JP4357197B2 - 無段変速機の制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、付加される圧力に応じて伝達トルク容量の変化する無段変速機の制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベルト式無段変速機やトラクション式無段変速機は、ベルトとプーリとの間の摩擦力や、ディスクとローラとの間のトラクションオイルのせん断力を利用してトルクを伝達し、またクラッチやブレーキなどの摩擦係合装置は摩擦材の表面で生じる摩擦力を利用してトルクを伝達している。したがってこれらの動力伝達機構は、そのトルクの伝達が生じる箇所に作用する圧力に応じて伝達トルク容量が設定される。
【0003】
無段変速機における上記の圧力は挟圧力と称され、また摩擦係合装置では係合圧と称されることがあり、これらの挟圧力あるいは係合圧を高くすれば、伝達トルク容量を増大させて滑りを回避できるが、その反面、高い圧力を生じさせるために動力を必要以上に消費したり、あるいは動力の伝達効率が低下するなどの不都合がある。そのため、一般的には、意図しない滑りが生じない範囲で、挟圧力あるいは係合圧を可及的に低く設定している。
【0004】
例えば、無段変速機を搭載した車両では、エンジンの回転数を無段変速機によって制御して燃費の向上を図ることができるので、その利点を損なわないために、無段変速機での動力伝達効率を可及的に向上させるべく、挟圧力を、滑りが生じない範囲で可及的に低く設定するように制御されている。そのためには、滑りの生じ始める圧力(すなわち滑り限界圧力)を検出する必要があり、従来では、種々の方法で滑りを検出し、また滑り限界圧力を検出している。
【0005】
その一例を挙げると、摩擦接触して動力を伝達する無段変速機あるいはその伝動システムを対象とした滑り検出方法であって、圧着力(すなわち挟圧力あるいは係合圧)を低下させることに伴う摩擦効率の上昇を検出してスリップを判定する方法が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載された方法では、伝達する力や速度あるいは伝達比がほぼ一定の状態で圧着力を徐々に低下させ、油温の上昇によってスリップが検出された際に圧着力をステップ的に増大させ、その後、スリップ時より高いレベルの圧力に圧着力を設定するように構成されている。
【0006】
また、特許文献2には、エンジンとベルト式無段変速機との間に配置されたクラッチの滑りを検出するために、そのクラッチ圧を第1の圧力レベルから第2の圧力レベルにステップ的に低下させ、その際に生じる50回転程度の僅かな回転数差を検出して滑りを判定する方法が記載されている。さらに、非特許文献1には、ベルト挟圧力を周期的に変化させてベルトの滑りを検出する方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】
特開2001−12593号公報(段落(0012)、(0018)〜(0020)、(0026))
【特許文献2】
特表平9−500707号公報(第3頁)
【非特許文献1】
7th Luk Symposium(第7回ルーク シンポジューム)11./12. April2002 配布資料
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の特許文献1に記載された方法では、圧着力を低下させた場合のスリップを摩擦効率の上昇によって検出しているが、実際にスリップが生じた時点と油温の上昇などによって摩擦効率の上昇を検出する時点との間には、時間的な遅れが不可避的に生じるので、スリップの判定の成立によって圧着力をステップ的に増大するとしても、滑りが過剰になる可能性がある。また、摩擦効率の上昇が検出された時点で圧着力を増大させるように構成しているので、摩擦効率の上昇が何らかの要因で検出されなかった場合には、圧着力を更に大きく低下させることになり、その結果、圧着力の低下幅の増大によって過剰な滑りが生じる可能性がある。
【0009】
さらに、スリップを生じさせるべく圧着力を徐々に低下させる場合、その低下勾配が小さければ、スリップの検出に長時間を要し、その過程で運転状態が変化してスリップの検出を中止しなければならなくなる可能性がある。これとは反対に圧着力の低下勾配を大きくすると、オーバーシュートによって過剰なスリップが生じ、ひいては摩耗などの損傷が生じる可能性がある。
【0010】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、伝動部材に付加して伝達トルク容量を設定するための圧力を、その伝動部材間での過剰な滑りや制御遅れなどが生じることなく適正化することのできる制御装置を提供することを目的とするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段およびその作用】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、付加される圧力に応じて伝達トルク容量が変化する伝動部材を備え、前記圧力を低下させることに伴う前記伝動部材の間での滑り状態に基づいて前記圧力の制御をおこなう無段変速機の制御装置において、前記圧力を予め定めた所定値低下させる降圧手段と、その降圧手段によって前記圧力を所定値低下させて前記伝動部材間の滑りが検出されなかった場合に、その圧力の最低下値に前記路面の凹凸などに起因する入力に対応する圧力を加えた値に前記圧力を設定する圧力設定手段と、前記降圧手段によって前記圧力を所定値低下させる制御を行うことを可能にする制御前提条件の成立を判断する判断手段とを備え、前記圧力設定手段は、前記制御前提条件が成立しなくなったことが前記判断手段で判断された場合に、前記最低下値に前記路面の凹凸などに起因する入力に対応する圧力を加えた値に前記圧力を設定する手段を含むことを特徴とする制御装置である
その場合、請求項2に記載されているように、前記最低下値は、前記圧力の低下を開始した後、その制御を可能にする前提条件が成立しなくなってその制御が中止された場合のその間における最も低い圧力とすることができる。
上記の制御前提条件は、請求項3に記載されているように、走行路面が平坦でかつ過剰な凹凸がないこと、泥濘路でない良路であること、所定車速以上の定速走行状態であること、前記圧力の補正が完了していないこと、制御機器にフェイルが生じていないことの少なくともいずれかを含むことができる。
さらに、前記検出されない滑りは、請求項4に記載されているように、摩耗や凝着の要因となる滑りとすることができる。
また、請求項5に記載されているように、前記圧力の低下制御は、指令信号をステップ的に変化させ、かつその変化後の指令信号を所定時間維持するように構成することができる。
さらに、請求項6に記載されているように、入力トルクに対応する前記圧力を決定するマップを備えている場合には、前記最低下値に路面の凹凸などに起因する入力に対応する圧力でそのマップ値を変更するように構成することができる。
【0012】
したがって請求項1ないし6の発明では、伝動部材間で伝達トルク容量を生じさせるように付加する圧力が低下させられるが、その低下量は予め定められた所定値とされる。その所定値の低下によっても伝動部材間の滑りが検出されなかった場合、その所定値の範囲内での低下の過程における最低下値に前記路面の凹凸などに起因する入力に対応する圧力を加えた値に前記圧力が設定される。すなわち伝達トルク容量が最低下値に基づいて決定された容量とされる。そのため、伝動部材に付加する圧力が滑りを生じさせない範囲で低下させられる。
【0013】
また、請求項7の発明は、請求項1の発明において、前記降圧手段は、前記伝動部材間での滑り状態を変化させるべく前記圧力を低下させる際に、前記圧力をステップ的に低下させた後に緩やかな勾配で低下させる降圧制御手段を含むことを特徴とする制御装置である。
【0014】
したがって請求項7の発明では、伝動部材間の滑り状態を変化させるべく前記圧力を低下させる場合、ステップ的に低下させた後に、徐々に圧力を低下させる。そのため、所定の低下値に到るまでの時間が短縮され、また所定の低下値に達する時点の低下勾配が小さくなるので、圧力低下のオーバーシュートが防止もしくは抑制される。
【0015】
さらに、請求項8の発明は、請求項1の発明において、前記圧力の低下に伴う前記伝動部材間の滑りを検出する滑り検出手段と、その滑り検出手段で前記伝動部材間の滑りが検出された場合に、前記伝動部材に付加する圧力をステップ的に増大させるように指示する昇圧手段とを更に備えていることを特徴とする制御装置である。
請求項9の発明は、請求項1の発明において、前記圧力の低下に伴う前記伝動部材間の滑りを検出する滑り検出手段と、その滑り検出手段で前記伝動部材間の滑りが検出された場合に、前記伝動部材に付加する圧力を、前記低下を開始する時点の圧力より高い圧力にステップ的に増大指示する昇圧手段とを更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0016】
したがって請求項8あるいは9の発明では、伝動部材に付加する圧力を所定の圧力から低下させ、その結果、伝動部材間の滑りが検出されると、前記付加する圧力が、低下開始時の圧力より高い圧力にステップ的に昇圧させられる。そのため、伝動部材に付加される実際の圧力の上昇が速くなり、伝動部材間の滑りが迅速に抑制もしくは解消される。
【0017】
さらにまた、請求項10の発明は、請求項1の発明において、前記圧力の低下に伴う前記伝動部材間の滑りを検出する滑り検出手段と、その滑り検出手段で前記伝動部材間の滑りが検出された場合に前記圧力をステップ的に増大指示する圧力復帰手段と、その圧力復帰手段によって前記圧力を増大指示する際に前記動力源のトルクの増大を制限するトルク制限手段とを更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0018】
したがって請求項10の発明では、伝達トルク容量を設定するための圧力を低下させることにより伝動部材間の滑りが検出された場合、前記圧力がステップ的に増大させられ、同時に、動力源のトルクすなわち無段変速機に入力されるトルクが低下させられる。そのため、伝動部材間の滑りが迅速に終息し、もしくは抑制される。
【0019】
そして、請求項11の発明は、請求項1の発明において、前記無段変速機に対して直列に連結されたクラッチと、前記伝動部材間の滑りを検出するべく前記圧力を低下させる際に、外乱時に前記無段変速機に対して前記クラッチで先に滑りが生じる状態を設定する滑り制御手段とを更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0020】
したがって請求項11の発明では、無段変速機で滑りを生じさせるように前記圧力を低下させる場合、その無段変速機に対して直列に配列されたクラッチを、外乱時には無段変速機よりも先に滑りを生じさせるように制御する。ここで、外乱時とは、入力トルクが急激かつ大きく変化したり、路面の凹凸やタイヤスリップなどによって出力側から大きいトルクが入力したりする状態である。そのため、無段変速機およびクラッチを含む伝動系統に作用するトルクが増大した場合、無段変速機よりも先にクラッチに滑りが生じ、それ以上のトルクが無段変速機に作用しないので、無段変速機の過剰な滑りが防止もしくは抑制される。
【0021】
そしてまた、請求項12の発明は、請求項1の発明において、前記降圧手段によって前記圧力を所定値低下させて前記伝動部材間の滑りが検出されなかった場合に、前記所定値低下させる前の圧力より低い圧力から再度、前記所定値降圧させる再降圧手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0022】
したがって請求項12の発明では、伝達トルク容量を設定する圧力を低下させる場合、その低下幅が所定値に制限され、その低下によって伝動部材間の滑りが検出されなかった場合、従前より低い圧力から再度、所定値、低下させる。すなわち所定値の降圧の後に昇圧するから、前記圧力が過剰に低下したり、あるいは過剰な滑りが生じることを防止もしくは抑制しつつ、伝動部材間の滑りが生じさせられる。
【0023】
さらに、請求項13の発明は、請求項1の発明において、前記降圧手段によって前記圧力を所定値低下させて前記伝動部材間の滑りが検出されなかった場合に、前記所定値低下させる前の圧力から、前記所定値より大きく前記圧力を低下させる他の再降圧手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0024】
したがって請求項13の発明では、伝達トルク容量を設定する圧力を低下させる場合、その低下幅が所定値に制限され、その低下によって伝動部材間の滑りが検出されなかった場合、従前より大きい低下幅で、前記圧力を再度、低下させる。すなわち降圧の後に必ず昇圧するから、前記圧力が過剰に低下したり、あるいは過剰な滑りが生じることを防止もしくは抑制しつつ、伝動部材間の滑りが生じさせられる。
【0025】
さらにまた、請求項14の発明は、請求項1の発明において、前記圧力を低下させることに伴う前記伝動部材間での滑りを検出する滑り検出手段と、その滑り検出手段で前記伝動部材間の滑りが検出された時点より前の時点における圧力を前記伝動部材間の滑り開始圧力と判定する滑り圧力判定手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
【0026】
したがって請求項14の発明では、前記圧力を低下させて伝動部材間に滑りを生じさせ、その滑りを検出した場合、その滑りの検出時点より前の時点における圧力を、滑り開始の圧力と判定する。そのため、滑りの検出に不可避的な遅れがあったとしても滑り開始の圧力が正確に判定される。
【0027】
これに対して、請求項15の発明は、請求項14の構成に加え、前記圧力の指令値を、所定値、ステップ的に低下させる手段を更に備えていることを特徴とする制御装置である。
そして、請求項16の発明は、請求項1ないし15のいずれかの構成において、前記無段変速機は、駆動プーリと、従動プーリと、これらのプーリに巻き掛けられているベルトとを有するベルト式無段変速機であることを特徴とする制御装置である。
【0028】
したがって請求項15の発明では、伝動部材間の伝達トルク容量を設定する圧力を低下させる場合、指令値をステップ的に低下させて前記圧力が低下させられる。そのため、実際の圧力は応答遅れを伴って所定の勾配で低下し、もしくは変化曲線を画いて低下する。そのような変化の過程における圧力が、滑り検出時点より前の時点の滑り開始時の圧力として判定され、その判定精度が高くなる。
また、請求項16の発明によれば、ベルト式無段変速機について上記の各請求項1ないし15の発明と同様の作用が生じる。
【0029】
【発明の実施の形態】
つぎにこの発明を具体例に基づいて説明する。先ず、この発明で対象とする動力伝達機構を含む伝動系統の一例を説明すると、図11は、ベルト式無段変速機1を動力伝達機構として含む駆動機構を模式的に示しており、その無段変速機1は、前後進切換機構2およびロックアップクラッチ3付きの流体伝動機構4を介して動力源5に連結されている。
【0030】
その動力源5は、内燃機関、あるいは内燃機関と電動機、もしくは電動機などによって構成されている。なお、以下の説明では、動力源5をエンジン5と記す。また、流体伝動機構4は、例えば従来のトルクコンバータと同様の構成であって、エンジン5によって回転させられるポンプインペラとこれに対向させて配置したタービンランナーと、これらの間に配置したステータとを有し、ポンプインペラで発生させたフルードの螺旋流をタービンランナーに供給することよりタービンランナーを回転させ、トルクを伝達するように構成されている。
【0031】
このような流体を介したトルクの伝達では、ポンプインペラとタービンランナーとの間に不可避的な滑りが生じ、これが動力伝達効率の低下要因となるので、ポンプインペラなどの入力側の部材とタービンランナーなどの出力側の部材とを直接連結するロックアップクラッチ3が設けられている。このロックアップクラッチ3は、油圧によって制御するように構成され、完全係合状態および完全解放状態、ならびにこれらの中間の状態であるスリップ状態に制御され、さらにそのスリップ回転数を適宜に制御できるようになっている。
【0032】
前後進切換機構2は、エンジン5の回転方向が一方向に限られていることに伴って採用されている機構であって、入力されたトルクをそのまま出力し、また反転して出力するように構成されている。図11に示す例では、前後進切換機構2としてダブルピニオン型の遊星歯車機構が採用されている。すなわち、サンギヤ6と同心円上にリングギヤ7が配置され、これらのサンギヤ6とリングギヤ7との間に、サンギヤ6に噛合したピニオンギヤ8とそのピニオンギヤ8およびリングギヤ7に噛合した他のピニオンギヤ9とが配置され、これらのピニオンギヤ8,9がキャリヤ10によって自転かつ公転自在に保持されている。そして、二つの回転要素(具体的にはサンギヤ6とキャリヤ10と)を一体的に連結する前進用クラッチ11が設けられ、またリングギヤ7を選択的に固定することにより、出力されるトルクの方向を反転する後進用ブレーキ12が設けられている。
【0033】
無段変速機1は、従来知られているベルト式無段変速機と同じ構成であって、互いに平行に配置された駆動プーリ13と従動プーリ14とのそれぞれが、固定シーブと、油圧式のアクチュエータ15,16によって軸線方向に前後動させられる可動シーブとによって構成されている。したがって各プーリ13,14の溝幅が、可動シーブを軸線方向に移動させることにより変化し、それに伴って各プーリ13,14に巻掛けたベルト17の巻掛け半径(プーリ13,14の有効径)が連続的に変化し、変速比が無段階に変化するようになっている。そして、上記の駆動プーリ13が前後進切換機構2における出力要素であるキャリヤ10に連結されている。
【0034】
なお、従動プーリ14における油圧アクチュエータ16には、無段変速機1に入力されるトルクに応じた油圧(ライン圧もしくはその補正圧)が、図示しない油圧ポンプおよび油圧制御装置を介して供給されている。したがって、従動プーリ14における各シーブがベルト17を挟み付けることにより、ベルト17に張力が付与され、各プーリ13,14とベルト17との挟圧力(接触圧力)が確保されるようになっている。これに対して駆動プーリ13における油圧アクチュエータ15には、設定するべき変速比に応じた圧油が供給され、目標とする変速比に応じた溝幅(有効径)に設定するようになっている。
【0035】
上記の従動プーリ14が、ギヤ対18を介してディファレンシャル19に連結され、このディファレンシャル19から駆動輪20にトルクを出力するようになっている。したがって上記の駆動機構では、エンジン5と駆動輪20との間に、ロックアップクラッチ3と無段変速機1とが直列に配列されている。
【0036】
上記の無段変速機1およびエンジン5を搭載した車両の動作状態(走行状態)を検出するために各種のセンサーが設けられている。すなわち、無段変速機1に対する入力回転数(前記タービンランナーの回転数)を検出して信号を出力するタービン回転数センサー21、駆動プーリ13の回転数を検出して信号を出力する入力回転数センサー22、従動プーリ14の回転数を検出して信号を出力する出力回転数センサー23、ベルト挟圧力を設定するための従動プーリ14側の油圧アクチュエータ16の圧力を検出する油圧センサー24が設けられている。また、特には図示しないが、アクセルペダルの踏み込み量を検出して信号を出力するアクセル開度センサー、スロットルバルブの開度を検出して信号を出力するスロットル開度センサー、ブレーキペダルが踏み込まれた場合に信号を出力するブレーキセンサーなどが設けられている。
【0037】
上記の前進用クラッチ11および後進用ブレーキ12の係合・解放の制御、および前記ベルト17の挟圧力の制御、ならびに変速比の制御、さらにはロックアップクラッチ3の制御をおこなうために、変速機用電子制御装置(CVT−ECU)25が設けられている。この電子制御装置25は、一例としてマイクロコンピュータを主体として構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定、ロックアップクラッチ3の係合・解放ならびにスリップ回転数などの制御を実行するように構成されている。
【0038】
ここで、変速機用電子制御装置25に入力されているデータ(信号)の例を示すと、無段変速機1の入力回転数(入力回転速度)Ninの信号、無段変速機1の出力回転数(出力回転速度)No の信号が、それぞれに対応するセンサから入力されている。また、エンジン5を制御するエンジン用電子制御装置(E/G−ECU)26からは、エンジン回転数Ne の信号、エンジン(E/G)負荷の信号、スロットル開度信号、アクセルペダル(図示せず)の踏み込み量であるアクセル開度信号などが入力されている。
【0039】
無段変速機1によれば、入力回転数であるエンジン回転数を無段階に(言い換えれば、連続的に)制御できるので、これを搭載した車両の燃費を向上できる。例えば、アクセル開度などによって表される要求駆動量と車速とに基づいて目標駆動力が求められ、その目標駆動力を得るために必要な目標出力が目標駆動力と車速とに基づいて求められ、その目標出力を最適燃費で得るためのエンジン回転数が予め用意したマップに基づいて求められ、そして、そのエンジン回転数となるように変速比が制御される。
【0040】
そのような燃費向上の利点を損なわないために、無段変速機1における動力の伝達効率が良好な状態に制御される。具体的には、無段変速機1のトルク容量すなわちベルト挟圧力が、エンジントルクに基づいて決まる目標トルクを伝達でき、かつベルト17の滑りが生じない範囲で可及的に低いベルト挟圧力に制御される。その制御は、挟圧力を低下させて無段変速機1に微少滑りを生じさせ、その際の挟圧力を滑り限界圧力とし、その滑り限界圧力に所定の安全率を見込んだ油圧もしくは路面からの入力に対応する圧力を加えた圧力に設定することにより実行される。
【0041】
この発明に係る制御装置は、その挟圧力の低下制御、滑りの検出、ならびにその後の挟圧力の設定をおこなうように構成されている。図1はその制御例を説明するためのフローチャートであって、所定時間毎に繰り返し実行される。また、図2は図1に示す制御を実行した場合の油圧や変速比などの変化を示すタイムチャートである。
【0042】
図1において、先ず、フラグFについて判断される(ステップS1)。このフラグFは、後述するように、時間の経過状態に応じて“0”ないし“3”にセットされるようになっており、当初は“0”に設定されている。したがってその場合は、制御前提条件が成立しているか否かが判断される(ステップS2)。その制御前提条件は、例えば走行路面が平坦でかつ過剰な凹凸がなく、さらに泥濘路でない良路であること、所定車速以上の定速走行状態であること、ベルト挟圧力の補正が完了していないこと、制御機器にフェイルが生じていないことなどである。
【0043】
制御前提条件が成立していることによりステップS2で肯定的に判断された場合には、再度、フラグFについて判断される(ステップS3)。当初は“0”に設定されているので、次に進んで挟圧力を所定値低下させて保持する指令が出力される(ステップS4)。図2には、制御開始時の挟圧力をP1 で示し、低下させる所定値をΔP1 で示し、さらにその指令の出力時点をa1 点で示してある。さらに、ここで説明している例では、ステップS4における指令値が、挟圧力をステップ的に低下させる指令値として出力される。したがって実際の挟圧力は、所定の遅れをもって低下する。その状況を図2には曲線で示してある。
【0044】
ベルト挟圧力を上記のようにして低下させることに伴う滑り状態の変化が、次に判定される。すなわちマクロスリップ直前の状態となったか否か、もしくは滑りが生じたか否かが判定される(ステップS5)。ここで、マクロスリップとは、ベルト17の伸縮やベルト17を構成している金属片(駒もしくはブロックと称されることもある)の相対移動などに伴うベルト17とプーリ13,14との間の不可避的なミクロスリップを超えるスリップ状態であり、摩耗や凝着などの要因になるスリップである。また、その直前の状態とは、滑り量もしくは滑り率が増大してマクロスリップに到る前の状態であり、例えば滑り率から判定もしくは検出することができる。
【0045】
このステップS5で否定的に判断された場合、すなわち滑りが検出されなかった場合には、挟圧力の低下指令から所定時間t1 が経過したか否かが判断される(ステップS6)。所定時間t1 が経過していないことによりステップS6で否定的に判断された場合には、時間の経過を待つために、新たな制御を開始することなくこのルーチンを抜ける。これとは反対に、挟圧力の低下指令から所定時間t1 が経過することによりステップS6で肯定的に判断された場合には、挟圧力の復帰指令が出力される(ステップS7)。
【0046】
この復帰指令の出力時点は図2のb1 点で示してあり、挟圧力を元のP1 圧に戻すように指令信号が出力される。すなわち、前述した挟圧力の低下分ΔP1 だけ、昇圧する指令である。その復帰指令は、図2に示すように、ステップ的な昇圧指令である。そのため、実際の挟圧力は指令信号に対して所定の遅れをもって変化する。
【0047】
その復帰指令による圧力に達するのを待つために、復帰指令の出力からの経過時間が所定値t2 に達したか否かが判断される(ステップS8)。このステップS8で否定的に判断された場合には、フラグFが“1”にセットされる(ステップS9)。その後、時間の経過を待つためにこのルーチンを一旦抜ける。
【0048】
その場合、次のサイクルにおける前述したステップS1で“F=1”の判断が成立するが、その場合もステップS2に進んで制御前提条件の成立が判断される。走行状態などの状態の変化がなければ、ステップS2で肯定的に判断される。そして、次のステップS3では、“F=1”の判断が成立するので、直ちにステップS8に進み、所定時間t2 が経過したか否かが判断される。
【0049】
所定時間t2 が経過したことによりステップS8で肯定的に判断されると、挟圧力が前述した低下開始前の圧力P1 に戻ったことになるので、フラグFを“2”にセット(ステップS10)した後、挟圧力を予め定めた所定値ΔP2 だけ低下させる指令が出力される(ステップS11)。これは、図2のc1 時点である。この所定値ΔP2 は、上述したステップS4での低下幅ΔP1 より小さい値である。こうすることにより滑り(マクロスリップ)を生じさせることなく挟圧力を低下させ、また次の低下制御を低い挟圧力から開始することになる。
【0050】
挟圧力を上記のように復帰させている過程、あるいは所定値ΔP2 だけ低下させている過程で制御前提条件が成立しなくなると、ステップS2で否定的に判断される。その場合には、フラグFやストア値(メモリーした値)をクリアーし、かつ制御の進捗の状態に応じてその入力トルクに対応する挟圧力を決定するとともにマップ値を変更する(ステップS12)。例えば、制御開始後、当初P1 の圧力であった挟圧力を所定値ΔP2 低下させる指令を出力した後の時点までの過程で、ベルト滑りもしくはマクロスリップ直前の状態が検出されておらず、またその過程における挟圧力の最低下値が、所定値ΔP1 の低下指令によって達成された実油圧P3 (図2参照)であるから、その実油圧P3 に路面入力対応分の油圧を加えた挟圧力が、制御の進捗に応じた圧力として決定される。すなわち、制御の過程で検出された、滑りの生じない最低圧が、挟圧力に反映され、その結果、挟圧力を滑りの生じない範囲で可及的に低下させることができる。
【0051】
一方、フラグFを“2”に設定した状態で制御前提条件が成立していれば、上述したステップS3で“F=2”の判断が成立する。その場合には、所定時間t3 が経過したか否かが判断される(ステップS13)。この所定時間t3 は、前記所定値ΔP2 の低下指令により挟圧力がその指令値に応じた圧力に低下するのに充分な時間である。したがって時間が経過していないことによりステップS13で否定的に判断された場合には、挟圧力の低下を待つために、新たな制御を開始することなくこのルーチンを一旦抜ける。
【0052】
これとは反対に所定時間t3 が経過したことによりステップS13で肯定的に判断された場合(図2のd1 時点)には、フラグFを“0”にセット(ステップS14)した後、上述したステップS4に進む。すなわち、挟圧力を所定値ΔP1 、ステップ的に低下させる指令出力、それに伴うマクロスリップ直前の状態(滑り)の検出、そのマクロスリップ直前の状態が検出されなかった場合に挟圧力を所定値ΔP2 低下させる制御の一連の制御が、再度、実行される。言い換えれば、挟圧力を所定値ΔP2 低下させた状態から、滑り検出のための挟圧力の低下制御が、再度、実行される。
【0053】
上記のように挟圧力の低下開始圧力を下げつつ、挟圧力の低下と復帰とを繰り返しおこない、そのいずれかの低下制御に伴ってマクロスリップの直前の状態になると、あるいは滑りが生じると、ステップS5で肯定的に判断される。これは、図2にf1 点で示してある。
【0054】
こうしてステップS5で肯定的に判断された場合には、挟圧力を所定値ΔP3 、ステップ的に増大させる指令が出力される(ステップS15)。この増大幅ΔP3 は、滑りを生じさせるべく低下させる所定値ΔP1 より大きく、あるいはこの所定値ΔP1 と滑りが生じなかったことによる低下幅ΔP2 とを加えた値より大きく設定されている。これは、挟圧力を迅速に増大させ、また滑りを止めることに伴う回転変化で生じる慣性トルクによる滑りをも防止するためである。
【0055】
また、滑りの検出に基づいて滑りの発生開始時刻を決定する(ステップS16)。前述したように滑りの判定は、滑り量もしくは滑り率がある程度大きくなったことによって成立するから、滑りの判定成立時点と実際に滑りが開始した時点とには時間的なズレがある。そこで、滑りの判定が成立した直前で、過去の変化傾向から求まる変速比(図2に破線で示す)と実測された変速比(図2に実線で示す)とに僅かな偏差が生じた時点e1 が、滑り開始時刻として決定される。すなわち図2に示す例では、変速比γが増大傾向にあり、その変速比γを逐次検出して比較することによりその増大傾向を求めることができる。これに対して挟圧力の低下に伴って滑りが生じると、変速比がそれ以前(図2に示す現時点から過去t5 秒の間)の変化傾向とは異なった変化を示す。したがって図2に破線で示す滑りのない状態での変速比と実測された実線で示す変速比との偏差がしきい値を超えた時点(現時点より所定時間前の時点)を滑り開始時点として決定することができる。
【0056】
図11を参照して説明したように、ここで対象としている駆動系統には油圧センサー24が設けられていて時々刻々の挟圧力が検出されているので、その油圧検出値と、ステップS16で決定された時刻とによって滑り開始時の油圧が求められる(ステップS17)。その後、所定時間t4 が経過したか否かが判断される(ステップS18)。この所定時間t4 は、挟圧力がアップ指令による圧力に達するのに充分な時間であり、したがってその時間が経過していないことによりステップS18で否定的に判断された場合には、フラグFを“3”にセット(ステップS19)した後、時間の経過を待つために、すなわち挟圧力が指令値に達するのを待つために、新たな制御をおこなうことなくこのルーチンを一旦抜ける。
【0057】
したがって次のサイクルでは上述したステップS1で“F=3”の判断が成立し、ステップS18に進む。すなわち制御前提条件の成立の判断はおこなわない。既に滑りが検出され、かつその滑り開始時の挟圧力が求められているので、最早、滑りを生じさせるように挟圧力を低下させることがないからである。
【0058】
所定時間t4 が経過してステップS18で肯定的に判断されると(図2のg1 時点)、滑り開始時の油圧に基づく挟圧力に路面入力対応分の油圧を加えた挟圧力P2 が決定され、かつそれに基づいてマップ値が変更され、さらにフラグFやストア値がクリアーされる(ステップS20)。すなわち、滑り開始時の挟圧力には、遠心油圧も含まれ、また油圧アクチュエータ16に内蔵されているバネの弾性力も影響しているので、これらの圧力要因を考慮して、滑り開始時の圧力から、滑りに対する安全率がほぼ“1”の圧力が求まる。これが、滑り開始時の油圧に基づく挟圧力である。この挟圧力だけでは路面の凹凸などに起因する入力があるとベルト滑りが生じる可能性があるので、路面入力対応分を加えた圧力の挟圧力が設定される。
【0059】
したがって上記のように制御すれば、挟圧力を所定値、低下させた場合、滑りが検出されなければ、挟圧力を復帰させるので、挟圧力が過剰に低下したり、それに伴ってマクロスリップを生じさせてしまうなどの事態を未然に防止できる。また、滑り開始圧力を検出する過程で制御前提条件が成立しなくなって制御を中止する場合、それまでに得られている滑りの生じない最低下値に基づいて挟圧力を低下させるので、制御の無駄をなくして、すなわち制御の過程で得られたデータを有効に利用して、挟圧力を低下させることができる。さらに、実際の滑りの発生とその検出との時間差を考慮して滑りが検出された時点より前の所定時点での圧力を、滑り開始時点の挟圧力とするので、滑り限界圧力を基準とした挟圧力の設定を精度良くおこなうことができる。
【0060】
また、上記の制御をおこなうように構成されたこの発明の制御装置によれば、挟圧力を所定量低下させて滑りが検出されなかった場合、挟圧力を下げ、その低下させた挟圧力を開始圧力として、再度、滑りを生じさせるように挟圧力を低下させるので、滑りを生じさせるための挟圧力の低下を効率よくおこなうことができる。なお、この発明では、滑りが検出されなかった場合に続けておこなう挟圧力の低下制御は、低下開始圧力を下げる替わりに、低下量を前回よりも大きくすることとしてもよい。その場合、滑りが生じる圧力に低下させるまでの時間が幾分長くなることがあるが、滑り限界圧力を求めて挟圧力を適正に設定することができる。さらに、滑りが検出された場合、元の挟圧力より高い挟圧力にステップ的に昇圧させるので、挟圧力を迅速に増大させて過剰な滑りを防止でき、また慣性トルクに対応して挟圧力を設定できるので、この点でも過剰な滑りを防止できる。
【0061】
つぎにこの発明に係る制御装置による他の制御例を説明する。図3および図4はその制御例を説明するためのフローチャートであり、また図5は、その制御をおこなった場合の油圧や変速比などの変化を示すタイムチャートである。
【0062】
図3において、先ず、フラグFについて判断される(ステップS31)。このフラグFは、後述するように制御の進行の状況に応じて“0”ないし“5”に設定される。制御の開始当初は“0”に設定されているので、その場合には制御前提条件が成立しているか否かが判断される(ステップS32)。このステップS32は、図1に示す制御例でのステップS2と同様の判断ステップである。
【0063】
制御前提条件が成立していることによりステップS32で肯定的に判断された場合には、再度、フラグFについて判断される(ステップS33)。制御開始直後では、“F=0”の判断が成立するので、その場合には、挟圧力を徐々に低下させる(スイープダウンさせる)漸減指令が出力される(ステップS34)。これは、図5におけるa2 時点である。このステップS34は、図1に示すステップS4に替わる制御ステップであり、図1に示すステップS4ではステップ的に挟圧力を低下させるように指令値を出力することとしていたのに対して、図3に示すステップS34では、指令値と実際の挟圧力(油圧)との乖離が小さくなるように、低下指令値を漸減する。
【0064】
このように挟圧力の低下制御を開始した後、マクロスリップ直前の状態になったか否か、あるいは滑りが生じたか否かが判断される(ステップS35)。これは、図1に示すステップS5と同様の判断ステップである。このステップ35で否定的に判断された場合には、所定時間t1 が経過するのを待ち、所定時間t1 が経過してステップS36で肯定的に判断された場合に、挟圧力の復帰指令を出力する(ステップS37)。これは、図1に示す制御例でのステップS6およびステップS7と同様である。
【0065】
この挟圧力の復帰指令は、図5のb2 時点に出力される。その復帰指令は、挟圧力をステップ的に増大させる指令出力である。また、復帰させる圧力は、低下開始前の圧力P1 より高い圧力P10である。挟圧力の復帰の遅れやそれに起因する滑りの発生を防止するためである。
【0066】
ついで、挟圧力が復帰するのに充分な所定時間t2 が経過したか否かの判断(ステップS38)、経過していない場合にはフラグFを“1”にセット(ステップS39)した後、このルーチンを一旦抜けること、所定時間t2 が経過した場合(図5のc2 時点)には、フラグFを“2”にセット(ステップS40)した後、挟圧力を所定値ΔP2 低下させる指令信号を出力すること(ステップS41)、その後に所定時間t3 の経過を待つこと(ステップS42)、その所定時間t3 が経過した場合(図5のd2 時点)には、フラグFを“0”にセット(ステップS43)した後に、再度、挟圧力の低下指令を出力すること(ステップS34)は、図1に示す制御例と同様である。
【0067】
こうして挟圧力を所定レベル低下させつつ、挟圧力の漸減と復帰とを繰り返す過程でマクロスリップ直前の状態もしくは滑りが発生し、ステップS35で肯定的に判断される。これは図5のf2 時点であり、その場合には、挟圧力を所定値ΔP3 、増大させる挟圧力アップ指令が出力される(ステップS44)。その所定値ΔP3 は、滑りを生じさせた挟圧力の漸減制御を開始する前の圧力(図5にP4 で示してある)より高い圧力P5 に挟圧力を設定する値である。また、これと同時に、エンジン5の出力トルクを一時的に低下させる制御、具体的にはエンジン5での点火時期の遅角制御が実行される(ステップS45)。油圧の制御遅れに伴うベルト滑りを回避するために、無段変速機1に対する入力トルクを低下させる制御である。
【0068】
なお、滑りが生じると、変速比γは、その時点より所定時間t5 前までの間における変速比γの変化とは異なった変化を示す。したがって直前の所定時間t5 の間の変化から求まる変速比(図5に破線で示してある)と実測された変速比との偏差がしきい値Δγを超えることにより、滑りを判定することができる。したがってこの発明では、前述した滑り量もしくは滑り率に基づく滑りの判定と、変速比の変化に基づく滑りの判定との両方を並行しておこなうようにしてもよい。
【0069】
上記の遅角指令を出力した後、挟圧力(油圧)がある程度の圧力まで復帰したか否かが判断される(ステップS46)。その圧力は、例えば滑りの判定が設立した時点の圧力P3 である。あるいは図1に示す制御例と同様に、滑り開始時刻およびその時点の圧力を求めることができるので、その滑り開始時点の圧力である。これは前述した油圧センサー24による検出値に基づいて判断できる。このステップS46で否定的に判断された場合には、フラグFを“4”にセット(ステップS47)した後、復帰制御を継続するために、このルーチンを一旦抜ける。その場合、次のサイクルでのステップ33で“F=4”の判断が成立するので、直ちにステップS46に進んで、油圧の復帰の判断がおこなわれる。
【0070】
時間の経過に伴って油圧が上昇し、その結果、ステップS46で肯定的に判断されると、エンジントルクを低下させるために実行されていた遅角制御が終了される(ステップS48)。すなわち遅角制御からの復帰である。これは、図5のg2 時点である。
【0071】
その後、滑り判定の成立時点からの経過時間が所定時間t4 に達したか否かが判断され(ステップS49)、所定時間t4 が経過していない場合にはフラグFを“3”にセット(ステップS50)した後、時間の経過を待つために一旦このルーチンを抜ける。これとは反対に、所定時間t4 が経過した場合には、滑り限界圧力に路面入力対応分の圧力を加えた圧力P6 に挟圧力を決定するとともにマップ値を変更し、かつフラグおよびストア値をクリアーする(ステップS51)。これは図5のh2 時点である。
【0072】
これらステップS49,S50,S51の制御は、図1に示すステップS18,S19,S20の制御と同様である。すなわち、この場合も、図1に示す制御と同様に、滑りの判定の成立した時点から所定時間前のe2 時点を滑り開始時点として求め、その滑り開始時点の油圧を油圧センサー24での検出値から求め、その検出油圧と遠心油圧や油圧アクチュエータ16でのバネ力などとを考慮して安全率がほぼ“1”の滑り限界圧力を求め、これに路面入力対応分を加えて挟圧力が決定される。したがって滑りの生じない範囲で可及的に低い挟圧力を設定することができる。
【0073】
上述した制御の過程で制御前提条件が成立しなくなる場合がある。これは、例えばアクセルペダルが大きく踏み込まれたり、急減速されたりした場合である。その場合の制御例を図4に示してあり、前述したステップS32で否定的に判断されることにより、制御開始後か否かが判断される(ステップS52)。未だ制御を開始していない状態であることによりステップS52で否定的に判断された場合には、直ちにこのルーチンから抜ける。
【0074】
これに対して制御が既に開始されていてステップS52で肯定的に判断された場合には、ベルト滑りを防止するために挟圧力の昇圧制御が実行される。具体的には、挟圧力をその時点の圧力より所定値増大させるアップ指令値と、その時点の入力トルクやプーリ13,14に対するベルト17の巻掛け半径などに基づいて計算された必要挟圧力との大きい方の圧力を選択する(ステップS53)。
【0075】
ついで、制御前提条件が成立しなくなった要因が、アクセルペダルが踏み込まれるなどのエンジン出力の増大要求によるものか否かが判断される(ステップS54)。このステップS54で肯定的に判断された場合には、挟圧力の低下制御が既に開始されているか否か、すなわちその時点の挟圧力が低下開始前レベル以下か否かが判断される(ステップS55)。
【0076】
このステップS55で肯定的に判断されると、エンジントルクが増大されているのに対して挟圧力が低下していて、ベルト滑りが生じやすい状況にあるから、エンジントルクを低下させるための制御すなわち点火時期の遅角制御が実行される(ステップS56)。そして、所定時間t6 が経過したか否かが判断される(ステップS57)。この所定時間t6 は、上記のステップS53で選択された圧力にまで挟圧力が昇圧するのに充分な時間であり、したがってこのステップS57で否定的に判断された場合には、時間の経過を待つために、フラグFを“5”にセット(ステップS58)した後に、このルーチンを一旦抜ける。
【0077】
その場合、図3に記載してあるステップS31で“F=5”の判断が成立するので、点火時期の遅角制御を中止する復帰制御が実行され(ステップS59)、その後にステップS57に進んで所定時間t6 の経過が判断される。なお、アクセルペダルが踏み込まれていないことによりステップS54で否定的に判断された場合、および挟圧力が低下開始以前のレベルより高いことによりステップS55で否定的に判断された場合にもステップS59に進む。そして、所定時間t6 が経過してステップS57で肯定的に判断されると、上述した計算して求められた挟圧力を設定する指令出力がおこなわれ、またフラグFやストア値がクリアーされ、さらに制御の進捗状況に応じてその時点の入力トルクに対応した挟圧力が決定され、さらにその挟圧力に基づいてマップ値が変更される(ステップS60)。これは、図1に示すステップS12とほぼ同じ制御である。
【0078】
したがって図3および図4に示す制御を実行するように構成した場合であっても、挟圧力低下制御のオーバーシュートやそれに伴う過剰な滑りを生じさせることなく、挟圧力のいわゆる滑り限界圧力を求め、それに基づく滑りの生じない範囲での可及的に低い挟圧力を設定することができる。その滑り限界圧力を求めるために挟圧力を低下させる場合、上記の例では、低下勾配を一定に保持するように構成したが、これに替えて、低下勾配を複数段階に変化させてもよい。
【0079】
例えば図5に破線で示してあるように、挟圧力の低下開始初期における勾配を大きくし、所定時間後に低下勾配を小さくするように制御してもよい。あるいは図6にタイムチャートの部分を示すように、先ず、挟圧力をステップ的に低下させる指令信号を出力し、これを所定時間t0 保持し、その後に所定の小さい低下勾配で挟圧力を低下させることとしてもよい。その場合、所定時間t0 に実油圧の変化を反映させることができ、例えば指令値と実油圧との偏差が所定値ΔPになった時点を所定時間t0 の経過時点とし、ここから所定の小さい勾配で挟圧力を低下させることとしてもよい。
【0080】
これらいずれの場合であっても、目標とする低下幅ΔP1 に達するまでの時間を短くすることができ、しかもその目標値に接近する直前では挟圧力の変化率を小さくすることができるのでオーバーシュートを未然に回避もしくは抑制でき、その結果、制御応答性を向上させることができる。また、挟圧力の低下制御からの復帰応答遅れやそれに伴うマクロスリップを未然に回避もしくは抑制することができる。
【0081】
また、上記の図3および図4に示す制御を実行するように構成した場合には、挟圧力を低下させても滑りの判定が成立しなかった場合、低下開始時の圧力より高い圧力にステップ的に復帰するように指令信号を出力するので、この点でも復帰の遅れやそれに伴うマクロスリップの発生を回避もしくは抑制することができる。
【0082】
さらに、滑りの判定もしくはマクロスリップ直前状態の判定が成立して挟圧力を昇圧する場合、無段変速機1に対する入力トルクを低下させる制御を併せて実行するので、圧力制御に遅れが生じたとしても、マクロスリップに到ることを回避もしくは抑制することができる。
【0083】
なおここで、挟圧力を所定値ΔP1 低下させている過程でエンジン出力の増大要求があり、これが要因となって制御前提条件が不成立となった場合の制御例を説明する。図7は、所定圧力P1 から挟圧力を徐々に低下させている過程でアクセルペダルが踏み込まれた例を示しており、a21時点に挟圧力を低下させる指令信号が出力され、その直後のa22時点に実際の挟圧力が低下し始める。そして、a23時点にアクセルペダルが踏み込まれていわゆるアクセルオンの信号が検出されると、これとほぼ同時に挟圧力をステップ的に増大させる指令信号が出力される。
【0084】
前述した図11に示すエンジン5として、スロットル開度を電気的に制御する電子スロットルバルブを備えたエンジンを採用でき、図7に示す例では、その電子スロットルバルブ(電スロ)をアクセルペダルの踏み込みに対して遅らせて動作させる。したがってa23時点では電スロの開度は従前のままに維持される。また、挟圧力は不可避的に応答遅れのために未だ低下傾向を示す。そして、その直後のa24時点に挟圧力が増大し始める。なお、その最低下値をP3 で示してある。その結果、実際の挟圧力が低下開始前の圧力P1 まで増大すると、そのa25時点に電スロの開度が、アクセル開度に応じて増大させられる。したがってこのように制御することにより、挟圧力が復帰するまでは無段変速機1に対する入力トルクが増大しないので、無段変速機1でのマクロスリップを回避もしくは抑制することができる。
【0085】
この発明に係る制御装置は、無段変速機1などの動力伝達機構の滑り限界圧力を求め、その滑り限界圧力に基づいて挟圧力や係合圧などの伝達トルク容量を設定する圧力を滑りの生じない範囲で可及的に低い適正圧に設定するように構成されている。したがってその滑り限界圧力を求める過程では、挟圧力などの圧力を低下させることになるので、制御の応答遅れや外乱などの想定されていない状態が生じると、過剰な滑り(マクロスリップ)が生じる可能性がある。このような想定されていない状態での過剰な滑りを未然に防止するために、この発明の制御装置は、以下の制御を実行するように構成してもよい。
【0086】
図8は、その制御例を示すフローチャートであって、先ず、制御の前提条件が成立しているか否かが判断される(ステップS101)。このステップS101は、図1に示すステップS2や図3に示すステップS32と同様の判断ステップである。このステップS101で肯定的に判断された場合には、トルクヒューズ制御の実施中か否かが判断される(ステップS102)。
【0087】
トルクヒューズ制御とは、無段変速機1に対して直列に配列されているクラッチによって、無段変速機1に作用するトルクを制限する制御であり、伝動系統に作用するトルクが増大した場合に、例えば無段変速機1よりも先にロックアップクラッチ3に滑りが生じるように、無段変速機1とロックアップクラッチ3との伝達トルク容量すなわち挟圧力と係合圧とを設定する制御である。言い換えれば、滑りが生じるまでの伝達トルク容量の余裕を、無段変速機1に対してロックアップクラッチ3で小さくなるように設定する制御である。
【0088】
このトルクヒューズ制御が実施されていれば、無段変速機1でのベルト挟圧力を低下させている過程で外乱などにより大きいトルクが作用しても、ロックアップクラッチ3に滑りが生じて無段変速機1に作用するトルクが制限されるので、挟圧力を滑り限界圧力に低下させることが可能になる。したがってステップS102で肯定的に判断された場合には、その時点におけるエンジン回転数Ne(i)とエンジン負荷率E_load(i)とから領域Te_ID(i) が算出される(ステップS103)。
【0089】
この領域とは、設定可能なエンジン負荷率E_load(i)を複数に区分するとともにこれを例えば縦軸に採り、また設定可能なエンジン回転数Ne(i)を複数に区分してこれを例えば横軸に採って、エンジン負荷率E_load(i)とエンジン回転数Ne(i)とをパラメータとした領域をマトリックス状に区分した各領域である。これは、挟圧力の適正値もしくはその学習値を入力トルク毎に求めることに替えて、領域毎に求めることとしているためである。
【0090】
ついで、算出された領域Te_ID(i) が、学習値の得られている既学習領域か否かが判断される(ステップS104)。このステップS104で肯定的に判断された場合には、その学習値を利用して限界挟圧力を設定する制御が実行される(ステップS105)。例えば、その時点の入力トルクと変速比とに基づいて定まる圧力に学習値を加えた挟圧力が設定される。
【0091】
これに対してその時点の運転状態が学習値の得られていない未学習領域に入っていることによりステップS104で否定的に判断された場合には、学習値を得るための所定制御が実行される(ステップS106)。この所定制御については後述する。また一方、前提条件が成立していないことによりステップS101で否定的に判断された場合、およびトルクヒューズ制御が実施されていないことによりステップS102で否定的に判断された場合には、挟圧力をライン圧(無段変速機1についての油圧制御機器の元圧)もしくはその補正圧とする通常制御が実行される(ステップS107)。
【0092】
図9に限界挟圧力を検出するための所定制御の例が記載されている。先ず、限界挟圧力検出実行フラグgPd_f(i-1) が“1”にセットされているか否かが判断される(ステップS201)。このフラグgPd_f(i-1) は、限界挟圧力の検出が終了した場合に“0”にセットされ、また検出中であれば“1”にセットされるフラグである。したがって検出中であることによりステップS201で肯定的に判断されると、運転状態が維持されているか否かが判断される(ステップS202)。具体的には、今回検出された領域Te_ID(i) と前回の領域Te_ID(i-1) とが等しいか否かが判断される。
【0093】
このステップS202で否定的に判断された場合、および前記ステップS201で否定的に判断された場合には、現時点の領域Te_ID(i) の近傍もしくは隣接して既学習領域があるか否かが判断される(ステップS203)。既学習領域が近傍もしくは隣接して存在することによりステップS203で肯定的に判断された場合には、その学習値および推定入力トルクとに基づいて限界挟圧力検出開始時の油圧gPd-Sが算出される(ステップS204)。これとは反対に既学習領域が近傍もしくは隣接して存在しない場合には、挟圧力についての前回の指令値を限界挟圧力検出開始時の油圧gPd-Sとして設定する(ステップS205)。
【0094】
そして、その開始時の油圧gPd-Sと指令油圧前回値との差から所定時間を算出する(ステップS206)。この所定時間は、実際の油圧が制御開始時の油圧に安定するのに充分な時間である。その所定時間の経過後に限界挟圧力の検出制御が開始される(ステップS207)。この限界挟圧力の検出制御は、要は、挟圧力を徐々に低下させて無段変速機1に微少滑りを生じさせ、もしくはマクロスリップ直前の状態に至らしめ、その時点の油圧に基づいて挟圧力を算出する制御である。
【0095】
こうして制御を開始した後、検出値が得られるまでの間は前記フラグgPd_f(i) が“1”にセットされるので、前述したステップS201で肯定的に判断される。したがって運転状態に変化がなければ、ステップS202で肯定的に判断された限界挟圧力の検出制御が継続される(ステップS208)。そして、限界挟圧力が検出されたか否かが判断され(ステップS209)、このステップS209で肯定的に判断された場合には、フラグgPd_f(i) が“0”にセットされ、かつその検出値に基づいて補正油圧分が算出され、これがその運転領域Te_ID(i) についての学習値として保持されるとともにその運転領域Te_ID(i) が既学習領域として設定される(ステップS210)。なお、ステップS209で否定的に判断された場合には、フラグgPd_f(i) を“1”にセット(ステップS211)した後にこのルーチンを一旦抜ける。
【0096】
図10に上記の図8および図9に示す制御を実行した場合のタイムチャートを示してある。図10において「セカンダリ油圧」とは、図11に示す従動プーリ14側の油圧アクチュエータ16に給排する油圧であって、挟圧力に対応している。図10に示す例は、運転状態が未学習領域にあり、その状態で制御前提条件が成立した例を示しており、a3 時点に制御が開始され、フラグgPd_f(i) が“1”にセットされるとともに、挟圧力指令値および挟圧力が次第に低下し始める。
【0097】
その結果、微少滑りが検出され、あるいはマクロスリップ直前の状態が検出されると、その時点の油圧に基づいて補正油圧が求められ、また滑りを解消するために挟圧力が一旦ステップ的に増大させられ、さらに既学習領域として設定される(b3 時点)。なお、検出値が得られたので、フラグgPd_f(i) が“0”にセットされる。その後、その学習値を使用して限界挟圧力を設定する制御が実行される。すなわち、挟圧力が学習値に基づく圧力に向けて次第に低下させられる。
【0098】
こうして挟圧力を学習値に基づく低い圧力に設定している状態で運転状態が未学習領域に入ると(c3 時点)、限界挟圧力検出開始油圧gPd_Sを設定する指令値が出力され、またフラグgPd_f(i) が“1”にセットされる。なお、限界挟圧力検出開始油圧gPd_Sは、図10に記載してあるように、通常油圧から補正油圧を減算し、これに所定値ΔPd を加えた圧力である。
【0099】
実油圧がその開始油圧gPd_Sになるのに充分な所定時間の経過を待って、挟圧力が次第に低下させられる。そして、微少滑りもしくはマクロスリップ直前の状態が検出されると、その時点の油圧に基づいて補正油圧が求められ、また挟圧力が一旦ステップ的に増大させられ、その領域が既学習領域として設定され、さらにフラグgPd_f(i) が“0”にセットされる(d3 時点)。これは、前述したc3 時点での制御と同様である。
【0100】
上述した挟圧力の低下を伴う制御の過程で、無段変速機1に対して直列に配列されているロックアップクラッチ3の滑りに対する余裕を、無段変速機1における挟圧力の滑りに対する余裕より小さく設定するトルクヒューズ制御が実行されている。したがって制御の途中で入力トルクが増大するなどの事態が生じても、ロックアップクラッチ3の滑りが先に生じて無段変速機1に対するトルクが制限されるので、無段変速機1での過剰な滑りが防止もしくは抑制される。
【0101】
ここで、上記の具体例とこの発明との関係を簡単に説明する。請求項1の発明について、前述したステップS4あるいはステップS34の機能的手段が、降圧手段に相当し、またステップS12あるいはステップS60の機能的手段が、圧力設定手段に相当する。また、請求項7の発明における降圧手段には、図5の破線で示すように、あるいは図6に示すように挟圧力を低下させるステップS34の機能的手段が相当する。
【0102】
請求項8あるいは9の発明について、前記ステップS5あるいはステップS35の機能的手段が、滑り検出手段に相当し、ステップS15あるいはステップS44の機能的手段が、昇圧手段に相当する。さらに、請求項10の発明について、前述したステップS35の機能的手段が、滑り検出手段に相当し、ステップS44の機能的手段が、圧力復帰手段に相当し、ステップS45の機能的手段が、トルク制限手段に相当する。
【0103】
請求項11の発明における滑り制御手段には、前述したステップS102の機能的手段が相当する。さらに、請求項12の発明について、ステップS11の制御をおこなった後のステップS4の機能的手段が、再降圧手段に相当する。
【0104】
請求項13の発明について、次のサイクルで圧力の低下幅を増大させるステップS4の機能的手段が、再降圧手段に相当する。さらに、請求項14の発明について、ステップS4の機能的手段が、滑り検出手段に相当し、ステップS17の機能的手段が、滑り圧力判定手段に相当する。そして、請求項15の発明について、ステップS4の機能的手段が、ステップ的に圧力を低下させる手段に相当する。
【0105】
なお、この発明は上記の具体例に限定されないのであり、この発明で対象とする無段変速機は、上述したベルト式無段変速機の他に、トロイダル型無段変速機であってもよい。また、いわゆるトルクヒューズ制御でのクラッチは、ロックアップクラッチ以外に発進クラッチなどの無段変速機に対して直接に配列され、かつ伝達トルク容量の可変なクラッチであってよい。
【0106】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1ないし6の発明によれば、伝動部材間で伝達トルク容量を生じさせるように付加する圧力が、所定値の範囲内での低下の過程における最低下値に基づいて設定され、すなわち伝達トルク容量が最低下値に基づいて決定された容量とされるため、伝動部材に付加する圧力を滑りを生じさせない範囲で低下させることができ、またその過程で圧力の応答遅れあるいはオーバーシュートによる過剰な滑りを防止することができる。
【0107】
また、請求項7の発明によれば、伝動部材間の滑り状態を変化させるべく前記圧力を低下させる場合、ステップ的に低下させた後に、徐々に圧力を低下させるため、所定の低下値に到るまでの時間を短縮でき、また所定の低下値に達する時点の低下勾配を小さくすることができるので、圧力低下のオーバーシュートやそれに伴う過剰な滑りを防止もしくは抑制することができる。
【0108】
さらに、請求項8および9の発明によれば、伝動部材に付加する圧力を所定の圧力から低下させ、その伝動部材間の滑りが検出されると、前記付加する圧力を、低下開始時の圧力より高い圧力にステップ的に昇圧させるよう指示するので、伝動部材に実際に付加される圧力の上昇が早くなり、伝動部材間の滑りを迅速に抑制もしくは解消することができ、言い換えれば、過剰な滑りに到ることを防止することができる。
【0109】
さらにまた、請求項10の発明によれば、伝達トルク容量を設定するための圧力を低下させることにより伝動部材間の滑りが検出された場合、その圧力をステップ的に増大指示すると同時に、動力源のトルクすなわち無段変速機に入力されるトルクを低下させるため、伝動部材間の滑りを迅速に収束させ、もしくは抑制することができる。
【0110】
そして、請求項11の発明によれば、無段変速機で滑りを生じさせるように挟圧力などの圧力を低下させる場合、その無段変速機に対して直列に配列されたクラッチを、無段変速機よりも先に滑りを生じさせるように制御するので、無段変速機およびクラッチを含む伝動系統に作用するトルクが増大した場合であっても無段変速機の過剰な滑りを防止もしくは抑制することができる。
【0111】
そしてまた、請求項12の発明によれば、伝達トルク容量を設定する圧力を低下させる場合、その低下幅が所定値に制限され、その低下によって伝動部材間の滑りが検出されなかった場合、従前より低い圧力から再度、所定値、低下させるから、前記圧力が過剰に低下したり、あるいは過剰な滑りが生じることを防止もしくは抑制しつつ、伝動部材間の滑りを生じさせることができ、またいわゆる滑り限界圧力を求めることができる。
【0112】
さらに、請求項13の発明によれば、伝達トルク容量を設定する圧力を低下させる場合、その低下幅が所定値に制限され、その低下によって伝動部材間の滑りが検出されなかった場合、従前より大きい低下幅で、前記圧力を再度、低下させるから、前記圧力が過剰に低下したり、あるいは過剰な滑りが生じることを防止もしくは抑制しつつ、伝動部材間の滑りを生じさせることができ、またいわゆる滑り限界圧力を求めることができる。
【0113】
さらにまた、請求項14の発明によれば、前記圧力を低下させて伝動部材間に滑りを生じさせ、その滑りを検出した場合、その滑りの検出時点より前の時点における圧力を、滑り開始の圧力と判定するので、滑りの検出に不可避的な遅れがあったとしても滑り開始の圧力を正確に判定することができる。
【0114】
これに対して、請求項15の発明によれば、伝動部材間の伝達トルク容量を設定する圧力を低下させる場合、指令値をステップ的に低下させて前記圧力を低下させるので、実際の圧力が応答遅れを伴って所定の勾配で低下し、もしくは変化曲線を画いて低下し、そのような変化の過程における圧力を、滑り検出時点より前の時点の滑り開始時の圧力として判定することになり、その結果、その判定精度を向上させることができる。
そして、請求項16の発明によれば、ベルト式無段変速機について上記の各請求項1ないし15の発明と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の制御装置による制御の一例を説明するためのフローチャートである。
【図2】 図1の制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【図3】 この発明の制御装置による他の制御例を説明するためのフローチャートの一部を示す図である。
【図4】 この発明の制御装置による他の制御例を説明するためのフローチャートの他の部分を示す図である。
【図5】 図3および図4に示す制御を実行した場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【図6】 降圧指令の他の例を説明するための図であって、指令値と実際の油圧の変化を示す部分的なタイムチャートである。
【図7】 制御前提条件がアクセルペダルの踏み込みによって成立しなくなった場合の電子スロットルバルブの制御の一例を示すタイムチャートである。
【図8】 この発明の制御装置による更に他の制御例を説明するためのフローチャートである。
【図9】 その図8に示すフローチャートにおける所定制御の内容を示すフローチャートである。
【図10】 図8および図9に示す制御をおこなった場合のタイムチャートの一例を示す図である。
【図11】 この発明で対象とする動力伝達機構を含む伝動系統の一例を模式的に示す図である。
【符号の説明】
1…無段変速機、 3…ロックアップクラッチ、 5…エンジン(動力源)、13…駆動プーリ、 14…従動プーリ、 15,16…アクチュエータ、 17…ベルト、 20…駆動輪、 25…変速機用電子制御装置(CVT−ECU)。

Claims (16)

  1. 付加される圧力に応じて伝達トルク容量が変化する伝動部材を備え、前記圧力を低下させることに伴う前記伝動部材の間での滑り状態に基づいて前記圧力の制御をおこなう無段変速機の制御装置において、
    前記圧力を予め定めた所定値低下させる降圧手段と、
    その降圧手段によって前記圧力を所定値低下させて前記伝動部材間の滑りが検出されなかった場合に、その圧力の最低下値に前記路面の凹凸などに起因する入力に対応する圧力を加えた値に前記圧力を設定する圧力設定手段と、
    前記降圧手段によって前記圧力を所定値低下させる制御を行うことを可能にする制御前提条件の成立を判断する判断手段と
    を備え、
    前記圧力設定手段は、前記制御前提条件が成立しなくなったことが前記判断手段で判断された場合に、前記最低下値に前記路面の凹凸などに起因する入力に対応する圧力を加えた値に前記圧力を設定する手段を含む
    とを特徴とする無段変速機の制御装置。
  2. 前記最低下値は、前記降圧手段によって前記圧力を低下させた後、前記制御前提条件が成立しなくなったことが前記判断手段で判断されて前記圧力の低下の制御が中止された場合における前記圧力の低下開始から制御中止までにおける最も低い圧力である
    とを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  3. 記制御前提条件は、走行路面が平坦でかつ過剰な凹凸がないこと、泥濘路でない良路であること、所定車速以上の定速走行状態であること、前記圧力の補正が完了していないこと、制御機器にフェイルが生じていないことの少なくともいずれかを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機の制御装置。
  4. 記検出されない滑りは、摩耗や凝着の要因となる滑りであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
  5. 記降圧手段は、前記圧力を低下させるためにステップ的に変化する指令信号を出力し、所定時間の間、その変化後の指令信号を維持する手段を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
  6. 入力トルクに対応させて前記圧力を決定するマップと、
    前記圧力設定手段によって前記圧力が設定された場合に、そのマップ値を変更する変更手段と
    を更に備えていることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
  7. 前記降圧手段は、前記伝動部材間での滑り状態を変化させるべく前記圧力を低下させる際に、前記圧力をステップ的に低下させた後に緩やかな勾配で低下させる手段を含むことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  8. 前記圧力の低下に伴う前記伝動部材間の滑りを検出する滑り検出手段と、
    その滑り検出手段で前記伝動部材間の滑りが検出された場合に、前記伝動部材に付加する圧力を、ステップ的に増大させるように指示する昇圧手段と
    更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  9. 前記圧力の低下に伴う前記伝動部材間の滑りを検出する滑り検出手段と、
    その滑り検出手段で前記伝動部材間の滑りが検出された場合に、前記伝動部材に付加する圧力を、前記低下を開始する時点の圧力より高い圧力にステップ的に増大指示する昇圧手段と
    を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  10. 前記圧力の低下に伴う前記伝動部材間の滑りを検出する滑り検出手段と、
    その滑り検出手段で前記伝動部材間の滑りが検出された場合に前記圧力をステップ的に増大指示する圧力復帰手段と、
    その圧力復帰手段によって前記圧力を増大指示する際に、前記無段変速機が連結されている動力源のトルクの増大を制限するトルク制限手段と
    を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  11. 記無段変速機に対して直列に連結されたクラッチと、
    前記伝動部材間の滑りを検出するべく前記圧力を低下させる際に、外乱時に前記無段変速機に対して前記クラッチで先に滑りが生じる状態を設定する滑り制御手段と
    を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  12. 記降圧手段によって前記圧力を所定値低下させて前記伝動部材間の滑りが検出されなかった場合に、前記所定値低下させる前の圧力より低い圧力から再度、前記所定値降圧させる再降圧手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  13. 前記降圧手段によって前記圧力を所定値低下させて前記伝動部材間の滑りが検出されなかった場合に、前記所定値低下させる前の圧力から、前記所定値より大きく前記圧力を低下させる他の再降圧手段を更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  14. 記圧力を低下させることに伴う前記伝動部材間での滑りを検出する滑り検出手段と、
    その滑り検出手段で前記伝動部材間の滑りが検出された時点より前の時点における圧力を前記伝動部材間の滑り開始圧力と判定する滑り圧力判定手段と
    更に備えていることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機の制御装置。
  15. 記圧力の指令値を、所定値、ステップ的に低下させる手段を更に備えていることを特徴とする請求項14に記載の無段変速機の制御装置。
  16. 記無段変速機は、駆動プーリと、従動プーリと、これらのプーリに巻き掛けられているベルトとを有するベルト式無段変速機であることを特徴とする請求項1ないし15のいずれかに記載の無段変速機の制御装置。
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