図5に示したように、従来の半導体基板の形成装置では、例えば2列にセットされた半導体インゴット3a、3bの両端とその間にそれぞれスラリー供給装置2a、2b、2cが設けられている。このスラリー供給装置2a、2b、2cに供給される砥粒スラリーはSiC砥粒と鉱物油、界面活性剤、分散剤からなるラッピングオイルにて構成されており、粘度が高くなっている。
図6(a)には、図5に図示した半導体形成装置にかかるスラリー供給装置2cの上視図を示し、図6(b)には、図5のA−A方向から見た側面図を示す。
図6(a)に示すように、砥粒スラリーは、スラリー供給装置2(2a、2b、2c)に設けられたスラリー供給口Yを経てマルチワイヤーソー装置上に設けられた半導体インゴット3(3a、3b)に供給される。この砥粒スラリーは、スラリー供給口Yの幅によって供給される量が決定される。そして、従来の半導体基板の形成装置では、半導体インゴット3に一定量が供給されるように、スラリー供給口Yは、図に示すごとくこの半導体インゴット3よりもやや長めで、一定の幅を有するように設けられている。
しかしながら、このような従来の半導体インゴットの形成装置では、1本の半導体インゴット3a内で半導体基板の両端部分でインゴットの切削性が低下してしまうという問題があった。その結果、半導体基板の面上にワイヤー擦れ痕や凸凹が発生するなどして面状態が粗悪になり、半導体基板の品質のバラツキが生じ安定した歩留りが得られない。また、ワイヤー6が端部で断線するという問題があった。
例えば、長さL=300mmの半導体インゴット3aを従来の半導体基板の形成装置でスライスすると、半導体インゴット3aの端を基準箇所とした場合、この基準箇所から約50mmまでの部分及び251mmから300mm部分の半導体基板とそれ以外(51mmから250mm)の部分の半導体基板とは、その表面状態の品質に明らかな違いが見られた。すなわち、1本の半導体インゴット3aで両端部と中心部とでは、スライスされた半導体基板の表面状態に差が生じていた。
本発明はこのような従来の半導体基板の形成装置の問題点に鑑みてなされたものであり、1本の半導体インゴットの端部における半導体基板の面状態が中央部に比べて悪くなり、バラツキが生じるという問題点を解消し、半導体インゴットの全体において高品質な半導体基板を高歩留りで形成する半導体基板の形成装置を提供することを目的とする。
本発明者は、上述のような従来の半導体基板の形成装置が有する問題に鑑み、鋭意検討を行った結果、図2(a)に示すような従来のスラリー供給装置2cから供給される砥粒スラリー10は、スラリー供給装置2cのスラリー供給口Yの形状を反映して流れようとするが、図6(b)に示すように、スラリー供給口Yを出た後の、砥粒スラリー10は、スラリーの流れの端部10a、10bのように、より中心部の方に集まろうとすることを見出した。これは、砥粒スラリー10の粘度が高いことによるものである。
また、ワイヤー6によって供給された砥粒スラリー10は、半導体インゴット3の加工位置に供給されるが、そのとき半導体インゴット3の両端部において、砥粒スラリー10が半導体インゴット3の外側に回り込もうとする。
これらの原因によって、砥粒スラリー10が半導体インゴット3の中央部で多く、端部では少なくなり、1本の半導体インゴット3a内で半導体基板の両端部分でインゴットの切削性が低下しウェハーの切削面の面状態が粗悪になる歩留りを低下させたり、ワイヤーが断線するなどの問題が発生することを知見した。
したがって、上述に鑑みて、本発明の半導体基板の形成装置は、複数本張られた切断用のワイヤーを高速走行させて直方体の半導体インゴットをスライスするマルチワイヤーソー装置と、前記ワイヤーに砥粒スラリーを供給するスラリー供給装置と、を備えた半導体基板の形成装置であって、前記スラリー供給装置は、前記ワイヤーとの間に前記半導体インゴットを挟んで上方に配置されるとともに、前記砥粒スラリーが前記半導体インゴットの側壁を伝って落下するようにこの半導体インゴット側に向けられたスラリー供給口を備え、前記スラリー供給口は、スリットの形状を有するとともに、前記スリットの開口部は、前記半導体インゴットの長さ方向に沿って、この開口部の両端から30mm〜50mmの範囲に対応する端部と、前記両端部に挟まれる中央部とからなり、前記中央部の幅が、前記半導体インゴットの側壁の高さの1.2%〜2.0%の範囲とし、かつ前記端部の幅が、前期中央部の幅の1.2倍〜1.5倍の範囲とすることを特徴とする。
このように構成したので、スラリー供給装置から半導体インゴットに対して供給される砥粒スラリーの量が、半導体インゴットの中央で少なく、両端部では多くなるという現象を適正に制御して、補正することができる。
前記スラリー供給装置は、前記ワイヤーとの間に前記半導体インゴットを挟んで上方に配置されるとともに、前記砥粒スラリーが前記半導体インゴットの側壁を伝って落下するようにこの半導体インゴット側に向けられたスラリー供給口を備えてなることにより、砥粒スラリーは半導体インゴットの側壁を伝ってワイヤーに供給されるので、砥粒スラリーがワイヤー上で飛散することなく、加工部分へ十分かつ均等に供給することができる。
また、前記スラリー供給口の開口部面積の大小によって、前記半導体インゴットの長さ方向に対してこの半導体インゴットの中央部よりも両端部へ供給する前記砥粒スラリーの量が多くなるように制御することにより、簡単な構成により確実に本発明の作用効果を奏することができる。
さらに、前記スラリー供給口は、スリットの形状を有するとともに、前記スリットの開口部は、前記半導体インゴットの長さ方向に対してこの半導体インゴットの中央部に対応する位置の幅が、前記半導体インゴットの側壁の高さの1.5%〜2.0%の範囲としたので、半導体インゴットの大きさに対してスリットの幅が適切に調整されて、適正量の砥粒スラリーを供給することができる。
そして、前記スリットの開口部は、前記半導体インゴットの長さ方向に対して、この開口部の両端から30mm〜50mmの範囲に対応する位置の幅が、中央部に対応する位置の幅の1.2倍〜1.5倍の範囲としたので、半導体インゴットの大きさに対してスリットの幅が適切に保たれながら、砥粒スラリーの供給量が、半導体インゴットの中央で少なく、両端部では多くなるという現象が適正に補正される。
また、ある実施態様においては、前記砥粒スラリーは、SiCの砥粒とラッピングオイルとからなるように構成したので、特に結晶シリコン基板の加工に適したものとなる。
さらに、ある実施態様においては、前記砥粒スラリーは、その粘度が10Pa・s以上とした。通常、このような粘度領域の砥粒スラリーは、ワイヤーによって加工部位に供給されやすいものの、半導体インゴットの中央部と両端部とで供給量が異なりやすいが、本発明の構成によって、この課題が解決され、良好な加工性を維持しつつ、均一にワイヤーによって加工位置へと供給される。
なお、この砥粒スラリーの粘度は、E型粘度計(RION社製)を用いて、直径45mmのコーン型の回転測定子(測定器付随No3測定子)によって、剪断速度を5s−1としながら、内径90mmの容器(測定器付随の容器)内にて5分間回転して剪断させたときの28℃における粘度値(=剪断応力/剪断速度)とする。
以上説明したように、本発明によれば以下のいずれかの効果が得られる。
(1)スラリー供給装置から半導体インゴットに対して供給される砥粒スラリーの量が、半導体インゴットの中央で少なく、両端部では多くなるという現象を適正に制御して、補正することができるので、砥粒スラリーが半導体インゴットのスラリー供給領域で切削性の乏しい両端部に十分に供給され、1本の半導体インゴットのスライス領域内で半導体インゴットの両端部での切削性を向上および半導体基板の面状態を高品質なものにすることができる。
(2)砥粒スラリーは半導体インゴットの側壁を伝ってワイヤーに供給されるように構成されているので、砥粒スラリーがワイヤー上で飛散することなく、加工部分へ十分かつ均等に供給することができるので、形成された半導体基板の品質が均一なものとなる。
(3)スラリー供給口の開口部面積の大小によって、半導体インゴットの中央部よりも両端部へ供給する砥粒スラリーの量が多くなるように制御したので、簡単な構成により確実に本発明の作用効果を奏することができる。
(4)スラリー供給口は、スリットの形状を有するとともに、スリットの開口部の幅を半導体インゴットの側壁の高さの1.5%〜2.0%の範囲として関連づけたので、半導体インゴットの大きさに対してスリットの幅が適切に調整され、この大きさに対して適正量の砥粒スラリーを供給することができ、砥粒スラリーが不足することもなく、均一に半導体インゴットをスライスすることができる。
(5)スリットの開口部は、半導体インゴットの長さ方向に対してこの開口部の両端から30mm〜50mmの範囲に対応する位置の幅が、中央部に対応する位置の幅の1.2倍〜1.5倍の範囲として、最適な開口幅としたので、半導体インゴットの大きさに対してスリットの幅が適切に保たれながら、砥粒スラリーの供給量が、半導体インゴットの中央で少なく、両端部では多くなるという現象が適正に補正され、砥粒スラリーを半導体インゴットの全面において均一にスライスすることができる効果をより高められる。
(6)砥粒スラリーは、SiCの砥粒とラッピングオイルとからなるように構成されているので、特に結晶シリコン基板の加工に適しており、太陽電池用の多結晶シリコンの半導体基板などを好適に形成することができる。
(7)砥粒スラリーは、その粘度が10Pa・s以上としたので、ワイヤーによって加工部位に供給されやすいものの、半導体インゴットの中央部と両端部とで供給量が異なりやすいという性質を有するが、本発明の構成によって、この課題が解決され、良好な加工性を維持しつつ、均一にワイヤーによって加工位置へと供給されるようになる。
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づき詳細に説明する。
本発明における半導体基板の形成装置の基本構造は、図5の従来の装置の斜視図に示す構造と同様である。すなわち、2本の例えばウレタン樹脂などからなるメインローラー5に所定間隔で複数本の切断用のピアノ線のワイヤー6が張られたマルチワイヤーソー装置を用いて直方体の半導体インゴットをスライスして半導体基板を形成するために、このマルチワイヤーソー装置の上方に、砥粒スラリーをワイヤー6に供給する構造を備えている。
砥粒スラリーの供給する構造としては、スラリー供給ノズル1(1a、1b、1c)の下部に、スラリー供給装置2(2a、2b、2c)を設け、このスラリー供給装置2間に、スライス台4に接着された半導体インゴット3(3a、3b)を配設されたものとなっている。そして、この半導体インゴット3を徐々に下降させるとともに、スラリー供給装置2から砥粒スラリーをワイヤー6に供給しながら、ワイヤー6を高速走行させて、半導体インゴット3をスライスする。
砥粒スラリーは、例えば、SiCの砥粒と鉱物油、界面活性剤、分散剤からなるラッピングオイルの混合で構成される。また、切断中に落下するかもしれない半導体基板の端材がメインローラー5へ巻き込むのを防止するために端材巻き込み防止板7を設け、さらに防ぎきれなかったときのためにディップ槽8を設けている。またディップ槽8は、砥粒スラリーの回収や切断するときに発生する切粉の回収の目的をも有している。
半導体インゴット3(3a、3b)は、例えば鋳造法などによって形成された多結晶シリコンのインゴットを所定の寸法、例えば150×150×300mmの直方体に切り出して構成される。この半導体インゴット3の一面にエポキシ系樹脂などの接着剤などを塗り、カーボン材またはガラス材を基材とするスライス台4に接着されている。したがって、半導体インゴットは切断してもバラバラになることがなく、その状態で次工程の洗浄工程に投入される。
洗浄工程ではまず灯油などからなる洗油で、スライス時に付着したスラッジなどを落とす。その後アルカリ系の洗剤で油をおとし、その後その洗剤を水で洗い流す。そして熱風やエアーなどにより、基板表面を完全に乾燥させてからスライス台4から剥離させることにより半導体基板が完成する。
ピアノ線のワイヤー6は、例えば120〜180μm程度の直径を有するピアノ線からなり、400〜600μm程度のピッチで配列されている。このワイヤー6はメインローラー5を所定の回転速度で回転させることによって、走行移動させることができ、通常、500〜800m/min程度となるように高速に走行移動される。
メインローラー5は、例えば直径200〜350mm、長さ400〜500mmのウレタンゴムなどからなり、その表面に400〜600μm程度の所定間隔でワイヤー6がはまる多数の溝(不図示)が形成されている。この溝の間隔とワイヤー6の直径との関係によって、最終製品である半導体基板の厚みが定まる。
半導体インゴット3a、3bの上方には、スライス用砥粒スラリーを供給するスラリー供給ノズル1a、1b、1cが設けられ、さらにこのスラリー供給ノズル1a、1b、1cの下にスラリー供給装置2a、2b、2cが設けられている。
図5に示す例では、半導体インゴット3a、3bを2列設置し、ワイヤー6が右方向もしくは左方向のいずれかの方向に走行した場合でも2列に設置した半導体インゴット3a、3bに最適に砥粒スラリーが供給できるようにスラリー供給ノズル1a、1b、1cを3箇所設け、多数本に張られたワイヤー6にムラなく均等に砥粒スラリーを供給できるように、さらにスラリー供給装置2a、2b、2cを3箇所設けている。
図1は、本発明の半導体基板の形成装置にかかるスラリー供給装置の一例を示す。図1(a)は、スラリー供給装置2を部分的に透視した斜視図であり、図1(b)は、スラリー供給装置2の上視図である。図1(c)は、スラリー供給装置2のスラリー供給口Xと半導体インゴット3(図中スケールで表示)の位置・寸法関係を示す図である。
図1に示したスラリー供給装置2は、半導体インゴット3の長さ方向に対してこの半導体インゴット3の中央部よりも両端部へ供給する砥粒スラリーの量が多くなるようにするスラリー供給量制御手段として、スリット形状を有し、その両端部が中央部に比べて幅広となったスラリー供給口Xを備えている。
図2に図1に示したスラリー供給口Xを備えたスラリー供給装置2の作用効果を示す。簡単にするため、図2では、スラリー供給装置2については、スラリー供給口Xの部分のみを図示している。図2に示すように、このスラリー供給装置2からスラリー供給口Xを介して、ワイヤー6へと砥粒スラリー10が供給される。このとき、砥粒スラリー10は、それ自身の有する粘性のため、スラリー供給口Xから出た後に、中央に向けて集まろうとしたり、砥粒スラリー10が半導体インゴット3の両端部から外へと回り込もうとするので、半導体インゴット3の長さ方向における両端部では中央部より砥粒スラリー10が不足する傾向にある。ここで本発明において、スラリー供給口Xは、半導体インゴット3の長さ方向に対して両端部の方が中央部よりも幅広となっているので、図2に示すように半導体インゴット3の中央部に相当する領域Cよりも両端部に相当する領域Bの方が、砥粒スラリー10の供給量を多くなるようにすることができる。その結果、半導体インゴット3における砥粒スラリー10の偏りを適正に補正し、インゴット内の両端部における半導体インゴットの切削性を向上させるとともに、ワイヤー6の断線を発生させず、半導体基板の面状態を高品質にすることが可能となる。
また、図3を用いて、本発明の半導体基板の形成装置にかかるスラリー供給装置および半導体インゴットの配設例について説明する。図3は、図5に示した本発明の半導体基板の形成装置の、スラリー供給装置2と半導体インゴット3の側面構造図である。
図3に示すように、スラリー供給装置2(2a、2b、2c)は、ワイヤー6との間に半導体インゴット3(3a、3b)を挟んで上方に配置され、砥粒スラリー10が半導体インゴット3の側壁を伝って落下するようにこの半導体インゴット3側に向けられたスラリー供給口Xを備えている。なお、このスラリー供給口Xは、半導体インゴット3に対して、中央部よりも両端部への砥粒スラリーの供給量が多くなるように構成されている。
このような構成によれば、スラリー供給装置2のスラリー供給口Xから供給される砥粒スラリーは半導体インゴット3の側壁を伝ってワイヤー6に供給され、砥粒スラリー10が直接、ワイヤー6に供給されることはない。もって、砥粒スラリー10がワイヤー6上で飛散することを極力防止でき、加工部分へ砥粒スラリー10が充分かつ均等に供給されることになる。また、図3に示すように、スラリー供給装置2のスラリー供給口Xを、半導体インゴット3の側壁側を向くように傾斜して設ければ、スラリー供給装置2のスラリー供給口Xから供給される砥粒スラリーは、確実に半導体インゴット3の側壁を伝ってワイヤー6に供給される。
なお、スラリー供給量制御手段の一例として、図1ではスラリー供給口Xを場所によって幅を変えたスリット形状とした例で説明している。スリット形状はその形状の調整を行いやすいので望ましいが、この形状に限るものではなく、このスラリー供給口Xの開口部面積の大小によって調整すればよい。例えば、図4に示すように、スリット状とする代わりに、複数の孔Xaを設けてこの存在密度や大きさを変えることによって、半導体インゴット3の中央部よりも両端部へ供給する砥粒スラリーの量が多くなるように制御してもよい。このように、開口部面積の大小によって制御すれば、簡単な構成により確実に本発明の作用効果を奏することができる。
なお、スラリー供給口Xは、その両端部が、半導体インゴット3の端部よりも10mm〜20mmの範囲で外側となるような大きさとすることが望ましい。この範囲よりも小さいとき(半導体インゴット3の長さよりもスラリー供給口Xの長さが短い時を含み)は、半導体インゴット3に対して十分に砥粒スラリー10を供給することができない。逆にこの範囲よりも大きいときは、砥粒スラリーの使用量が多くなり、循環しているものの砥粒スラリーの損耗が激しくなる、また高速走行するワイヤー上に過剰にスラリを供給する事になり砥粒スラリが複数本張られたワイヤー上で乱流を起こし均一に砥粒スラリが切削中のインゴットへ持ち込まれなくなるという問題がある。
また、このスラリー供給量制御手段を、図1に示したスリット形状を有するスラリー供給口Xとした場合は、図1(c)に示すように、スリットの開口部が、半導体インゴット3の長さ方向に対してこの半導体インゴット3の中央部に対応する位置の幅bが、半導体インゴット3の側壁高さ(図3(a)の側壁高さa)の1.5%〜2.0%の範囲とすることが望ましい。このような構成とすれば、半導体インゴット3の側壁高さaが大きいときには、砥粒スラリー10が不足しがちになるが、このスリットの幅bが側壁高さaに比例した適切な範囲に調整されているので、適正量の砥粒スラリー10をワイヤー6に供給することができる。
そして、図1(c)に示すように、スリットの開口部は、この開口部の両端からの長さが30mm〜50mmの範囲となる領域の幅cが、中央部に対応する位置の幅bの1.2倍〜1.5倍の範囲とすることが望ましい。このような構成とすれば、上述のように、半導体インゴット3の大きさに対してスリットの幅bが適切に保たれるので、適正量の砥粒スラリー10をワイヤー6に供給しつつ、この砥粒スラリー10が半導体インゴット3の中央部で少なく、両端部では多くなるという現象が適正に補正される。その結果、半導体インゴット3の切削性の低下や、半導体基板面上のワイヤー擦れ痕や段差などの発生を抑制し高歩留りを得ることができ、また半導体インゴット3端部でのワイヤー断線などの問題を解消することができる。
上述のような本発明の半導体基板の形成装置において、砥粒スラリー10は、SiCの砥粒とラッピングオイルとからなるように構成することが望ましい。結晶シリコン基板の加工に適しており、太陽電池用の多結晶シリコンの半導体基板などを好適に形成することができるからである。
なお、SiCの砥粒としては、10.5±1.0μm〜24.0±1.5μm(#1500〜#600)の大きさのものを使用することができ、例えば、#800のGC砥粒(SiC砥粒)を用いれば、適正な切削速度と仕上げ面精度が得られることから望ましい。
また、ラッピングオイルとしては、鉱物油、界面活性剤、分散剤などを組み合わせた混合物を使用することができる。
そして、この砥粒スラリー10の粘度は、10Pa・s以上とすることが望ましい。通常、このような粘度領域の砥粒スラリーは、ワイヤー6によって加工部位に供給されやすいものの、その粘性のために半導体インゴット3の中央部と両端部とで供給量が異なりやすい。しかしながら、本発明の構成によってこの課題が解決されるので、砥粒スラリー10は、良好な加工性を維持しつつ、均一にワイヤー6によって加工位置へと供給される。
なお、砥粒スラリー10は、繰り返して使用するうちにその粘度が上昇するが、本発明の効果を良好に奏するためには、粘度の上限としては600Pa・sであり、この上限値に達する前に、砥粒スラリー10を新しいものに入れ替えたり、ラッピングオイルとバージンの砥粒を追加したりして、適正な粘度領域で用いることが望ましい。砥粒スラリー10が古くなって粘度が高くなりすぎると、本発明の効果が得られなくなるばかりか、砥粒スラリー10に混入した切削時の混入物などによって半導体基板が汚染される恐れもあるからである。
なお、本発明の実施形態は上述の例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることはもちろんである。
例えば、上述の説明では、スラリー供給装置が備えるスラリー供給量制御手段として、スラリー供給装置2に設けたスラリー供給口Xの開口部面積を変えて、供給する砥粒スラリー量を制御した例によって説明したが、これに限るものではなく、スラリー供給装置2がノズルによって直接、砥粒スラリー10を所定位置に所定量を供給するように構成されていても構わない。例えば、ノズルに印加する圧力を変えたり、ノズルの径を変えたり、供給されるスラリの粘度を変えたり、複数のノズルを設けてその存在密度を変えたりすることによって、半導体インゴット3の両端部で砥粒スラリーの供給量が中央部よりも多くなるようにすれば、本発明の効果を良好に奏することができる。
次に本発明の実施例について説明する。
図5および図3に示す半導体基板の形成装置に150mm×155mm×L=280mmの多結晶シリコンの半導体インゴットを2本セットし、180μmの直径を有するピアノ線のワイヤーを600m/minで高速走行させ、連続でスライスして、約300μm厚のシリコン基板を作製した。
このときの砥粒スラリーはSiC砥粒(#800)と界面活性剤と分散剤、鉱物油などからなるラッピングオイルを混合して作製し、その粘度は、E型粘度計(RION社製)を用いて、直径45mmのコーン型の回転測定子(測定器付随No3測定子)によって、剪断速度を5s−1としながら、内径90mmの容器(測定器付随の容器)内にて28℃で5分間回転して剪断させる方法によって測定したところ、115Pa・sであった。切削中の砥粒スラリーの供給量は、トータルで100L/minとなるように調整した。
スラリー供給装置2としては、図1に示した実施形態のものを用い、スラリー供給口Xの寸法は、半導体インゴット3方向の長さが300mm、図1(c)に示した中央部の幅bについては、半導体インゴット3の側壁高さa(155mm)に対して、b/a=1.5%、すなわち2.325mmを基本的な条件とし、1.0%〜2.4%の範囲で変更した試料を作製した。また、図1(c)に示したスラリー供給口Xの端部の幅cについては、中央部の幅bに対して、c/b=1.5(150%)を基本的な条件とし、100〜160%の範囲で変更した試料を作製した。
このようにして切断した多結晶シリコンの半導体インゴット3を、図7に示すようにその長手方向に対して、50mmごとに切り分けたときの各範囲内において、得られたシリコン基板の表面観察を行い、歩留まり比較を行った。その結果を表1に示す。
総合評価の基準は、平均歩留まりが、85%より小さいときは×(不可)、85〜90%のときは△(可)、90%以上のときは○(良)とした。
試料No.1はスラリー供給口Xの端部の幅(c)に対して中央部の幅(b)が等しい本発明の範囲外となった従来の試料であるが、特に、インゴットの端部に位置する多結晶シリコンの基板の状態が悪くなるなど、歩留まりに大きな問題が生じ、×(不可)であった。
それに対して、本発明の範囲内である他の条件では、すべて△(可)以上の結果が得られ、本発明の効果が確認された。中でも、スラリー供給口Xの中央部の幅bが、半導体インゴット3の側壁高さaに対して、b/aが、1.2〜2.0%の範囲にあり、スラリー供給口Xの端部の幅cが、中央部の幅bに対して、c/b=1.2〜1.5(120%〜150%)の範囲にある試料No.3、No.5〜9のについては、いずれも○(良)以上の結果となった。