JP4371178B2 - 抗p53一本鎖抗体フラグメント及びその使用 - Google Patents
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Description
野生型p53タンパク質は細胞周期の調節と細胞のゲノムの完全性の維持に関与している。このタンパク質は所定の遺伝子の転写アクチベーターであることを主機能とし、ゲノムの複製中に突然変異が出現すると、細胞周期のG1期の細胞を阻止し、所定数のDNA修復プロセスを開始することができるが、そのプロセスはまだ十分に解明されていない。更に、これらの修復プロセスが機能不良の場合又は突然変異現象の発生頻度が高過ぎて修復できない場合には、このタンパク質はアポトーシスと呼ばれるプログラムされた細胞死現象を誘導することができる。このように、p53タンパク質は異常に分化した細胞又はゲノムが損傷した細胞を除去することにより腫瘍抑制剤として作用する。
p53のこの主機能はその転写因子機能に依存し、換言するならば、ゲノムDNAのレベルで特異的配列を認識すると共に、一般転写機構を強化するという二重の機能に依存する。
p53タンパク質は以下の5個の機能ドメインを規定する393個のアミノ酸を含む。
−TBPタンパク質等の所定の一般転写機構因子と結合することが可能なアミノ酸1〜73から構成される転写活性化ドメイン。このドメインは所定数の翻訳後修飾の場でもある。また、野生型タンパク質の機能を阻止することが可能な多数の他のタンパク質、特に細胞タンパク質mdm2又はエプスタイン・バーウイルス(EBV)のEBNA5タンパク質とp53タンパク質との多数の相互作用の場でもある。更に、このドメインはタンパク分解を受け易いPESTと呼ばれるアミノ酸配列をもつ。
−アミノ酸73〜315に局在するDNA結合ドメイン。p53のこの中心ドメインのコンホメーションはp53タンパク質の特異的DNA配列の認識を調節する。このドメインは野生型タンパク質の機能に作用する以下の2種の変異の場である。
(i)SV40ウイルスの「ラージT」抗原又はユビキチン系によりその分解を生じることが可能なHPV16及びHPV18ウイルスのE6ウイルスタンパク質のようにp53の機能を阻止するタンパク質との相互作用。後者の相互作用は細胞タンパク質E6ap(ユビキチン化カスケードのE3酵素)の存在下でしか生じることができない。
(ii)p53の機能に作用し、ほぼ全体がこの領域に局在する点突然変異。
−主機能を実施する区画にタンパク質を良好に送達するのに不可欠なアミノ酸315〜325から構成される核局在化シグナル。
−アミノ酸325〜355から構成されるオリゴマー化ドメイン。この325〜355領域はβシート(326〜334)−湾曲部(335〜336)−αヘリックス(337〜355)の型の構造を形成する。この領域に局在する機能変異は野生型タンパク質の機能を種々に変更し得る種々の突然変異形態と野生型タンパク質の相互作用に主に起因する。
−p53タンパク質の機能を正又は負に調節する所定数の翻訳後修飾(グルコシル化、リン酸化、RNA固定等)の場であるアミノ酸365〜393から構成される調節ドメイン。このドメインは野生型タンパク質の活性の調節に極めて重要な役割を果たす。
p53タンパク質の機能は種々の方法で妨害され得る。
−例えばSV40ウイルスの「ラージT」抗原、エプスタイン・バーウイルスのEBNA5タンパク質又は細胞タンパク質mdm2等の所定数の因子による機能阻止。
−特にp53がユビキチン化周期に入るのを助長するヒトパピローマウイルスHPV16及びHPV18のE6タンパク質との相互作用によるタンパク分解感受性の増加によるタンパク質の脱安定化。この場合、これらの2種のタンパク質の相互作用は細胞タンパク質が予め固定されていないと生じないが、E6apタンパク質の固定部位はよくわかっていない。
−p53の遺伝子のレベルの点突然変異。
−p53の1又は2個の対立遺伝子の欠失。
後者2種の変異は種々の癌の約50%で認められる。この点については、癌細胞で記録されているp53の遺伝子の突然変異はこのタンパク質をコードする遺伝子の非常に大部分に及んでおり、その結果、このタンパク質の機能に種々の変異を生じている。但し、これらの突然変異は大半がp53タンパク質の中心部分に局在しており、この部分はp53タンパク質の特異的ゲノム配列との接触領域であることが知られている。p53タンパク質の突然変異体の大半が野生型タンパク質を認識するDNA配列に固定できず、従って、転写因子の役割を発揮できないという主特徴をもつのはこのためである。更に、突然変異体のうちには転写レベルで所定の遺伝子の活性化等の新規機能を獲得しているものもあるらしい。
現在、これらの変異は3種に分類されている。
−所謂弱変異体。この突然変異体の産物は非機能的タンパク質であり、2個の対立遺伝子のうちの1個だけが突然変異している場合には、他方の対立遺伝子によりコードされる野生型タンパク質の機能は変わらない。この分類の代表例は突然変異体H273及びW248であり、後者は癌性疾患過敏家族性Li−Fraumeni症候群に特異的である。
−優性ネガティブ変異体。この突然変異体の産物は非機能的タンパク質であり、2個の対立遺伝子のうちの1個のみが突然変異している場合には、野生型タンパク質との相互作用により、野生型タンパク質の特異的DNA配列にもはや結合できない非活性混合オリゴマーを形成し、野生型タンパク質の機能を阻止することができる。
−優性癌突然変異体。この突然変異体の産物は、2番目の分類の突然変異体と同様に野生型タンパク質の機能を阻止すると共に、よくわかっていないメカニズムにより腫瘍発生を助長し、機能獲得することが可能なタンパク質である。この分類の代表例は突然変異体H175である。
野生型p53遺伝子は、抗腫瘍性とアポトーシス性をもち、多数の過剰増殖型疾患に関与しているため、遺伝子及び細胞治療のアプローチで使用されている。特に、野生型p53遺伝子のin vivo投与、p53の機能の復元により所定の過剰増殖疾患、特に癌を治療することが提案されている。投与はウイルスベクター、特にアデノウイルス(WO94/24297)又はレトロウイルス(WO94/06910)により実施することが好ましい。例えば野生型p53タンパク質をコードする核酸を導入すると、細胞増殖の正常調節を部分的に復元できることが報告されている(Rothら,Nature Medicine 2(1996)985)。p53型の性質をもつ化学分子の使用に基づく代替ストラテジーも開発されている(PCT/FR96/01111)。
野生型表現型即ち野生型p53の腫瘍抑制性とアポトーシス性をもつように内因性突然変異タンパク質を復帰突然変異させることより、野生型p53タンパク質の機能を復元するアプローチもある。このアプローチは、p53の突然変異体の機能喪失が突然変異により誘導されるタンパク質のコンホメーション変化に起因するという知見に基づく。この点で、WO94/12202はp53タンパク質に対する特定モノクローナル抗体pAb421がヒト癌に頻出するある種の突然変異体にDNA結合機能をin vitroで復元できることを示している。しかし、この種の化合物を使用すると、多量の抗体が必要であり(従って、付随する製造/精製の問題)、細胞内に侵入しにくいため、重大な欠点がある。
本願はp53タンパク質の突然変異体に野生型性質を復元するための高性能アプローチに関する。本願は特に、野生型p53機能の復元という有利な性質をもつp53タンパク質に特に特異的なリガンドの構築に関する。より詳細には、本願はp53タンパク質の特異的一本鎖抗体(ScFv)、特に11D3分子の構築に関する。本願は更に、ScFvがp53を認識することができ、腫瘍細胞中で有効に発現でき、p53のある種の突然変異体のトランス活性化機能の一部を再活性化できることを実証する。
従来技術の方法に比較して、この分子は重要な利点があり、特に腫瘍細胞中で多量にin situ発現できる。従来の抗体とScFvの間には親和性がないことが多かったため、上記結果は予想外である。更に、本願出願人は最適生物活性を得られるように適当な細胞内区画でScFvを発現できることを実証した。
従って、本発明の第1の目的は、突然変異p53タンパク質をもつ細胞にp53依存性トランス活性化活性を復元する方法にあり、突然変異体p53タンパク質に特異的に結合することが可能な一本鎖抗体を細胞に導入することを特徴とする。有利な態様によると、本発明の方法は細胞で機能的なプロモーターの制御下に前記一本鎖抗体をコードする配列を含む核酸を細胞に導入する。本発明の別の側面は、タンパク質のコンホメーションを改変するための、突然変異p53タンパク質に特異的に結合することが可能な一本鎖抗体の使用に関する。本発明は更に、突然変異p53タンパク質が関与する過剰増殖疾患の治療用医薬組成物を製造するための、突然変異p53タンパク質に特異的に結合することが可能な一本鎖抗体の使用と、突然変異p53タンパク質が関与する過剰増殖疾患の治療用医薬組成物を製造するための、突然変異p53タンパク質に特異的に結合することが可能な一本鎖抗体をコードする核酸の使用にも関する。
従って、本発明の方法の一面は突然変異p53抗体に特異的に結合することが可能な一本鎖抗体の構築、ベクタークローニング及び細胞導入にある。一本鎖抗体(ScFv)はアームによりVL領域に結合したVH領域から主に構成される。ScFvとこのような改変抗体をコードする核酸配列の構築は例えば参考資料として本明細書の一部とする米国特許第4,946,778号又はWO94/02610、WO94/29446に記載されている。
本願はより詳細には、p53に対する抗体を産生するハイブリドーマバンクの作製と、このバンクからの対応ScFvの構築に関する。本願は対応核酸の発現ベクタークローニングとその細胞導入にも関する。本願は、この導入によりp53の突然変異体のDNA結合活性及びそのトランス活性化活性を有効にin vivoで復元できることも実証する。
より詳細には、本発明の方法はオリゴマー化ドメインと調節ドメインをもつp53のC末端領域に存在するエピトープに特異的に結合することが可能なScFvを利用する。この点で、本願はELISA法によりこの性質をもつScFvを選択する試験にも関する。
更に詳細には、本発明の方法で使用するScFvは残基320〜393に含まれるp53のC末端領域に存在するエピトープに特異的に結合することができる。この点で、本願は特定例として配列番号1のScFv421及び配列番号2の11D3のScFvの構築及び発現に関する。
本発明の方法は、DNAに結合する能力を完全又は部分的に失った突然変異p53タンパク質に一般に適用可能であり、本発明の方法はこの機能を復元することができる。より詳細には、本発明の方法はp53転写因子機能を完全又は部分的に失った突然変異p53タンパク質に適用可能であり、この機能を復元することができる。復元レベルは完全でも部分的でもよい。有利な態様によると、突然変異体が細胞周期の阻止及び/又はアポトーシス誘導により腫瘍抑制機能を発揮できるために十分なレベルまで復元する。従って、本発明の方法は腫瘍抑制活性を欠失する内因性突然変異p53タンパク質をもつ細胞にこの活性を少なくとも部分的に復元することができる。有利な態様によると、腫瘍細胞に存在する突然変異タンパク質に作用する。上述のように、p53タンパク質の種々の突然変異形態が腫瘍細胞で報告されている。例えば、p53H273、p53W248及びp53G281タンパク質を挙げることができる。下記実施例では特に、本発明の方法がこれらの突然変異体のコンホメーション及び生物学的性質をin vitro及びin vivoで改変できることを立証する。特に、これらの実施例はScFv421及び11D3がDNAに特異的に結合してp53依存性トランス活性化を誘導する機能を273及び248突然変異体に復元できることを立証する。
本発明の方法はin vitro、ex vivo又はin vivoのいずれでも使用することができる。in vitro又はex vivoでは本発明の方法及び分子は例えばp53の作用メカニズムとその突然変異形態を調査することができる。更に、本発明の分子は例えば支持体と結合し、p53タンパク質を含む溶液と接触させた後、形成された複合体を検出又は溶離することにより、p53タンパク質の検出又は精製に使用することができる。in vivoでは、特にヒトの場合、p53活性の欠失が認められる過剰増殖疾患等の疾病でこの機能を復元することができる。この点で、本発明は上記アプローチ(野生型p53遺伝子の導入)又は化学療法(WO96/22101)と併用することができる。更にin vivoでは、本発明の方法及び分子は、例えばScFvの発現レベルを測定し、ヒト治療アプローチの可能性を評価するために、動物で使用可能である。
有利な態様によると、突然変異p53タンパク質をもつ細胞は哺乳動物腫瘍細胞である。この点では、より詳細には(特に小細胞をもたない)肺癌、結腸癌、肝臓癌、脳、頭蓋及び頚癌、より一般的にはp53タンパク質の突然変異形態が観察される任意癌の細胞を挙げることができる。有利な態様によると、突然変異体p53H273、P53W248及び/又はp53G281が観察されるヒト腫瘍細胞(肺、結腸、脳、頭蓋及び頚、肝臓)が挙げられる。本発明の方法を特定細胞に適用できるか否かは以下の方法により容易に決定できる。まず細胞に突然変異p53タンパク質が存在するか否かを調べる。次に、このタンパク質の突然変異の種類を調べる。公知突然変異、特に上記突然変異であるならば、細胞は本発明の方法により処理可能であるとみなすことができる。上記以外の突然変異の場合には別のアプローチが考えられる。まず突然変異タンパク質を単離(又は人工的に合成)し、実施例に記載するようにScFvの存在下でそのin vitro及びin vivo挙動を試験する。こうすると、このタンパク質の欠失機能を復元するのに適したScFvを決定することができる。別のアプローチとして、細胞培養物でScFvを直接試験し、ScFvの生物学的効果を決定することもできる。
本発明の方法を利用するためには、細胞で機能的なプロモーターの制御下にScFvをコードする核酸をもつベクターの形態でScFvを細胞にin vitro、ex vivo又はin vivo導入すると有利である。
プロモーターは哺乳動物、好ましくはヒト細胞で機能的なプロモーターから選択すると有利である。過剰増殖(癌、再発狭窄症等)細胞で核酸の発現を可能にするプロモーターがより好ましい。この点では種々のプロモーターを使用することができる。例えばp53遺伝子の固有プロモーターを挙げることができる。(合成タンパク質も含めた他のタンパク質の発現に関与する)別の起源の領域でもよい。従って、ある遺伝子の転写を特異的又は非特異的、誘導的又は非誘導的に強く又は弱く刺激又は抑制する任意プロモーター又は誘導配列を挙げることができる。特に、真核又はウイルス遺伝子のプロモーター配列を挙げることができる。例えば、標的細胞のゲノムに由来するプロモーター配列を挙げることができる。真核プロモーターのうちでは、特に、ユビキチンプロモーター(HPRT、PGK、α−アクチン、チューブリン等の遺伝子のプロモーター)、中間フィラメントのプロモーター(GFAP、デスミン、ビメンチン、ニューロフィラメント、ケラチン等の遺伝子のプロモーター)、治療遺伝子のプロモーター(例えばMDR、CFTR、VIII因子、Apo AI等の遺伝子のプロモーター)、組織特異的プロモーター(ピルビン酸キナーゼ、ビリン、脂肪酸結合腸タンパク質、平滑筋細胞のαアクチン等の遺伝子のプロモーター)又は刺激応答プロモーター(ステロイドホルモンレセプター、レチノイン酸レセプター等)を使用することができる。あるいは、ウイルスのゲノムに由来するプロモーター配列(例えばアデノウイルスのE1A及びMLP遺伝子のプロモーター、CMVの初期プロモーター又はRSVのLTRのプロモーター等)でもよい。更に、活性化配列、調節配列又は組織特異的発現もしくは最大発現を可能にする配列を付加してこれらのプロモーター領域を修飾してもよい。
上述のように、本願は特に有利な突然変異p53タンパク質の結合及び復帰突然変異性をもつ新規分子にも関する。本発明はより詳細には、特定ScFv(11D3、421)の構築、ベクタークローニング及び細胞導入に関する。これらのScFvの核酸及びペプチド配列を配列表1及び2に示す。後記実施例では、(i)C末端領域で突然変異p53タンパク質に特異的に結合することができ、(ii)これらの突然変異タンパク質にDNA結合能を与え、(iii)これらのタンパク質に転写活性化能を与えるというこれらの分子の特に有利な機能を立証する。更に実施例では、これらの分子が腫瘍細胞で適正に発現され、過剰増殖疾患に有利に利用できることも立証する。また、本発明のScFvの性質を更に改善することもできる。特に、ScFvの親和性はCDR領域(配列に下線で示す)によって変化し、突然変異誘発/選択の日常実験により改善できることが知られている。因に、抗体の突然変異誘発は例えばMarksら(Bio/Technology,10,779−783,1992)及びWinter G.とMilstein C.(Nature,349,293−299,1991)により記載されている。これらの文献に記載されている技術を利用し、本発明により改変した親和性をもつScFvの変異体を作製することができる。その後、実施例に記載する条件で選択することができる。
従って、本発明は配列番号2のペプチド配列をもつ11D3分子と、p53タンパク質に結合する能力を保存しながらCDR領域に変異をもつ任意変異体にも関する。変異はCDR領域の1個以上の残基の欠失、置換又は挿入のいずれでもよい。変異は10個未満の残基とすると有利である。
本発明はScFv11D3をコードする任意核酸又は上記変異体にも関する。
本発明の核酸はリボ核酸(RNA)でもデオキシリボ核酸(DNA)でもよい。相補的DNA(cDNA)が有利である。ヒト、動物、ウイルス、合成又は半合成のいずれの起源のものでもよい。核酸は種々の方法で得られ、特に、本明細書に示す配列と例えば核酸合成器を使用することにより化学的合成により得られる。特に本明細書に記載するような特異的プローブを使用してバンクスクリーニングにより得ることもできる。バンクからスクリーニングした配列を化学的に修飾(伸長、欠失、置換等)する混合法でも得られる。一般に、本発明の核酸は当業者に公知の任意方法により製造することができる(特に参考資料として本明細書の一部とする米国特許第4,946,778号及びWO94/02610に記載の技術参照)。ScFvをコードする核酸の慣用構築ストラテジーは以下の通りである。選択した抗p53抗体を産生するハイブリドーマからVH及びVL領域をコードするcDNAを獲得する。このためには、ハイブリドーマの全RNAを抽出し、プライマーとしてランダムヘキサマーを使用することにより逆転写反応を行う。この種のプライマーを使用すると、免疫グロブリンの特異的プライマーを使用せずに済む。得られたcDNAのクローンはV領域をクローニングするために十分な長さをもつ。クローンの寸法が存在する全cDNAの非常に小さいフラクションにしか相当しない場合には、予備増幅反応を実施し、クローニングに十分なDNAを作製することができる。このためには、VH及びVL領域をコードするcDNAを夫々別個に増幅する。使用するプライマーは各鎖(H及びL)の可変領域の両端のレベルにハイブリダイズするオリゴヌクレオチドである。次に、H鎖の特異的プライマーを使用する増幅産物と、L鎖の特異的プライマーを使用する増幅産物を精製する。精製後、抗体のVH及びVL領域をコードするcDNAをヌクレオチドアーム(L)により結合し、単一鎖とする。ヌクレオチドアームは一方の末端がVH領域をコードするcDNAの3’末端に結合し、他方がVL領域をコードするcDNAの5’末端に結合するように構築しておく。アームの配列はペプチド(G4S)3をコードする。結合後の配列は約700bpであり、例えば配列番号1及び2に示す配列をもつVH−L−VL鎖をNcoI−NotIフラグメントとして含む。
好ましくは、本発明の核酸はcDNA又はRNAである。
本発明の核酸は、
(a)配列番号2の配列の全部もしくは一部又はその相補鎖、
(b)配列(a)とハイブリダイズし、好ましくはC末端領域のレベルでp53タンパク質に特異的に結合することが可能なScFvをコードする任意配列、
(c)遺伝コードの縮重による(a)及び(b)の変異体から選択すると有利である。
本発明は更に、上記核酸と、その発現を可能にするプロモーターと、転写終結シグナルを含む任意発現カセットにも関する。
本発明の方法では、(i)細胞侵入効率、(ii)ターゲティング及び/又は(iii)細胞外及び細胞内安定性を改善することが可能な投与ベクターにより核酸を細胞に導入すると有利である。
本発明の特に好ましい実施態様では、化学的起源(リポソーム、ナノ粒子、ペプチド複合体、カチオン脂質又はポリマー等)、ウイルス起源(レトロウイルス、アデノウイルス、ヘルペスウイルス、AAV、ワクチンウイルス等)又はプラスミド起源のいずれでもよいベクターに核酸を組み込む。
ウイルスベクターの使用はウイルスの天然トランスフェクション性を利用するものである。従って、例えばアデノウイルス、ヘルペスウイルス、レトロウイルス及びアデノ随伴ウイルスを使用することができる。これらのベクターはトランスフェクション面で特に高性能であることがわかっている。特に、アデノウイルスとレトロウイルスは腫瘍細胞感染能をもつため、本発明の範囲で選択されるベクターである。この点では、本発明の好ましい実施態様では、レトロウイルスベクター即ち上記のようなScFvをコードする核酸を含むゲノムをもつ欠損組換えレトロウイルスの形態で核酸を導入する。本発明の別の好ましい実施態様では、アデノウイルスベクター即ち上記のようなScFvをコードする核酸を含むゲノムをもつ欠損組換えアデノウイルスの形態で核酸を導入する。
本発明のベクターは核酸の真核細胞導入及び発現を助長することが可能な非ウイルス剤でもよい。天然又は合成の化学又は生化学ベクターは特に便利で安全であり、トランスフェクトしようとするDNAの寸法に関して理論的制限がないため、天然ウイルスに代わる有利な代用品である。これらの合成ベクターはトランスフェクトしようとする核酸を圧縮し、細胞固定とその形質膜及び場合により2つの核膜の通過を助長するという2つの主機能をもつ。核酸のポリアニオン性を緩和するために、非ウイルスベクターは全ポリカチオン電荷をもつ。本発明の特定方法では、ベクターは化学又は生化学ベクターである。
本発明は更に少なくとも1種の上記核酸を含む任意組成物にも関する。
本発明は更に、少なくとも1種の上記ベクターを含む任意組成物にも関する。
本発明は更に、少なくとも1種の上記ScFvを含む任意組成物にも関する。
本発明は更に、同時又は別時点で併用するために、上記核酸又はベクターと、野生型p53をコードする核酸又はベクターを含む組成物にも関する。
本発明の医薬組成物は、抗増殖性により、特に癌や再発狭窄症等の過剰増殖疾患の治療に特に適している。従って、本発明は細胞、特に過剰増殖細胞の破壊に特に有効な方法を提供する。
本発明はin vitro又はex vivoで使用することができる。この場合には、1種以上の核酸(又はベクター又はカセット又は直接ScFv)の存在下に細胞をインキュベートすることから主に構成される。細胞106個当たりベクター0.01〜1000μg用量又はウイルスベクター1個当たり0.1〜1000MOIを使用することができる。
in vivoでは、有効量の本発明のベクター(又はカセット)を好ましくは治療部位(特に腫瘍)のレベルで直接生物に投与する。この点で、本発明は過剰増殖細胞又はその一部を上記核酸と接触させることを特徴とする、過剰増殖細胞の破壊方法にも関する。in vivo使用のために本発明で使用される核酸又はベクターは局所、経口、非経口、鼻腔内、静脈内、筋肉内、皮下、眼内、経皮等の経路で投与するように調剤することができる。注射可能な形態で核酸又はベクターを使用するのが好ましい。従って、特に治療部位のレベルに直接注射することを目的とした注射用製剤に医薬的に許容可能な任意のキャリヤーに混合することができる。キャリヤーとしては特に、滅菌等張溶液又は場合に応じて滅菌水もしくは生理的血清を加えて注射可能な溶質を構成し得る乾燥(特に凍結乾燥)組成物が挙げられる。患者の腫瘍に核酸を直接注入すると、患部組織のレベルに治療効果を集中させることができるので有利である。核酸の使用量は種々のパラメーター、特に使用する遺伝子、ベクター、投与方法、該当疾病又は必要な治療期間に応じて適応できる。in vivo投与量はアデノウイルス等のベクターでは106〜1010pfuとすると有利である。また、反復投与も考えられる。
更にin vivoで本発明の方法及び分子を使用し、p53の作用メカニズムを調査し、動物モデルでScFvの力価を測定することができる。
本発明は過剰増殖(即ち異常増殖)細胞の破壊にin vivo使用すると有利である。本発明は腫瘍細胞又は血管壁の平滑筋細胞(再発狭窄症)の破壊にも適用できる。本発明は、p53の突然変異体が観察される癌の治療に特に適している。このような癌としては、例えば結腸アデノ腺癌、甲状腺癌、肺上皮腫、骨髄性白血病、結腸直腸癌、乳癌、肺癌、胃癌、食道癌、Bリンパ腫、卵巣癌、膀胱癌、神経膠芽腫、肝癌、骨癌、皮膚癌、膵臓癌、腎臓癌、前立腺癌、食道癌、喉頭癌、頭蓋及び頚癌、HPV陽性生殖器癌、EBV陽性上咽喉癌、細胞タンパク質mdm2が過剰発現される癌等を挙げることができる。
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、これらの実施例は単なる例示であり、発明を制限するものではない。
図面の説明
図1:抗体のスクリーニングストラテジー。
図2:p53のゲルに遅延を誘導する抗体の能力の試験結果。
図3:p53H273のゲルに遅延を誘導する抗体の能力の試験結果。
図4:ScFvと野生型p53の結合のELISA試験結果。●:IgG 11D3(出発時1μg/ml);○:IgG421(出発時1μg/ml);□:ビオチン化ポリクローナル血清(出発時1μg/ml);▲:ScFv11D3−myc(出発時1/2);△:ScFv421−myc(出発時1/2);◇:非該当ScFv(抗CD3、出発時1/2)。
図5:ScFvにより誘導されるゲル上の遅延の試験結果。
図6:p53の突然変異体のDNA結合活性の復元。
図7:H1299細胞におけるScFv421の発現。
図8:H358系における突然変異体H273の転写活性の復元。
図9:HT29系における内因性突然変異体H273の転写活性の復元。
実施例
実施例1:抗体11D3の獲得及びスクリーニング
本実施例はp53の突然変異形態のDNA結合機能を活性化することが可能なp53タンパク質の特異的モノクローナル抗体の作製、獲得及び選択に関する。
1.1.マウス免疫時に使用したタンパク質の獲得及びハイブリドーマのスクリーニング
組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞Spodoptera frugiperda Sf9で野生型p53タンパク質及び腫瘍細胞に頻出する野生型p53の突然変異に対応する種々のタンパク質p53H273、p53W248、p53G281を生産し、ポリクローナル抗体PAb421を結合したアガロースゲルでアフィニティ精製した(Leveillardら,EMBO J.15,1615−1623(1996))。Invitrogen社の指示に従い、組換えバキュロウイルスを感染させた昆虫細胞Spodoptera frugiperda Sf9で野生型p53タンパク質のフラグメント1〜320及び73〜320に対応するタンパク質も生産した。例えばSambrookら(Sambrook,Fritsch & Maniatis: Molecular cloning,a laboratory manual,第2版,1989,Cold Spring Harbor Laboratory)に記載されているような慣用組換えDNA技術により、導入用プラスミドpBlueBaclllに挿入した相補的DNAを作製した。
1.2.ハイブリドーマの獲得及びスクリーニング
上記3種のp53突然変異タンパク質の等モル混合物でマウスを免疫し、HarlowとLane(Harlow & Lane: Antibodies,a laboratory manual,1988,Cold Spring Harbor Laboratory)により記載されている操作プロトコールに従ってハイブリドーマを獲得した。上記p53の突然変異タンパク質に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの選択は、HarlowとLane(Harlow & Lane: Antibodies,a laboratory manual,1988,Cold Spring Harbor Laboratory)により記載されている操作プロトコールに従い、上記3種のp53突然変異タンパク質の等モル混合物1μg量を96穴PVCプレートのウェルに予め固定化しておき、このウェルでハイブリドーマを培養して産生される抗体を捕獲する方法により実施した。この一次スクリーニングで陽性ハイブリドーマ317個を選択することができた。ハイブリドーマを2週間増幅後、増幅したハイブリドーマの上清をまず上記抗体捕獲法(方法1)により再評価した後、固定化するタンパク質の種類を変え、精製野生型p53タンパク質(方法2)、野生型p53のフラグメント1〜320を生産するSf9細胞タンパク抽出物(方法3)、野生型p53のフラグメント73〜393を生産するSf9細胞タンパク抽出物(方法4)をウェルに固定化する以外は原則として上記と同一の3種のスクリーニング方法を使用することにより分類した。タンパク抽出物はSf9細胞をリン酸緩衝液で凍結/融解により溶解後、細胞破片を超遠心することにより得た。317個の増幅ハイブリドーマ上清のうち、162個は方法1で陰性であった。残りの155個は全て方法2で陽性であり、そのうち33個(グループA)は方法3及び4で陰性であり、115個(グループB)は方法3で陽性且つ方法4で陰性であり、最後の7個(グループC)はどちらの方法でも陽性であった。グループBの上清はp53の最初から73個のアミノ酸に位置するエピトープをもつ抗体を含む上清に対応する。このグループの77個の上清はp53の最初から40個のアミノ酸の配列に対応するペプチド(1mg/ml)とプレインキュベートすると、方法2で陰性であった。グループAの抗体と、上記77個の排除後に残存するグループBの38個の抗体と、グループCの抗体をイソタイプで分類すると、IgMを排除することができた。これらの結果を図1に要約する。
次にp53/DNA複合体にスーパーシフトを誘導する能力を42個の抗体で試験した。プロテインA/Sepharoseで精製後、抗体を定量した。p53の特異的固定配列を示す32P標識DNAプローブと共に精製野生型p53タンパク質30ngをインキュベートすることにより、ゲル遅延実験を実施した。次に各抗体300ngを加えた。複合体をアクリルアミドゲル上で分離させた。
図2の結果から明らかなように、これらの抗体のうちの27個はスーパーシフトを誘導することができた。同一ゲル遅延実験で野生型p53タンパク質を突然変異体His273に置き換えることにより、これらの27個のうちの19個を試験した(図3)。これらの19個の抗体は全て陽性の結果を与えた。抗体番号26は特に遅延が顕著であった。この抗体を11D3と命名し、後続実験で使用した。
実施例2:ScFv421及びD3Mの獲得
VH及びVL領域の特異的縮重プライマーを用いてPCRに基づく慣用分子生物学技術により、ハイブリドーマからScFvを獲得した。抗体11D3に由来するScFvをDM3と命名した。その配列を配列番号2に示す。ScFv421の配列は配列番号1に示す。
実施例3:ScFvの発現ベクターの構築
本実施例は本発明の核酸のin vitro又はin vivo導入に使用可能なベクターの構築に関する。
3.1.プラスミドベクターの構築
プラスミドベクターを構築するために、2種のベクターを使用した。
−DNA Cloning,A practical approach Vol.2,D.M.Glover(編)IRL Press,Oxford,Washington DC,1985に記載されているベクターpSV2。このベクターは真核発現ベクターである。ScFvをコードする核酸をこのベクターにHpaI−EcoRVフラグメントとして挿入した。即ちSV40ウイルスのエンハンサーのプロモーターの制御下においた。実施例2に記載した全構築物をこのベクターに導入し、種々のin vitro及びin vivo評価系で試験した。
−ベクターpCDNA3(Invitrogen)。これも同様に真核発現ベクターである。本発明のScFvをコードする核酸をCMVの初期プロモーターの制御下にこのベクターに挿入した。実施例2に記載した全構築物をHindIII/NotIフラグメントとしてこのベクターに導入した。
3.2.ウイルスベクターの構築
特定態様によると、本発明は上記核酸のin vivo導入及び発現を可能にするウイルスベクターの構築及び使用にある。
特にアデノウイルスについては、構造と性質が少しずつ異なる種々の血清型が特性決定されている。これらの血清型のうち、本発明の範囲では2もしくは5型ヒトアデノウイルス(Ad2又はAd5)又は動物起源のアデノウイルス(WO94/26914参照)を使用するのが好ましい。本発明の範囲で使用可能な動物起源のアデノウイルスとしては、イヌ、ウシ、マウス(例えばMav1,Beardら,Virology 75(1990)81)、ヤギ、ブタ、トリ又はサル(例えばSAV)起源のアデノウイルスを挙げることができる。好ましくは、動物起源のアデノウイルスはイヌアデノウイルス、より好ましくはアデノウイルスCAV2[例えばマンハッタン株又はA26/61(ATCC VR−800)]である。本発明の範囲ではヒトもしくはイヌ起源のアデノウイルス又は混合アデノウイルスを使用することが好ましい。
好ましくは、本発明の欠損アデノウイルスはITRとパッケージングを可能にする配列と本発明の目的核酸を含む。更に好ましくは、本発明のアデノウイルスのゲノムにおいて、少なくともE1領域は非機能的である。該当ウイルス遺伝子は当業者に公知の任意の方法、特に完全抑圧、置換、部分欠失、又は該当遺伝子に1個以上の塩基を付加することにより非機能的にすることができる。このような改変は、例えば遺伝子工学技術又は突然変異誘発物質で処理することによりin vitro(単離したDNAで)又はin situで得られる。特にE3(WO95/02697)、E2(WO94/28938)、E4(WO94/28152、WO94/12649、WO95/02697、WO96/22378)及びL5(WO95/02697)領域等の他の領域も改変してもよい。好適実施態様によると、本発明によるアデノウイルスはE1及びE4領域に欠失を含む。別の好適実施態様によると、E1領域に欠失を含み、このレベルにE4領域と核酸を挿入する(WO96/13596)。本発明のウイルスでは、E1領域における欠失はアデノウイルスAd5の配列のヌクレオチド455〜3329にわたることが好ましい。
本発明による欠損組換えアデノウイルスは当業者に公知の任意の技術により作製することができる(Levreroら,Gene 101(1991)195,EP185573;Graham,EMBO J.3(1984)2917)。特に、アデノウイルスと特に目的DNA配列をもつプラスミドの相同組換えにより作製することができる。適当な細胞系で前記アデノウイルス及びプラスミドの同時トランスフェクション後に相同組換えが生じる。使用する細胞系は、(i)前記要素により形質転換可能であり、(ii)組換えの危険を避けるために好ましくは組込み形態で欠損アデノウイルスのゲノムの部分を相補することが可能な配列を含んでいることが好ましい。細胞系の例としては、特にアデノウイルスAd5のゲノムの左側部分(12%)をそのゲノムに組込んだヒト胎児腎細胞293系(Grahamら,J.Gen.Virol.36(1977)59)や、特にWO94/26914、WO95/02697及びWO96/22378に記載されているようなE1及びE4機能を相補することが可能な細胞系を挙げることができる。
その後、増殖したアデノウイルスを実施例に記載するように慣用分子生物学技術により回収及び精製する。
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、比較的小寸法のDNAをもつウイルスであり、これに感染する細胞のゲノムに安定且つ部位特異的に組込まれる。アデノ随伴ウイルスは細胞増殖、形態又は分化に影響することなく広範な細胞に感染することができる。また、ヒトで疾病に関与しないと思われる。AAVのゲノムは既にクローニングされ、配列及び特性を決定されている。前記ゲノムは約4700塩基を含み、ウイルスの複製起点として機能する約145塩基の逆方向反復領域(ITR)各末端に含む。ゲノムの残余はパッケージング機能をもつ2つの主領域に分けられ、ゲノムの左側部分はウイルス複製とウイルス遺伝子の発現に関与するrep遺伝子を含み、ゲノムの右側部分はウイルスのキャプシドタンパク質をコードするcap遺伝子を含む。
AAVから誘導されるベクターを遺伝子のin vitro及びin vivo導入に利用することは文献に記載されている(特にWO91/18088、WO93/09239、米国特許第4,797,368号、5,139,941号、ヨーロッパ特許第488528号参照)。これらの文献は、AAVから誘導され、rep及び/又はcap遺伝子を欠失し、目的遺伝子で置換された種々の構築物と、前記目的遺伝子を(培養細胞に)in vitro又は(生物に直接)in vivo導入するためのその使用について記載している。本発明による欠損組換えAAVは、ヒト補助ウイルス(例えばアデノウイルス)を感染させた細胞系に、AAVの2つの逆方向反復領域(ITR)で挟まれた本発明の目的核酸を含むプラスミドと、AAVのパッケージング遺伝子(rep及びcap遺伝子)をもつプラスミドを同時トランスフェクトすることにより作製することができる。使用可能な細胞系は例えば293系である。生成した組換えAAVをその後、慣用技術により精製する。
ヘルペスウイルスとレトロウイルスに関しては、組換えベクターの構築について文献に広く記載されており、特にBreakfieldら,New Biologist 3(1991)203; ヨーロッパ特許第453242号及び178220号、Bernsteinら,Genet.Eng.7(1985)235; McCormick, BioTechnology 3(1985)689等を参照されたい。特に、レトロウイルスは分裂細胞に選択的に感染する組込みウイルスである。従って、癌に適用するのに有利なベクターである。レトロウイルスのゲノムは主に2つのLTRと、パッケージング配列と、3つのコーディング領域(gag、pol及びenv)を含む。レトロウイルスから誘導される組換えベクターでは、一般にgag、pol及びenv遺伝子が完全又は部分的に欠失しており、目的異種核酸配列で置換されている。これらのベクターは種々の型のレトロウイルスから作製することができ、特にMoMuLV(「モロニーマウス白血病ウイルス」、別称MoMLV)、MSV(「モロニーマウス肉腫ウイルス」)、HaSV(「ハーベー肉腫ウイルス」)、SNV(「脾壊死ウイルス」)、RSV(「ラウス肉腫ウイルス」)又はフレンドウイルス等のレトロウイルスから得られる。
本発明の核酸を含む本発明の組換えレトロウイルスを構築するためには、特にLTRとパッケージング配列と前記核酸を含むプラスミドを構築した後、このプラスミドを使用して、欠損レトロウイルス機能をプラスミドにトランス導入することが可能なパッケージング系と呼ばれる細胞系にトランスフェクトする。従って、一般にパッケージング系はgag、pol及びenv遺伝子を発現させることができる。このようなパッケージング系は従来技術に記載されており、特にPA317系(米国特許第4,861,719号)、PsiCRIP系(WO90/02806)及びGP+envAm−12系(WO89/07150)が挙げられる、更に、組換えレトロウイルスは転写活性を抑制するようにLTRのレベルに修飾を含んでいてもよいし、gag遺伝子の一部を含む拡張パッケージング配列を含んでいてもよい(Benderら,J.Virol.61(1987)1639)。生成した組換えレトロウイルスをその後、慣用技術により精製する。
本発明を実施するには、欠損組換えアデノウイルス又はレトロウイルスを使用すると特に有利である。これらのベクターは腫瘍細胞に遺伝子を導入するために特に有利な性質をもつ。
3.3.化学ベクター
開発されている合成ベクターのうち、本発明の範囲ではポリリジン、(LKLK)n、(LKKL)n(WO95/21931)、ポリエチレンイミン(WO96/02655)及びDEAEデキストラン型のカチオンポリマー、又はカチオン脂質もしくはリポフェクタントを使用すると好ましい。これらのベクターはDNAを圧縮し、細胞膜との結合を助長する性質をもつ。これらのうちでは、リポポリアミン(リポフェクタミン、トランスフェクタム、WO95/18863、WO96/17823)、種々のカチオン又は中性脂質(DOTMA、DOGS、DOPE等)及び核由来ペプチド(WO96/25508)を挙げることができる。更に、レセプターにより媒介されるターゲティングトランスフェクションの概念も開発されており、これは、グラフトしたい細胞型の表面に存在する膜レセプターのリガンドとカチオンポリマーの化学結合により錯体の膜固定を導きながら、カチオンポリマーによりDOPEを圧縮する原理を利用するものである。例えば、トランスフェリンレセプター、インスリンレセプター又は肝細胞のアシアログリコプロテインのレセプターのターゲティングが報告されている。このような化学ベクターを使用する本発明の組成物の製造は、一般に種々の成分と単に接触させることにより当業者に公知の任意技術により実施される。
実施例4:p53を認識するScFv
ScFvとp53の結合をELISA試験により確認した。
ScFvを検出できるようにmycタグにScFvを融合した。これらの種々のScFvを発現する細菌ペリプラズムからScFv421、11D3(DM3)及び対照ScFv(抗CD3)を作製した。
精製p53により被覆したELISAプレートをIgG11D3、IgG421、ビオチン化抗p53ポリクローナル血清、ScFv11D3、ScFv421及び抗CD3ScFvの種々の希釈液と共にインキュベートした。
次いでアルカリホスファターゼに結合した抗IgG二次抗体により2種のIgGを検出した。ビオチン化血清はアルカリホスファターゼに結合したエキストラビジンにより検出した。ScFvは抗myc9E10抗体により検出後、アルカリホスファターゼに結合した抗IgG抗体により検出した。アルカリホスファターゼ活性の比色分析を示す図4から明らかなように、2種の精製IgG、ポリクローナル血清並びにScFv421及び11D3はp53を認識するが、抗CD3ScFvは不活性である。
実施例5:ScFvは野生型p53にスーパーシフトを誘導することができる。
ScFvが野生型p53のDNA結合機能を活性化する能力をゲル遅延実験により試験した。
p53の特異的固定部位を示すDNAデュプレクスを32Pで標識後、精製野生型p53及び種々の精製抗体又は細菌ペリプラズムで生産されたScFvと共にインキュベートした。複合体をアクリルアミドゲル電気泳動により分離した。
得られた結果を図5に示す。
DNA/p53複合体は「基線」に観察された。抗体HR231、pAb421及び11D3は付加遅延(スーパーシフト)を誘導し、DNA/pAb421複合体の量を増加することが可能である。
ScFv421及びDM3もスーパーシフトを誘導できるが、抗ras対照ScFv(Y28)は不活性である。ScFv421はScFvDM3と異なり、p53/DNA複合体の量の増加を誘導しない。
実施例6:ScFvはp53の突然変異体にDNA結合機能を復元することができる。
同様に、ScFvが不活性突然変異体Trp248のDNA結合機能を復元する能力を試験した。得られた結果を図6に示す。
2種のScFvはp53/DNA複合体に対応する遅延バンドの出現を誘導することが明らかである。
実施例7:ScFvは腫瘍細胞で適正に発現される。
腫瘍細胞H1299における発現ベクター(SV40のプロモーター)の一過性トランスフェクションによりScFvの発現を確認した。より詳細には、カチオン脂質リポフェクタミンの存在下に核酸をpSV2型プラスミドベクター(実施例3)の形態で投与した。
得られた結果を図7に示す。完全抽出物のウェスタンブロットによると、予想寸法に対応する約30kDで移動する最大バンドが観察され、分子は腫瘍細胞で有意レベルで発現されることが確認された。
実施例8:ScFvは突然変異体His273のトランス活性化機能を部分的に復元することができる。
これらのScFvが腫瘍細胞中でp53の突然変異形態に欠損しているトランス活性化機能に及ぼす作用を次のように測定した。
(いずれもp53を欠失している)H358もしくはH1299系又は(突然変異体p53His273を含む)HT29系で一過性トランスフェクションを実施した。これらのトランスフェクションでは、p53依存性プロモーターの制御下に野生型p53又は突然変異体H273もしくはHis175と2種のScFvの発現ベクターと、CAT(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子を含むレポータープラスミドを導入した。トランスフェクションから48時間後に測定したCAT活性はp53のトランス活性化機能を表す。
図8の結果から明らかなように、2種のScFvはH358系で突然変異体His273の転写活性を有意に再活性化することができ、H1299系でも同一の結果が得られた。
更に、2種のScFvはHT29系でも内因性突然変異体His273の転写活性を増加することができる(図9)。
配列
配列番号1:421の塩基及びペプチド配列
配列番号2:D3Mの塩基及びペプチド配列
Claims (25)
- 突然変異p53タンパク質をもつ細胞にp53依存性トランス活性化活性を復元するインビトロ方法であって、前記細胞で機能的なプロモータの制御下に、突然変異p53タンパク質に特異的に結合することが可能な一本鎖抗体をコードする核酸を前記細胞に導入し、該一本鎖抗体のみでp53依存性トランス活性化活性を復元することを特徴とする前記方法。
- 一本鎖抗体がオリゴマー化ドメインと調節ドメインをもつp53のC末端領域に存在するエピトープに特異的に結合可能であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 一本鎖抗体が残基320〜393に含まれるp53のC末端領域に存在するエピトープに特異的に結合可能であることを特徴とする請求項2に記載の方法。
- 一本鎖抗体が配列番号1に記載されたアミノ酸配列からなる一本鎖抗体ScFv421及び配列番号2に記載されたアミノ酸配列からなる一本鎖抗体11D3から選択されることを特徴とする請求項2に記載の方法。
- 核酸がベクターの一部を構成することを特徴とする請求項1に記載の方法。
- ベクターがウイルスベクターであることを特徴とする請求項5に記載の方法。
- ベクターが欠損組換えアデノウイルスであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
- ベクターが欠損組換えレトロウイルスであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
- ベクターが欠損組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
- ベクターが欠損組換え単純ヘルペスウイルス(HSV)であることを特徴とする請求項6に記載の方法。
- ベクターが化学又は生化学ベクターであって、
ポリリジン、(LKLK)n、(LKKL)n、ポリエチレンイミン又はDEAEデキストランから選択されるカチオンポリマー;
DOTMA、DOGS、DOPEまたはリポフェクタントから選択されるカチオン脂質もしくは中性脂質;
リポフェクタミンまたはトランスフェクタムから選択されるリポポリアミン;
核由来ペプチド;及び
トランスフェリンレセプター、インスリンレセプター又は肝細胞のアシアログリコプロテインから選択される膜レセプターのリガンド
からなる群より選択されることを特徴とする、請求項5に記載の方法。 - 突然変異p53タンパク質が腫瘍抑制活性を欠失していることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 突然変異p53タンパク質が腫瘍細胞中に存在する形態であることを特徴とする請求項12に記載の方法。
- 突然変異p53タンパク質がp53H273、p53W248及びp53G281タンパク質から選択されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
- 突然変異p53タンパク質をもつ細胞が腫瘍細胞であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
- 腫瘍細胞が肺、結腸、頭蓋及び頚、肝臓、脳の腫瘍の細胞であることを特徴とする請求項15に記載の方法。
- 突然変異p53タンパク質が関与する過剰増殖疾患の治療用医薬組成物の製造のための、突然変異p53タンパク質に特異的に結合することが可能な一本鎖抗体をコードする核酸の使用であって、該一本鎖抗体のみでp53依存性トランス活性化活性を復元することを特徴とする前記使用。
- 配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる11D3分子、又は配列番号2に記載のアミノ酸配列の1個もしくは数個のアミノ酸の置換、欠失もしくは挿入により11D3分子から由来し、突然変異p53タンパク質に結合し、p53依存性トランス活性化活性を復元することができる変異体。
- 前記置換、欠失または挿入が、10個未満のアミノ酸で生じる、請求項18に記載の変異体。
- 請求項18に記載の分子をコードする核酸。
- cDNA、RNA、合成核酸又は半合成核酸であることを特徴とする請求項20に記載の核酸。
- 配列番号2の配列をもつことを特徴とする請求項21に記載の核酸。
- 請求項20に記載の核酸を含む組成物。
- 請求項18に記載の分子を含む組成物。
- 請求項20に記載の核酸と医薬的に許容可能なキャリヤーを含む過剰増殖疾患の治療用医薬組成物。
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