JP4373724B2 - ビトリファイド砥石 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、ビトリファイド砥石に関し、詳しくは水溶性油を使用したホーニングまたは超仕上げ加工等に適用されるビトリファイド砥石に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、自動車部品などの鋳鉄製シリンダー、その他の部品をホーニング加工、または超仕上げなどのように極めて精密な研摩加工をする場合に、ビトリファイド砥石が用いられている。
【0003】
ビトリファイド砥石は、アルミナ質、炭化ケイ素質などの一般砥粒、または超硬質のダイヤモンド、立方晶窒化ホウ素などの研摩材を、セラミック質の結合材と混合し、圧縮成形体をさらに焼成したものである。
【0004】
ビトリファイド砥石によるホーニング加工された研削面の表面を微視的にみると、切削条痕の盛り上がり縁部の重なり合いが創成され、そこでは加工物に対して強制的に作用して、粘着によって表面に固着した加工材料の残骸が存在して粗表面が創成されている状態が観察できる。
【0005】
すなわち、鋳鉄材料のホーニング加工などでは、砥粒が加工物表面に作用して切り屑を出すが、この切り屑が加工表面から直接にまたは直ちに消失してしまうということはなく、加工表面での多くの切り屑は干渉、重覆、付着、固着、変形などの残留現象の原因になっており、速やかに排出する必要がある。
【0006】
鋳鉄シリンダーボアの金属残留または折り重なり現象の問題は、世界的に自動車エンジン製作での第1義的な問題にもなっている。なぜならオイル消費、エンジン寿命に関連して、表面構造はシリンダーボア及びピストンリングの運転能力に影響するからである。
【0007】
したがってエンジン寿命、信頼性、経済性を高めるためにも、シリンダーボアのホーニング加工は、鮮明な表面外観をもった損傷のない表面加工、すなわち鮮明なクロスハッチパターンであり、表面層の流動、折重、損傷、圧潰などの欠陥のない表面になるように検査されている。
【0008】
通常、粗加工に使用されるダイヤモンド砥石の代表的な粒度は、80/100メッシュであるが、この砥石によるホーニング後の問題を解決するために、特に切削性に優れたダイヤモンド砥石または炭化けい素(GC)微粒砥粒を使用したセラミックボンドホーニング砥石が用いられ、またはブラッシュホーニング等がなされるが、それでも満足される現状にはなっていない。
【0009】
ところで、研削にはビトリファイド砥石と共に研削油(加工油)が用いられ、そのような研削油(加工油)の種類として、不水溶性油および水溶性油が知られている。
【0010】
不水溶性油は、冷却性が悪く、火災が起こり易いなどの欠点があるが、切屑表面に多層油膜の均一密着形成により、切屑同士の粘着または砥石作用面へ付着しない利点があり、切屑の分散および研削面からの排出を容易にするものである。特に、ホーニング、超仕上げでは、潤滑性、洗浄性、安定性に優れた不水溶性油が使用されてきた。
【0011】
不水溶性油は、基油としての低粘度鉱油に、油性を向上させ仕上げ面租さを良くするため脂肪油(動植物油)を配合した混合油であり、さらにいおう系または塩素系いおうの相乗効果による硫塩化系極圧添加剤を含む極圧油が標準的に選択配合され、種々の加工条件に対して、安定した潤滑効果をねらったものである。
【0012】
他方、不水溶性油剤の特性の1つに、表面張力(10-3N/m)が小さいことが挙げられる。表面張力が小さいと、加工物の濡れと切屑の分離が容易になるので、砥石の目詰まりが生じにくい。
【0013】
しかし、最近では生産ラインの合理化、自動化、無人化の他に、研削環境、地球環境または工場火災などの問題をなくするように、研削油(加工油)の種類は、不水溶性油から水溶性油へと転換される要望が高まっている。
【0014】
水溶性油剤としては、エマルジョン形(主成分は、鉱物油、油性剤、界面活性剤、インヒビター)、ソリュブル形(界面活性剤、油性剤、インヒビター)、ソリューション形・シンセティックタイプ(合成潤滑油、界面活性剤、インヒビター)がある。市販の水溶性油剤の表面張力は、濃度10%以上で30〜40(10-3N/m)にあり、10%未満では急増し大きな値となっている。
【0015】
また、水溶性研削油(加工油)に長時間曝された有気孔ビトリファイド砥石は、強度が劣化するという問題もあり、この問題に対しては、気孔内周にフェノール樹脂を被覆するという技術的手段が開示されている(特許文献1参照。)。
【0016】
【特許文献1】
特開平8−276365号公報(段落0005)
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、ビトリファイド砥石での研削油(加工油)に用いられる水溶性油は、油膜形成力が弱く、そのため断続的かつ不均質で不充分な膜形成をするから、浸透性や潤滑性機能が不水溶性油を使用した場合に比較して劣り、ホーニングまたは超仕上げ加工において、砥石の作用面が激しい目詰まり現象を起こす場合があった。
【0018】
特に、水溶性油に含まれる界面活性剤の一部が、水に不溶性の粘着物となって砥石表面に付着すると、砥石は激しい目詰まり状態となり、このとき砥石と加工物が面接触により発生する切屑の排出が困難になるという問題点があった。
【0019】
このように切屑の排出が困難であるという傾向は、研削対象が鋳鉄またはセラミック材料などのように、発生する切屑が粉状で細かいものよりも鋼材料のように長い流れ型切屑が発生するものの方が著しいものである。また、前加工面粗さが細かい場合であるか、または取り代量が多すぎる場合にも同様な目詰まりが起こりやすい。
【0020】
このようにして砥石に目詰まりが起こると、砥石の摩耗量は少なくなり、切削量は僅少となり、加工の進行と共に目詰まり部分の成長による加工面への傷、または目詰まり部分の脱落による異常摩耗が起こる場合がある。
【0021】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、ビトリファイド砥石の研削時の目詰まりの問題を解決することであり、特に水溶性油を使用した鋳鉄材料などの研摩面に目詰まりを起こさないビトリファイド砥石とすることであり、また効率の良いホーニング、超仕上げ加工によって好ましい表面性状を実現可能なビトリファイド砥石とすることである。
【0022】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するために、この発明においては、焼成されたセラミック質の結合材で砥粒を結合した有気孔ビトリファイド砥石において、この砥石の気孔内に融点75℃以上で硬度100〜120(ロックウェル硬度計、試験荷重98.1N)の有機質ワックスを保持させたことを特徴とするビトリファイド砥石としたのである。
【0023】
この発明のビトリファイド砥石の気孔内に保持させた融点75℃以上で硬度100〜120(ロックウェル硬度計、試験荷重98.1N)の有機質ワックスは、切削砥粒の作用点でワックス(ロウ)分が気孔から徐々に供給されて撥水作用を発揮し、その潤滑性能を発揮する。
【0024】
このような作用を奏する有機質ワックスとしては、抗折力10〜20MPa、曲げ弾性率300〜500kg/mm2の有機質ワックスであることが好ましく、より好ましくはカルナウバワックスを採用することである。
【0025】
溶解した有機質ワックスに砥石を含浸することにより砥石気孔に有機質ワックスを充填処理することによって、砥石結合度は増加して強度が増す。この結果、砥石臨界圧力は大きくなり、切削砥粒の補強効果によって砥石寿命が向上する。
また、この処理によって切屑が気孔へ侵入しにくくなり、目詰まり防止効果、処理剤の特徴を生かした潤滑効果などにより研削効率が向上する。
【0026】
有機質ワックスは、融点75℃以上の高融性であり、切削加工時に溶融状態にならなければ切削砥粒の補強効果があり、かつ適度の目詰まり防止効果がある。
【0027】
そのために有機質ワックスの融点は、所要の砥石仕上げ性能に対応させて75℃以上になるようにワックスの種類を選択すればよい。なぜなら、前述のように砥石研削面で有機質ワックスが溶融すると、切削砥粒の補強効果は全くなくなり、潤滑効果や目詰まり防止効果のみとなって好ましくないからである。また、切削砥粒の補強効果は、超仕上げに比較して重切削作用であるホーニングにおいて特に重要である。
【0028】
このようにして砥石は目詰まりのない状態で研削機能を発揮することにより、加工面に損傷のないクロスハッチパターンの創成が可能になる。
【0029】
また、この発明のビトリファイド砥石の研削面に水溶性油を研磨面に供給すると、有機質ワックスの優れた潤滑性能との相乗作用により、砥石目詰まりのない高切削性が可能になる。
【0030】
特に、鋳鉄材料のホーニング加工では、ダイヤモンド砥石による粗または中仕上げホーニングによって生じた切削条痕の盛り上り部分または加工表面での残留切屑をクリーンカットして、明瞭なクロスハッチパターンと仕上げ面粗さが創成され、より理想的な所要の油溜り表面性状が形成される。
【0031】
【発明の実施の形態】
この発明における有機質ワックスは、研削時に溶融しない融点が75℃以上の高融性ワックスであり、かつ常温では固体で硬度100〜120(ロックウェル硬度計、試験荷重98.1N)、抗折力10〜20MPa、曲げ弾性率300〜500kg/mm2という適当な硬さと強靭性を有するものである。
【0032】
因みに、切削砥粒の研削面の切削砥粒付近の温度を推定するには、種々の融点をもつ有機質ワックスを充填した処理砥石を用いて研削し、その仕上げ性能の変化から有機質ワックスの補強程度すなわち有機質ワックス融出状態を推定する。
【0033】
ホーニング、超仕上げでの研削温度を推定するために用いる種々の異なる融点の有機質ワックスの種類としては、いおう(融点約119℃)、塩素化パラフィン(約94℃)、カルナウバワックス(約85℃)、130パラフィン(約55℃)などを挙げることができる。
【0034】
例えば、不水溶性油を使用した超仕上加工で、いおう(融点119℃)が含浸処理された砥石の摩耗量は、無処理の砥石に比較して約1/2から1/5に減少する。これに対し130パラフィン(融点55℃)を含浸した砥石では、無処理砥石との問で性能差は殆んどないことから、130パラフィンは研削状態で溶融状態であろうことが推定される。
【0035】
カルナウバワックス(融点85℃)処理砥石は、無処理砥石に比較して砥石摩耗量は約1/2から1/3となることから、おそらく溶融状態になっていないと推定できる。この結果、切削砥粒付近の研削温度として、超仕上げでは85℃から55℃の間にあることが推定できる。またホーニングでも同様の手法により、約90℃付近を推定できる。
【0036】
他方、製造上の問題として、砥石気孔に有機質ワックスを比較的容易に充填処理するには、無機質いおうの場合のように、常温では固体で加熱すると低粘度の液体となる有機物が条件となる。
【0037】
これら種々の条件を満足する有機質ワックスは大別して、天然ワックスと合成ワックスがある。天然ワックスには、動・植物ワックス、鉱物ワックス、石油ワックス等がある。合成ワックスにもポリエチレン系、アミド系など多くの種類がある。
【0038】
表1に、各種有機質ワックスの特性値を示した。なお、特性値は、1種類について試料数が3〜4から測定した。試料は、砥石気孔に有機質ワックスを含浸処理する時の溶融液温度まで加熱し、自然冷却して固化させたものを用いた。例えば無機質(いおう)の場合、液体であるλいおうの状態で粘度が最も小さくなり、140℃の融液から自然冷却により固化する。
【0039】
硬度は、石油ワックスの針入度試験法(JIS K2235)などが周知であるが、この発明においてはロックウェル硬度計で測定した。
なお、通常の微粒砥石の硬さ記号HRHによりロックウェル硬度計のHスケール(圧子3.175mm、基準荷重98.1N、試験荷重588N)で測定するには、試料が軟らかすぎたため、圧子に3.175mm鋼球を用い、基準荷重98.1NのみでダイヤルB(赤字)の指示数値を硬度とした。試料が軟らかい場合には、長針が30のセット点を過ぎ、更に0を通過して停止するとき、マイナス(−)の値とした。
【0040】
表1中に併記した抗折力は、島津製作所製の二点支持一点荷重試験機により、支点間距離を30mmとした時の測定値である。曲げ破壊弾性率は、抗折力測定時での荷重点におけるたわみ量の測定によって求めた。
【0041】
【表1】
Figure 0004373724
【0042】
有機質の天然ワックスは、植物系のカルナウバワックス、石油ワックスはパラフィンワックスまたはマイクロクリスタリンワックスの2種類(日本精蝋社製)とし、合成ワックスは日本精蝋社製のパラフィンワックス、またはクラリアント社製アミド系ワックスまたはポリエチレンワックスの3種類である。無機質ワックスは、いおう(硫黄)を採用した。
【0043】
表1に示した各種有機質ワックスまたは無機質ワックスの融点は、ホーニングや超仕上げの砥石研削面の温度が約80〜95℃になる場合があることから、75℃以上、より好ましくは80℃以上のものを選択することが好ましい。
【0044】
表1に示したいおうの抗折力値が小さい理由は、冷却過経で結晶系が単斜晶から常温の斜方晶に変化し、緻密な固溶体とならないからである。また、有機質ワックスのうち、天然ワックスすなわちカルナウバワックス(カルナウバロウとも呼ばれる)が、無機質いおうの特性値に類似していて好ましい。
【0045】
石油ワックスは、硬度も軟らかく粘稠性に富み、処理砥石として実削したところ切削性が阻害され、実用化は困難であった。
【0046】
合成ワックスは、硬くて機械的強度も大きく、融液は高粘度で砥石気孔への充填が容易でなく、さらに処理砥石として実削したところ目詰まり気味で好ましくなかった。
【0047】
ここで、この発明に用いる天然の有機質ワックスのうち植物系天然ワックスとしては、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、木ろう、ライスワックス、パームワックス、オウリキュリーワックス等が挙げられる。
【0048】
動物系で天然の有機質ワックスとしては、蜜蝋、鯨ろう等が挙げられる。なかでもカルナウバワックスは、融点80℃以上で動植物ろうの中で最も融点が高く、硬さ、強靭性、微結晶性などで最も優れている。
【0049】
またワックスは、室温と融点の間にある転移温度で結晶系が変化し、冷却速度によっても変り方が異なるため、砥石処理方法を一定にすることが肝要である。
【0050】
砥石気孔に充填されたカルナウバワックスの物性値は、抗折力10〜20MPa好ましくは13〜15MPa、曲げ破壊弾性率300〜500kg/mm2にあることが必要であり、参考値としては、この発明での測定基準による硬度は、100〜120(ロックウェル硬度計)の範囲にあることが好ましい。
【0051】
すなわち抗折力で10MPa未満、曲げ破壊弾性率300kg/mm2未満、および硬度100未満では、ワックスは固体状態で粘調性を増し、切削砥粒の刃先への溶着現象が予想される。
【0052】
また抗折力20MPa、曲げ破壊弾性率500kg/mm2、硬度120をそれぞれ超える値では、砥石作用面に目詰まり現象を誘発することが危惧されるからである。
【0053】
カルナウバワックスは、脂肪酸エステルからなる、いわゆる油性向上剤であり、砥石作用面での潤滑作用を期待できるものである。
カルナウバワックスの処理方法は、砥石気孔への充填量が最も大きくて安定している条件、すなわち粘性が最小になる150℃付近の融液中に2時間以上250℃に加熱された砥石を浸し、ワックスを含浸させた後、取出して一定条件で空冷する。
【0054】
この発明では、ホーニングおよび超仕上げにおいて、カルナウバワックス処理砥石を用い、研摩面に水溶性油を供給しながら研削加工することが適当である。
カルナウバワックス含浸処理砥石と、研摩時の水溶性加工油剤を供給するという組合せにより、砥石は目詰まりすることなく優れた切削性を発揮し、仕上げ比の大きい経済的なホーニング、超仕上げが容易となり、かつクリーンカットにより理想的な表面性状の実現が可能となる。
【0055】
特にシンセティック水溶性油剤は、油分を乳化させる成分は殆んどなく、カルナウバワックスを乳化させることはない。そのため砥石作用面では、ろう分の撥水作用によりカルナウバワックスの潤滑性能が充分に発揮される。
【0056】
すなわち、シンセティック水溶性油剤は、鉱物油など油脂分を乳化させる成分を含有せず、水に容易に可溶性の成分から構成されていることが好ましく、例えば構成成分として、脂肪酸石鹸、有機防錆剤、無機防錆剤、潤滑剤および水から成り、起泡性が少なく消泡性、潤滑性、防腐性、防黴性、防錆性に優れ、鉱物油、脂肪油および硫黄・塩素・燐化合物などの極圧添加剤またはシリコンおよび重金属、フェノール類、亜硝酸塩などの含有または添加がなされていないソリューション形シンセティックタイプ水溶性油剤などを挙げることができる。
【0057】
鋳鉄材料のホーニング面は、材料中のグラファイトが摘出されて表面を覆った状態であり、または摘出後に表面に開孔した状態、圧搾された状態、または圧搾後に摘出され開孔となった状態、または表面に移動して盛上りとなって残存した状態、さらにまた表面のグラファイト部に金属が折り重なっている状態、そして切屑が押込まれた状態や切屑の除去痕などを有する状態である。
【0058】
理想的なホーニング表面状態は、グラファイトが仕上げ面に顕出もしくは押圧され、または摘出による開孔のない状態、または金属の折り重なりや表面の損傷のない鮮明なクロスハッチパターンの創成された状態である。
【0059】
このような表面状態の観察は、ホーニング面の転写膜による複写、または加工物を切断によって製作した試料のホーニンク表面を顕微鏡写真によって判断することによる。
【0060】
次に、この発明に用いる砥粒の種類は、酸化アルミニウム(WA,A)、炭化けい素(GC,C)など、または立方晶窒化ほう素(CBN)、ダイヤモンド(SD)などの超硬砥粒の単種または2種以上からなる。
他方、この発明に用いるカルナウバワックスは、加工油剤である鉱油溶剤に対する溶解性が、いおうよりも少なく安定しているものである。
【0061】
そして、この発明においてビトリファイド砥石を、水溶性切削油を用いるホーニングまたは超仕上げ加工用のビトリファイド砥石とする場合は、たとえばダイヤモンド砥粒80/100メッシュ砥石による粗ホーニング後、また、さらに170/200メッシュ砥石で中仕上げホーニングした表面を、カルナウバワックスを砥石気孔に充填したGC処理砥石でシンセティック水溶性油剤を使用して鋳鉄材料の内面をホーニング加工する。
【0062】
この結果、有機質ワックスの優れた潤滑性能により、GC砥石の切削性能はより高められ、水溶性油の使用でも目詰まりや目つぶれをすることなく、低いホーニング抵抗でクリアーなクロスハッチパターンからなるダメージのない理想的な表面仕上げが可能なビトリファイド砥石となる。
【0063】
また、焼成された砥石に対するワックス処理に伴う切削砥粒の補強効果、および砥石硬度の上昇は、砥石寿命を向上させて、経済的なホーニング加工を達成する。
【0064】
【実施例および比較例】
ビトリファイド砥石の硬度別に結合剤率、すなわち砥石組織は、実施例と対応する比較対象とする比較例とで一定とし、また気孔率、砥粒率、結合剤率などの体積比が一定となるように、有機質ワックスの含浸処理前のHRH硬度(ロックウェル硬度計、Hスケール)を一定にする条件で実施例および比較例で試験に供する砥石を製造した。
【0065】
すなわち、緑色炭化けい素(GC)で粒度は320メッシュ(砥粒径40μm、JISR6001、電気抵抗試験法)および600メッシュ(20μm)の砥粒を用い、種々の配合で調製された所定の砥石硬度(J、L、M、N)の砥石(角形で幅2.5mm、高さ3mm、長さ40mm)を、溶融したワックスに含浸処理し、その前後のHRH硬度を測定することにより、砥石結合度の増加の程度を調べ、この結果を表2、3に示した。
【0066】
製造条件の詳細は、各砥石とも人工気孔剤の大粒子〔平均粒子径55μm〕を単位砥粒量に対し0.08の一定割合で添加して多孔性とし、小粒子(平均粒子径12μm)を0.04±0.005範囲の割合で添加し、成型圧力とともに砥石結合度の微調整を行った。
【0067】
ビトリファイド結合剤は、化学式で4.66SiO2、0.58Al23、1.68B23、0.11CaO、0.17MgO、0.19K2O、0.53Na2Oである。
【0068】
HRH硬度の測定は、ロックウェル硬度計Hスケールとし、鋼球圧子3.175mmで、試験荷重588N、ダイヤルB(赤字)の指示数値とした。
【0069】
砥石は砥粒、結合剤、気孔剤それに生強度付与剤としての一時的結合剤などを加え均質混合した後、所定の各金型にチャージ成型する。次いで金型から取出し乾燥後、昇温速度30℃/時、最高温度875℃、保持時間3.5時間で焼成後、自然冷却した。そして、角形焼成ブロックから、ホーニング砥石寸法を切り出し整形した。次いで砥石をワックスに含浸処理した。
【0070】
使用した有機質ワックスは、有機質にカルナウバワックス、無機質としては、いおうを用いた。
有機質ワックスの融液温度は、いおうでは液体状態で粘度が最も小さくなる約140℃付近とし、カルナウバワックスでは、充填量が最も大きく安定している条件として、融液の粘性が最小になる150℃付近で、それぞれ予熱しておいた砥石をゆっくりと浸漬してゆき、気孔中の空気を追い出しながら有機質ワックスと置換するという自然充填法をとった。その後、液から取り出し空冷した。砥石は処理の前後に、結合度を測定した。
【0071】
【表2】
Figure 0004373724
【0072】
【表3】
Figure 0004373724
【0073】
表2、3の結果からも明らかなように、GC320メッシュ、ビトリフアイドボンド砥石のHRH硬度は、カルナウバワックスの充填処理後の実施例の砥石は、HRH100未満であるのに対し、いおうを充填処理した同じ硬度の比較例の砥石はHRH103〜110の範囲であり、高い結合度上昇率を示した。
【0074】
なお、単位砥粒量に対する結合剤率は、各砥石硬度別に一定とした。実施例5、6は実施例2、3に比べて摩耗を減少させるため、HRH結合度は同じとして結合剤率を高めて砥石臨界圧力を向上させ、同一硬度ながら砥石臨界圧力を大きくした場合の砥石作用をみるようにした。
【0075】
〔ホーニング実削試験〕
上述のようにして得られた実施例および比較例の砥石を使用し、浜野鉄工製、精密ホーニング盤により、鋳鉄シリンダー内面をホーニング加工し、その性能を調べた。
【0076】
研削対象は、FC250(JIS)、硬さHB200/210、寸法は内径40mm、加工長120mmとし、その前加工粗さは、ダイヤモンド180メッシュメタルボンド砥石により、略10μmRzに揃えた。取付具型式はリジッド、クランプ圧力1.32MPa、アダプター形式はフローティングで砥石拡張方式は、定速切込みとした。
【0077】
なお、試験には砥石を1セット4本として用い、ホーニング条件は、主軸回転数480回/分、ストローク数140回/分、切込み速度は直径0.18mm/分で総切込み量、直径0.064mm(64μm)とした。なお、交差角(2α)は、26.3°とした。
【0078】
ホーニング加工に使用した加工油剤は、不水溶性油剤では、主成分が精製鉱物油、硫黄系極圧添加剤、油性向上剤から成り、代表的性状は粘度(cSt,40℃)5.2、引火点(COC)152℃、硫黄分0.5%、油脂分5.0%の低粘度不活性硫化型油剤とした。
【0079】
水溶性油剤は、主成分として特殊潤滑剤、脂肪酸石鹸、有機防錆剤、無機防錆剤から成り、希釈倍率30倍で使用した。
【0080】
代表的性状は、30倍希釈でPH8.5、表面張力(10-3N/m)35.5、防錆性(FC−20、室温×24h r)マッチ法(×20)、チップ法(×30)ともに変化なし、その他シェル高速四球試験(×30)(150kg/cm2×600rpm×10mim)摩耗痕径0.79mmなどである。
【0081】
表4または表5に、ホーニング実削試験結果を示した。なお、測定項目は、砥石摩耗量(W)、切削量(T)、切削除去率(T%)、ホーニング比(T/W)、面粗度(Rz)およびホーニング抵抗(Watt)とした。
【0082】
ホーニング抵抗は、主軸電流計で負荷状況(平均消費電力Watt)の表示によるものとした。面性状は、ホーニング加工面の顕微鏡観察により、砥石作用面についても、目詰まり状態を調査した。
【0083】
【表4】
Figure 0004373724
【0084】
【表5】
Figure 0004373724
【0085】
表4、5の結果からも明らかなように、水溶性油を使用した実施例の有機質処理砥石は、比較例の無機質処理砥石に比較して、切削性に優れており、T(%)も大きく設定切込量に対して切残し量が少なかった。特にホーニング抵抗が小さいのが特徴的であった。
【0086】
この結果、比較例の無機質いおう処理砥石が激しく目詰まりするのに対し、実施例の有機質処理砥石は、カルナウバワックスの潤滑機能が存分に発揮され、またろう分の撥水作用によりクリーンな砥石作用面の持続と無理のない卓越した切削作用により、ダメージの少ない理想的な面性状を得て、鮮明なクロスハッチパターンの形成が可能となった。
【0087】
また、比較例のいおう処理砥石に比較して、実施例の処理砥石の結合度は軟らかく、砥石摩耗量は多いものの、切削量は約1.5〜2.0倍という優れた切削性能によりホーニング比(T/W)もより大きな値となり経済的であった。
【0088】
その他にも、結合剤率を多くして砥石臨界圧力を高めた実施例5および6は、標準の2および3に比較して、Wが少なくなり、Tの減少変化も僅かであり、従ってT/Wは大きな値となり高砥石寿命とすることができた。
【0089】
また、不水溶性油での実削結果は、有機質処理砥石が無機質処理砥石に比較して、やはり切削性において優れているものの、切削量に対応して面粗度が粗くホーニング抵抗も若干高かった。このため実施例の砥石は、目詰まりはないものの、研削対象の面粗度、面性状は今一つ満足されるものではなく、前述の結果と総合すると、水溶性油により適しているものと認められた。
【0090】
このように水溶性油を使用して、鋳鉄材料の内面ホーニングを行うと、従来の無機質いおう処理砥石に比較して、確実に1.5〜2.0倍以上の高切削量を得られ、ホーニング比の減少変化もなく経済的であり、かつ約20%以上も低いホーニング抵抗により、不水溶性油使用よりも細かい面粗度を得て、目詰まりもなくダメージの少ない鮮明なクロスハッチを有する面性状が可能となる。
【0091】
【発明の効果】
この発明は、以上説明したように、焼成されたセラミック質の結合材でGC砥粒を結合した有気孔ビトリファイド砥石の気孔内に所定の有機質ワックスを保持させたビトリファイド砥石としたので、切屑が気孔へ侵入しにくくなり、目詰まり防止効果、処理剤の特徴を生かした潤滑効果などが奏され、特に水溶性油を使用したホーニング、超仕上げ加工に用いるビトリファイド砥石の目詰まりの問題が解決され、また鋳鉄材料などの加工時に好ましい表面性状を実現可能なビトリファイド砥石になるという利点がある。

Claims (4)

  1. 焼成されたセラミック質の結合材で砥粒を結合した有気孔ビトリファイド砥石において、この砥石の気孔内に融点75℃以上であり、ロックウェル硬度計による試験荷重98.1N、常温での硬度100〜120の有機質ワックスを含浸して保持させたことを特徴とする水溶性油を用いる切削加工用ビトリファイド砥石。
  2. 有機質ワックスが、抗折力10〜20MPa、曲げ弾性率300〜500kg/mmの有機質ワックスである請求項1に記載のビトリファイド砥石。
  3. 有機質ワックスが、カルナウバワックスである請求項1または2に記載のビトリファイド砥石。
  4. ビトリファイド砥石が、ホーニング用または超仕上げ加工用のビトリファイド砥石である請求項1〜3のいずれかに記載のビトリファイド砥石。
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