このような、逆項間交差をおこす発光分子が有機発光素子の発光層を形成し、その逆項間交差の効果が生かされ、実際の有機発光素子として高効率発光を行うためには、有機発光素子に注入された正孔と電子が再結合してできた励起状態が、効率よく、逆項間交差を生じる分子上で三重項励起状態から一重項励起状態に変換される必要がある。
そのためには、この逆項間交差を生じる分子が、励起した他の分子からの励起状態エネルギー移動(例えばフェルスター遷移、あるいはデクスター遷移と呼ばれるメカニズムによるエネルギー移動)によって励起するのではなく、近接する分子からの電子、または正孔のキヤリア移動により励起することが望ましい。以下、逆交換交差を生じる分子上で再結合するこのような励起を、キヤリアの直接トラップによる励起と呼ぶことにする。
そのため、有機発光素子に膜構成もそれに適したものであることが望ましい。最も典型的には、発光層として本発明の逆項間交差を生じる分子を主成分として形成された層を設けることである。つまり、単一発光層材料、あるいは発光層ホスト材料として用いることである。発光層が、ほぼ全量逆項間交差を生じる分子で形成されているか、或いは重量比で50%以上含有していれば、単一発光材料あるいは発光層ホスト材料として用いていると言って良い。発光層ゲスト材料として用いる場合は、発光層に注入されるキヤリアを本発明の逆項間交差材料が直接トラップできるよう、十分濃度を上げておくことが望ましい。どの程度の濃度で直接トラップを起こすようになるかはホストの材料、ゲストの材料によって異なるが、例えばIr錯体を発光層ゲスト材料として用いる場合、CBPをホストとし、その中にIr(ppy)3をゲストとして分散した従来の燐光発光素子において、Ir(ppy)3濃度7%で直接トラップが生じている(Adachi C.,Kwong R.,Forrest S.R.,’Efficient electrophosphorescence using a doped ambipolar conductive molecular organic thin film’,Organic Electronics,2(2001),pp37−43)ことを考え合わせると、本発明の逆項間交差を生じる分子をゲストとして用いる場合も、その濃度は7%以上であることが望ましいと考えられる。
直接トラップが生じているかどうかは、簡便には、発光層に逆項間交差を生じる分子を含まないのみで他は同等の構成を持つ有機発光素子を作製し、同一駆動電圧で比較した場合の駆動電圧を比較してみれば判断できる。発光層に逆項間交差を生じる分子を含む有機発光素子の駆動電圧が、含まない有機発光素子の駆動電圧に比べて低ければ、逆項間交差を生じる分子がキャリア輸送に関与していることを推定でき、ひいては、逆項間交差を生じる分子で直接トラップが生じていることを推定できる。
以下に本発明の実施例について述べる。
以下の点を考慮し、中心骨格として式4のベンゾチアゾール構造をもつ、式5の化合物を設計、合成した。
下記の逆項間交差最適条件を考慮して中心骨格を選択する。
Tk>Sj(典型的にはSj=Si=S1、Tk=T2)
Tk→Tk−1 遅い(典型的にはT2→T1遅い)
T2からT1への内部変換の速度は、他の因子の寄与による振れはあるものの、エネルギーギャップを一つの因子としてこれに依存する。
T2とT1のエネルギーギャップを大きくするためにはT1が低いことが望ましい。
可視域に発光を有するS1に対して、ほぼ同じ軌道間の励起でできているT1を大きく下げるためには、中心骨格は比較的コンパクトにまとまったπ共役系であることが望ましい。
T2とT1の間のエネルギーギャップの大きさとT2からT1への内部変換の速度の関係は、その速度を決定する要因がエネルギーギャップ以外にも存在するため一概には言えない。しかし、いくつかの分子に関しては研究がなされている。例えばアントラセンとその誘導体の場合については詳しく研究されている(文献A)。この研究は、実験的に各分子の溶液状態におけるS1、T1、T2のレベルを測定したものである。この研究の結果を表1に示す。
これによれば、逆項間交差の速度kstは重元素を分子に含ませることによって10の11乗[s-1]のオーダーまで改善できる可能性がある。したがってT2からT1への内部変換の速度kttは、できうれば10の11乗[s-1]のオーダーより遅くあることが望ましい。
再び表1を参照すると、1,5−DichloroAnthracene(1,5−DCA)のkttがちょうど1.0x10の11乗[s-1]となっている。1,5−DichloroAnthracene(1,5−DCA)のT2−T1ギャップは、文献Aによると、25040[cm-1]−14540[s-1]=10500[s-1]=1.30eVである。
一つの目安として1.3eVを選択する。
大きなT1−T2ギャップを与える中心骨格の一例として、式1の共鳴ジエン構造を含む中心骨格があげられる。
(式中、Y1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6は炭素原子、あるいは窒素原子、R1、R8は、無原子、あるいは任意原子、あるいは任意の置換基を表わす。R2、R3、R4、R5、R6、R7は、直接結合するY1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6が窒素原子の場合には無原子、直接結合するY1、Y2、Y3、Y4、Y5、Y6が炭素原子の場合には、任意原子、あるいは任意の置換基を表わす。R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7およびR8は、同じであっても異なっていてもよい。また、お互いに環を形成していても良い。Xは、周期律表第3族、第4族、第5族、第6族の原子を表す。)
3)Tk→Sj 速い(典型的にはT2→S1早い)
表1の例では、S1>T2であっても、炭素、水素だけからなる9−MethylAnthracene(9−MA)はT2からS1への逆項間交差が遅く、kts/kttが小さい。S1<T2であり、かつ塩素、あるいは臭素のような、周期律表第3周期以上の原子番号の比較的重い原子を含む、9,10−DichloroAnthracene(9,10−DCA)、と9,10−DibromoAnthracene(9,10−DBA)では、T2からS1への逆項間交差が速くなり、kts/kttが大きく、比較的大きな逆項間交差係数Φtsが得られている。
周期律表第3周期以上の原子番号の11以上の比較的重い原子を含ませることによって改善を図ることができる。
再び表1を参照すると、9,10−DichloroAnthracene(9,10−DCA)のAts(ktsと同等)が7.2x10の10乗[s-1]となっており、約10の10乗[s-1]オーダーである。上述の、2)Tk→Tk−1 遅い(典型的にはT2→T1遅い)の項で述べた「T2からT1への内部変換の速度kttは、できうれば10の11乗[s-1]のオーダーより遅くあることが望ましい。」という目安と符合している。
そこで、塩素と同じ周期律表第3周期かそれ以上大きな原子番号を持つ元素を含む、分子を考える。
このような考察を経てT2とT1のエネルギーギャップが大きくなりやすい骨格として式1の骨格を中心骨格として考え、さらにT2→S1の逆項間交差速度を速める効果を期待して周期表第三周期以上の原子番号の元素を含む分子として中心骨格として式4のベンゾチアゾール構造をもつ、式5の化合物をコンピュータシミュレーションにより設計した。シミュレーションに用いたソフトウェア、及び条件は以下のとおりである。
分子軌道計算ソフトウェアはGaussian98を用い、密度汎関数法により、基底状態最適化構造における基底状態と各励起状態の励起状態エネルギーレベルや励起軌道構成などを計算し、分子設計に用いた。基底状態構造最適化計算は、DFT、B3LYPファンクショナル、基底系3−21G*で行った。励起状態計算は、TD、B3LYPファンクショナル、基底系3−21G*で行った。この方法は、もちろん計算精度的に誤差を含み、かつ、基底状態最適化構造のみで論じているので理論上も厳密には正確ではないが、望ましい分子を設計する上で有効な指針を与えることを確認した。
各励起状態のエネルギーレベルは以下のとおり予想された。
S1 2.7946eV
T1 1.9273eV
T2 2.9401eV
S1振動子強度 0.1190
T1−T2ギャップは1.0128eVと、1.3eVを超えてはいないが、かなり大きい。
T2>S1であり、T2はS1より0.1455eV高い。
S1振動子強度は十分な大きさを持っている。
[合成法]
式5の2,1−ベンゾイソチアゾール化合物は、一般的に知られている方法で合成でき、例えば、Advanced Heterocyclic.Chemisty.,38,105−133(1985)に記載の方法で2,1−ベンゾイソチアゾール化合物中間体を得ることができる。さらにこの臭化物をパラジウム触媒を用いてジトリルアミンと反応させることに式5の化合物を得ることができる。
[評価]
得られた化合物(式5)の、T2→T1緩和速度を測定した。
この実験においてはサンプルは発光分子をシクロヘキサン中に溶解した溶液を用いた。3重項増感剤としてナフタレンを加えた。濃度は、式5の化合物が2×10-5M、ナフタレンが6×10-3Mである。
溶液中の溶存酸素を除去するため、真空化で液体窒素による凍結と融解を3度繰り返し行った。
図7(a)に、本実施例の発光分子の場合の、光電管にて検出され、デジタルオシロスコープ上にとらえられた信号を示す。
縦軸は本実施例の発光分子のT1状態に固有の吸収スペクトル帯の中から600nmを選択したときの光学吸収を表した値である。横軸は時間である。横軸−18μsecの時点で第一段レーザパルスが照射され、シクロヘキサン中に増感剤として加えたナフタレンが励起し、項間交差を経て3重項励起状態となる。そこから時間を経てナフタレン分子と発光分子との衝突により発光分子が3重項最低励起状態T1に励起される。それに伴い、発光分子のT1励起状態固有の吸収が増加し、光学吸収が上昇していく。第一段レーザパルスの照射から18nsec後、この衝突によるエネルギー移動が十分に起こった横軸0nsecの時点で第二段レーザーパルスが照射される。そうするとこれに同期してT1励起状態がTn励起状態に変わることによるT1励起状態固有の吸収の減少が観測される。この現象の部分を、発光や散乱項の影響を除くため、Xeランプを照射しない状況での第二段レーザーパルスの照射に同期した信号を別途とってこれで補正した正味のT1励起状態減少による吸収減少分と、第二段レーザーパルスに対応するリファレンス波形とを重ねがきし、拡大したものが図7(b)である。実線で示した波形がT1励起状態減少による光学吸収減少分、破線で示した波形がリファレンス波形である。本実施例の場合には明らかに光学吸収)の変化の回復がリファレンスに比べて遅れているのがわかる。その遅れの時間を定量的にとらえるために、ディップの立下り(ディップの前半)において光学吸収の変化とリファレンス波形とが一致するように波形を重ね合わせて、ディップの回復部(ディップの後半)においてその時間差を比較する。遅れの時間の目安として、光学濃度の変化がそのピーク値の1/2、つまり約50%まで回復した時点での遅れ時間を図7(b)のように補助線を入れて考えてみる。光学吸収の変化がそのピーク値の1/2に回復した時点においては少なくとも1nsec以上の有意の遅れが存在していることがわかる。すなわちその遅れの時間は1nsec以上である。光学濃度の変化は必ずしも単一指数関数的に起こるとは限らないが、光学濃度の変化がそのピーク値の1/2に回復した時点、或はそれ以前において遅れが1nsec以上あれば逆項間交差を起こしやすいと考えられる。
また、その遅れの時間があまりに大きいと、別の問題が生じる。
まず、有機発光素子をディスプレイ装置に応用しようとする場合、動画表示のフレームレートで決まる1画面表示時間よりも遅れ時間が遅いと残像が残り動画性能が低下するおそれがある。このため、遅れ時間は典型的な1画面表示時間である30msecより短いことが望ましい。さらに、3重項3重項消滅とよばれる現象がある。これは、二つの3重項励起子が相互作用の結果一つの1重項励起子とひとつの基底状態とに遷移する現象で、3重項寿命が長いと、特に励起子密度が高いときに生じやすい。有機発光素子の3重項発光材料としてよく研究されているイリジウム錯体は約1μsecの3重項励起子寿命を持つが、実用域で3重項3重項消滅による発光効率低下が問題になる。この例から類推するに、上記遅れ時間は1μsecよりは短いことがより望ましいと推定される。
次に、得られた化合物(式5)を、トルエンで溶解したポリカーボネイト中に、ポリカーボネイトに対して重量比1/1000から1/100の割合で分散させ、これを石英基板上に滴下して自然乾燥させたポリマー分散膜を試料とし、これに発光波長の異なるパルスレーザー光を時間をずらせて照射し試料からの蛍光を観測する方法によって、化合物の逆項間交差による蛍光発光を直接観測した。
このようすを図8に示す。縦軸はサンプルの発光分子からの蛍光強度であり、下方ほど強い発光を示す。横軸は時間である。グラフは「308+532」と付記したデータが第一段レーザパルス照射後、第二段パルスを照射したときの発光を示す。単に「532」とのみ付記したデータは第一段パルスを照射せず、第二段レーザパルスのみを照射したときの発光を示す。見易さのために横軸を少しずらせて表示しているが、実際には横軸0nsec近傍のピークは同じタイミングで生じており、重なるものである。さて、「308+532」と付記したデータについてみてみると、横軸−200nsecの時点で第一段レーザパルスが照射されると同時に強い蛍光発光がみられるが、これは3重項状態を介さない通常の1重項直接励起による蛍光発光と考えられる。続いて0nsec近傍の時点で第二段レーザパルスに同期した発光が見られる。これは上述の逆項間交差発光と、第二段レーザの発光波長が発光分子の基底状態から1重項高励起状態への励起に伴う吸収スペクトルの裾野にかかってしまうために生じる1重項直接励起による蛍光発光とが混在した発光である。単に「532」とのみ付記したデータについて見てみると、このときも第二段レーザパルスに同期した発酵が観測されているがこれは1重項直接励起による蛍光発光のみが観測されているものと考えられる。
第一段のレーザーパルス後、第二段のレーザパルス照射をした「308+532」と付記したデータにおいては、第二段レーザに同期した発光が、第二段レーザパルスのみを照射した単に「532」とのみ付記したデータが示す発光に比べやや強度が強いが、この差が逆項間交差発光によるものである。
[有機発光素子]
ガラス基板上に酸化錫インジウム(ITO)をスパッタ法にて120nmの膜厚で成膜したものを透明導電性支持基板として用いる。これをアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)で順次超音波洗浄し、IPAで煮沸洗浄、乾燥を行う。さらに、UV/オゾン洗浄したものを透明導電性支持基板として使用する。
まず、式6の材料を0.3wt%のクロロフォルム溶液とする。
ITO付きガラス基板上にクロロフォルム溶液を滴下し、500rpmで10sec、引き続き1000rpmで40secの条件でスピンコートを行う。これが素子の正孔注入層兼正孔輸送層となる。
スピンコートされたガラス基板上に、真空蒸着法で順次、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極、を形成する。
さらに式5の化合物および式7で示されるカルバゾール化合物(混合比20:100)を真空蒸着法により40nmの膜厚で成膜し発光層を形成した。式5の化合物および式7で示されるカルバゾール化合物はそれぞれ別々の蒸着ボートに入れられ、独立に加熱制御される。混合比は蒸着時の膜厚/時間の蒸着レートの比を、20:100に制御することによって混合比20:100とみなされた。混合比は20/120=16.7%ということになる)蒸着時の真空度は1.0×10-4Pa、成膜速度はカルバゾール化合物を0.2〜0.3nm/secの条件で成膜する。カルバゾール化合物の膜厚が33.4nmに達したところで発光層全体が膜厚40nmに達したと判断した。
次に式8で示される電子輸送材料を40nm積層する。さらにその上に、LiFを電子注入層として5Å積層する。さらにその上に、アルミニウムを陰極として10nm積層する。
このようにして、図9に示す構造の素子を作成した。
さらに、窒素雰囲気中で保護用ガラス板をかぶせ、アクリル樹脂系接着材で封止した。
この様にして得られる素子に、ITO電極を正極、Al電極を負極にして、6Vの直流電圧を印加すると10mA/cm2の電流密度にて電流が流れ1000cd/m2の輝度で緑色の発光が観測された。
また、発光層を、式5の化合物を混入せず上記カルバゾール化合物単一で膜厚40nmとし、他の構成は同一とした素子はITO電極を正極、Al電極を負極にして、8Vの直流電圧を印加したとき10mA/cm2の電流密度にて電流が流れ、20cd/m2の輝度で青色の発光が観測された。
発光層中に式5の化合物が無い場合にくらべ、式5の化合物が存在している場合は同一電流で駆動電圧が低電圧化しているのがわかる。
本実施例の有機発光素子においては、発光層に注入された電子とホールが、発光層中の逆交換交差材料である式5の有機材料上で再結合するように、すなわち直接トラップとなるように発光層を形成する第一の材料(発光層ゲスト)たる式5の有機材料と、発光層を形成する第二の材料(発光層ホスト)たる式7の有機材料との、HOMO(最高被占準位)エネルギーレベルとLUMO(最低空準位)エネルギーレベルの関係を適切な関係になるようそれぞれの材料を選択した。
UPS法(紫外光電子分光法)で測定したHOMOレベルは、真空準位を基準に、式5の有機材料が−5.50eV、式7の有機材料が−5.90eVであった。、これらHOMOレベルに、トルエン溶液で測定した吸収スペクトルの長波長端から求めたエネルギーギャップ幅を加算して算出したLUMOレベルは、式5の有機材料が−2.82eV、式7の有機材料が−2.50eVであった。
この発光層のエネルギーダイアグラムを図10に示す。
また、有機発光素子全体のエネルギーダイアグレムを図11に示す。
陰極から注入された電子と、陽極から注入されたホールは、発光層において、
式5の有機材料のLUMO(−2.82eV)<式7の有機材料のLUMO(−2.50eV)
式5の有機材料のHOMO(−5.50eV)>式7の有機材料のHOMO(−5.90eV)
であるため、ともに最終的には式5の有機材料にトラップされ、そこで再結合して発光する。
特に、式5の有機材料のHOMOのエネルギーレベル(−5.50eV)と式7の有機材料のHOMOのエネルギーレベル(−5.90eV)とは差が大きいため、ホール輸送層から発光層に注入されたホールは式7の有機材料のHOMOを経ることなく、式5の有機材料のHOMOをホッピングして伝導していると考えられる。このため、発光層を式7の有機材料のみで構成した有機発光素子に比べ、発光層中に式5の有機材料を一定量以上の含有率で含む有機発光素子は駆動電圧が低電圧化していると考えられる。
すなわち、直接トラップが効率的に生じるためには、発光層が複数の材料で構成されているとき、逆項間交差材料のLUMOが他の材料のLUMOより低いか、逆項間交差材料のHOMOが他の材料のHOMOより高いかのどちらかが少なくとも必要であり、できれば両方が同時に満たされていることが望ましい。
本発明の有機発光素子に用いられる発光分子の励起状態のエネルギーダイアグラムである。
Kasha則のあてはまる通常の発光分子の励起状態のエネルギーダイアグラムである。
Kasha則のあてはまる通常の発光分子の励起状態のエネルギーダイアグラムである。
逆項間交差が実際に生じることを確認するための実験系を示す図である。
T2→T1緩和速度を測定するための実験系を示す図である。
式3の発光分子のT2→T1緩和速度を実測した例を示す図である。
式5の第一の実施例の発光分子のT2→T1緩和速度を実測した例を示す図である。
式5の第一の実施例の発光分子の逆交換交差発光を実測した例を示す図である。
本発明の第一の実施例の有機発光素子の構成を示す図である。
本発明の第一の実施例の発光層を形成する各材料のエネルギーダイアグラムである。
本発明の第一の実施例の有機発光素子のエネルギーダイアグラムである。