JP4370750B2 - 靴 - Google Patents

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  • Physical Education & Sports Medicine (AREA)
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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は靴に関するものであり、特に靴底面のパターンの改良に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ゴルファーがゴルフボールを打撃する際は、左右の足先を結ぶ線が打撃方向とほぼ平行となるようにアドレスする。右利きのゴルファーのアドレスでは、左足が打撃方向前側に位置し、右足が打撃方向後側に位置する。アドレスでは、ゴルフクラブのヘッドはゴルフボールの近くに位置する。この状態からゴルファーはテイクバックを開始し、ヘッドを後へ、次いで上方へと振り上げる。最もヘッドが振り上げられた位置がトップ位置である。トップ位置からダウンスイングが開始されてヘッドが振り下ろされ、ヘッドがゴルフボールと衝突する(インパクト)。インパクト後、ゴルファーはゴルフクラブを前方へ、次いで上方へと振り抜き(フォロースルー)、フィニッシュを迎える。
【0003】
トップ位置からフィニッシュにかけて、ゴルファーは左足を軸としてボディターンを行う。同時にゴルファーは、右足で地面を蹴ってその力をゴルフボールに伝える。つまり、右利きのゴルファーは、左足を軸足として使い、右足を蹴足として使う。左利きゴルファーの場合は、逆に右足を軸足として使い、左足を蹴足として使う。
【0004】
トップ位置からフィニッシュにかけて、ゴルファーの両足には大きな力がかかる。この力によって、ゴルフ靴が地面とスリップを起こすことがある。スリップが起こると、スイングフォームが乱れてミスショットが発生してしまうことがある。
【0005】
防滑(スリップの防止)のため、ゴルフ靴の底面に金属又はセラミクスからなる針状のスパイクピンが設けられることがある。このゴルフ靴ではスリップはかなり防止されるものの、スパイクピンがグリーン上の芝生、クラブハウスの床、ゴルフコース中に設けられた歩行用通路の路面等を傷めるという問題がある。また、スパイクピンを備えたゴルフ靴では下からの突き上げ感があり、ゴルファーにとって履き心地のよいものではない。スパイクピンを備えたゴルフ靴は、近年ではあまり好まれて用いられてはいない。
【0006】
スパイクピンに代えてゴムや合成樹脂からなる突起が底面に設けられたゴルフ靴が提案され、普及しつつある。このゴルフ靴では、芝生等が傷つけられることが少なく、履き心地にも優れる。しかしながらこのゴルフ靴では、突起の防滑性能がスパイクピンに比べて劣るという問題がある。
【0007】
本発明者がトップ位置からインパクトにかけて足にかかる力のベクトル(すなわち大きさと方向)を調査したところ、以下のことが判明した。まず軸足では、力は概ね踵から爪先に向かう方向にかかっている。詳細には、トップ位置では力は足の打撃方向後寄り(ゴルファーの軸足にとってのインサイド寄り)に主としてかかっており、その向きもやや後側向きな爪先方向である。スイングの進行に応じて、主として力のかかる位置は足の中央へ、そして前寄り(ゴルファーの軸足にとってのアウトサイド寄り)へと移行する。スイングの進行に応じて、力の方向も完全な爪先方向へ、そしてやや前側向きな爪先方向へと移行する。これらの変化は、軸足が軸とされたボディーターンと体重の移動とに起因すると考えられる。
【0008】
次に蹴足では、力は概ね爪先から踵に向かう方向にかかっている。詳細には、トップ位置では力は足の打撃方向前寄り(ゴルファーの蹴足にとってのインサイド寄り)に主としてかかっており、その向きもやや前向きの踵方向である。スイングの進行に応じて、主として力のかかる位置は足の中央へ、そして後寄り(ゴルファーの蹴足にとってのアウトサイド寄り)へと移行する。また、スイングの進行に応じて、力の方向も完全な踵方向へ、そしてやや後向きな踵方向へと移行する。これらの変化は、ダウンスイング開始時の蹴足から軸足への体重移動と、その後の蹴足の回転とに起因すると考えられる。
【0009】
軸足と蹴足との役割の相違が考慮されたゴルフ靴が、特開2001−299406公報に開示されている。このゴルフ靴では、軸足用の靴体の底面に爪先方向に凸である線に沿った突起が形成されており、蹴足用の靴体の底面に踵方向に凸である線に沿った突起が形成されている。このゴルフ靴は、旋回運動(ボディターン)と並進運動とが混合された非常に複雑な運動様式であるゴルフスイングにおいて、優れた防滑性能を発揮する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、左右でパターンの異なる突起によって防滑が達成される場合は、右利きゴルファー用のゴルフ靴と左利きゴルファー用のゴルフ靴との両方が用意される必要があり、ゴルフ靴メーカーにとってはコスト面での負担が大きい。もし右利きゴルファー用のゴルフ靴を左利きゴルファーが着用したり、逆に左利きゴルファー用のゴルフ靴を右利きゴルファーが着用した場合に、スイング中の防滑が不十分となってしまうという問題もある。このゴルフ靴では、登り坂で軸足用の靴体がスリップしやすく、下り坂で蹴足用の靴体がスリップしやすいという問題もある。
【0011】
これらの問題に鑑み、本発明者は、特願2000−235175において、爪先方向に凸である線に沿って形成された爪先側防滑壁と踵方向に凸である線に沿って形成された踵側防滑壁とを備えている両側防滑突起が主として形成されているゴルフ靴を提案した。この両側防滑突起は、ゴルフ靴が右利きゴルファーに着用された場合でも左利きゴルファーに着用された場合でも、ゴルフスイング中の軸足のスリップ(略爪先方向へのスリップ)及び蹴足のスリップ(略踵方向へのスリップ)を抑制する。このゴルフ靴では、左右の突起パターンが異なっている必要はない。
【0012】
このゴルフ靴の爪先方向に凸である線と踵方向に凸である線とが接する箇所(以下「接点」と称される)では、この接点を隔てて2個の両側防滑突起が対峙することがある。この場合、爪先寄りに位置する両側防滑突起の踵側防滑壁と踵寄りに位置する両側防滑突起の爪先側防滑壁とは極めて接近した状態となり、踵側防滑壁による防滑効果が爪先側防滑壁によって阻害され、爪先側防滑壁による防滑効果が踵側防滑壁によって阻害される。このゴルフ靴の防滑効果は、必ずしも十分ではない。
【0013】
本発明はこのような問題に鑑みてなされたものであり、運動中のスリップが十分に抑制される靴の提供をその目的とするものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するためになされた発明は、
靴底本体を備えており、この靴底本体の底面にゴム又は合成樹脂からなる突起が多数形成された靴であって、
この突起として爪先方向に凸である線に実質的に沿って形成された爪先側防滑壁と踵方向に凸である線に実質的に沿って形成された踵側防滑壁とを備えている両側防滑突起が主として形成されており、爪先方向に凸である線と踵方向に凸である線とが接する箇所を隔てて対峙する2つの両側防滑突起の間隔が2mm以上に設定されていることを特徴とする靴、
である。
【0015】
この靴は両側防滑突起を備えており、しかも接点を隔てて対峙する2つの両側防滑突起の間隔が十分大きいので、いかなる方向に力が加わった場合でもスリップが抑制される。
【0016】
好ましくは、接点の全数に占める、その接点で対峙する2つの両側防滑突起の間隔が2mm以上である接点の数の比率は、5%以上である。これにより、スリップがより抑制される。
【0017】
好ましくは、両側防滑突起の数が全突起数に占める比率は、50%以上である。これにより、スリップがより抑制される。
【0018】
好ましくは、爪先側防滑壁と靴底本体とがなす鉛直断面における内角は60°(degree)以上である。また、踵側防滑壁と靴底本体とがなす鉛直断面における内角も、60°以上である。これにより、スリップがより抑制される。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフ靴の左足用靴体Lが示された底面図である。図示されていないが、このゴルフ靴は、通常のゴルフ靴と同様のアッパー部等を備えている。図1において右方向が打撃方向前側であり、左方向が打撃方向後側であり、上方向が爪先方向であり、下方向が踵方向である。
【0021】
左足用靴体Lは、靴底本体1を備えている。この靴底本体1の底面には、多数の突起3、5が形成されている。図1において網点で塗りつぶされている部分が、突起3、5である。これらの突起3、5は、両側防滑突起3と非両側防滑突起5とに区別される。底面のうち突起3、5以外の部分は、平坦部7である。靴底本体1と突起3、5とは、一体的に成形されている。靴底本体1及び突起3、5は、ゴム又は合成樹脂を主成分とする組成物から成形されている。
【0022】
両側防滑突起3は、爪先方向に凸である線に実質的に沿って形成されていると共に、踵先方向に凸である線に実質的に沿って形成されている。図2(a)は、図1の左足用靴体Lにおける爪先方向に凸である線Ctが示された模式図である。また、図2(b)は、図1の左足用靴体Lにおける踵方向に凸である線Chが示された模式図である。爪先方向に凸である線Ctとは、一端から爪先方向に向かい、最も爪先寄りの部分を経て踵方向に向かい、他端で終了する線のことである。また、踵方向に凸である線Chとは、一端から踵方向に向かい、最も踵寄りの部分を経て爪先方向に向かい、他端で終了する線のことである。爪先方向に凸である線Ct及び踵方向に凸である線Chは円弧状でもよく、放物線状でもよい。また、例えばサインカーブのような途中に変曲点を有する曲線であってもよい。さらに、複数の線分の組み合わせや、線分と曲線の組み合わせであってもよい。このゴルフ靴では、16本の線Ctのうちの15本は、それぞれ1本の線Chと接している。21本の線Chのうちの15本は、それぞれ1本のCtと接している。線Ctと線Chとの接点は、15カ所である。
【0023】
爪先方向に凸である線Ct及び踵方向に凸である線Chは、下記の方法によって設計されるのが好ましい。まず、ゴルファーにゴルフスイングをさせ、スイング中の水平方向及び鉛直方向の床反力を三次元床反力計で測定し、鉛直荷重に対する水平荷重の比率を算出する。次に、この比率が最大値となる時点であるピーク時点を決定する。つぎに、この比率が最大値に向かって上昇している段階にあってかつこの比率が最大値の60%となる時点である開始時点と、この比率が最大値から下降している段階にあってかつこの比率が最大値の60%となる時点である終了時点とを決定する。次に、この開始時点と終了時点との間の、所定間隔の三次元床反力データの水平成分ベクトルをその原点を一致させて並べる。次に、これらのベクトルの前端を結ぶ線である基準線を想定する。軸足における床反力の測定からは軸足用の基準線が得られ、蹴足における床反力の測定からは蹴足用の基準線が得られる。軸足用の基準線を所定の比率で変倍したものが、爪先方向に凸である線Ctとされる。また、蹴足用の基準線を所定の比率で変倍したものが、踵方向に凸である線Chとされる。このような床反力測定方法は、例えば特願2000−219431に開示されている。16本の線Ctのすべてが床反力測定によって決定される必要はない。21本の線Chのすべてが床反力測定によって決定される必要もない。1本の線Ctの一部分が床反力測定によって決定されてもよく、1本の線Chの一部分が床反力測定によって決定されてもよい。
【0024】
図3(a)は図1の左足用靴体Lの両側防滑突起3aの一例が示された拡大斜視図であり、図3(b)はその底面図(図3(a)を上から見た図)である。図3(b)における上方向が爪先方向であり、下方向が踵方向である。この両側防滑突起3aは、接地面となる底面9aと、爪先側防滑壁11a及び踵側防滑壁13aを含む4個の側壁とを備えている。爪先側防滑壁11aは爪先方向に凸である線Ctに実質的に沿って形成されており、爪先方向に凸な曲面である。踵側防滑壁13aは踵方向に凸である線Chに実質的に沿って形成されており、踵方向に凸な曲面である。
【0025】
図4(a)は図1の左足用靴体Lの他の両側防滑突起3bが示された拡大斜視図であり、図4(b)はその底面図(図4(a)を上から見た図)である。図4(b)における上方向が爪先方向であり、下方向が踵方向である。この両側防滑突起3bは、接地面となる底面9bと、爪先側防滑壁11b及び踵側防滑壁13bを含む3個の側壁とを備えている。爪先側防滑壁11bは爪先方向に凸である線Ctに沿って形成されており、爪先方向に凸な曲面である。踵側防滑壁13bは踵方向に凸である線Chに沿って形成されており、踵方向に凸な曲面である。
【0026】
図5(a)は図1の左面足用靴体Lの一部が示された拡大図であり、図5(b)は図5(a)のB−B線に沿った断面図である。これらの図には、爪先方向に凸である線Ctと踵方向に凸である線Chとの接点Tを隔てて対峙する、2個の両側防滑突起3aが示されている。図5(a)における上側が爪先方向であり、下側が踵方向である。図5(b)における右側が爪先方向であり、左側が踵方向である。
【0027】
図5(a)に示されるように、両側防滑突起3aの爪先側防滑壁11aは、爪先方向に凸である線Ctよりも若干踵方向(図5(a)における下方)に後退している。換言すれば、爪先側防滑壁11aは、爪先方向に凸である線Ctが踵方向に若干平行移動されてなる線に沿っている。従って、接点Tを隔てて対峙する2個の両側防滑突起3aの間隔Pは大きい。この間隔Pは、ある両側防滑突起3aの爪先側防滑壁11aと、他の両側防滑突起3aの踵側防滑壁13aとの距離である。間隔Pは、爪先側防滑壁11aの下端と、踵側防滑壁13aの下端との水平方向距離である。本明細書では、爪先方向に凸である線Ct沿って形成された爪先側防滑壁と、爪先方向に凸である線Ctが踵方向に若干平行移動されてなる線に沿って形成された爪先側防滑壁との両方が、「爪先方向に凸である線に”実質的に”沿って形成された爪先側防滑壁」と称される。
【0028】
両側防滑突起3aの踵側防滑壁13aが、踵方向に凸である線Chが爪先方向に若干平行移動されてなる線に沿って形成されてもよい。この場合も、間隔Pが大きくなる。本明細書では、踵方向に凸である線Chに沿って形成された踵側防滑壁と、踵方向に凸である線Chが爪先方向に若干平行移動されてなる線に沿って形成された踵側防滑壁との両方が、「踵方向に凸である線に”実質的に”沿って形成された踵側防滑壁」と称される。
【0029】
間隔Pは、2mm以上である。これにより、爪先側の両側防滑突起に阻害されることなく、踵側の両側防滑突起の爪先側防滑壁による防滑が達成される。同様に、踵側の両側防滑突起に阻害されることなく、爪先側の両側防滑突起の踵側防滑壁による防滑が達成される。この観点から、間隔Pは3mm以上がより好ましく、4mm以上が特に好ましい。間隔Pは、15mm以下が好ましい。間隔Pがこの範囲を超えると、両側防滑突起の幅が小さくなってその剛性が低下する場合がある。この観点から、間隔Pは12mm以下がより好ましく、8mm以下が特に好ましい。
【0030】
防滑性能の観点から、接点Tの全数に占める、その接点Tで対峙する2つの両側防滑突起の間隔が2mm以上である接点Tの数の比率は、5%以上が好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上が特に好ましい。理想的には、この比率は100%である。図1に示された左足用靴体Lの15個の接点(図6及び図7において符号T1からT15で示されている)では、いずれも間隔Pが2mm以上とされている。
【0031】
図8は、図1のゴルフ靴が、これが右利きゴルファーに着用された場合にこのゴルフ靴にかかる力のベクトルとともに示された底面図である。図8(a)は図1と同様の左足用靴体Lが示された底面図であり、図8(b)はこのゴルフ靴の右足用靴体Rが示された底面図である。右足用靴体Rは、左足用靴体Lの形状が左右反転された形状である。左足用靴体Lは左足(軸足)に着用され、右足用靴体Rは右足(蹴足)に着用される。
【0032】
図8(a)において符号Tjで示される矢印は、トップ位置で左足用靴体Lにかかる力のベクトルである。また、符号Ijで示される矢印は、インパクト直前で左足用靴体Lにかかる力のベクトルである。トップ位置からインパクト直前にかけてのスイングにおいて左足用靴体Lにかかる力の位置と方向とは、矢印Tjの状態から矢印Ijの状態へと、図においてほぼ時計回り方向に刻々と変化する。
【0033】
前述のように両側防滑突起3a、3bの爪先側防滑壁11a、11bは爪先方向に凸である線Ctに実質的に沿って形成されているので、矢印Tjの状態から矢印Ijの状態へと力のベクトルが移行するいずれの時点においても、爪先側防滑壁11a、11bのいずれかの部分がベクトル方向とほぼ直交する。これにより、左足用靴体Lの略爪先方向へのスリップが有効に抑制される。
【0034】
図8(b)において符号Tkで示される矢印は、トップ位置で右足用靴体Rにかかる力のベクトルである。また、符号Ikで示される矢印は、インパクト直前で右足用靴体Rにかかる力のベクトルである。トップ位置からインパクト直前にかけてのスイングにおいて右足用靴体Rにかかる力の位置と方向とは、一般的には矢印Tkの状態から矢印Ikの状態へと、図においてほぼ時計回り方向に刻々と変化する。
【0035】
前述のように両側防滑突起3a、3bの踵側防滑壁13a、13bは踵方向に凸である線Chに実質的に沿って形成されているので、矢印Tkの状態から矢印Ikの状態へと力のベクトルが移行するいずれの時点においても、踵側防滑壁13a、13bのいずれかの部分がベクトル方向とほぼ直交する。これにより、右足用靴体Rの略踵方向へのスリップが有効に抑制される。
【0036】
図9は、図8のゴルフ靴が、これが左利きゴルファーに着用された場合にこのゴルフ靴にかかる力のベクトルとともに示された底面図である。左足用靴体Lは左足(蹴足)に着用され、右足用靴体Rは右足(軸足)に着用される。
【0037】
図9(a)において符号Tkで示される矢印は、トップ位置で左足用靴体Lにかかる力のベクトルである。また、符号Ikで示される矢印は、インパクト直前で左足用靴体Lにかかる力のベクトルである。トップ位置からインパクト直前にかけてのスイングにおいて左足用靴体Lにかかる力の位置と方向とは、一般的には矢印Tkの状態から矢印Ikの状態へと、図においてほぼ時計回り方向に刻々と変化する。
【0038】
前述のように両側防滑突起3a、3bの踵側防滑壁13a、13bは踵方向に凸である線Chに実質的に沿って形成されているので、矢印Tkの状態から矢印Ikの状態へと力のベクトルが移行するいずれの時点においても、踵側防滑壁13a、13bのいずれかの部分がベクトル方向とほぼ直交する。これにより、左足用靴体Lの略踵方向へのスリップが有効に抑制される。
【0039】
図9(b)において符号Tjで示される矢印は、トップ位置で右足用靴体Rにかかる力のベクトルである。また、符号Ijで示される矢印は、インパクト直前で右足用靴体Rにかかる力のベクトルである。トップ位置からインパクト直前にかけてのスイングにおいて右足用靴体Rにかかる力の位置と方向とは、矢印Tjの状態から矢印Ijの状態へと、図においてほぼ時計回り方向に刻々と変化する。
【0040】
前述のように両側防滑突起3a、3bの爪先側防滑壁11a、11bは爪先方向に凸である線Ctに実質的に沿って形成されているので、矢印Tjの状態から矢印Ijの状態へと力のベクトルが移行するいずれの時点においても、爪先側防滑壁11a、11bのいずれかの部分がベクトル方向とほぼ直交する。これにより、右足用靴体Rの略爪先方向へのスリップが有効に抑制される。
【0041】
このように、左足用靴体Lでは、右利きゴルファーが着用した場合は主として爪先側防滑壁11a、11bが防滑性能を発揮し、左利きゴルファーが着用した場合は主として踵側防滑壁13a、13bが防滑性能を発揮する。また、右足用靴体Rでは、右利きゴルファーが着用した場合は主として踵側防滑壁13a、13bが防滑性能を発揮し、左利きゴルファーが着用した場合は主として爪先側防滑壁11a、11bが防滑性能を発揮する。すなわち、このゴルフ靴では、右利きゴルファーが着用した場合でも、左利きゴルファーが着用した場合でも、両側防滑突起3a、3bによってスイング中のスリップが抑制される。このゴルフ靴は、右利きゴルファーにも左利きゴルファーにも適したものである。しかも、このゴルフ靴では爪先側防滑壁11a、11bによって下り坂での左足用靴体L及び右足用靴体Rのスリップが抑制され、踵側防滑壁13a、13bによって登り坂での左足用靴体L及び右足用靴体Rのスリップが抑制される。
【0042】
図10は、図3(b)のX−X線に沿った断面図(鉛直断面図)である。この図では、両側防滑突起3aと共に、靴底本体1が示されている。この図においてαで示されているのは、爪先側防滑壁11aと靴底本体1とのなす内角である。また、角度βで示されているのは、踵側防滑壁13aと靴底本体1とのなす内角である。これらの内角α、βは、60°(degree)以上が好ましい。内角α、βが上記範囲未満であると、左足用靴体L及び右足用靴体Rの防滑性能が不十分となることがある。この観点から、内角α、βは80°以上が特に好ましい。内角α、βは、120°以下が好ましい。内角α、βが上記範囲を超えると、靴底本体1の成形時に脱型が困難となることがある。この観点から、内角α、βは100°以下が特に好ましい。図4に示された両側防滑突起3bにおいても、爪先側防滑壁11b及び踵側防滑壁13bのそれぞれが靴底本体1となす鉛直断面における内角は、60°以上、特には80°以上が好ましく、120°以下、特には100°以下が好ましい。
【0043】
左足用靴体L及び右足用靴体Rのそれぞれにおいて、突起3、5の全数に占める両側防滑突起3の数の比率は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、85%以上がさらに好ましい。理想的には、この比率は100%である。これにより、左足用靴体L及び右足用靴体Rのスリップがより抑制される。
【0044】
両側防滑突起3の高さ(図3(a)及び図4(a)において両矢印Hで示される)は、2mm以上25mm以下が好ましい。高さHが上記範囲未満であると、防滑性能が不十分となることがある。この観点から、高さHは5mm以上が特に好ましい。高さHが上記範囲を超えると、突起が屈曲しやすい。この観点から、高さHは15mm以下が特に好ましい。
【0045】
このゴルフ靴は両側防滑突起3及び非両側防滑突起5のみが靴底本体1の底面から突出しているが、さらに架橋ゴム、合成樹脂等からなるピンが補助的に設けられてもよい。特に、親指の付け根に相当する部分(すなわち高い足圧がかかる部分)の近傍にピンが設けられることにより、左足用靴体L及び右足用靴体Rのスリップがより抑制される。
【0046】
左足用靴体L及び右足用靴体Rのそれぞれにおける、靴底本体1の底面積に占める突起3、5の合計接地面積の比率(接地面積率)は、20%以上80%以下が好ましい。接地面積率が上記範囲未満であると、突起3、5が刺さりにくい硬質路面上での防滑性が不十分となることがある。この観点から、接地面積率は30%以上が特に好ましい。接地面積率が上記範囲を超えると、接地圧が不足することがある。この観点から、接地面積率は70%以下が特に好ましい。靴底本体1の底面積とは、底面が平坦である(すなわち突起3、5が形成されていない)と仮定されたときの面積を意味する。
【0047】
左足用靴体L及び右足用靴体Rのそれぞれにおける突起3、5の数は、10個以上1000個以下が好ましい。突起3、5の数が上記範囲未満であると、突起3、5が全く存在しない広面積な領域が生じ、例えばこの領域が種子骨の直下に位置した場合等において歩行時の防滑性能が不十分となることがある。この観点から、突起3、5の数は20個以上が特に好ましい。突起3、5の数が上記範囲を超えると、個々の突起3、5のサイズが小さくなって突起3、5の剛性が不十分となることがある。この観点から、突起3、5の数は100個以下が特に好ましい。
【0048】
【実施例】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0049】
[実施例1]
ブタジエンゴムを主成分とするゴム組成物を金型に仕込んで加熱し、靴底本体及び両側防滑突起を備えた靴底を成形した。この靴底にアッパー部、インソール等を取り付けて、実施例1のゴルフ靴を得た。このゴルフ靴の突起の形状と配置とは、図1から図10に示される通りである。すべての接点(T1からT15)における両側防滑突起の間隔Pは、6mmである。
【0050】
[実施例2から5及び比較例1]
異なる金型を用いた他は実施例1と同様にして、実施例2から5及び比較例1のゴルフ靴を得た。これらのゴルフ靴は、各接点(T1からT15)における間隔Pが下記の表1に示される通りに設定されている以外は、概ね実施例1のゴルフ靴と同等の突起パターンを備えている。
【0051】
[比較例2]
成形金型を変更して靴底のパターンを変更した他は実施例1と同様にして、比較例2のゴルフ靴を得た。このゴルフ靴の突起の形状と配置とは、図11に示される通りである。すなわち左足用靴体Lは突起51と平坦部53とを備えており、突起51は爪先方向に凸な線に沿って形成されている。また、右足用靴体Rは突起55と平坦部57とを備えており、突起55は踵方向に凸な線に沿って形成されている。
【0052】
[防滑性能の評価]
右利きのゴルファー及び左利きのゴルファーにゴルフ靴を着用させ、ゴルフ場のティグラウンドでドライバーにてゴルフボールを打撃させた。また、ゴルファーに表面が芝生である下り坂を歩行させた。そして、防滑性能を「1」から「15」の5段階で官能評価させた。最もスリップしにくいものを「15」とし、最もスリップしやすいものを「1」とした。この結果が、下記の表1に示されている。
【0053】
【表1】
Figure 0004370750
【0054】
表1から明らかなように、各実施例のゴルフ靴は、右利きゴルファーに着用された場合でも左利きゴルファーに着用された場合でも、スリップしにくい。この評価結果より、本発明の優位性は明らかである。
【0055】
以上、ゴルフに用いられる場合が一例とされて本発明が詳説されたが、本発明の靴は、種々の運動においても優れた防滑性能を発揮する。
【0056】
【発明の効果】
以上説明されたように、本発明の靴は、運動中のスリップを十分に抑制する。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフ靴の左足用靴体Lが示された底面図である。
【図2】図2(a)は図1の左足用靴体Lにおける爪先方向に凸である線Ctが示された模式図であり、図2(b)はこの左足用靴体Lの踵方向に凸である線Chが示された模式図である。
【図3】図3(a)は図1の左足用靴体Lの両側防滑突起の一例が示された拡大斜視図であり、図3(b)はその底面図である。
【図4】図4(a)は図1の左足用靴体Lの他の両側防滑突起が示された拡大斜視図であり、図4(b)はその底面図である。
【図5】図5(a)は図1の左面足用靴体Lの一部が示された拡大図であり、図5(b)は図5(a)のB−B線に沿った断面図である。
【図6】図6は、図1の左足用靴体Lの一部が示された拡大底面図である。
【図7】図7は、図1の左足用靴体Lの一部が示された拡大底面図である。
【図8】図8は、図1のゴルフ靴が、これが右利きゴルファーに着用された場合にこのゴルフ靴にかかる力のベクトルとともに示された底面図である。
【図9】図9は、図8のゴルフ靴が、これが左利きゴルファーに着用された場合にこのゴルフ靴にかかる力のベクトルとともに示された底面図である。
【図10】図10は、図3(b)のX−X線に沿った断面図である。
【図11】図11は、本発明の比較例に係るゴルフ靴が示された底面図である。
【符号の説明】
1・・・靴底本体
3、3a、3b・・・両側防滑突起
5・・・非両側防滑突起
7・・・平坦部
9a、9b・・・底面
11a、11b・・・爪先側防滑壁
13a、13b・・・踵側防滑壁
Ct・・・爪先方向に凸な線
Ch・・・踵方向に凸な線
L・・・左足用靴体
R・・・右足用靴体
T・・・接点

Claims (4)

  1. 靴底本体を備えており、この靴底本体の底面にゴム又は合成樹脂からなる突起が多数形成された靴であって、
    この突起として、爪先方向に凸である線に実質的に沿って形成されており爪先方向に凸な曲面である爪先側防滑壁と、踵方向に凸である線に実質的に沿って形成されており踵方向に凸な曲面である踵側防滑壁とを備えている両側防滑突起が主として形成されており、
    それぞれの爪先側防滑壁が、全体にわたって爪先側に凸であり、
    それぞれの踵側防滑壁が、全体にわたって踵側に凸であり、
    爪先方向に凸である線と踵方向に凸である線とが接する箇所を隔てて対峙する2つの両側防滑突起の間隔が2mm以上に設定されており、
    爪先方向に凸な線に沿って複数の爪先側防滑壁が並んでおり、踵方向に凸な線に沿って複数の踵側防滑壁が並んでいることを特徴とする靴。
  2. 爪先方向に凸である線と踵方向に凸である線とが接する箇所である接点の全数に占める、その接点で対峙する2つの両側防滑突起の間隔が2mm以上である接点の数の比率が5%以上である請求項1に記載の靴。
  3. 上記両側防滑突起の数が全突起数に占める比率が50%以上である請求項1又は請求項2に記載の靴。
  4. 上記爪先側防滑壁と靴底本体とがなす鉛直断面における内角が60°以上であり、踵側防滑壁と靴底本体とがなす鉛直断面における内角が60°以上である請求項1から請求項3のいずれかに記載の靴。
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