本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1乃至図21はSrTiO3と光学ガラス(S−TIH53)の組合せに係る実施例であって、図1は実施例の単層の反射防止膜を有する複合型エタロン素子の断面説明図、図2は実施例の単層の反射防止膜の分光反射率特性を表すグラフ、図3は図2の拡大図、図4は別実施例の単層の反射防止膜の分光反射率特性を表すグラフである。図5,図7はそれぞれ実施例の2層,3層の反射防止膜を有する複合型エタロン素子の断面説明図、図6,図8はそれぞれ実施例の2層,3層の反射防止膜の分光反射率特性を表すグラフである。
図9乃至図18は高反射膜の反射率を変えて設定した場合の例であり、図9,図11,図13,図15,図17は実施例の複合型エタロン素子の分光透過率特性を表すグラフ、図10,図12,図14,図16,図18は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフである。
図19は実施例の反射防止膜の反射率を異ならせた場合の分光透過率特性を表すグラフ、図20は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフ、図21は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成した場合及び形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフである。
図22乃至図32はSrTiO3と石英の組合せに係る実施例であって、図22は単層の反射防止膜、図23は2層の反射防止膜、図24は3層の反射防止膜の実施例の分光反射率特性を表すグラフである。図25乃至図32は高反射膜の反射率を変えて設定した場合の例であり、図25,図27,図29,図31は実施例の複合型エタロン素子の分光透過率特性を表すグラフ、図26,図28,図30,図32は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフである。
図33乃至図44はLiCAFと光学ガラス(S−BAH32)の組合せに係る実施例であって、図33は単層の反射防止膜、図34は2層の反射防止膜、図35は3層の反射防止膜の実施例の分光反射率特性を表すグラフである。図36乃至図39,図41及び図42は高反射膜の反射率を変えて設定した場合の例であり、図36,図38,図41は実施例の複合型エタロン素子の分光透過率特性を表すグラフ、図37,図39,図42は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフである。
図40は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成した場合及び形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフ、図43は実施例の反射防止膜の反射率を異ならせた場合の分光透過率特性を表すグラフ、図44は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフである。
図45乃至図50はLiCAFと光学ガラス(S−FSL5)の組合せに係る実施例であって、図45は単層の反射防止膜の実施例の分光反射率特性を表すグラフである。図46乃至図49は高反射膜の反射率を変えて設定した場合の例であり、図46,図48は実施例の複合型エタロン素子の分光透過率特性を表すグラフ、図47,図49は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフである。図40は実施例の複合型エタロン素子において反射防止膜を形成した場合及び形成しない場合の分光透過率特性を表すグラフである。
図51乃至図54は実施例の複合型エタロン素子の温度特性を表すグラフ、図55はレーザ装置の構成図である。なお、以下に説明する構成等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
本発明の複合型エタロン素子1は、光通信用波長選択フィルタとしてのエタロン光学フィルタである。複合型エタロン素子1は、透明体2の平行な両側面に形成された反射膜によって透明体2内部に入射した光線を多重反射させるものでありファブリペロー型光学素子である。そして本発明の複合型エタロン素子1は、波長(周波数)及び温度によらず安定した光学特性(分光透過率特性)を備えていることを特徴としている。先ず、本発明の複合型エタロン素子1が、波長(周波数)によらず安定した光学特性(分光透過率特性)を備えることについて説明する。
○実施例1(SrTiO3と光学ガラスの組合せ)
図1に示すように複合型エタロン素子1の透明体2は、透明体薄板10,20及びAR膜(反射防止膜)40が積層して配置されて構成されている。透明体薄板10,20はAR膜(反射防止膜)40を介して積層され密着して配設され、透明体薄板10,20の外側側面(それぞれ入射面及び出射面)にはHR膜(高反射膜)31,32が配設された構成となっている。本実施例の透明体薄板10,20は、それぞれ光学結晶であるSrTiO3,光学ガラスであるS−TIH53(株式会社オハラ製光学ガラス)から構成されている。
SrTiO3の屈折率n1は2.279、S−TIH53の屈折率n2は1.800であり、透明体薄板10の厚さD1は292.27μm,透明体薄板20の厚さD2は443.91μmに形成されている。したがって、複合型エタロン素子1全体の厚さは約0.736mmとなる。なお、本実施例の複合型エタロン素子1は、厚さD1とD2が後述する温度特性を考慮した設定とはなっていない。また、本発明において厚さとは、入射面から出射面へ向かう方向の材料の厚さを指すものとする。
透明体薄板10,20の接合面は、面精度を極めて高精度に磨りあわせ研磨してオプティカルフラットが形成されている。そして、AR膜40は透明体薄板10又は20の接合面に例えば真空蒸着法,スパッタリング法,イオンアシスト蒸着法,イオンプレーティング法等により所定厚さとなるように積層されて形成されている。
そして、透明体薄板10,20は、AR膜40を挟んで有機物質等による接着方法ではなく、接着界面には何も使わない光学密着にて一体に連結されている。これにより、接着界面を通過する光線が、接着界面により減衰,反射することを低減することができる。
AR膜40は、透明体薄板10と透明体薄板20との接合界面での反射をさらに低減するために設けられている。図2は、透明体薄板10,20としてそれぞれSrTiO3,S−TIH53を選択した場合のAR膜40の反射率特性(図中線a)及びAR膜40を形成しない場合の反射率特性(図中線b)を示している。AR40膜は、屈折率nが2.025の光学材料を用いて、その光学膜厚が0.25λ(λ=1550nm)となるように単層膜に形成されている。また、図3に図2の縦軸(反射率)を拡大した図を示す。
このようにAR膜40を形成することにより、中心波長1550nmにおいて反射率をほぼ零%とすることができる(図中線a参照)。また、波長1550nmを中心として、光ファイバ通信で用いられるS,C及びLバンド(1460nm〜1625nm)において反射率を0.02%以下の極めて低いレベルに抑えることができる。また、製造誤差を考慮しても、少なくとも反射率を0.3%以下に抑えることができる。なお、界面にAR膜40を設けない場合は、反射率が1.38%程度と大きくなる(図中線b参照)。
また、図4にAR膜40の材料として、屈折率nが2.025の材料以外に、屈折率nが1.900,1.950,2.100,2.150の材料を用いた場合の反射率特性を示す。なお、それぞれの厚さdは、nd=0.25λを満たすように設定されている。図中、線aは屈折率nが2.025,線bは屈折率nが1.950,線cは屈折率nが1.900,線dは屈折率nが2.100,線eは屈折率nが2.150の場合の反射率の変化を表わす。
このように、AR膜40に用いる材料としては、屈折率nが2.025の材料を用いるのが最も望ましいが、屈折率nが2.025近辺であれば波長1550nmを中心として1460nm〜1625nmの波長範囲において反射率を0.3%以下に抑えることが可能である。このような光学材料として、例えばTa2O5,HfO2等を用いることができる。
また、図2乃至図4ではAR膜40を単層膜とした例を示したが、これに限らず、AR膜40を2層以上で形成してもよい。図5はAR膜40を2層膜に形成した場合の複合型エタロン素子1の断面説明図である。図5のAR膜40は、屈折率na(na=1.45),屈折率nb(nb=2.10)の材料をそれぞれ積層して形成した膜40a,40bからなる2層膜である。膜40aは厚さdaがnada=0.025λとなるように形成されており、膜40bは厚さdbがnbdb=0.155λとなるように形成されている。
このように構成されたAR膜40の反射率特性を図6に示す。図6に示すように、反射率特性は中心波長1550nmではほぼ零%であり、1460nm〜1625nm程度の波長範囲において0.02%以下の反射率に抑えられている。したがって、製造誤差を考慮しても1460nm〜1625nmの波長範囲において反射率を0.3%以下に抑えることが可能である。
また、図7はAR膜40を3層で形成した場合の複合型エタロン素子1の断面説明図である。図7のAR膜40は、屈折率na(na=1.45),屈折率nb(nb=2.10),屈折率nc(nc=1.70)の材料をそれぞれ積層して形成した膜40a,40b,40cからなる3層膜である。膜40a,40b,40cはそれぞれ厚さda,db,dcがnada=0.025λ,nbdb=0.155λ,ncdc=0.50λとなるように形成されている。
このように構成されたAR膜40の反射率特性を図8に示す。図8に示すように、反射率特性は中心波長1550nmではほぼ零%であり、1460nm〜1625nm程度の波長範囲においても反射率をほぼ零に抑えることができる。したがって、製造誤差を考慮しても1460nm〜1625nmの波長範囲において反射率を0.3%以下に抑えることが可能である。
以上のように、AR膜40を単層又は複数層に形成することにより、波長1550nmを中心として、広い波長範囲において低い反射率を達成することができる。そして、少なくとも1460nm〜1625nm程度の波長範囲において0.3%以下の反射率に抑えることができる。なお、上記実施例ではAR膜40として単層,2層又は3層膜構成の例を示したが、これに限らず、4層膜構成以上としてもよい。
また、HR膜31,32は、それぞれ透明体薄板10,20の外側側面に真空蒸着法等により積層されて形成されている。本実施例の複合型エタロン素子1はそれぞれ異なる材料からなる透明体薄板10,20を貼り合わせて構成されているので、HR膜31,32を同じ膜構成とするとそれぞれの側面において反射率が異なってしまう。そこで、本実施例の複合型エタロン素子1では、HR膜31,32を異なる膜構成に形成し、それぞれの側面における反射率を合わせている。
次に、図9に図1の構成における複合型エタロン素子1の光学特性(分光透過率特性)を示す。なお、HR膜31,32はともに反射率を約5%に設定している。また、AR膜40は,図2で示した単層膜を用いている。図9から明らかなように、接合界面にAR膜40を介在させた場合には複合型エタロン素子1の光学特性として、波長に比例し略一定の周期を保ち、且つ極大値及び極小値が揃った規則的な分光透過波形を得ることができる。また、極大値は略100%に揃い、損失が少ない複合型エタロン素子1を得ることができる。
一方、図10に図1の複合型エタロン素子1において、AR膜40を介在させなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。なお、HR膜31,32は同様に反射率を約5%に揃えている。図10から明らかなように、接合界面の反射が約1.38%と大きい場合はファブリペローの原理から光学特性の変化が不規則な周期となることが分かる。すなわち、図10においては、AR膜40がないことにより接合界面において反射が生じ、この反射によって光学特性の変化が乱される。このため、光学特性の変化は一定の周期性を有さず、また、極大値及び極小値が不揃いとなり複合型エタロン素子1には損失が発生する。
このように、本実施例の複合型エタロン素子1では透明体薄板10と透明体薄板20との間にAR膜40を介在させて接合界面での反射を低減したことにより、波長に比例し略一定の周期を有する光学特性を得ることが可能となると共に、損失を低減することが可能となった。
また、図11に図1の複合型エタロン素子1において、HR膜31,32の反射率を約18%に設定した場合の光学特性を示す。また、AR膜40は,図2で示した単層膜を用いている。このように、側面の反射率を約18%とした複合型エタロン素子1の場合でも、規則的且つ極大値及び極小値が揃った高品質の光学特性を得ることができる。
一方、図12に図1の複合型エタロン素子1において、HR膜31,32の反射率を約18%に設定し、且つAR膜40を介在させなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。図12から明らかなように、界面の反射が大きい場合は光学特性の変化が不規則な周期となり、また、極大値及び極小値が不揃いとなり損失が発生する。
また、同様に図13に図1の複合型エタロン素子1において、HR膜31,32の反射率を約36%に設定した場合の光学特性を示す。また、AR膜40は,図2で示した単層膜を用いている。このように、側面の反射率を約36%とした複合型エタロン素子1の場合でも、規則的且つ極大値及び極小値が揃った高品質の光学特性を得ることができる。
一方、図14に図1の複合型エタロン素子1において、HR膜31,32の反射率を約36%に設定し、且つAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。図14から明らかなように、界面の反射が大きい場合は光学特性の変化が不規則な周期となり、また、極大値及び極小値が不揃いとなり損失が発生する。
さらに、図15に図1の複合型エタロン素子1において、HR膜31,32の反射率を約79%に設定した場合の光学特性を示す。また、AR膜40は,図2で示した単層膜を用いている。このように、側面の反射率を約79%とした複合型エタロン素子1の場合でも、規則的且つ極大値及び極小値が揃った高品質な光学特性を得ることができる。
一方、図16に図1の複合型エタロン素子1において、HR膜31,32の反射率を約79%に設定し、且つAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。図16を一見するとHR膜31,32の反射率が大きくなると、接合界面におけるAR膜40の反射防止効果が複合型エタロン素子1の光学特性に及ぼす影響が小さくなるように見える。しかし、極大値が不揃いとなり、且つ極大値をとる波長の周期性が一定でないことは、図16から明らかである。
また、図17に図1の複合型エタロン素子1においてHR膜31,32を形成しない場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。また、AR膜40は,図2で示した単層膜を用いている。図17から分かるようにHR膜31,32を形成しない場合は、光学特性の変化は略一定の規則性を有する正弦波に近いものとなり、極大値及び極小値が略揃ったものとなる。しかし、すべての極大値における透過率が100%とはならないため、複合型エタロン素子1を通過する光線には数パーセントの損失が生じる。
一方、図18に図1の複合型エタロン素子1においてHR膜31,32を形成せず、且つAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。図18から分かるように、界面の反射が大きい場合は光学特性の変化が不規則な周期となり、また、極大値及び極小値が不揃いとなり損失が発生する。
以上のように、接合界面におけるAR膜40の反射防止効果はHR膜31,32の反射率の大小にかかわりなく、複合型エタロン素子1の光学特性の変化の周期性及び極大値をとる波長の間隔の一定性を確保するのに極めて有効であることが分かる。
次に、図19に図1の複合型エタロン素子1においてAR膜40の反射率を約0.01%,約0.35%とした場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。なお、HR膜31,32の反射率は、約5%に設定している。また、横軸(波長)は1548nm〜1552nmの範囲、縦軸(透過率)は50%〜100%の範囲を示している。図中、線a,bはそれぞれAR膜40の反射率を約0.01%,約0.35%に設定した場合の光学特性の変化を表わす。また、図20に図1の複合型エタロン素子1においてAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。なお、HR膜31,32の反射率は、図19と同様に約5%に設定している。
図19及び図20から接合界面における反射率が大きくなると、複合型エタロン素子1の光学特性(分光透過率)の変化における透過光量の周期が乱れ、極大値をとる波長の間隔が一定とならないことが分かる。したがって、AR膜40の反射率を低く抑えることが複合型エタロン素子1の光学特性の変化の周期性を確保するのに有効である。
接合界面の反射率の大きさが、極大値をとる波長の間隔の周期性に影響を及ぼすことを図21で説明する。図21は図1の複合型エタロン素子1のHR膜31,32の反射率を約79%とした場合において、AR膜40として図2で示した単層膜を用いたときの光学特性の変化(線a)とAR膜40が形成されなかったときの光学特性の変化(線b)を示す。
図中、Wa1乃至Wa4は線aの極大値をとる波長の間隔、Wb1乃至Wb3は線bの極大値をとる波長の間隔を表わしている。Wa1乃至Wa4は、略0.819nmの値をとり、極大値の間隔は略一定に保たれている。また、Wb1乃至Wb3はそれぞれ0.870nm,0.758nm,0.881nmの値をとり、極大値の間隔が一定となっていない。これは接合界面のAR膜40の有無によりファブリペローの共振長が変わり、極大値間の間隔が一定に保たれず変化するからと考えられる。
このように、本実施例の複合型エタロン素子1では、透明体薄板10と透明体薄板20との間にAR膜40を設けることにより、複合型エタロン素子1の透過率特性において透過率の極大値をとる波長の間隔を一定に保ち、周期的な変化となる光学特性を得られることから、波長(周波数)によらず一定の品質を確保することができる。
○実施例2(SrTiO3と光学ガラスの組合せ)
次に、透明体薄板10として光学結晶であるSrTiO3、透明体薄板20として一般的光学材料である石英を用いた場合の複合型エタロン素子1について説明する。石英の屈折率は1.444である。本実施例の複合型エタロン素子1は、透明体薄板10の厚さD1が292.27μm,透明体薄板20の厚さD2が553.35μmに形成されている。なお、本実施例の複合型エタロン素子1は、厚さD1とD2が後述する温度特性を考慮した設定とはなっていない。また、本実施例の複合型エタロン素子1もFSRが100GHzに設定されている。
図22は、透明体薄板10,20としてそれぞれSrTiO3,石英を選択したときの、AR膜40の反射率特性を表わす。AR膜40は、屈折率nが1.81の光学材料を用いてその光学膜厚が0.25λ(λ=1550nm)となるように単層膜に形成されている。このように単層膜を形成することにより、中心波長1550nmにおいて反射率をほぼ零%とすることができる。また、波長1550nmを中心として、1460nm〜1625nm程度の波長範囲において反射率を0.05%以下に抑えることができる。
また、図23に図5と同様にAR膜40を2層膜構成とした場合のAR膜40の反射率特性を示す。なお、AR膜40は、屈折率1.45と屈折率2.10の光学材料を用いてそれぞれの光学材料の厚さと屈折率の積が0.071λ,0.103λ(λはいずれも1550nm)となるように積層して形成されている。このように2層膜を形成することにより、中心波長1550nmにおいて反射率をほぼ零%とすることができる。また、波長1550nmを中心として、1460nm〜1625nm程度の波長範囲において反射率を0.08%以下に抑えることができる。
また、図24に図7と同様にAR膜40を3層膜構成とした場合のAR膜40の反射率特性を示す。なお、AR膜40は、屈折率1.45,屈折率2.10,屈折率1.38の光学材料を用いてそれぞれの光学材料の厚さと屈折率の積が0.071λ,0.103λ,0.50λ(λはいずれも1550nm)となるように積層して形成されている。このように3層膜を形成することにより、中心波長1550nmにおいて反射率をほぼ零%とすることができる。また、波長1550nmを中心として、1460nm〜1625nm程度の波長範囲において反射率を0.03%以下に抑えることができる。
次に、図25に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用いた場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。なお、HR膜31,32はともに反射率を約5%に設定している。また、AR膜40は,図22で示した単層膜を用いている。図25から明らかなように、接合界面にAR膜40を介在させた場合には複合型エタロン素子1の光学特性として、波長に比例し略一定の周期を保ち、且つ極大値及び極小値が揃った規則的な分光透過波形を得ることができる。また、極大値は略100%に揃い、損失が少ない複合型エタロン素子1を得ることができる。
一方、図26に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用い、且つAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。なお、HR膜31,32は同様に反射率を約5%に揃えている。図26から明らかなように、光学特性の変化は不規則な周期となる。すなわち、図26においては、光学特性の変化が一定の周期性を有しておらず、また、極大値及び極小値が不揃いとなり損失が発生する。
このように、本実施例の複合型エタロン素子1においても透明体薄板10と透明体薄板20との間にAR膜40を介在させて接合界面での反射を低減することにより、波長に比例し略一定の周期を有する光学特性を得ることが可能となると共に、損失を低減することが可能となる。
また、図27に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用いた場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。HR膜31,32の反射率は約18%に設定されている。また、AR膜40は,図22で示した単層膜を用いている。このように、側面の反射率を約18%とした複合型エタロン素子1の場合でも、規則的且つ極大値及び極小値が揃った高品質の光学特性を得ることができる。
一方、図28に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用い、且つAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。HR膜31,32の反射率は約18%に設定されている。図28から明らかなように、界面の反射が大きい場合は光学特性の変化が不規則な周期となり、また、極大値及び極小値が不揃いとなり損失が発生する。
また、同様に図29に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用いた場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。HR膜31,32の反射率は約36%に設定されている。また、AR膜40は,図22で示した単層膜を用いている。このように、側面の反射率を約36%とした複合型エタロン素子1の場合でも、規則的且つ極大値及び極小値が揃った高品質の光学特性を得ることができる。
一方、図30に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用い、且つAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。HR膜31,32の反射率は約36%に設定されている。図30から明らかなように、界面の反射が大きい場合は光学特性の変化が不規則な周期となり、また、極大値及び極小値が不揃いとなり損失が発生する。
さらに、図31に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用いた場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。HR膜31,32の反射率は約79%に設定されている。また、AR膜40は,図22で示した単層膜を用いている。このように、側面の反射率を約79%とした複合型エタロン素子1の場合でも、規則的且つ極大値及び極小値が揃った高品質の光学特性を得ることができる。
一方、図32に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用い、且つAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。HR膜31,32の反射率は約79%に設定されている。図32から側面の反射率を約79%とした複合型エタロン素子1の場合でも、極大値が不揃いとなり、且つ極大値をとる波長の周期性が一定とならないことが分かる。
このように、透明体薄板10,20にそれぞれSrTiO3,石英を用いて複合型エタロン素子1を構成した場合であっても、接合界面におけるAR膜40の反射防止効果はHR膜31,32の反射率の大小にかかわりなく、複合型エタロン素子1の光学特性の周期性及び極大値の一定性を確保するのに極めて有効であることが分かる。
○実施例3(LiCaAlF6と光学ガラスの組合せ)
次に、透明体薄板10として光学結晶であるLiCaAlF6(以下、「LiCAF」と表記する)、透明体薄板20として光学ガラスであるS−BAH32(株式会社オハラ製光学ガラス)を用いた場合の複合型エタロン素子1について説明する。LiCAF,S−BAH32の屈折率はそれぞれ1.386,1.644である。本実施例の複合型エタロン素子1は、透明体薄板10の厚さD1が869.15μm,透明体薄板20の厚さD2が172.96μmに形成されている。なお、本実施例の複合型エタロン素子1は、厚さD1とD2が後述する温度特性を考慮した設定とはなっていない。また、本実施例の複合型エタロン素子1もFSRが100GHzに設定されている。
図33は、透明体薄板10,20としてそれぞれLiCAF,S−BAH32を選択したときの、AR膜40の反射率特性を表わす。AR膜40は、屈折率nが1.51の光学材料を用いてその光学膜厚が0.25λ(λ=1550nm)となるように単層膜に形成されている。このように単層膜を形成することにより、中心波長1550nmにおいて反射率をほぼ零%とすることができる。また、波長1550nmを中心として、1460nm〜1625nm程度の波長範囲において反射率を0.01%以下に抑えることができる。なお、AR膜40がない場合には、0.73%程度の反射が生じる。
また、図34に図5と同様にAR膜40を2層膜構成とした場合のAR膜40の反射率特性を示す。なお、AR膜40は、屈折率2.10と屈折率1.45の光学材料を用いてそれぞれの光学材料の厚さと屈折率の積が0.025λ,0.135λ(λはいずれも1550nm)となるように積層して形成されている。このように2層膜を形成することにより、中心波長1550nmにおいて反射率をほぼ零%とすることができる。また、波長1550nmを中心として、1460nm〜1625nm程度の波長範囲において反射率を0.01%以下に抑えることができる。
また、図35に図7と同様にAR膜40を3層膜構成とした場合のAR膜40の反射率特性を示す。なお、AR膜40は、屈折率2.10,屈折率1.45,屈折率1.70の光学材料を用いてそれぞれの光学材料の厚さと屈折率の積が0.025λ,0.135λ,0.50λ(λはいずれも1550nm)となるように積層して形成されている。このように3層膜を形成することにより、中心波長1550nmにおいて反射率をほぼ零%とすることができる。また、波長1550nmを中心として、1460nm〜1625nm程度の波長範囲において反射率を0.01%以下に抑えることができる。
次に、図36に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれLiCAF,S−BAH32を用いた場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。AR膜40は,図33で示した単層膜を用いている。一方、図37にAR膜40を形成しなかった場合の光学特性を示す。なお、HR膜31,32は共に反射率を約5%に設定している。図36及び図37から分かるように、接合界面にAR膜40を介在させた場合には複合型エタロン素子1の光学特性として、波長に比例し略一定の周期を保ち、且つ極大値及び極小値が揃った規則的な分光透過波形を得ることができる。また、極大値は略100%に揃い、損失が少ない複合型エタロン素子1を得ることができる。しかし、接合界面にAR膜40を介在させなかった場合には、光学特性の変化が一定の周期性を有さず、極大値及び極小値が不揃いとなり損失が発生するものとなる。
このように、本実施例の複合型エタロン素子1においても透明体薄板10と透明体薄板20との間にAR膜40を介在させて接合界面での反射を低減することにより、波長に比例し略一定の周期を有する光学特性を得ることが可能となると共に、損失を低減することが可能となる。
また、図38に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれLiCAF,S−BAH32を用い、HR膜31,32の反射率を約80%に設定した場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。AR膜40は,図33で示した単層膜を用いている。一方、図39にAR膜40を形成しなかった場合の光学特性を示す。HR膜31,32の反射率は図38と同様に約80%に設定されている。図40は、図38及び図39の光学特性曲線(それぞれ線a,線b)を波長1548nmから1552nmにおいて表示したものである。
図38及び図39から分かるように、側面の反射率を約80%とした複合型エタロン素子1の場合、規則的且つ極大値及び極小値が揃った高品質の光学特性を得ることができる。また、界面の反射が大きい場合にも一見して変化が規則な周期であって、極大値及び極小値も揃ったような光学特性に見える。
しかし、より詳細には、図40からWa1乃至Wa4は、略0.806nmの値をとり、極大値の間隔は略一定に保たれているが、Wb1乃至Wb4はそれぞれ0.818nm,0.831nm,0.805nm,0.781nmの値をとり、極大値の間隔が一定となっていない。
また、図41に図1の複合型エタロン素子1においてHR膜31,32を形成しない場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。また、AR膜40は,図33で示した単層膜を用いている。一方、図42にHR膜31,32を形成せず、且つAR膜40を形成しなかった場合の光学特性を示す。図41及び図42から分かるように、HR膜31,32を形成しない場合は、光学特性の変化は略一定の規則性を有する正弦波に近いものとなり、極大値及び極小値が略揃ったものとなる。しかし、すべての極大値における透過率が100%とはならないため、複合型エタロン素子1を通過する光線には数パーセントの損失が生じる。また、界面の反射が大きい場合は、光学特性の変化が不規則な周期となり、さらに極大値及び極小値が不揃いとなり損失が発生する。
次に、図43に図1の複合型エタロン素子1においてAR膜40の反射率を約0.01%,約0.29%とした場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。なお、HR膜31,32の反射率は、約5%に設定している。図中、線a,bはそれぞれAR膜40の反射率を約0.01%,約0.29%に設定した場合の光学特性の変化を表わす。また、図44に図1の複合型エタロン素子1においてAR膜40を形成しなかった場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。なお、HR膜31,32の反射率は、図43と同様に約5%に設定している。
図43では線bは線aからわずかにずれたものとなっている。すなわち、図43及び図44から接合界面における反射率が大きくなると、光学特性(分光透過率)の変化における透過光量の周期が乱れ、極大値をとる波長の間隔が一定とならないことが分かる。したがって、AR膜40の反射率を低く抑えることが複合型エタロン素子1の光学特性の変化の周期性を確保するのに有効である。
以上のように、透明体薄板10,20にそれぞれLiCAF,S−BAH32を用いて複合型エタロン素子1を構成した場合であっても、接合界面におけるAR膜40の反射防止効果はHR膜31,32の反射率の大小にかかわりなく、複合型エタロン素子1の光学特性の周期性及び極大値の一定性を確保するのに極めて有効であることが分かる。
○実施例4(LiCaAlF6と光学ガラスの組合せ)
透明体薄板10としてLiCAF、透明体薄板20として光学ガラスであるS−FSL5(株式会社オハラ製光学ガラス)を用いた場合の複合型エタロン素子1について説明する。S−FSL5の屈折率は1.473である。本例は、LiCAF(屈折率n=1.386)と屈折率が近い材料との組合せ例である。すなわち、上述の実施例(S−BAH32との組合せ)では屈折率nが1.644であったが、本例(S−FSL5との組合せ)では屈折率nが1.473であり、屈折率の差が0.087となっている。また、他の実施例と比べても透明体薄板10と透明体薄板20の材料の屈折率が近い値となっている。
本実施例の複合型エタロン素子1は、透明体薄板10の厚さD1が863.44μm,透明体薄板20の厚さD2が198.59μmに形成されている。なお、本実施例の複合型エタロン素子1は、厚さD1とD2が後述する温度特性を考慮した設定とはなっていない。また、本実施例の複合型エタロン素子1もFSRが100GHzに設定されている。
図45は、透明体薄板10,20としてそれぞれLiCAF,S−FSL5を選択したときの、AR膜40の反射率特性(図中線a)及びAR膜40を形成しない場合の反射率特性(図中線b)を示している。AR膜40は、屈折率nが1.43の光学材料を用いてその光学膜厚が0.25λ(λ=1550nm)となるように単層膜に形成されている。このように単層膜を形成することにより、中心波長1550nmにおいて反射率をほぼ零%とすることができる(図中線a参照)。また、波長1550nmを中心として、1460nm〜1625nm程度の波長範囲において反射率を0.01%以下に抑えることができる。なお、図45に示すように、AR膜40がない場合であっても、反射率は0.09%程度と低い値となっている(図中線b参照)。
次に、図46に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれLiCAF,S−FSL5を用いた場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。AR膜40は,図45で示した単層膜を用いている。一方、図47にAR膜40を形成しなかった場合の光学特性を示す。なお、HR膜31,32は共に反射率を約5%に設定している。図46及び図47から分かるように、接合界面にAR膜40を介在させた場合には複合型エタロン素子1の光学特性として、波長に比例し略一定の周期を保ち、且つ極大値及び極小値が揃った規則的な分光透過波形を得ることができる。また、極大値は略100%に揃い、損失が少ない複合型エタロン素子1を得ることができる。しかし、接合界面にAR膜40を介在させなかった場合には、図45で示したように界面の反射率が0.09%程度と小さくても、光学特性の変化が一定波形を有さず、極大値は略100%に揃うものの極小値は一定値をとらない。
また、図48に図1の構成において透明体薄板10,20にそれぞれLiCAF,S−FSL5を用い、HR膜31,32の反射率を約80%に設定した場合の複合型エタロン素子1の光学特性を示す。AR膜40は,図45で示した単層膜を用いている。一方、図49にAR膜40を形成しなかった場合の光学特性を示す。HR膜31,32の反射率は図48の場合と同様に約80%に設定されている。図50は、図48及び図49の光学特性曲線(それぞれ線a,線b)を波長1548nmから1552nmにおいて表示したものである。
図48及び図49から分かるように、側面の反射率を約80%とした複合型エタロン素子1の場合でも、規則的且つ極大値及び極小値が揃った高品質の光学特性を得ることができる。また、AR膜40を形成しなかった場合であっても光学特性の変化の波形が略一定となると共に、略周期的なものとなる。
より詳細には、図50からWa1乃至Wa4は、略0.806nmの値をとり、極大値の間隔は略一定に保たれている。また、Wb1乃至Wb4はそれぞれ0.808nm,0.801nm,0.801nm,0.805nmの値をとり、極大値の間隔がわずかなばらつきはあるものの略一定となっている。このように、本実施例では、AR膜40を介在させなかった場合に、少なくとも極大値をとる波長は略一定の周期性を保持したものとなる。
透明体薄板10,20にそれぞれLiCAF,S−FSL5を用いて複合型エタロン素子1を構成した場合、LiCAFとS−FSL5との屈折率の値が近いことにより、接合界面での反射率が0.09%程度と小さくなっている。このため、AR膜40が形成されていない場合でも、光学特性の周期性及び極大値の一定性を確保することができる。したがって、このように接合界面での反射の程度が小さくなるように屈折率の値が近い透明体薄板10,20を選択すれば、AR膜40は必ずしも必要がない。このようにすれば、SR膜40を形成する工程を省略することができ、複合型エタロン素子1の製造コストを低減することが可能となる。
AR膜40を形成しない場合、接合界面での反射率を0.3%以下に抑えることが実用上望ましい。このためには、屈折率の差が0.160以下であればよい。すなわち、透明体薄板10としてLiCAFを選択した場合、透明体薄板20として選択する材料は、屈折率が1.226から1.546の範囲のものを選択すればよい。例えば、石英、S−FPL51、S−FPL52、S−FPL53、水晶等を選択することができる。なお、本実施例では透明体薄板10としてLiCAFを選択した場合を説明したが、これに限らず、透明体薄板10としてSrTiO3やTiO2を選択し、且つ、屈折率の差が0.160以下となるような透明体薄板20をこれらに合わせて選択してもよい。
以上、実施例1〜4で示したように、本発明の複合型エタロン素子1は、透明体薄板10,20がAR膜40を介して貼り合わされた構成となっており、AR膜40によって複合型エタロン素子1内部に入射した光線の接合界面での反射が低減されている。このように接合界面での反射を低く抑えることにより、複合型エタロン素子1の分光透過率の変化を周期的なものとすることができる。これにより、分光透過率の変化の極大値及び極小値を略一定の値に揃えることができると共に、極大値をとる波長の間隔も略一定とすることができる。したがって、本発明の複合型エタロン素子1は、波長(周波数)によらず安定した光学特性を備えることができる。
次に、本発明の複合型エタロン素子1が、温度によらず安定した光学特性(分光透過率特性)を備えることについて説明する。光学材料の厚さがD、その材料の屈折率がnであるとき光学距離D0はnDで表わされる。そして、温度変化が生じた場合の光学距離D0の変化は次の導関数で表わされる。
ここで、線膨張係数αを1/D・dD/dtとすれば、式(1)は、
となる。
式(2)のうち(α+1/n・dn/dt)を光学材料の特性指数と定義する。そして、この特性指数が正の係数である場合は、光学材料は温度が上昇すると光学距離D0が増加するものとなる。また、逆に特性指数が負の係数である場合は、光学材料は温度が上昇すると光学距離D0が減少するものとなる。
本実施例の複合型エタロン素子1は2種類の光学材料を貼り合わせているから、これらの厚さをD1,D2、屈折率をn1,n2とすれば、複合型エタロン素子1の光学距離D0はn1D1とn2D2との和で与えられる。そして、複合型エタロン素子1の光学距離D0の温度変化は次の式で表わされる。
したがって、複合型エタロン素子1が温度によらず一定の光学距離を保持するためには、dD0/dtが零と近似できればよい。したがって、このためには式(3)からD2はD1と以下の関係にあればよい。
なお、(α1+1/n1・dn1/dt)及び(α2+1/n2・dn2/dt)に相当する係数は、それぞれの材料の特性指数である。式(4)から分かるように一方の光学材料の特性指数と他方の光学材料の特性指数の値の符号が異なれば、厚さD1及びD2を適正な厚さの比に設定することにより、複合型エタロン素子1は、その光学距離D0が温度に依存せず一定値が保持される。
光学材料として、正の特性指数を有する実用的な材料が多数あることは一般に知られているが、負の特性指数を有する実用的な材料は一般に知られていなかった。しかし、本発明者等は、負の特性指数を有する実用的な材料として、光学結晶のSrTiO3、TiO2(ルチル型)があることを見出した。SrTiO3は等方性であり、屈折率は2.279,特性指数は−10.516×10−6である。また、TiO2は正方晶系であり、c軸方向の屈折率は2.453,特性指数は−15.807×10−6である。
表1に複合型エタロン素子1を構成する光学材料の組合せの例と、これら材料の屈性率,特性指数及び式(4)に基づいて求められたこれらの光学材料の厚さ比を示す。表1に示す負の特性指数を有する材料(表1の材料1、本発明の負の係数を有する材料)は、上記SrTiO3,TiO2(ルチル型),LiCAFであり、表1ではこれらに対して正の特性指数を有する材料(表1の材料2、本発明の正の係数を有する材料)を組み合わせた例を示している。
表1中、S−TIH53,S−LAH58,S−NSL3,S−FSL5、S−FTM16,S−FPL51,S−FPL52,S−FPL53,S−BAH11,S−BAH12,S−BAH32は、株式会社オハラ製光学ガラスである。なお、TiO2,水晶は、c軸方向に光線を入射するように設定されている。
例えば、S−TIH53,S−LAH58は高屈折材料であり、複合型エタロン素子1の全体の厚さを小さく構成することができる例である。石英は一般的光学材料の例である。
また、2種の光学材料は、線膨張係数が近い値を有することが望ましい。すなわち、線膨張係数が近い値を有していれば、温度変化に伴って接合界面における光学密着がずれてしまうおそれを低減することができる。例えば、SrTiO3の線膨張係数は9.0×10−6であり,これに対してS−NSL3,S−FSL5、S−FTM16はいずれも9.0×10−6の線膨張係数を有する。なお、TiO2の線膨張係数は、8.97×10−6程度である。
また、S−FPL51,S−FPL52,S−FPL53は低光弾性材料であり、外力に対して光学的に安定した材料である例である。また、SrTiO3と水晶の組合せ及びTiO2と水晶の組合せは、光学結晶同士の組合せ例である。
具体的な、2種の貼り合わせ材料の厚みの例を示す。実施例1で示したSrTiO3とS−TIH53との組合せでは、FSRを100GHzとした場合は、それぞれ238.85μm、512.55μm(全体として約0.75mm)とすることができる。また、FSRを50GHzとした場合は、それぞれ477.69μm、1025.09μm(全体として約1.50mm)とすることができる。FSRを25GHzとした場合は、それぞれ955.38μm、2050.18μm(全体として約3.01mm)とすることができる。
また、実施例2で示したSrTiO3と石英との組合せでは、FSRを100GHzとした場合は、それぞれ237.53μm、643.36μmとすることができる。FSRを50GHzとした場合は、それぞれ475.06μm、1286.72μmとすることができる。FSRを25GHzとした場合は、それぞれ950.11μm、2573.44μm(全体として約3.52mm)とすることができる。
また、TiO2とS−BAH11との組合せでは、FSRが100GHzの場合はそれぞれ217.22μm、574.66μm、FSRが50GHzの場合はそれぞれ434.44μm、1149.31μm、FSRが25GHzの場合はそれぞれ868.88μm、2298.62μm(全体として約3.17mm)とすることができる。実施例3で示したLiCAFとS−BAH32との組合せでは、FSRが100GHzの場合はそれぞれ918.42μm、131.77μm、FSRが50GHzの場合はそれぞれ1836.83μm、263.53μm、FSRが25GHzの場合はそれぞれ3673.67μm、527.07μm(全体として約4.20mm)とすることができる。
このように、本発明のFSRを25GHzに設定した複合型エタロン素子1と、従来例のLiCaAlF6を用いた光学素子(厚さ約4.3mm)とを比べると、何れも本発明の複合型エタロン素子1の方がより小型化されていることが分かる。
図51乃至図54に2種の材料の組合せとしてそれぞれSrTiO3とS−TIH53、SrTiO3と石英、TiO2とS−BAH11、LiCAFとS−BAH32を選択して構成した場合の複合型エタロン素子1の温度変化に対する中心波長の変化(以下、温度安定性という)を示す。なお、複合型エタロン素子1を構成する2種の材料の厚さは式(4)を満たすように形成されている。
図51の線aは複合型エタロン素子1の温度安定性を表わしている。また、線b,cはそれぞれS−TIH53,SrTiO3の温度安定性を表わしている。図51からS−TIH53,SrTiO3はそれぞれ温度変化に対して正,負の方向に中心波長をシフトさせる効果を有していることが分かる。そして、これらの材料を使用して適正な厚さ比で構成することにより、複合型エタロン素子1は中心波長の変化量を温度によらずほぼ零となる。すなわち、複合型エタロン素子1の中心波長(1550nm)における温度に対する変化量は、約0pm/Kを達成することができる。
また、図52の線aは複合型エタロン素子1の温度安定性を表わしている。また、線b,cはそれぞれ石英,SrTiO3の温度安定性を表わしている。図52から石英,SrTiO3はそれぞれ温度変化に対して正,負の方向に中心波長をシフトさせる効果を有しており、これらの材料を使用して適正な厚さ比で構成することにより、複合型エタロン素子1は中心波長の変化量が温度によらずほぼ零となる。
また、図53の線aは複合型エタロン素子1の温度安定性を表わしている。また、線b,cはそれぞれS−BAH11,TiO2の温度安定性を表わしている。図53からS−BAH11,TiO2はそれぞれ温度変化に対して正,負の方向に中心波長を変化させる効果を有しており、これらの材料を使用して適正な厚さ比で構成することにより、複合型エタロン素子1は中心波長の変化量が温度によらずほぼ零となる。
なお、本例の複合型エタロン素子1は、光学結晶として等方性でないTiO2,水晶を含んでいるが、これらは光線の入射方向に対して結晶軸(c軸)が平行となるように配置されている。このように配置しても、複合型エタロン素子1は中心波長の変化量が温度によらずほぼ零とすることができる。このように結晶軸(c軸)が光線に対して傾けられていないので、複合型エタロン素子1の偏光依存性を解消することができる。
なお、TiO2の結晶軸(c軸)を光線の入射方向に対して傾けた状態で複合型エタロン素子1を形成してもよい。例えば表1に示すように、TiO2はa軸方向の屈折率が2.7093,特性指数が−22.300×10−6である。つまりc軸に対して90度傾けた場合であっても、TiO2は特性指数が負の係数となる。したがって、正の特性指数を有するS−LAH58との組合せにおいて、表1に示す厚さの比で複合型エタロン素子1を構成することにより、温度安定性に優れた複合型エタロン素子1を得ることができる。
また、a軸及びc軸に対して45度の角度方向のTiO2の屈折率は2.5686,特性指数は−19.400×10−6である。この場合も、正の特性指数を有するS−LAH58との組合せにおいて、表1に示す厚さの比で複合型エタロン素子1を構成することにより、温度安定性に優れた複合型エタロン素子1を得ることができる。なお、上記光線の入射方向に対してc軸を所定角度に傾けて構成する複合型エタロン素子1は、入射光が直線偏光で電場の振動方向が結晶のb軸と垂直な面内にある場合としている。なお、TiO2の結晶軸方向を傾けて構成する場合、他の貼り合わせる材料として上記のようにS−LAH58(光学ガラス)以外に光学結晶材料(例えば、水晶)を選択しても、温度安定性に優れた光学材料1を構成することができる。
また、図54の線aは複合型エタロン素子1の温度安定性を表わしている。また、線b,cはそれぞれS−BAH32,LiCAFの温度安定性を表わしている。図54からS−BAH32,LiCAFはそれぞれ温度変化に対して正,負の方向に中心波長を変化させる効果を有しており、これらの材料を使用して適正な厚さ比で構成することにより、複合型エタロン素子1は中心波長の変化量が温度によらずほぼ零となる。
以上のように、発明者等は負の特性指数を有する実用的な光学材料としてSrTiO3,TiO2,LiCAFを見出した。そして、本発明の複合型エタロン素子1を、これらの材料を含む正負の特性指数を有する光学材料を貼り合わせて構成し、且つこれらの厚さ比を適正に設定することにより、複合型エタロン素子1内を通過する光線の光学距離を温度によらず一定とすることが可能となった。このように、本発明の複合型エタロン素子1は、極めて温度安定性に優れたものとすることができる。
また、透明体薄板に光学材料として等方性でない光学結晶を使用した場合であっても、結晶軸を傾けて構成することなく複合型エタロン素子1を形成することができる。したがって、等方性でない光学結晶を使用した場合であっても、中心波長の変化量を温度によらず略0pm/Kとすることができるので、偏光依存性の極めて少ない複合型エタロン素子1を得ることができる。
また、上記実施の形態では、複合型エタロン素子1は透明体薄板10,20の2種の光学材料を貼り合わせて構成されているが、これに限らず、3種類以上の光学材料の貼り合わせにより構成してもよい。この場合、隣合う透明体薄板間にはAR膜40を形成し、各透明体薄板の厚さと屈性率との積の合計が温度によらず一定となるように、それぞれの厚さの比を設定すればよい。
次に、複合型エタロン素子1を用いたレーザ装置としての高密度波長多重(DWDM)通信用のレーザモジュール50について説明する。図55にレーザモジュール50の概略構成図を示す。レーザモジュール50では、レーザ光出射部としてのLD54の後端面から出射されたレーザ光は、分岐部としてのハーフミラー53に入射して2方向に分岐され、一方は直接強度検出部としてのPD51に結合されて光出力モニタとして用いられ、他方は複合型エタロン素子1を透過させた後に波長検出部としてのPD52に結合されて波長モニタとして用いられる。PD51では、受光したレーザ光の強度が検出される。また、PD52では複合型エタロン素子1を選択的に透過した所定波長のレーザ光の強度が検出される。
また、前端面から出射されたレーザ光はレンズ56を透過して外部へ出力される。PD51,52からの出力信号は不図示の制御装置に出力され、制御装置はこの出力信号をもとに、ペルチェ素子55への電力を制御することによってLD54を所定の温度に保持している。なお、ハーフミラー53の代わりにプリズムを用いてもよい。
本発明の複合型エタロン素子1は、上述のように温度安定性に優れているため、複合型エタロン素子1のための専用のペルチェ素子を設ける必要がなく、ペルチェ素子を駆動するための電力消費量が低減される。また、これに伴い、レーザモジュール50の構成が簡単となり、製造コストを低減することができる。なお、エアギャップ型のエタロン素子を用いてもペルチェ素子を配設する必要がない場合があるが、エアギャップ型のエタロン素子はサイズが大きいため、レーザモジュール50自体のサイズが大きくなってしまうという不都合があった。また、本発明の複合型エタロン素子1は従来の複合型エタロン素子と比べてもサイズが小さいという特徴を有するため、レーザモジュール50をより小型化することができる。
上記実施形態では、本発明の複合型エタロン素子1をDWDM通信用のレーザモジュール50に用いた例を示したが、これに限らず、波長ロッカ等のレーザ装置に使用することが可能である。
1 複合型エタロン素子、2 透明体、10,20 透明体薄板、31,32 HR膜、40 AR膜、40a,40b,40c 膜、50 レーザモジュール、51,52 PD、53 ハーフミラー、54 LD、55 ペルチェ素子、56 レンズ、da,db,dc 厚さ、Wa4乃至Wa4,Wb3乃至Wb4 間隔