JP4370450B2 - 農薬キャリアー製造方法、及びその装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、農薬キャリアーの製造技術に係り、特に、灰から農薬キャリアーを製造するのに適した農薬キャリアーの製造技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
農薬は、例えば10a当たり数g〜数百gの有効成分つまり農薬原体で効力を発揮するが、このような少量の農薬原体を広範囲の土地に均一に散布することは難しい。そのため、農薬原体を適当な希釈剤や増量剤、すなわち農薬キャリアーを用いて希釈することで増量し、散布し易い形に加工し農薬製剤としている。また、農薬キャリアーを用いた農薬製剤は、農薬原体が希釈されていることから、農薬原体の毒性が強い場合であっても、農薬原体の毒性を薄めることができ取り扱い時の安全性を向上することもできる。農薬キャリアーとしては、固体と液体の物があるが、ほぼ全ての農薬原体に対して適用できること、使用に際して水などでの再希釈が不要で、そのままの形で散布できることなどから、主に固体の農薬キャリアーが用いられている。
【0003】
このような固体の農薬キャリアーとして石炭の燃焼によって生じる石炭灰を用いることが特開昭58−219102号公報や特開2001−328906号公報などに提案されている。石炭灰を農薬キャリアーとして用いることは、他の農薬キャリアーとなる物質に比べて石炭灰が安価であること、また、石炭の燃焼を行う設備や装置などで生じる廃棄物である石炭灰の有効利用に繋がることなどから好ましい。
【0004】
特開昭58−219102号公報では、例えば微粉炭燃焼ボイラなどの底部で回収される溶結状態の石炭灰であるボトムアッシュクリンカーを粉砕した後分級し、農薬キャリアーとして使用することが提案されている。一方、特開2001−328906号公報では、例えば微粉炭燃焼ボイラなど石炭を燃焼によって生じる燃焼ガスなどに同伴され、集塵器などで回収された石炭灰つまりフライアッシュを農薬キャリアーに利用することを提案している。フライアッシュは、その発生の段階で、粉剤や粒剤の農薬キャリアーとして使用できる粒度範囲のものを含んでいるため分級することにより農薬キャリアーとして利用できる。さらに、特開2001−328906号公報では、石炭灰中の農薬原体を分解したり、農薬原体の作用を阻害する鉄やアルカリ土類金属類などの金属成分を酸で処理して除去することで石炭灰を改質する方法について提案している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、特開昭58−219102号公報や特開2001−328906号公報などに提案されているような石炭灰は、石炭灰に含まれる未燃カーボンやFe2O3などの存在により、石炭の産地や種類によっても異なるが、その色調は灰色、黒色、褐色などとなっており、その白色度は例えば50%台といった程度である。しかし、農薬製剤は、それを噴霧したときにその噴霧状況が分かり易いように、通常、白色からクリーム色とする事が多く、農薬キャリアーとしては、通常80〜90%の白色度を有するものが用いられている。このため、灰色、黒色、褐色などの色調の石炭灰を農薬キャリアーとして用いる場合、農薬製剤を白色からクリーム色にするため、その使用量が制限され、例えばクレー、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、酸性白土などの別の農薬キャリアーに対して10〜20%程度混合して使用することしかできない。
【0006】
このように従来の石炭灰を利用した農薬キャリアーは、その色調が灰色、黒色、褐色などであることから、その使用量が制限されるため、石炭灰を農薬キャリアーとして用いることにより得られる効果を十分に享受できない場合がある。したがって、使用量が制限され難い石炭灰を利用した農薬キャリアーを提供するため、石炭灰を利用した農薬キャリアーの白色度を増すことが望まれている。
【0007】
また、これらの石炭灰を利用して農薬キャリアーを製造する方法は、例えば油やごみといったような石炭以外の可燃物の燃焼によって生じた灰にも適用が可能である。そして、石炭以外の可燃物の燃焼によって生じた灰でも石炭灰の場合と同様に、その色調が灰色、黒色、褐色などであり、使用量が制限されてしまうため、石炭以外のごみなどの可燃物の燃焼によって生じた灰を農薬キャリアーに利用する場合でも白色度を増す必要がある。
【0008】
本発明の課題は、灰を利用した農薬キャリアーの白色度を増すことにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の農薬キャリアー製造方法は、灰を400℃より高く800℃未満の温度で灰中の未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量よりも少ない酸素量で加熱する加熱処理工程と、灰を酸またはアルカリ溶液と混合及び加温する化学処理工程と、この化学処理工程で処理された灰を洗浄液で洗浄する洗浄処理工程とを含む方法とすることにより上記課題を解決する。
【0010】
また、加熱処理工程は、500℃以上600℃以下で灰を加熱する方法とする。さらに、加熱処理工程を化学処理工程及び洗浄処理工程よりも後に行う方法とする。また、加熱処理工程、化学処理工程よりも前に行い、灰中の鉄分を磁力により吸着して除去する磁選処理工程を含む方法とする。
【0011】
さらに、化学処理工程は、酸溶液を用い、40℃以上120℃以下で加温する方法とする。また、化学処理工程は、アルカリ溶液を用い、100℃以上120℃以下で加温する方法とする。
【0012】
また、本発明の農薬キャリアー製造装置は、灰を400℃より高く800℃未満の温度で灰中の未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量よりも少ない酸素量で加熱する炉を有する加熱装置を含む加熱処理部と、灰を酸またはアルカリ溶液と混合する化学処理槽を有する化学処理部と、この化学処理部で処理された灰を洗浄液で洗浄するための洗浄液槽を有する洗浄処理部とを備え、化学処理部は、化学処理槽内の酸またはアルカリ溶液と灰との混合物を加熱する加熱手段を有する構成とすることにより上記課題を解決する。
【0013】
また、灰の分級を行う分級手段を有する分級処理部と、酸またはアルカリ溶液と灰とを混合する化学処理槽を有する化学処理部と、化学処理部で処理された灰を洗浄液で洗浄するための洗浄液槽を有する洗浄処理部と、灰を400℃より高く800℃未満の温度で加熱する炉を有する加熱装置を含む加熱処理部とを備え、化学処理部は、化学処理槽内の酸またはアルカリ溶液と灰との混合物を加熱する加熱手段を有する構成とする。
【0014】
さらに、加熱装置が有する炉は、500℃以上600℃以下で灰を加熱する構成とする。また、加熱処理部は、洗浄処理部よりも後段に設置されている構成とする。さらに、加熱処理部、化学処理部よりも前段に設置され、灰中の鉄分を磁力により吸着して除去する磁選装置を含む磁選処理部を備えた構成とする。
【0016】
このような本発明を適用してなる農薬キャリアー製造装置、及び農薬キャリアー製造方法では、酸またはアルカリ溶液を用いた化学処理により、農薬原体の化学的な分解の原因となる灰中のカルシウム等のアルカリ土類金属、そして農薬原体の化学的な分解の原因であり、灰の色調の黒さの原因でもある鉄分を除去できる。さらに、加熱処理により、灰の色調の黒さのもう一つの原因である灰中の未燃分を除去できる。したがって、灰を利用した農薬キャリアーの白色度を増すことができる。
【0017】
さらに、加熱処理において灰を500℃以上600℃以下で加熱すれば、より確実に灰を利用した農薬キャリアーの白色度を増すことができるので好ましい。
【0018】
また、加熱処理を化学処理及び洗浄処理よりも後に行えば、洗浄処理の灰の乾燥処理を行う必要がないので好ましい。さらに、加熱処理、化学処理、及び洗浄処理よりも前に、磁選処理を行えば、化学処理に加えて磁選処理でも鉄分の除去を行えるため、鉄分の除去能力を向上できる。
【0019】
さらに、化学処理は、酸溶液を用い、40℃以上120℃以下で加温すれば、鉄分及びアルカリ土類金属類の灰からの除去率は確実に向上できる。また、化学処理は、アルカリ溶液を用い、100℃以上120℃以下で加温すれば灰の比表面積を向上できる。
【0020】
さらに、加熱処理工程は、灰中の未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量以下の酸素を含む雰囲気中で行えば、灰の白色度がさらに増すので好ましい。
【0021】
【発明の実施の形態】
(第1の実施形態)
以下、本発明を適用してなる農薬キャリアー製造装置の第1の実施形態について図1を参照して説明する。図1は、本発明を適用してなる農薬キャリアー製造装置の概略構成と動作を示すブロック図である。なお、以下の各実施形態の説明では、石炭の燃焼によって生じたフライアッシュとなった石炭灰を用いて農薬キャリアーを製造する場合を例として説明するが、本発明により、フライアッシュ以外の石炭灰、さらに石炭灰以外のごみや油などの燃焼によって生じた灰を用いて農薬キャリアーを製造することができる。
【0022】
本実施形態の農薬キャリアー製造装置は、図1に示すように、石炭灰を農薬キャリアーとして適切な粒径範囲に分級するための分級処理工程を行うための分級処理部1、分級した石炭灰を酸溶液で処理する酸処理工程を行う酸処理部3、酸処理の後に石炭灰の洗浄を行う洗浄処理工程を行う洗浄処理部5、洗浄処理した石炭灰を加熱処理する加熱処理部7などで構成されている。本実施形態では、化学処理部として酸処理部3を備え、化学処理工程として酸処理工程を行っている。
【0023】
分級処理部1は、石炭の燃焼を行う設備や装置などで発生した燃焼ガスから回収した石炭灰を収容する灰ホッパ9、灰ホッパ9に収容された石炭灰が通流する灰管路11への石炭灰の供給を制御するために灰ホッパ9と灰管路11の間に灰ホッパ9側から順に設けられたバルブ13とフィーダ15、灰管路11に灰管路11内の搬送用空気の流れに対して上流側から順に設けられた石炭灰の粒子の分級を行う分級手段となるサイクロン17、分級した石炭灰を補集する集塵器19、集塵機19で補集した石炭灰を収容するホッパ21などで構成されている。
【0024】
フィーダ15から一定量で供給される石炭灰は、灰管路11のサイクロン17よりも搬送用空気の流れ、つまり石炭灰の流れに対して上流側の部分に供給される。また、灰管路11のフィーダ15から石炭灰が供給される部分よりも石炭灰の流れに対して上流側に、搬送用空気を供給するためのブロア23が設けられている。サイクロン17には、サイクロン17で分級された石炭灰のうち、設定された範囲外の石炭灰を収容するホッパ25が管路26を介して連結されている。サイクロン17で分級された石炭灰のうち、設定された範囲内の石炭灰は、集塵機19で補集される。集塵機19には、集塵機19で石炭灰が補集された後の空気を吸引して排出するための吸引ブロア27と煙突29が順次連結されている。集塵機19で補集した石炭灰を収容するホッパ21は、このホッパ21に連通し、分級処理部1と酸処理部3とを連結する連結管路31に石炭灰を供給する。
【0025】
酸処理部3は、連結管路31を介して分級処理部1のホッパ21から石炭灰が供給される酸処理槽33、酸処理槽33で生成されたスラリーの固液分離を行う固液分離手段となるろ過器35などで構成されている。酸処理槽33には、酸処理槽33内に水供給管路37と酸供給管路39から各々供給された水と酸によって調整された適切な濃度の酸溶液40が収容されている。酸処理槽33には、酸処理槽33の内容物を撹拌するための撹拌機41、内容物を加熱する加熱手段となるヒータ43などが設けられている。ヒータ43は、40℃以上120℃以下の範囲で内容物を加熱できるものを用いている。ろ過器35は、酸処理槽33からスラリー管路44を介して送られてくる酸処理槽33内で酸溶液と石炭灰との混合によって生成されたスラリーの固液分離を行う。このろ過器35には、スラリーの固液分離で生じた廃液を処理するための廃液処理装置45が管路46を介して連結されている。また、ろ過器35には、スラリーの固液分離で得られた酸処理後の石炭灰が通流し、酸処理部3と洗浄処理部5とを連結する連結管路47が連通している。
【0026】
廃液処理装置45には、廃液処理装置45に中和用の薬剤を供給するための薬剤管路48、中和用の薬剤により中和処理して分離した汚泥を排出するための汚泥管路49、そして中和され汚泥が分離された後の処理水を排出する処理水管路51などが連結されている。処理水管路51から排出される処理水は、酸処理槽33に水供給管路37を介して供給する水として再利用することもできるし洗浄処理部5で用いる洗浄水として再利用することもできる。
【0027】
洗浄処理部5は、連結管路47を介して酸処理部3のろ過器35から石炭灰が供給される洗浄処理槽53、洗浄処理槽53で洗浄及び中和された石炭灰を含む液の固液分離を行う固液分離手段となるろ過器55などで構成されている。洗浄処理槽53には、水供給管路57と薬剤供給管路59から各々洗浄液となる水と中和用の薬剤が供給される。洗浄処理槽53には、洗浄処理槽53の内容物を撹拌するための撹拌機60などが設けられている。ろ過器55は、灰含有液管路61を介して送られてくる洗浄処理槽53内で洗浄された石炭灰を含む液の固液分離を行う。このろ過器55には、石炭灰を含む液の固液分離で生じた廃液を廃液処理装置45に導くための管路62が連結されている。また、ろ過器55には、固液分離で得られた洗浄処理後の石炭灰が通流し、洗浄処理部5と加熱処理部7とを連結する連結管路63が連通している。
【0028】
加熱処理部7は、連結管路63が連通し、洗浄処理部5のろ過器55から石炭灰が供給される加熱装置65、加熱処理後に冷却を行うための冷却装置67などで構成されている。加熱装置65は、400℃より高く800℃未満の範囲で石炭灰の加熱処理を行う炉を有している。冷却装置67は、加熱灰管路69を介して送られてくる加熱装置65で加熱処理された石炭灰の冷却を行う。冷却装置67には、製品管路71を介して製品ホッパ73が連結されている。加熱装置65の炉は、炉内の加熱雰囲気を石炭灰中の未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量以下の酸素を含む雰囲気にできる密閉型の炉や、外熱式の炉などを用いることが望ましい。
【0029】
このような構成の農薬キャリア製造装置の動作と本発明の特徴部について説明する。分級処理部1の灰ホッパ9内に貯蔵された石炭灰は、バルブ13を開放することで、フィーダ15により灰管路11に一定量で供給され、ブロア23からの空気で空気搬送され、サイクロン17において、農薬キャリアーとして適切な粒径に分級される。適切な粒径となった石炭灰は、集塵器19で捕集され、ホッパ21を経て、酸処理部3に送られる。
【0030】
酸処理部3の酸処理槽33に投入された石炭灰は、酸処理槽33内の適切な濃度の酸溶液40と混合されてスラリーとなり、ヒーター43によって一定温度、本実施形態では80℃で保温した状態で撹拌機41で撹拌されながら、一定時間、本実施形態では1時間、加熱状態で酸処理される。なお、酸溶液40を生成する酸は、鉱酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸などの強酸を使用することができる。
【0031】
ここで、酸処理槽33における加熱温度は、石炭灰の種類により設定するが、40℃以上120℃以下の範囲で行うことが望ましく、80℃で行うことがさらに望ましい。この範囲を超えて高温にすると、酸処理槽33が腐食する可能性が増し好ましくない。また、この範囲よりも低い室温程度の条件で酸処理しても、鉄及びアルカリ土類金属類の石炭灰からの除去率は向上しない。したがって、酸処理槽33における加熱温度は、上記の温度条件が望ましい。また、酸処理槽33における加熱時間については、30分未満の短時間では、鉄及びアルカリ土類金属類の除去率が低下し、1時間以上の長時間としても、除去率は平衡に到達してほとんど向上しない。したがって、酸処理槽33における加熱時間は、1時間程度が望ましい。ただし、石炭灰の種類により1時間以上とすることもできる。
【0032】
酸処理槽33における酸処理後の石炭灰のスラリーは、ろ過器35で固液分離され、これにより生じた廃液は廃液処理装置45で処理され、分離された石炭灰は、洗浄処理部5に送られる。
【0033】
洗浄処理部5の洗浄処理槽53に投入された石炭灰は、洗浄液となる水供給管路57からの水、そして薬剤供給管路59からの中和用の薬剤が添加されることで、水洗とpHの調整が行われる。洗浄処理槽53において水洗と中和が行われた石炭灰は、ろ過器55でろ過されて固液分離され、これにより生じた廃液は廃液処理装置45で処理され、分離された石炭灰は、加熱処理部7に送られる。
【0034】
加熱処理部5の加熱装置65に投入された石炭灰は、加熱装置65の炉内で一定温度、本実施形態では600℃で、石炭灰中の未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量以下の酸素を含む雰囲気中で3時間以上加熱処理される。その後、加熱装置65において加熱処理された石炭灰は、冷却装置67で冷却された後、ホッパ73に貯蔵し、適宜輸送手段75で農薬キャリアーとして出荷される。ここで、加熱装置65における加熱温度は、400℃より高く800℃未満で行うことが望ましく、特に500℃以上600℃以下が望ましい。加熱温度が800℃以上であると、石炭灰中に取り込まれた鉄分までが酸化して、茶色に着色してしまい、白色度が低下してしまう。また、加熱温度が400℃以下であると未燃カーボンの燃焼が進行せず、石炭灰の白色度を増すことはできない。また、より確実に鉄分の酸化を防ぎ、未燃カーボンの燃焼を進行させ、より確実に石炭灰の白色度を増すためには、500℃以上600℃以下で加熱することが望ましい。
【0035】
ところで、石炭灰は、通常、SiO2、Al2O3を主成分としており、さらに、CaO、MgO、TiO2、Fe2O3、K2O、Na2Oなどを含み、また、未燃分として未燃カーボンなども含んでいる。石炭灰の色調の黒さは、これら未燃カーボンや、Fe2O3の存在が原因している。表1に、石炭灰とクレーの白色度の一例を示す。
【0036】
【表1】
白色度(%)は、ものの白さを示す指標で、光の反射強度から求められ、真黒が0%、真白が100%で表される。したがって、白色度の数値が高いものほど白に近い。表1に示すように、石炭灰は、56%でほぼ白と黒の中間の色、農薬キャリアーとして用いられるクレーつまり粘土は、83%でかなり白に近いということが分かる。そこで、石炭灰から未燃カーボンと鉄分を除去することができれば、白色またはクリーム色の石炭灰を得ることができる。
【0037】
また、石炭の種類によっては、表1に示すように、石炭灰中に農薬原体の化学的な分解の原因となる鉄分やアルカリ土類金属類を多く含むものがあり、このような石炭から生じた石炭灰は、そのままでは農薬キャリアーとして使用できない。 石炭灰の溶融温度は、通常、1100℃から1300℃程度であるが、燃焼中の火炉内の最高温度は、1600℃以上に達するため、石炭灰は火炉内で溶融し、一部は炉壁に付着して炉底に流れ落ち、水で冷却され岩石状のクリンカアッシュとなる。しかし、炉壁に付着しなかった石炭灰の粒子は燃焼ガスに随伴され、溶融状態で燃焼ガスと共に徐々に冷却されるため、数ミクロンから最大100ミクロン程度のほぼ球形の石炭灰となる。
【0038】
このため、鉄分やアルカリ土類金属類は、一部は溶融固化したガラス状の石炭灰中に取り込まれ、一部は固化した石炭灰粒子の表面に露出している。石炭灰粒子の内部に取り込まれた鉄分やアルカリ土類金属類は農薬の薬効成分と直接、接触する事は無いため、石炭灰粒子の表面に露出している鉄分やアルカリ土類金属類が農薬原体の化学的な分解の原因となる。そこで、石炭灰の表面に露出した鉄分やアルカリ土類金属類を除去すれば、薬効を害する物質を実質的に除去したこととなり、石炭灰を農薬キャリアーに適用することができる。
【0039】
これに対して、本実施形態の農薬キャリアーの製造装置、そしてこの製造装置で実施している農薬キャリアーの製造方法では、酸処理部3で行う酸処理工程で鉱酸による酸処理により、農薬原体の化学的な分解の原因となる石炭灰中のカルシウム等のアルカリ土類金属、そして農薬原体の化学的な分解の原因であり、かつ石炭灰の色調の黒さの原因の一つでもある鉄分を除去できる。さらに、加熱処理部7で行う加熱処理工程で400℃より高く800℃未満の温度範囲での加熱処理により、石炭灰の色調の黒さのもう一つの原因である石炭灰中の未燃カーボンを除去できる。したがって、石炭灰の白色度を増すことができる。すなわち、石炭灰や石炭灰以外の固形分の燃焼で生じる灰を利用した農薬キャリアーの白色度を増すことができる。
【0040】
さらに、固形分の燃焼で生じる灰を利用した農薬キャリアーの白色度を増すことができることにより、他の農薬キャリアーと混合する必要が無く、使用量が制限され難くなる。
【0041】
ここで、粉剤状や粒剤状の農薬の年間生産量が約20万トンであるのに対し、石炭灰は、約500万トン/年で発生しており、この石炭灰の発生量は年々増加している。石炭灰は、一般に、セメント原料、土地造成、建材などに利用されているが、発生量の方がこのような石炭灰の利用量を大幅に上回っているため、利用しきれない石炭灰は、処理に困っているのが現状である。そのため、石炭灰は無償で、または処理費と共に入手できる場合があり、農薬キャリアーとしては安価な原料である。さらに、有償で得たとしても、クレー、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、酸性白土、珪砂、珪石、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、アタパルジャイト、珪藻土などを用いた農薬キャリアーに比べて安価に入手できる。したがって、他の農薬キャリアーと混合する必要が無く、使用量が制限されにくい石炭灰を用いた農薬のキャリアーが利用できることにより、農薬キャリアーのコストを低減できる。
【0042】
例えば、現在、農薬製剤メーカは、農薬キャリアーとして、炭酸カルシウム、クレーを1万円/トン〜3万円/トンで購入している。これに対して、石炭灰を無償で購入し、農薬キャリアーにするための処理、つまり分級処理、酸処理、加熱処理などの処理に費用を要したとしても、クレーよりも安価な農薬キャリアーにできる。
【0043】
また、クレー、ベントナイト、タルク、炭酸カルシウム、酸性白土、珪砂、珪石、ゼオライト、パーライト、バーミキュライト、アタパルジャイト、珪藻土は、特別な鉱物として採掘されるものであるため、その鉱山が枯渇すれば、別の鉱山を開発する必要があり、これらは全てコストアップの要因となる。このように、鉱物を利用した農薬キャリアーは、天然の資源を利用するため、安定価格、安定供給、といった点で不安な面がある。市況によって価格も変動し、輸入品の場合には国際情勢の変化により、入手出来なくなったり価格が暴騰したりする、といった問題がある。しかし、石炭灰であれば、このような問題は生じ難い。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態について図2を参照して説明する。図2は、本発明を適用してなる農薬キャリアー製造装置の概略構成と動作を示す図である。なお、本実施形態では、第1の実施形態と同一のものには同じ符号を付して説明を省略し、第1の実施形態と相違する構成及び特徴部などについて説明する。
【0045】
本実施形態の農薬キャリアー製造装置が第1の実施形態と相違する点は、酸処理工程に代えてアルカリ溶液で石炭灰の処理を行うアルカリ処理工程を行うこと、そして、分級処理工程とアルカリ処理工程の間で磁力により鉄分を除去する磁選処理工程を行うことにある。すなわち、本実施形態の農薬キャリアー製造装置は、図2に示すように、第1の実施形態の酸処理部3に代えて、アルカリ溶液で石炭灰の処理を行うアルカリ処理部77を備え、さらに、分級処理部1とアルカリ処理部77との間に磁選処理工程を行う磁選処理部79を備えている。このように本実施形態では、化学処理部としてアルカリ処理部77を備え、化学処理工程としてアルカリ処理工程を行っている。
【0046】
アルカリ処理部77は、第1の実施形態における酸処理部3の酸処理槽33に代えてアルカリ処理槽80が設けられている。アルカリ処理槽80には、アルカリ処理槽80内に水供給管路37とアルカリ供給管路81から各々供給された水とアルカリによって調整された適切な濃度のアルカリ溶液83が収容されている。また、本実施形態のアルカリ処理槽80は、密閉系として形成されており、アルカリ処理槽80から蒸発した水分をアルカリ処理槽80に戻すための復水器84が設けられている。これら以外の構成は、第1の実施形態の酸処理部3と同じである。磁選処理部79は、分級処理部1のホッパ21とアルカリ処理部77のアルカリ処理槽80との間に設けられた連結管路31に設けられた磁選機85などで構成されている。
【0047】
このような本実施形態の農薬キャリアー製造装置では、分級処理部1のホッパ21からの石炭灰は、磁選機85にかけられ、鉄分が磁力により除去される。鉄分が除去された石炭灰は、アルカリ処理部77のアルカリ処理槽80に投入される。アルカリ処理部77のアルカリ処理槽80に投入された石炭灰は、アルカリ処理槽80内の適切な濃度のアルカリ溶液83と混合されてスラリーとなり、ヒーター43によって一定温度、本実施形態では100℃以上120℃以下で保温した状態で撹拌機41で撹拌することで、一定時間、本実施形態では5時間、加熱状態でアルカリ処理される。なお、アルカリ溶液83を生成するアルカリは、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなど様々なアルカリを使用することができる。
【0048】
ここで、アルカリ処理部77で行うアルカリ処理工程で石炭灰を処理する場合は、第1の実施形態の酸処理部3で行う酸処理工程で石炭灰を処理する場合と鉄分やアルカリ土類金属類の除去のされ方が異なる。すなわち、アルカリ処理工程では、石炭灰の主要成分であるSiO2、Al2O3がアルカリによって一部溶解し、さらに、アルカリとの反応により表面にゼオライト状の物質が生成する。このため、石炭灰の比表面積が増大し、吸着性能が向上する。このように、アルカリ処理によりSiO2、Al2O3を溶け出させ、比表面積や吸着性能を向上させるうえで、ヒーター43による加熱温度は、100℃以上120℃以下が望ましい。また、加熱時間については、5時間未満の短時間ではSiO2、Al2O3の溶出が十分起きず、比表面積の増加も十分でないため、5時間以上とするのが望ましい。一方、24時間以上の長時間としても、ほとんど比表面積が向上せず、ユーティリティが無駄となるため、加熱時間については、5時間以上24時間以下とするのが望ましい。ただし、石炭灰の種類により5時間未満や24時間を越える時間加熱することもできる。
【0049】
ところで、アルカリ処理槽80では、加熱温度を100℃以上とするのが望ましいが、この温度範囲では、アルカリ処理槽80内の水分などが蒸発するため、アルカリ処理槽80を開放系として形成すると、水分の蒸発により石炭灰のスラリーが濃縮されてしまう場合がある。これを防ぐために、アルカリ処理槽80を密閉系として形成し、蒸発した水分を復水器84でアルカリ処理槽80に戻している。なお、この槽を密閉系として形成し復水器84を設ける構成は、第1の実施形態の酸処理部3にも加熱温度などに応じて適用できる。
【0050】
アルカリ処理槽80におけるアルカリ処理後の石炭灰のスラリーは、ろ過器35で固液分離され、これにより生じた廃液は廃液処理装置45で処理され、分離された石炭灰は、洗浄処理部5に送られる以降の工程及び動作は、第1の実施形態と同じである。
【0051】
このような本実施形態の農薬キャリアーの製造装置、そしてこの製造装置で実施している農薬キャリアーの製造方法でも、第1の実施形態と同じ効果を得ることができる。さらに、本実施形態の農薬キャリアーの製造装置、そしてこの製造装置で実施している農薬キャリアーの製造方法では、磁選処理部79を有し磁選処理工程を行うことにより、鉄分の除去能力を向上できる。なお、磁選処理部79などによる磁選処理工程は、第1の実施形態に適用することもできる。
【0052】
加えて、アルカリ処理により、灰中のSiO2、Al2O3とアルカリが反応してゼオライト状物質が生成されることにより、石炭灰の比表面積が増大する。このため、アルカリ処理した石炭灰では、比表面積が向上したことで農薬原体の吸着量が増加し、薬剤効果をより長く持続できる。
【0053】
また、第1及び第2の実施形態では、フライアッシュを用いて農薬キャリアーを製造する場合を例としているが、ボトムアッシュクリンカーを用いて農薬キャリアーを製造することもできる。さらに、ごみや油などの石炭以外の可燃物の燃焼で生じた灰や未燃物などを含む煤塵を用いて農薬キャリアーを製造することもできる。ただし、ボトムアッシュクリンカーやその他の可燃物で生じた煤塵を用いて農薬キャリアーを製造する場合などにおいて、灰などの粒径が農薬キャリアーとして適切な粒径よりも大きなものであれば、分級処理工程の前や、分級処理部1のサイクロン17による分級の前に、粉砕機などを用いて石炭灰の粒径を細かくする工程を設ける必要がある。
【0054】
さらに、フライアッシュを用いて農薬キャリアーを製造する場合でも、適切な範囲の粒径が得にくい場合には、適切な範囲にない場合には分級処理工程の前や、分級処理部1のサイクロン17による分級の前に、粉砕機などを用いて石炭灰の粒径を細かくする工程を設けることができる。また、フライアッシュなどの粒径がほぼ適切な範囲にあるものが得られる場合には、分級処理部1及び分級処理工程を設けていない構成や方法にすることもできる。
【0055】
また、第1及び第2の実施形態では、分級処理部1、酸処理部3またはアルカリ処理部77、洗浄処理部5、そして加熱処理部7の順、分級処理工程、酸処理工程またはアルカリ処理工程、洗浄処理工程、そして加熱処理工程の順で処理を行うが、本発明はこのような順序に限らず、各処理部及び各処理工程の順序を入れ替えることもできる。しかし、酸処理またはアルカリ処理よりも加熱処理を先に行うと、石炭灰中の鉄分の酸化により石炭灰が着色する可能性が高まる。さらに、酸処理またはアルカリ処理及び洗浄処理よりも加熱処理を先に行うと、洗浄処理後にさらに乾燥工程を設ける必要が生じる。また、分級処理を、例えば加熱処理の後に行うと、農薬キャリアーとして不適切な粒径の石炭灰まで、酸処理またはアルカリ処理、洗浄処理、そして加熱処理することになり、ユーティリティの無駄になる。したがって、第1及び第2の実施形態のように、分級処理部1、酸処理部3またはアルカリ処理部77、洗浄処理部5、そして加熱処理部7の順、分級処理工程、酸処理工程またはアルカリ処理工程、洗浄処理工程、そして加熱処理工程の順で処理を行うが望ましい。
【0056】
また、第1及び第2の実施形態では、石炭灰を用いて農薬キャリアを製造する例を示したが、ごみなどの焼却灰を用いて同様に農薬キャリアーを製造することもできる。また、第1及び第2の実施形態において使用する酸またはアルカリの種類、濃度、使用量は、第1及び第2の実施形態において例示したものに限定されるものではなく、さらに、洗浄処理における中和用薬剤の使用の要否なども、製造する農薬キャリアーに求められる性質や農薬キャリアーを使用する農薬の薬効成分の違いなどの条件により様々に変更できる。
【0057】
また、第1及び第2の実施形態では、酸またはアルカリ処理により、鉄分とアルカリ土類金属類を除去しているが、使用する石炭灰や石炭以外のごみなどの燃焼で生じた焼却灰などによっては、鉄分とアルカリ土類金属類が非常に少ない場合も予想される。そのような場合には、酸やアルカリ溶液の代わりに水を用いて、アルカリ土類金属類のみ除去する方法、つまり、酸やアルカリ処理部をなくし、酸やアルカリ処理工程を行わず、洗浄処理部での洗浄処理工程において、水による洗浄処理のみを行う構成または方法とすることもできる。この場合、洗浄処理槽への中和用の薬剤の投入は必要ない。
【0058】
【実施例】
以下、本発明を適用した方法により実験的に石炭灰から農薬キャリアーを製造した結果について説明すると共に、各実施例で行った本発明を適用した農薬キャリアー製造方法について図3乃至図5を参照して説明する。図3乃至図5は、本発明を適用してなる農薬キャリアー製造方法のうち、各実施例に対応する方法を示すフロー図である。
【0059】
(実施例1)
実施例1では、最初に、石炭灰をボールミルで平均粒径40μm以下に微粉砕した後、この粉砕した石炭灰を磁性皿に入れ、マッフル炉で400℃〜800℃の各温度で4時間加熱処理した。表2に加熱温度と未燃カーボン含有量、白色度の関係を示す。
【0060】
【表2】
表2に示すように、加熱温度800℃では、石炭灰中の鉄分が酸化して茶色に着色してしまい、白色度が低下した。また、 加熱温度400℃では、未燃カーボンの燃焼が進行せず、石炭灰を白くすることはできなかった。したがって、加熱温度は、400℃より高く800℃未満の間が望ましく、特に、未燃カーボンの含有量や白色度の点から500℃以上600℃以下が望ましい。
【0061】
また、本実施例の実験と併せて、未燃カーボンの除去率に寄与するものと思われる加熱時間についても検討した。しかし、加熱時間は、加熱手段の違いや、灰の充填厚などさに依存するため、一概に決められないが、加熱時間は、30分以上必要である。マッフル炉を用いて1時間〜6時間で加熱時間に関して検討した結果では、加熱時間3時間以上5時間以下で十分に未燃カーボンを除去して白色化できることがわかった。
【0062】
また、本実施例の実験と併せて、加熱雰囲気についても検討したが、炉内では、未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量よりも酸素が過剰に吹き込まれた条件、すなわち酸素過剰条件よりも、空気の出入りの少ない密封条件または窒素などで置換した石炭灰中の未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量以下の酸素しか含まない条件の雰囲気中で行う方が白色度は増した。
【0063】
ここで、灰中の未燃カーボンが少量のHを含むCが主体であり、これらが完全燃焼すればCO2、H2Oが生成する。しかし、完全燃焼に必要な酸素量以下の酸素を含む雰囲気中で加熱すると、未燃カーボン中のC、Hから、部分酸化、ガス化反応により、CO、CH4、H2などが発生する。したがって、還元性のガスであるCO、H2などが、灰、特にその表面の酸化物を還元することにより白色度が改善したものと考えられる。このように、完全燃焼に必要な酸素量以下の酸素を含む雰囲気中では、未燃カーボンからの還元性のガスであるCO、H2の発生によって灰表面の鉄分などの還元反応が生じること、未燃カーボンの部分酸化により未燃カーボンが除去されることなどから、白色度は増したと考えられる。
【0064】
一方、酸素過剰条件では、燃焼による未燃カーボンの除去はできるが、余剰の酸素により鉄分などの酸化反応が生じるため、白色度の改善効果は低くなる。ただし、完全に酸素を遮断した雰囲気中では、未燃カーボンを除去できないため、やはり、白色度の改善効果は低い。したがって、加熱装置は、未燃カーボンを完全燃焼できる酸素量よりもやや少ない酸素量での加熱雰囲気を形成できる密閉型の炉などを有するものが望ましい。
【0065】
灰の充填厚さは、あまり厚くし過ぎると、石炭灰の加熱効率が悪くなり、余分な加熱時間を必要とするため望ましくない。灰の充填厚さは、石炭灰の処理量と加熱装置の仕様や能力などに応じて適宜変更が必要である。
【0066】
以上のように、加熱処理工程における加熱処理条件を検討したが、500℃以上600℃以下の加熱温度範囲でも白色度は66〜67%であり、表2に参考として示したクレーの83%を下回っていた。したがって、白色度の増加に関しては、単に加熱処理して未燃カーボンを除去するのみでは、必要な白色度には増加しなかった。
【0067】
そこで、600℃で加熱処理した石炭灰200gと5N(規定)の塩酸600mlを混合し、撹拌しながら、反応時間60分、反応温度80℃で、石炭灰中の鉄分やアルカリ土類金属類を溶出させる酸処理を行った後、これを固液分離した。固液分離後の石炭灰に、1000mlの水を加えて水洗し、さらに固液分離した。固形分を乾燥機で乾燥して、処理石炭灰を得た。このときの白色度と化学組成の変化を表3に示す。
【0068】
【表3】
未燃カーボン量は処理前の1.26%から0.1%に減少しており、Fe2O3は、3.9%から2.3%に減少した。それに伴い、白色度は処理前の56%から74%まで増加した。クレーの白色度83%と比べると若干低いが、単純に加熱処理処理した条件での最大値、すなわち600℃で加熱処理したときの白色度67%よりも高くなっており、加熱処理による未燃カーボンの除去加えて、酸処理による鉄分の除去により白色度が増したものと考えられる。
【0069】
反応時間、酸濃度を様々変えてもFe2O3除去率に大きな増減は見られなかった。Fe2O3含有量は依然、クレーと比べて高いが、これは石炭灰中に取り込まれている鉄分であると考えられる。農薬原体に悪影響を及ぼす怖れのある、石炭灰の表面に露出した鉄分は、本方法で実質的にほとんど除去できたものと考えられる。
【0070】
この実施例1で行った過程を製造工程としてまとめると、図3に示すように、600℃での加熱処理工程101、5Nの塩酸での酸処理工程102、洗浄処理工程103、そして乾燥工程104の順となる。
【0071】
(実施例2)
実施例2では、600℃で3時間〜5時間加熱処理を行った後、この加熱処理した石炭灰200gと2Nの水酸化ナトリウム水溶液600mlを入れ、撹拌しながら、反応時間5時間、反応温度100℃で反応させアルカリ処理を行い、この後固液分離した。固液分離後の固形分を乾燥機で乾燥して、処理石炭灰を得た。このときの、白色度と化学組成の変化を表4に示す。
【0072】
【表4】
未燃カーボン量は、処理前の1.26%から0.1%に減少しており、Fe2O3は、3.9%から2.7%に減少した。それに伴い、石炭灰の白色度は処理前の56%から79%まで増加した。アルカリ処理により、灰中のSiO2、Al2O3が一部溶出し、アルカリと反応してゼオライト状の物質ができるため、石炭灰の比表面積は処理前の3m2/gから、50m2/gに増大したことがわかった。このため、アルカリ処理した石炭灰では、農薬原体の吸着量が増大し、薬剤効果をより長く持続できるという利点も得られる。本実施例で得られた改質石炭灰の白色度は、クレーの白色度83%と比べても遜色なく、単純に加熱処理処理した条件での最大値、すなわち600℃で加熱処理したときの白色度67%よりも高くなっていた。なお、反応時間、アルカリ濃度を様々変えても同様の結果であった。
【0073】
この実施例2で行った過程を製造工程としてまとめると、図4に示すように、600℃での加熱処理工程201、2Nの水酸化ナトリウムでのアルカリ処理工程202、洗浄処理工程203、そして乾燥工程204の順となる。
【0074】
(実施例3)
実施例3では、最初に、ビーカに微粉砕した石炭灰200gと5Nの塩酸水溶液600mlを入れてスターラで撹拌しながら、反応時間60分、反応温度80℃で反応させて酸処理を行った後、これを固液分離した。固液分離後、固形分を水洗した後、磁性皿に入れ、マッフル炉で加熱温度600℃の設定で、3時間〜5時間加熱処理を行った。このときの白色度と化学組成の変化を表5に示す。
【0075】
【表5】
未燃カーボン量は処理前の1.26%から0.1%に減少し、Fe2O3は、3.9%から2.3%に減少した。それに伴い、石炭灰の白色度は、処理前の56%から74%まで増加した。この実施例3で行った過程を製造工程としてまとめると、図5に示すように、5Nの塩酸での酸処理工程301、洗浄処理工程302、600℃での加熱処理工程303の順となる。本実施例は、実施例1の各処理工程の順番を入れ替えると共に、乾燥工程を無くしたものであるが、実施例1と比べても、白色度、化学組成に大きな変化は見られず、処理工程の順序は入れ替えてもかまわないことが分かる。同様に、実施例2についても、各処理工程の順序は入れ替えることができる。
【0076】
なお、本実施例のような処理工程の順序において、洗浄処理工程の後に乾燥工程を入れてもかまわない。ただし、本実施例のような処理工程の順序であれば、酸またはアルカリ処理工程、洗浄処理工程から、乾燥せずに直接加熱処理を行うことが可能であり、乾燥工程を無くすことで製造方法の簡素化、また製造設備の簡略化などが可能である。
【0077】
【発明の効果】
本発明によれば、灰を利用した農薬キャリアーの白色度を増すことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を適用してなる農薬キャリアー製造装置の第1の実施形態における概略構成と動作を示すブロック図である。
【図2】本発明を適用してなる農薬キャリアー製造装置の第2の実施形態における概略構成と動作を示すブロック図である。
【図3】本発明を適用してなる農薬キャリアー製造方法のうち実施例1に対応する方法を示すフロー図である。
【図4】本発明を適用してなる農薬キャリアー製造方法のうち実施例2に対応する方法を示すフロー図である。
【図5】本発明を適用してなる農薬キャリアー製造方法のうち実施例3に対応する方法を示すフロー図である。
【符号の説明】
1 分級処理部
3 酸処理部
5 洗浄処理部
7 加熱処理部
17 サイクロン
33 酸処理槽
35、55 ろ過器
40 酸溶液
43 ヒーター
53 洗浄処理槽
65 加熱装置
67 冷却装置
Claims (6)
- 灰を400℃より高く800℃未満の温度で前記灰中の未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量よりも少ない酸素量で加熱する加熱処理工程と、灰を酸またはアルカリ溶液と混合して加温する化学処理工程と、該化学処理工程で処理された灰を洗浄液で洗浄する洗浄処理工程とを含む農薬キャリアー製造方法。
- 前記加熱処理工程を前記化学処理工程及び前記洗浄処理工程よりも後に行うことを特徴とする請求項1に記載の農薬キャリアー製造方法。
- 前記加熱処理工程及び前記化学処理工程よりも前に行い、前記灰中の鉄分を磁力により吸着して除去する磁選処理工程を含むことを特徴とする請求項1または2に記載の農薬キャリアー製造方法。
- 灰を400℃より高く800℃未満の温度で前記灰中の未燃カーボンの完全燃焼に必要な酸素量よりも少ない酸素量で加熱する炉を有する加熱装置を含む加熱処理部と、灰を酸またはアルカリ溶液と混合する化学処理槽を有する化学処理部と、該化学処理部で処理された灰を洗浄液で洗浄するための洗浄液槽を有する洗浄処理部とを備え、前記化学処理部は、前記化学処理槽内の酸またはアルカリ溶液と灰との混合物を加熱する加熱手段を有する農薬キャリアー製造装置。
- 前記加熱処理部は、前記洗浄処理部よりも後段に設置されていることを特徴とする請求項4に記載の農薬キャリアー製造装置。
- 前記加熱処理部及び前記化学処理部よりも前段に設置され、前記灰中の鉄分を磁力により吸着して除去する磁選装置を含む磁選処理部を備えたことを特徴とする請求項4または5に記載の農薬キャリアー製造装置。
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