(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。なお、以下では、図17に示す部材と同一のものには、同一符号を記してある。
図1は本発明の一実施形態に係る車載レーダ装置のブロック構成図である。図1に示されるように、車載レーダ装置は、アンテナ部10と、RF部20と、検出制御部30と、入力部40と、表示部50と、報知部60とを備えて構成されている。
アンテナ部10は、自車と障害物OBとの間の距離を測定するための電波を送受信するものであり、送信アンテナ11と受信アンテナ12とを備えて構成されている。送信アンテナ11は、後述する検出制御部30およびRF部20にて生成された送信信号を送信するものである。また、受信アンテナ12は、送信アンテナ11にて送信された送信信号が、障害物OBによる反射波(障害物からの反射波)や自車の部品(例えばバンパや車載レーダ装置前面のカバー等)にて反射した反射波等の回り込み波の合成波(障害物にて反射した反射波以外の受信波)を受信するものである。受信アンテナ12は、受信した反射波、すなわち受信信号をRF部20に出力する。
図2は、図1に示されるRF部20のブロック構成図である。RF部20は、自車と障害物OBとの間の距離を検出するための送信信号を生成すると共に受信アンテナ12にて受信された受信信号を処理するものである。このようなRF部20は、発振器21と、スイッチ22と、第1のアンプ23と、第2のアンプ24と、IQミキサ25と、第3のアンプ26と、第4のアンプ27とを備えて構成されている。
発振器21は、所定周波数のRF信号を生成するものである。この発振器21では、例えば10〜100GHzにおいて所定周波数のRF信号が生成される。そして、発振器21にて生成されたRF信号は、スイッチ22およびIQミキサ25に出力される。
スイッチ22は、所定周波数の連続的な電気信号を所定時間間隔でON/OFFすることによりパルス変調をかけ、送信信号を生成するものである。具体的には、スイッチ22は、後述する送信タイミング生成部31から出力される送信タイミングパルスと、上記発振器21から出力されるRF信号とを入力し、送信タイミングパルスがオンになっている間、発振器21からのRF信号を出力する。つまり、発振器21で生成されたRF信号が、送信タイミングパルスの周期ごとに出力されることとなる。
第1のアンプ23および第2のアンプ24は、入力される信号を増幅する周知のものである。第1のアンプ23は、上記スイッチ22から入力される送信信号を所定の送信出力まで増幅して出力する。また、第2のアンプ24は、受信アンテナ12から入力される受信信号を増幅して出力する。
IQミキサ25は、いわゆる直交復調器であり、入力される信号(すなわち増幅された受信信号)に対して、同相信号(以下、I信号という)と、その同相信号に対して90°位相がずれた直交信号(以下、Q信号という)とを生成するものである。このIQミキサ25の具体的な構成を図3に示す。
図3に示されるように、このIQミキサ25は、移相器251と、第1のミキサ252と、第2のミキサ253とを備えて構成されている。移相器251は、入力する信号の位相を変えて出力するものであり、本実施形態では、発振器21から入力する信号の位相を90°ずらして出力する。また、第1および第2のミキサ252、253は、入力する複数の信号の周波数変換を行うものである。
このようなIQミキサ25においては、発振器21からのRF信号(すなわち発振器出力)と、受信アンテナ12および第2のアンプ24からの受信信号とが入力される。RF信号は、IQミキサ25に入力されると移相器251と第1のミキサ252とに入力される。また、受信信号は、IQミキサ25に入力されると第1および第2のミキサ252、253に入力される。
RF信号および受信信号が第1のミキサ252に入力されると、周波数変換されて、RF信号に同相であるI信号としてIQミキサ25から出力される。一方、移相器251に入力されたRF信号は、90°位相がずらされて第2のミキサ253に入力される。そして、90°位相がずれたRF信号および受信信号が第2のミキサ253に入力されると、周波数変換されて、受信信号のQ信号としてIQミキサ25から出力される。なお、IQミキサ25は、本発明の直交復調部に相当する。
第3のアンプ26および第4のアンプ27は、入力される信号を増幅する周知のものである。すなわち、第3のアンプ26は、IQミキサ25から出力されるI信号を入力し、このI信号を増幅させて出力する。また、第4のアンプ27は、IQミキサ25から出力されるQ信号を入力し、このQ信号を増幅させて出力する。以上が、RF部20の構成である。
図4は、図1に示される検出制御部30のブロック構成図である。検出制御部30は、自車と障害物OBとの間の距離を検出するものであり、送信タイミング生成部31と、第1のA/D変換部32と、第2のA/D変換部33と、差分算出部34と、距離算出部35と、ダイアグ制御部36と、警報制御部37とを備えて構成されている。
送信タイミング生成部31は、上記送信アンテナ11から送信する送信信号の送信タイミングをパルスとして生成するものである。このタイミングパルスである送信タイミングパルスの周期やパルス幅は、本装置が製造される際に、あらかじめこの送信タイミング生成部31に設定される。送信タイミング生成部31にて生成された送信タイミングパルスは、上記スイッチ22、後述する第1のA/D変換部32、第2のA/D変換部33に出力される。なお、送信タイミング生成部31は、本発明におけるタイミング生成部に相当する。
第1のA/D変換部32および第2のA/D変換部33は、第3のアンプ26および第4のアンプ27で増幅されたI信号およびQ信号を入力し、これらI信号およびQ信号をデジタル信号に変換するものである。
第1のA/D変換部32および第2のA/D変換部33の具体的なブロック構成図を図5に示す。図5に示されるように、第1および第2のA/D変換部32、33は、タイミングコントローラ301と、A/Dコンバータ302と、再構成部303とを備えて構成されている。
タイミングコントローラ301は、送信タイミング生成部31から出力される送信タイミングパルスを入力し、この送信タイミングパルスの出力タイミングをわずかにずらすものである。
A/Dコンバータ302は、I信号(Q信号)と上記わずかにずらされた送信タイミングパルスとを入力し、送信タイミングパルスの立ち上がりタイミングでI信号(Q信号)の値をデジタル信号としてサンプリングするものである。つまり、A/Dコンバータ302は、第1のA/D変換部32(第2のA/D変換部33)に入力されるI信号(Q信号)をサンプリングする役割を果たす。
また、再構成部303は、上記A/Dコンバータ302にて得られた各値を再構成することにより、1つのパルス波形を構成するものである。
上記第1のA/D変換部32が行うI信号のサンプリングについて、図6を参照して説明する。図6は、第1のA/D変換部32におけるI信号のサンプリングの様子を示した図である。この図に示されるように、A/Dコンバータ302には、次々とI信号が入力されている。さらに、このA/Dコンバータ302には、タイミングコントローラ301によってタイミングがずらされた送信タイミングパルスが入力される。そして、この送信タイミングパルスの立ち上がりに対応したタイミングでI信号の値がサンプリングされ、この値がデジタル信号に変換されて出力される。
送信タイミングパルスは、タイミングコントローラ301によってパルスの立ち上がりタイミングがパルス変調された送信信号の送信タイミングに対してずらされているため、図6に示されるように、サンプリング点をずらしながらI信号をサンプリングしていくこととなる。このサンプリングした値を、1パルスが構成できるポイント数だけ再構成部303に記憶しておく。
こうしてサンプリングされたI信号は、再構成部303にてパルス波形に再構成され、第1のA/D変換部32から出力されることとなる。なお、第2のA/D変換部33に入力されるQ信号に対しても、上記I信号と同様の処理がなされる。
このようにして、第1および第2のA/D変換部32、33は、入力されるI信号およびQ信号をデジタル信号としてサンプリングして再構成すると共に差分算出部34に出力する。このようにすることで、比較的低速なA/Dコンバータを用いたとしても、高速なサンプリングが可能となる。
差分算出部34は、上記第1および第2のA/D変換部32、33から入力されるI信号およびQ信号に基づき、ベクトル差分振幅強度を求めるものである。このベクトル差分振幅強度とは、以下で詳しく説明するが、回り込み波(障害物OB以外からの反射波等によるピーク)と障害物OBからの反射波(障害物OBからの反射波によるピーク)とを分離、抽出することによって得られるピーク波形である(後述する図8(e)参照)。差分算出部34におけるベクトル差分振幅強度の方法については後で詳しく説明する。差分算出部34は、上記ベクトル差分振幅強度を距離算出部35およびダイアグ制御部36に出力する。
距離算出部35は、上記差分算出部34にて得られたベクトル差分振幅強度に基づき、自車と障害物OBとの間の距離を算出するものである。そして、距離算出部35は、得られた距離を警報制御部37に出力する。
ダイアグ制御部36は、差分算出部34にて得られたベクトル差分振幅強度が、異常状態の場合に得られたものか、または、障害物OBが自車に対して近距離に存在する場合に得られたものかを判定するものである。ここで、異常状態とは、例えばバンパに付着物が付いて、この付着物によって回り込み波の反射量が変化し、この回り込み波が距離算出部35にてしきい値を超えたため、距離が検出される状態(誤検出)を指す。すなわち、上記距離算出部35にて得られた自車と障害物OBとの間の距離が本当に正しいか否かがこのダイアグ制御部36にて判定される。そして、検出された距離が正しいものか否かを示す正常信号または異常信号がダイアグ制御部36から出力される。
また、本装置は車両のバンパやカバー等の裏面に配置される。このため、送信アンテナ11から送信信号が送信されると、送信信号は自車のバンパやカバー等に反射するので、障害物OB以外からの反射波が受信信号に必ず含まれることとなる。言い換えると、障害物OB以外からの反射波が受信信号に含まれないとなると、本装置のいずれかの部品に故障が発生したと言える。
そこで、ダイアグ制御部36は、本装置の故障を検出する機能も備えている。すなわち、ダイアグ制御部36は障害物OB以外からの反射波によるピークが現れないことを検出した場合には、本装置が故障したと判定して故障信号を警報制御部37に出力する。このようなダイアグ制御部37による装置の故障診断については、後で詳しく説明する。
また、差分算出部34にて得られたベクトル差分振幅強度を取り付け位置調整用信号としてダイアグ制御部36から出力できるようになっている。そして、この取り付け位置調整用信号に基づくベクトル差分振幅強度のピーク波形を例えばモニタに出力することで、このベクトル差分振幅強度のピーク波形を確認しながらアンテナ部10、ひいては車載レーダ装置を自車の適切な位置に取り付けることができる。なお、モニタに出力する方法として、専用のダイアグ用装置を用いても良いし、表示部50に出力するようにしても良い。
警報制御部37は、上記ダイアグ制御部36から入力される判定信号に基づき、距離算出部35から入力される距離が本当に自車と障害物OBとの距離を示しているかを判定し、その判定結果に基づき、警告処理を行うものである。この警告制御部37には、後述する入力部40や、製造時の設定によって、警告条件があらかじめ設定されており、設定された警告条件、例えば、ある距離以内に障害物OBがある場合は警告すると設定した場合、設定距離以内の距離が検出されると、警告信号を表示部50および報知部60に出力する。また、検出された距離が設定された距離以上の場合は、警報制御部37は警告処理を行わない。また、ダイアグ制御部36にて正しい距離ではないと判定された場合には、警報制御部37は異常処理を行う。また、警報制御部37は、上記ダイアグ制御部36から故障信号を受け取ると、本装置が故障した旨をドライバに知らせる故障処理も行う。
以上が、検出制御部30の構成である。
入力部40は、本装置にて検出した自車と障害物OBとの間の距離において、どのくらいの距離に障害物OBがある場合に警告を発するようにするか等、警告方法を設定するものである。この入力部40は、例えばインストルメントパネルに設置される場合や、ナビゲーション装置の操作部分に代用される場合などがある。
表示部50は、警報制御部37にて障害物OBが存在する旨をドライバに知らせるものであり、例えばナビゲーション装置の表示パネルや、ヘッドアップディスプレイ、ランプ等が採用される。バックガイドモニタなどの周辺画像表示装置で表示されている画像上に、障害物OBがある距離をマーカとして表示しても良い。
報知部60は、上記表示部50とは異なり、車両に搭載された装置にてドライバに注意を促すものである。例えば、スピーカーから警告音を発することや、シートベルトが締まることや、シートベルトに振動を与えることや、ブレーキがかかることが報知手段として採用される。報知部60に、警報制御部37から警報信号が入力されると、上記のような警告がなされるようになっている。
以上が車載レーダ装置の構成である。限定するものではないが、この車載レーダ装置は、例えば車両のフロントバンパの裏面側や、リアバンパの裏面側に配置され、車両前方、または車両後方における自車と障害物OBとの間の距離を検出する。なお、車両の側面にこの車載レーダ装置を配置しても構わない。
次に、上記車載レーダ装置の作動について説明する。本装置は、車両のイグニッションスイッチがオン状態になっている間、稼働するようになっている。
まず、RF部20の発振器21にて所定周波数のRF信号が生成される。このRF信号は、発振器21からスイッチ22に出力される。一方、検出制御部30の送信タイミング生成部31にて送信アンテナ11から送信する送信信号の送信タイミングがパルスとして生成される。こうして生成された送信タイミングパルスは、スイッチ22に出力される。
なお、送信タイミング生成部31にて生成された送信タイミングパルスは、第1および第2のA/D変換部32、33にも出力される。
スイッチ22に、所定周波数のRF信号および送信タイミングパルスが入力されると、送信信号が生成される。すなわち、送信タイミングパルスの周期、幅でRF信号が送信信号としてパルス変調され出力される。スイッチ22から出力された送信信号は、第1のアンプ23にて信号増幅されて送信アンテナ11から送信される。
こうして送信信号が送信されると、障害物OBにて反射した反射波および回り込み波が受信アンテナ12にて受信される。受信アンテナ12にて受信された受信信号は、第2のアンプ24に入力され、信号増幅されてIQミキサ25に出力される。
この後、このIQミキサ25において、上述のように、受信信号がI信号(同相成分)と、Q信号(直交成分)とに分離され、出力される。そして、IQミキサ25から出力されたI信号およびQ信号は、第3のアンプ26および第4のアンプ27にてそれぞれ信号増幅される。
続いて、上記I信号およびQ信号が、それぞれ第1のA/D変換部32および第2のA/D変換部33にてデジタル信号に変換される。すなわち、図5および図6に示されるように、I信号(Q信号)が第1のA/D変換部32(第2のA/D変換部33)のA/Dコンバータ302に入力され、送信タイミングパルスがタイミングコントローラ301に入力される。そして、上述のように、タイミングコントローラ301にてわずかにずらされた送信タイミングパルスの立ち上がりに対応したI信号(Q信号)の値がデジタル信号としてサンプリングされて、再構成部303に入力されると共に再構成されて1つのI信号(Q信号)とされる。
こうしてデジタル信号とされたI信号およびQ信号は、第1および第2のA/D変換部32、33からそれぞれ出力される。
上記I信号およびQ信号が差分算出部34に入力されると、この差分算出部34にて自車と障害物OBとの間の距離を算出するための差分結果が求められる。まず、この差分結果を求めるベクトル差分の原理について、図7を参照して説明する。なお、以下では、障害物OBが存在する場合について説明する。
図7は、ベクトル差分の原理を示した説明図である。図7(a)は、受信信号をベクトル表示した図、図7(b)はI信号の受信信号を示した図、図7(c)は図7(b)の差分結果を示した図である。
図7(a)に示されるように、受信信号をベクトル表示すると、受信信号に含まれる回り込み波と障害物反射波とがI成分(同相成分;すなわちI信号)およびQ成分(直交成分;すなわちQ信号)によって表される。したがって、このベクトルから例えばI信号は、回り込み波の成分と、障害物反射波の成分とが重ね合わされる(足し合わされる)ので、図7(b)に示される受信信号となる。
そして、図7(b)に示されるように、I信号に対して、所定時間ごとにI信号の振幅の差をとる。この所定時間は、I信号の立ち上がりを含む時間とされ、あらかじめ差分算出部34に設定されている。この所定時間ごとにI信号の差分をとる、すなわち図7(b)に示されるI信号を微分すると、図7(c)に示される差分結果を得る。
図7(c)に示される差分結果を見ると、2つのピーク波形が現れている。2つのピーク波形のうち、早い時間に現れるピーク波形(ピークa)は、障害物による反射波以外、すなわち自車のバンパ等に反射した反射波などの合成波である回り込み波によるものである。一方、ピークaが現れた後に現れるピーク波形(ピークb)は、障害物OBにて反射した反射波によるものである。
つまり、早い時間に現れるピークaは、障害物OBの有無に関わらず、I信号を差分することによって常に現れるピーク波形である。一方、遅い時間に現れるピークbは、障害物OBが存在する場合にI信号が差分されると現れ、障害物OBが存在しない場合には現れないピーク波形である。
このようにして、差分算出部34に入力されるI信号およびQ信号に対してそれぞれ差分を行うことにより、回り込み波のピーク波形と障害物OBによるピーク波形とを得る。I、Q信号について、それぞれ差分を求めるため、ベクトルの差分を求めていることになる。これが、ベクトル差分の原理である。
したがって、差分算出部34において、I信号およびQ信号に対して上記のようなベクトル差分を実施し、受信信号のベクトル差分振幅強度を求める。このことについて、図8を参照して説明する。図8は、差分算出部34が行うベクトル差分処理における波形を示した図である。図8(a)、(b)は、I信号およびQ信号を示した図である。図8(c)、(d)は、I信号およびQ信号のベクトル差分結果を示した図である。そして、図8(e)は、図8(c)、(d)のベクトル差分結果から得られたベクトル差分振幅強度のピーク波形を示した図である。
まず、第1および第2のA/D変換部32、33でデジタル信号に変換されたI信号およびQ信号を得る(図8(a)、(b))。この後、上述のように、I信号およびQ信号の差分(微分)ΔI、ΔQを求める(図8(c)、(d))。こうして得られた差分結果において、ベクトル差分振幅強度を求める。具体的には、以下の数式1のように、ΔIの二乗およびΔQの二乗の和の平方根を計算することにより求める。
(数式1)
ベクトル差分振幅強度=((ΔI)2+(ΔQ)2)1/2
こうして得られたベクトル差分振幅強度は、図8(e)のように表される。図8(e)に示されるピークAは回り込み波によるものであり、ピークBは障害物反射波によるものである。このようにして、ベクトル差分振幅強度が得られると、このベクトル差分振幅強度は差分算出部34から距離算出部35およびダイアグ制御部36に出力される。
距離算出部35にベクトル差分振幅強度が入力されると、自車と障害物OBとの間の距離が求められる。具体的な算出方法について、図9を参照して説明する。図9は、ベクトル差分振幅強度に対するしきい値を設定する様子を示した図であり、図9(a)は障害物OBが存在しない場合、図9(b)は障害物OBが存在する場合を示している。
まず、距離算出部35にベクトル差分振幅強度が入力されると、このベクトル差分振幅強度に対して、図9(a)に示されるように、しきい値が設定される。このしきい値は、ベクトル差分振幅強度の回り込み波の変化点を示すピークAがしきい値を超えないように、時間と共に変化するように設定される。また、ベクトル差分振幅強度のピークAを超えたしきい値は急落するが、完全にゼロにはならず、所定の値を保つようになっている。このようなしきい値は、本装置が設置される車体の位置によって現れるベクトル差分振幅強度のピークAをあらかじめ調べることで設定できる。また、このピークAの値を適切な値にするように、取り付け位置を調整しても良い。
そして、障害物OBが存在する場合には、図9(b)に示されるように、ベクトル差分振幅強度のピークBが現れ、このピークBはしきい値を超える。したがって、ベクトル差分振幅強度のピークBがしきい値を超える時間T1とあらかじめ距離算出部35に設定したゼロ点時間T0との時間差Tを求める。このゼロ点時間T0は、あらかじめ、任意の複数の距離地点に障害物OBを置いた場合に、自車と障害物OBとの距離が正しく表示できるように、ゼロ点時間T0を調整し、設定してもよい。このようにして、送信信号を送信してから受信するまでの時間T(=T1―T0)が得られたので、以下に示す数式2によって自車と障害物OBとの間の距離を求める。
(数式2)
自車と障害物OBとの間の距離[m]=(T[s]/2)×c[m/s]
ここで、cは光速(=3×108[m/s])である。数式2によって計算された距離は、距離算出部35から警報制御部37に出力される。
なお、図9(a)に示されるように、ベクトル差分振幅強度のピークBが現れない、すなわち障害物OBが存在しない場合には、距離は算出されずに、距離算出処理は終了する。
一方、ダイアグ制御部36にベクトル差分振幅強度が入力されると、ベクトル差分振幅強度が異常であるか、または正常であるかが検出される。このことについて、図10を参照して説明する。図10は、異常時と正常時におけるベクトル差分振幅強度のピークを示した図である。図10(a)は、ベクトル差分振幅強度の異常時を示した図、図10(b)、(c)はベクトル差分振幅強度の正常時を示した図である。なお、図10(a)においては、障害物OBが存在しない場合の波形を示している。
例えばバンパに泥などの付着物が付いている場合、状況によってはバンパにおける反射強度が増し、受信アンテナ12にて受信される回り込み波の受信強度が大きくなる。このような場合、ベクトル差分振幅強度においては、図10(a)に示されるように障害物OBの反射波以外の受信波である回り込み波のピークAがしきい値を超えるため、距離算出部35にてしきい値を超えた時間から距離が算出される。しかしながら、この距離は、自車と障害物OBとの間の距離を示すものではない。このような場合に距離算出部35で算出された距離は間違いである旨を知らせる必要がある。
そこで、ベクトル差分振幅強度のピークAにおいては、そのピーク幅が通常得られるベクトル差分振幅強度のピークAと同等であり、かつ、ベクトル差分振幅強度のピークAがしきい値を超える場合には、受信信号はバンパに泥などの付着物が付いて回り込み波が増加した場合であって、自車と障害物OBとの間の距離を検出したものではない旨の異常信号をダイアグ制御部36から警報制御部37に出力する。
上記付着物の場合と異なり、障害物OBが存在し、その障害物OBが自車に対して近距離に存在する場合にも、回り込み波の受信強度は大きくなる。図10(b)、(c)に示されるように、障害物OBが近距離に存在する場合、ベクトル差分振幅強度のピークAにおいては、そのピーク幅が、障害物OBが存在しない場合に通常得られるベクトル差分振幅強度のピークAよりも大きく、かつ、ベクトル差分振幅強度のピークAがしきい値を超えている。このような場合には、障害物OBが自車の近距離に存在するとして、距離算出部35にて得られた距離は正しい旨の正常信号をダイアグ制御部36から警報制御部37に出力する。
また、本装置に故障が生じている場合にもベクトル差分振幅強度はダイアグ制御部36に入力される。しかしながら、本装置が故障している場合には、ベクトル差分振幅強度のピークAが出力されない。つまり、送信系、受信系、具体的には、アンテナ部10、RF部20、送信タイミング生成部31、第1のA/D変換部32、第2のA/D変換部33のいずれかの箇所が故障したこと、および、それぞれを接続する配線が断線していると言える。このため、ベクトル差分振幅強度に必ず現れるはずの回り込み波によるピークは現れない。そこで、ベクトル差分振幅強度に、本装置の故障を検出するための故障しきい値を設け、ダイアグ制御部36に入力されるベクトル差分振幅強度がこの故障しきい値を超えない場合には、本装置は故障したと判定する。以下、図11を参照して、本装置の故障診断について説明する。
図11は、本装置の故障を検出する様子を示した図である。なお、図11においては、障害物OBが存在しない場合の波形を示している。まず、上述のように、本装置が正常に稼動している場合には、図9(a)に示されるように、ベクトル差分振幅強度において、回り込み波によるピーク(ピークA)が現れる。一方、本装置が故障した場合、すなわち装置内部での断線、送受信回路内の故障等が起こった場合には、図11に示されるように、本装置が正常であれば必ず現れるピークAが現れない。
したがって、ベクトル差分振幅強度に対して0ではない故障しきい値を設ける。そして、ベクトル差分振幅強度のピークAがこの故障しきい値を超えない場合には、回り込み波によるピークが検出されない、つまり本装置が故障していると判定し、ダイアグ制御部36から警報制御部37に故障信号を出力する。
上述のように、警報制御部37には距離算出部35から自車と障害物OBとの間の距離と、ダイアグ制御部36から正常信号または異常信号もしくは故障信号が入力される。また、この警報制御部37には、入力部40が操作されることにより、自車と障害物OBとの間がどのくらいの距離の場合に警告を発するか、どのような警告を行うか等の警告条件が設定されている。
したがって、ダイアグ制御部36から警報制御部37に正常信号が入力されている場合には、上記警告条件に従った警告処理がなされる。本実施形態では、警告処理として、例えばナビゲーション用の表示装置に自車と障害物OBとの間の距離を表示することや、スピーカーから障害物OBが存在することを知らせることや、シートベルトを振動させて注意を促すことなどがなされる。以上のようにして、自車と障害物OBとの間の距離が求められ、ドライバにその旨が知らされる。
一方、警告制御部37に異常信号が入力されている場合には、警報制御部37に距離算出部35から距離が入力されていても、この距離は間違いであると判定し、通常の警告処理を行わず、正常に障害物OBの検知ができていないことを、例えばナビゲーション用の表示装置に検知不可能と表示することや、スピーカーから検知不可能であることを知らせることや、シートベルトを振動させるパターンを変えて異常を通知することなどがなされる。
また、警告制御部37に故障信号が入力されると、警告制御部37は本装置が故障している旨を表示部50や報知部60を介してドライバに知らせる。具体的には、ナビゲーション装置の表示部分に本装置が故障している旨を表示することや、スピーカーから本装置が故障していることをアナウンスする。このようにして、本装置が故障していることをドライバに通知する。
次に、車載レーダ装置を車体に設置する方法について、図12を参照して説明する。図12は、本装置と自車の部品(カバーCO)との位置関係と、その位置関係に応じた強度レベルのベクトル差分振幅強度(ピークA)とを示した図である。図12(a)は車載レーダ装置が不適切な位置に設置される様子、図12(b)は車載レーダ装置が適切な位置に配置される様子を示した図である。なお、図12は、車載レーダ装置を車両搭載位置において断面(側面)から見た図になっている。
まず、車載レーダ装置を車体に取り付ける際に、障害物OBが存在しない場所にて本装置を稼動させる。また、モニタ等の表示手段を用意し、ダイアグ制御部36に備えられた取り付け位置調整用信号出力から表示手段にベクトル差分振幅強度を出力させる。こうすることで、ベクトル差分振幅強度としきい値とを表示手段に表示することができる。そして、車載レーダ装置を車体の所望の位置に配置させる。
すると、図12(a)に示されるように、車載レーダ装置が配置された位置に応じてベクトル差分振幅強度のピークAとしきい値とが表示手段に表示される。図12(a)のように、車載レーダ装置とカバーCOとの間隔が開いていると、ピークAがしきい値を超えてしまうため、本装置をカバーCOに近づけてピークAがしきい値を超えないようにする必要がある。
なお、ピークAとしきい値との関係は、本装置とカバーCOとの位置関係に依存していない。すなわち、上述した例では、本装置とカバーCOとの間隔が開いていると、ピークAがしきい値を超えているが、本装置とカバーCOとの間隔が狭い場合にピークAがしきい値を超える場合もある。
そして、表示手段を見ながら本装置をカバーCOに近づけていくことで、本装置とカバーCOとの位置関係、さらには本装置の姿勢を調整することにより、図12(b)に示されるように、ピークAがしきい値を超えないようにする。このとき、ノイズや温度変化によってピークAがしきい値を超えてしまわないようにある程度マージンを持たせるため、ピークAがしきい値よりあるマージン以下になるように、本装置とカバーCOとの間の位置関係および本装置の姿勢を調整する。このようにして、車載レーダ装置を車両に取り付ける。なお、自車の部品がカバーCOに限るわけではなく、バンパ等との位置関係、姿勢も上記と同様に調整される。
以上説明したように、本実施形態では、自車と障害物OBとの間の距離を確実に検出している。すなわち、IQミキサ25にて受信信号からI信号およびQ信号を抽出している。そして、第1および第2のA/D変換部32、33にてサンプリングした値を再構成することで高速サンプリングした場合と同等の1つのパルス波形を得る。これにより、差分算出部34および距離算出部35にて、自車と障害物OBとの間の距離を算出するためのI信号およびQ信号を得ることができる。
そして、これらの信号の差分をそれぞれ求めることで、受信信号に障害物OBでの反射波以外の受信信号によるピーク、例えば自車の部品(バンパやレーダ装置前面のカバー等)に反射した反射波などの回り込み波が受信信号に含まれていたとしても、受信信号から障害物OBからの反射波によるピークを抽出することができる。
また、自車と障害物OBとの間の距離を求める際、距離算出部35においては、上記回り込み波のピーク(ピークA)がしきい値を超えないようにしきい値を設定する。これにより、しきい値によって障害物OBによるピーク(ピークB)のみを検出できるようにすることができる。また、障害物OBによるピーク(ピークB)がしきい値を超える時の時間を得る。これにより、障害物OBが存在する場合に、送信信号を送信し、受信するまでの時間を得ることができる。したがって、この時間を用いて自車と障害物OBとの間の距離を求めることができる。
このとき、回り込み波によるピークが、しきい値を超えてしまう場合があっても、距離算出部35にて算出される距離が正しい値であるか否かをダイアグ制御部36にて判定し、その判定結果に基づき正常信号または異常信号を出力する。そして、警報制御部37は、正常信号が入力されると警報処理を行い、異常信号が入力されると警報処理を行わず、異常処理を行う。これにより、自車と障害物OBとの間の距離が算出されたとしても、その距離が正しい値ではない場合には、警告処理を行わず、異常処理を行うようにすることができ、誤報を防止し、異常をドライバに通知できる。また、回り込み波によるピークが所定のレベル以下の場合には、車載レーダ装置が故障しているので、故障処理を行い、故障していることをドライバに通知できる。
また、警報制御部37にて警報処理することで、ドライバに対して自車周辺に障害物OBが存在することを知らせることができ、ドライバに対して注意を促すことができる。
また、ダイアグ制御部36から出力する取り付け位置調整用信号を出力する、すなわちベクトル差分振幅強度のピーク波形を出力して、このピーク波形をモニタに表示する。これにより、このベクトル差分振幅強度のピーク波形をモニタしながら車載レーダ装置の取り付け位置を調整することができ、回り込み波のレベルを調整しながら車載レーダ装置を自車の適切な位置に取り付けることができる。
(他の実施形態)
上記第1実施形態に示した車載レーダ装置の構成は、一例を示すものであって、この構成に限定されないことはいうまでもない。
第1実施形態において、受信信号から抽出したI信号やQ信号にノイズが含まれる場合がある。そこで、差分算出部34におけるベクトル差分処理を実行する際に、I信号およびQ信号に含まれるノイズに対して平均化処理を行い、ノイズの影響を低減させることも可能である。
また、表示部50、報知部60は、上記第1実施形態に記したものに限らず、他の方法によって注意を促すようにしても構わない。
上記第1実施形態において、差分算出部34は、第1および第2のA/D変換部32、33でデジタル信号に変換されたI信号およびQ信号のそれぞれ差分の二乗和の平方根を用いたが、平方根を用いずに、二乗和に基づき、差分処理、距離算出処理、ダイアグ制御処理、警報処理を実施してもよい。
上記第1実施形態では、第1および第2のA/D変換部32、33にてI信号およびQ信号をサンプリングしてデジタル信号に変換している。このとき、サンプリングはタイミングコントローラ301からA/Dコンバータ302に入力されるパルスの立ち上がりに応じてなされている。ここで、サンプリングを行うタイミングパルスの送信タイミングパルスに対する遅延時間を大きくし、粗くI信号またはQ信号をサンプリングした後、I信号またはQ信号が変化する近傍を、遅延時間を細かく調整してサンプリングすることもできる。
図13は、I信号において、変化点を細かくサンプリングする様子を示した図である。このように、I信号に対して図6に示されるサンプリングを行った後、図13に示されるように変化点の近傍を細かくサンプリングするようにしてもよい。これにより、I信号の受信信号が変化する点を再構成部303にて詳細に再現することができる。なお、Q信号においても、I信号と同様の処理がなされる。
また、第1および第2のA/D変換部32、33におけるI信号およびQ信号のサンプリングにおいては、前述の例より高速にサンプリングが可能なA/Dコンバータを用いると共に、タイミングコントローラ301からA/Dコンバータ302に出力するタイミングパルスの周期を変えることで、I信号およびQ信号を高速サンプリングすることもできる。
図14は、サンプリングするタイミングパルスのパルス周期を狭めてI信号をサンプリングする様子を示した図である。第1および第2のA/D変換部32、33の構成において、タイミングコントローラ301に入力される送信タイミングパルスを基準に、タイミングコントローラ301でパルス周期とパルス幅を、図14に示されるように、例えばI信号の1送信パルス分に相当する受信信号の中に、サンプリングするタイミングパルスが4つ含まれるように変える。これにより、1つのI信号の1パルスに相当する受信信号において、4つの点をサンプリングする。そして、このサンプリングパルスをタイミングコントローラ301にてずらして出力し、I信号をサンプリングする。これにより、少ない繰り返し数のI信号の1パルスに相当する受信信号にて高速サンプリングすることができる。なお、Q信号も図14に示されるようにサンプリング可能である。また、1パルスに相当するI信号やQ信号でサンプリングする数、すなわちサンプリングタイミングパルスの数は、A/Dコンバータ302のサンプリングできる範囲まで任意に設定可能である。
図14のように1つのI信号およびQ信号から数点サンプリングする場合、第1および第2のA/D変換部32、33を、図15に示される構成としても良い。図15は、第1および第2のA/D変換部32、33の構成の一例を示した図である。図15に示されるように、A/D変換部310は、サンプリングクロック生成部311と、複数の遅延部312と、複数のA/Dコンバータ313と、を備えて構成されている。
サンプリングクロック生成部311は、入力される送信タイミングパルスに基づき、サンプリング周期を示すサンプリングクロックを生成するものである。A/Dコンバータ311は、第1実施形態における第1および第2のA/D変換部32、33に含まれるA/Dコンバータ302と同じものである。遅延部312は、サンプリングクロック生成部311にて生成されたサンプリングクロックのタイミングをそれぞれずらす(遅延する)ものである。この遅延部312においては、それぞれ遅延する時間が設定されており、図15において下部に配置される遅延部312ほど、長い遅延時間が設定されている。
A/D変換部310内に設置される遅延部312およびA/Dコンバータ313の数は、このA/D変換部310のサンプリング周期および等価的に細かくサンプリングしたい周期に応じて設計時に決定される。
上記構成のA/D変換部310においては、例えば1つのI信号にてサンプリングクロックが4パルス含まれるようにサンプリングクロック生成部311にて送信タイミングパルスをサンプリングクロックに変換し、このサンプリングクロックを各遅延部312にて少しずつタイミングをずらして各A/Dコンバータ313に出力することにより、図14に示されるサンプリングと同様のサンプリングを時間的に並列に実施することができる。このようにすることで、図13、図14に示されるサンプリングの場合に比べて短時間で受信信号の波形をサンプリングすることも可能である。なお、このA/D変換部310は、I信号およびQ信号に対してそれぞれ用意される。
また、上記第1実施形態では、第1および第2のA/D変換部32、33において、サンプリングタイミングをずらすと共に複数個の受信信号をサンプリングしてその結果を再構成することでI信号およびQ信号の高速A/D変換を実現している。しかしながら、高速(例えば数GHz以上)のサンプリングクロックで直接サンプリング可能なA/Dコンバータを用いてサンプリングしても良い。
第1実施形態では、ベクトル差分振幅強度のピーク波形を得た後、ベクトル差分振幅強度のピークBがしきい値を超えた時間T1とゼロ点時間T0との時間差Tを求めているが、送信信号を送信して受信するまでの時間の求め方は、これに限るものではない。すなわち、ベクトル差分振幅強度を微分し、この微分波形が0と交差する時間を求めることも可能である。
図16は、ベクトル差分振幅強度のピーク波形を微分する様子を示した図である。この図に示されるように、ベクトル差分振幅強度のピーク波形の微分を求め、その微分波形において、ピークAおよびピークBの微分波形が0と交差する各時間における時間差Tを求める。つまり、送信信号が自車のバンパと障害物OBとにそれぞれ反射する時間差Tがわかる。そして、この時間Tを上記数式2に代入することにより、自車と障害物OBとの間の距離を求めるようにしても良い。また、上記第1実施形態で示されるしきい値による判定と組み合わせて、自車と障害物OBとの間の距離の精度を向上させるようにしても良い。
ベクトル差分処理における、I信号およびQ信号のそれぞれの差分を算出する所定時間は、しきい値のように時間によって変えても良い。たとえば、送信した送信信号が近距離から反射して受信される区間においては、差分区間を短く設定し、遠距離から反射して受信される区間においては、差分区間を長く設定しても良い。また、複数の差分時間でI信号およびQ信号の差分を求め、ピークが生じやすい差分の結果を採用しても良い。