JP4357132B2 - 真空遮断器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、遮断特性と再点弧特性の優れた接点を有する真空バルブを備えた真空遮断器に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に真空遮断器は、真空中でのアークの拡散性を利用して高真空中で電流遮断を行わせる真空バルブの接点は、対向する固定、可動の2つの接点から構成されている。
【0003】
代表的な真空バルブは図1に示すごとく、絶縁容器101の両端開口部を蓋体102a,102bにより閉塞した真空容器103内に、一対の接触子104,105を対向させて設けると共にこれらを蓋体102a,102bを貫通させて真空容器103内に挿入された通電軸106,107の端部にそれぞれ装着し、その一方の通電軸107を図示しない操作機構により軸方向に移動可能として、一方の接点(以下固定接点)104に対して、他方の接点(以下可動接点)105を接触または開離できるように構成してある。この場合、蓋体102bと通電軸107との間には、真空容器103内を真空気密に保持しかつ通電軸107の軸方向への移動を可能とするベローズ108が設けられる。また、各接点104,105および通電軸106,107を包囲するごとく設けられたシールド109は絶縁容器101の内壁及び蓋体102a,102bの内側に固定されている。
【0004】
真空遮断器は、通電状態では通常両接点104,105が接触している。この状態から開動作により通電軸107が図中矢印M方向に移動すると、可動接点105が固定接点104から開離し、両接点間にはアークが発生する。このアークは陰極例えば可動接点105側からの金属蒸気の発生により維持され、電流がゼロ点(零点)に達すると金属蒸気の発生が止まってアークが維持できなくなり、遮断が完了する。
【0005】
ところで、両接点104,105間に発生するアークは、遮断電流が大きいとアーク自身により生じた磁場と外部回路の作る磁場との相互作用により著しく不安定な状態となる。その結果、アークは接点面上を移動し(接点が電極に取り付けられ一体化している時には、アークは電極面上にも移動している場合もある)、接点の端部あるいは周辺部に片寄り、その部分を局部的に過熱し、多量の金属蒸気を発生させて、真空容器103内の真空度を低下させる。その結果、真空遮断器の遮断性能は低下する。これらは金属組織などで代表される接点の状態に依存することが多い。
【0006】
図2は他の代表的な真空バルブの断面図である。この真空バルブが図1の真空バルブと異なる構成は、一対の接点41,51を対向させて設けると共に接点41の背面には平板型電極40、接点51の背面には平板型電極50をそれぞれ装着した点である。また接点41の背面にはコイル電極、接点51の背面にはコイル電極をそれぞれ装着した真空バルブも知られている。
一般に真空遮断器では、大電流遮断性能、耐電圧性能、耐溶着性能の基本3要件の他に再点弧現象の発生の抑制が重要な要件となっている。
【0007】
しかしながら、これらの要件の中には相反するものがある関係上、単一の金属種によって総ての要件を満足させることは不可能である。このため、実用されている多くの接点材料においては、不足する性能を相互に補るような2種以上の元素を組合せることによって、例えば大電流用、高耐圧用などのように特定の用途に合った接点材料の選択採用が行われ、それなりに優れた特性を持つ真空バルブが開発されているが、それでも一部の機能を犠牲にして対応している製品が多い。さらに強まる要求を十分満足する真空バルブは未だ得られていないのが実状である。
【0008】
例えば、大電流遮断特性を目的とした接点として、Crを50wt%程度含有させたCu−Cr合金(特公昭45−35101号公報)が知られている。この合金は、Cr自体がCuと略同等の蒸気圧特性を保持しかつ強力なガスのゲッタ作用を示す等の効果で高電圧大電流遮断性を実現し、高耐圧特性と大容量遮断とを両立させ得る接点として多用されている。
【0009】
この合金は、活性度の高いCrを使用していることから、原料粉の選択、不純物の混入、雰囲気の管理などに十分に配慮しながら接点素材を製造(焼結工程など)したり、接点素材から接点片へと加工に配慮しながら接点製品としているが、再点弧の発生が引金となって遮断性能を低下させる場合が見られ、その改善が望まれている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
例えばCuCr接点は、両者の高温度での蒸気圧特性が近似していることなどが主因となって、遮断した後でも接点表面は比較的平滑な損傷特性を示し、安定した電気特性を発揮している。
【0011】
近年では一層の大電流遮断やより高電圧が印加される可能性のある回路への適応が日常的に行われる結果、接点として加工した新品時の表面状態、電流遮断後の接点表面の損傷状態などによっては、次の定常電流の開閉時の接触抵抗の異常上昇や温度の異常上昇を引起こす原因となったり、耐電圧不良を示し再点弧発生の一因となっている。
【0012】
しかし、接点の表面状態を管理しても完全には再点弧発生を抑制することができず十分な電流遮断特性が得られていないのが現実である。
更に、例えばCuCr合金の再点弧特性と遮断特性は、合金中のCr量の変動、Cr粒子の粒度分布、Cr粒子の偏析の程度、合金中に存在する空孔の程度などに依存することが判明しているが、これらの最適化を進めているにも拘わらず、上述した近年の適応状況では、まだ再点弧特性にはばらつきが見られ、遮断特性との両特性を兼備した真空バルブが必要となってきた。
【0013】
本発明は上記状況に対処するためになされたもので、その目的は接点合金の再点弧特性を安定化させて電流遮断特性の優れた真空バルブを備えた真空遮断器を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
電流を遮断した直後の接点面は、主としてアーク熱によって極めて高温度になり、溶融した接点面からは多量の気体成分(一般にガス成分)が電極空間に放出される。この気体成分が電極間に所定時間以上停滞していると、真空の持つ優れた絶縁性は破壊される。従って電極間の絶縁耐力を維持するには、放出された気体成分を速やかに電極間以外に拡散除去されることが重要であり、また接点面から放出される気体成分の絶対量をあらかじめ極少にしておくことも重要である。
【0015】
本発明者等の研究によれば、気体成分中に質量数の大きい成分は拡散速度が遅く電極空間に残存しやすく、再点弧特性の向上、遮断特性の向上に対して、絶縁の回復性を速めなければならない。
【0016】
また真空バルブの再点弧特性、遮断特性の安定化には、一般に接点材料の組成、成分量の変動、粒度、粒度分布、偏析の程度、合金中に存在する空孔の程度などに依存するが、特に再点弧特性のより一層の安定化には、上記に加えて接点からのガス放出挙動が関与する。特に気体分子の総量(ΣGas)中に含まれる質量数が39以上である気体分子の総量(ΣM/Z≧39)との相互の関係が極めて重要であることが分かった。
【0017】
上記目的を達成するため請求項1の発明は、真空容器内に貫入された可動通電軸および固定通電軸と、一端が前記通電軸に接合され接離可能に対向する一対の接点と、必要によりアークシールドとを有する真空バルブを備えた真空遮断器において、前記接点は、0.005〜0.5重量%のCrを固溶した10〜85重量%のCuCr固溶体からなる導電性成分と、残部が平均粒子直径0.1〜150μm未満のCrからなる耐弧成分と、0.002〜0.5重量%のFeと、必要により添加した補助成分と、から構成され、前記接点に含有される質量数が39以上の気体分子の総量が、前記接点に含有される気体分子の総量の1.0×10-5容積%〜1.0×10+1容積%であることを特徴とする。
【0018】
すなわち、質量数が39以上の気体分子が遮断直後の電極空間に所定量以上なお残存していると(所定量とは、気体分子の総量中に占める質量数39以上の気体分子が1.0×10+1容積%以上占めている状態を指す)、再点弧の発生や遮断性能の低下を招き好ましくない。従って好ましい状態は気体分子の主体が質量数39より低い気体分子によって構成され、1.0×10+1容積%以下であることが好ましい。質量数が39以上の気体分子は、遮断直後に電極空間から系の外に拡散除去する迄の時間が大きく要し、また質量数が39以上の気体分子の総量が、気体分子中に1.0×10+1容積%より多く残存すると絶縁破壊を一層助長する。一方、気体分子の総量を1.0×10-5容積%より低くした接点合金を生産するのには、経済的に不利であり工業的意味がない。
【0026】
また、接点から放出される気体分子の総量中に含まれる質量数が39以上である気体分子の総量を、例え1.0×10+1容積%以内に制御したとしても、接点合金中の導電性成分が10%(重量%)未満では遮断特性が大幅に低下する。また導電性成分が85%(重量%)より大の時では再点弧特性(再点弧が多発する)が大幅に低下し好ましくない。
【0027】
また、耐弧性成分の平均粒子直径は、0.1〜150μmの範囲のCr粒子が少なくとも75容積%を占める時、安定した再弧特性を発揮する。しかし接点から放出される気体分子の総量中に含まれる質量数が39以上である気体分子の総量を1.0×10+1容積%以内に制御したとしても、Cr粒子の平均粒子径が0.1μm未満では、Cu−Cr合金中のCr粒子の分布は、十分には分散できず凝集部分が存在すると共に、Cu−Cr接点素材中のガス量が低減化できず、いずれも再点弧発生を増長させている。150μmを越えると、仕上げ加工した接点表面には、Cr粒子とCu相界面に引っかき状の傷を残し平滑で均一な状態が得難く再点弧発生に大きなバラツキを示す。
【0029】
さらに、接点から放出される気体分子の総量中に含まれる質量数が39以上である気体分子の総量を1.0×10+1容積%以内に制御したとしても、導電性成分(Cu相)中に固溶させたCrの量が0.5重量%を越すと、接点の製造技術上経済性の面で問題であると共に、接点合金自体の導電率が低下し遮断特性が大幅に低下する。また、導電性成分(Cu相)中に固溶させるCrの量を0.005%(重量%)未満に制御するのは工業的にも経済的にも得策でない。
【0035】
また、接点合金中のFeの存在は、接点面や電極空間に作用する外部からの磁界あるいは自己電流による磁界の分布などを改善し、接点面上でのアークのミクロ的な片寄りの平均化に寄与し、遮断電流特性の向上に対して相乗的効果を発揮する。総Fe量が0.002〜0.5重量%含有する接点を配置すると、対向する一対の接点空間の磁束は、接点面の特定領域に集中することがなく、しかも平行でかつ接点表面に対してほぼ垂直なものとなり、遮断性能が向上すると共に安定化する。
【0036】
また前記接点において、Cu領域中に分散しているFeの間隙を0.01μm未満としても、0.01μm未満に均一にする製造コストの大幅な上昇にもかかわらず、遮断特性の向上への格別の効果は示さない。5μmを越えると接点間の磁束分布の均一性に欠けるため遮断特性の低下が見られる。
また前記接点において、Cu領域中のFeが5μmよりも大きな粒子直径となると、接点空間の磁束分布の均一性が乱れ、安定した遮断特性が得られない。
【0037】
また、Cr領域中のFeの間隙を0.01μm未満としても、0.01μm以上と比較して製造コストの増加の割には遮断特性の向上効果が少ない。なた150μmを越えると接点空間の磁束分布の均一性に欠けるため遮断特性の低下が見られる。
【0038】
また、接点中のFeの一部または総てをCo、Niで代替しても接点空間の磁束は、接点面の特定領域に集中することがなく、しかも平行でかつ接点表面に対してほぼ垂直なものとなり、Feと同様に遮断性能が向上すると共に安定化する。
【0044】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の真空遮断器において、前記可動通電軸および固定通電軸の導電率が少なくとも70%IACSであることを特徴とする。
【0045】
すなわち、接点から放出される気体分子の総量中に含まれる質量数が39以上である気体分子の総量を例え1.0×10+1容積%以内に制御したとしても、コイル電極の導電率が70%IACS未満では、回路抵抗を増加させ温度上昇の増加を招き遮断電流値の低下、定格開閉電流値の低下を来し好ましくない。
【0046】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の真空遮断器において、前記一対の接点のそれぞれの背面に装着されたコイル電極の導電率が少なくとも70%IACSであることを特徴とする。
【0047】
すなわち、接点から放出される気体分子の総量中に含まれる質量数が39以上である気体分子の総量を例え1.0×10+1容積%以内に制御したとしても、通電軸の導電率が70%IACS未満では、回路抵抗、温度上昇の増加を招き遮断電流値の低下、定格開閉電流値の低下を来す。
【0049】
【発明の実施の形態】
(1)まず供試接点の選出と質量数の確認について説明する。
接点素材中に含有される気体分子の総量およびその中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量の調整は、各接点素材を各種条件の雰囲気中で加熱処理することによって調節した。すなわち加熱処理は加熱条件(加熱速度、冷却速度、加熱保持温度と時間)と雰囲気(真空の場合は真空度、各種ガスの場合は露点)の選択を調節して行った。また、各種ガス雰囲気中で加熱処理した後、真空雰囲気中で再加熱(複数の熱処理を組合せる)しながら微調整も行った。
【0050】
一方、このようにして得た接点を十分洗浄しかつ乾燥した後、所定の温度(少なくとも800℃)で所定時間(少なくとも1分間)加熱保持中に、接点から放出されるガス放出特性(全圧)を測定すると共にその時の各気体分子の放出特性(分圧)を測定し、質量数が39以上の複数の気体分子の量を合計することによって質量数が39以上気体分子の総量とし、それらの比率から求めた。この場合の質量数の確認は、質量分析器により測定した。
【0051】
なお、少なくとも800℃の温度を選定する理由は、接点表面に単に吸着している気体分子を確実かつ効率的に除外するために選択した温度であって、測定精度と効率に配慮するのに有利である。この場合接点の溶融温度以上の測定温度を選択してもよく、一層の測定精度と効率を向上させる。
【0052】
本発明において、質量数が39以上の複数の気体分子に注目する理由は、下記による。すなわち接点から0.1m以下の極く近い場所、およびこの場所からステンレス管で数m以上隔離した極く遠い場所、これらの中間的場所のごとく複数箇所に質量分析管を取り付けた実験用遮断装置を準備し、遮断瞬時の各箇所での各気体分子の到達状況を同時に観察すると、質量数の大きい各種炭化水素(質量数39〜57など)、二酸化炭素(質量数44)は前記接点から極く近い場所で観察されているが、遠い場所では測定精度以下のわずかな量であったに対して、質量数の小さいまたは比較的小さい水素、水、一酸化炭素、酸素(質量数2,18,28,32)は、前記接点から近い場所のみでなく、極く遠い場所でも十分観察された。設置した複数の質量分析管の取り付け間隔(距離)から推定した所定時間内例えば10msでの移動距離の違いは、質量数の小さい水素または比較的小さい水では、質量数の大きい炭化水素(質量数57)の約5〜10倍であった。すなわち質量数の大きい炭化水素(質量数57)の方が、質量数の小さいまたは比較的小さい水素や水よりも、遮断直後には電極空間に停滞している率が大であることを示唆し、その結果電極間の絶縁回復が遅れ、遮断特性を低下させている。そのことから接点中に質量数の大きい気体分子の所定量以上の存在は好ましくない。炭化水素(C3H3、C3H4、C3H5、C3H6、C3H7、C4H3、C4H4、C4H5、C4H6、C4H7、C4H8、C4H9)や、二酸化炭素(CO2)を工業的安価に分別することは困難であって、接点中の質量数39以上の気体分子は1つまたは混合体として存在する。これらの気体分子は遮断特性、再点弧特性に対して、質量数39以上の複数の気体分子の総計量として、遮断特性、再点弧特性に関与する。
【0053】
このようにして、複数の接点素材から所定の質量数を有する接点を選出し、接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量(容積比)を決定した。
【0054】
(2)次に、遮断テスト用実験バルブの組立ての概要を説明する。端面の平均表面粗さを約1.5μmに研磨したセラミックス製絶縁容器(主成分:A2LO3)を用意し、このセラミックス製絶縁容器については、組立て前に1600℃の前加熱処理を施した。封着金具として、板厚さ2mmの42%Ni−Fe合金を用意した。ロウ材として、厚さ0.1mmの72%Ag−Cu合金板を用意した。上記用意した各部材を被接合物間(セラミックス製絶縁容器の端面と封着金具)に気密封着接合が可能なように配置して、5×10-4Paの真空雰囲気で封着金具とセラミックス製絶縁容器との気密封着工程に供した。
【0055】
(3)再点弧特性
直径30mm、厚さ5mmの円板状接点片を、ディマウンダブル型真空バルブに装着し、24kv×500Aの回路を2000回遮断した時の再点弧発生頻度を表示した。
【0056】
なお、結果は(実施例1)の発生数の平均を1.0とした時の発生倍率が0.1未満の場合を(A)、0.1〜0.8を(B)、0.8〜1.2を(C)、1.2〜1.5を(D)、1.5〜10を(X)、10〜100を(Y)、100以上を(Z)として表示した。
【0057】
(4)遮断特性
直径70mmの接点を装着した遮断テスト用実験バルブを開閉装置に取り付けると共に、ベーキング、電圧エージング等を与えた後、24kv、50Hzの回路に接続し、電流をほぼ1kAずつ増加しながら遮断限界を真空バルブ3本につき比較評価した。なお、数値は(実施例1)の値を1.0とした時の比較値をバラツキ幅を持って示した。
【0058】
次に、本発明の実施例と比較例について、以下詳細に説明する。
1(実施例1〜4,比較例1〜2)
この例では、接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の量に注目している。
【0059】
そこで、本発明の実施例及び比較例では、接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量を、前記した方法(例えば処理雰の選択とその質、処理温度、時間、原料粉の調節など)によって調整した2.3×10+1から1.0×10-5の範囲にある素材を選出し試験に供した(比較例1,実施例1〜4)。すなわち、評価用代表接点としてCu粉、Cr粉の成型体に対して、1060℃の加熱処理を与えたCu−25%Cr合金を選定し、これらの接点合金に対して、前記した方法で接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の容積比を、1.0×10+1容積%(実施例1:標準試料)、6.5×10-1容積%(実施例2)、4.8×10-3容積%(実施例3)、1.0×10-5容積%(実施例4)を製造した。
【0060】
再点弧特性及び遮断特性の評価は、質量数が39以上の気体分子の総量と(実施例1)の再点弧特性を標準とした時の各接点の再点弧発生頻度との相対値を調査すると共に、遮断特性も(実施例1)の遮断電流値を1.0とした時の各接点の相対値を調査した。
【0061】
再点弧特性の頻度は、質量数39以上の気体分子の総量が(実施例1)より少ない(実施例2)では、0.1未満(評価A)と0.1〜0.8(評価B)を示し、(実施例3)では0.1未満(評価A)、(実施例4)でも0.1未満(評価A)を示し再点弧特性の改善が見られるのに対して、質量数39以上の気体分子の総量が(実施例1)より多い2.3×10+1容積%(比較例1)では、遮断直後の絶縁回復が著しく遅く耐電圧性低下で再点弧特性は著しく低下した。明らかに接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数39以上の気体分子の総量が減少する場合に再点弧特性は向上する傾向にある。
【0062】
遮断特性は、質量数39以上の気体分子の総量が(実施例1)より少ない(実施例2)の遮断倍率は(0.9〜1.0)倍を示し、(実施例1)とほぼ同程度の遮断特性であり、(実施例3)の遮断倍率は(1.05〜1.2)倍に向上、(実施例4)の遮断倍率は(1.2〜1.3)倍に向上が見られるのに対して、質量数39以上の気体分子の総量が(実施例1)より多い2.3×10+1容積%(比較例1)では、再点弧が多発し製品化が不能と判断したため、遮断特性評価を中止した。明らかに接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数39以上の気体分子の総量が増加する場合に遮断特性は低下する傾向にある。
【0063】
従って、接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量は、上限を1.0×10+1容積%とすることが好ましく、下限は経済性によって決定される。
【0064】
2(実施例5〜7,比較例2〜3)
実施例1〜4及び比較例1〜2では、接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量の再点弧特性、遮断特性に及ぼす影響を、接点合金中のCu量を75重量%(以下接点材料については重量%)とした75%Cu−Cr接点について示したが、本発明はこれに限ることなく上記75%Cu−Cr接点以外でもその効果を発揮する。
【0065】
すなわち接点合金中のCu量を5%とした5%Cu−Cr(比較例2)、10%Cu−Cr(実施例5)、50%Cu−Cr(実施例6)、80%Cu−Cr(比較例7)、98%Cu−Cr(比較例3)を製造した上で、これらの接点材料の中から質量数39以上の気体分子の総量が1.6〜8.3×10-1容積%の範囲内にある接点材料を選択した上で、前記1の場合と同様の評価を実施した。
【0066】
再点弧発生の頻度は、接点中のCu量が(実施例1)の75%より多い85%Cu−Cr(実施例7)では、(実施例1)とほぼ同等の0.8〜1.2および1.2〜1.5(評価C〜D)を示し、(実施例6)と(実施例5)では(実施例1)と同等もしくは向上した0.1〜0.8および0.8〜1.2(評価B〜C)を示し、再点弧特性の改善が見られ良好な特性を発揮している。接点中のCu量が(実施例5)の10%より少ない5%Cu−Cr(比較例2)でも、(実施例5)と同等の0.1〜0.8および0.8〜1.2(評価B〜C)を示し、良好な再点弧特性を発揮している。これに対して、接点中のCu量が(実施例7)の85%より多い98%Cu−Cr(比較例3)では、電流遮断時に一部に溶着現象の発生や接点表面の荒れが大きくなる現象を見せ接点の耐電圧特性の低下によって、1.5〜10(評価X)と100以上(評価Z)を示し、再点弧特性は大きなバラツキを示すと共に著しく低下し好ましくない。
以上の事例より、本発明を適応する接点素材中に含有されるCu量は85%以下が好ましい。
【0067】
遮断特性は、接点中のCu量が85%Cu−Cr(実施例7)の遮断倍率は(1.0〜1.0)倍、50%Cu−Cr(実施例6)の遮断倍率は(1.0〜1.05)倍、10%Cu−Cr(実施例5)の遮断倍率は(0.9〜1.0)倍を示し、(実施例1)とほぼ同程度の遮断特性にある。接点中のCu量が(実施例5)の10%より少ない5%Cu−Cr(比較例2)の遮断倍率は、接点材料自体の低導電率化によって(0.55〜0.7)倍を示し、大幅な低下を示している。これに対して、接点中のCu量が(実施例7)の85%より多い98%Cu−Cr(比較例3)の遮断倍率は(0.7〜1.15)倍を示し、接点表面の荒れが起因して遮断特性は大きなバラツキをした。
以上の事例より、本発明を適応する接点素材中に含有されるCu量は10〜85%の範囲の接点を使用するのが好ましい。
【0068】
3(実施例8〜19)
実施例1〜7及び比較例1〜2では、接点素材中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量の再点弧特性、遮断特性に及ぼす影響を、接点合金中のCu量を75重量%(以下接点材料については重量%)とした75%Cu−Cr接点について示したが、本発明はこれに限ることなくCu−Cr接点以外でもその効果を発揮する。
【0069】
すなわち接点素材中に含有した耐弧性成分の種類が、W(残部が75%Cu)、Mo(残部が75%Cu)、Ti(残部が75%Cu)、Cr:W=9:1(残部が75%Cu)、Cr:W=5:5、Cr:Mo=9:1(残部が75%Cu)、Cr:Ti=9:1、WC(残部が75%Cu)、WC(残部が40%Ag)、Mo2C(残部がAg/Cu:52/53)、TiC(残部が75%Cu)、Cr3C2(残部が75%Cu)で置換しても、(実施例1)とほぼ同等以上の(評価D)以上の再点弧特性、遮断倍率(0.9)倍以上の遮断特性を示した(実施例8〜19)。
【0070】
4(実施例20〜22,比較例4〜5)
実施例1〜7及び実施例11〜14並びに比較例1〜3では、接点合金中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量の再点弧特性、遮断特性に及ぼす影響を、接点合金中の導電成分(Cu)中に固溶する耐弧成分の種類をCr、その量を0.02%とした接点について示したが、本発明はこれに限ることなく、上記した0.02%以外でもその効果を発揮する。
【0071】
すなわち接点合金中の導電成分中に固溶する耐弧成分(Cr)の量を、0.005%、0.1%、0.5%とした75%Cu−Cr(実施例20〜22)75%Cu−Cr(実施例21)、75%Cu−Cr(実施例22)を、主として冷却過程での冷却速度を調整しながら製造した上で、これらの接点材料中の質量数39以上の気体分子の総量が1.6〜8.3×10-1容積%の範囲内にある接点材料を選択し、前記1の場合と同様の評価を実施した。
【0072】
再点弧発生の頻度は、導電成分中に固溶する耐弧成分(Cr)の量が(実施例1)の0.02%より少ない0.005%(実施例20)では、(実施例1)以上の0.1未満(評価A)および0.1〜0.8(評価B)を示した。(実施例21)と(実施例22)では(実施例1)と同等の0.8〜1.2(評価C)を示し、再点弧特性の改善が見られ良好な特性を発揮している。導電成分中に固溶する耐弧成分(Cr)の量が(比較例5)の0.5%以上(比較例5)では、0.8〜1.2および10〜100(評価C〜Y)を示し、バラツキ幅の大きい再点弧特性を示し好ましくない。これに対して、導電成分中に固溶する耐弧成分(Cr)の量を(実施例20)の0.005%より少なくした(比較例4)は、前記した(実施例20)と同等の0.1未満および0.1〜0.8(評価A)(評価B)を示し良好であったが、製造コストが高く供給性に難があり製造技術的観点から、本発明の好ましい範囲から除外する。
【0073】
遮断特性は、導電成分中に固溶する耐弧成分(Cr)の量が(実施例1)の0.02%より少ない0.005%(実施例20)の遮断倍率は、(1.0〜1.1)倍、0.1%(実施例21)の遮断倍率は(0.9〜0.95)倍を示し、いずれも良好の範囲である。これに対して、導電成分中に固溶する耐弧成分(Cr)の量を(実施例22)の0.5%より大きくした(比較例5)は、0.6〜0.75倍を示し大幅に劣化し好ましくない。
【0074】
5(実施例23)
実施例1〜7及び実施例11〜14並びに比較例1〜3では、接点合金中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量の再点弧特性、遮断特性に及ぼす影響を、接点合金中の導電成分(Cu)中に固溶する耐弧成分の種類がCrの場合について示したが、本発明はこれに限ることなく、耐弧成分の種類がTiであってもその効果を発揮する。
【0075】
すなわち接点合金中の導電成分中に固溶する耐弧成分(Ti)とし、その量を0.02とした75%Cu−Cr(実施例23)を製造し、前記1の場合と同様の評価を実施した。
【0076】
再点弧発生の頻度は、(実施例1)と同等以上の0.1〜0.8および0.8〜1.2(評価B〜C)を示し、良好な再点弧特性を発揮している。
遮断特性も、遮断倍率(0.9〜0.95)倍を示し良好の範囲である。
【0077】
6(実施例24〜25,比較例6〜7)
実施例1〜23及び比較例1〜5では、接点合金中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量の再点弧特性、遮断特性に及ぼす影響を、接点合金中のFe量を0.08%とした接点について示したが、本発明はこれに限ることなく、上記した接点合金中のFe量は0.08%以外でもその効果を発揮する。
【0078】
すなわち接点合金中Fe量を、0.002%、0.5%とした75%Cu−Cr(実施例24〜25)を製造した上で、これらの接点材料中の質量数39以上の気体分子の総量が1.6〜8.3×10-1容積%の範囲内にある接点材料を選択し、前記1と同様の評価を実施した。
【0079】
再点弧発生の頻度は、Fe量を0.002%とした(実施例24)およびFe量を0.5%とした(実施例25)のいずれもが、0.1未満(評価A)を示し、安定した再点弧特性を発揮している。これらは主として自己電流による磁界、外部磁界に作用して、接点表面、電極空間の磁界分布の改善に対するFeの存在効果による。一方、Fe量を0.001%未満とした(比較例6)では、0.1未満(評価A)および0.8〜1.2倍(評価B)の良好な再点弧特性を発揮したが、接点素材の製造において、性能向上/製造コストの比率が劣るため、本発明の好ましい範囲から除外する。これに対してFe量を2.0%とした(比較例7)では、0.8〜1.2倍(評価B)および10〜100倍(評価Y)となり、再点弧特性の大幅な低下とバラツキ幅の拡大が見られ好ましくない。
【0080】
遮断特性は、Fe量を0.002%とした(実施例24)およびFe量を0.5%とした(実施例25)では、遮断倍率1.1倍、遮断倍率1.15〜1.2倍を示し、いずれも遮断特性の向上とバラツキ幅の縮小化に寄与した。これに対して、Fe量を2.0%とした(比較例7)では、遮断倍率が0.8〜1.0倍を示し好ましくない。Fe量が2.0%の場合ではFeの偏析が起こり易いため、磁界分布の不均一化を招いていることが一因と考えられる。
【0081】
7(実施例26〜31,比較例8)
実施例1〜25及び比較例1〜7では、接点合金中に含有される気体分子の総量中に含まれている質量数が39以上の気体分子の総量の再点弧特性、遮断特性に及ぼす影響を、接点合金中にBiなど耐溶着性を改善する補助成分のない接点について示したが、本発明はこれに限ることなく、上記した接点合金中にBiなどが所定量以内存在してもその効果を維持する。
【0082】
すなわち接点合金中にBiを0.1%、1.0%添加した75%Cu−Cr(実施例26〜27)を製造した上で、これらの接点材料中の質量数39以上の気体分子の総量が1.6〜8.3×10-1容積%の範囲内にある接点材料を選択し、前記1と同様の評価を実施した。
【0083】
再点弧発生の頻度は、Bi量を0.1%とした(実施例26)およびBi量を1.0%とした(実施例27)では、0.1〜0.8(評価B)、0.8〜1.2(評価C)を示し、(実施例1)とほぼ同等の特性を示した。しかしBi量を2.0%とした(比較例8)では、10〜100(評価Y)および100以上(評価Z)となり、再点弧特性の大幅な低下とバラツキ幅の拡大が見られ好ましくない。なおBiの存在によって(実施例1)よりも大幅に耐溶着性が改善される。
【0084】
遮断特性は、Bi量を0.1%とした(実施例26)およびBi量を1.0%とした(実施例27)では、遮断倍率0.95、遮断倍率0.9を示し、いずれも(実施例1)とほぼ同等の特性を示した。これに対してBi量を2.0%とした(比較例8)では、遮断時に生ずるBiの選択的蒸発によって、接点表面の荒損し耐電圧特性の低下を招く結果、遮断倍率は0.3倍〜0.45倍を示し好ましくない。
【0085】
Pb量を0.3%とした(実施例28)、Sb量を0.1%とした(実施例29)、Te量を3.0%とした(実施例30)、Se量を1.0%とした(実施例31)などの他の耐溶着性成分を含有する75%Cu−Cr合金においても、0.1〜0.8(評価B)および0.8〜1.2(評価C)を示し良好な再点弧特性を示すとともに遮断倍率も0.9倍〜0.95倍を示し良好な遮断特性を示す。
上記各実施例及び各比較例の評価条件及び評価結果をまためたものを下記表1、表2、表3に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
(変形例)
(変形例1)
前記接点中の耐弧成分は、0.1〜150μmの平均粒子直径を持つことが好ましい。平均粒子直径が150μmを越える接点では、(実施例1)と比較した再点弧発生の頻度は、1.2〜1.5(評価D)および100以上(評価Z)を示し、大きなバラツキ幅を示す。また遮断倍率も0.5倍〜0.95倍を示してやはり大きなバラツキ幅を示し好ましくない。
【0090】
(変形例2)
前記接点は、少なくとも20%IACSの導電率を持つ合金であることが好ましい。導電率が20%IACS未満の場合では再点弧特性には変化は見られていないが、遮断倍率が0.6倍〜0.8倍を示し遮断特性の低下が認められる。
【0091】
(変形例3)
真空遮断器の通電軸は、少なくとも70%IACSの導電率を持つことが好ましい。導電率が70%IACS未満の場合では再点弧特性には変化は見られていないが、遮断倍率が0.7倍〜0.95倍を示し遮断特性の低下が認められる。
【0092】
(変形例4)
真空遮断器のコイル電極は、少なくとも70%IACSの導電率を持つことが好ましい。導電率が70%IACS未満の場合では再点弧特性には変化が見られていないが、遮断倍率が0.6倍〜0.85倍を示し遮断特性の低下が認められる。
【0093】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、再点弧特性と遮断特性とを両立させた真空バルブを備えた真空遮断器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の真空バルブの構成図。
【図2】従来の他の真空バルブの構成図。
【符号の説明】
40…電極、41…固定側接点、50…電極、51…可動側接点、101…絶縁容器、102a…固定側蓋体、102b…可動側蓋体、103…真空容器、104…固定接点、105…可動接点、106…固定通電軸、107…可動通電軸、108…ベローズ、109…アークシールド、M…通電軸の移動方向。
Claims (3)
- 真空容器内に貫入された可動通電軸および固定通電軸と、一端が前記通電軸に接合され接離可能に対向する一対の接点と、必要によりアークシールドとを有する真空バルブを備えた真空遮断器において、
前記接点は、0.005〜0.5重量%のCrを固溶した10〜85重量%のCuCr固溶体からなる導電性成分と、残部が平均粒子直径0.1〜150μm未満のCrからなる耐弧成分と、0.002〜0.5重量%のFeと、必要により添加した補助成分と、から構成され、前記接点に含有される質量数が39以上の気体分子の総量が、前記接点に含有される気体分子の総量の1.0×10-5容積%〜1.0×10+1容積%であることを特徴とする真空遮断器。 - 前記可動通電軸および固定通電軸の導電率が少なくとも70%IACSであることを特徴とする請求項1記載の真空遮断器。
- 前記一対の接点のそれぞれの背面に装着されたコイル電極の導電率が少なくとも70%IACSであることを特徴とする請求項1又は2記載の真空遮断器。
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