JP4352508B2 - 樹脂製プーリ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、樹脂製プーリに関し、より詳しくは自動車に搭載される補機類の駆動用ベルトやその他のベルトのテンショナ用、或いはアイドラプーリ等として使用される樹脂製プーリに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自動車の補機類を駆動するベルトの案内用プーリとして、転がり軸受の外周に樹脂を一体成形してなる樹脂製プーリが採用されている。
この種の樹脂製プーリは、射出成形用金型内の所定位置に転がり軸受を配置し、該転がり軸受の外輪外周部と射出成形用金型との間に画成される空間部に溶融樹脂を流し込んで射出成形することにより製造される。
【0003】
樹脂製プーリにおいては、ベルトを案内する外周部の成形精度を向上させることが製品品質上最も重要とされており、外周部の成形精度が悪い場合には真円度不良となり、駆動時にベルトの振れに起因する振動や異常音が発生する。一方、ベルト張力に耐える強度特性と連続負荷使用による耐熱性、更には耐塩化カルシウム性等が要求される。
【0004】
そこで、このような真円度を向上させ、且つ、強度、耐熱性及び耐塩化カルシウム性を併せ持たせる技術として、射出成形時に溶融樹脂が流入するゲートの配設位置を工夫して該溶融樹脂の金型への流入を制御する一方、成形用に使用する樹脂材料として、ガラス繊維を15〜40重量%程度充填した強化ナイロン66、強化ナイロン610、強化ナイロン612、或いはポリフェニレンサルファイドとミネラルの複合材料を使用したり、強化ガラス繊維として、ガラス繊維を43重量%含有した6ナイロン、66ナイロン、11ナイロン、12ナイロン等のポリアミド樹脂を使用した樹脂製プーリが提案されている( 特開平7−63249号公報、特開平8−4883号公報参照) 。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来の樹脂製プーリにおいては、射出成形によって製造されるため、溶融した高温状態から常温に冷却固化する際の相変化によって成形収縮が生じる。また、成形用材料には上述の如く主としてガラス繊維強化樹脂を用いることが多く、樹脂の流動方向とその直角方向によるガラス繊維の配向性によって更に成形収縮の差異が拡大する。かかる成形収縮によってベルトを案内する樹脂製プーリの真円度や樹脂部の外径円周表面の凹凸量が悪化するため、上記従来の樹脂製プーリではベルトの振動や異常音の防止対策としては、未だ充分ではないという問題点があった。
【0006】
―方、成形精度を向上させるミネラル高含有樹脂組成物を用いた樹脂製プーリは、真円度は良好であるが、圧砕強度が低下し、ベルト駆動連続負荷時の強度に対する長期信頼性に問題があった。
また、上記従来の樹脂製プーリにおいては、樹脂材料として、ガラス繊維強化66ナイロンやガラス繊維強化ナイロン6、ガラス繊維強化ナイロン11、ガラス繊維強化ナイロン12、ガラス繊維強化ナイロン612、ガラス繊維強化ナイロン610を用いることがあるが、これらの樹脂から形成される樹脂製プーリは、強化ナイロン66や強化ナイロン6の場合には、耐塩化カルシウム性に弱く、強度が低下するという問題がある。
【0007】
また、上述の強化ナイロン66及び強化ナイロン6を除く強化ナイロンによって形成される樹脂製プーリでは、耐塩化カルシウム性は良好であるが、長期耐熱性が充分でないという問題があり、強化ナイロン66及び強化ナイロン6については、吸水量が多く、耐塩化カルシウム性に乏しいことと併せ、吸水時の膨潤及び乾燥時の収縮による寸法変化が大きいため、樹脂製プーリの寸法安定性が悪いという問題があった。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑みなされたものであって、真円度及び樹脂部の外径円周表面の凹凸量並びに寸法安定性に優れ、かつ長期耐熱性や強度特性及び耐塩化カルシウム性に優れた信頼性の高い樹脂製プーリを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明に係る樹脂製プーリは、転がり軸受と、該転がり軸受の周囲に前記転がり軸受と一体的に形成された樹脂部と、を備え、自動車に搭載される補機類のベルトのテンショナに使用される樹脂製プーリにおいて、前記樹脂部の外径円周部の真円度が35〜48μmであり且つ前記樹脂部の外径円周表面の凹凸量が2〜30μmであるとともに、前記樹脂部は、シンジオタクチックポリスチレン樹脂である樹脂と、ガラス繊維と、炭酸カルシウムと、からなる樹脂組成物で形成されており、前記樹脂組成物中の前記樹脂の比率が50〜55重量%であり、ガラス繊維と炭酸カルシウムとの比が1:1.3〜1:1.8であることを特徴とする。
【0010】
樹脂部の外径円周部の真円度と類似のパラメータである外径円周表面の凹凸量を2〜30μmに形成するために、所定の金型を用いて樹脂製プーリを成形し、該成形品の真円度を樹脂製プーリの幅端面から軸方向に所定寸法(例えば1mm)置きに測定して周方向の凹凸を計測し、型表面に前記成形品と逆凹凸となるようなカウンター加工を施した金型を用いることにより、樹脂部の外径円周表面の凹凸量が2〜30μmに形成された樹脂製プーリを得ることができる。
【0011】
また、樹脂とガラス繊維及びミネラルとの混合比率を樹脂が50〜70重量%に対し、ガラス繊維とミネラルとの比を1:1.3〜1.8とした成形材料で成形することによって、上記品質を満足する樹脂製プーリを得ることができる。
一方、コスト高になるが、真円度の悪い樹脂製プーリの外径面を切削及び研削することによっても上記品質を満足する樹脂製プーリを得ることができる。
【0012】
このように樹脂製プーリの樹脂部の外径円周表面の凹凸精度は上述の方法より得ることができる。
更に、樹脂製プーリの樹脂部の成形材料として、低吸水性及び耐熱性を有するPA9T樹脂組成物又は吸水性の殆ど無いSPS樹脂(シンジオタクチックポリスチレン樹脂)組成物を用いることにより、耐熱性、耐塩化カルシウム性及び寸法安定性を得ることができる。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態の一例を図を参照して説明する。図1は本発明の実施の形態の一例である樹脂製プーリの正面図、図2は図1のA−A線断面図、図3は凹凸量の測定方法を説明するための説明図、図4は圧砕強度の試験方法を説明するための説明図、図5はPA66樹脂、PA9T樹脂及びSPS樹脂でのガラス繊維と炭酸カルシウムとの混合比による圧砕強度と凹凸量との関係を示すグラフ図、図6は凹凸量と騒音との関係を示すグラフ図、図7は耐塩化カルシウム性を調べるための試験装置の概略図、図8は図7の右側面図、図9は耐塩化カルシウム試験の試験条件を示す時間−温度特性図、図10はPA66樹脂、PA9T樹脂及びSPS樹脂による経時寸法変化を示すグラフ図である。
【0014】
図1及び図2において、樹脂製プーリは、転がり軸受1と、該転がり軸受1の周囲に該転がり軸受1と一体的に形成された樹脂部2とから構成されている。
樹脂部2は、具体的には、転がり軸受1の外輪に固着された内径円筒部3と、ベルト案内面4を有する外径円筒部5と、該外径円筒部5と内径円筒部3との間に形成された円板部6とを有し、更に、該円板部6には多数のリブ7が放射状に形成されている。また、内径円筒部3には所定ピッチ円で等間隔でもって、多数のゲート8が形成されており、これらゲート8に溶融樹脂が流し込まれ、射出成形により樹脂製プーリの製造がなされる。
【0015】
しかして、樹脂部2は樹脂と充填剤の複合材となっている。すなわち、上述の如く、射出成形されて得られる樹脂製プーリにおいては、駆動時におけるベルトの振れに起因する振動発生を抑制して騒音を低減するためにはベルトを案内する外径円周部の真円度が良好であることが求められる。また、一方でベルト張力に耐える機械的強度と耐熱性が良好であることが求められる。更には、耐塩化カルシウム性や寸法安定性が求められる。
【0016】
そこで、本出願人等が鋭意研究した結果、樹脂部2の外径円周部の真円度及び外径円周表面の凹凸量と駆動時の騒音に相関があることが判明した。その結果から、樹脂部2の外径円周部の真円度が35〜48μmであり且つ樹脂部2の外径円周表面の凹凸量が2〜30μmであることが良好であることが判った。
また、射出成形で一体に形成される樹脂製プーリの樹脂部2の外径円周表面の凹凸量を2〜30μmの範囲に形成させる方法として、上述の如く、射出成形においては成形収縮と樹脂の流動方向と直角方向による強化繊維の配向性によって更に成形収縮差が生じ、外径真円度が悪くなることは明らかであるから、樹脂製プーリを所定の金型を用い成形し、該樹脂プーリ成形品の樹脂部2の外径円周表面の周方向の凹凸を幅端面から軸方向に1mm置きに測定し、該成形品の外径真円度(凹凸量)とその真円形状の位相を合わせ、該成形品の凹凸と樹脂製プーリの外径円周部を構成する金型表面に該成形品とは逆凹凸となるような凹凸をカウンター加工により設ける。この金型を用いて樹脂製プーリを成形することによって、外径真円度の良好な樹脂製プーリを得られることが判った。
【0017】
また、樹脂製プーリの樹脂部2の外径円周表面の凹凸量を2〜30μmに形成する方法として、樹脂が50〜70重量%に対し、該樹脂に充填されるガラス繊維とミネラルとの混合比を1:1.3〜1.8とした成形材料を用いることによって、成形収縮の際に異方性を発現して外径真円度の良好な樹脂製プーリが得られることが判った。
【0018】
ガラス繊維とミネラルとの混合比については、ミネラルの割合を増加させることにより、外径真円度は向上することは明白であるが、樹脂製プーリの圧砕強度が低下し、実用的で無いことが判った。そこで、外径真円度と強度の両者を満足させることを狙った結果、上記のように、ガラス繊維とミネラルとの混合比が1:1.3〜1.8が良好であり、更には1:1.4〜1.7がより好ましいことが判った。
【0019】
さらに、樹脂製プーリの強度はベルト張力に対する長期の強度信頼性という観点から圧砕強度で600kgf以上(常用ベルト張力の5〜6倍以上)あることが好ましい。
一方、コスト高になるが、射出成形で一体に形成された樹脂製プーリの外径円周部に対して切削加工または研削加工を施すことによって、樹脂製プーリの樹脂部2の外径円周表面の凹凸量を2〜30μmの範囲にするようにしてもよい。
【0020】
また、樹脂材料としては、66ナイロン、46ナイロン、本発明で用いる低吸水で耐塩化カルシウム性、寸法安定性に優れるSPS及びPA9T、直鎖状PPSを使用することができる。
尚、各種のエンジニアリングプラスチックを使用することができるが、自動車の補機類駆動用として使用するためには耐熱性を有する樹脂材料が好ましく、UL規格(長期耐熱)に規定する温度指数が少なくとも100°C以上あることが好ましい。
【0021】
【実施例】
次に、本発明の実施例について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
[第1の実施例]
第1の実施例では、表1に示す割合の組成物を用いて実施例1〜5及び比較例1〜4の樹脂製プーリを作成し、各種試験及び測定を実施した。
【0022】
実施例1,5及び比較例1の樹脂組成物は耐熱6,6ナイロン樹脂としてデュポンジャパン(株)製の「ザイテル(商品名)70G−33L(ガラス繊維33重量%含有)」を用いた。
実施例2,3,4及び比較例2,3,4の樹脂組成物は耐熱66ナイロン樹脂として宇部興産(株)製の「宇部ナイロン(商品名)2020U」を、また、ガラス繊維として富士ファイバーガラス(株)製のガラス短繊維「FESS−015―0413」(平均繊維長500μm、繊維径10μm)を、そして、ミネラルとして備北粉化工業(株)製炭酸カルシウム 「ソフトン(商品名)」を使用した。
【0023】
樹脂組成物の製造には池貝鉄工(株)製の二軸押出機を用い、表1に示す組成割合なるように、ガラス繊維と炭酸カルシウムは定量サイドフィーダーにより添加投入し、所定条件下で混練、造粒し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
次いで、樹脂製プーリ成形用金型(以下、金型と略す。)を射出成形機に取り付けてから金型を開き、次いで、予熱した転がり軸受を金型の所定位置に装着した後、型締めを行い、しかる後、転がり軸受の外輪と金型との間に形成される空間部に溶融した樹脂材料を射出する。そしてその後、溶融樹脂材料を冷却して固化させた後、金型を開き成形品を取り出して樹脂製プーリを得た。
【0024】
本実施例における成形条件は以下の通りである。
樹脂溶融温度:285〜295°C
金型温度:80°C
射出圧力:90〜120MPa
次に、このようにして得られた樹脂製プーリについて、圧砕強度試験、騒音、樹脂外径真円度、外径表面の凹凸を測定した。
【0025】
表1はナイロン66樹脂の重量%、該ナイロン66樹脂に充填されるガラス繊維及び炭酸カルシウムの組成、プーリ外径真円度、プーリ外径表面の凹凸、圧砕強度試験、騒音等の測定結果を示している。
実施例1の樹脂製プーリの作成に当たっては、先行して実施例2〜4及び比較例1〜4の樹脂製プーリを上記樹脂組成物と金型を用いて作成した後に、比較例1の樹脂製プーリの外径真円度及び凹凸の測定を行ない、その測定結果から実施例1の樹脂製プーリの外径面を形成する金型表面に比較例1の樹脂製プーリの外径凹凸形状とは逆凹凸の形状をカウンター加工により設けた金型を用いて実施例1の樹脂製プーリを作成した。
【0026】
実施例5の樹脂製プーリは比較例1で作成した樹脂製プーリを用い、該プーリの外径表面を軸受内径基準で旋削加工して得た。
【0027】
【表1】
Figure 0004352508
【0028】
次に、上述した樹脂製プーリの圧砕強度試験、真円度、凹凸、騒音の測定方法について説明する。
▲1▼真円度及び凹凸
樹脂製プーリの外径真円度及び凹凸を評価するために、実施例1〜5及び比較例1〜4の樹脂製プーリの外径幅方向のゲート側端面から12mm位置(樹脂製プーリの幅Bの中央)までの真円度及び凹凸を真円度測定器(東京精密(株)製のロンコム52A)を用いて測定した。凹凸については、図3に示すように、隣合う凹凸の差bを円周上各々測定し、bの最大値をもって樹脂製プーリの凹凸量とした。なお、凹凸の測定範囲については、樹脂製プーリの幅をB、樹脂製プーリの幅方向の端面からの軸方向の測定長さをeとした場合に、e/B=0.25±0.05となるように測定範囲を設定する。
▲2▼圧砕強度試験
製造された樹脂製プーリの強度を評価するために、実施例1〜5及び比較例1〜4の樹脂製プーリを、図4に示すように、プーリ外径部を上下方向に加圧し圧砕強度を油圧式耐圧試験機(前川製作所(株)製のWAC−20−DC)を用い測定した。
▲3▼騒音
実施例1〜5及び比較例1〜4の樹脂製プーリを回転数4000rpmで回転させて、その時の騒音状態をSOUND LEVEL METER RION NA−24を用い音圧(dB)を測定し、75dB以上をNGとし、また異音に関しては聴覚でもって判断した。
【0029】
表1から明らかなように、金型表面にカウンター加工を施した金型を用いて形成された実施例1の樹脂製プーリは真円度及び凹凸量も少なく、騒音レベルも73dBと良好である。また、ガラス繊維と炭酸カルシウムの混合比を1:1.3以上にした組成物で形成された実施例2〜4の樹脂製プーリについても、プーリ外径の凹凸量は何れも30μm以下であり、騒音レベルも74〜74.5dBと良好である。
【0030】
外径表面の凸部を旋削加工によって削除した実施例5の樹脂製プーリについては、真円度及び凹凸は極めて良く、その結果として騒音レベルも70dBと極めて良好であるが、旋削工程を経ることによるコスト高は避けられない。
ガラス繊維と炭酸カルシウムとの混合比が1:1である比較例3の樹脂製プーリ及びガラス繊維のみを含有した樹脂組成物で形成された比較例1の樹脂製プーリは外径真円度並びに外径の凹凸が大きくなり、騒音レベルも75dB以上あり何れもNGである。尚、聴覚では音圧レベル以上に騒音の差位を感しる。
【0031】
また、ガラス繊維と炭酸カルシウムとの混合比が1:2である比較例4の樹脂製プーリは外径真円度並びに外径の凹凸も小さく、騒音レベルも73.2dBと良好であるが、圧砕強度が不足している。
炭酸カルシウムのみを用いた樹脂組成物で形成された比較例2の樹脂製プーリは成形時に異方性が発現できることにより、成形収縮のバランスが良好となり真円度及び凹凸が極めて改善され、その結果として、騒音レベル72dBと良好であるが、圧砕強度が480kgfと小さく樹脂製プーリの長期ベルト張力耐久に対する信頼性が乏しい。
【0032】
圧砕強度は、図5に示すように、ガラス繊維量の増加に伴って強度が向上し、逆にミネラル量が増加することによって強度低下を示す。圧砕強度を常用ベルト張力の5〜6倍以上必要と考えると、約600kgf以上の圧砕強度が要求される。従って、図5に示すように、圧砕強度の下限値はガラス繊維1に対しミネラル1.8以下の範囲となる。また、上記の凹凸量は騒音の関係から30μm以下が要求されるため、図5より、ガラス繊維1に対してミネラル1.3以上の範囲となる。このことから、樹脂製プーリの組成は樹脂部が50〜70重量%に対し、ガラス繊維とミネラル(炭酸カルシウム)の混合比は1:1.3〜1.8の範囲が良好であり、より好ましくは1:1.4〜1.7の範囲が良い。
【0033】
騒音の評価結果から樹脂部2の外径円周表面の凹凸量と騒音には、図6に示すように明らかに相関があることが判明し、前記凹凸量は、2〜30μmが良好であることが判った。
[第2の実施例]
第2の実施例では、実施例1〜3、比較例1〜4の樹脂製プーリを作成した。各樹脂製プーリの樹脂材料としては、ガラス繊維強化PA9T(商品名「ジェネスタ」(株)クラレ製)を使用し、充填材としては、炭酸カルシウム(商品名「ソフトン」備北粉化工業(株)製)を使用した。すなわち、ガラス繊維強化PA9Tペレットに対し、所定量の炭酸カルシウムを二軸押出機(池貝鉄工(株)製)に投入し、所定条件下で混練、造粒し、ペレツト状の樹脂組成物を得た。
【0034】
次いで、樹脂製プーリ成形用金型(以下、金型と略す。)を射出成形機に取り付けてから該金型を開き、次いで、予熱した転がり軸受を金型の所定位置に装着した後、型締めを行い、しかる後、転がり軸受の外輪と金型との間に形成される空間部に溶融した樹脂材料を射出する。そしてその後、溶融樹脂材料を冷却して固化させた後、金型を開き成形品を取り出して樹脂製プーリを得た。
【0035】
本実施例における成形条件は以下の通りである。
樹脂溶融温度:315〜340°C
金型温度:130〜150°C
射出圧力:90〜120Mpa
次に、このようにして得られた樹脂製プーリについて、圧砕強度試験、騒音、樹脂部の外径真円度、外径表面の凹凸を測定した。
【0036】
表2に測定結果を示す。
【0037】
【表2】
Figure 0004352508
【0038】
実施例1〜3及び比較例1はPA9T樹脂60重量%にガラス繊維と炭酸カルシウムの混合比を1:1〜1.8の樹脂組成物で作成された樹脂製プーリの測定結果を示し、比較例2は33重量%ガラス繊維強化PA9T樹脂のみで作成された樹脂製プーリ、比較例3は未強化PA9T樹脂に33重量%の炭酸カルシウムを充填した樹脂組成物で作成した樹脂製プーリ、比較例4は33重量%ガラス繊維強化66ナイロン(商品名「ザイテル70G−33L」デュポンジャパンリミテッド製)を使用して作成した樹脂製プーリの測定結果を示す。
【0039】
次に、各樹脂製プーリの耐塩化カルシウム試験と寸法安定性の測定方法について説明する。尚、圧砕強度試験、真円度、凹凸、騒音の測定方法は上述した第1の実施例と同様であるのでその説明を省略する。
▲1▼耐塩化カルシウム試験
耐塩化カルシウム試験に使用したラジアル荷重負荷装置を図7及び図8に示す。このラジアル荷重負荷装置9は、サポート軸10と圧縮コイルばね11を備えている。この装置を恒温槽の中に入れ、該ラジアル荷重負荷装置9に実施例1〜3及び比較例1〜4の樹脂製プーリPを装着し、ラジアル荷重100kgfを負荷する。図9に示すサイクルでもって20〜110°Cの間を1サイクルとし、2サイクル毎に樹脂製プーリを塩化カルシウム50%水溶液に浸漬し、評価試験をする。該サイクルを10回繰り返して樹脂製プーリの外観を観察した。すなわち、1サイクルを4時間とし、恒温槽は最初20°Cに設定しておき、直ちに(約30分)110°Cに昇温して2時間保持した後、直ちに(約30分)冷却し20°Cにして1時間保持する。
【0040】
該2サイクル毎に樹脂製プーリを上記塩化カルシウム水溶液中に浸漬して、評価試験を継続する。但し、夜間は20°Cの恒温槽中に放置とし、塩化カルシウム水溶液に浸漬する間以外は全て樹脂製プーリには上記100kgfのラジアル荷重が負荷されている。合計10サイクル繰り返した後、試験品となった樹脂製プーリの外観を観察した。すなわち、該樹脂製プーリにクラック(割れ)が発生していないか否かを調査し、該クラックの発生の有無により製品の良否を判定をした。
▲2▼寸法安定性
樹脂製プーリの寸法安定性を評価するために、表2に示す組成で作成された樹脂製プーリを40°C、相対湿度60%の恒温槽中で500時間吸水処理を実施し、樹脂製プーリの外径寸法を幅方向中央部直交2箇所を測定し、経時変化を求めた。寸法変化率0.2%以上をNGとした。
【0041】
表2から明らかなように、耐塩化カルシウム試験においては、比較例4の樹脂製プーリの樹脂材料である吸水率の多い66ナイロンは吸水によりナイロン分子間が広がり、分子中に塩化カルシウムが入ることにより、徐々に強度低下が起こり、本評価試験では微細なクラックが発生した。一方、実施例1〜3、比較例1〜3のPA9T樹脂製プーリは低吸水のために、耐塩化カルシウム性は良好であった。
【0042】
第2の実施例における樹脂部2の外径円周表面の凹凸量と騒音の関係は第1の実施例と同様な結果であり、図5に示すように、ガラス繊維とミネラル( 炭酸カルシウム) の混合比から前記凹凸量が30μm以下にするにはガラス繊維1に対しミネラル1.3以上の範囲となる。そして、圧砕強度についても第1の実施例と同様な関係にあり、ガラス繊維の増加に伴い樹脂製プーリの圧砕強度が向上する。また、逆にミネラルの増加に伴い圧砕強度が低下する。
【0043】
前述のベルト張力に対する安全率から600kgf以上の圧砕強度が必要とするとガラス繊維1に対しミネラルは1.8以下の範囲となる。
これらを満足させるにはガラス繊維とミネラルの混合比をこの凹凸量と圧砕強度の関係から両者1:1.3〜1.8の範囲が良好であり、更には1:1.4〜1.7がより好ましい。
【0044】
尚、本実施例のPA9T樹脂は低吸水性であり、水分による膨張・収縮の影響が少なく、図10に示すように、寸法変化が小さいことから、寸法安定性の良い樹脂製プーリを得られ安定したベルト張力を維持することができる。
[第3の実施例]
第3の実施例では、実施例1〜3、比較例1〜3の樹脂製プーリを作成した。各樹脂製プーリの樹脂材料としては、ガラス繊維強化SPS(商品名「ザレック」出光石油化学(株)製)を使用し、充填材としては、炭酸カルシウム(商品名「ソフトン」備北粉化工業(株)製)を使用した。すなわち、ガラス繊維強化SPSペレットに対し、所定量の炭酸カルシウムを二軸押出機(池貝鉄工(株)製)に投入し、所定条件下で混練、造粒し、ペレット状の樹脂組成物を得た。
【0045】
次いで、樹脂製プーリ成形用金型( 以下、金型と略す。) を射出成形機に取り付けてから該金型を開き、次いで、予熱した転がり軸受を金型の所定位置に装着した後、型締めを行い、しかる後、転がり軸受の外輪と金型との間に形成される空間部に溶融した前記樹脂材料を射出する。
そしてその後、溶融樹脂材料を冷却して固化させた後、金型を開き成形品を取り出して樹脂製プーリを得た。
【0046】
本実施例における成形条件は以下の通りである。
樹脂溶融温度:285〜300°C
金型温度:80〜100°C
射出圧力:90〜120MPa
次に、このようにして得られた樹脂製プーリについて、耐塩化カルシウム試験、圧砕強度試験、騒音、樹脂部2の外径真円度、外径表面の凹凸を測定した。
【0047】
表3に測定結果を示す。
実施例1〜3はSPS樹脂にガラス繊維1に対しミネラル(炭酸カルシウム)1.3〜1.8の割合の樹脂組成物で作成された樹脂製プーリの測定結果を示し、比較例1は40重量%ガラス繊維強化SPS樹脂のみで形成された樹脂製プーリの測定結果を示し、比較例2は未強化SPS樹脂に30重量%の炭酸カルシウムを充填した樹脂組成物で作成した樹脂製プーリの測定結果を示し、比較例3は33重量%ガラス繊維強化66ナイロン(商品名「ザイテル70G−33L」デュポンジャパンリミテッド製)を使用して形成した樹脂製プーリの測定結果を示した。
【0048】
なお、各樹脂製プーリの耐塩化カルシウム試験、外径真円度、外径凹凸、圧砕強度試験、騒音の測定方法は第1の実施例及び第2の実施例と同様な方法で行った。
【0049】
【表3】
Figure 0004352508
【0050】
表3から明らかなように、耐塩化カルシウム試験においては、比較例3の樹脂製プーリの樹脂材料である吸水率の多い66ナイロンは吸水によりナイロン分子間が広がり、分子中に塩化カルシウムが入ることにより、徐々に強度低下が起こり、本評価試験では微細なクラックが発生した。一方、実施例1〜3、比較例1,2のSPS樹脂製プーリは殆ど吸水しないために、耐塩化カルシウム性は良好であった。
【0051】
外径真円度及び外径凹凸は樹脂の流動方向と直角方向の成形収縮差の少ないSPS樹脂製のプーリは66ナイロン樹脂製のプーリと比べ僅かであるが良好である。第1の実施例及び第2の実施例と同様に、樹脂製プーリに必要な強度特性及び音持性は表3及び図5に示すように、樹脂製プーリ外径の凹凸量が30μm以下になるためのガラス繊維とミネラルの割合は1:1.3以上の範囲であり、圧砕強度600kgfからくるガラス繊維とミネラルの割合は1:1.8以下である。このことから、音と強度を兼ね備えた樹脂製プーリを得るためのガラス繊維とミネラルの混合比は1:1.3〜1.8の範囲が良好である。更に好ましくは1.4〜1.7の範囲である。
【0052】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明は、ベルト案内面の表面精度が良く、ベルト駆動時に発生する振動及び騒音を抑制することができ、かつ、実用適性な圧砕強度を有することから品質上信頼性のある樹脂製プーリを得ることができる。
また、樹脂製プーリの樹脂部の成形材料として、低吸水性及び耐熱性を有するPA9T樹脂組成物又は吸水性の殆ど無いSPS樹脂(シンジオタクチックポリスチレン樹脂)組成物を用いることにより、耐熱性、耐塩化カルシウム性及び寸法安定性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態の一例である樹脂製プーリの正面図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】凹凸量の測定方法を説明するための説明図である。
【図4】圧砕強度の試験方法を説明するための説明図である。
【図5】PA66樹脂、PA9T樹脂及びSPS樹脂でのガラス繊維と炭酸カルシウムとの混合比による圧砕強度と凹凸量との関係を示すグラフ図である。
【図6】凹凸量と騒音との関係を示すグラフ図である。
【図7】耐塩化カルシウム性を調べるための試験装置の概略図である。
【図8】図7の右側面図である。
【図9】耐塩化カルシウム試験の試験条件を示す時間−温度特性図である。
【図10】PA66樹脂、PA9T樹脂及びSPS樹脂による経時寸法変化を示すグラフ図である。
【符号の説明】
1… 転がり軸受
2…樹脂部
3…内径円筒部
4…ベルト案内面
5…外径円筒部
6…円板部
7…リブ
8…ゲート
9…ラジアル荷重負荷装置
10…サポート軸
11…圧縮コイルばね
P…軸受一体型の樹脂製プーリ

Claims (2)

  1. 転がり軸受と、該転がり軸受の周囲に前記転がり軸受と一体的に形成された樹脂部と、を備え、自動車に搭載される補機類のベルトのテンショナに使用される樹脂製プーリにおいて、前記樹脂部の外径円周部の真円度が35〜48μmであり且つ前記樹脂部の外径円周表面の凹凸量が2〜30μmであるとともに、前記樹脂部は、シンジオタクチックポリスチレン樹脂である樹脂と、ガラス繊維と、炭酸カルシウムと、からなる樹脂組成物で形成されており、前記樹脂組成物中の前記樹脂の比率が50〜55重量%であり、ガラス繊維と炭酸カルシウムとの比が1:1.3〜1:1.8であることを特徴とする樹脂製プーリ。
  2. 圧砕強度が600kgf以上であることを特徴とする請求項1に記載の樹脂製プーリ。
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