JP4363068B2 - インバータの故障検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、多相負荷に電流を供給するインバータ回路における故障の有無を判定する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
多相インバータ回路で多相モータを駆動する構成において、インバータ回路の故障を検出する技術が、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1においては、インバータ回路の各相のハイアーム側スイッチング素子とローアーム側スイッチング素子のそれぞれのオン状態とオフ状態の組合せを変更しながら、インバータ回路に供給される電流(以下「供給電流」という)を測定している。
【0003】
【特許文献1】
特開2000−325529号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら供給電流は、通常、インバータ回路に供給されるDC電圧Vdcに依存する。図6、図7、図8は、インバータ回路に供給されるDC電圧Vdcを変更して相電流を測定した結果を示す図であり、それぞれDC電圧Vdcを230V、280V、358Vとした場合について示している。図6〜図8中のグラフ13は供給電流、グラフ15は相電流をそれぞれ示している。
【0005】
この図6〜図8から見て取れるように、DC電圧Vdcを変化させることによって相電流の振幅が変化する。具体的には、DC電圧Vdcが230Vでは相電流の振幅が約2A(図6)、DC電圧Vdcが280Vでは相電流の振幅が約3A(図7)、DC電圧Vdcが358Vでは相電流の振幅が約4A(図8)となって現れる。このようにDC電圧Vdcが変動した場合には供給電流も変動するので、故障検出の判定の根拠とされる相電流の値も変化してしまう。
【0006】
故障の有無の判定レベルは、インバータ回路2の保護値にタイミング的に余裕を持って設定する必要があるとともに、検出誤差を考慮した検出最小レベルに対しても余裕をもって設定する必要がある。このため、DC電圧Vdcの変動に伴って相電流が変化すると、故障判定のための判定レベルを設定するのが困難となり、故障を正しく検出できないおそれがあった。
【0007】
そこで、この発明の課題は、インバータ回路に印加されるDC電圧に変動があっても、一定の判定レベルにより故障判定する技術を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決すべく、請求項1に記載の発明は、多相負荷(1)に接続され、多相(U,V,W)の各相の直流電源側に接続されるハイアーム側スイッチング素子(31,41,51)と、前記各ハイアーム側スイッチング素子に対応してそれぞれ接続されるローアーム側スイッチング素子(61,71,81)とを備えるインバータ回路に対し、いずれも各相において前記ハイアーム側スイッチング素子と前記ローアーム側スイッチング素子とのオンオフの組合せの態様において、前記インバータ回路から出力される相電流を所定の判定レベルに比較して故障の有無を判定するインバータの故障検出方法であって、前記インバータ回路に印加される直流電圧(Vdc)を検出する第1の工程と、前記直流電圧に応じて前記インバータ回路の出力デューティ値(Dx)を求める第2の工程と、前記出力デューティ値に基づいて前記インバータ回路内の各スイッチング素子をオンオフ動作させつつ、前記相電流を検出し、前記判定レベルと比較する第3の工程とを備え、前記第2の工程において、所与の値として設定されている基準電圧(Ve)における基準出力デューティ値(De)から、前記各スイッチング素子のオンオフ遷移時のデッドタイム(25a〜25f)に対応するデューティ値を除外したデューティ値に対し、前記直流電圧に反比例した値(Ve/Vdc)を乗算し、この乗算結果に前記デッドタイムに対応するデューティ値を加算して前記出力デューティ値を演算する。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のインバータの故障検出方法であって、前記第1の工程で検出された直流電圧をVdcとし、所与の値として設定されている基準出力デューティ値をDeとし、前記デッドタイム分のデューティ値をDdとし、所与の値として設定されている基準電圧をVeとして、前記第2の工程において、出力デューティ値Dxを次の数式によって演算する。
【0011】
Dx =(De−2×Dd)× Ve/Vdc + 2×Dd
【0012】
【発明の実施の形態】
図1はこの発明の一の実施の形態に係るインバータ及びその故障検出方法を示すブロック図である。三相モータ(M)1を駆動するインバータ回路2は、そのU相、V相及びW相の各相におけるハイアーム側スイッチング素子として、例えばトランジスタ31,41,51を有している。またそのU相、V相、及びW相の各相におけるローアーム側スイッチング素子として、例えばトランジスタ61,71,81を有している。トランジスタ31,41,51,61,71,81に対して、これらが電流を流す方向とは反対側に電流を流すフリーホイールダイオード32,42,52,62,72,82が並列に接続されている。
【0013】
インバータ回路2にはDC電源10からDC電圧Vdcが入力する。DC電源10は例えば、交流電源11の出力を整流するダイオードブリッジ12及びその出力を平滑するコンデンサ13によって構成される。この場合、DC電圧Vdcはコンデンサ13の両端電圧として与えられる。
【0014】
DC電圧Vdcは電圧検出部21によって検出される。インバータ回路2はDC電圧Vdcが入力されつつトランジスタ31,41,51,61,71,81を用いてスイッチング動作を行うので、供給電流idcが流れる。供給電流idcは各相に流れる相電流の合計であって、電流検出部22によって検出される。具体的には、インバータ回路2のハイアーム側トランジスタ31,41,51の接続点P1と、コンデンサ13の高電位端との間に電流検出部22が介挿される。なおインバータ回路2のローアーム側トランジスタ61,71,81の接続点P2にコンデンサ13の低電位端が接続される。
【0015】
PWM制御部23は、電圧検出器21で検出されたDC電圧Vdcに応じて、各トランジスタ31,41,51,61,71,81,をオンオフ動作させる際のデューティ値を変更してPWM制御する。この際、PWM波形に現れるデッドタイムを考慮して出力デューティ値を補正する。
【0016】
具体的には、PWM制御部23においては、上記のように電圧検出器21で検出されたDC電圧Vdcと、所与の値として設定されている基準出力デューティ値Deと、デッドタイム分のデューティ値Ddと、所与の値として設定されている基準電圧Veを採用し、故障検出時の出力デューティ値Dxが次の(1)式のように演算される。
【0017】
Dx =(De−2×Dd)× Ve/Vdc + 2×Dd …(1)
ここで、デッドタイムは、インバータ回路2内のハイアーム側スイッチング素子とローアーム側スイッチング素子とが同時にオンとなることによる短絡を避けるため、例えばハイアーム側スイッチング素子のオン期間を浸食する期間である。
【0018】
相電流検出部24は相電流を検出する。図1ではW相電流を測定する場合を例示している。
【0019】
図2に、各相のトランジスタ31,41,51,61,71,81のオンオフタイミングと、供給電流idcとを示す。同図(a)は、スイッチングの態様を示しており、デッドタイムを考慮しない場合の各スイッチング素子のオンオフの態様を示している。基本的には、同じ相においてハイアーム側スイッチング素子と、ローアーム側スイッチング素子とは排他的にオンするので、各相のハイアーム側スイッチング素子のオンオフの区別でインバータ回路2のスイッチングの態様を示すことができる。
【0020】
具体的にはU相、V相、W相のそれぞれのハイアーム側スイッチング素子に対して変数u,v,wを割り当て、オン/オフに対してそれぞれ値1/0を採らせる。そしてスイッチング態様S4u+2v+wでインバータ回路のスイッチングを示す。例えば時刻t1まではスイッチング態様S0が採用されており、これはU相,V相、W相の全てのハイアーム側スイッチング素子(トランジスタ31,41,51)がオフし、全てのローアーム側スイッチング素子(トランジスタ61,71,81)がオンしている態様を示す。
【0021】
また、時刻t1〜t2ではスイッチング態様S1が採用されており、これはU相,V相、W相のハイアーム側スイッチング素子がそれぞれオフ、オフ、オンし、従ってU相、V相、W相のローアーム側スイッチング素子がそれぞれオン、オン、オフしている態様を示す。時刻t2〜t3ではスイッチング態様S7が採用されており、これはU相,V相、W相の全てのハイアーム側スイッチング素子がオンし、全てのローアーム側スイッチング素子がオフしている態様を示す。時刻t3になれば再びスイッチング態様S0が採用される。
【0022】
図2(b)(c)(d)はそれぞれU相、V相、W相のそれぞれのスイッチングトランジスタのオン、オフを示している。但し、上述のようにデッドタイムを設けているので、具体的には下記のようにスイッチングが行われる。トランジスタ31がオンする期間は時刻t2よりもデッドタイム25aだけ遅く、時刻t3よりもデッドタイム25bだけ早い。トランジスタ41がオンする期間は時刻t2よりもデッドタイム25cだけ遅く、時刻t3よりもデッドタイム25dだけ早い。トランジスタ51がオンする期間は時刻t1よりもデッドタイム25eだけ遅く、時刻t3よりもデッドタイム25fだけ早い。制御の簡単のため、これらデッドタイム25a〜25fは一般には等しく設定される。以下ではこのデッドタイムの長さをデッドタイム期間Tdとする。
【0023】
図2(e)は供給電流idcを示しており、インバータ回路2へと流れ込む方向をグラフにおいて上側に採っている。デッドタイム25eが存在することにより、供給電流idcは時刻t1からデッドタイム期間Td経過した後に流れ始める。スイッチング態様S7ではデッドタイムの有無に拘わらず供給電流idcは流れないので、デッドタイム25a,25cは考慮する必要がない。一方、デッドタイム25b,25d,25fの存在により、モータ1からフリーホイールダイオード32,42,52を通ってDC電源10へと還流するため、供給電流idcは逆向きに流れる。このようにデッドタイムにおいて供給電流idcが流れないことや、還流が流れることを相電流の測定に反映させる必要がある。
【0024】
スイッチング態様S1においても還流に際して、供給電流idcの波高値は等しいので、スイッチング態様S1の期間の全てにおいて供給電流idcが流れるとした理想的な場合よりも、供給電流idcの実効的な値はデッドタイム期間Tdの分だけ小さい。またスイッチング態様S7の期間の全てにおいて供給電流idcが流れないとした理想的な場合よりも、供給電流idcの実効的な値は還流する分、すなわちデッドタイム期間Tdの分だけ小さい。
【0025】
そこで上記の(1)式に示すように、理想的なデューティDeからデッドタイム期間Tdに対応するデューティ値Ddを除外した上で、基準電圧Veに対する実際のDC電圧Vdcの比率で補正を行う。但しこの補正後の値に、再びデッドタイム期間Tdを設けて各相の短絡を回避するために、デューティ値Ddを加算している。
【0026】
これにより、DC電圧Vdcが変動した場合に、この変動に反比例するようにデューティ値Dxを調整することにより、供給電流idcを補正できる。よって図3〜図5のように、インバータ回路2から出力される相電流の振幅を平準化できる。
【0027】
ここで、図3、図4、図5は、インバータ回路2に印加されるDC電圧Vdcを変更して相電流を測定した結果を示す図であり、それぞれDC電圧Vdcを230V、280V、358Vとした場合について示している。グラフ27は相電流を、グラフ29は供給電流idcを、それぞれ示している。
【0028】
この図3〜図5から見て取れるように、DC電圧Vdcが変動しても、相電流27の振幅はほとんど変化しておらず、具体的には、図3〜図5のいずれの場合(DC電圧Vdc=230V、280V、358V)でも、相電流27の振幅が約3Aとなって現れる。
【0029】
したがって、デューティ値Dxに基づいてインバータ回路2内で各スイッチング素子をオンオフ動作させつつ、相電流を検出し、判定レベルと比較してインバータ回路2の故障の有無を判定するに際しても、図7〜図9のようにDC電圧Vdcの変動に伴って相電流の振幅が変動する場合に比べて、判定レベルを一定にして判定を行うことが可能となる。
【0030】
尚、上記実施の形態では、三相モータ(M)1を駆動するインバータ回路2を例にあげて説明したが、二相モータ等の他の多相負荷を駆動するインバータに適用しても差し支えない。
【0031】
【発明の効果】
請求項1及び請求項2に記載の発明によれば、直流電圧の変動によって変化が見られないデッドタイムのデューティ値を除外して、それ以外のデューティ値について直流電圧に応じた補正を行うので、精度の良いデューティ値の補正を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の一の実施の形態に係るインバータの故障検出方法を示すブロック図である。
【図2】インバータ回路の各スイッチング素子のオンオフ動作にデッドタイムが現れている様子を示す図である。
【図3】この発明の一の実施の形態における直流電源から出力される電流とインバータ回路から出力される相電流とを示す図である。
【図4】この発明の一の実施の形態における直流電源から出力される電流とインバータ回路から出力される相電流とを示す図である。
【図5】この発明の一の実施の形態における直流電源から出力される電流とインバータ回路から出力される相電流とを示す図である。
【図6】従来における直流電源から出力される電流とインバータ回路から出力される相電流とを示す図である。
【図7】従来における直流電源から出力される電流とインバータ回路から出力される相電流とを示す図である。
【図8】従来における直流電源から出力される電流とインバータ回路から出力される相電流とを示す図である。
【符号の説明】
1 三相モータ
2 インバータ回路
31,41,51 ハイアーム側スイッチング素子
61,71,81 ローアーム側スイッチング素子
11 DC電源
21 電圧検出部
22 電流検出部
23 PWM制御部
25a〜25f デッドタイム
Claims (2)
- 多相負荷(1)に接続され、多相(U,V,W)の各相の直流電源側に接続されるハイアーム側スイッチング素子(31,41,51)と、前記各ハイアーム側スイッチング素子に対応してそれぞれ接続されるローアーム側スイッチング素子(61,71,81)とを備えるインバータ回路に対し、いずれも各相において前記ハイアーム側スイッチング素子と前記ローアーム側スイッチング素子とのオンオフの組合せの態様において、前記インバータ回路から出力される相電流を所定の判定レベルに比較して故障の有無を判定するインバータの故障検出方法であって、
前記インバータ回路に印加される直流電圧(Vdc)を検出する第1の工程と、
前記直流電圧に応じて前記インバータ回路の出力デューティ値(Dx)を求める第2の工程と、
前記出力デューティ値に基づいて前記インバータ回路内の各スイッチング素子をオンオフ動作させつつ、前記相電流を検出し、前記判定レベルと比較する第3の工程と
を備え、
前記第2の工程において、所与の値として設定されている基準電圧(Ve)における基準出力デューティ値(De)から、前記各スイッチング素子のオンオフ遷移時のデッドタイム(25a〜25f)に対応するデューティ値を除外したデューティ値に対し、前記直流電圧に反比例した値(Ve/Vdc)を乗算し、この乗算結果に前記デッドタイムに対応するデューティ値を加算して前記出力デューティ値を演算することを特徴とするインバータの故障検出方法。 - 請求項1に記載のインバータの故障検出方法であって、
前記第1の工程で検出された直流電圧をVdcとし、所与の値として設定されている基準出力デューティ値をDeとし、前記デッドタイム分のデューティ値をDdとし、所与の値として設定されている基準電圧をVeとして、前記第2の工程において、出力デューティ値Dxを次の数式によって演算することを特徴とするインバータの故障検出方法。
Dx = (De−2×Dd)× Ve/Vdc + 2×Dd
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